説明

インクジェット記録用インク及びインクジェット記録装置

【課題】予め定められた着色剤組成のインクが充填された所定のインクカートリッジがインクジェット記録装置に装着されているか否かを、簡便に識別できるようにする。
【解決手段】発色用の第1の着色剤と検出用の第2の着色剤とを含有するインクジェット記録用インクは、第1の着色剤が染料で第2の着色剤が染料又は顔料である。第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長とは互いに異なる波長である。第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)は、該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長におけるベースライン吸光度(c)の1.2倍以上である。インクジェット記録用インクと、そのインクから該第2の着色剤を除いて調製したインクとの色差(ΔE)は、3以下である。第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度は、測定光路長1mm換算において0.001〜5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式では、静電吸引式、電気−機械変換式、電気−熱変換式等の種々のインク吐出方式により、通常、イエロー、マゼンタ、シアン、更にブラックの各色のインクの小滴を紙等の被記録材に対して微細ノズルから噴射して付着させ、被記録材上でインクドットを形成して記録を行う。このようなインクジェット記録方式においては、被記録材表面でそれらのインクを画像情報に基づいて混合することにより様々な色を表現する。従って、意図したフルカラー記録を行うためには、インクジェット記録装置に予め定められた色のインクが充填された所定のインクカートリッジを装着する必要がある。
【0003】
また、そのようなインクカートリッジに充填するインクとして、本来充填すべきインク
と同色ではあるが、染料組成が異なるインクを使用した場合、微細なノズル内で固化又は
析出が生じ、正常な印刷ができなくなることがある。従って、インクジェット記録装置に
おいて、予め定められた染料組成のインクが充填された所定のインクカートリッジが装着
されているか否かを識別できるようにすることが要請されている。
【0004】
ところで、インクジェット記録用インクに使用されている発色用の染料は、特定の波長の光のみを吸収し、それ以外の波長の光を透過させる性質を有している。そこで、上述した要請に対し、発色用の染料の最大吸収ピーク波長の光をインクに照射することでインクの種類を識別することが試みられている。しかし、インクジェット記録用インクに発色用の染料の最大吸収ピーク波長の光を照射しても、インク中の染料濃度が非常に高いため、そのような波長の光はほとんどインクを透過しない。従って、発色用の染料の最大吸収ピーク波長の光をインクに照射するという方法でインクの種別を正確に識別するには、適正な濃度までインクを水等の溶媒で希釈する必要がある。しかし、インクジェット記録装置内で、このような方法を利用してインクの種別を簡便に識別することは、非常に困難であった。
【0005】
そのため、従来は、予め所定の色のインクカートリッジをインクジェット記録装置の所定の位置に目視で確認しながら装着することや、インクカートリッジにICチップを取り付け、インクジェット記録装置の本体側で読取ることで、挿入されているインクカートリッジの色と位置を認識していた(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−192810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、予め所定の色のインクカートリッジを目視で確認しながらインクジェット記録装置の所定の位置に装着した場合、インクカートリッジに充填されているインクが適正であるか否かということまでは判断できない。また、特許文献1に開示の手法の場合、特定のインクに対して専用のインクカートリッジを使用する必要があり、インクカートリッジのコストアップや管理が煩雑である点で問題があった。この場合も、インクカートリッジに充填されているインクが適正であるか否かということまでは判断できない。
【0008】
本発明は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、予め定められた色のインクが充填された所定のインクカートリッジがインクジェット記録装置に装着されているか否かを、簡便に識別できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、インクジェット記録用インクに、発色用の着色剤として染料を使用し、その染料に加えて、発色用の着色剤の最大吸収ピーク波長と実質的に重ならない吸収ピーク波長を示し、且つインクの発色には実質的には関与せず、発色用の着色剤に比べて相対的に低い吸光度を示す検出用の着色剤(染料又は顔料)を併用した場合、検出用の着色剤の吸収ピーク波長の光を照射すると、発色用の着色剤により吸収されることがないため、検出用の着色剤の有無を容易に検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、発色用の第1の着色剤と検出用の第2の着色剤とを含有するインクジェット記録用インクであって、
該第1の着色剤が染料であり、第2の着色剤が染料又は顔料であり、
該第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長とが互いに異なる波長であり、
該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)が、該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長におけるベースライン吸光度(c)の1.2倍以上であり、
該インクジェット記録用インクと、そのインクから該第2の着色剤を除いて調製したインクとの色差(ΔE)が、3以下であり、且つ
該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)が、測定光路長1mm換算で0.001〜5である
ことを特徴とするインクジェット記録用インクを提供する。
【0011】
また、本発明は、このインクジェット記録用インクを充填したインクカートリッジを着脱自在に搭載し、該第2の着色剤を検出するための光センサーを内蔵するインクジェット記録装置を提供する。ここで、光センサーが2波長以上の光を認識できることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインクジェット記録用インクは、発色用の着色剤として染料を使用し、その染料に加えて、インクの発色には実質的には関与しない検出用の着色剤(染料又は顔料)を併用している。この検出用の着色剤は、発色用の着色剤の最大吸収ピーク波長とは異なる吸収ピーク波長を示し、且つ発色用の着色剤に比べて相対的に低い吸光度を示す。従って、インクジェット記録用インクに、検出用の着色剤の吸収ピーク波長の光を照射した場合、発色用の着色剤の強い影響を受けないため、インク中における検出用の着色剤の有無を検出できる。よって、検出用の着色剤の有無を検出し、実際に検出できた場合には、予め定められた着色剤組成のインクが充填された所定のインクカートリッジがインクジェット記録装置に装着されていると判断でき、逆に、検出できなかった場合には、予め定められた着色剤組成のインクが充填された所定のインクカートリッジがインクジェット記録装置に装着されていないと判断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のインクジェット記録用インクは、発色用の第1の着色剤と検出用の第2の着色剤とを含有する。本発明においては、図1Aに示すように、第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と第2の着色剤の検出吸収ピーク波長とが異なっている。この場合、第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と第2の着色剤の検出吸収ピーク波長とは、赤外線領域、可視光領域(即ち、360nm〜780nm)あるいは紫外線領域のいずれに存在してもよいが、可視光領域に存在することが好ましい。
【0014】
また、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長の吸光度(b)は、図1Bに示すように、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長におけるベースライン吸光度(c)の1.2倍以上となることが必要であり、1.5倍以上となることが好ましい。吸光度(b)がベースライン吸光度(c)の1.2倍未満であると、第2の着色剤を充分に検知できなくなる傾向があるからである。ここで、ベースライン吸光度(c)とは、吸光度曲線において、第2の着色剤の検出吸収ピークのピークの立ち上がり開始点と終了点の2点を結んだ直線をベースラインとし、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長でのベースラインにおける吸光度を意味する。または、ベースライン吸光度(c)とは、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長での、インクジェット記録用インクから検出用の第2の着色剤を除いた液体の吸光度でもある。
【0015】
また、本発明のインクジェット記録用インクにおいては、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)が、測定光路長1mm換算且つインク原液換算(希釈して測定した場合)した場合に0.001〜5となるようにする必要がある。好ましくは0.01〜3となるようにする。これは、0.001を下回ると着色剤自体の吸収が減少して、検出吸収ピークの検出が難しくなり、5を超えると光がインクジェット記録用インクを透過しなくなるからである。ここで、測定光路長1mm換算とは、例えば、測定光路長10mmであれば、そのときの吸光度の実測値を1/10にするということであり、測定光路長5mmであれば、そのときの吸光度の実測値を1/5にするという意味である。また、インク原液換算とは、希釈して測定した吸光度の実測値に希釈倍率を乗じることである。例えば、インク原液を1000倍希釈して測定したのであれば、そのときの吸光度の実測値に希釈倍率である1000を乗じることであり、インク原液を1600倍希釈して測定したのであれば、そのときの吸光度の実測値に希釈倍率である1600を乗じるという意味である。
【0016】
本発明のインクジェット記録用インクにおいて、第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と第2の着色剤の検出吸収ピーク波長とが異なっている程度は、インクの吸光度曲線における第1の着色剤の光吸収領域から、完全に離れた位置に第2の着色剤の検出吸収ピーク波長が存在することが好ましいが、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長が検出できるのであれば、第1の着色剤の光収吸曲線のショルダーに、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長が位置してもよい。具体的には、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長が、第1の着色剤の最大吸収ピーク波長から、少なくとも50nm離れていることが好ましい。
【0017】
また、本発明のインクジェット記録用インクにおいて、第2の着色剤の検出吸収ピークは、第2の着色剤の検出吸収ピークが検出できるのであれば、第2の着色剤の最大吸収ピークと同一のピークであっても、異なったピークであってもよい。
【0018】
また、本発明のインクジェット記録用インクにおいて、第2の着色剤は発色用ではなく検出用に用いられているが、インクジェット記録用インクの発色に実質的に影響を与えないものであることが望まれる。この影響を与えないレベルは、検出用の第2の着色剤を含有する本発明のインクジェット記録用インクと、そのインクから第2の着色剤を除いて調製した比較インクとの色差(ΔE)で評価することができ、色差が大きすぎると意図したインクの色味を実現できなくなるので、その色差(ΔE)が3以下となるようにする必要がある(色差の測定は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化されたL表色系(CIE1976(L)表色系)又はJIS Z8729参照)。
【0019】
なお、本発明のインクジェット記録用インクにおいては、第1の着色剤の最大吸収ピーク波長における吸光度(a)と、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長の吸光度(b)とが、好ましくは式(1)、より好ましくは式(2)を満足する関係にある。これは、“a/b”が小さすぎると、色差(ΔE)が大きくなる傾向があり、大きすぎると第2の着色剤を充分に検知できなくなる傾向があるからである。
【0020】
【数1】

【0021】
上述したような第1の着色剤と第2の着色剤の好ましい組み合わせの例を以下に示す。なお、第1の着色剤及び第2の着色剤は、それぞれ単一の着色剤を使用してもよいが、2以上の着色剤を併用してもよい。ここで、第1の着色剤において2以上の着色剤を併用した場合の最大吸収ピーク波長とは、各着色剤の最大吸収ピーク波長の中で、最も吸収が大きいピーク波長を意味する。また、第2の着色剤において2以上の着色剤を併用した場合の検出吸収ピーク波長とは、前述で規定した吸光度(b)及び(c)において所定の関係が満たされる限り、任意に選択することができる。
【0022】
(インクジェット記録用イエローインクの場合)
第1の着色剤が360〜450nmの波長範囲内に最大吸収ピーク波長を示す染料(例えば、C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132等)であり、第2の着色剤が550〜780nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する染料(例えば、C.I.ダイレクトブルー199、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー175等)又は第2の着色剤が550〜780nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する顔料(例えば、CAB−O−JET(登録商標)250C、CAB−O−JET(登録商標)554B、CAB−O−JET(登録商標)1027R等)である組み合わせ。
【0023】
(インクジェット記録用マゼンタインクの場合)
第1の着色剤が500〜570nmの波長範囲内に最大吸収ピーク波長を示す染料(例えば、C.I.ダイレクトレッド227等)であり、第2の着色剤が600〜780nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する染料(例えば、C.I.ダイレクトブルー199、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー175等)又は第2の着色剤が600〜780nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する顔料(例えば、CAB−O−JET(登録商標)250C、CAB−O−JET(登録商標)554B等)である組み合わせ。
【0024】
(インクジェット記録用シアンインクの場合)
第1の着色剤が570〜780nmの波長範囲内に最大吸収ピーク波長を示す染料(例えば、C.I.ダイレクトブルー199等)であり、第2の着色剤が450〜500nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する染料(例えば、C.I.アシッドオレンジ122、C.I.アシッドオレンジ80等)又は第2の着色剤が450〜500nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する顔料(例えば、C.I.ピグメントオレンジ71等)である組み合わせ。
【0025】
なお、本発明のインクジェット記録用インク中の前述の第1の着色剤及び第2の着色剤のそれぞれの含有量は、吸光度(b)が上述の所定の数値であり、吸光度(b)と(c)とが所定の関係を満たしており(好ましくは吸光度(a)、(b)及び(c)が所定の関係を満たしており)、且つ検出用の第2の着色剤を含有する本発明のインクジェット記録用インクと、そのインクから第2の着色剤を除いて調製した比較インクとの色差(ΔE)が3以下であることを前提とし、前者(即ち、第1の着色剤)が一般的には0.1〜15重量%、好ましくは0.3〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%であり、後者(即ち、第2の着色剤)が一般的には0.00003〜0.3重量%、好ましくは0.0001〜0.04重量%である。
【0026】
本発明のインクジェット記録用インクは、第1の着色剤と第2の着色剤に加えて、溶媒として、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を含有することが好ましい。
【0027】
水としては、脱イオン水を使用することが好ましい。本発明のインクジェット記録用インクにおける水の含有量は、上記水溶性有機溶媒の種類や組成、所望のインク特性に応じて広い範囲で決定されるが、本発明のインクジェット記録用インク全量に対して、一般に10〜95重量%、好ましくは40〜80重量%である。
【0028】
水溶性有機溶媒は、主としてインクジェットヘッドの先端部におけるインクの乾燥防止効果を有する湿潤剤と、紙面上での乾燥速度を速くする浸透剤とに分類される。
【0029】
上記湿潤剤としては特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコール;グリセリン;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を挙げることができる。なかでも、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好適である。また、これらの湿潤剤は、単独又は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0030】
湿潤剤の本発明のインクジェット記録用インクにおける含有量は、本発明のインクジェット記録用インク全量に対して、一般には0〜95重量%、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは10〜50重量%である。
【0031】
上記浸透剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル等のグリコール系エーテルを挙げることができる。また、これらの浸透剤は、単独又は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0032】
浸透剤の本発明のインクジェット記録用インクにおける含有量は、含有量が過剰であると、インクの紙への浸透性が高くなりすぎて滲みの原因となってしまうことがあるので、本発明のインクジェット記録用インク全量に対して、一般には0〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0033】
本発明のインクジェット記録用インクは、更に必要に応じて、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。上記粘度調整剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース類、水溶性樹脂等を挙げることができる。
【0034】
本発明のインクジェット記録用インクは、第1の着色剤と第2の着色剤と、水や水溶性有機溶剤等の他の添加成分とを、均一に混合し、フィルターで不溶解物を除去することにより調製することができる。
【0035】
以上説明した本発明のインクジェット記録用インクを、インクカートリッジに充填し、そのインクカートリッジを、第2の着色剤を検出するための光センサーを内蔵するインクジェット記録装置に着脱自在に搭載することにより、適正インクが充填されているインクカートリッジであるか否かが容易に判別可能となる。インクカートリッジとしては、公知のものを利用することができる(例えば、特開2002−292890号公報参照)。また、光センサーとしても、公知の光センサーを利用することができる(例えば、特開2004−181674号公報、特開平7−232440号公報)。この場合、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長の光を発する公知の光源(例えば、特開2004−181674号公報、特開平7−232440号公報)をインクジェット記録装置に内蔵させることが好ましい。なお、光センサーとして、2波長以上の光を認識可能なセンサーを使用することが好ましい。1波長の吸収の測定では、インク濃度の影響を受けたり、異なる成分が混入した際に影響を受け易いため、2波長(1光源)の強度差を測定することで、検知精度を向上させることが可能である。
【0036】
以上説明した、本発明のインクジェット記録用インクを用いたインクジェット記録装置本体の概略構成を示す斜視図を図2に示す。このインクジェット記録装置1は、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの4色のカラーインクがそれぞれ充填されるインクカートリッジ2と、記録紙等の被記録材Pに印字するためのインクジェットヘッド3を備えるヘッドユニット4と、インクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載されるキャリッジ5と、このキャリッジ5を直線方向に往復移動させる駆動ユニット6と、キャリッジ5の往復移動方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されるプラテンローラ7と、パージ装置8とを備えている。また、インクカートリッジ2からインクジェットヘッド3のノズルまでの間の各インク流路のインクに対し、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長の光を照射する光源と、インクを透過した光を受光する光センサーとを備えている。例えば、インクカートリッジがキャリッジに直接搭載される図2のインクジェット記録装置の場合、キャリッジ5の内部又はキャリッジ5の対面側の側面に光センサーを設け、リセット位置に光源を設置すればよい。図示してはいないが、インクカートリッジからインクジェットヘッドへインクがチューブで供給されるインクジェット記録装置の場合には、光センサーをインクカートリッジ、インク流路、ヘッド内のノズル手前に設置し、好ましくはカートリッジに設置し、それに対応する適当な位置に光源を設置すればよい。
【0037】
ヘッドユニット4の載置部4a上には、載置部4aの両側に形成された一対のサイドカバー4bとの間に、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクが充填された4つのインクカートリッジ2が装着される。
【0038】
駆動ユニット6は、キャリッジ5の下端部に配置されプラテンローラ7と平行に延びるキャリッジ軸9と、キャリッジ5の上端部に配置されキャリッジ軸9に平行に延びるガイド板10と、そのキャリッジ軸9とガイド板10との間であって、キャリッジ軸9の両端部に配置される2つのプーリ11及び12と、これらのプーリ11及び12の間に掛け渡されるエンドレスベルト13とからなる。
【0039】
そして、一方のプーリ11が、キャリッジモータ101の駆動により正逆回転されると、そのプーリ11の正逆回転に伴って、エンドレスベルト13に接合されているキャリッジ5が、キャリッジ軸9及びガイド板10に沿って、直線方向に往復移動される。
【0040】
被記録材Pは、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙され、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入されて、インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の印字がなされ、その後、排紙される。なお、図2においては、被記録材Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0041】
パージ装置8は、プラテンローラ7の側方に設けられ、ヘッドユニット4がリセット位置にある時に、インクジェットヘッド3に対向するように配置されている。このパージ装置8は、インクジェットヘッド3の複数のノズル(図示せず)を覆うように当該ノズルの開口面に対し当接するパージキャップ14と、ポンプ15及びカム16と、インク貯留部17とを備えており、ヘッドユニット4が、リセット位置にある時に、インクジェットヘッド3のノズルをパージキャップ14で覆い、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを、カム16の駆動によりポンプ15によって吸引することにより、インクジェットヘッド3の回復を図るようにしている。なお、吸引された不良インクは、インク貯留部17に貯められる。
【0042】
パージ装置8におけるプラテンローラ7側の位置には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。このワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、印字が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0043】
このインクジェット記録装置においては、インクカートリッジ2からインクジェットヘッド3のノズルまでの間の各インク流路のインクに対し、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長の光を照射する光源から光を照射し、インクを透過した光を光センサーで受光する。そして、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長において、べースライン吸光度を超える吸光度を示す吸収ピークを検出し、その入射光強度と透過光強度の比を取ることができる。従って、インク中に第2の着色剤の存在を確認することができ、適正なインクが充填されたインクカートリッジがインクジェット記録装置に装着されていることを判別することが可能となる。
【実施例】
【0044】
実施例Y1〜Y9、比較例Y1〜Y6
表1及び表2のインク組成を混合攪拌後、着色剤として顔料を使用していないインク組成(表1)については孔径0.2μmの親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)タイプメンブランフィルタ(東洋濾紙(株)製)で濾過することにより、着色剤として顔料を使用したインク組成物(表2)については孔径3.0μmのセルロースアセテートタイプメンブランフィルタ(東洋濾紙(株)製)で濾過することにより、インクジェット記録用イエローインクを得た。
【0045】
実施例M1〜M6、比較例M1〜M7
表3及び表4のインク組成を混合攪拌後、着色剤として顔料を使用していないインク組成(表3)については孔径0.2μmの親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)タイプメンブランフィルタ(東洋濾紙(株)製)で濾過することにより、着色剤として顔料を使用したインク組成物(表4)については孔径3.0μmのセルロースアセテートタイプメンブランフィルタ(東洋濾紙(株)製)で濾過することにより、インクジェット記録用マゼンタインクを得た。
【0046】
実施例C1〜C3、比較例C1〜C4
表5のインク組成を混合攪拌後、孔径0.2μmの親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)タイプメンブランフィルタ(東洋濾紙(株)製)で濾過することにより、インクジェット記録用シアンインクを得た。
【0047】
(評価方法)
得られた各色のインクジェット記録用インクについて、以下に説明するように吸光度測定を行い、第1の着色剤の最大吸収ピーク波長における吸光度(a)、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長におけるベースライン吸光度(c)とを求め、ベースライン吸光度比(b/c)と着色剤吸光度比(a/b)とを算出した。得られた結果を表1〜表5に示す。また、得られた各色のインクジェット記録用インクについて、インク検出評価、色差評価及び総合評価を、以下に説明するように行った。得られた結果を表1〜表5に併せて示す。
【0048】
<吸光度測定>
第1の着色剤の最大吸収ピーク波長における吸光度(a)の測定においてはイエローインク1600倍希釈液(希釈溶媒:純水)、マゼンタインク1000倍希釈液(希釈溶媒:純水)及びシアンインク1000倍希釈液(希釈溶媒:純水)、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)の測定においてはイエローインク原液、マゼンタインク原液及びシアンインク10倍希釈液(希釈溶媒:純水)について、それぞれの吸光度曲線を分光光度計(UV3600、株式会社島津製作所製)を用い、セル長1mmで純水をリファレンスとして測定した。その後、それぞれ測定光路長1mm換算及びインク原液換算をした値を算出した。
【0049】
<インク検出評価>
イエローインク原液、マゼンタインク原液及びシアンインク原液を、市販のインクジェット記録装置(DCP−330C、ブラザー工業(株)製)用のインクカートリッジにそれぞれ充填した。インクカートリッジにはセル長さが2mmとなる突起領域が形成され、その部位に対応するインクジェット記録装置の箇所に光センサーを設置し、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長を検出した。検出できた場合、表1〜表5に“G”と記載し、検出できなかった場合を“NG”を記載した。
【0050】
<色差評価>
各実施例及び比較例で得られたイエローインク1600倍希釈液(希釈溶媒:純水)、マゼンタインク1000倍希釈液(希釈溶媒:純水)及びシアンインク1000倍希釈液(希釈溶媒:純水)について、セル長10mmで純水をリファレンスとして分光光度計(UV3600、株式会社島津製作所製)を用いて色測定を行い、それぞれL値、a値及びb値を求めた。得られた数値をそれぞれL、a及びbとした。これらの数値は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化されたL表色系(CIE1976(L)表色系)に基づくものである(JIS Z8729参照)。
【0051】
第2の着色剤を使用せず、第2の着色剤の減少分を水で補った参照用のインクジェット記録用インクを調製し、同様に色測定を行い、それぞれL値、a値及びb値を求めた。得られた数値をそれぞれL、a及びbとした。
【0052】
得られたL、a及びbとL、a及びbの数値を式(3)に代入して色差(ΔE)を求めた。

【0053】
【数2】

【0054】
また、各実施例及び比較例で得られたインクを所望のインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機(ブラザー工業(株)製;DCP−110C)に装着し、光沢紙にイエロー、マゼンタ及びシアンインク各色の単色グラデーションサンプルを印字した。同様に、第2の着色剤を使用せず、第2の着色剤の減少分を水で補った参照用のインクジェット記録用インクを調製し、単色グラデーションサンプルを印字した。使用した光沢紙は、画彩(登録商標)フジフィルム高級光沢紙(富士写真フィルム(株)製)である。
【0055】
得られた各色の対応する単色グラデーションサンプル同士を目視にて観察し、印字物の区別がつかない場合、表1〜表5に“G”と記載し、区別がついた場合“NG”と記載した。
【0056】
<総合評価>
以上の結果を踏まえた上で、条件式(a)〜(d)の適否を検討し、以下の評価基準に従って総合評価を行った。
(a) b/c≧1.2
(b) ΔE≦3
(c) 0.001≦b≦5
(d) 50≦a/b≦30000
【0057】
総合評価基準
A: (a)〜(d)の全てが満たされている場合
B: (a)〜(c)については満たされているが、(d)は満たされてはいない場合
C: (a)〜(c)のいずれか一つでも満たされていない場合。



















【0058】
【表1】

【0059】
【表2】





【0060】
【表3】

【0061】
【表4】






【0062】
【表5】

【0063】
表1〜表5から明らかなように、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)が、第2の着色剤の検出吸収ピーク波長におけるベースライン吸光度(c)の1.2倍以上のインクジェット記録用インクであって、該インクと該インクから第2の着色剤を除いて調製したインクとの色差(ΔE)が3以下であり、且つ第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度が測定光路長1mm換算において0.001〜5である実施例の各色のインクジェット記録用インクは、インク検出評価、色差評価及び総合評価について、いずれも良好な結果であった。一方、これらの条件のいずれかが欠けている比較例のインクジェット記録用インクは、少なくともインク検出評価及び色差評価のいずれかに問題があり、いずれも総合評価が好ましい例ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のインクジェット記録用インクは、発色用の着色剤として染料を使用し、その染料に加えて、発色用の着色剤の最大吸収ピーク波長とは異なる吸収ピーク波長を示し、発色用の着色剤に比べて相対的に低い吸光度を示し、インクの発色には実質的には関与しない検出用の着色剤(染料又は顔料)を併用している。従って、インクジェット記録用インクに、検出用の着色剤の吸収ピーク波長の光を照射した場合、発色用の着色剤の強い影響を受けないため、インク中における検出用の着色剤の有無を検出できる。よって、インクジェット記録装置に適したインクジェットカートリッジが装着されているか否かを確実に把握することが可能となり、良好な品質のカラー画像の取得と、インクジェット記録装置の故障の防止とを実現することができる。従って、本発明のインクジェット記録用インクは、インクジェット記録用インクとして大きな利点を有するインクである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1A】インクジェット記録用インクの吸光度曲線である。
【図1B】第2の着色剤の検出吸収ピーク波長近傍の吸光度曲線である。
【図2】インクジェット記録装置本体の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インクジェットヘッド
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置
9 キャリッジ軸
10 ガイド板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色用の第1の着色剤と検出用の第2の着色剤とを含有するインクジェット記録用インクであって、
該第1の着色剤が染料であり、第2の着色剤が染料又は顔料であり、
該第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長とが互いに異なる波長であり、
該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)が、該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長におけるベースライン吸光度(c)の1.2倍以上であり、
該インクジェット記録用インクと、そのインクから該第2の着色剤を除いて調製したインクとの色差(ΔE)が、3以下であり、且つ
該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)が、測定光路長1mm換算で0.001〜5である
ことを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)が、該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長におけるベースライン吸光度(c)の1.5倍以上である請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
該第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長との差が、少なくとも50nmである請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
該第1の着色剤の最大吸収ピーク波長と該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長とが、可視光領域に存在する請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
該第1の着色剤が360〜450nmの波長範囲内に最大吸収ピーク波長を示す着色剤であり、該第2の着色剤が550〜780nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する着色剤である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項6】
該第1の着色剤が500〜570nmの波長範囲内に最大吸収ピーク波長を示す着色剤であり、該第2の着色剤が600〜780nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する着色剤である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項7】
該第1の着色剤が570〜780nmの波長範囲内に最大吸収ピーク波長を示す着色剤であり、該第2の着色剤が450〜500nmの波長範囲内に検出吸収ピーク波長を有する着色剤である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項8】
該第1の着色剤の最大吸収ピーク波長における吸光度(a)と、該第2の着色剤の検出吸収ピーク波長における吸光度(b)とが、式(1)
【数1】

を満足する請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェット記録用インクを充填したインクカートリッジを着脱自在に搭載し、該第2の着色剤を検出するための光センサーを内蔵するインクジェット記録装置。
【請求項10】
光センサーが、2波長以上の光を認識する光センサーである請求項9に記載のインクジェット記録装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−174703(P2008−174703A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96481(P2007−96481)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】