説明

インクジェット記録用インク組成物およびインクジェット記録方法

【課題】 高画質な画像の形成が長時間可能で、長期保存安定性を有するインクジェット記録用インク組成物、およびインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】 色材を少なくとも含む荷電粒子と分散媒とを含有するインクジェット記録用インク組成物において、該荷電粒子が、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有する分散媒可溶ポリマーにより分散媒に分散されていることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物と、該インク組成物を用いて、静電界を利用したインクジェット記録方式によりインク滴を飛翔させることを特徴とするインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用インク組成物およびそれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像デジタル信号を紙などの被記録媒体に出力する手段として様々な方式が開発されており、主要な方式として電子写真方式、昇華型および溶融型熱転写方式、インクジェット方式などが挙げられる。電子写真方式は光情報により感光体に静電像を形成し、静電力によるトナーの転写、つづく紙への転写と、二段階の転写プロセスを経るため、装置が大がかりでコストが高い。また、熱転写方式は熱による密着型、非接触型のダイレクトマーキングシステムであり、インクリボンを用いるため支持体が廃材として出る。一方、インクジェット方式は数pl〜数十plの液滴をノズルから吐出し、紙等の被記録媒体に直接描画するダイレクトインキングシステムであり、装置が安価で、かつ廃材を出さない点で前記二方式よりすぐれている。
【0003】
インクジェット方式にはインクを急激に加熱し、発生したバブルの膨張、収縮によりインクを飛翔させる方式と、電圧を印加すると変形するセラミックを用いてインクを吐出させる方式、さらには静電界を利用して、荷電粒子を含有する液滴を飛翔させる静電インクジェット方式(特許文献1、特許文献2参照)などがある。熱や機械的圧力により液滴を飛翔させる方式では、ノズルの歪みや空気の対流により被記録媒体上の望ましい位置へ液滴を着弾させることができない。また、液滴の体積の大部分は溶剤が占めるため着弾した被記録媒体上でのにじみや画像流れが生じやすい。
【0004】
一方、静電インクジェット方式は静電界により液滴の着弾点を制御するため、被記録媒体上の望ましい位置に液滴を着弾させることができる。また、溶剤には静電力がほとんど印加されないため、液滴は静電力が印加される荷電粒子が濃縮されたかたちで吐出され、被記録媒体に着弾した後の画像流れやにじみが生じにくい。よって静電インクジェット方式は精密なドット形成が可能であり、高画質な画像を形成する手段として有効である。静電インクジェット方式に用いられるインク組成物としては、通常、色材を少なくとも含む荷電粒子と溶剤を含有するインク組成物が用いられる(例えば、特許文献3、特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6158844号明細書
【特許文献2】特許第3315334号公報
【特許文献3】米国特許第5952048号明細書
【特許文献4】特開平8−291267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のインク組成物は、粒子径分布が広く、粒子サイズにバラツキがある一方で、粒子表面の荷電量は粒子の表面積に依存するため、荷電量にもバラツキが生じていた。静電インクジェットシステムにおいては、粒子表面積が広く、荷電量が多い大粒子により強い静電引力が印加される。このため、粒子サイズにバラツキがある従来のインクを用いると大粒子から優先的に吐出され、吐出時間とともに荷電量の少ない粒子が残り、液滴の吐出がされにくくなる。このため長時間連続して安定した吐出をすることが困難であった。
【0007】
また、静電インクジェット方式で使用される分散媒は高い電気抵抗率を有することが望ましく、主に低極性の溶剤を分散媒として用いることが望ましい。該分散媒中においては、荷電粒子周りに形成される電気二重層の厚みがなく、静電反発による分散安定化効果が小さい。このため、荷電粒子同士を凝集させず、分散媒中に安定に分散させるには、主に粒子表面に吸着または結合された分散剤の立体反発効果によって分散させる必要があると推定される。しかし、従来のインク組成物においては、インク組成物中に含まれる分散剤の吸着力が十分でないため、分散剤が脱着しやすく、荷電粒子間に十分な立体反発を付与できないものと考えられる。このため、インク組成物を長期間保存すると、粒子同士の凝集が生じ、平均粒子直径の大幅な増大が生じてしまっていた。このようなインクを静電インクジェットシステムに用いると、ヘッド、配管詰まりや形成した画像の色調低下が生じてしまう。よって、長期間保存しても荷電粒子同士が凝集しない高い分散安定性を有するインクが求められていた。
【0008】
本発明の目的は、高画質な画像の形成が長時間可能で、長期保存安定性を有するインクジェット記録用インク組成物、およびインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達するために鋭意検討した結果、インク滴の吐出特性は、用いるインクに含まれる色材を含有する粒子の分散安定性、ならびに、粒子径分布の均一性に大きく依存し、また、長期保存安定性は用いるインクに含まれる色材を含有する粒子の分散安定性に大きく依存することを見出し、更に、ポリマー主鎖末端部分に特定の官能基を含有する分散媒可溶ポリマーを分散剤として用いることによりかかる分散安定性が格段に良好となることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)色材を少なくとも含む荷電粒子と分散媒とを含有するインクジェット記録用インク組成物において、該荷電粒子が、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有する分散媒可溶ポリマーにより分散媒に分散されていることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
【0011】
(2)該荷電粒子が機械的メディア分散方法により作成され、遠心沈降法での体積平均粒子直径の1/5以下に相当する体積平均粒子直径の粒子が1%以下であることを特徴とする前記(1)に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【0012】
(3)前記(1)または(2)記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて、静電界を利用したインクジェット記録方式によりインク滴を飛翔させることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクジェット記録用インク組成物およびインクジェット記録方法によれば、長期にわたり荷電粒子の分散安定性を保持することから、長時間のインクジェット記録において常に安定してインク滴を吐出することが可能であり、吐出不良がなく、濃度低下やインクのにじみのない高画質な画像の形成が長時間可能となる。また本発明のインクジェット記録用インク組成物は、長期保存安定性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳述する。
本発明のインク組成物は、色材を少なくとも含む荷電粒子と分散媒とを少なくとも含有する。
【0015】
[分散媒]
本発明で用いる分散媒は、高い電気抵抗率、具体的には1010Ωcm以上の電気抵抗率を有する誘電性の液体であることが好ましい。電気抵抗率の低い分散媒を使用すると、隣接する記録電極間で電気的導通を生じさせるため、本発明には好ましくない。また、誘電性液体の比誘電率は5以下が好ましく、より好ましくは4以下、更に好ましくは3.5以下である。このような比誘電率の範囲とすることによって、誘電性液体中の荷電粒子に有効に電界が作用されるため好ましい。
【0016】
本発明に用いる分散媒としては、直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、または芳香族炭化水素、およびこれらの炭化水素のハロゲン置換体、シリコーンオイルがある。例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、トルエン、キシレンおよびメシチレン等が挙げられ、具体的にはアイソパーC、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM(アイソパー:エクソン社の商品名)、シェルゾール70、シェルゾール71(シェルゾール:シェルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ:スピリッツ社の商品名)、KF−96L(信越シリコーン社の商品名)等を単独または混合して用いることができる。インク組成物全体に対する分散媒の含有量は、20〜99質量%の範囲内であることが好ましい。20質量%以上において、色材を含有する粒子を分散媒に良好に分散することができ、また、99質量%以下において、色材の含有量を充足することができる。
【0017】
[色材]
本発明に用いる色材としては、公知の染料および顔料を使用することができ、用途や目的に応じて選択することができる。例えば、記録された画像記録物(印刷物)の色調の観点からは、顔料を用いることが好ましい(例えば、技術情報協会発行 「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」 2001年12月25日 第1刷参照。以下「非特許文献1」とも称する)。色材を変更することにより、イエロー、マゼンタ、シアン、墨(ブラック)の4色のインクを作成することができる。特に、オフセット印刷用インクやプルーフに用いられる顔料を使用するとオフセット印刷物と同様な色調が得られるので好ましい。
【0018】
イエローインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74等のモノアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー17等のジスアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー180等の非ベンジジン系のアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー100等のアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95等の縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー115等の酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー18等の塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー等のアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT、C.I.ピグメントイエロー139等のイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー等のキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー等のイソインドリン顔料、C.I.ピグメントイエロー153等のニトロソ顔料、C.I.ピグメントイエロー117等の金属錯塩アゾメチン顔料などが挙げられる。
【0019】
マゼンタインク用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド3等のモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド38等のジスアゾ顔料、C.I.ピグメントレッド53:1等やC.I.ピグメントレッド57:1等のアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド144等の縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド174等の酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド81等の塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド177等のアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド88等のチオインジゴ顔料、C.I.ピグメントレッド194等のペリノン顔料、C.I.ピグメントレッド149等のペリレン顔料、C.I.ピグメントレッド122等のキナクリドン顔料、C.I.ピグメントレッド180等のイソインドリノン顔料、C.I.ピグメントレッド83等のアリザリンレーキ顔料等が挙げられる。
【0020】
シアンインク用の顔料としては、例えば、C.Iピグメントブルー25等のジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー15等のフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー24等の酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー1等の塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー60等のアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントブルー18等のアルカリブルー顔料等が挙げられる。
【0021】
墨インク用の顔料としては、例えば、アニリンブラック系顔料等の有機顔料や酸化鉄顔料、及びファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料類等が挙げられる。
更にマイクロリス−A、マイクロリス−K、マイクロリス−Tなどのマイクロリス顔料に代表される加工顔料も好適に使用できる。その具体例としてはマイクロリスイエロー4G−A,マイクロリスレッドBP−K,マイクロリスブルー4G−T,マイクロリスブラックC−Tなどが挙げられる。
また、白インク用の顔料として炭酸カルシウムや酸化チタン顔料を、銀インク用としてアルミニウム粉を、金インク用として銅合金を用いる等、必要に応じて各種の顔料を使用することができる。
【0022】
顔料は、基本的には一色につき一種類の顔料を使うことが、インク製造の簡便性の点で好ましいが、色相調整として例えば、墨インク用に、カーボンブラックにフタロシアニンを混合する、マゼンタインク用に、ジスアゾ系顔料C.I.ピグメントレッドにフタロシアニンを混合するなど、場合によっては2種以上併用することも好ましい。また、ロジン処理等、公知の方法により顔料を表面処理した後使用してもよい(前述の非特許文献1参照)。
【0023】
インク組成物全体に対する顔料の含有量は、0.1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。0.1質量%以上において、顔料量が充足し、印刷物において充分良好な発色が得られ、50質量%以下において、色材を含有する粒子を分散媒に良好に分散させることができる。さらに好ましくは、1〜30質量%である。
【0024】
[被覆剤]
本発明において、顔料等の色材は、分散媒に直接、分散(粒子化)してもよく、また被覆材により被覆して分散(粒子化)してもよい。被覆剤により被覆された状態で分散(粒子化)することが、色材が持つ荷電を遮蔽し望ましい荷電特性を付与することができ、また、色材の種類により異なる分散安定性の相違を打ち消し、同様な分散安定性を付与できる点で好ましい。また、表面積が大きく高次の凝集体を形成しやすい顔料の表面を覆うことで、粒子同士の凝集を抑制し、粒子径分布の多分散化を抑制することができる。さらに本発明においては、被記録媒体へインクジェット記録した後、ヒートローラー等の加熱手段により定着することが好ましく、この際被覆剤が熱により溶融し、効率良く定着できるという効果も有する。
【0025】
被覆剤としては、例えば、ロジン類、フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、アルキッド樹脂、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニールアルコールのアセタール変性物、ポリカーボネート等が挙げられる。これらの内、粒子形成の容易さの観点から、質量平均分子量が2,000〜1,000,000の範囲内であり、かつ多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が1.0〜5.0の範囲内であるポリマーが好ましい。さらに、定着の容易さの観点から、軟化点、ガラス転移点または融点のいずれか1つが25℃〜120℃の範囲内にあるポリマーが好ましい。
【0026】
本発明において、被覆剤として特に好適に使用されるポリマーは、下記一般式(1)〜(4)で示される構成単位のいずれか1つを少なくとも含有するポリマーである。
【0027】
【化1】

【0028】
式中、X11は、酸素原子または−N(R13)−を示す。R11は、水素原子またはメチル基を示し、R12は、炭素数1から30個の炭化水素基を示す。R13は、水素原子または炭素数1から30の炭化水素基を示す。R21は、水素原子または炭素数1から20の炭化水素基を示す。R31、R32及びR41は、それぞれ独立に、炭素数1から20個の2価の炭化水素基を示す。尚、R12、R21、R31、R32およびR41の炭化水素基中にエーテル結合、アミノ基、ヒドロキシル基またはハロゲン置換基を含んでいても良い。
【0029】
一般式(1)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するラジカル重合性モノマーを公知の方法によりラジカル重合することにより得ることができる。用いられるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メ
タ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、及び、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
【0030】
一般式(2)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するラジカル重合性モノマーを公知の方法によりラジカル重合することにより得ることができる。用いられるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、4−メチルスチレン等が挙げられる。
【0031】
一般式(3)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するジカルボン酸または酸無水物とジオールとを公知の方法で脱水縮合することにより得ることができる。用いられるジカルボン酸としては、コハク酸無水物、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−フェニレンジ酢酸、ジグリコール酸等が挙げられる。また、用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
【0032】
一般式(4)で示される構成単位を含有するポリマーは、対応するヒドロキシル基を有するカルボン酸を公知の方法で脱水縮合するかまたは、対応するヒドロキシル基を有するカルボン酸の環状エステルを公知の方法で開環重合することにより得ることができる。用いられるヒドロキシル基を有するカルボン酸またはその環状エステルとしては、6−ヒドロキシヘキサン酸、11−ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン等が挙げられる。
【0033】
一般式(1)〜(4)で示される構成単位のいずれか1つを少なくとも含有するポリマーは、一般式(1)〜(4)で示される構成単位のホモポリマーであってもよく、他の構成成分との共重合体(コポリマー)であっても良い。また、これらのポリマーは、被覆剤として単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0034】
インク組成物全体に対する被覆剤の含有量は、0.1〜40質量%の範囲内であることが好ましい。0.1質量%以上において、被覆剤の量が充足し、充分な定着性が得られるとともに、40質量%以下において、色材と被覆剤を含有する粒子を良好に形成することができる。
【0035】
[分散剤]
分散剤は、色材、又は色材と被覆剤の混合物を分散媒中に分散(粒子化)させるものであり、本発明においては、長期間の保存安定性を有し、また、長時間のインクジェット記録において常に安定してインク滴を吐出するために、分散剤として、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有する分散媒可溶ポリマーを用いることを大きな特徴とする。
【0036】
酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有することで、ポリマーと荷電粒子との間に強い酸塩基相互作用または静電的相互作用が発現し、荷電粒子に
対する主鎖部の吸着力が増大する。これにより、荷電粒子の分散安定性が向上し、ひいては、分散物の長期間保存安定性が向上する。
【0037】
また、インク組成物作成時に、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有する分散媒可溶ポリマーを分散剤として適量を用いることで、粒子径分布が狭いインク組成物を与えることができる。本発明においてインク組成物の作成は、色材、被覆剤および分散剤をニーダー、ディゾルバー、ミキサー、高速ディスパーザー、サンドミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ビーズミル等を同時に用いることで混合、分散(粒子化)させることが望ましいが、この際、分散剤の添加量が多すぎてしまうと、小粒子が生成しやすく、粒子径分布が多分散なインクが得られる。
【0038】
荷電粒子表面の荷電量は、粒子の表面積に依存するため、このような粒子径分布が多分散なインクは、荷電粒子の荷電量に大きなバラツキがあり、長期間安定して吐出することが困難となる。本発明に従い、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有するポリマー(以下、末端官能基導入ポリマーということがある)を分散剤として用いることで、該分散剤の荷電粒子への吸着力が増大し、少ない添加量で所望の粒子直径を得ることができる。これにより、粒子径分布が均一で、荷電粒子に荷電を均一に付与せしめたインク組成物を得ることができ、インク滴を長時間安定して吐出することが可能となる。
【0039】
本発明における末端官能基導入ポリマーは、質量平均分子量が2,000〜1,000,000の範囲内であり、かつ多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が1.0〜5.0の範囲内であるポリマーが好ましい。さらに好ましくは質量平均分子量が4,000〜300,000の範囲内であり、かつ多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が1.0〜4.0の範囲内である。
【0040】
上記酸性基とは、pKaが14以下のプロトン供与性官能基を示し、該酸性基を中和してなる塩とは、該酸性基を塩基によりイオン対化、もしくは、対成分により中和した官能基を示す。好ましくは、共役塩基−Yr-と、カチオン性根Zs+が共有結合、又はイオン対を形成した一般式(5)で示される官能基である。
【0041】
-Yr-・(Zs+)t ( r=1または2であり、r=s×tである) 一般式(5)
【0042】
式中、-Yr-は、-SO3-、-OSO2-、-CO2-、-C64-O-、-PO32-、または、-OPO32-基を示す。Zs+は、水素イオン(H+)、アルカリ(土類)金属イオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオン、複素環化合物イオンを示し、具体的には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ(土類)金属イオン、(モノ、ジ、トリ、テトラ)メチルアンモニウム、(モノ、ジ、トリ、テトラ)エチルアンモニウム、(モノ、ジ、トリ、テトラ)n-ブチルアンモニウム、(モノ、ジ、トリ、テトラ)メトキシアンモニウム、(モノ、ジ、トリ、テトラ)フェニルアンモニウム、フェニルジメチルアンモニウム、ジフェニルメチルアンモニウム、モルホリニウム、n-メチルモルホリニウム、ジメチルエタノールアンモニウム、メチルジエタノールアンモニウム、(モノ−、ジ−、トリ)エタノールアミン、トリヒドロキシメチルアミン、ジヒドロキシメチルアミン、モノヒドロキシメチルアミン、ピペリジニウム、(モノ、ジ、トリ)メチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム、トリn-ブチルスルホニウム、(モノ、ジ、トリ、テトラ)メチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラn-ブチルホスホニウム、(モノ、ジ、トリ、テトラ)フェニルホスホニウム、ピリジニウム等が挙げられる。
【0043】
上記塩基性基とは、pKaが14を超え、酸性基との反応によりイオン対形成可能な官能基を示し、該塩基性基のイオン化物とは、該塩基性基を酸性基により中和した官能基、または中和反応以外の化学反応によりイオン化した官能基を示す。
好ましくは、下記一般式(6)または、(6')で示される官能基である。
【0044】
−Y 一般式(6)
−Yr+・(ZS-)t (r=s+tである) 一般式(6’)
【0045】
一般式(6)中、-Yは、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリール-アルキルアミノ基、含窒素環状化合物基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、含硫黄環状化合物基、ホスフィノ基、アルキルホスフィノ基、アリールホスフィノ基、アリール-アルキルホスフィノ基、含燐環状化合物基を示す。
具体的にはアミノ基、(モノ・ジ)メチルアミノ基、(モノ・ジ)エチルアミノ基、(モノ・ジ)n-プロピルアミノ基、(モノ・ジ)イソプロピルアミノ基、(モノ・ジ)n-ブチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、オクチルアミノ基、N−メチル−N−オクチルアミノ基、(モノ・ジ)メタノールアミノ基、(モノ・ジ)エタノールアミノ基、グアニジノ基、等のアルキルアミン類、(モノ・ジ)フェニルアミノ基、等のアリールアミン類、メチルフェニルアミノ基、エチルフェニルアミノ基、等のアルキルアリールアミン類、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、メチルピロリジニル基、ピペリジル基、メチルピペリジル基、モルホリノ基、ピペラジル基、N−メチルピペラジル基、ピロリル基、メチルピロリル基、チアゾリル基、メチルチアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、トリアゾリル基、イミダゾリル基、メチルイミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピリミジニル基、メチルピリミジニル基、ピラゾリル基、メチルピラゾリル基、インドリル基、ピロリドニル基、等の含窒素環状化合物基、チオール基、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、等のアルキルチオ基、フェニルチオ基、等のアリールチオ基、チエニル基、チアピラニル基等の含硫黄環状化合物類、(モノ・ジ)メチルホスフィノ基、(モノ・ジ)エチルホスフィノ基、(モノ・ジ)n-プロピルホスフィノ基、(モノ・ジ)イソプロピルホスフィノ基、(モノ・ジ)n-ブチルホスフィノ基、n-ヘキシルホスフィノ基、n-オクチルホスフィノ基、N−メチル−N−オクチルホスフィノ基、等のアルキルホスフィノ基、(モノ・ジ)フェニルホスフィノ基、等のアリールホスフィノ基、メチルフェニルホスフィノ基、エチルフェニルホスフィノ基、等のアルキルアリールホスフィノ基、等が挙げられる。
【0046】
一般式(6')中-Yr+ は、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、アリールアンモニウム基、アリール-アルキルアンモニウム基、窒素環状化合物イオン基、スルホニウム基、アルキルスルホニウム基、アリールスルホニウム基、アリール-アルキルスルホニウム基、硫黄環状化合物イオン基、ホスホニウム基、アルキルホスホニウム基、アリールホスホニウム基、アリール-アルキルホスホニウム基、燐環状化合物イオン基を示す。
具体的には、アンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)メチルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)エチルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-プロピルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)イソプロピルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-ブチルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-ヘキシルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-オクチルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)メタノールアミノ基、(モノ・ジ・トリ)エタノールアンモニウム基、グアニジニウム基、等のアルキルアンモニウム基、(モノ・ジ・トリ)フェニルアンモニウム基、等のアリールアンモニウム基、(モノ・ジ)メチルフェニルアミノ基、(モノ・ジ)エチルフェニルアミノ基、メチルジフェニルアミノ基等のアルキルアリールアンモニウム基、ピリジニウム基、メチルピリジニウム基、ピロリジニウム基、メチルピロリジニウム基、ピペリジニウム基、メチルピペリジニウム基、モルホリニウム基、ピペラジニウム基、N−メチルピペラジニウム基、ピロリニウム基、メチルピロリニウム基、チアゾリニウム基、メチルチアゾリニウム基、ベンゾチアゾリニウム基、トリアゾリニウム基、イミダゾリ二ウム基、メチルイミダゾリ二ウム基、ベンゾイミダゾリ二ウム基、ピリミジニウム基、メチルピリミジニウム基、ピラゾリウム基、メチルピラゾリウム基、インドリウム基、ピロリドニリウム基、等の含窒素環状化合物基等の含窒素環状化合物イオン基、スルホニウム基、(モノ・ジ)メチルスルホニウム基、(モノ・ジ)エチルスルホニウム基、(モノ・ジ)n-プロピルスルホニウム基、(モノ・ジ)イソプロピルスルホニウム基、(モノ・ジ)n-ブチルスルホニウム基、(モノ・ジ)ヘキシルスルホニウム基、(モノ・ジ)オクチルスルホニウム基、等のアルキルスルホニウム基、(モノ・ジ)フェニルスルホニウム基、等のアリールスルホニウム基、チエニリウム基、等の含硫黄環状化合物イオン基、(モノ・ジ・トリ)メチルホスホニウム基、(モノ・ジ・トリ)エチルホスホニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-プロピルホスホニウム基、(モノ・ジ・トリ)イソプロピルホスホニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-ブチルホスホニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-ヘキシルホスホニウム基、(モノ・ジ・トリ)n-オクチルホスホニウム基、等のアルキルホスホニウム基、(モノ・ジ・トリ)フェニルホスホニウム基、等のアリールホスホニウム基、(モノ・ジ)メチルフェニルホスホニウム基、(モノ・ジ)エチルフェニルホスホニウム基、メチルジフェニルホスホニウム基等のアルキルアリールホスフィノ基、等が挙げられる。Zs-は、pKaが14以下の酸性化合物の共役塩基を示す。具体的には、酢酸イオン、ギ酸イオン、シュウ酸イオン、プロピオン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン等の有機酸共役塩基、塩化物イオン、フッ化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、等の無機酸共役塩基等が挙げられる。
【0047】
末端官能基導入ポリマーのポリマー種としては、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニールアルコールのアセタール変性物、ポリカーボネート等が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリスチレン等が挙げられ、前記一般式(1)、(2)または(3)で示される構成単位を含有するポリマーであり、被覆剤と同様な方法により得ることができる。末端官能基導入ポリマーと被覆剤との違いは、末端官能基導入ポリマーが分散媒に可溶であり、かつ酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有することにある。
また、ポリマー形態としては、ランダムポリマー、グラフトポリマー、ブロックポリマー、架橋ポリマー、スターポリマー、多分岐構造ポリマー等が挙げられる。
【0048】
ポリマー主鎖末端への、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種の導入方法として、アクリル系ポリマーに代表されるビニル付加重合により合成する場合、1)ラジカル連鎖移動し易い構造に該官能基を有する化合物を添加し、所望のモノマーとラジカル重合する方法、2)該官能基を有するラジカル重合開始剤を用い所望のモノマーとラジカル重合する方法等が挙げられる。さらに、ポリエステルに代表される縮重合反応により合成する場合、1)末端に存在するカルボキシル基をそのまま利用する方法、2)カルボキシル基及び水酸基等の反応性官能基を高分子反応により化学変換する方法等が挙げられる。
これら方法により合成した、末端官能基導入ポリマーの具体例を以下に示す。但し、本発明の内容はこれらに限定されるものではない。
【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
これらのポリマーは、分散剤として単独で使用しても良いが、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0054】
本発明においてインク組成物の作成は、色材、被覆剤、分散剤をニーダー、ディゾルバー、ミキサー、高速ディスパーザー、サンドミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ビーズミル等を同時に用いることで混合、分散(粒子化)させることが望ましい。
インク組成物全体に対する分散剤の含有量は、0.01〜30質量%の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、0.01〜15質量%の範囲内である。さらに好ましくは、0.01〜5質量%である。30質量%以下においてインク粒子が凝集せず、粒子径
分布が均一なインク組成物が作成できる。また、0.01質量%以上において、インクの吐出ヘッドや循環ポンプに、インク粒子が凝集せずに、ヘッドやポンプの詰まりを防止でき、さらに、所望の粒子直径を得ることができ、インクジェット記録する際に吐出しやすくなる。
【0055】
本発明に従い、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有するポリマーを分散剤として用いることで、該分散剤の荷電粒子への吸着力が増大し、含有量が0.01〜30質量%の範囲内において所望の粒子直径の荷電粒子を得ることができる。これにより、粒子径分布が均一で、荷電粒子に荷電を均一に付与せしめるインク組成物を得ることができ、インク滴を長時間安定して吐出することが可能となる。
【0056】
ここでの「均一な粒子径分布」はインク滴を長時間安定して吐出することが可能な範囲を示し、具体的には、体積平均粒子直径/数平均粒子直径(Φv/φn)が1.0〜5.0の範囲内であることをいう。
【0057】
[荷電調整剤]
本発明において、色材(好ましくは色材と被覆剤の混合物)を、分散剤を用いて分散媒中に分散(粒子化)させるが、粒子の荷電量を制御するために荷電調整剤を併用することがさらに好ましい。
好適な荷電調整剤としては、ナフテン酸ジルコニウム塩、オクテン酸ジルコニウム塩等の有機カルボン酸の金属塩、ステアリン酸テトラメチルアンモニム塩等の有機カルボン酸のアンモニム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸マグネシウム塩等の有機スルホン酸の金属塩、トルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の有機スルホン酸のアンモニウム塩、スチレンと無水マレイン酸のコポリマーをアミンで変性したカルボン酸基を含有するポリマー等の側鎖にカルボン酸基を有するポリマー、メタクリル酸ステアリルとメタクリル酸のテトラメチルアンモニウム塩の共重合体等の側鎖にカルボン酸アニオン基を有するポリマー、スチレンとビニルピリジンの共重合体等の側鎖に窒素原子を有するポリマー、メタクリル酸ブチルとN−(2−メタクリロイルオキシエチル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムトシラート塩との共重合体等の側鎖にアンモニウム基を有するポリマー等が挙げられる。中でも、本発明においては、長時間安定性した荷電を保持する観点から、ポリマーの荷電調整剤を用いることが好ましい。なお、粒子に付与される荷電は、正荷電であっても負荷電であっても良い。
【0058】
インク組成物全体に対する荷電調整剤の含有量は、0.0001〜10質量%の範囲内であることが好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。この範囲内において、吐出に必要な粒子の荷電量が充足され、また荷電量が適度となる。
【0059】
[その他の成分]
本発明においては、さらに、腐敗防止のために防腐剤や、表面張力を制御するための界面活性剤等を目的に応じて含有することができる。
【0060】
[荷電粒子の作成]
以上の成分を用い、色材(好ましくは色材と被覆剤)を本発明の分散剤を用いて、分散(粒子化)することにより、インク組成物を作成することができる。分散(粒子化)する方法としては、例えば下記が挙げられる。
1)色材と被覆剤をあらかじめ混合した後、分散剤と分散媒を用いて分散(粒子化)し、荷電調整剤を加える。
2)色材、被覆剤、分散剤と分散媒を同時に用いて分散(粒子化)し、荷電調整剤を加える。
3)色材、被覆剤、分散剤、荷電調整剤と分散媒を同時に用いて分散(粒子化)する。
【0061】
混合や分散する際に用いられる装置としては、例えば、ニーダー、ディゾルバー、ミキサー、高速ディスパーザー、サンドミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ビーズミル等が挙げられる。
【0062】
本発明においては、荷電粒子が機械的メディア分散法により作成され、遠心沈降法での体積平均粒子直径の1/5以下に相当する体積平均粒子直径の粒子が1%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5%以下である。ここで、機械的メディア分散法とは、ガラス、ジルコニア等のビーズの運動エネルギーを、ビーズの衝突によるせん断・衝撃力に変え、分散物をより細かく砕きながら、目的の分散物を得る方法であり、ビーズを運動させる装置として、一般には、ペイントシェーカー、ダイノミル等が用いられる。
荷電粒子の体積平均粒子直径は、例えば、超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−700(堀場製作所(株)製)等の装置を用い、遠心沈降法により測定できる。上記範囲内において、インク粒子1個あたり表面に十分な荷電付与を可能とし、かつ経時で荷電の変化がない安定したインクを得ることができる。
【0063】
[インク組成物の物性値]
以上のようにして作成したインク組成物を、インクジェット記録方式により、被記録媒体へ記録するが、本発明においては、長時間のインクジェット記録において常に安定してインク滴を吐出するため、下記条件(A)〜(D)のすべてを満足するインク組成物を使用することが好ましい。
(A)インク組成物の20℃での電気伝導度が、1nS/m〜5000nS/mの範囲内である。
(B)荷電粒子の電気伝導度が、インク組成物の電気伝導度の20%以上である。
(C)荷電粒子の体積平均直径が、0.2〜5.0μmの範囲内である。
(D)インク組成物の20℃での粘度が、0.5〜50mPa・sの範囲内である。
【0064】
インク組成物の20℃での電気伝導度は、1nS/m〜5000nS/mの範囲内であることが好ましい。インク組成物の電気伝導度が1nS/m以上の場合に、インク滴の吐出が良好であり、5000nS/m以下の場合に、インクジェット装置のヘッド(吐出部)において導通し、ヘッドの損傷が生じない。さらに好ましくは、10nS/m〜1000nS/mである。
粒子の電気伝導度は、インク組成物を遠心沈降し、粒子を沈降させた上澄み液の電気伝導度を測定し、インク組成物の電気伝導度から差し引いた値である。
【0065】
本発明では、粒子の電気伝導度が、インク組成物の電気伝導度の20%以上であることが好ましい。静電界を利用したインクジェット記録方式では、インク滴が吐出する際、荷電粒子の濃縮が起こるが、20%以上の場合において、この濃縮が生じ、結果として、被記録媒体に記録された際インクのにじみも生じない。さらに好ましくは30%以上である。
また、粒子の荷電量は、1〜1000μC/gの範囲が好ましい。荷電量が1μC/g以上の場合に、濃縮が十分であり、また1000μC/g以下の場合に、過度に濃縮されることもなく、ヘッド吐出口でのインクの詰まりが防止できる。より好ましくは10〜500μC/g、更に好ましくは15〜100μC/gの範囲である。
【0066】
粒子の体積平均直径は、例えば、前述のように、超遠心式自動粒度分布測定装置CAPA700(堀場製作所(株)製)等の装置を用い、遠心沈降法により測定できる。平均直径は、算出方法によって、体積平均、数平均等があるが、本発明では、荷電粒子の体積平均直径が、0.2〜5.0μmの範囲内であることが好ましい。0.2μm以上の場合、
粒子の濃縮が充分となり、結果として、非記録媒体に記録された際インクのにじみが防止できる。また、5.0μm以下の場合に、ヘッド吐出口の詰まりの問題が生じない。さらに好ましくは、0.3〜3.0μmである。粒度分布は、狭く均一なほうが好ましく、体積平均粒子直径/数平均粒子直径(Φv/φn)が1.0〜5.0の範囲内であることが望ましい。より好ましくは、1.0〜4.0である。
【0067】
本発明では、インク組成物の粘度が、0.5〜50mPa・sの範囲内であることが好ましい。粘度が0.5mPa・s以上の場合には、ヘッドのインク吐出口からインク組成物が液だれしてしまうという問題が生じず、また、50mPa・s以下の場合に、インク滴の吐出が良好である。さらに好ましくは、0.8〜10mPa・sの範囲内である。
また、インク組成物の表面張力は、10〜70mN/mの範囲内であることが好ましい。表面張力が10mN/m以上の場合に、ヘッドのインク吐出口からインク組成物が液だれしてしまうという問題が生じず、また、70mN/m以下の場合に、インク滴の吐出が良好である。さらに好ましくは、15〜50mN/mの範囲である。
【0068】
[インクジェット記録装置]
以上記述したインク組成物を、インクジェット記録方式により、被記録媒体へ記録するが、本発明においては、静電界を利用したインクジェット記録方式を用いることが好ましい。静電界を利用するインクジェット記録方式は、制御電極と被記録媒体背面の背面電極間に電圧を印加することにより、インク組成物の荷電粒子を静電力によって吐出位置に濃縮し、吐出位置から記録媒体へ飛翔させる方式である。制御電極と背面電極間に印加する電圧は、例えば荷電粒子が正の場合、制御電極が正極であり背面電極が負極となる。背面電極へ電圧を印加する代わりに被記録媒体に帯電を行っても同様の効果が得られる。
【0069】
インクを飛翔させる方式として、例えば、注射針のようなニードル状の先端からインクを飛翔させる方式があり、本発明のインク組成物を用いることで、短時間の記録が可能である。
【0070】
一方、吐出開口を有するインク室内にインクが循環されており、吐出開口周縁に形成された制御電極に電圧を印加することによって吐出開口中に存在し、先端が被記録媒体側に向いたインクガイド先端から濃縮されたインク滴が飛翔する方法では、インクの循環による荷電粒子の補給と、吐出位置のメニスカス安定性を両立することができるため、長期間安定に記録を行うことができる。さらに本方式ではインクが外気と接する部分が吐出開口部だけと非常に少ないため、溶媒の蒸発を抑え、インク物性が安定化するため、本発明において好適に使用することができる。
【0071】
本発明のインク組成物を適用するに適したインクジェット記録装置の構成例を以下に示す。
まずは、図1に示す被記録媒体に片面4色印刷を行う装置の概要について説明する。
図1に示されるインクジェット記録装置1は、フルカラー画像形成を行うための4色分の吐出ヘッド2C、2M、2Y及び2Kから構成される吐出ヘッド2にインクを供給し、さらに吐出ヘッド2からインクを回収するインク循環系3、図示されないコンピュータ、RIP等の外部機器からの出力により吐出ヘッド2を駆動させるヘッドドライバ4、位置制御手段5を備える。またインクジェット記録装置1は、3つのローラ6A、6B、6Cに張架された搬送ベルト7、搬送ベルト7の幅方向の位置を検知可能な光学センサなどで構成された搬送ベルト位置検知手段8、被記録媒体Pを搬送ベルト上に保持するための静電吸着手段9、画像形成終了後に被記録媒体Pを搬送ベルト7から剥離するための除電手段10及び力学的手段11を備える。搬送ベルト7の上流、下流には、被記録媒体Pを図示されないストッカーから搬送ベルト7に供給するフィードローラ12及びガイド13、剥離後の被記録媒体Pへインクを定着させると共に図示されない排紙ストッカーに搬送す
る定着手段14及びガイド15が配置されている。またインクジェット印刷装置1の内部には、搬送ベルト7を挟んで吐出ヘッド2に対向する位置には、被記録媒体位置検出手段16を有し、さらにインク組成物から発生する溶媒蒸気を回収するための排出ファン17及び溶媒蒸気吸着材18からなる溶媒回収部が配置され、装置内部の蒸気は該回収部を通って装置外部に排出される。
【0072】
フィードローラ12は公知のローラが使用でき、被記録媒体に対するフィード能力が高まるように配置される。また被記録媒体P上には垢・紙粉等が付着していることがあるため、それらの除去を行うことが望ましい。フィードローラによって供給された被記録媒体Pは、ガイド13を経て、搬送ベルト7に搬送される。搬送ベルト7の裏面(好ましくは金属裏面)はローラ6Aを介して設置されている。搬送された被記録媒体は、静電吸着手段9により搬送ベルト上に静電吸着される。図1では、負の高圧電源に接続されたスコロトロン帯電器により静電吸着がなされる。静電吸着手段9により、被記録媒体Pが搬送ベルト7上に浮き無く静電吸着されると共に、被記録媒体表面を均一帯電する。ここでは静電吸着手段を被記録媒体の帯電手段としても利用しているが、別途設けてもよい。帯電された被記録媒体Pは、搬送ベルト7によって吐出ヘッド部まで搬送され、帯電電位をバイアスとして記録信号電圧を重畳することにより静電インクジェット画像形成がなされる。画像形成された被記録媒体Pは、除電手段10により除電され、力学的手段11により搬送ベルト7により剥離されて定着部へ搬送される。剥離された被記録媒体Pは、画像定着手段14に送られ、定着がなされる。定着された被記録媒体Pは、ガイド15を通って図示されない排紙ストッカーに排紙される。また、該装置は、インク組成物から発生する溶媒蒸気の回収手段を有する。回収手段は溶媒蒸気吸収材18からなり、排気ファン17により機内の溶媒蒸気を含む気体が吸着材に導入され、蒸気が吸着回収された後、機外に排気される。該装置は、上記例に限定されず、ローラ、帯電器等の構成デバイスの数、形状、相対配置、帯電極性等は任意に選べる。また上記システムでは4色描画について記述しているが、淡色インクや特色インクと組み合わせて、より多色のシステムとしてもよい。
【0073】
上記インクジェット印刷方法に使用されるインクジェット記録装置は、吐出ヘッド2、インク循環系3からなり、インク循環系3は、さらにインクタンク、インク循環装置、インク濃度制御装置、インク温度管理装置等を有し、インクタンク内には撹拌装置を含んでいてもよい。
【0074】
吐出ヘッド2としては、シングルチャンネルヘッド、マルチチャンネルヘッド、又はフルラインヘッドを使うことができ、搬送ベルト7の回転により主走査を行う。
本発明で好適に使用されるインクジェットヘッドは、インク流路内での荷電粒子を電気泳動させて開口付近のインク濃度を増加させ、吐出を行うインクジェット方法であり、主に被記録媒体又は被記録媒体背面に配置された対向電極に起因する静電吸引力によりインク滴の吐出を行うものである。従って、被記録媒体又は対向電極がヘッドに対向していない場合や、ヘッドと対向する位置にあっても被記録媒体又は対向電極に電圧が印加されていない場合には、誤って吐出電極に電圧が印加された場合や振動が与えられた場合でもインク滴の吐出は起こらず、装置内を汚すことはない。
【0075】
上記インクジェット装置に好適に使用される吐出ヘッドを図2及び図3に示す。図2及び図3に示すように、インクジェットヘッド70は、一方向のインク流Qが形成されるインク流路72の上壁を構成する電気絶縁性の基板74と、インクを被記録媒体Pへ向けて吐出する複数の吐出部76とを有する。吐出部76には、いずれもインク流路72から飛翔するインク滴Gを被記録媒体Pへ向けて案内するインクガイド部78が設けられ、基板74には、インクガイド部78がそれぞれ挿通する開口75が形成されており、インクガイド部78と開口75の内壁面との間にはインクメニスカス42が形成されている。インクガイド部78と被記録媒体Pとのギャップdは200μm〜1000μm程度であるこ
とが好ましい。また、インクガイド部78は、下端側で支持棒部40に固定されている。
【0076】
基板74は、2つの吐出電極を所定間隔で離して電気的に絶縁している絶縁層44と、絶縁層44の上側に形成された第1吐出電極46と、第1吐出電極46を覆う絶縁層48と、絶縁層48の上側に形成されたガード電極50と、ガード電極50を覆う絶縁層52とを有する。また、基板74は、絶縁層44の下側に形成された第2吐出電極56と、第2吐出電極56を覆う絶縁層58とを有する。ガード電極50は、第1吐出電極46や第2吐出電極56に印加された電圧によって隣接する吐出部に電界上の影響が生じることを防止するために設けられる。
【0077】
更に、インクジェットヘッド70には、インク流路72の底面を構成すると共に、第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加されたパルス状の吐出電圧によって定常的に生じる誘導電圧により、インク流路72内の正に帯電したインク粒子(荷電粒子)Rを上方へ向けて(すなわち被記録媒体側に向けて)泳動させる浮遊導電板62が電気的浮遊状態で設けられている。また、浮遊導電板62の表面には、電気絶縁性である被覆膜64が形成されており、インクへの電荷注入等によりインクの物性や成分が不安定化することを防止する。絶縁性被覆膜の電気抵抗は、1012Ω・cm以上が好ましく、より望ましくは1013Ω・cm以上である。また、絶縁性被覆膜はインクに対して耐腐食性であることが望ましく、これにより、浮遊導電板62がインクに腐食されることが防止される。また、浮遊導電板62は下方から絶縁部材66で覆われており、このような構成により、浮遊導電板62は完全に電気的絶縁状態にされている。
【0078】
浮遊導電板62は、ヘッド1ユニットにつき1個以上である(例えば、C、M、Y、Kの4つのヘッドがあった場合、浮遊導電板数は最低各1個ずつ有し、CとMのヘッドユニット間で共通の浮遊導電板とすることはない)。
【0079】
図3に示すように、インクジェットヘッド70からインクを飛翔させて被記録媒体Pに記録するには、インク流路72内のインクを循環させることによりインク流Qを発生させた状態にし、ガード電極50に所定の電圧(例えば+100V)を印加する。更に、インクガイド部78に案内されて開口75から飛翔したインク滴G中の正の荷電粒子Rが被記録媒体Pにまで引きつけられるような飛翔電界が、第1吐出電極46及び第2吐出電極56と、被記録媒体Pとの間に形成されるように、第1吐出電極46、第2吐出電極56及び被記録媒体Pに正電圧を印加する(ギャップdが500μmである場合に、1kV〜3.0kV程度の電位差を形成することを目安とする)。
【0080】
この状態で、画像信号に応じて第1吐出電極46及び第2吐出電極56にパルス電圧を印加すると、荷電粒子濃度が高められたインク滴Gが開口75から吐出する(例えば、初期の荷電粒子濃度が3〜15%である場合、インク滴Gの荷電粒子濃度が30%以上になる)。
その際、第1吐出電極46と第2吐出電極56の両者にパルス電圧が印加された場合にのみインク滴Gが吐出するように、第1吐出電極46と第2吐出電極56とに印加する電圧値を調整しておく。
【0081】
このように、パルス状の正電圧を印加すると、開口75からインク滴Gがインクガイド部78に案内されて飛翔し、被記録媒体Pに付着すると共に、浮遊導電板62には、第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加された正電圧により正の誘導電圧が発生する。第1吐出電極46及び第2吐出電極56に印加される電圧がパルス状であっても、この誘導電圧はほぼ定常的な電圧である。従って、浮遊導電板62及びガード電極50と、被記録媒体Pとの間に形成される電界によって、インク流路72内で正に帯電している荷電粒子Rは上方へ移動する力を受け、基板74の近傍で荷電粒子Rの濃度が高くなる。図3に
示すように、使用する吐出部(すなわちインク滴を吐出させるチャンネル)の個数が多い場合、吐出に必要な荷電粒子数が多くなるが、使用する第1吐出電極46及び第2吐出電極56の枚数が多くなるため、浮遊導電板62に誘起される誘導電圧は高くなり、被記録媒体側へ移動する荷電粒子Rの個数も増大する。
【0082】
上記では、着色粒子が正荷電に帯電している例について説明したが、着色粒子は負荷電に帯電されていてもよい。その場合には、上記の帯電極性は、すべて逆極性となる。
【0083】
なお、本発明においては、被記録媒体へのインク吐出後、適切な加熱手段によりインクを定着することが好ましい。用いられる加熱手段としては、ヒートローラー、ヒートブロック、ベルト加熱等の接触式加熱装置、及びドライヤー、赤外線ランプ、可視光線ランプ、紫外線ランプ、温風式オーブン等の非接触式加熱装置を用いることができる。これらの加熱装置は、インクジェット記録装置と連続し、一体となっていることが好ましい。定着時の被記録媒体の温度は、定着の容易さから、40℃〜200℃の範囲内であることが好ましい。また、定着の時間は、1マイクロ秒〜20秒の範囲内であることが好ましい。
【0084】
[インク組成物の補充]
静電界を利用したインクジェット記録方式では、インク組成物中の荷電粒子が濃縮されて吐出する。したがって、長時間インクの吐出を行うと、インク組成物中の荷電粒子が減量し、インク組成物の電気伝導度が低下する。また、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度との割合が変化する。さらに、吐出の際、直径の小さな荷電粒子よりも大きな荷電粒子が優先して吐出する傾向にあるため、荷電粒子の平均直径が小さくなる。また、インク組成物中の固形物の含有量が変化するため、粘度も変化する。これら物性値の変化により、結果として、吐出不良を起こしたり、記録された画像の光学濃度の低下やインクのにじみが発生する。このため、当初インクタンクへ仕込んだインク組成物よりも、高濃度(固形分濃度が高い)のインク組成物を補充することにより、荷電粒子の減量を防止し、インク組成物の電気伝導度や、荷電粒子の電気伝導度とインク組成物の電気伝導度との割合を一定の範囲に留めることができる。また、平均粒子直径や粘度も維持することができる。さらに、インク組成物の物性値を、一定の範囲内に保つことにより、インク吐出が長時間安定して均一に行われる。この際の補充は、例えば、使用しているインク液の電気伝導度や光学濃度等の物性値を検出し、不足量を算出して、機械的または人力で成されることが好ましい。また、画像データを基に使用するインク組成物の量を算出し、機械的または人力で成されてもよい。
【0085】
[被記録媒体]
本発明においては、用途に応じて様々な被記録媒体を用いることができる。例えば、紙、プラスチックフィルム、金属、及び、プラスチックまたは金属がラミネートまたは蒸着された紙、金属がラミネートまたは蒸着されたプラスチックフィルム等を用いれば、インクジェット記録することにより、直接印刷物を得ることができる。被記録媒体の形状は、シート状のように平面的であっても、円筒形状のように立体的であってもよい。
【0086】
[定着]
本発明においては、被記録媒体へのインク吐出後、適当な加熱手段によりインクを定着することが好ましい。用いられる加熱手段としては、ヒートローラー、ヒートブロック、ベルト加熱等の接触式加熱装置および、ドライヤー、赤外線ランプ、可視光線ランプ、紫外線ランプ、温風式オーブン等の非接触式加熱装置を用いることができる。これらの加熱装置は、インクジェット記録装置と連携し、一体となっていることが好ましい。
【0087】
以上記述した本発明のインク組成物は長期間の保存安定性を有し、インク滴の吐出を長時間安定して行うことができる。さらに、上述したインクジェット記録装置を用いること
により、インクにじみがなく、かつ画像濃度の高い高画質の画像記録物を、長時間に渡って得ることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
<実施例1>
<使用した材料>
本実施例1においては、下記の材料を使用した。
【0090】
・シアン顔料(色材) フタロシアニン顔料 C.I.Pigment Blue(15:3)(東洋インキ製造(株)製、LIONOL BLUE FG−7350)
・被覆剤 [AP−1]
・分散剤 [BZ−1]
・荷電調整剤 [CT−1]
・分散媒 アイソパーG(エクソン社(株)製)
【0091】
被覆剤[AP−1]、分散剤[BZ−1]、荷電調整剤[CT−1]の構造を以下に示す。
【0092】
【化6】

【0093】
被覆剤[AP−1]は、スチレン、4−メチルスチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ドデシルおよびメタクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルを公知の重合開始剤を用いてラジカル重合し、さらに、メチルトシラートと反応させることにより得た。質量平均分子量は、15,000であり、多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、2.7であった。ガラス転移点(ミッドポイント)は51℃であった。
分散剤[BZ−1]は、メタクリル酸ステアリル70質量%及びスチレンモノマー30質量%を、2−メルカプトプロピオン酸3質量%存在下ラジカル重合させ、末端にカルボキシル基を有するポリマー(質量平均分子量は8,600)を得た。
荷電調整剤[CT−1]は、1−オクタデセンと無水マレイン酸のコポリマーに、1−ヘキサデシルアミンを反応させることにより得た。質量平均分子量は、17,000であった。
【0094】
<インク組成物[EC−1]の作成>
シアン顔料10g、被覆剤[AP−1]20gを、入江商会(株)製卓上型ニーダーPBV−0.1に入れ、ヒーター温度を100℃に設定し2時間加熱混合した。得られた混合物30gをトリオサイエンス(株)製トリオブレンダーにて粗粉砕し、さらに協立理工(株)製SK−M10型サンプルミルにて微粉砕した。得られた微粉砕物30gを、分散剤[BZ−1]7.5g、アイソパーG75g、および直径約3.0mmのガラスビーズと共に、東洋精機製作所(株)製ペイントシェーカーにて予備分散した。ガラスビーズを除去した後、直径約0.6mmのジルコニアセラミックビーズと共に、シンマルエンタープライゼズ(株)製TypeKDLダイノミルにて、内温を25℃に保ちながら5時間、引き続き45℃で5時間、2,000rpmの回転数で分散(粒子化)した。得られた分散液からジルコニアセラミックビーズを除去し、アイソパーG316gと荷電調整剤[CT−1]0.6gを加え、インク組成物[EC−1]を得た。
【0095】
<インクジェット記録>
図1〜3に示すインクジェット記録装置に、実施例1のインク組成物[EC−1]をインクタンクに充填した。ここでは吐出ヘッドとして図2に示すタイプの150dpi(チャンネル密度50dpiの3列千鳥配置)、833チャンネルヘッドを使用し、また定着手段として1kWのヒータを内蔵したシリコンゴム性ヒートローラを使用した。インク温度管理手段として投げ込みヒータと攪拌羽をインクタンク内に設け、インク温度は30℃に設定し、攪拌羽を30rpmで回転しながらサーモスタットで温度コントロールした。ここで攪拌羽は沈澱・凝集防止用の攪拌手段としても使用した。またインク流路を一部透明とし、それを挟んでLED発光素子と光検知素子を配置し、その出力シグナルによりインクの希釈液(アイソパーG)あるいは濃縮インク(上記インク組成物の固形分濃度を2倍に調整したもの)投入による濃度管理を行った。被記録媒体としてオフセット印刷用微コート紙を使用した。エアーポンプ吸引により被記録媒体表面の埃除去を行った後、吐出ヘッドを画像形成位置まで被記録媒体に近づけ、記録すべき画像データを画像データ演算制御部に伝送し、搬送ベルトの回転により被記録媒体を搬送させながら吐出ヘッドを逐次移動しながらインク組成物を吐出して2400dpiの描画解像力で画像を形成した。搬送ベルトとして、金属ベルトとポリイミドフィルムを張り合わせたものを使用し、このベルトの片端付近に搬送方向に沿ってライン状のマーカーを配置し、これを搬送ベルト位置検知手段で光学的に読みとり、位置制御手段を駆動して画像形成を行った。この際、光学的ギャップ検出装置による出力により吐出ヘッドと被記録媒体の距離は0.5mmに保った。また吐出の際には被記録媒体の表面電位を−1.5kVとしておき、吐出をおこなう際には+500Vのパルス電圧を印加し(パルス巾50μsec)、15kHzの駆動周波数で画像形成を行った。
【0096】
[描画性]
インクジェット記録により得られたグレースケール画像記録物(印刷物)にて、筋ムラ、インクのにじみを目視評価した。その結果、極めて鮮明な画像であり、画像形成不良等は全く見られず、また外気温の変化、記録時間の増加によってもドット径変化等による画像劣化は全く見られず、良好な画像形成が可能であった。
[乾燥付着性]
インクジェット記録におけるランニング時の詰まり等の安定性を反映する評価項目であり、アルミ表面に作成したインクを1滴付着させ、1時間自然乾燥した後、アイソパーGに30秒間浸漬し、アルミ表面に残存するインク量を目視評価することで評価した。
[再分散性]
50ccガラスサンプル瓶に8割程度インクを入れ、1日間自然放置した後、2本の回転ローラー間で回転させ、沈降しているインク粒子が再度分散される時間を測定し、再分散性の評価基準とした。
結果を表1に示す。
【0097】
<比較例1および2>
実施例1において、分散剤[BZ−1]の替わりに、下記の分散剤[DZ−1]または[DZ−2]を使用した。それ以外は、実施例1を繰返した。結果を表1に示す。
【0098】
【化7】

【0099】
【表1】

【0100】
表1において、描画性の評価は、描画画像の滲みの程度を目視評価したものであり、○:滲みなし、△:若干滲み発生、×:滲み発生である。
乾燥付着性の評価は、○:付着なし、△:部分的に付着、×:全面的に付着である。
再分散性の評価は、○:2分未満、△:5分未満、×:5分以上である。
【0101】
実施例1では酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有する分散剤BZ−1を使用しているため、荷電粒子表面での分散剤のテール吸着がおこり、有効な立体反撥安定化が発現され、1μmを超える粒子かつ微小粒子の少ない粒子径分散度の狭い目標の粒子形成が可能であり、描画性能も良好に再現できる。
さらに、インク粒子表面において、分散剤の密な吸着層を形成できることから、乾燥付着性及び再分散性が良化する。
反面、比較例1,2の分散剤では、酸性基、酸性基を中和してなる塩の少なくともいず
れか及び塩基性基、塩基性基をイオン対化してなる塩の少なくともいずれかをポリマー主鎖末端部分に含有しないポリマーのため本発明の実施例1のような分散剤の有効な立体反撥安定化が発現できず目標の粒子形成が難しく、描画性能も悪い。
さらに、インク粒子表面において、分散剤の密な吸着層を形成できないため、粒子間での凝集・融着が進みやすく、乾燥付着性及び再分散性が悪い。
【0102】
<実施例2〜19>
分散剤として表2に示す化合物を用い、実施例1と同様な方法にて、インクを作成し、インクジェット描画性及び乾燥付着・再分散性を評価した。
【0103】
【表2】

【0104】
実施例2〜19は、インクジェット描画性及び乾燥付着・再分散性において、実施例1同様良好な結果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明に用いるインクジェット印刷装置の一例を模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明のインクジェット記録装置のインクジェットヘッドの構成を示す斜視図である(判りやすくするために、各吐出部でのガード電極のエッジは描いていない)。
【図3】図2に示す、インクジェットヘッドの吐出部の使用数が多いときの荷電粒子の分布状態を示す側面断面図である(図2の矢視X−Xに相当)。
【符号の説明】
【0106】
G 飛翔したインク滴
P 被記録媒体
Q インク流
R 荷電粒子
1 インクジェット記録装置
2 吐出ヘッド
3 インク循環系
4 ヘッドドライバ
5 位置制御手段
6A〜6C 搬送ベルト張架ローラ
7 搬送ベルト
8 搬送ベルト位置検知手段
9 静電吸着手段
10 除電手段
11 力学的手段
12 フィードローラ
13 ガイド
14 画像定着手段
15 ガイド
16 被記録媒体位置検知手段
17 排出ファン
18 溶媒蒸気吸着材
38 インクガイド
40 支持棒部
42 インクメニスカス
44 絶縁層
46 第1吐出電極
48 絶縁層
50 ガード電極
52 絶縁層
56 第2吐出電極
58 絶縁層
62 浮遊導電板
64 被覆膜
66 絶縁部材
70 インクジェットヘッド
72 インク流路
74 基板
75、75A、75B 開口
76、76A、76B 吐出部
78 吐出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を少なくとも含む荷電粒子と分散媒とを含有するインクジェット記録用インク組成物において、該荷電粒子が、酸性基、酸性基を中和してなる塩、塩基性基および塩基性基をイオン対化してなる塩からなる群から選択される少なくとも一種をポリマー主鎖末端部分に含有する分散媒可溶ポリマーにより分散媒に分散されていることを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】
該荷電粒子が機械的メディア分散方法により作成され、遠心沈降法での体積平均粒子直径の1/5以下に相当する体積平均粒子直径の粒子が1%以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のインクジェット記録用インク組成物を用いて、静電界を利用したインクジェット記録方式によりインク滴を飛翔させることを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−70085(P2006−70085A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252215(P2004−252215)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】