説明

インク及びインクセット、並びにこれらを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置

【課題】普通紙上での文字品位、並びに光沢紙上での画像光沢、及び画像堅牢性に優れ、かつ長期保存性及び吐出安定性を確保できるインク及びインクセット、並びにこれらを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置の提供。
【解決手段】少なくとも水分散性着色剤、水分散性樹脂、湿潤剤、浸透剤、及び水を含有してなり、前記水分散性着色剤が、(1)分散剤の不存在下で水に分散可能な黒顔料分散体、及び(2)ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機顔料を含有してなる、少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンを含有するインクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、普通紙上での文字品位、並びに光沢紙上での画像光沢、及び画像堅牢性に優れ、かつ長期保存性及び吐出安定性を確保できるインク及びインクセット、並びにこれらを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターは、低騒音、低ランニングコスト等の利点を有することから広く普及しており、普通紙に記録可能なカラープリンターも市場に投入されている。しかし、画像の色再現性、耐水性、耐光性、画像の乾燥性、画像滲み、及びノズルからのインク吐出の信頼性のすべてを満足することは困難である。中でも、カラープリンターの場合には、イエロー、マゼンタ、又はシアンの単色画像記録部で画質劣化がなくとも、レッド、グリーン、又はブルーの2色重ね部分で画質の劣化が発生しやすい。このため、定着装置を用いないで乾燥を行う場合、紙に対するインクの浸透性を高めることにより乾燥性を向上させている(特許文献1参照)が、記録画像には著しい滲みが生じるという問題がある。
【0003】
また、特許文献2には、界面活性剤としてジアルキルスルホコハク酸を含むインクを用いると、乾燥性が向上し、画質劣化が少ないとされているが、紙質により画素径が著しく異なり、画像濃度の低下も著しいといった問題や、アルカリ側ではインク中の活性剤が分解し、保存時に活性剤効果がなくなるという問題がある。
また、特許文献3には、強塩基性物質を含むインクが提案されているが、ロジンサイズされた酸性紙では効果があるものの、アルキルケテンダイマー及びアルケニルスルホコハク酸をサイズ剤とした紙には効果がなく、酸性紙でも2色重ね部分では効果がない。
また、特許文献4には、多価アルコール誘導体及びペクチンを含有するインクが提案されている。これは増粘剤としてペクチンを添加し、滲みを防止するものであるが、ペクチンは水酸基を親水基とする非イオン性であるため、印字休止後の吐出安定性に欠けるという問題があった。前記問題に対しては、カラー画像を形成する際に、マルチパス印字を行い、紙に対するインクの浸透量を抑えて画像濃度を向上させることで現状は対応しているが、より高速な印字をするためには、紙に対するインクの浸透性については、2次色での紙の厚み方向への浸透を抑えることが課題となっている。
【0004】
そこで、黒色顔料インクを用いて紙への浸透性を抑え、画像濃度を高める一方、黒インク以外のカラーインクでは染料インクとして紙への浸透性を持たせ、黒インクとカラーインク間での色境界滲みを反応により抑えることができるインクが提案されている(特許文献5、特許文献6、及び特許文献7等参照)。しかし、これらの提案のインクは、高速記録時には十分なブリード防止ができないため、未だ十分満足できる性能を有するものではなかった。
また、特許文献8には、画像の色境界にじみを防止するため、着色剤が顔料であるインクが、着色剤が染料であるインクに接触することで凝集又は増粘するインクセットが提案されている。しかし、この提案のインクセットを用いた画像のうち、染料インクで記録した画像部分の耐水性及び耐光性は顔料インクで記録した画像部分より劣るため、経時での画像全体のカラーバランスに欠けるという問題がある。
【0005】
また、本願出願人は、先に、高速記録で形成したカラー画像における色境界にじみ防止と、鮮明なカラー画像を与えるインクセットについて提案している(特許文献9参照)。しかし、この提案では、インク吸収性の極端に悪い普通紙、又は水性インクの受容層を設けていない塗工紙に対する画像の色境界にじみ及びビーディングについては、未だ改善の余地がある。
【0006】
また、画像品質及び吐出信頼性の改善を図るため、複数の顔料をインクに使用することが提案されている。例えば、静電インクジェット用油性インクでのカーボンブラックとフタロシアニンブルー顔料とを混合したインク(特許文献10参照)、自己分散カーボンブラックと高分子分散カーボンブラックとを混合したインク(特許文献11及び特許文献12参照)、粒径、粒子形態、又は分散様式の異なる2つの顔料分散物を含有したインク(特許文献13参照)、カーボンブラック、シアン顔料、及びバイオレット顔料もしくはマゼンタ顔料を含有したインク(特許文献14参照)、などが挙げられる。
しかし、これらの提案は、いずれも普通紙上での高い文字品位を達成するため、インク中の顔料濃度及び樹脂添加量の多い高固形分のインクであり、十分な吐出信頼性を維持することは困難なものである。
【0007】
したがって先行技術では、普通紙上での画質、特に黒文字品位を向上させるためにインクを使用した場合において、長期保存性及び吐出信頼性はトレードオフの関係にあり、十分満足できる性能を有するものは未だ提供されていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開昭55−29546号公報
【特許文献2】特公昭60−23793号公報
【特許文献3】特開昭56−57862号公報
【特許文献4】特開平1−203483号公報
【特許文献5】特開2001−55533号公報
【特許文献6】特開2004−339489号公報
【特許文献7】特開2004−352996号公報
【特許文献8】特開2004−197055号公報
【特許文献9】特開2003−113337号公報
【特許文献10】特開2001−279139号公報
【特許文献11】特開2001−254039号公報
【特許文献12】特開2002−86707号公報
【特許文献13】特開2005-307207号公報
【特許文献14】特開2005−307212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、普通紙上での文字品位、並びに光沢紙上での画像光沢、及び画像堅牢性に優れ、かつ長期保存性及び吐出安定性を確保できるインク及びインクセット、並びにこれらを用いたインクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置、更には前記インク及びインク記録物の簡便な同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも水分散性着色剤、水分散性樹脂、湿潤剤、浸透剤、及び水を含有してなり、
前記水分散性着色剤が、(1)分散剤の不存在下で水に分散可能な黒顔料分散体、及び(2)ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機顔料を含有してなる、少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンを含有することを特徴とするインクである。
<2> 水分散性着色剤及び水分散性樹脂のインクにおける合計固形分含有量が、12質量%〜16質量%である前記<1>に記載のインクである。
<3> 少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンが蛍光性を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載のインクである。
<4> 少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットであって、
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクであることを特徴とするインクセットである。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のインク、又は前記<4>に記載のインクセットにおける各インクを容器中に収容してなることを特徴とするインクカートリッジである。
<6> 少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットにおける各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体上にカラー画像を記録するインク飛翔工程を含むインクジェット記録方法において、
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法である。
<7> 記録媒体表面の60度光沢度が40以下である前記<6>に記載のインクジェット記録方法である。
<8> 刺激が、熱、圧力、振動及び光から選択される少なくとも1種である前記<6>から<7>のいずれかに記載のインクジェット記録方法である。
<9> 少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットにおける各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体上にカラー画像を記録するインク飛翔手段を有するインクジェット記録装置において、
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置である。
<10> 刺激が、熱、圧力、振動及び光から選択される少なくとも1種である前記<9>に記載のインクジェット記録装置である。
<11> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のインク、又は前記<4>に記載のインクセットを用いて、記録媒体上に形成された画像を有してなることを特徴とするインク記録物である。
<12> 前記<3>に記載のインク、又は前記<3>に記載のインクを用いて記録媒体上に形成したインク記録物に単色光を照射した際に表れる特定の蛍光スペクトルによりインクの種類を判定することを特徴とするインクの同定方法である。
【0011】
本発明のインクは、少なくとも水分散性着色剤、水分散性樹脂、湿潤剤、浸透剤、及び水を含有してなり、
前記水分散性着色剤が、(1)分散剤の不存在下で水に分散可能な黒顔料分散体、及び(2)ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機顔料を含有してなる、少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンを含有する。
本発明のインクにおいては、前記(1)分散剤の不存在下で水に分散可能な黒顔料分散体としては、好ましくはカーボンブラック表面の酸化処理による自己分散型カーボンブラックが用いられる。前記黒顔料分散体は、インク中の添加量を高くすることで、黒文字品位、画像濃度を上げることができるが、画像定着性に劣る。また、水分散性樹脂を添加することで、画像定着性を付与できるが、インクジェット記録における吐出信頼性に欠け、また光沢紙上の画像光沢を得ることが困難である。一方、前記(2)少なくとも3つの色相の異なるポリマーエマルジョンを添加することにより、前記黒顔料分散体、及び水分散性樹脂の添加量を抑えることができ、黒文字品位に代表される画像特性を落とすことなく、吐出信頼性を確保することができる。更に好ましくは蛍光性を有する有機顔料を添加することで、カーボンブラックのみでは同定できない単色光によるインク又はインク記録物の同定が可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、黒インク中の黒顔料分散体及び水分散性樹脂の添加量を低減することができ、画像濃度、文字品位、定着性等の画像特性を損なうことなく、インクジェット記録の吐出信頼性を向上することができ、また光沢紙上での、カラーインクの重ね打ちによるインク付着量を無理に増加させることなく、黒画像の光沢低下を防止でき、更に簡便な同定方法により、偽造防止等の認証に使用できるインク及びインクセット、並びにこれらを用いたインクカートリッジ、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(インク)
本発明のインクは、少なくとも水分散性着色剤、水分散性樹脂、湿潤剤、浸透剤、及び水を含有してなり、界面活性剤、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0014】
<水分散性着色剤>
前記水分散性着色剤は、(1)分散剤の不存在下で水に分散可能な黒顔料分散体、及び(2)ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機顔料を含有してなる、少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンを含有する。
前記(1)の黒顔料分散体と、前記(2)の少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンとの混合割合は、前記(1)の黒顔料分散体100質量部に対し、前記(2)のポリマーエマルジョンの合計量が10質量部〜1,000質量部であることが好ましく、50質量部〜300質量部がより好ましい。
【0015】
前記(1)の分散剤の不存在下で水に分散可能な黒顔料分散体としては、黒色顔料の表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するように表面改質されたものである。該表面改質は、黒色顔料の表面に、ある特定の官能基(スルホン基やカルボキシル基等の官能基)を化学的に結合させるか、あるいは、次亜ハロゲン酸又はその塩の少なくともいずれかを用いて湿式酸化処理するなどの方法が用いられる。これらの中でも、黒色顔料の表面にカルボキシル基が結合され、水中に分散している形態が特に好ましい。このように黒色顔料が表面改質され、カルボキシル基が結合しているため、分散安定性が向上するばかりではなく、高品位な印字品質が得られるとともに、印字後の記録媒体の耐水性がより向上する。
【0016】
この自己分散性顔料を含有するインクは乾燥後の再分散性に優れるため、長期間印字を休止し、インクジェットヘッドノズル付近のインク水分が蒸発した場合も目詰まりを起こさず、簡単なクリーニング動作で容易に良好な印字が行える。
前記自己分散性顔料の体積平均粒径(D50)は、インク中において0.01μm〜0.16μmが好ましい。
【0017】
前記(1)の黒顔料分散体としては、カーボンブラック表面の酸化処理による自己分散型カーボンブラックが好適に用いられる。
前記カーボンブラックとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類;銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料、などが挙げられる。
前記黒色顔料に使用されるカーボンブラックとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックであり、一次粒径が15nm〜40nm、BET法による比表面積が、50m/g〜300m/g、DBP吸油量が、40ml/100g〜150ml/100g、揮発分が0.5%〜10%、pHが2〜9を有するものが好ましい。
このようなカーボンブラックとしては、市販品を用いることができ、例えば、No.2300、No.900、MCF−88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(いずれも、三菱化学株式会社製);Raven700、Raven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255(いずれも、コロンビア社製);Regal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400(いずれも、キャボット社製);カラーブラックFW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(いずれも、デグッサ社製)、などが挙げられる。
【0018】
前記自己分散型カーボンブラックとしては、イオン性を有するものが好ましく、アニオン性に帯電したものやカチオン性に帯電したものが好適である。
前記アニオン性親水基としては、例えば、−COOM、−SOM、−POHM、−PO、−SONH、−SONHCOR(ただし、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基を表す)などが挙げられる。これらの中でも、−COOM、−SOMがカラー顔料表面に結合されたものを用いることが好ましい。
【0019】
また、前記親水基中における「M」は、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、等が挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、モノ乃至トリメチルアンモニウム、モノ乃至トリエチルアンモニウム、モノ乃至トリメタノールアンモニウムが挙げられる。前記アニオン性に帯電したカラー顔料を得る方法としては、カラー顔料表面に−COONaを導入する方法として、例えば、カラー顔料を次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法、スルホン化による方法、ジアゾニウム塩を反応させる方法、などが挙げられる。
【0020】
前記カチオン性親水基としては、例えば、第4級アンモニウム基が好ましく、下記に挙げる第4級アンモニウム基がより好ましく、これらのいずれかがカーボンブラック表面に結合されたものが着色剤として好適である。
【0021】
【化1】

【0022】
前記親水基が結合されたカチオン性の自己分散型カーボンブラックを製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記構造式で表されるN−エチルピリジル基を結合させる方法としては、カーボンブラックを3−アミノ−N−エチルピリジウムブロマイドで処理する方法、などが挙げられる。
【0023】
【化2】

【0024】
前記親水基は、他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合されていてもよい。他の原子団としては、例えば、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基が挙げられる。前記親水基が他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合する場合としては、例えば、−CCOOM(ただし、Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表す)、−PhSOM(ただし、Phはフェニル基を表す。Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表す)、−C10NH等が挙げられる。
【0025】
前記(2)ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機顔料を含有してなる、少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンとは、ポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、及びポリマー微粒子の表面に有機顔料を吸着させたものの少なくともいずれかを意味する。この場合、全ての有機顔料がポリマー微粒子中に封入及び/又は吸着している必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲で該顔料がエマルジョン中に分散にしていてもよい。
前記「水不溶性又は水難溶性」とは、20℃で水100質量部に対し有機顔料が10質量部以上溶解しないことを意味する。また、前記「溶解する」とは、目視で水溶液表層又は下層に有機顔料の分離や沈降が認められないことを意味する。
前記少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンは蛍光性を有することが好ましい。
前記「蛍光性を有する」とは、特定波長の光(励起光)を吸収して励起状態となり、該励起状態から基底状態に戻る際に、蛍光としてエネルギーを放出する特性を持つ蛍光物質を含有していることを意味し、各種蛍光分析装置などを用いて蛍光スペクトル測定を行うことで既知の蛍光物質を定量的に確認することができる。
前記「3つの異なる色相」には、例えばシアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルーなどの単一色の明らかに色相の異なる場合の外、本発明では、中間色でも色相角の異なる組み合わせを含む。
【0026】
前記ポリマーエマルジョンを形成するポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、特開2000−53897号公報、特開2001−139849号公報に開示されているポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマーが特に好ましい。
前記有機顔料を含有させたポリマー微粒子(着色微粒子)の体積平均粒径は、前記インク中において0.01μm〜0.16μmが好ましい。
【0027】
前記有機顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、これら顔料は複数種類を混合して用いてもよい。
前記有機顔料としては、例えばアゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、イソインドレノン系、アニリンブラック、アゾメチン系、ローダミンBレーキ、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0028】
これらの有機顔料の粒子径は0.01μm〜0.30μmが好ましい。前記粒子径が、0.01μm未満であると粒子径が染料に近づくため、耐光性、フェザリングが悪化してしまうことがあり、0.30μmを超えると、吐出口の目詰まりやプリンタ内のフィルタでの目詰まりが発生し、吐出安定性を得ることができないことがある。
【0029】
カラー用顔料としては、以下のものが好適に用いられる。
イエロー用では、例えば、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、23、24、34、35、37、42、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、150、153、などが挙げられる。
マゼンタ用では、例えば、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、92、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(ジメチルキナクリドン)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、などが挙げられる。
シアン用では、例えばC.I.ピグメントブルー1、2、15(銅フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63などが挙げられる。
また、中間色としてはレッド、グリーン、ブルー用として、例えばC.I.ピグメントレッド177、194、224、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントバイオレット3,19,23,37、C.I.ピグメントグリーン7,36などが挙げられる。
【0030】
以上に挙げた顔料は高分子分散剤や界面活性剤を用いて水性媒体に分散させることでインクとすることができる。このような有機顔料粉体を分散させるための分散剤としては、通常の水溶性樹脂、水溶性界面活性剤を用いることができる。
前記水溶性樹脂としては、例えばスチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等;アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体等から選ばれた少なくとも2つの単量体からなるブロック共重合体、あるいはランダム共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。これらの水溶性樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶なアルカリ可溶型樹脂であり、これらの中でも質量平均分子量3,000〜20,000のものが、インクジェット用インクに用いた場合に、分散液の低粘度化が可能であり、かつ分散も容易であるという利点があるので特に好ましい。
【0031】
また、高分子分散剤と自己分散型顔料を同時に使うことは、適度なドット径を得られるため好ましい組み合わせである。その理由は明らかでないが、以下のように考えられる。
高分子分散剤を含有することで記録紙への浸透が抑制される。その一方で、高分子分散剤を含有することで自己分散型顔料の凝集が抑えられるため、自己分散型顔料が横方向にスムーズに拡がることができる。そのため、広く薄くドットが拡がり、理想的なドットが形成できると考えられる。
また、前記分散剤として使用できる水溶性界面活性剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤)の具体例としては、下記のものが挙げられる。
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、アルキルアリル及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルアリルエーテルリン酸塩、などが挙げられる。
前記カチオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、テトラアルキルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
前記両性界面活性剤としては、例えばジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0032】
なお、顔料は親水性基を有する樹脂によって被覆し、マイクロカプセル化することで、分散性を与えることもできる。
水不溶性の顔料を有機高分子類で被覆してマイクロカプセル化する方法としては、従来公知のすべての方法を用いることが可能である。従来公知の方法として、化学的製法、物理的製法、物理化学的方法、機械的製法などが挙げられる。具体的には、以下の方法が挙げられる。
(i)界面重合法(2種のモノマーもしくは2種の反応物を、分散相と連続相に別々に溶解しておき、両者の界面において両物質を反応させて壁膜を形成させる方法)
(ii)in−situ重合法(液体又は気体のモノマーと触媒、もしくは反応性の物質2種を連続相核粒子側のどちらか一方から供給して反応を起こさせ壁膜を形成させる方法)
(iii)液中硬化被膜法(芯物質粒子を含む高分子溶液の滴を硬化剤などにより、液中で不溶化して壁膜を形成する方法)
(iv)コアセルベーション(相分離)法(芯物質粒子を分散している高分子分散液を、高分子濃度の高いコアセルベート(濃厚相)と希薄相に分離させ、壁膜を形成させる方法)
(v)液中乾燥法(芯物質を壁膜物質の溶液に分散した液を調製し、この分散液の連続相が混和しない液中に分散液を入れて、複合エマルションとし、壁膜物質を溶解している媒質を徐々に除くことで壁膜を形成させる方法)
(vi)融解分散冷却法(加熱すると液状に溶融し常温では固化する壁膜物質を利用し、この物質を加熱液化し、その中に芯物質粒子を分散し、それを微細な粒子にして冷却し壁膜を形成させる方法)
(vii)気中懸濁被覆法(粉体の芯物質粒子を流動床によって気中に懸濁し、気流中に浮遊させながら、壁膜物質のコーティング液を噴霧混合させて、壁膜を形成させる方法)
(viii)スプレードライング法(カプセル化原液を噴霧してこれを熱風と接触させ、揮発分を蒸発乾燥させ壁膜を形成させる方法)
(ix)酸析法(アニオン性基を含有する有機高分子化合物類のアニオン性基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和することで水に対する溶解性を付与し着色剤と共に水性媒体中で混練した後、酸性化合物で中性又は酸性にし、有機化合物類を析出させ着色剤に固着せしめた後に中和し分散させる方法)
(x)転相乳化法(水に対して分散能を有するアニオン性有機高分子類と着色剤とを含有する混合体を有機溶媒相とし、前記有機溶媒相に水を投入するかもしくは、水に前記有機溶媒相を投入する方法)
【0033】
前記マイクロカプセルの壁膜物質を構成する材料として使用される有機高分子類(樹脂)としては、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリウレア、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、多糖類、ゼラチン、アラビアゴム、デキストラン、カゼイン、タンパク質、天然ゴム、カルボキシポリメチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸の重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アルギン酸ソーダ、脂肪酸、パラフィン、ミツロウ、水ロウ、硬化牛脂、カルナバロウ、アルブミンなどが挙げられる。
これらの中ではカルボン酸基又はスルホン酸基などのアニオン性基を有する有機高分子類を使用することが可能である。
また、ノニオン性有機高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート又はそれらの(共)重合体)、2−オキサゾリンのカチオン開環重合体などが挙げられる。特に、ポリビニルアルコールの完全ケン物は、水溶性が低く、熱水には解け易いが冷水には解けにくいという性質を有しており特に好ましい。
【0034】
また、マイクロカプセルの壁膜物質を構成する有機高分子類の量は、有機顔料又はカーボンブラックなどの水不溶性の着色剤に対して1質量%〜20質量%が好ましい。前記有機高分子類の量を上記の範囲にすることによって、カプセル中の有機高分子類の含有率が比較的低いために、有機高分子類が顔料表面を被覆することに起因する顔料の発色性の低下を抑制することが可能となる。前記有機高分子類の量が、1質量%未満であると、カプセル化の効果を発揮しづらくなることがあり、20質量%を超えると、顔料の発色性の低下が著しくなることがある。更に他の特性などを考慮すると有機高分子類の量は水不溶性の着色剤に対し5質量%〜10質量%の範囲が好ましい。即ち、着色剤の一部が実質的に被覆されずに露出しているために発色性の低下を抑制することが可能となり、また、逆に、着色剤の一部が露出せずに実質的に被覆されているために顔料が被覆されている効果を同時に発揮することが可能となるのである。また、本発明に用いる有機高分子類の数平均分子量としては、カプセル製造面などから、2,000以上であることが好ましい。ここで「実質的に露出」とは、例えば、ピンホール、亀裂などの欠陥などに伴う一部の露出ではなく、意図的に露出している状態を意味するものである。
【0035】
更に、着色剤として自己分散性の顔料である有機顔料又は自己分散性のカーボンブラックを用いれば、カプセル中の有機高分子類の含有率が比較的低くても、顔料の分散性が向上するために、十分なインクの保存安定性を確保することが可能となるのでより好ましい。
なお、マイクロカプセル化の方法によって、それに適した有機高分子類を選択することが好ましい。例えば、界面重合法による場合は、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン、エポキシ樹脂などが適している。in−situ重合法による場合には、(メタ)アクリル酸エステルの重合体又は共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミドなどが適している。液中硬化法による場合には、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ゼラチン、アルブミン、エポキシ樹脂などが適している。コアセルベーション法による場合には、ゼラチン、セルロース類、カゼインなどが適している。また、微細で、かつ均一なマイクロカプセル化顔料を得るためには、前記以外にも従来公知のカプセル化法すべてを利用することが可能である。
【0036】
前記マイクロカプセル化の方法として転相法又は酸析法を選択する場合には、マイクロカプセルの壁膜物質を構成する有機高分子類としては、アニオン性有機高分子類を使用する。転相法は、水に対して自己分散能又は溶解能を有するアニオン性有機高分子類と、自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの着色剤との複合物又は複合体、あるいは自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの着色剤、硬化剤及びアニオン性有機高分子類との混合体を有機溶媒相とし、該有機溶媒相に水を投入するか、あるいは水中に該有機溶媒相を投入して、自己分散(転相乳化)化しながらマイクロカプセル化する方法である。上記転相法において、有機溶媒相中に、インク用のビヒクルや添加剤を混入させて製造しても問題はない。特に、直接インク用の分散液を製造できることからいえば、インクの液媒体を混入させる方がより好ましい。
【0037】
一方、酸析法は、アニオン性基含有有機高分子類のアニオン性基の一部又は全部を塩基性化合物で中和し、自己分散性有機顔料又は自己分散型カーボンブラックなどの着色剤と、水性媒体中で混練する工程及び酸性化合物でpHを中性又は酸性にしてアニオン性基含有有機高分子類を析出させて、顔料に固着する工程とからなる製法によって得られる含水ケーキを、塩基性化合物を用いてアニオン性基の一部又は全部を中和することによりマイクロカプセル化する方法である。このようにすることによって、微細で顔料を多く含むアニオン性マイクロカプセル化顔料を含有する水性分散液を製造することができる。
また、上記に挙げたようなマイクロカプセル化の際に用いられる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルキルアルコール類;ベンゾール、トルオール、キシロール等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;クロロホルム、二塩化エチレン等の塩素化炭化水素類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、などが挙げられる。なお、上記の方法により調製したマイクロカプセルを遠心分離又は濾過などによりこれらの溶剤中から一度分離して、これを水及び必要な溶剤とともに撹拌し、再分散を行い、目的とするインクが得られる。以上の方法で得られるカプセル化顔料の平均粒径は50nm〜180nmが好ましい。
このように樹脂被覆することによって顔料が記録媒体にしっかりと付着することにより、インク記録物の擦過性を向上させることができる。
【0038】
前記水分散性着色剤の前記インクにおける含有量は、6質量%〜15質量%が好ましく、8〜12質量%がより好ましい。前記含有量が、6質量%未満であると、着色力の低下により、画像濃度が低くなったり、粘度の低下によりフェザリングや滲みが悪化することがあり、15質量%を超えると、記録装置を放置しておいた場合等に、ノズルが乾燥し易くなり、不吐出現象が発生したり、粘度が高くなりすぎることにより浸透性が低下したり、ドットが広がらないために画像濃度が低下したり、ぼそついた画像になることがある。
【0039】
−水分散性樹脂−
前記水分散性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水分散性樹脂の添加量を多くできる点から樹脂微粒子が好ましい。
【0040】
前記樹脂微粒子は、連続相としての水中に分散した樹脂エマルジョンとして存在しているものがインク製造時に使用される。樹脂エマルジョン中には必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有しても構わない。
前記分散相成分としての樹脂微粒子の含有量(樹脂エマルジョン溶液中の樹脂微粒子の含有量:製造後のインク中の含有量ではない)は、一般的には10質量%〜70質量%が好ましい。
また、前記樹脂微粒子の粒径は、特にインクジェット記録装置に使用することを考慮すると、体積平均粒径10nm〜1,000nmが好ましく、100nm〜300nmがより好ましい。この体積平均粒径は樹脂エマルジョン中での粒径であるが、安定なインクの場合、樹脂エマルジョン中の粒径とインク中の樹脂微粒子粒径には大きな違いはない。前記体積平均粒径が大きいほどエマルジョンの添加量を多くすることができる。前記体積平均粒径が、10nm未満であると、エマルジョンの添加量を多くすることができないことがあり、1,000nmを超えると、信頼性が低下することがある。ただし、必ずしもこれ以外の範囲の粒径のエマルジョンでも使用できないことはない。これらはエマルジョン種によらず一般的傾向である。
ここで、前記体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(マイクロトラック MODEL UPA9340、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。具体的には、エマルジョン水溶液を信号レベルの最適範囲内に希釈し、transparency-YES,仮にReflactive Index1.49, Partial Density1.19,Spherical Particles-YES,媒体-水の条件で測定する。ここでは、50%の値を体積平均粒径とした。
【0041】
前記分散相の樹脂微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン‐ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
前記樹脂エマルジョンとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
該市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、マイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE−1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン;サイデン化学株式会社製)、プライマルAC−22、AC−61(アクリル系樹脂エマルジョン;ローム・アンド・ハース社製)、ナノクリルSBCX−2821、3689(アクリルシリコーン系樹脂エマルジョン;東洋インキ製造株式会社製)、#3070(メタクリル酸メチル重合体樹脂エマルジョン;御国色素株式会社製)、などが挙げられる。これらの中でも、定着性が良好である点からアクリルシリコーンエマルジョンが特に好ましい。
【0042】
前記アクリルシリコーンエマルジョンにおける樹脂成分のガラス転移温度は、25℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。前記ガラス転移温度が25℃を超えると、樹脂自体が脆くなり定着性悪化の要因となる。特に、平滑で水吸収し難い印刷用紙では、定着性の低下が現れることがある。ただし、ガラス転移温度が25℃以上でも必ずしも使用できないわけではない。
前記ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計(理学電気株式会社製)を用いて測定することができ、具体的には、樹脂エマルジョン水溶液の常温乾燥膜の樹脂片を示差走査熱量計で−50℃付近より昇温し、段差が発生する温度により求めることができる。
【0043】
前記水分散性着色剤及び水分散性樹脂の前記インクにおける合計固形分含有量は、12質量%〜16質量%が好ましい。前記合計固形分含有量が、12質量%未満であると、普通紙上での文字品位が低下する等の初期画像上の問題となることがあり、16質量%を超えると、長期保存性や吐出安定性などの信頼性を確保することが困難となることがある。
【0044】
−湿潤剤−
前記湿潤剤は、乾燥による記録ヘッドのノズルの詰まりを防止することを目的として添加される。
前記湿潤剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の湿潤剤、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、エチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、ペトリオールなどが挙げられる。
前記多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、などが挙げられる。
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、などが挙げられる。
前記含窒素複素環化合物としては、例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミイダゾリジノン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン、などが挙げられる。
前記アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、などが挙げられる。
前記アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、などが挙げられる。
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール、などが挙げられる。
前記その他の湿潤剤としては、糖を含有してなるのが好ましい。該糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類、などが挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などが挙げられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール〔一般式:HOCH(CHOH)CHOH(ただし、n=2〜5の整数を表す)で表される〕、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸などが挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、該糖アルコールとしては、マルチトール、ソルビットなどが挙げられる。
これら湿潤剤の中でも、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール及び3−メチル−1,3−ブタンジオールが、保存安定性、吐出安定性の点から特に好ましい。
【0046】
前記湿潤剤の前記インク中における含有量は、10質量%〜50質量%が好ましく、20質量%〜35質量%がより好ましい。前記含有量が少なすぎると、ノズルが乾燥しやすくなり液滴の吐出不良が発生することがあり、多すぎるとインク粘度が高くなり、適正な粘度範囲を超えてしまうことがある。
【0047】
−浸透剤−
前記浸透剤はインクと記録媒体の濡れ性を向上させ、浸透速度を調整する目的で添加される。
前記浸透剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類;2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等のジオール類;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記浸透剤の前記インクにおける含有量は、0.1質量%〜4.0質量%が好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、速乾性が得られず滲んだ画像となることがあり、4.0質量%を超えると、着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりしやすくなったり、また記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0049】
−界面活性剤−
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、着色剤の種類、湿潤剤、浸透剤などの組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤の中から目的に応じて適宜選択することができるが、印刷用紙に印刷する場合には、表面張力が低く、レベリング性の高いものが好ましく、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選択される少なくとも1種が好適である。これらの中でも、フッ素系界面活性剤が特に好ましい。
【0050】
前記フッ素系界面活性剤としては、フッ素が置換した炭素数が2〜16が好ましく、4〜16がより好ましい。前記フッ素置換炭素数が2未満であると、フッ素の効果が得られないことがあり、16を超えると、インク保存性などの問題が生じることがある。
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物、などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少なく、特に好ましい。
【0051】
前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルカルボン化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩、などが挙げられる。
これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
【0052】
前記フッ素系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
該市販品としては、例えば、サーフロンS−111、S−112、S−113、S−121、S−131、S−132、S−141、S−145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF−470、F1405、F−474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);Zonyl TBS、FSP、FSA、FSN−100、FSN、FSO−100、FSO、FS−300、UR(いずれも、DuPont社製);FT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW(いずれも、株式会社ネオス社製);PF−151N(オムノバ社製)、などが挙げられる。これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する均染性が著しく向上する点から株式会社ネオス製のFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW及びオムノバ社製のPF−151Nが特に好ましい。
【0053】
前記フッ素系界面活性剤の具体例としては、下記一般式で表されるものが好適である。
(1)アニオン性フッ素系界面活性剤
【化3】

ただし、前記一般式中、Rfは、下記構造式で表されるフッ素含有疎水基の混合物を表す。Aは、−SOX、−COOX、又は−POX(ただし、Xは対アニオンであり、具体的には、水素原子、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、又はNH(CHCHOH)が挙げられる)を表す。
【化4】

【0054】
【化5】

ただし、前記一般式中、Rf’は下記構造式で表されるフッ素含有基を表す。Xは、上記と同じ意味を表す。nは1又は2の整数、mは2−nを表す。
【化6】

ただし、nは3〜10の整数を表す。
【0055】
【化7】

ただし、前記一般式中、Rf’及びXは、上記と同じ意味を表す。
【0056】
【化8】

ただし、前記一般式中、Rf’及びXは、上記と同じ意味を表す。
【0057】
(2)ノニオン性フッ素系界面活性剤
【化9】

ただし、前記一般式中、Rfは、上記と同じ意味を表す。nは5〜20の整数を表す。
【0058】
【化10】

ただし、前記一般式中、Rf’は、上記と同じ意味を表す。nは1〜40の整数を表す。
【0059】
(3)両性フッ素系界面活性剤
【化11】

ただし、前記一般式中、Rfは、上記と同じ意味を表す。
【0060】
(4)オリゴマー型フッ素系界面活性剤
【化12】

ただし、前記一般式中、Rf”は、下記構造式で表されるフッ素含有基を表す。lは0〜10の整数を表す。Xは、上記と同じ意味を表す。
【化13】

ただし、nは1〜4の整数を表す。
【0061】
【化14】

ただし、Rf”は、上記と同じ意味を表す。lは0〜10の整数、mは0〜10の整数、nは0〜10の整数をそれぞれ表す。
【0062】
前記シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
該市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越シリコーン株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社などから容易に入手できる。
【0063】
前記ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記構造式で表されるポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物、などが挙げられる。
【化15】

ただし、前記構造式中、m、n、a、及びbは整数を表す。R及びR’はアルキル基、アルキレン基を表す。
【0064】
前記ポリエーテル変性シリコーン化合物としては、市販品を用いることができ、例えば、KF−618、KF−642、KF643(いずれも、信越化学工業株式会社製)、などが挙げられる。
【0065】
また、前記フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤以外にも、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを用いることができる。
【0066】
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
【0067】
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
前記アセチレングリコール系の界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。該アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品として、例えば、エアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485、TGなどが挙げられる。
【0068】
前記両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられる。
このような界面活性剤としては、市販品として日光ケミカルズ株式会社、日本エマルジョン株式会社、日本触媒株式会社、東邦化学株式会社、花王株式会社、アデカ株式会社、ライオン株式会社、青木油脂株式会社、三洋化成工業株式会社などから容易に入手できる。
前記界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独ではインク中で容易に溶解しない場合も、混合することで可溶化され、安定に存在することができる。
【0069】
これら界面活性剤の中でも、下記構造式(1)〜(5)で示されるものが好適である。
−O−(CHCHO)−R ・・・構造式(1)
ただし、前記構造式(1)中、Rは、炭素数6〜14の分岐していてもよいアルキル基、又は炭素数6〜14の分岐していてもよいパーフルオロアルキル基を表す。Rは、水素原子、又は分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。hは、5〜20の整数を表す。
【0070】
−COO−(CHCHO)−R ・・・構造式(2)
ただし、前記構造式(2)中、Rは、炭素数6〜14の分岐していてもよいアルキル基を表す。Rは、水素原子、又は分岐していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表す。hは、5〜20の整数を表す。
【0071】
【化16】

ただし、前記構造式(3)中、Rは、炭化水素基を表し、例えば、分岐していてもよい炭素数6〜14のアルキル基などが挙げられる。kは5〜20の整数を表す。
【0072】
【化17】

ただし、前記構造式(4)中、Rは、炭化水素基を表し、例えば、分岐していてもよい炭素数6〜14のアルキル基を表す。Lは5〜10、pは5〜20の整数を表す。プロピレングリコール鎖、及びエチレングリコール鎖は、ブロック重合又はランダム重合していてもよい。
【0073】
【化18】

ただし、前記構造式(5)中、q及びrは、いずれも5〜20の整数を表す。
【0074】
前記界面活性剤の前記インク中における含有量は、0.01質量%〜3.0質量%が好ましく、0.5質量%〜2質量%がより好ましい。ただし、水よりも高沸点の25℃で液体である液体成分の合計含有量は15質量%以下である。
前記含有量が、0.01質量%未満であると、界面活性剤を添加した効果が無くなることがあり、3.0質量%を超えると、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0075】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、などが挙げられる。
【0076】
前記pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響をおよぼさずにpHを調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて任意の物質を使用することができる。該pH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属元素の水酸化物;水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、などが挙げられる。
【0077】
前記防腐防黴剤は、インク中の細菌の繁殖を抑えることができ、保存安定性、画質安定性を高めることができる。該防腐防黴剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、イソチアゾリン系化合物、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、などが挙げられる。
【0078】
前記防錆剤は、記録ヘッド等の接液する金属面に被膜を形成し、腐食を防ぐことができる。該防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト、などが挙げられる。
【0079】
前記酸化防止剤は、腐食の原因となるラジカル種を消滅させて腐食を防止することができる。該酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤、などが挙げられる。
前記フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)としては、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトライキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3',5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、などが挙げられる。
前記アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチル−フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ジヒドロキフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、などが挙げられる。
前記硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルβ,β’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイド等が挙げられる。
前記リン系酸化防止剤としては、トリフェニルフォスファイト、オクタデシルフォスファイト、トリイソデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイト、等が挙げられる。
【0080】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
前記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、等が挙げられる。
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−4'−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、等が挙げられる。
前記サリチレート系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリチレート、p−tert−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート、等が挙げられる。
前記シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3'−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート、ブチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート、等が挙げられる。
前記ニッケル錯塩系紫外線吸収剤としては、例えば、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−n−ブチルアミンニッケル(II)、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)−2−エチルヘキシルアミンニッケル(II)、2,2’−チオビス(4−tert−オクチルフェレート)トリエタノールアミンニッケル(II)、等が挙げられる。
【0081】
本発明のインクは、少なくとも、水分散性着色剤、水溶性有機溶剤、湿潤剤、浸透剤を含有し、更に必要に応じてその他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して製造する。前記分散は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシャイカー、超音波分散機等により行うことができ、攪拌混合は通常の攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うことができる。
【0082】
前記インクの物性としては、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
前記粘度は、25℃で、1.0mPa・s〜20mPa・sが好ましく、吐出安定性の観点から3.0mPa・s〜10.0mPa・sがより好ましい。
前記表面張力としては、25℃で、40mN/m以下が好ましく、17mN/m〜40mN/mがより好ましい。前記表面張力が、40mN/m以下であれば、ほとんどの記録用メディアに対しても速やかな定着が可能になる。
前記pHとしては、例えば、3〜11が好ましく、接液する金属部材の腐食防止の観点から6〜10がより好ましい。
【0083】
本発明のインクは、インクジェットヘッドとして、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2−51734号公報参照)、あるいは、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61−59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで、インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6−71882号公報参照)などのいずれのインクジェットヘッドを搭載するプリンタにも良好に使用できる。
【0084】
(インクセット)
本発明のインクセットは、少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなり、
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、本発明の前記インクである。
【0085】
本発明のインクセットは、従来一般的に用いられているインクジェット記録装置におけるインクセットとして使用され、カラー画像を形成するインクジェット記録方法に用いられる。
前記インクジェット記録方法では、インクセットの各インクを熱エネルギーや機械エネルギー等により、印字ノズルから微小液滴として飛翔させ、これを記録媒体上に付着させ、カラー画像を形成させる。
前記記録媒体としては、前記記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、普通紙、印刷用塗工紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通紙及び印刷用塗工紙の少なくともいずれかが好ましい。
前記記録媒体表面の60度光沢度は40以下が好ましく、光沢紙では20〜40がより好ましい。前記60度光沢度が40を超えると、画像光沢が光沢紙の光沢より極端に低下し、画像に違和感を感じることがある。
【0086】
(インクカートリッジ)
本発明のインクカートリッジは、本発明のインク、又は本発明の前記インクセットにおける各インクを容器中に収容してなる。
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインク袋を少なくとも有するもの、プラスチックケース、などが好適に挙げられる。
【0087】
本発明のインクカートリッジは、本発明の前記インク、又は本発明の前記インクセットにおける各インクを収容し、各種インクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いることができる。また、後述する本発明のインクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いるのが特に好ましい。
【0088】
(インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法)
本発明のインクジェット記録装置は、インク飛翔手段を少なくとも有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の手段、例えば、刺激発生手段、制御手段等を有してなる。
本発明のインクジェット記録方法は、インク飛翔工程を少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程、例えば、刺激発生工程、制御工程等を含む。
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録装置により好適に実施することができ、前記インク飛翔工程は前記インク飛翔手段により好適に行うことができる。また、前記その他の工程は、前記その他の手段により好適に行うことができる。
【0089】
−インク飛翔工程及びインク飛翔手段−
前記インク飛翔工程は、少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットにおける各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体上にカラー画像を記録する工程である。
前記インク飛翔手段は、少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットにおける各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体上にカラー画像を記録する手段である。
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、本発明の前記インクである
前記インク飛翔手段としては、特に制限はなく、例えば、インク吐出用の各種のノズル、などが挙げられる。
【0090】
本発明においては、該インクジェットヘッドの液室部、流体抵抗部、振動板、及びノズル部材の少なくとも一部がシリコン及びニッケルの少なくともいずれかを含む材料から形成されることが好ましい。
また、インクジェットノズルのノズル径は、30μm以下が好ましく、1μm〜20μmが好ましい。
インクを飛翔させるヘッドが、インク吐出面に撥水加工処理を施したノズルプレートを有することが好ましく、該撥水加工が、PTFE−Ni共析加工、フッ素樹脂加工、及びシリコーン樹脂加工から選ばれるいずれかであることが好ましい。
また、インクジェットヘッド上にインクを供給するためのサブタンクを有し、該サブタンクにインクカートリッジから供給チューブを介してインクが補充されるように構成することが好ましい。
【0091】
前記刺激は、例えば、前記刺激発生手段により発生させることができ、該刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、熱(温度)、圧力、振動、光、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱、圧力が好適に挙げられる。
【0092】
なお、前記刺激発生手段としては、例えば、加熱装置、加圧装置、圧電素子、振動発生装置、超音波発振器、ライト、などが挙げられ、具体的には、例えば、圧電素子等の圧電アクチュエーター、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエーター、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエーター、静電力を用いる静電アクチュエーター、などが挙げられる。
【0093】
前記インクの飛翔の態様としては、特に制限はなく、前記刺激の種類等応じて異なり、例えば、前記刺激が「熱」の場合、記録ヘッド内の前記インクに対し、記録信号に対応した熱エネルギーを例えばサーマルヘッド等を用いて付与し、該熱エネルギーにより前記インクに気泡を発生させ、該気泡の圧力により、該記録ヘッドのノズル孔から該インクを液滴として吐出噴射させる方法、などが挙げられる。また、前記刺激が「圧力」の場合、例えば記録ヘッド内のインク流路内にある圧力室と呼ばれる位置に接着された圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子が撓み、圧力室の容積が縮小して、前記記録ヘッドのノズル孔から該インクを液滴として吐出噴射させる方法、などが挙げられる。
【0094】
前記飛翔させる前記インクの液滴は、その大きさとしては、例えば、3pl〜40plとするのが好ましく、その吐出噴射の速さとしては5m/s〜20m/sとするのが好ましく、その駆動周波数としては1kHz以上とするのが好ましく、その解像度としては300dpi以上とするのが好ましい。
前記インクジェット記録方法によるインク付着量は、1.5g/m〜15g/mが好ましい。
【0095】
前記記録媒体の記録面を反転させて両面印刷可能とする反転手段を有することが好ましい。該反転手段としては、静電気力を有する搬送ベルト、空気吸引により記録媒体を保持する手段、搬送ローラーと拍車との組み合わせなどが挙げられる。
無端状の搬送ベルトと、該搬送ベルト表面を帯電させて記録媒体を保持しながら搬送する搬送手段を有することが好ましい。この場合、帯電ローラーに±1.2kV〜±2.6kVのACバイアスを加えて搬送ベルトを帯電させることが特に好ましい。
【0096】
なお、前記制御手段としては、前記各手段の動きを制御することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シークエンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0097】
ここで、本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクジェット記録装置の一例について説明する。まず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を図1に示す。
図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン、又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1及び17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性のよい材料で形成される基板20から構成されている。
【0098】
前記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0099】
図2に、上記ヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。この図2において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。
ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置される。本実施形態の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
上記ブレード61、キャップ62、及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃等の除去が行われる。
【0100】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続している(不図示)。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。51は記録媒体を挿入するための紙給部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッドの65吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行するにつれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。
【0101】
以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0102】
なお、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。その結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0103】
図3は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図4に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図4において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71から液滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタン、セルロース、ポリビニルアセテート又はポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図2に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱可能になっている。
【0104】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例としては、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録装置を挙げることができる。この記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図5に示す。ヘッドは、図示されていないインク室に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を支持固定するための基板84とから構成されている。
【0105】
図5において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、表面にPTFEニッケルの共析メッキ等の撥インク層が設けられている。振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0106】
次に、他の力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例として静電アクチュエーターを用いたインクジェットを示す。図6はインクジェットヘッドの断面図である。これらの図に示すように、インクジェッドヘッド1は、シリコン基板2を挟み、上側に同じくシリコン製のノズルプレート3、下側にシリコンと熱膨張率が近いホウ珪酸ガラス基板4がそれぞれ積層された3層構造となっている。中央のシリコン基板2には、それぞれ独立した複数のインク室5、これらに共通に設けられた共通インク室6及びこの共通インク室6を複数のインク室5にそれぞれ接続しているインク供給路7としてそれぞれ機能する溝が、その表面(図6中、上面)からエッチングを施すことにより形成されている。これらの溝がノズルプレート3によって塞がれて、各部分5、6、7が区画形成されている。ノズルプレート3には、各インク室5の先端側の部分に対応する位置に、インクノズル11が形成されており、これらが各インク室5に連通している。また、ノズルプレート3には共通インク室6に連通するインク供給口が形成されている。
インクは、外部の図示しないインクタンクから、インク供給口を通って共通インク室6に供給される。共通インク室6に供給されたインクは、インク供給路7を通って、互いに独立したインク室5にそれぞれ供給される。インク室5は、その底壁8が図6の上下方向に弾性変位可能なダイヤフラムとして機能するように薄肉に形成されている。したがって、この底壁8の部分を、以後の説明の都合上、ダイヤフラム8と称して説明することもある。
【0107】
次に、シリコン基板2の下面に接しているガラス基板4においては、その上面、即ちシリコン基板2との接合面には、シリコン基板2の各インク室5に対応した位置に、浅くエッチングされた凹部9が形成されている。したがって、各インク室5の底壁8は、非常に僅かの隙間を隔てて、ガラス基板4の凹部9の表面92と対峙している。なお、ガラス基板4の凹部9はインク室5の底壁8に対向しているので、振動板対向壁又は単に対向壁91と称する。ここで、各インク室5の底壁8は、それぞれ電荷を蓄えるための電極として機能する。そして、各インク室5の底壁8に対峙するように、ガラス基板4の凹部表面92には、セグメント電極10が形成されている。各セグメント電極10の表面は無機ガラスからなる厚さG0の絶縁層により覆われている。このように、セグメント電極10と各インク室底壁8とは、絶縁層を挟んで互いに対向電極(電極間距離をGとする)を形成している。
【0108】
(インク記録物)
本発明のインク記録物は、本発明の前記インク、又は本発明の前記インクセットを用いて、記録媒体上に形成された画像を有してなる。
前記記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、普通紙、印刷用塗工紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通紙及び印刷用塗工紙の少なくともいずれかが好ましい。
前記インク記録物は、高画質で滲みがなく、経時安定性に優れ、各種の印字乃至画像の記録された資料等として各種用途に好適に使用することができる。
【0109】
(インクの同定方法)
本発明のインクの同定方法は、少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンが蛍光性を有する本発明の前記インク、又は該インクを用いて記録媒体上に形成したインク記録物に単色光を照射した際に表れる特定の蛍光スペクトルによりインクの種類を判定することができる。これにより、偽造防止等の認証用インクとして適用可能となる。
前記「蛍光性を有する」とは、上述したとおりの意味を表す。
【0110】
前記インクは、蛍光性を有するので、その蛍光を、例えば蛍光X線非破壊分析法、三次元蛍光スペクトル非破壊分析法、蛍光スペクトル測定等によりインクを同定することができる。一般的には、蛍光スペクトル測定では、紫外光から可視域を分光してインクに与え、出てくる蛍光発光を検知することにより、既知の蛍光物質を定量的に同定することができる。
【実施例】
【0111】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0112】
(調製例1)
−表面処理ブラック顔料分散液の調製−
CTAB比表面積が150m/g、DBP吸油量100ml/100gのカーボンブラック90gを、2.5規定の硫酸ナトリウム溶液3,000mlに添加し、温度60℃、速度300rpmで攪拌し、10時間反応させて酸化処理を行った。この反応液を濾過し、濾別したカーボンブラックを水酸化ナトリウム溶液で中和し、限外濾過を行った。
得られたカーボンブラックを水洗し、乾燥させて、固形分30質量%となるよう純水中に分散させ、充分に撹拌してブラック顔料分散液を得た。
得られたブラック顔料分散体の平均粒子径(D50)を測定したところ103nmであった。なお、平均粒子径(D50)の測定は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)を用いた。
【0113】
(調製例2)
−蛍光性を有し、ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機マゼンタ顔料含有ポリマー微粒子水分散体の調製−
<ポリマー溶液Aの調製>
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。
次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50質量%のポリマー溶液Aを800g得た。
【0114】
<顔料含有ポリマー微粒子水分散体の調製>
ポリマー溶液Aを28gと、C.I.ピグメントレッド122を42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータ用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、更に粗大粒子を除くためにこの分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、顔料15質量%含有、固形分20質量%のマゼンタポリマー微粒子の水分散体を得た。
得られたマゼンタポリマー微粒子水分散体の平均粒子径(D50)を測定したところ127nmであった。なお、平均粒子径(D50)の測定は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)を用いた。
得られたマゼンタポリマー微粒子分散体は、蛍光分光光度計による測定で蛍光性を有していた。
【0115】
(調製例3)
−蛍光性を有し、ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機シアン顔料含有ポリマー微粒子分散体の調製−
調製例2において、C.I.ピグメントレッド122を銅フタロシアニン顔料に変更した以外は、調製例2と同様にして、シアンポリマー微粒子分散体を調製した。
得られたポリマー微粒子について、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)で測定した平均粒子径(D50)は93nmであった。
得られたシアンポリマー微粒子分散体は、蛍光分光光度計による測定で蛍光性を有していた。
【0116】
(調製例4)
−蛍光性を有し、ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機イエロー顔料含有ポリマー微粒子分散体の調製−
調製例2において、顔料C.I.ピグメントレッド122を顔料C.I.ピグメントイエロー74に変更した以外は、調製例2と同様にして、イエローポリマー微粒子分散体を調製した。
得られたポリマー微粒子について、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA−EX150)で測定した平均粒子径(D50)は76nmであった。
得られたイエローポリマー微粒子分散体は、蛍光分光光度計による測定で蛍光性を有していた。
【0117】
(実施例1)
<インクセット1の作製>
(1)下記組成を混合し、これを平均孔径0.45μmのテフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターで濾過して、黒インク1を作製した。
−インク組成−
・調製例1の表面処理ブラック顔料分散液・・・15.0質量%
・調製例2のマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・7.0質量%
・調製例3のシアン顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・7.0質量%
・調製例4のイエロー顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・7.0質量%
・アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン(固形分40質量%)・・・12.5質量%
・ジプロピレングリコール・・・20.0質量%
・グリセリン・・・10.0質量%
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール・・・2.0質量%
・フッ素系界面活性剤(ゾニールFS−300、DuPont社製)・・・1.0質量%
・デヒドロ酢酸ナトリウム・・・0.2質量%
・イオン交換水・・・残量
【0118】
(2)下記組成を用いる以外は、前記インクセット1の(1)と同様にして、イエローインク1を作製した。
−インク組成−
・調製例4のイエロー顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・40.0質量%
・アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン(固形分40質量%)・・・10.0質量%
・1,3−ブタンジオール・・・24.0質量%
・グリセリン・・・8.0質量%
・1,2−ヘキサンジオール・・・1.0質量%
・ソフタノールEP−7025(日本触媒株式会社製)・・・1.0質量%
・イオン交換水・・・残量
【0119】
(3)下記組成を用いる以外は、前記インクセット1の上記(1)と同様にして、マゼンタインク1を作製した。
−インク組成−
・調製例2のマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・50.0質量%
・アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン(固形分40質量%)・・・7.5質量%
・1,3−ブタンジオール・・・24.0質量%
・グリセリン・・・8.0質量%
・1,2−ヘキサンジオール・・・1.0質量%
・ソフタノールEP−7025(日本触媒株式会社製)・・・1.0質量%
・イオン交換水・・・残量
【0120】
(4)下記組成を用いる以外は、前記インクセット1の上記(1)と同様にして、シアンインク1を作製した。
−インク組成−
・調製例3のシアン顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・40.0質量%
・アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン(固形分40質量%)・・・10.0質量%
・1,3−ブタンジオール・・・24.0質量%
・グリセリン・・・8.0質量%
・1,2−ヘキサンジオール・・・1.0質量%
・ソフタノールEP−7025(日本触媒株式会社製)・・・1.0質量%
・イオン交換水・・・残量
【0121】
(実施例2)
<インクセット2の作製>
(5)下記組成を用いる以外は、前記インクセット1の(1)と同様にして、黒インク2を作製した。
−インク組成−
・調製例1の表面処理ブラック顔料分散液・・・8.0質量%
・調製例2のマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・16.0質量%
・調製例3のシアン顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・16.0質量%
・調製例4のイエロー顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・16.0質量%
・アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン(固形分40質量%)・・・5.0質量%
・ジプロピレングリコール・・・20.0質量%
・グリセリン・・・10.0質量%
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール・・・2.0質量%
・フッ素系界面活性剤(ゾニールFS−300、DuPond社製)・・・1.0質量%
・デヒドロ酢酸ナトリウム・・・0.2質量%
・イオン交換水・・・残量
【0122】
(6)インクセット1の黒インク1の代わりに黒インク2を用いた以外は、インクセット1と同様にして、インクセット2を作製した。
【0123】
(比較例1)
<インクセット3の作製>
実施例1のインクセット1において、黒インク1の代わりに下記組成の黒インク3を用いた以外は、インクセット1と同様にして、インクセット3を作製した。
−インク組成−
・調製例1の表面処理ブラック顔料分散液・・・26.0質量%
・アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン(固形分40質量%)・・・12.5質量%
・ジプロピレングリコール・・・20.0質量%
・グリセリン・・・10.0質量%
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール・・・2.0質量%
・フッ素系界面活性剤(ゾニールFS−300、DuPont社製)・・・1.0質量%
・デヒドロ酢酸ナトリウム・・・0.2質量%
・イオン交換水・・・残量
【0124】
(比較例2)
<インクセット4の作製>
実施例2のインクセット2において、黒インク2の代わりに下記組成の黒インク4を用いた以外は、インクセット2と同様にして、インクセット4を作製した。
−インク組成−
・調製例2のマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・16.0質量%
・調製例3のシアン顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・16.0質量%
・調製例4のイエロー顔料含有ポリマー微粒子分散体・・・16.0質量%
・アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン(固形分40質量%)・・・5.0質量%
・ジプロピレングリコール・・・20.0質量%
・グリセリン・・・10.0質量%
・2−エチル−1,3−ヘキサンジオール・・・2.0質量%
・フッ素系界面活性剤(ゾニールFS−300、DuPont社製)・・・1.0質量%
・デヒドロ酢酸ナトリウム・・・0.2質量%
・イオン交換水・・・残量
【0125】
得られた実施例1〜2のインクセット及び比較例1〜2のインクセットについて、以下のようにして、諸特性を評価した。結果を表1に示す。
【0126】
<画像の鮮明性>
サーマルインクジェット方式の各色ノズル径18μm、600dpiピッチの300ノズルを有するインクジェットプリンター、(2)積層PZTを液室流路の加圧に使用した各色ノズル径28μm、(3)200dpiピッチの300ノズルを有するインクジェットプリンター、及び(4)静電アクチュエーターを液室流路の加圧に使用した各色300ノズルを有するインクジェットプリンターを用いて、それぞれ印字を行い、黒文字品位、2色重ね部境界の滲み、色調、及び濃度を目視により総合的に、下記基準で評価した。なお、印字用紙としては、市販の再生紙、上質紙、ボンド紙、及び印刷用グロス紙を用いた。
〔評価基準〕
5:紙種によらず黒文字品位が高く、2色重ね部境界のにじみがなく、画像濃度が高く、鮮明性、色再現性が高い
4:上記5で画像濃度がやや低い
3:色境界滲みは少ないが紙種により文字品位が劣る
2:紙種により色境界滲みが発生する
1:上記2で画像濃度も低く鮮明性に劣る
【0127】
<画像の耐水性>
得られた各画像サンプルを30℃の水に1分間浸漬し、処理前後の画像濃度の変化をX−Rite938(X−Rite社製)にて測定し、下記式から耐水性(耐色率%)を求めた。なお、印字用紙としては、市販の再生紙、上質紙、ボンド紙、及び印刷用グロス紙を用いた。
耐色率(%)=〔1−(処理後の画像濃度/(処理前の画像濃度)〕×100
〔評価基準〕
5:耐色率がいずれの紙でも10%以下である
4:耐色率がいずれの紙でも20%以下である
3:耐色率がいずれの紙でも30%未満である
2:耐色率がいずれの紙でも30%以上である
1:耐色率がいずれの紙でも50%以上である
【0128】
<画像の光沢性>
光沢度計(ビックケミー・ジャパン社製、4501−マイクログロス60°)にて、印刷用グロス紙に印字したブラックベタ画像の60度光沢度と、グロス紙の地肌の60度光沢度とを比較し、以下の基準で評価した。なお、グロス紙の地肌の60度光沢度は25であった。
〔評価基準〕
○:画像光沢度が地肌光沢度以上となる
×:画像光沢度が地肌光沢度より低下する
【0129】
<保存安定性>
各インクをポリエチレン容器に入れ、−20℃、5℃、20℃、及び70℃でそれぞれの条件下で3カ月間保存し、それぞれの保存後の表面張力、粘度、沈澱物析出、及び粒子径の変化の有無を調べ、以下の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:どの条件で保存しても、すべての物性の変化が10%未満
×:すべての物性が10%以上変化あり
【0130】
<印字休止時の吐出信頼性>
ノズル径30μm、128ノズルを有するPZTで駆動するヘッドを有するプリンタを使用して動作中にキャップ、クリーニング等が行われないでどれだけ印字休止しても復帰できるかを調べた。23℃、50%RH環境にて1時間休止後、復帰し噴射方向がずれるか、あるいは吐出液滴の質量が変化するかで信頼性を評価し、下記の基準で評価した。
〔評価基準〕
5:特に問題なし
4:滴質量の変化が小であり、噴射方向曲がりが限度内である
3:噴射方向曲がり小である
2:滴質量変化大であるが、目詰まり発生はない
1:顕著な目詰まりが発生した
【0131】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のインク及びインクセットは、インクカートリッジ、インク記録物、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に好適に用いることができる。
本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができ、例えば、インクジェット記録用プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、などに特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1は、記録ヘッドの一例を示す断面図である。
【図2】図2は、インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、インクカートリッジの一例を示す断面図である。
【図4】図4は、インクカートリッジの別の例を示す斜視図である。
【図5】図5は、記録ヘッドの一例を示す断面図である。
【図6】図6は、記録ヘッドの一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0134】
1 インクジェッドヘッド
2 シリコン基板
3 ノズルプレート
4 ホウ珪酸ガラス基板
5 インク室
6 共通インク室
7 インク供給路
8 底壁
9 凹部
91 対向壁
92 表面
10 セグメント電極
13 ヘッド
14 インク流路(ノズル)
15 発熱素子基板
16 保護層
17−1、17−2 電極
18 発熱抵抗体層
19 蓄熱層
20 基板
40 インク収容部
42 栓
44 廃インクを受容するインク吸収体
61 ブレード
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
67 ガイド軸
69 ベルト
70 記録ユニット
71 ヘッド部
72 大気連通口
80 インク流路
81 オリフィスプレート
82 振動板
83 圧電素子
84 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水分散性着色剤、水分散性樹脂、湿潤剤、浸透剤、及び水を含有してなり、
前記水分散性着色剤が、(1)分散剤の不存在下で水に分散可能な黒顔料分散体、及び(2)ポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性である有機顔料を含有してなる、少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンを含有することを特徴とするインク。
【請求項2】
水分散性着色剤及び水分散性樹脂のインクにおける合計固形分含有量が、12質量%〜16質量%である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
少なくとも3つの異なる色相のポリマーエマルジョンが蛍光性を有する請求項1から2のいずれかに記載のインク。
【請求項4】
少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットであって、
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、請求項1から3のいずれかに記載のインクであることを特徴とするインクセット。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のインク、又は請求項4に記載のインクセットにおける各インクを容器中に収容してなることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項6】
少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットにおける各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体上にカラー画像を記録するインク飛翔工程を含むインクジェット記録方法において、
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、請求項1から3のいずれかに記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項7】
記録媒体表面の60度光沢度が40以下である請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
刺激が、熱、圧力、振動及び光から選択される少なくとも1種である請求項6から7のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
少なくとも3つの異なる色相を有するカラーインク、及び黒インクからなるインクセットにおける各インクに刺激を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体上にカラー画像を記録するインク飛翔手段を有するインクジェット記録装置において、
前記カラーインクが、着色剤としてポリマー微粒子に非水溶性乃至水難溶性の有機顔料を含有してなるポリマーエマルジョンを含み、
前記黒インクが、請求項1から3のいずれかに記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項10】
刺激が、熱、圧力、振動及び光から選択される少なくとも1種である請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
請求項1から3のいずれかに記載のインク、又は請求項4に記載のインクセットを用いて、記録媒体上に形成された画像を有してなることを特徴とするインク記録物。
【請求項12】
請求項3に記載のインク、又は請求項3に記載のインクを用いて記録媒体上に形成したインク記録物に単色光を照射した際に表れる特定の蛍光スペクトルによりインクの種類を判定することを特徴とするインクの同定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−132766(P2009−132766A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308507(P2007−308507)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】