インクジェット記録装置
【課題】装置起動時など低温のインクから短時間で安定化した吐出可能温度範囲内にインクに加温して記録開始時間を早め、且つ安定した高画質の画像を記録するインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インク循環経路が設けられた記録ヘッド10に対して、記録ヘッド10に掛かるインクの定圧力下で、インク供給経路31途中に設けられた温度調整部20において、起動時のインク温度と、インクの温度上昇特性に応じて予め定めた閾値温度に比較して、比較結果に応じてインク循環量を可変して記録開始時間を早める温度制御を行うインクジェット記録装置。
【解決手段】インク循環経路が設けられた記録ヘッド10に対して、記録ヘッド10に掛かるインクの定圧力下で、インク供給経路31途中に設けられた温度調整部20において、起動時のインク温度と、インクの温度上昇特性に応じて予め定めた閾値温度に比較して、比較結果に応じてインク循環量を可変して記録開始時間を早める温度制御を行うインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドに供給するインクの吐出可能温度を制御するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、記録ヘッドのノズルからインクを吐出し、記録媒体上に所望の画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。この記録装置は、選択された画質モードの画像を記録するために、使用するインクにより定められたインク粘度領域内に維持する必要がある。これは、画像記録時に、その吐出可能粘度領域が外れた状態のインクを用いると、ノズルからの吐出が不安定になり、不吐出、飛行曲がり又は、ミスト発生等々の不具合が生じて、設定されていた高画質の画像が記録できない。
【0003】
そのため、インクが吐出可能な粘度領域内となるようにインク粘度を調製する必要がある。インク粘度には温度依存性があり、様々な環境下にインクジェット記録装置の設置されるため、その環境による周囲温度により粘度が変化して、適正粘度範囲を外れてしまうことがある。そのため、インク温度の調整手段を備えている。
【0004】
インク温度の調整手段の1つとして、インクを循環させるインク経路を用いることができる。これは、記録ヘッドに設けられたインクの流入口と流出口を、それぞれにインクタンクとチューブ等からなるインク経路で結び、記録ヘッドとインクタンクとの間で循環されるようにインクを流してインク循環経路を形成する。
【0005】
このインク循環経路上に温度調節手段を設けて、インクを循環しつつ、記録ヘッド内に供給されるインクが適正な温度になるように調整する。つまり、インク循環を行いつつ、起動時の低温のインクを加温し、且つヘッド駆動によって高温化した記録ヘッド内のインクを適正な温度のインクと入れ替えて、排出された高温のインクを冷却する。
【0006】
特許文献1には、記録ヘッドにインクの流入口と流出口が設けられ、それらからインクを循環供給し、さらにインクが吐出中であっても、循環供給可能である技術が提案されている。また、特許文献2には、記録ヘッドのインク循環経路を備え、さらに、インク温度を検知して、その温度に応じてインクの循環量を可変させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−175651号公報
【特許文献2】特開2008−23806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献1に記載されるインクの温度制御においては、高速記録を行ってインクが高温になった場合に、インク循環流量を増加して冷却効果を高めることと、必要によっては、インクタンクに冷却手段を備えることが提案されている。しかし、その内容は、概念的な発想のみであり、実施可能に詳細には記載されてはいない。特に、起動時などの低温から加温する制御については何も触れられていない。
【0009】
また、特許文献2における構成では、インク温度制御について、冷却については記載されているが、加温については記録ヘッドの発熱による依存する程度の記載である。この特許文献2においても、インクの温度制御方法については詳細な記載がなく、さらに、装置起動時の低温のインクに対する加温の制御については何も触れられていない。
【0010】
そこで本発明は、装置起動時など低温のインクから短時間で安定化した吐出可能温度範囲内にインクに加温して記録開始時間を早め、且つ安定した高画質の画像を記録するインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態は、ノズルからインクを吐出して記録媒体上に画像記録を行う記録ヘッドと、前記記録ヘッドに供給するインクを貯留する上流側インクタンクと、記録ヘッドで使用されずに排出されたインクを貯留する下流側インクタンクと、前記上流側インクタンクから前記記録ヘッドへ前記インクを流通するインク供給経路、前記記録ヘッドから下流側インクタンクへ前記インクを流通するインク排出経路及び、下流側インクタンクから上流側インクタンクへ前記インクを帰還させるインク循環経路により形成されるインク循環経路と、前記インク循環経路内にて、インクを通常と設定されたインク循環量で送液する第1のインク循環量と、該第1のインク循環量よりも高いインク循環量を送液する第2のインク循環量と、前記第1のインク循環量よりも低いインク循環量を送液する第3のインク循環量と、を切り換えて、インクを循環させるインク循環制御部と、前記インク循環経路内のインク温度を検出するインク温度検出部と、前記インク温度検出部で検出されたインク温度に基づき、所望するインク温度となるように加温又は冷却により制御するインク温度制御部と、を具備し、前記インク循環制御部は、 前記記録ヘッドの吐出可能インク温度より低い閾値温度1を設定すると共に、前記閾値温度1よりも低い温度のインクに対して、前記吐出可能インク温度までインク温度制御部によって加温する際に、前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1未満のときには、前記第2のインク循環量に設定し、前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1以上のときには、前記第3の循環量に設定するインクジェット記録装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装置起動時など低温のインクから短時間で安定化した吐出可能温度範囲内の温度のインクに加温して記録開始時間を早め、且つ安定した高画質の画像を記録するインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。
【図2A】図2Aは、インク循環量と温度調整部の加温時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の加温特性を示す図である。
【図2B】図2Bは、インク循環経路のインク温度と加熱されたインク温度とによる記録ヘッドに流入するインクの温度特性を示す図である。
【図2C】図2Cは、10℃のインクを温度調整部に供給した場合に記録ヘッドでのインク温度とそのために必要な加熱時間を示す図である。
【図2D】図2Dは、図2Cにおける温度上昇が逆転する部分を拡大して示す図である。
【図2E】図2Eは、第1の実施形態におけるインクの加温制御の特徴を示す図であり、図2A乃至図2Dをまとめた結果を示す図である。
【図3A】図3Aは、第1の実施形態のインクジェット記録装置におけるインク温度の加温とインク循環量の制御について説明するためのフローチャートの前半部分である。
【図3B】図3Bは、図3Aに続く、インク温度の加温とインク循環量の制御について説明するためのフローチャートの後半部分である。
【図4A】図4Aは、記録ヘッド内の圧力を一定に維持し、インク循環量を制御するための制御方法について説明するための図である。
【図4B】図4Bは、記録ヘッド内の圧力を一定に維持しインク循環量を制御する際に、インクの昇温時間を短縮した第1の実施形態の変形例について説明するための図である。
【図5A】図5Aは、記録可能温度範囲の上限値を越えた場合のインク冷却の温度制御について説明するためのフローチャートの前半部分である。
【図5B】図5Bは、図5Aに続く、インク冷却の温度制御について説明するためのフローチャートの後半部分である。
【図6】図6は、第2の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。
【図7】図7は、第3の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。
【図8A】図8Aは、インク循環量と温度調整部の冷却時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の冷却特性を示す図である。
【図8B】図8Bは、インク循環経路のインク温度と冷却されたインク温度とによる記録ヘッドに流入するインクの温度特性を示す図である。
【図8C】図8Cは、50℃のインクを温度調整部に供給した場合に記録ヘッドでのインク温度とそのために必要な冷却時間を示す拡大図である。
【図8D】図8Dは、第1の実施形態におけるインクの冷却制御の特徴を示す図であり、図8A乃至図8Cをまとめた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、第1の本実施形態に係るインクジェット記録装置(以下、記録装置と称する)におけるインク経路を概念的に示す図である。
【0015】
この記録装置1は、複数のノズル(図示せず)が形成された記録ヘッド10を備え、各ノズルが形成されたインク吐出面に対向した位置に、記録媒体11を搬送する搬送機構12が配置される。この搬送機構12は、例えば、ベルトが捲回された上面(記録ヘッドとの対向面)が平坦なプラテンと、そのベルトを回転させる駆動部とにより構成される。
【0016】
この記録装置1は、上流側インクタンクである加圧タンク40から記録ヘッド10にインクを供給するインク供給経路31(32)と、記録ヘッド10で吐出されなかったインクを負圧タンク50に排出するインク排出経路33と、下流側タンクである負圧タンク50から加圧タンク40にインクを戻すインク帰還経路34(35)と、により構成されるインク循環経路30を備えている。これらの経路は、樹脂や金属からなるチューブ等が用いられている。
【0017】
インク供給経路において、インク供給経路31とインク供給経路32との間に、インクを加温又は冷却して温度を調整する温度調整部20が設けられている。インク帰還経路において、インク帰還経路34とインク帰還経路35の間に、インクを送液するためのポンプ60が設けられている。また、インク経路上には図示していないが、気泡除去のためのエアバッファや異物除去のためのフィルタを必要に応じて設けられている。
【0018】
記録ヘッド10は、内部に各ノズルに繋がるインク室(図示せず)が設けられており、このインク室には、インクを流入させる流入用インクポート10aと、ノズルから吐出されなかったインクをインク室から排出させる流出用インクポート10bが設けられている。この流入用インクポート10aは、インク供給経路32に接続され、温度調整部20から温度調整されたインクを供給する。流出用インクポート10bは、インク排出経路33に接続され、記録ヘッド10から流出したインクを負圧タンク50へ排出する。
【0019】
また、流出用インクポート10bには、インク温度検出部21が設けられている。本実施形態では、インク温度検出部21を流出用インクポート10bに配置しているが、これに限定されず、流入用インクポート10a側に設けてもよいし、両方のインクポートに設けてもよい。又は、記録ヘッドのインク室内にインク温度検出部21を設けてもよい。
【0020】
このインク温度検出部21は、例えば熱電対等の公知な温度センサを用いている。本実施形態では、インク温度検出部21は記録ヘッド10から排出されたインクの温度を検出し、その検出結果を制御部80に出力する。インク13は、インク循環経路30内を循環しながら、主として、ヒーター23及び冷却ファン22を備える温度調整部20によって、加温又は冷却される。温度調整部20は、制御部80に制御されるインク温度制御部81の指示によって、インク温度が最適温度範囲内に入るように調整している。また、インク温度制御部81には、記録装置の周囲環境を検出するために、装置周囲の外気温を検出する外気温検出部24が設けられている。
【0021】
外気温検出部24による検出温度と、インク温度検出部21による検出温度とに基づいて、インク経路から輻射される熱量が求められ、その熱量に応じて後述するようにインク温度並びに循環量が制御される。
また、少なくとも画像記録時には、記録ヘッド10の各ノズルには、メニスカスが形成される。このメニスカスは、ノズルにインク室側(内部側)からの負圧を与えて形成される。
【0022】
搬送機構12によって搬送された記録媒体11は、記録ヘッド10のノズルの前方を通過する際に、記録媒体11の搬送と同期した吐出信号に基づいて、各ノズルからインク13が吐出されて、記録媒体11上に画像が記録される。この時、インク温度が例えば、20℃から30℃の範囲である場合には、この範囲内にインク13の温度を制御することによって、非常に良好なインク吐出特性となり、高画質の画像記録が実施できる。
【0023】
次に、インク循環経路30によるインクの循環制御について説明する。
まず、インクが循環していない状態は、インク循環経路30内が全体として、負圧になっている状態であり、記録ヘッド10内も負圧に保たれて、各ノズルにはメニスカスが形成されている。このインクが循環していない場合に、インク循環経路30内を負圧にする方法としては、記録ヘッド10より、重力方向において、下側にあるインクタンク、例えば負圧タンク50を大気開放し、記録ヘッド10よりも上にあるインクタンク、例えば、加圧タンク40を閉塞する方法がある。また、加圧タンク40、負圧タンク50が共に、記録ヘッド10よりも重力方向下側にあるならば、両方のインクタンクを大気開放しても良い。インクタンク内を大気開放又は、閉塞させる手段は、加圧タンク圧力調整部41、負圧タンク圧力調整部51内に配置される、図示していない電磁弁などでなされる。
【0024】
続いてインク循環時の制御について説明する。
加圧タンク40には、加圧タンク圧力調整部41がチューブにより接続されている。インク循環時は、加圧タンク圧力調整部41によって、加圧タンク40内の圧力は、正圧に加圧制御される。また負圧タンク50には、負圧タンク圧力調整部51がチューブにより接続されている。インク循環時は、加圧タンク40への正圧印加と同時、もしくは、それよりも若干早目に、負圧タンク圧力調整部51によって、負圧タンク50内の圧力が負圧に減圧制御される。ここで、負圧の方が同時か早めに動作させるのは、先に記録ヘッド10内が正圧に印加されるとノズルからのインク垂れが発生するため、これを防止するためである。
【0025】
これらの加圧、負圧インクタンク40,50内の圧力をそれぞれに制御することによって、加圧タンク40内のインク13がインク供給経路31に送り出される。さらに、インク13は、温度調整部20及びインク供給経路32を経由して、記録ヘッド10に流入する。その後、負圧タンク50の負圧によって、記録ヘッド10から吐出されなかったインク13が排出されて、インク経路33を経由して、負圧タンク50に入る。負圧タンク50に収容されたインク13は、循環ポンプ60によって、加圧タンク40に戻るように送液される。
【0026】
このようなインク循環において、インク循環量制御部82は、加圧タンク圧力調整部41、負圧タンク圧力調整部51及び、循環用ポンプ60を統合的に制御して、インク循環経路内を循環されるインク量(以下、インク循環量と称する)の増減を行う。インク循環量制御部82が、インク循環量を増加させる場合には、加圧タンク圧力調整部41による正圧と、負圧タンク圧力調整部51の負圧とのそれぞれの値を適宜に設定する。さらに、記録ヘッド10内のノズル圧を一定に保持すると共に、ポンプ60の送液量を増加させて、加圧タンク40及び負圧タンク50のインク液面高さが一定になるように制御する。
【0027】
反対に、インク循環量を減少させる場合は、前述したように加圧タンク圧力調整部41と負圧タンク圧力調整部51を適宜設定した後、記録ヘッド10内のノズル圧を一定に保持すると共に、ポンプ60の送液量を減少させて、加圧タンク40及び負圧タンク50のインク液面高さが元の適正値に戻るように制御する。
【0028】
また、記録ヘッド10による記録動作がなされ、インク吐出が行われている場合と、単純に循環している場合とでは、記録ヘッド10の上流側(流入インクポート)と下流側(流出用インクポート)とにおけるインク循環量は異なるので、これらを加味して、インク循環量の制御を行っている。つまり、インク吐出時の方が、非吐出時に比べて、記録ヘッド10から排出されるインク量は少なくなる。必要であれば、図示しないインク液面高さ検出により得られたインクタンク内インク量情報も参照できる。またインク吐出によって、インク循環経路内のインク総量は減少するため、これも図示しない別途、補給用のインクボトルによって、インク供給経路にインク13を補給することで、一定のインク循環量を維持させる。尚、インク補給の手法は、着脱可能なメインタンクを接続して、補充インクをサブタンクに流し込む手法や、別途加圧手段によってインク経路内に注入する手法等が考えられる。
【0029】
本実施形態では、寒冷地等において発生しやすい、コールドスタート等の現在のインク温度と、インク吐出時の最適温度範囲との間で温度差が大きい場合であって、インク温度検出部21で検出された現在(起動前)のインク13の温度が5℃の場合を例として、インク循環量制御方法について説明する。
【0030】
本実施形態で使用するインク吐出可能な温度範囲は、例えば、15℃〜40℃の範囲とすると、まずはこの範囲内に入るようにインク温度を制御しなければならない。そこで、温度調整部20内にあるヒーター23の加温によりインク温度を上昇させるが、インク循環を行う構成であるため、5℃から急峻に15℃以上に上昇させることはできない。さらに、より適正なインク吐出のための最適温度範囲としては、20℃〜30℃に設定されており、この範囲に維持することが、より安定した吐出を行うことができる。尚、本実施形態では、一例として、インク吐出可能な温度範囲を15℃〜40℃とし、より好ましい最適温度範囲を20℃〜30℃としているが、勿論、この範囲に限定されるものではなく、使用するインクの特性により適宜変更される。
【0031】
図2Aは、インク循環量と温度調整部20の加温時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の加温特性を示す図である。ここでは、インク循環経路30内に含まれるインク総量は、例えば、90mlとする。これをインク循環量制御部82によって、30ml/min(低:第3のインク循環量)、60ml/min(中:第1のインク循環量)、90ml/min(高:第2のインク循環量)の3つのインク循環量で送液した場合の温度調整部20における入口側、出口側のインク温度の平均値をプロットしている。尚、インク温度が適正温度範囲内にある通常の駆動時においては、インク循環量は、60ml/min通常(中)となる。
【0032】
インク13は、加温された後、インク循環経路30を循環するうちに、主として輻射により放熱され、ヒーター23で加熱された温度は、ノズルに到達するまで維持されずに温度降下する。このため、ノズルに到達したときに所望する温度に対して、予め輻射熱として放熱されるインク温度分を含めた温度を加熱後インク温度としている。
【0033】
図2Aにおいて、インク循環量を90ml/minで加温して、インクを一巡させると、循環開始時に5℃のインクは、インク全体が均一的に加熱されて、8℃に上昇し、再度、温度調整部20に戻ってくる。同様に、60ml/minにおいては、5℃のインクは、インク循環経路30を一巡すると、全体的に8.2℃に上昇する。また、30ml/minでは、5℃のインクは、インク循環経路30を一巡すると、全体的に9.3℃に上昇する。
【0034】
しかし、加温時間の観点からみると、インク循環量が異なるため、3分後のインク温度で見ると、それぞれ、90ml/minでは5℃のインクは、インク経路を3回分巡るので、12.5℃、60ml/minではインク経路を1.5回巡るので、10.8℃、30ml/minでは5℃のインクはインク経路を1回のみ巡るので、9.3℃となる。
【0035】
つまり、インク吐出可能な温度範囲の下限値であるインク温度15℃以上とするためには、インク循環量90ml/minにより、5℃のインクを5分以上、同様に60ml/minでは、5℃のインクを7分以上、30ml/minでは12分以上の加温時間が必要である。従って、非常に低いインク温度にある状態からインク循環経路全体におけるインクを加温するためには、インク循環量は多い方が好ましい。
【0036】
次に、図2Bは、インク循環経路のインク温度(ヒーター23で加熱される前のインク温度)と、温度調整部20のヒーター23で加熱されたインク温度とにより、記録ヘッド10に流入するインクの温度特性を示す図である。
【0037】
本実施形態におけるインク供給経路32(記録ヘッド10と温度調整部20との間)は、インク循環経路30の約1/6の長さを有している。このインク供給経路が短くなれば、即ち、記録ヘッド10と温度調整部20が近距離に配置される程、インク経路30からの輻射による放熱の影響は少なくなり、ヒーター23により上昇したインク温度はあまり下がらずにノズルまで到達する。また、インク循環量が低い方が、インク13への加熱がヒーター23により有効に行われるため、インク温度は高くなって、記録ヘッド10へ到達する。
【0038】
記録ヘッド10内におけるインク温度は、インク循環量30ml/minでは、5℃のインクがヒーター23によって上昇し、インク供給経路32における輻射によって放熱されたとしても、10℃以上で到達する。この場合、インク循環量(送液量)を増加させると、ヒーター23からインク13への伝熱量は同等であるが、単位インク量当たりに加熱する加熱時間が短いため、加熱後のインク温度は低くなる。しかし、インク量を減少させると、加熱直後のインク温度は高くなるが、外気との温度差も大きくなり、輻射による放熱が多くなる。
【0039】
本実施形態におけるインク循環経路30では、輻射による放熱を考慮しても、記録ヘッド位置では、インク循環量30ml/minが、加熱直後に最もインク温度が高くなり、9℃のインクをヒーター23に供給すれば15℃以上になるため、また、誤差を考慮しても、10℃のインクを温度調整部20に供給すれば、インク吐出可能温度範囲の下限である15℃を越えるインク温度に昇温させることができる。そして、ヒーターによって記録ヘッド10内におけるインク温度を15℃以上に加温できるヒーター入口温度を閾値温度1とし、ここではインク温度検出部21、外気温検出部24からのそれぞれの検出温度(5℃)に基づき、当該閾値温度1を9℃に設定している。ここでは、閾値温度1を9℃としたが、勿論、インクの種類等に応じて適宜、設定される温度である。
【0040】
図2Cにおいては、10℃のインクを温度調整部20に供給した場合に、記録ヘッド10でのインク温度とそのために必要な加熱時間を示している。
ここで、30ml/minでは、0.5分で15℃以上となっており、温度調整部20から流出したインクが、1/6経路分の記録ヘッド10の位置では、15℃以上になっている。しかし、それ以上のインク循環量では、30ml/minより時間がかかっている。但し、30ml/minで行う場合に、加温開始時のインクの温度が10℃以下の場合には、図2Aで述べたように、時間を要してしまうため、10℃以上のインク温度が必要となっている。
【0041】
また、図2Cでは、インクが15℃を越えて、さらに加熱されると、インク加温時間とインク温度の関係において、インク循環量によって逆転する。つまり、30ml/minより、60ml/min又は90ml/minの方が温度上昇は早くなる。
【0042】
図2Dは、この温度上昇が逆転する部分を拡大して示している。これは、インク温度が20℃の近辺において、それ以下の温度では、30ml/minの方が早く温度上昇するが、90ml/minの方が再び温度上昇が高くなっている。つまり、この20℃を越えた時点から、インク循環量を再び増加させた方が早くインク温度を昇温できる。この20℃を閾値温度2とする。例えば、インク温度を調整する上での目標値を、最適温度範囲の中央、例えば24℃に設定した場合などには、インク温度が20℃に達したならば、インク循環量を90ml/minに設定することで、より早く加温することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、記録ヘッド10における最適温度範囲内への到達を考慮した場合、単純にインク循環量を多くすれば良いとか、少なくすれば良いということではないことがわかる。
【0044】
図2Eは、本実施形態におけるインクの加温制御の特徴を示す図であり、図2A乃至図2Dの結果をまとめたものを示している。
加温開始時のインクの温度を5℃として、閾値温度1までインクを加温する。この時は、例えば、通常時を60ml/min(中)と仮定した場合、90ml/min(高)のように、インク循環量を通常時よりも多くする。前述したように、インク量を多くして、インク経路全体を加温することで、温度調整部20のヒーター23への供給インク温度をできるだけ早く昇温させる。これは、図2Aと図2Cで説明したように、インク温度が閾値温度1未満の5℃以下の場合に、インク循環量が少ないと、インク循環量が多い場合に比べて、適正インク吐出温度範囲内に到達するのに時間を要している。このため、閾値温度1未満のインク温度の時に、少ないインク循環量で加温を行うと、インク経路全体の昇温速度も遅くなり、結果的にインク吐出を開始できる時期が遅くなってしまう。
【0045】
次に、インク温度が閾値温度1に到達したならば、インク循環量を低下させる。実施形態では、30ml/minを提示している。これは、単位インク循環量当たりの伝熱量を増加することとなり、温度調整部20の近傍に配置されている記録ヘッド10にインク温度を下降させることなく供給できるためであり、インク温度がインク吐出可能温度範囲の下限である15℃に到達し、直ちにインク吐出可能となる。
【0046】
本実施形態によれば、この最初に記録開始できる時間(ファーストプリントタイム)は約3分であり、インク循環量を一定とした時の最速のファーストプリントタイムが約5分であることに比べて、大きく短縮できる。この2分の開始時間が早まることは、高速処理能力を有する画像記録装置においては、大きなメリットとなる。その2分の差において、記録装置の処理能力が例えば、100枚/分であれば200枚、200枚/分であれば400枚もの処理が完了していることとなり、さらに高速処理を行うほど顕著な効果が現れてくる。
【0047】
インク温度が15℃に達したとしても、インクの飛翔特性がより良好になる最適インク温度範囲に達していないので、継続してインクの加温を行う。その後、インク温度が20℃を越えると、インク循環量を通常時よりも多くするように切り換える。この切り換えにより、インク循環量を増加させると、図2Dに図示するように、より効果的に伝熱でき、インク温度をさらに挙げることができる。
【0048】
ここでは、インク循環量を90ml/min−30ml/min−90ml/minと切り換えた例を示しているが、インク温度が適正温度範囲内に入ってから所定時間後(例えば、5分後。この5分の間で目標温度である24℃に到達可能)には、インク循環量は90ml/minから通常時の60ml/min(中)に切り換えられる。
【0049】
以上のことから、循環するインクに対して加温する場合は、インク循環量を一定で加温する工程よりも、異なるインク循環量を適正に切り換えることにより、同じ装置構成によるインク温度調整部であっても、より早く且つより吐出可能なインク温度範囲、さらには最適温度範囲へ上昇させることができる。この結果、記録開始時間(ファーストプリントタイム)をより短くすることができ、効率の高い印刷を行うことができる。また、最適温度範囲へも早く到達できることから、高画質な画像をより早く且つ安定的に記録することができる。
【0050】
図3に示すフローチャートを参照して、本実施形態のインクジェット記録装置におけるインク温度の加温とインク循環量の制御について説明する。尚、以下の説明では、電源投入時に検出されるインク温度が最適インク温度範囲内か、最適インク温度範囲の下限値よりも低いか、の2通りに限定するものとして、検出されるインク温度が最適インク温度範囲の上限を超える場合については後述する。
【0051】
まず、ユーザーにより記録装置の本体電源がオンされる(ステップS1)。この電源オンにより、制御部80、インク温度制御部81、温度調整部20、インク循環量制御部82及び搬送機構などの各構成部が起動し、それぞれに初期化される。
【0052】
次に、インク温度検出部21により、現在のインク温度が検出されると共に、外気温検出部24により、現在の装置環境における外気温が検出される(ステップS2)。この検出されたインク温度が最適インク温度範囲内か否かを判定する(ステップS3)。ここでは、最適インク温度範囲は、20℃から30℃の範囲である。この判定で、検出されたインク温度が最適インク温度範囲内にあれば(YES)、通常時のインク循環量60ml/minに設定してインク循環を開始する(ステップS4)。そして、インク温度が最適インク温度範囲内で維持されるように、予め設定される目標温度24℃になるように、インク温度が調整される。その調整開始と同時に、図1に示す加圧タンク圧力調整手段41や負圧タンク圧力調整手段51、そして、循環ポンプ60の動作情報からインク循環量60ml/minに設定されたならば、記録媒体11に画像の記録を開始する(ステップS5)。
【0053】
一方、ステップS3の判定において、インク温度が最適インク温度範囲度外、即ちインク温度が20℃よりも低い場合(NO)、閾値温度1を算出する(ステップS6)。このステップS6では、外気温検出部24により検出した外気温度と、検出部21で検出されたインク温度、及び温度調整部20の温度調整能力、さらにインク経路30の伝熱特性とによって閾値温度1が算出される。
【0054】
次に、インク温度と算出された閾値温度1とを比較し、インク温度が閾値温度1以上か否かを判定する(ステップ7)。この判定で検出されたインク温度が例えば、閾値温度9℃未満であれば(NO)、図2Dで述べたように、インク循環量を90ml/min(高)に切り換えると共に(ステップS8)、温度調整部20のヒーター23によりインクを加温する(ステップS9)。この加温に際して、インク温度の検出を行いつつ、ステップS9に戻る。また、ステップS7の判定で、インク温度が閾値温度1以上であれば(YES)、インク循環量を30ml/min(低)に切り換えて(ステップS11)インク加温を行う(ステップS12)。
【0055】
次に、加温されるインク温度を検出して(ステップS13)、インク温度がインク吐出可能な温度範囲の下限値である15℃以上に達したか否かを判定する(ステップ14)。この判定でインク吐出可能な温度範囲内に入っていれば(YES)、画像記録を開始する(ステップS15)。尚、インク吐出可能な温度範囲を基準に画像記録を開始する場合、その温度範囲の下限値である15℃に達した時に画像記録が開始されるが、その記録開始時においてもインク循環量30ml/min(低)でインク加温は継続されている。
【0056】
このように、インク温度が閾値温度1に達した後、インク循環量を30ml/min(低)に切り換えることで、通常の60ml/min(中)に設定しているときや90ml/min(高)に設定しているときに比べて、ヒーター23によるインクの加温に対する全体的なエネルギーの伝達効率は低下するが、記録ヘッドに流入するインク(温度調整部20から加温されて流出されたインク)のみを部分的に加熱して、早くインク吐出可能な温度範囲、さらに最適温度範囲まで昇温して記録ヘッド10に供給することができる。
【0057】
次に、インク温度が前述した閾値温度2、即ち20℃以上か否かを判定する(ステップS16)。ここでは、閾値温度2を20℃としたが、勿論、インクの種類等に応じて適宜、設定される温度である。この判定において、インク温度が閾値温度2以上になるように加温を維持し(NO)、閾値温度2以上になったのであれば(YES)、時間計測を開始する(ステップS17)と共に、図2Eに示すように、インク循環量を90ml/min(高)に増加させて(ステップS18)、インク温度を検出する(ステップS19)。
【0058】
検出されたインク温度が24℃になったか否かを判定し(ステップS21)、24℃であれば(YES)、ステップS4に移行する。一方、インク温度が24℃になっていなければ(NO)、計測した時間が5分に達するまで、インク循環量を90ml/min(高)に保ち(ステップS22)、5分を経過したならば、ステップS4に移行して、インク循環量を60ml/min(中)に設定する。ここで5分を設定したのは、閾値温度2である20℃を越えてから5分経過後には、目標温度である24℃程度にインクを加温でき、理想のインク温度で画像記録が可能になることが、予め実験などで分かっているからためである。尚、設定される時間は、5分に限定されるものではなく、設計又は仕様により、適宜変更することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によるインク循環量をインク温度に基づいて切り換えることにより、インク温度を素早く上昇させることができ、記録開始時間(ファーストプリントタイム)を短縮できる。尚、インク循環量については、最小のインク循環量であっても、記録により消費されるインク量を補うことができるインク循環量が確保されていることは当然である。また、記録動作もインク循環量制御部82は、加圧タンク40、負圧タンク50内の圧力を適正に制御を行い、記録中であっても記録ヘッド10内の圧力は、適正に保たれて記録動作になんら支障もないことも言うまでもない。
【0060】
次に、記録ヘッド10内の圧力を一定に維持し、インク循環量を制御するためのインクタンク40,50内の圧力制御方法について説明する。
図4Aは、インク温度が20℃の時における水頭値(記録ヘッド10内のインクに掛かる圧力)、加圧タンク40及び負圧タンク50のそれぞれの圧力に対して、インク循環量を30,60,90ml/minに変えた例をそれぞれに示している。ここで、記録ヘッド10内の圧力は、加圧タンク40及び負圧タンク50の平均圧として設定される。また、インク循環量は、加圧タンク40と負圧タンク50との圧力差によって設定される。
【0061】
従って、インク循環量を変更させることによって、タンク40,50間の圧力差が変更される。例えば、インク循環量が少ない時には、圧力差は小さく、インク循環量が多い時には圧力差が大きくなるように、それぞれのタンク40,50内の圧力を制御する。また、記録ヘッド10内の圧力は、加圧タンク40の圧力と負圧タンク50の圧力の中心値に常に設定されるように制御する。
このように制御することにより、インク循環量の変更にかかわらず、記録ヘッド10内の圧力は常に一定となり、ノズルからのインク吐出には何ら影響を与えずに、インク循環量を制御することが可能となる。
【0062】
次に、インク温度が変動した場合には、記録ヘッド10内のインク圧力を一定に維持したまま、インク循環量を変更する場合であって、インクの昇温時間を短縮した第1の実施形態の変形例について、図4Bを参照して説明する。
【0063】
インクは、組成の大部分が液体成分であり、通常のインクは、重量のほとんどが溶剤成分で占められている。溶剤の粘度は、温度と関係があり、一般的には、温度が下がると粘度は上昇するものがほとんどであり、逆に昇温すると粘度が低下する。従って、溶剤が主成分であるため、インク温度が変動すると、インク粘度も変動する。
【0064】
さらに、インク循環量は、インク経路の流路抵抗が一定であれば、インク粘度と圧力によって決定される。従って、インク循環量を一定にする場合、インク温度が高まれば、インクタンク内圧力を低下させ、インク温度が低下すれば、インクタンク内圧力を上昇させる。また、インク循環量を増加させる場合には、インク温度を高めるか、インクタンク内圧力を高めることで成され、逆に減少させる場合には、インク温度を低下させるか、インク内圧力を減少させることで成される。
【0065】
本変形例は、これらを組合せて、インク温度毎にインク循環量を制御することに加えて、インクタンク内圧力を制御することで、常にインク吐出が可能なメニスカス状態をつくる例である。
まず、インク温度が5℃の場合、通常状態(常温)よりもインク粘度が高く、インク循環量も高く設定するため、インクタンク内圧力は最も高く制御され、本実施形態の場合、加圧タンクは、1160Pa、負圧タンクは−4160Paとすると、インク循環量が90ml/minでかつヘッド内圧力が適正値である、−1500Paに設定される。
【0066】
次に、インク温度が9℃に昇温すると、ヘッド内インク温度が15℃以上となるように、インク循環量を30ml/minに低下させる。そのため、加圧タンクは−930Pa、負圧タンクは−2060Paとすることで、ヘッド内圧力を−1500Paのまま、流量を低下させられる。
【0067】
さらに、インク温度が20℃に昇温した後、インク循環量を90ml/minに増加させて、インク昇温を効率的に行う。このインク流量の変更は、インク温度が5℃の時と同じであるが、インク温度が上昇し、インク粘度も低下しているため、加圧タンク圧力は−130Pa、負圧タンク圧力は−2870Paとなり、5℃の時よりも圧力差を小さく設定することで、ヘッド内圧力を−1500Paに維持しつつ、インク循環量を増加させることができる。
【0068】
以上説明したように、インク温度を昇温させながら、インク循環量をそれぞれ適切な値に変更しても、ヘッド内圧力は一定に維持することができるため、記録ヘッド10のノズルからのインク漏れ等は、勿論、発生せず、さらに記録ヘッド10からのインク吐出に影響するような記録ヘッド10内の圧力変動もないため、メニスカスが安定して形成されているため、インク温度が記録ヘッド10における吐出可能な温度範囲内に入った直後から、記録が開始できる状態に維持することができる。
【0069】
以上説明したようにインク温度とインク循環量を制御することで、起動時からのファーストプリントタイムを短縮して、効率の良い画像記録を安定して行うことができる。
【0070】
尚、インク循環量について、インク循環量が最小であっても記録に支障のない流量が確保されていることは言うまでもないことである。また、記録動作もインク循環量制御部82は、加圧タンク40及び負圧タンク50内のそれぞれの圧力を適正に制御して、記録媒体11に記録中であっても、記録ヘッド10内の圧力は適正に保たれており、記録動作になんら支障もないことも言うまでもない。
【0071】
次に、気温が高い環境下において、現在のインク温度が、インク吐出時の最適温度範囲に対して大幅に高い状態であって、インク温度検出部21で検出された現在(起動前)のインク13の温度が50℃の場合を例として、インク循環量制御方法について説明する。
【0072】
図8Aは、インク循環量と温度調整部20の冷却時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の冷却特性を示す図である。尚、インク循環経路30内に含まれるインク総量、及びインク循環流量は前述した値と同様である。この図8Aから分かるように、 55℃のインク温度をインク吐出可能な温度範囲の上限値であるインク温度40℃以下にするためには、インク循環量90ml/minにより4分以上、60ml/minでは6分以上、30ml/minでは9分以上の冷却時間が必要である。従って、非常に高いインク温度にある状態からインク循環経路全体におけるインクを冷却するためには、インク循環量は多い方が好ましい。
【0073】
次に、図8Bは、インク循環経路のインク温度(冷却ファン22で冷却される前のインク温度)と、温度調整部20の冷却ファン22で冷却されたインク温度とにより、記録ヘッド10に流入するインクの温度特性を示す図である。図8Bの縦軸は、インク経路の1/6の位置の温度を示すが、これは本実施形態における記録ヘッド10と温度調整部20(冷却ファン23)との間がインク循環経路30の約1/6の長さを有していることから、実質的に記録ヘッド10内におけるインク温度を示す。
【0074】
図8Bに示すように、50℃のインク温度に対して、インク循環量を90ml/minに設定して冷却すると、他のインク循環量に比べて記録ヘッド10の位置におけるインク温度を最も冷却させることが可能となる。そして、誤差を考慮しても46℃のインクを温度調整部20に供給すれば、インク吐出可能温度範囲の上限である40℃を下回るインク温度に冷却させることができる。そこで、冷却ファン22によって記録ヘッド10においてインク温度が40℃以下に冷却できるクーラー入口温度を閾値温度3とし、この閾値温度3を本実施形態では45℃に設定している。
【0075】
図8Cにおいては、50℃のインクを温度調整部20に供給した場合に、記録ヘッド10でのインク温度とそのために必要な冷却時間を示している。
インク循環量を30ml/minに設定した場合、50℃のインクは0.5分で40℃未満となっている。しかし、それ以上のインク循環量では、30ml/minの場合より40℃以下になるための時間がかかっている。但し、30ml/minで行う場合に、冷却開始時のインクの温度が46℃以上の場合には、図8Aで述べたように、その温度に到達するまでに時間を要してしまう。
【0076】
また、図8Cに示すように、インク温度が40℃を下回り、さらに冷却されると、その冷却時間によっては、インク循環量が90ml/minの方が30ml/minよりも温度を下げることが可能となる。
【0077】
図8Dは、本実施形態におけるインクの冷却制御の特徴を示す図であり、図8A乃至図8Cの結果をまとめたものを示している。
冷却開始時のインクの温度を55℃として、閾値温度3までインクを冷却する。この時は、例えば、通常時を60ml/min(中)と仮定した場合、90ml/min(高)のように、インク循環量を通常時よりも多くする。前述したように、インク量を多くして、インク経路全体を冷却することで、温度調整部20の冷却ファン22への供給インク温度をできるだけ早く下げる。これは、図8Aと図8Cで説明したように、インク温度が閾値温度3以上の46℃以上の場合に、インク循環量が少ないと、インク循環量が多い場合に比べて、インク吐出温度範囲内に到達するのに時間を要している。このため、閾値温度3以上のインク温度の時に、少ないインク循環量で冷却を行うと、インク経路全体のインク冷却速度も遅くなり、結果的にインク吐出を開始できる時期が遅くなってしまう。
【0078】
次に、インク温度が閾値温度3に到達したならば、インク循環量を30ml/minに低下させる。ここで、閾値温度3は、例えば46℃に設定する。但し、この温度に限定されるものではなく、インクの種別等により適宜設定される。
【0079】
本実施形態によれば、図8Dに示すように、55℃インクを冷却し始めてからインク吐出可能温度範囲の上限である40℃に達するまでにかかる時間、即ち冷却開始してから記録開始までの時間(ファーストプリントタイム)は約3分であり、インク循環量を一定とした時の最速のファーストプリントタイムが約4分であることに比べて、大きく短縮できる。
【0080】
インク温度が40℃に達したとしても、インクの飛翔特性がより良好になる最適インク温度範囲に達していないので、継続してインクの冷却を行う。その後、インク温度が30℃を下回ると、インク循環量を通常時よりも多くするように、90ml/minに切り換えている。この切り換えにより、インク循環量を増加させると、図8Cに図示するように、より効果的に伝熱でき、インク温度をさらに挙げることができる。
【0081】
図8Dでは、インク循環量を90ml/min−30ml/min−90ml/minと切り換えた例を示しているが、インク温度が適正温度範囲内(30℃以下)に入ってから所定時間後(例えば10分後。この10分の間で目標温度である24℃に到達可能)には、インク循環量は90ml/minから通常時の60ml/min(中)に切り換えられる。
【0082】
以上のことから、循環するインクに対して冷却する場合は、インク循環量を一定で冷却する工程よりも、異なるインク循環量を適正に切り換えることにより、同じ装置構成によるインク温度調整部であっても、より早く且つより吐出可能なインク温度範囲、さらには最適温度範囲にインク温度を低下させることができる。この結果、記録開始時間(ファーストプリントタイム)をより短くすることができ、効率の高い印刷を行うことができる。また、最適温度範囲へも早く到達できることから、高画質な画像をより早く且つ安定的に記録することができる。
【0083】
次に、前述した図8A乃至図8Dの説明を踏まえて、図5A,5Bに示すフローチャートを参照して、インクを冷却する手順を含む温度制御について説明する。尚、図5Aに示すステップSで前述した図3Aに示すステップSと同じものには、同じステップ番号を付して、その説明は簡略化する。以下に説明するインクの冷却は、電源投入時において、外気温度が最適インク温度範囲の上限値を越えている場合、あるいは、連続記録によってヘッドが昇温しそれに伴いインク温度が昇温して最適インク温度範囲の上限値を越えている場合に行われる。
【0084】
まず、記録装置の本体電源がオンにより各構成部が起動し(ステップS1)、現在のインク温度と外気温が検出され(ステップS2)、検出されたインク温度が最適インク温度範囲内か否かを判定する(ステップS3)。ここでは、電源投入時に検出されるインク温度が最適インク温度範囲内か、最適インク温度範囲の上限値よりも高いか、の2通りに限定するが、最適インク温度範囲内であれば、既述しているため、ここでの説明を省略する。ステップS3の判定において、インク温度が最適インク温度範囲度外、即ちインク温度が30℃よりも高い場合(NO)、閾値温度3を算出する(ステップS31)。この閾値温度3も前述した閾値温度1と同様、外気温検出部24により検出した外気温度と、検出部21で検出されたインク温度、及び温度調整部20の温度調整能力、さらにインク経路30の伝熱特性とによって算出される。ここでは、例えば46℃に設定される。勿論、この温度に限定されるものではない。
【0085】
次に、インク温度が閾値温度3以下か否か判定する(ステップS32)。この判定で、インク温度が閾値温度3を越えていたならば(NO)、インク循環量を90ml/min(高)に切り換えて(ステップS8)、冷却を行い(ステップS33)、インク温度を検出して(ステップS10)、ステップS32に戻る。ステップS32の判定で、インク温度が閾値温度3以下になったならば(YES)、インク循環量を30ml/minに減少させた上で(ステップS11)、インクの冷却を継続する(ステップS34)。
【0086】
次に、インク温度の検出を行い(ステップS13)、インク温度がインク吐出可能な温度範囲の上限値である40℃以下に達したか否かを判定する(ステップ35)。この判定で、インク吐出可能な温度範囲内ならば(YES)、記録媒体11への画像記録を開始する(ステップS15)。
【0087】
尚、インク吐出可能な温度範囲を基準として、画像記録を開始する場合、その温度範囲の上限値である40℃に達した時点で画像記録が開始されるが、その記録開始時においてもインク循環量30ml/min(低)でインク冷却は継続されている。このように、閾値温度3よりも高いインク温度のインクを冷却していき、インク温度が閾値温度3に達した後、インク循環量を30ml/min(低)に切り換えることで、通常の60ml/min(中に)設定したときに比べて、冷却ファン22によるインクの冷却に対する全体的なエネルギーの伝達効率は低下するが、記録ヘッドに流入するインク(温度調整部20から冷却されて流出されたインク)のみを部分的に冷却して、記録開始可能な温度まで冷却して記録ヘッド10に供給することができる。
【0088】
次に、インク温度が閾値温度4以下か否かを判定する(ステップS36)。閾値温度4は最適インク温度範囲の上限値である30℃に設定している。尚、上限値は、30℃に限定されるものではなく、適宜変更することができる。この判定において、閾値温度4以下になったのであれば(YES)、時間計測を開始し(ステップS17)、インク循環量を90ml/min(高)に増加させる(ステップS18)と共に、インクの冷却を行う(ステップS37)。そして、インク温度を検出する(ステップS20)。
【0089】
検出されたインク温度が24℃になったか否かを判定し(ステップS21)、24℃であれば(YES)、ステップS4に移行する。一方、インク温度が24℃になっていなければ(NO)、計測した時間が5分に達するまで、インク循環量を90ml/min(高)に保ち(ステップS22)、5分を経過したならば、ステップS4に移行して、インク循環量を60ml/min(中)に設定する。この設定は、5分を経過したならば、インク循環量を60ml/min(中)に設定する(ステップS4)。
【0090】
ここで、5分を設定したのは、閾値温度3である46℃以下になってから5分経過後には、目標温度である24℃程度にインクを冷却でき、理想のインク温度で画像記録が可能になることが、予め実験などで分かっているからためである。尚、設定される時間は、5分に限定されるものではなく、設計又は仕様により、適宜変更することができる。
【0091】
以上、説明したように、この第1実施形態によれば、インク吐出可能な温度範囲から外れた低い温度あるいは高い温度のインクを、インク吐出可能な温度範囲、ひいては最適温度範囲に向けてインク温度の調整を行うにあたり、インク吐出時のインク循環量に対して、始めは高く、次に低く、そして再び高くなるように調整しながらインク温度を調整(加温、冷却)することで、循環量を一定にする場合よりも、早くインク吐出可能な温度範囲内、最適温度範囲内にインク温度を調整することが可能になる。これにより、ファーストプリントを行うまでの時間を短縮でき、さらにインク温度調整のための電力を低下させることが可能となる。
【0092】
また、インク循環量を通常のインク吐出時から変更したとしても、インクタンク内の圧力を変更後のインク循環量に見合うように適宜調整することで、常にメニスカスを形成することができ、インク温度がインク吐出可能な温度範囲内にあればいつでも画像記録動作を行うことが可能となる。
【0093】
次に、第2の実施形態について説明する。
図6は、第2の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。本実施形態の構成部位について、前述した第1の実施形態と同等の構成部位には同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0094】
本実施形態では、インク循環量の制御については第1実施形態と同様であるものの、加圧タンク40及び負圧タンク50のインク液面を所定の高さに維持すると共に、加圧タンク40及び負圧タンク50の高さを適宜調整することによって、メニスカスを形成するように、ノズルに対して常に同じ圧力が掛かるようにする点で、前述した第1実施形態とは異なる。
【0095】
具体的には、第1の実施形態の加圧タンク圧力調整部41に替わって、加圧タンク位置調整部45、インク液面検出部61、磁気目盛り62、加圧タンク位置検出部63、さらに加圧タンク大気開放部46が設けられる。
【0096】
また、負圧タンク50側についても、第1の実施形態の負圧タンク圧力調整部51に替わって、負圧タンク位置調整部55、インク液面検出部71、磁気目盛り72、負圧タンク位置検出部73、さらに負圧タンク大気開放部56が設けられる。
尚、本実施形態において、新たに付加される加圧タンク40側及び負圧タンク50側の構成は、いずれも同一機能を果たすため、以後、加圧タンク40側の構成の説明のみ行うものとする。
【0097】
インク液面検出部61は、加圧タンク40内に貯留されているインクの液面高さを検出する。磁気目盛り62は加圧タンク40の側面であって、後述する加圧タンク位置検出部63に対向する位置に設けられる。
加圧タンク位置検出部63は加圧タンク40に設けられた磁気目盛り62を検出する磁気センサであって、磁気目盛りを読み取ることで加圧タンク40の重力方向の高さ位置を検出する。
【0098】
加圧タンク位置調整部45は、インク液面検出部61の検出結果と加圧タンク位置検出部63の検出結果に基づき、加圧タンク40を重力方向に昇降させることで、加圧タンク40内のインク液面の絶対的高さ位置を調整する。尚、図6には、加圧タンク40を昇降させる機構についてはその図示を省略している。
【0099】
加圧タンク大気開放部46は、電磁バルブ等の外部機器からの制御入力に従って開閉するバルブが用いられており、バルブを開けることによって、加圧タンク40内の圧力を大気圧に調整するものである。
この構成により、加圧タンク位置調整部45は、記録ヘッド10に対して加圧タンク40の位置を上昇させることにより水頭圧を高くし、下降させることにより水頭圧を低くすることができる。
【0100】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、インク温度を記録可能温度範囲内に早く入れるためのインク加熱・冷却制御に対して、インク循環量を適宜変更する制御を行っている。しかし、インク循環量を変更するに伴って記録ヘッド内のインク圧力が変動してしまい、一時的にメニスカスを破壊してしまうおそれがある。
【0101】
これに対して、本実施形態では、加圧タンク位置調整部45及び負圧タンク位置調整部55が、加圧タンク40及び負圧タンク50の高さ位置を調整している。この高さ位置調整により、各タンク40,50のインク液面の絶対的高さが制御でき、インク循環量の変更に伴う圧力変動に対しても、記録ヘッド10内のインク圧力を一定に維持することが可能となり、常にメニスカスを形成した状態をつくることができる。
【0102】
また、加圧タンク内で、インクが使用されてインクが減少した場合又は、インク減少に伴い図示しないメインタンクからインクが補給された場合の何れの場合にも、加圧タンク40内でインク液面が昇降して、インク容量が変化するとしても、インク液面位置を検出して、ノズルに対して、同じ圧力が一定して掛かるようにインクタンクを高さ方向に移動させるものである。また、負圧タンク50においても負圧タンク位置調整部55により高さ位置が昇降されてノズルに対して同じ圧力(水頭圧)が掛かるように調整されている。
【0103】
よって、加圧タンク位置調整部45及び負圧タンク位置調整部55は、加圧タンク40及び負圧タンク50の昇降を組合せることにより、所望する水頭圧を維持しつつ、インク循環経路内におけるインク循環量を制御する。
【0104】
また、インクの循環時には、加圧タンク大気開放部46及び負圧タンク大気開放部56は、いずれも開放するか又は、負圧タンク大気開放部56のみを閉鎖して、負圧タンク50内を負圧にして、大気開放された加圧タンク40を昇降させてインク循環量を制御することも可能である。
【0105】
また、インク循環しない場合には、加圧タンク大気開放部46、負圧タンク大気開放部56を大気開放し、加圧タンク40、負圧タンク50を、記録ヘッド10よりも低い位置であって、両タンクとも同じ高さに設定することで、重力による水頭値を発生させることも可能である。
【0106】
以上のように本実施形態では、インク循環量を切り替えたとしても、変更したインク循環量の値に対応して、加圧タンク40及び負圧タンク50の重力方向の高さ位置を変更することにより、常にノズルに対して一定の圧力、例えばメニスカスを形成できる程度の圧力に調整することが可能となり、常にインク吐出が可能な状態を作り出せる。
【0107】
次に、第3の実施形態について説明する。
図7は、第3の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。本実施形態の構成部位について、前述した第1の実施形態と同等の構成部位には同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0108】
本実施形態では、第1の実施形態の加圧及び負圧タンク圧力調整部に替わって、加圧側インク経路流路抵抗調整部47及び負圧側インク経路流路抵抗調整部57を加圧タンク40及び負圧タンク50にそれぞれ設けた構成である。
【0109】
これらの加圧側インク経路流路抵抗調整部47は、インク供給経路31上に配置され、図示しないアクチュエーターによって、経路のチューブを閉塞して、加圧タンク40から温度調整部20に送液されるインク循環量を制御する。同様に、負圧側インク経路流路抵抗調整部57は、インク排出経路33上に配置され、図示しないアクチュエーターによって、経路のチューブを閉塞して、記録ヘッド10から負圧タンク50に送液されるインク循環量を制御する。
【0110】
以上のように本実施形態では、インク循環量制御部82が加圧側インク経路流路抵抗調整部47及び負圧側インク経路流路抵抗調整部57に経路のチューブを段階的に閉塞することにより、少なくとも30ml/min(低)、60ml/min(中)、90ml/min(高)の3つのインク循環量の切り換えを行う。尚、インク循環量の数値は一例である。
本実施形態は、前述した第1の実施形態と同じインクに対する温度制御を行うことにより、同等の作用効果を得ることができる。
【0111】
以上説明した第1乃至第3の実施形態において、記録ヘッドは、インクの循環機能を有しているものに適用することができ、例えば、ライン型記録ヘッドに代表される固定型記録ヘッドや、記録媒体記録面の幅方向(記録媒体の搬送方向と直交する方向)に走査移動する走査移動型記録ヘッドでもよく、実施形態に記載した構成に限定されるものではない。 さらに、本発明は、前述した各実施形態をそのままに実施することに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。
【0112】
また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成することができる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組合せてもよい。
【0113】
以上説明したように、本発明に従う各実施形態によれば、インク温度がインクを吐出する適正温度範囲外の温度であっても、インク温度制御(加温及び冷却)と、インク循環におけるインクの送液量(インク循環量)を、インク温度に合わせて切り換えて、記録ヘッドに流入するインク(温度調整部20から加温されて流出されたインク)のみの温度を部分的に高くして、記録開始可能な温度まで昇温して記録ヘッド10に供給することができる。このため、インク全体の昇温を待たずに、ファーストプリントタイムを短縮して記録を開始することができると共に、インク温度を早期に安定させることができるため、高画質の画像を得ることができる。
【0114】
尚、インク循環量については、最小であっても記録に適正な記録が実施できるインク循環量が確保されていることは当然である。また、記録動作もインク循環量制御部82は、加圧タンク40、負圧タンク50内の圧力を適正に制御を行い、記録中であっても記録ヘッド10内の圧力は、適正に保たれて記録動作になんら支障もないことも言うまでもない。
【符号の説明】
【0115】
1…記録装置、10…記録ヘッド、10a…流入用インクポート、10b…流出用インクポート、11…記録媒体、12…搬送機構、20…温度調整部、21…インク温度検出部、22…冷却ファン、23…ヒーター、24…外気温検出部、30…インク循環経路、31,32…インク供給経路、33…インク排出経路、34,35…インク帰還経路、40…加圧タンク、41…加圧タンク圧力調整部、45…加圧タンク位置調整部、50…負圧タンク、51…負圧タンク圧力調整部、55…負圧タンク位置調整部、60…ポンプ、80…制御部、81…インク温度制御部、82…インク循環量制御部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドに供給するインクの吐出可能温度を制御するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、記録ヘッドのノズルからインクを吐出し、記録媒体上に所望の画像を記録するインクジェット記録装置が知られている。この記録装置は、選択された画質モードの画像を記録するために、使用するインクにより定められたインク粘度領域内に維持する必要がある。これは、画像記録時に、その吐出可能粘度領域が外れた状態のインクを用いると、ノズルからの吐出が不安定になり、不吐出、飛行曲がり又は、ミスト発生等々の不具合が生じて、設定されていた高画質の画像が記録できない。
【0003】
そのため、インクが吐出可能な粘度領域内となるようにインク粘度を調製する必要がある。インク粘度には温度依存性があり、様々な環境下にインクジェット記録装置の設置されるため、その環境による周囲温度により粘度が変化して、適正粘度範囲を外れてしまうことがある。そのため、インク温度の調整手段を備えている。
【0004】
インク温度の調整手段の1つとして、インクを循環させるインク経路を用いることができる。これは、記録ヘッドに設けられたインクの流入口と流出口を、それぞれにインクタンクとチューブ等からなるインク経路で結び、記録ヘッドとインクタンクとの間で循環されるようにインクを流してインク循環経路を形成する。
【0005】
このインク循環経路上に温度調節手段を設けて、インクを循環しつつ、記録ヘッド内に供給されるインクが適正な温度になるように調整する。つまり、インク循環を行いつつ、起動時の低温のインクを加温し、且つヘッド駆動によって高温化した記録ヘッド内のインクを適正な温度のインクと入れ替えて、排出された高温のインクを冷却する。
【0006】
特許文献1には、記録ヘッドにインクの流入口と流出口が設けられ、それらからインクを循環供給し、さらにインクが吐出中であっても、循環供給可能である技術が提案されている。また、特許文献2には、記録ヘッドのインク循環経路を備え、さらに、インク温度を検知して、その温度に応じてインクの循環量を可変させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−175651号公報
【特許文献2】特開2008−23806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献1に記載されるインクの温度制御においては、高速記録を行ってインクが高温になった場合に、インク循環流量を増加して冷却効果を高めることと、必要によっては、インクタンクに冷却手段を備えることが提案されている。しかし、その内容は、概念的な発想のみであり、実施可能に詳細には記載されてはいない。特に、起動時などの低温から加温する制御については何も触れられていない。
【0009】
また、特許文献2における構成では、インク温度制御について、冷却については記載されているが、加温については記録ヘッドの発熱による依存する程度の記載である。この特許文献2においても、インクの温度制御方法については詳細な記載がなく、さらに、装置起動時の低温のインクに対する加温の制御については何も触れられていない。
【0010】
そこで本発明は、装置起動時など低温のインクから短時間で安定化した吐出可能温度範囲内にインクに加温して記録開始時間を早め、且つ安定した高画質の画像を記録するインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態は、ノズルからインクを吐出して記録媒体上に画像記録を行う記録ヘッドと、前記記録ヘッドに供給するインクを貯留する上流側インクタンクと、記録ヘッドで使用されずに排出されたインクを貯留する下流側インクタンクと、前記上流側インクタンクから前記記録ヘッドへ前記インクを流通するインク供給経路、前記記録ヘッドから下流側インクタンクへ前記インクを流通するインク排出経路及び、下流側インクタンクから上流側インクタンクへ前記インクを帰還させるインク循環経路により形成されるインク循環経路と、前記インク循環経路内にて、インクを通常と設定されたインク循環量で送液する第1のインク循環量と、該第1のインク循環量よりも高いインク循環量を送液する第2のインク循環量と、前記第1のインク循環量よりも低いインク循環量を送液する第3のインク循環量と、を切り換えて、インクを循環させるインク循環制御部と、前記インク循環経路内のインク温度を検出するインク温度検出部と、前記インク温度検出部で検出されたインク温度に基づき、所望するインク温度となるように加温又は冷却により制御するインク温度制御部と、を具備し、前記インク循環制御部は、 前記記録ヘッドの吐出可能インク温度より低い閾値温度1を設定すると共に、前記閾値温度1よりも低い温度のインクに対して、前記吐出可能インク温度までインク温度制御部によって加温する際に、前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1未満のときには、前記第2のインク循環量に設定し、前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1以上のときには、前記第3の循環量に設定するインクジェット記録装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装置起動時など低温のインクから短時間で安定化した吐出可能温度範囲内の温度のインクに加温して記録開始時間を早め、且つ安定した高画質の画像を記録するインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。
【図2A】図2Aは、インク循環量と温度調整部の加温時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の加温特性を示す図である。
【図2B】図2Bは、インク循環経路のインク温度と加熱されたインク温度とによる記録ヘッドに流入するインクの温度特性を示す図である。
【図2C】図2Cは、10℃のインクを温度調整部に供給した場合に記録ヘッドでのインク温度とそのために必要な加熱時間を示す図である。
【図2D】図2Dは、図2Cにおける温度上昇が逆転する部分を拡大して示す図である。
【図2E】図2Eは、第1の実施形態におけるインクの加温制御の特徴を示す図であり、図2A乃至図2Dをまとめた結果を示す図である。
【図3A】図3Aは、第1の実施形態のインクジェット記録装置におけるインク温度の加温とインク循環量の制御について説明するためのフローチャートの前半部分である。
【図3B】図3Bは、図3Aに続く、インク温度の加温とインク循環量の制御について説明するためのフローチャートの後半部分である。
【図4A】図4Aは、記録ヘッド内の圧力を一定に維持し、インク循環量を制御するための制御方法について説明するための図である。
【図4B】図4Bは、記録ヘッド内の圧力を一定に維持しインク循環量を制御する際に、インクの昇温時間を短縮した第1の実施形態の変形例について説明するための図である。
【図5A】図5Aは、記録可能温度範囲の上限値を越えた場合のインク冷却の温度制御について説明するためのフローチャートの前半部分である。
【図5B】図5Bは、図5Aに続く、インク冷却の温度制御について説明するためのフローチャートの後半部分である。
【図6】図6は、第2の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。
【図7】図7は、第3の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。
【図8A】図8Aは、インク循環量と温度調整部の冷却時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の冷却特性を示す図である。
【図8B】図8Bは、インク循環経路のインク温度と冷却されたインク温度とによる記録ヘッドに流入するインクの温度特性を示す図である。
【図8C】図8Cは、50℃のインクを温度調整部に供給した場合に記録ヘッドでのインク温度とそのために必要な冷却時間を示す拡大図である。
【図8D】図8Dは、第1の実施形態におけるインクの冷却制御の特徴を示す図であり、図8A乃至図8Cをまとめた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、第1の本実施形態に係るインクジェット記録装置(以下、記録装置と称する)におけるインク経路を概念的に示す図である。
【0015】
この記録装置1は、複数のノズル(図示せず)が形成された記録ヘッド10を備え、各ノズルが形成されたインク吐出面に対向した位置に、記録媒体11を搬送する搬送機構12が配置される。この搬送機構12は、例えば、ベルトが捲回された上面(記録ヘッドとの対向面)が平坦なプラテンと、そのベルトを回転させる駆動部とにより構成される。
【0016】
この記録装置1は、上流側インクタンクである加圧タンク40から記録ヘッド10にインクを供給するインク供給経路31(32)と、記録ヘッド10で吐出されなかったインクを負圧タンク50に排出するインク排出経路33と、下流側タンクである負圧タンク50から加圧タンク40にインクを戻すインク帰還経路34(35)と、により構成されるインク循環経路30を備えている。これらの経路は、樹脂や金属からなるチューブ等が用いられている。
【0017】
インク供給経路において、インク供給経路31とインク供給経路32との間に、インクを加温又は冷却して温度を調整する温度調整部20が設けられている。インク帰還経路において、インク帰還経路34とインク帰還経路35の間に、インクを送液するためのポンプ60が設けられている。また、インク経路上には図示していないが、気泡除去のためのエアバッファや異物除去のためのフィルタを必要に応じて設けられている。
【0018】
記録ヘッド10は、内部に各ノズルに繋がるインク室(図示せず)が設けられており、このインク室には、インクを流入させる流入用インクポート10aと、ノズルから吐出されなかったインクをインク室から排出させる流出用インクポート10bが設けられている。この流入用インクポート10aは、インク供給経路32に接続され、温度調整部20から温度調整されたインクを供給する。流出用インクポート10bは、インク排出経路33に接続され、記録ヘッド10から流出したインクを負圧タンク50へ排出する。
【0019】
また、流出用インクポート10bには、インク温度検出部21が設けられている。本実施形態では、インク温度検出部21を流出用インクポート10bに配置しているが、これに限定されず、流入用インクポート10a側に設けてもよいし、両方のインクポートに設けてもよい。又は、記録ヘッドのインク室内にインク温度検出部21を設けてもよい。
【0020】
このインク温度検出部21は、例えば熱電対等の公知な温度センサを用いている。本実施形態では、インク温度検出部21は記録ヘッド10から排出されたインクの温度を検出し、その検出結果を制御部80に出力する。インク13は、インク循環経路30内を循環しながら、主として、ヒーター23及び冷却ファン22を備える温度調整部20によって、加温又は冷却される。温度調整部20は、制御部80に制御されるインク温度制御部81の指示によって、インク温度が最適温度範囲内に入るように調整している。また、インク温度制御部81には、記録装置の周囲環境を検出するために、装置周囲の外気温を検出する外気温検出部24が設けられている。
【0021】
外気温検出部24による検出温度と、インク温度検出部21による検出温度とに基づいて、インク経路から輻射される熱量が求められ、その熱量に応じて後述するようにインク温度並びに循環量が制御される。
また、少なくとも画像記録時には、記録ヘッド10の各ノズルには、メニスカスが形成される。このメニスカスは、ノズルにインク室側(内部側)からの負圧を与えて形成される。
【0022】
搬送機構12によって搬送された記録媒体11は、記録ヘッド10のノズルの前方を通過する際に、記録媒体11の搬送と同期した吐出信号に基づいて、各ノズルからインク13が吐出されて、記録媒体11上に画像が記録される。この時、インク温度が例えば、20℃から30℃の範囲である場合には、この範囲内にインク13の温度を制御することによって、非常に良好なインク吐出特性となり、高画質の画像記録が実施できる。
【0023】
次に、インク循環経路30によるインクの循環制御について説明する。
まず、インクが循環していない状態は、インク循環経路30内が全体として、負圧になっている状態であり、記録ヘッド10内も負圧に保たれて、各ノズルにはメニスカスが形成されている。このインクが循環していない場合に、インク循環経路30内を負圧にする方法としては、記録ヘッド10より、重力方向において、下側にあるインクタンク、例えば負圧タンク50を大気開放し、記録ヘッド10よりも上にあるインクタンク、例えば、加圧タンク40を閉塞する方法がある。また、加圧タンク40、負圧タンク50が共に、記録ヘッド10よりも重力方向下側にあるならば、両方のインクタンクを大気開放しても良い。インクタンク内を大気開放又は、閉塞させる手段は、加圧タンク圧力調整部41、負圧タンク圧力調整部51内に配置される、図示していない電磁弁などでなされる。
【0024】
続いてインク循環時の制御について説明する。
加圧タンク40には、加圧タンク圧力調整部41がチューブにより接続されている。インク循環時は、加圧タンク圧力調整部41によって、加圧タンク40内の圧力は、正圧に加圧制御される。また負圧タンク50には、負圧タンク圧力調整部51がチューブにより接続されている。インク循環時は、加圧タンク40への正圧印加と同時、もしくは、それよりも若干早目に、負圧タンク圧力調整部51によって、負圧タンク50内の圧力が負圧に減圧制御される。ここで、負圧の方が同時か早めに動作させるのは、先に記録ヘッド10内が正圧に印加されるとノズルからのインク垂れが発生するため、これを防止するためである。
【0025】
これらの加圧、負圧インクタンク40,50内の圧力をそれぞれに制御することによって、加圧タンク40内のインク13がインク供給経路31に送り出される。さらに、インク13は、温度調整部20及びインク供給経路32を経由して、記録ヘッド10に流入する。その後、負圧タンク50の負圧によって、記録ヘッド10から吐出されなかったインク13が排出されて、インク経路33を経由して、負圧タンク50に入る。負圧タンク50に収容されたインク13は、循環ポンプ60によって、加圧タンク40に戻るように送液される。
【0026】
このようなインク循環において、インク循環量制御部82は、加圧タンク圧力調整部41、負圧タンク圧力調整部51及び、循環用ポンプ60を統合的に制御して、インク循環経路内を循環されるインク量(以下、インク循環量と称する)の増減を行う。インク循環量制御部82が、インク循環量を増加させる場合には、加圧タンク圧力調整部41による正圧と、負圧タンク圧力調整部51の負圧とのそれぞれの値を適宜に設定する。さらに、記録ヘッド10内のノズル圧を一定に保持すると共に、ポンプ60の送液量を増加させて、加圧タンク40及び負圧タンク50のインク液面高さが一定になるように制御する。
【0027】
反対に、インク循環量を減少させる場合は、前述したように加圧タンク圧力調整部41と負圧タンク圧力調整部51を適宜設定した後、記録ヘッド10内のノズル圧を一定に保持すると共に、ポンプ60の送液量を減少させて、加圧タンク40及び負圧タンク50のインク液面高さが元の適正値に戻るように制御する。
【0028】
また、記録ヘッド10による記録動作がなされ、インク吐出が行われている場合と、単純に循環している場合とでは、記録ヘッド10の上流側(流入インクポート)と下流側(流出用インクポート)とにおけるインク循環量は異なるので、これらを加味して、インク循環量の制御を行っている。つまり、インク吐出時の方が、非吐出時に比べて、記録ヘッド10から排出されるインク量は少なくなる。必要であれば、図示しないインク液面高さ検出により得られたインクタンク内インク量情報も参照できる。またインク吐出によって、インク循環経路内のインク総量は減少するため、これも図示しない別途、補給用のインクボトルによって、インク供給経路にインク13を補給することで、一定のインク循環量を維持させる。尚、インク補給の手法は、着脱可能なメインタンクを接続して、補充インクをサブタンクに流し込む手法や、別途加圧手段によってインク経路内に注入する手法等が考えられる。
【0029】
本実施形態では、寒冷地等において発生しやすい、コールドスタート等の現在のインク温度と、インク吐出時の最適温度範囲との間で温度差が大きい場合であって、インク温度検出部21で検出された現在(起動前)のインク13の温度が5℃の場合を例として、インク循環量制御方法について説明する。
【0030】
本実施形態で使用するインク吐出可能な温度範囲は、例えば、15℃〜40℃の範囲とすると、まずはこの範囲内に入るようにインク温度を制御しなければならない。そこで、温度調整部20内にあるヒーター23の加温によりインク温度を上昇させるが、インク循環を行う構成であるため、5℃から急峻に15℃以上に上昇させることはできない。さらに、より適正なインク吐出のための最適温度範囲としては、20℃〜30℃に設定されており、この範囲に維持することが、より安定した吐出を行うことができる。尚、本実施形態では、一例として、インク吐出可能な温度範囲を15℃〜40℃とし、より好ましい最適温度範囲を20℃〜30℃としているが、勿論、この範囲に限定されるものではなく、使用するインクの特性により適宜変更される。
【0031】
図2Aは、インク循環量と温度調整部20の加温時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の加温特性を示す図である。ここでは、インク循環経路30内に含まれるインク総量は、例えば、90mlとする。これをインク循環量制御部82によって、30ml/min(低:第3のインク循環量)、60ml/min(中:第1のインク循環量)、90ml/min(高:第2のインク循環量)の3つのインク循環量で送液した場合の温度調整部20における入口側、出口側のインク温度の平均値をプロットしている。尚、インク温度が適正温度範囲内にある通常の駆動時においては、インク循環量は、60ml/min通常(中)となる。
【0032】
インク13は、加温された後、インク循環経路30を循環するうちに、主として輻射により放熱され、ヒーター23で加熱された温度は、ノズルに到達するまで維持されずに温度降下する。このため、ノズルに到達したときに所望する温度に対して、予め輻射熱として放熱されるインク温度分を含めた温度を加熱後インク温度としている。
【0033】
図2Aにおいて、インク循環量を90ml/minで加温して、インクを一巡させると、循環開始時に5℃のインクは、インク全体が均一的に加熱されて、8℃に上昇し、再度、温度調整部20に戻ってくる。同様に、60ml/minにおいては、5℃のインクは、インク循環経路30を一巡すると、全体的に8.2℃に上昇する。また、30ml/minでは、5℃のインクは、インク循環経路30を一巡すると、全体的に9.3℃に上昇する。
【0034】
しかし、加温時間の観点からみると、インク循環量が異なるため、3分後のインク温度で見ると、それぞれ、90ml/minでは5℃のインクは、インク経路を3回分巡るので、12.5℃、60ml/minではインク経路を1.5回巡るので、10.8℃、30ml/minでは5℃のインクはインク経路を1回のみ巡るので、9.3℃となる。
【0035】
つまり、インク吐出可能な温度範囲の下限値であるインク温度15℃以上とするためには、インク循環量90ml/minにより、5℃のインクを5分以上、同様に60ml/minでは、5℃のインクを7分以上、30ml/minでは12分以上の加温時間が必要である。従って、非常に低いインク温度にある状態からインク循環経路全体におけるインクを加温するためには、インク循環量は多い方が好ましい。
【0036】
次に、図2Bは、インク循環経路のインク温度(ヒーター23で加熱される前のインク温度)と、温度調整部20のヒーター23で加熱されたインク温度とにより、記録ヘッド10に流入するインクの温度特性を示す図である。
【0037】
本実施形態におけるインク供給経路32(記録ヘッド10と温度調整部20との間)は、インク循環経路30の約1/6の長さを有している。このインク供給経路が短くなれば、即ち、記録ヘッド10と温度調整部20が近距離に配置される程、インク経路30からの輻射による放熱の影響は少なくなり、ヒーター23により上昇したインク温度はあまり下がらずにノズルまで到達する。また、インク循環量が低い方が、インク13への加熱がヒーター23により有効に行われるため、インク温度は高くなって、記録ヘッド10へ到達する。
【0038】
記録ヘッド10内におけるインク温度は、インク循環量30ml/minでは、5℃のインクがヒーター23によって上昇し、インク供給経路32における輻射によって放熱されたとしても、10℃以上で到達する。この場合、インク循環量(送液量)を増加させると、ヒーター23からインク13への伝熱量は同等であるが、単位インク量当たりに加熱する加熱時間が短いため、加熱後のインク温度は低くなる。しかし、インク量を減少させると、加熱直後のインク温度は高くなるが、外気との温度差も大きくなり、輻射による放熱が多くなる。
【0039】
本実施形態におけるインク循環経路30では、輻射による放熱を考慮しても、記録ヘッド位置では、インク循環量30ml/minが、加熱直後に最もインク温度が高くなり、9℃のインクをヒーター23に供給すれば15℃以上になるため、また、誤差を考慮しても、10℃のインクを温度調整部20に供給すれば、インク吐出可能温度範囲の下限である15℃を越えるインク温度に昇温させることができる。そして、ヒーターによって記録ヘッド10内におけるインク温度を15℃以上に加温できるヒーター入口温度を閾値温度1とし、ここではインク温度検出部21、外気温検出部24からのそれぞれの検出温度(5℃)に基づき、当該閾値温度1を9℃に設定している。ここでは、閾値温度1を9℃としたが、勿論、インクの種類等に応じて適宜、設定される温度である。
【0040】
図2Cにおいては、10℃のインクを温度調整部20に供給した場合に、記録ヘッド10でのインク温度とそのために必要な加熱時間を示している。
ここで、30ml/minでは、0.5分で15℃以上となっており、温度調整部20から流出したインクが、1/6経路分の記録ヘッド10の位置では、15℃以上になっている。しかし、それ以上のインク循環量では、30ml/minより時間がかかっている。但し、30ml/minで行う場合に、加温開始時のインクの温度が10℃以下の場合には、図2Aで述べたように、時間を要してしまうため、10℃以上のインク温度が必要となっている。
【0041】
また、図2Cでは、インクが15℃を越えて、さらに加熱されると、インク加温時間とインク温度の関係において、インク循環量によって逆転する。つまり、30ml/minより、60ml/min又は90ml/minの方が温度上昇は早くなる。
【0042】
図2Dは、この温度上昇が逆転する部分を拡大して示している。これは、インク温度が20℃の近辺において、それ以下の温度では、30ml/minの方が早く温度上昇するが、90ml/minの方が再び温度上昇が高くなっている。つまり、この20℃を越えた時点から、インク循環量を再び増加させた方が早くインク温度を昇温できる。この20℃を閾値温度2とする。例えば、インク温度を調整する上での目標値を、最適温度範囲の中央、例えば24℃に設定した場合などには、インク温度が20℃に達したならば、インク循環量を90ml/minに設定することで、より早く加温することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、記録ヘッド10における最適温度範囲内への到達を考慮した場合、単純にインク循環量を多くすれば良いとか、少なくすれば良いということではないことがわかる。
【0044】
図2Eは、本実施形態におけるインクの加温制御の特徴を示す図であり、図2A乃至図2Dの結果をまとめたものを示している。
加温開始時のインクの温度を5℃として、閾値温度1までインクを加温する。この時は、例えば、通常時を60ml/min(中)と仮定した場合、90ml/min(高)のように、インク循環量を通常時よりも多くする。前述したように、インク量を多くして、インク経路全体を加温することで、温度調整部20のヒーター23への供給インク温度をできるだけ早く昇温させる。これは、図2Aと図2Cで説明したように、インク温度が閾値温度1未満の5℃以下の場合に、インク循環量が少ないと、インク循環量が多い場合に比べて、適正インク吐出温度範囲内に到達するのに時間を要している。このため、閾値温度1未満のインク温度の時に、少ないインク循環量で加温を行うと、インク経路全体の昇温速度も遅くなり、結果的にインク吐出を開始できる時期が遅くなってしまう。
【0045】
次に、インク温度が閾値温度1に到達したならば、インク循環量を低下させる。実施形態では、30ml/minを提示している。これは、単位インク循環量当たりの伝熱量を増加することとなり、温度調整部20の近傍に配置されている記録ヘッド10にインク温度を下降させることなく供給できるためであり、インク温度がインク吐出可能温度範囲の下限である15℃に到達し、直ちにインク吐出可能となる。
【0046】
本実施形態によれば、この最初に記録開始できる時間(ファーストプリントタイム)は約3分であり、インク循環量を一定とした時の最速のファーストプリントタイムが約5分であることに比べて、大きく短縮できる。この2分の開始時間が早まることは、高速処理能力を有する画像記録装置においては、大きなメリットとなる。その2分の差において、記録装置の処理能力が例えば、100枚/分であれば200枚、200枚/分であれば400枚もの処理が完了していることとなり、さらに高速処理を行うほど顕著な効果が現れてくる。
【0047】
インク温度が15℃に達したとしても、インクの飛翔特性がより良好になる最適インク温度範囲に達していないので、継続してインクの加温を行う。その後、インク温度が20℃を越えると、インク循環量を通常時よりも多くするように切り換える。この切り換えにより、インク循環量を増加させると、図2Dに図示するように、より効果的に伝熱でき、インク温度をさらに挙げることができる。
【0048】
ここでは、インク循環量を90ml/min−30ml/min−90ml/minと切り換えた例を示しているが、インク温度が適正温度範囲内に入ってから所定時間後(例えば、5分後。この5分の間で目標温度である24℃に到達可能)には、インク循環量は90ml/minから通常時の60ml/min(中)に切り換えられる。
【0049】
以上のことから、循環するインクに対して加温する場合は、インク循環量を一定で加温する工程よりも、異なるインク循環量を適正に切り換えることにより、同じ装置構成によるインク温度調整部であっても、より早く且つより吐出可能なインク温度範囲、さらには最適温度範囲へ上昇させることができる。この結果、記録開始時間(ファーストプリントタイム)をより短くすることができ、効率の高い印刷を行うことができる。また、最適温度範囲へも早く到達できることから、高画質な画像をより早く且つ安定的に記録することができる。
【0050】
図3に示すフローチャートを参照して、本実施形態のインクジェット記録装置におけるインク温度の加温とインク循環量の制御について説明する。尚、以下の説明では、電源投入時に検出されるインク温度が最適インク温度範囲内か、最適インク温度範囲の下限値よりも低いか、の2通りに限定するものとして、検出されるインク温度が最適インク温度範囲の上限を超える場合については後述する。
【0051】
まず、ユーザーにより記録装置の本体電源がオンされる(ステップS1)。この電源オンにより、制御部80、インク温度制御部81、温度調整部20、インク循環量制御部82及び搬送機構などの各構成部が起動し、それぞれに初期化される。
【0052】
次に、インク温度検出部21により、現在のインク温度が検出されると共に、外気温検出部24により、現在の装置環境における外気温が検出される(ステップS2)。この検出されたインク温度が最適インク温度範囲内か否かを判定する(ステップS3)。ここでは、最適インク温度範囲は、20℃から30℃の範囲である。この判定で、検出されたインク温度が最適インク温度範囲内にあれば(YES)、通常時のインク循環量60ml/minに設定してインク循環を開始する(ステップS4)。そして、インク温度が最適インク温度範囲内で維持されるように、予め設定される目標温度24℃になるように、インク温度が調整される。その調整開始と同時に、図1に示す加圧タンク圧力調整手段41や負圧タンク圧力調整手段51、そして、循環ポンプ60の動作情報からインク循環量60ml/minに設定されたならば、記録媒体11に画像の記録を開始する(ステップS5)。
【0053】
一方、ステップS3の判定において、インク温度が最適インク温度範囲度外、即ちインク温度が20℃よりも低い場合(NO)、閾値温度1を算出する(ステップS6)。このステップS6では、外気温検出部24により検出した外気温度と、検出部21で検出されたインク温度、及び温度調整部20の温度調整能力、さらにインク経路30の伝熱特性とによって閾値温度1が算出される。
【0054】
次に、インク温度と算出された閾値温度1とを比較し、インク温度が閾値温度1以上か否かを判定する(ステップ7)。この判定で検出されたインク温度が例えば、閾値温度9℃未満であれば(NO)、図2Dで述べたように、インク循環量を90ml/min(高)に切り換えると共に(ステップS8)、温度調整部20のヒーター23によりインクを加温する(ステップS9)。この加温に際して、インク温度の検出を行いつつ、ステップS9に戻る。また、ステップS7の判定で、インク温度が閾値温度1以上であれば(YES)、インク循環量を30ml/min(低)に切り換えて(ステップS11)インク加温を行う(ステップS12)。
【0055】
次に、加温されるインク温度を検出して(ステップS13)、インク温度がインク吐出可能な温度範囲の下限値である15℃以上に達したか否かを判定する(ステップ14)。この判定でインク吐出可能な温度範囲内に入っていれば(YES)、画像記録を開始する(ステップS15)。尚、インク吐出可能な温度範囲を基準に画像記録を開始する場合、その温度範囲の下限値である15℃に達した時に画像記録が開始されるが、その記録開始時においてもインク循環量30ml/min(低)でインク加温は継続されている。
【0056】
このように、インク温度が閾値温度1に達した後、インク循環量を30ml/min(低)に切り換えることで、通常の60ml/min(中)に設定しているときや90ml/min(高)に設定しているときに比べて、ヒーター23によるインクの加温に対する全体的なエネルギーの伝達効率は低下するが、記録ヘッドに流入するインク(温度調整部20から加温されて流出されたインク)のみを部分的に加熱して、早くインク吐出可能な温度範囲、さらに最適温度範囲まで昇温して記録ヘッド10に供給することができる。
【0057】
次に、インク温度が前述した閾値温度2、即ち20℃以上か否かを判定する(ステップS16)。ここでは、閾値温度2を20℃としたが、勿論、インクの種類等に応じて適宜、設定される温度である。この判定において、インク温度が閾値温度2以上になるように加温を維持し(NO)、閾値温度2以上になったのであれば(YES)、時間計測を開始する(ステップS17)と共に、図2Eに示すように、インク循環量を90ml/min(高)に増加させて(ステップS18)、インク温度を検出する(ステップS19)。
【0058】
検出されたインク温度が24℃になったか否かを判定し(ステップS21)、24℃であれば(YES)、ステップS4に移行する。一方、インク温度が24℃になっていなければ(NO)、計測した時間が5分に達するまで、インク循環量を90ml/min(高)に保ち(ステップS22)、5分を経過したならば、ステップS4に移行して、インク循環量を60ml/min(中)に設定する。ここで5分を設定したのは、閾値温度2である20℃を越えてから5分経過後には、目標温度である24℃程度にインクを加温でき、理想のインク温度で画像記録が可能になることが、予め実験などで分かっているからためである。尚、設定される時間は、5分に限定されるものではなく、設計又は仕様により、適宜変更することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によるインク循環量をインク温度に基づいて切り換えることにより、インク温度を素早く上昇させることができ、記録開始時間(ファーストプリントタイム)を短縮できる。尚、インク循環量については、最小のインク循環量であっても、記録により消費されるインク量を補うことができるインク循環量が確保されていることは当然である。また、記録動作もインク循環量制御部82は、加圧タンク40、負圧タンク50内の圧力を適正に制御を行い、記録中であっても記録ヘッド10内の圧力は、適正に保たれて記録動作になんら支障もないことも言うまでもない。
【0060】
次に、記録ヘッド10内の圧力を一定に維持し、インク循環量を制御するためのインクタンク40,50内の圧力制御方法について説明する。
図4Aは、インク温度が20℃の時における水頭値(記録ヘッド10内のインクに掛かる圧力)、加圧タンク40及び負圧タンク50のそれぞれの圧力に対して、インク循環量を30,60,90ml/minに変えた例をそれぞれに示している。ここで、記録ヘッド10内の圧力は、加圧タンク40及び負圧タンク50の平均圧として設定される。また、インク循環量は、加圧タンク40と負圧タンク50との圧力差によって設定される。
【0061】
従って、インク循環量を変更させることによって、タンク40,50間の圧力差が変更される。例えば、インク循環量が少ない時には、圧力差は小さく、インク循環量が多い時には圧力差が大きくなるように、それぞれのタンク40,50内の圧力を制御する。また、記録ヘッド10内の圧力は、加圧タンク40の圧力と負圧タンク50の圧力の中心値に常に設定されるように制御する。
このように制御することにより、インク循環量の変更にかかわらず、記録ヘッド10内の圧力は常に一定となり、ノズルからのインク吐出には何ら影響を与えずに、インク循環量を制御することが可能となる。
【0062】
次に、インク温度が変動した場合には、記録ヘッド10内のインク圧力を一定に維持したまま、インク循環量を変更する場合であって、インクの昇温時間を短縮した第1の実施形態の変形例について、図4Bを参照して説明する。
【0063】
インクは、組成の大部分が液体成分であり、通常のインクは、重量のほとんどが溶剤成分で占められている。溶剤の粘度は、温度と関係があり、一般的には、温度が下がると粘度は上昇するものがほとんどであり、逆に昇温すると粘度が低下する。従って、溶剤が主成分であるため、インク温度が変動すると、インク粘度も変動する。
【0064】
さらに、インク循環量は、インク経路の流路抵抗が一定であれば、インク粘度と圧力によって決定される。従って、インク循環量を一定にする場合、インク温度が高まれば、インクタンク内圧力を低下させ、インク温度が低下すれば、インクタンク内圧力を上昇させる。また、インク循環量を増加させる場合には、インク温度を高めるか、インクタンク内圧力を高めることで成され、逆に減少させる場合には、インク温度を低下させるか、インク内圧力を減少させることで成される。
【0065】
本変形例は、これらを組合せて、インク温度毎にインク循環量を制御することに加えて、インクタンク内圧力を制御することで、常にインク吐出が可能なメニスカス状態をつくる例である。
まず、インク温度が5℃の場合、通常状態(常温)よりもインク粘度が高く、インク循環量も高く設定するため、インクタンク内圧力は最も高く制御され、本実施形態の場合、加圧タンクは、1160Pa、負圧タンクは−4160Paとすると、インク循環量が90ml/minでかつヘッド内圧力が適正値である、−1500Paに設定される。
【0066】
次に、インク温度が9℃に昇温すると、ヘッド内インク温度が15℃以上となるように、インク循環量を30ml/minに低下させる。そのため、加圧タンクは−930Pa、負圧タンクは−2060Paとすることで、ヘッド内圧力を−1500Paのまま、流量を低下させられる。
【0067】
さらに、インク温度が20℃に昇温した後、インク循環量を90ml/minに増加させて、インク昇温を効率的に行う。このインク流量の変更は、インク温度が5℃の時と同じであるが、インク温度が上昇し、インク粘度も低下しているため、加圧タンク圧力は−130Pa、負圧タンク圧力は−2870Paとなり、5℃の時よりも圧力差を小さく設定することで、ヘッド内圧力を−1500Paに維持しつつ、インク循環量を増加させることができる。
【0068】
以上説明したように、インク温度を昇温させながら、インク循環量をそれぞれ適切な値に変更しても、ヘッド内圧力は一定に維持することができるため、記録ヘッド10のノズルからのインク漏れ等は、勿論、発生せず、さらに記録ヘッド10からのインク吐出に影響するような記録ヘッド10内の圧力変動もないため、メニスカスが安定して形成されているため、インク温度が記録ヘッド10における吐出可能な温度範囲内に入った直後から、記録が開始できる状態に維持することができる。
【0069】
以上説明したようにインク温度とインク循環量を制御することで、起動時からのファーストプリントタイムを短縮して、効率の良い画像記録を安定して行うことができる。
【0070】
尚、インク循環量について、インク循環量が最小であっても記録に支障のない流量が確保されていることは言うまでもないことである。また、記録動作もインク循環量制御部82は、加圧タンク40及び負圧タンク50内のそれぞれの圧力を適正に制御して、記録媒体11に記録中であっても、記録ヘッド10内の圧力は適正に保たれており、記録動作になんら支障もないことも言うまでもない。
【0071】
次に、気温が高い環境下において、現在のインク温度が、インク吐出時の最適温度範囲に対して大幅に高い状態であって、インク温度検出部21で検出された現在(起動前)のインク13の温度が50℃の場合を例として、インク循環量制御方法について説明する。
【0072】
図8Aは、インク循環量と温度調整部20の冷却時間の関係によるインク循環経路全体におけるインク温度の冷却特性を示す図である。尚、インク循環経路30内に含まれるインク総量、及びインク循環流量は前述した値と同様である。この図8Aから分かるように、 55℃のインク温度をインク吐出可能な温度範囲の上限値であるインク温度40℃以下にするためには、インク循環量90ml/minにより4分以上、60ml/minでは6分以上、30ml/minでは9分以上の冷却時間が必要である。従って、非常に高いインク温度にある状態からインク循環経路全体におけるインクを冷却するためには、インク循環量は多い方が好ましい。
【0073】
次に、図8Bは、インク循環経路のインク温度(冷却ファン22で冷却される前のインク温度)と、温度調整部20の冷却ファン22で冷却されたインク温度とにより、記録ヘッド10に流入するインクの温度特性を示す図である。図8Bの縦軸は、インク経路の1/6の位置の温度を示すが、これは本実施形態における記録ヘッド10と温度調整部20(冷却ファン23)との間がインク循環経路30の約1/6の長さを有していることから、実質的に記録ヘッド10内におけるインク温度を示す。
【0074】
図8Bに示すように、50℃のインク温度に対して、インク循環量を90ml/minに設定して冷却すると、他のインク循環量に比べて記録ヘッド10の位置におけるインク温度を最も冷却させることが可能となる。そして、誤差を考慮しても46℃のインクを温度調整部20に供給すれば、インク吐出可能温度範囲の上限である40℃を下回るインク温度に冷却させることができる。そこで、冷却ファン22によって記録ヘッド10においてインク温度が40℃以下に冷却できるクーラー入口温度を閾値温度3とし、この閾値温度3を本実施形態では45℃に設定している。
【0075】
図8Cにおいては、50℃のインクを温度調整部20に供給した場合に、記録ヘッド10でのインク温度とそのために必要な冷却時間を示している。
インク循環量を30ml/minに設定した場合、50℃のインクは0.5分で40℃未満となっている。しかし、それ以上のインク循環量では、30ml/minの場合より40℃以下になるための時間がかかっている。但し、30ml/minで行う場合に、冷却開始時のインクの温度が46℃以上の場合には、図8Aで述べたように、その温度に到達するまでに時間を要してしまう。
【0076】
また、図8Cに示すように、インク温度が40℃を下回り、さらに冷却されると、その冷却時間によっては、インク循環量が90ml/minの方が30ml/minよりも温度を下げることが可能となる。
【0077】
図8Dは、本実施形態におけるインクの冷却制御の特徴を示す図であり、図8A乃至図8Cの結果をまとめたものを示している。
冷却開始時のインクの温度を55℃として、閾値温度3までインクを冷却する。この時は、例えば、通常時を60ml/min(中)と仮定した場合、90ml/min(高)のように、インク循環量を通常時よりも多くする。前述したように、インク量を多くして、インク経路全体を冷却することで、温度調整部20の冷却ファン22への供給インク温度をできるだけ早く下げる。これは、図8Aと図8Cで説明したように、インク温度が閾値温度3以上の46℃以上の場合に、インク循環量が少ないと、インク循環量が多い場合に比べて、インク吐出温度範囲内に到達するのに時間を要している。このため、閾値温度3以上のインク温度の時に、少ないインク循環量で冷却を行うと、インク経路全体のインク冷却速度も遅くなり、結果的にインク吐出を開始できる時期が遅くなってしまう。
【0078】
次に、インク温度が閾値温度3に到達したならば、インク循環量を30ml/minに低下させる。ここで、閾値温度3は、例えば46℃に設定する。但し、この温度に限定されるものではなく、インクの種別等により適宜設定される。
【0079】
本実施形態によれば、図8Dに示すように、55℃インクを冷却し始めてからインク吐出可能温度範囲の上限である40℃に達するまでにかかる時間、即ち冷却開始してから記録開始までの時間(ファーストプリントタイム)は約3分であり、インク循環量を一定とした時の最速のファーストプリントタイムが約4分であることに比べて、大きく短縮できる。
【0080】
インク温度が40℃に達したとしても、インクの飛翔特性がより良好になる最適インク温度範囲に達していないので、継続してインクの冷却を行う。その後、インク温度が30℃を下回ると、インク循環量を通常時よりも多くするように、90ml/minに切り換えている。この切り換えにより、インク循環量を増加させると、図8Cに図示するように、より効果的に伝熱でき、インク温度をさらに挙げることができる。
【0081】
図8Dでは、インク循環量を90ml/min−30ml/min−90ml/minと切り換えた例を示しているが、インク温度が適正温度範囲内(30℃以下)に入ってから所定時間後(例えば10分後。この10分の間で目標温度である24℃に到達可能)には、インク循環量は90ml/minから通常時の60ml/min(中)に切り換えられる。
【0082】
以上のことから、循環するインクに対して冷却する場合は、インク循環量を一定で冷却する工程よりも、異なるインク循環量を適正に切り換えることにより、同じ装置構成によるインク温度調整部であっても、より早く且つより吐出可能なインク温度範囲、さらには最適温度範囲にインク温度を低下させることができる。この結果、記録開始時間(ファーストプリントタイム)をより短くすることができ、効率の高い印刷を行うことができる。また、最適温度範囲へも早く到達できることから、高画質な画像をより早く且つ安定的に記録することができる。
【0083】
次に、前述した図8A乃至図8Dの説明を踏まえて、図5A,5Bに示すフローチャートを参照して、インクを冷却する手順を含む温度制御について説明する。尚、図5Aに示すステップSで前述した図3Aに示すステップSと同じものには、同じステップ番号を付して、その説明は簡略化する。以下に説明するインクの冷却は、電源投入時において、外気温度が最適インク温度範囲の上限値を越えている場合、あるいは、連続記録によってヘッドが昇温しそれに伴いインク温度が昇温して最適インク温度範囲の上限値を越えている場合に行われる。
【0084】
まず、記録装置の本体電源がオンにより各構成部が起動し(ステップS1)、現在のインク温度と外気温が検出され(ステップS2)、検出されたインク温度が最適インク温度範囲内か否かを判定する(ステップS3)。ここでは、電源投入時に検出されるインク温度が最適インク温度範囲内か、最適インク温度範囲の上限値よりも高いか、の2通りに限定するが、最適インク温度範囲内であれば、既述しているため、ここでの説明を省略する。ステップS3の判定において、インク温度が最適インク温度範囲度外、即ちインク温度が30℃よりも高い場合(NO)、閾値温度3を算出する(ステップS31)。この閾値温度3も前述した閾値温度1と同様、外気温検出部24により検出した外気温度と、検出部21で検出されたインク温度、及び温度調整部20の温度調整能力、さらにインク経路30の伝熱特性とによって算出される。ここでは、例えば46℃に設定される。勿論、この温度に限定されるものではない。
【0085】
次に、インク温度が閾値温度3以下か否か判定する(ステップS32)。この判定で、インク温度が閾値温度3を越えていたならば(NO)、インク循環量を90ml/min(高)に切り換えて(ステップS8)、冷却を行い(ステップS33)、インク温度を検出して(ステップS10)、ステップS32に戻る。ステップS32の判定で、インク温度が閾値温度3以下になったならば(YES)、インク循環量を30ml/minに減少させた上で(ステップS11)、インクの冷却を継続する(ステップS34)。
【0086】
次に、インク温度の検出を行い(ステップS13)、インク温度がインク吐出可能な温度範囲の上限値である40℃以下に達したか否かを判定する(ステップ35)。この判定で、インク吐出可能な温度範囲内ならば(YES)、記録媒体11への画像記録を開始する(ステップS15)。
【0087】
尚、インク吐出可能な温度範囲を基準として、画像記録を開始する場合、その温度範囲の上限値である40℃に達した時点で画像記録が開始されるが、その記録開始時においてもインク循環量30ml/min(低)でインク冷却は継続されている。このように、閾値温度3よりも高いインク温度のインクを冷却していき、インク温度が閾値温度3に達した後、インク循環量を30ml/min(低)に切り換えることで、通常の60ml/min(中に)設定したときに比べて、冷却ファン22によるインクの冷却に対する全体的なエネルギーの伝達効率は低下するが、記録ヘッドに流入するインク(温度調整部20から冷却されて流出されたインク)のみを部分的に冷却して、記録開始可能な温度まで冷却して記録ヘッド10に供給することができる。
【0088】
次に、インク温度が閾値温度4以下か否かを判定する(ステップS36)。閾値温度4は最適インク温度範囲の上限値である30℃に設定している。尚、上限値は、30℃に限定されるものではなく、適宜変更することができる。この判定において、閾値温度4以下になったのであれば(YES)、時間計測を開始し(ステップS17)、インク循環量を90ml/min(高)に増加させる(ステップS18)と共に、インクの冷却を行う(ステップS37)。そして、インク温度を検出する(ステップS20)。
【0089】
検出されたインク温度が24℃になったか否かを判定し(ステップS21)、24℃であれば(YES)、ステップS4に移行する。一方、インク温度が24℃になっていなければ(NO)、計測した時間が5分に達するまで、インク循環量を90ml/min(高)に保ち(ステップS22)、5分を経過したならば、ステップS4に移行して、インク循環量を60ml/min(中)に設定する。この設定は、5分を経過したならば、インク循環量を60ml/min(中)に設定する(ステップS4)。
【0090】
ここで、5分を設定したのは、閾値温度3である46℃以下になってから5分経過後には、目標温度である24℃程度にインクを冷却でき、理想のインク温度で画像記録が可能になることが、予め実験などで分かっているからためである。尚、設定される時間は、5分に限定されるものではなく、設計又は仕様により、適宜変更することができる。
【0091】
以上、説明したように、この第1実施形態によれば、インク吐出可能な温度範囲から外れた低い温度あるいは高い温度のインクを、インク吐出可能な温度範囲、ひいては最適温度範囲に向けてインク温度の調整を行うにあたり、インク吐出時のインク循環量に対して、始めは高く、次に低く、そして再び高くなるように調整しながらインク温度を調整(加温、冷却)することで、循環量を一定にする場合よりも、早くインク吐出可能な温度範囲内、最適温度範囲内にインク温度を調整することが可能になる。これにより、ファーストプリントを行うまでの時間を短縮でき、さらにインク温度調整のための電力を低下させることが可能となる。
【0092】
また、インク循環量を通常のインク吐出時から変更したとしても、インクタンク内の圧力を変更後のインク循環量に見合うように適宜調整することで、常にメニスカスを形成することができ、インク温度がインク吐出可能な温度範囲内にあればいつでも画像記録動作を行うことが可能となる。
【0093】
次に、第2の実施形態について説明する。
図6は、第2の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。本実施形態の構成部位について、前述した第1の実施形態と同等の構成部位には同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0094】
本実施形態では、インク循環量の制御については第1実施形態と同様であるものの、加圧タンク40及び負圧タンク50のインク液面を所定の高さに維持すると共に、加圧タンク40及び負圧タンク50の高さを適宜調整することによって、メニスカスを形成するように、ノズルに対して常に同じ圧力が掛かるようにする点で、前述した第1実施形態とは異なる。
【0095】
具体的には、第1の実施形態の加圧タンク圧力調整部41に替わって、加圧タンク位置調整部45、インク液面検出部61、磁気目盛り62、加圧タンク位置検出部63、さらに加圧タンク大気開放部46が設けられる。
【0096】
また、負圧タンク50側についても、第1の実施形態の負圧タンク圧力調整部51に替わって、負圧タンク位置調整部55、インク液面検出部71、磁気目盛り72、負圧タンク位置検出部73、さらに負圧タンク大気開放部56が設けられる。
尚、本実施形態において、新たに付加される加圧タンク40側及び負圧タンク50側の構成は、いずれも同一機能を果たすため、以後、加圧タンク40側の構成の説明のみ行うものとする。
【0097】
インク液面検出部61は、加圧タンク40内に貯留されているインクの液面高さを検出する。磁気目盛り62は加圧タンク40の側面であって、後述する加圧タンク位置検出部63に対向する位置に設けられる。
加圧タンク位置検出部63は加圧タンク40に設けられた磁気目盛り62を検出する磁気センサであって、磁気目盛りを読み取ることで加圧タンク40の重力方向の高さ位置を検出する。
【0098】
加圧タンク位置調整部45は、インク液面検出部61の検出結果と加圧タンク位置検出部63の検出結果に基づき、加圧タンク40を重力方向に昇降させることで、加圧タンク40内のインク液面の絶対的高さ位置を調整する。尚、図6には、加圧タンク40を昇降させる機構についてはその図示を省略している。
【0099】
加圧タンク大気開放部46は、電磁バルブ等の外部機器からの制御入力に従って開閉するバルブが用いられており、バルブを開けることによって、加圧タンク40内の圧力を大気圧に調整するものである。
この構成により、加圧タンク位置調整部45は、記録ヘッド10に対して加圧タンク40の位置を上昇させることにより水頭圧を高くし、下降させることにより水頭圧を低くすることができる。
【0100】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、インク温度を記録可能温度範囲内に早く入れるためのインク加熱・冷却制御に対して、インク循環量を適宜変更する制御を行っている。しかし、インク循環量を変更するに伴って記録ヘッド内のインク圧力が変動してしまい、一時的にメニスカスを破壊してしまうおそれがある。
【0101】
これに対して、本実施形態では、加圧タンク位置調整部45及び負圧タンク位置調整部55が、加圧タンク40及び負圧タンク50の高さ位置を調整している。この高さ位置調整により、各タンク40,50のインク液面の絶対的高さが制御でき、インク循環量の変更に伴う圧力変動に対しても、記録ヘッド10内のインク圧力を一定に維持することが可能となり、常にメニスカスを形成した状態をつくることができる。
【0102】
また、加圧タンク内で、インクが使用されてインクが減少した場合又は、インク減少に伴い図示しないメインタンクからインクが補給された場合の何れの場合にも、加圧タンク40内でインク液面が昇降して、インク容量が変化するとしても、インク液面位置を検出して、ノズルに対して、同じ圧力が一定して掛かるようにインクタンクを高さ方向に移動させるものである。また、負圧タンク50においても負圧タンク位置調整部55により高さ位置が昇降されてノズルに対して同じ圧力(水頭圧)が掛かるように調整されている。
【0103】
よって、加圧タンク位置調整部45及び負圧タンク位置調整部55は、加圧タンク40及び負圧タンク50の昇降を組合せることにより、所望する水頭圧を維持しつつ、インク循環経路内におけるインク循環量を制御する。
【0104】
また、インクの循環時には、加圧タンク大気開放部46及び負圧タンク大気開放部56は、いずれも開放するか又は、負圧タンク大気開放部56のみを閉鎖して、負圧タンク50内を負圧にして、大気開放された加圧タンク40を昇降させてインク循環量を制御することも可能である。
【0105】
また、インク循環しない場合には、加圧タンク大気開放部46、負圧タンク大気開放部56を大気開放し、加圧タンク40、負圧タンク50を、記録ヘッド10よりも低い位置であって、両タンクとも同じ高さに設定することで、重力による水頭値を発生させることも可能である。
【0106】
以上のように本実施形態では、インク循環量を切り替えたとしても、変更したインク循環量の値に対応して、加圧タンク40及び負圧タンク50の重力方向の高さ位置を変更することにより、常にノズルに対して一定の圧力、例えばメニスカスを形成できる程度の圧力に調整することが可能となり、常にインク吐出が可能な状態を作り出せる。
【0107】
次に、第3の実施形態について説明する。
図7は、第3の本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク経路を概念的に示す図である。本実施形態の構成部位について、前述した第1の実施形態と同等の構成部位には同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0108】
本実施形態では、第1の実施形態の加圧及び負圧タンク圧力調整部に替わって、加圧側インク経路流路抵抗調整部47及び負圧側インク経路流路抵抗調整部57を加圧タンク40及び負圧タンク50にそれぞれ設けた構成である。
【0109】
これらの加圧側インク経路流路抵抗調整部47は、インク供給経路31上に配置され、図示しないアクチュエーターによって、経路のチューブを閉塞して、加圧タンク40から温度調整部20に送液されるインク循環量を制御する。同様に、負圧側インク経路流路抵抗調整部57は、インク排出経路33上に配置され、図示しないアクチュエーターによって、経路のチューブを閉塞して、記録ヘッド10から負圧タンク50に送液されるインク循環量を制御する。
【0110】
以上のように本実施形態では、インク循環量制御部82が加圧側インク経路流路抵抗調整部47及び負圧側インク経路流路抵抗調整部57に経路のチューブを段階的に閉塞することにより、少なくとも30ml/min(低)、60ml/min(中)、90ml/min(高)の3つのインク循環量の切り換えを行う。尚、インク循環量の数値は一例である。
本実施形態は、前述した第1の実施形態と同じインクに対する温度制御を行うことにより、同等の作用効果を得ることができる。
【0111】
以上説明した第1乃至第3の実施形態において、記録ヘッドは、インクの循環機能を有しているものに適用することができ、例えば、ライン型記録ヘッドに代表される固定型記録ヘッドや、記録媒体記録面の幅方向(記録媒体の搬送方向と直交する方向)に走査移動する走査移動型記録ヘッドでもよく、実施形態に記載した構成に限定されるものではない。 さらに、本発明は、前述した各実施形態をそのままに実施することに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。
【0112】
また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成することができる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組合せてもよい。
【0113】
以上説明したように、本発明に従う各実施形態によれば、インク温度がインクを吐出する適正温度範囲外の温度であっても、インク温度制御(加温及び冷却)と、インク循環におけるインクの送液量(インク循環量)を、インク温度に合わせて切り換えて、記録ヘッドに流入するインク(温度調整部20から加温されて流出されたインク)のみの温度を部分的に高くして、記録開始可能な温度まで昇温して記録ヘッド10に供給することができる。このため、インク全体の昇温を待たずに、ファーストプリントタイムを短縮して記録を開始することができると共に、インク温度を早期に安定させることができるため、高画質の画像を得ることができる。
【0114】
尚、インク循環量については、最小であっても記録に適正な記録が実施できるインク循環量が確保されていることは当然である。また、記録動作もインク循環量制御部82は、加圧タンク40、負圧タンク50内の圧力を適正に制御を行い、記録中であっても記録ヘッド10内の圧力は、適正に保たれて記録動作になんら支障もないことも言うまでもない。
【符号の説明】
【0115】
1…記録装置、10…記録ヘッド、10a…流入用インクポート、10b…流出用インクポート、11…記録媒体、12…搬送機構、20…温度調整部、21…インク温度検出部、22…冷却ファン、23…ヒーター、24…外気温検出部、30…インク循環経路、31,32…インク供給経路、33…インク排出経路、34,35…インク帰還経路、40…加圧タンク、41…加圧タンク圧力調整部、45…加圧タンク位置調整部、50…負圧タンク、51…負圧タンク圧力調整部、55…負圧タンク位置調整部、60…ポンプ、80…制御部、81…インク温度制御部、82…インク循環量制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルからインクを吐出して記録媒体上に画像記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに供給するインクを貯留する上流側インクタンクと、
記録ヘッドで使用されずに排出されたインクを貯留する下流側インクタンクと、
前記上流側インクタンクから前記記録ヘッドへ前記インクを流通するインク供給経路、 前記記録ヘッドから下流側インクタンクへ前記インクを流通するインク排出経路及び、下流側インクタンクから上流側インクタンクへ前記インクを帰還させるインク循環経路により形成されるインク循環経路と、
前記インク循環経路内にて、インクを通常と設定されたインク循環量で送液する第1のインク循環量と、該第1のインク循環量よりも高いインク循環量を送液する第2のインク循環量と、前記第1のインク循環量よりも低いインク循環量を送液する第3のインク循環量と、を切り換えて、インクを循環させるインク循環量制御部と、
前記インク循環経路内のインク温度を検出するインク温度検出部と、
前記インク温度検出部で検出されたインク温度に基づき、所望するインク温度となるように加温又は冷却により制御するインク温度制御部と、を具備し、
前記インク循環量制御部は、
前記記録ヘッドのインク吐出可能な温度範囲より低い閾値温度1を設定すると共に、 前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1未満のときには、前記第2のインク循環量に設定し、
前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1以上のときには、前記第3の循環量に設定することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク温度制御部は、前記インク供給経路上に配設したことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インク温度検出部は、前記記録ヘッドの流入インクポート又は流出インクポート又は記録ヘッド内の何れかに配設され、吐出されるインク温度を検出することを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インク循環量制御部は、
上流側インクタンク内の圧力を調整する上流側インクタンク圧力調整部と、
下流側インクタンク内の圧力を調整する上流側インクタンク圧力調整部と、を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インク循環量制御部は、
前記記録ヘッドよりも重力方向上方に配置された前記上流側インクタンク内のインクの高さ位置を検出する第1のインク位置検出部と、
前記記録ヘッドよりも重力方向下方に配置された前記下流側インクタンク内のインクの高さ位置を検出する第2のインク位置検出部と、
前記第1のインク位置検出部により検出されたインクの高さ位置が予め設定された高さを維持するように、前記上流側インクタンクを重力方向に移動する上流側インクタンク位置調整部と、
前記第2のインク位置検出部により検出されたインクの高さ位置が予め設定された高さを維持するように、前記下流側インクタンクを重力方向に移動する下流側インクタンク位置調整部と、
を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インク循環量制御部は、
前記インク供給経路に設けられ、該インク供給経路における径を変化させることでインクに対する流路抵抗を調整するインク供給経路流路抵抗調整部と、
前記インク帰還経路に設けられ、該インク帰還経路における径を変化させることでインクに対する流路抵抗を調整するインク帰還経路流路抵抗調整部と、
を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
ノズルからインクを吐出して記録媒体上に画像記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに供給するインクを貯留する上流側インクタンクと、
記録ヘッドで使用されずに排出されたインクを貯留する下流側インクタンクと、
前記上流側インクタンクから前記記録ヘッドへ前記インクを流通するインク供給経路、 前記記録ヘッドから下流側インクタンクへ前記インクを流通するインク排出経路及び、下流側インクタンクから上流側インクタンクへ前記インクを帰還させるインク循環経路により形成されるインク循環経路と、
前記インク循環経路内にて、インクを通常と設定されたインク循環量で送液する第1のインク循環量と、該第1のインク循環量よりも高いインク循環量を送液する第2のインク循環量と、前記第1のインク循環量よりも低いインク循環量を送液する第3のインク循環量と、を切り換えて、インクを循環させるインク循環量制御部と、
前記インク循環経路内のインク温度を検出するインク温度検出部と、
前記インク温度検出部で検出されたインク温度に基づき、所望するインク温度となるように加温又は冷却により制御するインク温度制御部と、を具備し、
前記インク循環量制御部は、
前記記録ヘッドのインク吐出可能な温度範囲より高い閾値温度3を設定すると共に、 前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度3を越えるときには、循環するインクの量を前記第2のインク循環量に設定し、
前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度3以下のときには、循環するインクの量を前記第3の循環量に設定することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記インクジェット記録装置の前記前記インク循環量制御部において、
前記インク温度が前記閾値温度3以下で前記第3の循環量でインク循環された後、インク温度が前記インク吐出可能な温度範囲の上限となる閾値温度4以下であった場合には、インクを前記第2のインク循環量で送液し、予め定めた時間後に、前記第1のインク循環量に切り換えることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項1】
ノズルからインクを吐出して記録媒体上に画像記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに供給するインクを貯留する上流側インクタンクと、
記録ヘッドで使用されずに排出されたインクを貯留する下流側インクタンクと、
前記上流側インクタンクから前記記録ヘッドへ前記インクを流通するインク供給経路、 前記記録ヘッドから下流側インクタンクへ前記インクを流通するインク排出経路及び、下流側インクタンクから上流側インクタンクへ前記インクを帰還させるインク循環経路により形成されるインク循環経路と、
前記インク循環経路内にて、インクを通常と設定されたインク循環量で送液する第1のインク循環量と、該第1のインク循環量よりも高いインク循環量を送液する第2のインク循環量と、前記第1のインク循環量よりも低いインク循環量を送液する第3のインク循環量と、を切り換えて、インクを循環させるインク循環量制御部と、
前記インク循環経路内のインク温度を検出するインク温度検出部と、
前記インク温度検出部で検出されたインク温度に基づき、所望するインク温度となるように加温又は冷却により制御するインク温度制御部と、を具備し、
前記インク循環量制御部は、
前記記録ヘッドのインク吐出可能な温度範囲より低い閾値温度1を設定すると共に、 前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1未満のときには、前記第2のインク循環量に設定し、
前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度1以上のときには、前記第3の循環量に設定することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記インク温度制御部は、前記インク供給経路上に配設したことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インク温度検出部は、前記記録ヘッドの流入インクポート又は流出インクポート又は記録ヘッド内の何れかに配設され、吐出されるインク温度を検出することを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インク循環量制御部は、
上流側インクタンク内の圧力を調整する上流側インクタンク圧力調整部と、
下流側インクタンク内の圧力を調整する上流側インクタンク圧力調整部と、を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インク循環量制御部は、
前記記録ヘッドよりも重力方向上方に配置された前記上流側インクタンク内のインクの高さ位置を検出する第1のインク位置検出部と、
前記記録ヘッドよりも重力方向下方に配置された前記下流側インクタンク内のインクの高さ位置を検出する第2のインク位置検出部と、
前記第1のインク位置検出部により検出されたインクの高さ位置が予め設定された高さを維持するように、前記上流側インクタンクを重力方向に移動する上流側インクタンク位置調整部と、
前記第2のインク位置検出部により検出されたインクの高さ位置が予め設定された高さを維持するように、前記下流側インクタンクを重力方向に移動する下流側インクタンク位置調整部と、
を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インク循環量制御部は、
前記インク供給経路に設けられ、該インク供給経路における径を変化させることでインクに対する流路抵抗を調整するインク供給経路流路抵抗調整部と、
前記インク帰還経路に設けられ、該インク帰還経路における径を変化させることでインクに対する流路抵抗を調整するインク帰還経路流路抵抗調整部と、
を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
ノズルからインクを吐出して記録媒体上に画像記録を行う記録ヘッドと、
前記記録ヘッドに供給するインクを貯留する上流側インクタンクと、
記録ヘッドで使用されずに排出されたインクを貯留する下流側インクタンクと、
前記上流側インクタンクから前記記録ヘッドへ前記インクを流通するインク供給経路、 前記記録ヘッドから下流側インクタンクへ前記インクを流通するインク排出経路及び、下流側インクタンクから上流側インクタンクへ前記インクを帰還させるインク循環経路により形成されるインク循環経路と、
前記インク循環経路内にて、インクを通常と設定されたインク循環量で送液する第1のインク循環量と、該第1のインク循環量よりも高いインク循環量を送液する第2のインク循環量と、前記第1のインク循環量よりも低いインク循環量を送液する第3のインク循環量と、を切り換えて、インクを循環させるインク循環量制御部と、
前記インク循環経路内のインク温度を検出するインク温度検出部と、
前記インク温度検出部で検出されたインク温度に基づき、所望するインク温度となるように加温又は冷却により制御するインク温度制御部と、を具備し、
前記インク循環量制御部は、
前記記録ヘッドのインク吐出可能な温度範囲より高い閾値温度3を設定すると共に、 前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度3を越えるときには、循環するインクの量を前記第2のインク循環量に設定し、
前記インク温度検出部が検出したインク温度が前記閾値温度3以下のときには、循環するインクの量を前記第3の循環量に設定することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記インクジェット記録装置の前記前記インク循環量制御部において、
前記インク温度が前記閾値温度3以下で前記第3の循環量でインク循環された後、インク温度が前記インク吐出可能な温度範囲の上限となる閾値温度4以下であった場合には、インクを前記第2のインク循環量で送液し、予め定めた時間後に、前記第1のインク循環量に切り換えることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【公開番号】特開2011−140197(P2011−140197A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3316(P2010−3316)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(511050985)オルテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(511050985)オルテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】
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