説明

インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置

【課題】記録物のカールを抑制可能で、増粘することもないインクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット用水性インクであって、化学式(1)で表されるポリエーテルアミンを含む。


は、炭素原子数1〜4のアルキル基であり、前記炭素原子数1〜4のアルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、R、RおよびRは、それぞれ、炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、前記炭素原子数1〜4アルキレン基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、R、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、m、nおよびoは、それぞれ、1〜5の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを用いたインクジェット記録では、記録物にカールが生じることがある。この問題を解決するものとして、カールを抑制可能なトリメチロールプロパン(TMP)を配合した水性インクが提案されている(特許文献1および2)。また、前記カールを抑制するものとして、水の配合量を減らしたインクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−155908号公報
【特許文献2】特開2004−210902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、TMPを配合した前記水性インクは、カールの抑制が充分でない。また、水の配合量を減らした前記インクには、増粘の問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、記録物のカールを充分に抑制可能で、増粘することもないインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクは、
着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
さらに、化学式(1)で表されるポリエーテルアミンを含むことを特徴とする。
【化1】

化学式(1)において、
は、炭素原子数1〜4のアルキル基であり、前記炭素原子数1〜4のアルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
、RおよびRは、それぞれ、炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、前記炭素原子数1〜4のアルキレン基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、R、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、
m、nおよびoは、それぞれ、1〜5の整数である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用水性インクは、記録物のカールを充分に抑制可能であり、水を減らす必要がないため、増粘することもない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「カール」は、記録直後に記録物を記録面を下にして平らな台上にのせたときに記録物の4隅が浮き上がるマイナスカール(以下、「直後カール」と言う)と、記録から一定期間(例えば、1日以上)経過するまで記録物を記録面を上にして平らな台上にのせたときに記録物の4隅が浮き上がるプラスカール(以下、「長期カール」と言う)とを含む。本発明のインクジェット水性インクによれば、前記直後カールと前記長期カールの双方を抑制可能である。
【0010】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、単に「水性インク」または「インク」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前記着色剤は、特に限定されず、顔料または染料のいずれであってもよい。また、前記着色剤として、顔料および染料を混合して用いてもよい。
【0011】
前記顔料は、例えば、カーボンブラック、無機顔料および有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料およびカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6および7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185および194;C.I.ピグメントオレンジ31および43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224および238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22および60;C.I.ピグメントグリーン7および36等があげられる。
【0012】
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基およびそれらの塩の少なくとも一種が、直接または他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料および有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」および「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」および「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」および「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
【0013】
前記水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0014】
前記染料は、特に限定されず、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等があげられる。前記染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクトブラウン、C.I.ダイレクトグリーン、C.I.アシッドブラック、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット、C.I.ベーシックブラック、C.I.ベーシックブルー、C.I.ベーシックレッド、C.I.ベーシックバイオレットおよびC.I.フードブラック等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラックとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154および168等があげられる。前記C.I.ダイレクトブルーとしては、例えば、C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106および199等があげられる。前記C.I.ダイレクトレッドとしては、例えば、C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83および227等があげられる。前記C.I.ダイレクトイエローとしては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142および173等があげられる。前記C.I.ダイレクトオレンジとしては、例えば、C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46および60等があげられる。前記C.I.ダイレクトバイオレットとしては、例えば、C.I.ダイレクトバイオレット47および48等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラウンとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン109等があげられる。前記C.I.ダイレクトグリーンとしては、例えば、C.I.ダイレクトグリーン59等があげられる。前記C.I.アシッドブラックとしては、例えば、C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112および118等があげられる。前記C.I.アシッドブルーとしては、例えば、C.I.アシッブルー9、22、40、59、93、102、104、117、120、167、229および234等があげられる。前記C.I.アシッドレッドとしては、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、289、315および317等があげられる。前記C.I.アシッドイエローとしては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、61および71等があげられる。前記C.I.アシッドオレンジとしては、例えば、C.I.アシッドオレンジ7および19等があげられる。前記C.I.アシッドバイオレットとしては、例えば、C.I.アシッドバイオレット49等があげられる。前記C.I.ベーシックブラックとしては、例えば、C.I.ベーシックブラック2等があげられる。前記C.I.ベーシックブルーとしては、例えば、C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28および29等があげられる。前記C.I.ベーシックレッドとしては、例えば、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14および37等があげられる。前記C.I.ベーシックバイオレットとしては、例えば、C.I.ベーシックバイオレット7、14および27等があげられる。前記C.I.フードブラックとしては、例えば、C.I.フードブラック1および2等があげられる。
【0015】
前記水性インク全量に対する前記染料の配合量は、特に限定されず、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.3重量%〜10重量%である。
【0016】
前記着色剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。前述のとおり、本発明の水性インクは、水を減らす必要がないため、増粘することがない。
【0018】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤および記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0019】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0020】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%である。
【0021】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0023】
前述のとおり、前記水性インクは、さらに、化学式(1)で表されるポリエーテルアミンを含む。化学式(1)で表される前記ポリエーテルアミンを含むことにより、前記直後カールおよび前記長期カールの双方を抑制可能となる。
【0024】
化学式(1)において、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基である。前記炭素原子数1〜4のアルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基があげられる。前記炭素原子数1〜4のアルキル基は、ハロゲン原子等の置換基を有してもよい。
【0025】
化学式(1)において、R、RおよびRは、それぞれ、炭素原子数が1〜4のアルキレン基である。前記炭素原子数1〜4のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等があげられる。前記炭素原子数1〜4のアルキレン基は、ハロゲン原子等の置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよい。化学式(1)において、R、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0026】
前記ポリエーテルアミンは、化学式(2)で表されるポリエーテルアミンであることが好ましい。
【化2】

【0027】
化学式(1)および化学式(2)において、m、nおよびoは、それぞれ、1〜5の整数である。
【0028】
前記ポリエーテルアミンの分子量は、例えば、200〜1300であり、好ましくは、300〜1100である。
【0029】
前記ポリエーテルアミンとしては、例えば、BASF社製のPolyetheramine T 403(商品名)等があげられる。前記ポリエーテルアミンは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
前記水性インク全量に対する前記ポリエーテルアミンの配合量は、特に制限されないが、35重量%以上であることが好ましい。前記ポリエーテルアミンの配合量を35重量%以上とすることで、前記直後カールをより好適に抑制可能となる。前記ポリエーテルアミンの配合量は、より好ましくは、38重量%〜50重量%である。
【0031】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0032】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水、水溶性有機溶剤および前記ポリエーテルアミンと、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0033】
なお、前記ポリエーテルアミンは、顔料を用いた水性インクの記録画像の光学濃度(OD値)を向上させるための処理液に含ませてもよい。このような処理液は、例えば、前記ポリエーテルアミン、顔料凝集剤(例えば、ポリアリルアミン等)、および水を含む。前記処理液は、顔料水性インクによる記録の前に、記録用紙に付与されることが好ましい。
【0034】
つぎに、本発明のインクジェット記録用水性インクは、インクカートリッジとして提供することも可能である。本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0035】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法およびインクジェット記録装置について説明する。
【0036】
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、前記水性インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする。
【0037】
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする。
【0038】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0039】
本発明のインクジェット記録装置は、例えば、ライン型インクジェットヘッドが搭載されたインクジェット記録装置であってもよいし、シリアル型インクジェットヘッドが搭載されたインクジェット記録装置であってもよい。前記ライン型インクジェット記録装置とは、記録媒体の幅以上の記録幅を持つライン型インクジェットヘッドを用い、前記インクジェットヘッドを固定した状態で前記記録媒体の幅方向の記録を一括して行うことができるインクジェット記録装置である。これに対し、前記シリアル型インクジェット記録装置では、インクジェットヘッド自体が前記記録媒体の記録面の幅方向に移動しながら記録を行う。前記ライン型インクジェット記録装置は、前記シリアル型インクジェット記録装置と比較して、格段に記録速度が速い。本発明のインクジェット記録用水性インクは、前記直後カールを抑制可能であるので、前記ライン型インクジェット記録装置による高速記録に適用可能である。
【0040】
図1の模式図に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。本例のインクジェット記録装置101は、前記ライン型インクジェットヘッドを搭載する。図示のとおり、このインクジェット記録装置101は、4つのインクカートリッジ1と、4つのインク吐出手段(インクジェットヘッド)2と、給紙部11と、排紙部12と、ベルト搬送機構13と、前記インクジェット記録装置101全体を制御する制御装置16とを主要な構成要素として含む。前記給紙部11は、前記ベルト搬送機構13の一方の側(図1においては左側)に配置されている。前記排紙部12は、前記ベルト搬送機構13の他方の側(図1においては右側)に配置されている。
【0041】
前記インクジェット記録装置101の内部には、前記給紙部11から前記ベルト搬送機構13を介し、前記排紙部12に向かって記録媒体(例えば、記録用紙)Pを搬送する用紙搬送経路が形成されている。この記録用紙Pが搬送される方向を、用紙搬送方向Xとする。前記給紙部11は、用紙ストッカ11aと、ピックアップローラ11cとを含む。前記用紙ストッカ11aは、その内部に記録用紙Pを積層した状態で収容するものであり、その上面に開口部が形成されている。前記用紙ストッカ11aは、前記用紙搬送方向Xの下流側(図1においては右側、以下、単に「下流側」とする)に向かって傾斜した状態で配置されている。前記用紙ストッカ11a内には、底面から上方開口部に向かって、バネ11dにより付勢された支持板11bが配置されている。この支持板11b上に前記記録用紙Pが積層されている。前記ピックアップローラ11cは、載置モータ(図示せず)により駆動されることで、前記用紙ストッカ11a内に積層された前記記録用紙Pを上から一枚ずつピックアップする(取り出す)とともに、ピックアップした前記記録用紙Pを下流側に送り出すものである。前記給紙部11のすぐ下流側には、用紙検知センサ59が配置されている。前記用紙検知センサ59は、送り出された前記記録用紙Pが、前記ベルト搬送機構13の前記用紙搬送方向Xのすぐ上流側(図1においては左側)に位置する記録待機位置Aに到達したか否かを検知するためのものであり、前記記録待機位置Aにある前記記録用紙Pの下流側の端部を検知することができるように調整されている。送り出された前記記録用紙Pは、前記記録待機位置Aを通過して、前記ベルト搬送機構13に搬送される。
【0042】
前記ベルト搬送機構13は、2つのベルトローラ6および7と、搬送ベルト8と、プラテン15と、搬送モータ(図示せず)とを含む。前記搬送ベルト8は、前記2つのベルトローラ6および7の間に掛け渡されるように巻き回されたエンドレスベルトである。前記搬送ベルト8の外側の面を、外周面8aとする。前記プラテン15は、前記搬送ベルト8により囲まれた領域内において、後述の4つのインクジェットヘッド2と対向する位置に配置されている。前記プラテン15は、前記4つのインクジェットヘッド2と対向する領域において、前記搬送ベルト8が下方に撓まないように前記搬送ベルト8を支持するものである。前記ベルトローラ7と対向する位置には、ニップローラ4が配置されている。前記ニップローラ4は、前記ベルト搬送機構13に搬送された前記記録用紙Pが、前記外周面8aに載置されたときに、この記録用紙Pを外周面8aに押さえつけるものである。前記搬送モータが、前記ベルトローラ6を回転させると、前記搬送ベルト8が駆動(回転)する。これにより、前記搬送ベルト8が、押さえつけられた前記記録用紙Pを粘着保持しつつ、前記排紙部12に向けて搬送する。前記搬送ベルト8のすぐ下流側には、剥離機構14が設けられている。前記剥離機構14は、前記外周面8aに粘着されている記録用紙Pを、前記外周面8aから剥離して、前記排紙部12に向けて送るように構成されている。
【0043】
前記4つのインクカートリッジ1は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。前記4つのインクカートリッジ1は、前記用紙搬送方向Xに沿って、前記ベルト搬送機構13上に並べて固定されている。前記4つのインクカートリッジ1は、それぞれ、その下端にインクジェットヘッド2を有する。前記搬送ベルト8によって搬送される前記記録用紙Pが、前記4つのインクジェットヘッド2のすぐ下方を順に通過する際に、この記録用紙Pの上面、すなわち、記録面に形成された記録領域に向けて、インク吐出面2aからインク滴が吐出される。これにより、前記記録用紙Pの記録領域に所望の画像を形成することができる。
【実施例】
【0044】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。
【0045】
[実施例1〜11および比較例1〜4]
水性インク組成(表1)における、自己分散型顔料の水分散体を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、前記自己分散型顔料の水分散体に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1〜11および比較例1〜4のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0046】
[実施例12]
水性インク組成(表1)における各成分を、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製の親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)タイプメンブレンフィルタ(孔径0.20μm)を用いてろ過することで、実施例12のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0047】
実施例および比較例の水性インクについて、(a)直後カール評価、(b)長期カール評価および(c)総合評価を、下記の方法により行った。
【0048】
(a)直後カール評価
バーコーター((株)安田精機製作所製のバーコーターのロッドNo.3)を用いて、A4サイズ(297mm×210mm)の普通紙上に、実施例および比較例の水性インクを塗布した。塗布後の前記普通紙を、平らな台上に塗布面を下にしてのせて、塗布から10秒後、1分後および3分後の前記普通紙の4隅の浮き上がり高さを測定し、直後カールを、下記の評価基準に従って評価した。なお、バーコーターによる全面塗布で直後カールが抑制されていれば、インクジェット記録においても、直後カールを抑制可能と判断できる。
【0049】
直後カール評価(10秒後、1分後および3分後) 評価基準
A:4隅で最も浮いている箇所の浮き上がり高さが30mm未満であった
B:4隅で最も浮いている箇所の浮き上がり高さが30mm以上50mm未満であった
C:4隅で最も浮いている箇所の浮き上がり高さが50mm以上であった
【0050】
直後カール評価(全体) 評価基準
A :10秒後、1分後および3分後の評価結果が、いずれもAであった
B+:10秒後、1分後および3分後の評価結果のいずれかにBがあるが、Cはなかった
B−:10秒後、1分後および3分後の評価結果のいずれか一つが、Cであった
C :10秒後、1分後および3分後の評価結果の二つ以上が、Cであった
【0051】
(b)長期カール評価
直後カール評価後の前記普通紙を、平らな台上に塗布面を上にしてのせて、塗布から1日後および7日後の前記普通紙の4隅の浮き上がり高さを測定し、長期カールを、下記の評価基準に従って評価した。なお、バーコーターによる全面塗布で長期カールが抑制されていれば、インクジェット記録においても、長期カールを抑制可能と判断できる。
【0052】
長期カール評価(1日後および7日後) 評価基準
A:4隅で最も浮いている箇所の浮き上がり高さが30mm未満であった
B:4隅で最も浮いている箇所の浮き上がり高さが30mm以上50mm未満であった
C:4隅で最も浮いている箇所の浮き上がり高さが50mm以上であった
【0053】
長期カール評価(全体) 評価基準
A :1日後および7日後の評価結果が、いずれもAであった
B+:1日後および7日後の評価結果の一方がA、他方がBであった
B−:1日後および7日後の評価結果のいずれか一方が、Cであった
C :1日後および7日後の評価結果が、双方ともCであった
【0054】
(c)総合評価
各水性インクについて、前記(a)および(b)の結果から、下記の評価基準に従って総合評価を行った。
【0055】
総合評価 評価基準
G :直後カール(全体)および長期カール(全体)の評価結果が、いずれもCではなかった
NG:直後カール(全体)および長期カール(全体)の評価結果のいずれか、若しくは双方がCではあった
【0056】
実施例1〜12および比較例1〜4の水性インクの組成および評価結果を、表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すとおり、実施例1〜12の水性インクでは、直後カール評価および長期カール評価の結果が、良好であった。特に、前記ポリエーテルアミンの配合量を35重量%とした実施例5では、10秒後の直後カールがより好適に抑制され、前記ポリエーテルアミンの配合量を38重量%〜50重量%とした実施例1〜4および9〜12では、10秒後の直後カールがさらに好適に抑制された。
【0059】
一方、前記ポリエーテルアミンに代えてグリセリンを用いた比較例1および2では、直後カール評価および長期カール評価の結果が悪かった。
【0060】
また、前記ポリエーテルアミンに代えてトリメチロールプロパンを用いた比較例3および4では、直後カールは若干抑制されたものの、長期カール評価の結果が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明の水性インクは、記録物のカールを充分に抑制可能で、増粘することもない。本発明の水性インクの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 インクカートリッジ
2 インクジェットヘッド
4 ニップローラ
6、7 ベルトローラ
8 搬送ベルト
11 給紙部
11a 用紙ストッカ
11b 支持板
11c ピックアップローラ
12 排紙部
13 ベルト搬送機構
15 プラテン
16 制御装置
P 記録用紙
59 用紙検知センサ
101 インクジェット記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
さらに、化学式(1)で表されるポリエーテルアミンを含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インク。
【化1】

化学式(1)において、
は、炭素原子数1〜4のアルキル基であり、前記炭素原子数1〜4のアルキル基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、
、RおよびRは、それぞれ、炭素原子数1〜4のアルキレン基であり、前記炭素原子数1〜4アルキレン基は置換基を有してもよく、直鎖でも分岐鎖でもよく、R、RおよびRは互いに同一でも異なっていてもよく、
m、nおよびoは、それぞれ、1〜5の整数である。
【請求項2】
前記ポリエーテルアミンが、化学式(2)で表されるポリエーテルアミンである請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
【化2】

化学式(2)において、
m、nおよびoは、それぞれ、1〜5の整数である。
【請求項3】
前記ポリエーテルアミンの配合量が、前記水性インク全量に対し、35重量%以上である請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項4】
前記ポリエーテルアミンの配合量が、前記水性インク全量に対し、38重量%〜50重量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記水性インクとして、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、
前記インク収容部に、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77189(P2012−77189A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223247(P2010−223247)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】