説明

インクジェット記録方法

【課題】インクジェット用水性インクによる画像形成において記録媒体のカールを抑制するとともに印刷濃度を高くするインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
【解決手段】画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させる工程、および、顔料と、グリセリン、ジグリセリンおよびポリグリセリンのうちの少なくとも1種と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、水とを含むインクジェット用水性インクを用いて、インクジェット記録法により記録媒体に画像を形成する工程、を含むインクジェット記録方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは、流動性の高い液体インクを微細なノズルから噴射し、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷システムである。このシステムは、比較的安価な装置で、高解像度、高品位の画像を、高速かつ低騒音で印刷可能、という特徴を有し最近急速に普及している。
【0003】
インクとしては、安価に高画質の印刷物が得られることから、水性タイプのインクが普及している。水性インクは、水分を含有することにより乾燥性を高めたインクであり、油性インクに比べ普通紙に両面印字しても裏抜け(記録媒体裏面にインクが浸透すること)がしにくく、文字再現性がよいとの特徴がある。この水性インクの色剤には、大きく染料と顔料の2種類あるが、耐光性および耐水性が良好であることから顔料インクが急速に普及しつつある。
【0004】
水性インクを用いて普通紙に印字する場合の問題点として、カール(凸カール)やコックリング(波打ち)現象が挙げられる。これは、記録媒体である用紙繊維への水性インクの浸透が早く、繊維間の水素結合が切断され、用紙が膨潤してしまうために生じる現象である。
【0005】
このようなカールを抑制するために、水性インクに水と低極性の水溶性有機溶剤との混合溶媒を使用する方法がある。しかし、水性インク中の低極性の水溶性有機溶剤の量が多くなると、水性インクの顔料が水溶性有機溶剤とともに用紙の内部に引き込まれ、用紙表面の印刷濃度が低くなることがある。
【0006】
一方、記録媒体とインクとのなじみを向上させ、滲みを防止するために、インクによる画像形成前に記録媒体に前処理を行う方法がある。特許文献1では、インクジェット染色の前に前処理として、繊維構造物をカチオン系化合物および/または金属塩で処理し、インクとしてこの前処理剤と反応し分散能を失うアニオン性分散剤を含有する水不溶性染顔料インクを用いることが提案されている。
【特許文献1】特開昭61−215787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術には上記したような問題がある。特許文献1の前処理剤は、カチオン系化合物や金属塩等であり、顔料と反応する作用があることから、記録媒体上で顔料が凝集するため、画像を形成するドットサイズが小さくなる傾向があり、画像全体として濃度が低下することがある。
【0008】
そこで、本発明は、インクジェット用水性インクによる画像形成において記録媒体のカールを抑制するとともに印刷濃度を高くするインクジェット記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一構成によれば、画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させる工程、および、顔料と、グリセリン、ジグリセリンおよびポリグリセリンのうちの少なくとも1種と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、水とを含むインクジェット用水性インクを用いて、インクジェット記録法により前記記録媒体に画像を形成する工程、を含むインクジェット記録方法が提供される。
【0010】
本発明の別の構成によれば、画像形成前に記録媒体の画像形成面に水と多価アルコールとの混合物を付着させる工程、および、顔料と、グリセリン、ジグリセリンおよびポリグリセリンのうちの少なくとも1種と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、水とを含むインクジェット用水性インクを用いて、インクジェット記録法により前記記録媒体に画像を形成する工程、を含むインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクジェット用水性インクによる画像形成において記録媒体のカールを抑制するとともに印刷濃度を高くするインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態について説明するが、本実施の形態における例示が本発明を限定することはない。
【0013】
本発明のインクジェット記録方法は、画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させる工程、および、顔料と、グリセリン、ジグリセリンおよびポリグリセリンのうちの少なくとも1種と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、水とを含むインクジェット用水性インク(以下、単に「インク」ともいう。)を用いて、インクジェット記録法により記録媒体に画像を形成する工程、を含む。
【0014】
本発明のインクジェット記録方法によれば、画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させ、その後に記録媒体に画像を形成することによって、印刷濃度を高くすることができる。これは、画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させることで、紙等の記録媒体の繊維が水によって膨潤され、その後画像形成を行うことで、インクの顔料が記録媒体の表層に残りやすくなると考えられる。
【0015】
本発明では、水溶性有機溶剤を含むインクジェット用水性インクが使用されることで、記録媒体のカールを抑制することができる一方で、水溶性有機溶剤とともに顔料が記録媒体の内部に入り込み、表面の印刷濃度が低下する可能性がある。しかし、上記したように、画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させることで、インクの顔料が記録媒体の表層に残りやすくなるため、表面の印刷濃度の低下を防ぐことができる。
【0016】
ここで、画像形成において、出力画像のピクセルサイズ(1画素に割り当てられる面積)に対するドットサイズ(印刷により形成される1ドットの大きさ)のサイズ比率が大きい場合、画像全体として濃度が濃くなる傾向がある。反対に、ピクセルサイズに対するドットサイズのサイズ比率が小さい場合、ドット間の隙間が大きくなり、画像全体として濃度が低下する傾向がある。特に、ベタ画像で濃度の低下が目立つようになる。また、低解像度の画像形成では、ドットサイズが小さくなると、ドット間の隙間がより大きくなり、画像全体として濃度が低下する傾向が強い。
【0017】
そこで、本発明のインクジェット記録方法によれば、画像形成前に記録媒体の画像形成面に付着させる媒体が水であることで、水と顔料とは反応性が低く、記録媒体上で顔料が凝集しにくいため、ピクセル内でドットサイズが十分に大きくなり、画像濃度、特にベタ画像の画像濃度を高くすることができる。これに対し、従来の前処理剤のように金属塩等の電解質が多量に含まれると、顔料が前処理剤と反応して凝集しやすくなり、ドットサイズが小さくなるため、画像濃度が向上しないと考えられる。
【0018】
さらに、本発明のインクジェット記録方法によれば、画像形成前に記録媒体の画像形成面に付着させる媒体が水であることで、その後に記録媒体に画像を形成する際に、記録媒体に付着させた水がインクの着弾によってインクジェットヘッドに跳ね返り、インクジェットヘッドに付着しても、水はインクと反応性が低いため、ノズルの目詰まりを発生しにくくすることができる。一方で、従来の金属塩等の前処理剤がインクジェットヘッドに跳ね返ると、ノズル部でインクが凝固することがあり、ノズルの目詰まりが発生するという問題がある。特に、ライン式インクジェット印刷では、ノズルのメンテナンスが構造上複雑で頻繁に実施することが望まれないため、ノズルの目詰まりが故障につながる可能性があることから、本発明の構成は好ましい。
【0019】
本発明のインクジェット記録方法は、画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させる工程を含む。
【0020】
ここで、水は、イオン交換水や蒸留水等の純水、超純水、一般的な水道水、ミネラルウォーター等の飲料水等をいずれも使用することができるが、不純物の少ない純水及び超純水が好ましい。
【0021】
ここで、水は、インクジェット用水性インクと反応する作用を実質的に示さないことが好ましい。また、水には、金属塩やイオン性化合物等の電解物質が若干含まれることがあるが、このような電解物質の含有量は、インクジェット用水性インクと反応する作用を実質的に示さない量であることが好ましい。
【0022】
また、水の導電率は、1mS/cm以下であることが好ましく、より好適には0.5mS/cm以下である。水の導電率が1mS/cm以下であることで、水に含有される電解質の量が制限され、インクと反応する作用を実質的に示さない水を得ることができる。
【0023】
水の導電率は、具体的には、イオン交換水で0.001mS/cm程度、一般的な水道水では0.3mS/cm程度、電解質が比較的多く含まれる市販ミネラルウォーター(エビアン(登録商標))では0.5mS/cm程度である。これに対し、一般的な布用インクジェット前処理剤では100mS/cm程度であり、電解質が多量に含有され、インクジェット用水性インクと反応する作用を十分に示す量であるといえる。導電率の測定は、導電率計B−173(株式会社堀場製作所製)を用いておこなった(以下、導電率の測定は同様とする)。
【0024】
水の表面張力は、具体的には、純水で72mN/m程度である。水の表面張力が72mN/m程度であることで、記録媒体に水が付着される際に、水が記録媒体の内部へ浸透することを防止し、記録媒体の表層部に留まる。このような状態の記録媒体上からインクが塗布されると、インク中の顔料が記録媒体の内部まで浸透することを防止し、記録媒体の表層に留まるため、印刷濃度を高くすることができる。
【0025】
また、水は、紙等の記録媒体のセルロースと水素結合を形成するため、記録媒体の繊維の膨潤が促進され、インクの顔料が記録媒体の表層により残りやすくなる。
【0026】
画像形成前に記録媒体に水を付着させる際に、水に各種添加剤を添加した溶液を作製しておき、この溶液を記録媒体に付着させてもよい。具体的には、水には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、水に溶解可能である水溶性有機溶剤、たとえばエーテル類、多価アルコール類、ピロリドン類等を添加させてもよい。また、水には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて、後述するインクに含まれると同様の公知の各種添加剤、たとえば界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤等を添加させてもよい。
【0027】
本発明の別の構成としては、上記水の代わりに、水と多価アルコールとの混合物を使用するものであり、画像形成面に水と多価アルコールとの混合物を付着させる工程を含む。このような構成によれば、水と多価アルコールとの混合物はインクとの反応性が低いため、上記した水と同様の効果を得ることができる。
【0028】
また、多価アルコールは、保湿性があるため、混合物の貯蔵安定性を良好に維持することができ、また、粘性が比較的高いため、混合物の粘性を高めて記録媒体に付着させる工程の作業性を向上させることができる。
【0029】
このような水と多価アルコールとの混合物において、水としては上記した水と同様のものを使用することができる。
【0030】
多価アルコールは、インクジェット用水性インクと反応する作用を実質的に示さないことが好ましい。一例として、多価アルコールとしては、グリセリン、ジエチレングリコール、1.3プロパンジオール等、およびこれらの2種以上の組み合わせを使用することができる。
【0031】
混合物の導電率は、上記水と同様の範囲とすることが好ましい。多価アルコールは、非電解質であり、水と混同しても導電率を実質的に上昇させない。
【0032】
混合物の表面張力は、50mN/m以上であることが好ましく、より好適には55N/m以上であり、さらに好適には60N/m以上である。多価アルコールの表面張力は、具体的には、グリセリンで60mN/m程度であり、水より低いが、水と多価アルコールとの混合物とすることで記録媒体の表層で十分に留まる程度とすることができる。
【0033】
混合物の粘度は、100mpa・s以下が好ましく、50mpa・s以下がより好ましく、20mpa・s以下が一層好ましい。混合物の粘度は、多価アルコールが添加されることで、比較的高く調整することができる。高粘度の混合物によれば、記録媒体に混合物を付着させる際に、取り扱いを容易にすることができる。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0034】
混合物全体に対し、多価アルコールの含有量は、50質量%以下であることが好ましく、より好適には20質量%以下であり、さらに好適には20質量%以下である。
【0035】
画像形成前に記録媒体に水と多価アルコールとの混合物を付着させる際に、水と多価アルコールに各種添加剤を添加した溶液を作製しておき、この溶液を記録媒体に付着させてもよい。各種添加剤としては、上記水の場合と同様のものを添加することができる。
【0036】
本発明のインクジェット用水性インクは、顔料、水溶性有機溶剤、および水を含む。
【0037】
上記顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。これらの顔料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0038】
さらに、化学的または物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された自己分散性顔料を用いることが好ましい。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性またはカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基などが好ましい。
【0039】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理などが挙げられる。
【0040】
インクに含まれる顔料(固形分)の配合量は、0.1〜25質量%程度であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることが一層好ましい。
【0041】
次に、上記水溶性有機溶剤としては、グリセリン、ジグリセリンおよびポリグリセリンのうちの少なくとも1種と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとが含まれる。
【0042】
上記水、又は水と多価アルコールとの混合物を記録媒体に付着させた後に使用するインクとしては、これらの水溶性有機溶剤を含むインクを使用することにより、本発明の効果を好ましく奏することができる。具体的には、記録媒体のカールを抑制するとともに、印刷濃度を高くすることができる。
【0043】
上記ポリグリセリンは、カール抑制効果の観点から、分子量300以上のものが好ましい。さらに、同様の理由から、ジグリセリンおよび/またはポリグリセリンを使用することが好ましい。
【0044】
上記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、たとえば、
ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等);
トリエチレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等);
テトラエチレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル等);
ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等);
トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等);
テトラプロピレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等);
を挙げることができ、これらは2種以上を併用することもできる。
【0045】
これらのなかでも、カール抑制効果の観点から、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルを含むことが好ましく、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルを含むことがより好ましい。
【0046】
本発明のインクは、上記グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル以外の、その他の水溶性有機溶剤を含んでもよい。
【0047】
たとえば、
多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール等);
エチレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等);
プロピレングリコールモノアルキルエーテル類(たとえば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等);
アセチン類(モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);
低分子量ポリアルキレングリコール類(ポリエチレングリコール、ジオール型ポリプロピレングリコール、トリオール型ポリプロピレングリコール等);
エタノールアミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等);
を挙げることができる。これらは単独で配合されるほか、複数種を用いることもできる。
【0048】
インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、インク全体に対し、15質量%〜65質量%程度含まれることが好ましく、30質量%〜50質量%であることがより好ましい。
【0049】
インク中の水の含有量は、インク全体に対し、30質量%〜80質量%程度含まれることが好ましく、40質量%〜60質量%であることがより好ましい。水としては、イオン交換水、蒸留水などの純水、または超純水を使用することが好ましい。
【0050】
インク中のグリセリン、ジグリセリン、またはポリグリセリンの含有量は、2〜25質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0051】
インク中のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの含有量は、インク全体に対し、15質量%〜45質量%であることが好ましく、20質量%〜40質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明のインクには、必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲内で、当該分野において通常用いられている各種添加剤を含ませることができる。
【0053】
具体的には、顔料分散剤、消泡剤、表面張力低下剤等として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤をインクに含有させることができる。
【0054】
インクのpHを調整するために、公知のpH調整剤を添加することもできる。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等は、pH調整剤として、あるいはインクの増粘助剤として用いることができる。
【0055】
酸化防止剤を配合することにより、インク成分の酸化を防止し、インクの保存安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、たとえば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムを用いることができる。
【0056】
防腐剤を配合することにより、インクの腐敗を防止して保存安定性を向上させることができる。防腐剤としては、たとえば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系防腐剤;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン等のトリアジン系防腐剤;2−ピリジンチオールナトリウム−1−オキシド、8−オキシキノリン等のピリジン・キノリン系防腐剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバメート系防腐剤;2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等の有機臭素系防腐剤;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸を用いることができる。
【0057】
インクの粘度は、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用として適している。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0058】
本発明において、記録媒体としては、様々な種類の記録媒体を使用することができが、繊維で構成される紙であることが好ましく、より好適には、コピー用紙、コピー用再生紙などの普通紙である。表面処理を行なったコート紙なども用いることができる。
【0059】
記録媒体への水、又は水と多価アルコールとの混合物の付着方法は、特に限定されないが、たとえば、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドを用いてもよいし、ローラーやスプレーなどで必要量を塗布するようにしてもよい。その付着領域は、記録媒体前面でもよいし、画像形成部のみに選択的に付着させてもよい。あるいは、ベタ画像部分など、単位面積当たりある一定以上のインクが付着する箇所にのみ付着することもできる。
【0060】
水、又は水と多価アルコールとの混合物の付着量は、記録媒体の単位面積当たりに付着される質量で、1×10−5g/cmから1×10−2g/cmであることが好ましい。
【0061】
本発明では、水、又は水と多価アルコールとの混合物は記録媒体上に少量付着するだけでよいため、付着後に特に乾燥工程を設ける必要はなく、続いて画像形成工程を行うことができる。
【0062】
なお、水、又は水と多価アルコールとの混合物を付着させた後に、記録媒体に画像形成する際には、インクジェット用水性インクの塗布量は、特に限定されず、インクの組成やプリンタの性能、印刷画質に応じて、適宜調整することができる。
【0063】
また、水、又は水と多価アルコールを記録媒体に付着させた後から、記録媒体に画像形成を行うまでの時間は、特に限定されないが、5分以内が好ましく、より好適には1分以内であり、さらに好適には5秒以内である。
【0064】
画像形成は、インクジェット記録法により行なわれる。インクジェット記録法を行うインクジェットプリンターとしては、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにする。さらに、本発明は、ラインヘッド方式のインクジェットプリンターに好ましく使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(実施例および比較例)
表1に示した組成でインクを調製した。また、前処理用として水(イオン交換水)を準備した。使用した成分は以下のとおりである。
【0067】
顔料「CAB−O−JET300」(カーボンブラック、キャボット社製)
ジグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)
グリセリン(和光純薬工業株式会社製)
テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(協和発酵化学株式会社製)
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(和光純薬工業株式会社製)
界面活性剤「サーフィノール465」(アセチレングリコールエチレンオキサイド、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)
【0068】
【表1】

【0069】
実施例1として、得られたインクおよび水を使用して、用紙(理想用紙薄口、A4サイズ、理想科学工業株式会社製)の前処理および印刷を行なった。前処理は、用紙に水をヘラで塗布し、用紙の単位面積当たり7.0×10−4g/cmとなる量で、用紙表面全体に水を付着させた。引き続き(水付着から約1分後に)、インクジェットヘッド(TEC社製CB2ヘッド)を用いて、1ドットあたりの吐出量を38pLで、300dpi×600dpiとして、ライン式で用紙の片面全面にベタ画像を形成した。
【0070】
比較例1として、前処理を行わず印刷のみをした以外は実施例1と同様にして、ベタ画像を形成した。
【0071】
(印刷濃度評価)
印刷した用紙の印刷面のOD値をマクベス反射濃度計(RD918、Macbeth社製)で測定した。また、印刷した用紙の裏面のOD値を同様に測定した。この結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、実施例1は、比較例1に比べ、印刷面のOD値が高く印刷濃度が向上していることがわかった。また、実施例1は、比較例1に比べ、裏面のOD値が低く裏抜けが防止されていることがわかった。これより、実施例1では、記録媒体の表層にインクが留まり、表面の印刷濃度を高くすることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成前に記録媒体の画像形成面に水を付着させる工程、および、
顔料と、グリセリン、ジグリセリンおよびポリグリセリンのうちの少なくとも1種と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、水とを含むインクジェット用水性インクを用いて、インクジェット記録法により前記記録媒体に画像を形成する工程、
を含むインクジェット記録方法。
【請求項2】
画像形成前に記録媒体の画像形成面に水と多価アルコールとの混合物を付着させる工程、および、
顔料と、グリセリン、ジグリセリンおよびポリグリセリンのうちの少なくとも1種と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、水とを含むインクジェット用水性インクを用いて、インクジェット記録法により前記記録媒体に画像を形成する工程、
を含むインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記多価アルコールがグリセリンを含む、請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記インクジェット用水性インク中のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルがテトラエチレングリコールモノブチルエーテルを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2010−137398(P2010−137398A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314268(P2008−314268)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】