説明

インクジェット記録装置用インク

【課題】オフセットの発生の抑制と、良好な画像濃度とを両立できる、インクジェット記録装置用インクを提供すること。
【解決手段】少なくとも、水と、顔料分散体と、浸透剤とを含むインクジェット記録装置用インクにおいて、顔料分散体に分子量60,000〜150,000の樹脂を含有させ、インクに炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを含有させ、アルカンジオールの含有量をインクの全質量に対して0.2質量%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録技術の急速な進歩により銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることが可能となっていることから、インクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット記録装置が画像形成装置として広く使用されている。
【0003】
かかるインクジェット記録装置について、画像形成速度の向上が強く望まれている。しかし、インクジェット記録装置において高速で画像形成を行った場合、インクが紙等の被記録媒体に浸透する前に被記録媒体が排出ローラーを通り排出されてしまい、インクが排出ローラーに付着(オフセット)することとなるため、画像不良が発生しやすくなる。オフセットの発生を抑制するためには、インクの吐出量を低減することが考えられるが、かかる場合、十分な濃度の画像を形成しにくい。
【0004】
かかる事情から、上記のオフセットの発生と、画像濃度に関する課題が解決されたインクとして、例えば、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールを含み、重量平均分子量が3,000〜50,000の樹脂を用いて得た顔料分散体を用いて調製されたインクジェット記録装置用のインクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−268277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、インクジェット記録装置では、さらなる画像形成の高速化が求められており、かかる場合、特許文献1に記載のインクジェット記録装置用インクでは、オフセットの抑制と画像濃度とに関する課題を必ずしも解決できない。
【0007】
また、高速で画像形成可能であるラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いる場合、画像の重ね描きが行われないため、良好な記録濃度で画像を形成するためにインクの吐出量を増やす必要がある。このため、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いる場合、オフセットの発生の問題が、特に生じやすい。それゆえ、特許文献1に記載のインクジェット記録装置用インクでは、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置において、オフセットの発生の抑制と、良好な画像濃度とを両立させることが極めて難しい。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、オフセットの発生の抑制と、良好な画像濃度とを両立できる、インクジェット記録装置用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、少なくとも、水と、顔料分散体と、浸透剤とを含むインクジェット記録装置用インクにおいて、顔料分散体に分子量60,000〜150,000の樹脂を含有させ、インクに炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを含有させ、アルカンジオールの含有量をインクの全質量に対して0.2質量%以上とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) 少なくとも、水と、顔料分散体と、浸透剤とを含み、前記顔料分散体は、分子量60,000〜150,000の樹脂と顔料とを含み、前記浸透剤は、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを含み、前記アルカンジオールの含有量は、インクの全質量に対して0.2質量%以上である、インクジェット記録装置用インク。
【0011】
(2) 前記顔料の含有量が、前記インクの全質量に対して4〜8質量%である、請求(1)記載のインクジェット記録装置用インク。
【0012】
(3) 前記アルカンジオールの含有量が、インクの全質量に対して0.2〜2.0質量%である、(1)又は(2)記載のインクジェット記録装置用インク。
【0013】
(4) 前記アルカンジオールが、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、及び1,2−オクタンジオールからなる群より選択される1種以上である、(1)から(3)何れか記載のインクジェット記録装置用インク。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オフセットの発生の抑制と、良好な画像濃度とを両立できる、インクジェット記録装置用インクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図2は、図1に示されるインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方から見た平面図である。
【図3】図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置に用いられるラインヘッドと記録用紙上に形成されたドット列の一部を示す拡大平面図である。
【図5】図5は、実施例1、実施例2、及び比較例1のインクの動的接触角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
本発明のインクジェット記録装置用インク(以下、単にインクとも記す)は、水と、特定の分子量の樹脂を含む顔料分散体と、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを含む浸透剤とを必須に含み、アルカンジオールの含有量が、インクの全質量に対して0.2質量%以上である。また、本発明のインクジェット記録装置用インクは、必要に応じ、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤、及びインクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる保湿剤からなる群より選択される1種以上の浸透剤の他の液体成分を含んでいてもよい。以下、インクジェット記録装置用インクが含む、必須、又は任意の成分である、水、顔料分散体、浸透剤、浸透剤の他の液体成分と、インクジェット記録装置用インクの製造方法と、画像形成方法について順に説明する。
【0018】
〔水〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、水性インクであり、水を必須に含む。インクに含まれる水は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から、水性インクの製造に使用されている水から、所望の純度の水を適宜選択して使用できる。本発明のインクジェット記録装置用インクにおける水の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の含有量は、後述する、他の成分の使用量に応じて適宜変更される。インクにおける典型的な水の含有量としては、インクの全質量に対して20〜70質量%が好ましく、25〜60質量%がより好ましい。
【0019】
〔顔料分散体〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、着色剤である顔料を含む顔料分散体を含む。顔料分散体中に含有させることができる顔料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からインクジェット記録装置用インクにおいて着色剤として使用されている顔料から適宜選択して使用できる。好適な顔料の具体例は、C.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、193等の黄色顔料、C.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、71等の橙色顔料、C.I.ピグメントレッド122、202等の赤色顔料、C.I.ピグメントブルー15等の青色顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、23、33等の紫色顔料、C.I.ピグメントブラック7等の黒色顔料等を挙げることができる。
【0020】
本発明のインクジェット記録装置用インクに含まれる、顔料分散体は、分子量60,000〜150,000の樹脂を含む。顔料分散体に含まれる樹脂の分子量は、重量平均分子量(Mn)であり、ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定できる。樹脂の分子量が過小である場合、被記録媒体に画像を形成する際に、良好な画像濃度を得にくい。また、分子量が過大である場合、インクの粘度が高いため、溶媒が揮発した際の更なる粘度上昇によりノズルからのインクの吐出不良が起こりやすい。このため、樹脂の分子量が過大である場合、良好な画像を形成しにくい。
【0021】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体を製造する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来知られる方法から適宜選択できる。好適な方法としては、例えば、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)、MSCミル(三井鉱山株式会社製)、ダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)等のメディア型湿式分散機を用いて、水等の適当な液体の媒体中において、顔料と樹脂とを混練して顔料分散体とする方法が挙げられる。メディア型湿式分散機による処理では、小粒径のビーズを用いる。ビーズの粒子径は特に限定されず、典型的には粒径0.5〜1.0mmである。また、ビーズの材質は特に限定されず、ジルコニアビーズ等の硬質の材料からなるビーズが使用される。
【0022】
顔料分散体を製造する際の、液体の媒体の使用量は、顔料と樹脂とを良好に混練できる限り特に限定されない。典型的には、液体の媒体の使用量は、顔料と樹脂との質量の合計に対して、1〜10倍の質量を用いるのが好ましく、2〜8倍の質量を用いるのがより好ましい。
【0023】
顔料分散体に含まれる顔料の体積平均粒径は、インクの色濃度、色相、インクの安定性等の観点から、50〜200nmが好ましく、70〜130nmがより好ましい。顔料の体積平均粒径は、顔料と樹脂とを混練する際のビーズの粒子径や処理時間を調整することにより調整できる。体積平均粒径が過小である場合、画像濃度が低下する場合があり、体積平均粒径が過大である場合、インクを吐出するノズルの目詰まりが発生したり、インクの吐出性が悪化したりする場合がある。顔料の体積平均粒径は、例えば、顔料分散体をイオン交換水により300倍に希釈した試料を用い、動的光散乱粒度分布測定装置(シスメックス株式会社製)等により測定できる。
【0024】
顔料分散体に含まれる樹脂は、所定の分子量である限り特に限定されず、従来から顔料分散体の製造に用いられている種々の樹脂から適宜選択して使用できる。好適な樹脂の具体例としては、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸アルキルエステル−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の中では、調製が容易で、顔料の分散効果に優れることから、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−メタクリル酸アルキルエステル−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等の、スチレンに由来する単位と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルに由来する単位とを含むスチレン−アクリル系樹脂が好ましい。上記の樹脂は、ラジカル重合により得られる。上記樹脂の分子量は、重合開始剤の使用量、重合温度、又は重合時間等を調整する公知の方法に従って調整できる。
【0025】
顔料の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。具体的には、インクの全質量に対して4〜8質量%が好ましい。顔料の使用量が過小であると良好な画像濃度を得にくく、顔料の使用量が過多であると、インクの流動性が損なわれ良好な画像を形成しにくくなったり、インクの被記録媒体に対する浸透性が損なわれ、オフセットが発生しやすくなったりする場合がある。
【0026】
〔浸透剤〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、インクの被記録媒体への浸透性を高める成分として浸透剤を含む。浸透剤は、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを含み、アルカンジオールの含有量は、インクの全質量に対して0.2質量%以上である。インクが、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを、その含有量がインクの全質量に対して0.2質量%以上となるように含有することにより、インクの被記録媒体に対する浸透性を顕著に改良でき、オフセットの発生を抑制できる。
【0027】
アルカンジオールは、炭素原子数8、又は9であれば特に限定されず、直鎖状でも、分岐鎖状であってもよい。浸透性の改良性に優れる点から、アルカンジオールは、1,2−アルカンジオール、又は1,3−アルカンジオールであるのがより好ましい。アルカンジオールの具体例としては、2,5−ジメチル−2,5−へキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、及び1,2−オクタンジオール等が挙げられる。これらの、アルカンジオールの中では、浸透性の改良性の点で、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、及び1,2−オクタンジオールが好ましい。これらのアルカンジオールは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
アルカンジオールの、インク中の含有量は、0.2質量%以上であり、0.2〜2.0質量%がより好ましく、0.2〜1.0質量%が特に好ましい。アルカンジオールの含有量が過少である場合、所望のオフセットの発生の抑制効果を得にくく、アルカンジオールの含有量が過多である場合、良好な濃度で画像を形成しにくい場合がある。
【0029】
本発明において用いる浸透剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールと、従来、インクジェット記録装置用のインクにおいて浸透性の改良の目的で使用されている種々の有機溶剤とを組み合わせて使用できる。炭素原子数8、又は9のアルカンジオールとともに使用できる有機溶剤の具体例としては、1,2−ヘキシレングリコール等の炭素原子数7以下のアルカンジオール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル、トリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、環状ケトン化合物等が挙げられる。炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを、他の浸透剤とともに使用する場合、浸透剤の使用量の総量は、インクの全質量に対して0.2質量%以上であり、1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0030】
〔浸透剤の他の液体成分〕
本発明のインクジェット記録装置用インクは、浸透剤の他の液体成分として、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤、及びインクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる保湿剤からなる群より選択される1種以上の成分を含んでいてもよい。
【0031】
保湿剤は、インクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる成分である。保湿剤の具体例は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のアルキレングリコール類;グリセリンである。これらの、保湿剤の中では、水等の液体成分の揮発の抑制効果に優れることからグリセリンがより好ましい。保湿剤は2種以上を組み合せて用いることができる。インクが保湿剤を含有する場合、保湿剤の含有量は、インクの全質量に対して2〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。
【0032】
溶解安定剤は、インクに含まれる成分を相溶化してインクの溶解状態を安定化させる成分である。溶解安定剤の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶解安定剤は2種以上を組み合せて用いることができる。インクが溶解安定剤を含有する場合、溶解安定剤の含有量は、インクの全質量に対して1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0033】
これらの浸透剤の他の液体成分を含むインクの中では、インクの全質量に対して、溶解安定剤として2−ピロリドンを1〜20質量%、及び、保湿剤としてグリセリンを2〜30質量%の範囲内で含有するインクが好ましい。かかる場合、オフセットの発生を抑制しやすく、良好な画像濃度を得やすい。
【0034】
〔インクジェット記録装置用インクの製造方法〕
本発明のインクジェット記録装置用インクの製造方法は、水、顔料分散体、及び浸透剤に対して、必要に応じ浸透剤の他の液体成分を加えた後、これらのインク成分を均一に混合することができれば特に限定されない。インクジェット記録装置用インクの製造方法の具体例としては、インクの各成分を混合機により均一に混合した後、孔径10μm以下のフィルターにより異物や粗大粒子を除去する方法が挙げられる。なお、インクジェット記録装置用インクを製造する際には、水、顔料分散体、及び浸透剤に対して、必要に応じて溶解安定剤、保湿剤等の浸透剤の他の液体成分や、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等の、従来、インクジェット記録装置用インクに加えられている種々の添加剤を加えることができる。
【0035】
〔画像形成方法〕
本発明のインクジェット記録装置用インクにより画像を形成する際に用いる画像形成装置は、インクジェット記録装置である限り特に限定されず、その記録方式は、記録ヘッドが記録媒体上を走査しながら記録を行うシリアル型であっても、装置本体に固定された記録ヘッドにより記録を行うラインヘッド型であってもよい。
【0036】
これらの記録方式の中では、画像形成の高速性の点から、ラインヘッド型が好ましい。ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いる場合、画像の重ね描きが行われないため、良好な記録濃度で画像を形成するためにはインクの吐出量を増やす必要がある。この場合、オフセットの発生や、画像の裏抜けや滲み等の問題が、特に生じやすい。しかし、本発明のインクによれば、オフセットの発生の抑制と、良好な画像濃度とを両立できる。また、本発明のインクによれば、インク中の顔料の濃度を増加させることにより、インクとの吐出量を低減させつつ良好な濃度で画像を形成できるため、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いても、画像の裏抜けや滲みの発生を抑制しやすい。
【0037】
以下、図面を参照して、本発明のインクを用いる画像形成方法について、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用い、被記録媒体として記録用紙を用いる場合に関して説明する。図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図であり、図2は、図1に示すインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方からみた平面図である。
【0038】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には記録用紙Pを収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された記録用紙Pを、最上位の記録用紙Pから順に一枚ずつ後述する搬送ベルト5へと搬送給紙するための給紙ローラー3及び給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4が設けられている。
【0039】
給紙ローラー3及び従動ローラー4の用紙搬送方向下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、用紙搬送方向下流側に配置されたベルト駆動ローラー6と、上流側に配置され搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動回転するベルトローラー7とに掛け渡されており、ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0040】
ここで、用紙搬送方向Xの下流側にベルト駆動ローラー6を配置したことにより、搬送ベルト5の用紙送り側(図1において上側)はベルト駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、ベルトテンションを張ることができ、安定した記録用紙Pの搬送が可能となる。なお、搬送ベルト5には誘電体樹脂製のシートが用いられ、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルト等が好適に用いられる。
【0041】
また、搬送ベルト5の用紙搬送方向下流側には、図中時計回りに駆動され画像が記録された記録用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー8a、及び排出ローラー8aの上部に圧接され従動回転する従動ローラー8bが設けられており、排出ローラー8a及び従動ローラー8bの下流側には、装置本体外へと排出された記録用紙Pが積載される排紙トレイ10が設けられている。
【0042】
従動ローラー8bは印字面に直接触れるため、従動ローラー8bの表面を形成する素材は撥水性材料であるのが好ましい。従動ローラー8bの表面を撥水性材料により形成することにより、記録用紙Pに浸透していないインクのローラーへの付着を抑制でき、オフセットの発生を抑制しやすい。好適な撥水材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂が挙げられる。従動ローラー8bと同様に、印字面に接触する部材の表面は撥水性材料により形成するのが好ましい。
【0043】
そして、搬送ベルト5の上方には、搬送ベルト5の上面に対して所定の間隔が形成されるような高さに支持され、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pへと画像の記録を行うラインヘッド11C、11M、11Y及び11Kが配設されている。これらのラインヘッド11C〜11Kには、それぞれ異なる4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)の着色インクが充填されており、各ラインヘッド11C〜11Kからそれぞれの着色インクを吐出することにより、記録用紙P上にカラー画像が形成される。
【0044】
記録用紙Pに各ラインヘッド11C〜11Kから吐出されたインクの液滴が着弾してから、記録用紙Pにおけるインクの着弾箇所が、排出ローラー8a、及び従動ローラー8bからなる記録用紙Pを排出する排出部8に到達するまでの時間は装置を小型化するためには1秒以内であるのが好ましい。かかる時間を1秒以内とした場合であっても、本発明のインクを用いることによって、高速での画像形成時のオフセットの発生の抑制の効果が充分に得られる。
【0045】
また、記録用紙Pに各ラインヘッド11C〜11Kから吐出され、記録用紙Pに打ち込まれる一色又は複数の色のインクの量は、特に限定されず、良好な濃度で画像を形成でき、オフセットが発生しにくい量に調整して画像が形成される。
【0046】
これらのラインヘッド11C〜11Kは、図2に示すように、搬送方向と直交する方向(図2の上下方向)に複数のノズルが配列されたノズル列を備え、搬送される記録用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録することができるようになっている。
【0047】
なお、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置においては、搬送ベルト5の幅寸法以上に形成された長尺のヘッド本体の長手方向に複数のノズルを配列させることで、記録用紙Pの幅以上の記録領域を有するように構成されたラインヘッドを用いているが、例えば各々複数個のノズルを備えた短尺のヘッドユニットを搬送ベルト5の幅方向に複数配列することにより、搬送される記録用紙Pの幅方向全幅にわたって画像を記録できるようにしたラインヘッドを用いても構わない。
【0048】
また、ラインヘッド11C〜11Kのインクの吐出方式としては、例えば、図示しない圧電素子(ピエゾ素子)を用いてラインヘッド11C〜11Kの液室内に生じる圧力を利用してインクの液滴を吐出する圧電素子方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式等、各種方式を適用することができる。インクの吐出方式は、吐出量の制御が容易であることから圧電素子方式が好ましい。
【0049】
図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。図1及び図2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。インクジェット記録装置100には制御部20が備えられており、制御部20には、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、ラインヘッド制御回路26、及び電圧制御回路27等が接続されている。
【0050】
インターフェイス21は、例えば、図示しないパソコン等のホスト装置とデータの送受信を行う。制御部20は、インターフェイス21を介して受信された画像信号を、必要に応じて変倍処理或いは階調処理して画像データに変換する。そして、後述する各種制御回路に制御信号を出力する。
【0051】
ROM22は、ラインヘッド11C〜11Kを駆動させて画像記録を行う際の制御プログラム等を記憶している。RAM23は、制御部20により変倍処理或いは階調処理された画像データを所定の領域に格納する。
【0052】
エンコーダー24は、搬送ベルト5を駆動する排紙側のベルト駆動ローラー6に接続されており、ベルト駆動ローラー6の回転軸の回転変位量に応じてパルス列を出力する。制御部20は、エンコーダー24から送信されるパルス数をカウントすることで回転量を算出し、用紙の送り量(用紙位置)を把握する。そして制御部20は、エンコーダー24からの信号に基づいて、モーター制御回路25及びラインヘッド制御回路26に制御信号を出力する。
【0053】
モーター制御回路25は、制御部20からの出力信号により記録媒体搬送用モーター28を駆動する。記録媒体搬送用モーター28は駆動してベルト駆動ローラー6を回転させ、搬送ベルト5を図1の時計回りに回動させて用紙を矢印X方向へと搬送する。
【0054】
ラインヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、RAM23に格納された画像データをラインヘッド11C〜11Kへ転送し、転送された画像データに基づいてラインヘッド11C〜11Kからのインクの吐出を制御する。かかる制御と、記録媒体搬送用モーター28によって駆動する搬送ベルト5による用紙の搬送の制御とにより、用紙への記録処理が行われる。
【0055】
電圧制御回路27は、制御部20からの出力信号に基づいて給紙側のベルトローラー7に電圧を印加することにより交番電界を発生させ、搬送ベルト5に用紙を静電吸着させる。静電吸着の解除は、制御部20からの出力信号に基づいてベルトローラー7又はベルト駆動ローラー6を接地させることにより行われる。なお、ここでは給紙側のベルトローラー7に電圧を印加する構成としたが、排紙側のベルト駆動ローラー6に電圧を印加する構成としてもよい。
【0056】
ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いてドットを形成する方法を、図4を用いて具体的に説明する。なお、図4では図1及び図2に示したラインヘッド11C〜11Kのうち、ラインヘッド11Cを例に挙げて説明するが、他のラインヘッド11M〜11Kについても全く同様に説明される。
【0057】
図4に示すように、ラインヘッド11Cには複数個のノズルからなるノズル列N1、N2が搬送方向(矢印X方向)に並設されている。つまり、搬送方向の各ドット列を形成するノズルとして、ノズル列N1、N2に各1個ずつ(例えばドット列L1ではノズル12a及び12a’)、合計2個のノズルを備えている。なお、ここでは説明の便宜のため、ノズル列N1、N2を構成するノズルのうち、ドット列L1〜L16に対応する12a〜12p及び12a’〜12p’までの各16個のノズルのみを記載しているが、実際にはさらに多数のノズルが搬送方向と直交する方向に配列されているものとする。
【0058】
そして、このノズル列N1、N2を順次用いて被記録媒体上に画像を形成する。例えば、被記録媒体を搬送方向に移動させながら、被記録媒体の幅方向(図の左右方向)1行分のドット列D1をノズル列N1からのインク吐出(図の実線矢印)により形成した後、次の1行分のドット列D2をノズル列N2からのインク吐出(図の破線矢印)により形成し、さらに次の1行分のドット列D3を再びノズル列N1からのインク吐出により形成する。以下、ドット列D4以降もノズル列N1、N2を交互に用いて同様に形成する。
【0059】
以上説明した、本発明のインクジェット記録装置用インクは、オフセットの発生の抑制と、良好な画像濃度とを両立させることができるため、種々の記録方式のインクジェット記録装置において好適に使用される。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。
【0061】
実施例、及び比較例では、以下のアルカンジオールを用いた。
分岐鎖アルカンジオール(C7):2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール
分岐鎖アルカンジオール(C8):2−エチル−1,3−ヘキサンジオール
分岐鎖アルカンジオール(C9):2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール
直鎖アルカンジオール(C8):1,2−オクタンジオール
直鎖アルカンジオール(C6):1,2−ヘキサンジオール
【0062】
[参考例]
(スチレン−アクリル樹脂の製造)
顔料分散体の調製に用いるスチレン−アクリル樹脂をマクロモノマー合成法により製造した。具体的には、ポリスチレンの分子末端の一方に(メタ)アクリロイル基が結合したオリゴマー(AS−6、東亜合成株式会社製、数平均分子量(Mn)6,000)と、表1に構成モノマーとして記載されるメタクリル酸(MA)、メタクリル酸メチル(MMA)、及びアクリル酸ブチル(BA)から選択される共重合モノマーとを、メチルエチルケトン中で重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))の存在下、重合開始剤の使用量、重合温度、重合時間をそれぞれ変更して分子量の異なる樹脂1〜樹脂6を製造した。得られた樹脂の重量平均分子量(Mw)を、ゲルろ過クロマトグラフィー(HLC−8020GPC(東ソー株式会社製))を用いて下記条件により確認した。樹脂1〜樹脂6の重量平均分子量を表1に示す。また、得られた樹脂の酸価(mgKOH/g)を滴定により確認した。得られた樹脂1〜樹脂6の酸価を表1に示す。
【0063】
<重量平均分子量測定条件>
カラム:TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー株式会社製、4.6mmID×15cm)
カラム本数:3本
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.35ml/分
サンプル注入量:10μl
測定温度:40℃
検出器:IR検出器
検量線は、標準試料(TSK standard,polystyrene、東ソー株式会社製)から、F−40、F−20、F−4、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、及びn−プロピルベンゼンの8種を選択して作成した。
【0064】
【表1】

【0065】
[実施例1、実施例2、及び比較例1]
(顔料分散体の調製)
シアン色顔料としてP.B−15:3を用いた。顔料分散体の調製に用いる材料の質量の合計に対して、15質量%の顔料、6質量%のスチレン−アクリル樹脂(樹脂1)、及び0.5質量%の界面活性剤(オルフィンE1010、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)と、水と、スチレン−アクリル樹脂の中和に必要な量の水酸化カリウムとを、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)に仕込み、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてナノグレンミルに充填して、水冷しながら顔料とスチレン−アクリル樹脂とを混練して顔料分散体を得た。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70〜130nmの範囲となっていることを確認した。
【0066】
(インクの調製)
表2に記載の比率で各成分を撹拌機により均一に混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過して、実施例1、実施例2、及び比較例1のインクを調製した。なお、表2に記載の含有量は、インク全質量に対する各成分の含有量を表す。また、グリセリンの使用量を調整して、インクの粘度を6mPa・sに調整した。
【0067】
〔浸透性評価〕
実施例1、実施例2、及び比較例1のインクの動的接触角を下記方法に従って測定し、インクの紙に対する浸透性を評価した。実施例1、実施例2、及び比較例1のインクの動的接触角の測定結果を図5に示す。
【0068】
<動的接触角測定方法>
インクの紙への浸透挙動を動的接触角計(CCA40、Dataphysics社製)を用いて評価した。具体的には、シリンジに備え付けられた針の先端から試料を押し出して、針の先端に0.5〜1.0μLの液滴を形成し、この液滴を紙面上にタッチオフ法により付着させて動的接触角を測定した。
【0069】
【表2】

*1:インクの全質量に対する顔料分散体の含有量(質量%)を表す。
*2:オルフィンE1010(アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)
【0070】
図5によれば、炭素原子数が8又は9の分岐鎖アルカンジオールを用いた、実施例1、及び実施例2のインクは、炭素原子数が7の分岐鎖アルカンジオールを用いた比較例1のインクよりも動的接触角が小さく、紙に対する濡れ性がよいことが分かる。このため、実施例1、及び実施例2のインクは、比較例1のインクよりも紙に対する浸透性に優れることが分かる。
【0071】
〔オフセット性評価〕
実施例1、実施例2、及び比較例1のインクのオフセット性を下記方法に従って評価した。実施例1、実施例2、及び比較例1のインクのオフセット性の評価結果を表3に示す。
【0072】
<オフセット性評価方法>
ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いて、常温常湿環境(23℃、60%RH)下にてオフセット性の評価を行った。記録ヘッドにインクを充填した後、記録ヘッドのノズル形成面から出ている余剰液をワイプブレードにより掻き取った。記録ヘッドのノズル面と記録紙との距離を1mmに設定した。一色当たりの被記録媒体へのインクの打ち込み量が15g/mとなるように設定し、シアン色インクのみを吐出して、10枚連続でベタ画像を印字した。被記録媒体を排出する排出部に備えられる、表面材質がポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)である従動ローラーと接触した後の被記録媒体の非印字部の状態と、従動ローラーへのインクの付着の状況を観察してオフセット性を評価した。オフセット性の評価の基準は以下の通りである。
○:記録液が排出ローラーに付着しておらず、非印字部に画像が版画されていない。
△:記録液が排出ローラーに付着しているが、非印字部に画像が版画されていない。
×:記録液が排出ローラーに付着しており、非印字部に画像が版画されている。
なお、インクジェット記録装置の被記録媒体の搬送速度は846.7mm/秒とした。また、インクの被記録媒体への着弾から従動ローラーへの到達までの時間は0.35秒であった。被記録媒体としては、用紙(IJW、王子製紙株式会社製)をA4サイズに切断したものを用いた。被記録媒体上に形成した画像のサイズは10×10cmとした。
【0073】
〔印字濃度評価〕
実施例1、実施例2、及び比較例1のインクの印字濃度を下記方法に従って評価した。実施例1、実施例2、及び比較例1のインクの印字濃度の評価結果を表3に示す。
【0074】
<印字濃度評価方法>
記録ヘッドから吐出されるインクの量を11pLに制御し、普通紙(A4、PPC用紙)にベタ画像を印字した。印字されたベタ画像の濃度を、濃度計(グレタグマクベス社製)により、同一画像について10回測定しその平均値を印字濃度とした。印字濃度1.0以上を良と判定し、印字濃度1.0未満を不良と判定した。
【0075】
【表3】

【0076】
表3より、重量平均分子量60,000の樹脂を含む顔料分散体を用い、炭素原子数8、又は9の分岐鎖アルカンジオールを浸透剤として用いた実施例1、及び2のインクは、オフセット性、印字濃度とも良好なインクが得られること分かる。一方、重量平均分子量60,000の樹脂を含む顔料分散体を用いているが、炭素原子数7の分岐鎖アルカンジオールを浸透剤として用いた、比較例1のインクでは、良好な印字濃度は得られても、インクの紙に対する浸透性が低いため、オフセット性がやや劣ることが分かる。
【0077】
[実施例3〜10、及び比較例2〜5]
分岐鎖アルカンジオールの含有率を、表4に記載の率に変えることの他は、実施例1、又は2と同様にして、実施例3〜10、及び比較例2〜5のインクを調製した。実施例3〜10、及び比較例2〜5のインクについて、実施例1と同様に浸透性、オフセット性、及び印字濃度を評価した。実施例3〜10、及び比較例2〜5のインクの、接触角(0.05秒)、オフセット性評価結果、及び印字濃度評価結果について表4、及び表5に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
【表5】

【0080】
表4、及び表5によれば、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを浸透剤として用いる場合、アルカンジオールの含有量をインクの質量に対して0.2質量%以上とすることにより、オフセットの発生の抑制と、良好な印字濃度とを両立できることが分かる。
【0081】
[実施例11〜13]
分岐鎖アルカンジオールの含有量を、表6に記載の含有量に変えることの他は、実施例2と同様にして、炭素原子数9の分岐鎖アルカンジオールを含む実施例11〜13のインクを調製した。実施例9〜13のインクについて、実施例1と同様に浸透性、及びオフセット性を評価した。また、実施例9〜13のインクについて、被記録媒体を普通紙(PPC用紙)から、インクジェット適性の高い印刷用紙(IJW 81g、王子製紙株式会社製)に変えることの他は、実施例1と同様にして印字濃度の評価を行った。実施例9〜13のインクの、接触角(0.05秒)、オフセット性評価結果、及び印字濃度評価結果について表6に示す。
【0082】
【表6】

【0083】
表4、及び表5によれば、アルカンジオールの使用量の増加により印字濃度が低下する傾向が見られるが、表6によれば、被記録媒体を普通紙(PPC用紙)から、インクジェット適性の高い印刷用紙(例えば、IJW 81g(王子製紙株式会社製))に変えることにより、アルカンジオールの含有量を1.0質量%より高くした場合であっても、オフセットの発生の抑制と、良好な印字濃度とを両立できることが分かる。
【0084】
[実施例14]
アルカンジオールを、炭素原子数8のアルカンジオールから、炭素原子数8の直鎖アルカンジオールである1,2−オクタンジオールとすることの他は、実施例1と同様にしてインクを調製した。実施例14のインクについて、実施例1と同様に浸透性、オフセット性、及び印字濃度を評価した。実施例1、及び14のインクの、接触角(0.05秒)、オフセット性評価結果、及び印字濃度評価結果について表7に示す。
【0085】
【表7】

【0086】
表7より、アルカンジオールの炭素原子数が8、又は9であれば、アルカンジオールの構造が分岐鎖であっても、直鎖であっても、オフセットの発生の抑制と、良好な印字濃度とを両立できるインクが得られることが分かる。
【0087】
[実施例15〜17、比較例6、及び比較例7]
表8に記載の種類のスチレン−アクリル樹脂を用いて顔料分散体を調製することの他は、実施例2と同様にして、実施例15〜17、比較例6、及び比較例7のインクを調製した。実施例15〜17、比較例6、及び比較例7のインクについて、実施例1と同様に浸透性、オフセット性、及び印字濃度を評価した。実施例2、実施例15〜17、比較例6、及び比較例7のインクの、接触角(0.05秒)、オフセット性評価結果、及び印字濃度評価結果について表8に示す。
【0088】
【表8】

【0089】
表8によれば、重量平均分子量が60,000未満のスチレン−アクリル樹脂を用いて調製した比較例6のインクでは、印字濃度の低下により、オフセットの発生の抑制と、良好な印字濃度とを両立しにくいことが分かる。また、重量平均分子量が150,000を超えるスチレン−アクリル樹脂を用いて調製した比較例7のインクでは、オフセットが発生しやすく、オフセットの発生の抑制と、良好な印字濃度とを両立しにくいことが分かる。一方、重量平均分子量が60,000〜150,000のスチレン−アクリル樹脂を用いて調製した実施例2、及び実施例15〜17のインクでは、オフセットの発生の抑制と、良好な印字濃度とを両立できることが分かる。
【0090】
なお、比較例7のインクは、上記の点の他にも、分子量の大きな樹脂を用いていることに起因してインクの粘度が高いため、溶媒が揮発した際の更なる粘度上昇によりノズルからのインクの吐出不良が起こりやすく、ノズルの閉塞が起こりやすい問題がある。このため、比較例7のインクを用いる場合、良好な画像を形成しにくい。
【0091】
[実施例18〜20、及び比較例8〜13]
樹脂1に変えて樹脂4を用いて顔料分散体を調製することと、インク中の顔料の含有量を表9に記載の含有量に変えることとの他は、実施例1と同様にして実施例18〜20のインクを調製した。また、樹脂1に変えて樹脂4を用いて顔料分散体を調製することと、インク中の顔料の含有量を表10に記載の含有量に変えることとの他は、比較例1と同様にして比較例8〜10のインクを調製した。さらに、樹脂1に変えて樹脂4を用いて顔料分散体を調製することと、インク中の顔料の含有量を表11に記載の含有量に変えることと、直鎖アルカンジオールとして炭素原子数6の1,2−ヘキサンジオールを用いることの他は、比較例1と同様にして比較例11〜13のインクを調製した。実施例18〜20、及び比較例8〜13のインクについて、実施例1と同様に浸透性、オフセット性、及び印字濃度を評価した。実施例18〜20、及び比較例8〜13のインクの、接触角(0.05秒)、オフセット性評価結果、及び印字濃度評価結果について表9〜表11に示す。
【0092】
【表9】

【0093】
【表10】

【0094】
【表11】

【0095】
一般に、インクにおける顔料濃度を高めた場合、インク中の固形分濃度の増加に伴い、インクが被記録媒体に浸透しにくくなりオフセットが発生しやすくなる。しかし、表9〜表11によれば、炭素原子数8のアルカンジオールを用いて調製した、実施例18〜19のインクでは、8.0質量%と多量に含有させても、オフセットの発生を抑制できることが分かる。一方、炭素原子数7以下のアルカンジオールを用いて調製した、比較例8〜13のインクでは、顔料の含有量が4.0質量%であってもオフセットの発生を抑制しにくいことが分かる。
【0096】
本発明によれば、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを用いてインクを調製することにより、インク中の顔料の含有量を高めることができ、ヘッドからのインクの吐出量を低減させつつ、良好な印字濃度で印刷することができる。本発明では、このように、インクの吐出量の低減が可能であるため、インク中の顔料の含有量を高めることにより、よりオフセットの発生を抑制しやすくなる。
【0097】
[実施例21〜29]
(黄色顔料分散体の調製)
黄色顔料としてP.Y−74を用いた。顔料分散体の調製に用いる材料の質量の合計に対して、15質量%の顔料、6質量%のスチレン−アクリル樹脂(樹脂4)、及び0.5質量%の界面活性剤(オルフィンE1010、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)と、水と、スチレン−アクリル樹脂の中和に必要な量の水酸化カリウムとを、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)に仕込み、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてナノグレンミルに充填して、水冷しながら顔料とスチレン−アクリル樹脂とを混練して顔料分散体を得た。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70〜130nmの範囲となっていることを確認した。
【0098】
(マゼンタ色顔料分散体の調製)
マゼンタ色顔料としてP.R−122を用いた。顔料分散体の調製に用いる材料の質量の合計に対して、15質量%の顔料、6質量%のスチレン−アクリル樹脂(樹脂4)、及び0.5質量%の界面活性剤(オルフィンE1010、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)と、水と、スチレン−アクリル樹脂の中和に必要な量の水酸化カリウムとを、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)に仕込み、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてナノグレンミルに充填して、水冷しながら顔料とスチレン−アクリル樹脂とを混練して顔料分散体を得た。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70〜130nmの範囲となっていることを確認した。
【0099】
(黒色顔料分散体の調製)
黒色顔料としてP.Bk−7を用いた。顔料分散体の調製に用いる材料の質量の合計に対して、15質量%の顔料、6質量%のスチレン−アクリル樹脂(樹脂4)、及び0.5質量%の界面活性剤(オルフィンE1010、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)と、水と、スチレン−アクリル樹脂の中和に必要な量の水酸化カリウムとを、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)に仕込み、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズをメディアとしてナノグレンミルに充填して、水冷しながら顔料とスチレン−アクリル樹脂とを混練して顔料分散体を得た。得られた顔料分散体をイオン交換水にて300倍に希釈して、動的光散乱式粒径分布装置(ゼータサイザー ナノ、シスメックス株式会社製)により顔料の体積平均粒径D50を測定し、顔料の体積平均粒径が70〜130nmの範囲となっていることを確認した。
【0100】
顔料分散体として、黄色顔料分散体、マゼンタ色顔料分散体、又は黒色顔料分散体を用いることと、インク中の顔料の含有量を表12〜表14に記載の含有量に変えることとの他は、実施例1と同様にして実施例21〜29のインクを調製した。実施例21〜29のインクについて、実施例1と同様にオフセット性、及び印字濃度を評価した。実施例21〜29のインクのオフセット性評価結果、及び印字濃度評価結果について表12〜表14に示す。
【0101】
【表12】

【0102】
【表13】

【0103】
【表14】

【0104】
表12〜表14によれば、本発明のインクでは、顔料の種類によらず、表9に記載の実施例18〜20のインクと同様に、8.0質量%程度の高濃度で顔料を含有させても、オフセットの発生の抑制と、良好な印字濃度とを両立できることが分かる。
【符号の説明】
【0105】
2 給紙トレイ
3 給紙ローラー
4 従動ローラー
5 搬送ベルト
6 ベルト駆動ローラー
7 ベルトローラー
8 排出部
8a 排出ローラー
8b 従動ローラー
10 排紙トレイ
11C、11M、11Y、11K ラインヘッド
12a〜12p、12a’〜12p’ ノズル
20 制御部
30 検出手段
100 インクジェット記録装置
D1〜D4 ドット列(行方向)
L1〜L16 ドット列(搬送方向)
N1、N2 ノズル列
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水と、顔料分散体と、浸透剤とを含み、前記顔料分散体は、分子量60,000〜150,000の樹脂と顔料とを含み、前記浸透剤は、炭素原子数8、又は9のアルカンジオールを含み、前記アルカンジオールの含有量は、インクの全質量に対して0.2質量%以上である、インクジェット記録装置用インク。
【請求項2】
前記顔料の含有量が、前記インクの全質量に対して4〜8質量%である、請求項1記載のインクジェット記録装置用インク。
【請求項3】
前記アルカンジオールの含有量が、インクの全質量に対して0.2〜2.0質量%である、請求項1又は2記載のインクジェット記録装置用インク。
【請求項4】
前記アルカンジオールが、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、及び1,2−オクタンジオールからなる群より選択される1種以上である、請求項1から3何れか記載のインクジェット記録装置用インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−158625(P2012−158625A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17311(P2011−17311)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】