説明

インクジェット記録装置

【課題】 搬送ローラの偏芯補正が適正に行われなかった場合でも偏芯ムラを軽減させることができ、搬送量に影響を与えることなく記録ヘッドのつなぎによる黒スジ・白スジの発生を防ぐことができるインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】 記録媒体および搬送手段の少なくとも一方から生じる搬送誤差要因に応じて補正値を算出する第1補正量算出手段を備える。記録媒体および搬送手段の搬送誤差要因と関連せずに副走査ごとの搬送量に変化を持たせるように補正値を算出する第2補正量算出手段を備える。第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の少なくとも一方を用いて搬送量の補正を行う搬送補正手段を備える。第2補正量算出手段で算出される副走査ごとの補正値は、同一記録領域に画像を形成するための記録パス数と同じ回数記録媒体を搬送したときの累積補正量が相殺される関係にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像情報に基づいて記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関し、詳しくはインクジェット記録装置における記録媒体の搬送補正手段に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写機等の画像形成装置は、画像情報に基づいて記録ヘッドにより記録媒体に画像を記録するように構成されている。記録媒体は、給紙部から給送された後、搬送手段により記録部を通して搬送され間に記録される。記録された記録媒体はさらに搬送されて装置本体から排出される。画像形成装置は記録ヘッドの記録方式により分類することができ、その一つに、記録ヘッドの吐出口から記録媒体へインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置がある。
【0003】
画像形成装置では、記録媒体を搬送する際、搬送ローラと記録媒体との間の摩擦力や搬送経路から記録媒体が受ける摩擦等が原因で、実際の搬送量が目標とする搬送量と異なる場合が生じることがある。このような搬送量の誤差に起因する記録画像の画質低下を防ぐために、例えば特許文献1には、記録ヘッドの走査ごとに搬送量を補正するとが提案されている。一方、搬送量は搬送ローラの回転量を検出するエンコーダにより制御されている。そのため、搬送ローラが偏芯していると、ローラの角度(位相)によって搬送量が異なり、搬送量に誤差が生じてしまう。例えば特許文献2には、搬送ローラの角度に応じて搬送量を補正することでローラの偏芯に起因する搬送誤差を補正することが提案されている。以上のような2つの補正を行うことで、記録ヘッドの各走査での搬送量が目標値となるように調整しながら記録することにより、画質低下を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−238969号公報
【特許文献2】特開平08−101618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、搬送ローラの偏芯量の補正においては、ローラ軸方向で偏芯の位相がずれている場合、軸方向の全ての領域で適正な補正を同時に行うことは困難である。特にインクジェット記録装置では、近年、記録液滴の微細化や一層の高画質化が求められるようになり、記録精度の向上が求められている。そのため、搬送量にわずかな誤差が生じた場合でも記録画像の画質に悪影響が及ぶ場合がある。具体的には、搬送ローラの円周長ピッチで画像に濃淡ムラ(ローラ偏心ムラ)が生じる場合がある。
【0006】
本発明はこのような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、搬送ローラの偏芯補正が適正に行われなかった場合でも偏芯ムラを軽減させることができ、搬送量に影響を与えることなく記録ヘッドのつなぎによる黒スジ・白スジの発生を防ぐことができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、インクを吐出する記録ヘッドを記録媒体の同一記録領域に対して複数回走査させることにより前記同一記録領域の画像を形成するインクジェット記録装置において、記録媒体を副走査方向に搬送する搬送手段と、記録媒体を搬送するときに記録媒体および前記搬送手段の少なくとも一方から生じる搬送誤差要因に応じて補正値を算出する第1補正量算出手段と、記録媒体を搬送するときに記録媒体および前記搬送手段の搬送誤差要因と関連せずに副走査ごとの搬送量に変化を持たせるように補正値を算出する第2補正量算出手段と、記録媒体を搬送するときに前記第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の少なくとも一方を用いて搬送量の補正を行う搬送補正手段と、を備え、前記第2補正量算出手段で算出される副走査ごとの補正値は、前記同一記録領域に画像を形成するための記録パス数と同じ回数記録媒体を搬送したときの累積補正量が相殺される関係にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、搬送ローラの偏芯補正が適正に行われなかった場合でも偏芯ムラを軽減させることができ、搬送量に影響を与えることなく記録ヘッドのつなぎによる黒スジ・白スジの発生を防ぐことができるインクジェット記録装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態に係るインクジェット記録装置の縦断面図
【図2】図2(a)は偏芯した搬送ローラの一例を示す断面図、図2(b)は搬送ローラの搬送開始点と累積搬送誤差の推移の一例を示すグラフ
【図3】搬送手段の搬送ローラの部分の構成を示す断面図
【図4】第2補正量算出手段の説明図
【図5】同一記録領域を複数記録パスで記録するときの記録ヘッドの記録エリアの移動推移を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一または対応部分を示すものである。図1は一実施形態に係るインクジェット記録装置1の縦断面図である。給紙部から給送されたシート状の記録媒体は搬送手段により記録部を通して搬送される。本実施形態では、一定寸法のカット紙Pを給送する給紙部21とロール状に巻回されたロール紙Rを給送する給紙部22が設けられている。給送された記録媒体は、搬送手段を構成する搬送ローラ2およびピンチローラ3からなる搬送ローラ対23により、まずプラテン24上の記録開始位置へ搬送される。プラテン24と対向する位置には搬送方向(複数走査方向)と交差する主走査方向に往復移動可能なキャリッジ4が配され、キャリッジ4には記録ヘッド13が搭載されている。
【0011】
記録媒体が記録開始位置まで搬送されると、不図示のモータにより、記録ヘッド13を搭載したキャリッジで主走査しながら、画像情報に基づいて記録ヘッドの吐出口(ノズル)から記録媒体へインクを吐出して画像を記録する。記録ヘッドによる1記録パス(1回の主走査)分の記録と、記録媒体の副走査(ピッチ搬送)とを交互に繰り返すことにより記録媒体上に画像を形成していく。記録された記録媒体は、排紙ローラ25および拍車26からなる排紙ローラ対27を通して排出される。なお、ロール紙Rの場合は、記録画像の後端近傍を切断して排出される。なお、記録媒体としては、シート状であれば、紙、プラスチックシート、印画紙、布など、画像記録が可能な種々の材質のものを使用することができる。
【0012】
インクジェット記録装置1には、CPU、メモリおよびI/O回路等を有するコントローラからなる制御手段50が設けられている。この制御手段50は、内部メモリに予め格納された制御プログラムに従い、駆動モータや各種装置の動作を制御する。これにより、記録媒体の給送および搬送の動作を制御するとともに、画像情報(記録信号や記録データ等)に基づいて記録ヘッド13を制御することにより、記録媒体に画像を形成していく。また、制御手段50は、後述する第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の補正値出力を制御するとともに、これらの補正量算出手段からの出力に基づいて搬送量の補正を行う搬送補正手段を制御する。さらに装置全体の動作やそのタイミングを制御している。
【0013】
ここで、搬送ローラ2の偏芯ムラについて説明する。図2(a)は偏芯した搬送ローラの一例を示す断面図であり、図2(b)は図2(a)の搬送ローラの記録開始角度と累積搬送誤差の推移を示すグラフである。図2(a)に示すローラは、偏芯が大きい搬送ローラの断面であり、半径OBはローラの中で最も大きい半径、半径ODは最も小さい半径である。ここでは、簡明化するため、ローラ円周を2inch(50.8 mm )とし、半径OAおよび半径OCは理想半径とし、弧DABと弧BCDの長さは等しいとする。図2(b)では、横軸は搬送ローラ2の記録開始時の角度位置(搬送開始点)を示し、縦軸は搬送ローラが180度回転して記録パスと同じ回数の搬送を繰り返して記録ヘッドの長さ分の記録を完了したときの累積搬送誤差の推移を示す。つまり、搬送ローラの搬送開始点による累積搬送誤差量の変化を示す。
【0014】
本実施形態では、記録ヘッド13の吐出口列の搬送方向長さ(記録ヘッドの長さ)を1inch(25.4mm)、記録ヘッドの長さ分の領域(同一記録領域とも称する)を記録するのに必要な記録パス数(主走査回数)を8とする。図2(b)は、1/8 inch (1記録パス分)の搬送を8回繰り返した後に、累積搬送量が理想搬送量(1inch)とどれだけ離れているかを示している。累積搬送誤差が+の場合は搬送量が多いことを、−の場合は搬送量が少ないことを示す。また、搬送ローラ2は、A地点からB→C→Dの方向へ回転することで記録媒体を1記録パス分ずつ搬送している。
【0015】
記録ヘッドの長さ分の記録を完了させるためには1inchの搬送が必要であるため、搬送ローラ2を180度回転させる必要がある。例えば、A地点から搬送を開始した場合は、B地点を経由してC地点まで回転させる必要がある。A地点からC地点はローラ径が大きい部分であるため、送り過ぎる方向に累積搬送誤差が発生する。一方、C地点から搬送を開始した場合は、ローラ径が小さい部分で搬送するため、送りが足りない方向に累積搬送誤差が発生する。従って、同一記録領域の記録を完成するときの、搬送開始点の角度に対する累積搬送誤差の誤差推移をプロットすると図2(b)のように表される。BおよびD地点から搬送を始めた場合は、ローラ径の大きい部分と小さい部分の両方を用いて搬送を行うことになるため、1/8inchごとの搬送量には誤差を生じるが、累積搬送量では相殺されている。
【0016】
このように、搬送ローラが偏芯している場合、累積搬送誤差量はローラ円周長(中心角360度)をピッチとした周期で推移し、累積搬送量は、記録パスごとの送り過ぎと送り不足が相殺されることで、記録ヘッド長さ分の一定量となる。一方、その場合の振幅Hは搬送ローラの偏芯量で決まり、振幅Hが大きいと、ローラ円周長における搬送量が大きい部分と小さい部分との濃淡差が目立ち、同一記録領域において搬送ローラ偏芯ムラとして認識される。
【0017】
図3は搬送手段の搬送ローラ2の部分の構成を示す断面図である。搬送ローラ2の一端部にはプーリ9が固定されており、搬送ローラ2はモータ8によりベルト7およびプーリ9を介して回転駆動される。また、搬送ローラ2の一端部にはロータリエンコーダ5が固定されており、ロータリエンコーダ5の回転をエンコーダセンサ11で検知することで搬送ローラ2の回転量(搬送長)および角度位置を検出することができる。搬送ローラ2による搬送動作はエンコーダセンサ11の検出結果に基づいて制御可能である。
【0018】
本実施形態では、ロータリエンコーダ5には周方向に1/360inch間隔でスリットもしくはコード10が形成されており、エンコーダセンサ11でこれを検知する。その検知結果に基づいて制御部50の演算部で処理を行うことにより、1/9600inch(9600dpi )単位で搬送長を制御することができる。また、ロータリエンコーダ5には搬送ローラ2の回転方向の基準位置を確認するためのホームポジションマーク12が設けられており、ホームポジションセンサ6でマーク12を検知することで搬送ローラ2の角度位置を確認することができる。
【0019】
次に、搬送手段による記録媒体の搬送方法について説明する。本実施形態では、搬送ローラ2の周長が2inch、記録ヘッド13の搬送方向長さ(同一記録領域の長さ)が1inchであり、8回の主走査(8記録パス)を行うことで同一記録領域の画像記録が完了する。すなわち、搬送ローラを22.5度回転させて記録媒体を1/8inch搬送させ、1/8inchずつの記録を8回繰り返すことで記録ヘッド長さ分の画像が形成される。本実施形態では、搬送ローラの偏芯状態や記録媒体の条件差などによらず、所要どおりの量(理想量)の搬送を目指す第1補正量算出手段と、各走査(記録パス)での搬送量に変化も持たせるための第2補正量算出手段と備えている。そして、これらの補正量算出手段の少なくとも一方を用いて同一記録領域の各搬送量を制御するように構成されている。
【0020】
すなわち、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、インクを吐出する複数(8つ)の吐出部を有する記録ヘッドを記録媒体の同一記録領域に対して主走査方向へ複数回(8回)走査させることにより同一記録領域の画像を形成するものである。そして、記録媒体を副走査方向に搬送する搬送ローラ2を有する搬送手段を備えている。また、上記第1補正量算出手段と、上記第2補正量算出手段と、記録媒体を搬送するときに上記第1補正量算出手段および上記第2補正量算出手段の少なくとも一方を用いて搬送量の補正を行う搬送補正手段と、を備えている。
【0021】
そこで、上記第1補正量算出手段は、記録媒体を搬送するときに記録媒体および搬送手段の少なくとも一方から生じる搬送誤差要因に応じて補正値を算出する。一方、上記第2補正量算出手段は、記録媒体を搬送するときに記録媒体および搬送手段の搬送誤差要因と関連せずに副走査ごとの搬送量に変化を持たせるように補正値を算出する。そして、上記第2補正量算出手段で算出される副走査ごとの補正値は、同一記録領域に画像を形成するための記録パス数と同じ回数記録媒体を搬送したときの累積補正量が相殺される関係にあるように制御される。
【0022】
ここで、上記第1補正量算出手段について具体的に説明する。まず、第1補正量算出手段においては、ローラの偏芯状態や記録媒体の条件の差によらず、各搬送で所要どうりの量の搬送を行うことを目指して搬送量の補正値を求める。本実施形態では、1/8inchの搬送を8回繰り返すことで画像を完成させるので、各記録パスごとの搬送量が1/8inchになるような補正値を出力する。例えば、図2(a)において、搬送ローラ径が大きいB地点に近い角度で搬送を行うときは、搬送量を少なくなるような補正値を出力する。搬送ローラ2のどの角度で搬送を行うかは、図3で示すホームポジションセンサ6によって検出する。この場合、制御部50には搬送ローラの角度座標ごとに最適な補正値が予め格納されており、その情報を用いて補正を行う。補正値は、1/9600inch(9600dpi )単位で出力される。
【0023】
また、搬送ローラ2の偏芯以外が原因となる理想搬送長との搬送ズレが想定される場合は、それに対しても最適な補正値が制御部50に格納されており、それぞれの条件に応じて補正を行うことができる。第1補正量算出手段が補正値を出力する環境としては、搬送経路の状態、記録媒体の種類、記録媒体の主走査方向の幅、給紙部の種類(カット紙・ロール紙)、記録装置本体の個体差などが挙げられる。例えば、搬送ローラと記録媒体との摩擦が小さく、滑りやすい記録媒体を搬送する場合は、搬送量を通常よりも多くするように補正する。補正値は1/9600inch(9600dpi )単位で出力される。これにより、搬送のローラの偏芯状態および記録媒体の条件の差によらず、各搬送で所要どおりの理想量を搬送させることを目指した補正を行う。
【0024】
次に、上記第2補正量算出手段について具体的に説明する。第2補正量算出手段は、各走査での搬送量に変化を持たせるために、前述の第1補正量算出手段の補正に加えてさらなる補正を行うものである。図4は第2補正量算出手段による補正例を従来例と対比して示す説明図である。図4(a)は従来例を用いて記録を行った記録物および記録物における吐出口配置を示し、図4(b)は本実施形態により記録を行った記録物および記録物における吐出口配置を示す。
【0025】
図4(a)中の(ア)は、従来例で第1補正量算出手段を適用することにより適正な補正が行われた状態を示す。図4(b)の(カ)は、本実施形態で第1補正量算出手段を適用することにより適正な補正が行われた状態を示す。ここで、幅W1は、1/8inchの搬送を8回繰り返した理想搬送量であり、これは同一記録領域における搬送長さである1inchである。〇は吐出部を示し、〇内の数字は同一記録領域の何回目の記録パスで記録されたものかを示す。従来例の(ア)では、1回目の搬送から8回目の搬送まで常に等間隔で搬送を行っている。そのため、1回目の記録領域と2回目の記録領域との間の隙間(記録されていない空間)をA1、2回目の記録領域から3回目の記録領域までの隙間をA2、・・・とすると、適正な補正が行われた場合はA1〜A7は全て0である。
【0026】
図4(b)の(カ)は本実施形態で第2補正量算出手段を適用して記録した状態を示す。(カ)では、前述の第2補正量算出手段を適用することで、1回目から8回目までの各搬送量に変化をつける制御を行う。この第2補正量算出手段で求めた補正値の位相は、図2(b)に示すように、同一記録領域の記録を完成させるための搬送量(搬送長さ)である1inchを周期(ピッチ)とする正弦波(図2(b))となっている。この正弦波の最大振幅は10μmである。そして、1回目の搬送に対する補正量をΔ1とし、2回目の搬送に対する補正量をΔ2とし、・・・8回目の搬送に対する補正量をΔ8とすると、Δ1〜Δ8の和(合計値)は+−が相殺されて0になる。そのため、本実施形態の第2補正量算出手段を適用して算出した合計の搬送量もW1(1inch)であり、この搬送量は従来例の(ア)の場合のW1と同じである。
【0027】
本実施形態の(カ)の場合、各搬送時において、理想搬送量である1/8inchよりも多く搬送する場合は各記録パス(各主走査)間に隙間が生じる。本実施形態では、1回目の記録パスと2回目の記録パスとの隙間B1を始め、2回目の記録パスと3回目の記録パスとの隙間B2、6回目の記録パスと7回目の記録パスとの隙間B6、7回目の記録パスと8回目の記録パスとの隙間B7などが発生している。一方、1/8inchよりも少なく搬送された記録パスの間では、B3〜B5に示すように記録パスが重なっているため、隙間は発生しない。すなわち、隙間B1〜B7の合計(和)は0では無い。この場合、記録パス間の隙間B1〜B7の和が大きくなるほど、記録されていない隙間の白地が目立つようになり、記録物が薄く見える。一方、隙間B1〜B7の和が小さければ、記録されていない隙間の白地が目立ちにくくなり、記録物が濃く見える。従って、従来例(a)の(ア)と本実施形態(b)の(カ)を比較すると、従来例の(ア)の方が濃く見える。
【0028】
図4(a)中の(イ)は従来例において第1補正量算出手段を適用しても適正な搬送が行われなかった状態を示す。具体的には、偏芯補正が適正に行われず、搬送量が多くなっている状態、例えば図2(a)においてA地点からC地点に搬送を行ったときに偏芯補正量が充分ではなく送り過ぎている状態を示す。この状態は、特に3〜5回目に搬送した際の誤差が大きい場合を例示している。そして、この図4(a)の従来例では、理想搬送量の1inchと比較すると、同一記録領域において送りすぎた量はW2−W1である。すなわち、1回目の記録パスと2回目の記録パスの間に隙間A´1が生じており、他の各記録パス間にも同様に隙間A´2〜A´7が生じており、これらの隙間A´1〜A´7の和はW2−W1と一致する。
【0029】
図4(b)の(キ)、すなわち本実施形態において第2補正量算出手段を適用して毎回の搬送量に変化をつける補正を行う場合も、1回目の記録パスと2回目の記録パスの間に隙間B´1が生じており、他の記録パスの間にも隙間が生じている。しかし、本実施形態では、毎回の目標搬送量に変化をつける補正を行っているので、B´3やB´5の隙間は従来例のA´3やA´5と比べて小さく、B´4では隙間が発生していない。ここで、従来例における(イ)の隙間A´1〜A´7の和から(ア)の隙間A1〜A7の和を引いたものをΔAとし、本実施形態における(キ)の隙間B´1〜B´7の和から(カ)の隙間B1〜B7の和を引いたものをΔBとする。そして、これらを比較すると、ΔA>ΔBであり、従来例の隙間ΔAの方が大きい。従って、従来例による(ア)と(イ)の記録物の濃さの差と、本実施形態による(カ)と(キ)の記録物の濃さの差を比較すると、従来例の方が濃淡差が大きいことになる。
【0030】
このように、従来例と比べると、本実施形態による第2補正量算出手段により各搬送量に変化を加えた方が、第1補正量算出手段で適正な補正が行われなかった場合でも、記録物の濃淡差を小さくすることで濃度差を見えにくくすることができる。従って、本実施形態によれば、従来例に比べ、搬送ローラの偏芯ムラによる濃度差を低減する上で一層有効かつ有利な搬送量補正方法が得られる。
【0031】
図5は複数(8回)の記録パスで同一記録領域の画像を形成するときの記録ヘッド13の記録エリアの移動推移を示す説明図である。本実施形態では、第2補正量算出手段で求める補正量ピッチ(補正量を周期変動させる距離)は、記録ヘッド13の長さに対応する同一記録領域の画像を完成させるために必要な記録パス数に、1回当たりの搬送量を積算した長さに設定されている。その理由を、以下に図5を用いて説明する。記録ヘッド13の長さ(例えばインク吐出列の搬送方向の長さ)は1inchである。この1inch長さの同一記録領域を記録するための記録パス数(記録ヘッド13による主走査の回数)は8である。図5中の〇数字は、斜線で示す記録エリアが8パス記録中の何パス目を記録したかを示す。
【0032】
図示のように、1パス目の記録では搬送方向最下流の吐出部(一定記録範囲の1/8の吐出部)を使用する。次いで、記録媒体を約1/8inchのピッチだけ搬送した後、2パス目の記録を行う。以下同様にして3パス目〜8パスを記録していくに従い、記録ヘッド13の使用エリア(使用吐出部)は次第に搬送上流側へ移動していく。そして、最上流の吐出部を使用して8パス目を記録することで、同一記録領域の画像形成(記録)を完了する。
【0033】
第2補正量算出手段で算出する補正量は、8記録パス分の搬送を行うことで相殺される。このため、最上流側の吐出部は、8パス目の記録で図示の斜線記録エリアの最上流部分(図示右側端の〇8中に示す斜線エリア)と一致する。仮に、第2補正量算出手段で算出した補正値が8パス目の搬送終了後に多く送る方向に残った場合は、記録ヘッド13(その最上流吐出部)が図示の斜線記録エリアから下流側へ抜け出すことになる。その場合は、記録媒体上に8パス目の記録が行われない部分が存在することになり、白スジの原因となる。逆に、第2補正量算出手段で算出した補正値が8パス目の搬送終了後に少なく送る方向に残った場合は、記録ヘッド13の最上流吐出部が図示の斜線記録エリアよりも上流側に残ってしまうことになる。その場合は、斜線記録エリアに9パス目の記録(次の記録範囲の1パス目の記録)が行われることになり、記録ヘッド間の黒スジの原因となる。
【0034】
本実施形態では、第2補正量算出手段で求める補正量ピッチ(周期変動の距離)を、画像を完成させるために必要な記録パス数に1回あたりの搬送量を掛けた長さ(本実施形態では1inch)としている。すなわち、第2補正量算出手段で算出される補正量は、同一記録領域に画像を形成するために必要な記録パス数と同一回数記録媒体を搬送することにより、同一記録領域における累積補正量が相殺される(一部もしくは全てが相殺される)関係になっている。これによって、記録ヘッド13(そのインク吐出部)のつなぎ目が原因となるスジの発生を軽減または無くすことができる。
【0035】
本実施形態では、第2補正量算出手段の補正量ピッチが1回の搬送量に記録パス数8を掛けたものである場合を例示したが、これは記録パス数の約数を掛けたものでも良い。例えば、本実施形態の場合、4を掛けた0.5inchでも良く、2を掛けた0.25inchを補正量ピッチとした補正手段であっても良い。その理由は、補正量ピッチが0.5inchであっても、あるいは0.25inchであっても、1inch搬送することで補正値(累積補正量)を相殺することができるからである。
【0036】
本実施形態では、第2補正量算出手段による搬送ごとの補正量推移を正弦波で表わしたが、この補正量推移は、例えば矩形波や三角波など、他の波形で表しても良い。さらに、第2補正量算出手段による搬送ごとの補正量のヒストグラムを正規分布として表しても良い。さらに、第2補正量算出手段は、搬送ごとに不規則な補正値を出力するが、記録パス数分、あるいは記録パス数を整数で割った回数分、補正値を累積することで相殺される関係であれば、その他の搬送誤差分布を用いて補正量を出力しても良い。
【0037】
以上の実施形態では、第1補正量算出手段と第2補正量算出手段の両方から出力される補正値に基づいて搬送誤差を補正する場合を説明した。ただし、本実施形態においては、第2補正量算出手段の補正量算出結果によっては第2補正量算出手段による補正を行わないように制御して良い。例えば、第2補正量算出手段で算出される搬送変動の振幅が搬送ローラの偏芯振幅よりも大きい場合は、第2補正量算出手段で算出される搬送変動の方が画像乱れの原因となることがある。このような状況のもとで第2補正量算出手段を用いる必要性が無いと判断した場合は、これを適用しないことにより一層高精度な記録を行うことが可能となる。第2補正量算出手段による搬送誤差の補正を必要としない場合の具体例として次のような場合を挙げることができる。すなわち、搬送ローラそのものが有する偏芯量が十分に小さい場合、第1補正量算出手段で算出された補正量が小さい場合、記録パス数が少ない場合、搬送ローラ偏芯ムラが見えづらい種類の記録媒体(例えば普通紙等)を搬送する場合、などが挙げられる。
【0038】
以上説明した実施形態によれば、記録パスごとの目標搬送量を一定にしないので、搬送ローラの偏芯補正が適正に行われなかった場合でも偏芯ムラを軽減させることができ、搬送量に影響を与えることなく記録ヘッドのつなぎによる黒スジ・白スジの発生を防ぐことができるインクジェット記録装置が提供される。つまり、各搬送ごとの搬送誤差を搬送ローラの偏芯位相と連動しない誤差とすることで、記録物にはランダムな画像の変化を生じさせて周期的な搬送ローラ偏芯ムラを軽減させることが可能となる。また、同一記録領域の画像を記録するのに必要な記録パス数と同じ回数だけ搬送したときに累積補正量が相殺されるので、搬送量に影響を与えることなく、同一記録領域における搬送誤差を有効に低減することができるとともに、記録ヘッドのつなぎ目に起因する黒スジや白スジの発生を防ぐことができる。また、本実施形態に係る第2補正量算出手段は搬送ローラ偏芯ムラが大きくなりやすい場合にのみ適用することができ、これによって、補正が原因となる画像乱れの発生を軽減することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 インクジェット記録装置
2 搬送ローラ
3 ピンチローラ
4 キャリッジ
13 記録ヘッド
23 搬送ローラ対
50 制御手段
W1 一定記録範囲に対する理想搬送量
W2 一定記録範囲に対する搬送量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドを記録媒体の同一記録領域に対して複数回走査させることにより前記同一記録領域の画像を形成するインクジェット記録装置において、
記録媒体を副走査方向に搬送する搬送手段と、
記録媒体を搬送するときに記録媒体および前記搬送手段の少なくとも一方から生じる搬送誤差要因に応じて補正値を算出する第1補正量算出手段と、
記録媒体を搬送するときに記録媒体および前記搬送手段の搬送誤差要因と関連せずに副走査ごとの搬送量に変化を持たせるように補正値を算出する第2補正量算出手段と、
記録媒体を搬送するときに前記第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の少なくとも一方を用いて搬送量の補正を行う搬送補正手段と、
を備え、
前記第2補正量算出手段で算出される副走査ごとの補正値は、前記同一記録領域に画像を形成するための記録パス数と同じ回数記録媒体を搬送したときの累積補正量が相殺される関係にあることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第2補正量算出手段による搬送ごとの補正量推移を正弦波で表すことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第2補正量算出手段による搬送ごとの補正量推移を矩形波で表すことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第2補正量算出手段による搬送ごとの補正量推移を三角波で表すことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第2補正量算出手段による搬送ごとの補正量のヒストグラムを正規分布とすることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の両方を用いて補正を行う前記搬送補正手段の使用の可否を、前記第1補正量算出手段の補正値に応じて決定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の両方を用いて補正を行う前記搬送補正手段の使用の可否を、前記搬送手段のローラの偏芯量に応じて決定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の両方を用いて補正を行う前記搬送補正手段の使用の可否を、前記記録パス数に応じて決定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記第1補正量算出手段および第2補正量算出手段の両方を用いて補正を行う前記搬送補正手段の使用の可否を、記録媒体の種類に応じて決定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−93110(P2011−93110A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246438(P2009−246438)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】