説明

インクジェット記録装置及びその記録処理方法

【課題】装置内部を清浄に保つインクジェット記録装置及びその記録処理方法を提供する。
【解決手段】インク供給系と、インク回収系と、溶剤ガス循環系と、前記溶剤ガス循環系の溶剤ガス循環流路I1,30,40を通流する溶剤ガスの温度を検出する温度検出手段67と、記録処理が実行中であるか否かに応じて、溶剤ガス循環流路30,40を通流する溶剤ガスのうち、インク容器I1側の溶剤ガスの温度を調整する第1温度調整手段60と、記録処理が実行中であるか否かに応じて、溶剤ガス循環流路30,40を通流する溶剤ガスのうち、記録ヘッド400側の溶剤ガスの温度を調整する第2温度調整手段70と、温度検出手段67からの入力に対応して、第1温度調整手段60及び第2温度調整手段70を制御する制御手段5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して記録処理を行うインクジェット記録装置及びその記録処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録ヘッドからインクの微小液滴(インク粒子)を吐出して記録対象に付着させることにより、画像や文字などを前記記録対象に記録するものである。また、インクジェット記録装置は高速化が容易であり、稼動時の騒音が小さいなどの利点を有しており、近年、その需要が高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク容器と接続され、内部に冷媒が通流する冷却パイプが設置された溶剤分離器を備えたインクジェット記録装置について記載されている。特許文献1に記載の技術によれば、インク容器に入った溶剤ガス(溶剤を含む空気)が、前記溶剤分離器によって溶剤(液体)と清浄な空気に分離され、前記清浄な空気を印字ヘッド(記録ヘッド)に送る。したがって、塵埃などの不純物を含んだ空気が外部から印字ヘッド内に入り込まないため、印字ヘッド内を清浄に保つことができる。
【0004】
また、特許文献2には、インクタンク(インク容器)に吸引回収される溶剤ガスをガターに循環供給するインクジェット記録装置について記載されている。特許文献2に記載の技術によれば、溶剤ガスの全てをガターに循環供給することによって、インク中での溶剤が占める割合が減少することを防止し、溶剤を効率的に使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−125256号公報
【特許文献2】WO2008/117013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、印字ヘッド(記録ヘッド)の内壁面を清浄に保つことができるものの、例えば、ノズルから吐出されたインクを回収するインク回収流路内にインクの樹脂成分が付着して、インク詰まりを起こす可能性がある。つまり、インク回収流路を清浄に保つことができないという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術では、溶剤ガスをガターに供給する流路(溶剤ガス循環流路)中において溶剤ガスが冷却されて凝縮し、凝縮した溶剤がガターよりこぼれ出て記録ヘッド内を汚す可能性があるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、装置内部を清浄に保つインクジェット記録装置及びその記録処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係るインクジェット記録装置は、溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスの温度を検出する温度検出手段と、記録処理が実行中であるか否かに応じて、前記溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスのうち、インク容器側の溶剤ガスの温度を調整する第1温度調整手段と、記録処理が実行中であるか否かに応じて、前記溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスのうち、記録ヘッド側の溶剤ガスの温度を調整する第2温度調整手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る記録処理方法は、記録処理が実行中であるか否かに応じて、溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスのうち、インク容器側の溶剤ガスの温度、及び/又は、記録ヘッド側の溶剤ガスの温度を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、装置内部を清浄に保つインクジェット記録装置及びその記録処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置の外観斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の内部構成の説明図である。
【図3】制御装置と各回路との間の情報の入出力関係を説明するためのブロック図である。
【図4】インク容器及び当該インク容器に設置された温度調整手段の断面図である。
【図5】ガター及び当該ガターに接続される各配管の端面図である。
【図6】溶剤ガス循環流路に設置される温度調整手段の断面図である。
【図7】制御装置が各温度調整手段に加熱処理又は冷却処理をさせる際の動作の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置における、記録ヘッドの及び当該記録ヘッドに接続される各配管の端面図である。
【図9A】本発明の第3実施形態に係るインクジェット記録装置における、記録ヘッド側の温度制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図9B】本発明の第3実施形態に係るインクジェット記録装置における、インク容器側の温度制御処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
以下の説明において、「インク」とは、染料又は顔料、金属成分、添加剤などが溶剤(例えば、有機溶剤)中に含まれたものであり、記録対象(例えば、紙や金属など)に文字や画像を形成するものである。ちなみに、多くの場合、インクに含まれる前記染料又は顔料には、樹脂成分が含まれている。
また、「インク粒子」とは、記録ヘッド400内で後記する励振源(図示せず)によりインクが粒子状になったものを示す。
【0014】
なお、前記溶剤は揮発性を有するため、インクを貯留するインク容器内では、溶剤の大部分が液体の状態であるが、その一部は揮発してインク液面より上方の空気中に含まれている。
以下の記載において、「溶剤ガス」とは、揮発した前記溶剤と空気とが混合した気体を指すものとする。また、「溶剤ガス」として、インクの一部が霧状となったインクミストを含んでいることがあるものとする。
【0015】
≪第1実施形態≫
<インクジェット記録装置の構成>
図1は、インクジェット記録装置の外観斜視図である。図1に示すように、インクジェット記録装置1は、本体200と、ケーブル300と、記録ヘッド400と、を備える。
インクジェット記録装置1は、記録対象F(図2参照)に対して記録を行う際に用いられるものである。インクジェット記録装置1は、例えば、飲料缶の製造工程において、ベルトコンベア(図示せず)で次々と運ばれてくる飲料缶に、製造年月日や識別記号などを印字する際に用いられる。
なお、インクジェット記録装置1の用途は前記したものに限定されず、さまざまな用途がある。また、インクジェット記録装置1の外観や内部構成は、図1、図2などに記載したものに限定されない(変形例については、後記する)。
【0016】
本体200の上部には、後記する制御装置5(図3参照)を含む電気系部品が内蔵されている。また、本体200には、ユーザが記録内容や仕様などを入力したり、運転状況を表示させたりすることが可能なタッチパネル式の液晶パネル201が設置されている。ちなみに、液晶パネル201の表示制御や入出力制御は、前記した制御装置5によってなされる。
【0017】
一方、本体200の下部には、インク容器I1(図2参照)が収容されている。また、インクの補給・廃棄などのメンテナンスを行う際には、図1に示す扉202を開くことでインク容器I1を本体200から引き出せるようになっている。その他、本体200の下部には、各弁12,32,51(図2参照)、各ポンプ11,33(図2参照)、各センサ(温度センサ、圧力センサ、流量センサなど)が設置されている。
なお、本体200に設置される温度センサには、本体200内の温度Tを検出するための温度センサ(図示せず)と、本体200の周囲温度Tを検出するための温度センサ(図示せず)とが含まれる。
【0018】
ケーブル300は、本体200と記録ヘッド400とを接続するものであり、内部には、後記する各流路10,30,40(図2参照)を構成する3本のチューブが通っている。ちなみに、ケーブル300の長さは、例えば、約2〜6mである。
【0019】
記録ヘッド400は、後記するインク供給流路10を通流してきたインクを記録対象F(図2参照)に対して吐出するものである。記録ヘッド400の内部には、前記したインク粒子を形成するノズル15(図2参照)や、インク粒子を帯電・偏向するための電極類が納められている。また、図1に示すように、記録ヘッド400の先端には、記録に使用されるインク粒子Q(図2参照)を通過させるための開口部401が形成されている。
なお、記録ヘッド400には、当該記録ヘッド400内の温度Tを検出するための温度センサ(図示せず)が設置されている。
【0020】
図2は、インクジェット記録装置の内部構成の説明図である。インクジェット記録装置1内でのインク及び溶剤ガスの流れの概略は、次のようになる。
まず、図2に示すインク容器I1から、インク供給流路10内をインクが矢印で示す向きに通流する(インク供給過程)。そして、前記インクは励振源(図示せず)によってインク粒子となり、電極類により帯電偏向されて移動方向が変えられる(帯電偏向過程)。ちなみに、記録に使用されないインク粒子Qはガター31に回収されて、インク回収流路30内を矢印で示す向きに通流し、インク容器I1に戻される(インク回収過程)。
【0021】
また、インク容器I1中の溶剤ガスは、溶剤ガス循環流路40内を矢印で示す向きに通流し、ガター31で回収された後、さらにインク回収流路30を矢印で示す向きに通流し、インク容器I1内に戻される(溶剤ガス循環過程)。
つまり、図2の符号30で示す流路は、インク回収流路として機能するととともに、溶剤ガス循環流路としても機能する。
【0022】
(1.インク供給系)
インク供給系は、図2に示すインク容器I1と、供給ポンプ11と、供給弁12と、フィルタ13と、調圧弁14と、圧力センサP1と、ノズル15と、前記各機器が設置されるとともに配管内をインクが通流するインク供給流路10と、制御装置5(図3参照)と、を含んでいる。
インク容器I1には所定の高さまでインクが貯留され、インク供給流路10のインク容器I1側の開口端は、インク容器I1のインク液面Iより下に位置するように設置されている。
供給ポンプ11は、制御装置5からの指令に従って駆動し、負圧を発生させることによってインク容器I1に貯留されているインクを吸引し、インク供給流路10内を矢印に示す向きに圧送する。供給弁12は、制御装置5からの指令に従って駆動し、インク供給流路10の開閉を行う。ちなみに、供給弁12として、例えば二方型電磁弁が用いられる。
【0023】
フィルタ13は、インク供給流路10内を通流してくるインクに混入している異物を捕らえるものである。調圧弁14は、制御装置5からの指令に従って駆動し、インク供給流路10内を通流するインクの圧力を調整する。圧力センサP1は、調圧弁14を介して供給されてくるインクの圧力を検出し、制御装置5に出力する。ノズル15は、インク供給流路10を通流してきたインクを、所定方向(一定の方向)に液柱状で吐出する。
このように、インク供給系では、インク容器I1に貯留されたインクをインク供給流路10内でノズル15に向けて圧送するようになっている。
【0024】
(2.帯電偏向系)
帯電偏向系は、励振源(図示せず)と、帯電電極21と、グランド電極22と、高圧電極23と、ベースプレート24と、位相センサ25と、制御装置5(図3参照)と、を含んでいる。
励振源は、例えば電歪素子(ピエゾ素子)で構成され、ノズル15内に設置されている。また、励振源は、制御装置5から印加される電圧に応じて所定の振動を起こし、当該振動をインクに与える。そうすると、ノズル15から吐出された液柱状のインク(インク柱)は、励振源から与えられた振動によって、一定の大きさのインク粒子として前記振動に同期して分断される。帯電電極21は、前記インク柱からインク粒子が分断される時に、インク粒子に所定の電圧(記録信号)を印加することで帯電させる。ちなみに、インク粒子の帯電量は、タッチパネル式の液晶パネル201(図1参照)を介してユーザにより入力された記録データに基づいて、制御装置5により決定される。
【0025】
高圧電極23には、制御装置5からの指令に従って所定電圧(例えば、5〜6kV)が印加され、グランド電極22との間に偏向電界を生じさせる。そして、インク粒子は、当該偏向電界を通過する際に、その帯電量に応じて偏向される。すなわち、帯電量が比較的大きいインク粒子Qは、記録ヘッド400の開口部401を通り抜け、記録対象Fに向けて移動する。一方、帯電量が非常に小さいインク粒子Qは、ガター31にあるインク回収流路30の開口部30b(図5参照)に取り込まれる。
ベースプレート24は、記録ヘッド400内にあり、ノズル15と、帯電電極21と、グランド電極22,高圧電極23と、ガター31と、温度調整手段70と、を固定するための部材である。
【0026】
位相センサ25は、インク回収流路30中の所定位置に設置され、ガター31により回収されたインク粒子の帯電量を検出して制御装置5に出力する。これは、前記した記録データに基づく記録信号を、適切なタイミングで帯電電極21に入力するためである。
このようにして、帯電偏向系では、ユーザにより入力された記録データに基づいて、制御装置5からの指令に従ってインク粒子を所定方向に偏向させるとともに、記録対象Fへの記録に使用されなかったインク粒子Qをガター31で回収するようになっている。
【0027】
(3.インク回収系)
インク回収系は、図2に示すガター31と、回収弁32と、回収ポンプ33と、フィルタ34と、インク容器I1と、前記各機器が設置されるとともに配管内をインクなどが通流するインク回収流路30と、制御装置5(図3参照)と、を含んでいる。
ガター31は、開口部30b(図5参照)を有し、当該開口部30bから、記録に使用されなかったインク粒子Qを取り込む。ここで、ガター31に設置されているインク回収流路30の開口部30b(図5参照)付近では、後記する回収ポンプ33による負圧が生じている。したがって、インク回収流路30には、記録に使用されなかったインク粒子Qとともに、ガター31周辺にある溶剤を含む空気(溶剤ガス)も同時に取り込まれることとなる。
ちなみに、ノズル15から吐出されたインクは空気に触れることによってインク中の溶剤の一部が揮発するため、記録ヘッド400内部には溶剤ガスが充満している。
【0028】
回収弁32は、例えば二方型電磁弁であり、制御装置5からの指令に従って駆動することによってインク回収流路30の開閉を行う。回収ポンプ33は、制御装置5からの指令に従って駆動し、負圧を発生させることによってガター31の開口部30b(図5参照)からインク粒子Q及び溶剤ガスを吸引し、インク回収流路30内において矢印で示す向きに圧送する。なお、回収ポンプ33として、例えば、エア流量150〜200mL/minの吸引能力を持つ、ダイヤフラムポンプが用いられる。フィルタ34は、インク回収流路30内を通流してくるインクなどに混入している異物を捕らえるものである。
【0029】
なお、図2に示すように、インク回収流路30の配管のうちインク容器I1側の開口端は、インク容器I1のインク液面Iよりも上方に位置するように設置されている。インク回収流路30において、本体200と記録ヘッド400とを接続する接続チューブとして、例えば、内径2mm、長さ2〜6mのテフロン(登録商標)チューブが用いられる。
このように、インク回収系では、インク回収流路30の開口部30b(図5参照)付近で負圧を発生させることにより、記録に使用されなかったインク粒子Q及び溶剤ガスを取り込んでインク容器I1に戻すようになっている。
【0030】
(4.溶剤ガス循環系)
溶剤ガス循環系は、図2に示すインク容器I1と、溶剤ガス循環流路40と、ガター31と、インク回収流路(溶剤ガス循環流路)30と、前記で説明した各機器32,33,34と、温度調整手段60,70と、制御装置5(図3参照)と、を含んでいる。
前記したように、インク容器I1内の空気には、インク中の溶剤(液体)の一部が揮発して、溶剤が飽和状態で含まれている。また、インク容器I1は、インク供給流路10と、インク回収流路30と、溶剤ガス循環流路40と、圧抜き流路50と、のそれぞれの配管が貫通している他は、密封状態となっている(図4参照)。
【0031】
インク液面Iより上方に開口端が配置されている3つの流路30,40,50(図4参照)のうち、インク回収流路30からはポンプ33(図2参照)によってインク及び溶剤ガスが圧送されてくる。したがって、圧抜き弁51が閉状態で圧抜き流路50が遮断されている場合には、インク容器I1内に溶剤ガスが流入することによって、インク容器I1の内圧が上昇する。そうすると、前記内圧の上昇によって、溶剤ガス循環流路40のインク容器I1内の開口部に溶剤ガスが押し出され、溶剤ガス循環流路40内を通流することとなる。
【0032】
なお、溶剤ガス循環流路40として、内径は1〜2mmのテフロン(登録商標)チューブを用いることが好ましい。チューブの内径が3mmを超えて大きくなるとチューブ内に液体が溜まって詰まりの原因となりやすく、チューブ内径が0.5mm未満となると流路抵抗が大きくなり、溶剤ガスを通流させるために大きな圧力が必要となるからである。
【0033】
溶剤ガス循環流路40内に流入した溶剤ガスは、図2の矢印で示す向きに通流し、ガター31の開口部40b(図5参照)から記録ヘッド400内の空間に放出される。ここで、溶剤ガス循環流路40の開口部40bと、インク回収流路(溶剤ガス循環流路)30の開口部30bとが近接している(図5参照)。したがって、開口部40bから出た溶剤ガスの大部分は、回収ポンプ33(図2参照)によって開口部30b付近に生じている負圧で、インク回収流路30内に流入することとなる。そして、インク回収流路30内に流入した溶剤ガスは、回収されたインクとともにインク容器I1に向けて圧送される。
このように溶剤ガスを循環させることによって、揮発性の溶剤を無駄なく使用することができ、インクの質が劣化することを防止することができる。
【0034】
また、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40の所定位置には、当該位置における溶剤ガス温度Tを検出するための温度センサ(図示せず)が設置されている。
さらに、図2に示すように、インク容器I1には温度調整手段60が設置されており、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40には、温度調整手段70が設置されている。温度調整手段60は、加熱又は冷却を行うことよって、溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスのうち、インク容器I1側の溶剤ガスの温度を調整することができるようになっている。同様に、温度調整手段70は、加熱又は冷却を行うことよって、溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスのうち、記録ヘッド400側の溶剤ガスの温度を調整することができるようになっている。
なお、温度調整手段60,70の詳細については、後記する。
【0035】
(5.圧抜き流路)
図2に示すように、圧抜き流路50は外部空間と連通している。また、インクジェット記録装置1が異常なく運転している場合には、圧抜き流路50に設置された圧抜き弁51は閉状態となっている。
前記したように、インク容器I1内には、インク回収流路(溶剤ガス循環流路)30から溶剤ガスが流入し、それによって溶剤ガス循環流路40に溶剤ガスが流入するサイクルができている。したがって、インク容器I1の内圧は時間的にほぼ一定に保たれている。
【0036】
しかし、何らかの異常事態が生じてインク容器I1の内圧が上昇し、インク容器I1内に設置された圧力センサ(図示せず)によって計測される圧力が所定値以上となった場合には、制御装置5が圧抜き弁51を一時的に開状態に切り替える。これによって、インク容器I1内の圧力が異常に上昇し、インク容器I1が破損する事態を回避することができるようになっている。
【0037】
次に、制御装置5と各回路との間の情報の入出力関係について説明する。
図3に示すように、制御装置5は、CPU501と、RAM502と、ROM503と、バスライン504と、インタフェース505と、各回路506〜513と、を備えている。
CPU(Central Processing Unit)501は、インクジェット記録装置1の制御を司る中央演算処理装置である。RAM(Random Access Memory)502は、プログラム実行途上でCPU501が扱うデータなどを一時的に記憶する書き換え可能なメモリである。ROM(Read Only Memory)503は、CPU501が動作するのに必要なプログラムや制御データを記憶する読み出し専用のメモリである。
バスライン504は、CPU501との間で各種信号を伝達するための信号ラインである。インタフェース505は、各種信号の入出力を仲介する。
【0038】
ポンプ制御回路506は、CPU501からの指令に従って供給ポンプ11、回収ポンプ33の動作制御を行う。電磁弁制御回路507は、CPU501からの指令に従って、供給弁12、回収弁32、圧抜き弁51(図2参照)などの電磁弁の動作制御を行う。圧力検出回路508は、インク供給流路10に設置された圧力センサP1(図2参照)やインク容器I1内に設置された圧力センサ(図示せず)などから入力される信号に基づいて各圧力を算出し、CPU501に出力する。
励振源回路509は、ノズル15(図2参照)の動作条件に基づいた励振信号を生成し、ノズル15に設置された励振源(図示せず)を駆動させる。位相検出回路510は、ガター31で回収したインク粒子の帯電量を検出する位相センサ25(図2参照)から信号を受け、記録信号の印加タイミングを決定する。
【0039】
記録信号源回路511は、入力された記録データに基づいて各インク粒子の記録信号などを作成してRAM502に保存し、CPU501からの指令に基づいて帯電電極21に前記記録信号を出力する。
温度検出回路512は、インクジェット記録装置1の内部や外部に設置された複数の温度センサから入力される信号に基づいて温度や温度差を算出し、CPU501に出力する。本実施形態では、温度センサとしてサーミスタを使用し、本体200内のエア温度T、記録ヘッド400内のエア温度T、インク容器I1内の溶剤ガス温度T、本体200の周囲温度T、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40における溶剤ガス温度Tを測定する。温度制御回路513は、本体200と記録ヘッド400それぞれに設置された温度調整手段60,70の動作を制御する。
なお、前記各温度をする温度センサのうち、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tを検出する温度センサ67(図4参照)以外の各温度センサについては、図示を省略した。
【0040】
図4は、インク容器及び当該インク容器に設置された温度調整手段の断面図である。
図4に示すように、インク供給流路10と、インク回収流路(溶剤ガス循環流路)30と、溶剤ガス循環流路40と、圧抜き流路50の各配管が、インク容器I1の上部を貫通し、各配管の一端がインク容器I1内において開口している。
また、温度調整手段60は、ペルチェ素子61と、放熱フィン62と、ファン63と、伝熱材64と、断熱材65と、を備える。ペルチェ素子61は、前記した温度制御回路513から入力される電圧に応じて温度が変化する素子である。ちなみに、ペルチェ素子61は、入力電圧の極性を切り替えることによって、伝熱材64を冷却するクーラ、又は、伝熱材64を加熱するヒータとして機能する。
【0041】
放熱フィン62は、ペルチェ素子61に設置された金属製(例えば、ステンレスやアルミニウムなど)の部材であり、ペルチェ素子61から発せられる熱を放散させるものである。ファン63はカバー66によって保護されており、放熱フィン62に空気を送ることで冷却能力を増大させるものである。断熱材65は、ペルチェ素子61及び伝熱材64を覆うように設置され、ペルチェ素子61の側面から熱が外部に漏洩することを防止する。
伝熱材64はペルチェ素子61に密着して設置されている。伝熱板64aは伝熱材64と一体形成され、インク容器I1の側面を貫通して、インク液面Iと略平行となるように設置されている。
【0042】
なお、伝熱板64aは、その端部(図4では、左側の端部)がインク供給流路10及びインク回収流路30の配管に接触しないように設置されている。また、伝熱板64aは、インク容器I1の天井側から所定距離だけ離れるように設置され、その上方に溶剤ガス循環流路40及び圧抜き流路50の開口端が配置されている。ちなみに、伝熱板64aの両側面(図4において、紙面手前側及び奥側)は、伝熱板64aからインク容器I1に熱が伝導しないようにするために、インク容器I1の側面から所定距離だけ離れるように設置されている。
【0043】
このように伝熱板64aを設置することによって、インク回収流路30から流入し、溶剤ガス循環流路40に流出する溶剤ガスとの接触面積を確保し、溶剤ガスを効率よく加熱又は冷却することができる。また、伝熱板64aを設置することによって、インク回収流路30の出口やインク液面Iから発生する霧状のインクミストが、溶剤ガス循環流路40及び圧抜き流路50に流入することを防ぐことができる。
【0044】
なお、伝熱材64とペルチェ素子61との間には温度センサ(図示せず)が設置されており、前記位置での温度を測定して、温度検出回路512(図3参照)に出力するようになっている。また、伝熱板64aより上方には温度センサ67が設置されている。温度センサ67はインク容器I1内での溶剤ガスの温度Tを検出し、前記した温度検出回路512に出力する。
このようにして、インク容器I1内の溶剤ガスは、伝熱板64aによって加熱又は冷却され、溶剤ガス循環流路40に流入することになる。
【0045】
図5は、ガター及び当該ガターに接続される各配管の端面図である。
図5に示すように、ガター31は、ガターベース31aと、ガターブロック31bとを備え、両者が剛に接続(例えば、溶接やボルト締めなど)されている。また、ガター31の内部には、インク回収流路30の一部を形成するL字状のパイプ30aが設置され、ガター31内で密着固定されている。
なお、パイプ30aの一端(開口部)30bは、ガターブロック31bの側面(図5では左側の側面)から所定長(例えば、0.5〜2mm)だけ突き出ていることが好ましい。これは、記録に使用されるインク粒子Qのうち、偏向量が小さくガター31近くを移動するものが、ガターブロック31bに衝突することを回避するためである。ちなみに、パイプ30aとして、例えば、内径0.8mmのステンレスパイプが使用される。
【0046】
また、パイプ30aにより形成されるインク回収流路30と、ガターベース31a内部で略水平方向に形成されたインク回収流路30とは連通しており、パイプ30aの他端には、インクなどの漏洩を防止するためのOリング30A,30Bが設置されている。
また、ガター31内部に形成されたインク回収流路30の出口付近には、前記した位相センサ25が接続され、当該位相センサ25を介して配管30cが接続されている。
そして、回収ポンプ33(図2参照)の負圧によってガター31に取り込まれたインク粒子Qは、パイプ30a、位相センサ25、配管30cの順に通流し、最終的にインク容器I1(図4参照)内に回収される。
【0047】
また、図5に示すように、溶剤ガス循環流路40の一部を形成する配管40aはガターベース31aに接続され、ガター31内でコの字状に形成された流路と連通している。ちなみに、ガター31内のコの字状の溶剤ガス循環流路40のうち、ガターベース31aとガターブロック31bとの境界部分には、溶剤ガスなどの漏洩を防止するためのOリング40A,40Bが設置されている。
インク容器I1(図4参照)から溶剤ガス循環流路40に流入した溶剤ガスは、配管40a内を通流し、図5に示す開口部40bからガター31の外部に放出される。
【0048】
ここで、図5に示すように、パイプ30aの開口部30bと、溶剤ガス循環流路40の開口部40bとは近接している。したがって、図5の矢印で示すように、開口部40bから放出された溶剤ガスの大部分は、回収ポンプ33の負圧によってパイプ30aの開口部30bから取り込まれ、インク回収流路(溶剤ガス循環流路)30を通流する。そして、前記溶剤ガスはインク容器I1(図4参照)内に回収される。
ちなみに、前記したように、インク容器I1内に回収された溶剤ガスの圧力によって、インク容器I1内の溶剤ガスが溶剤ガス循環流路40に流入する(図4参照)。
【0049】
図6は、溶剤ガス循環流路に設置される温度調整手段の断面図である。温度調整手段70は、ペルチェ素子71と、放熱フィン72と、伝熱材73と、断熱材74と、を備える。ペルチェ素子71は、入力電圧の極性を切り替えることによって、伝熱材73を冷却するクーラ、又は、伝熱材73を加熱するヒータとして機能する。また、溶剤ガス循環流路40は、当該流路内を通流する溶剤ガスが加熱又は冷却されるように、断熱材74及び伝熱材73を貫通するように配置されている。
【0050】
また、ペルチェ素子71と伝熱材73との間には温度センサ(図示せず)が設置されており、前記位置での温度を測定して、温度検出回路512(図3参照)に出力する。
温度調整手段70の構成は、前記した温度調整手段60(図4参照)の構成と同様であるから、詳細な説明を省略する。
なお、温度調整手段60(図4参照)の場合と同様に、温度調整手段70においても、放熱フィン72を冷却するファンを設けてもよい。
【0051】
<温度制御処理>
図7は、制御装置が各温度調整手段に加熱処理又は冷却処理をさせる際の動作の流れを示すフローチャートである。
ステップS101で、制御装置5は、インクジェット記録装置1が記録処理を実行中であるか否かを判断する。ここで「記録処理を実行中である」とは、ノズル15(図2参照)からインクを吐出している状態であることを示す。
記録処理を実行中である場合には(S101→Yes)、制御装置5の処理はステップS102に進む。記録処理を実行中でない場合には(S101→No)、制御装置5の処理はステップS106に進む。ステップS102で、制御装置5は、温度Tが温度T以上であるか否かを判断する。前記したように、温度Tはインク容器I1内の溶剤ガス温度であり、温度Tは記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガス温度である。
【0052】
ステップS102において、T≧Tである場合(S102→Yes)、制御装置5の処理はステップS103に進む。ステップS102において、T<Tである場合(S102→No)、制御装置5の処理はステップS104に進む。ステップS103で、制御装置5は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40に設置された温度調整手段70によって溶剤ガスを加熱する、及び/又は、インク容器I1に設置された温度調整手段60によって溶剤ガスを冷却する。
なお、ステップS103における3通りの処理(記録ヘッド400側のみ加熱/インク容器I1側のみ冷却/記録ヘッド400側を加熱し、かつ、インク容器I1側を冷却)のうち、どの処理を採用するかは、制御装置5において予め設定されている。前記設定においては、本体200内のエア温度T、記録ヘッド400内のエア温度T、本体200の周囲温度Tなども設定条件の要素として加えることが好ましい。
【0053】
また、前記加熱又は冷却をどの程度行うかは、インクの性質などに基づいて予め設定されている。ただし、前記加熱については、インク容器I1内の溶剤ガス中の溶剤の露点を超える所定温度まで、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスを加熱することとする。ちなみに、当該露点は、事前の実験やシミュレーションにより、予め制御装置5の図示しない記憶部に記憶されている。これによって、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40内の溶剤が蒸発するため、溶剤の結露を防止することができる。
【0054】
ステップS104で、制御装置5は、インクジェット記録装置1の電源スイッチがOFFとされているか否かを判断する。ステップS104で電源スイッチがOFFでない場合(つまり、記録処理が継続されている場合)、制御装置5の処理は、ステップS105に進む。ステップS105で制御装置5は、前記ステップS102で各温度T,Tを計測した時刻から所定時間tが経過したか否かを判断する。
ステップS105で、所定時間tが経過した場合(S105→Yes)、制御装置5の処理はステップS102に戻る。一方、ステップS105で、所定時間tが経過していない場合(S105→No)、制御装置5はステップS105の処理を繰り返す。
【0055】
つまり、ステップS101〜S105の処理は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40内を通流する溶剤ガス温度Tが、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tよりも高くなるようにすることを目的としている。
【0056】
一方、ステップS101で、記録処理が停止中であった場合(ステップS101→No)、制御装置5は、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tが、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガス温度T以下である否かを判断する(ステップS106)。ちなみに、記録処理が停止中の場合には、図2に示す供給ポンプ11は停止しているが、回収ポンプ33は稼動している。
ステップS106において、T≦Tである場合(S106→Yes)、制御装置5の処理はステップS107に進む。ステップS106において、T>Tである場合(S106→No)、制御装置5の処理はステップS108に進む。ステップS107で、制御装置5は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40に設置された温度調整手段70によって溶剤ガスを冷却する、及び/又は、インク容器I1に設置された温度調整手段60によって溶剤ガスを加熱する。
なお、前記冷却については、インク容器I1内の溶剤ガス中の溶剤の露点より低い温度まで、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスを冷却する。これは、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40において、溶剤を凝縮(結露)させるためである。ステップS108,S109の処理は、前記したステップS104,105の処理と同様であるから、説明を省略する。
【0057】
つまり、ステップS101,S106〜S109の処理は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40内を通流する溶剤ガスの温度Tが、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tよりも低くなるようにすることを目的としている。
【0058】
<効果>
本実施形態に係るインクジェット記録装置1では、記録処理の実行中である場合(つまり、ノズル15からインクが吐出されている場合)には、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40内を通流する溶剤ガスの温度Tが、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tよりも高くなるようにする。
これによって、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40における溶剤ガスの結露を防止することができる。なぜなら、温度が高いほうが溶剤ガスの飽和蒸気圧が高くなり、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤が蒸発するからである。また、インク容器I1に設置された温度調整手段60によって溶剤ガスを冷却した場合にはインク容器I1中の飽和蒸気圧が低くなり、溶剤ガス中の溶剤量が低減するため、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40内で溶剤が結露することを防止することができる。
【0059】
したがって、記録ヘッド400内において結露した溶剤が開口部40b(図5参照)から流れ出すことがないため、記録ヘッド400内を清浄に保つことができる。
ちなみに、相対的に温度が低いインク容器I1内において溶剤が結露する可能性はある。この場合、結露した溶剤はインク容器I1内に貯留されているインクに混じることとなる。
【0060】
一方、記録処理の停止中である場合(つまり、ノズル15からインクが吐出されていない場合)には、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスの温度Tが、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tよりも低くなるようにする。
そして、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスの温度が露点を下回ると、溶剤が結露することとなる。
【0061】
溶剤ガス循環流路40内には、前記した樹脂性のインクミストが付着している場合がある。仮に、インクミストが付着し続けると、溶剤ガス循環流路40が詰まる虞がある。ここで、結露した前記溶剤(液体)が前記インクミストを溶かし、ゴミなどの異物を洗浄しながら、回収ポンプ33による圧力によって溶剤ガス循環流路40を通流する。したがって、溶剤ガス循環流路40を洗浄することができ、溶剤ガス循環流路40を清浄な状態に保つことができる。
【0062】
また、温度調整手段60,70としてペルチェ素子61,71を用いることで、印加電圧の極性を切り替えることによって1つの素子を加熱手段及び冷却手段として機能させることができる。したがって、温度調整手段60,70が占める空間を小さくすることができ、インクジェット記録装置1をコンパクトかつ低コストで製造することができる。
【0063】
≪第2実施形態≫
第1実施形態では、溶剤ガス循環流路40の出口側の開口部40b(図5参照)が、ガター31の側面に形成されていた。これに対して第2実施形態では、溶剤ガス循環流路40の出口側の開口部40eが、ガター31内のインク回収流路30と連通している点が異なっている。
その他の点では、第1実施形態の場合と同様であるから、第1実施形態と異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0064】
図8は、第2実施形態に係るインクジェット記録装置における、記録ヘッドの及び当該記録ヘッドに接続される各配管の端面図である。
前記したように、溶剤ガス循環流路40の出口側の開口部40eが、流路40dを介して、ガター31内のインク回収流路30と連通している。この場合、溶剤ガス循環流路40を通流してきた溶剤ガスは開口部40eに導かれ、さらに、回収ポンプ33(図2参照)の負圧によって吸引されて、記録に使用されなかったインク粒子Qとともにインク回収流路(溶剤ガス循環流路)30を通流していく。
さらに、溶剤ガスはインク回収流路30を通流してインク容器I1内に流入する(図4参照)。そして、インク容器I1に流入した溶剤ガスによってインク容器I1の内圧が上昇するため、インク容器I1内において溶剤ガス循環流路40に溶剤ガスが流出することとなる(図4参照)。
【0065】
つまり、第1実施形態では、溶剤ガス循環流路40の開口部40b(図5参照)から放出された溶剤ガスの大部分が、開口部40bに近接しているパイプ30aの開口部30bから流入し、溶剤ガスの一部は記録ヘッド400内に放出される構成となっていた。
これに対して、本実施形態では、溶剤ガスが、溶剤ガス循環流路40・インク容器I1・インク回収流路(溶剤ガス循環流路)30内で完全に循環し、記録ヘッド400内に放出されることがない。
ちなみに、制御装置5が各温度調整手段60,70に加熱処理又は冷却処理をさせる際の動作の流れは、第1実施形態の場合と同様である。
【0066】
<効果>
本実施形態に係るインクジェット記録装置1Aによれば、溶剤ガスが、溶剤ガス循環流路40・インク容器I1・インク回収流路(溶剤ガス循環流路)30内で完全に循環する。
したがって、記録処理の停止中において、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40内を通流する溶剤ガスの温度Tが、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tよりも低くなるようにした場合(図7のステップS101,S106〜S109参照)、次のような現象が起こる。すなわち、溶剤ガス循環流路40内で結露した溶剤は全て、回収ポンプ33(図2参照)の負圧によって、開口部40e(図8参照)を介してインク回収流路(溶剤ガス循環流路)30内に流入する。
【0067】
したがって、結露した溶剤が、溶剤ガス循環流路40だけでなく、インク回収流路30にも通流することとなる。つまり、溶剤ガス循環流路40内に付着したインクミストや、インク回収流路30内に残留しているインクを、液体の状態である溶剤が溶かすことによって、溶剤ガス循環流路40及びインク回収流路30内を洗浄することができる。これによって、溶剤ガス循環流路40及び記録ヘッド400の内部をより清浄な状態に保つことができる。
【0068】
≪第3実施形態≫
第1実施形態と比較すると、本実施形態は、制御装置5が各温度調整手段60,70に加熱処理又は冷却処理をさせる際の動作の流れが異なる。その他については、第1実施形態と同様であるから、第1実施形態と異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0069】
(1.記録ヘッドの温度制御処理)
図9Aは、記録ヘッド側の溶剤ガスの温度制御処理を示すフローチャートである。
ステップS201で、制御装置5は、インクジェット記録装置1Bが記録処理を実行中であるか否かを判断する。記録処理を実行中である場合には(S201→Yes)、制御装置5の処理はステップS202に進む。記録処理を実行中でない場合には(S201→No)、制御装置5の処理はステップS206に進む。
ステップS202で、制御装置5は、温度差ΔTが温度差ΔTa以下である否かを判断する。ここで、温度差ΔTは、以下の(式1)で表される。なお、前記したように、Tは本体200の周囲温度であり、Tは記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスの温度である。また、ΔTaは予め設定された温度差であり、例えば、ΔTa=1Kである。
ΔT=T−T ・・・(式1)
【0070】
ステップS202において、ΔT≦ΔTaである場合(S202→Yes)、制御装置5の処理はステップS203に進む。ステップS202において、ΔT>ΔTaである場合(S202→No)、制御装置5の処理はステップS204に進む。ステップS203で、制御装置5は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40に設置された温度調整手段70によって溶剤ガスを加熱する。
なお、ステップS204,S205の処理は、前記したステップS104,S105の処理(図7参照)と同様であるから、説明を省略する。
【0071】
一方、ステップS201で、記録処理が停止中であった場合(ステップS201→No)、制御装置5は、温度差ΔTが温度差ΔTb以下である否かである否かを判断する(ステップS206)。ちなみに、記録処理が停止中の場合には、図2に示す供給ポンプ11は停止しているが、回収ポンプ33は稼動している。また、ΔTbは予め設定された温度差であり、例えば、ΔTb=1Kである。
【0072】
ステップS206において、ΔT≧ΔTbである場合(S206→Yes)、制御装置5の処理はステップS207に進む。ステップS206において、ΔT<ΔTbである場合(S206→No)、制御装置5の処理はステップS208に進む。ステップS207で、制御装置5は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40に設置された温度調整手段70によって溶剤ガスを冷却する。
なお、ステップS208,S209の処理は、前記したステップS108,S109の処理(図7参照)と同様であるから、説明を省略する。
【0073】
つまり、前記処理において制御装置5は、記録処理が実行中である場合には、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガス温度Tが、△Ta+Tよりも高くなるように制御する。
また、記録処理が停止中である場合には、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガス温度Tが、△Tb+Tよりも低くなるように制御する。
【0074】
(2.インク容器側の温度制御処理)
図9(b)は、インク容器側の溶剤ガスの温度制御処理を示すフローチャートである。
ステップS301で、制御装置5は、インクジェット記録装置1Bが記録処理を実行中であるか否かを判断する。記録処理を実行中である場合には(S301→Yes)、制御装置5の処理はステップS302に進む。記録処理を実行中でない場合には(S301→No)、制御装置5の処理はステップS306に進む。
ステップS302で、制御装置5は、温度差ΔTが温度差ΔTa以上である否かを判断する。ここで、ΔTは、以下の(式2)で表される。なお、前記したように、Tはインク容器I1内の溶剤ガス温度であり、Tは本体200の周囲温度である。また、ΔTaは予め設定された温度差であり、例えば、ΔTa=1Kである。
ΔT=T−T ・・・(式2)
【0075】
ステップS302において、ΔT≧ΔTaである場合(S302→Yes)、制御装置5の処理はステップS303に進む。ステップS302において、ΔT<ΔTaである場合(S302→No)、制御装置5の処理はステップS304に進む。ステップS303で、制御装置5は、インク容器I1に設置された温度調整手段60によって溶剤ガスを冷却する。
なお、ステップS304,S305の処理は、前記したステップS104,S105の処理(図7参照)と同様であるから、説明を省略する。
【0076】
一方、ステップS301で、記録処理が停止中であった場合(ステップS301→No)、制御装置5は、温度差ΔTが温度差ΔTb以下である否かを判断する(ステップS306)。
ステップS306において、ΔT≦ΔTbである場合(S306→Yes)、制御装置5の処理はステップS307に進む。ステップS306において、ΔT>ΔTbである場合(S306→No)、制御装置5の処理はステップS308に進む。ステップS307で、制御装置5は、インク容器I1に設置された温度調整手段70によって溶剤ガスを加熱する。
なお、ステップS308,S309の処理は、前記したステップS108,S109の処理(図7参照)と同様であるから、説明を省略する。
【0077】
つまり、前記処理において制御装置5は、記録処理が実行中である場合には、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tが、△Ta+Tより低くなるように制御する。
また、記録処理が停止中である場合には、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tが、△Tb+Tより高くなるように制御する。
【0078】
<効果>
本実施形態に係るインクジェット記録装置1Bによれば、記録処理の実行中は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガス温度Tが、△Ta+Tより高くなるように制御され、かつ、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tが、△Ta+Tより低くなるように制御される。
つまり、記録処理の実行中には常に、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスの温度が、インク容器I1内の溶剤ガスの温度よりも高くなるように制御される。したがって、記録ヘッド400内においては溶剤が蒸発することとなる。すなわち、結露した溶剤が開口部40b(図5参照)から流れ出すことがないため、記録ヘッド400内を清浄に保つことができる。
【0079】
また、記録処理の停止中は、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガス温度Tが、△Tb+Tより低くなるように制御され、かつ、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tが、△Tb+Tより高くなるように制御される。
つまり、記録処理の停止中には常に、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガスの温度が、インク容器I1内の溶剤ガスの温度よりも低くなるように制御される。したがって、記録ヘッド400内においては溶剤が結露することとなる。すなわち、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40において結露した溶剤(液体)がインクミストを溶かしつつ、回収ポンプ33による圧力によって、溶剤ガス循環流路40を通流することとなる。したがって、溶剤ガス循環流路40内を洗浄することができ、記録ヘッド400内を清浄に保つことができる。
【0080】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1Bによれば、記録ヘッド400内の溶剤ガス循環流路40を通流する溶剤ガス温度Tと、インク容器I1内の溶剤ガス温度Tとを、それぞれ本体200の周囲温度Tと比較することによって、一義的に処理内容(加熱処理又は冷却処理)が決定される。したがって、制御装置5の処理が簡略化され、処理負担を軽減させることができる。
【0081】
≪変形例≫
以上、本発明に係るインクジェット記録装置について、各実施形態により説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更などを行うことができる。
第3実施形態では、図9A、図9Bに示す処理を第1実施形態に係るインクジェット記録装置1に適用することとしたが、当該処理は第2実施形態に係るインクジェット記録装置1Aにも適用可能である。
また、前記した各実施形態では、インク容器I1及び記録ヘッド400がそれぞれ1つの場合について説明したが、これに限らない。すなわち、互いに異なる色のインクを貯留する複数のインク容器と、これに対応する記録ヘッドを設けてもよい。この場合には、各対のインク容器及び記録ヘッドに対応して、それぞれインク供給流路、インク回収流路、溶剤ガス循環流路を設ければよい。
【0082】
また、前記した各実施形態では、インクジェット記録装置の外部で記録対象F(例えば、用紙や缶など)が移動し、各記録対象Fに対して連続的にインクを吐出する場合について説明したが、これに限らない。すなわち、給紙部、用紙を一枚ずつ分離する分離部、用紙を搬送する搬送部、排紙部などをインクジェット記録装置の内部に設けるとともに、記録ヘッドを本体に内蔵してもよい。この場合には、インクジェット記録装置の内部で記録対象に画像などを記録することができる。
【0083】
また、前記各実施形態では、温度調整手段60(図4参照)をインク容器I1に設置することとしたが、これに限らない。すなわち、温度調整手段を本体200内部のインク回収流路(溶剤ガス循環流路)30又は溶剤ガス循環流路40に、図6に示すものと同様の態様で設置してもよい。
また、前記各実施形態では、温度調整手段70(図6参照)をガター31付近の溶剤ガス循環流路40に設置することとしたが、これに限らない。すなわち、温度調整手段を記録ヘッド400内部のインク回収流路30又は溶剤ガス循環流路40に、図6に示すものと同様の態様で設置してもよい。
【0084】
例えば、温度調整手段を本体200内部のインク回収流路30に設置した場合、温度調整手段の加熱処理によって加熱された溶剤ガスがインク容器I1内に流入するため(図4参照)、温度調整手段をインク容器I1に設置した場合と同様の効果が得られる。
つまり、溶剤ガス循環流路(インク容器I1・溶剤ガス循環流路40・インク回収流路30)を通流する溶剤ガスのうち、インク容器I1側の溶剤ガスの温度を調整する温度調整手段と、記録ヘッド400側の溶剤ガスの温度を調整する温度調整手段をそれぞれ設け、インクジェット記録装置1が記録処理を実行中であるか否かに応じて、各温度調整手段によりそれぞれの箇所で温度調整を行うこととすればよい。
【符号の説明】
【0085】
1,1A,1B インクジェット記録装置
200 本体
300 ケーブル
400 記録ヘッド
I1 インク容器(溶剤ガス循環流路)
10 インク供給流路(溶剤ガス循環流路)
15 ノズル
30 インク回収流路
31 ガター
40 溶剤ガス循環流路
5 制御装置(制御手段)
60 温度調整手段(第1温度調整手段)
67 温度センサ(温度検出手段)
70 温度調整手段(第2温度調整手段)
,Q インク粒子
F 記録対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから吐出されるインク粒子の帯電量に応じて前記インク粒子を偏向させる帯電量制御型のインクジェット記録装置において、
インクを貯留するインク容器から記録ヘッドの前記ノズルにインクを供給するインク供給系と、
記録に使用されないインクを、前記記録ヘッドのガターから前記インク容器に回収するインク回収系と、
インクの溶剤を含む溶剤ガスを、前記インク容器と前記ガターとの間で循環させる溶剤ガス循環系と、
前記溶剤ガス循環系の溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスの温度を検出する温度検出手段と、
記録処理が実行中であるか否かに応じて、前記溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスのうち、前記インク容器側の溶剤ガスの温度を調整する第1温度調整手段と、
記録処理が実行中であるか否かに応じて、前記溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスのうち、前記記録ヘッド側の溶剤ガスの温度を調整する第2温度調整手段と、
前記温度検出手段からの入力に対応して、前記第1温度調整手段及び前記第2温度調整手段を制御する制御手段と、を備えること
を特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
記録処理が実行中である場合には、前記記録ヘッド側の溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスの温度が、前記インク容器側の溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスの温度よりも高くなるように、前記第1温度調整手段、及び/又は、前記第2温度調整手段を制御すること
を特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
記録処理が停止中である場合には、前記記録ヘッド側の溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスの温度が、前記インク容器側の溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスの温度よりも低くなるように、前記第1温度調整手段、及び/又は、前記第2温度調整手段を制御すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
ノズルから吐出されるインク粒子の帯電量に応じて前記インク粒子を偏向させる帯電量制御型のインクジェット記録装置の記録処理方法において、
前記インクジェット記録装置は、
インクを貯留するインク容器から記録ヘッドの前記ノズルにインクを供給するインク供給系と、
記録に使用されないインクを、前記記録ヘッドのガターから前記インク容器に回収するインク回収系と、
インクの溶剤を含む溶剤ガスを、前記インク容器と前記ガターとの間で循環させる溶剤ガス循環系と、を備え、
記録処理が実行中であるか否かに応じて、前記溶剤ガス循環系の溶剤ガス循環流路を通流する溶剤ガスのうち、前記インク容器側の溶剤ガスの温度、及び/又は、前記記録ヘッド側の溶剤ガスの温度を調整すること
を特徴とする記録処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【公開番号】特開2013−95110(P2013−95110A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242132(P2011−242132)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】