説明

インクジェット記録用の処理液、インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、保存安定性にも優れたインクジェット記録用の処理液を提供する。
【解決手段】インクジェット記録に用いる処理液であって、一般式(1)で表される第4級アルキルアンモニウム塩および水を含む。


一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、Rは、炭素原子数8〜16のアルキル基であり、R〜Rのアルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、Xは、無機酸イオン、有機酸イオン及び水酸化物イオンのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用の処理液、インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料インクを用いた水性インクの記録画像の光学濃度(OD値)を向上させることを目的として、ポリアリルアミン(PAA)を配合した処理液を用いて、インクジェット記録が実施されることがある(例えば、特許文献1参照)。前記処理液に含まれるPAAは、記録媒体上で水性インク中の顔料を凝集させることができ、この結果、記録画像の光学濃度(OD値)が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−314449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、PAAを含む前記処理液は、例えば、寒冷地での使用または飛行機等による輸送中に凍結した後、解凍すると相分離を生じる。また、例えば、夏季に、輸送や倉庫での保管で高温環境下に曝されると変色する。このように、PAAを含む前記処理液には、低温および高温環境下での保存安定性が充分でないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、保存安定性にも優れたインクジェット記録用の処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に従えば、インクジェット記録に用いる処理液であって、一般式(1)で表される第4級アルキルアンモニウム塩および水を含む処理液が提供される。
【0007】
【化1】

【0008】
第2の態様に従えば、インクジェット記録用水性インクセットであって、顔料、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクおよび、第1の態様の処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットが提供される。
【0009】
第3の態様に従えば、インクジェット記録方法であって、第2の態様のインクジェット記録用水性インクセットを用いて、記録媒体に前記処理液を付与することと、前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出することとを含むインクジェット記録方法が提供される。
【0010】
第4の態様に従えば、インクジェット記録装置であって、第2の態様のインクジェット記録用水性水性インクセットが収容されたインクセット収容部と、前記水性インクセットを構成する前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与機構と、前記水性インクセットを構成する前記水性インクを前記記録媒体に吐出するインク吐出機構を含むインクジェット記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット記録用の処理液は、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、保存安定性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のインクジェット記録装置(シリアル型インクジェットヘッドを採用)の構成の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2(a)および(b)は、本発明のインクジェット記録方法による記録例を示す図である。
【図3】本発明のインクジェット記録装置(ライン型インクジェットヘッドを採用)の構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述のとおり、本発明の処理液は、インクジェット記録に用いる処理液であって、一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩および水を含む。本発明の処理液は、一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩および水以外のその他の成分を含んでもよい。一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩からは、第四級アルキルアンモニウムカチオンが生じる。そして、記録媒体上において、前記処理液および水性インクが接触した際に、第4級アルキルアンモニウムカチオンは、例えば、前記水性インク中のマイナスに帯電している顔料を凝集させる機能を有する。これによって、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能である。さらに、本発明の処理液は、一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩を含むため、凍結後に解凍しても相分離を生じることがなく、高温環境下においても変色しない。
【0014】
一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ、炭素原子数1〜3のアルキル基である。前記炭素原子数1〜3のアルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基があげられる。前記炭素原子数1〜3のアルキル基は、ハロゲン原子等の置換基を有してもよい。一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ、炭素原子数1または2のアルキル基、すなわち、メチル基またはエチル基であることが好ましい。前記炭素原子数1または2のアルキル基は、ハロゲン原子等の置換基を有してもよい。一般式(1)において、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよい。一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩は、R〜Rを、短い炭素鎖である、炭素原子数1〜3のアルキル基とすることで、水への高い溶解度を得ることができる。
【0015】
一般式(1)において、Rは、炭素原子数8〜16のアルキル基である。Rの炭素原子数を8以上とすることで、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能である。また、Rの炭素原子数を16以下とすることで、処理液の凍結、解凍後の相分離を防止し、保存安定性に優れた処理液を得ることができる。前記炭素原子数8〜16のアルキル基としては、例えば、オクチル基、ノニル基、ラウリル基(ドデシル基)、テトラデシル基、ヘキサデシル基等があげられる。前記炭素原子数8〜16のアルキル基は、ハロゲン原子等の置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよい。一般式(1)において、Rは、炭素原子数8〜12のアルキル基であることが好ましい。前記炭素原子数8〜12のアルキル基は、ハロゲン原子等の置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0016】
一般式(1)において、Xは、アニオンであり、無機酸イオン、有機酸イオン及び水酸化物イオンのいずれかである。無機酸イオン及び有機酸イオンとしては、例えば、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、ジカルボン酸(例えば、リンゴ酸、イタコン酸等)イオン、トリカルボン酸(例えば、クエン酸等)イオン等があげられる。Xがジカルボン酸イオンまたはトリカルボン酸イオンである場合には、ジカルボン酸イオンまたはトリカルボン酸イオンが、2つまたは3つの第4級アルキルアンモニウムイオンのカウンターイオンとなる。一般式(1)において、Xが無機酸イオン、有機酸イオン及び水酸化物イオンのいずれかである4級アルキルアンモニウム塩は、入手し易く、且つ、インクジェット記録装置において処理液と接する金属部材を腐食させにくい。一方、ハロゲン化物イオンは、インクジェット記録装置において処理液と接する金属部材を腐食させるおそれがあり、一般式(1)のアニオンXとして望ましくない。
【0017】
一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩は、自家調製してもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、第一工業製薬(株)製の「カチオーゲン(登録商標)ES−OW」、「カチオーゲン(登録商標)ES−L」等があげられる。
【0018】
一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩の配合量(有効成分量換算)は、前記処理液全量に対し、1重量%以上であることが好ましい。前記配合量(有効成分量換算)を1重量%以上とすることで、記録画像の光学濃度(OD値)をより向上可能である。前記配合量(有効成分量換算)は、より好ましくは、1重量%〜20重量%であり、さらに好ましくは、4重量%〜15重量%であり、特に好ましくは、10重量%〜15重量%である。なお、前記「有効成分量換算」とは、例えば、一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩の水溶液を用いる場合は、水を除いた一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩自身の量である。
【0019】
前記処理液に用いられる前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記処理液全量に対する前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0020】
前記処理液は、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、従来公知のものを使用することができる。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール、多価アルコール誘導体、アルコール、アミド、ケトン、ケトアルコール、エーテル、含窒素溶剤、含硫黄溶剤、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等があげられる。前記多価アルコール誘導体としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ベンジルアルコール等があげられる。前記アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等があげられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン等があげられる。前記ケトアルコールとしては、例えば、ジアセトンアルコール等があげられる。前記エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等があげられる。前記含窒素溶剤としては、例えば、ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、トリエタノールアミン等があげられる。前記含硫黄溶剤としては、例えば、チオジエタノール、チオジグリコール、チオジグリセロール、スルホラン、ジメチルスルホキシド等があげられる。前記処理液全量に対する前記水溶性有機溶剤の配合量は、特に制限されない。前記水溶性有機溶剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
前記処理液は、着色剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。前記処理液が着色剤を含む場合には、記録画像に影響を与えない程度の量であることが好ましい。
【0022】
前記処理液は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0023】
前記処理液は、例えば、一般式(1)で表される前記第4級アルキルアンモニウム塩および水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合することにより調製できる。
【0024】
本発明の処理液と共に使用するインクジェット記録用水性インク(以下、単に「水性インク」または「インク」と言うことがある)は、特に制限されず、例えば、つぎのインクジェット記録用水性インクセットで説明する水性インクを用いることができる。
【0025】
つぎに、本発明のインクジェット記録用水性インクセット(以下、単に「水性インクセット」または「インクセット」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクセットは、インクジェット記録用水性インクおよび処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットであって、前記水性インクが、顔料、水および水溶性有機溶剤を含む水性インクであり、前記処理液が、本発明の処理液であることを特徴とする。顔料インクと本発明の処理液を組み合わせた本発明の水性インクセットは、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、処理液の保存安定性にも優れる。
【0026】
前記顔料は、例えば、カーボンブラック、無機顔料および有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料およびカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6および7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185および194;C.I.ピグメントオレンジ31および43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224および238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22および60;C.I.ピグメントグリーン7および36等があげられる。
【0027】
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基およびそれらの塩の少なくとも一種が、直接または他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料および有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」および「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」および「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」および「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
【0028】
前記水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0029】
前記水性インクは、着色剤として、前記顔料に加え、さらに染料等を含んでもよい。
【0030】
前記水性インクに用いられる前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0031】
前記水性インクに用いられる前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤および記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0032】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0033】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0034】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0036】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0037】
前記水性インクは、例えば、顔料、水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0038】
つぎに、本発明において、インクジェット記録用水性インクセットは、インクカートリッジとして提供することも可能である。例えば、本発明のインクカートリッジは、インク収納部および処理液収納部を有し、インク収納部に本発明の水性インクが収納され、処理液収納部に本発明の処理液が収納されている。本発明のインクカートリッジにおいて、本発明の水性インク以外の水性インクの収納部を有してもよい。
【0039】
本発明のインクカートリッジは、別個独立に形成された水性インクカートリッジおよび処理液カートリッジが集合したインクカートリッジ集合体であってもよいし、インク収納部と処理液収納部とを形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジであってもよい。本発明のインクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0040】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置について説明する。
【0041】
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録用水性インクおよび処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法であって、記録媒体に前記処理液を付与する工程と、前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程とを有し、前記水性インクセットとして、本発明のインクジェット記録用水性インクセットを用いることを特徴とする。
【0042】
本発明のインクジェット記録装置は、インクセット収容部と、処理液付与機構と、インク吐出機構とを含むインクジェット記録装置であって、前記インクセット収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクセットが収容され、前記水性インクセットを構成する前記処理液が、前記処理液付与機構によって記録媒体に付与され、前記水性インクセットを構成する前記水性インクが、前記インク吐出機構によって前記記録媒体に吐出されることを特徴とする。
【0043】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0044】
図1に示すインクジェット記録装置1は、インクカートリッジ集合体2と、インク吐出機構(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0045】
前記インクカートリッジ集合体2は、処理液カートリッジ2aと、4つの水性インクカートリッジ2bとを含む。前記処理液カートリッジ2aは、本発明の処理液を含む。前記4つの水性インクカートリッジ2bは、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。これら4色の水性インクのうち、少なくとも一つが着色剤として顔料を含んでいる。
【0046】
前記ヘッドユニット4に設置された前記インクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。前記キャリッジ5には、前記インクカートリッジ集合体2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0047】
前記記録用紙Pは、例えば、このインクジェット記録装置1の側方または下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記記録用紙Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。導入された前記記録用紙Pに、前記インクジェットヘッド3から前記処理液が付与(吐出)される。
【0048】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0049】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側の位置には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、処理液および水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0050】
本例のインクジェット記録装置1においては、前記インクカートリッジ集合体2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置において、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジは、前記キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジと、前記キャリッジ5に搭載された前記ヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジ集合体2の各カートリッジから前記ヘッドユニット4に前記処理液および前記水性インクが供給される。
【0051】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、前記インクジェットヘッド3から、前記記録用紙Pに本発明の処理液を付与(吐出)する。前記処理液の付与は、前記記録用紙Pの記録面の全面でもよく、一部でもよい。一部に付与する場合、前記記録用紙Pの記録面の少なくとも水性インクによる記録部分が付与部となる。一部に付与する場合、付与部の大きさは、記録部分よりも大きい方がよい。例えば、図2(a)に示すように、前記記録用紙Pに対し、文字(X)を記録する場合は、前記文字の線幅よりも大きな線幅で付与部30を形成するように処理液を付与することが好ましい。また、図2(b)に示すように、前記記録用紙Pに対し、図柄を記録する場合は、前記図柄よりも大きな付与部40を形成するように処理液を付与することが好ましい。
【0052】
つぎに、前記インクジェットヘッド3から、前記記録用紙Pの前記処理液の付与部に、前記水性インクを吐出する。前記処理液の吐出から、前記水性インクの吐出までの時間は、特に制限されない。例えば、前記水性インクの吐出は、前記処理液の吐出と同一走査内で実施すればよい。前記記録用紙P上において、前記処理液および前記水性インクが接触することで、記録画像の光学濃度(OD値)が向上する。
【0053】
本例のインクジェット記録装置1では、前記インク吐出機構が、前記処理液付与機構を兼ねている。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明において、前記処理液の付与は、例えば、スタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布等の方式により実施してもよい。本発明の処理液は、保存安定性に優れるため、インク吐出機構、スタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布等のいかなる方式でも付与可能である。
【0054】
本例のように、前記記録用紙Pに前記処理液を先に付与した後、前記水性インクを吐出することが好ましい。これにより、例えば、前記水性インク中の顔料の凝集効率を高めることができる。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明では、前記記録用紙Pに前記水性インクを先に吐出した後、前記処理液を付与してもよいし、前記記録用紙Pへの前記処理液の付与と前記水性インクの吐出とを同時に行ってもよい。
【0055】
このようにして記録された前記記録用紙Pは、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記記録用紙Pの給紙機構および排紙機構の図示を省略している。
【0056】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用した装置であってもよい。
次に、本発明のインクジェット記録装置の他の例として、図3に示す、ライン型インクジェット記録装置について説明する。前記ライン型インクジェット記録装置とは、記録媒体の幅以上の記録幅を持つライン型インクジェットヘッドを用い、前記インクジェットヘッドを固定した状態で前記記録媒体の幅方向の記録を一括して行うことができるインクジェット記録装置である。これに対し、先に説明した前記シリアル型インクジェット記録装置では、インクジェットヘッド自体が前記記録媒体の記録面の幅方向に移動しながら記録を行う。前記ライン型インクジェット記録装置は、前記シリアル型インクジェット記録装置と比較して、格段に記録速度が速い。
【0057】
本例のインクジェット記録装置100は、処理液カートリッジ201と、処理液塗布機構(塗布ローラ)202と、4つのインクカートリッジ101と、4つのインク吐出機構(ライン型インクジェットヘッド)102と、給紙部111と、排紙部112と、ベルト搬送機構113と、前記インクジェット記録装置100全体を制御する制御装置116とを主要な構成要素として含む。前記給紙部111は、前記ベルト搬送機構113の一方の側(図3においては左側)に配置されている。前記排紙部112は、前記ベルト搬送機構113の他方の側(図3においては右側)に配置されている。
【0058】
前記インクジェット記録装置100の内部には、前記給紙部111から前記ベルト搬送機構113を介し、前記排紙部112に向かって記録媒体(例えば、記録用紙)Pを搬送する用紙搬送経路が形成されている。この記録用紙Pが搬送される方向を、用紙搬送方向Xとする。前記給紙部111は、用紙ストッカ111aと、ピックアップローラ111cとを含む。前記用紙ストッカ111aは、その内部に記録用紙Pを積層した状態で収容するものであり、その上面に開口部が形成されている。前記用紙ストッカ111aは、前記用紙搬送方向Xの下流側(図3においては右側、以下、単に「下流側」とする)に向かって傾斜した状態で配置されている。前記用紙ストッカ111a内には、底面から上方開口部に向かって、バネ111dにより付勢された支持板111bが配置されている。この支持板111b上に前記記録用紙Pが積層されている。前記ピックアップローラ111cは、載置モータ(図示せず)により駆動されることで、前記用紙ストッカ111a内に積層された前記記録用紙Pを上から一枚ずつピックアップする(取り出す)とともに、ピックアップした前記記録用紙Pを下流側に送り出す。前記給紙部111のすぐ下流側には、用紙検知センサ159が配置されている。前記用紙検知センサ159は、送り出された前記記録用紙Pが、前記ベルト搬送機構113の前記用紙搬送方向Xのすぐ上流側(図3においては左側)に位置する記録待機位置Aに到達したか否かを検知する。送り出された前記記録用紙Pは、前記記録待機位置Aを通過して、前記ベルト搬送機構113に搬送される。
【0059】
前記ベルト搬送機構113は、2つのベルトローラ106および107と、搬送ベルト108と、プラテン115と、搬送モータ(図示せず)とを含む。前記搬送ベルト108は、前記2つのベルトローラ106および107の間に掛け渡されるように巻き回されたエンドレスベルトである。前記搬送ベルト108の外側の面を、外周面108aとする。前記プラテン115は、前記搬送ベルト108により囲まれた領域内において、後述の塗布ローラ202及び4つのライン型インクジェットヘッド102と対向する位置に配置されている。前記プラテン115は、塗布ローラ202及び前記4つのライン型インクジェットヘッド102と対向する領域において、前記搬送ベルト108が下方に撓まないように前記搬送ベルト108を支持するものである。前記ベルトローラ107と対向する位置には、ニップローラ104が配置されている。前記ニップローラ104は、前記ベルト搬送機構113に搬送された前記記録用紙Pが、前記外周面108aに載置されたときに、この記録用紙Pを外周面108aに押さえつけるものである。前記搬送モータが、前記ベルトローラ106を回転させると、前記搬送ベルト108が駆動(回転)する。これにより、前記搬送ベルト108が、押さえつけられた前記記録用紙Pを粘着保持しつつ、前記排紙部112に向けて搬送する。前記搬送ベルト108のすぐ下流側には、剥離機構114が設けられている。前記剥離機構114は、前記外周面108aに粘着されている記録用紙Pを、前記外周面108aから剥離して、前記排紙部112に向けて送るように構成されている。
【0060】
インクジェット記録装置100におけるインクセットは、別個独立に形成された4つの水性インクカートリッジ101および処理液カートリッジ201から形成されている。そして、処理液カートリッジ201からは、塗布ローラ202へ処理液を供給する供給管201aが伸びており、供給管201aを介して塗布ローラ202へ処理液が供給される。前記4つのインクカートリッジ101は、それぞれ、その下端にライン型インクジェットヘッド102を有する。前記4つのインクカートリッジ101は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含み、4色の水性インクのうち少なくとも1つが、着色剤として顔料を含んでいる。
【0061】
前記4つのインクカートリッジ101及び塗布ローラ202は、前記用紙搬送方向Xに沿って、前記ベルト搬送機構113上に並べて固定されている。塗布ローラ202は、前記用紙搬送方向Xにおいて、4つのインクカートリッジ101よりも上流側に配置される。
【0062】
インクジェット記録装置100を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、前記搬送ベルト108によって搬送される前記記録用紙Pが、塗布ローラ202のすぐ下方を通過する際、塗布ローラ202は記録用紙Pと接触し回転する。そして、塗布ローラ202は、回転しながら処理液カートリッジ201から供給される処理液を記録用紙Pの上面へ塗布する。次に、処理液が塗布された記録用紙Pは、ライン型インクジェットヘッド102の下を通過する。前記4つのライン型インクジェットヘッド102のすぐ下方を順に通過する際に、前記記録用紙Pの前記処理液の付与部に、前記水性インクを吐出する。前記記録用紙P上において、前記処理液および前記水性インクが接触することで、記録画像の光学濃度(OD値)が向上する。
【0063】
尚、図1に示すインクジェット記録装置1および図3に示すインクジェット記録装置100は、前記処理液と接する金属部材を含んでもよい。本発明の処理液は、一般式(1)で表される第4級アルキルアンモニウム塩のアニオンXが、無機酸イオン、有機酸イオン及び水酸化物イオンの少なくとも一つであり、ハロゲン化物イオンを含まないため、これらの金属部材を腐食させにくい。金属部材としては、例えば、図1に示すインクジェット記録装置1におけるインクジェットヘッド3内部の処理液流路、インクカートリッジ内部の流路、また、図3に示すインクジェット記録装置100における塗布ローラ等が挙げられる。また、金属部材の材質としては、42合金、インバー、パーマロイなどのニッケルを含む合金等が挙げられる。
【実施例】
【0064】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。
(処理液の調製)
処理液組成(表2および3)の各成分を、均一に混合して、処理液1〜26を得た。
【0065】
(水性インクの調製)
水性インク組成(表1)における、自己分散型カーボンブラックの水分散体を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、前記自己分散型カーボンブラックの水分散体に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インクジェット記録用水性インクを得た。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例1および2、および比較例1〜4]
前記処理液1〜26を、前記インクジェット記録用水性インクと組み合わせて用いて、(a)記録画像の光学濃度(OD値)評価を、下記の方法により行った。また、処理液の(b)解凍後分離評価を、下記の方法により行った。
【0068】
(a)記録画像の光学濃度(OD値)評価
普通紙((株)リコー製のマイペーパー)上に、実施例および比較例の処理液を、バーコーター((株)安田精機製作所製のバーコーターのロッドNo.8)を用いて均一に広げた。
【0069】
ついで、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−330Cを使用して、前記インクジェット記録用水性インクを用いて前記普通紙上に解像度600dpi×600dpiで黒単色パッチを記録し評価サンプルを作製した。前記評価サンプルの光学濃度(OD値)を、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(光源:D50、視野角:2°、フィルター:Status T)により測定し、下記評価基準に従って評価した。前記光学濃度(OD値)の測定結果は、5回の測定の平均値である。
【0070】
(b)解凍後分離評価
処理液を−20℃で冷凍保存後、常温で解凍し、解凍後分離を、下記の評価基準に従って評価した。
【0071】
解凍後分離評価 評価基準
G :処理液に相分離が見られなかった。
NG:処理液に相分離が見られた。
【0072】
実施例1および2、および比較例1〜4の処理液の組成および評価結果を、表2および3に示す。表2には、前記普通紙に処理液を付与せず、前記インクジェット記録用水性インクのみで行った(a)記録画像の光学濃度(OD値)評価の結果をブランクとして示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表2に示すとおり、実施例1および2では、ブランクと比べて、記録画像の光学濃度(OD値)に向上が見られ、解凍後分離評価の結果も良好であった。
【0076】
一方、表3に示すとおり、一般式(1)において、Rが、炭素原子数が1のメチル基である第4級アルキルアンモニウム塩を処理液に用いた比較例1では、記録画像の光学濃度(OD値)がブランクと同程度であった。実施例1および2と、比較例1との比較から、Rのアルキル基の炭素数を8以上とすることで、記録画像の光学濃度(OD値)が向上することがわかった。
【0077】
また、一般式(1)において、Rが、炭素原子数が18のステアリル基である第4級アルキルアンモニウム塩を用いた比較例2および3では、解凍後分離評価の結果が劣っていた。実施例1および2と、比較例2および3との比較から、アルキル基の炭素数を16以下とすることで、低温環境下での保存安定性が向上することがわかった。
【0078】
そして、処理液に第4級アルキルアンモニウム塩に代えてポリアリルアミンを配合した比較例4では、解凍後分離評価の結果が劣っていた。なお、実施例1および2では、処理液を高温環境下に保存しても変色が見られなかったのに対し、比較例4では、高温環境下に保存すると、処理液が変色した。実施例1および2と、比較例4との比較から、本発明の第4級アルキルアンモニウム塩を処理液に用いることで、低温及び高温環境下の保存安定が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明のインクジェット記録用の処理液は、記録画像の光学濃度(OD値)を向上可能で、保存安定性にも優れる。本発明の処理液の用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ集合体
3 インク吐出機構(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置
100 インクジェット記録装置
201 処理液カートリッジ
201a 供給管
202 処理液塗布機構(塗布ローラ)
101 インクカートリッジ
102 ライン型インクジェットヘッド
104 ニップローラ
106、107 ベルトローラ
108 搬送ベルト
111 給紙部
111a 用紙ストッカ
111b 支持板
111c ピックアップローラ
112 排紙部
113 ベルト搬送機構
115 プラテン
116 制御装置
P 記録用紙
159 用紙検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録に用いる処理液であって、
一般式(1)で表される第4級アルキルアンモニウム塩および水を含む処理液。
【化1】


一般式(1)において、
〜Rは、それぞれ、炭素原子数1〜3のアルキル基であり、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、
は、炭素原子数8〜16のアルキル基であり、
〜Rのアルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
は、無機酸イオン、有機酸イオン及び水酸化物イオンのいずれかである。
【請求項2】
一般式(1)において、
〜Rが、それぞれ、炭素原子数1または2のアルキル基であり、
が、炭素原子数8〜12のアルキル基である請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
一般式(1)で表される第4級アルキルアンモニウム塩の配合量(有効成分量換算)が、前記処理液全量に対し、1重量%以上である請求項1または2に記載の処理液。
【請求項4】
インクジェット記録用水性インクセットであって、
顔料、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクおよび、
請求項1から3のいずれか一項に記載の処理液を含むインクジェット記録用水性インクセット
【請求項5】
インクジェット記録方法であって、
請求項4に記載のインクジェット記録用水性インクセットを用いて、
記録媒体に前記処理液を付与することと、
前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出することとを含むインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記処理液を前記記録媒体に付与した後、前記水性インクをインクジェット方式により吐出する請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
インクジェット記録装置であって、
請求項4に記載のインクジェット記録用水性インクセットが収容されたインクセット収容部と、
前記水性インクセットを構成する前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与機構と、
前記水性インクセットを構成する前記水性インクを前記記録媒体に吐出するインク吐出機構を含むインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記処理液付与機構が、前記処理液を前記記録媒体に吐出する処理液吐出機構又は、前記処理液を前記記録媒体に塗布する処理液塗布機構である請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記処理液と接する金属部材を含む請求項7または8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記処理液付与機構が、前記処理液と接する金属部材を含む請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記金属部材が、ニッケル合金を含む請求項9または10に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−91491(P2012−91491A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152644(P2011−152644)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】