説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】目的画像のブリード性能を満たし搬送手段等の汚損のない記録が可能なインクジェット記録装置。
【解決手段】インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、記録媒体を搬送する搬送手段と、前記搬送手段によって記録媒体を搬送しながら記録ヘッドからインクを吐出して、記録媒体上に記録を目的とする画像と予備吐出により形成される画像とを記録する記録手段と、前記記録を目的とする画像の画像データに基づいて吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量を、上限値Alim以下に制限する第1制限手段と、前記予備吐出により形成される画像について吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量を、前記上限値Alimよりも大きく、かつ、上限値Blim以下に制限する第2制限手段と、を具えるインクジェット記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の記録ヘッドに設けられたインク吐出口が長時間使用されない場合、そのような吐出口では、その内部のインク溶剤が蒸発してインク粘度が上昇し得る。すると、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子に駆動信号を印加してもインクが正常に吐出されずに、吐出方向のずれ、吐出量の不足、または不吐出などの吐出不良を生じ、その結果、所望の画像が得られなくなることがある。そのような吐出不良の要因を除去し、記録ヘッドのインク吐出性能を良好な状態にするための処理の一つとして、予備吐出と呼ばれる動作が行われることがある。詳細には、揮発成分が一部蒸発して吐出性能や記録品位を確保する上で不十分な状態となっているインクを吐出口から排出することを目的として、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生する素子を駆動してインク吐出を行わせるものである。予備吐出は、目的の画像を形成するための記録動作とは別の、インク溶剤の蒸発に起因した吐出不良に対処するための動作であり、記録媒体に対して行われる場合には、結果として画像が記録される。特許文献1には、記録媒体の所定の位置に予備吐出を行う方法が提案されている。
【0003】
ところで、インクジェット記録においては、一般に、記録媒体に対して多くのインクを吐出するほど画像の発色性を高めることができる。しかし、記録媒体のインク吸収能力を超える量のインクを吐出すると、記録媒体の内部に吸収されきれないインクは画像におけるインクの滲みや不均一な混合等のいわゆるブリードの原因となり得る。また、さらなる過剰なインクは記録媒体上に溢れ出し、搬送手段へ付着し記録媒体に転写されるといった汚損等の問題が生じる可能性がある。これらの問題に対して、従来、画像の形成に用いる単位面積あたりのインク量を、ブリードの問題が生じない単位面積あたりのインク量の上限値に基づいてあらかじめ設定する記録方法が提案されている(例えば、引用文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−213471号公報
【特許文献2】特開2005−125602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、予備吐出は記録を目的とする画像を形成するための記録動作ではないため、予備吐出により画像が記録された記録媒体の部分は不要なゴミとなってしまい、その点で記録コストを増大させる。また、コスト低減のために記録媒体のより小さな面積に対して予備吐出を行うと、ノズルの吐出不良解消のために必要な発数の吐出によって、インク吸収能力を超える量のインクが記録媒体の該面積に対して供給される可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、予備吐出により消費される記録媒体の面積ができる限り小さく、かつ、記録媒体に吸収されきれずに汚損等の問題を引き起こすインクが生じないような記録を行うことができるインクジェット記録装置および記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、記録媒体を搬送する搬送手段と、前記搬送手段によって記録媒体を搬送しながら記録ヘッドからインクを吐出して、記録媒体上に記録を目的とする画像と予備吐出により形成される画像とを記録する記録手段と、前記記録を目的とする画像の画像データに基づいて吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量を、上限値Alim以下に制限する第1制限手段と、前記予備吐出により形成される画像について吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量を、前記上限値Alimよりも大きく、かつ、上限値Blim以下に制限する第2制限手段と、を具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブリード性能を満足する目的画像の記録、およびインク溢れによる搬送手段等の汚損を生じない予備吐画像の記録を両立可能なインクジェット記録装置を提供できる。これにより、消費される記録媒体の量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1および第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の模式的側面図である。
【図2】第1の実施形態に係る記録ヘッドのインク吐出面を示す模式的平面図である。
【図3】目的画像と予備吐画像との位置関係を示す図である。
【図4】上限値変換テーブルの例を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る画像記録方法を示すフローである。
【図6】第2の実施形態に係る記録ヘッドのインク吐出面を示す模式的平面図である。
【図7】第2の実施形態に係る記録ヘッドによる予備吐画像を示す図である。
【図8】第3の実施形態に係るインクジェット記録装置の模式的側面図である。
【図9】第3の実施形態に係る予備吐画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付の図面を参照して述べる。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置を示す模式的側面図である。本実施形態のインクジェット記録装置1は、記録ヘッド2K、給紙トレイ4、搬送ローラ5、画像データ入力部6、画像データ処理部7、予備吐出画像データ記憶部8、制御部9、および上限値設定部10を備える。給紙トレイ4から記録媒体3がインクジェット記録装置1内に給紙される。搬送ローラ5は、対を成す複数のローラで構成されており、給紙された記録媒体3を搬送方向Lに搬送するために記録媒体3の上下を挟持して回転駆動することができる。記録ヘッド2Kは、搬送方向Lに直交する方向において記録媒体3の幅に対応する幅を有するフルライン型のインクジェット記録ヘッドであり、ブラック1色のインクを吐出して記録を行う。画像データ入力部6は、インクジェット記録装置1による記録を所望する画像のデータを外部から入力するための構成要素である。画像データ処理部7は、画像データ入力部6に入力された画像データを記録ヘッド2Kに設けられた各ノズルの吐出データに変換処理する。上限値設定部10は、記録媒体3に対して吐出するインクの量を制御するための後述する記録デューティの設定値を入力するための構成要素である。予備吐画像データ記憶部8は、記録媒体上に予備吐出を行うことによって記録される画像(予備吐画像)の画像データと記録デューティとの対応関係を記憶する構成要素である。制御部9は、画像データ処理部7、予備吐画像データ記憶部8、および上限値設定部10からのデータに基づき、記録ヘッド2Kの吐出動作および搬送ローラ5の駆動の制御を行う。
【0012】
図2は、本実施形態の記録ヘッド2Kのインク吐出面を示す模式的平面図である。図2において、記録ヘッド2Kにはインクを吐出する複数のノズル11が同一面に所定の間隔で1列に並んでいる。各ノズルの内側にはインクを吐出させるためのエネルギーを印加するためのヒータ(不図示)が備えられており、制御部9からの吐出信号に応じて個々のヒータが駆動されインクが吐出されるようになっている。吐出後のノズル11には記録ヘッド2K内の共通インク室(不図示)からインクが供給(リフィル)され、再び吐出信号がヒータに印加された際にインクを吐出させることが可能なようになっている。本実施形態では、記録ヘッド2Kの各ノズル11の吐出不良が起きないように、所定の間隔で、ノズル11を回復させるための予備吐出を記録媒体上に行う。
【0013】
図3は、記録を所望する画像(以下、目的画像という)と予備吐出の結果記録される予備吐画像との位置関係を示す模式的平面図である。図3において、予備吐画像12は連続的に記録される複数の目的画像13の間に記録されるようになっている。図3において、予備吐画像12は、記録媒体の搬送方向Lに直交する方向において記録媒体の幅に対応する全てのノズルから均等に所定の発数だけインクを吐出して形成されるベタ画像になっている。予備吐画像12を目的画像13の間に記録することによって定期的なノズルの回復がなされる。
【0014】
蒸発によって増粘したインクを排出するという予備吐出本来の目的のために、全てのノズルにあらかじめ定められた発数のインクを吐出させるのが好ましい。また、記録媒体の消費低減という本発明の目的のためには、予備吐画像12の単位面積あたりに、より多いインク量で予備吐出を行うことが望ましい。本発明者らは、記録媒体の消費を低減させる装置および方法について、前記観点から検討を行った。
【0015】
ここで重要なのは、目的画像の記録においては、画像品位、特に画像のインク滲み等ブリードの観点で、記録媒体上に吐出できるインク吐出量に上限があるが、予備吐画像は最終的にゴミとなる部分なので、ブリードが生じていてもかまわないという点である。したがって、目的画像の記録に用いることのできる、すなわち画像のブリード性能を満足する単位面積あたりのインク量Aの上限値をAlimとすると、予備吐画像の記録には、上限値Alimを超える単位面積あたりのインク量Bを用いることができる。一方、予備吐画像においても、あまりに多量のインクを吐出してしまうと、記録媒体に吸収されきれずに溢れたインクが、搬送ローラ等の搬送手段に付着し、記録媒体に転写されてしまうという汚損の問題が生じ得る。この問題に対処するために、予備吐画像の記録においては、搬送手段へのインクの付着やその転写による記録媒体の汚損が生じないような単位面積あたりのインク量Bの上限値Blim(上限値Blim>上限値Alim)を別途設ける必要がある。
【0016】
このように、本発明は、予備吐画像の記録に、記録媒体の画像にブリードが生じない上限のAである上限値Alimよりも大きく、かつインク溢れによる搬送手段および記録媒体の汚損が生じない上限値Blim以下の単位面積あたりのインク量を用いるものである。
【0017】
本発明では、目的画像および予備吐画像についての記録媒体の単位面積あたりのインク量を、インクジェット記録装置による記録媒体へのインクの吐出を「記録デューティ」に基づいて制御することにより、制限することができる。本明細書において、「記録デューティ」は、記録媒体の単位面積あたりに所定体積のインク量が吐出される状態を基準としたときの、記録に実際に用いるインク量の割合(単位%)として規定した。「所定体積」は、あらかじめ設定した一定の体積であり、例えば、1つの画素に対して1発のインク吐出で記録を行う際のインクの体積等であることができる。本実施形態では、「所定体積」として、8.6μl/平方インチのインク量(インク滴の体積が3plのときに、600dpiの画素に8発のインクを吐出するのに相当する)を採用した。
【0018】
図1から図5を参照して、本実施形態のインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法について詳述する。
【0019】
目的画像および予備吐画像の記録のうち、まず、目的画像の記録について説明する。目的画像の記録は、記録媒体の画像にブリードが生じない単位面積あたりのインク量の上限値Alim以下の単位面積あたりのインク量を用いて行う。単位面積あたりのインク量Alimを実現させるための記録デューティをDlim(%)とする。Dlim(%)は、画像にブリードが生じない記録を行うための記録デューティD(%)の取り得る上限値である。上限値AlimあるいはDlimは、使用するインクや記録媒体のインク吸収性等の性質に依存するものであり、基本的に記録媒体に固有のものである。したがって、そのインクジェット記録装置に使用が想定される種々の記録媒体についての上限値Dlimを、あらかじめ、各記録媒体に対して種々の記録デューティDを用いて記録試験を行い、ブリードの有無の状態を視認することにより求めておく。
【0020】
目的画像13を記録するにあたって、まず、インクジェット記録装置の上限値設定部10において、使用する記録媒体3についての記録デューティの上限値Dlim(%)を入力する(ステップS1)。一方、画像データ入力部6において、目的画像13の画像データを、例えば、各画素8ビット256階調の入力値R1として入力する。なお、記録デューティの上限値Dlimの入力と画像データR1の入力とをこの順で記載したが、これらの入力手順の前後関係は問わない。
【0021】
画像データ処理部7は、入力した上限値Dlimに対応してあらかじめ決められた上限値変換テーブルを参照して、画像データの各画素についての入力値R1を補正値R2に補正する。この補正は、インクジェット記録装置の出力設定範囲での記録において画像のブリードが生じる可能性が無いようにする目的で行う。上限値変換テーブルの例を図4に示して説明する。まず、入力値R1は、0から255までの256階調のデータである。これに対応する補正値R2は、使用する記録媒体についての上限値Dlim別に設定される。本例は、このインクジェット記録装置に使用が想定される種々の記録媒体についての上限値Dlim(%)が、150%、125%、100%、および75%の4種類であった場合の例である。使用が想定される種々の記録媒体についての上限値Dlimのうち最も大きい値(以下、Dmax(%)という)である150%を補正の基準として、入力データの信号を補正する。補正値R2は、Dmaxと使用する記録媒体についてのDlimとの関係から算出される補正係数k(すなわち、使用する記録媒体についてのDlim÷Dmax)を、入力値R1に掛けた数値となっている(ステップS2)。例えば、上限値設定部10において入力した記録デューティの上限値Dlimが150%である場合は、補正係数は1(=150÷150)であるため、R2は入力値R1と等しくなる(実質的に、補正なし)。また、上限値設定部10において入力した記録デューティの上限値Dlimが100%である場合は、各画素についての入力値R1は、補正係数0.67(=100÷150)を掛けた数値R2に変換されることとなる(ステップS3)。
【0022】
続いて、画像データ処理部7は、数値R2をヘッドの各ノズル11の吐出信号に対応した2値データに変換し、制御部9に出力する(ステップS4)。2値データに変換する際には、R2の0から255までの値が記録デューティ0%から150%までに対応するように変換する。図4においては、R2の数値を記録デューティ0%から150%にリニアに対応させたものである(記録デューティ=R2÷255×150の関係式で対応させた)。以上のデータ処理によって、任意の入力値R1に対して、これに対応する記録デューティがその記録媒体についての記録デューティの上限値Dlimを超えないように、画像を記録媒体に記録することが可能となる。その結果、このインクジェット記録装置の出力設定範囲での目的画像の記録において、画像のブリードは生じないこととなる。なお、以上の説明に用いた、使用する記録媒体についての記録デューティの上限値Dlim、使用が想定される種々の記録媒体についての最大値Dmax、および補正係数については、本発明の好適な実施例であって、これに限定されるものではない。
【0023】
続いて、予備吐画像の記録方法について説明する。予備吐画像の記録は、インク溢れによる搬送手段および記録媒体の汚損が生じない単位面積あたりのインク量の上限値Blim以下の単位面積あたりのインク量Bを用いて行う。単位面積あたりのインク量Blimを実現させるための記録デューティをDblim(%)とする。Dblim(%)は、搬送手段等の汚損が生じない記録を行うための記録デューティの取り得る上限値である。上限値BlimあるいはDblimは、使用するインクや記録媒体のインク吸収性等の性質に依存するものであり、基本的に記録媒体に固有のものである。したがって、そのインクジェット記録装置に使用が想定される種々の記録媒体についての上限値Dblimを、あらかじめ、各記録媒体に対して種々の記録デューティを用いて記録試験を行い、ブリードの有無の状態を視認することにより求めておく。
【0024】
ここで、予備吐画像の記録に用いる記録デューティと画像データとの関係について説明する。予備吐画像の記録媒体への記録はノズルの回復を目的として行うものである。したがって、予備吐画像の画像データは、各ノズルから均等な発数のインクを吐出させるように、各ノズルに対応する画素に記録するインクの発数を指定したデータであることが望ましい。本例では、前述のように、記録デューティの基準となる所定体積として、8.6μl/平方インチのインク量(インク滴の体積が3plのときに、600dpiの画素に8発のインクを吐出するのに相当する)を採用している。ノズルピッチ(解像度)を1200dpiとすると、例えば記録デューティが100%の予備吐画像を記録する場合には、600dpiの画素に1ノズルあたり4発のインク滴を吐出させる画像データを用いることになる。また、例えば記録デューティが175%の予備吐画像を記録する場合には、各ノズルに1画素あたり7発(=4×175÷100)のインクを吐出させる画像データを用いる。
【0025】
以上のように、あらかじめ、そのインクジェット記録装置に使用する種々の記録媒体についての記録デューティの上限値Dblim(%)およびそれに対応する予備吐画像データを求め、インクジェット記録装置の予備吐画像データ記憶部8に格納しておく。
【0026】
記録にあたり、インクジェット装置の上限値設定部10において、使用する記録媒体についての記録デューティの上限値Dblim(%)を入力する(ステップS1)。制御部9は、記録動作に際して、予備吐画像データ記憶部8にあらかじめ格納された記録デューティおよび予備吐画像データの中から、入力した記録デューティ上限値Dblim(%)に対応する予備吐画像データを選択する(ステップS5)。
【0027】
こうして画像データ処理部7から制御部9に出力された目的画像の画像データと、制御部9により選択された予備吐画像の画像データとに基づき、制御部9は記録ヘッド2Kの吐出動作の制御および搬送ローラ5の駆動の制御を行う(ステップS6)。これにより、目的画像および予備吐画像のそれぞれは、記録媒体に画像形成される順番に記録媒体の所定位置にインクが吐出されることによって、記録される(ステップS7)。
【0028】
なお、予備吐画像の記録に使用される記録媒体の量を最大限に低減させようとの目的から、実際の記録に使用する記録デューティとして上限値Dblim(%)を用いることが最も望ましく、本例ではそのように設定しているものである。しかし、記録デューティを、ブリードが生じない記録デューティの上限値Dlimより大きく、かつ搬送手段等の汚損が生じない記録デューティの上限値Dblim以下である値に設定すれば、記録媒体の量削減という本発明の目的を達成できることは理解されよう。
【0029】
このように、予備吐画像を、目的画像の記録デューティの取り得る上限値Dlim(%)よりも高い記録デューティD(≦Dblim)(%)で記録することによって、Dlim(%)で記録した場合と比べて、消費される記録媒体の量を減らすことができる。
【0030】
(第2の実施形態)
第1の実施形態ではノズル列が1列の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置の例を示したが、本発明は複数のノズルから成るノズル列を複数有するインクジェット記録装置にも適用できる。以下に2列のノズル列を有する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置の例について述べる。説明の容易のため、第2の実施形態のインクジェット記録装置は、記録ヘッド以外の構成要素は、第1の実施形態のインクジェット記録装置と同様とした(図1参照)。
【0031】
図6は、本実施形態の記録ヘッド2Kのインク吐出面を示す模式的平面図である。列Nおよび列Mの2列のノズル列は、記録媒体の幅方向(記録媒体の搬送方向Lに直交する方向)にずれて配置され、搬送方向Lにおいて一部(図中のWの部分)が重複し、その他の箇所(図中のSの部分)は重複しないように構成されている。目的画像を記録するときには、重複部Wに位置するノズルは、記録媒体搬送方向Lの同一ライン上に位置する2つのノズルが分担しながらインクを吐出し画像を記録するようになっている。
【0032】
図7に、図6の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置でDlim(%)の記録デューティで記録した予備吐画像の例を示す。ノズル列数が2列の場合、各ノズルについての均等な発数の予備吐出をノズル列ごとに順次行うと、図7に示されるようなベタ画像の予備吐画像が得られる(図中、14Nおよび14M)。このような記録パターンにおいては、記録媒体搬送方向Lにノズル列が重複している箇所Wについては、ノズル列数が1列の場合の予備吐出に必要とされる長さlの2倍である2lの長さの記録媒体が消費される。このように、各ノズルについて均等な予備吐出をノズル列ごとに順次行う場合、1つの記録ヘッドで記録媒体搬送方向Lにおいて重複するノズル列数が増えると、予備吐出に必要な記録媒体の長さは、ノズル列数に比例して長くなる。
【0033】
しかしながら、任意のノズル列数においても、ノズル列数が1列の場合と同様の本発明の効果が得られる。すなわち、予備吐画像の記録に、目的画像の記録デューティの上限値Dlim(%)よりも高い記録デューティD(≦Dblim)(%)を採用することによって、Dlim(%)を採用した場合と比べて、消費される記録媒体の量を減らすことができる。
【0034】
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態においては、1つの記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の例を説明したが、本実施形態では複数の記録ヘッドを使用した場合の例について述べる。
【0035】
図8は、本実施形態の4つの記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成を示す模式的側面図である。図8において、各記録ヘッド2K、2C、2M、2Yには異なる色のインクが充填されており、各記録ヘッドに対応するインク色はそれぞれK:ブラック、C:シアン、M:マゼンタ、Y:イエローとなっている。また、各記録ヘッドの前後には記録媒体を搬送するための搬送ローラ5(ローラ対5a〜5e)が配置されている。搬送ローラ5は記録媒体を図中の矢印L方向に搬送しながら、制御部9は各記録ヘッドを個別に制御し、記録媒体の所定の位置にインクを吐出してカラー画像を形成する。図8中の他の符号は、図1の場合と同様の構成要素を示す。
【0036】
複数の記録ヘッドを有する構成においては、予備吐画像の記録方法に以下のような改良を加えることができ、それにより、より高い記録デューティで予備吐画像の記録を行える。その結果、予備吐画像の記録すなわち予備吐出のために消費される記録媒体の長さをさらに削減することができる。詳細を以下に述べる。
【0037】
図9は、図8に示す4つの記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置により記録された予備吐画像の模式的平面図を示す。図9(a)は、4色のインクについての予備吐出を、色ごとに記録媒体上の個別のエリアに行ったもの(改良前)である。一方、図9(b)は4色インクについての予備吐出を記録媒体上の共通するエリアに行うようにしたものである(改良後)。
【0038】
まず、図9に示す例で用いる記録媒体に関してK、C、M、Y各色のインクについてあらかじめ求めた予備吐画像の記録デューティの上限値Dblim(%)が、例えば、それれぞれ等しく160%であるとする。図9(a)に示す改良前のパターンでは、各色のインクについて、それぞれの色ごとに、記録媒体の搬送方向LにおいてL1/4の長さの別個の範囲に160%の記録デューティで予備吐画像の記録がなされている。Dblimは目的画像の記録デューティの上限値Dlimよりも大きい値であるので、ここでも既に、第1および第2の実施形態の場合と同様の、本発明の記録媒体の消費削減効果は達成されている。
【0039】
これに対して、図9(b)では、各色のインクについて、それぞれ、記録媒体の搬送方向LにおいてL2の長さの共通する範囲に記録がなされており、その結果、予備吐画像のエリア全体において4色の画素が混在している。予備吐出はインク溶剤の蒸発に起因する吐出不良に対処するための動作であるので、そのために必要な最低限の発数だけインクの吐出を行えばよい。すなわち、各色のインクを共通するエリア全体に吐出する場合は、分割した個別のエリアに対して色ごとに吐出を行う場合と比べて、広い面積に対して同一の最低限の発数の吐出を行えばよいことになる。これにより、各色のインクもしくは記録ヘッドのそれぞれについて実際に用いられる記録デューティは、先に求めたDblim(%)よりも小さくなる。
【0040】
例えば、図9(a)でL1/4の長さの範囲に行うべきインクの吐出は、図9(b)ではL2の長さの範囲に行っている。このとき、もしL1=L2であるとすると、図9(b)の4色のインクを共通するエリア全体に吐出するパターンにおいて、各色のインクについての記録デューティDとしては、それぞれ40%の値を使用することができる(∵160×L1/4=D×L2)。これにより、予備吐画像全体としては、4色についての記録デューティの合計である40%×4=160%の記録ディーティで記録がなされたことになる。以下、各色のインクもしくは各記録ヘッドについての記録デューティをDe(%)、および全色のインクもしくは全記録ヘッドについての合計の記録デューティをDs(%)と記して説明する。
【0041】
本発明者らは、図9(b)のパターンの場合に、予備吐画像全体として、先に求めたDblim160%を超える合計の記録デューティDs(%)を用いて、インク溢れによる問題を生じずに記録を行えることを見出した。すなわち、図8に示すように、4色のインクの記録ヘッドは記録媒体の搬送方向Lにおいて一定の距離を隔てて順に並べられている。そのため、記録媒体上の共通エリアに吐出されるインクの色間で、インクの吐出および記録媒体への吸収に時間差がある。例えば上流の記録ヘッド2Kから吐出されたブラックインクの大部分は最下流の記録ヘッド2Yに到達するまでの間に記録媒体へ吸収される。同様に、記録ヘッド2C、2Mから吐出されたシアン、マゼンダのインクについても、最下流の記録ヘッド2Yに到達するまでの間にある程度の量が記録媒体へ吸収される。そのため、記録媒体上の共通エリアに複数の記録ヘッドからインクを吐出した結果、各記録デューティDeの合計が先に求めたDblim160%を超えても、搬送ローラの全てのローラ対にインク付着が起こらない範囲の合計の記録デューティDsが存在する。
【0042】
記録デューティDs(%)の上限値は、各記録ヘッドに用いる記録デューティDe(%)を種々変動させて、記録エリアが共通する図7(b)の記録パターンで記録試験を行い、搬送手段等の汚損の有無の状態を視認することにより求めることができる。例えば、図9(b)の記録パターンにおいて、各色のインクすなわち記録ヘッドあたりの記録デューティDeとして45%および50%の値を採用したとする。この場合、4色を合計した記録デューティDsは180%(=45%×4)および200%(=50%×4)であり、両者とも、(a)の場合の記録デューティDblim160%を超えていることになる。Dsが180%のときに搬送手段等の汚損がなく、Dsが200%のときに搬送手段等の汚損が見られた場合は、180%を、その記録媒体についてのDsの上限値Dslimであるとする。このとき、図9(b)の記録パターンについては、L2はL1の約89%の長さとなり(∵45×L2=160×L1/4)、図9(a)の記録パターンと比べて、記録媒体の消費をさらに約11%低減できることとなる(図中、ΔL参照)。なお、本例においては種々のDeとして45%および50%の値を採用してDslim(%)を求めたが、これは単なる例であり、別の種々のDeの値を用いて合計のDslim(%)を求めてもよい。
【0043】
このように、複数の記録ヘッドからの吐出を共通エリアに対して行う本発明の記録方法によって、搬送手段等の汚損を防ぎつつも、記録ヘッドごとに異なる特定のエリアに吐出を行う場合と比べて予備吐画像で消費される記録媒体の長さを短縮できる。
【0044】
なお、本実施形態は、複数の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置に関する例を示した。第2の実施形態のような1つの記録ヘッドに複数のインク列を有するインクジェット記録装置においても、重複するインク列からの吐出を共通する広いエリアに対して行う予備吐画像の記録パターンを採用することによって、消費される記録媒体の長さを短縮し得る。
【符号の説明】
【0045】
1 インクジェット記録装置
2 記録ヘッド
3 記録媒体
4 給紙トレイ
5 搬送ローラ
6 画像データ入力部
7 画像データ処理部
8 予備吐画像データ記憶部
9 制御部
10 上限値設定部
11 ノズル
12、14 予備吐画像
13 目的画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段によって記録媒体を搬送しながら記録ヘッドからインクを吐出して、記録媒体上に記録を目的とする画像と予備吐出により形成される画像とを記録する記録手段と、
前記記録を目的とする画像の画像データに基づいて吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量を、上限値Alim以下に制限する第1制限手段と、
前記予備吐出により形成される画像について吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量を、前記上限値Alimよりも大きく、かつ、上限値Blim以下に制限する第2制限手段と、
を具えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記上限値Alimは、記録媒体の画像にブリードが生じない上限の記録媒体の単位面積あたりのインク量であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記上限値Blimは、記録媒体上に吐出されたインクの溢れによる搬送手段および記録媒体の汚損が生じない上限の記録媒体の単位面積あたりのインク量であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
記録媒体の単位面積あたりに所定体積のインク量が吐出される状態を基準としたときの、記録に実際に用いる記録媒体の単位面積あたりのインク量の割合として規定される記録デューティに基づいて、前記記録を目的とする画像の画像データに基づいて吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量および前記予備吐出により形成される画像について吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量を制限することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、複数のノズルから成るノズル列を複数有するフルライン型のインクジェット記録ヘッドであり、
記録媒体の搬送方向において複数のノズルが重複する部分に位置する各ノズルにおける前記予備吐出により形成される画像についてのインク吐出量を、各ノズルからの吐出の合計としての前記予備吐出により形成される画像について吐出されるべき記録媒体の単位面積あたりのインク量が前記Blim以下となるように設定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インクジェット記録装置は、前記記録ヘッドを複数有し、
複数の記録ヘッドのそれぞれが、記録媒体上の共通エリアに前記予備吐出により形成される画像を記録する際は、記録媒体上の異なるエリアに前記予備吐出により形成される画像を記録する際よりも高い前記Blimを設定することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
インクを吐出するノズルを有する記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置により記録媒体上に記録を目的とする画像と予備吐出により形成される画像とを記録する方法であって、
前記記録を目的とする画像を、前記記録を目的とする画像の画像データに基づいて、上限値Alim以下の記録媒体の単位面積あたりのインク量を用いて記録する工程と、
前記予備吐出により形成される画像を、前記上限値Alimよりも大きく、かつ、上限値Blim以下の記録媒体の単位面積あたりのインク量を用いて記録する工程と、
を含むことを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−6174(P2012−6174A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141659(P2010−141659)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】