説明

インクジェット記録用水性インク、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、金属部材の腐食防止方法およびインクジェット記録用水性インクの製造方法

【課題】 耐水性に優れ、かつ、インクジェット記録装置においてインクジェット記録用水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止可能なインクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】 着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、前記着色剤が、カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックを含み、前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度が、45ppm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インク、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、金属部材の腐食防止方法およびインクジェット記録用水性インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録において、自己分散型カーボンブラックを用いた水性インクが使用されることがある。前記自己分散型カーボンブラックは、高分子顔料分散剤を必要としないことから、水性インクの粘度上昇を防止でき、吐出安定性および保存安定性に優れる。特にスルホン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックは、長期の顔料分散安定性が良好なため、広く用いられている。しかし、前記スルホン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックは、耐水性が良好ではない。このため、耐水性に優れた、カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックの使用が望まれる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−8725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックを用いたインクジェット記録用水性インクでは、インクジェット記録装置においてインクジェット記録用水性インクと接触する金属部材に腐食が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、耐水性に優れ、かつ、インクジェット記録装置においてインクジェット記録用水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止可能なインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラック(以下、「カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック」と言うことがある)を含み、
前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度が、45ppm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明者等は、一連の研究を重ねたところ、カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを着色剤として用いた場合、耐水性に優れるとともに、水性インク中のシュウ酸イオンの濃度を45ppm以下にすれば、インクジェット記録装置においてインクジェット記録用水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止可能であることを見出し本発明に想到した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、インクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、単に「水性インク」または「インク」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前述のとおり、前記着色剤は、カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを含む。前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックは、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)300」等があげられる。前記水性インクは、高分子顔料分散剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。前記水性インクが高分子顔料分散剤を含む場合には、前記水性インクの粘度に影響を与えない程度の量であることが好ましい。このように、本発明の水性インクは、自己分散型の顔料を使用しているため、高分子顔料分散剤に起因する粘度上昇の問題が無く、かつ、吐出安定性および保存安定性に優れたものとすることができる。
【0010】
前記水性インク全量に対する前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックの固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0011】
前記着色剤は、前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックに加え、さらに他の顔料および染料等を含んでもよい。
【0012】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0013】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤および記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0014】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0015】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、より好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0016】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0018】
前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度は、前述のとおり、重量濃度で45ppm以下である。前記シュウ酸イオン濃度を重量濃度で45ppm以下とすることで、インクジェット記録装置において前記水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止でき、特にニッケルを含む金属部材の腐食を効果的に防止できる。前記金属部材としては、例えば、インクジェットヘッドの金属部材(例えば、フィルタ、インクジェットヘッド内のインク流路等)、インクジェットヘッドまでのインク流路等があげられる。また、本発明によれば、インクジェット記録装置において前記水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止可能であるため、腐食に起因する顔料の付着等によるインク流路の閉塞も防止可能である。前記シュウ酸イオン濃度は、低いほど好ましく、その下限値は特に限定されず、例えば、0(検出限界値)である。前記シュウ酸イオン濃度の調整方法は、例えば、後述の前記水性インクの製造方法に示すとおりである。
【0019】
カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを用いた水性インクは、金属部材を腐食させやすい。金属部材の腐食部分が着色していることから、腐食の原因はカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックであり、顔料表面のカルボン酸基が関与すると推測される。本発明者らは、一連の研究を重ねたところ、水性インク中のシュウ酸イオンがカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックによる金属の腐食を促進する物質であり、水性インク中のシュウ酸イオンの濃度を45ppm以下にすれば、インクジェット記録装置において水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止可能であることを見出した。このメカニズムは明らかではないが、シュウ酸イオンは、カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックおよび金属表面と何らかの相互作用をし、カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックの金属表面への付着を促進すると推測される。したがって、カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを用いた水性インクであっても、シュウ酸イオンの濃度を45ppm以下とすることで金属を腐食しにくい水性インクを得ることができる。また、この効果はカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを用いた水性インク特有の効果である。このことからも、シュウ酸イオンとカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックとは、化学的に何らかの相互作用が働き、金属の腐食に影響を与えると推測する。
【0020】
前記水性インクは、さらに、1,2,3−ベンゾトリアゾールを含むことが好ましい。1,2,3−ベンゾトリアゾールを含ませることで、インクジェット記録装置において水性インクと接触する金属部材の腐食低減または防止効果を、大幅に高めることができる。前記水性インク全量に対する1,2,3−ベンゾトリアゾールの配合量は、例えば、0.005重量%〜5重量%であり、好ましくは、0.01重量%〜1重量%であり、より好ましくは、0.05重量%〜0.5重量%であり、さらに好ましくは、0.1重量%〜0.3重量%である。
【0021】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0022】
シュウ酸イオンは、不純物として種々の化学薬品、顔料、水等に含有される可能性がある物質である。純度の低い材料、未精製の材料を用いて水性インクを調製すると、水性インクは45ppm以上のシュウ酸イオンを含む。したがって、水性インク中のシュウ酸イオン濃度を45ppm以下とするためには、高純度の材料または精製された材料を用いて水性インクを調製する。前記水性インクは、例えば、つぎのようにして製造できる。ただし、この製造方法は例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0023】
まず、限外濾過セット(日本ポール(株)製の「MACROSEP 10K OMEGA(排除限界分子量1000)」)に純水10gを入れ、これを遠心機(日立工機(株)製の「himac CT15D」)にセットする。ついで、前記遠心機を、回転数10000rpmにて10分間運転することで、前記限外濾過セットのフィルターを洗浄する。
【0024】
つぎに、洗浄後の純水を廃棄した後、前記限外濾過セットにカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック分散体10gを入れる。ついで、前記遠心機を運転し、遠心分離を行う。ここで、前記遠心機の運転条件(回転数および回転時間)を変更することで、前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック中のシュウ酸イオン濃度を調整可能である。つぎに、前記限外濾過セットのフィルター上に残ったカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを回収し、純水に再分散させる。前記遠心分離および前記再分散作業を繰り返すことで、必要量のカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック分散体を得る。
【0025】
一方、前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを除く成分(水および水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分)を、均一に混合しインク溶媒を得る。前記インク溶媒においても、前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック分散体におけるのと同様のシュウ酸イオン濃度調整を行ってもよい。また、前記インク溶媒の成分として、超高純度品を用いてもよい。つぎに、再分散後の前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック分散体に前記インク溶媒を加えた後、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去する。シュウ酸イオンの除去方法としては、上述した限外濾過法のほか、例えば、イオン交換法およびベーマイト等を用いたシュウ酸イオン吸着法等の公知の方法を用いることができる。
【0026】
つぎに、本発明のインクカートリッジについて説明する。本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0027】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法について説明する。本発明のインクジェット記録方法は、金属部材を含むインクジェットヘッドからインクジェット記録用水性インクを吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、前記水性インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする。
【0028】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、金属部材を含むインクジェットヘッドを搭載した一般的なインクジェット記録装置を用いて実施できる。前記金属部材としては、例えば、ニッケル、鉄、クロム等を含む金属部材があげられる。特に、前記金属部材がニッケルを含む場合には、ニッケルの腐食を効果的に低減または防止できる。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0029】
図1に、前記インクジェット記録装置の一例の構成を示す。図1に示すインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、金属部材を含むインクジェットヘッド3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成部材として含む。
【0030】
前記4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性ブラックインクが、本発明の水性インクである。その他の水性インクは、一般的な水性インクを用いてよい。前記ヘッドユニット4に設置された前記インクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。前記キャリッジ5には、前記4つのインクカートリッジ2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0031】
前記記録用紙Pは、例えば、このインクジェット記録装置1の側方または下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記記録用紙Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。導入された前記記録用紙Pに、前記インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の記録がされる。シュウ酸イオン濃度が45ppm以下である本発明の水性インクを用いれば、前記インクジェットヘッド3の金属部材の腐食が低減または防止される。記録された前記記録用紙Pは、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記記録用紙Pの給紙機構および排紙機構の図示を省略している。
【0032】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0033】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0034】
前記インクジェット記録装置において、前記4つのインクカートリッジは、複数のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジは、前記キャリッジには搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。この態様においては、例えば、前記インクカートリッジと、前記キャリッジに搭載された前記ヘッドユニットとが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジから前記ヘッドユニットに前記インクが供給される。
【0035】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい。本発明によれば、インク収容部およびインクジェットヘッドを含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インクジェットヘッドによって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インクジェットヘッドが、金属部材を含み、前記インク収容部に、本発明の水性インクが収容されていることを特徴とするインクジェット記録装置が提供される。
【0036】
つぎに、本発明の金属部材の腐食防止方法について説明する。本発明の金属部材の腐食防止方法は、前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックを含むインクジェット記録用水性インクによるインクジェット記録装置において前記水性インクと接触する金属部材の腐食防止方法であって、前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度を、45ppm以下にすることを特徴とする。なお、前記金属部材の腐食防止とは、前記金属部材の腐食の低減を含む概念である。
【0037】
つぎに、本発明のインクジェット記録用水性インクの製造方法について説明する。本発明のインクジェット記録用水性インクの製造方法は、前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクの製造方法であって、カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック分散体を限外濾過することで、前記カルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラック中のシュウ酸イオン濃度を調整する工程と、前記限外濾過後のカルボン酸基修飾自己分散型カーボンブラックと、水および水溶性有機溶剤とを混合する工程とを含み、前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度を、45ppm以下にすることを特徴とする。本発明のインクジェット記録用水性インクの製造方法によれば、耐水性に優れ、かつ、インクジェット記録装置において前記水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止可能なインクジェット記録用水性インクを得ることができる。
【0038】
本発明のインクジェット記録方法、金属部材の腐食防止方法およびインクジェット記録用水性インクの製造方法において、着色剤等の各種成分の種類、配合量および形態等は、本発明のインクジェット記録用水性インクと同様とすることができる。
【実施例】
【0039】
つぎに、本発明の実施例について比較例、参考例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例、比較例および参考例により限定および制限されない。
【0040】
[実施例1〜9、比較例1および参考例1、2]
限外濾過セット(日本ポール(株)製の「MACROSEP 10K OMEGA(排除限界分子量1000)」)に純水10gを入れ、これを遠心機(日立工機(株)製の「himac CT15D」)にセットした。ついで、前記遠心機を、回転数10000rpmにて10分間運転することで、前記限外濾過セットのフィルターを洗浄した。
【0041】
つぎに、洗浄後の純水を廃棄した後、前記限外濾過セットに、水性インク組成(表1および表2)における、自己分散型カーボンブラック分散体10gを入れた。ついで、前記遠心機を運転し、遠心分離を行った。ここで、前記遠心機の運転条件(回転数および回転時間)を変更することで、前記自己分散型カーボンブラック中のシュウ酸イオン濃度を調整した。例えば、実施例2においては、前記遠心機を、回転数7000rpmにて3時間運転した。つぎに、前記限外濾過セットのフィルター上に残った自己分散型カーボンブラックを回収し、純水に再分散させた。前記遠心分離および前記再分散作業を繰り返すことで、必要量の自己分散型カーボンブラック分散体を得た。
【0042】
一方、水性インク組成(表1および表2)における、前記自己分散型カーボンブラック分散体を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、再分散後の前記自己分散型カーボンブラック分散体に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1〜9、比較例1および参考例1、2のインクジェット記録用水性インクを得た。前記各水性インク中のシュウ酸イオン濃度は、下記条件で陰イオンクロマトグラフ法により測定した。
(シュウ酸イオン濃度 測定条件)
測定装置:(株)ダイオネクス製、商品名「ICS−2000」
カラム:(株)ダイオネクス製、商品名「AS18 4mm」
ガードカラム:(株)ダイオネクス製、商品名「AG18 4mm」
溶離液:5mmol/L水酸化カリウム水溶液
流量:1mL/分
カラム温度:30℃
注入量:25μL
検出:電気伝導度(サプレッサ方式)
【0043】
[比較例2および参考例3]
水性インク組成(表2)における、自己分散型カーボンブラック分散体を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、自己分散型カーボンブラック分散体に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、比較例2および参考例3のインクジェット記録用水性インクを得た。前記各水性インク中のシュウ酸イオン濃度は、前記条件で陰イオンクロマトグラフ法により測定した。
【0044】
[比較例3および参考例4]
比較例3においては、比較例2の水性インクにシュウ酸ナトリウムを添加することでシュウ酸イオン濃度を調整した。参考例4においては、参考例3の水性インクにシュウ酸ナトリウムを添加することでシュウ酸イオン濃度を調整した。前記各水性インク中のシュウ酸イオン濃度は、前記条件で陰イオンクロマトグラフ法により測定した。
【0045】
(浸漬評価)
Ni−Coフィルタを、下記条件(a)〜(c)下で、実施例、比較例および参考例の水性インクに浸漬させ、前記Ni−Coフィルタから前記各水性インク中へのNi溶出量を、ICP発光分光分析装置((株)リガク製、CIROS−120EOP)を用いて測定した。また、下記浸漬時間経過後、前記各水性インクから前記Ni−Coフィルタを取り出し、目視および顕微鏡観察を実施した。前記目視および顕微鏡観察の結果から、下記の評価基準に従って評価した。

(a)実施例、比較例および参考例の水性インク量:10g
(b)前記水性インク温度:60℃
(c)浸漬時間:5日間

【0046】
浸漬評価 評価基準
G :Ni−Coフィルタに変色および錆びの発生なし
NG:Ni−Coフィルタに変色および錆びの発生あり
【0047】
実施例1〜9の水性インクの組成および測定・評価結果を、表1に示す。また、比較例1〜3および参考例1〜4の水性インクの組成および測定・評価結果を、表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1に示すとおり、シュウ酸イオン濃度が45ppm以下である実施例1〜9では、Ni溶出量が12ppm以下と少なく、浸漬評価結果も良好であった。さらに、1,2,3−ベンゾトリアゾールを配合した実施例6〜9では、Ni溶出量が大幅に減り、浸漬評価結果も極めて良好であった。一方、シュウ酸イオン濃度が45ppmを超える比較例1〜3では、Ni溶出量が50ppm以上と多く、浸漬評価結果も劣っていた。なお、スルホン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックを用いた参考例1〜4では、シュウ酸イオン濃度に関係なく、Ni溶出量が8ppm以下と少なく、浸漬評価結果も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明の水性インクは、耐水性に優れ、かつ、インクジェット記録装置において水性インクと接触する金属部材の腐食を低減または防止可能なものである。本発明の水性インクの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インクジェットヘッド
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックを含み、
前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度が、45ppm以下であることを特徴とするインクジェット記録用水性インク。
【請求項2】
さらに、1,2,3−ベンゾトリアゾールを含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項3】
前記水性インクが、金属部材を含むインクジェットヘッドから吐出されることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項4】
前記金属部材が、ニッケルを含むことを特徴とする請求項3記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項6】
金属部材を含むインクジェットヘッドからインクジェット記録用水性インクを吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記水性インクとして、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項7】
カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックを含むインクジェット記録用水性インクによるインクジェット記録装置において前記水性インクと接触する金属部材の腐食防止方法であって、
前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度を、45ppm以下にすることを特徴とする金属部材の腐食防止方法。
【請求項8】
カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラック、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクの製造方法であって、
カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックの分散体を限外濾過することで、前記カルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラック中のシュウ酸イオン濃度を調整するシュウ酸イオン濃度調整工程と、
前記限外濾過後のカルボン酸基で修飾された自己分散型カーボンブラックと、水および水溶性有機溶剤とを混合する混合工程とを含み、
前記シュウ酸イオン濃度調整工程において、前記水性インク中のシュウ酸イオン濃度を、45ppm以下にすることを特徴とするインクジェット記録用水性インクの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−180394(P2012−180394A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42485(P2011−42485)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】