説明

インクジェット記録装置の制御方法

【課題】インクジェット装置のメインインクタンク内に電気的な検出装置を設ける必要がなく、正確なインク供給制御が行えるようにする。
【解決手段】メインインクタンクと、記録ヘッドと、バッファタンクとを有するインクジェット記録装置において、インク供給装置(ポンプ)を用いてメインインクタンクからバッファタンクへインクを供給し、バッファタンクから記録ヘッドにインクを充填する。ポンプの動作の累積回数nと、ポンプが1回動作する度にメインインクタンクからバッファタンクへ供給されるインク供給量vとの関係を求めて記憶しておく。その関係に基づいて、次にポンプを動作させる回数の決定と、メインインクタンク内のインク残量の検出と、メインインクタンクの交換の警告のうちの少なくとも1つを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なインクジェット記録装置では、装置本体に対して移動可能なキャリッジに搭載された記録ヘッドから記録媒体に向けてインク滴を吐出することによって記録を行う。記録ヘッドを搭載したキャリッジの重量や寸法の増大が、記録装置全体の大型化を招くとともに、キャリッジ駆動機構に、より高い性能が要求されることにつながる。そこで、比較的大型のインクジェット記録装置においては、インクタンクが記録ヘッドおよびキャリッジから分離して配置された、いわゆるヘッドタンク分離方式のインク供給システムが広く採用されている。
【0003】
図7には、ヘッドタンク分離方式のインク供給システムを有するインクジェット記録装置の一例が示されている。このインクジェット記録装置では、記録ヘッド201が、装置本体(図示しないシャーシ)に対して移動可能なキャリッジ202に搭載されている。一方、メインインクタンク204が装置本体に固定されている。記録ヘッド201とメインインクタンク204は、インク供給チューブ200や図示しない継手などによって接続されている。キャリッジ202は記録時に往復移動する。そのため、キャリッジ202の移動を妨げないように、インク供給チューブ200の少なくとも一部は、柔軟性のある材料(例えばシリコンやポリエチレンなど)によって構成されている。そして、搬送ローラ203によって搬送される記録媒体Sに向けて記録ヘッド201からインクを吐出することにより記録を行う。記録ヘッド201からのインク吐出に伴って、メインインクタンク204からインク供給チューブ200を介して記録ヘッド201にインクが補給されていく。そして、メインインクタンク204に収容されているインクが少なくなったときに、メインインクタンク204が交換される。
【0004】
メインインクタンク204の交換の目安とするため、インク残量の検出やインクニアエンド(インク切れ間近であること)の検出が行われる。例えば、記録ヘッド201からのインク滴の吐出回数をカウントし、それに基づいて、メインインクタンク204から消費されたインク量を求めることができる。
【0005】
特許文献1に記載の発明では、記録ヘッドからのインクドットの吐出回数をカウントし、それに基づいて、メインインクタンクから消費されたインク量を求めるとともに、メインインクタンク内に設けられている電気的検出装置でインク残量を検出する。そして、電気的検出装置で検出したインク残量によって、消費されたインク量を補正する。
【特許文献1】特開2002−234182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、インクジェット記録装置のスループットの向上を図るために、メインインクタンクと記録ヘッドとの間にバッファタンクが設けられたインク供給システムが存在する。このインク供給システムでは、インクは、まずメインインクタンクからバッファタンクに供給され、さらにバッファタンクから記録ヘッドへ充填される。このようなバッファタンクを有するインク供給システムでは、インクがメインインクタンクからチューブを介していきなり記録ヘッドへ充填されるわけではない。従って、前記したように記録ヘッドからのインク滴の吐出回数に基づいてインク消費量を求めても、メインインクタンクのインク残量とは必ずしも対応せず、メインインクタンクの交換のタイミングを適切に知ることはできない。
【0007】
特許文献1に記載の発明のように、記録ヘッドからのインクドットの吐出回数に基づいてインク消費量を求めることと、電気的検出装置でインク残量を検出することとを併用すると、メインインクタンクの交換の目安として有効である。しかし、電気的検出装置によるインク残量の検出が精度良く行えない場合もある。例えば、メインインクタンクが、可撓性を有する袋で構成されている場合、インク残量やインクニアエンドを正確に検出するためには、メインインクタンク内にかなり複雑な構成の電気的検出装置を必要とする。このように複雑な構成の電気的検出装置は、インクジェット記録装置の低コスト化の妨げとなる。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、メインインクタンク内に電気的な検出装置を設ける必要がなく、正確なインク供給制御が行えるインクジェット装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、メインインクタンクと、記録ヘッドと、メインインクタンクと記録ヘッドとの間に介在するバッファタンクとを有し、インク供給装置を用いてメインインクタンクからバッファタンクへインクを供給し、さらにバッファタンクから記録ヘッドにインクを充填するインクジェット記録装置の制御方法において、インク供給装置の動作の累積回数と、インク供給装置が1回動作する度にメインインクタンクからバッファタンクへ供給されるインクの量であるインク供給量との関係を求めて記憶しておき、記憶されているインク供給装置の動作の累積回数とインク供給量との関係に基づいて、次にインク供給装置を動作させる回数の決定と、メインインクタンク内のインク残量の検出と、メインインクタンクの交換の警告のうちの少なくとも1つを行うところにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、メインインクタンクからバッファタンクへインクを供給するインク供給装置の動作の累積回数と、インク供給装置が1回動作する度に供給されるインクの量であるインク供給量との関係を予め求めておく。そして、この関係に基づいて、インク供給に関する制御を行うため、高コスト化を招く電気的検出装置が不要としながら、インク供給に関する処理を高精度に制御できる。具体的な制御内容の例としては、次にインク供給装置を動作させる回数の決定や、メインインクタンク内のインク残量の検出や、メインインクタンクの交換の警告が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
[インクジェット記録装置の基本構成]
図1には、本発明が適用されるインクジェット記録装置が概略的に示されている。このインクジェット記録装置は、装置本体(図示しないシャーシ)に対して移動可能なキャリッジ(図示せず)に搭載されている記録ヘッド111から記録媒体(図示せず)にインク滴114を吐出して記録を行う構成である。記録ヘッド111には、装置本体に固定されているメインインクタンク100から、インク供給チューブ105とバッファタンク107とを介してインクが充填される。メインインクタンク100は、ケース113内に、可撓性を有する二重の袋101,102が収容されたものである。内側の袋はインク貯留袋101であり、インク取り出し口104を介してインク供給チューブ105に接続されている。外側の袋は廃インク回収袋102であり、廃インク回収口109と回収チューブ(図示せず)とを介して、キャップ112に接続されている。ケース113内で廃インク回収袋102の外側の空間は負圧室となっており、負圧弁110が設けられている。また、このメインインクタンク100は、メインインクタンクEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)103を有している。記録ヘッド111とメインインクタンク100の間に介在するバッファタンク107は容積可変であり、光学センサであるインク切れセンサ108と、インク供給装置であるポンプ106を有している。
【0013】
このインクジェット記録装置による記録方法について簡単に説明すると、図示しない搬送装置によって記録媒体が記録ヘッド111に対向する位置に搬送される。そこで、記録媒体を停止させた状態で、記録ヘッド111が搭載されたキャリッジが記録媒体の搬送方向に対して直交する方向に移動しながら、適宜のタイミングで記録ヘッド111から記録媒体にインク滴を吐出する。吐出されたインク滴が記録媒体上に付着することによって記録が行われる。こうして1行分の記録が行われる度に、搬送装置によって記録媒体を1行分だけ搬送する。キャリッジおよび記録ヘッド111による1行分の記録と、搬送装置による記録媒体の1行分の搬送とが交互に繰り返し行われることにより、記録媒体全面の記録が行われる。インク供給チューブ105は、シリコンやポリエチレンなどの樹脂からなる可撓性のチューブであり、キャリッジおよび記録ヘッド111の移動を妨げない。
【0014】
本実施形態では、メインインクタンク100のインク貯留袋101からバッファタンク107にインクが供給され、さらにバッファタンク107から記録ヘッド111にインクが充填される。具体的には、インク切れ検知センサ108がバッファタンク107内のインク切れを検知すると、ポンプ106がバッファタンク107内を減圧する。それによって、メインインクタンク100のインク貯留袋101内のインクを、インク取り出し口104およびインク供給チュープ105を介してバッファタンク107内に引き込む。そして、記録ヘッド111がインクを外部に吐出するのに伴って、ポンプ106がバッファタンク107を加圧して、バッファタンク107内のインクを記録ヘッド111に送り込む。詳述しないが、インクがバッファタンク107からメインインクタンク100に逆流しないように、また、記録ヘッド111からバッファタンク107に逆流しないように、弁がそれぞれ設けられている。
【0015】
また、本実施形態では、記録ヘッド111のインク吐出部(ノズルが形成されている部分)を覆うことができるキャップ112が設けられている。キャップ112は記録領域外に位置しており、非記録時の記録ヘッド111のインク吐出部の保護および乾燥防止と、記録ヘッド111のメンテナンスのための予備吐出時にインク滴を受ける働きをする。キャップ112は、回収チューブを介してメインインクタンク100の廃インク回収袋102に接続されている。従って、記録ヘッド111から予備吐出されたインクは、キャップ112に受けられた後に、図示しないポンプによって回収チューブを介して廃インク回収袋102に回収される。このような構成であるため、記録動作と、記録動作の合間のメンテナンスとを行うことにより、メインインクタンク100のインク貯留袋101内のインクが減少する一方、廃インク回収袋102内の廃インクが増加する。その結果、記録を繰り返してもメインインクタンク100の内圧がさほど大きく変動しない。
【0016】
[制御装置]
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置における制御装置を概略的に示すブロック図である。この制御装置の中心は、記録装置の動作の制御処理やデータ処理等を実行するMPU(Micro Processing Unit)613である。MPU613に、システムバス614を介してROM(Read Only Memory)612とRAM(Random Access Memory)610とASIC(Application Specific Integrated Circuit)611が接続されている。こうして制御部615が構成されている。さらに、メインインクタンク100に設けられているメインインクタンクEEPROM103と、バッファタンク107に設けられているインク切れセンサ108およびポンプ106と、記録ヘッド111が制御部615に接続されている。ROM612には、記録装置の動作の処理手順等のプログラムが格納されている。RAM(Random Access Memory)610は、それらの処理を実行するためのワークエリアなどとして用いられる。ASIC611は、記録ヘッド111やポンプ106を作動させる際に、RAM610の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッド111やポンプ106に対しての駆動データをMPU613に転送する。メインインクタンクEEPROM103は、メインインクタンク100の色識別データやインク消費量などのプロフィール情報を格納している。メインインクタンク100が記録装置本体に装着されたときに、メインインクタンクEEPROM103に格納されているプロフィール情報がRAM610の記憶領域上に展開される。そして、RAM610の記憶領域上で更新されたプロフィール情報が、このメインインクタンクEEPROMに上書きされる。インク切れセンサ108は、バッファタンク107内のインクが予め設定された最小値未満であることを検知すると、ASIC611およびRAM610を通じて、インク供給を要求する信号を発信する。
【0017】
[インク供給システムの制御方法]
次に、本発明の1つの態様である、インク供給システムの制御方法について説明する。
【0018】
本実施形態では、予備実験として記録ヘッド111からのインク吐出を繰り返し行う。インク吐出に伴ってバッファタンク107内のインクが減少すると、インク切れセンサ108がインク供給を要求する信号を発信する。その信号によってポンプ108が作動して、メインインクタンク100のインク貯留袋101内のインクをバッファタンク107に引き込む。この時のインク供給量、すなわち、メインインクタンク100からバッファタンク107に引き込まれたインクの量を求めて記憶する。これを繰り返して、メインインクタンク100のインク貯留袋101からインクをバッファタンク107に供給する回数と、その都度のインク供給量との関係をデータとして記憶する。こうして求めたデータを示すグラフを図3に示している。
【0019】
インク貯留袋101からインクをバッファタンク107に引き込む動作は、ポンプ106によってバッファタンク107内を負圧にすることによって行われる。そのため、バッファタンク107内に引き込まれるインクの量(インク供給量)は、一定ではなく、メインインクタンク100のインク貯留袋101の内圧、ひいてはインク貯留袋101内に存在するインクの量などによって異なる。
【0020】
図3に示すように、インク貯留袋101からバッファタンク107へのインク供給動作の累積回数が少ないうちは、メインインクタンク100のインク貯留袋101内のインク量が多く、その内圧が高いため、1回に供給されるインク供給量が多い。しかし、インク貯留袋101からバッファタンク107へのインク供給動作の累積回数が増えてくると、インク貯留袋101内のインク量が減って内圧が低くなる。その結果、1回に供給されるインク供給量が少なくなる。最終的には、ポンプ106を作動させても、ごく少量のインクしかバッファタンク107内に引き込めなくなる。本実施形態では、このようなインク貯留袋101からバッファタンク107へのインク供給動作の回数と、その都度のインク供給量との関係をデータとして記憶しておく(図3参照)。
【0021】
そして、本実施形態では、バッファタンク107へのインク供給動作の回数と、その都度のインクの供給量との関係を、複数の領域に分けて考える。図3に示す例では、バッファタンク107へのインク供給動作の累積回数が0回からn1回までの第1の領域A1と、n1回からn2回までの第2の領域A2と、n2回からn3回までの第3の領域A3とに分ける。領域A1におけるインク供給量はv0からv1までの範囲であり、その最大値はv0である。同様に、領域A2におけるインク供給量はv1からv2までの範囲であり、その最大値はv1である。領域A3におけるインク供給量はv2から0までの範囲であり、その最大値はv2である。ここで各領域A1,A2,A3のそれぞれにおいて、インク供給動作の回数とその都度のインク供給量の関係を示す相関曲線Cを、直線L1,L2,L3で近似する。そして、近似直線L1,L2,L3のそれぞれの傾きg1,g2,g3を求める。具体的には、
1=(v1−v0)/(n1
2=(v2−v1)/(n2−n1
3=−v2/(n3−n2
である。これらの傾きg1,g2,g3は全て負の値になる。
【0022】
【表1】

【0023】
こうして、各領域A1,A2,A3ごとに、インク供給量を算出するための以下の関係式を求める。すなわち、n回目のインク供給動作におけるインク供給量vnは以下の式で算出できる。
【0024】
0<n≦n0の場合
n=g1×n+v0=(v1−v0)/(n1)×n+v0
0<n≦n1の場合
n=g2×n+v1=(v2−v1)/(n2−n1)×n+v1
1<n≦n2の場合
n=g3×n+v2=−v2/(n3−n2)×n+v2
である。
【0025】
一例として、v0=5ml(領域A1における最大のインク供給量)、v2=4.5ml(領域A1における最小のインク供給量)、n1=30として、n=10回目のインク供給動作におけるインク供給量vnは、次の通りである。すなわち、v10=[(4.5−5)/30×10]+5=4.83mlである。
【0026】
次に、この計算を利用して、図1に示すようなインクジェット記録装置のインク供給システムを実際に制御する方法を、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0027】
図1に示すインク切れ検知センサ108が、バッファタンク内のインク量が予め設定された最小値未満であることを検知すると、インク供給信号を発信し、インク供給動作が開始する。そこで、まずステップS410において、RAM610の記憶領域から、現在までのインク供給動作の累積回数nを読み出し、前記した領域A1〜A3のうちのいずれに入っているかを確認する。そして、ステップS420において、前記した式を利用して、次にポンプ106を動作させるべき回数を決定する。
【0028】
例えば、領域A1に入っており、インク量が最小値未満であるバッファタンク107に対して最小限注入すべきインク量がVx[ml]であるとする。そして、Vx[ml]のインクを供給するために必要なポンプ106の動作回数を求める。具体的には、ポンプをa回作動させた場合、すなわち(n+1)回目から(n+a)回目までポンプを作動させた場合のインク供給量の合計Vは、V=Σ(gb×(n+a)+vb)である。なお、aは1以上の整数であり、bは、0<(n+a)≦n1の範囲ではb=1、n1<(n+a)≦n2の範囲ではb=2、n2<(n+a)≦n3の範囲ではb=3である。
【0029】
こうして算出されるインク供給量の合計VがVxを超えたときのaの値を求める。これにより、ポンプを動作させるべき回数aが判明する。
【0030】
そこで、ステップS430において、ステップS420にて算出された動作回数aだけインク供給装置(ポンプ106)を作動させる。これによって、先に算出したインク供給量の合計V=Σ(gb×(n+a)+vb)だけ、メインインクタンク100のインク貯留袋101からバッファタンク107にインクが供給される。そして、ステップS440において、バッファタンク107内のインク量が、予め設定された最小値を超えたことを、インク切れ検知センサ108によって確認する。
【0031】
ステップS440においてインク切れ検知センサ108が、インク切れ状態が解消していないこと、すなわちバッファタンク107内のインク量が最小値未満であることを検知した場合には、ステップS450においてメインインクタンク100の交換を促す。これは、例えば図示しない警告ランプの点灯やディスプレイへの警告メッセージの表示などによって行われる。この場合、記録装置の動作を終了してメインインクタンク100の交換作業を待機する。
【0032】
一方、ステップS440において、インク切れ検知センサ108が、バッファタンク107内のインク量が最小値を超えていることを確認したら、ステップS460においてデータの更新を行う。データとは、例えば、ポンプの累積作動回数、すなわちインク供給動作の累積回数(n+a)や、領域A1〜A3のうちのどの領域に属するかということや、ステップS430で求めたインク供給量Vxである。これらのデータをRAM610上からメインインクタンクEEPROM103に書き込む。このとき、各領域A1〜A3ごとのインク供給量の総計V1,V2,V3を求めて、RAM610上からメインインクタンクEEPROM103に書き込んでもよい。なお、0<n≦n1の領域A1のインク供給量の合計はV1=Σ(g1×n+v1)である。n0<n≦n1の領域A2のインク供給量の合計はV2=Σ(g2×n+v2)である。n1<n≦n2の領域A3のインク供給量の合計はV3=Σ(g3×n+v3)である。この時点での累積回数(n+a)をnの上限とした時のインク供給量の総計(V1+V2+V3)を、メインインクタンク100の初期状態におけるインク収容量から引くと、メインインクタンク100のインク残量を求めることができる(ステップS470)。ステップS480において、このインク残量が予め設定された最小値未満である場合には、メインインクタンク100の交換を促す(S450)。これは、例えば図示しない警告ランプの点灯やディスプレイへの警告メッセージの表示などによって行われる。この場合、記録装置の動作を終了してメインインクタンク100の交換作業を待機する。
【0033】
また、前記したインク供給量の総計からインク残量を算出する計算を利用して、インク残量が最小値を下回る直前のインク供給動作の累積回数nEを予め算出しておくこともできる。その場合、(n+a)=nEになった時点で、インクニアエンドのメッセージを発信する。これは、前記したメインインクタンク100の交換を促す表示と異なる種類の警告表示であってもよいが、同じであってもよい。
【0034】
以上説明したように、インク残量を算出してそのインク残量が最小値を下回ったことが判明した時点で、メインインクタンク100の交換を促す表示を行ってもよい。また、インク供給動作の累積回数が、予め算出された値nEに到達した時点で、メインインクタンク100の交換を促す表示を行ってもよい。これらのいずれか一方の表示のみを行ってもよいが、両方の表示を行って2段階で使用者に警告を発してもよい。
【0035】
[計算式の補正]
前記したインク供給システムの制御方法における計算式を補正して、より正確な計算を行うこともできる。具体的には、ステップS410において用いられる数式vn=gb×n+vbを補正する。
【0036】
一例として、図5には、図3のうちインク供給の累積回数がn1からn2までの領域A2を抜き出して示している。この近似曲線L2は、予備実験における実測値を基に求められたものである。しかし、必ずしもこのインク供給量が、記録ヘッド111からのインク吐出量と一致するわけではないため、補正することが望ましい場合がある。このような補正方法について以下に説明する。
【0037】
図5に示す領域A2のうちのある区間(ここではインク供給回数がc回目からd回目までの範囲とする)において、前記した数式に基づく計算上のインク供給量の合計Vpは、四角形abcdの面積に相当する。これに対し、実験的に求めた実際のインク吐出量の合計Vdが、四角形a’b’cdの面積に相当するものとする。そうすると、計算上のインク供給量の合計と実際のインク吐出量の合計との差異(Vp−Vd)は、平行四辺形aba’b’の面積、すなわち、幅Np×高さhpに相当する。従って、V2=Σ(g2×n+v2)の式を応用して求められる計算上のインク供給量の合計Vpと、実験的に求めた実際のインク吐出量の合計Vdと、回数(d−c)=Npとから、以下の数式が成り立つ。
p×hp=(Vp−Vd
p=(Vp−Vd)/Np
前記したようにVpは計算によって求められ、Vdは実験結果として求められ、Npは実験条件として予め設定されている。従って、hpは容易に算出できる。このhpは、数式vn=g2×n+v1の補正値として使用され、補正後の数式はvn=g2×n+(v1−hp)となる。
【0038】
以上、図5に示す領域A2を例にとって説明したが、領域A1,A3においても同様の補正を行うことができる。
【0039】
この補正は、前記したインク供給システムの制御方法(図4参照)に組み入れて実施することができる。この補正方法を含む処理のフローチャートを図5に示している。なお、以上説明した補正はステップS530として行われる。
【0040】
前記したように、インク切れ検知センサ108がバッファタンク107のインク切れを検知してインク供給信号を発信すると、インク供給動作が開始する。その際に、まず初めに補正が必要か否かを判断する(ステップS500)。例えば、バッファタンク107への前回のインク供給動作と、次に行われるインク供給動作との間の、記録ヘッド111からのインク吐出量の合計をVdとする。このうち、記録やキャップ112内への予備吐出など、記録ヘッド111内のエネルギー発生装置(図示せず)が作動して吐出したインク量をVeとする。そして、キャップ112に接続された吸引ポンプ(図示せず)によって記録ヘッド111から吸い出したインク量をVcとする。これらを用いて、補正必要条件式Ve>Vc×Thを満たすか否かを判断する。このThは、実験的に求められた、補正必要条件式のための定数である。なお、この条件は、VcがVeより誤差が大きいという前提に基づくものであり、VeがVcよりも大きければ大きいほど、この補正必要条件式による判断の信頼性が高いといえる。
【0041】
このステップS500でVe>Vc×Thを満たしていないと判断された場合には、補正は不要なので、そのままステップS410〜S440(図4参照)を行う。
【0042】
一方、ステップS500でVe>Vc×Thを満たしている場合には、V+c<VdまたはV−c>Vdの関係が成り立つか否かを確認する(ステップS510)。この定数cは実験的に求めた最大誤差である。V+c<Vdの関係が成り立つ場合には、ステップS520において、前記したhp=(Vp−Vd)/Npの式をhp={vp−(vd−c)}/Npに補正する。V−c>Vdの関係が成り立つ場合には、ステップS520において、hp=(vp−vd)/Npの式をhp={vp−(vd+c)}/Npに補正する。
【0043】
ステップS510においてV+c<VdまたはV−c>Vdの関係が成り立たない場合には、hp=(vp−vd)/Npの式を補正しない。
【0044】
ステップS500でVe>Vc×Thを満たしており、ステップS510の判定によりステップS520で補正した場合と、ステップS520を経ず補正していない場合のいずれも、次のステップS530において補正が行われる。なお、このステップS530における補正内容は前記した通りであり、例えば領域A1に関しては、vn=g2×n+(v1−hp)という式が導き出される。その後、図4に示すステップS410〜S440を行って、バッファタンク107へのインク供給が制御される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態では、ポンプ106のインク供給動作の累積回数と、1回のインク供給動作でメインインクタンク100からバッファインク107に供給されるインク供給量との関係を求めて、相関曲線を作成している。そして、この相関曲線を複数の領域、例えば(A1,A2,A3)に分けて、それぞれの領域で相関曲線を線形化して近似直線を作成し、その線形方程式の係数を適宜に設定する。それによって、インク切れセンサ108がバッファタンク107のインク切れを検知する度に、その領域ごとの線形方程式を用いて、次にポンプを動作すべき回数を求めることができる。また、メインインクタンク100からバッファタンク107に供給するインク量を算出することができる。さらに、それに基づいて、メインインクタンク100のインク残量を算出することもできる。そして、メインインクタンク100の交換を促すことができる。なお、この方法によると、メインインクタンク100に、高コスト化を招く電気的検出装置が不要であり、しかもインク残量やインクニアエンドを正確に検知できる。
【0046】
また、ポンプ107やメインインクタンク100の機械的なばらつきを考慮して、前記した線形方程式を補正することができる。この補正は、記録ヘッド111から吐出したインク吐出量の合計Vdと、メインインクタンク100からバッファタンク107に供給したインク供給量の合計Vpとに基づいて行える。この補正によって、より高精度にインク供給システムを制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明が適用されるインクジェット記録装置の概略図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の制御装置のブロック図である。
【図3】バッファタンクへのインク供給動作の累積回数とインク供給量の関係を示すグラフである。
【図4】インク供給方法を示すフローチャートである。
【図5】図3のグラフに示す相関関係の一部を補正する方法を説明するためのグラフである。
【図6】図5に示す補正方法のフローチャートである。
【図7】従来のインクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
100 メインインクタンク
106 インク供給装置(ポンプ)
107 バッファタンク
111 記録ヘッド
n 累積回数
v インク供給量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインインクタンクと、記録ヘッドと、前記メインインクタンクと前記記録ヘッドとの間に介在するバッファタンクとを有し、インク供給装置を用いて前記メインインクタンクから前記バッファタンクへインクを供給し、さらに前記バッファタンクから前記記録ヘッドにインクを充填するインクジェット記録装置の制御方法であって、
前記インク供給装置の動作の累積回数と、前記インク供給装置が1回動作する度に前記メインインクタンクから前記バッファタンクへ供給されるインクの量であるインク供給量との関係を求めて記憶しておき、
記憶されている前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係に基づいて、次に前記インク供給装置を動作させる回数の決定と、前記メインインクタンク内のインク残量の検出と、前記メインインクタンクの交換の警告のうちの少なくとも1つを行う
インクジェット記録装置の制御方法。
【請求項2】
前記インク供給装置の動作の累積回数が大きくなると前記インク供給量が小さくなる、請求項1に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項3】
前記インク供給装置の動作の累積回数に応じて、前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係を複数の領域に分けて、前記領域ごとに異なる近似直線で表したデータとして記憶しておき、前記各領域の前記近似直線に従って、次に前記インク供給装置を動作させる回数の決定と、前記メインインクタンク内のインク残量の検出と、前記メインインクタンクの交換の警告のうちの少なくとも1つを行う、請求項1または2に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項4】
前記バッファタンク内のインク量を検出して前記バッファタンク内がインク切れ状態になった時に、記憶されている前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係に基づいて、次に前記インク供給装置を動作させる回数の決定を行い、その回数だけ前記インク供給装置を動作させて前記メインインクタンクから前記バッファタンクへインクを供給する、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項5】
記憶されている前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係に基づいて決定された回数だけ前記インク供給装置を動作させた後に、前記バッファタンクのインク切れ状態が解消されない場合には、前記メインインクタンクの交換の警告を行う、請求項4に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項6】
記憶されている前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係に基づいて、前記インク供給量の総計を求め、前記メインインクタンクの初期状態におけるインク収容量と、前記インク供給量の総計とから、前記メインインクタンク内のインク残量を算出する、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項7】
算出された前記メインインクタンク内のインク残量が、予め設定された最小値未満である場合には、前記メインインクタンクの交換の警告を行う、請求項6に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項8】
記憶されている前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係と、実際に前記記録ヘッドから吐出したインク吐出量との差異を求め、前記差異をなくすための補正を行う、請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置の制御方法。
【請求項9】
記憶されている前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係に対して前記補正を行い、前記補正を行った後の前記インク供給装置の動作の累積回数と前記インク供給量との関係に基づいて、次に前記インク供給装置を動作させる回数の決定と、前記メインインクタンク内のインク残量の検出と、前記メインインクタンクの交換の警告のうちの少なくとも1つを行う、請求項8に記載のインクジェット記録装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149302(P2010−149302A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327474(P2008−327474)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】