説明

インクジェット記録装置

【課題】 キャップと記録ヘッドとの貼り付きが生じたときでも、小さい力で容易に離間することができるインクジェット記録装置のキャップユニットを提供する。
【解決手段】 記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置である。記録ヘッド107の吐出口151を覆うためのキャップ160と、キャップを保持するキャップホルダ130と、キャップホルダを記録ヘッドに対して密着及び離間させる方向に移動させる移動手段と、を備える。キャップホルダを複数の保持部180、190に分割し、キャップホルダを記録ヘッドから離間させるときに、複数の保持部において、離間方向へ移動を開始するタイミングに時間差を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては、記録ヘッドの保護および乾燥防止のために、吐出口を覆うキャップが使用されている。キャップは、負圧発生源に接続し、負圧を導入して吐出口からインクを吸引排出することにより吐出性能を回復させる吸引回復手段にも使用されている。キャップは、密封性を確保するため、一般にゴムやエラストマで形成されている。
【0003】
キャップを記録ヘッドの吐出口面に密着させた状態が続くと、両者の材質の組み合わせや出荷後の保存状態によっては、キャップが記録ヘッドに貼り付くことがある。貼り付いた状態で記録動作開始の電源を入れると、キャップが記録ヘッドからスムーズに離間せず、動作不良を起こす場合がある。この貼り付きに対処するため、特許文献1に開示の方法では、キャップオープン(キャップ離間)の際に、吐出口面に密着したキャップの当接部の一端部のみを先ず離間させ、次いで残りの部分を離間させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−082540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吐出口の微細化および高密度化が進み、吐出口のさらなる密封性の向上が要請されている。そのためには、キャップを密着させたキャッピング状態において、キャップの不要な変形を無くすとともに、吐出口面との密着性を向上させる必要がある。しかしながら、密着性を向上させるとキャップの貼り付き力も増加し、キャップを離間するには大きな力が必要になる。そこで、特許文献1の構成では、キャップとキャップホルダとが面接触しており、この面接触の領域で貼り付いた状態となる。このため、キャップの離間力を軽減することが困難である。
【0006】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、キャップと記録ヘッドとの貼り付きが生じたときでも、小さい力で容易に離間することができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、前記記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップと、前記キャップを保持するキャップホルダと、前記キャップホルダを前記記録ヘッドに対して密着及び離間させる方向に移動させる移動手段と、を備え、前記キャップホルダを複数の保持部に分割し、前記キャップホルダを前記記録ヘッドから離間させるときに、前記複数の保持部において、離間方向へ移動を開始するタイミングに時間差を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キャップと記録ヘッドとの貼り付きが生じたときでも、小さい力で容易に離間することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インクジェット記録装置の斜視図である。
【図2】記録ヘッドの吐出口面における吐出口の配置を示す正面図である。
【図3】第1の実施形態に係るキャップユニットの平面図である。
【図4】図3中の4−4に沿った断面図である。
【図5】キャップの平面図である。
【図6】キャップホルダの平面図である。
【図7】第1の実施形態に係るキャップユニットの縦断面図である。
【図8】第2の実施形態に係るキャップユニットの平面図である。
【図9】図8中の9−9に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。図1は本発明を適用するのに好適なインクジェット記録装置の斜視図である。記録ヘッド107を搭載したキャリッジ101は、ガイドシャフト102およびガイドレール104に沿って往復移動可能に支持されている。キャリッジ101は、キャリッジモータ108により、ベルト109を介して駆動される。給紙部から給送されてきた用紙等のシート状の記録媒体110は、搬送ローラ105及びピンチローラ(不図示)によりプラテン106上への記録開始位置へ搬送される。ガイドシャフト102および搬送ローラ105などはシャーシ103に支持されている。
【0011】
プラテン106の搬送下流側には搬送ローラ105と同期駆動される排紙ローラ113が配され、排紙ローラ113には拍車等の従動回転体112が圧接されている。搬送ローラ105および排紙ローラ113によりプラテン106上を搬送される記録媒体に対し、画像情報に基づいて記録ヘッド107による記録が行われる。記録に際しては、キャリッジ101は停止状態から加速された後に記録領域を通して一定速度で移動する。このとき、キャリッジ101の移動に同期して、記録ヘッド107の吐出口から記録媒体110へインクを吐出して画像を形成する。1ライン分の記録が終了すると、記録媒体を所定ピッチだけ搬送した後、次のラインの記録を行う。1ライン分の記録と所定量のピッチ搬送を交互に繰り返すことにより、記録媒体110の全体の記録が行われる。記録された記録媒体は排紙ローラ113により搬送され、装置本体外へ排出される。
【0012】
インクジェット記録装置には、CPU、メモリおよびI/O回路等を備えたコントローラからなる制御手段500が設けられている。この制御手段500は、内部メモリに予め格納された制御プログラムに従い、駆動モータや各種装置の動作を制御する。これにより、記録媒体の給送および搬送の動作を制御するとともに、画像情報に基づいて記録ヘッド107を制御することにより、記録媒体に画像を記録していく。また、制御手段500は、後述する制御機構によるキャッユニット120の記録ヘッド107に対する離反動作や密着動作などを制御する他、装置全体の動作やそのタイミングを制御するものである。
【0013】
キャリッジ101の移動範囲であって記録領域を外れた所定位置には、記録ヘッド107の目詰まり等を防止してインク吐出性能を維持回復するための回復ユニット115が配されている。回復ユニット115には、記録ヘッド107の吐出口を覆うためのキャップ、吐出口面を払拭するためにワイパー、吐出口からインクを吸引するためにキャップに接続されたポンプ等の負圧発生源などが設けられている。キャップは、吐出口面を保護するとともにインクの乾燥を軽減するためのものである。ワイパーは、吐出口に付着したインクやほこり等を拭き取り除去するものである。負圧発生源は、吐出口又はキャップ内の不良インクを吸引除去するためのものである。負圧発生源としては、例えば、チューブをしごいて負圧を発生させるチューブポンプが使用される。
【0014】
図2は、記録ヘッドの吐出口面における吐出口の配置を示す正面図である。記録ヘッド107の吐出口面151は記録媒体110と所定距離をおいて対向しており、吐出口面151には複数の吐出口が所定の配列をなして形成されている。本実施形態では、ブラックインクを吐出する複数の吐出口からなるブラック吐出口列153aと、カラーインクを吐出する複数の吐出口からなる3列のカラー吐出口列153bが配されている。3列のカラー吐出口列153bは、例えばシアン、マゼンタおよびイエローの3色の吐出口列で構成される。
【0015】
〔第1の実施形態〕
図3は第1の実施形態に係るキャップユニットの平面図である。図4は図3中の4−4に沿った断面図である。図5はキャップの平面図である。図6はキャップホルダの平面図である。回復ユニット115には、記録ヘッド107の吐出口面151に対してキャップ160を密着及び離間させるためのキャッピング手段が設けられている。キャッピング手段は、記録ヘッド107の吐出口を覆うためのキャップ160をキャップホルダ130で保持し、キャップ16を吐出口面151に密着及び離間させるようにキャップホルダ130を移動機構により移動させるように構成されている。この移動機構としては、例えばモータ等で回転駆動されるカムによってキャップホルダを密着及び離間方向に移動させる構成のものが使用される。また、キャリッジの平行移動と傾斜カム面とにより昇降するスライダを用いてキャップホルダを密着及び離間方向に移動させる機構を用いることができる。この移動機構は制御手段500によって制御される。
【0016】
図3のキャップユニット120は、キャップ160をキャップホルダ130に装着したものである。キャップ160はゴムまたはエラストマ等の可撓性材料で形成され、キャップホルダ130は剛性を有するプラスチック樹脂等で形成されている。キャップホルダ130は、分割構造であり、第1保持部18と第2保持部190とで構成されており、第1保持部180および第2保持部190を組み合わせた状態でキャップ160を保持している。キャップ160は、キャッピング状態で記録ヘッド107の吐出口面151に密着される当接部173を有する。当接部173は、ブラック吐出口列153aを囲む領域170とカラー吐出口153bを囲む領域169とを有し、これらの領域は当接部(当接部173の一部)で仕切られている。
【0017】
キャップ160およびキャップホルダ130はそれぞれが平面から見て略四角形をしており、従ってキャップユニット120も平面から見て略四角形をしている。キャップホルダ130は、第1保持部180と第2保持部190を組み合わせて構成されている。第1保持部180の四隅部には水平方向の係合穴181、182、183、184が形成されている。第2保持部190には、四辺のそれぞれの中間部に水平方向の係合穴191、192、193、194が形成されている。
【0018】
キャップ160には、係合穴181〜184および係合穴191〜194のそれぞれに対応する係合突起161〜168が形成されている。係合突起161〜164は、四角形をしたキャップ160の四隅部に配され、係合突起161〜164は、キャップ160の四辺のそれぞれの中間部に配されている。従って、第1保持部180の各係合穴181〜184に対して係合突起161〜164が係合し、第2保持部190の各係合穴191〜194に対して係合突起165〜168が係合する。本実施形態では、このように複数(2個)の保持部180、190は、それぞれの所定位置でそれぞれ個別にキャップ160と係合している。係合突起161〜168のそれぞれの先端部に爪形状部が設けられ、係合突起を対応する係合穴に挿入して爪形状部分を引っ掛けるように構成されている。これにより、キャップ160は、複数の保持部の組み合わせ体であるキャップホルダ130に保持されている。
【0019】
キャップホルダ130は、第1保持部180と第2保持部190部を図4、図6および図7に示すように組み合せて構成される。第1保持部180の上面186と第2保持部190の上面199は同一面になっており、この同一面にキャップ160の下面が面接触状態で相対している。また、この同一面は、キャップホルダ130で保持するキャップ160の平面性を確保するためのキャップ保持面となっており、かかる構成により当接部173の平面度が高く維持され、吐出口の密閉性が確保されている。
【0020】
図5に示すように、キャップ160の各囲み領域170、169の中央部には下面から突出するボス171、172が設けられている。これらのボスを第2保持部190に形成された貫通穴195、196に嵌合させることにより、キャップ160はキャップホルダ130に対して正確に位置決めされている。各ボス171、172の中心部には貫通孔175、176が形成されている。各ボス171、172にチューブを接続するとともに、これらのチューブを吸引ポンプ等の負圧発生手段や大気連通用の開閉弁に接続することにより、吐出口もしくはキャップからインクを吸引する吸引回復機構を構成することができる。
【0021】
第2保持部190の下面の略中央部にガイド用のボス197が設けられており、第1保持部180の対応部に形成されたガイド用の穴185と摺動可能に嵌合している。ボス197と穴185の嵌合により第1保持部180と第2保持部190の水平方向の相対位置が位置決めされ、これにより、キャップ160、第1保持部180および第2保持部190とが正確に位置決めされている。かかる構成により、キャップユニット120を記録ヘッド107に対し正確に位置決めすることができ、確実なキャッピングが行われる。
【0022】
図7は、キャップ160を記録ヘッドから離間させるときの各段階の状態を図3中の7−7に沿って示す縦断面図である。図7(a)はキャッピング状態を示し、図7(b)はキャップ引き剥がしの初期段階を示し、図7(c)はキャップ引き剥がしを終了した段階を示す。また、図7(d)はキャップユニットにばねを追加した別の構成例を示す。キャップユニット120を移動機構によって記録ヘッド107へ向けて移動させることにより、キャップ160により記録ヘッド107の吐出口を覆うキャッピング状態となる。このキャッピング状態では、キャップユニット120はばね等の付勢機構により吐出口面151に向けて付勢されており、キャップ160の当接部173を吐出口面151に密着させることによりブラック吐出口列153aおよびカラー吐出口153bを密閉している。
【0023】
図7(a)のキャッピング状態から、移動機構によりキャップホルダホルダ130を離間方向へ移動させることによりキャップ160を記録ヘッド107から離間させる。図7(b)はキャップ160を離間させるときの初期段階を示している。第1保持部180は移動機構により記録ヘッド107から離間する方向へ移動する。このとき、第2保持部190は移動せず、ボス197と穴185との嵌合により第1保持部180に対して離間方向に相対位置が変化する。
【0024】
前述のとおりキャップ160はゴムやエラストマ等で形成されており、記録ヘッド107の吐出口面151と貼り付いた状態となる場合がある。その場合、当接部173の全体を同時に引き剥がしてキャップ160を離間させようとすると、貼り付きの程度によっては非常に大きな力が必要となる。一方、当接部173の一部を引き剥がし、順次時間差をもって全体を剥がしていくようにすれば、離間に要する力を大幅に低減することができる。
【0025】
この動作は、キャップホルダ130を、複数(2個)の保持部180、190に分割して個別に移動させることで実現する。キャップホルダ130を記録ヘッド107から離間させるときに、保持部180及び保持部190のそれぞれの移動を開始するタイミングに時間差を設けている。図7(b)の状態では、最初に第1保持部180が離間して、キャップ160と第1保持部180との四隅部の係合部(係合突起161〜164と係合穴181〜184との4箇所の係合部)に引き剥がし力が加わる。これにより、まず、キャップ160の四隅部が吐出口面151から引き剥がされる。最初に引き剥がされる箇所は、当接部173の屈曲した部分(平面上で角度をもって彎曲または屈曲した部分)である。その理由は、引き剥がすときに直線状の部分では大きな力を必要とするが、屈曲した部分では小さい力で引き剥がすことができるからである。つまり、四角形の角部が最も引き剥がし力が小さくて済む部分になっている。
【0026】
図7(b)のような離間の初期段階においては、キャップ160の四辺の中間部では、当接部173と吐出口面151とは未だ貼り付いて当接した状態が維持されている。これは、第1保持部180と第2保持部190が互いに離間方向に相対移動可能であり、第1保持部180が離間を始めても第2保持部190には離間する力が加わらないためである。第2保持部190は、各辺の中間部の係合部(係合突起165〜168と係合穴191〜194との4箇所の係合部)で係合しているため、キャップ160の吐出口面151に貼り付いた部分にぶら下がる形になる。このように、複数の保持部180、190のうち最初にキャップ160から離間する方向へ移動を開始するのは外側の第1保持部180である。この第1保持部180は、記録ヘッド107の吐出口面151に密着するキャップ160の当接部173の屈曲した部分を保持する。
【0027】
次いで移動機構により所定距離の離間が進むと、第2保持部190のボス197に設けられたピン198が第1保持部180の下面187に当接し、両保持部180、190は一体となって離間方向に移動するようになる。これにより、それまで貼り付いていた内側の当接部173が吐出口面151から引き剥がされる。図7(c)は、キャップ160の引き剥がしが終了した後に保持部180、190が一体的に離間している段階を示す。すでに第1保持部180によってキャップ160の四隅部が引き剥がされた後であるため、残りの貼り付いた内側の部分は小さな力で引き剥がすことができる。
【0028】
キャップ160が吐出口面151から引き剥がされると、第2保持部190は、その上面199が第1保持部180の上面186と同一面になるまで自重によって落下する。これにより、キャップ160を搭載したキャップユニット120は初期の待機状態となる。なお、図7(d)のように、第2保持部190のボス197に装着されたピン198と第1保持部180の下面187との間にばね188を装着した構成とすれば、第2保持部190の初期位置への戻りが一層確実になる。
【0029】
以上のように本実施形態では、キャップホルダ130を第1保持部180と第2保持部190の複数に分割し、各保持部が互いにキャップ離間方向に相対移動可能に構成されている。かかる構成により、キャップ160が吐出口面151に貼り付いたときでも、貼り付き部をその一部から全体にわたって順次時間差をもって引き剥がすことができる。従って、キャップ160と吐出口面151とが密着貼り付きを起こした状態でも、小さな力で貼り付きを解除しながら離間させることができる。その際、キャップ160の変形などを生じることなく、キャップを安定した状態で容易に離間させることが可能となる。
【0030】
すなわち、本実施形態では、キャップホルダ130を第1保持部180と第2保持部190との複数の保持部に分割する構成が採られる。そして、キャップホルダ130を記録ヘッド107から離間させるときに、複数の保持部180、190のそれぞれにおいて、離間方向へ移動を開始するタイミングに時間差が設けられている。かかる構成によれば、キャップ160と記録ヘッド107とが貼り付いた状態でも小さい力でキャップを離間することができる。また、離間する際に、キャップ160に位置ずれや変形が発生せず、安定した状態でキャップを離間させることが可能となる。また、キャップ160は所定位置で各保持部180、190と係合され、位置決めされているため、キャップ160自体の位置ズレやヨレや変形なども防止でき、密着性が確保された高品質のキャッピング機構が提供される。
【0031】
〔第2の実施形態〕
図8は第2の実施形態に係るキャップユニットの平面図である。図9は図8中の9−9に沿った断面図である。本実施形態では、第1の実施形態に係るキャップユニット120のキャップホルダ130において、第2保持部190が第2保持部220と第3保持部230とに分割されている。また、第2保持部220および第3保持部230では、キャップ160との係合部(係合突起と係合穴との係合部)が省かれている。そして、第2保持部220および第3保持部230は、平面図で見て、キャップ160の当接部173の内側に、当接部173の裏面部と重ならないように配されている。なお、第2の実施形態における第1保持部は符号210で示す。具体的には、第2保持部220および第3保持部230の周縁を形成する端面321〜328により、第1保持部210との境界面が形成されている。そして、これらの境界面321〜328はキャップ160の当接部173の裏面部の内側部分(すなわち当接部173の裏面部の内側の近傍部分)に位置している。
【0032】
第1保持部210と第2、第3保持部220、230との境界部には微小な段差や隙間が生じる場合があり、この段差や隙間により当接部173の吐出口面151に対する密着性を阻害するような変形を防止することができる。この場合、第2保持部220および第3保持部230の端面(第1保持部210との境界面)を当接部173の裏面部の内側部分(裏面部の内側の近傍)に位置させる。これにより、第1保持部210を離間させる際にキャップ160の全体を引き剥がす力が発生せず、キャップ160の四隅部を小さい力で引き剥がすことができる。すなわち、第1の実施形態と同様に、キャップ160の貼り付け部を引き剥がす際に、一部ずつを小さい引き剥がし力で順次時間差を設けて離間させることができる。
【0033】
第2保持部220および第3保持部230の下面には貫通孔243、244を有するボス241、242が形成され、これらのボスに接続されるチューブを通して不図示の負圧発生手段によりキャップ内に負圧を発生させることができる。これにより、第1の実施形態と同様、記録ヘッド107の吐出性能を維持回復させるための吸引回復処理が行われる。また、第2保持部220の下面には、第1保持部210に形成された穴185と摺動可能に嵌合するガイド用のボス251、252、253が設けられている。また、第3保持部230の下面には、第1保持部210に形成された穴185と摺動可能に嵌合するガイド用のボス254、255が設けられている。これにより、キャップ160を吐出口面151から離間方向へ引き剥がす際に、第2保持部220および第3保持部230が、第1保持部210に対して離間方向に相対移動可能になっている。なお、各ボス251〜255の先端部には、第1保持部210の下面と係合可能なピン198が装着されている。さらに、各ボス251〜255に設けられたピン198と第1保持部210の下面との間には、保持部220、230を初期位置へ確実に戻すためのばねが配されている。第2の実施形態に係るキャップユニットは、以上説明した以外では同じ構成を有する。
【0034】
以上のように、本実施形態では、キャップホルダ130は、3つの保持部210、220、230を含む複数の保持部に分割されている。第1保持部210は記録ヘッド107の吐出口面151に密着するキャップ160の当接部173を保持する保持部である。第2保持部220および第3保持部230は、キャップ160の当接部173の裏面部の内側を保持する保持部である。そして、複数の保持部のうち、最初にキャップ160から離間する方向へ移動を開始する保持部は、記録ヘッド107の吐出口面151に密着するキャップ160の当接部173の裏面部を保持している第1保持部210である。なお、第1保持部210に続く第2保持部220および第3保持部230の離間方向への移動は、引き剥がしに要する力が小さい領域でキャップ160を保持している保持部の方が先に移動を開始する。この引き剥がしに要する力は、当接部173と吐出口面151との貼り付きの程度や貼りつけ面積などによる。
【0035】
本実施形態でも、複数の保持部のそれぞれにおいて、離間方向へ移動を開始するタイミングに時間差が設けられているので、第1の実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、キャップ160と記録ヘッド107とが貼り付いた状態でも小さい力でキャップを離間することができ、離間する際に、キャップ160に位置ずれや変形が発生せず、安定した状態でキャップを離間させることが可能となるなどの同様の効果が得られる。
【0036】
なお、以上の説明では、キャップホルダを2分割または3分割する場合を示したが、本発明はそれ以上の数に分割する場合にも同様に適用可能である。一般に、分割数を増やすことにより、一層滑らかに時間差をもってキャップを引き剥がすことが可能となり、引き剥がし力の低減効果をさらに高めることが可能となる。また、以上は、記録ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジを用いるシリアルタイプのインクジェット記録装置を例に挙げた。本発明は、記録媒体の搬送方向の副走査のみで記録するラインタイプのインクジェット記録装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
107 記録ヘッド
115 回復ユニット
120 キャップユニット
130 キャップホルダ
151 吐出口面
153a、153b 吐出口列
160 キャップ
161〜168 係合突起
173 当接部
180、190 保持部
181〜184 係合穴
191〜194 係合穴
210、220、230 保持部
500 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップと、前記キャップを保持するキャップホルダと、前記キャップホルダを前記記録ヘッドに対して密着及び離間させる方向に移動させる移動機構と、を備え、
前記キャップホルダは複数の保持部に分割され、
前記キャップホルダを前記記録ヘッドから離間させるときに、前記複数の保持部において、離間方向へ移動を開始するタイミングに時間差を設けることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記複数の保持部は、それぞれ個別に前記キャップと係合していることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記複数の保持部のうち最初にキャップから離間する方向へ移動を開始する保持部は、前記記録ヘッドに密着する前記キャップの当接部の屈曲した部分を保持している保持部であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記キャップホルダは、前記記録ヘッドに密着する前記キャップの当接部を保持する保持部と前記キャップの前記当接部の内側部分を保持する保持部とを含む複数の保持部に分割され、前記複数の保持部のうち最初に前記キャップから離間する方向へ移動を開始する保持部は、前記記録ヘッドに密着する前記キャップの当接部の裏面部を保持している保持部であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
記録ヘッドの吐出口を覆うためのキャップを離間させる方法であって、
前記キャップを複数の保持部に分割されたキャップホルダで保持し、
前記複数の保持部において、離間方向へ移動を開始するタイミングに時間差を設けることを特徴とする記録ヘッドのキャップの離間方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−253689(P2010−253689A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103076(P2009−103076)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】