説明

インクジェット記録用インク、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置

【課題】発色性、噴射安定性、印字品質に優れ、インクジェット記録装置内のゴム部材等に由来する化合物のインク中への溶出が防止され、記録物の堅牢性にも優れるインクジェット記録用インクを提供する。
【解決手段】染料(1)、C.I.アシッドレッド289(AR289)、水、ジプロピレングリコールプロピルエーテル(DPP)、特定のアセチレングリコール系界面活性剤を含むインクジェット記録用インクであって、染料(1)、AR289、DPPおよび前記界面活性剤が、(A)〜(D)の条件を満たすように配合されている。(A)インク全量に対し染料(1)とAR289の合計配合量が、2〜5重量%(B)インクにおいて、染料(1):AR289=9:1〜7:3(重量比)(C)0.5≦x≦2.5(D)1≦y≦3x:インク全量に対する特定の構造の界面活性剤の配合量(重量%)y:インク全量に対するDPPの配合量(重量%)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット記録用インクとして、染料、ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよびアセチレングリコール系界面活性剤等を含むインクが知られている(例えば、特許文献1参照)。前記インクには、(1)発色性に優れていること、(2)長期間の使用においても、噴射安定性に優れていること、(3)印字品質に優れていること、(4)インクジェット記録装置を形成する材料に由来する化合物が、インク中に溶出することを防止すること、(5)記録物の耐光性、耐オゾン性等の堅牢性に優れていることが求められる。しかしながら、従来のインクには、前記すべての性能を満たすものがなかった。なお、前記インクジェット記録装置を形成する材料としては、例えば、ゴム部材およびゴム材料以外の有機材料部材があげられる。前記ゴム部材は、例えば、ワイパおよびキャップがあげられる。前記ワイパは、例えば、インクジェットヘッドのノズル面を払拭するものである。前記キャップは、例えば、前記ノズル面と外界とを遮断するものである。前記ゴム部材等に由来する化合物が前記インク中へ溶出すると、前記インク中に前記化合物が析出する場合がある。前記化合物が析出すると、例えば、前記インクジェットヘッドのノズルが目詰まりするおそれがある。
【0003】
【特許文献1】特開平9−111165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、発色性、噴射安定性および印字品質に優れ、インクジェット記録装置内のゴム部材等に由来する化合物のインク中への溶出が防止され、且つ、記録物の堅牢性にも優れるインクジェット記録用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用インクは、
着色剤、水、水溶性有機溶剤およびアセチレングリコール系界面活性剤を含むインクジェット記録用インクであって、
前記着色剤が、下記の染料(1)および染料(2)を含み、
前記水溶性有機溶剤が、ジプロピレングリコールプロピルエーテルを含み、
前記アセチレングリコール系界面活性剤が、下記一般式(3)で表される界面活性剤を含み、
前記染料(1)、前記染料(2)、前記ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよび前記一般式(3)で表される界面活性剤が、それぞれ、下記(A)〜(D)の条件を満たすように配合されていることを特徴とする。
染料(1):下記一般式(1)で表される染料
染料(2):C.I.アシッドレッド289

(A) 前記インク全量に対し、前記染料(1)と前記染料(2)の合計配合量が、2〜5重量%
(B) 前記インクにおける前記染料(1)と前記染料(2)との重量比が、染料(1):染料(2)=9:1〜7:3
(C) 0.5≦x≦2.5
(D) 1≦y≦3
x:インク全量に対する一般式(3)で表される界面活性剤の配合量(重量%)
y:インク全量に対するジプロピレングリコールプロピルエーテルの配合量(重量%)

【化1】

前記一般式(1)において、
は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基であり、
は、水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基であり、
は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基、置換または無置換のスルホニル基、置換または無置換のアシル基であり、R、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよいが、RとRが共に水素原子であることはなく、RとRが共に水素原子であることはなく、
およびAは、双方が置換または無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換または無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。
【化2】

前記一般式(3)において、mおよびnは同一でも異なっていてもよく、m+n=1〜15を満たす数であり、
11、R12、R13およびR14は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜5の直鎖状または分岐鎖状アルキル基である。
【発明の効果】
【0006】
本発明者等は、一連の研究を重ねたところ、前記染料を含むインクにおいて、前記染料(1)、前記染料(2)、前記ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよび前記一般式(3)で表される界面活性剤を前記(A)〜(D)の条件を満たすように配合すれば、発色性、噴射安定性および印字品質に優れ、インクジェット記録装置内のゴム部材等に由来する化合物のインク中への溶出が防止され、且つ、記録物の堅牢性にも優れることを見出し、本発明に至った。このような性能の向上は、本発明者等が初めて見出したものである。本発明のインクが前記すべての性能に優れるメカニズムは、例えば、つぎのように推測される。前記染料(1)は堅牢性に優れる一方、前記染料(2)は発色性に優れる。しかし、前記染料を含むインクは、例えば、長期間使用する場合の噴射安定性に問題がある。これに対し、本発明のインクは、前記ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよび前記一般式(3)で表される界面活性剤が前記(C)および(D)の条件を満たすように配合されているため、長期間使用する場合においても、噴射安定性に優れ、印字品質にも優れ、さらに、インクジェット記録装置内のゴム部材等に由来する化合物のインク中への溶出も防止される。これらの性能向上のメカニズムは推測であり、本発明を何ら限定しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のインクジェット記録用インクにおいて、さらに、前記ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよび前記一般式(3)で表される界面活性剤は、それぞれ、下記(E)の条件を満たすように配合されていることが好ましい。

(E) y≧−2x+3 且つ y≦−2x+6
x:インク全量に対する一般式(3)で表される界面活性剤の配合量(重量%)
y:インク全量に対するジプロピレングリコールプロピルエーテルの配合量(重量%)

【0008】
本発明のインクジェット記録用インクの用途は、特に限定されず、例えば、マゼンタインクとして用いることができる。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明のインクジェット記録用インクは、前記染料以外の着色剤を用いることにより、マゼンタ以外の色のインクとすることもできる。
【0009】
本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用インクを含むインクカートリッジであって、前記インクが、本発明の前記インクジェット記録用インクであることを特徴とする。
【0010】
本発明のインクジェット記録装置は、インクカートリッジおよびインク吐出手段を含み、インクジェット記録用インクが前記インク吐出手段から吐出されるインクジェット記録装置であって、前記インクカートリッジが、本発明の前記インクカートリッジであることを特徴とする。
【0011】
つぎに、本発明のインクジェット記録用インクについて説明する。本発明のインクは、着色剤、水、水溶性有機溶剤およびアセチレングリコール系界面活性剤を含む。前述のとおり、前記着色剤は、前記染料(1)および前記染料(2)を含む。
【0012】
前述のとおり、前記染料(1)は、前記一般式(1)で表される染料である。
【0013】
前述のとおり、前記一般式(1)において、
は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基であり、
は、水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基であり、
は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基、置換または無置換のスルホニル基、置換または無置換のアシル基であり、R、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよいが、RとRが共に水素原子であることはなく、RとRが共に水素原子であることはなく、
およびAは、双方が置換または無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換または無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。
【0014】
前記一般式(1)において、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等があげられる。
【0015】
前記一般式(1)において、前記置換または無置換のアルキル基は、好ましくは、炭素原子数1〜6のアルキル基である。前記置換または無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3−スルホプロピル基、4−スルホブチル基等があげられる。前記置換アルキル基の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;カルボン酸塩、スルホン酸塩等のイオン性親水性基等があげられる。
【0016】
前記一般式(1)において、前記置換または無置換のアリール基は、好ましくは、炭素原子数6〜12のアリール基である。ただし、置換アリール基の場合、前記炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まないものとする。前記置換または無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−オクチルフェニル基、メシチル基、p−メトキシフェニル基、o−クロロフェニル基、m−(3−スルホプロピルアミノ)フェニル基等があげられる。前記置換アリール基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基等のアルキル基;前述と同様のアルコキシ基;前述と同様のハロゲン原子;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基等のアルキルアミノ基;アミド基;カルバモイル基;スルファモイル基;スルホアミド基;水酸基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のエステル基;前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0017】
前記一般式(1)において、前記置換または無置換のヘテロ環基は、好ましくは、5員または6員環のヘテロ環基である。前記置換または無置換のへテロ環基としては、例えば、2−ピリジル基、2−チエニル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−フリル基、6−スルホベンゾチアゾリル基、6−スルホン酸塩ベンゾチアゾリル基等があげられる。前記置換ヘテロ環基の置換基としては、例えば、アミド基;カルバモイル基;スルファモイル基;スルホアミド基;水酸基;前述と同様のエステル基;前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0018】
前記一般式(1)において、前記置換または無置換のスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等があげられる。前記置換スルホニル基の置換基としては、例えば、前述と同様の置換または無置換アルキル基、前述と同様の置換または無置換のアリール基等があげられる。
【0019】
前記一般式(1)において、前記置換または無置換のアシル基は、好ましくは、炭素原子数1〜12のアシル基である。ただし、置換アシル基の場合、前記炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まないものとする。前記置換または無置換のアシル基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基、クロロアセチル基等があげられる。前記置換アシル基の置換基としては、例えば、前述と同様のイオン性親水性基等があげられる。
【0020】
前記一般式(1)において、AおよびAは、前述のとおり、双方が置換または無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換または無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。AおよびAの双方が炭素原子である場合が、より優れた性能を発揮できる点で好ましい。AおよびAの炭素原子に結合する置換基としては、例えば、炭素原子数1〜3のアルキル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基等があげられる。
【0021】
前述のとおり、前記一般式(1)において、RとRとは共に水素原子であることはなく、またRとRも共に水素原子であることはない。また、前記一般式(1)において、スルホン酸基若しくはカルボキシル基の置換数が多くなると前記染料の水溶性が向上する傾向があるので、必要に応じてそれらの置換数を調整することが好ましい。
【0022】
前記染料(1)の好ましい態様としては、例えば、前記一般式(1)において、Rがアルキル基、Rがシアノ基、Rが水素原子若しくは置換または無置換のヘテロ環基、Rが水素原子、置換または無置換のヘテロ環基若しくは置換アリール基、RおよびRが、それぞれ、置換ヘテロ環基または置換アリール基、Rが水素原子であり、Aが置換されている炭素原子、Aが置換または無置換の炭素原子である態様があげられる。
【0023】
前記染料(1)のより好ましい態様としては、例えば、前記一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、Rが水素原子またはスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)、Rが水素原子、スルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)またはスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されているトリアルキルフェニル基(好ましくは、メシチル基)、RおよびRが、それぞれ、スルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されてもよいモノ、ジ若しくはトリアルキルフェニル基(好ましくは、p−オクチルフェニル基若しくはメシチル基)またはスルホン酸基若しくはそのアルカリ金属塩基で置換されているベンゾチアゾリル基(好ましくは、ベンゾチアゾール−2−イル基)、Rが水素原子であり、Aがアルキル基(好ましくは、メチル基)で置換されている炭素原子、Aがシアノ基で置換されてもよい炭素原子である態様である。
【0024】
前記染料(1)の好ましい具体例としては、下記の化学式(1−A)〜(1−F)で表される化合物があげられる。
【0025】
【化3】

【0026】
前記化学式(1−A)で表される化合物は、前記一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、Rがベンゾチアゾール−2−イル基、Rが水素原子、RおよびRがp−オクチルフェニル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aがシアノ基で置換されている炭素原子である態様である。
【0027】
【化4】

【0028】
前記化学式(1−B)で表される化合物は、前記一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、RおよびRがベンゾチアゾール−2−イル基、RおよびRがメシチル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0029】
【化5】

【0030】
前記化学式(1−C)で表される化合物は、前記一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、RおよびRが6−スルホナトリウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、RおよびRが3−スルホナトリウム塩−メシチル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0031】
【化6】

【0032】
前記化学式(1−D)で表される化合物は、前記一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、RおよびRが6−スルホリチウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、RおよびRが2,6−ジエチル−4−メチル−3−スルホリチウム塩フェニル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0033】
【化7】

【0034】
前記化学式(1−E)で表される化合物は、前記一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、RおよびRが6−スルホカリウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、RおよびRが3−スルホカリウム塩−メシチル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0035】
【化8】

【0036】
前記化学式(1−F)で表される化合物は、前記一般式(1)において、Rがtert−ブチル基、Rがシアノ基、RおよびRが6−スルホリチウム塩ベンゾチアゾール−2−イル基、RおよびRが2,6−ジエチル−4−スルホリチウム塩フェニル基、Rが水素原子であり、Aがメチル基で置換されている炭素原子、Aが炭素原子である態様である。
【0037】
前記染料(1)の配合量は、前記条件(A)および(B)を満たす範囲内であれば、特に制限されない。インクに前記染料(1)を含ませることで、前記インクを用いた記録物の堅牢性を向上させることができる。前記染料(1)の配合量は、前記インク全量に対し、例えば、1.4〜4.5重量%であり、好ましくは、1.75〜4.05重量%である。
【0038】
前記染料(2)のC.I.アシッドレッド289は、例えば、下記化学式(2)で表される染料である。
【0039】
【化9】

【0040】
前記染料(2)の配合量は、前記条件(A)および(B)を満たす範囲内であれば、特に制限されない。インクに前記染料(2)を含ませることで、発色性に優れたインクを得ることができる。前記染料(2)の配合量は、前記インク全量に対し、例えば、0.2〜1.5重量%であり、好ましくは、0.25〜1.35重量%である。
【0041】
前述のとおり、前記染料(1)と前記染料(2)との合計配合量は、前記インク全量に対し、2〜5重量%である。前記合計配合量は、好ましくは、2.5〜4.5重量%である。
【0042】
前述のとおり、前記染料(1)と前記染料(2)との重量比は、染料(1):染料(2)=9:1〜7:3である。
【0043】
前記着色剤は、前記染料(1)および前記染料(2)のみで構成されていてもよいし、さらに他の染料または顔料等を含んでもよい。
【0044】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記インク全量に対する前記水の配合量は、例えば、10〜90重量%であり、好ましくは、40〜80重量%である。前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0045】
前記水溶性有機溶剤は、例えば、インクジェットヘッドの先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤および記録紙面上での乾燥速度を調整する浸透剤に分類される。
【0046】
前記湿潤剤は、限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの中でも、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好適である。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
前記湿潤剤の配合量は、特に制限されない。前記インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0〜95重量%であり、好ましくは、10〜80重量%であり、より好ましくは、10〜50重量%である。
【0048】
本発明のインクジェット記録用インクは、前記浸透剤として、ジプロピレングリコールプロピルエーテル(DPP)を含む。前述のとおり、前記DPPの配合量は、前記インク全量に対し、1〜3重量%である(1≦y≦3の条件を満たす)。前記DPPの配合量は、好ましくは、1.2〜2.7重量%である。
【0049】
前記浸透剤は、前記DPPのみで構成されていてもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の浸透剤を含んでもよい。
【0050】
前記DPP以外の浸透剤は、限定されず、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル等があげられる。前記DPP以外の浸透剤は、1種類だけ用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0051】
前述のとおり、本発明のインクは、アセチレングリコール系界面活性剤を含む。前記アセチレングリコール系界面活性剤は、前記一般式(3)で表される界面活性剤を含む。前記一般式(3)において、前記mおよびnは、同一でも異なっていてもよく、m+n=1〜15を満たす数であり、好ましくは、m+n=3〜11を満たす数である。R11、R12、R13およびR14は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜5の直鎖状または分岐鎖状アルキル基である。前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等を含む。
【0052】
前記一般式(3)で表される界面活性剤は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、日信化学工業(株)製のオルフィン(登録商標)E1010、オルフィン(登録商標)E1004、サーフィノール(登録商標)440およびサーフィノール(登録商標)465;川研ファインケミカル(株)製のアセチレノール(登録商標)E40およびアセチレノール(登録商標)E100等があげられる。
【0053】
前述のとおり、前記一般式(3)で表される界面活性剤の配合量は、前記インク全量に対し、0.5〜2.5重量%である(0.5≦x≦2.5の条件を満たす)。前記一般式(3)で表される界面活性剤の配合量は、好ましくは、0.6〜2重量%である。
【0054】
本発明のインクジェット記録用インクは、本発明の効果を損なわない範囲で、前記一般式(3)で表される界面活性剤以外の界面活性剤を含んでもよい。前記一般式(3)で表される界面活性剤以外の界面活性剤は、限定されず、例えば、花王(株)製のアニオン界面活性剤「EMAL(登録商標)」シリーズ、「LATEMUL(登録商標)」シリーズ、「VENOL(登録商標)」シリーズ、「NEOPELEX(登録商標)」シリーズ、NS SOAP、KS SOAP、OS SOAP、「PELEX(登録商標)」シリーズ等;ライオン(株)製のアニオン界面活性剤「LIPOLAN(登録商標)」シリーズ、「LIPON(登録商標)」シリーズ、「SUNNOL(登録商標)」シリーズ、「LIPOTAC(登録商標)」シリーズ、「ENAGICOL(登録商標)」シリーズ、「LIPAL(登録商標)」シリーズ、「LOTAT(登録商標)」シリーズ等;花王(株)製のノニオン界面活性剤「EMULGEN(登録商標)」シリーズ、「RHEODOL(登録商標)」シリーズ、「EMASOL(登録商標)」シリーズ、「EXCEL(登録商標)」シリーズ、「EMANON(登録商標)」シリーズ、「AMIET(登録商標)」シリーズ、「AMINON(登録商標)」シリーズ等;ライオン(株)製のノニオン界面活性剤「DOBANOX(登録商標)」シリーズ、「LEOCOL(登録商標)」シリーズ、「LEOX(登録商標)」シリーズ、「LAOL(登録商標)」シリーズ、「LEOCON(登録商標)」シリーズ、「LIONOL(登録商標)」シリーズ、「CADENAX(登録商標)」シリーズ、「LIONON(登録商標)」シリーズ、「LEOFAT(登録商標)」シリーズ等があげられる。前記一般式(3)で表される界面活性剤以外の界面活性剤は、1種類だけ用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0055】
前記インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0056】
前記インクは、例えば、着色剤、水、水溶性有機溶剤およびアセチレングリコール系界面活性剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルターで不溶解物を除去することにより調製できる。
【0057】
前述のとおり、本発明のインクは、前記ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよび前記一般式(3)で表される界面活性剤が前記(C)および(D)の条件を満たすように配合されているため、噴射安定性に優れ、印字品質にも優れるとともに、インクジェット記録装置内のゴム部材等に由来する化合物のインク中への溶出も防止される。
【0058】
前述のとおり、本発明のインクは、例えば、マゼンタインクとして用いることができる。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明のインクは、前記染料以外の着色剤を用いることにより、マゼンタ以外の色のインクとすることもできる。
【0059】
本発明のインクカートリッジは、本発明の前記インクジェット記録用インクを含むインクカートリッジである。本発明のインクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0060】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置について説明する。本発明のインクジェット記録装置には、本発明の前記インクカートリッジを含む。これを除き、本発明のインクジェット記録装置の構成は、例えば、従来公知のインクジェット記録装置と同様であってもよい。
【0061】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インクジェットヘッド3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成部材として含む。
【0062】
前記4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色のインクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記マゼンタインクが、前記本発明のインクである。前記インクジェットヘッド3は、記録紙等の被記録材Pに印字を行う。前記ヘッドユニット4は、前記インクジェットヘッド3を備えている。前記キャリッジ5には、前記4つのインクカートリッジ2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0063】
前記駆動ユニット6は、キャリッジ軸9と、ガイド板10と、2つのプーリ11および12と、エンドレスベルト13とを含む。前記キャリッジ軸9は、前記キャリッジ5の下端部に配置され、前記プラテンローラ7と平行に延びている。前記ガイド板10は、前記キャリッジ部5の上端部に配置され、前記キャリッジ軸9と平行に延びている。前記2つのプーリ11および12は、前記キャリッジ軸9と前記ガイド板10との間であって、前記キャリッジ軸9の両端部に配置されている。前記エンドレスベルト13は、前記2つのプーリ11および12の間に掛け渡されている。
【0064】
このインクジェット記録装置1において、前記プーリ11がキャリッジモータ101の駆動により正逆回転されると、前記プーリ11の正逆回転に伴って、前記エンドレスベルト13に接合されている前記キャリッジ5が、前記キャリッジ軸9および前記ガイド板10に沿って、直線方向に往復移動する。
【0065】
前記被記録材Pは、このインクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記被記録材Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。すると、前記被記録材Pに、前記インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の印字がなされる。前記被記録材Pは、その後、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記被記録材Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0066】
前記パージ装置8は、前記プラテンローラ7の側方に設けられ、前記ヘッドユニット4がリセット位置(この例においては、前記パージ装置8の上部)にある時に、前記インクジェットヘッド3と対向するように配置されている。前記パージ装置8は、パージキャップ14と、ポンプ15およびカム16と、インク貯留部17とを含む。前記パージキャップ14は、前記ヘッドユニット4が前記リセット位置にある時に、前記インクジェットヘッド3の複数のノズル(図示せず)を覆う。前記ポンプ15は、前記カム16の駆動により前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。これにより、前記インクジェットヘッドの回復が図られる。前記吸引された不良インクは、前記インク貯留部17に貯められる。
【0067】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側の位置には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、印字が終了すると前記リセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0068】
この例のインクジェット記録装置1においては、前記4つのインクカートリッジ2は、1個のキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明のインクジェット記録装置において、前記4つのインクカートリッジは、複数のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジは、前記キャリッジには搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。この態様においては、例えば、前記インクカートリッジと、前記キャリッジに搭載された前記ヘッドユニットとが、チューブ等により連結され、前記チューブ等により、前記インクカートリッジから前記ヘッドユニットに前記インクが供給される。
【実施例】
【0069】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。
【0070】
[実施例1〜8および比較例1〜13]
インク組成成分(下記表1および表2)を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.2μm)を用いてろ過することで、実施例1〜8および比較例1〜13のインクジェット記録用インクを得た。なお、表1および表2において、染料(1−A)〜(1−F)は、それぞれ、前記化学式(1−A)〜(1−F)で表される化合物である。
【0071】
各実施例および各比較例のインクについて、(a)印字品質評価(ブリーディング)、(b)噴射安定性評価、(c)耐オゾン性評価、(d)耐光性評価、(e)ゴム析出性評価、(f)発色性評価および(g)総合評価を、下記の方法により行った。なお、(c)耐オゾン性評価用、(d)耐光性評価用および(f)発色性評価用のサンプルは、つぎのようにして準備した。
【0072】
すなわち、まず、各実施例および各比較例のインクを、インクカートリッジに充填した。ついで、前記インクカートリッジを、ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−330Cに装着した。つぎに、ブラザー工業(株)製の写真光沢紙BP61GLAに前記インクのグラデーションサンプルをプリントし、初期OD値1.0のパッチを得た。前記OD値は、Gretag Macbeth社製の分光測色計Spectrolino(光源:D65;視野:2°;status A)により測定した。
【0073】
(a)印字品質評価(ブリーディング)
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−330Cを使用し、富士通コワーコ(株)製のオフィス用紙W上に、背景に各実施例および各比較例のインク、ラインにブラザー工業(株)製のインクカートリッジLC10BKに充填されたブラックインクを用いて評価サンプルの印画を行った。各実施例および各比較例のインクと前記ブラックインクとの境界部のRagを、ISO13660に準ずる方法により測定した。ここで、Ragとは、ISO13660で定義されたラインのラジェットネスであり、ラジェットなラインとは、本来スムーズで真っ直ぐなはずの理想のラインエッジに対して波打っている状態を示す。得られたRagから、下記の評価基準に従って評価した。
【0074】
印字品質評価(ブリーディング)基準
A:ラインのRagが、30未満
B:ラインのRagが、30以上40未満
C:ラインのRagが、40以上
【0075】
(b)噴射安定性評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−330Cを使用し、富士通コワーコ(株)製のオフィス用紙W上に、1億ドット(約3万枚)の連続印字を行った。前記連続印字の結果を、下記の基準に従って評価した。不吐出とは、インクジェットヘッドのノズルが目詰まりし、前記インクが吐出されない状態である。吐出曲がりとは、インクジェットヘッドのノズルの一部が目詰まりし、前記インクが、前記記録用紙に対して垂直に吐出されず、斜めに吐出される状態である。
【0076】
噴射安定性評価基準
A:連続印字中において、不吐出および吐出曲がりが全くないか、不吐出若しくは吐出曲がりが僅かにあったが、前記不吐出若しくは吐出曲がりが、共に5回以内のパージによって回復した。
C:連続印字中において、不吐出および吐出曲がりが多数有り、前記不吐出および吐出曲がりが、共に5回のパージでは回復しなかった。
【0077】
(c)耐オゾン性評価
スガ試験機(株)製のオゾンウェザーメーターOMS−Hを用いて、オゾン濃度2ppm、槽内温度24℃、槽内相対湿度60%の条件下、前記グラデーションサンプルを40時間放置した。ついで、前記放置後の前記パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(I)によりOD値減少率(%)を求め、耐オゾン性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、耐オゾン性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(I)
X:1.0(初期OD値)
Y:放置後のOD値

【0078】
耐オゾン性評価基準
A:OD値減少率が、20%未満
C:OD値減少率が、20%以上
【0079】
(d)耐光性評価
スガ試験機(株)製の強エネルギーキセノンウェザーメーターSC750―WNを用いて、槽内温度25℃、槽内相対湿度50%、照度93klxの条件下、前記グラデーションサンプルにキセノンランプ光を200時間照射した。ついで、前記照射後の前記パッチのOD値を、前述と同様にして、測定した。つぎに、下記式(II)によりOD値減少率(%)を求め、耐光性を、下記の評価基準に従って評価した。なお、前記OD値減少率が小さいほど、画質の劣化が少なく、耐光性に優れていたこととなる。

OD値減少率(%)={(X−Y)/X}×100 ・・・(II)
X:1.0(初期OD値)
Y:照射後のOD値

【0080】
耐光性評価基準
A:OD値減少率が、30%未満
C:OD値減少率が、30%以上
【0081】
(e)ゴム析出性評価
インク1gあたりの接触面積が30mmとなる条件で、前記インクにゴム片(エチレンプロピレンゴム(EPDM);ゴム硬度(旧JIS K 6301 A型による測定)40°)を浸漬させ、温度70℃の環境下で1週間保存した。前記保存後、前記インクから前記ゴム片を取り出した後、前記インクを東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルター(孔径:0.2μm;直径:15mm)でろ過し、ろ過に要する時間を計測した。コントロールとして、前記保存前のインクを、前述と同様の条件でろ過し、ろ過に要する時間を計測した。つぎに、下記式(III)によりろ過時間の増加率を求め、ゴム析出性を、下記の評価基準に従って評価した。

ろ過時間の増加率=Y/X ・・・(III)
X:保存前のろ過時間
Y:保存後のろ過時間

【0082】
ゴム析出性評価基準
A:ろ過時間の増加率が、1.3倍未満
B:ろ過時間の増加率が、1.3倍以上1.6倍未満
C:ろ過時間の増加率が、1.6倍以上
【0083】
(f)発色性評価
前記グラデーションサンプルを、目視にて観察し、マゼンタ色が充分に表現されているか否かを、下記の評価基準に従って評価した。
【0084】
発色性評価基準
A:マゼンタ色を充分に表現できている。
B:マゼンタ色を表現できている。
C:マゼンタ色を表現できていない。
【0085】
(g)総合評価
各インクについて、前記(a)〜(f)の結果から、下記の評価基準に従って総合評価を行った。
【0086】
総合評価基準
AA:すべての評価結果がAであった。
A :評価結果のいずれかにBがあったが、Cはなかった。
C :評価結果のいずれかにCがあった。
【0087】
各実施例のインクの組成および評価結果を、下記表1に示す。また、各比較例のインクの組成および評価結果を、下記表2に示す。そして、実施例1〜8および比較例3〜6におけるインク全量に対する一般式(3)で表される界面活性剤の配合量[x(重量%)]とインク全量に対するDPPの配合量[y(重量%)]との関係を、図2に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
前記表1に示すとおり、実施例1〜6のインクは、印字品質評価(ブリーディング)、噴射安定性評価、耐オゾン性評価、耐光性評価、ゴム析出性評価および発色性評価のすべての結果が、良好であった。y<−2x+3である実施例7のインクは、印字品質評価(ブリーディング)の結果が実施例1〜6のインクに比べ若干劣っていたが、実用上問題ないレベルであった。y>−2x+6である実施例8のインクは、ゴム析出性評価の結果が実施例1〜6のインクに比べ若干劣っていたが、実用上問題ないレベルであった。一方、前記表2に示すとおり、染料(1)を含まない比較例1のインクは、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っていた。また、染料(1):染料(2)[重量比]=6:4である比較例2のインクは、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っていた。また、y<1である比較例3のインクは、印字品質評価(ブリーディング)の結果が劣っていた。また、y>3である比較例4のインクは、噴射安定性評価の結果が劣っていた。また、x<0.5である比較例5のインクは、印字品質評価(ブリーディング)の結果が劣っていた。また、x>2.5である比較例6のインクは、ゴム析出性評価の結果が劣っていた。また、DPPを含まない比較例7のインクは、DPPの代わりに配合したジプロピレングリコールメチルエーテルによって、印字品質評価(ブリーディング)の結果が劣っていた。また、DPPを含まない比較例8および9のインクは、DPPの代わりに配合したジプロピレングリコールブチルエーテルまたはプロピレングリコールプロピルエーテルによって、ゴム析出性評価の結果が劣っていた。また、染料(2)に代えてC.I.アシッドレッド14またはC.I.ダイレクトレッド227を用いた比較例10および比較例11のインクは、耐オゾン性評価および耐光性評価の結果が劣っていた。また、染料の合計配合量が少ない比較例12のインクは、印字が薄すぎ、発色性評価の結果が劣っていた。また、染料の合計配合量は多い比較例13のインクは、印字が濃すぎ、発色性評価の結果が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように、本発明のインクは、発色性、噴射安定性および印字品質に優れ、インクジェット記録装置内のゴム部材等に由来する化合物のインク中への溶出が防止され、且つ、記録物の堅牢性にも優れるものである。本発明のインクの用途は、限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、実施例1〜8および比較例3〜6におけるインク全量に対する一般式(3)で表される界面活性剤の配合量[x(重量%)]とインク全量に対するDPPの配合量[y(重量%)]との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インクジェットヘッド
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置
9 キャリッジ軸
10 ガイド板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水、水溶性有機溶剤およびアセチレングリコール系界面活性剤を含むインクジェット記録用インクであって、
前記着色剤が、下記の染料(1)および染料(2)を含み、
前記水溶性有機溶剤が、ジプロピレングリコールプロピルエーテルを含み、
前記アセチレングリコール系界面活性剤が、下記一般式(3)で表される界面活性剤を含み、
前記染料(1)、前記染料(2)、前記ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよび前記一般式(3)で表される界面活性剤が、それぞれ、下記(A)〜(D)の条件を満たすように配合されていることを特徴とするインクジェット記録用インク。
染料(1):下記一般式(1)で表される染料
染料(2):C.I.アシッドレッド289

(A) 前記インク全量に対し、前記染料(1)と前記染料(2)の合計配合量が、2〜5重量%
(B) 前記インクにおける前記染料(1)と前記染料(2)との重量比が、染料(1):染料(2)=9:1〜7:3
(C) 0.5≦x≦2.5
(D) 1≦y≦3
x:インク全量に対する一般式(3)で表される界面活性剤の配合量(重量%)
y:インク全量に対するジプロピレングリコールプロピルエーテルの配合量(重量%)

【化1】

前記一般式(1)において、
は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基であり、
は、水素原子、ハロゲン原子またはシアノ基であり、
は、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基、置換または無置換のスルホニル基、置換または無置換のアシル基であり、R、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよいが、RとRが共に水素原子であることはなく、RとRが共に水素原子であることはなく、
およびAは、双方が置換または無置換の炭素原子であるか、若しくは一方が置換または無置換の炭素原子であり、且つ、他方が窒素原子である。
【化2】

前記一般式(3)において、mおよびnは同一でも異なっていてもよく、m+n=1〜15を満たす数であり、
11、R12、R13およびR14は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜5の直鎖状または分岐鎖状アルキル基である。
【請求項2】
さらに、前記ジプロピレングリコールプロピルエーテルおよび前記一般式(3)で表される界面活性剤が、それぞれ、下記(E)の条件を満たすように配合されている請求項1記載のインクジェット記録用インク。

(E) y≧−2x+3 且つ y≦−2x+6
x:インク全量に対する一般式(3)で表される界面活性剤の配合量(重量%)
y:インク全量に対するジプロピレングリコールプロピルエーテルの配合量(重量%)

【請求項3】
マゼンタインクとして用いられる請求項1または2記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
インクジェット記録用インクを含むインクカートリッジであって、前記インクが、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項5】
インクカートリッジおよびインク吐出手段を含み、インクジェット記録用インクが前記インク吐出手段から吐出されるインクジェット記録装置であって、前記インクカートリッジが、請求項4記載のインクカートリッジであることを特徴とするインクジェット記録装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−155604(P2009−155604A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338542(P2007−338542)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】