説明

インクジェット記録装置

【課題】乾燥性能を維持しつつ、カックルとスタッカーブロッキングとの両方を効果的に抑止することができる。
【解決手段】記録媒体22上に水性インクを打滴して記録面を形成する描画部14と、画像が形成された記録面を乾燥する乾燥部16とを少なくとも備えたインクジェット記録装置1において、乾燥部16は、記録面と該記録面の反対面である裏面とを両面加熱して記録面の乾燥を行う両面加熱手段15と、記録媒体22の紙厚情報に応じて記録面と裏面とに付与する加熱強度を個別に制御する乾燥制御部134、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に係り、特に、乾燥性能を維持しつつカックルとスタッカーブロッキングの両方を効果的に抑止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを用いるインクジェット記録方法では、紙などの記録媒体にインク水分が浸透することによって記録媒体のセルロース繊維が膨張変形し、記録媒体の描画部分が波打つ現象(以下「カックル」という)が生じる。カックルが生じると、記録品位を低下させるため、特にインク打滴量が多い場合において顕著な問題になる。
【0003】
また、両面印刷時には、表面に打滴してカックルが生じた記録媒体の裏面に更に打滴することになるので、記録媒体が打滴ヘッドに接触することがあり、さらに大きな問題となる。
【0004】
カックル抑止のためには、インク水分の記録媒体への浸透をできるだけ抑えるために打滴後に記録面を速やかに乾燥することが必要になる。例えば、特許文献1には、所定の温度に温調したドラム接触面に記録媒体の裏面を密着させて加熱搬送しながら記録媒体の印刷面を熱風乾燥し、記録面と裏面とを両面加熱することで印刷面の乾燥を促進することが記載されている。
【0005】
しかし、記録面の乾燥を促進すると乾燥後の排出部での記録面温度が過剰に高くなり、記録媒体を排出トレイに積層させたときに記録媒体同士が付着してブロック化する現象(以下、「スタッカーブロッキング」という)が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−179012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、カックルを抑止するために記録面の乾燥を促進するとスタッカーブロッキングが生じ、スタッカーブロッキングを生じないように記録面の乾燥促進を抑えるとカックルが生じる。また、乾燥不足に起因して記録面の乾燥が不十分な場合にもスタッカーブロッキングが生じてしまうので、乾燥性能は維持する必要がある。
【0008】
そして、従来のインクジェット記録装置の乾燥部では、乾燥性能を維持しつつ、カックルとスタッカーブロッキングとの両方を効果的に抑止できていないのが実情である。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、乾燥性能を維持しつつ、カックルとスタッカーブロッキングとの両方を効果的に抑止することができるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願請求項1のインクジェット記録装置は、前記目的を達成するために、記録媒体上に水性インクを打滴して記録面を形成する描画部と、前記画像が形成された記録面を乾燥する乾燥部とを少なくとも備えたインクジェット記録装置において、前記乾燥部は、前記記録面と該記録面の反対面である裏面とを両面加熱して前記記録面の乾燥を行う両面加熱手段と、前記記録媒体の紙厚情報に応じて前記記録面と前記裏面とに付与する加熱強度を個別に制御する乾燥制御部、を備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで加熱強度を個別に制御するとは、記録面と裏面とに付与する温度あるいは熱量を、それぞれ独自に制御することをいう。また紙厚情報は坪量を知ることで得ることができる。
【0012】
本発明によれば、記録媒体の画像が形成された記録面と、その裏面とを両面加熱して記録面の乾燥を促進する際に、記録媒体の紙厚に応じて記録面と裏面とに付与する加熱強度を個別に制御するようにしたので、乾燥性能を維持しつつ、カックルとスタッカーブロッキングとの両方を効果的に抑止することができる。
【0013】
本発明のインクジェット記録装置において、前記乾燥制御部は、前記記録媒体の紙厚が厚くなるほど、前記記録面側よりも前記裏面側に付与する加熱強度が大きくなるように制御することが好ましい。
【0014】
記録媒体の紙厚が厚くなるほどカックルが発生しにくい一方、紙厚の厚い記録媒体は熱容量が大きく乾燥で昇温した記録面温度が下がり難い。これにより、印刷面に粘着性を有するのでスタッカーブロッキングが起き易い。また、紙厚が厚くなると、乾燥不足になり易く、乾燥不足に起因するスタッカーブロッキングが起き易い。
【0015】
したがって、本発明のように記録媒体の紙厚が厚くなるほど、記録面側よりも裏面側に付与する加熱強度が大きくなるように制御することで、乾燥性能を維持しつつ記録面の温度上昇を抑えることができる。これにより、スタッカーブロッキングの発生を効果的に抑止できる。
【0016】
本発明のインクジェット記録装置において、前記乾燥制御部は、前記記録媒体の紙厚に対応する紙種類ごとに、前記水性インクの打滴量と乾燥後の記録面の許容限界温度との関係テーブルが予め入力された記憶部と、紙種類と打滴量とを入力する入力部と、を備え、前記乾燥制御部は、入力された紙種類及び打滴量によって関係テーブルから選択される記録面の許容限界温度を超えないように前記記録面と裏面とを個別に制御することが好ましい。
【0017】
これにより、スタッカーブロッキングが発生しない最高温度で記録面を加熱することができるので、カックルが発生しないように記録面の乾燥を促進しつつ、スタッカーブロッキングの発生を抑止できる。
【0018】
本発明のインクジェット記録装置において、前記乾燥制御部は、前記乾燥部で乾燥された記録媒体の記録面温度を測定する非接触式の温度センサを有し、該温度センサの測定温度に応じて前記記録面と前記裏面とに付与する加熱強度を個別に制御することが好ましい。
【0019】
このように、乾燥後の記録媒体の記録面温度を実際に測定することで、スタッカーブロッキングが発生しない限界まで記録面温度を上げることができるので、乾燥性能を効果的に維持しつつスタッカーブロッキングを抑止できる。
【0020】
本発明のインクジェット記録装置において、前記乾燥制御部は、前記描画部で打滴された記録媒体の伸縮量を測定する伸縮量センサを有し、該伸縮量センサの測定伸縮量に応じて前記記録面と前記裏面とに付与する加熱強度を個別に制御することが好ましい。
【0021】
カックルは、水性インクが記録媒体に浸透することにより記録媒体のセルロース繊維が膨張変形することによって生じるが、セルロース繊維自体の膨張量はインクジェット記録装置が置かれる温湿度環境によって異なる。例えば、梅雨時の環境のように記録媒体が湿気を吸った状態では水性インクを打滴する前に記録媒体自体がある程度膨張しているので、インク打滴時の膨張率は小さくなる。逆に冬場のように乾燥した環境では記録媒体自体が乾燥しているので、インク打滴時の膨張率は大きくなる。
【0022】
したがって、描画部で打滴された記録媒体の実際の伸縮量に応じて記録面と裏面とに付与する加熱強度を個別に制御すれば、装置が置かれた温湿度環境に関係なくカックルを精度良く抑止できる。
【0023】
本発明のインクジェット記録装置において、前記乾燥部は、前記記録媒体の裏面側を吸着させて搬送するドラムと、前記ドラムの外周面に沿って設けられ、前記記録媒体の記録面側を加熱する第1加熱手段と、前記ドラムの外周面を加熱することで前記吸着搬送される記録媒体の裏面を接触加熱する第2加熱手段と、を備えることが好ましい。
【0024】
このように記録媒体の裏面を乾燥ドラムの外周面に接触させて加熱する接触加熱方式を採用することにより、記録媒体の裏面に対する加熱制御の応答性や精度を良くすることができる。
【0025】
本発明のインクジェット記録装置において、前記描画部の前段に、前記水性インクを増粘させる機能を有する凝集剤を含む処理液を前記記録媒体上に付与する処理液付与手段を備えることが好ましい。
【0026】
記録媒体上に打滴した水性インクが迅速に凝集して増粘性が高くなることにより、カックルとスタッカーブロッキングを発生しにくくできる。
【0027】
本発明のインクジェット記録装置において、前記乾燥部の後段に、前記記録面を硬化する硬化部を備えることが好ましい。
【0028】
記録面を硬化することによりスタッカーブロッキングを一層発生しにくくできる。
【0029】
本発明のインクジェット記録装置は、請求項1〜8の何れか1の構成を直列に2段に設け、前記記録媒体の両面に画像を形成することを特徴とする。
【0030】
記録媒体の両面に画像を形成する両面印刷タイプのインクジェット記録装置の場合には、表面に打滴してカックルが生じた記録媒体の裏面に更に打滴することになるので、記録媒体が打滴ヘッドに接触することがあり、本発明が一層有効である。
【発明の効果】
【0031】
本発明のインクジェット記録装置によれば、乾燥性能を維持しつつ、カックルとスタッカーブロッキングとの両方を効果的に抑止することができる。また、記録媒体の両面に画像を形成する両面印刷の装置構成において、本発明は特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の全体構成を説明する概略図
【図2】中間搬送部の構造を説明する断面図
【図3】乾燥部の加熱制御系を説明する概念図
【図4】乾燥部の加熱制御系の別態様を説明する概念図
【図5】排出部に配置された記録面温度センサを説明する説明図
【図6】インクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図である。
【図7】実施例を説明する表図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面に従って、本発明に係るインクジェット記録装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0034】
[インクジェット記録装置の全体構成]
まず、本発明の実施形態であるインクジェット記録装置の全体構成を説明する。
【0035】
図1は、本発明の実施の形態のインクジェット記録装置1の全体構成を説明する概念図である。
【0036】
同図に示すインクジェット記録装置1は、記録媒体22の記録面に画像を形成する装置であり、主として給紙部10、処理液付与部12、描画部14、乾燥部16、硬化部18及び排出部20で構成される。
【0037】
給紙部10には記録媒体22(枚葉紙)が積層されており、この記録媒体22が給紙部10から処理液付与部12に送られ、処理液付与部12で記録面に処理液が付与された後、描画部14で記録面に各種色の水性インク(以下、単にインクという)が打滴される。インクが打滴された記録媒体22は、乾燥部16で水分を乾燥後、硬化部18で画像が堅牢化された後、排出部20によって搬送され、排出トレイ92に積層される。
【0038】
上記各部の間には中間搬送部(渡し胴)24、26、28が設けられ、この中間搬送部24、26、28によって記録媒体22の受け渡しが行われる。即ち、処理液付与部12と描画部14との間には、第1の中間搬送部24が設けられ、この第1の中間搬送部24によって処理液付与部12から描画部14への記録媒体22の受け渡しが行われる。同様に、描画部14と乾燥部16との間には、第2の中間搬送部26が設けられ、この第2の中間搬送部26によって描画部14から乾燥部16への記録媒体22の受け渡しが行われる。さらに、乾燥部16と硬化部18との間には、第3の中間搬送部28が設けられ、この第3の中間搬送部28によって乾燥部16から硬化部18への記録媒体22の受け渡しが行われる。
【0039】
第1〜第3の中間搬送部24、26、28は共通の構造であり、図2に示すように、周として中間搬送体30と搬送ガイド32とで構成される。
【0040】
中間搬送体30は回転可能に設けられると共に、中間搬送体30の表面には、記録媒体22の記録面に対して送風を送り出すための複数の送風口36が形成されている。この場合、複数の送風口36から記録媒体22の記録面に対して、送風をほぼ垂直に送出させることが望ましい。送風口36から送り出される風により、記録媒体22を搬送ガイド32に沿わせて回転移動させるので、中間搬送体30と記録媒体22の記録面の接触が回避され中間搬送体30への処理液の付着を回避できる。
【0041】
また、中間搬送体30は、送風口36から送り出される送風を一部規制する送風規制ガイド40を内部に備える。送風規制ガイド40は、記録媒体22の記録面と対峙する方向の送風口36から送風を送り出すように送風の向きを規制している。送風規制ガイド40により送風の向きを規制することにより、より確実に送風口36から送り出される送風により、記録媒体22を搬送ガイド32に沿わせて回転移動させるので、より確実に中間搬送体30と記録媒体22の記録面の接触が回避され中間搬送体30への処理液の付着を回避できる。また、送風口36から吹き出される風は、記録媒体22の記録面に送風を送出して正圧を付与するものであるが、記録媒体22の回転方向と逆方向の力を作用させるバックテンション付与手段としての機能も発揮し、記録媒体22の記録面にバックテンションを作用させながら記録媒体22を回転移動させる。これにより、記録媒体22は、例えば描画ドラム70の保持手段71に記録媒体22の先端が保持されて密着搬送される際に、送風口36からの送風により記録媒体22の後端の記録面にバックテンションが作用し、記録媒体22が描画ドラム70へ搬送された時にシワ、浮きが生じない。
【0042】
また、搬送ガイド32は、中間搬送体30に近接配置されている。そして、搬送ガイド32は、円弧形状に形成され、記録媒体22の裏面にバックテンションを作用させながら記録媒体22の回転移動を案内する。具体的には、搬送ガイド32は、中間搬送体30の保持手段34が円軌跡を描く位置に対峙し、記録媒体22の搬送を案内するガイド面30aを備え、記録媒体22の回転方向と逆方向の力を作用させるバックテンション付与手段を備える。バックテンション付与手段としては、記録媒体22の裏面に負圧を付与する負圧付与手段が考えられる。具体的に負圧付与手段としては、ガイド面30aに複数設けられた吸引孔42、当該吸引孔42に連通するチャンバー41、当該チャンバー41に接続されるポンプ43などが設けられている。
【0043】
また、ガイド面30aは、記録媒体22を支持し案内する複数の支持部44を備える。
【0044】
これにより、記録媒体22は、例えば描画ドラム70の保持手段71に記録媒体22の先端が保持されて密着搬送される際に、吸引孔42からの吸引により記録媒体22の後端の非記録面にバックテンションが作用し、記録媒体22が描画ドラム70へ搬送された時にシワ、浮きが生じない。このような構成を有する中間搬送体30と搬送ガイド32のもと、記録媒体22は、先端を中間搬送体30の保持手段34により保持されて回転移動する一方、裏面が搬送ガイド32の支持部44の吸引孔42を通してポンプ43により負圧吸引される。そのため、記録媒体22は、支持部44に支持されながら案内されて回転移動する。その後、中間搬送体30の保持手段34から描画ドラム70等の保持手段73へ受け渡される。
【0045】
このように、第1〜第3の中間搬送部24、26、28を構成することにより、記録媒体22は、裏面が支持部44に支持されながら搬送され、記録媒体22の記録面は、中間搬送体30や搬送ガイド32などの構成部材に接触することなく搬送される。
【0046】
そのため、処理液付与部12にて記録媒体22の記録面に付与された処理液により形成された処理液層は、処理液ムラや処理液欠陥などを生じず、そのまま維持される。
【0047】
また、描画ドラム70の保持手段71に記録媒体22の先端が保持されて密着搬送される際に、記録媒体22の後端の記録面および非記録面にバックテンションが作用し、記録媒体22が描画ドラム70へ搬送された時にシワ、浮きが発生せず高品位な画像が形成できる。
【0048】
次に、インクジェット記録装置1の主要各部(給紙部10、処理液付与部12、描画部14、乾燥部16、硬化部18、排出部20)について説明する。
【0049】
(給紙部)
給紙部10は、記録媒体22を描画部14に供給する機構である。給紙部10には、給紙トレイ50が設けられ、この給紙トレイ50から記録媒体22が一枚ずつ処理液付与部12に給紙される。
【0050】
(処理液付与部)
処理液付与部12は、記録媒体22の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は描画部14で付与されるインク中の色材(顔料)を凝集または析出させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。なお、処理液のより詳細な説明については後述する。
【0051】
図1に示すように、処理液付与部12は、渡し胴52、処理液ドラム54、処理液塗布装置56、IRヒータ58及び温風吹出ノズル60を備えている。渡し胴52は、給紙部10の給紙トレイ50と処理液ドラム54の間に配置され、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパーなど)を備え、この保持手段によって記録媒体22の先端を保持しながら回転駆動される。給紙部10から給紙された記録媒体22は、この渡し胴52によって受け取られ、処理液ドラム54に受け渡される。
【0052】
処理液ドラム54は、記録媒体22を保持して回転搬送させるドラムであり、回転駆動される。また、処理液ドラム54は、その外周面に爪形状の保持手段55を備え、この保持手段55によって記録媒体22の先端を保持できるようになっている。記録媒体22は、保持手段55によって先端が保持された状態で、処理液ドラム54を回転させることによって回転搬送される。処理液ドラム54の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置(塗布装置に相当)56、IRヒータ58及び温風吹出ノズル60が設けられる。処理液塗布装置56、IRヒータ58及び温風吹出ノズル60は、処理液ドラム54の回転方向(図1において反時計回り方向)に上流側から順に配設されており、記録媒体22は、まず処理液塗布装置56によって記録面に処理液が塗布される。処理液の膜厚は、描画部14のインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yから打滴されるインクの液滴径より十分に小さいことが望ましい。例えば、インクの打滴量が2plのときには、液滴の平均直径は15.6μmである。このとき、処理液の膜厚が大きい場合には、インクドットが記録媒体22の表面に接触することなく、処理液内で浮遊する。そこで、インク打滴量が2plのときに着弾ドット径を30μm以上得るためには、処理液の膜厚を3μm以下にすることが望ましい。
【0053】
また処理液付与部12で付与される処理液中の凝集剤の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.2〜0.7g/mとなる量が好ましい。凝集剤は、付与量が0.1g/m以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集剤の付与量が0.7g/m以下であることは、付与した記録媒体の表面性に悪影響(光沢の変化等)を与えない点で好ましい。
【0054】
また、図1に示すように、処理液塗布装置56は、主として、処理液容器56A、計量ローラ56B、塗布ローラ56Cによって構成されている。処理液容器56Aには、処理液が貯留されており、この処理液に計量ローラ56Bの一部が浸漬される。計量ローラ56Bとしては、金属ローラ及び金属ローラ表面にセラミックコーティングを施したローラ周面に一定の線数で規則正しく多数のセルが形成されたアニロックスローラが好適に用いられる。金属ローラの材質としては鉄及びSUS等が用いられる。材質として鉄を用いた場合には、表面の親水性の向上、耐磨耗性の向上及び防錆性を向上させるため、表面にクロム等のメッキを施してもよい。アニロックスローラのセル構造としては、例えば、線数150線以上400線以下、セル深さ20μm以上75μm以下、セル容量30cm/m以上60cm/m以下のものを好適に用いることができる。計量ローラの直径は、例えば20mm以上100mm以下で形成される。
【0055】
計量ローラ56Bは回動自在に支持されるとともに不図示のモータに連結され、一定の速度で回転駆動される。従って、処理液容器56A内の処理液を計量ローラ56Bの表面に付着させ、この処理液を塗布ローラ56Cの表面に転移させることができる。計量ローラ56Bの回転方向は塗布ローラ56Cと同方向であり、ローラ外周の周速度は塗布ローラ56Cと同速、もしくは速度差を設けてもよい。速度差を設ける場合には塗布ローラ56Cの周速度に対して計量ローラ56Bの周速度を80%以上140%以下が好適に用いられる。塗布ローラ56Cと計量ローラ56Bとの周速度を調整することにより、計量ローラ56Bから塗布ローラ56Cへの転移率を調整することが可能であり、記録媒体22への塗布膜厚を調整することができる。
【0056】
計量ローラ56Bの表面には、計量用のドクターブレード(図示せず)が当接するように設けられている。ドクターブレードは、計量ローラ56Bと塗布ローラ56Cとの接触位置に対して、計量ローラ56Bの回転方向の上流側に配置され、計量ローラ56Bの表面の塗布液を掻き落として計量できるようになっている。これにより、ドクターブレードで計量された塗布液を塗布ローラ56Cに供給することができる。
【0057】
塗布ローラ56CはEPDMやシリコンなどのゴム層を表面に有するゴムローラが好適に用いられる。塗布ローラ56Cは回動自在に支持されるとともに不図示のモータに連結され、一定の速度で回転駆動される。塗布ローラ56Cの回転方向は処理液ドラム54と同方向であり、ローラ外周の周速度も処理液ドラム54と同速度で回転する。これによって計量ローラ56Bから塗布ローラ56Cへ転移された処理液が処理液ドラム54上に保持された記録媒体22に塗布される。
【0058】
このように、処理液塗布装置56はローラで処理液を塗布するようにしたため、処理液を均一に、かつ塗布量を少なく記録媒体22に塗布することが可能である。また、処理液塗布装置56は、処理液塗布の搬送胴(処理液ドラム54)を汚さないようにするために、処理液塗布手段のローラを記録媒体毎に接触及び離間させるようになっていることが好ましい。
【0059】
上述したように本実施形態では、処理液塗布装置56として、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、処理液の付与は、塗布法に限定されず、インクジェット法や浸漬法などの公知の方法を適用して行うことができる。なお、塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行うことができる。
【0060】
なお、処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本実施形態においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。具体的には、記録媒体22上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の顔料及び/又は自己分散性ポリマーの粒子を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体22上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像を得ることができる。
【0061】
処理液塗布装置56で処理液が塗布された記録媒体22は、IRヒータ58、温風吹出ノズル60の位置に搬送される。IRヒータ58は高温(例えば180℃)に制御され、温風吹出ノズル60は高温(例えば70℃)の温風を一定の風量(たとえば9m/分)で記録媒体22に向けて吹き付けるように構成される。このIRヒータ58と温風吹出ノズル60による加熱によって、処理液の溶媒中の水分が蒸発され、処理液の薄膜層が記録面に形成される。このように処理液を薄層化することによって、描画部14で打滴するインクのドットが記録媒体22の記録面と接触し、必要なドット径が得られるとともに、薄層化した処理液成分と反応して色材凝集が起こり、記録媒体22の記録面に固定する作用が得られやすい。なお、処理液ドラム54を所定の温度(例えば50℃)に制御してもよい。
【0062】
(描画部)
図1に示すように、描画部14は、描画ドラム70と、この描画ドラム70の外周面に対向する位置に近接配置されたインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yで構成される。インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yはそれぞれ、マゼンダ(M)、黒(K)、シアン(C)、イエロー(Y)の4色のインクに対応しており、描
画ドラム70の回転方向に上流側から順に配置される。
【0063】
描画ドラム70は、その外周面に記録媒体22を保持し、回転搬送させるドラムであり回転駆動される。また、描画ドラム70は、その外周面に爪形状の保持手段71を備え、この保持手段71によって記録媒体22の先端を保持できるようになっている。記録媒体22は、保持手段71によって先端が保持された状態で、描画ドラム70を回転させることによって回転搬送される。その際、記録媒体22の記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yからインクが付与される。
【0064】
インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yはそれぞれ、記録媒体22における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)であり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yは、記録媒体22の搬送方向(描画ドラム70の回転方向)と直交する方向に延在するように固定設置される。
【0065】
各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yには、対応する色インクのカセットが取り付けられる。各インクの液滴が、各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yから、描画ドラム70の外周面に保持された記録媒体22の記録面に向かって吐出される。これにより、処理液付与部12で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。したがって、記録媒体22上での色材流れなどが防止され、記録媒体22の記録面に画像が形成される。また、インクと処理液の反応の一例として、処理液に酸を含有させpHダウンにより顔料分散を破壊し凝集するメカニズムを用い、色材滲み、各色インク間の混色、インク滴の着弾時の液合一による打滴干渉を回避することが考えられる。
【0066】
また、各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yの打滴タイミングは、描画ドラム70に配置された回転速度を検出するエンコーダ(不図示)に同期させる。これにより、高精度に着弾位置を決定することができる。また、予め描画ドラム70のフレなどによる速度変動を学習し、エンコーダで得られた打滴タイミングを補正して、描画ドラム70のフレ、回転軸の精度、描画ドラム70の外周面の速度に依存せずに打滴ムラを低減させることができる。
【0067】
さらに、各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yのノズル面の清掃、増粘インク排出などのメンテナンス動作は、ヘッドユニットを描画ドラム70から退避させた状態で実施するとよい。
【0068】
また、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組
み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系のインクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0069】
また、本発明においては、記録媒体22の搬送方向後端に画像を形成しない領域を設けることが好ましい。画像が形成されていない領域を設けることで、この領域を乾燥部16において非接触式記録媒体抑え手段で押圧することで、記録媒体を乾燥ドラム76の密着させることができ、かつ、画像にダメージを与えることもない。
【0070】
また、描画部14と乾燥部16の間には、描画部14で打滴された記録媒体22の伸縮量を測定する伸縮量センサ78が設けられる。伸縮量センサ78としては、例えばキーエンス(株)製のレーザ変位計のLKシリーズ等を好ましく用いることができる。
【0071】
(乾燥部)
乾燥部16は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる工程である。図3に示すように、乾燥部16は、主として、乾燥ドラム76と、記録媒体22の記録面と該記録面の反対面である裏面とを両面加熱して記録面に形成された画像の乾燥を促進する両面加熱手段15と、記録媒体22の紙厚情報に応じて記録面と裏面とに付与する加熱強度を個別に制御する乾燥制御部134で構成される。
【0072】
両面加熱手段15は、記録媒体22の記録面側を加熱する第1加熱手段137と、裏面側を加熱する第2加熱手段139とで構成される。また、第1及び第2加熱手段137、139は、信号ケーブル又は無線によって乾燥制御部134に接続される。
【0073】
乾燥ドラム76は、その外周面に記録媒体22を保持して回転搬送させるドラムであり回転が駆動制御される。乾燥ドラム76は、その外周面に吸着穴(図示せず)が形成されると共に、吸着穴から吸引を行う吸着手段(図示せず)を有している。これにより記録媒体22は、乾燥ドラム76の外周面に吸着保持されると共に、その先端が保持手段77によって保持された状態で、乾燥ドラム76を回転させることによって搬送される。その際、記録媒体22の記録面が外側を向くようにして搬送され、記録面が第1加熱手段137で加熱される。一方、記録媒体22の裏面側が乾燥ドラム76の外周面に接触されて搬送されることにより、第2加熱手段139で加熱される。
【0074】
また、第1加熱手段137の上流側に送風ノズル83が設けられ、乾燥ドラム76に吸着搬送される記録媒体22の先端部を乾燥ドラム76に押し付ける。これにより、記録媒体22が、乾燥ドラム76の外周面にスムーズに密着される。
【0075】
第1加熱手段137は、乾燥ドラム76の外周面に対向する位置に配置された第1の温風噴出しノズル80A、第1のIRヒータ82A、第2の温風噴出しノズル80B、第2のIRヒータ82B、第3の温風噴出しノズル80C、第3のIRヒータ82C、第4の温風噴出しノズル80Dとで構成される。これにより、第1加熱手段137は、乾燥ドラム76の外周面に吸着搬送される記録媒体22の記録面側を加熱することができる。
【0076】
温風噴出しノズル80A〜80Dは、所定温度(例えば50℃〜70℃)に制御された温風を一定の風量(12m/分)で記録媒体22に向けて吹き付けるように構成される。また、IRヒータ82A〜82Cは、それぞれ所定温度(例えば180℃)に制御される。
【0077】
一方、第2加熱手段139は、乾燥ドラム76に内蔵された電熱ヒータ78Aと、乾燥ドラム76の下方近傍位置(記録媒体22が通過しない位置)に、乾燥ドラム76の外周面に対向して配置された裏面用IRヒータ78Bとで構成される。電熱ヒータ78Aは乾燥ドラム76の内部から乾燥ドラム76の外周面を加熱し、裏面用IRヒータ78Bは乾燥ドラム76の外部から乾燥ドラム76の外周面を加熱する。これにより、第2加熱手段139は、乾燥ドラム76の外周面に吸着搬送される記録媒体22の裏面側を加熱することができる。このように記録媒体22の裏面を乾燥ドラム76の外周面に接触させて加熱する接触加熱方式を採用することにより加熱効率が向上する。これにより、記録媒体22の裏面に対する加熱制御の応答性や精度を良くすることができる。
【0078】
これら第1加熱手段137及び第2加熱手段139で記録媒体22の両面加熱を行うことによって、乾燥ドラム76に保持された記録媒体22の記録面に含まれる水分の蒸発速度が速くなり、記録面の乾燥が促進される。蒸発した水分は不図示の排出手段によりエアとともに機外に排出するとよい。また、回収されたエアを冷却器(ラジエータ)などで冷却して、液体として回収してもよい。
【0079】
乾燥制御部134による第1加熱手段137の制御形態としては、例えば、複数の温風噴出しノズル80A〜80DのON―OFF、熱風温度の調整、熱風風量の調整等がある。また、複数のIRヒータ82A〜82Cの点灯本数あるいは点灯・消灯の時間比率調整(Duty制御)等がある。
【0080】
一方、乾燥制御部134による第2加熱手段139の制御形態としては、例えば、電熱ヒータ78Aのワット数調整、裏面用IRヒータ78Bの点灯本数あるいは点灯・消灯の時間比率調整(Duty制御)等がある。
【0081】
なお、本実施の形態では、乾燥部16に設けた両面加熱手段15として、記録媒体22の記録面側を加熱する第1加熱手段137と、裏面側を加熱する第2加熱手段139とで構成し、記録媒体22の記録面と裏面とを加熱する役割を2つの加熱手段137、139で分担する態様で説明した。しかし、第1加熱手段137で記録媒体22の記録面側を加熱していない間、即ち第1加熱手段137の加熱位置に記録媒体22が未だ回転搬送されてくる前及び加熱位置から既に回転搬送された後は、第1加熱手段137は乾燥ドラム76の外周面を加熱することができる。したがって、第1加熱手段137のみ(第2加熱手段139は使用しない)で記録媒体22の記録面側と裏面側の両面加熱を行うようにしてもよい。これにより、省エネになる。
【0082】
また、図3では乾燥部16における記録媒体22の加熱制御系を、乾燥部16の領域のみに設けた場合で示したが、図4に示すように、加熱制御系を描画ドラム70から硬化ドラム84までの広い領域に設けることもできる。
【0083】
即ち、図4に示すように、記録媒体22の記録面側を加熱する第1加熱手段137は、上述した乾燥ドラム76の外周面に配置された第1〜第4の温風噴出しノズル80A〜80D、及び第1〜第3のIRヒータ82A〜82Cの他に、次の加熱手段が追加される。即ち、第2の中間搬送部26のドラム内部に第1の軸流ファン79A、第5の温風噴出しノズル80E、第6の温風噴出しノズル80Fが記録媒体22の搬送方向に沿って設けられ、第3の中間搬送部28のドラム内部に第2の軸流ファン79B、第7の温風噴出しノズル80G、第8の温風噴出しノズル80Hが記録媒体22の搬送方向に沿って設けられる。これら第2の軸流ファン79A〜79B及び第7〜第8の温風噴出しノズル80G〜80Hは、上記した中間搬送体30の内部空間に、中間搬送体30の回転とは連動しないように配置される。そして、第5〜第8の温風噴出しノズル80E〜80Hは、中間搬送体30の送風口36から所定温度に加熱された温風を搬送ガイド32に向けて吹き出す。即ち、第5〜第8の温風噴出しノズル80E〜80Hは、記録媒体22の記録面を加熱する役目と、記録媒体22の記録面に送風を送出して正圧を付与する正圧付与手段としての役目とを兼用する。また、第1及び第2の軸流ファン79A〜79Bは、記録媒体22の記録面に冷風を当てて記録面を冷却する役目を行う。
【0084】
また、記録媒体22の裏面を加熱する第2加熱手段139は、上述した乾燥ドラム76に内蔵された電熱ヒータ78A及び第1の裏面用IRヒータ78Bの他に次の加熱手段が設けられる。即ち、描画ドラム70の下方近傍位置(記録媒体22が通過しない位置)に、ドラム外周面に対向して第2の裏面用IRヒータ78Cが設けられると共に、硬化ドラム84の下方近傍位置(記録媒体22が通過しない位置)に、ドラム外周面に対向して第3の裏面用IRヒータ78Dが設けられる。
【0085】
このように、乾燥部16での記録媒体22の記録面加熱及び裏面加熱に加えて、乾燥部16の前段及び後段でも加熱強度の制御を補助することができるので、加熱をきめ細かく制御することができる。
【0086】
そして、これらの追加された加熱手段も、図3で説明したと同様に、信号ケーブル又は無線によって乾燥制御部134に接続される。
【0087】
(露光硬化部)
露光硬化部18は、UVランプ88及びインラインセンサ90で構成される。UVランプ88及びインラインセンサ90は、硬化ドラム84の周面に対向する位置に配置され、硬化ドラム84の回転方向の上流側から順に配置される。
【0088】
硬化ドラム84は、その外周面に記録媒体22を保持して回転搬送させるドラムであり、回転駆動される。また、硬化ドラム84は、その外周面に爪形状の保持手段85を備え、この保持手段85によって記録媒体22の先端を保持できるようになっている。記録媒体22は、保持手段85によって先端が保持された状態で硬化ドラム84を回転させることによって、回転搬送される。その際、記録媒体22の記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、UVランプ88による露光硬化処理と、インラインセンサ90による検査が行われる。
【0089】
UVランプ88は乾燥されたインクにUV光を照射することにより、インク中に含まれる活性光線硬化樹脂が硬化し、インクを皮膜化させる。UVランプ88としては、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、ブラックライト、冷陰極菅、UV−LED等の種々の紫外線光源を用いることができる。
【0090】
紫外線光源190の照射する紫外線のピーク波長は、インク組成物の吸収特性にもよるが、200〜600nmが好ましく、より好ましくは、300〜450nmであり、さらに好ましくは、350〜450nmである。
【0091】
紫外線光源190の照射エネルギーとしては、2000mJ/cm以下が好ましく、より好ましくは、10〜2000mJ/cmであり、さらに好ましくは、20〜1000mJ/cmであり、特に好ましくは、50〜800mJ/cmである。
【0092】
また、本発明のインクジェット記録装置1では、紫外線は記録媒体の記録面に対して、好ましくは、0.01〜10秒、より好ましくは、0.1〜2秒照射することが適当である。また、硬化ドラム84を所定の温度に制御してもよい。これにより、インクの硬化感度を向上させ、低照射強度で好適にインクを硬化し、皮膜化させることができる。
【0093】
一方、インラインセンサ90は、記録媒体22に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0094】
なお、本実施の形態では、記録媒体22の記録面に形成された画像を定着化するための手段として、露光硬化部18によるUV露光方法を用いるようにしたが、ヒートローラ定着方法も採用することができる。
【0095】
ヒートローラ定着方法は、所定の範囲(例えば50℃〜180℃)で温度制御可能な一対の加熱ローラ(図示せず)が設けられ、一対の加熱ローラと硬化ドラム84との間に挟みこまれた記録媒体22を加熱加圧しながら、記録媒体22上に形成された画像を定着させるものである。一対の加熱ローラのニップ圧力は0.1MPa、1.0MPaであることが好ましく、一対の加熱ローラの加熱温度は、処理液又はインクに含有されるポリマー微粒子のガラス転移点温度などに応じて設定することが好ましい。
【0096】
(排出部)
図1に示すように、硬化部18に続いて排出部20が設けられている。排出部20は、排出トレイ92を備えており、この排出トレイ92と硬化部18の硬化ドラム84との間に、これらに対接するように渡し胴94、搬送ベルト96、張架ローラ98が設けられている。記録媒体22は、渡し胴94により搬送ベルト96に送られ、排出トレイ92に排出され、積層される。
【0097】
また、図5に示すように、排出部20には、記録媒体22の記録面温度を測定する非接触式の温度センサ82が設けられる。非接触式の温度センサ82としては、例えばキーエンス(株)製の放射温度センサのFTシリーズ等を好ましく用いることができる。
【0098】
[カックル及びスタッカーブロッキングの抑止方法]
次に、上記の如く構成されたインクジェット記録装置1を用いて、カックルとスタッカーブロッキングとの抑止を両立させる方法を説明する。
【0099】
カックルは、紙などの記録媒体22に水性インクのインク水分が浸透することによって記録媒体22のセルロース繊維が膨張変形し、記録媒体22の描画部分が波打つ現象である。また、スタッカーブロッキングは、排出部20の排出トレイ92に記録媒体22が積層される際の記録面温度が高過ぎたり、記録面の乾燥不足により十分にインク水分が除去されなかったりしたときに、記録面が粘着性を帯びて記録媒体22同士が付着する現象である。
【0100】
このカックル及びスタッカーブロッキングは、記録媒体22の紙厚に大きく影響する。即ち、記録媒体22の紙厚が薄いほど記録媒体22の剛性が小さく、またインク水分の浸透許容性が小さいので、カックルが発生し易い。逆に、記録媒体22が厚くなればカックルが発生しにくい一方、紙厚の厚い記録媒体22は熱容量が大きく乾燥部16で乾燥されて昇温した記録面の温度が下がり難い。これにより、記録媒体22が排出部20の排出トレイ92に積層される際に、記録面の粘着性によりスタッカーブロッキングが発生し易い。また、記録面の乾燥不足によっても記録面に粘着性が生じるので、スタッカーブロッキングが発生する。
【0101】
そこで、本発明によれば、乾燥制御部134は、第1加熱手段137及び第2加熱手段139を制御して、記録媒体22の紙厚が厚くなるほど、記録面側よりも裏面側に付与する加熱強度が大きくなるように制御するようにした。ここで、記録媒体22の紙厚は、坪量で表現することができる。
【0102】
例えば、乾燥制御部134は、記録媒体22の記録面及び裏面の加熱強度をそれぞれ「強」「中」「弱」の3段階の切り換えができるように第1加熱手段137及び第2加熱手段139を制御する。ここで、加熱強度の「強」と「中」は温度差において例えば10℃異なり、「中」と「弱」も温度差において例えば10℃異なるように設定する。
【0103】
ところで、記録媒体22の記録面側及び裏面側に付与する温度としては、50℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上である。記録面側及び裏面側の上限温度としては特にないが、排出部20における記録面温度がスタッカーブロッキングを発生させない許容限界温度以下に設定する必要がある。また、乾燥ドラム76の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から一般的には記録面及び裏面の上限は75℃以下が好ましい。したがって、上記した加熱強度は、上記した温度範囲内(50℃〜75℃)の範囲で「強」「中」「弱」に設定する。
【0104】
例えば、「強」の温度を70℃〜75℃とした場合には、「中」の温度は60℃〜65℃となり、「弱」の温度は50℃〜55℃となる。
【0105】
なお、加熱強度を熱量で表現する場合には、上記した「強」「中」「弱」の加熱温度に加熱時間を加味すればよい。
【0106】
そして、例えば坪量が120gsm以下の範囲で、記録媒体22の厚みが薄い場合にはカックルが非常に発生し易いので、記録面及び裏面の加熱強度を「強」にして記録面の乾燥を促進することにより、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止することができる。この場合、排出部20に設けた温度センサ82により記録面の温度を測定し、記録面温度をスタッカーブロッキングが発生する許容限界温度を超えないように制御することは勿論である。
【0107】
坪量が120gsmを超えて150gsmの範囲で、記録媒体22の厚みが比較的薄い場合には、記録面の加熱強度が「強」で裏面の加熱強度が「強」の組み合わせ、記録面の加熱強度が「強」で裏面の加熱強度が「中」の組み合わせ、又は記録面の加熱強度が「中」で裏面の加熱強度が「強」の組み合わせによって、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止できる。
【0108】
坪量が150gsmを超えて180gsmの範囲で、記録媒体22の厚みが比較的厚い場合には、記録面の加熱強度が「中」で裏面の加熱強度が「強」の組み合わせ、又は記録面の加熱強度が「弱」で裏面の加熱強度が「強」の組み合わせによって、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止できる。
【0109】
坪量が180gsmを超えて270gsmの範囲で、記録媒体22の厚みが厚い場合には、記録面の加熱強度が「弱」で裏面の加熱強度が「強」の組み合わせによって、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止できる。
【0110】
坪量が270gsmを超えて更に記録媒体22の厚みが厚くなると、カックルは全く生じないが、乾燥不足に起因するスタッカーブロッキングが発生し易くなるので、記録面の加熱強度が「強」であることが必要であり、裏面についても「中」〜「強」にして加熱を促進する必要がある。
【0111】
このことから分かるように、記録媒体22の厚みが薄い場合にはカックルが発生し易いので、記録面の加熱強度を「強」にして記録面の乾燥を促進すると共に、裏面の加熱強度を「中」〜「強」の範囲に制御して、記録面の温度が上がり過ぎないようにしながら記録面の乾燥促進を補助することが、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止する上で常用であることが分かる。
【0112】
また、記録媒体22の厚みが厚くなるにしたがって、カックルが発生しにくくなるが、紙厚が厚くなるにつれて熱容量が大きくなり乾燥部16で加熱した熱が下がりにくくなるので、スタッカーブロッキングが発生し易くなる。したがって、この場合には、記録面の加熱強度を抑えつつ、乾燥不足が生じないように裏面の加熱強度を「強」に制御することにより、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止できることが分かる。
【0113】
また、記録媒体22の厚みがかなり厚く(270gsm以上)なると、カックルの心配はなくなるが、乾燥不足によるスタッカーブロッキングが発生し易くなるので、記録面の加熱強度を抑制しつつ、乾燥不足にならない程度に裏面の加熱強度を強めることが重要になる。
【0114】
また、カックルの抑止の際に記録媒体22の紙厚以外に考慮すべき要因として、水性インクの打滴量があり、インク打滴量が多いほどインク水分の記録媒体22への浸透量が多くなるのでカックルが発生し易い。したがって、インク打滴量が多い場合には、カックルを抑止するために記録媒体22の記録面の加熱温度をできるだけ高くして乾燥を促進する必要があるが、加熱温度を高くし過ぎると上記説明したようにスタッカーブロッキングが発生する。
【0115】
この対応策として、乾燥制御部134は、記録媒体22の紙厚に対応する紙種類ごとに、水性インクの打滴量と乾燥後の記録媒体22の記録面の許容限界温度との関係テーブルが予め入力された記憶部であるROM145(図6参照)と、紙種類と打滴量とを入力する入力部135(図6参照)と、を備えることが好ましい。そして、乾燥制御部134は、入力された紙種類及び打滴量によって関係テーブルから選択される記録面の許容限界温度を超えないように第1加熱手段137と第2加熱手段139とを個別に制御する。
【0116】
これにより、スタッカーブロッキングが発生しない最高温度で記録面を加熱することができるので、カックルが発生しないように記録面の乾燥を促進しつつ、排出部20におけるスタッカーブロッキングの発生を抑止できる。
【0117】
なお、関係テーブルは、予備試験等により作成しておけばよい。また、記録媒体22の紙種類ごとの紙厚は坪量で表現でき、水性インクの打滴量情報は、入力部135から入力しなくても、メモリ144内の画像データ又はプリント制御部124で生成した打滴データ(ドットデータ)から自動的に入力されるようにしてもよい。
【0118】
この場合、乾燥制御部134は、排出部20に設けた非接触式の温度センサ82で記録面温度を実際に測定することで、スタッカーブロッキングが発生しない限界まで記録面温度を上げることができるので、乾燥性能を効果的に維持しつつスタッカーブロッキングを抑止できる。
【0119】
また、上記した関係テーブルを用いる場合には、乾燥後の記録媒体22の記録面の許容限界温度は、安全率を加味して最高温度よりもやや低めの許容限界温度に設定せざるを得ないが、温度センサ82で実際に測定することでスタッカーブロッキングが発生しない限界温度に設定することができる。
【0120】
また、カックルは、水性インクが記録媒体22に浸透することによりセルロース繊維が膨張変形することによって生じるが、セルロース繊維自体の膨張量はインクジェット記録装置1が使用される温湿度環境によって異なる。例えば、梅雨時の環境のように記録媒体22が湿気を吸った状態では水性インクを打滴する前に記録媒体22自体がある程度膨張しているので、インク打滴時の膨張率は小さくなる。逆に冬場のように乾燥した環境では記録媒体22自体が乾燥しているので、インク打滴時の膨張率は大きくなる。このような装置1の温湿度環境は季節変動に限らず、インクジェット記録装置1が設けられる室内の空調条件によっても異なる。
【0121】
したがって、乾燥制御部134は、描画部14と乾燥部16との間に設けた伸縮量センサ78で、水性インクが打滴された後の記録媒体22の伸縮量を測定し、その測定結果を加味して記録面及び裏面の加熱強度を制御することが好ましい。例えば、上記の加熱強度「強」「中」「弱」を設定したときの記録媒体22の寸法(長さ、幅)を基準値とし、それよりも寸法が伸びている場合には、記録媒体22にカックルが起きにくい条件で記録媒体を使用することになるので、記録面の加熱強度を基準値のときよりも弱めにする。逆に、基準値よりも寸法が縮んでいる場合には、記録媒体22にカックルが起き易い条件で記録媒体を使用することになるので、記録面の加熱強度を基準値のときよりも更に強くする。
【0122】
これにより、装置1を使用する温湿度環境に関係なくカックルを精度良く抑止できる。
【0123】
また、本実施の形態では、描画部14の前段に処理液付与部12を設けて、記録媒体22上に打滴した水性インクが迅速に凝集して増粘性が高くなるようにしたので、カックルやスタッカーブロッキングの発生を一層抑止できる。また、乾燥部16の後段に、記録媒体22の記録面を硬化する硬化部を備えたので、スタッカーブロッキングを一層発生しにくくできる。
【0124】
なお、本実施の形態では、記録媒体22の片方面に画像を形成するようにした例で説明したが、処理液付与部12〜硬化部18を2段直列させた両面印刷の場合にも適用できる。即ち、記録媒体22の両面に画像を形成する両面印刷時には、表面に打滴してカックルが生じた記録媒体22の裏面に更に打滴することになるので、記録媒体22が打滴ヘッドに接触することがあり、本発明が一層有効である。
【0125】
(制御系の説明)
図6は、インクジェット記録装置1のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置1は、通信インターフェース120、システムコントローラ122、プリント制御部124、処理液付与制御部126、第1中間搬送制御部128、ヘッドドライバ130、第2中間搬送制御部132、乾燥制御部134、第3中間搬送制御部136、定着制御部138、インラインセンサ90、エンコーダ91、モータドライバ142、メモリ144、ヒータドライバ146、画像バッファメモリ148、吸引制御部149、送風制御部162等を備えている。
【0126】
通信インターフェース120は、ホストコンピュータ150から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース120にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ150から送出された画像データは通信インターフェース120を介してインクジェット記録装置1に取り込まれ、一旦メモリ144に記憶される。
【0127】
システムコントローラ122は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置1の全体を制御する制御装置として機能すると共に、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ122は、通信インターフェース120、処理液付与制御部126、第1中間搬送制御部128、ヘッドドライバ130、第2中間搬送制御部132、乾燥制御部134、第3中間搬送制御部136、定着制御部138、メモリ144、モータドライバ142、ヒータドライバ146、吸引制御部149、送風制御部162等の各部を制御し、ホストコンピュータ150との間の通信制御、メモリ144の読み書き制御等を行うと共に、搬送系のモータ152やヒータ154を制御する制御信号を生成する。
【0128】
メモリ144は、通信インターフェース120を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ122を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ144は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0129】
ROM145(記憶部)には、システムコントローラ122のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。各種データの一つとして、記録媒体22の紙厚に対応する紙種類ごとに、水性インクの打滴量と乾燥後の記録面の許容限界温度との関係テーブルが予め入力されている。紙種類ごとの紙厚み(紙の坪量)、水性インクの打滴量、乾燥後の記録面の許容限界温度は、入力部135から入力される。なお、水性インクの打滴量は、メモリ144内の画像データまたはプリント制御部124で生成した打滴データ(ドットデータ)から自動的に入力されるようにしてもよい。
【0130】
ROM145は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ144は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0131】
モータドライバ142は、システムコントローラ122からの指示にしたがってモータ152を駆動するドライバである。図6には、装置内の各部に配置されるモータを代表して符号152で図示されている。例えば、図6に示すモータ152には、図1の渡し胴52、処理液ドラム54、描画ドラム70、乾燥ドラム76、露光硬化ドラム84、渡し胴94などの回転を駆動するモータ、描画ドラム70の吸引孔から負圧吸引するためのポンプ75の駆動モータ、インクジェットヘッド72C,72M,72Y,72Kのヘッドユニットの退避機構のモータ、などが含まれている。
【0132】
ヒータドライバ146は、システムコントローラ122からの指示にしたがって、ヒータ154を駆動するドライバである。図6には、インクジェット記録装置1に備えられる複数のヒータを代表して符号154で図示されている。例えば、図6に示すヒータ154には、給紙部10において記録媒体22を予め適温に加熱しておくための不図示のプレヒータ、などが含まれている。
【0133】
プリント制御部124は、システムコントローラ122の制御にしたがい、メモリ144内の画像データから打滴制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した打滴データ(ドットデータ)をヘッドドライバ130に供給する制御部である。プリント制御部124において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ130を介してインクジェットヘッド100のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0134】
プリント制御部124には画像バッファメモリ148が備えられており、プリント制御部124における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ148に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ148はプリント制御部124に付随する態様で示されているが、メモリ144と兼用することも可能である。また、プリント制御部124とシステムコントローラ122とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0135】
画像入力から打滴出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース120を介して外部から入力され、メモリ144に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データがメモリ144に記憶される。
【0136】
インクジェット記録装置1では、インク(色材)による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、メモリ144に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ122を介してプリント制御部124に送られ、該プリント制御部124において閾値マトリクスや誤差拡散法などを用いたハーフトーニング処理によってインク色ごとのドットデータに変換される。
【0137】
即ち、プリント制御部124は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部124で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ148に蓄えられる。
【0138】
ヘッドドライバ130は、プリント制御部124から与えられる打滴データ(即ち、画像バッファメモリ148に記憶されたドットデータ)に基づき、インクジェットヘッド100の各ノズル102に対応するアクチュエータ116を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ130にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0139】
ヘッドドライバ130から出力された駆動信号がインクジェットヘッド100に加えられることによって、該当するノズル102からインクが吐出される。記録媒体22を所定の速度で搬送しながらインクジェットヘッド100からのインク吐出を制御することにより、記録媒体22上に画像が形成される。
【0140】
また、システムコントローラ122は、処理液付与制御部126、第1中間搬送制御部128、第2中間搬送制御部132、乾燥制御部134、第3中間搬送制御部136、定着制御部138、吸引制御部149、送風制御部162を制御する。
【0141】
処理液付与制御部126は、システムコントローラ122からの指示にしたがい、処理液付与部12の処理液塗布装置56の動作を制御する。
【0142】
第1中間搬送制御部128は、システムコントローラ122からの指示にしたがい、第1の中間搬送部24の中間搬送体30の動作を制御する。具体的には、中間搬送体30において、中間搬送体30自体の回転駆動、中間搬送体30に備わる保持手段の回動などを制御する。第2中間搬送制御部132、第3中間搬送制御部136も第1中間搬送制御部128と同様の制御を行う。
【0143】
乾燥制御部134は、ROM145に記録されている関係テーブルに基づいて、第1加熱手段137及び第2加熱手段139を制御して、記録媒体22の記録面及び裏面の加熱強度を制御し、カックル及びスタッカーブロッキングを抑止する。また、乾燥制御部134は、排出部20に設けられた温度センサ82及び描画部14と乾燥部16との間に設けられた伸縮量センサ78に基づいて記録媒体22の記録面及び裏面の加熱強度を制御し、カックル及びスタッカーブロッキングを抑止する。
【0144】
吸引制御部149および送風制御部162は、システムコントローラ122の制御にしたがって、画像形成された記録媒体22を乾燥ドラム76に密着させて搬送するため乾燥ドラム76内に設けられた吸引手段、送風手段83の制御を行う。吸引手段、送風手段83は、記録媒体22の剛性により、吸引手段による吸引開始位置、送風手段83による送風位置が制御される。吸引制御部149による吸引開始位置の制御は、記録媒体が吸引開始位置を通過した際に、ポンプ75を作動させることで制御を行うことができる。記録媒体22の種類により、吸着手段による吸引力、送風手段による押圧力(風力)を制御する。記録媒体の剛性に対応する吸引力、押圧力をROM145に記録させておき、使用する記録媒体22の種類をパソコン(不図示)により直接入力することで、制御を行うこともできる。
【0145】
また、メモリ144内の画像データまたはプリント制御部124で生成した打滴データ(ドットデータ)に基づいて、吸着手段による吸引力、送風手段による押圧力(風力)を制御する。また、記録媒体の幅方向における吸引力、押圧力(風力)の制御を行う。
【0146】
[インク組成物]
本発明におけるインク組成物は、顔料を含んでなり、必要に応じて、更に分散剤や界面活性剤、その他の成分を用いて構成することができる。なお、本発明においては、画像の耐性を向上させるために、インク液の粘度や表面張力を高くすることによって、記録媒体上をインクがぬれ広がりにくくすることも可能である。例えば、下記の成分の中で、顔料や樹脂粒子などの分散粒子成分を増やすことは、インク液の粘度を高めるだけでなく、凝集を速め、凝集体自体の強度向上にも期待できるので、好ましい。
【0147】
(顔料)
本発明におけるインク組成物は、色材成分として顔料の少なくとも一種を含有する。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
【0148】
(分散剤)
本発明のインク組成物は、分散剤の少なくとも1種を含有することができる。前記顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0149】
ポリマー分散剤の重量平均分子量は、3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000であり、更に好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0150】
ポリマー分散剤の酸価としては、処理液が接触したときの凝集性が良好である観点から、100以下mgKOH/g以下が好ましい。更には、該酸価は、25〜100mgKOH/gがより好ましく、25〜80が更に好ましく、30〜65が特に好ましい。ポリマー分散剤の酸価が25以上であると、自己分散性の安定性が良好になる。
【0151】
ポリマー分散剤は、自己分散性と処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜80mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましい。
【0152】
本発明においては、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。また、顔料は、凝集性の観点から、カルボキシル基を有するポリマー分散剤に被覆され、水不溶性であることが好ましい。さらに、凝集性の観点からは、後述の自己分散性ポリマーの粒子の酸価の方が、前記ポリマー分散剤の酸価よりも小さいことが好ましい。
【0153】
顔料の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、色材の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
【0154】
なお、顔料粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0155】
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0156】
顔料のインク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0157】
(ポリマー粒子)
本発明におけるインク組成物は、ポリマー粒子の少なくとも一種を含有することができる。このポリマー粒子は、後述の処理液又はこれを乾燥させた領域と接触した際に分散不安定化して凝集しインクを増粘させることによりインク組成物を固定化する機能を有し、インク組成物の記録媒体への定着性及び画像の耐擦過性をより向上させることができる。
【0158】
凝集剤と反応するために、アニオン性の表面電荷を有するポリマー粒子が用いられ、充分な反応性、吐出安定性が得られる範囲で、広く一般に知られているラテックスが用いられるが、特に自己分散性のポリマー粒子を用いることが好ましい。
【0159】
<自己分散性ポリマー粒子>
本発明におけるインク組成物は、ポリマー粒子として、自己分散性ポリマー粒子の少なくとも一種を含有することが好ましい。この自己分散性ポリマーは、後述の処理液又はこれを乾燥させた領域と接触した際に分散不安定化して凝集しインクを増粘させることによりインク組成物を固定化する機能を有し、インク組成物の記録媒体への定着性及び画像の耐擦過性をより向上させることができる。また、自己分散性ポリマーは、吐出安定性及び前記顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点からも好ましい樹脂粒子である。
【0160】
自己分散性ポリマーの粒子とは、他の界面活性剤の不存在下に、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
【0161】
本発明における自己分散性ポリマーの酸価としては、処理液が接触したときの凝集性が良好である観点から、50以下KOHmg/g以下が好ましい。更には、該酸価は、25〜50KOHmg/gがより好ましく、30〜50が更に好ましい。自己分散性ポリマーの酸価が25以上であると、自己分散性の安定性が良好になる。
【0162】
本発明における自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性と処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜50KOHmg/gのポリマーを含むことがより好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が30〜50KOHmg/gのポリマーを含むことがより好ましい。
【0163】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0164】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.35/min、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0165】
自己分散性ポリマーの粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径で10nm〜400nmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましい。体積平均粒子径は、10nm以上であると製造適性が向上し、1μm以下であると保存安定性が向上する。
【0166】
なお、自己分散性ポリマーの粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0167】
自己分散性ポリマーの粒子は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。自己分散性ポリマーの粒子のインク組成物中における含有量としては、凝集速度や画像の光沢性などの観点から、インク組成物に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
【0168】
また、インク組成物中の顔料と自己分散性ポリマーの粒子との含有比率(例えば、水不溶性顔料粒子/自己分散性ポリマーの粒子)としては、画像の耐擦過性などの観点から、1/0.5〜1/10であることが好ましく、1/1〜1/4であることがより好ましい。
【0169】
(重合性化合物)
本発明におけるインク組成物は、活性エネルギー線により重合する水溶性の重合性化合物の少なくとも一種を含有することができる。
【0170】
水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性のインク中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。また、後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上がってインク中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。具体的には、水に対する溶解度が10質量%以上であることが好ましく、15質量以上であることがより好ましい。
【0171】
重合性化合物としては、凝集剤と顔料、ポリマー粒子との反応を妨げない点で、ノニオン性又はカチオン性の重合性化合物が好ましく、水に対する溶解度が10質量%以上(更には15質量%以上)の重合性化合物が好ましい。
【0172】
本発明における重合性化合物としては、擦過耐性を高め得る観点から、多官能のモノマーが好ましく、2官能〜6官能のモノマーが好ましく、溶解性と擦過耐性の両立の観点から、2官能〜4官能のモノマーが好ましい。
【0173】
重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
【0174】
重合性化合物のインク組成物中における含有量としては、顔料及び自己分散性ポリマーの粒子の合計の固形分に対して、30〜300質量%が好ましく、50〜200質量%がより好ましい。重合性化合物の含有量は、30質量%以上であると画像強度がより向上して画像の耐擦過性に優れ、300質量%以下であるとパイルハイトの点で有利である。
【0175】
(開始剤)
本発明におけるインク組成物は、後述の処理液に含有すると共にあるいは含有せずに、活性エネルギー線により前記重合性化合物の重合を開始する開始剤の少なくとも1種を含有することができる。光重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を混合して、あるいは増感剤と併用して使用することができる。
【0176】
開始剤は、活性エネルギー線により重合反応を開始し得る化合物を適宜選択して含有することができ、例えば、放射線もしくは光、又は電子線により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する開始剤(例えば、光重合開始剤等)を用いることができる。
【0177】
開始剤を含有する場合、インク組成物中における開始剤の含有量としては、重合性化合物に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。開始剤の含有量は、1質量%以上であると画像の耐擦過性がより向上し、高速記録に有利であり、40質量%以下であると吐出安定性の点で有利である。
【0178】
(水溶性有機溶剤)
本発明におけるインク組成物は、水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含有することができる。水溶性有機溶媒は、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0179】
乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。
【0180】
乾燥防止剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。乾燥防止剤の含有量は、インク組成物中に10〜50質量%の範囲とするのが好ましい。
【0181】
浸透促進剤としては、インク組成物を記録媒体(印刷用紙など)により良く浸透させる目的で好適である。浸透促進剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。浸透促進剤の含有量は、インク組成物中に5〜30質量%の範囲であるのが好ましい。また、浸透促進剤は、画像の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない量の範囲内で使用することが好ましい。
【0182】
(水)
インク組成物は、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0183】
(その他の添加剤)
本発明におけるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0184】
[処理液]
処理液は、既述のインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を少なくとも含み、必要に応じて、さらに他の成分を用いて構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。また、処理液やインク組成物の処方を改善することにより、形成された画像自体の強度を高めることができ、高圧送風などによる画像の耐久性を補強することができる。
【0185】
凝集剤としては、インク組成物のpHを変化させることができる化合物であっても、多価金属塩であっても、ポリアリルアミン類であってもよい。本発明においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。
【0186】
本発明においては、凝集後の固形成分と積堆成分(液体成分)が速やかに分離できる、あるいは、凝集体自体をよりリジッド化できる凝集剤を選ぶことが好ましい。このような凝集剤としては、有機酸が好ましく、2価以上の有機酸がより好ましく、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。前記2価以上の有機酸としては、その第1pKaが3.5以下の有機酸が好ましく、より好ましくは3.0以下の有機酸である。具体的には、例えば、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸などが好適に挙げられる。
【0187】
凝集剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0188】
インク組成物を凝集させる凝集剤の処理液中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは3〜45質量%であり、更に好ましくは5〜40質量%の範囲である。
【0189】
処理液は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の成分として他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0190】
<記録媒体>
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
【0191】
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクジェット記録方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0192】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましく、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのがより好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【0193】
[実施例1]
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0194】
試験は、図3に示した乾燥部を備えたインクジェット記録装置を用いて、記録媒体の厚みに応じて記録面と裏面との加熱強度を制御することによって、カックルとスタッカーブロッキングとがどのように抑止されるかを調べた。
【0195】
試験条件及び結果を図7の表に示す。
【0196】
(試験に供した記録媒体の種類)
図7の表に記載されるように、試験には以下の5種類の坪量を有する記録媒体を使用した。
【0197】
・OKトップコート…坪量104gsm
・OKトップコート…坪量127gsm
・OKトップコート…坪量157gsm
・アイベスト …坪量210gsm
・アイベスト …坪量310gsm
(処理液付与部の処理液付与条件)
処理液塗布装置は、上記処理液付与部において説明したローラ方式のものを用いて、処理液を記録媒体の記録面に1.7g/m塗布した。処理液付与条件は、5種類の記録媒体全て同じ条件である。
【0198】
(描画部の画像形成条件)
使用インクは、顔料5質量%、水性UVモノマー20質量%、開始剤3質量%、顔料分散剤1.5質量%、界面活性剤1質量%、超純水…残部の組成のものを用いた。
【0199】
そして、1200dpi*1200dpi*平均インク量5pLの描画条件で記録媒体の記録面にストライプ画像を印画した。画像形成条件は、5種類の記録媒体全て同じ条件である。
【0200】
(乾燥部における記録面及び裏面の加熱強度)
図7の表に記載されるように、記録面及び裏面に付与した加熱強度は、「強」「中」「弱」の3段階とした。ここで、「強」は記録媒体の記録面及び裏面における温度が70℃の場合であり、「中」は60℃の場合、「弱」は50℃の場合である。また、記録面に形成された画像に粘着性が生じる乾燥後の記録面の許容限界温度は72℃であった。また、加熱時間は記録面及び裏面ともに同じで4.5秒間(渡し胴1.5秒+乾燥ドラム1.5秒+渡し胴1.5秒)で行った。加熱時間は、5種類の記録媒体全て同じ条件である。
【0201】
(硬化部の条件)
硬化部のUV硬化条件は、UVランプピーク波長370nm、照射エネルギー800mJ/cmで行った。UV硬化条件は、5種類の記録媒体全て同じ条件である。
【0202】
(カックルの評価基準)
記録媒体に形成されたカックルの状態を目視にて評価した。
【0203】
○…カックルが発生せず、記録品位が良好
△…カックルが発生し、記録品位がやや不良
×…カックルが強く発生し記録品位が不良
(スタッカーブロッキングの評価基準)
排出部の排出トレイに100枚の記録媒体を積層した時点でスタッカーブロッキングの発生を目視で観察した。
【0204】
○…スタッカーブロッキングが発生しない
△…スタッカーブロッキングが散発する。
【0205】
×…スタッカーブロッキングが頻発する。
【0206】
(試験結果)
その結果、坪量が104gsmの紙厚みの記録媒体を使用した場合には、記録媒体の記録面の加熱強度を「強」にすると共に、裏面の加熱強度を「強」に制御することによって、カックルとスタッカーブロッキングの両方とも○の評価になった。また、記録面の加熱強度を「強」→「弱」に移行させるにしたがって、スタッカーブロッキングは○であったがカックルの評価が×になった。
【0207】
坪量が127gsmの紙厚みの記録媒体を使用した場合には、記録媒体の記録面の加熱強度が「強」、裏面の加熱強度が「強」の組み合わせ、記録面の加熱強度が「強」、裏面の加熱強度が「中」の組み合わせ、記録面の加熱強度が「中」、裏面の加熱強度が「強」の組み合わせにおいて、カックルとスタッカーブロッキングの両方とも○の評価になった。
【0208】
坪量が157gsmの紙厚みの記録媒体を使用した場合には、記録媒体の記録面の加熱強度が「中」と裏面の加熱強度が「強」の組み合わせ、記録面の加熱強度が「弱」と裏面の加熱強度が「強」の組み合わせにおいて、カックルとスタッカーブロッキングの両方とも○の評価になった。
【0209】
坪量が210gsmの紙厚みの記録媒体を使用した場合には、記録媒体の記録面の加熱強度が「弱」、裏面の加熱強度が「強」の組み合わせの場合において、カックルとスタッカーブロッキングの両方とも○の評価になった。
【0210】
坪量が310gsmの紙厚みの記録媒体を使用した場合には、記録媒体の記録面の加熱強度が「強」〜「弱」の全てにおいてカックルが○になったが、裏面の加熱強度が「強」にしないと△〜○△の評価を得ることはできなかった。
【0211】
以上の結果から、坪量が104gsmで記録媒体の厚みが薄い場合にはカックルが発生し易いので、記録面の加熱強度を「強」にして記録面の乾燥を促進すると共に、裏面の加熱強度を「中」〜「強」の範囲に制御して、記録面の温度が上がり過ぎないようにしながら記録面の乾燥促進を補助することが、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止する上で重要であることが分かる。
【0212】
また、記録媒体の厚みが厚くなるにしたがって、カックルが発生しにくくなるが、紙厚が厚くなるにつれて熱容量が大きくなり乾燥部で加熱した熱が下がりにくくなるので、スタッカーブロッキングが発生し易くなる。したがって、この場合には、記録面の加熱強度を抑えつつ、乾燥不足が生じないように裏面の加熱強度を「強」に制御することにより、カックルとスタッカーブロッキングの両方を抑止できることが分かる。
【0213】
また、坪量が310gsmで記録媒体の厚みがかなり厚くなると、カックルの心配はなくなるが、乾燥不足によるスタッカーブロッキングが発生し易くなることが分かる。したがって、この場合には記録面の加熱強度を抑制しつつ、乾燥不足にならないように裏面の加熱強度を強化することが重要になる。
【符号の説明】
【0214】
1…インクジェット記録装置、10…給紙部、12…処理液付与部、14…描画部、15…両面加熱手段、16…乾燥部、18…硬化部、20…排出部、22…記録媒体、24…第1の中間搬送部、26…第2の中間搬送部、28…第3の中間搬送部、30…中間搬送体、55、71、77、85…保持手段、70…描画ドラム、72M,72C,72Y,72K…インクジェットヘッド、76…乾燥ドラム、78…伸長量センサ、79A〜79B…軸流ファン、80A〜80F…温風噴出しノズル、82A〜82D…IRヒータ、83…送風ノズル(非接触式記録媒体抑え手段)、84…硬化ドラム、88…UVランプ、92…排出トレイ、134…乾燥制御部、135…入力部、137…第1加熱手段、139…第2加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に水性インクを打滴して記録面に画像を形成する描画部と、前記画像が形成された記録面を乾燥する乾燥部とを少なくとも備えたインクジェット記録装置において、
前記乾燥部は、
前記記録面と該記録面の反対面である裏面とを両面加熱して前記記録面の乾燥を行う両面加熱手段と、
前記記録媒体の紙厚情報に応じて前記記録面と前記裏面とに付与する加熱強度を個別に制御する乾燥制御部、を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記乾燥制御部は、前記記録媒体の紙厚が厚くなるほど、前記記録面側よりも前記裏面側に付与する加熱強度が大きくなるように制御することを特徴とする請求項1のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記乾燥制御部は、前記記録媒体の紙厚に対応する紙種類ごとに、前記水性インクの打滴量と乾燥後の記録面の許容限界温度との関係テーブルが予め入力された記憶部と、紙種類と打滴量とを入力する入力部と、を備え、前記乾燥制御部は、入力された紙種類及び打滴量によって関係テーブルから選択される記録面の許容限界温度を超えないように前記記録面と裏面とを個別に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記乾燥制御部は、
前記乾燥部で乾燥された記録媒体の記録面温度を測定する非接触式の温度センサを有し、該温度センサの測定温度に応じて前記記録面と前記裏面とに付与する加熱強度を個別に制御することを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記乾燥制御部は、
前記描画部で打滴された記録媒体の伸縮量を測定する伸縮量センサを有し、該伸縮量センサの測定伸縮量に応じて前記記録面と前記裏面とに付与する加熱強度を個別に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記乾燥部は、
前記記録媒体の裏面側を吸着させて搬送するドラムと、
前記ドラムの外周面に沿って設けられ、前記記録媒体の記録面側を加熱する第1加熱手段と、
前記ドラムの外周面を加熱することで前記吸着搬送される記録媒体の裏面を接触加熱する第2加熱手段と、を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れか1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記描画部の前段に、前記水性インクを増粘させる機能を有する凝集剤を含む処理液を前記記録媒体上に付与する処理液付与手段を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記乾燥部の後段に、前記記録面を硬化する硬化部を備えることを特徴とする請求項1〜7の何れか1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1の構成を直列に2段に設け、前記記録媒体の両面に画像を形成することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−20548(P2012−20548A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161952(P2010−161952)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】