説明

インクジェット記録用インクセット、及びインクジェット記録方法

【課題】画像部でのブロッキングの発生が抑制され、耐擦過性に優れた画像を記録することができるインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】色材と、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上の樹脂粒子と、水とを含む水性インク組成物と、前記樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物中におけるMFTより50℃以上低くなる前記水溶性有機溶剤と、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤と、水とを含む水性処理液と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法でインクを吐出して画像を記録するのに好適なインクジェット記録用インクセット及びこれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、液滴状に分離したインクを記録媒体に向けて吐出し、インクを記録媒体に定着させることによって記録を行う方法であり、多種多様な記録媒体に対して高品位な画像を記録し得ること等の理由から、広く利用されている。
【0003】
インクの定着を促進させる方法として、インクと該インクを凝集させる処理液とを記録媒体上で接触させインクを凝集させる2液反応型の記録方法が知られている。例えば、多価金属塩を含む反応液を記録媒体に付着させた後、顔料と樹脂エマルジョンとを含むインク組成物を記録媒体に付着させるインクジェット記録方法が開示されており、画像の滲み、画像ムラを抑制することができるとされている(例えば、特許文献1参照)。
また、インク組成物と該インク組成物中の成分と反応する多価金属化合物を含む処理液とを記録媒体上で接触させる画像記録方法が開示されており、特に普通紙において優れた耐擦過性及び耐マーカー性の画像を実現できるとされている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
一方、印刷用塗工紙などに記録を行なうにあたっては、画像の滲み、定着性(例えば擦過耐性)、解像度などにおいて、充分な性能が得られていない場合がある。特に、インクジェット記録を高速化する場合が挙げられ、シャトルスキャン方式ではなく、1回のヘッド操作で記録可能なシングルパス方式で高速記録する場合の記録適性が求められるようになってきている。
【0005】
また、記録後は、回収や保管など種々の場面で、記録された画像部の上に紙等が重ねられることがあるが、画像部上に重ねられた紙等との間でくっつき等の接着(ブロッキング)が生じると、画像が損傷したり取扱い性を損なう等の種々の問題が生じる。くっつき等のない画像を得るには、インクに含まれる樹脂成分の造膜温度やガラス転移温度(Tg)等を高くする等の方法が考えられる。
【0006】
上記に関連して、熱可塑性樹脂成分を含有したインクを用い、熱可塑性樹脂成分の軟化点以上に加熱した記録媒体にインク滴を吐出して印字を行なう記録方法が開示されており(例えば、特許文献3〜5参照)、滲みがなく高品位で堅牢な印字物を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−207424号公報
【特許文献2】特開2006−188045号公報
【特許文献3】特開平8−283636号公報
【特許文献4】特開平10−110126号公報
【特許文献5】特開平10−152640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、インクに含まれる樹脂成分の最低造膜温度やTg等を高めると、耐擦過性等の定着性能を得るための熱処理に要する温度が高くなり、定着時の熱エネルギー消費が大きくなる。
これに対して、熱エネルギーの消費を抑えるために最低造膜温度を単に下げると、熱エネルギー消費は抑えられても、記録画像にべとつきが生じ、ブロッキングが発生してしまう。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、画像部でのブロッキング発生が抑制され、耐擦過性に優れた画像を記録することができるインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水性インク組成物と水性処理液とが接触したとき、前記水性処理液に含まれる水溶性有機溶媒によって前記水性インク組成物に含まれる樹脂粒子の最低造膜温度(以下、単にMFT(Minimum Filming Temperature)と略記することがある。)が低くなり、画像記録後は経時や乾燥等の際の加熱によって前記水溶性有機溶媒が抜け出ることで樹脂粒子のMFTが高くなる構成にすることで、省熱エネルギー化しながらも、画像部のくっつき防止(耐ブロッキング性)と耐擦過性とを両立できるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0011】
上記の目的を達成するために、水性処理液に水溶性有機溶剤を含有させるのではなく、インク組成物に水溶性有機溶剤を含有させることも可能であるが、インク組成物の構成を変更した場合、吐出安定性、インク安定性について再検討が必要になることが多い。水性処理液に水性有機溶剤を含有すれば、これらの懸念も払拭することができる。
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 色材と、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上の樹脂粒子と、水とを含む水性インク組成物と、前記樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物中におけるMFTより50℃以上低くなる前記水溶性有機溶剤と、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤と、水とを含む水性処理液と、を含むインクジェット記録用インクセットである。
【0013】
<2> 前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルキルエーテルであることを特徴とする<1>に記載のインクジェット記録用インクセットである。
<3> 前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルコールであることを特徴とする<1>又は<2>に記載のインクジェット記録用インクセットである。
<4> 前記水溶性有機溶剤の101.3kPaにおける沸点が、230℃以上であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<5> 前記水溶性有機溶剤のSP値が、27.5以下であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<6> 前記凝集剤が、2価以上の酸性化合物であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
【0014】
<7> 前記樹脂粒子が、アクリル系樹脂粒子であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<8> 前記樹脂粒子が、自己分散性ポリマー粒子であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<9> 前記色材が、顔料であることを特徴とする<1>〜<8>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
<10> 前記色材が、ポリマー分散剤で被覆された顔料であることを特徴とする<1>〜<9>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットである。
【0015】
<11> <1>〜<10>のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インクセットを用いると共に、水性インク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与して画像を記録する画像記録工程と、水性処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、を有するインクジェット記録方法である。
【0016】
<12> 前記記録媒体が塗工紙であって、前記処理液付与工程は、塗工紙に、ブリストー法による液体吸収性測定で得られる前記塗工紙の粗さ指数Vrと吸収係数の値が変化する屈曲点における転移量ViとからΔV = Vi−Vrにより求められるΔV[ml/m]に対して−50%以上+30%以下となる量の前記水性処理液を付与することを特徴とする<11>に記載のインクジェット記録方法である。
【0017】
<13> 前記処理液付与工程は、塗布により前記水性処理液を記録媒体に付与することを特徴とする<11>又は<12>に記載のインクジェット記録方法である。
<14> 更に、前記水性インク組成物の付与により形成されたインク画像に加熱面を接触させて加熱定着する定着工程を有することを特徴とする<11>〜<13>のいずれか1つに記載のインクジェット記録方法である。
<15> 前記加熱面の温度が、70〜100℃であることを特徴とする<14>に記載のインクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、画像部でのブロッキングの発生が抑制され、耐擦過性に優れた画像を記録することができるインクジェット記録用インクセット及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のインクジェット記録用インクセット及びこれを用いたインクジェット記録方法について詳細に説明する。
【0020】
<インクセット>
本発明のインクジェット記録用インクセットは、水性インク組成物とこの水性インク組成物を凝集させる水性処理液とを記録媒体上で接触させインクを凝集させる2液反応型のインクセットである。
本発明における水性インク組成物は樹脂粒子を含み、この樹脂粒子は、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である。一方、本発明における水性処理液は、前記樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物中におけるMFTより50℃以上低くなる前記水溶性有機溶剤を含む。このため、前記水性インク組成物と前記水性処理液とが記録媒体上で接触すると、樹脂粒子のMFTが低くなり、その後、経時や乾燥等で水溶性有機溶剤が抜け出ると、樹脂粒子のMFTが高くなる。
このことにより、インク着滴直後における樹脂粒子のMFTを比較的低くし、低熱エネルギーで耐擦過性等の定着性能を確保しながら、その後、樹脂粒子のMFTが上昇することで、ブロッキングの発生を抑えることができる。
【0021】
−水性処理液−
本発明における水性処理液(以下、単に「処理液」ということがある。)は、水溶性有機溶剤の少なくとも1種と、後述する水性インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤の少なくとも1種と、水とを含む。
【0022】
(水溶性有機溶剤)
本発明における水性処理液に含まれる水溶性有機溶剤は、本発明における水性インク組成物に含まれる樹脂粒子に対して、MFT−MFT25≧50℃の関係を構成するものを選択する。
【0023】
「MFT」は、YOSHIMITU SEIKI社製のMFT測定機を用いて測定されるものである。具体的には、所望の樹脂粒子を水中に分散して得た水分散物を25質量%液に調整した調製液をフィルム(例えば64cm×18cm)上に塗布厚が300μmとなるように(例えば長さ50cm×幅3cm)ブレード塗布した後、フィルムの裏側から加熱し、塗布膜に12℃〜65℃までの温度勾配をかけ、20℃、22%RHの環境下で4時間乾燥させ、このときに白い粉状の析出物が生じた温度と透明膜が形成された温度との境界温度[℃]を測定することにより求められる。
また、「MFT25」は、前記MFTの測定操作において、樹脂粒子25質量%(固形分質量)と水溶性有機溶剤6.25質量%(樹脂粒子固形分に対して25質量%)と水68.75質量%との混合液(水溶液)を調製し、これを水分散物に代えて用いたこと以外は、前記MFTと同様の操作を行なうことにより測定されるものである。また、「MFT25」が測定機の上限値を超えてしまう場合は、「MFT25」〜「MFT50」を適宜測定し、「MFT25」を推定してもよい。
【0024】
本発明においては、MFT25がMFTより50℃以上低くなる範囲とする。MFTからMFT25を差し引いた温度差(MFT−MFT25)が50℃未満であると、加熱定着時の熱量が大きくなると同時に、記録された画像の耐擦過性が低下する。本発明においては、MFT25はMFTより50℃以上低くなる範囲であり、MFTより50〜70℃低くなる範囲が好ましく、MFTより60〜70℃低くなる範囲がより好ましい。
ブロッキングが発生することを抑制する観点から、MFTは60℃以上とする。MFTが80〜180℃の範囲であって、かつ、MFT25がMFTより50〜70℃低くなる範囲が好ましく、MFTより60〜70℃低くなる範囲がより好ましい。
【0025】
本発明において、MFTからMFT25を差し引いた温度差を上記範囲とする方法として、水性処理液に含まれる水溶性有機溶剤の種類、量を適宜選択することにより調整することができる。
【0026】
水性処理液に含まれる水溶性有機溶剤としては、MFT25を下げてMFTとの温度差(MFT−MFT25)を50℃以上の範囲に調製する観点からは、アルキレンオキシアルコール、アルキレンオキシアルキルエーテルが好ましい。また、同様の理由から、水性処理液は、2種以上の水溶性有機溶剤を含有することが好ましく、2種以上の水溶性有機溶剤を含有する場合は、その少なくとも1種はアルキレンオキシアルコールであることが好ましく、更にはアルキレンオキシアルコールの少なくとも1種とアルキレンオキシアルキルエーテルの少なくとも1種とを含む2種以上の水溶性有機溶剤を含有する場合が特に好ましい。
【0027】
前記アルキレンオキシアルコールとしては、好ましくは、プロピレンオキシアルコールである。プロピレンオキシアルコールとしては、例えば、サンニックスGP250、サンニックスGP400(三洋化成工業(株)製)が挙げられる。
【0028】
前記アルキレンオキシアルキルエーテルとしては、好ましくは、アルキル部位の炭素数が1〜4のエチレンオキシアルキルエーテル又はアルキル部位の炭素数が1〜4のプロピレンオキシアルキルエーテルである。アルキレンオキシアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0029】
本発明においては、例えば、樹脂粒子が後述する自己分散性ポリマー粒子の場合は、水溶性有機溶剤がプロピレンオキシアルコールとエチレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)及び/又はプロピレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)とである場合が好ましく、更には、樹脂粒子が、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含む自己分散性ポリマー粒子の場合は、水溶性有機溶剤がプロピレンオキシアルコールとエチレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)及び/又はプロピレンオキシアルキルエーテル(アルキル部位の炭素数1〜4)とである場合が好ましい。
【0030】
本発明における水性処理液に含まれる水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、101.3kPa(760mmHg)における沸点が230℃以上である水溶性有機溶剤であることが好ましい。
沸点が230℃未満の水溶性有機溶剤では水溶性処理液の保水と湿潤性が不十分となり、保存安定性が低下する場合がある。更に、沸点が230℃未満の水溶性有機溶剤では、水性インク中の成分の固定化促進が不十分となり、高画質な画像を得ることができない場合がある。
【0031】
以下に、沸点が230℃以上である水溶性有機溶剤の例について示す。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値21.5、沸点231℃)
・トリエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値23.4、沸点245℃)
・トリエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値21.7、沸点255℃)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値21.1、沸点278℃)
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値20.4、沸点243℃)
・トリエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値22.1、沸点245℃)
【0032】
本発明における水性処理液は、沸点が230℃以上の水溶性有機溶剤以外の他の水溶性有機溶剤を含んでいてもよいが、沸点が230℃以上の水溶性有機溶剤が全水溶性有機溶剤に占める含有率は70質量%以上であることが好ましい。前記含有率は、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。前記含有率が70質量%未満では、カール抑制効果が不十分となる。また、2次色ドット径変動が大きくなり解像度が低下する。
【0033】
本発明における水性処理液が含有する全水溶性有機溶剤の含有率は、カール抑制の観点から、30質量%以下であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましい。
また、前記水性処理液が含有する水溶性有機溶剤は、揮発成分を低減する観点から、20℃における蒸気圧が0.01kPa未満であることが好ましい。
【0034】
20℃における蒸気圧が0.01kPa未満である水溶性有機溶剤の具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(<3.9Pa)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(<1.33Pa)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(<1.33Pa)、ジプロピレングリコール(<1.33Pa)等が挙げられる。
本発明の水性処理液において、水溶性有機溶剤は、単独または2種以上混合して使用することができる。
【0035】
本発明における水性処理液に含まれる水溶性有機溶剤のSP値は27.5以下が好ましく、カールの抑制性の観点から、SP値23.0以下であることがさらに好ましい。SP値が27.5を超えるとカールの抑制が不十分となる。また、MFT25も高くなる傾向にある。
【0036】
本発明でいう水溶性有機溶剤の溶解度パラメーターSP値とは、分子凝集エネルギーの平方根で表される値で、単位は(MPa)1/2であり、25℃における値を指す。SP値は、R.F.Fedors,Polymer Engineering Science,14,p147(1967)に記載の方法で計算することができ、本発明においてはこの数値を採用する。
【0037】
(凝集剤)
本発明における水性処理液は、水性インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤の少なくとも1種を含有する。前記凝集剤としては水性インク組成物中の成分の少なくとも1種を凝集可能であれば特に制限はないが、乾燥皮膜中に存在している状態で、水性インク組成物と接触することにより、水性インク組成物中の成分を凝集可能であることが好ましく、水性インク組成物と接触することで水性インク組成物中に溶解しやすい化合物であることがより好ましい。
【0038】
中でも、凝集性の観点から、水溶性の高い多価金属塩および水溶性の高い酸性化合物の少なくとも1種であることが好ましく、水溶性の高い酸性化合物の少なくとも1種であることがより好ましい。さらに前記酸性化合物としては、水性インク組成物と反応してインク全体を凝集させる観点から、2価以上の酸性化合物であることがさらに好ましい。
【0039】
ここで水性インク組成物中の成分の凝集反応は、例えば、水性インク組成物中に分散した粒子(色材(例えば、顔料)、樹脂粒子等)の分散安定性を減じ、インク全体の粘度を上昇させることで達成することができる。
具体的には例えば、凝集剤として酸性化合物を使用する場合、カルボキシル基等の弱酸性の官能基で分散安定化しているインク中の顔料、樹脂粒子などの粒子の表面電荷を、よりpKaの低い酸性化合物と接触させることにより減じ、分散安定性を低下させることができる。したがって、処理液に含まれる凝集剤としての酸性化合物は、pKaが低く、水に対する溶解度が高く、価数が2価以上であることが好ましく、インク中の粒子を分散安定化させている官能基(例えば、カルボキシル基)のpKaよりも低いpH領域に高い緩衝能を有する2価または3価の酸性化合物であることがより好ましい。
具体的には、リン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、およびフタル酸などが挙げられる。またこれらと、pKa、溶解度が類似した他の酸性化合物も使用可能である。
【0040】
これらの酸性化合物の中でも、クエン酸は、保水力が高く、凝集したインクの物理強度が高くなる傾向にあり、機械特性がより要求される場合に好ましく用いられる。一方、マロン酸は逆に保水力が低く、処理液の乾燥を早めたい場合に好ましく用いられる。
このように凝集剤は、水性インク組成物の凝集能とは別の副次的因子により、適宜選択して使用することも可能である。
【0041】
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0042】
前記凝集剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
水性インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤の水性処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、1〜40質量%が好ましく、より好ましくは5〜30質量%であり、更に好ましくは10〜25質量%の範囲である。
【0043】
(その他の成分)
本発明における水性処理液は、凝集剤と水溶性有機溶剤とを必須の構成成分とするが、これらに加えて、界面活性剤やその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
本発明における水性処理液の表面張力は、水性インク組成物の凝集速度の観点から、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、25mN/m以上50mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上45mN/m以下である。なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用いて、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0045】
また、本発明における水性処理液の20℃での粘度は、水性処理液の付与安定性の観点から、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上12mPa・s未満、更に好ましくは2mPa・s以上8mPa・s未満である。粘度が前記範囲内であることで、例えば水性処理液の付与を塗布で行う場合に、水性処理液をより均一かつより安定的に付与することができる。なお、水性処理液の粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて、20℃の条件下で測定されるものである。
また、水性処理液の粘度は、水溶性有機溶剤の種類や含有量の調整、粘度調整剤の添加等の通常行われる方法で適宜変更することができる。
【0046】
−水性インク組成物−
本発明における水性インク組成物(以下、単に「インク組成物」、「水性インク」ということがある。)は、色材、樹脂粒子、及び水を少なくとも含む。また、本発明の水性インク組成物は、必要に応じて、更に、水溶性有機溶剤、分散剤、界面活性剤、その他の成分を用いて構成することができる。
【0047】
(色材)
本発明における水性インク組成物は、色材の少なくとも1種を含有する。
色材としては、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。中でも、インク着色性の観点から、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である色材であることが好ましい。具体的には例えば、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができ、顔料であることがより好ましい。
本発明においては、水不溶性の顔料自体または分散剤で表面処理された顔料自体を色材とすることができる。
【0048】
本発明における顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機及び無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能であれば、いずれも使用できる。更に、前記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も勿論使用可能である。前記顔料のうち、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料を用いることが好ましい。
【0049】
〜分散材〜
本発明における色材が顔料である場合、分散剤によって水系溶媒に分散されていることが好ましい。分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性の分散剤でも非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
前記低分子の界面活性剤型分散剤(以下、「低分子分散剤」ということがある。)は、インクを低粘度に保ちつつ、有機顔料を水溶媒に安定に分散させる目的で添加することができる。ここでいう低分子分散剤は、分子量2000以下の低分子分散剤である。また、低分子分散剤の分子量は、100〜2000が好ましく、200〜2000がより好ましい。
【0050】
前記低分子分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基は、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基を連結するための連結基も適宜有することができる。
【0051】
親水性基としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等を挙げることができる。
アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基またはカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基またはカルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0052】
カチオン性基は、プラスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素またはリンを含むカチオン性基であることがより好ましく、窒素を含むカチオン性基であることが更に好ましい。中でも、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることが特に好ましい。
ノニオン性基は、マイナスまたはプラスの電荷を有しないものであれば特に制限はない。例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0053】
本発明においては、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、親水性基がアニオン性基であることが好ましい。
また、低分子分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、そのpKaは3以上であることが好ましい。本発明における低分子分散剤のpKaは、テトラヒドロフラン−水=3:2(V/V)溶液に低分子分散剤1mmol/Lに溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。
理論上、低分子分散剤のpKaが3以上であれば、pH3程度の処理液と接したときに、アニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。この観点から、低分子分散剤が、アニオン性基としてカルボン酸基を有していることが好ましい。
【0054】
一方、疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等のいずれの構造を有するものであってもよいが、特に、炭化水素系であることが好ましい。また、これらの疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また疎水性基は、1本鎖状構造、又は2本以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
【0055】
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0056】
本発明におけるポリマー分散剤のうち水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子などが挙げられる。
【0057】
また、天然物を原料として化学修飾した親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子などが挙げられる。
【0058】
また、合成系の水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
【0059】
これらの中でも、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、カルボキシル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
【0060】
ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0061】
本発明におけるポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
【0062】
また、顔料と分散剤との混合質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0063】
本発明において色材として染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを水不溶性着色粒子として用いることができる。染料としては公知の染料を特に制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料を本発明においても好適に用いることができる。また、担体としては、水に不溶または水に難溶であれば特に制限なく、無機材料、有機材料及びこれらの複合材料を用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体を本発明においても好適に用いることができる。
染料を保持した担体(水不溶性着色粒子)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
【0064】
本発明における色材は、耐擦過性、凝集性の観点から、顔料と分散剤とを含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。
また、色材は、凝集性の観点から、カルボキシル基を有するポリマー分散剤に被覆され、水不溶性であることが好ましい。
更に、本発明においては、凝集性の観点から、後述の自己分散性ポリマーの粒子の酸価が、前記ポリマー分散剤の酸価よりも小さいことが好ましい。
【0065】
色材の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、色材の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布をもつ色材を2種以上混合して使用してもよい。
なお、樹脂粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0066】
色材は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
色材のインク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0067】
(樹脂粒子)
本発明の水性インク組成物は、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上である樹脂粒子の少なくとも1種を含む。MFTが60℃未満の樹脂粒子を含んでもよいが、水性インク組成物中のすべての樹脂粒子のMFTが60℃未満であると、記録後に画像にベタツキが残り、画像部上に紙等を重ねた際にブロッキングが発生する。
本発明においては、MFTとしては、80〜150℃が好ましく、100〜130℃がより好ましい。MFTが150℃未満であると、加熱定着時の熱量が小さくてよいため、定着の省エネルギー化の点で好ましい。
【0068】
本発明における樹脂粒子としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性あるいは熱変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などのアニオン性基を有する樹脂の粒子が挙げられる。これらのうち、アニオン性のアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(アニオン性基含有アクリルモノマー)及び必要に応じて該アニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。前記アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン基からなる群より選ばれる1以上を有するアクリルモノマーが挙げられ、中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0069】
本発明における樹脂粒子としては、吐出安定性及び色材(特に顔料)を用いた場合の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性ポリマー粒子が好ましく、カルボキシル基を有する自己分散性ポリマー粒子がより好ましい。自己分散性ポリマー粒子とは、他の界面活性剤の不存在下に、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
【0070】
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルジョン)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、液体組成物としたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0071】
本発明における自己分散性ポリマー粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶剤を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0072】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和したときの溶解量である。
【0073】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の水溶性有機溶剤とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0074】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限はなく、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0075】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤あるいは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0076】
本発明における自己分散性ポリマー粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0077】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。
本発明において前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0078】
本発明における親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることがより好ましい。
解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0079】
不飽和カルボン酸モノマーとして具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとして具体的には、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸が特に好ましい。
【0080】
本発明における自己分散性ポリマー粒子は、自己分散性と水性処理液と接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価(mgKOH/g)が25〜100であるポリマーを含むことがより好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性と水性処理液と接触したときの凝集速度の観点から、25〜80であることがより好ましく、30〜65であることが特に好ましい。
特に、酸価は、25以上であると自己分散性の安定性が良好になり、100以下であると凝集性が向上する。
【0081】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。前記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0082】
本発明における芳香族基含有モノマーは、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
前記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0084】
本発明における自己分散性ポリマー粒子は、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
本発明においては、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15〜90質量%であることがより好ましく、15〜80質量%であることが更に好ましく、25〜70質量%であることが特に好ましい。
【0085】
本発明における自己分散性ポリマー粒子は、例えば、芳香族基含有モノマーに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0086】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、並びにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリルエステル系モノマー;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等、等の(メタ)アクリルアミド系モノマーが挙げられる。
【0087】
本発明における自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で、3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0088】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ2000(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用いて3本直列につなぎ、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なった。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製した。
【0089】
本発明における自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)を共重合比率として自己分散性ポリマー粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0090】
以下に、自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例として、例示化合物B−01〜B−19を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
【0091】
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
【0092】
本発明における自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行い、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶剤を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0093】
本発明における自己分散性ポリマー粒子は、凝集速度の観点から、有機溶剤中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が20〜100であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明における自己分散性ポリマー粒子の製造は、有機溶剤中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
【0094】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶剤、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶剤を除去する工程
【0095】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶剤に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶剤中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0096】
有機溶剤としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。
アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着がなく、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
【0097】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。本発明の自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えば、カルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散性ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0098】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0099】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性ポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶剤は実質的に除去されており、有機溶剤の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0100】
樹脂粒子(特に自己分散性ポリマー粒子)の平均粒子径は、体積平均粒子径で10〜400nmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましく、特に好ましくは10〜50nmの範囲である。10nm以上の平均粒子径であることで製造適性が向上する。また、400nm以下の平均粒径とすることで保存安定性が向上する。また、樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、樹脂粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0101】
樹脂粒子(特に自己分散性ポリマー粒子)の液体組成物中における含有量としては、画像の光沢性などの観点から、液体組成物に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
樹脂粒子(特に自己分散性ポリマー粒子)は、1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0102】
(水溶性有機溶剤)
本発明における水性インク組成物は、乾燥防止、浸水促進、粘度調整を目的に、水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。また、水溶性有機溶剤を含有することにより、インク組成物の樹脂粒子のMTFを低めに維持することができ、吐出性などを良好に保つことができる点でも好ましい。
【0103】
水性インク組成物を構成する水溶性有機溶剤としては、MFT25を下げてMFTとの温度差(MFT−MFT25)を50℃以上の範囲にする観点からは、本発明における水溶性処理液に含まれる水溶性有機溶剤について既述したのと同様に水溶性有機溶剤を選択することができる。
【0104】
また、必要に応じて、乾燥防止、浸透促進、粘度調整などを図る目的で、他の有機溶剤を含有してもよい。
有機溶剤を乾燥防止剤として用いる場合、インク組成物をインクジェット法で吐出して画像記録する際に、インク吐出口でのインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
【0105】
乾燥防止のためには、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。乾燥防止に好適な水溶性有機溶剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。中でも、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
【0106】
また、浸透促進のためには、インク組成物を記録媒体によりよく浸透させる目的で有機溶剤を用いてもよい。浸透促進に好適な有機溶剤の具体例として、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
また、水溶性有機溶剤は、上記以外にも粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、アセトニトリル、アセトンなど)が挙げられる。
【0107】
(水)
本発明における水性インク組成物は水を含有するが、水の量に特に制限はない。水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0108】
(その他の添加剤)
本発明における水性インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて、その他の添加剤を含むことができる。その他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物を調製後に直接添加してもよく、インク組成物の調製時に添加してもよい。
【0109】
インク組成物の表面張力は、20〜60mN/mが好ましく、20〜45mN/mがより好ましく、25〜40mN/mがさらに好ましい。一方、インクの付与をインクジェット法以外の方法で行なう場合には、20〜60mN/mの範囲が好ましく、30〜50mN/mの範囲がより好ましい。
インク組成物の表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用い、プレート法により25℃の条件下で測定されるものである。
【0110】
インク組成物の粘度としては、インクジェット法で吐出して付与する場合は、吐出安定性と処理液と接触したときの凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。また、インク組成物の付与をインクジェット法以外の方法により行なう場合は、1〜40mPa・sの範囲が好ましく、5〜20mPa・sの範囲がより好ましい。
インク組成物の粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて測定することができる。
【0111】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、既述の本発明における水性インク組成物をインクジェット法により記録媒体に付与して画像を記録する画像記録工程と、既述の本発明における水性処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程とを有する。
更に、画像の定着を向上させ良好な耐擦過性を実現する観点から、記録媒体に形成された画像に加熱面を接触させて定着させる加熱定着工程を有することができる。
【0112】
−記録媒体−
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体の上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる塗工紙であるコート紙又はアート紙を用いることができる。コート紙又はアート紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。
【0113】
これらの一般印刷用紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、比較的インクの吸収、乾燥が遅く、着滴後に色材移動が起こりやすく、画像の滲みや耐擦過性など画像品質上の問題を生じる。本発明のインクジェット記録方法では、画像の滲みや濃度ムラの発生が抑制されて均質な画像を記録できるとともに、耐擦過性も良好な画像を記録することができる。
【0114】
コート紙及びアート紙としては、一般に上市されているものを入手して使用できる。例えば、一般印刷用塗工紙を用いることができ、具体的には、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」、日本製紙(株)製の「オーロラコート」、「ユーライト」等のコート紙(A2、B2)、及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)などが挙げられる。
【0115】
−処理液付与工程−
本発明における処理液付与工程は、既述の本発明における水性処理液を記録媒体に付与する工程である。
【0116】
本発明のインクジェット記録方法においては、前記処理液付与工程と前記画像記録工程とのいずれを先行して行なってもよい。細線や微細な画像部分等をより精細にかつ均質に描画し、あるいはベタ記録など広範囲にインクを付与した際のムラ発生を極力低減して濃度均一性をより高めることにより画像品質及び耐擦過性をより向上させる観点からは、処理液付与工程後に画像記録工程を設けて記録する態様が好ましい。さらに、前記処理液付与工程は、記録媒体を紙とした場合、水性処理液を塗布により付与することが好ましく、紙全面に塗布することがより好ましい。
処理液付与工程後に画像記録工程を設けることにより、記録後のカールとカックル、及びインクハジキの発生に対する抑制効果も得られ、耐擦過性が良好な画像を記録することができる。
【0117】
本発明における処理液付与工程では、下記の式(I)により求められるΔV[ml/m]に対して−50%以上+30%以下となる量の水性処理液を、アート紙又はコート紙等の塗工紙に付与することが好ましい。
ΔV=Vi−Vr ・・・(I)
〔Vr:ブリストー法による液体吸収性測定で得られる塗工紙の粗さ指数[ml/m]、Vi:塗工紙における吸収係数の値が変化する屈曲店における転移量[ml/m]〕
【0118】
本発明においては、記録媒体としてアート紙又はコート紙等の塗工紙に、水性インク組成物と該水性インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含む水性処理液とを用いて画層記録する際に、塗工紙の紙表面から紙内部に吸収されていくときの吸収容量が時間経過で大きく変化する点(屈曲店)を考慮して水性処理液の量を選択し付与することで、凝集反応を効率的に利用し、画像定着を迅速に行なえる。これにより、表面荒れなど紙表面が変化して最終的な画像面を損なうことなく、細線や微細な画像部分等を精細にかつ均質に描画でき、ベタ記録など広範囲にインクを付与した際にはムラの発生を抑えて濃度均一性の高い画像を得ると共に、画像の光沢性、耐擦過性(紙との密着性による)も向上する。また、高濃度の画像記録が可能で、画像の色再現性も良好になる。
【0119】
ここで、ブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として利用されている方法であり、日本紙パルプ技術協会(J’TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細については、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.51「紙及び板紙の液体吸収性試験方法」(ブリストー法),紙パ技協誌41(8),57−61(1987)の記載を参照することができる。ここでは、上記に記載の試験装置(ブリストー試験機)を用いて、接触時間を経過させて測定し、測定時には、インクの表面張力に合わせてブリストー試験のヘッドボックススリット幅を調節する。また、紙の裏にインクがぬけてしまう点は計算から除外する。
【0120】
ブリストー法により求められるアート紙又はコート紙等の塗工紙の粗さ指数Vrは、接触時間0(ゼロ)に外挿した点であり、紙表面にある凹凸を埋めるのに必要な液体量を示す。Vrは、吸収に関係なく、塗工紙に特有の値であり、また、Vrは他の方法で測定した表面粗さと相関が高いことが知られている。
また、吸収係数は、水性処理液が時間の経過により吸収される割合を示し、液体吸収の速度に関係する。
塗工紙をブリストー法により測定すると、吸収係数が変化する屈曲点が存在する。吸収係数の値が変化する屈曲点とは、インクが塗工紙のコート層から内部層である原紙へ浸透し、ある吸収係数で浸透する際の浸透速度などの浸透挙動が変化する点、すなわち横軸に時間、縦軸にインク吸収量(転移量)をとって経過時間に対する転移量の関係を表したときに、ある時間経過時に転移量がそれまで以上に低下又は上昇して吸収線が屈曲する点をいう。
粗さ指数Vrと屈曲点におけるインクの転移量Viとから前記式(I)によって求められるΔVは、ほぼコート層の空隙のみに液体が吸収された量と考えられる。
【0121】
本発明においては、記録媒体である塗工紙のΔVに合わせて水性処理液の付与量を調整することが好ましい。具体的には、塗工紙のΔVの−50%以上+30%以下の範囲で水性処理液を付与する。中でも、−30%以上+20%以下の範囲で付与することが好ましい。本発明では、塗工紙の空隙を埋める観点から付与量が重要であり、水性処理液の濃度は目的等に応じて適宜選択すればよい。水性処理液に含まれる凝集剤の濃度については後述する。
水性処理液の付与量は、多ければ多いほど解像度は上がるが、あまり付与量が多すぎる(>ΔV+30%)と、紙表面に残って紙表面を荒らしてしまい、ベタ画像を記録した際にスジが目立つようになったり、光沢が低下する等で塗工紙の持つ風合いを大きく変えてしまう。また、水性処理液の付与量が少なすぎる(<ΔV−50%)と、原紙層に吸収され過ぎて凝集効率が低下し、画像の解像度が悪くなる。殊にΔV−70%より少ない付与量になると、極端に水性処理液とインクとの反応効率が落ちてしまう。
また、水性処理液の付与量については、0.5〜3.5ml/mの範囲が好ましい。
【0122】
水性処理液の紙上への付与は、公知の液体付与方法を特に制限なく用いることができ、スプレー塗布、塗布ローラー等による塗布、インクジェット方式による付与、浸漬などの任意の方法を選択することができる。
【0123】
具体的には、例えば、ホリゾンタルサイズプレス法、ロールコーター法、カレンダーサイズプレス法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるサイズプレス法;エアーナイフコーター法などに代表されるナイフコーター法;ゲートロールコーター法などのトランスファーロールコーター法、ダイレクトロールコーター法、リバースロールコーター法、スクイズロールコーター法などに代表されるロールコーター法;ビルブレードコーター法、ショートデュエルコーター法;ツーストリームコーター法などに代表されるブレードコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;ロッドバーコーター法などに代表されるバーコーター法;キャストコーター法;グラビアコーター法;カーテンコーター法;ダイコーター法;ブラシコーター法;転写法などが挙げられる。
【0124】
また、特開平10−230201号公報に記載の塗布装置のように、液量制限部材を備えた塗布装置を用いることで塗布量を制御して塗布する方法であってもよい。
【0125】
本発明においては、水性処理液を付与する領域は、記録媒体の記録面全体に付与する全面付与であっても、画像記録工程でインク組成物が着滴する領域に部分的に付与する部分付与であってもよい。本発明においては、水性処理液の付与量を均一に調整し、細線や微細な画像部分等を均質に記録し、画像ムラ等の濃度ムラを抑える観点から、塗布ローラー等を用いた塗布によって記録媒体の記録面全体に付与する全面付与が好ましい。
【0126】
本発明における既述の水性処理液に含まれる凝集剤の付与量としては、水性インクを安定化させるに足る量であれば特に制限はなく、記録媒体に付与した場合に0.25g/m以上であることが好ましく、水性インクを凝集により固定化しやすい点で、0.30g/m以上2.0g/m未満であることがより好ましく、0.40g/m以上1.0g/m未満であることが更に好ましい。
【0127】
前記凝集剤の付与量を前記範囲になるように制御して水性処理液を塗布する方法としては、例えば、アニロックスローラーを用いた方法が挙げられる。アニロックスローラーとは、セラミックが溶射されたローラー表面をレーザーで加工しピラミッド型や斜線、亀甲型などの形状を付したローラーである。このローラー表面に付けられた凹みの部分に水性処理液が入り込み、紙面と接触すると転写されて、アニロックスローラーの凹みで制御された塗布量にて塗布される。
【0128】
−乾燥除去工程−
本発明においては、処理液付与工程により水性処理液を付与した後に、水性処理液中に含まれる溶媒を乾燥除去する乾燥除去工程を設けることが好ましい。水性処理液の付与後に水性処理液中の溶媒を乾燥除去することで、カールやカックル、ハジキの発生をより効果的に抑制し、記録画像の耐擦過性をより向上させることができ、画像の記録をより良好に行なえる。
【0129】
乾燥除去工程は、水性処理液に含まれる溶媒(例えば、水、水溶性有機溶剤)の少なくとも一部を除去することができれば、特に制限はない。乾燥除去は、例えば、加熱、送風(乾燥風をあてる等)などによって乾燥させる方法により行なえる。
【0130】
−画像記録工程−
本発明における画像記録工程は、既述の本発明における水性インク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与する工程である。
【0131】
インクジェット法による画像記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の記録媒体にインク組成物を吐出し着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0132】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
なお、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0133】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
なお、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0134】
−加熱定着工程−
本発明においては、前記画像記録工程の後、インク組成物の着滴により形成されたインク画像に加熱面を接触させて定着する加熱定着工程を設けることが好ましい。加熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が良好になり、画像の耐擦過性をより向上させることができる。
【0135】
加熱は、画像中の樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)以上の温度で行なうことが好ましい。Tg以上に加熱されるので、皮膜化して画像が強化される。加熱温度は、70℃以上で行う。好ましくはTg+10℃以上の温度域が好ましい。具体的には、加熱温度は、70〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは70℃〜130℃の範囲であり、更に好ましくは70℃〜100℃の範囲である。
【0136】
加熱と共に加圧する際の圧力としては、表面平滑化の点で、0.1〜3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5MPaの範囲である。
【0137】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラー、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラーとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラー等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行なう方法が好適に挙げられる。
【0138】
加熱加圧する場合、好ましいニップ時間は、1ミリ秒〜10秒であり、より好ましくは2ミリ秒〜1秒であり、更に好ましくは4ミリ秒〜100ミリ秒である。また、好ましいニップ幅は、0.1mm〜100mmであり、より好ましくは0.5mm〜50mmであり、更に好ましくは1〜10mmである。
【0139】
前記加熱加圧ローラーとしては、金属製の金属ローラーでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層及び必要に応じて表面層(離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラーの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラー間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラーを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
【0140】
加熱加圧装置に用いられる加熱加圧ベルトを構成するベルト基材としては、シームレスのニッケル電鍮が好ましく、基材の厚さは10〜100μmが好ましい。また、ベルト基材の材質としては、ニッケル以外にもアルミニウム、鉄、ポリエチレン等を用いることができる。シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂を設ける場合は、これら樹脂を用いて形成される層の厚みは、1〜50μmが好ましく、更に好ましくは10〜30μmである。
【0141】
また、前記圧力(ニップ圧)を実現するには、例えば、加熱加圧ローラー等のローラー両端に、ニップ間隙を考慮して所望のニップ圧が得られるように、張力を有するバネ等の弾性部材を選択して設置すればよい。
【0142】
加熱加圧ローラー、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200〜700mm/秒の範囲が好ましく、より好ましくは300〜650mm/秒であり、更に好ましくは400〜600mm/秒である。
【0143】
−その他の工程−
本発明のインクジェット記録方法は、既述の処理液付与工程と画像記録工程に加え、必要に応じて、他の工程を設けて構成することができる。
【0144】
他の工程としては、特に制限はなく、例えば、アート紙又はコート紙に付与されたインク中の有機溶剤を乾燥除去するインク乾燥工程など、目的に応じて適宜選択することができる。
【0145】
前記インク乾燥工程は、既述の処理液付与工程の後に設けることができる乾燥除去工程と同様に構成することができ、インク中の溶剤の少なくとも一部を乾燥除去できる方法であれば特に制限はない。具体的には、画像部に対して加熱や送風(乾燥風の供給)などの一般に用いられる方法を適用して行なえる。このインク乾燥工程は、カールやカックルの発生抑制と画像の耐擦過性の観点から、画像記録工程の後に設けることが好ましい。
【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0147】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定した。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(いずれも東ソー(株)製の商品名)を用いて3本直列につなぎ、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いた。また、条件としては、試料濃度を0.45質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なった。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製した。
【0148】
(実施例1)
<水性インクの調製>
(ポリマー分散剤P−1の合成)
下記スキームにしたがって、以下に示すようにしてポリマー分散剤P−1を合成した。
【0149】
【化1】

【0150】
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤P−1を96g得た。得られた樹脂の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44,600であった。さらに、JIS規格(JIS K0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。
【0151】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製)
ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル−A220、大日精化(株)製;シアン顔料)10部と、前記ポリマー分散剤P−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1規定 NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心菅を使用し、8000rpmで30分間遠心処理を行ない、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Cを得た。
【0152】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Mの調製)
樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製において、ピグメント・ブルー15:3(シアン顔料)の代わりに、ピグメント・レッド122(マゼンタ顔料)を用いた以外は、樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Mを調製した。
【0153】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Yの調製)
樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製において、ピグメント・ブルー15:3(シアン顔料)の代わりに、ピグメント・イエロー74(イエロー顔料)を用いたこと以外は、樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Yを調製した。
【0154】
(樹脂被覆顔料粒子の分散物Kの調製)
樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製において、ピグメント・ブルー15:3(シアン顔料)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製のNIPEX160-IQ;黒色顔料)を用いたこと以外は、樹脂被覆顔料粒子の分散物Cの調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物Kを調製した。
【0155】
(自己分散性ポリマー微粒子の調製)
−合成例1−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。これにメチルメタクリレート180g、メトキシエチルアクリレート32.4g、ベンジルメタクリレート126.0g、メタクリル酸21.6g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、さらに「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温してさらに2時間攪拌を続け、メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=50/9/35/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
【0156】
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は、66,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であった。
【0157】
次に、得られた樹脂溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1モル/LのNaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子(B−01)の水分散物B−01Lxを得た。
【0158】
得られた水分散物B−01LxのMFT、及び自己分散ポリマー微粒子(B−01)のMFT25について、下記の方法により測定した。測定値は下記表2に示す。
(1)MFT(水分散物中でのMFT):YOSHIMITU SEIKI社製のMFT測定機を用いて測定した。具体的には、得られた各水分散物を25質量%液に調整し、これをPETフィルム(64cm×18cm)上に塗布膜の厚みが300μmとなるように長さ50cm×幅3cmでブレード塗布した後、PETフィルムの裏側から加熱して塗布膜に12℃〜65℃までの温度勾配をかけ、20℃、22%RHの環境下で4時間乾燥させた。このとき、白い粉状の析出物が生じた温度と透明な膜が形成された温度との境界温度[℃]を測定し、最低造膜温度(MFT)とした。
(2)MFT25(水溶性有機溶剤を25質量%含有するMFT):前記(1)MFTの測定方法において、自己分散ポリマー微粒子(B−01)25質量%(固形分)、表2に記載の各インクに用いた溶剤(総量)6.25質量%、及び水68.75質量%の水溶液を調製し、これを水分散物に代えて用いたこと以外は、前記(1)MFTと同様の方法で測定を行ない、MFTを求めた。
【0159】
−合成例2−
前記合成例1の自己分散性ポリマー微粒子(B−01)の合成において、メチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、ベンジルメタクリレート、及びメタクリル酸の割合を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=55/4/35/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得ると共に、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子(B−02)の水分散物B−02Lxを得た。
【0160】
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は、77,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であった。また、得られた水分散物B−02LxのMFT、及び自己分散ポリマー微粒子(B−02)のMFT25について、前記同様の方法により測定を行なった。測定値は下記表2に示す。
【0161】
−合成例3−
前記合成例1の自己分散性ポリマー微粒子(B−01)の合成において、メチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、ベンジルメタクリレート、及びメタクリル酸の割合を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=39/20/35/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得ると共に、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子(B−03)の水分散物B−03Lxを得た。
【0162】
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は、70,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であった。また、得られた水分散物B−03LxのMFT、及び自己分散ポリマー微粒子(B−03)のMFT25について、前記同様の方法により測定を行なった。測定値は下記表2に示す。
【0163】
−合成例4−
前記合成例1の自己分散性ポリマー微粒子(B−01)の合成において、メチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、ベンジルメタクリレート、及びメタクリル酸の割合を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸(=44/15/35/6[質量比])共重合体の樹脂溶液を得ると共に、固形分濃度28.0%の自己分散ポリマー微粒子(B−04)の水分散物B−04Lxを得た。
【0164】
得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は、77,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であった。また、得られた水分散物B−04LxのMFT、及び自己分散ポリマー微粒子(B−04)のMFT25について、前記同様の方法により測定を行なった。測定値は下記表2に示す。
【0165】
−水性インクの調製−
上記で得られた顔料粒子の分散物(シアンの分散物C、マゼンタの分散物M、イエローの分散物Y、ブラックの分散物K)、自己分散性ポリマー微粒子(B−01)の分散物B−01Lx、自己分散性ポリマー微粒子(B−02)の分散物B−02Lx、自己分散性ポリマー微粒子(B−03)の分散物B−03Lx、及び自己分散性ポリマー微粒子(B−04)の分散物B−04Lxを用いて、下記のインク組成となるように各成分を混合し、各色の水性インクを調液した。得られた水性インクは、プラスチック製のディスポーザブルシリンジに詰め、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の孔径5μmフィルタ(ミリポア社製のMillex−SV、直径25mm)にて濾過して完成インクとした。
【0166】
(シアンインクC−1の組成)
・シアン顔料(ピグメント・ブルー15:3) :4質量%
・前記ポリマー分散剤P−1(固形分) :2質量%
・前記自己分散性ポリマー微粒子B−01の水分散物B−01Lx(固形分):4質量%
・グリセリン(水溶性有機溶剤) :8質量%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME) :8質量%
(和光純薬工業(株)製、水溶性有機溶剤)
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤) :1質量%
・イオン交換水 :73質量%
【0167】
(シアンインクC−2の組成)
前記インクC−1の組成中の自己分散性ポリマー微粒子B−01の水分散物B−01Lxを、前記自己分散性ポリマー微粒子B−02の水分散物B−02Lxに代えたこと以外は、シアンインクC−1と同様の組成とした。
【0168】
(シアンインクC−3の組成)
前記インクC−1の組成中の自己分散性ポリマー微粒子B−01の水分散物B−01Lxを、前記自己分散性ポリマー微粒子B−03の水分散物B−03Lxに代えたこと以外は、シアンインクC−1と同様の組成とした。
【0169】
(シアンインクC−4の組成)
前記インクC−1の組成中の自己分散性ポリマー微粒子B−01の水分散物B−01Lxを、前記自己分散性ポリマー微粒子B−04の水分散物B−04Lxに代えたこと以外は、シアンインクC−1と同様の組成とした。
【0170】
(マゼンタインクM−1の組成)
前記インクC−1の組成中のシアン顔料を、顔料の量が同量になるようにマゼンタ顔料(ピグメント・レッド122)に代えたこと以外は、シアンインクC−1と同様の組成とした。
【0171】
(イエローインクY−1の組成)
前記インクC−1の組成中のシアン顔料を、顔料の量が同量になるようにイエロー顔料(ピグメント・イエロー74)に代えたこと以外は、シアンインクC−1と同様の組成とした。
【0172】
(ブラックインクK−1の組成)
前記インクC−1の組成中のシアン顔料を、顔料の量が同量になるようにブラック顔料(カーボンブラック)に代えたこと以外は、シアンインクC−1と同様の組成とした。
【0173】
上記で得た各水性インクの表面張力、粘度、体積平均粒子径、及びpHを測定した。物性値を下記表1に示す。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用いて、白金プレートを用いたウィルヘルミ法により25℃の条件下で測定した。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて30℃の条件下で測定した。
体積平均粒子径は、得られた水性インクを測定に適した濃度に希釈し、超微粒子粘度分布測定装置ナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)を用い、動的光散乱法により各水性インクをすべて同一測定条件で測定した。
pHは、東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGを用い、水性インクを原液のまま25℃にて測定した。
【0174】
【表1】

【0175】
<水性処理液の調製>
下記のようにして、処理液A〜Hを調製した。なお、表面張力、粘度、及びpHの測定は上記と同様の方法により測定した。
−処理液Aの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Aを調製した。処理液Aの物性値は、表面張力37.5、粘度3.8、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・サンニックスGP250 :20.0質量%
(三洋化成工業(株)製、水溶性有機溶剤)
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0176】
−処理液Bの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Bを調製した。処理液Bの物性値は、表面張力37.5、粘度3.2、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME) :20.0質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0177】
−処理液Cの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Cを調製した。処理液Cの物性値は、表面張力37.5、粘度3.0、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE) :20.0質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0178】
−処理液Dの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Dを調製した。処理液Dの物性値は、表面張力37.5、粘度2.8、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE) :20.0質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0179】
−処理液Eの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Eを調製した。処理液Eの物性値は、表面張力37.5、粘度3.2、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・サンニックスGP250 :13.3質量
(三洋化成工業(株)製、親水性有機溶剤)
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGmME) : 6.7質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0180】
−処理液Fの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Fを調製した。処理液Fの物性値は、表面張力37.5、粘度2.6、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DEGmME) :20.0質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0181】
−処理液Gの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Gを調製した。処理液Gの物性値は、表面張力37.5、粘度3.2、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・グリセリン :20.0質量%
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0182】
−処理液Hの調製−
下記組成となるように各成分を混合し、処理液Hを調整した。処理液Hの物性値は、表面張力37.5、粘度3.8、pH1.2であった。
・マロン酸(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製) :25.0質量%
・サンニックスGP400 :20.0質量%
(三洋化成工業(株)製、水溶性有機溶剤)
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム(界面活性剤) : 1.0質量%
・イオン交換水 :54.0質量%
【0183】
<画像記録及び評価>
以下に示すように、画像を記録すると共に、評価を行なった。評価結果は下記表2に示す。
【0184】
−画像記録−
記録媒体として、下記表2に示すように、ユーライト(坪量104.7g/m)、特菱アート(坪量104.7g/m)、OKトップコート+(坪量104.7g/m)を用意し、下記表2に示すように水性処理液の種類、付与量等を変更して、以下に示す方法で画像を記録した。
【0185】
[打滴方式]
水性インクとして、上記で得られたシアン顔料インクC、マゼンタ顔料インクM、イエロー顔料インクY、黒顔料インクKを用い、下記表2に示す水性処理液と共に用いて、4色シングルパス記録によりライン画像とベタ画像の記録を実施した。このとき、ライン画像は、1200dpiの1ドット幅のライン、2ドット幅のライン、4ドット幅のラインをシングルパスで主走査方向に吐出することにより記録し、ベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面に水性インクを吐出することによりベタ記録した。なお、記録する際の諸条件は下記の通りである。
【0186】
[記録]
(1)処理液付与工程
まず、記録媒体の記録面側の全面に、アニロックスローラー(線数100〜300/インチ)で塗布量が制御されたロールコーターにて、付与量が下記表2に示す値になるように処理液を塗布した。
【0187】
(2)乾燥除去工程
次いで、下記条件にて処理液が塗布された記録媒体を乾燥した。
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱
・送風領域:450mm(乾燥時間0.7秒)
【0188】
(3)画像記録工程
その後、水性処理液が塗布された記録媒体の塗布面(記録面)に下記条件にて水性インクをインクジェット法で吐出し、ライン画像、ベタ画像を記録した。
・ヘッド:1200dpi/20inch幅のピエゾフルラインヘッドを4色分配置
・吐出液滴量:0pL、2.0pL、3.5pL、4.0pLの4値記録
・駆動周波数:30kHz(記録媒体の搬送速度635mm/sec)
【0189】
(4)インク乾燥工程
次いで、水性インクが付与された記録媒体を下記条件で乾燥した。
・乾燥方法:送風乾燥
・風速:15m/s
・温度:記録媒体の記録面側の表面温度が60℃となるように、記録媒体の記録面の反対側(背面側)から接触型平面ヒーターで加熱
・送風領域:640mm(乾燥時間:1秒間)
【0190】
(5)定着工程
次に、下記条件でローラ対を通過させることにより加熱定着処理を実施した。
・シリコンゴムローラ(硬度50°、ニップ幅5mm)
・ローラ温度:表2に示す定着温度
・圧力:0.8MPa
【0191】
上記の方法で記録したライン画像、ベタ画像に対して下記の評価を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0192】
−濃度ムラ−
マゼンタ顔料インクMによるベタ画像上にシアン顔料インクCをベタ記録したときの均一画像部を目視にて観察し、濃度ムラの程度を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:ムラが見られず、ベタ部の濃度は均一であった。
B:一部に僅かにムラが見られたが、実用上問題ないレベルであった。
C:ムラが発生し、実用上許容限界レベルであった。
D:ムラの発生が顕著であり、実用性の極めて低いレベルであった。
【0193】
−耐擦過性−
ベタ画像が記録された記録媒体の2cm四方のベタ部を記録直後、記録していない記録媒体(記録に用いたものと同じ記録媒体(以下、本評価において未使用サンプルという。))を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦り、未使用サンプルの白地部分へのインクの転写度合いを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:インクの転写は全くなかった。
B:インクの転写はほとんど目立たなかった。
C:インクの転写が多少見られ、実用上許容限界レベルであった。
D:インクの転写が顕著で、実用性の極めて低いレベルであった。
【0194】
−耐ブロッキング性−
マゼンタ顔料インクMによるベタ画像上にシアン顔料インクCをベタ記録したときの均一画像部を3.5cm×4cmのサイズに裁断し、10cm×10cmのアクリル板の上に記録面を上方に向けて評価サンプルを載せ、更にこの評価サンプルの上に、同じ様に記録したサンプルを記録面同士を重ね合わせるように載せ、更に10cm×10cmのアクリル板を載せ、55℃、40%RHの環境条件下で10時間放置した。放置後、最上部のアクリル板の上に1kgの分銅を載せて更に24時間放置した(加重700kg/mに相当)。更に、25℃、50%RHの環境条件下で2時間保管した後、評価サンプルを剥がした。このときの剥がれ易さ及び剥がした後の色移りを目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:自然に剥がれ、互いの紙への色移りもみられなかった。
B:くっつきが生じ、互いの紙への色移りが多少みられた。
C:くっつきが強く、互いの紙へ多く色移りし、実用性の極めて低いレベルであった。
【0195】
【表2】

【0196】
前記表2に示すように、本発明の水性処理液ではいずれも、ブロッキングの発生を抑えつつ、省熱エネルギーで耐擦過性の良好な画像が得られた。また、濃度ムラの発生も抑制されていた。これに対し、比較例では、耐ブロッキング性と耐擦過性とを両立することは困難であり、特に耐擦過性は不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、水分散物としたときの最低造膜温度(MFT)が60℃以上の樹脂粒子と、水とを含む水性インク組成物と、
前記樹脂粒子固形分に対して25質量%の量の水溶性有機溶剤及び水と混合した混合液としたときの前記樹脂粒子の最低造膜温度(MFT25)が前記水分散物中におけるMFTより50℃以上低くなる前記水溶性有機溶剤と、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤と、水とを含む水性処理液と、
を含むインクジェット記録用インクセット。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤の少なくとも1種は、アルキレンオキシアルコールであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤の101.3kPaにおける沸点が、230℃以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項5】
前記水溶性有機溶剤のSP値が、27.5以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項6】
前記凝集剤が、2価以上の酸性化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項7】
前記樹脂粒子が、アクリル系樹脂粒子であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項8】
前記樹脂粒子が、自己分散性ポリマー粒子であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項9】
前記色材が、顔料であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項10】
前記色材が、ポリマー分散剤で被覆された顔料であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インクセットを用いると共に、
水性インク組成物を記録媒体にインクジェット法で付与して画像を記録する画像記録工程と、
水性処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、
を有するインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記記録媒体が塗工紙であって、前記処理液付与工程は、塗工紙に、ブリストー法による液体吸収性測定で得られる前記塗工紙の粗さ指数Vrと吸収係数の値が変化する屈曲点における転移量ViとからΔV = Vi−Vrにより求められるΔV[ml/m]に対して−50%以上+30%以下となる量の前記水性処理液を付与することを特徴とする請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記処理液付与工程は、塗布により前記水性処理液を記録媒体に付与することを特徴とする請求項11又は請求項12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
更に、前記水性インク組成物の付与により形成されたインク画像に加熱面を接触させて加熱定着する定着工程を有することを特徴とする請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記加熱面の温度が、70〜100℃であることを特徴とする請求項14に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2010−173314(P2010−173314A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21906(P2009−21906)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】