説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】廃インクの発生やランニングコストの高騰およびスループット低下を出来る限り抑えつつ、記録画質を向上することができるインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を実現すること。
【解決手段】記録媒体のサイズと位置に応じて走査幅を設定し、その走査幅に基づいて予備吐出を行う位置と吐出発数とを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクが液体であるゆえにノズルが大気中にさらされると、ノズル内のインクが増粘したり、固着したりする問題が生じる。インクが増粘・固着すると、インク滴の着弾位置がずれる吐出不良や、インク滴が吐出されない不吐出が発生し、記録画像の品質が劣化してしまう。
【0003】
この対策として、インクジェット記録装置では吐出状態を良好にするための回復機構を備えている。この回復装置では、吸引や加圧することにより記録ヘッド内に負圧を発生させて記録ヘッド内のインクを排出させる吸引回復動作や、記録とは無関係にインクを吐出させる予備吐出などが行われる。これらの回復動作はノズルが大気にさらされた状態で所定時間が経過したときになどに行われるものであり、ノズルの外に増粘・固着したインクを排出する動作を行う。
【0004】
予備吐出は、通常、ホームポジション近辺に設けられており吸引回復時に用いられるキャップや、所定の予備吐出口(例えば、ホームポジションと記録領域を挟んで反対側に設けられた予備吐出口)などに対して行われる。しかし、予備吐出は通常の記録動作とは別に行われるため、記録とは別に時間を要する。このため、予備吐出を行う回数が増えるとスループットが低下してしまう。従って、予備吐出を行う回数はスループットにも大きく関係する。
【0005】
そこで、特許文献1には、記録媒体のサイズおよび走査方向における記録媒体の搬送位置(基準側か否か)の情報を取得し、取得した情報に基づいて予備吐出を行う位置の組合せをキャップと予備吐出口から設定する。
【0006】
例えば、記録媒体の走査方向のサイズ(幅)がキャリッジの最大走査幅の半分以下であるか否かを判定し、最大走査幅の半分を超えている場合には、基準側(ホームポジション側)にあるキャップとその反対側の予備吐出口の両方で予備吐出を行うように設定する。記録媒体の幅が最大走査幅の半分以下であり、記録媒体の搬送位置が基準側の場合には、基準側のキャップにのみ予備吐出を行うように設定する。
【0007】
これにより、スループットを落とすことなく予備吐出実行位置を適切に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−349604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された制御方法では、記録媒体のサイズおよび位置情報のみで予備吐出を行う位置を決めている。そのため、記録媒体のサイズが大きければ、サイズの小さい画像を基準側近くの領域に記録する場合にも、基準側のキャップと非基準側の予備吐出口の両方で予備吐出を行ってしまう。つまり、特許文献1の方法では、実際の記録範囲(キャリッジの走査範囲)に関わらず予備吐出位置を設定しているので、実際の記録範囲から遠い予備吐口にも予備吐出が行われる可能性があり、予備吐出によるスループットの低下を軽減するには十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのため本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出させながら記録ヘッドを走査方向に走査させて記録媒体に画像を記録するとともに、前記記録ヘッドより第1の予備吐出部および第2の予備吐出部に予備吐出を実行するインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドが走査する範囲に基づいて、前記第1の予備吐出部と第2の予備吐出部とから予備吐出を実行する予備吐出部を決定する制御手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スループット低下を出来る限り抑えた予備吐出を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の要部構成を示す外観斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置のヘッドカートリッジの概略構成を示す外観斜視図である。
【図3】インクジェット記録装置における制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】第1の実施形態における予備吐出制御の流れを示したフローチャートである。
【図5】第1の実施形態における、条件Aを満たす時に記録媒体に対して予備吐出を行いながら記録する方法を示した模式図である。
【図6】第1の実施形態における、条件Bを満たす時に記録媒体に対して予備吐出を行いながら記録する方法を示した模式図である。
【図7】第1の実施形態における、Lb<Lmである場合で条件Cを満たす時に記録媒体に対して予備吐出を行いながら記録する方法を示した模式図である。
【図8】第1の実施形態における、条件Cを満たす時に記録媒体に対して予備吐出を行いながら記録する方法を示した模式図である。
【図9】、条件Aと条件Cとが混在している画像の場合に、記録媒体に対して予備吐出を行いながら記録する方法を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成することを表わす。さらに「記録」とは、媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。さらに、「インク」(「液体」ともいう)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。このようなインクは記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないし、これに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギを発生する素子を総括して言うものとする。
【0015】
(インクジェット記録装置の概要)
始めに、以下の各実施形態に共通な本発明に係るインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)の概要について説明する。図1は、本発明に係るインクジェット記録装置の要部構成を示す外観斜視図であり、図2は、図1のインクジェット記録装置のヘッドカートリッジの概略構成を示す外観斜視図である。インクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドともいう)101〜104は、その記録部において熱エネルギ変換体により熱エネルギを発生し、その熱エネルギによって発生する気泡によって、インクを複数のノズルから記録媒体に対して吐出する。記録ヘッド101〜104に備えられた複数のノズルは複数の列を成して設けられており、それらの列をノズル列と称する。記録ヘッドユニット190は、顔料インクのブラックインクを吐出する記録ヘッドユニットであり、記録ヘッドユニット191は染料インクのC(シアン)、M(マゼンタ)、およびY(イエロー)のカラーインクを吐出する記録ヘッドユニットである。
【0016】
インクジェット記録ヘッドカートリッジ109はインクジェット記録ヘッド101〜104と一体となっており、インクタンク105〜108の各インクタンクはそれぞれインクジェット記録ヘッドカートリッジ109に脱着可能な構成になっている。図2の形態によれば、インクタンク105〜108はそれぞれ順に、顔料ブラック、染料シアン、染料マゼンタ、染料イエローのインクを収容している。
【0017】
このように図示したインクジェット記録装置では、染料インクでは普通紙に文字を記録する際の品位が悪いため、ブラックインクとして顔料インクを用いて、普通紙にブラックで文字を記録する際の品位を向上させている。なお、写真などの画像を記録面がコーティングされた専用紙や、CD−RやDVD−Rなどのレーベル面に記録する場合には、記録媒体の特性上顔料インクは使用できないので、染料インクのみを用いて記録を行う。このインクセットは、本体の性質により任意に設定可能なものであり、ここに搭載する染料インク・顔料インクの数・色を問うものではない。
【0018】
光学的記録媒体検出装置110は、任意に設置する事ができるものであり、発光部と受光部を備えており、記録媒体領域と、プラテン114などからなるそれ以外の記録装置本体領域の境界を検出する。一般的に記録媒体は本体に比べて明度が高く、反射率が高い。これらの光学的特性から得られる電気的出力の違いにより、記録媒体の端部を検出し、記録媒体のサイズを知る事ができる。この光学的記録媒体検出装置110は、インクジェット記録装置の構成によりキャリッジ216の任意の場所に取り付けることができるように構成されている。本実施形態では、図示されたように記録ヘッドカートリッジ109の脇に付ける形態となっている。また、光学的記録媒体検出装置110は、任意に設置が可能であるので、この装置を備えていないインクジェット記録装置も存在する。
【0019】
また、図1においてインクジェット記録装置本体201は、インクジェット記録ヘッドカートリッジ109を着脱可能に保持するキャリッジ216に取り付けられたときに、インクジェット記録ヘッドカートリッジ109と電気的、機械的に接続される。インクジェット記録ヘッドカートリッジ109をキャリッジ216に取り付けたとき、プラテン224上に送られてきた記録媒体の記録面に、記録ヘッド101〜104のノズル列が対向する。またキャリッジ216は、駆動モータ(後述する図3の304)の駆動力を伝達する駆動ベルト218の一部に連結され、ガイドシャフト219と摺動可能とすることにより、インクジェット記録ヘッド101〜104の記録媒体の全幅に亙る往復移動が可能となる。図1においてXで示す部分が最大走査領域の長さであり、この長さ未満の記録媒体に対する記録が可能である。
【0020】
この往復移動中にインクジェット記録ヘッド101〜104を受信データに応じて駆動することで画像が記録媒体上に記録される。この1回の主走査の終了毎に記録媒体を所定量搬送する副走査が行われる。ヘッド回復装置(回復部)226は、インクジェット記録ヘッド101〜104の移動経路の一端、例えば、ホームポジション近辺に配設される。伝達機構を介したモータの駆動力によって、ヘッド回復装置226を動作せしめ、インクジェット記録ヘッドユニット190と191のそれぞれをキャッピングする。このヘッド回復装置226のキャップ226aによるインクジェット記録ヘッドユニット190および191へのキャッピングに関連させて、ヘッド回復装置226内に設けた吸引手段(吸引ポンプ)によるインク吸引(吸引回復)を行う。また、記録終了時等にはキャップ226aでキャッピングを施すことによりインクジェット記録ヘッド190および191からのインクの蒸発を防ぐと共に、インクジェット記録ヘッドの表面(吐出面)が保護される。また、このキャップ226aに対して、予備吐出を行うことで、ゴミや増粘したインクをノズルから除去して吐出状態を回復させる。
【0021】
また、キャリッジの移動範囲において、ヘッド回復装置226(キャップ226a)の位置の反対側には、複数の予備吐出口225が設けられており、キャップ226aに加え予備吐出口225でも予備吐出を行うように制御される。予備吐出口225(第2の予備吐出部)のうち、予備吐出口225aは幅24インチの記録媒体を使用する際に用いられる予備吐出口、予備吐出口225bは幅36インチの記録媒体を使用する際に用いられる予備吐出口である。本実施形態の記録装置には複数の予備吐出口が備えられており、複数の予備吐出口のうち記録媒体のサイズに応じて最も基準側に近い予備吐出口を使用することにより、不必要なキャリッジ走査を削減している。なお、本実施形態の記録装置では、キャップ226a(第1の予備吐出部)が備えられたホームポジション側を基準側としており、記録媒体は基準側に寄せて給紙、搬送される。
【0022】
図3は、このようなインクジェット記録装置における制御系の構成を示すブロック図である。システムコントローラ301は、装置全体を制御しており、その内部には、マイクロプロセッサ(MPU)、制御プログラムが格納されているROM、マイクロプロセッサが処理を行う際のワークエリアとして用いられるRAM等が備えられている。このシステムコントローラ301は、制御プログラムに従って予備吐出を制御しており、後述の記録制御部310に予備吐出実行のタイミングを指示している。なお、この予備吐出の制御等を含めて、本発明のインクジェット記録装置の主要な制御は、ホストコンピュータ306の制御下において実行するようにしてもよい。
【0023】
ドライバ302は、インクジェット記録ヘッドカートリッジが搭載されたキャリッジ216を移動(主走査)させるためのモータ304を駆動制御する。本実施形態では、このドライバ302を制御することによりキャリッジ216の速度を落としている。ドライバ303は、副走査方向に記録媒体を搬送するためのモータ305を駆動制御する。ホストコンピュータ306はホスト機器であり、本発明の記録装置に対して記録データや制御データ等を転送する。受信バッファ307は、ホストコンピュータ306から受信したデータを一時的に格納し、システムコントローラ301がデータを読み込むまでデータを格納しておく。
【0024】
フレームメモリ308(308k,308c,308m,308y)は、記録データを格納、蓄積するために、各インクの色(ブラック,シアン,マゼンタ,イエロー)毎に設けられており、所定の領域の記録に必要な分のメモリサイズを有している。バッファ309(309k,309c,309m,309y)は、インクジェット記録ヘッドの1回の走査分の記録データを一時的に記憶するものであり、各インクの色(ブラック,シアン,マゼンタ,イエロー)毎に設けられている。このバッファ309には、ホストコンピュータ306が色変換、濃度補正や2値化処理することにより作成し、送信されてきた記録データが1回の走査分だけ格納される。記録制御部310は、システムコントローラ301の制御下で記録ヘッドを制御する記録制御部であり、本発明の予備吐出の制御を行うにあたり、前述のシステムコントローラ301の指令を受けて、後述のドライバ311を制御する。ドライバ311は、各インク(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)を吐出するためにインクジェット記録ヘッド101,102,103および104を駆動する。このドライバ311は、記録制御部310からの制御信号によって制御され、インクジェット記録ヘッド101、102、103、104に対する予備吐出も実行させる。
【0025】
また、システムコントローラ301は、図2に示すように記録媒体検出装置110が取り付けられている場合には、記録媒体検出装置110からの出力信号に基づいて、記録媒体の走査方向における長さ(幅)を判定する。なお、記録媒体の幅は、ホストコンピュータ306のプリンタドライバから送られる記録データに付加された制御データ(メディア情報)から取得するようにしても良い。
【0026】
図4は、本実施形態における予備吐出制御の流れを示したフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って本実施形態における予備吐出制御を説明する。前回の走査が終了し、次の走査準備が完了すると、記録制御部310は次の走査までの間にウェイト(待機時間)を入れるべきかどうかを判断する。ウェイトの要因としては、データ転送の遅延、記録ヘッドの昇温等がある。ウェイトが入る場合ステップS401で、記録制御部310はウェイト時間を測定し、ウェイト時間があらかじめ決められた閾値を超えるかどうか(ウェイト条件を満たすかどうか)を判定する。ウェイト時間の計測方法は、前回の予備吐出から次の走査開始までの時間、前回の吐出動作終了から次の走査開始までの時間等、どんな方法であってもよい。
【0027】
ウェイトを入れない場合、またはウェイトが入ってもウェイト時間が閾値を超えずにウェイト条件を満たさない場合、ステップS407で、記録制御部310はバッファ309に格納されている次回の走査分の記録データから記録データ幅Liを解析する。ここでの記録データ幅Liは、記録媒体上の基準側端部から記録データ(インク吐出データ)が存在する位置までの走査方向の長さ(幅)である。次にステップS408で、記録制御部310は記録データ幅Liおよび記録媒体幅Lmからキャリッジが実際に移動する距離である走査幅Lsを決定する。
【0028】
記録データ幅Liと記録媒体幅Lmとに基づく走査幅Lsの決定方法について説明する。記録制御部が所定のプログラムを読み出して、走査幅Lsが条件A,条件B,条件Cのいずれを満たすかを決定する。ここで、任意の幅La、Lbを定義し、La<Lbとする(本実施形態ではLa=12インチ,Lb=24インチ)。まず、記録データ幅LiがLa以下か否かを判定し、LiがLa以下の場合(Li≦La)には、走査幅Lsを条件Aと決定する。
【0029】
次に、記録データ幅LiがLaより大きい場合(La<Li)には、記録媒体の幅LmがLbより小さいか否かを判定し、記録媒体幅LmがLbより小さい場合には走査幅Lsを条件Bと決定する。一方、記録データ幅LiがLaより大きく(La<Li)、記録媒体の幅LmがLbより大きいと判定された場合には、走査幅Lsを条件Cと決定する。
【0030】
ステップS409で、記録制御部310は先のステップで決定したかどうかを判定する。図5は、条件Aを満たす時に予備吐出を行いながら記録媒体に対して記録する方法を示した模式図である。走査幅Lsが条件Aを満たす場合は、記録データ幅LiがLa以下の場合であり、図5に示されるように基準側付近の記録媒体上の領域のみを走査して記録を行う場合である。そこで、ステップS410では、記録制御部310の制御により、基準側のキャップ226aのみにa発の予備吐出を実施する。つまり、条件Aと判断された場合には、まず基準側のキャップ226aにa発の予備吐出を行った後キャリッジを非基準側へ移動させ、記録データ幅Liのところでキャリッジを反転させる。そして、基準側に向かうキャリッジの移動において、記録媒体にインクを吐出し画像を記録する。以降、同様の動作を繰り返して記録媒体に画像を完成させていく。条件Aでは、キャリッジが基準側近くを往復移動するため、キャップ226aのみに予備吐出を行うことでスループットの低下を抑えることが出来る。ステップS409において、走査幅Lsが条件Aを満たさない場合、ステップS411で走査幅Lsが条件Bを満たすかどうかを判定する。図6は、条件Bを満たす時に予備吐出を行いながら記録媒体に対して記録する方法を示した模式図である。走査幅Lsが条件Bを満たす場合は、記録データ幅LiがLaより大きく、記録媒体幅LmがLbより小さい場合であり、図6に示されるように記録媒体幅の略全域を走査して記録を行う場合である。また、記録媒体幅LmがLb(24インチ)より小さく、非基準側の予備吐出においては幅24インチの記録媒体を使用する際に用いられる予備吐口225aを使用する。そこで、ステップS412では、記録制御部310の制御により、基準側のキャップ226aにb発、非基準側の予備吐出口225aにb発の予備吐出を実施する。図6では、まず基準側のキャップ226aにb発(a<b)の予備吐出を行った後キャリッジを非基準側まで移動させ、非基準側の予備吐口225aにb発の予備吐出を行う。そして、基準側に向かうキャリッジの移動において記録媒体にインクを吐出し画像を記録する。以降、同様の動作を繰り返して記録媒体に画像を完成させていく。条件Bでは、条件Aよりも走査幅が広いため、1回の予備吐出における吐出発数を条件Aよりも多めに設定している。また、基準側のキャップが吸引機構を備えているのに対して、非基準側の予備吐出口では吸引機構を備えておらず、予備吐出で排出したインクをキャップの外に排出する事が出来ないため、基準側の予備吐発数を非基準側の予備吐発数よりも多めに設定してもよい。
【0031】
ステップS411において、走査幅Lsが条件Bを満たさない場合条件Cとなる。走査幅Lsが条件Cを満たす場合は、記録データ幅LiがLaより大きく、記録媒体幅LmがLbより大きい場合であり、図7,8に示されるように記録媒体幅の略全域を走査して記録を行う場合である。また、記録媒体幅LmがLb(24インチ)より大きく、非基準側の予備吐出においては幅36インチの記録媒体を使用する際に用いられる予備吐口225bを使用する。そこで、ステップS413では、記録制御部310の制御により、基準側のキャップ226aにc発、非基準側の予備吐出口225aにc発の予備吐出を実施する。図7,8では、まず基準側のキャップ226aにc発(b<c)の予備吐出を行った後キャリッジを非基準側まで移動させ、非基準側の予備吐口225aにc発の予備吐出を行う。そして、基準側に向かうキャリッジの移動において記録媒体にインクを吐出し画像を記録する。以降、同様の動作を繰り返して記録媒体に画像を完成させていく。
【0032】
また、上述の説明では、予備吐発数の関係をa<b<cとしたが、予備吐発数の関係はこれに限られない。すなわち、走査幅Lsが狭い場合(条件Aの場合)は、基準側のキャップのみにx発の予備吐出を行うことにより、キャリッジを非基準側の予備吐出口まで走査する必要がないため、スループットの低下を抑えることが出来る。また、走査幅Lsがやや広い場合(条件Bの場合)は、基準側のキャップにx/2発、非基準側の予備吐出口225aにもx/2発の予備吐出を行う。片方向記録(復方向記録)であるため、非基準側でも予備吐出を行うことにより、基準側のみの場合に比べて予備吐出から次のインク吐出までの時間が大幅に短縮し、画質が向上する。また、この場合、基準側、非基準側ともに予備吐出の発数はx/2発で十分である。このため、1往復のキャリッジ走査に伴って実施する予備吐出の総発数は、条件Aの場合と変わらず、廃インク量も増加しないし、ランニングコストも高くならない。
【0033】
次に、走査幅Lsが広い場合(条件Cの場合)は十分な量の予備吐出を行う必要がある。この場合、基準側のキャップにx発、非基準側の予備吐出口にもx発の予備吐出を行う。これにより、走査幅Lsが広い場合でも記録画像の品質劣化を軽減することが出来る。
【0034】
図9は、条件Aと条件Cとが混在している場合に、予備吐出を行いながら記録媒体に対して記録する方法を示した模式図である。記録媒体の幅LmはLb<Lmを満たし、画像データ幅Liは位置によりLi≦La、La<Li≦Lb、Lb<Liである。ここで、画像の上段部分はLb<LiかつLb<Lmとなるので条件Cとなり、記録ヘッドは記録媒体の非基準側の端まで走査し、基準側のキャップ226aと、非基準側の予備吐出口225bとでそれぞれc発の予備吐出を行う。もちろん、基準側のキャップ226aと、非基準側の予備吐出口225bとで吐出発数を異ならせてもよい。
【0035】
また、画像の中段部分はLi≦Laとなるので条件Aとなり、記録ヘッドは画像の幅Liだけ走査し、基準側のキャップ226aのみでa発の予備吐出を行う。最後に、画像の下段部分はLa<Li≦LbかつLb<Lmとなるので条件Cとなり、画像の幅LiはLi≦Lbであるが、予備吐出を行うために記録ヘッドは記録媒体の非基準側の端まで走査する。そして、基準側のキャップ226aと、非基準側の予備吐出口225bとでそれぞれc発の予備吐出を行う。もちろんこの場合も、基準側のキャップ226aと、非基準側の予備吐出口225bとで吐出発数を異ならせてもよい。
【0036】
次に、ステップS401でウェイト条件を満たすと判定された場合、ステップS402でウェイトが基準側で行われるかどうかを判定する。基準側でウェイトが入る場合、ステップS403で記録ヘッドを基準側で所定時間待機させてから、ステップS404で基準側のキャップでw発の予備吐出を行う。
【0037】
この予備吐出制御は、ステップS407〜ステップS413の予備吐出制御からは完全に独立しており、予備吐出発数wもウェイト条件を満たした場合独自の値となる。ウェイト条件を満たす場合は、通常よりも前回の吐出からの時間が長くなるため、wの値は一般に大きい値となる。基準側のキャップでw発の予備吐出を行った後は通常の記録走査を開始し、非基準側では再びウェイト条件を満たさない限りはステップS407〜ステップS413の予備吐出制御となる。また、ステップS402でウェイトが入る位置が基準側でない場合、すなわち非基準側である場合、ステップS405で記録ヘッドを非基準側で所定時間待機させてから、非基準側の予備吐出口でw発の予備吐出を行う。この予備吐出制御はステップS407〜ステップS413の予備吐出制御からは完全に独立しており、予備吐出発数wもウェイト条件を満たした場合独自の値となる。非基準側のキャップでw発の予備吐出を行った後は通常の記録走査を開始し、基準側では再びウェイト条件を満たさない限りはステップS407〜ステップS413の予備吐出制御となる。ここでは基準側と非基準側とでの吐出発数をw発としたが、基準側のキャップと、非基準側の予備吐出口とで吐出発数を異ならせてもよい。
【0038】
以上のとおり、本実施形態の記録方法では、記録ヘッドを搭載したキャリッジの走査範囲に応じて予備吐出を実行する位置(キャップ、予備吐出口)を決定しているため、スループットの低下を抑制することができる。本実施形態では、記録データ幅と記録媒体幅とに基づいて予備吐出を実行する予備吐出部を決定している。記録データ幅からは、主に基準側のキャップのみに予備吐出を実行するのか、基準側のキャップと非基準側の予備吐出口の両方に予備吐出を実行するのかを決定している。また、記録媒体幅に応じて、複数の予備吐出口から予備吐出を実行する予備吐出口を決定しており、記録媒体のサイズに応じて最も基準側に近い予備吐出口を使用することにより、不必要なキャリッジ走査を削減している。
【0039】
さらに、キャリッジの走査範囲に応じて予備吐出を実行する位置(キャップ、予備吐出口)を決定する上では、記録データが存在する範囲を正確に判定することで、無駄なキャリッジ走査を削減でき、スループットの向上により貢献できる。上述の実施形態では、記録データ幅Liを記録媒体上の基準側端部から記録データ(インク吐出データ)が存在する位置までの走査方向の長さ(幅)とした。したがって、非基準側端部のみに画像(インク吐出データ)があり非基準側付近の領域のみをキャリッジが移動する場合でも、記録データ幅Liは記録媒体の幅に略等しい値と判定されキャップおよび予備吐出口の両方に予備吐出が実行されることになる。そこで、記録データの存在する範囲を基準側、非基準側の両方から判断し、非基準側端部のみに画像(インク吐出データ)がある場合には、予備吐出口のみに予備吐出を実行するように制御することで、よりスループットを向上させることが可能になる。ただし、上述の実施形態のように単に基準側端部からの記録データ幅に基づいて予備吐出を実行する予備吐出を決定することにより、予備吐出口への予備吐出が集中することを抑止できる。したがって、、非基準側の予備吐出口に吸引機構を備えておらず、予備吐出で排出したインクをキャップの外に排出する事が出来ない場合にも、廃インクの溢れの問題に対応することができる。
【0040】
なお、本発明においては、ウェイト条件に関わる予備吐出制御は必ずしも実施する必要はない。ウェイトを考慮しない場合、図4のフローチャートのステップS401〜ステップS406は省略され、ステップS407〜ステップS413のフローでの制御となる。
【0041】
また、本発明において、走査幅Lsを決定するに当たっては、条件A、条件B、条件Cの3条件に限定されるものではなく、例えば、条件A、条件Bの2条件、逆に条件A、条件B、条件C、条件Dの4条件等、条件の数はいくつであっても構わない。また、本実施形態を適用可能な記録方式は、上述の実施形態で説明した片方向記録(復方向記録)に限らず、片方向記録(往方向記録)の場合や双方向記録であってもよい。
【0042】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態を説明する。本実施形態の基本的な構成は、第1の実施形態と同様であるため、特徴的な構成についてのみ説明する。本実施形態においては、記録方向(往方向、復方向、双方向)、記録媒体の種類および記録モード(キャリッジ速度、走査解像度、出力解像度)毎にLa、Lb、a、b、c、w等の値を個別に設定する。これにより、画像の品質劣化が目立ちやすい記録条件においては、閾値をより厳しく設定して予備吐出の発数を増加させることで、画像の品質劣化を軽減する。また、画像の品質劣化が目立ちにくい記録条件においては、閾値を緩和して予備吐出の発数を減らす。これによって、廃インクの発生やランニングコストの高騰およびスループット低下を出来る限り抑えることが出来る。本実施形態により、より細かい予備吐出の制御が可能となり、予備吐出制御のさらなる最適化を図ることが出来る。
【0043】
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態を説明する。本実施形態の基本的な構成は、第1の実施形態と同様であるため、特徴的な構成についてのみ説明する。本実施形態においては、記録環境(環境温度および環境湿度)毎にLa、Lb、a、b、c、w等の値を個別に設定する。これにより、画像の品質劣化が目立ちやすい記録環境においては、閾値をより厳しく設定して予備吐出の発数を増加させることで、画像の品質劣化を軽減する。また、画像の品質劣化が目立ちにくい記録環境においては、閾値を緩和して予備吐出の発数を減らす。これによって、廃インクの発生やランニングコストの高騰およびスループット低下を出来る限り抑えることが出来た。本実施形態により、より細かい予備吐出の制御が可能となり、予備吐出制御のさらなる最適化を図ることが出来た。
【0044】
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態を説明する。本実施形態の基本的な構成は、第1の実施形態と同様であるため、特徴的な構成についてのみ説明する。本実施形態においては、記録ヘッドと記録媒体間の距離毎にLa、Lb、a、b、c、w等の値を個別に設定する。すなわち、例えば、記録媒体の種類によって記録ヘッドと記録媒体間の距離が大きい時は、閾値をより厳しく設定して予備吐出の発数を増加させ、記録ヘッドと記録媒体間の距離が小さい時は閾値を緩和して予備吐出の発数を減らす方向に設定する。これにより、記録ヘッドと記録媒体間の距離が大きい時には画像の品質劣化を軽減し、記録ヘッドと記録媒体間の距離が小さい時には廃インクの発生やランニングコストの高騰およびスループット低下を出来る限り抑えることが出来た。本実施形態により、より細かい制御が可能となり、予備吐出制御のさらなる最適化を図ることが出来た。
【0045】
なお、上記第1から第4の実施形態は任意に組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0046】
101 インクジェット記録ヘッド
102 インクジェット記録ヘッド
103 インクジェット記録ヘッド
104 インクジェット記録ヘッド
105 インクタンク(ブラック)
106 インクタンク(シアン)
107 インクタンク(マゼンタ)
108 インクタンク(イエロー)
109 インクジェット記録ヘッドカートリッジ
216 キャリッジ
225 予備吐出口
226 ヘッド回復装置
226a キャップ
310 記録制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出させながら記録ヘッドを走査方向に走査させて記録媒体に画像を記録するとともに、前記記録ヘッドより第1の予備吐出部および第2の予備吐出部に予備吐出を実行するインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドが走査する範囲に基づいて、前記第1の予備吐出部と前記第2の予備吐出部とから、予備吐出を実行する予備吐出部を決定する制御手段を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、記録すべき記録データに基づいて前記記録ヘッドが走査する範囲を判断することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第2の予備吐出部は複数の予備吐出部から成り、
前記制御手段は、前記記録媒体の前記走査方向の幅に応じて前記複数の予備吐出部の中から予備吐出を実行する前記第2の予備吐出部を決定することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、記録すべき記録データに付加される制御データに基づいて前記記録媒体の走査方向の幅を取得することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録媒体の走査方向の幅を検出するための検出手段を備え、
前記制御手段は、前記検出手段の検出した前記記録媒体の幅に基づいて前記複数の予備吐出部の中から予備吐出を実行する前記第2の予備吐出部を決定することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1の予備吐出部は前記記録ヘッドのインクを吐出する面をキャップするためのキャップであり、
前記第2の予備吐出部は前記キャップに対して前記走査方向の反対側に設けられた予備吐口であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記範囲に基づいて前記予備吐出において吐出するインクの発数を決定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記記録ヘッドが記録を行うために走査する方向と、前記記録媒体の種類と、記録モードとに基づいて予備吐出を実行する予備吐出部と、予備吐出において吐出するインクの発数と、を決定することを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記制御手段は、環境温度と環境湿度とに基づいて予備吐出を実行する予備吐出部と、予備吐出において吐出するインクの発数と、を決定することを特徴とする請求項7または8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間の距離に基づいて、予備吐出を実行する予備吐出部と、予備吐出において吐出するインクの発数と、を決定することを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
インクを吐出させながら記録ヘッドを走査方向に走査させて記録媒体に画像を記録するとともに、前記記録ヘッドより第1の予備吐出部および第2の予備吐出部に予備吐出を実行するインクジェット記録方法において、
前記記録ヘッドが走査する範囲に基づいて、前記第1の予備吐出部と第2の予備吐出部とから予備吐出を実行する予備吐出部を決定する工程を有することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−214865(P2010−214865A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66325(P2009−66325)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】