説明

インクジェット記録装置の回復装置およびインクジェット記録装置

【課題】インクジェット記録装置において、複数の記録ヘッドに対応して設けた複数のキャップ部材に対し、単一の負圧付与手段を用いて過不足なく負圧を付与することを可能とする。
【解決手段】インクジェット記録装置の回復装置には、複数の記録ヘッド102のそれぞれのインク吐出口を外気から遮断した状態で覆う複数のキャップ部材201が設けられている。また、回復装置は、複数のキャップ部材201に連通すると共に負圧発生手段401に連通する共通圧力室407を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出し記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置に関し、詳しくは、吐出口から強制的にインクを吸引して排出させることが可能な回復装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インクを吐出可能な複数のノズルを高密度に配置した記録ヘッドを用いて高精細な画像を形成することができる。このインクジェット記録装置で用いられる記録ヘッドの吐出口面には、ノズル内のインク滴を吐出するための吐出口が複数個形成されている。この吐出口の大きさは数十μ程度である。このように微小な吐出口からインクを吐出するインクジェット記録装置では、インク吐出が行われない状態が継続すると、ノズル内のインクに増粘、あるいは固化することがある。インクの増粘や固化がノズル内に生じた場合、ノズルからの正常なインク吐出が阻害される可能性がある。
【0003】
このような現象を防ぐため、インクが吐出されていない状態が一定時間以上継続した場合に、ノズル内の増粘あるいは固化したインクを吸い出すことによって、ノズル内のインクをリフレッシュさせることが行われている。このような処理は、一般的に吸引回復処理と呼ばれ、この処理を実施する装置を一般的に吸引回復装置と称している。
【0004】
一般的なインクジェット記録装置の吸引回復装置は、吐出口が形成されている記録ヘッドの吐出口面に密接して吐出口の周囲を覆うキャップ部材と、キャップ部材と吐出口面とによって形成されている空間内に負圧を発生させる負圧発生手段とを備える。そして、複数の記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の中には、上記のようにキャップ部材と負圧発生手段とを備えた吸引回復装置が複数の記録ヘッドそれぞれに対応して設けられているものがある。この場合、吸引回復装置によってインクジェット記録装置全体が大型化するという問題があった。
【0005】
そこで、一つのキャップ部材を設け、複数の記録ヘッドをキャリッジと共にこのキャップ部材へ順次移動させて吸引回復処理を行う方式を採るものもある。これによれば、吸引回復装置の小型化を図ることが可能である。しかしこの方式では、複数の記録ヘッドそれぞれに対して順次吸引回復処理を行うため、回復処理に多くの時間を要するという課題がある。
【0006】
これに対し、複数のキャップ部材を複数の流路を介して一つの負圧発生手段に連結し、複数の記録ヘッドに対して一つの負圧発生手段で発生させた負圧を付与することで、複数の記録ヘッドの吸引回復を同時に行う構成も知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−347689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の吸引回復装置には、次のような課題がある。すなわち、特許文献1に記載の吸引回復装置では、異なる位置に配置された複数のキャップが、一箇所に配置された負圧発生手段へと異なる流路を介して連結されており、各流路の長さが不均一になっている。このため、各流路における圧力損失に差による影響で、キャップ内に付与される負圧に差が生じる結果、目標とする負圧への到達時間が記録ヘッド毎に異なることとなり、記録ヘッドによって回復状態に差が生じるという課題がある。
【0009】
これに対し、上記のような圧力損失の差に起因する回復状態の差を低減すべく、流路での圧力損失を見込んで記録ヘッドに付与する圧力を大きくしたり、吸引回復時間を長くすることで必要とされる回復状態を満たしたりすることは可能である。しかし、圧力を大きくした場合には、圧力損失が小さい流路では記録ヘッドに対して必要以上の圧力がかることになり、また逆に、クリーニング時間を長くした場合には、圧力損失が小さい流路については所定の圧力が必要時間以上かかることになる。従って、いずれの場合もクリーニングにより無駄なインクが消費されることになり、ランニングコストの観点から、クリーニングによるインク消費量は可能な限り少なくする必要がある。従って、上記の対策は十分な解決策にはならない。
【0010】
本発明は、複数の記録ヘッドに対応して設けた複数のキャップ部材に対し、単一の負圧付与手段を用いて過不足なく負圧を付与することが可能なインクインクジェット記録装置および記録ヘッドの回復方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明は以下の構成を有する。
【0012】
すなわち、本発明の第1の形態は、インクジェット記録装置に用いられる複数の記録ヘッドの各々のインク吐出口に負圧を付与することによって前記インク吐出口から強制的にインクを吸引して排出させる回復装置であって、前記複数の記録ヘッドに対して密接・離間可能であり、密接時には前記インク吐出口をそれぞれ外気から遮断した状態で覆う複数のキャップ部材と、前記インク吐出口に付与するための負圧を発生させる負圧発生手段と、前記複数のキャップ部材に連通すると共に前記負圧発生手段に連通する共通圧力室と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の形態は、複数の記録ヘッドのそれぞれに形成されたインク吐出口からインクを吐出させて記録媒体への記録を行うと共に、前記複数の記録ヘッドの各々のインク吐出口に負圧を付与することによって前記インク吐出口から強制的にインクを吸引して排出させる回復手段を備えたインクジェット記録装置であって、前記回復手段は、前記複数の記録ヘッドに対して密接、離間可能であり、密接時には前記インク吐出口をそれぞれ外気から遮断した状態で覆う複数のキャップ部材と、前記インク吐出口に付与するための負圧を発生させる負圧発生手段と、前記複数のキャップ部材に連通すると共に前記負圧発生手段に連通する共通圧力室と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、負圧発生手段とキャップ部材との間に設けた共通圧力室から複数のキャップに同一の負圧を供給することができ、キャップ部材から記録ヘッドに付与すべき負圧が目標圧力に到達するまでの時間を同一にすることができる。このため、回復処理において過不足なくインクを排出させることができ、全ての記録ヘッドの吐出性能の適正化およびランニングコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態におけるインクジェット記録装置を模式的に示す正面図である。
【図2】待機状態から記録動作に至る一連の動作を示す動作説明図である。
【図3】ワイピング回復処理時の一連の動作を示す動作説明図である。
【図4】第1の実施形態における回復装置の全体構成を示す模式図である。
【図5】第1の実施形態における回復ユニットを長手方向断面図である。
【図6】第1の実施形態における回復ユニットを幅方向に切断したものの斜視図である。
【図7】第1の実施形態における回復処理の一連の工程を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施形態における回復ユニットの長手方向断面図である。
【図9】第2の実施形態における回復処理の一連の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
なお、この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する場合も表すものとする。
【0018】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0019】
さらに、「インク」とは、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、あるいはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態におけるインクジェット記録装置(以下、単に記録装置と称す)を模式的に示す正面図である。
【0021】
本実施形態における記録装置100には、画像情報を送るホストPC(パーソナルコンピータ)101が接続されている。記録装置100には、4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yが記録媒体(ここではロ−ル紙)Pの搬送方向(矢印A方向)に並んで配置されている。4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yからはそれぞれ黒、シアン、マゼンタ、イエローの各色のインクが吐出される。これら4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yはラインヘッドであり、図1の紙面に直交する方向(矢印A方向に直交する方向)に沿って複数のノズルが配列されている。これら4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yにおいてノズルが配列されている長さは、記録装置100で記録可能な記録媒体の最大の幅(図1の紙面に直交する方向の長さ)よりもやや長い。また、これら4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yは、画像形成中は定位置に保持されて移動しない。なお、本実施形態で用いられる記録ヘッドは、各ノズルに設けた電気熱変換素子(ヒータ)の熱エネルギによってインクに気泡を発生させ、その気泡発生時の圧力によってインクを吐出するものとなっている。
【0022】
4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yから初期状態の適正な吐出性能を維持できるように、記録装置100には回復装置が組み込まれている。この回復装置は、記録ヘッドのノズル内の増粘インクなどを強制的に吸引する吸引回復処理と、前記記録ヘッドの吐出口面103K、103C、103M、103Yに付着したインクを払拭するワイピング動作とを行う。この回復装置によって記録ヘッド102K、102C、102M、102Yにおけるノズルのインク吐出状態を初期の適正なインク吐出状態に回復させることができる。回復装置は、後述のキャップユニットおよびブレードなどを備える回復ユニット105と、吸引動作を行うためにキャップに負圧を発生させる負圧発生手段とから構成されている。また、回復装置105は装置からワンタッチで脱着可能な構成となっており、サービスマンあるいはユーザが所定のタイミングで交換できるようになっている。なお、以下の説明において、4つの記録ヘッドを特に区別する必要がない場合には、4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yをまとめて記録ヘッド102と記載する。また、吐出口面103K、103C、103M、103Yも同様に、これらをまとめて吐出口面103と記載する場合もある。
【0023】
回復ユニット105には、キャッピング機構104が備えられている。このキャッピング機構104は、回復処理を行う際に4つの記録ヘッド102K、102C、102M、102Yのインク吐出口面に形成された吐出口の周囲に密着して吐出口を外気から遮断することができるように構成されている。キャッピング機構104は各記録ヘッド102K、102C、102M、102Yに独立して設けられている。
【0024】
ロ−ル紙Pはロール紙供給ユニット106から供給され、記録装置100に組み込まれた搬送機構107によって矢印A方向に搬送される。搬送機構107は、ロ−ル紙Pを載置して搬送する搬送ベルト108と、この搬送ベルト108を巡回移動させる搬送モータ109と、搬送ベルト108に張力を与えるローラ110などから構成されている。
ロ−ル紙Pに画像を形成する際には、搬送中のロ−ル紙Pの記録開始位置がブラックの記録ヘッド102Kの下に到達した後に、記録データ(画像情報)に基づいて記録ヘッド102Kに配置された複数のノズルからブラックインクを選択的に吐出する。同様に記録ヘッド102C、記録ヘッド102M、記録ヘッド102Yが、順次、各色のインクを吐出してカラー画像をロ−ル紙Pに形成する。記録装置100には、上記の部品・部材の他、各記録ヘッド102に供給されるインクが貯留されたメインタンク111K、111C、111M、111Yや、記録ヘッドへのインクの供給および回復処理を行うための各種ポンプ(図4等参照)などが備えられている。
【0025】
次に図2(a),(b),(c)および図3(a),(b),(c)を参照して、本実施形態によって実施される一連の回復処理を詳細に説明する。
【0026】
図2(a)は、待機状態の記録ヘッド102と回復装置105との位置関係を示したものであり、キャップユニット201が記録ヘッド102の吐出口面103に密着し吐出口部が外気から遮断された状態にある。
【0027】
この状態にて、ホストPCより印刷開始の指示がくると、図2(b)に示すように、記録装置に設けられた不図示の制御手段がモータなどの駆動手段(図示せず)を駆動し、記録ヘッド102をC方向に移動させる。この後、制御手段は記録装置100に固定されているモータ204を駆動し、ギア群206を介して記録装置100に固定されているタイミングベルト203を移動させ、回復ユニット105を図2(c)に示すE方向へと移動させて行く。回復ユニット105が記録ヘッド102と対向しない所定の退避位置まで移動するとセンサ205からの検出信号に基づいて制御手段はモータ204の駆動を停止させる。回復ユニット105が退避位置に保持されると、制御手段は図外のモータを駆動して不図示のヘッド移動機構を移動させ、記録ヘッド102をD方向へと移動させ、不図示の記録媒体の近傍で停止させる。この後、記録ヘッド102による印刷動作が開始される。
【0028】
記録動作が終了すると、制御手段はヘッド移動機構を作動させ、記録ヘッド102をC方向に移動させた後、モータ204を駆動して回復ニット105をF方向に移動させる。これにより、記録ヘッド102と回復ユニット105は図2(c)に示すように所定の間隙を介して互いに対向する状態となる。その後、制御手段はヘッド移動機構を作動させ、記録ヘッド102をD方向へと移動させることにより、図2(a)に示すように回復ユニット105を記録ヘッド102の吐出口面に密着させる。
【0029】
次に、図3を参照して、記録ヘッド103の吐出口面に付着したインクを除去するために行うワイピング回復について説明する。
【0030】
ワイピング回復とは、画像不良の原因となる記録ヘッドの吐出口面に付着したインクや紙粉等の異物を除去する目的で行われるもので、弾性体のブレードを吐出口面に所定の進入量で押し当てながら移動させてインクや紙粉を払拭・除去する動作である。
【0031】
図3(a)の待機状態にて、ホストPC101よりワイプ回復の実施を指示する指令が入力されてくると制御手段は、次のような制御を行う。まず、制御手段は、不図示のヘッド移動機構を駆動し、記録ヘッド102を図3(b)に示すようにC方向に移動させ、ブレード301から離間させる。次に、制御手段は、モータ204を駆動して回復ユニット105をE方向に移動させることにより、回復ユニット105の端部に設けられているブレード301を記録ヘッド102の吐出口面と対向しない位置に保持する。次に制御手段は、記録ヘッド102の吐出口面に対してブレード301を所定の進入量をもって接触させ得る位置まで記録ヘッドをD方向へと移動させる。この後、制御手段は、モータ204を駆動させて回復ユニット105をF方向へと移動させる。この移動によって回復ユニット105に設けられているブレード301は、図3(c)に示すように、記録ヘッド102の吐出口面103に対して所定の進入量で接触しながら移動し、各記録ヘッド102の吐出口面103に付着したインクや異物を払拭して除去する。この払拭動作が終了すると、制御手段は、ヘッド移動機構を駆動して記録ヘッド102をさらにD方向へと移動させることにより、図3(a)に示すように吐出口面を回復ユニット105のキャップ部材201に密接させる。以上によりワイピング動作は終了する。なお、本実施形態では回復ユニット105の移動方向に沿って2枚のブレードを並設した構成となっているが、吐出口面に付着したインクや異物を十分に除去可能であれば、ブレードの枚数は特に限定されない。
【0032】
次に、本実施形態における回復装置を図4ないし図6を参照して詳細に説明する。
【0033】
図4は、前述の回復ユニット105と、回復ユニット105に連結された負圧発生装置(負圧供給手段)500とを備える回復装置の全体構成を示す模式図である。図4において、負圧発生装置500は、記録ヘッド102の回復処理を行う際に、記録ヘッドに付与する負圧を発生させるものである。この負圧発生装置500は、負圧発生手段401と、この負圧発生手段401に連結され負圧発生手段401の負圧を一時的に蓄積可能な圧力調整室403と、この圧力調整室403と回復ユニット105との間に連結された流路開閉手段404と、を備える。なお、これらの各部の間は可撓性を有するインクチューブ402によって連結されている。この負圧発生装置500では、圧力調整室403と回復ユニット105との連通を流路開閉手段404によって遮断した状態で圧力調整室403内に負圧を蓄積しておき、流路開閉手段404を開放することによって瞬時に回復ユニット105に付与する。なお、負圧発生手段401としては、比較的単純に構成でき、かつ待機時においても流路を遮断することが可能なチューブポンプ等が一般的に使用されるが、特にこれに限定されるものではなく、負圧が発生可能なものであれば他の構成を採ることも可能である。
【0034】
一方、回復ユニット105は、前述の負圧発生手段に連結される共通圧力室407が形成された単一のフレーム部材405を備える。さらに、回復ユニット105は、フレーム部材405に保持された4個の筒状の弾性ジョイント(連結部材)406K,406C,406M,406Yと、各弾性ジョイントに連結されたキャップ部材201K,201C,201M,201Yとを備える。なお、以下の説明において、4つの弾性ジョイントおよびキャップ部材を特に区別する必要がない場合には、4つの弾性ジョイントを406、キャップ部材を201と記載する。
【0035】
各キャップ部材201は、記録ヘッド102の吐出口面103に設けられた吐出口の周囲に密接・離間可能であり、密接時には吐出口面との間に外気から遮断された空間を形成可能な弾性体によって構成されており、その底部には流路201aが形成されている。
【0036】
また、キャップ部材201は、自身が変形可能な蛇腹形状の弾性ジョイント部材406に連結されており、その内部空間はキャップ部材201の流路201aと、単一の共通圧力室407の上面部407cに設けた4つの流路407bに連通している。従って、共通圧力室407と各キャップ部材201は、弾性ジョイント部材406を介して連通した状態にある。上記のように、弾性ジョイント部材406を蛇腹形状に構成したため、キャップ部材201が多少移動したとしても、キャップ部材201の流路201aとフレーム部材405の流路408aは常に連通した状態を維持することが可能である。また、共通圧力室407からキャップ部材に至る流路長は、全て均一な流路長となっている。なお、本実施形態では、前記流路201aと408aとを連結する弾性ジョイントを蛇腹形状とした。しかし、弾性ジョイントはこれに限定されるものではなく、キャップ部材201の移動に追従しつつ、フレーム部材405の流路407bとキャップ部材201の流路201aとの連結を維持し得るものであれば他の構成を有する部材を用いることも可能である。
【0037】
フレーム部材405に形成された共通圧力室407は、4個のキャップ部材201それぞれに設けられた流路201aの直下に形成されている。また、本実施形態のフレーム部材405に設けられる流路407aは、約3mmの径を有する流路となっており、これらの流路407aを介して弾性ジョイント406と共通圧力室407とが接続されている。また、共通圧力室407には外側ジョイント409(図6参照)が設けられており、この外側ジョイント409には、負圧供給手段500の流路開閉手段404に連結されたチューブ402が連結されている。
【0038】
従って、本実施形態における回復装置によれば、キャップ部材201を吐出口面に密接させることで、各ノズル内のインクの乾燥、増粘を抑えることが可能となる一方、負圧発生手段401で発生させた負圧を記録ヘッド102に付与することが可能になる。
【0039】
ここで、図5および図6を参照して回復ユニット105の構成をより詳細に説明する。
【0040】
図5は、フレーム部材405に、弾性ジョイント406を介してキャップユニット201が取り付けられた状態を示す長手方向断面図である。弾性ジョイント406の一端部は、固定部材501とフレーム部材405との間に挟持・固定されている。また、固定部材501とキャップユニット201との間には弾性部材502が弾装されている。本実施形態では、弾性部材502として圧縮ばねを用いている。この弾性部材502は、キャップユニット201を記録ヘッド102の吐出口面103に押し当てる際の押し当て力を付与し、キャップユニット201による記録ヘッド102への密閉力を付与する。また、弾性部材502は、弾性ジョイント406が圧縮された状態で長時間放置されて永久歪の影響で元の形状に戻りづらくなった場合に、弾性ジョイント406およびキャップ部材201を所定の位置へと復帰させるための補助としての役割を果たす。さらに弾性部材502は、記録ヘッド102の吐出口面103に押し当てられた際に生じる圧縮力(弾性力)によって固定部材501を押圧し、固定部材501によって弾性ジョイント406をより強力に保持して弾性ジョイントのずれを防止する役割も果たす。
【0041】
一方、共通圧力室407は、前述のようにキャップ部材201の直下に配置されており、フレーム部材405に突設された壁部405a(図6参照)と、その端面に固定される共通圧力室カバー503とからなる。そして、この共通圧力室407の内部には外気から遮断された密閉された空間が形成されている。なお、図6は、共通圧力室カバー503を外した状態となっており、共通圧力室407は、外側ジョイント409に連通する流路407aが形成されている。
【0042】
次に、負圧発生装置にて負圧を発生させ、記録ヘッドに対して負圧を付与してノズルからインクを強制的に吸引する吸引回復処理に関する一連の工程を説明する。
【0043】
図7は本実施形態における制御部で実施する吸引回復処理の一連の工程を示すフローチャートである。
【0044】
図7において、ホストPC101より記録装置100の制御手段に対して吸引回復処理の指令が入力されると、制御手段は以下の回復処理を開始する(S701)。まず、制御手段は流路開閉手段404を遮断させることよって圧力調整室403と共通圧力室407との連通を遮断する(S702)。次いで、制御手段は負圧発生手段401の動作を開始させる(S703)。制御手段は所定時間経過後(S704)、負圧発生手段401の動作を停止させ(S705)、流路開閉手段404を開放させる(S706)。これにより圧力調整室403内に蓄積された負圧は、瞬時にキャップユニット201を介して全ての記録ヘッド102に付与される。すなわち、記録ヘッド102に付与される負圧は、まず、共通圧力室407に到達し、その後、共通圧力室407から各記録ヘッド102に対応するキャップ部材201に達する。前述のように、共通圧力室407から各キャップ部材201に至る流路は、いずれも同一の流路長および断面積を有しており、同一の流路抵抗を有している。このため共通圧力室407から各流路を介して記録ヘッド102に付与される負圧の大きさや、その負圧が一定の値に到達するまでの時間にばらつきが生じることはない。従って、全ての記録ヘッドから同時に必要最低限のインクを排出させることで、全ての記録ヘッド102における回復処理を適正に行うことができる。この後、制御手段は負圧を付与してから所定時間が経過するまで待機し(S707)、記録ヘッド102を、キャップユニット201から離れる方向に移動させる。このことにより、キャップユニット201内は大気に開放される(S708)。次いで、制御手段は前述したワイピング回復処理を実行させる(S709)。このようにして、吸引回復処理は終了となる(S710)。
【0045】
以上、本実施形態の回復装置を用いることにより、負圧発生手段401で発生させた負圧を、各記録ヘッド102に対して同時に付与することができ、しかも、共通圧力室407内の圧力を瞬時に記録ヘッド102に付与することができる。また、キャップ部材201の直下に共通圧力室407を設けた構造となっているため、共通圧力室407からキャップ部材201に至る流路の長さを最小限に留めることができ、構造の単純化を図ることができると共に、流路抵抗の設定も容易になる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る回復装置の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態も上記第1の実施形態と同様に図1ないし図4に示す構成を有しているため、以下の説明では本実施形態の特徴的な部分のみを説明し、上記第1の実施形態との重複説明は省略する。
【0047】
この第2の実施形態は、上記第1の実施形態で説明した構成に加え、キャップ部材201により記録ヘッド102に付与されている負圧を瞬時に大気圧に戻す大気開放手段を備えた構成となっており、この点が上記第1の実施形態と相違する。
【0048】
以下、図8を参照してこの第2の実施形態の特徴的な部分である大気開放手段について説明する。図8に示すように、この第2の実施形態における大気開放手段は、大気開放弁801(切換手段)と、この大気開放弁801と連通する大気開放圧力室と、大気開放圧力室とキャップ部材201とを連結させる連結機構とを備える。
【0049】
大気開放弁801は、フレーム405の長手方向の一端部に設けられており、キャップユニット201直下に設けられた大気開放用共通圧力室802と、大気との連通、遮断を切換える切換手段としての機能を有する。大気開放用共通圧力室802は、フレーム部材405に作られた壁部405aと、大気開放用共通圧力室カバー803により構成されている。キャップユニット201とクリーニングフレーム405とを連結する連結機構は、前述した弾性ジョイント406、固定部材501、弾性部材502により構成されている。なお、その他の構成は上記第1の実施形態と同様である。
【0050】
次に、この第2の実施形態における吸引回復処理に関する一連の動作を図9のフローチャートおよび、図4および図8を参照しつつ説明する。
【0051】
図9において、ホストPC101より記録装置の制御手段に対して吸引回復処理の指令が入力されると制御手段は以下の回復処理を開始する(S901)。まず、制御手段は図4に示す流路開閉手段404を遮断させると共に(S902)、図9に示す大気開放弁801を遮断させる(S903)。次いで、制御手段は負圧発生手段401の動作を開始させる(S904)。制御手段は所定時間経過後(S905)、負圧発生手段401の動作を停止させ(S906)、流路開閉手段404を開放させる(S907)。これにより、圧力調整室403内に蓄積された負圧は、瞬時にキャップユニット201を介して全ての記録ヘッド102に付与される。このとき記録ヘッドに付与される負圧は、共通圧力室407に到達した後、同長の流路を介して各記録ヘッド102に付与されるため、各記録ヘッド102の負圧の大きさや、一定の負圧に達するまでの時間にばらつきは生じない。この後、制御手段は所定時間経過すると(S908)、大気開放弁801を開放させる(S909)。これにより、各記録ヘッド102に付与されている負圧を瞬時に大気圧に戻すことができる。なお、大気開放用共通圧力室802から各キャップ部材201に至る流路の長さおよび断面積は全て同一であり、各流路に生じている流抵抗は同一となっている。このため、大気開放手段801で大気開放した際に外気が全ての記録ヘッド102に同じタイミングで供給されることになる。その後、制御手段は前述したワイピング回復を実行させる(S910)。このようにして、吸引回復処理は終了となる(S911)。
【0052】
以上、この第2の実施形態における回復装置によれば、上記第1の実施形態と同様に、負圧発生手段で発生させた圧力を、複数のキャップ部材201に均一に付与することが可能となる。しかも、回復処理後には、第1の実施形態のように記録ヘッドを移動させることなく、弁を開くことによって瞬時に大気圧に戻すことが可能となる。このため、回復処理後の与圧によってインクが必要以上に排出されるのを回避することが可能となる。従って、第1の実施形態に比べさらに、インクの無駄な排出を削減することが可能になり、より効率的に回復処理を実施することができる。また、この第2の実施形態では、共通圧力室407と大気開放用共通圧力室802とを設け、両圧力室とキャップ部材201との間にそれぞれ弾性部材を配置し、2箇所でキャップ部材を支持する構成とした。このため、1箇所でキャップ部材201を支持する上記第1の実施形態に比べ、キャップ部材201を安定して支持することが可能になると共に、前述の弾性部材による効果も高まる。
【0053】
(他の実施形態)
上記第2実施形態では、共通圧力室の他に大気開放用共通圧力室を設け、この大気開放用共通圧力室に設けた大気開放弁を開くことによってキャップ部材201と記録ヘッド102との間に形成される空間内の圧力を瞬時に大気圧に戻す構成となっている。しかし、共通圧力室に大気開放弁(切換手段)を設け、その大気開放弁を開いて共通圧力室を大気に開放せることにより、キャップ部材201と記録ヘッドとの間に形成される空間を瞬時に大気圧に戻すようにすることも可能である。
【0054】
さらに、上記各実施形態では、ノズルからインクを吐出するためのエネルギを発生させるエネルギ発生素子として発熱素子を備えた記録ヘッドに対して回復処理を行う場合を例に採り説明した。しかし、本発明に係る回復装置は他のエネルギ発生素子(例えば圧電素子)を備えたインクジェット記録ヘッドにも適用可能であることは明らかである。
【0055】
また、本発明は、上記実施形態のようなフルライン型のインクジェット記録装置への適用に限らず、記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と交差する方向に移動させて記録を行ういわゆるシリアル型のインクジェット記録装置にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
100 インクジェット記録装置
102 記録ヘッド
103 吐出口面
105 回復ユニット
201 キャップ部材
301 ブレード
401 負圧発生手段
402 インクチューブ
403 圧力調整室
404 流路開閉手段
405 フレーム部材
406 弾性ジョイント
407 共通圧力室
501 固定部材
502 弾性部材
801 大気開放弁
802 大気開放用共通圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置に用いられる複数の記録ヘッドの各々のインク吐出口に負圧を付与することによって前記インク吐出口から強制的にインクを吸引して排出させる回復装置であって、
前記複数の記録ヘッドに対して密接・離間可能であり、密接時には前記インク吐出口をそれぞれ外気から遮断した状態で覆う複数のキャップ部材と、
前記インク吐出口に付与するための負圧を発生させるの負圧発生手段と、
前記複数のキャップ部材に連通すると共に前記負圧発生手段に連通する共通圧力室と、を備えることを特徴とするインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項2】
前記共通圧力室は、前記複数のキャップ部材を保持するフレーム部材に形成されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項3】
前記フレーム部材は、前記複数のキャップ部材のそれぞれに対応して設けられた複数の連結機構を介してキャップ部材を保持し、
前記共通圧力室は、前記複数の連結機構を介して前記キャップ部材に連通することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項4】
前記連結機構は、前記キャップ部材と前記共通圧力室とを連通させる流路を形成する変形可能な筒状の連結部材を備えることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項5】
前記連結部材は、蛇腹形状をなすことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項6】
前記連結機構は、前記キャップ部材を支持する弾性部材を備えることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項7】
前記連結部材は、前記弾性部材の弾性力によって押圧される固定部材と前記フレーム部材との間に挟持されていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項8】
前記共通圧力室と大気との連通、遮断を切換える手段を備えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項9】
前記複数のキャップ部材に連通する大気開放用共通圧力室と、
前記大気開放用共通圧力室と大気との連通、遮断を切換える手段を備えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項10】
前記共通圧力室と前記負圧発生手段との間に、前記負圧発生手段で発生させた負圧を蓄積可能な圧力調整室と、該圧力調整室と前記共通圧力室とを連通させる流路を開閉する流路開閉手段と、が設けられていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置の回復装置。
【請求項11】
複数の記録ヘッドのそれぞれに形成されたインク吐出口からインクを吐出させて記録媒体への記録を行うと共に、前記複数の記録ヘッドの各々のインク吐出口に負圧を付与することによって前記インク吐出口から強制的にインクを吸引して排出させる回復手段を備えたインクジェット記録装置であって、
前記回復手段は、
前記複数の記録ヘッドに対して密接、離間可能であり、密接時には前記インク吐出口をそれぞれ外気から遮断した状態で覆う複数のキャップ部材と、
前記インク吐出口に付与するための負圧を発生させる単一の負圧発生手段と、
前記複数のキャップ部材に連通すると共に前記負圧発生手段に連通する共通圧力室と、を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−35424(P2012−35424A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174796(P2010−174796)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】