説明

インクジェット記録用水系インク

【課題】保存安定性、吐出信頼性、印字濃度、彩度、画像均一性、色調安定性等の印字性能に優れたインクジェット記録用水分散体、及びそれを含む水系インクを提供する。
【解決手段】黄色有機顔料(A)と極性基を有する顔料誘導体(B)とを含有するビニルポリマー粒子の水分散体であって、〔該顔料誘導体(B)/黄色有機顔料(A)〕の分子量比が1.4〜3であり、該ビニルポリマーが、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有するインクジェット記録用水分散体、及びそれを含む水系インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水分散体及び水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
特に印字物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料系インクを用いるものが主流となってきている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
特許文献1には、ビニルポリマーに顔料を含有させた水系インクであって、高印字濃度を付与するために、ビニルポリマーとしてマクロマーを用いたグラフトポリマーが開示され、特許文献2〜4には、置換基を有する黄色アゾ顔料を用いたインクジェット記録用着色組成物が開示されている。
特許文献5には、黄色有機顔料とアゾ化合物とを含有する水不溶性ビニルポリマー粒子の水分散体であって、該水不溶性ビニルポリマーが、アリールアルキル基又はアリール基を有するベンジル(メタ)アクリレート等に由来する構成単位を有するインクジェット記録用水分散体が開示されている。
上記の水分散体又は水系インクはインク特性がある程度改善されているが、更に高レベルの優れた性能が求められている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/39226号パンフレット
【特許文献2】特開平2003−253188号公報
【特許文献3】特開平2004−182952号公報
【特許文献4】特許第3055673号明細書
【特許文献5】特開平2006−124584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、保存安定性、吐出信頼性、印字濃度、彩度、画像均一性、色調安定性等の印字性能に優れたインクジェット記録用水分散体、及びそれを含む水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、黄色有機顔料と特定の極性基を有する顔料誘導体を、特定のポリマーに用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は次の(1)及び(2)を提供する。
(1)黄色有機顔料(A)と極性基を有する顔料誘導体(B)とを含有するビニルポリマー粒子の水分散体であって、〔該顔料誘導体(B)/黄色有機顔料(A)〕の分子量比が1.4〜3であり、該ビニルポリマーが、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有するインクジェット記録用水分散体。
(2)前記(1)の水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用水分散体を含有する水系インクは、保存安定性、吐出信頼性、印字濃度、彩度、画像均一性、色調安定性等に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水分散体、水系インクには、保存安定性、吐出信頼性、印字濃度、彩度、画像均一性、色調安定性等の印字性能に優れた印刷物を得る観点から、黄色有機顔料(A)と極性基を有する顔料誘導体(B)とを含有するビニルポリマー粒子であって、〔該顔料誘導体(B)/黄色有機顔料(A)〕の分子量比が1.4〜3であり、該ビニルポリマーが、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有するものを使用する。以下、本発明に用いる各成分について説明する。
【0009】
〔黄色有機顔料(A)〕
本発明に用いられる黄色有機顔料(A)としては、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、多環系顔料、金属錯体系顔料等の黄色有機顔料が挙げられる。
アゾレーキ系顔料としては、アセト酢酸アリリド系顔料等が挙げられ、より具体的には、C.I.ピグメント・イエロー133,168,169等が挙げられる。
不溶性アゾ系顔料としては、アセト酢酸アリリド系モノアゾ顔料、アセト酢酸アリリド系ジスアゾ顔料、ピラゾロン系顔料等が挙げられる。
アセト酢酸アリリド系モノアゾ顔料としては、ハンザ系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料等が挙げられる。ハンザ系顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー1,2,3,5,6,49,63,65,73,74, 75, 87,90,97,98,106, 111, 114, 116, 121,124,126、127,130, 136,152,165,167,170,174,176,188等が挙げられ、ベンズイミダゾロン系顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー120,151,154,156,175,180,181,194,等が挙げられる。
アセト酢酸アリリド系ジスアゾ顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー12,13,14,17,55,81,83, 113,171,172 等が挙げられる。
ピラゾロン系顔料等としては、C.I.ピグメント・イエロー10,60 等が挙げられる。
【0010】
縮合アゾ系顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー93,94,95,128,166等が挙げられる。
多環系顔料としては、イソインドリノン系顔料、フラバンスロン系顔料、キノフタロン系顔料が挙げられる。イソインドリノン系顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー109,110,173等、フラバンスロン系顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー24等、キノフタロン系顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー138等が挙げられる。
金属錯体系顔料としては、C.I.ピグメント・イエロー117,129,150,153,177,179,257,271等が各々挙げられる。
その他、C.I.ピグメント・イエロー139,185等のイソインドリン系顔料、C.I.ピグメント・イエロー99,108,123,147,193,199等のアントラキノン系顔料が挙げられる。
これらの中では、C.I.ピグメント・イエロー74及び97等のハンザ系顔料や、C.I.ピグメント・イエロー151等のベンズイミダゾロン系顔料等の不溶性アゾ系顔料;C.I.ピグメント・イエロー93及び128等の縮合アゾ系顔料;C.I.ピグメント・イエロー110等のイソインドリノン系顔料等の多環系顔料が好ましく、特にC.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー97等のハンザ系顔料が好ましい。
【0011】
〔極性基を有する顔料誘導体(B)〕
極性基を有する顔料誘導体(B)(以下、単に「顔料誘導体(B)」ということがある)は、黄色有機顔料(A)の表面処理剤としての機能を有し、水分散体及び水系インクの保存安定性等を高めるために用いられる。
顔料誘導体(B)は、有機顔料に極性基を導入したものであり、その極性基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、スルフィン酸基、アミノ基、アミド基及びイミド基からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。この中では保存安定性の観点から、スルホン酸基が好ましい。
【0012】
顔料誘導体(B)は、有機顔料(A)の表面に対する吸着性向上、ポリマーとの混合・保存安定性、及び色相の観点から、有機顔料(A)と同一又は類似の母骨格(分子構造)を有することが好ましい。
同一又は類似の母骨格を有する顔料誘導体(B)の製造方法としては、例えば、(i)有機顔料(A)の化合物を合成後、その化合物の反応性を利用して極性基を導入する方法、(ii)有機顔料(A)を合成と同時に、極性基を導入した顔料誘導体(B)を合成する方法等が挙げられる。このような構造を有する顔料誘導体(B)としては、アゾ系顔料誘導体、多環式顔料誘導体等が挙げられる。
アゾ系顔料誘導体は、(1)有機顔料分子に脂肪族アミンを反応させてケチミン系顔料誘導体を合成する方法、(2)混合カップリング法によって得ることができる。
(2)混合カップリング法は、アゾ顔料のアゾカップリング反応による合成時に、極性基が導入された異種ジアゾ成分又は異種カップラー成分と、顔料母体のジアゾ成分やカップラー成分とを混合してカップリング反応させる方法である。混合カップリング法は、有機顔料と顔料誘導体とを同時に合成でき、さらに有機顔料の表面処理工程も兼ねることができる。この観点から、アゾ系顔料誘導体の製造方法としては、混合カップリング法が好ましい。
多環式顔料誘導体としては、有機顔料の化学構造中のベンゼン核に極性基が導入された化合物を挙げることができる。極性基は、前記ベンゼン核に直接置換させて導入されてもよく、またアルキル基等の連結基を介して導入されていてもよい。
なお、これらの顔料誘導体に関しては、「顔料分散技術」(技術情報協会 1999年2月24日 第1刷発行)第85〜88頁に詳細な解説がなされている。
【0013】
顔料誘導体(B)としては、保存安定性等の観点から、下記式(1)で表されるアゾ化合物(以下、単に「アゾ化合物」ということがある)が好ましい。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R10及びR20は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜50のアリール基を示し、少なくとも一方は極性基を有する。R10又はR20は同一でも異なっていてもよい。)
式(1)中、アリール基は、好ましく炭素数6〜40、更に好ましくは炭素数6〜30である。また、好ましい置換基としては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基、エーテル基、エステル基、ニトロ基、水酸基、ハロゲン基、アミド基、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO2−)、トリアジン基(トリアジンからプロトンを1又は2個除去したもの)等が挙げられる。なお、式(1)は、異性体として下記式(2)で表すこともできる。
【0016】
【化2】

【0017】
前記アゾ化合物としては、親水性の分散性付与基として、少なくとも一方のアリール基に極性基を導入したものが用いられる。極性基としては、上記と同様の基が挙げられる。この中で、保存安定性の観点から、−SO3M,−COOM,−SO2M,−RSO2M,−PO3HM,−PO3M(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす。Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいナフチル基を表わす。)で表わされる官能基又はその塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上の官能基が好適に挙げられ、スルホン酸基がより好ましい。
スルホン酸基を有する顔料誘導体(B)としては、スルホン酸類及びそのナトリウム、アルミニウム、カルシウム等の金属塩類、並びにそのアンモニウム、オクタデシルアンモニウム、ジドデシルアンモニウム、ジメチルオクタデシルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム等のアンモニウム塩類等を有する顔料誘導体が挙げられる。
【0018】
極性基を有する顔料誘導体(B)としては、特に、不溶性アゾ系顔料であるC.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー97の顔料誘導体が好ましい。
上記式(1)で表されるアゾ化合物の具体例、及びその製造方法としては、公知の方法、例えば、特開2003−253188号公報、特開2004−182952号公報、特許第3055673号公報に記載された具体例、及び製造方法等を挙げることができる。特に好ましい具体例としては、下記式(3)及び(4)で表される化合物が挙げられる。
また、有機顔料にスルホン酸基を導入する場合は、有機顔料と濃硫酸、発煙硫酸、クロロ硫酸等のスルホン化剤とを反応させることにより行うことができる。
【0019】
【化3】

【0020】
上記の黄色有機顔料(A)及び顔料誘導体(B)は、(A)及び(B)の各成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
保存安定性、色調、彩度、色調安定性等の観点から、〔顔料誘導体(B)/黄色有機顔料(A)〕の重量比は1/99〜30/70が好ましく、1/99〜20/80がより好ましく、1/99〜10/90が更に好ましい。該重量比が1/99以上であれば、黄色有機顔料(A)表面への吸着点が多くなり、保存安定性が向上する。一方、30/70以下であれば、黄色有機顔料(A)表面へ吸着されない顔料誘導体(B)が少なくなり、保存安定性が向上する。
また、保存安定性、吐出信頼性、彩度、色調安定性(色見が変化しない)及び画像均一性等の観点から、〔顔料誘導体(B)/黄色有機顔料(A)〕の分子量比は1.4〜3であり、1.5〜2.8がより好ましく、1.6〜2.5が更に好ましい。該分子量比が1.4以上であれば、黄色有機顔料(A)表面への吸着点が多くなると共にビニルポリマーとの親和性がよくなり、保存安定性、彩度、画像均一性等に優れる。一方、該分子量比が3以下であれば、黄色有機顔料(A)表面へ吸着されない顔料誘導体(B)が少なくなり、保存安定性が向上する。顔料誘導体(B)を2種以上用いる場合、分子量はそれぞれの分子量と重量割合とを考慮した加重平均値を用いる。黄色有機顔料(A)についても同様である。
黄色有機顔料(A)と顔料誘導体(B)を混合する場合は、それらを同一の合成槽で合成混合してもよいし、黄色有機顔料(A)と顔料誘導体(B)を別に合成し、その後の乾燥工程、粉砕工程、分級工程、及び顔料分散工程等のいずれかの工程で混合してもよい。黄色有機顔料(A)及び顔料誘導体(B)の一次粒子径を整える観点、及び初期の保存安定性を高める観点から、両者を同一の合成槽で合成することが好ましい。
【0021】
〔ビニルポリマー〕
本発明に用いられるポリマー粒子を構成するビニルポリマーとしては、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が好ましくは10g以下、より好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である水不溶性ポリマーが好ましい。溶解量は、ポリマーが塩生成基の種類に応じて、ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
本発明に用いられるビニルポリマーは、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する。かかるビニルポリマーとしては、更に、塩生成基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましく、塩生成基含有モノマー(a)(以下「(a)成分」ということがある)、マクロマー(b)(以下「(b)成分」ということがある)、及び炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート(c)(以下「(c)成分」ということがある)とを含むモノマー混合物(以下「モノマー混合物」ということがある)を共重合させてなるグラフトポリマーが更に好ましい。このグラフトポリマーは、(a)〜(c)成分由来の構成単位を有する。より好適なポリマーは、(a)成分由来の構成単位及び(c)成分由来の構成単位を主鎖に有し、(b)成分由来の構成単位を側鎖に有するグラフトポリマーである。
【0022】
塩生成基含有モノマー(a)は、得られる水分散体の分散性を高める観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられるが、特にカルボキシ基が好ましい。
塩生成基含有モノマー(a)としては、特開平9−286939号公報段落〔0022〕等に記載されているカチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N',N'−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、分散性、吐出信頼性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0023】
マクロマー(b)は、顔料を含有するポリマー粒子の分散性を高める観点から用いられる。マクロマーとしては、数平均分子量500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の重合可能な不飽和基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。なお、マクロマー(b)の数平均分子量は、カラムとして東ソー株式会社製、G4000HXL+G2000HXLを用い、溶離液として50mM CH3COOH/1級を含有するテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロマー(b)の中では、ポリマー粒子の分散性等の観点から、片末端に重合性官能基を有する、スチレン系マクロマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーが好ましい。
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられる。
【0024】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基、又は、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレートであり、ヘテロ原子を含む置換基としては、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
また、それらのマクロマーの片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、共重合される他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が好ましい。
スチレン系マクロマー中におけるスチレン系モノマー、又は芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー中における芳香族基含有(メタ)アクリレートの含有量は、顔料との親和性を高める観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0025】
マクロマー(b)は、オルガノポリシロキサン等の他の構成単位からなる側鎖を有するものであってもよい。この側鎖は、例えば下記式(5)で表される片末端に重合性官能基を有するシリコーン系マクロマーを共重合することにより得ることができる。
CH2=C(CH3)-COOC36-〔Si(CH32O〕t-Si(CH33 (5)
(式中、tは8〜40の数を示す。)。
(b)成分として商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)等が挙げられる。
【0026】
炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート(c)は、下記式(6)で表され、黄色有機顔料とビニルポリマーとの親和性を向上させると考えられ、保存安定性、印字濃度、画像均一性の向上の観点から用いられる。
CH2=CHR1COOR2 (6)
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
式(6)において、R2は、好ましくは炭素数12〜22、より好ましくは炭素数14〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基である。
(c)成分の好適具体例としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)テトラデシル(メタ)アクリレート、(イソ)パルミチル(メタ)アクリレート、及び(イソ)ステアリル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0027】
モノマー混合物には、印字濃度、画像均一性の向上の観点から、更に、疎水性モノマー(d)(以下「(d)成分」ということがある)が含有されていてもよい。(d)成分由来の構成単位はグラフトポリマーの主鎖の一部を構成する。
疎水性モノマー(d)は、前記(c)成分以外の疎水性モノマーであり、例えば、炭素数7以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
炭素数7以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート又はそれらの両方を示す。
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、前記のスチレン系モノマー(d−1成分)、前記の芳香族基含有(メタ)アクリレート(d−2成分)が挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、前記のものが挙げられる。
(d)成分の中では、印字濃度向上の観点から、スチレン系モノマー(d−1成分)が好ましく、(d−1成分)としては特にスチレン及び2−メチルスチレンが好ましい。(d)成分中の(d−1)成分の含有量は、印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
また、(d−2成分)としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましい。(d)成分中の(d−2)成分の含有量は、印字濃度及び光沢性の向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
また、(d−1)成分と(d−2)成分を併用することもできる。
【0028】
モノマー混合物には、更に、水酸基含有モノマー(e)(以下「(e)成分」ということがある)が含有されていてもよい。水酸基含有モノマー(e)は、分散性を高めるという優れた効果を発現させるものである。(e)成分由来の構成単位はグラフトポリマーの主鎖の一部を構成する。
(e)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0029】
モノマー混合物には、更に、下記式(7)で表されるモノマー(f)(以下「(f)成分」ということがある)が含有されていてもよい。(f)成分由来の構成単位はグラフトポリマーの主鎖の一部を構成する。
CH2=C(R3)COO(R4O)q5 (7)
(式中、R3は、水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R4は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R5は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜18の1価の炭化水素基又は炭素数1〜8のアルキル基を有していてもよいアリール基、qは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数、好ましくは2〜30の数を示す。)
(f)成分は、吐出性を向上するという優れた効果を発現する。
式(7)において、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。
3の好適例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基等が挙げられる。
4O基の好適例としては、オキシエチレン基、オキシトリメチレン墓、オキシプロパン−1,2−ジイル基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらの2種以上の組合せからなる炭素数2〜7のオキシアルカンジイル基(オキシアルキレン基)が挙げられる。
5の好適例としては、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜8の脂肪族アルキル基、フェニル基、ベンジル基が挙げられる。
【0030】
(f)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(7)中のqの値を示す。以下、同じ)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテルが好ましい。
【0031】
商業的に入手しうる(e)、(f)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G、同90G、同230G、日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE600B等が挙げられる。
上記(a)〜(f)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
水不溶性ポリマーの製造時における、上記(a)〜(f)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は該ポリマー中における(a)〜(f)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、得られる分散体の分散性の観点から、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは2〜30重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。
(b)成分の含有量は、特に着色剤との相互作用を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(c)成分の含有量は、吐出信頼性、印字濃度、画像均一性、彩度の観点から、好ましくは1〜70重量%、より好ましくは3〜65重量%、更に好ましくは5〜60重量%である。
(d)成分の含有量は、印字濃度向上、画像均一性の観点から、好ましくは2〜70重量%、より好ましくは3〜60重量%である。
(e)成分の含有量は、得られる分散体の分散性の観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜20重量%である。
(f)成分の含有量は、吐出性向上の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
モノマー混合物中における〔(c)成分+(d)成分〕の合計含有量は、印字濃度向上、画像均一性の観点から、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜70重量%、特に好ましくは30〜60重量%である。
また、〔(a)成分+(e)成分+(f)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の分散性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは7〜50重量%である。
また、〔(a)成分/{(b)成分+(c)成分+(d)成分の合計量]}〕の重量比は、得られる分散体の分散性及び印字濃度の観点から、好ましくは0.05〜1、より好ましくは0.08〜0.67、更に好ましくは0.1〜0.5である。
【0033】
〔水不溶性ポリマーの製造〕
水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0034】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0035】
本発明で用いられるポリマーの重量平均分子量は、印字濃度、光沢性及び着色剤の分散性の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万が更に好ましく、2万〜30万が特に好ましい。なお、ポリマーの重量平均分子量は、実施例で示す方法により測定する。
本発明で用いられるポリマーが、塩生成基含有モノマー(a)由来の塩生成基を有している場合は中和剤により中和して用いる。中和剤としては、ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。
【0036】
塩生成基の中和度は、10〜200%であることが好ましく、さらに20〜150%、特に50〜150%であることが好ましい。
ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価 (KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合は、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価 (HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]}×100
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。または、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0037】
〔黄色有機顔料(A)及び顔料誘導体(B)を含有するポリマー粒子の水分散体の製造〕
黄色有機顔料(A)及び顔料誘導体(B)(両者を合わせて「着色剤」という)を含有するポリマー粒子の水分散体の製造方法は特に限定されないが、下記工程I及びIIを有する方法によれば効率的に製造することができる。
工程I:ポリマー、着色剤、有機溶媒、及び水を含有する混合物を分散して、着色剤を含有するポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から有機溶媒を除去する工程
【0038】
工程Iでは、まず、ポリマーを有機溶媒に溶解させ、得られたポリマー溶液に、着色剤、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合物を得て、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。混合物中、着色剤は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%が更に好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%が更に好ましく、ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%が更に好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%が更に好ましい。
ポリマーが塩生成基を有する場合は中和剤を用いることが好ましいが、中和度に特に制限はない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えばpHが4.5〜10であることが好ましい。ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。中和剤としては前記のものが挙げられる。また、ポリマーを予め中和しておいてもよい。
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。有機溶媒は、水100gに対する溶解量が20℃において、5g以上のものが好ましく、10g以上のものが更に好ましく、より具体的には5〜80gのものが好ましく、10〜50gのものが更に好ましい。特に、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0039】
工程Iにおける混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程Iの分散温度は、5〜50℃が好ましく、10〜35℃が更に好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中では、ウルトラディスパー〔浅田鉄鋼株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー、TKパイプラインミクサー、TKホモジェッター、TKホモミックラインフロー、フィルミックス〔以上、特殊機化工業株式会社、商品名〕、クリアミックス〔エム・テクニック株式会社、商品名〕、ケイディーミル〔キネティック・ディスパージョン社、商品名〕等の高速攪拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics 社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕、アルティマイザー〔スギノマシン株式会社、商品名〕、ジーナスPY〔白水化学株式会社、商品名〕、DeBEE2000 〔日本ビーイーイー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの中では、顔料を用いる場合に、顔料の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0040】
工程IIでは、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去して水系にすることで、着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られたポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されている。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
得られた着色剤を含有するポリマー粒子の水分散体は、着色剤を含有するポリマーの固形分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤とポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子の表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
【0041】
〔インクジェット記録用水分散体及び水系インク〕
本発明の水系インクは、本発明の水分散体を含有し、必要により、湿潤剤、分散剤、消泡剤、防黴剤、キレート剤等の添加剤を添加することができる。これらの添加剤の混合方法に特に制限はない。
インクジェット記録用水分散体及び水系インク中における、各成分の含有量は、印字濃度、彩度、保存安定性等の観点から次のとおりである。
黄色有機顔料(A)と顔料誘導体(B)を含有するポリマー粒子の含有量は、好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは2〜25重量%である。
黄色有機顔料(A)と顔料誘導体(B)の合計含有量は、好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは2〜20重量、特に好ましくは2〜10重量%である。
ポリマーの含有量は、好ましくは0.5〜20重量%、更に好ましくは1〜15重量%、特に好ましくは1〜10重量%である。
〔ポリマー/黄色有機顔料(A)と顔料誘導体(B)との合計量〕の重量比は、好ましくは10/90〜90/10、更に好ましくは20/80〜80/20、特に好ましくは20/80〜50/50である。
水分散体及び水系インクにおける着色剤を含有するポリマー粒子の平均粒径は、彩度、保存安定性等の観点から、好ましくは40〜400nm、より好ましくは50〜300nm、特に好ましくは60〜200nmである。なお、着色剤含有ポリマー粒子の平均粒径の測定は、実施例記載の方法で行う。
【0042】
水分散体の固形分10重量%における粘度(20℃)は、水系インクとした時に良好な粘度とするために、2〜6mPa・sが好ましく、2〜5mPa・sが更に好ましい。また、水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、2〜12mPa・sが好ましく、2.5〜10mPa・sが更に好ましい。なお、水分散体及び水系インクの粘度の測定は、E型粘度計を用いて、測定温度20℃、測定時間1分、回転数100rpm、標準ローター(1°34’×R24)使用の条件で測定する。
本発明の水分散体及び水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、水分散体としては、好ましくは30〜70mN/m、更に好ましくは35〜68mN/mであり、水系インクとしては、好ましくは25〜50mN/m、更に好ましくは27〜45mN/mである。また、水系インクのpHは4〜10が好ましい。
【実施例】
【0043】
以下の顔料の合成例、ポリマーの製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。なお、ポリマーの重量平均分子量、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定方法は以下のとおりである。
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
標準物質としてポリスチレン、カラムとして東ソー株式会社製、G4000HXL+G2000HXLを用い、溶離液として50mM CH3COOH/1級を含有するテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより重量平均分子量を測定した。
(2)顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
大塚電子株式会社製のELS−8000を用いて測定した。測定条件は、温度が25℃、入射光と検出器との角度が90°、積算回数が200回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。また標準物質としてセラディン(Seradyn)社製のユニフォーム・マイクロパーティクルズ(平均粒径204nm)を用いた。
【0044】
合成例1
水960gと35%塩酸327g(3.139モル)との混合溶液中に、3−ニトロ−4−トルイジン162.6g(1.07モル)と下記式(8)で表されるモノアゾ黄色有機顔料17.01g(0.03モル)を加えて、撹拌して分散させた。この分散液に、氷を約700g加えて冷却後、水130gに亜硝酸ソーダ87g(1.27モル)を溶解した液を加え、10℃以下を保持しつつ1時間撹拌し、スルファミン酸で過剰の亜硝酸を消失させた後、濾過を行ってジアゾ化液とした。
【0045】
【化4】

【0046】
一方、水5300gに酢酸ソーダ96g(0.706モル)を溶解した後、該水溶液にアセトアセチルアニライド200.9g(1.13モル)を加えて分散させ、次に、80%酢酸90g(1.199モル)を滴下してpH6とし、温度25℃に調整してカップラー液とした。
このカップラー液に、上記のジアゾ化液を120分で滴下してカップリング反応を行った。次に、90℃に昇温して30分間熱処理した後、濾過、水洗して副生塩等を除去し、乾燥機で80℃乾燥した。この乾燥顔料を粉砕して下記式(9)で表される黄色アゾ顔料誘導体B−1(分子量783;前記式(1)で表される化合物)とC.I.ピグメント・イエロー74(分子量386)を含有した着色剤を得た。
【0047】
【化5】

【0048】
合成例2
合成例1と同様に、合成し、90℃に昇温して30分間熱処理した後、濾過、水洗して副生塩等を除去し、乾燥機で80℃乾燥した。この乾燥顔料を粉砕して下記式(10)で表される黄色アゾ顔料誘導体B−2(分子量738)とC.I.ピグメント・イエロー74を含有した着色剤を得た。
【0049】
【化6】

【0050】
合成例3
2−メトキシ−4−ニトロ−アニリン55.0部とp−トルイジン−m−スルホン酸3.2部とを、水1,300部及び35%塩酸290部の混合物中に加えて攪拌した後、0℃に冷却し、亜硝酸ソーダ80部を加えてジアゾ化した。別に2−メトキシアセトアセトアニライド74.4部を水5,000部中に加え、水酸化ナトリウム48部と共に溶かし、次いで酢酸196部と水196部との混合液を添加することによって析出させてカップリング成分の懸濁液を得る。澄明になったジアゾ溶液をよく撹拌しながら、15℃において1時間30分〜2時間以内に上記のカップリング成分の酢酸酸性懸濁液に流下し添加した。カップリング終了後、ロジン45部を加えて顔料処理を施し、得られた顔料組成物を濾過、水洗、乾燥、粉砕し、133.0部のC.I.ピグメント・イエロー74のアリール基にスルホン基を導入した、下記式(11)で表される黄色アゾ顔料誘導体B−3(分子量488;前記式(1)で表される化合物)にスルホン)とC.I.ピグメント・イエロー74を含有した着色剤を得た。
【0051】
【化7】

【0052】
製造例1〜3(ポリマー溶液の調製)
反応容器内に、メチルエチルケトン10部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.02部、及び表1に示す各モノマー(重量部表示)の各20%ずつを入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロート中に、表1に示す各モノマー(重量部表示)のうちの残りの80%ずつを仕込み、次いで前記の重合連鎖移動剤0.08部、メチルエチルケトン10部及び重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.0部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、その混合溶液の液温を75℃で2時間維持した後、前記の重合開始剤0.6部をメチルエチルケトン10部に溶解した溶液を該混合溶液に加え、更に75℃で3時間、85℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
得られたポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって単離し、重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1〜4及び比較例1〜2(着色剤含有粒子の水分散体、及び水系インクの製造)
製造例1〜3で得られたいずれかのポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー40部を、メチルエチルケトン72部に溶かし、その中にイオン交換水207部と中和剤(5N−水酸化ナトリウム水溶液)酸価に対して65%加えた混合物で塩生成基を中和し、更に表2に示す顔料(C.I.ピグメント・イエロー74と合成例1〜3で得られたいずれかの顔料誘導体B−1〜3)60部を加えディスパー混合した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で150MPaの圧力で15パス分散処理した。得られた分散体から、エバポレーターを用いて減圧下で60℃でメチルエチルケトンを除去し、固形分量が20%の有機顔料含有粒子の水分散体を得た。得られた有機顔料含有粒子の平均粒径を測定した。
上記で得られた有機顔料含有粒子の水分散体40部、グリセリン10部、2−エチル−1,3−ブタンジオール10部、2−ピロリドン2部、アセチレングリコールEO付加物(n=10)1部及びイオン交換水37部を混合し、得られた混合液を1.2μmのメンブランフィルター〔Sartorius社製、商品名:Minisart〕で濾過し、水系インクを得た。
【0055】
各実施例及び各比較例で得られた水系インクの物性を下記方法に基づいて評価した。その結果を表2に示す。
(1)吐出信頼性
市販の株式会社リコーのインクジェットプリンター(品番:IPSiO G717、ピエゾ方式)を用いて、普通紙a(6200紙、株式会社リコー製)に2000文字/枚を100枚連続印刷した後、文字、ベタ画像及び罫線を含むテスト文書を印字し、(i)シャープでハッキリとした文字、(ii)均一なベタ画像、及び(iii)ヨレのない罫線の3項目を評価し、以下の判断基準により評価した。
〔判断基準〕
○:3項目をいずれも満足する(問題なし)
△:3項目をいずれもほぼ満足する(実使用上問題なし)
×:1項目以上満足しない(実使用上問題あり)
【0056】
(2)保存安定性の評価
水系インクをガラス製密閉容器に充填し、70℃、10日保存後の平均粒径を粒径測定器(大塚電子株式会社製、商品名:ELS−8000)を用いて前記条件で測定し、下記式より粒径増加率を求め(数値が100%に近い方が、保存安定性が良い)、下記基準により評価した。
〔判断基準〕
○:粒径増加率が120%未満
×:粒径増加率が120%以上
粒径増加率=[保存後の平均粒径(70℃、10日間保存後の粒径)/保存前の平均粒径(保存前の粒径)]×100
【0057】
(3)色調安定性
水系インクをガラス製密閉容器に充填し、70℃、10日保存後の2000倍にイオン交換水で希釈し、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、商品名:U−3010)を用いて測定し、可視領域での最大吸光度の差(Δλmax)を評価した。Δλmax
が5未満であれば、
色見が変わらない。
Δλmax=[保存後のλmax(70℃、10日間保存後の強度)−保存前のλmax(
保存前の強度)]
〔判断基準〕
○:Δλmax =5未満
×:Δλmax =5以上
【0058】
(4)印字濃度
前記の普通紙a(6200紙)、普通紙b(4024紙、富士ゼロックス株式会社製)に対し、べた画像を印字し、1日放置後、光学濃度計SpectroEye(グレタグマクベス社製)を用いて任意の10箇所を測定し、平均値を求め、その平均値から以下の判断基準により評価した。
【0059】
(5)画像均一性(隠蔽性)
前記の普通紙a(6200紙)、普通紙b(4024紙)に対し、ベタ画像を印字し、色むらがあるか否かを目視で、以下の判断基準により評価した。
〔判断基準〕
○:色むらなし(抜けなし)
×:色むらがある(白抜けあり)
(6)色間滲み
前記の普通紙a(6200紙)、普通紙b(4024紙)に対し、第1液体組成物で10ポイントの文字(漢字、ひらがな)を印字するバックに、第2液体組成物を印字したパターンを作成し、文字部のにじみを官能評価し、以下の判断基準により評価した。
〔判断基準〕
○:漢字、ひらがな全てが問題なく再現されている。
△:漢字の一部が再現されないが、一部は判読できる。
×:漢字、ひらがなの判読が不可能である。
(7)定着性
前記の普通紙a(6200紙)に対し、20mm×20mmの大きさのべた画像を印字し、10秒後、30秒後、60秒後ごとの印字画像の上から別の普通紙P紙の裏面を重ね、さらに上から490g(荷重面積43mm×30mm)の荷重をかけた状態で、べた画像表面を移動させ、重ねた紙の汚れを測定した。評価は以下の判断基準により行った。
〔判断基準〕
○:ほとんど印字物はとれず、周りが黄色くならない。
△:ほとんど印字物はとれず、僅かに周りが黄色くなるが、実用上問題ないレベル。
×:印字物が擦りとられ、周りがひどく黄色くなり、指も相当汚れる。
【0060】
(8)彩度(色再現性)
前記の普通紙a(6200紙)に対し、べた画像を印字し、1日放置後、光学濃度計SpectroEye(グレタグマクベス社製)を測定モードL***に設定し、任意の5箇所を測定し平均値を求め、その平均値から以下の判断基準により評価した。彩度とは、色のあざやかさの程度を表す尺度であり、等しい明るさの無彩色からの距離で表す。ここでは、彩度を、下記式で示すように、L***表色系(ここで、L*は明度、a*は赤−緑方向の色度、b*は黄−青方向の色度を示す。)で、中心(a**が共に0の位置:無彩色)からの距離で表す。
彩度={(a*2+(b*21/2
〔判断基準〕
○:92以上
△:90以上、92未満
×:90未満
【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄色有機顔料(A)と極性基を有する顔料誘導体(B)とを含有するビニルポリマー粒子の水分散体であって、〔該顔料誘導体(B)/黄色有機顔料(A)〕の分子量比が1.4〜3であり、該ビニルポリマーが、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有するインクジェット記録用水分散体。
【請求項2】
顔料誘導体(B)が、下記式(1)で表されるアゾ化合物(B)である、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体。
【化1】

(式中、R10及びR20は、置換基を有していてもよい、炭素数6〜50のアリール基を示し、少なくとも一方は極性基を有する。R10又はR20は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
〔顔料誘導体(B)/黄色有機顔料(A)〕の重量比が1/99〜30/70である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項4】
ビニルポリマーが、炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート由来の構成単位を1〜70重量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項5】
ビニルポリマーが、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位、及び炭素数8〜22の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル又はアルケニル(メタ)アクリレート(c)由来の構成単位を主鎖に有し、マクロマー(b)由来の構成単位を側鎖に有するグラフトポリマーである、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2008−231178(P2008−231178A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70087(P2007−70087)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】