説明

インクジェット記録用水系インク

【課題】印字濃度及び濾過性に優れたインクジェット記録用水分散体、及びその水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供する。
【解決手段】(1)アニオン性顔料粒子、及び炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位とカチオン性モノマー由来の構成単位を含む水溶性カチオン性ポリマーとを含有するインクジェット記録用水分散体、及び(2)その水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水分散体、及びその水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
最近では、印刷物に耐候性や耐水性を付与するために、着色剤として顔料を用いるインクが広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、普通紙印刷における彩度、濃度等の改善を目的として、顔料、アニオン性分散剤、ポリエチレンイミン等のカチオン性水溶性ポリマー及び水性媒体からなる水性顔料インクが開示されている。
特許文献2には、分散安定性等の改善を目的として、(i)側鎖にカチオン性基を有するアクリル系ポリマーと、側鎖にアニオン性基を有するアクリル系ポリマーと、顔料とを含有する記録液用水性顔料分散液、(ii)側鎖にカチオン性基を有するアクリル系ポリマーと側鎖にアニオン性基を有するアクリル系ポリマーとを予め混合し、得られた混合物を顔料と共に水性媒体中に分散させる記録液用水性顔料分散液の製造方法、及び(iii)前記分散液を含み、分散粒子の含有率が1〜10質量%である水性顔料記録液が開示されている。
特許文献3には、分散安定性、光沢性等の改善を目的として、顔料、疎水性基含有カチオンポリマー、及び疎水性基含有アニオンポリマーを含み、該アニオンポリマーに含まれるアニオン性基数が該カチオンポリマーに含まれるカチオン性基数に対して1.0〜8である水性顔料分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−123865号公報
【特許文献2】特開2004−59625号公報
【特許文献3】特開2008−239961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット記録用水系インクの着色剤として顔料を用いると、染料のように紙の繊維を染色しないため十分な印字濃度がでないという問題がある。また、インクジェット記録方式は微細なノズルから記録媒体へインクを吐出して印刷するため、十分に分散されていない顔料や不安定な粒子に由来する粗大粒子や凝集物が存在すると目詰まり等の吐出不良の原因になる。そのため粗大粒子や凝集物が少なく、濾過を行った際に、目詰まりを起こすことのないインク及び水分散体が望まれている。
本発明は、印字濃度及び濾過性に優れたインクジェット記録用水分散体、及びその水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、顔料等の分散性色材を用いたインクで十分な印字濃度が得られ難い原因は、色材が微細粒子であるため紙へ浸透しやすいことにあると考えて検討を行った。その結果、特定のカチオン性ポリマーとアニオン性顔料粒子とを含有するインクジェット記録用水分散体を含有する水系インクが、顔料の紙への浸透を抑制し、印字濃度を向上させることができると共に、濾過性にも優れることを見出した。
すなわち、本発明は、アニオン性顔料粒子、及び炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位とカチオン性モノマー由来の構成単位を含む水溶性カチオン性ポリマーとを含有するインクジェット記録用水分散体、及びその水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インクを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、印字濃度及び濾過性に優れたインクジェット記録用水分散体、及びその水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用水分散体は、アニオン性顔料粒子、及び炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位とカチオン性モノマー由来の構成単位を含む水溶性カチオン性ポリマーとを含有することを特徴とする。
本発明のインクジェット記録用水分散体、及びその水分散体を含有する水系インクは、濾過性にも優れ、印字濃度も高いものである。このような効果が得られる理由は定かではないが、アニオン性顔料粒子とカチオン性ポリマーがインク中に含まれると、インクは不安定になりやすく、多くのカチオン性ポリマーを配合することはできない。しかし、本発明においては、水溶性カチオン性ポリマーを構成する炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の疎水基によりカチオン性ポリマーが自己ミセル化し、カチオン性ポリマー分子が広がらないため、アニオン性顔料粒子との接触面積が少なくなり、インク中にカチオン性ポリマーを多く配合しても、凝集が起きにくく安定で濾過性に優れる水分散体、及び水系インクが得られると考えられる。このように得られた水系インクは、紙上に印刷されたときには、顔料粒子のアニオン性基とカチオン性ポリマーのカチオン性基が相互作用を起こし、急激に凝集が起こり、紙への浸透を抑制し、高い印字濃度を発現するものと考えられる。
以下、本発明に用いられる各成分等について説明する。
【0009】
<アニオン性顔料粒子>
本発明において、アニオン性顔料粒子(以下、単に「顔料粒子」ともいう)としては、顔料のみからなる粒子、顔料がアニオン性界面活性剤で分散されてなる粒子、顔料がアニオン性ポリマーで分散されてなる粒子、顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子等が挙げられる。これらの中では、顔料粒子のインク中での分散安定性の観点、及びインクの印字濃度を向上させる観点から、「顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子」であることが好ましい。また、該アニオン性ポリマー粒子の保存安定性の観点から、該アニオン性ポリマー粒子はアニオン性架橋ポリマー粒子であることが好ましい。該アニオン性架橋ポリマー粒子は、後述するように、例えば、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体に架橋剤を添加して、「顔料を含有するアニオン性架橋ポリマー粒子」の水分散体の形態として得ることができる。
なお、本明細書において、「アニオン性」とは、未中和の化合物等を純水に分散又は溶解させた場合、pHが7未満となること、又は化合物等が純水に不溶の場合は、純水に分散させた分散体のゼータ電位が負となること、のいずれかに該当することをいう。
アニオン性顔料粒子の平均粒径は、インクの印字濃度の観点から、好ましくは10〜300nm、より好ましくは40〜200nm、より好ましくは50〜150nm、更に好ましくは60〜100nm、更に好ましくは60〜90nmである。なお、平均粒径は、実施例記載の方法により測定される。
【0010】
〔顔料〕
本発明に用いられる顔料としては、特に制限はなく、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、有機顔料が印字濃度を向上させる効果を十分に発揮させる観点から好ましい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水分散体においては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0011】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、赤色、黄色、青色、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料を用いることができる。
キナクリドン固溶体顔料は、β型、γ型等の無置換キナクリドンと、2,9−ジクロルキナクリドン、3,10−ジクロルキナクリドン、4,11−ジクロルキナクリドン等のジクロロキナクリドンからなる。キナクリドン固溶体顔料としては、無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19)と2,9−ジクロルキナクリドン(C.I.ピグメント・レッド202)との組合せからなる固溶体顔料が好ましい。
【0012】
本発明においては、自己分散型顔料を用いることもできる。自己分散型顔料とは、親水性官能基(カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性親水基)の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である無機顔料や有機顔料を意味する。ここで、他の原子団としては、炭素数1〜12のアルカンジイル基、フェニレン基又はナフチレン基等が挙げられる。
顔料を自己分散型顔料とするには、例えば、親水性官能基の必要量を、常法のより顔料表面に化学結合させればよい。より具体的には、硝酸、硫酸、ペルオキソ二硫酸、次亜塩素酸、クロム酸等の酸類等により液相酸化する方法やカップリング剤を用いて親水基を結合する方法が好ましい。
親水性官能基の量は特に限定されないが、自己分散型顔料1g当たり100〜3,000μmolが好ましく、親水性官能基がカルボキシ基の場合は、自己分散型顔料1g当たり200〜700μmolが好ましい。
アニオン性自己分散型顔料の市販品としては、CAB−O−JET200、同300、同352K、同250C、同260M、同270Y、同450C、同465M、同470Y、同480V(キャボット社製)やBONJET CW−1、同CW−2(オリヱント化学工業株式会社製)、Aqua−Black 162(東海カーボン株式会社製)等が挙げられる。
上記の顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0013】
[顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子]
(水不溶性アニオン性ポリマー)
顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子には、インクの印字濃度向上の観点から、水不溶性アニオン性ポリマーが用いられる。ここで、「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマー1gを、25℃の水99gに溶解させたときに、目視で確認できる不溶分があるか、不透明であることをいう。透明性の判断としてはEUTECH社製濁度計「TN100」で100NTUを超えることを不透明とした。水不溶性は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
用いることのできるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、アニオン性ポリマー粒子の分散安定性の観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
アニオン性ビニル系ポリマーとしては、(a)アニオン性モノマー(以下「(a)成分」ともいう)と、(b)炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー(以下「(b)成分」ともいう)及び/又は(c)マクロマー(以下「(c)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と、(b)成分由来の構成単位及び/又は(c)成分由来の構成単位を有する。中でも(a)成分由来の構成単位、(b)成分由来の構成単位、(c)成分由来の構成単位を全て含有するものが好ましい。
【0014】
〔(a)アニオン性モノマー〕
(a)アニオン性モノマーは、アニオン性ポリマー粒子を水分散体中で安定に分散させ、カチオン性ポリマーとのイオン的相互作用を促進するために、アニオン性ポリマーのモノマー成分として用いられる。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、アニオン性ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性の観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0015】
〔(b)炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー〕
(b)炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマーは、水分散体の濾過性向上の観点、及びその水分散体を含むインクの印字濃度の向上の観点から、アニオン性ポリマーのモノマー成分として用いられる。
炭素数4〜30のアルキル基を含有するビニルモノマーとしては、炭素数4〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましい。例えば、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0016】
炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22のアリール基を含有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー及びアリール基含有(メタ)アクリレートがより好ましく、アリール基含有(メタ)アクリレートが更に好ましい。また、スチレン系モノマー及びアリール基含有(メタ)アクリレートを併用することも好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、アリール基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0017】
〔(c)マクロマー〕
(c)マクロマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、アニオン性ポリマー粒子のインク中での保存安定性の観点から、アニオン性ポリマーのモノマー成分として用いられる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロマーの数平均分子量は500〜100,000が好ましく、1,000〜10,000がより好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c)マクロマーとしては、アニオン性ポリマー粒子のインク中での分散安定性の観点から、芳香族基含有モノマー系マクロマー及びシリコーン系マクロマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)成分で記載した炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0018】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
モノマー混合物には、更に、(d)ノニオン性モノマー(以下「(d)成分」ともいう)が含有されていてもよい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでもポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、これらを併用することがより好ましい。
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
ビニル系ポリマー製造時における、上記(a)〜(c)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はビニル系ポリマー中における(a)〜(c)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、アニオン性ポリマー粒子を水分散体中で安定に分散させ、アニオン性ポリマー粒子とカチオン性ポリマーとのイオン的相互作用を促進する観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは4〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。
(b)成分の含有量は、水分散体及びその水分散体を含むインクの印字濃度向上の観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜80重量%である。
(c)成分の含有量は、アニオン性ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性の観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
また、〔(a)成分/[(b)成分+(c)成分]〕の重量比は、アニオン性ポリマー粒子の水分散体中での分散安定性、及び水分散体及びその水分散体を含むインクの印字濃度の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0020】
(アニオン性ポリマーの製造)
前記アニオン性ポリマーは、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましく、重合連鎖移動剤としては、2−メルカプトエタノールが好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜80℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
本発明で用いられるアニオン性ポリマーの重量平均分子量は、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子のインク中での分散安定性と、インクの印字濃度の観点から、5,000〜50万が好ましく、1万〜40万がより好ましく、1万〜30万がより好ましく、2万〜20万が更に好ましい。なお、重量平均分子量は、実施例記載の方法により測定される。
【0021】
[顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子の製造]
顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子の水分散体は、下記の工程(1)及び(2)を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程(1):アニオン性ポリマー、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物を分散処理して、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0022】
工程(1)
工程(1)では、まず、アニオン性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。アニオン性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、中和剤、水、顔料の順に加えることが好ましい。
アニオン性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、メチルエチルケトンが好ましい。アニオン性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
中和剤を用いる場合、pHが7〜13であるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、アニオン性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
アニオン性ポリマーのアニオン性基の中和度は、分散安定性の観点から、10〜300%であることが好ましく、20〜200%がより好ましく、30〜150%が更に好ましい。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量をアニオン性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0023】
混合物中、顔料は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%が更に好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%が更に好ましく、アニオン性ポリマーは、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%が更に好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%が更に好ましい。
前記アニオン性ポリマーの量に対する顔料の量の重量比〔顔料/アニオン性ポリマー〕は、分散安定性の観点から、50/50〜90/10であることが好ましく、70/30〜85/15であることがより好ましい。
【0024】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでアニオン性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程(1)の分散における温度は、0〜50℃が好ましく、0〜35℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、2〜25時間がより好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、なかでも高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社、商品名)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらの中では、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。本分散は、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子をより小粒子径化する観点から、これらの装置を複数を組み合わせて使用することが好ましく、これら複数の装置の組み合わせの中では、メディア式分散機と高圧ホモジナイザーを併用して使用することが好ましい。
【0025】
工程(2)
工程(2)では、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去することで、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られたポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよく、架橋工程を後に行う場合は、必要により架橋後に再除去すればよい。残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有する該ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。
【0026】
<水溶性カチオン性ポリマー>
本発明においては、水分散体又はその水分散体を含むインクの印字濃度を向上させる観点から、炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位とカチオン性モノマー由来の構成単位を含む水溶性カチオン性ポリマーを用いる。
該水溶性カチオン性ポリマーは、前記ビニルモノマーとカチオン性モノマー由来の構成単位以外のモノマー由来の構成単位を含んでいてもよいが、炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位とカチオン性モノマー由来の構成単位からなるものであることが好ましい。
【0027】
カチオン性ポリマー中における炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー及び前記カチオン性モノマーに由来する構成単位の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)は、次のとおりである。
炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位の含有量は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは30〜60重量%である。
カチオン性モノマー由来の構成単位の含有量は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
また、ポリマーの構成単位中の〔カチオン性モノマー/炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー〕の重量比は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜5、更に好ましくは1〜3である。
カチオン性モノマー由来の構成単位の比率〔カチオン性モノマー/全モノマー〕は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは20〜80モル%、更に好ましくは40〜60モル%である。
【0028】
本発明に用いられるカチオン性ポリマーはアニオン性顔料粒子と効率的に相互作用を生じさせる観点から、水溶性である。
ここで、「水溶性」とは、カチオン性ポリマーを105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマー1gを、25℃の水99gに溶解させたときに透明であることをいう。透明性の判断としてはEUTECH社製濁度計TN100で100NTU以下であることを透明とした。なお、中和されていないカチオン性ポリマーの場合の水溶性は、ポリマーのカチオン性基を塩酸で100%中和した時の水溶性である。
また、「カチオン性」とは、未中和のポリマーを純水に分散又は溶解させた場合、pHが7より大となること、第4級アンモニウム塩等を有するポリマーの場合はその対イオンを水酸化物イオンとして純水に分散又は溶解させた場合、pHが7より大となること、又はポリマー等が純水に不溶であり、pHが明確に測定できない場合には、純水に分散させた分散体のゼータ電位が正となることをいう。
【0029】
〔炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー〕
炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマーは、印字濃度の向上の観点から、カチオン性ポリマーのモノマー成分として用いられる。
該ビニルモノマーは、前記のアニオン性ビニル系ポリマーの(b)成分と同じものを用いることができる。
該ビニルモノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、及びベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリール基含有(メタ)アクリレートが好ましく、ベンジル(メタ)アクリレート及び/又はスチレンがより好ましい。
【0030】
〔カチオン性モノマー〕
カチオン性モノマーとしては、アミノ基を有するモノマー、4級アンモニウム基を含有するモノマーが挙げられ、4級アンモニウム基を含有するモノマーが印字濃度向上の観点から好ましい。
アミノ基を有するモノマーとしては、ジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド類、ジアルキルアミノ基を有するスチレン類、ビニルピリジン類、N−ビニル複素環化合物類、及びビニルエーテル類から選ばれる1種以上が好ましく、なかでもジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
4級アンモニウム基を含有するモノマーとしては、アミノ基を有するモノマーの酸中和物、該モノマーを4級化剤で4級化した第4級アンモニウム塩、又はジアリル型第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
ジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジt−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリルアミド類としては、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジt−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
ジアルキルアミノ基を有するスチレン類としては、ジメチルアミノスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン等が挙げられ、ビニルピリジン類としては、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等が挙げられ、N−ビニル複素環化合物類としては、N−ビニルイミダゾール等が挙げられ、ビニルエーテル類としては、アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
アミノ基を有するモノマーの酸中和物、該モノマーを4級化剤で4級化した第4級アンモニウム塩、及びジアリル型第4級アンモニウム塩としては、下記一般式(1)及び/又は(2)で表される化合物が好ましく、中でも、第4級アンモニウム塩型モノマーは、系のpHが変化しても、分散安定性が良好であり、より好ましい。
【0032】
【化1】

【0033】
(R1は、水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、アルケニル基、又はベンジル基を示し、R4は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はベンジル基を示し、Yは、−O−基、−NH−基又は−O−CH2CH(OH)−基を示し、Zは、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルカンジイル基を示し、Xは陰イオンを示す。)
一般式(1)において、R2、R3及びR4の炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基が挙げられる。Zとしては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はプロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基等が挙げられる。
Xの陰イオンとしては、ハロゲン化物イオン、酸の共役塩基、又は炭素数1〜4のアルキルサルフェートイオンが挙げられる。ハロゲン化物イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられ、酸の共役塩基としては、酸中和物を得るための好ましい酸(後記)から水素原子を除いた基が挙げられる。
一般式(1)で表される化合物の好適例としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリアルキル(メチル又はエチル)アンモニウム塩、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリアルキル(メチル又はエチル)アンモニウム塩が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドがより好ましい。
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R7及びR8は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xは前記と同じである。)
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のジアリル型第4級アンモニウム塩が挙げられ、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドが好ましい。
【0036】
一般式(1)又は(2)で表される化合物が酸中和物であるとき、この酸中和物を得るために用いる好ましい酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、スルファミン酸、トルエンスルホン酸、乳酸、ピロリドン−2−カルボン酸、コハク酸等が挙げられる。
また、一般式(1)又は(2)で表される化合物が第4級アンモニウム塩であるとき、この第4級アンモニウム塩を得るために用いる好ましい4級化剤としては、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ−n−プロピル等の硫酸ジアルキル、及び塩化ベンジル等のアルキル化剤が挙げられる。
【0037】
上記のカチオン性モノマーの中では、炭素数1〜4のアルキル基を有するジアルキルアミノエチルメタクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリアルキル(メチル又はエチル)アンモニウム塩が好ましく、より具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドがより好ましく、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドが更に好ましい。
本発明の水溶性カチオン性ポリマーは、前記炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位及びカチオン性モノマー由来の構成単位以外に、本発明の効果を損なわない程度に、前記の(c)マクロマー、及び(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有していてもよい。
(c)マクロマーは前記のとおりであり、スチレン系マクロマーが好ましい。
(d)ノニオン性モノマーは前記のとおりであり、ポリエチレングリコール(n=1〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等が好ましい。
前記のビニルモノマー、カチオン性モノマー、(c)マクロマー、及び(d)ノニオン性モノマーは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
カチオン性ビニルポリマー製造時における、前記炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー及び前記カチオン性モノマーのモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)は、次のとおりである。
前記炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマーの含有量は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは30〜60重量%である。
前記カチオン性モノマーの含有量は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
また、〔前記カチオン性モノマー/前記炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー〕の重量比は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜5、更に好ましくは1〜3である。
カチオン性モノマー比率〔前記カチオン性モノマー/全モノマー〕は、インクの印字濃度向上の観点から、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは20〜80モル%、更に好ましくは40〜60モル%である。
【0039】
(水溶性カチオン性ポリマーの製造)
水溶性カチオン性ポリマーは、アニオン性ポリマーと同様に、モノマー混合物を公知の重合法により共重合させることによって製造される。重合法としては溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、水、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的には水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン及びそれらの混合溶媒が挙げられ、エタノール及びエタノールとメチルエチルケトンの混合溶媒が好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50〜80℃が好ましく、重合時間は1〜20時間であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から溶媒を除去し、水へ溶解させることにより、水溶液として水分散体の製造に用いることが好ましい。
【0040】
本発明で用いられる水溶性カチオン性ポリマーは、カチオン性モノマー由来のカチオン性基を有している場合は中和剤により中和して用いることが好ましい。中和剤としては、例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸等の酸が挙げられる。
水溶性カチオン性ポリマーのカチオン性基の中和度は、インクの印字濃度の観点から、10〜300%であることが好ましく、40〜200%がより好ましく、60〜150%が更に好ましい。
中和は重合する前のモノマーのときに行ってもよく、ポリマーを得た後に行ってもよいが、ポリマーを得た後に行うことが好ましい。
また、4級化したカチオン性基を有するカチオン性ポリマーにおいても、モノマーのときに4級化してもよく、ポリマーを得た後に4級化してもよいが、モノマーのときに行うことが、反応性の観点から好ましい。
【0041】
[インクジェット記録用水分散体の製造]
本発明のインクジェット記録用水分散体は、アニオン性顔料粒子を含む分散液と水溶性カチオン性ポリマーを含む液を混合することによって得られるが、常にアニオン性顔料粒子のアニオン性基が、水溶性カチオン性ポリマーのカチオン性基のモル数より多く存在する条件で、混合する工程を有する方法によって得ることが好ましい。
混合工程中、常にアニオン性顔料粒子のアニオン性基を、水溶性カチオン性ポリマーのカチオン性基のモル数より多く存在させることで、極性の逆転が起こることなく、安定に水分散体を調製することができる。
前記の条件で混合するために、アニオン性顔料粒子を含む分散液に、水溶性カチオン性ポリマーを含む液を添加し、混合する工程を有する方法によって得ることが好ましい。
このように得られた水分散体、及びその水分散体を含有する水系インクは、濾過性にも優れ、印字濃度も高いものである。このような効果が得られる理由は定かではないが、前述の理由によるものと考えられる。
また、混合するときの、アニオン性顔料粒子のアニオン性基の量とカチオン性ポリマーのカチオン性基の量のモル比(アニオン性基/カチオン性基)は、良好な濾過性を維持し、印字濃度を向上させる観点から、2〜100が好ましく、10〜70がより好ましく、10〜30がより好ましく、12〜18が更に好ましく、12〜14が特に好ましい。
アニオン性基/カチオン性基のモル比をこの範囲にすることで、前記のように濾過性を維持しながらも、印字濃度を向上させることができるものと考えられる。
【0042】
混合する前の、アニオン性顔料粒子を含有する水分散液のアニオン性顔料粒子の濃度は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、更に好ましくは20〜35重量%である。
混合する前の、カチオン性ポリマーを含む液のカチオン性ポリマーの濃度は、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%、更に好ましくは0.1〜2重量%である。
【0043】
(ポリマー架橋)
本発明においては、アニオン性顔料粒子を含有する分散液、特に顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体に架橋剤を添加して、該アニオン性ポリマーを架橋処理することによって、顔料を含有するアニオン性架橋ポリマー粒子を含む水分散体とすることができる。アニオン性ポリマーの架橋処理は、前記工程(2)の有機溶媒を除去する前又は後に行ってもよいし、カチオン性ポリマー混合工程の後に行ってもよいが、カチオン性ポリマー混合工程の後に行うことが均一に架橋反応を行う観点から好ましい。ポリマーを架橋処理することによって、水分散体の保存安定性を向上させることができる。
ここで、架橋剤としては、アニオン性ポリマーのアニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上、好ましくは2〜6有する化合物がより好ましい。
架橋剤の好適例としては、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。
架橋剤の使用量は、水分散体及びインクの保存安定性の観点から、〔架橋剤/アニオン性ポリマー〕の重量比で0.3/100〜50/100が好ましく、1/100〜40/100がより好ましく、5/100〜25/100が更に好ましい。
また、架橋剤の使用量は、該アニオン性ポリマー1g当たりのアニオン性基量換算で、該ポリマーのアニオン性基0.1〜20mmolと反応する量であることが好ましく、0.5〜15mmolと反応する量であることがより好ましく、1〜10mmolと反応する量であることが更に好ましい。
架橋処理して得られた架橋ポリマーは、架橋ポリマー1g当たり、塩基で中和されたアニオン性基を0.5mmol以上含有することが好ましい。
架橋ポリマーの架橋率は、好ましくは10〜80モル%、より好ましくは20〜70モル%、更に好ましくは30〜60モル%である。架橋率は、架橋剤の反応性基のモル数を、ポリマーが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数で除したものである。
【0044】
[インクジェット記録用水分散体]
本発明により得られた水分散体には、乾燥防止のために、保湿剤、有機溶媒を添加することができ、また、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加して、そのまま水系インクとして用いることもできる。
本発明の水分散体中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
本発明の製造方法で得られる水分散体に含まれる着色剤の水分散体中での含有量は、印字濃度を高める観点から、好ましくは2〜35重量%、より好ましくは3〜30重量%、更に好ましくは5〜25重量%である。
水の含有量は、好ましくは20〜95重量%,より好ましくは30〜90重量%、更に好ましくは40〜85重量%である。
本発明の水分散体の好ましい表面張力(20℃)は、30〜70mN/m、より好ましくは35〜65mN/mである。
本発明の水分散体の20重量%(固形分)の粘度(20℃)は、好ましくは1〜12mPa・s、より好ましくは1〜10mPa・s、より好ましくは2〜8mPa・s、更に好ましくは2〜6mPa・sである。
本発明の水分散体の平均粒径は、好ましくは10〜1000nm、より好ましくは60〜400nm、より好ましくは80〜250nm、更に好ましくは90〜200nm、更に好ましくは100〜150nmである。
アニオン性顔料粒子が顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子である場合、水分散体に含有される水不溶性アニオン性ポリマー粒子のアニオン性基の量とカチオン性ポリマーのカチオン性基の量のモル比(アニオン性基/カチオン性基)は、良好な濾過性を維持し、印字濃度を向上させる観点から、2〜100が好ましく、10〜70がより好ましく、10〜30がより好ましく、12〜18が更に好ましく、12〜14が特に好ましい。
【0045】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インクは、本発明の製造方法で得られた水分散体を含有するものであるが、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
本発明の水系インク中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
本発明の水系インクに用いられるアニオン性有機顔料粒子に含まれる有機顔料の含有量は、水系インクの印字濃度を高める観点から、水系インク中で、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、より好ましくは4〜15重量%、更に好ましくは5〜12重量である。
水の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
本発明の水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、23〜50mN/m、より好ましくは23〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mである。
本発明の水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出信頼性を維持するために、好ましくは2〜20mPa・sであり、より好ましくは2.5〜16mPa・s、更に好ましくは2.5〜12mPa・sである。
本発明の水系インクの平均粒径は、好ましくは10〜1000nm、より好ましくは60〜400nm、より好ましくは80〜250nm、更に好ましくは90〜200nm、更に好ましくは100〜150nmである。
アニオン性顔料粒子が顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子である場合、水系インクに含有される水不溶性アニオン性ポリマー粒子のアニオン性基の量とカチオン性ポリマーのカチオン性基の量のモル比(アニオン性基/カチオン性基)は、良好な濾過性を維持し、印字濃度を向上させる観点から、2〜100が好ましく、10〜70がより好ましく、10〜30がより好ましく、12〜18が更に好ましく、12〜14が特に好ましい。
本発明の水系インクを適用するインクジェットの方式は制限されないが、ピエゾ方式のインクジェットプリンターに特に好適である。
【実施例】
【0046】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。なお、ポリマーの重量平均分子量、アニオン性顔料粒子等の平均粒径の測定は以下の方法により行った。また、実施例及び比較例で得られた水分散体について濾過性を評価し、水系インクについては、以下の印刷方法により印刷して印字濃度を評価した。
【0047】
(1)アニオン性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶媒として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)アニオン性顔料粒子及び水分散体、水系インク中の粒子の平均粒径の測定
大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて測定した。測定する粒子の濃度を、約5×10-3重量%なるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。
【0048】
(3)濾過性の評価
孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製、ミニザルトシリンジフィルター、フィルター径: 26mm、材質:セルロースアセテート)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社)で濾過し、フィルター1個が目詰まりするまでの通液量(重量)を測定し、以下の評価基準で評価した。
評価基準
A:25mL以上通過する。
B:5mL以上25mL未満通過する。
C:5mL未満しか通過しない。
【0049】
(4)印刷方法
インクを、シリコンチューブを介して、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C、ピエゾ方式)のブラックヘッド上部のインク注入口に充填した。次いで、フォトショップによりベタ印字の印刷パターン(横181mm×縦257mmの大きさ)を作成し、ベタのDutyを変化させて試し印字〔印字条件=用紙種類:普通紙、モード設定:ブラック、ファイン、双方向〕を行い、実際の吐出量が0.80±0.01mg/cm2となるようにDutyを調整した。吐出量は、インクが入ったスクリュー管の重量変化を測定した。調整したDutyのベタ画像を用い、市販の普通紙(商品名:XEROX4200、XEROX社製、上質普通紙)に印字を行った。
(5)印字濃度の測定
印字物を25℃湿度50%で24時間放置後、印字面の印字濃度を測定した。印字濃度の測定には分光光度計(株式会社きもと製、品番:Spectro Eye)を用い、測定条件は、観測光源を D65とし、観測視野を2度とし、濃度基準を DIN16536とし、マゼンタの色濃度成分の数値を読み取った。測定回数は、測定する場所を変え、双方向印字の往路において印字された部分から5点、復路において印字された部分から5点をランダムに選び、合計10点の平均値を求めた。印字濃度は、数値が大きいほど良好である。
【0050】
調製例1(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の調製)
(1)アニオン性ポリマーの合成
ベンジルメタクリレート142部、メタクリル酸38部、スチレンマクロマー(東亞合成株式会社製、商品名:AS−6S)(固形分50%)40部を混合し、モノマー混合液を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン18部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03部、前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%と前記重合連鎖移動剤0.27部とメチルエチルケトン42部及び重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合したものを入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を撹拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液(ポリマーの重量平均分子量:90000)を得た。
(2)顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体の調製
上記(1)で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー45部をメチルエチルケトン300部に溶かし、その中に中和剤5N水酸化ナトリウム水溶液10.2部と25%アンモニア水12.2部、及びイオン交換水1150部を加え、更にマゼンタ顔料(無置換キナクリドンと2,9−ジクロロキナクリドンからなる固溶体顔料、チバ・ジャパン株式会社製、商品名:クロモフタルジェットマゼンタ2BC)180部を加え、ディスパー翼7000rpmで20℃で1時間混合したのち、ビーズミル型分散機(寿工業株式会社製、ウルトラ・アペックス・ミル、型式UAM-05、メディア粒子:ジルコニアビーズ、粒径:0.05mm)を用いて20℃で40分間混合分散した。得られた分散液をマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、高圧ホモジナイザー、商品名、型式M-140K)を用いて、180MPaの圧力でさらに5パス分散処理した。
得られた分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分を前記孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製)で濾過して粗大粒子を除き、顔料を含有するアニオン性ポリマー粒子の水分散体〔固形分濃度30.0%、平均粒径80nm〕を得た。
【0051】
調製例2(カチオン性ポリマー1の合成)
ベンジルメタクリレート45.9部、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド54.1部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、エタノール/メチルエチルケトン(重量比50/50)混合溶媒210.3部、及び前記モノマー混合液を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、前記溶媒20部及び重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−65、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))0.65部を入れて混合したものを入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を撹拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1.5時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で1.5時間経過後、前記重合開始剤0.19部を前記溶媒5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で3時間熟成させ、冷却し、カチオン性ポリマー1のエタノール溶液を得た。このポリマーを105℃で乾燥させ1gをイオン交換水99gと混合し、マグネティックスターラーで1時間撹拌し、カチオン性ポリマー1の1%水溶液を得た。カチオン性ポリマー1は水溶性であり、得られた水溶液は濁度計による評価で透明であり、不溶物もなかった。
【0052】
調製例3〜8(カチオン性ポリマー2〜7の合成)
調製例2のベンジルメタクリレートとメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドのモノマー混合液に替えて、表1に示すモノマー混合液を用い、重合溶媒としてエタノール/メチルエチルケトン(重量比50/50)混合溶媒に替えて、表1に示す溶媒を用いた以外は調製例2と同様の方法でカチオン性ポリマー2〜7を得、調製例2と同様に水溶液を調製した。カチオン性ポリマー2〜7はいずれも水溶性であり、得られた水溶液は濁度計による評価で透明であり、不溶物もなかった。
【0053】
実施例1(インクジェット記録用水分散体の製造)
調製例1で得られた顔料含有アニオン性ポリマー粒子の水分散体50.0g(アニオン性基の量:6.62mmol)を100mlトールビーカーに入れ、ステータ外部に内径0.7mmのステンレスチューブを接着したバイオミキサー(株式会社日本精機製作所、型番:BM−2、ジェネレーターシャフト型番:NS−10)を設置し、5℃の水浴に漬け、回転数20000回転/分にて撹拌しながら、調製例2で得られたカチオン性ポリマー1の1%水溶液20.83g(カチオン性基の量:0.54mmol)を3.5ml/分の速度で注入した。なお、顔料含有アニオン性ポリマー粒子のアニオン性基の量とカチオン性ポリマー1のカチオン性基の量のモル比(アニオン性基/カチオン性基)は12.2であった。
得られた分散液に、エポキシ系架橋剤(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、商品名:デナコールEX321、エポキシ当量140、ナガセケムテックス株式会社製)0.31gを加えて、90℃温浴で、撹拌しながら1.5時間保持し、インクジェット記録用水分散体を得た。得られた水分散体について、濾過性の評価を行った。結果を表1に示す。また、インクの調製に用いるために濾過性評価の後、全量を前記孔径5μmのフィルターで濾過して、平均粒径115nmの顔料含有ポリマー粒子を含むインクジェット記録用水分散体を得た。
【0054】
実施例2〜7及び比較例1〜2(インクジェット記録用水分散体の製造)
実施例1において、カチオン性ポリマー1の1%水溶液20.83gを、表1に示すようにカチオン性ポリマー及びその添加量を変更した以外は、実施例1と同様にインクジェット記録用水分散体を得た。ただし、比較例1及び2において、カチオン性ポリマー6及び7を用いた水分散体は凝集物が多く、平均粒径を正確に測定することができなかった。
なお、表1における水溶性カチオン性ポリマーのカチオン性基の量に対する水不溶性アニオン性ポリマーのアニオン性基の量のモル比は、水分散体に含有される各ポリマーのカチオン性モノマー由来の構成単位及びアニオン性モノマー由来の構成単位のモル数を算出し、その値をそれぞれカチオン性基の量及びアニオン性基の量とし、アニオン性基の量をカチオン性基の量で除して求めた。
【0055】
実施例8〔水系インクの製造〕
1,2−ヘキサンジオール(東京化成工業株式会社製)2.0部、2−ピロリドン(和光純薬株式会社製)2.0部、サーフィノール465(日信化学工業株式会社製)0.5部、オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製)0.5部、グリセリン(花王株式会社製)2.0部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(商品名:ブチルトリグリコール、日本乳化剤株式会社製)10.0部、プロキセルXL2(アビシア株式会社製)0.3部、及びイオン交換水をマグネチックスターラーで撹拌しながら、混合し、更に室温で15分間撹拌して、混合溶液を得た。ここでイオン交換水の配合量は、混合溶液と実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体を加えた全量が100部となるように調整した量である。
次に実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体62.5部(顔料分換算10.0部(水系インク中))をマグネチック・スターラーで撹拌しながら、前記混合溶液を添加し、前記孔径5μmのフィルターで濾過し、水系インクを得た。結果を表1に示す。
【0056】
実施例9〜14及び比較例3〜4〔水系インクの製造〕
実施例8で用いた実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体の替わりに、表2に示すように実施例2〜7及び比較例1〜2で得られたインクジェット記録用水分散体を用いた以外は、実施例8と同様にして水系インクを得た。結果を表1に示す。
ただし、比較例3及び4において、カチオン性ポリマー6及び7を用いて調製した水分散体を用いた水系インクは、インクが吐出せず印字不能となり、印字濃度の評価を行うことができなかった。
比較例5〔水系インクの製造〕
実施例8で用いた実施例1で得られたインクジェット記録用水分散体の替わりに、表1に示すように調製例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体を用いた以外は、実施例8と同様にして水系インクを得た。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から、実施例の水分散体及び水系インクは、比較例の水分散体及び水系インクに比べて、濾過性及び印字濃度のいずれもが優れており、これらの性能を両立するものであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性顔料粒子、及び炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマー由来の構成単位とカチオン性モノマー由来の構成単位とを含む水溶性カチオン性ポリマーを含有する、インクジェット記録用水分散体。
【請求項2】
アニオン性顔料粒子が、顔料を含有する水不溶性アニオン性ポリマー粒子である、請求項1に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項3】
水不溶性アニオン性ポリマー粒子のアニオン性基の量とカチオン性ポリマーのカチオン性基の量のモル比(アニオン性基/カチオン性基)が、2〜100である、請求項2に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項4】
カチオン性モノマーがジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、及び4級アンモニウム基を含有するモノマーから選ばれる1種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項5】
カチオン性モノマーが、炭素数1〜4のアルキル基を有するジアルキルアミノエチルメタクリレート、及び(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチル又はトリエチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上である、請求項4に記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項6】
炭素数4〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基を含有するビニルモノマーが、ベンジルメタクリレート及び/又はスチレンである、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項7】
アニオン性顔料粒子を含む分散液と水溶性カチオン性ポリマーを含む液とを、常にアニオン性顔料粒子のアニオン性基が、水溶性カチオン性ポリマーのカチオン性基のモル数より多く存在する条件で、混合する工程を有する方法によって得られる、請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェット記録用水分散体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水分散体を含有する、インクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2011−127064(P2011−127064A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289060(P2009−289060)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】