説明

インクジェット記録用反応液、インクジェット記録方法及びインクジェット記録用インクセット

【課題】着色顔料インクと共に使用することで、インクジェット記録方式で普通紙に印字を行う際の大きな課題であるブリーディングを改善し、裏抜けを起こさず、定着性と発色性を両立させた画像の形成を可能とし、従来よりはるかに長期にわたる連続吐出が可能で安定した画像形成を達成できるインクジェット記録用反応液、それを用いたインクジェット記録方法及びインクセットの提供。
【解決手段】着色顔料インクと共に使用され、該着色顔料インクと接触すると反応を生じるインクジェット記録用反応液であって、(a)多価金属塩と、(b)コハク酸類と、(c)液媒体とを含むことを特徴とするインクジェット記録用反応液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体(とりわけ普通紙)に対して高画質なカラー画像の形成を可能とするインクジェット記録用反応液、インクジェット記録方法及びインクジェット記録用インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェット記録ヘッドから記録液(着色インク)の微小液滴を吐出し、飛翔させ、紙などの記録媒体に付着させて記録を行うものである。飛翔のための吐出エネルギーを供給する手段としては、電気熱変換体を用い、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させる方式など、種々のものがある。中でも上記熱エネルギーを利用した方式では、記録ヘッドの高密度マルチオリフィス化が容易に実現でき、高解像度で高品質の画像を高速で記録できる特徴がある(特許文献1〜3)。
【0003】
しかし、従来から、インクジェット記録に用いられている着色インクには水を主成分とするものが用いられているため、記録媒体として普通紙を用いたときは、良好な画像が得にくいという問題があった。従来より用いられているインクとしては、水を主成分とし、これに乾燥や目詰まり防止などの目的で、グリコールなどの水溶性高沸点溶剤を含有したものが一般的である。中でも特に、カラー画像を得ようとした場合には、先に付与した着色インクが完全に定着する前に異なる色のインクが次々と重ねられるため、上記の問題が顕著に生じることがあった。即ち、この場合には、とりわけ色の境界部分で相互に色が滲み、不均一に混じり合った状態(以下、「ブリーディング」という)となり、満足すべき画像が得られなくなる。
【0004】
特許文献4には、ブリーディングを改善する手段として、記録媒体への浸透性を向上させる界面活性剤などの化合物を着色インクに添加することが開示されている。この方法では、記録媒体への着色インクの浸透速度が高まることでブリーディングはある程度抑制されるが、下記のような課題があった。即ち、インク中の着色剤が界面活性剤の効果により記録媒体の奥深くまで入り込んでしまい、画像の濃度や鮮明性が低下すると共に、記録媒体の裏面にまでインクが達し、裏面から画像が透けて見える状態(以下「裏抜け」という)となるなどの不都合があった。また、記録媒体表面に対する濡れ性も同時に高まるため、着色インクが記録媒体上を広がり易くなり、結果として解像性を低下させて画像が滲んだように見えるなどの問題もあった。
【0005】
別の手段として、着色インクの吐出に先立って記録媒体上に画像をよくする別の液体(反応液)を付与させる方法が種々提案されている。例えば、特許文献5には、記録媒体上に予め、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのポリマーの溶液を付与してから着色インクにより記録する方法が開示されている。しかし、この方法では、ブリーディングの発生の問題を改善することができるものの画像の乾燥に時間がかかり、定着性に問題があった。
【0006】
そして、これを改善するために、特許文献6には、1分子当り2個以上のカチオン性基を有する有機化合物を含有する液体を付与した後、アニオン染料を含有した着色インクにより記録する方法が開示されている。また、特許文献7には、酸性液体を付与した後、着色インクにより記録する方法が開示されている。
【0007】
しかし、いずれの場合においてもブリーディングの発生の問題は改善されるものの、反応液の反応性がそれほど高くないために、記録媒体内部で反応の大半が起こり、結果として発色性が向上しない問題や、前述した裏抜けの問題が依然として残されていた。
【0008】
これに対しては、より効果的な材料を使った方法として特許文献8には、多価金属イオンとカルボキシル基の反応を利用してブリーディングを抑制する方法が開示されている。さらに、特許文献9には、顔料と樹脂エマルジョンと多価金属塩による反応によってブリーディングを改善する方法が開示されている。これらの多価金属イオンを含むインクジェット記録用反応液は、反応液としての効果は優れるものの、記録媒体に付与するインクジェット記録方式が熱エネルギーの作用によるものである場合、下記のような問題があった。即ち、このような多価金属イオンを含む反応液では、吐出速度が駆動周波数により大きく変動するという問題と、該反応液を長時間にわたり連続吐出させると吐出そのものが停止してしまう、という問題があった。
【0009】
前記の反応液の吐出速度が駆動周波数により変動するという問題に関しては、特許文献10に、硝酸アンモニウムに代表されるある種の塩を反応液に添加することにより改善されることが開示されている。しかし、この場合には、吐出速度の駆動周波数依存性は改善されるものの、逆に、連続吐出で吐出が停止してしまう傾向がより顕著となるなどの問題があった。また、特許文献11には、多価金属イオンを含む反応液にアミノ基を有する酸を添加することで連続吐出特性を改善されることが開示されているが、より長期にわたる連続吐出特性については触れられていない。
【0010】
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特公昭61−59912号公報
【特許文献3】特公昭61−59914号公報
【特許文献4】特開昭55−65269号公報
【特許文献5】特開昭56−89595号公報
【特許文献6】特開昭63−29971号公報
【特許文献7】特開昭64−9279号公報
【特許文献8】特開平5−202328号公報
【特許文献9】特開平9−207424号公報
【特許文献10】特開2000−136337公報
【特許文献11】特開2002−172847公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上、述べてきたように、ブリーディングや裏抜けを改善する手段の一つとして、着色インクと反応液を用いた有効な提案は種々されているが、いずれの場合においても、ある程度の改善は見られるものの全ての課題を満足するには至っていない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、下記のような画像形成を実現できるインクジェット記録用反応液、それを用いた記録方法、さらには、上記反応液と着色顔料インクとを組み合わせてなるインクセットを提供することにある。即ち、インクジェット記録方法で普通紙に印字を行う際の大きな課題であるブリーディングの問題を改善し、裏抜けを起こさず、定着性と発色性とを両立させた良好な画像の形成を可能とすることにある。さらにこれに加えて、従来よりはるかに長期にわたる連続吐出が可能なインクジェット記録用反応液を提供することで、上記優れた画像の形成を安定して行うことを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、着色顔料インクと共に使用され、該着色顔料インクと接触すると反応を生じるインクジェット記録用反応液であって、(a)多価金属塩と、(b)コハク酸類と、(c)液媒体とを含むことを特徴とするインクジェット記録用反応液である。特に、(b)のコハク酸類が、コハク酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、メチレンコハク酸(イタコン酸)、クロロコハク酸、及び、これらの塩から選ばれる化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明の別の実施形態は、上記のインクジェット記録用反応液を用いたインクジェット記録方法であって、該インクジェット記録用反応液にエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し、該反応液を記録媒体上に付与した後に又は付与する前に、着色顔料インクにエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与し、これらの付与を、該記録用反応液と該着色顔料インクとが記録媒体上で接触して配置されるようにして行うことを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0015】
本発明の別の実施形態は、少なくとも、上記のインクジェット記録用反応液と、このインクジェット記録用反応液との接触によって反応を起こす着色顔料インクとが組み合わされてなることを特徴とするインクジェット記録用インクセットである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、着色顔料インクと共に本発明のインクジェット記録用反応液を用いることにより、普通紙に画像形成を行った場合に、ブリーディングのない、発色性も良好な高画質なカラー画像の形成を行うことが可能となる。同時に、画像形成方法が熱エネルギーの作用により反応液を記録媒体に付与する方式でも、本発明のインクジェット記録用反応液は吐出特性を損なわせることがないため、結果として、鮮明で安定した画像を長期にわたり連続して得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明のインクジェット記録用反応液は、少なくとも、着色顔料インクと共に使用され、該着色顔料インクと接触すると反応を生じるものであって、(a)多価金属塩と、(b)コハク酸類と、(c)液媒体とを含むことを特徴とする。以下、これらの構成材料についてそれぞれ説明する。
【0018】
[インクジェット記録用反応液]
(a)多価金属塩
本発明のインクジェット記録用反応液には、反応剤として多価金属塩が含有される。多価金属塩とは、二価以上の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成されるものをいう。多価金属塩を構成する多価金属イオンとしては特に限定されないが、具体例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉄(II)、銅(II)、亜鉛などの二価金属イオン、鉄(III)及びアルミニウムなどの三価金属イオンが挙げられる。また、陰イオンとしては特に限定されるものではないが、具体例としては例えば、臭化物イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。
【0019】
上記したような二価以上の多価金属イオンと、陰イオンとから構成される多価金属塩の具体例としては、特に限定されるものではないが、下記に列挙するようなものが使用できる。例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化鉄(II)、塩化銅(II)、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)などの塩化物。臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、臭化鉄(II)、臭化銅(II)、臭化亜鉛などの臭化物。硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸鉄(II)、硝酸銅(II)、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウムなどの硝酸塩。酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸鉄(II)、酢酸銅(II)、酢酸亜鉛などの酢酸塩。乳酸マグネシウム、乳酸カルシウムなどの乳酸塩。グリセロリン酸マグネシウム、グリセロリン酸カルシウム及びミョウバンなどが挙げられる。これらは、通常の形態で結晶水を含むものでもよい。
【0020】
多価金属塩の添加量は特に限定されるものではないが、着色顔料インクと反応させて瞬時に凝集物を形成するに十分な濃度であればよい。例えば、多価金属イオン換算の濃度として0.13モル/kg以上1.2モル/kg以下(反応液)、より好ましくは、0.2モル/kg以上0.8モル/kg以下(反応液)、が好適な範囲である。反応液中における多価金属イオン換算の濃度がこれより低くなると反応液としての効果が極端に低下し、高すぎても効果の向上は見られず、析出物の発生や粘度が高くなるなどの別の問題が生じるおそれがあるので好ましくない。
【0021】
(c)液媒体
本発明のインクジェット記録用反応液は、上記に挙げたような多価金属塩を液媒体中に含んでなる。液媒体としては、水、水溶性有機溶剤、その他の各種添加剤が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、具体例としては、下記に挙げるものを使用できる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコールなどのグリコール類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパンなどのトリオール類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。これらは、単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明のインクジェット記録用反応液中の上記水溶性有機溶剤の含有量については特に限定されるものではないが、反応液全質量の3質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以上30質量%以下が好適な範囲である。
【0023】
液媒体として使用される各種添加剤としては、例えば、界面活性剤、消泡剤、防腐剤などの他、記録後に記録媒体が反るのを抑制する所謂「カール抑制剤」なども適宜用いることができる。
【0024】
(b)コハク酸類
以上が本発明のインクジェット記録用反応液の基本組成であるが、本発明の反応液は、これらに加えて、さらにコハク酸類を構成成分として含有してなることを特徴とする。本発明で使用されるコハク酸類としては特に限定されないが、具体例としては、下記のものが挙げられる。コハク酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸などの低級アルキル基置換コハク酸、メチレンコハク酸(イタコン酸)などの低級アルケニル基置換コハク酸、クロロコハク酸などのハロゲン置換コハク酸及びその塩などである。本発明のインクジェット記録用反応液を構成するコハク酸類の含有量としては、特に限定されるものではないが、下記の範囲で添加させることが好ましい。0.0005モル/kg以上0.15モル/kg以下(反応液)の範囲が好ましく、反応液中の多価金属イオンに対してモル比で、1/300以上含まれることが望ましい。なお、添加量がこれ以下では、下記に挙げるような所定の効果が期待できないので好ましくない。
【0025】
本発明者らの検討によれば、反応液中にコハク酸類を添加することで、特に下記の効果が期待できる。熱エネルギーの作用により該反応液を吐出させる際の、吐出速度の周波数依存性、即ち、駆動周波数が高くなるにつれて、液滴の吐出速度が低下、乃至は停止する現象、及び、長時間に亘る連続吐出耐久性能の低下現象の双方が改善される。
【0026】
反応液中に前記したようなコハク酸類を添加させることにより、このような効果が得られるメカニズムの詳細は不明である。しかし、「何も添加しないと、熱エネルギーを反応液に付与するヒーター表面上に析出物が発生し、その後ヒーター表面が荒れて断線に至る」という現象が、コハク酸類の添加で大幅に抑制されることが認められるため、以下のように想定している。つまり、多価金属塩は、ヒーター表面上の熱化学反応により、局所的に極めて強いアルカリ環境を形成すると共に一部は酸化物となり析出を起こす。ヒーター表面は耐腐食性の材料で保護されているものの、強アルカリ環境の状態が長く続くとヒーター表面がダメージを受けてしまうため、何らかの方法で中和することが必要である。ところが一般的に知られている酸では、中性〜弱アルカリ性の環境ですぐにプロトンを放出してしまうため、局所的な箇所の中和に有効ではなかった。
【0027】
これに対し、コハク酸類は、25℃におけるpKa値が比較的大きな弱酸となる第二段目の酸基を持つという特徴があり、極度にアルカリの強い場合にのみ中和のためのプロトンを放出する。このため、ヒーター表面の近傍という強アルカリ環境の箇所のみを選択的に中和することができ、これらの効果が得られたものと推測される。また、コハク酸類は、その分子内に、25℃におけるpKa値が比較的小さな強酸となる酸基も同時に持つため、反応液中での溶解性が高まり、分子としての拡散性が向上し局所的な部分の中和にさらに寄与したものと考えている。なお、ここで言うpKaとは、酸解離定数Kaの逆数の対数値を表すものであり、数値が小さいほど強い酸を意味し、数値が大きいほど弱い酸を意味する。
【0028】
また、上記に例示したコハク酸類の化合物の中には、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させる方式でのインクのコゲ防止に有効ということで、これまでに使用されることもあった。しかし、本発明とはメカニズムが根本的に異なり、例えば、効果的なコゲ防止剤として知られているクエン酸がコハク酸とは全く逆の作用を示すなど、コゲ防止だけを目的として使用されてきた化合物類では本発明の効果を得ることができないことも分かっている。
【0029】
本発明のインクジェット記録用反応液は、無色であることが好ましいが、記録媒体上で着色顔料インクと混合された際に、各色インクの色調を変えない範囲の淡色のものでもよい。さらに、以上のような本発明における反応液の各種物性としては、下記の範囲とすることが好適である。pHが1.0乃至6.0の範囲、25℃での粘度が1mPa・s以上30mPa・s以下の範囲、表面張力が28mN/m以上52mN/m以下の範囲となるように調整されたものが好ましい。
【0030】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、上記構成を有するインクジェット記録用反応液と、このインクジェット記録用反応液との接触によって反応を起こす着色顔料インクとの組み合わせを少なくとも有することを特徴とする。また、本発明のインクジェット記録方法は、上記構成を有するインクジェット記録用反応液を用いて下記のように構成したことを特徴とする。本発明のインクジェット記録用反応液にエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し、該反応液を記録媒体上に付与した後に又は付与する前に、着色顔料インクにエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与する。その際に、これらの付与を、該記録用反応液と該着色顔料インクとが記録媒体上で接触して配置されるようにして行う。以下、上記で使用する着色顔料インクについて説明する。
【0031】
[着色顔料インク]
本発明で使用される着色顔料インク(以下、顔料インクと呼ぶ)は、本発明のインクジェット記録用反応液との接触によって反応を起こすものであればよく、このようなものであれば、従来よりインクジェット記録に使用されている顔料インクを使用できる。従来よりインクジェット記録に使用されている顔料インクの基本構成は、顔料を水性液媒体に分散させてなるものである。
【0032】
(顔料)
顔料インクを構成する顔料としては、従来と同様のものが使用できる。具体的には、黒色の顔料としてはカーボンブラックが挙げられ、例えば、ファーネス法、チャネル法で製造された、下記のような特性を有するカーボンブラックを用いることができる。即ち、一次粒子径が15nm以上40nm以下、BET法による比表面積が50m2/g以上300m2/g以下、DBP吸油量が40ml/100g以上150ml/100g以下、揮発分が0.5%以上10%以下、pH値が2乃至9などのものが好ましい。
【0033】
このような特性を有する市販品としては、例えば、下記に挙げるものがあり、いずれも好ましく使用することができる。No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化学社製)。RAVEN1255(以上、コロンビア製)。REGAL400R、REGAL330R、REGAL660R、MOGUL L(以上キャボット社製)。Color Black FWl、Color Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex 35、Printex U(以上、デグッサ社製)など。
【0034】
また、カラー顔料としては、一次粒子径が15nm以上300nm以下程度の特性を有するものが好適に用いられ、具体的には、下記に挙げるものがあり、いずれも好ましく使用することができる。イエローの顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、13、16、17、74、83、109、110、128、138、180などが挙げられる。マゼンタの顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、112、122、254、C.I.ピグメントバイオレット 19などが挙げられる。シアンの顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15:3、16、22、C.I.バットブルー 4(C.I.ピグメントブルー 60)、6などが挙げられる。勿論、本発明は、これらに限られるものではない。また、以上の他、自己分散型顔料など、新たに製造された顔料も、勿論、使用することが可能である。また、本発明で使用される顔料インク中の顔料は、顔料インクの全質量に対して、質量比で1質量%以上20質量%以下、好ましくは2質量%以上12質量%以下の範囲で用いるとよい。
【0035】
(分散剤)
また、本発明で使用される顔料インクは、上記に挙げた顔料が、下記に挙げるような分散剤によって液媒体中に分散されてなるものであってもよい。顔料の分散剤としては、親水性の材料ならどのようなものでもよいが、具体的には、親水性樹脂や界面活性剤などが挙げられる。このような顔料の分散剤として働く親水性樹脂は、原料となる単量体を重合することで得られる。この際に使用される単量体の具体例としては特に限定されるものではないが、下記に挙げるようなものを使用することができる。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−スチレンスルホン酸及びその塩などのスチレン類。1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンなどのビニルナフタレン類。(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸類。マレイン酸及びその塩、マレイン酸ジメチル、無水マレイン酸などのマレイン酸類。イタコン酸及びその塩、イタコン酸モノメチル及びその塩、イタコン酸ジメチルなどのイタコン酸類。フマル酸及びその塩、フマル酸ジメチルなどのフマル酸類。(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩などの(メタ)アクリルアミド類。N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドンなどが挙げられる。これらの少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性の単量体又は適当な処理を施せば親水性になる単量体)を用いて共重合することで、顔料の分散剤として有効な親水性樹脂が得られる。
【0036】
上記した親水性樹脂の立体構造としては、ブロック共重合体、グラフト共重合体、或いは、ランダム共重合体のいずれでもよい。また、重合方法は、ラジカル重合、イオン重合など、使用する単量体に応じて適宜選択すればよい。或いは、ロジン、シェラック、デンプンなどの天然樹脂も好ましく使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。その好ましい重量平均分子量は1,000以上30,000以下の範囲であり、さらに好ましくは、3,000以上15,000以下の範囲である。なお、これらの親水性樹脂を顔料の分散剤として用いる際は、顔料インクの全質量に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲で含有させるのが好ましい。
【0037】
また、顔料の分散剤として働く界面活性剤としては特に限定されるものではないが、アニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、両性型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤などが挙げられ、一般に使用されているものをいずれも好ましく使用することができる。本発明で使用することのできるアニオン型界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩などの炭素数12乃至18の脂肪酸石けん類。ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのアルキルベンゼンスルホン酸塩類。イソプロピルナフタレンスルホン酸塩などのアルキルナフタレンスルホン酸塩類。ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸エステル塩などのジアルキルスルホコハク酸エステル塩類。硫酸化油類。ドデシル硫酸エステル塩などの炭素数12乃至18の高級アルコール硫酸エステル塩類。ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸塩などのアルキルエーテル硫酸塩類。ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩などのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩類。ポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸エステル塩などのアルキルエーテルリン酸エステル塩類。ドデシルリン酸エステル塩、オクタデシルリン酸エステル塩などのアルキルリン酸エステル塩類などである。
【0038】
本発明で使用することのできるカチオン型界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、オクチルアミン塩、ドデシルアミン塩、ステアリルアミン塩などの炭素数8乃至24の脂肪族アミン塩類。オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリドなどの脂肪族4級アンモニウム塩類。ベンザルコニウム塩類。ベンゼトニウム塩類。セチルピリジニウムクロリドなどの炭素数12乃至18のピリジニウム塩類。イミダゾリニウム塩類などである。
【0039】
本発明で使用することのできる両性型界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、ラウリルジメチルベタインなどのカルボキシベタイン類、N−ドデシルグリシンなどのアミノカルボン酸塩類、2−ドデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどのイミダゾリニウムベタイン類などである。
【0040】
本発明で使用することのできるノニオン型界面活性剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどの炭素数12乃至22のポリオキシエチレンアルキルエーテル類。ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類。アセチレンジオールのポリオキシエチレン付加物類。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー及びそのアルキルエーテル類。ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類。ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類。ポリエチレングリコールラウリルエステルなどのポリエチレングリコール脂肪酸エステル類。ソルビタン脂肪酸エステル類などである。
【0041】
これらの界面活性剤は、単独で用いても、2種以上適宜組み合わせて用いてもよい。特に、これらの界面活性剤や前記した樹脂分散剤などを適宜に用いて、反応液中の多価金属塩と好ましい反応性を持たせるために、分散された顔料粒子がマイナスに帯電するように設計することが好ましい。
【0042】
(pH調整)
上記したような顔料と分散剤が含有されてなる顔料インクは、中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。このようにすれば、分散剤として使用される親水性の材料の溶解性を向上させ、長期保存性に一層優れた顔料インクとすることができる。ただし、この場合、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、pHを、7乃至10の範囲とするのが望ましい。
【0043】
この際に使用されるpH調整剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記に挙げるようなものを使用できる。ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などの無機アルカリ剤。酢酸、乳酸などの有機酸や、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸などである。
【0044】
(水性液媒体)
本発明で使用される顔料インクにおいて好適な水性液媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒であり、水と混合して使用される水溶性有機溶剤は、特に限定されるものではないが、具体的には下記のものを挙げることができる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコールなどのグリコール類。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類。グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパンなどのトリオール類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどである。これらは単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。これらの水溶性有機溶剤のインク中における含有量は、特に限定されるものではないが、一般的には、顔料インク全質量の3質量%以上50質量%以下の範囲、より好ましくは3質量%以上40質量%以下の範囲である。
【0045】
(添加剤)
また、本発明における顔料インクとしては、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性を得るために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤などを適宜に添加することができる。特に浸透促進剤として機能する界面活性剤は、記録媒体に反応液と顔料インクの液体成分を速やかに浸透させる役割を担うための適量を添加する必要がある。添加量の例としては、0.05質量%以上10質量%以下、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下が好適である。
【0046】
界面活性剤としては、アニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、両性型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤などが挙げられ、一般に使用されているものをいずれも好ましく使用することができる。具体的な界面活性剤としては、先に顔料の分散剤として例示したものなどがいずれも使用できる。
【0047】
(顔料インクの作製方法)
上記したような材料からなる顔料インクの作製方法としては、先ず、分散剤としての親水性の材料と水とが少なくとも含有された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。またこの際、分散処理する前に、プレミキシングを30分間以上行うのが効果的である。即ち、このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0048】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル及びサンドミルなどが挙げられる。その中でも、高速型のサンドミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0049】
また、インクジェット記録方法で使用する顔料インクでは、耐目詰り性などの要請から、最適な粒度分布を有する微細な顔料を用いる。この際に用いる所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記のような方法を適用することが挙げられる。即ち、分散機の粉砕メディアのサイズを変更すること、粉砕メディアの充填率を増減すること、処理時間を調節すること、粉砕後フィルタや遠心分離機などで分級すること、及びこれらの手法の組み合わせなどである。
【0050】
次に、上記のようにして得た顔料分散液に、先に挙げた水性液媒体と、必要に応じて先に挙げたような添加剤成分を適宜に加え、撹拌して本発明で使用する顔料インクとする。また、本発明で使用する顔料インクの各種物性としては、下記の範囲とすることが好適である。pHが5.0乃至10.0の範囲、25℃での粘度が1.5mPa・s以上30mPa・s以下の範囲、表面張力が28mN/m以上52mN/m以下の範囲となるように調整されたものが好ましい。
【0051】
上記で説明したようにして得られる本発明のインクジェット記録用反応液と、これと併用させる顔料インクとを組み合わせてセットとする際には、下記のようにすることが好ましい。即ち、これらを組み合わせる場合に、画像形成に使用する記録媒体への浸透性に差をつけた組み合わせとすることが好ましい。具体的には、表面張力の値が異なるものを組み合わせてセットとすることが好ましい。このようにすることで、記録媒体上で反応液と顔料インクとが十分に混合し、その後、速やかに浸透させることができる。このようにすることで、発色性のみならず、高速印字のための定着性をさらに向上させることも可能となる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」又は「%」とあるものは特に断わらない限り質量基準である。
【0053】
[合成例1(顔料分散液の作製)]
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチルからなるランダム共重合体
(酸価200、重量平均分子量=9,000) 1.4部
・モノエタノールアミン 1.0部
・ジエチレングリコール 5.0部
・イオン交換水 81.6部
【0054】
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液にカーボンブラック(FW18、デグサ社製)10部、イソプロピルアルコール1部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:ジルコニウムビーズ、1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積比)
・粉砕時間:3時間
さらに、遠心分離処理(12,000rpm.、20分間)を行い、粗大粒子を除去してブラック(K)顔料分散液とした。
【0055】
[合成例2〜4(顔料分散液の作製)]
合成例1で使用した顔料のカーボンブラック(FW18、デグサ社製)を、それぞれ下記の顔料に代えた以外は合成例1と同様の処理にて、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の各色顔料分散液をそれぞれ得た。即ち、カーボンブラックに代えて、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントレッド7、及び、C.I.ピグメントイエロー74の顔料をそれぞれ用いた。
【0056】
〈製造例1(顔料インクK1の作製)〉
合成例1で得たブラック顔料分散液を使用し、下記の組成比にしたがい、顔料を含有するインクを作製して顔料インクとした。得られた顔料インクの表面張力は38mN/mであった。
・合成例1の顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1.0部
・イオン交換水 54.0部
【0057】
〈製造例2(顔料インクC1の作製)〉
合成例1で得た顔料分散液に代えて合成例2で得たシアン顔料分散液を用いた以外は、製造例1と同様の処方にて顔料を含有した顔料インクC1を調製した。得られた顔料インクの表面張力は37mN/mであった。
【0058】
〈製造例3(顔料インクM1の作製)〉
合成例1で得た顔料分散液に代えて合成例3で得たマゼンタ顔料分散液を用いた以外は、製造例1と同様の処方にて顔料を含有した顔料インクM1を調製した。得られた顔料インクの表面張力は36mN/mであった。
【0059】
〈製造例4(顔料インクY1の作製)〉
合成例1で得た顔料分散液に代えて合成例4で得たイエロー顔料分散液を用いた以外は、製造例1と同様の処方にて顔料を含有した顔料インクY1を調製した。得られた顔料インクの表面張力は37mN/mであった。
【0060】
〈製造例5(顔料インクK2の作製)〉
合成例1で得たブラック顔料分散液を使用し、下記の組成比にしたがい、顔料を含有するインクを作製して顔料インクとした。得られた顔料インクの表面張力は51mN/mであった。
・合成例1の顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 54.9部
【0061】
〈製造例6(顔料インクC2の作製)〉
合成例1で得た顔料分散液に代えて合成例2で得たシアン顔料分散液を用いた以外は、製造例5と同様の処方にて顔料を含有した顔料インクC2を調製した。得られた顔料インクの表面張力は49mN/mであった。
【0062】
〈製造例7(顔料インクM2の作製)〉
合成例1で得た顔料分散液に代えて合成例3で得たマゼンタ顔料分散液を用いた以外は、製造例5と同様の処方にて顔料を含有した顔料インクM2を調製した。得られた顔料インクの表面張力は49mN/mであった。
【0063】
〈製造例8(顔料インクY2の作製)〉
合成例1で得た顔料分散液に代えて合成例4で得たイエロー顔料分散液を用いた以外は、製造例5と同様の処方にて顔料を含有した顔料インクY2を調製した。得られた顔料インクの表面張力は48mN/mであった。
【0064】
〈製造例9(反応液S1の作製)〉
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・コハク酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分を混合溶解した後、さらにポアサイズが0.22μmのメンブレンフィルター(MILLIPORE製)にて加圧濾過し、pHを4.0に調整し、反応液S1を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0065】
〈製造例10(反応液S2の作製)〉
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・コハク酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1.6部
・イオン交換水 78.2部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S2を得た。得られた反応液の表面張力は31mN/mであった。
【0066】
〈製造例11(反応液S3の作製)〉
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸マグネシウム6水和物 12.0部
・コハク酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 77.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを5.0に調整し、反応液S3を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0067】
〈製造例12(反応液S4の作製)〉
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・メチルコハク酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S4を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0068】
〈製造例13(反応液S5の作製)〉
・ジエチレングリコール 8.0部
・メチルアルコール 5.0部
・硝酸カルシウム4水和物 8.0部
・コハク酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 78.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S5を得た。得られた反応液の表面張力は34mN/mであった。
【0069】
〈製造例14〜16(反応液S6〜S8の作製)〉
製造例9〜11で得た反応液S1〜S3の各組成からコハク酸を除き、その減少分を水としたこと以外は同一の組成にて作製し、反応液S6〜S8とした。なお、得られた反応液の表面張力はコハク酸を含む場合と同じであった。
【0070】
〈製造例17(反応液S9の作製)〉
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・クエン酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S9を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0071】
〈製造例18(反応液S10の作製)〉
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・硝酸アンモニウム 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S10を得た。得られた反応液の表面張力は35mN/mであった。
【0072】
〈製造例19(反応液S11の作製)〉
・ジエチレングリコール 10.0部
・硝酸カルシウム4水和物 10.0部
・グルタミン酸 0.2部
・アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 79.7部
上記の成分とした以外は製造例9と同様の処理の後、pHを4.0に調整し、反応液S11を得た。得られた反応液の表面張力は36mN/mであった。
【0073】
〔実施例1〕
製造例1〜4で得た顔料インクK1、C1、M1、Y1、及び製造例9で得た反応液S1を装填した評価検討用インクジェット描画装置と、普通紙(キヤノン(株)製PPC用紙:オフィスプランナー)とを用い、下記の方法で評価した。該普通紙に、上記の装置で、評価画像パターン(ISO JIS−SCID No.5 自転車)の5,000枚連続印字を行った。その際、反応液S1は全ての顔料インクのインクドットに先立って紙に付与させた。印字条件としては、1,200dpiの記録密度を有し、1ドット当たりの吐出体積が4plの記録ヘッドを用い、駆動条件としては、15kHzの駆動周波数により行った。また、印字テストの際の環境条件は、温度25℃、相対湿度55%に統一した。
【0074】
評価方法としては、得られた印字物のブリーディング、即ち、各着色インクが隣接して印字された部分の混色度合いを目視観察し、同時に発色性と裏抜け性も同様に目視観察した。その結果、5,000枚目の印字画像であってもブリーディングの発生箇所は認められず、鮮明な印字物が得られた。また、ブラック及びカラー印字部分の発色性並びに裏抜け性も反応液S1を付与しなかった場合と比較して非常に良好であった。
【0075】
〔実施例2〜10〕
実施例1と同様の評価を、それぞれ表1−1に記載した顔料インクと反応液の組み合わせで行い、実施例1と同様に、ブリーディング、発色性、裏抜け性を目視にて評価した。結果を表1−1にまとめて示した。
【0076】
〔比較例1〕
製造例9で得た反応液S1に代えて、コハク酸を水に置換してなる製造例14で得た反応液S6を用いた以外は実施例1と同様の連続印字試験を行い、ブリーディングを含めた評価を印字物の目視観察により行った。その結果、500枚の印字を経過したあたりから画像の数箇所に発色性の違いに由来する色ムラが発生し始め、700枚以降では画像全体の発色性が不良となった。さらに、2,000枚時点では、反応液を使用しない条件と大差ない画像となったため、これ以上の連続印字試験を中止した。これは記録ヘッドからの反応液の吐出が停止したことが原因とみられた。その後、記録ヘッドのノズルから直接反応液を吸引するなどの手段で回復操作を試みたが、吐出が停止したノズルから再び反応液を吐出させることはできなかった。ここで、吐出が停止したノズルを顕微鏡観察したところ、ヒーター表面が大きく損傷を受けていることが確認された。
【0077】
〔比較例2〜11〕
実施例1と同様の評価を、それぞれ表1−2に記載した顔料インクと反応液との組み合わせで行い、実施例1と同様に、ブリーディング、発色性、裏抜け性を目視にて評価した。結果を表1−2にまとめて示した。
【0078】

【0079】

【産業上の利用可能性】
【0080】
以上説明したように、顔料インクと共に、本発明のインクジェット記録用反応液を用いることにより、普通紙に対してブリーディングのない、また発色性も良好で高画質なカラー画像を得ることができる。また同時に、熱エネルギーの作用により反応液を記録媒体に付与する方式で用いても、本発明のインクジェット記録用反応液は吐出特性を損なわないため、結果として、鮮明で安定した画像を長期にわたり連続して得ることができるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料インクと共に使用され、該着色顔料インクと接触すると反応を生じるインクジェット記録用反応液であって、(a)多価金属塩と、(b)コハク酸類と、(c)液媒体とを含むことを特徴とするインクジェット記録用反応液。
【請求項2】
(b)のコハク酸類が、コハク酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、メチレンコハク酸(イタコン酸)、クロロコハク酸、及び、これらの塩から選ばれる化合物である請求項1に記載のインクジェット記録用反応液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクジェット記録用反応液を用いたインクジェット記録方法であって、該インクジェット記録用反応液にエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し、該反応液を記録媒体上に付与した後に又は付与する前に、着色顔料インクにエネルギーを与えて記録媒体に向けて吐出し記録媒体上に付与し、これらの付与を、該記録用反応液と該着色顔料インクとが記録媒体上で接触して配置されるようにして行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
エネルギーが、熱エネルギーである請求項3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
少なくとも、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用反応液と、このインクジェット記録用反応液との接触によって反応を起こす着色顔料インクとが組み合わされてなることを特徴とするインクジェット記録用インクセット。

【公開番号】特開2009−137055(P2009−137055A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313165(P2007−313165)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】