説明

インク供給装置及びインクジェット画像記録装置

【課題】インクカートリッジの新品の判別と、インクカートリッジ内の大気連通との機能を同時に果たす。
【解決手段】インクカートリッジ40における枠体のうち、収納ケースへの挿入時に上側となる上壁面41aの一部には、インク収容室42に臨む通路49が設けられ、通路49の外端面にはインク収容室42との間を隔てる密閉膜部47と、これに連設されて上側に突出する突起部48とが備えられている。密閉膜部47と突起部48との連設部には、収納ケース60への挿入方向と平行な部位と後ろ側とにわたる平面視コ字状の第1弱化部50が形成されている。突起部48の前側の連接部には第2弱化部51を設けておく。収納ケースへインクカートリッジ40を挿入したとき、収納ケースに設けられた規制部に突起部48が衝突し、この突起部48が正規の姿勢から挿入方向の後ろ側で通路49内に倒れ込むとき、インク収容室42内が大気と連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクカートリッジを着脱可能に装着できるインク供給装置、特に、装着されたインクカートリッジを大気開放状態にしてインクカートリッジからのインク供給動作を確実に行うことができるインク供給装置及び前記インク供給装置を備えたインクジェット画像記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット画像記録装置は、搬送される被記録媒体(記録用紙)に対して交差(直交)する方向(主走査方向)に往復移動可能なキャリッジに搭載された記録ヘッドからインク滴を吐出させることによって当該被記録媒体上に画像を記録する。インクは、一般にカートリッジ式の着脱可能(交換可能)なインクカートリッジに予め貯留されており、このインクカートリッジから記録ヘッドへ供給されるようになっている。
【0003】
一般に、インクカートリッジの配置位置で大別すると、いわゆるオンキャリッジ型とオフキャリッジ型とがある。オンキャリッジ型とは、インクカートリッジを着脱可能に収納する所要の装着部を有するケースが上記移動可能なキャリッジ上に設けられており、このケースの装着部に収容保持されたインクカートリッジから記録ヘッドへとインクが供給される形式である。一方、オフキャリッジ型とは、所要の装着部を有するケースがキャリッジ上を除くインクジェット記録装置におけるハウジングの何処かに設けられており、このケースの装着部にインクカートリッジが収容保持される形式である。そして、インクは、インクカートリッジを収容保持しているケースから記録ヘッドまでインク供給管等によって供給されるのである。
【0004】
また、一般的にインクカートリッジでは、そのインク貯留部(インク収容室)内に充填するインク内に気体が溶け込んでいると、使用時に、記録ヘッド内などでインク中の気体が気泡となって、記録時にノズル詰まりが発生して印字性能が劣化する。これを防止するため、脱気した状態のインクを充填している。そして、この状態を保持するため、インク貯留部内を負圧(減圧)状態に保持している。
【0005】
前記いずれの場合でも、インクカートリッジを装着部にセットするとき、先にインク供給弁が開放されると、インク貯蔵部が負圧であるため、装着部に溜まっている空気やインクがインク貯蔵部に逆流して、記録ヘッド側のノズル部でのメニスカスが破壊されるおそれが生じるので、従来技術の特許文献1や特許文献2に示すように、インクカートリッジは、インク貯留部と、インク取り出しのためのインク供給弁と、インク貯留部を大気に開放するための封止フィルムが貼り付けられた大気開放凹部または大気開放弁とを備える一方、ハウジングのケースにおける装着部の底部(ベース部)には、封止フィルムを突き破るための大気開放用突起または大気開放弁を押し上げて大気開放するための中空状の大気導入管と、インク供給弁に接続してインク貯蔵部からインク抽出するためのインク抽出管とがインクカートリッジの挿入方向と対峙して平行状に立設配置され、且つ大気開放用突起または大気導入管の突出量をインク抽出管の突出量よりも長く設定することにより、大気開放部が先に開放されるように構成されたものが知られている。この構成により、インク貯蔵部の負圧を解除し、インク供給弁からのインク供給動作を確実にならしめるようにしている。
【0006】
他方、一般に、記録時の記録ドット数や記録ヘッドのクリーニング回数などからインクカートリッジの消費量(残量)をカウントし、インク残量が少なくなった時点で、インクカートリッジの交換をランプの点滅などにてユーザに促し、これにより、ユーザーが新品のインクカートリッジと交換するようにしている。ところで、一旦、装着部にセットされたインクカートリッジを交換時期でない以前に再装着すると、カウント値がリセットされてしまうため、実際のインク残量と、カウント値とが合致しなくなり、正確な交換時期表示が行えなくなるという問題があった。これを解消するため、特許文献3では、インクカートリッジに設けられた、新品検出用の被検出体を、インクカートリッジを装着部に装着した時点で、破壊する構成を採用している。
【特許文献1】特開2003−300330号公報(段落番号0038参照)
【特許文献2】特開2005−238576号公報(段落番号0052参照)
【特許文献3】特開2000−135796号公報(段落番号0052参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2のような大気開放手段と、特許文献3のような新品検出手段とを別々の箇所に設けると、構造が複雑になり、製造コストも高くなると共に、インクカートリッジにおけるインク貯留室の容積が小さくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記新品検出手段と大気開放手段とをまとめるようにして、構造が簡単で、且つインク貯留室の容積の減少を低減可能なインク供給装置及びインクジェット画像記録装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明のインク供給装置は、インク収容室内のインクを外部へ供給可能なインク供給口を備えたインクカートリッジと、このインクカートリッジを着脱可能に収納できるカートリッジ収納部とを有し、このカートリッジ収納部には、前記インク供給口に接続可能で記録ヘッドにインクを供給するインク抽出管と、前記インクカートリッジが前記カートリッジ収納部内に挿入されたことを検知するセンサ部とを備えたインク供給装置であって、前記インクカートリッジには、前記カートリッジ収納部への挿入方向と平行な壁面に設けられている開口部と、この開口部からインクカートリッジの外方に向かって突出する突起部と、この突起部と前記開口部との隙間を密閉すると共に、前記インク収容室と前記インクカートリッジの外部とを隔てる密閉膜部とを備え、前記カートリッジ収納部には、前記インクカートリッジが挿入されるときに前記突起部が衝突してこの突起部の姿勢を強制的に変更させる規制部が設けられ、前記突起部は、前記インクカートリッジの挿入時に前記センサ部によって検出された後、前記規制部によってその姿勢を正規の姿勢から非正規の姿勢に変化させられることにより、前記密閉膜部に形成された弱化部が破断されるように構成されているものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインク供給装置において、前記インクカートリッジの壁面には、外側が前記密閉膜部にて覆われた凹部を有し、前記非正規の姿勢の前記突起部が前記凹部内に倒れ込むように形成されているものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のインク供給装置において、前記弱化部は、前記密閉膜部と前記突起部との連設部のうち前記規制部からの衝突面側を除く領域に形成されているものである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載のインク供給装置において、前記凹部には、前記インク収容室に連通する開口が設けられ、該開口には空気のみの通過を許容する半透過膜が張設されているものである。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項2乃至4のいずれかに記載のインク供給装置において、前記突起部及び凹部は、前記カートリッジ収納部へのインクカートリッジ挿入時の当該インクカートリッジの上側壁面に関連させて設けられているものである。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項2乃至5のいずれかに記載のインク供給装置において、前記規制部は、前記カートリッジ収納部の入口側寄り部位に設けられた前記カートリッジセンサ部よりも挿入奥側の内壁部に形成され、且つ前記カートリッジ収納部内に挿入されたインクカートリッジのインク供給弁が前記インク抽出管と接続される以前に、前記突起部が前記凹部内に倒れ込むように構成されているものである。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載のインク供給装置において、前記カートリッジ収納部は装置本体内に配置する収納ケース内に設けられ、前記収納ケースには、前記インクカートリッジがカートリッジ収納部に嵌まった状態で、当該インクカートリッジを位置保持する扉体が開閉可能に設けられているものである。
【0016】
請求項8に記載の発明のインクジェット画像記録装置は、前記請求項1〜7の何れかに記載のインク供給装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明の構成では、インク収容室内のインクを外部へ供給可能なインク供給口を備えたインクカートリッジと、このインクカートリッジを着脱可能に収納できるカートリッジ収納部とを有し、このカートリッジ収納部には、前記インク供給口に接続可能で記録ヘッドにインクを供給するインク抽出管と、前記インクカートリッジが前記カートリッジ収納部内に挿入されたことを検知するセンサ部とを備えたインク供給装置であって、前記インクカートリッジには、前記カートリッジ収納部への挿入方向と平行な壁面に設けられている開口部と、この開口部からインクカートリッジの外方に向かって突出する突起部と、この突起部と前記開口部との隙間を密閉すると共に、前記インク収容室と前記インクカートリッジの外部とを隔てる密閉膜部とを備え、前記カートリッジ収納部には、前記インクカートリッジが挿入されるときに前記突起部が衝突してこの突起部の姿勢を強制的に変更させる規制部が設けられ、前記突起部は、前記インクカートリッジの挿入時に前記センサ部によって検出された後、前記規制部によってその姿勢を正規の姿勢から非正規の姿勢に変化させられることにより、前記密閉膜部に形成された弱化部が破断されるように構成されているので、インクカートリッジ側の突起部が正規の姿勢であれば、新品のインクカートリッジが挿入されたことを検知でき、再装着するときには、突起部が非正規の姿勢であるから、インクカートリッジ内のインク残量の判定に誤差が発生するなどの不都合が生じないと共に、インクカートリッジをカートリッジ収納部に挿入することで、前記突起部が非正規の姿勢になるとき自動的に弱化部が破断して、インク収容室内を大気と同じ圧力になることで、インクカートリッジの新品判別機能と、インクカートリッジのインク収容室内の大気連通機能とを同時に達成することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、前記インクカートリッジの壁面には、外側が前記密閉膜部にて覆われた凹部を有し、前記非正規の姿勢の突起部が前記凹部内に倒れ込むように形成されているものであるので、非正規の姿勢の突起部がインクカートリッジから分離されず、突起部が邪魔なものとして、ユーザーが処理する必要が無くなる。また、前記突起部が前記凹部内に倒れ込むように構成されているので、前記突起部が仮にインクカートリッジから分離したとしても、分離した突起部がカートリッジ収納部内に取り残されることが無い。従って、次の新たなインクカートリッジをカートリッジ収納部に挿入する際にも、何ら支障が生じない。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、前記弱化部は、前記密閉膜部と前記突起部との連設部のうち前記規制部からの衝突面側を除く領域に形成されているものであるので、前記突起部が非正規の姿勢になったとき弱化部が破断し易くなる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、前記凹部には、前記インク収容室に連通する開口が設けられ、該開口には空気のみの通過を許容する半透過膜が張設されているものであるので、インク収容室内のインクが不用意にインクカートリッジの外に漏れ出すことがなく、カートリッジ収納部がインクで汚れることがない。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、前記突起部及び凹部は、前記カートリッジ収納部へのインクカートリッジ挿入時の当該インクカートリッジの上側壁面に関連させて設けられているものであるので、カートリッジ収納部へインクカートリッジを正しい姿勢で挿入すれば、その後は前記凹部や弱化部が破断された箇所を介してインクが不用意に漏れ出すことがない。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、前記規制部は、前記カートリッジ収納部の入口側寄り部位に設けられた前記カートリッジセンサ部よりも挿入奥側の内壁部に形成され、且つ前記カートリッジ収納部内に挿入されたインクカートリッジのインク供給弁が前記インク抽出管と接続される以前に、前記突起部が前記凹部内に倒れ込むように構成されているものであるので、前記密閉膜部における弱化部が破断してインク収容室が大気圧になってから、インク供給弁がインク抽出管と接触してインク供給されるまでの大幅な時間稼ぎを行うことができるという効果を奏する。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、前記収納ケースには、前記インクカートリッジがカートリッジ収納部に嵌まった状態で、当該インクカートリッジを位置保持する扉体が開閉可能に設けられているものであるから、インクカートリッジは、閉止された前記扉体に押圧された状態で姿勢保持されるものであるので、インクカートリッジの収納装置の出荷や輸送中及び使用中にも、インク抽出管とインク供給弁とが外れることがなく、確実な封止性(密閉性)を確保できる。
【0024】
請求項8に記載の発明によれば、前記請求項1〜7の何れかに記載のインク供給装置を備えたことを特徴とするインクジェット画像記録装置であるから、確実なインク供給動作を行えるインクジェット画像記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態に係る多機能装置のハウジング(本体ケース)の平面図、図2は記録部の斜視図、図3はカートリッジ収納装置の斜視図、図4はインクカートリッジの挿入開始時の側面図、図5は第1実施形態のインクカートリッジの斜視図、図6(a)は図5のVIa −VIa 線矢視一部切欠き拡大断面図、図6(b)は図6(a)のVIb −VIb 線矢視断面図、図6(c)は図6(b)のVIc −VIc 線矢視平面図、図7(a)は第2実施形態のインクカートリッジの側面図、図7(b)は背面図、図7(c)は平面図、図8(a)は図7(c)の VIIIa−VIIIa 矢視断面図、図8(b)は一部拡大断面図、図9(a)は図7(c)の IXa−IXa 矢視断面図、図9(b)は一部拡大断面図である。
【0027】
本実施形態の画像記録装置1は、プリンタ機能、コピー機能、スキャナ機能、ファクシミリ機能を備えた多機能装置(MFD:Multi Function Device )に本発明を適用したものであり、多機能装置は、図示されていないコンピュータと接続されて、主にこのコンピュータから送信された画像データや文書データに基づいて、被記録媒体である記録用紙に画像や文書を記録するものである。また、多機能装置は、デジタルカメラ等の外部機器と接続されてデジタルカメラから出力される画像データを記録用紙に記録することができる。
【0028】
本実施形態では、図1に示すように、合成樹脂製の装置筐体2の下部にプリンタ部(記録部)7が備えられている。そして、装置筐体2の底部の給紙カセット収納部(収納空間)に対して、装置筐体2の前側に開口された挿入口から挿抜可能(実質上水平方向に出し入れ可能)な給紙カセットが配置されている。装置筐体2の上部には、コピー機能やファクシミリ機能における原稿読取などのための画像読取装置(図示せず)が配置されている。装置筐体2の上側には、同じく図示しないが、画像読取装置12の前方に各種操作ボタンや液晶表示部等を備えた操作パネル部が設けられている。
【0029】
装置筐体2の前部右側に、後に詳述するカートリッジ収納装置15が内臓されている。そして、装置筐体2の前部側に下端を蝶番を介して上下回動して開閉する蓋体2bにてカートリッジ収納装置15の前面側が覆われている。
【0030】
装置筐体2に堆積された用紙は、図示しない給紙ローラと、傾斜分離板とが協働することにより、一枚ずつ分離搬送される。
【0031】
分離された用紙Pは上横向きのUターンパス(給送路)を介して給紙カセットより後方の上側(高い位置)に設けられた記録部7に給送される。記録部7は、プリンタ機能などを実現するためのインクジェット式の記録ヘッド4が搭載された往復動可能なキャリッジ5等からなる。
【0032】
記録部7は、図1、図2に示すように、上面開放された枠状のメインフレーム21における左右一対の側板21a、21bにて支持され、X軸方向(主走査方向)に延びる横長の板状(プレート状)の第1ガイド部材22、第2ガイド部材23と、これら両ガイド部材22、23に跨がって摺動自在に支持(搭載)されて往復移動可能に構成されたキャリッジ5と、記録ヘッド4が搭載されたキャリッジ5を往復移動させるために第2ガイド部材23の上面にそれと平行状にて、プーリに巻回配置された無端ベルトとしてのタイミングベルト25と、そのタイミングベルト25を駆動するCR(キャリッジ)モータ24(実施形態ではDCモータであるが、ステッピングモータ等他のモータでもよい。)と、記録ヘッド4の下面側にて搬送される用紙を支持する板状のプラテン26と、主走査方向に沿って延びるように配置されてキャリッジ5のX軸方向(主走査方向)の位置とその方向の移動速度を検知するための光学式リニアエンコーダの構成部品であるテープスケール(図示せず)等を備える。
【0033】
搬送される用紙の幅(用紙の短辺)より外側には、その一端側(実施形態では図1、図2で左側の側板21aに近い部位)にインク受け部29が、また、他端側(図1及び図2で右側の側板21bに近い部位)にメンテナンスユニット30がそれぞれ配置されている。これにより、記録ヘッド4はインク受け部29に設けられたフラッシング位置にて記録動作中に定期的にノズルの目詰まり防止のためのインク吐出を行い、インク受け部にてインクを受ける。メンテナンスユニット30部分では、キャリッジ5は待機位置であって、色毎にインクを選択的に吸引したり、記録ヘッド4上の図示しないバッファタンク内の気泡を除去したりするための回復処理等を行う。また、メンテナンスユニット30には図示しないが、ワイパーが設けられており、キャリッジ5をメンテナンスユニット30部分から画像記録領域方向に移動させるときに記録ヘッド4のノズル面のクリーニングを行う。
【0034】
次に、カートリッジ収納装置15の構成について説明する。カートリッジ収納装置15は、フルカラー記録のための4色のインクを各々収容した平面視の面積が小さく、且つ高さ寸法の高いほぼ矩形箱状のインクカートリッジ40(個別の色、即ち、ブラック(BK)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)用インクである。)を、X軸方向に沿って一列状に収納できる収納ケース60を備える。そして、カートリッジ収納部としての収納ケース60の前面の開口部を開閉する扉体61を開いて前方から着脱可能となるように構成されている(図3参照)。なお、収納ケース60の構成は後に詳述する。
【0035】
インクカートリッジ40は、合成樹脂製の枠体41と、これに内蔵されたインクとを備えている。本実施形態では、カートリッジ収納装置15が4つのインクカートリッジ40を収容するようになっているので、各インクカートリッジ40には、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの各色のインクがそれぞれ貯留されている。ただし、各インクカートリッジ40の構造は、ブラックインクを貯留するインクカートリッジ40のみが他のインク色のインクカートリッジ40に比べて僅かに厚み方向に大きく構成されている。これは、一般的に言ってブラックインクの需要が最も多く、大量に消費されるからである。なお、ブラック以外の色のインクを貯留するインクカートリッジ40の構造は、すべて同様である。
【0036】
本実施形態では、図4や図5などから明らかなように、インクカートリッジ40は、全体として薄肉の直方体状に形成されており、内部にインクが収容されるインク収容空間が区画されている。インクカートリッジ40は、中空状の枠体41と、その枠体41の広巾面に平行な表裏端面が接着された表裏のフィルム43とにより密閉された、インク貯留部としてのインク収容室42と、この枠体41、ひいてはインク収容室(インク貯留部)42を表裏両面から覆う、2つ割りのトレイ状の外ケース44とが備えられている。これら2つの外ケース44は溶着その他の既知の固着手段によって接合されている。
【0037】
インクカートリッジ40における枠体41のうち、収納ケース60への挿入方向下流側の壁面41bの下部寄り部位には、内部に位置するインク供給弁45に連通するインク供給口46が円錐孔状にて開口されている。
【0038】
インクカートリッジ40には、カートリッジ収納部としての収納ケース60への挿入方向と平行な壁面に設けられている開口部と、この開口部からインクカートリッジの外方に向かって突出する突起部48と、この突起部48と開口部との隙間を密閉すると共に、インク収容室42とインクカートリッジ40の外部とを隔てる密閉膜部47とを備える。即ち、インクカートリッジ40における枠体41のうち、収納ケース60への挿入方向と平行な壁面であって、挿入時に上側となる上壁面41aの一部には、上面に開口部を有してインク収容室42に臨む通路49が設けられ、この通路49の外端面にはインク収容室42との間を隔てる密閉膜部47と、該密閉膜部47に連設されて上壁面41a(より正確には、外ケース44の上面)よりも外側(上側)に突出する突起部48とが備えられている。通路49は請求項での凹部に相当する。また、密閉膜部47と突起部48との連設部(付け根部)には、収納ケース60への挿入方向と平行な部位と後ろ側とにわたる平面視コ字状の第1弱化部50が形成されている。なお、突起部48の前側の連接部には第2弱化部51を設けておくことが好ましく、第1弱化部50及び第2弱化部51は共に密閉膜部47よりも厚さが薄く、且つ第1弱化部50の厚さを第2弱化部51よりも一層薄くなるように設定する。これにより、収納ケース60へインクカートリッジ40を挿入したとき、収納ケース60に設けられた規制部65(後に詳述する)に突起部48が衝突し、この突起部48が正規の姿勢(ほぼ垂直な上向き姿勢)から挿入方向の後ろ側で通路49内に倒れ込むとき、第1弱化部50が破断され、突起部48の付け根部はその前側の連接部である第2弱化部51を介して密閉膜部47と繋がったままとなる。その結果、インク収容室42内が外気(大気)と連通するように構成されている。非正規の姿勢の突起部48が第2弱化部51を介して密閉膜部47と繋がったまま通路49内に保持できるから、突起部48がインクカートリッジ40から分離されず、突起部48が邪魔なものとして、ユーザーが処理する必要が無くなる。また、突起部48が通路49内に倒れ込むように構成されているので、突起部48が仮にインクカートリッジ40から分離したとしても、分離した突起部48が収納ケース60内に取り残されることが無い。従って、次の新たなインクカートリッジ40を収納ケース60に挿入する際にも、何ら支障が生じない。
【0039】
なお、第1弱化部50が破断されることで、インク収容室42内のインクと大気(空気)とが直接触れ合うことができる構成であっても良いし、第1弱化部50とインク収容室42との間に半透過膜(空気は通過できるが液体は通過できないように形成された合成樹脂製の膜体)を張設することにより、間接的に大気とインク収容室42内のインクとが連通するものであっても良い。
【0040】
第1実施形態における密閉膜部47、突起部48及び大気連通の構成について、図5、図6(a)〜図6(c)を参照しながら説明すると、枠体41の幅寸法W1の上壁面41aのうち、収納ケース60への挿入方向下流側に近い部位に、同じ幅寸法W1の通路49を形成するために、一対の幅寸法W1の縦片49aが収納ケース60への挿入方向に適宜隔てられて一体的に形成されている。通路49の上端開口部分は、第1弱化部50及び第2弱化部51付き密閉膜部47と突起部48とにより密閉状に覆われている。また、一対の突出片49aの下端間が同じ幅寸法W1の連結片(底片)49bにて接続されている。一対の縦片49aの上端は外ケース44の厚さに相当する寸法だけ上面壁41a空上に突出している(図6(b)参照)。連結片49bに開口52を穿設し、この開口52に半透過膜53を接着剤などにて張設する。なお、枠体41と、突起部48と第1弱化部50及び第2弱化部51付き密閉膜部47と一対の縦片49a並びに連結片49bは、合成樹脂材にて一体的に射出成形にて形成される。その後、半透過膜53を所定の箇所に接着する。さらにその後、枠体41、密閉膜部47と一対の縦片49a及び連結片49bの表裏両端面にフィルム43を接着剤にて覆い、密閉状に封止するものである。
【0041】
他方、カートリッジ収納部である収納ケース60は、例えば樹脂材からなり、全体としてほぼ直方体状に形成されている。図3及び図4に示すように、収納ケース60は、底板部80と、この底板部80の左右両側に立設された一対の側板部81と、各側板部81間に架け渡すように配置された天板部82と、左右両側板部81間を繋ぐ後板部79とを備えている。天板部82の下面側には、収納ケース60の入口(前面開口部)近傍に、カートリッジセンサ部62が、またそれより奥側であるが、収納ケース60の後板部79から大きい距離の位置には規制部65が形成されている。さらに、後板部79にはインク供給弁45に接続すべきインク抽出管63が収納ケース60の入口に向かうように設けられている。
【0042】
さらに、収納ケース60は前面開口部を有し、収納ケース60の内部には、各インクカートリッジ40が収容され保持されるカートリッジ収容室を区画するための隔壁部が設けられている。
【0043】
図3に示すように、収納ケース60の前面開口部には、扉体61が各収容室に対応して設けられ、各インクカートリッジ40は、それぞれ、前面開口部aを通じて前面側から各収容室に挿抜されるようになっている。
【0044】
インクカートリッジ40をカートリッジ収納部内に挿入するとき、インク供給弁45からインク抽出管63方向にインクが供給開始されるタイミングよりも相当程度以前のタイミングで、突起部48が倒れ、第1弱化部50が破断することにより、半透過膜53を介してインク収容室42が大気と連通するように、規制部65の位置が収納ケース60の入口寄りに設定されている。
【0045】
この構成により、インクカートリッジ40が挿入されるときに、まず最初に突起部48の通過をカートリッジセンサ部62にて検知し、収納ケース60内にインクカートリッジ40が挿入されたことを検出する。次いで、インクカートリッジ40を奥側に挿入すると、突起部48の前面が規制部65に衝突し、インクカートリッジ40をさらに奥側に挿入するときの押圧力が突起部48の付け根部を介して第1弱化部50に作用して、当該第1弱化部50が破断され、通路49内が大気圧になると共に、突起部48は第2弱化部51で密閉膜部47と繋がったまま通路49内に倒れ込む(これを非正規の姿勢という、図6(b)の二点鎖線状態参照)。
【0046】
新品であって、収納ケース60内に一度も挿入されていないインクカートリッジ40では、突起部48がインクカートリッジ40の上側で垂直状に起立している(これを正規の姿勢という)。これが上述のように収納ケース60内に挿入されると、カートリッジセンサ部62にて新品のインクカートリッジ40の挿入であると判別でき、且つその後直ぐに規制部65により突起部48が非正規の姿勢に倒れ、その後は非可逆性有する突起部48が正規の姿勢に戻ることがない。従って、新品のインクカートリッジ40の挿入により、例えば、画像記録装置に設けられたコントローラが、用紙(被記録媒体)に対する画像形成に使用したインク量(もしくはインク残量)のカウント開始の信号として利用できる。一方、インク供給弁45からインク抽出管63にインクが流れ出る以前に、インクカートリッジ40のインク収容室42内には大気が導入され、インク収容室42内の圧力は大気圧に近くなるか、大気圧と等しくなるので、インク収容室42が負圧の状態のまま、インク供給弁45が開く現象を確実に防止することができる。その結果、インク抽出管63側からインク供給弁45を介してインク収容室42に、インクチューブ20側からインクが逆流して、記録ヘッド4のノズル部分のメニスカスが破壊されるなどの不都合を回避することができる。
【0047】
なお、突起部48及び通路49と半透過膜53とを、インク供給口46よりも高い位置に設けることにより、上記第1弱化部50が破断されて大気に開放されたとき、インク収容室42のうち、インク供給弁45から遠く且つ上位置に空気溜まりができるようにする。
【0048】
図7(a)〜図9(b)は、第2実施形態を示し、枠体41の上壁面41aの一部(収納ケース60への挿入方向下流側に近い部位)に開口する通路49を構成するため、枠体41の幅寸法W1より小さい幅寸法W2の通路49を形成する。そのとき、一対の幅寸法W2の縦片49aが収納ケース60への挿入方向に適宜隔てられて一体的に形成されている。また、一対の突出片49aの下端間が同じ幅寸法W2の連結片(底片)49bにて接続されている。両縦片49a及び連結片(底片)49bの一端面は枠体41の一端面と同一平面とすることで、両縦片49a及び連結片(底片)49bの他端面が枠体41の幅寸法内に位置する。そして、両縦片49a及び連結片(底片)49bの他端面に半透過膜53を張設する(図9(a)及び図9(b)参照)。通路49の上端開口部分は、第1弱化部50及び第2弱化部51付き密閉膜部47と突起部48とにより密閉状に覆われている。その他の構成は、第1実施形態と同じであるので、同じ構成については、同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。なお、図8(a)において、インク供給弁は図示省略している。
【0049】
この第2実施形態では、枠体41の表裏開口面と通路49の表裏開口面とが同じ方向となるので、成形金型が簡単になる。また、枠体41の表裏端面に張設するフィルム43と通路49に張設する半透過膜53とが互いに平行な面であるので、半透過膜53の張設作業が容易になる。第2実施形態における作用効果は、第1実施形態と同じである。
【0050】
本発明のさらなる変形例としては、半透過膜53を省略したものがある。その場合には、破断した第1弱化部50を介してインク収容室42内のインクが不用意に漏れ出さないように、突起部48及び第1弱化部50が正規のインクカートリッジ40の使用姿勢のときの上壁面41aに設けられていることが好ましい。また、この場合には通路49内の大部分にインクを収容することも可能となる。
【0051】
本発明によれば、突起部48が非正規の姿勢になるとほぼ同時に第1弱化部50が破断するので、インクカートリッジ40が新品であるか否かを判別する機能と、インクカートリッジ40内を大気連通にする機能とを同時に達成することができる。また、インクカートリッジ40が新品であるか否かを判別する手段(突起部48)と、インク収容室42内に大気を導入して連通する手段(少なくとも第1弱化部50)とを互いに近接した位置に設けることができ、且つ両構成が至極単純なものであるから、製造コストが低減できると共に、インク収容室42の容積を増大することができるという効果を奏する。
【0052】
なお、図3に示すように、扉体61は、扉本体と、これに設けられた押圧保持部材90、ロック部材91及びロック解除レバー92とを備えており、これらは、それぞれ樹脂により成形されている。
【0053】
合成樹脂製などの扉体61は、その下端部に形成された横軸部を介して収納ケース60の前端で且つ下端に対して上下回動可能に枢支されており、図3に示すように、前面開口部を閉じる姿勢(閉塞姿勢)と、前面開口部を開放する姿勢(開放姿勢)との間で姿勢変化するようになっている。扉体61が閉塞姿勢となったときは、収容室内にインクカートリッジ40が確実に保持され、扉体61が開放姿勢となったときは、収容室に対してインクカートリッジ40が容易に挿抜されるようになっている。
【0054】
本発明は、カートリッジ収納装置の収納ケースの開口部が上面に形成され、収納ケース(収容室)の底部に、インク抽出管63が上向きに開口している形態においては、上記の構成のインクカートリッジ40を、インク供給口46が下向きの姿勢で上方から差し込むようにし、収納ケース60の縦側板にカートリッジセンサ部62及び規制部65を設ける。また、本発明は、本実施形態のオフキャリッジ型に適用できるばかりでなく、オンキャリッジ型にも適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る多機能装置の概略平面図である。
【図2】記録部の斜視図である。
【図3】カートリッジ収納装置の斜視図である。
【図4】インクカートリッジの挿入開始時の側面図である。
【図5】第1実施形態のインクカートリッジの斜視図である。
【図6】(a)は図5のVIa −VIa 線矢視一部切欠き拡大断面図、図6(b)は図6(a)のVIb −VIb 線矢視断面図、図6(c)は図6(b)のVIc −VIc 線矢視平面図である。
【図7】(a)は第2実施形態のインクカートリッジの側面図、図7(b)は背面図、図7(c)は平面図である。
【図8】(a)は図7(c)の VIIIa−VIIIa 矢視断面図、図8(b)は一部拡大断面図である。
【図9】(a)は図7(c)の IXa−IXa 矢視断面図、図9(b)は一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0056】
15 インクカートリッジ収納装置
40 インクカートリッジ
41 枠体
42 インク貯留部としてのインク収容室
43 フィルム
45 インク供給弁
46 インク供給口
47 密閉膜部
48 突起部
49 凹部としての通路
50 第1弱化部
51 第2弱化部
52 開口
53 半透過膜
60 収納ケース
62 カートリッジセンサ部
63 インク抽出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク収容室内のインクを外部へ供給可能なインク供給口を備えたインクカートリッジと、このインクカートリッジを着脱可能に収納できるカートリッジ収納部とを有し、
このカートリッジ収納部には、前記インク供給口に接続可能で記録ヘッドにインクを供給するインク抽出管と、前記インクカートリッジが前記カートリッジ収納部内に挿入されたことを検知するセンサ部とを備えたインク供給装置であって、
前記インクカートリッジには、前記カートリッジ収納部への挿入方向と平行な壁面に設けられている開口部と、この開口部からインクカートリッジの外方に向かって突出する突起部と、この突起部と前記開口部との隙間を密閉すると共に、前記インク収容室と前記インクカートリッジの外部とを隔てる密閉膜部とを備え、
前記カートリッジ収納部には、前記インクカートリッジが挿入されるときに前記突起部が衝突してこの突起部の姿勢を強制的に変更させる規制部が設けられ、
前記突起部は、前記インクカートリッジの挿入時に前記センサ部によって検出された後、前記規制部によってその姿勢を正規の姿勢から非正規の姿勢に変化させられることにより、前記密閉膜部に形成された弱化部が破断されるように構成されていることを特徴とするインク供給装置。
【請求項2】
前記インクカートリッジの壁面には、外側が前記密閉膜部にて覆われた凹部を有し、
前記非正規の姿勢の前記突起部が前記凹部内に倒れ込むように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインク供給装置。
【請求項3】
前記弱化部は、前記密閉膜部と前記突起部との連設部のうち前記規制部からの衝突面側を除く領域に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインク供給装置。
【請求項4】
前記凹部には、前記インク収容室に連通する開口が設けられ、該開口には空気のみの通過を許容する半透過膜が張設されていることを特徴とする請求項2または3に記載のインク供給装置。
【請求項5】
前記突起部及び凹部は、前記カートリッジ収納部へのインクカートリッジ挿入時の当該インクカートリッジの上側壁面に関連させて設けられていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のインク供給装置。
【請求項6】
前記規制部は、前記カートリッジ収納部の入口側寄り部位に設けられた前記カートリッジセンサ部よりも挿入奥側の内壁部に形成され、且つ前記カートリッジ収納部内に挿入されたインクカートリッジのインク供給弁が前記インク抽出管と接続される以前に、前記突起部が前記凹部内に倒れ込むように構成されていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のインク供給装置。
【請求項7】
前記カートリッジ収納部は装置本体内に配置する収納ケース内に設けられ、前記収納ケースには、前記インクカートリッジがカートリッジ収納部に嵌まった状態で、当該インクカートリッジを位置保持する扉体が開閉可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のインク供給装置。
【請求項8】
前記請求項1〜7の何れかに記載のインク供給装置を備えたことを特徴とするインクジェット画像記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−34836(P2009−34836A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199000(P2007−199000)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】