説明

インクセット

【課題】 発色性、高速印刷性及び高温高湿環境下における耐擦過性の何れにも優れる顔料インクと反応液のインクセットの提供。
【解決手段】 水、水溶性有機溶剤、顔料、樹脂分散剤及び水を含有する顔料インクと、水、水溶性有機溶剤及び該顔料インクと接触すると顔料の分散を不安定化させることができる反応性化合物を含有する反応液を具備するインクセットであって、該樹脂分散剤がビニルエーテル系モノマーを重合することによって得られるポリマーであることを特徴とするインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂分散在によって分散された顔料を含有する顔料インクと該顔料の分散を不安定化させる反応性化合物を含有する反応液を具備するインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録は、ノズルより飛翔した微小なインク滴を、必要とされる箇所に必要とされる量だけ付与するといったオンデマンド記録に最も適した印刷方法である。
【0003】
近年、この技術は、パーソナルからビジネス、更には産業用としても活用され、既に多岐に亘る製品が上市されている。また、より高い画像堅牢性を確保するために、インクの色材が染料から顔料へシフトする流れがあり、産業用のみならず顔料インクを搭載したパーソナル用のプリンターも見られるようになった。
【0004】
しかしながら、一般に顔料は染料と比較すると発色性に劣る傾向にある。これは紙の繊維の間に顔料自身が潜り込むためであり、この改善のために色材である顔料を紙の上層に留める試みがなされてきた。特許文献1には、顔料インク自体の表面張力を高くして紙への浸透をできるだけ抑え、顔料の紙への潜り込みを抑制する等の方法が示されている。また、特許文献2には、2種の顔料インクを紙面上で反応させることで顔料の析出を促進させることによってにじみ、高発色、高速印刷性を達成している。
【特許文献1】特開平4−170478号公報
【特許文献2】特開平7−1837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、インクの乾燥に時間がかかり、ビジネスや産業用のみならず、高速性を重視する最近のパーソナル分野においても問題となり得る。また、特許文献2に開示された技術では、紙面上に形成された画像が高温高湿の環境に置かれると耐擦過性が低下し、画像が汚れやすくなるという問題もあった。これらのことから高発色で高速印刷を可能とし、更に反応を利用して形成した画像でありながらも、高温高湿環境下でも画像の耐擦過性に優れる顔料インク技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、発色性、高速印刷性及び高温高湿環境下における耐擦過性の何れにも優れる顔料インクと反応液のインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して、顔料インクに使用される樹脂分散剤の分子構造自体を見直した。
【0008】
従来、顔料の樹脂分散剤には主としてアクリル系の材料が用いられてきた。これはアクリル系の材料は使用できるモノマーの種類が豊富であるため分子設計のバリエーションが広く、樹脂分散剤としては好適な素材であったためである。このアクリル系の樹脂分散剤を用いた顔料インク中の顔料を反応を利用して析出させる場合は、樹脂分散剤中のカルボン酸等のイオン性基を水に不溶化させるのが一般的な手段であった。この時反応性化合物として使用されるのが多価金属塩やアミン系化合物等のいわゆるアルカリである。一方、アクリル系の材料は、アクリル酸のエステル体またはアミド体を主成分として構成されており、その結果、アルカリによる加水分解を受けやすいという性質も持ち合わせている。そこで前述したような反応性化合物として用いたアルカリが存在する状態で画像が高温高湿の環境におかれると、顔料との親和性を担うアクリル系エステル等の疎水性基が加水分解を受けてしまう。すると、樹脂分散剤が顔料との親和性を喪失し、顔料から離脱し、顔料がむき出しの状態になるため、結果として耐擦過性が低下したものと考えられる。
【0009】
本発明者らは、アクリル系の材料は分子設計が容易であるという長所を利用してこの問題を改良しても、加水分解の影響は多かれ少なかれ受けることは避けがたく、基本的な構造を見直さなければ根本的な解決にはならないと考えた。そして、主鎖及び側鎖がアルカリ加水分解を受けない構造の材料としてビニルエーテル系モノマーから構成されるポリマーを樹脂分散剤として用いることで高温高湿環境下でも耐擦過性の低下がみられないということを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、水、水溶性有機溶剤、顔料、樹脂分散剤及び水を含有する顔料インクと、水、水溶性有機溶剤及び該顔料インクと接触すると顔料の分散を不安定化させることができる反応性化合物を含有する反応液を具備するインクセットであって、該樹脂分散剤がビニルエーテル系モノマーを重合することによって得られるポリマーであることを特徴とするインクセットである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発色性及び高速印刷性という反応系システムのメリットを損なうことなく、高温高湿環境下でも優れた画像の耐擦過性を得ることのできるインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いられるビニルエーテル系モノマーを重合することによって得られるポリマーは、常法により合成することができる。例えば、単一または複数のビニルエーテル系モノマーを原料として、アニオンリビング重合、カチオンリビング重合、ラジカルリビング重合及びグループトランスファー重合等の重合方法によって合成することができる。
【0013】
かかるビニルエーテル系モノマーとしては、特に限定されるものではないが、好ましい具体的としては、以下のものが挙げられる。疎水性モノマーとして、2−イソブトキシビニルエーテル、2−t−ブトキシビニルエーテル、2−フェノキシエチルビニルエーテル、2−(4−メチルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(4−ビフェニルオキシ)エチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0014】
また、親水性モノマーとしては、2−(4−カルボキシフェニルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(3,5−ジカルボキシフェニルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(4−スルホフェニルオキシ)エチルビニルエーテル等が挙げられる。また、2−メトキシエチルビニルエーテル、2−(2−メトキシエチルオキシ)エチルビニルエーテル、2−(2−(2−メトキシエチルオキシ)エチルオキシ)エチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0015】
これらのモノマーは、合成に用いる重合方法に応じて適宜選択すれば良い。重合の際の溶解性等に問題がある場合はその前駆体、例えばカルボン酸であればそのエステル体(2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル等)として重合を行った後に適切な加水分解により元の構造とする等の操作を講じても良い。
【0016】
本発明においては、樹脂分散剤が、疎水性ビニルエーテル系モノマーと親水性ビニルエーテル系モノマーの少なくとも2種のビニルエーテル系モノマーを重合することによって得られるポリマーであることが好ましい。このようにすることで顔料への吸着と液中での分散安定性をより高いレベルで両立することができる。更に、本発明においては、このポリマーをブロックポリマーとして分子内で機能を分担することによって、顔料への吸着と液中での分散安定性をより効率的に発揮させることができる。
【0017】
本発明に用いられる上記ポリマーの分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量で2000〜100000であることが好ましく、特には4000〜30000であることが好ましい。重量平均分子量が2000に満たないと顔料を安定的に分散させにくくなり、100000を超えるとインクの粘度が高くなり過ぎてインクジェットインクとして利用しにくくなる。
【0018】
本発明に用いられる顔料は特に限定されるものではなく、無機顔料及び有機顔料の何れでも使用することができる。
【0019】
無機顔料としては、カーボンブラックが挙げられ、また、有機顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、アントラキノン顔料、イソインドリノン顔料等が挙げられるがもちろんこれらに限定されるものではない。
【0020】
具体的には、黒顔料としてカーボンブラックが挙げられる。また、カラー顔料としてカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、ピグメントイエロー(PY)17、74、93、109、110、180等、ピグメントレッド(PR)31、57:1、122、176等が挙げられる。また、ピグメントブルー(PB)15、15:3、15:4、15:6、16、22、60等、ピグメントバイオレット(PV)19等が挙げられる。
【0021】
尚、これらの顔料の一次粒径は、5〜500nmであることが好ましく、特には10〜200nmであることが好ましい。
【0022】
本発明においては、顔料とポリマーを原料として常法により顔料分散体を得ることができる。具体的にはポリマーが顔料に物理吸着して安定に分散した状態にする処理であり、通常はサンドミル、ボールミル、ビーズミル、ニーダー等による物理的処理が用いられる。そのほか、顔料とポリマーを溶媒中に共存させておき、溶媒中でのポリマーの溶解度を低下させて顔料表面に析出させる方法や、いったん顔料を溶解させて再度顔料化する際に、同時にポリマーによる分散状態にする方法等の化学的処理も用いることができる。
【0023】
また、顔料とポリマーの使用比率は必要最低限度の分散性を維持できることができれば特に限定されるものではないが、質量比で顔料1に対して通常ポリマー0.1〜5であることが好ましく、特には0.3〜1.5であることが好ましい。
【0024】
また、顔料インク中の顔料の配合量は、インクとして十分な着色力を持てば何れでも良く、インク全質量に対して0.5〜20質量%であることが好ましく、特には1.5〜10重量%であることが好ましい。
【0025】
顔料インクは、水及び水溶性有機溶剤を含有する。かかる水溶性有機溶剤は特に限定されないが、水に対して0.1重量%以上溶解すれば良く、好ましい具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。また、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン等が挙げられる。また、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられるがもちろんこれらに限定されるものではない。
【0026】
これらの溶剤は、1種類あるいは必要に応じて2種類以上を混合して用いることもできる。
【0027】
また、これら溶剤の添加量は、顔料インク全質量に対し、5〜60質量%であることが好ましく、特には10〜30質量%であることが好ましい。
【0028】
また、本発明の顔料インクには界面活性剤を配合してもよい。
配合される界面活性剤は、特に限定されるものではない。好ましい具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩類等が挙げられる。また、ポリオキシエチレンドデシルエーテルリン酸エステル塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類等が挙げられる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等の炭素数12〜22のポリオキシエチレンアルキルエーテル類等が挙げられる。また、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、アセチレンジオールのポリオキシエチレン付加物類等が挙げられる。また、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー及びそのアルキルエーテル類等が挙げられる。また、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。また、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコールラウリルエステル等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で用いても、2種以上適宜組み合わせて用いても良い。
【0029】
更に本発明の顔料インクには、各種添加剤を併用してもよい。各種添加剤としては、増量剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、抗菌剤、防腐剤、保湿剤等が挙げられる。また、インクジェットノズル乾燥防止の目的で、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等、液を最適なpH値に調節するためにフタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム等の緩衝剤等、必要な物質を適宜使用しても良い。
【0030】
本発明に用いられる反応性化合物としては、顔料インクが含有する顔料の分散を不安定化させることができる化合物であれば特に限定されない。具体的には、顔料インクが含有する樹脂分散剤と化学反応を起こすものであれば何れでも良く、樹脂分散剤がカルボキシル基等の酸基を有する化合物であるときは、多価金属塩、低分子カチオン性化合物、カチオン性ポリマー等が代表的なものとして挙げられる。多価金属塩の好ましい具体例としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化銅(II)、硝酸イットリウム、塩化ジルコニウム等の遷移金属塩が挙げられる。また、低分子カチオン化合物としては、アミン系化合物が代表的なもので、特に四級アンモニウム塩が好ましい。好ましい具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。更には、テトラブチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド等が挙げられる。更に、カチオン性ポリマーとしては、カチオン性モノマーのホモポリマーまたはコポリマー等ポリマー分子中にカチオン性基を有すれば何れでも良い。好ましい具体例としてはポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、N―ビニルホルムアミドを共重合成分としたポリマーの加水分解物等が挙げられるがもちろんこれらに限定されるものではない。
【0031】
これらの反応性化合物の添加量としては、化学反応を起こすだけの量があれば何れでも良く、反応液全質量に対して0.1〜20質量%であることが好ましく、特には0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0032】
また、反応液も顔料インクと同様に、水及び水溶性有機溶剤を含有し、更に、界面活性剤、各種添加剤等を配合してもよい。好ましい具体例や使用量は、上記顔料インクの場合と同様である。
【0033】
本発明のインクセットは、インクジェット法による記録に用いられる。インクジェット方式としては、エネルギー発生素子として電気熱変換体を用いたサーマルジェットタイプ、あるいは圧電素子を用いたピエゾジェットタイプ等が使用可能である。
【0034】
また、顔料インクと反応液の接触方法としては特に限定されるものではない。例えば、どちらか一方を先にインクジェット法で付与した後、その上に接触するようにもう一方を付与する方法や反応液をローラ等で塗布した上に顔料インクをインクジェット法で付与する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下実施例によって本発明を更に詳細に説明する。尚、実施例における「部」は質量部を示す。
【0036】
(合成例1)ビニルエーテル系ポリマー(VEP−1)の調製
ポリマーの合成は既報(特開平11−322942号、特開2003−89752号等)を参考にして、カチオンリビング重合法によって行った。
【0037】
窒素置換したガラス製反応容器に疎水性モノマーである2−(4−メチルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル12.0mmol(2.14g)、酢酸エチル16mmol、1−ブトキシエチルアセテート0.1mmol、トルエン11mlを仕込んだ。次いで、氷浴を用いて系内を冷却してからエチルアルミニウムセスキノクロライド0.2mmolを添加しカチオンリビング重合を開始した。反応系内の経時的変化をサンプリングした試料のGPC測定から求め、仕込んだ2−(4−メチルフェニルオキシ)エチルビニルエーテルが殆ど消失したことを確認した。その後、親水性モノマーの両親媒性モノマーである2−メトキシエチルビニルエーテル16.8mmol(1.71g)を添加し引き続き重合を進めた。同様にGPCで原料の消失を確認してから最後の親水性モノマーのイオン性モノマー前駆体である2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテル2.07mmol(0.488g)を加え重合反応を完結させた。0.3質量%のアンモニア/メタノール溶液を加えて反応をクエンチし、クロロフォルムを用いて希釈後、希塩酸と純水で有機層を洗浄し、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去して真空ポンプを繋いだデシケータを用い乾燥させた。この生成物に20%水酸化ナトリウム水溶液を加え室温下、48時間攪拌することでエステルの加水分解を行った。その後、4N塩酸でpHを4〜5に調整してクロロフォルムにより抽出、有機層の洗浄後、濃縮と乾燥を経て目的物である疎水性セグメントと親水性セグメントを有するビニルエーテル系ブロックポリマー3.8gを得た。GPCによる測定から、ポリスチレン換算の重量平均分子量は26800であり、Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は=1.31であった。
【0038】
(合成例2)ビニルエーテル系ポリマー(VEP−2)の調製
2−メトキシエチルビニルエーテルの量を12.6mmol(1.28g)、2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテルの量を4.14mmol(0.976g)とした以外は合成例1と同様にしてビニルエーテル系ブロックポリマー3.9gを得た。GPCによる測定から、ポリスチレン換算の重量平均分子量は26000であり、Mw/Mnは1.33であった。
【0039】
(合成例3)ビニルエーテル系ポリマー(VEP−3)の調製
2−メトキシエチルビニルエーテルの量を8.4mmol(0.839g)、2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテルの量を6.20mmol(1.284g)とした以外は合成例1と同様にしてビニルエーテル系ブロックポリマー3.9gを得た。GPCによる測定から、ポリスチレン換算の重量平均分子量は25600であり、Mw/Mnは1.34であった。
【0040】
(合成例4)ビニルエーテル系ポリマー(VEP−4)の調製
両親媒性モノマーを使用せず、2−(4−エトキシカルボニルフェニルオキシ)エチルビニルエーテルの量を10.34mmol(2.44g)とした以外は合成例1と同様の方法によりビニルエーテル系ブロックポリマー3.1gを得た。GPCによる測定から、ポリスチレン換算の重量平均分子量は24600であり、Mw/Mnは1.24であった。
【0041】
(合成例5)ビニルエーテル系ポリマー(VEP−5)の調製
2−メトキシエチルビニルエーテルの代わりに2−(2−メトキシエトキシ)エチルビニルエーテル11.7mmol(1.712g)を用いた以外は合成例1と同様にしてビニルエーテル系ブロックポリマー3.4gを得た。GPCによる測定から、ポリスチレン換算の重量平均分子量は27000であり、Mw/Mnは1.28であった。
【0042】
(合成例6)アクリル系ポリマー(ACP−1)の調製
疎水性モノマーとしてメタクリル酸ベンジル12.0mmol(2.112g)と親水性モノマーとしてイオン性モノマー前駆体であるメタクリル酸メチル15.0mmol(1.502g)を用い、後処理工程の20%水酸化ナトリウム水溶液に代えて3%トリエチルアミン水溶液で氷浴下に12時間かけてメタクリル酸メチルのみを加水分解させる処理を行った以外は合成例1と同様にしてアクリル系ブロックポリマー2.9gを得た。GPCによる測定から、ポリスチレン換算の重量平均分子量は21400であり、Mw/Mnは1.18であった。
【0043】
(合成例7)アクリル系ポリマー(ACP−2)の調製
疎水性モノマーとしてメタクリル酸ベンジル12.0mmol(2.112g)と親水性モノマーとしてイオン性モノマー前駆体であるメタクリル酸15.0mmol(1.291g)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.1gを用い、トルエン溶媒中で70℃、5時間かけてラジカル重合を行った。得られたポリマー溶液を大量のメタノール中に注入してポリマーを析出させ、濾過及び乾燥によりアクリル系ランダムポリマー2.0gを得た。GPCによる測定から、ポリスチレン換算の重量平均分子量22200であり、Mw/Mnは3.04であった。
【0044】
(製造例1)反応液(B−1)の調製
反応性化合物として酢酸マグネシウム7.2部、グリセリン7部、エチレングリコール7部、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)0.5部、純水78.3部を混合した。その後、1N−塩酸水溶液でpHを5.0に調整し、0.2μmのメンブレンフィルタで濾過することで所定の反応液(B−1)を得た。
【0045】
(製造例2)反応液(B−2)の調製
反応性化合物としてPAS−92(日東紡社製ポリアミンスルホン 20%水溶液)5部、グリセリン7部、エチレングリコール7部、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)0.5部、純水80.5部を混合した。その後、10%水酸化カリウム水溶液でpHを7.0に調整し、0.2μmのメンブレンフィルタで濾過することで所定の反応液(B−2)を得た。
【0046】
(実施例1)
超音波発生装置の槽の中に機械的攪拌装置を備えた100mlコルベンを入れた。この中に合成例1で得たポリマー(VEP−1)1.0g、ピグメントブルー15:3(TONER CYAN BG クラリアント社製)1.0g、テトラヒドロフラン15mlを添加し、顔料表面が溶媒で十分濡れるまでよく混合した。ブロックポリマーの中和率が100%になるだけのKOHを含むアルカリ水溶液15mlを滴下注入することで転相させてマイクロカプセル型の顔料分散溶液とした。この溶液からロータリーエバポレータを用いてテトラヒドロフランを留去し、濃度調整を行って顔料濃度4%の分散体を得た。この顔料分散体を用い、以下の組成にて顔料濃度2%の顔料インクとした。
顔料分散体 50部
グリセリン 10部
エチレングリコール 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製) 0.8部
純水 32.2部
このインクと製造例1で準備した反応液(B−1)をインクの重ね打ち機構を搭載したインクジェットプリンタ(BJF8500)のインクタンクに詰め、評価用画像サンプルを印刷した。用いた記録材はキヤノンPPC用紙であった。得られた画像について下記の評価方法に基づいて耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[耐ラインマーカー性]
評価用画像サンプルの印刷後、1時間経過後の印刷物A、及び印刷後に温度30℃、湿度80%の恒温恒湿槽で7日間放置した印刷物Bの文字部を通常の筆圧でパイロット社製のイエロー蛍光ペン、スポットライター(商品名)を用いて1度マークした。そして、マークした部分を目視で観察して、耐ラインマーカー性を下記の評価基準にて評価した。
○:マークした部分に滲みや白地部分の汚れが認められず、ペン先も汚れていない。
△:マークした部分に白地部分の汚れが認められないが、ペン先がやや汚れている。
×:マークした部分に白地部分の汚れが認められる。
【0048】
[耐擦過性]
評価用画像サンプルの印刷後、4時間経過後の印刷物C、及び印刷後に温度30℃、湿度80%の恒温恒湿槽で7日間放置した印刷物Bの印字した紙上にシルボン紙を載せ、更にその上に一辺が5cm、重さ1kgの錘を載せた。そして、この状態でシルボン紙を引っ張ったときに、記録紙の非印字部(白地部)及びシルボン紙に、印字部のこすれによって汚れが生じるか否かを目視にて観察し、下記の評価基準にて評価した。
○:白地部及びシルボン紙に汚れなし。
△:シルボン紙のみ汚れあり。
×:白地部及びシルボン紙の双方に汚れあり。
【0049】
(実施例2)
反応液(B−1)に代えて反応液(B−2)を使用した以外は実施例1と同様にして、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
ポリマー(VEP−1)に代えて合成例2で得たポリマー(VEP−2)を使用した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
ポリマー(VEP−1)に代えて合成例3で得たポリマー(VEP−3)を使用した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例5)
ポリマー(VEP−1)に代えて合成例4で得たポリマー(VEP−4)を使用した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例6)
反応液(B−1)に代えて反応液(B−2)を使用した以外は実施例5と同様にして、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例7)
ポリマー(VEP−1)に代えて合成例5で得たポリマー(VEP−5)を使用した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1)
ポリマー(VEP−1)に代えて合成例6で得たポリマー(ACP−1)を使用した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例2)
反応液(B−1)に代えて反応液(B−2)を使用した以外は比較例1と同様にして、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例3)
ポリマー(VEP−1)に代えて合成例7で得たポリマー(ACP−2)を使用した以外は実施例1と同様にしてインクを調製し、耐ラインマーカー性と耐擦過性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水溶性有機溶剤、顔料、樹脂分散剤及び水を含有する顔料インクと、水、水溶性有機溶剤及び該顔料インクと接触すると顔料の分散を不安定化させることができる反応性化合物を含有する反応液を具備するインクセットであって、該樹脂分散剤がビニルエーテル系モノマーを重合することによって得られるポリマーであることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記樹脂分散剤が、疎水性ビニルエーテル系モノマーと親水性ビニルエーテル系モノマーの少なくとも2種のビニルエーテル系モノマーを重合することによって得られるポリマーである請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記ビニルエーテル系モノマーを重合することによって得られるポリマーが、ブロックポリマーである請求項1または2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記反応性化合物が、多価金属塩、低分子カチオン性化合物及びカチオン性ポリマーからなる群より選ばれる少なくともひとつの化合物である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクセット。

【公開番号】特開2010−143113(P2010−143113A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323637(P2008−323637)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】