説明

インクセットおよびそのインクセットを用いたインクジェット記録方法

【課題】普通紙に対して、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物が得られるインクジェット記録用インクセットを提供する。
【解決手段】記録媒体に、反応液と、着色インク組成物とを付着させて記録を行うインクジェット記録方法に用いられるインクセットであって、多価金属塩を含んでなる反応液、および、色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなる第1の着色インク組成物を含む構成とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、インクセットに関し、より詳細には、記録媒体に、反応液と、着色インク組成物との2液を付着させて記録を行うインクジェット記録方法に用いられるインクセットおよびそのインクセットを用いたインクジェット記録方法に関する。
【0002】
背景技術
インクジェット記録方式は、インク組成物の小滴を飛翔させ、記録媒体に付着させて印刷を行う記録方式である。インクジェット記録方式では、ブラック等の単色のみからなるインクを用いた印刷だけでなく、インクイエロー(Y)、マゼンタ(M)およびシアン(C)の3色、あるいはこれにブラック(K)を加えた4色からなるインクセットを用いて種々の色相を表現することが行われている。また、これら3色または4色のインクセットよりも色再現性に優れるインクセットとして、上記のYMCKの各色インクに加えて、オレンジやグリーン等のインクを備えたインクセットも提案されている。
【0003】
また、インクジェット記録方式において、上記したYMCK等のインクと反応液とを組み合わせて用いる、いわゆる二液を用いたインクジェット記録方法も提案されている(例えば、特開平9−207424号公報等)。この二液を用いたインクジェット記録方法では、反応液とインクとが記録媒体上で接触させると、反応液が、顔料等のインク成分の凝集状態を破壊し、インク成分が凝集して記録媒体上に凝集物が形成されるため、色濃度が高く、滲みやむらの少ない高品位な印刷物を得られるとされている。しかしながら、使用する記録媒体の種類によっては、発色性や滲みが不十分とされる場合があった。
【0004】
ところで、上記したようなインクジェット記録方法は、水性のインクを普通紙に使用することが一般的であるが、記録媒体として、低吸収性の記録媒体にも良好な画像を形成できるインクジェット記録用水性インクが提案されている。例えば、特開2007−277342号公報には、1,2−オクタンジオールのような難水溶性の1,2−アルカンジオールと界面活性剤とを含むインクを用いることにより、印刷本紙等の低吸水性の記録媒体に対して光沢性や色再現性に優れる記録物が得られることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−207424号公報
【特許文献2】特開2007−277342号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、上記のような印刷本紙等の低吸水性の記録媒体に用いられる難水溶性の1,2−アルカンジオールを含むインク組成物と、特定の反応剤を含む反応液とを組み合わせたインクセットを、普通紙に適用することにより、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物が得られる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、普通紙に対して、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物が得られるインクジェット記録用インクセットを提供することにある。
【0008】
また、本発明の別の目的は、上記のインクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することである。
【0009】
そして、本発明によるインクセットは、記録媒体に、反応液と、着色インク組成物とを付着させて記録を行うインクジェット記録方法に用いられるインクセットであって、
多価金属塩を含んでなる反応液、および
色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなる第1の着色インク組成物、
を含んでなるものである。
【0010】
また、本発明の別の態様によるインクジェット記録方法は、反応液と、第1および第2の着色インク組成物とを含むインクセットを用いて、記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記反応液が、多価金属塩を含んでなり、
前記第1の着色インクが、色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなり、
前記第2の着色インクが、色材と水とを少なくとも含んでなり、
前記記録媒体が普通紙である場合に、前記反応液および前記第1の着色インクを記録媒体に付着させて記録を行い、
前記記録媒体が、低吸水性の記録媒体である場合に、前記反応液および前記第2インクを記録媒体に付着させて記録を行うものである。
【0011】
本発明のインクセットによれば、多価金属塩を含んでなる反応液、および、色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなる第1の着色インク組成物、を併用したインクセットを普通紙に適用することにより、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物が得られる。
【0012】
また、本発明のインクジェット記録方法によれば、普通紙に対して、多価金属塩を含んでなる反応液、および、色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなる第1の着色インク組成物を併用したインクセットを適用し、印刷本紙等の低吸水性の記録媒体に対して、多価金属塩を含んでなる反応液、および、色材と水とを少なくとも含んでなり、難水溶性の1,2−アルカンジオールを含まない着色インク組成物を併用したインクセットを適用することにより、普通紙および低吸水性の記録媒体のいずれに対しても、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】記録媒体として普通紙を使用した場合の、各単色dutyでのシアンの測色値(D)を示すグラフ。
【図2】記録媒体として印刷本紙を使用した場合の、各単色dutyでのシアンの測色値(D)を示すグラフ。
【図3】記録媒体として普通紙を使用した場合の、2次色(グリーン)dutyでのシアンの測色値(D)およびイエローの測色値(D)の平均値を示すグラフ。
【図4】記録媒体として印刷本紙を使用した場合の、2次色(グリーン)dutyでのシアンの測色値(D)およびイエローの測色値(D)の平均値を示すグラフ。
【発明の具体的説明】
【0014】
<定義>
本明細書において、「低吸収性の記録媒体」とは、記録面が、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体を意味し、水性インクの受容層を備えていない、または水性インクの受容層が乏しい記録媒体を示す。
【0015】
本明細書において、アルカンジオール、ジアルキレングリコール、アルカントリオール、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールの炭化水素基部分は、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。
【0016】
また、水溶性とは、20℃での、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0g以上であることを意味し、難水溶性とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1.0g未満であることを意味する。
【0017】
<インクセット>
本発明によるインクセットは、多価金属塩を含んでなる反応液、および、色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなる第1の着色インク組成物を含むものであり、記録媒体に、反応液と、着色インク組成物とを付着させて記録を行うインクジェット記録方法に用いられるインクセットである。
【0018】
難水溶性の1,2−アルカンジオールを含む着色インク組成物と、多価金属塩を含んでなる反応液とを組み合わせたインクセットを用いることにより、普通紙に対しても、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物を得ることができる。従来、印刷本紙等の吸水性の低い記録媒体に、難水溶性の1,2−アルカンジオールと界面活性剤とを含む着色インク組成物を適用して、滲み、光沢性、色再現性などの改善が行われてきたが、このような着色インク組成物を、多価金属塩を含む反応液と組み合わせて、普通紙に適用することにより発色性や滲みが改善されたことは予想外のことであった。この理由は定かではないが以下のように考えられる。すなわち、着色インク組成物中に難水溶性の1,2−アルカンジオールが含まれることにより、記録媒体上で、多価金属塩を含む反応液と着色インク組成物とが接触すると反応液の反応性が促進され、瞬時にインク成分が凝集して、着色インク組成物が増粘する。着色インク組成物が記録媒体に浸透する前に、この増粘が生じるため、着色インク組成物は記録媒体の表面に留まり、記録媒体の中まで浸透しない。その結果、普通紙などのインクの浸透性の高い記録媒体であっても、記録濃度が改善されて発色性に優れる記録物が得られるとともに、滲みも改善されるものと考えられる。以下、本発明のインクセットを構成する反応液および着色インク組成物について説明する。
【0019】
<第一の着色インク組成物>
本発明によるインクセットを構成する着色インク組成物は、色材、難水溶性の1,2−アルカンジオール、界面活性剤、および水を必須成分として含むものである。難水溶性の1,2−アルカンジオールとしては、炭素数7以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数7〜10のアルカンジオールであり、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールがより好ましい。
【0020】
本発明においては、上記した難水溶性の1,2−アルカンジオールに加え、水溶性の1,2−アルカンジオールと、ジアルキレングリコールと、水溶性のアルカントリオール、糖類、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールからなる群から選択される一種以上の化合物と、をさらに含んでなることが好ましい。これらの成分を含むことにより、着色インク組成物の吐出安定性も改善される。吐出安定性は、ジアルキレングリコール、水溶性のアルカントリオール、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールのアルキル鎖長が短いほど良好である。アルキル鎖長が短いとは、例えば、アルキル鎖長が7以下である。
【0021】
本発明において、水溶性の1,2−アルカンジオールとしては、炭素数6以下のアルカンジオールが好ましく、例えば、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、15%水溶液とした場合の表面張力が28mN/m以下の水溶性アルカンジオールがより好ましく、1,2−ヘキサンジオール(表面張力:26.7mN/m)、4−メチル1,2−ペンタンジオール(表面張力:25.4mN/m)、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール(表面張力:26.1mN/m)が特に好ましい。印刷中の臭気の観点からは、1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
【0022】
また、ジアルキレングリコールとしては、炭素数2〜4のジアルキレングリコールが好ましく、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、およびジブタジエングリコール等が挙げられ、好ましくはジプロピレングリコールが挙げられる。
【0023】
さらに、水溶性のアルカントリオールとしては、例えば、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチル−1,3,5−ペンタントリオールが挙げられる。
【0024】
また、糖類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類および四糖類を含む)、および多糖類またはこれらの誘導体が挙げられる。これらの中でも、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、グルシトール、ソルビット、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、フィラノース、およびラフィノース等が好ましい。その中でも、ラフィノースが特に好ましい。本発明のインク組成物にラフィノースを加えることにより、間欠記録特性が向上する。
【0025】
なお、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロース等の自然界に広く存在する物質を含むものとする。また、これら糖類の誘導体としては、上記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式:HOCH(CHOH)CHOH(式中、nは2〜5の整数を表す)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖などが挙げられる。これらの中でも、特に糖アルコールが好ましく、具体的には、マルチトール、ソルビトール、キシリトール等が挙げられる。これらの糖類は市販のものを使用してもよく、例えばHS20、HS30、HS500(林原商事株式会社製)やオリゴGGF(旭化成株式会社製)を好適に使用できる。
【0026】
さらに、本発明においては、ヒドロキシアルコキシアルカンジオールは、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、好ましくは、末端ヒドロキシアルコキシ−1,2−アルカンジオールが挙げられ、さらに好ましくは、3−(2−ヒドロキシエトキシ)−1,2−プロパンジオール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−1,2−ブタンジオール、および5−(2−ヒドロキシエトキシ)−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。
【0027】
また、ジアルキレングリコール、水溶性のアルカントリオール、糖類、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールは、難水溶性のアルカンジオールの溶解助剤としての機能も有していると考えられる。
【0028】
本発明において、1,2−難水溶性のアルカンジオールの添加量は、インク組成物全体に対し、1〜3質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜2.5質量%である。この範囲にあることで、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体にインクを適用した場合であっても、印刷斑を抑制とインク中の溶解性とをより向上させることができる。
【0029】
また、水溶性の1,2−アルカンジオールの添加量は、インク組成物全体に対し、0.5〜6質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜3質量%である。この範囲にあることで、難水溶性の1,2−アルカンジオールのインク中の溶解性をより向上させるとともに、インクの初期粘度の低減をより実現できる。
【0030】
さらに、ジアルキレングリコールの添加量は、インク組成物全体に対し、2〜12質量%が好ましく、より好ましくは3〜6質量%である。
【0031】
また、本発明において、水溶性のアルカントリオールの添加量は、インク組成物全体に対し、2〜12質量%が好ましく、より好ましくは3〜6質量%である。
【0032】
さらに、糖類の添加量は、インク組成物全体に対し、2〜12質量%が好ましく、より好ましくは3〜6質量%である。この範囲にあることで、難水溶性の1,2−アルカンジオールのインク中の溶解性をより有効に向上させることができるとともに、インクの初期粘度の低減をより実現できる。
【0033】
また、ヒドロキシアルコキシアルカンジオールの添加量は、インク組成物全体に対し、2〜12質量%が好ましく、より好ましくは3〜6質量%である。
【0034】
また、水溶性のアルカントリオール、糖類、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールから選択される一種以上の化合物の添加量は、インク組成物全体に対し、2〜12質量%が好ましく、より好ましくは3〜6質量%である。
【0035】
また、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、水溶性の1,2−アルカンジオールとの含有量の和が、インク組成物に対し、6質量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、普通紙だけでなく、印刷本紙のようなインク吸収性の低い記録媒体においても凝集班を生じることなく、また吐出安定性にも優れる。
【0036】
本発明によれば、ジアルキレングリコールと、水溶性のアルカントリオールとの含有量の和は、インク組成物全体に対し、3〜18質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは4〜8質量%である。
【0037】
また、本発明によれば、ジアルキレングリコールと、糖類との含有量の和は、インク組成物全体に対し、3〜18質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは4〜8質量%である。
【0038】
また、本発明によれば、ジアルキレングリコールと、ヒドロキシアルコキシアルカンジオールとの含有量の和は、インク組成物全体に対し、3〜18質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは4〜8質量%である。
【0039】
また、本発明によれば、ジアルキレングリコールと、水溶性のアルカントリオール、糖類、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールから選択される一種以上の化合物との含有量の和は、インク組成物全体に対し、3〜18質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは4〜8質量%である。
【0040】
また、本発明によれば、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、ジアルキレングリコールと、水溶性のアルカントリオールとの含有量の和が、インク組成物に対し、21質量%以下であることが好ましい。
【0041】
また、本発明によれば、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、ジアルキレングリコールと、前記糖類との含有量の和が、インク組成物に対し、21質量%以下であることが好ましい。
【0042】
また、本発明によれば、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、ジアルキレングリコールと、前記ヒドロキシアルコキシアルカンジオールとの含有量の和が、インク組成物に対し、21質量%以下であることが好ましい。
【0043】
また、本発明によれば、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、ジアルキレングリコールと、前記水溶性のアルカントリオール、糖類、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールから選択される一種以上の化合物との含有量の和が、インク組成物に対し、21質量%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明においては、第1の着色インク組成物は、上記成分に加えて、多価アルコールのアルキルエーテルを更に含んでなることができる。多価アルコールのアルキルエーテルを加えることにより、インクジェットヘッドにキャップするためのインクキャップ内の目詰まり回復性を向上させることができる。ここで、インクキャップ内の目詰まりとは、キャップ内に滞留している廃液が乾燥固化し、これがインクキャップ内の不織布等のインク吸収剤の微細孔を目詰させることを意味する。インクキャップ内の目詰まり回復性を向上させることにより、クリーニング成功率の低下を防ぎ、ノズル目詰まり回復性を向上させることができる。
【0045】
多価アルコールのアルキルエーテルは、アルキレングリコールのメチルエーテルが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、およびトリエチレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。凝集性の観点では、アルキレングリコールのモノメチルエーテルがより好ましく、引火点の観点では、トリエチレングリコールのメチルエーテルが好ましい。環境毒性と生態毒性の観点では、トリエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0046】
また、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを含む場合、インク組成物全体に対し、0.5〜 9.0質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは0.5〜3.0質量%である。
【0047】
さらに、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを含む場合、難水溶性の1,2−アルカンジオールとの含有量比は、3:1〜1:6であることが好ましく、3:1〜1:1であることがより好ましい。この範囲とすることにより、インクジェットヘッドにキャップするためのインクキャップ内の目詰まり回復性を更に向上させることができる。
【0048】
また、本発明において、トリエチレングリコールモノメチルエーテルと水溶性の1,2−アルカンジオールとの含有量の和は、特に限定されないが、インク組成物に対し、9.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。この範囲とすることにより、インクジェットヘッドにキャップするためのインクキャップ内の目詰まり回復性を更に向上させることができる。
【0049】
本発明に用いられる第1の着色インク組成物に含まれる色材としては、染料および顔料のいずれも使用することができるが、耐光性や耐水性の観点から顔料を好適に使用できる。
【0050】
顔料としては、無機顔料および有機顔料を使用することができ、それぞれ単独または複数種を混合して用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタンおよび酸化鉄の他に、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックが使用できる。また、前記有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が使用できる。
【0051】
顔料の具体例は、得ようとするインク組成物の種類(色)に応じて適宜挙げられる。例えば、イエローインク組成物用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントイエロー74,110,128、および129からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましい。また、マゼンタインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントレッド122,202,209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることが好ましく、これらの固溶体であることが更に好ましい。また、シアンインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等が挙げられ、これらの一種または二種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブルー15:3および/または15:4を用いることが好ましく、とりわけ、C.I.ピグメントブルー15:3を用いることが好ましい。
【0052】
また、ブラックインク組成物用の顔料としては、例えば、ランプブラック(C.I.ピグメントブラック6)、アセチレンブラック、ファーネスブラック(C.I.ピグメントブラック7)、チャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等の炭素類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等が挙げられるが、本発明においては、カーボンブラックが好ましく用いられる。カーボンブラックとして、具体的には、#2650、#2600、#2300、#2200、#1000、#980、#970、#966、#960、#950、#900、#850、MCF−88、#55、#52、#47、#45、#45L、#44、#33、#32、#30、(以上、三菱化学(株)製)、SpecialBlaek4A、550、Printex95、90、85、80、75、45、40(以上、デグッサ社製)、Regal660、RmogulL、monarch1400、1300、1100、800、900(以上、キャボット社製)、Raven7000、5750、5250、3500、3500、2500ULTRA、2000、1500、1255、1200、1190ULTRA、1170、1100ULTRA、Raven5000UIII(以上、コロンビアン社製)等が挙げられる。
【0053】
また、本発明においては、後記する分散剤なしに水性媒体に分散および/または溶解が可能な顔料である、いわゆる表面処理顔料を用いてもよい。ここで、「分散剤なしに水性媒体に分散および/または溶解」とは、分散質(顔料)が、分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な最小粒子径で安定に存在している状態をいう。「分散剤」とは、水性媒体中に顔料粒子を分散させるために一般に用いられる界面活性剤または高分子材料等の添加剤をいう。また「分散可能な最小粒子径」とは、分散時間を増してもそれ以上小さくならない分散質の最小粒子径をいう。
【0054】
表面処理顔料は、顔料表面に、「親水性官能基および/またはその塩」(以下、分散性付与基という)を結合してなることが好ましい。分散性付与基は、顔料表面に直接結合されてもよく、また、アルキル基、アルキルエーテル基およびアリール基等を介して結合されてもよい。分散性付与基としては、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン基、燐酸基および第4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0055】
表面処理顔料は、例えば、顔料を物理的処理または化学的処理することにより、分散性付与基または前記分 散性付与基を有する活性種を、顔料の表面に結合(グラフト)させることにより製造される。物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理等が挙げられる。また、化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により顔料表面を酸化して、カルボキシル基やスルホン基を該顔料表面に直接結合させる方法や、p−アミノ−安息香酸を顔料表面に結合させることにより、フェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が挙げられる。
【0056】
顔料の濃度は、インク組成物を調製した際に適宜な顔料濃度(含有量)に調整すればよいため特に制限はないが、本発明においては、顔料の固形分濃度を6質量%以上とすることが好ましく、12質量%以上とすることがより好ましい。記録媒体上にインク液滴が付着すると、記録媒体の表面でインクが濡れ広がるが、顔料固形濃度を6質量%以上と高くすることにより、濡れ広がりが留まった後のインクの流動性が早期に失われるため、印刷本紙等の記録媒体に、特に低解像度で印刷した場合であっても、より滲みを抑制することができる。
【0057】
上記した表面処理顔料以外の顔料を用いる場合、後記する分散剤との混練処理がされた顔料であることが画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点から好ましい。
【0058】
本発明によるインク組成物は、着色材を分散させるための分散剤として、スチレン−アクリル酸系共重合樹脂、ウレタン系樹脂、およびフルオレン系樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含んでなることが好ましい。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
【0059】
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエンなどを挙げることができる。これらは、単独でまたは二種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0061】
疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0062】
上記の共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩であってもよい。
【0063】
共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部であり、一層好ましくは20〜40質量部である。
【0064】
また、本発明においては、顔料分散剤として、ウレタン樹脂を用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる。ウレタン樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂であるが、本発明においては、ウレタン結合および/またはアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
【0065】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
【0066】
ジオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられる。
【0067】
ウレタン樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
【0068】
また、本発明においては、顔料分散剤として、フルオレン系樹脂を使用することもできる。
【0069】
顔料の固形分と、顔料以外の固形分との質量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/20〜100/80であることが好ましい。
【0070】
上記の共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜50質量部であり、一層好ましくは20〜40質量部である。
【0071】
ウレタン樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは10〜40質量部であり、一層好ましくは10〜35質量部である。
【0072】
フルオレン系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100質量部に対して、好ましくは20〜100質量部であり、一層好ましくは20〜80質量部である。
【0073】
共重合樹脂およびウレタン樹脂の合計量は、顔料100質量部に対して、90質量部以下(さらに好ましくは70質量部以下)となるように用いられることが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに光沢性に一層優れたカラー画像を形成できる点で好ましい。
【0074】
共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
【0075】
ウレタン樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。なお、酸価は、樹脂1gを中和させるのに必要なKOHのmg量である。
【0076】
共重合樹脂の質量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜3万であり、より好ましくは2,000〜2万である。
【0077】
ウレタン樹脂の架橋前の質量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜20万であり、より好ましくは1000〜5万である。Mwは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0078】
共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好ましくは50〜130℃である。
【0079】
ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
【0080】
上記した共重合樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0081】
また、フルオレン樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば何ら制限されるものではなく、例えば、下記のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。
シクロヘキサン、5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−
トリメチル(CAS No.4098−71−9)
エタノール、2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレン
オキシ)]ビス(CAS No.117344−32−8)
プロピオン酸、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチル(CAS N
o.4767−03−7)
エタンアミン、N,N−ジエチル−(CAS No.121−44−8)
【0082】
また、分散剤として、界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、スルホ琥珀酸エステル塩、ナフテン酸塩、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミン塩、第四アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウムなどの陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などの非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。上記界面活性剤はインク組成物に添加されることで、界面活性剤としての機能をも果たすことは言うまでもない。
【0083】
本発明に用いられる第一着色インク組成物は、必須成分として、上記した難水溶性の1,2−アルカンジオールに加えて界面活性剤を含むものである。難水溶性の1,2−アルカンジオールと界面活性剤とを含む着色インク組成物を、後記する反応液と組み合わせて、普通紙に適用することにより、発色性や滲みが改善される。
【0084】
本発明において用いられる界面活性剤としては、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を好適に使用でき、記録画像を形成する際に、記録媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を用いた場合、上記成分を含有するため、界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、吐出安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
【0085】
上記のような界面活性剤は市販されているものを用いてもよく、例えば、オルフィンPD−501、オルフィンPD−502、オルフィンPD−570(いずれも、日信化学工業株式会社製)BYK−347,BYK−348(いずれも、ビックケミー株式会社製)等を用いることができる。
【0086】
また、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤として、下記式(I):
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは2〜11の整数を表し、mは2〜50
の整数を表し、nは1〜5の整数を表す。)で表される一種または二種以上の化合物を含んでなるか、または、上記式(I)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜5の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。また、上記式(I)の化合物において、Rが水素原子またはメチル基であり、aが2〜13の整数であり、mは2〜50の整数であり、nは1〜8の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。あるいは、上記式(I)の化合物において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数、であり、mが0であり、nが1である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。このような特定のポリオルガノシロキサン系界面活性剤を使用することにより、インクの凝集むらがより改善される。
【0087】
上記式(I)の化合物においては、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがより好ましい。このような化合物を使用することによって、より一層インクの凝集むらが改善できる。
【0088】
また、上記式(I)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが2〜5の整数であり、mが20〜40の整数であり、nが2〜4の整数である化合物、または、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0089】
また、上記式(I)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物、または、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0090】
さらに、上記式(I)の化合物においては、Rがメチル基であり、aが6〜12の整数、であり、mが0であり、nが1である化合物を用いることがさらに好ましい。このような化合物を使用することにより、さらにインクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0091】
また、上記式(I)の化合物においては、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物と、Rがメチル基であり、aが6〜10の整数であり、mが10〜20の整数であり、nが4〜8の整数である化合物とを混合したものを用いることが最も好ましい。このような化合物を使用することにより、より一層、インクの凝集むらと滲みを改善することができる。
【0092】
上記界面活性剤は、本発明によるインク組成物中に、好ましくは0.01〜1.0質量%、より好ましくは0.05〜0.50質量%含有される。
【0093】
また、本発明において用いられる界面活性剤は、ジェミニ型界面活性剤を含んでもよい。上記成分と組み合わせてジェミニ型界面活性剤を用いることにより、難水溶性溶剤を均一に分散することができ、その結果、インクの初期粘度を低下させることができる。したがって、インク組成物中への色材の添加量や目詰まり防止剤等の添加量を高めることができ、ひいては、普通紙のみならず、表面にインクを受容するための樹脂や粒子がコーティングされた多孔質な表面を持つ記録媒体においても、優れた発色性を有する画像を実現することができる。なお、「ジェミニ型界面活性剤」とは、二つの界面活性剤分子がリンカーを介して互いに結合した構造を有する界面活性剤を意味する。
【0094】
上記のジェミニ型界面活性剤は、一対の1鎖型界面活性剤の親水基部分を、親水性基を有するリンカーを介して互いに結合させた構造の、2鎖3親水基型界面活性剤であることが好ましい。また、上記の1鎖型界面活性剤の親水基部分が酸性アミノ酸残基であることが好ましく、上記リンカーは塩基性アミノ酸であることが好ましい。具体的には、親水基部分がグルタミン酸またはアスパラギン酸であるような一対の1鎖型界面活性剤を、アルギニン、リシン、またはヒスチジンのようなリンカーを介して結合させた構造の界面活性剤が挙げられる。上記のようなジェミニ型界面活性剤として、本発明においては、下記式(II):
【化2】

(式中、X、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子またはアルカリ金属を表すが、X、X、およびXの何れもが同時に水素原子またはアルカリ金属となることはなく、LおよびMは、それぞれ独立して0または2を表すが、LおよびMが同時に0または2となることはなく、NおよびPは、それぞれ独立して0または2を表すが、NおよびPが同時に0または2となることはなく、QおよびRは、8〜18の整数を表す)で表される界面活性剤を用いることが好ましい。
【0095】
上記式(II)において、アルカリ金属としてはNaが好ましく、また、QおよびRは10程度が好ましい。このような化合物として、N−ラウロイル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物のナトリウム塩が挙げられる。上記式で表される化合物は、市販されているものを用いてもよく、例えば、N−ラウロイル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物のナトリウム塩を30%含有した水溶液である、ペリセアL−30(旭化成ケミカルズ株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0096】
本発明においては、上記ジェミニ型界面活性剤を使用することにより、記録画像を形成する際に、記録媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。上記界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、吐出安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
【0097】
第1着色インク組成物には、その他の界面活性剤、具体的には、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに添加しても良い。
【0098】
これらのうち、アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、または3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は市販品も利用することができ、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(商品名、日信化学社製)、サーフィノール61、104,82,465,485あるいはTG(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0099】
また、第1着色インク組成物は、上記成分に加えて、浸透剤を含んでなることが好ましい。浸透剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の各種界面活性剤、メタノール、エタノール、iso−プロピルアルコール等のアルコール類、グリコールエーテル類を好適に使用できる。グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノールなどが挙げられ、これらの一種または二種以上の混合物として用いることができる。
【0100】
上記したグリコールエーテル類のなかでも、多価アルコールのアルキルエーテルが好ましく、特にエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、またはトリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルが好ましい。より好ましくは、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルが挙げられる。なお、上記多価アルコールのアルキルエーテルの中にはインク組成物に添加されることにより、浸透剤としての機能をも果たすものもあることは言うまでもない。
【0101】
また、前記浸透剤としてのグリコールエーテル類は、凝集性の観点、引火点の観点、および環境毒性と生態毒性との観点で用いる多価アルコールのアルキルエーテルと重複するものもあるが、グリコールエーテル類の中には両方の効果を奏するものもある。
【0102】
浸透剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30質量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20質量%程度である。
【0103】
また、第一着色インク組成物は、上記成分に加えて、記録媒体溶解剤を含んでなることが好ましい。記録媒体溶解剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの、ピロリドン類を好適に使用できる。上記記録媒体溶解剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30質量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20質量%程度である。
【0104】
第一着色インク組成物には、湿潤剤が含まれていてもよい。通常のインクジェット記録用インク組成物に用いられている湿潤剤を意味し、具体的には、グリセリン、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール等の炭素数3〜5の水溶性アルカンジオール類である。
【0105】
第1着色インク組成物は、上記した色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤とを必須成分として、その他の各種添加剤を含有するとともに、溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0106】
第1着色インク組成物は、さらにノズルの目詰まり防止剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを添加することができる。
【0107】
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等を挙げることができる。
【0108】
さらに、pH調整剤、他の溶解助剤、または酸化防止剤の例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。
【0109】
また、第1着色インク組成物は、酸化防止剤および紫外線吸収剤を含んでいてもよく、その例としては、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のTinuvin 328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor 252 153、Irganox 1010、1076、1035、MD1024、ランタニドの酸化物等を挙げることができる。
【0110】
第1着色インク組成物は、上記した各成分を適当な方法で分散・混合することよって製造することができる。好ましくは、まず顔料と高分子分散剤と水とを適当な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)で混合し、均一な顔料分散液を調製し、次いで、別途調製した樹脂(樹脂エマルジョン)、水、水溶性有機溶媒、糖、pH調製剤、防腐剤、防かび剤等を加えて十分溶解させてインク溶液を調製する。十分に攪拌した後、目詰まりの原因となる粗大粒径および異物を除去するためにろ過を行って目的のインク組成物を得ることができる。前記ろ過は、ろ材として、好ましくは、グラスファイバーフィルターを用いて行ってもよい。前記グラスファイバーは、樹脂含浸グラスファイバーであることが、静電吸着機能の観点から好ましい。また、孔径は、1〜40ミクロンが好ましく、さらに好ましくは1〜10ミクロンであることが、生産性と帯電遊離樹脂等の吸着除去の観点で好ましい。帯電遊離樹脂等の吸着除去が不十分な場合、吐出安定性を著しく劣化させる場合がある。上記のフィルターとして、日本ポール社製のウルチポアGFプラスを挙げることができる。
【0111】
<第2の着色インク組成物>
本発明によるインクセットには、着色インクとして、上記した第1の着色インク組成物に加え、第2の着色インク組成物を含んでいてもよい。第2の着色インク組成物は、色材と水とを少なくとも含み、上記した難水溶性の1,2−アルカンジオールを含有しないものである。そして、第2の着色インク組成物は、後記する反応液との組み合わせにおいて、印刷本紙等のような低吸水性の記録媒体に適用されるものである。従来、低吸水性の記録媒体に適したインク組成物として、上記したように、1,2−オクタンジオールのような難水溶性の1,2−アルカンジオールを含むインクが知られており、このようなインクを用いて低吸水性の記録媒体に記録を行うことにより、光沢性や色再現性に優れる記録物が得られる。本発明においては、低吸水性の記録媒体に、難水溶性の1,2−アルカンジオールを含まないインク組成物と特定の反応剤を含む反応液とを組み合わせて用いることにより、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物が得られることを見出したものである。
【0112】
第2の着色インク組成物は、色材および水を必須成分として含むものであるが、難水溶性の1,2−アルカンジオールを含まない以外は、第1の着色インク組成物と同様の成分を含有してよく、上記したアルコール類、界面活性剤、浸透剤、記録媒体溶解剤、湿潤剤等の成分を含んでいてもよい。また、色材および水は、第1の着色インク組成物と同様のものを使用することができる。
【0113】
<反応液>
本発明によるインクセットには、上記した第1および第2の着色インク組成物に加えて、反応液が含まれる。本発明において用いられる反応液は、基本的に少なくとも多価金属塩を含む。この多価金属塩を含む反応液と、上記した第1の着色インク組成物とを、普通紙に適用することにより、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物を得ることができる。また、多価金属塩を含む反応液と、上記した第2の着色インク組成物とを、低吸水性の記録媒体に適用することにより、発色性に優れ、かつ滲みも改善された記録物を得ることができる。
【0114】
多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオンや、Al3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンがあげられる。陰イオンとしては、Cl、NO3 、I、Br、ClO3 、硝酸イオン、およびカルボン酸イオンなどがあげられる。
【0115】
カルボン酸イオンは、好ましくは炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸または炭素数7〜11の炭素環式モノカルボン酸から誘導されるものである。炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸の好ましい例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸などが挙げられる。特に蟻酸、酢酸が好ましい。このモノカルボン酸の飽和脂肪族炭化水素基上の水素原子は水酸基で置換されていてもよく、そのようなカルボン酸の好ましい例としては、乳酸が挙げられる。また、炭素数6〜10の炭素環式モノカルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、ナフトエ酸等が挙げられ、より好ましくは安息香酸である。
【0116】
これら多価金属イオンのなかでも、Ca2+またはMg2+より構成される金属塩は、反応液のpH、得られる印刷物の品質という二つの観点から好ましい。
【0117】
これら多価金属塩の反応液中における濃度は記録品質、目詰まり防止の効果が得られる範囲で適宜決定されてよいが、好ましくは0.1〜40質量%程度であり、より好ましくは5〜25質量%程度である。
【0118】
本発明においては、反応液は、多価金属塩に加えて、ポリオールを含んでいてもよく、例えば、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ブタンジオール、糖などを添加してもよい。糖としては、例えば単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類および四糖類を含む)および多糖類があげられ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシシール、ソルビット、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどが挙げられる。
【0119】
これらポリオールは単独で添加されても、二以上の混合物として添加されてよい。二以上の混合物として添加される場合、その添加量は、合計として多価金属塩に対して質量比で1以上とされる。
【0120】
また、本発明においては、反応液には、上記したような湿潤剤を含んでいてもよく、湿潤剤が含まれることにより、反応液の乾燥を防ぎ、ヘッドの目詰まりが改善される。湿潤剤の添加量は特に限定されないが、好ましくは0.5〜40質量%程度であり、より好ましくは2〜20質量%程度である。
【0121】
また、本発明においては、反応液には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノールなどの低沸点有機溶剤が含まれていてもよく、これら低沸点有機溶剤の添加によりインクの乾燥時間が短縮される。低沸点有機溶剤の添加量は0.5〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜6質量%の範囲である。
【0122】
また、反応液は、上記した界面活性剤や浸透剤を含んでいてもよく、また、pH調整のためにトリエタノールアミンを含んでいてもよい。さらに、反応液は、上記したインク組成物の項で記載した色材を添加して着色され、インク組成物の機能を兼ね備えたものとされてもよい。
【0123】
<インクジェット記録方法>
本発明によるインクジェット記録方法は、上記した反応液と、第1および第2の着色インク組成物とを含むインクセットを用いて、記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、前記反応液が、多価金属塩を含んでなり、前記第1の着色インクが、色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなり、前記第2の着色インクが、色材と水とを少なくとも含んでなり、前記記録媒体が普通紙である場合に、前記反応液および前記第1の着色インクを記録媒体に付着させて記録を行い、前記記録媒体が、低吸水性の記録媒体である場合に、前記反応液および前記第2インクを記録媒体に付着させて記録を行うものである。
【0124】
本発明による記録方法は、インクジェットプリンタを用いて実施される。インクジェットプリンタは、周知のように、記録ヘッド(インクジェットヘッド)の吐出口からインクの液滴を吐出させ、これを記録媒体に付着させて画像を形成する印刷装置である。インクジェットプリンタには、記録ヘッドのノズルから一定時間間隔でインクを吐出し続け、吐出されたインク液滴を偏向させることにより画像を形成するコンティニュアス方式のものと、画像データに対応してインクを吐出させるオンデマンド方式のものとがあるが、本発明では、細かい打ち込み制御が可能で廃液量が少ないオンデマンド方式のインクジェットプリンタが好ましい。また、記録ヘッドのインク吐出方式には、ピエゾ素子などの圧電素子を利用した電気−機械変換方式や、ヒータなどの電気−熱変換素子を利用した電気−熱変換方式などがあり、本発明では、いずれの方式の記録ヘッドを搭載したインクジェットプリンタでも使用できる。尚、一般に、水性顔料インクを使用する場合には、吐出安定性等の観点から、電気−機械変換方式の記録ヘッドを使用することが好ましい。
【0125】
本発明による記録方法において、上記した反応液と第1の着色インク組成物とを付着させる記録媒体として普通紙を用いる。使用可能な普通紙としては、例えば、上質紙、再生紙、コピー用紙、ボンド紙、板紙、和紙、不織布などが挙げられるが、インク吸収性に優れるシリカなどの多孔質粒子を主体とするインク受容層を有する公知のインクジェット専用紙も使用することができる。
【0126】
上記した反応液と第2の着色インク組成物とを付着させる記録媒体としては、低吸水性の記録媒体を用いる。低吸水性の記録媒体とは上記した通り、記録面が、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体である。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に述べられている。
【0127】
低吸水性の記録媒体としては、例えば、塗工紙が挙げられ、微塗工紙、アート紙、コート紙、マット紙、キャスト紙等の記録本紙(これら記録本紙を印刷本紙ともいう。)等が挙げられる。
【0128】
塗工紙は、表面に塗料を塗布し、美感や平滑さを高めた紙である。塗料は、タルク、パイロフィライト、クレー(カオリン)、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの顔料と、デンプン、ポリビニルアルコールなどの接着剤を混合して作ることができる。塗料は、紙の製造工程の中でコーターという機械を用いて塗布する。コーターには、抄紙機と直結することで抄紙・塗工を1工程とするオンマシン式と、抄紙とは別工程とするオフマシン式がある。主に記録に用いられ、経済産業省の「生産動態統計分類」では印刷用塗工紙に分類される。
【0129】
微塗工紙とは、塗料の塗工量が12g/m以下の記録用紙のことをいう。アート紙とは、上級記録用紙(上質紙、化学パルプ使用率100%の紙)に40g/m前後の塗料を塗工した記録用紙のことをいう。コート紙とは、20g/m 〜 40g/m程度の塗料を塗工した記録用紙のことをいう。キャスト紙とは、アート紙やコート紙を、キャストドラムという機械で表面に圧力をかけることで、光沢や記録効果がより高くなるように仕上げた記録用紙のことをいう。
【0130】
低吸水性の記録媒体として印刷本紙を用いることが好ましいが、アート紙、POD(プリントオンデマンド)用途に用いられる高画質用紙およびレーザープリンタ用の専用紙も用いることが可能である。例えば、印刷本紙としてはOKT+(王子製紙株式会社製)が、POD用途の高画質用紙としてはリコービジネスコートグロス100(リコー株式会社製)が、レーザープリンタ用の専用紙としてはLPCCTA4(セイコーエプソン株式会社製)が挙げられる。
【0131】
上記反応液は、記録媒体の被記録面の全面に均一な付着量で付着させてもよく、インクを付着させる箇所にのみ選択的に付着させてもよい。反応液の付着量は、所定の効果が得られる範囲で適宜調整すればよく、好ましくは固形分換算で0.05〜5g/mである。
【0132】
本発明においては、上記反応液と上記第1または第2着色インク組成物とを記録媒体の被記録面上で接触させるようにこれらを付与すればよく、反応液、着色インク組成物の順序でこれらを記録媒体の被記録面上に付与してもよいし、着色インク組成物を先に付与してもよい。
【0133】
また、接触させる2液のうちの一方を付与してから他方を付与するまでの時間については、吐出量や記録媒体の種類などにより変わってくるが、5ms〜60秒であることが好ましく、50ms〜500msであることがさらに好ましい。このタイムラグが5msより短いと、先に付与された一方の液滴が記録媒体内部に浸透する前に、他方の液滴がこの一方の液滴に着弾する場合が出てくるため、インクや反応液が記録媒体上に溢れて画質や乾燥性に悪影響を及ぼすおそれがある。逆に、タイムラグが60秒を超えると、先に付与された一方の液滴が記録媒体内部に完全に浸透した後に他方の液滴が吐出されることなるため、所定の画質向上効果が得られなくなるおそれがある。
【実施例】
【0134】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0135】
<インク組成物および反応液の調製>
下記表の組成に従い各成分を混合し、2時間撹拌した。その後、孔径約1.2μmのメンブランフィルター(商品名、日本ミリポア・リミテッド製)にて濾過することにより、イエローインク1および2、ならびに反応液を調製した。下記表中の数値はインク中の含有量(質量%)を表す。また、樹脂は固形分の含有量(質量%)を表す。なお、下記表中のスチレン−アクリル酸系樹脂は、分子量1600、酸価150の共重合体である。また、フルオレン系樹脂は、CAS No.117344−32−8で示されるフルオレン骨格を有するモノマーをモノマー構成比率略50重量%含有する、分子量3300の樹脂である。また、インク組成物および反応液中に含まれる界面活性剤は、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤であり、上記した式(I)において、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、上記式(I)において、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物とを混合した界面活性剤である。
【0136】
【表1】

【0137】
また、上記の第1インク(Y)において、C.I.ピグメントイエロー74に代えて、C.I.ピグメントブルー15:3を使用した以外は、上記と同様にして第1インク(C)を得た。また、上記の第2インク(Y)において、C.I.ピグメントイエロー74に代えて、C.I.ピグメントブルー15:3を使用した以外は、上記と同様にして第2インク(C)を得た。
【0138】
<記録品質の評価>
上記で得られた各インクおよび反応液をインクセットとし、インクジェットプリンタ(PX−H10000、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジのノズル列A〜Jに、下記のようにして割り当てた。
ノズルA:反応液
ノズルB:反応液
ノズルC:第1インク(C)
ノズルD:第1インク(C)
ノズルE:第1インク(Y)
ノズルF:第1インク(Y)
ノズルG:第2インク(C)
ノズルH:第2インク(C)
ノズルI:第2インク(Y)
ノズルJ:第2インク(Y)
【0139】
上記のインクジェットプリンタを使用し、普通紙(XeroxP)および印刷本紙(OKT+)に、1440×720dpiで、単色duty0%〜100%、2次色duty0%〜200%のベタ印刷を行い評価サンプルを作製した。
単色での記録において、各ノズルからの液滴の吐出は、以下の4種とした。
1.ノズルA、B、CおよびD(反応液と第1インク(C)との組み合わせ)
2・ノズルA、B、GおよびH(反応液と第2インク(C)との組み合わせ)
3.ノズルCおよびD(第1インク(C)のみ)
4.ノズルGおよびH(第2インク(C)のみ)
また、2次色での記録において、各ノズルからの液滴の吐出は、以下の4種とした。
5.ノズルA、B、C、D、EおよびF(反応液と第1インク(C)、第1インク(Y)との組み合わせ)
6.ノズルA、B、G、H、IおよびJ(反応液と第2インク(C)、第2インク(Y)との組み合わせ)
7.ノズルC、D、EおよびF(第1インク(C)および第1インク(Y)のみ)
8.ノズルG、H、IおよびJ(第2インク(C)および第2インク(Y)のみ)
【0140】
次いで、得られた評価サンプルについて、分光測色計(Spectrolino、マクベス社製)を用いて、光学濃度(OD値)を測定した。測定条件は、下記の通りとした。
光源:D50
濃度フィルター:DIN16536
UVカットフィルタ:有り
白色基準:絶対値
なお、「duty」とは、下式で算出される値である。
duty(%)=実記録ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実記録ドット数」は単位面積当たりの実記録ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0141】
記録媒体として普通紙を使用した場合の、各単色dutyでのシアンの測色値(D)は、図1に示されるような関係であった。また、記録媒体として印刷本紙を使用した場合の、各単色dutyでのシアンの測色値(D)は、図2に示されるような関係であった。
【0142】
記録媒体として普通紙を使用した場合の、2次色(グリーン)dutyでのシアンの測色値(D)およびイエローの測色値(D)の平均値は、図3に示されるような関係であった。また、記録媒体として印刷本紙を使用した場合の、2次色(グリーン)dutyでのシアンの測色値(D)およびイエローの測色値(D)の平均値は、図4に示されるような関係であった。なお、図1〜4において、グラフ中の点線部は、評価サンプルにおいて、滲みや凝集むらのために正常な記録画質を確保できない領域を表す。
【0143】
図1および図3に示されるように、記録媒体が普通紙である場合、難水溶性の1,2−アルカンジオールおよび界面活性剤を含むインクと、多価金属塩を含む反応液とを組み合わせたインクセットを用いて印刷した記録物は、他のインクセットを用いて印刷した記録物と比較して、高dutyであっても、滲みや凝集むらのない高品位な画質が得られ、また、光学濃度も高いことがわかる。また、図2および図3に示されるように、記録媒体が印刷本紙である場合、難水溶性の1,2−アルカンジオールを含まないインクと、多価金属塩を含む反応液とを組み合わせたインクセットを用いて印刷した記録物は、他のインクセットを用いて印刷した記録物と比較して、高dutyであっても、滲みや凝集むらのない高品位な画質が得られ、また、光学濃度も高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に、反応液と、着色インク組成物とを付着させて記録を行うインクジェット記録方法に用いられるインクセットであって、
多価金属塩を含んでなる反応液、および
色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなる第1の着色インク組成物、
を含んでなる、インクセット。
【請求項2】
前記記録媒体が普通紙である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記第1着色インク組成物が、水溶性の1,2−アルカンジオールと、ジアルキレングリコールと、水溶性のアルカントリオール、糖類、およびヒドロキシアルコキシアルカンジオールからなる群から選択される一種以上の化合物と、をさらに含んでなる、請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記界面活性剤が、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤またはジェミニ型界面活性剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項5】
色材と水とを少なくとも含んでなる第2の着色インク組成物をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記第1および/または第2の着色インク組成物が、スチレン−アクリル酸系共重合体樹脂、ウレタン系樹脂、およびフルオレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる、請求項5に記載のインクセット。
【請求項7】
反応液と、第1および第2の着色インク組成物とを含むインクセットを用いて、記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記反応液が、多価金属塩を含んでなり、
前記第1の着色インクが、色材と、難水溶性の1,2−アルカンジオールと、界面活性剤と、水と、を少なくとも含んでなり、
前記第2の着色インクが、色材と水とを少なくとも含んでなり、
前記記録媒体が普通紙である場合に、前記反応液および前記第1の着色インクを記録媒体に付着させて記録を行い、
前記記録媒体が、低吸収性の記録媒体である場合に、前記反応液および前記第2インクを記録媒体に付着させて記録を行う、インクジェット記録方法。
【請求項8】
前記記録媒体に、前記反応液を付着させる前および/または後に、前記第1もしくは第2着色インク組成物を付着させる、請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−72243(P2012−72243A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217182(P2010−217182)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】