説明

インク塗布方法、及びインク塗布方法で形成された塗膜

【課題】低粘度のインクを、長時間に亘って、連続して、安定的に、かつ、スピーディにインクジェット塗布できる技術を提供することである。
【解決手段】作動時間(T1)のピエゾ素子作動によるインク室にインクが吸入されるインク吸入工程と、作動時間(T2)のピエゾ素子作動によるインク室からインクが吐出されるインク吐出工程と、インク吸入・吐出が実質上行われない待機時間(T3)の待機工程とを具備し、前記インク吸入工程と前記インク吐出工程と前記待機工程とを1サイクルとする繰り返しによるインクジェット方式でのインク塗布方法であって、
前記インクは、固体分散系インクであって、25℃における粘度が0.5〜7mPa・sであり、
1/1000秒≦(T1+T2+T3)≦1/20秒、かつ、T3≧50×(T1+T2)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク塗布技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット装置を用いた塗布技術でのパターン形成が知られている。例えば、導電性膜をインクジェット塗布技術で形成することが考えられる。ところで、前記技術を用いた場合に、長時間に亘って、連続的に、安定して、パターン形成が行われる為には、インクの物性値が所望のものでなければならないと考えられる。すなわち、インクジェット技術で形成された塗膜の品質はインクの物性によって大きな影響を受けると考えられる。例えば、インクの粘度による影響は極めて大きいと考えられた。さて、これまで、高品質な塗膜をインクジェット技術で得る為、インクには、通常、増粘剤が添加されて来た。中でも、インクが分散系インクの場合、分散物質の沈降を防ぎ、保存安定性を高める(相分離防止)目的で、増粘剤や分散化剤の添加が重要な役割を果たしている。
【0003】
しかしながら、インクに添加された増粘剤や分散化剤は、インク本来の目的・機能からしたならば、不要な場合が多い。更に言うならば、インク本来の機能が増粘剤や分散化剤によって妨げられる懸念も有る。塗膜が、例えば導電性塗膜の場合、該塗膜中には導電性物質以外の物質の含有量が少ない方が、導電性の観点から、好ましいことは言うまでも無い。このようなことから、導電性物質以外の物質を除去する為、焼成が考えられる。しかしながら、焼成すると、導電性の金属粒子は焼成により酸化し、導電性が低下する。又、塗膜が形成された基板が樹脂製の場合、そもそも、焼成と言った手段を採用できない。従って、増粘剤や分散化剤がインク中に添加されないで済むならば、その方が好ましいとも謂える。
【0004】
さて、導電性塗膜をインクジェット技術で形成する技術として、例えばアセチルアセトンインジウム、有機錫化合物、セルロース誘導体、アルキルフェノール及び/又はアルケニルフェノール、二塩基酸エステル及び/又は酢酸ベンジル、ジエチレングリコール誘導体を含有し、前記アセチルアセトンインジウムと有機錫化合物との合計含有量が1〜30重量%、セルロース誘導体の含有量が5重量%以下である透明導電膜形成用塗布液を、インクジェット印刷により、基板上に塗布し、乾燥した後、300℃以上の温度で焼成する技術が提案(特開2006−28431号公報)されている。
【0005】
又、導電性酸化物微粒子と、無機バインダと、溶媒とからなり、前記導電性酸化物微粒子の平均粒径は10〜100nmであり、前記無機バインダの平均重量分子量(ポリスチレン換算)は3000〜150000であり、且つ、前記溶媒にはγ−ブチロラクトンが10〜90重量%含有されていて、B型粘度計で測定した25℃における粘度が2〜30mPa・sである透明導電膜形成用塗布液を、インクジェット印刷により、基板上に塗布した後、200〜600℃に加熱する技術が提案(特開2006−114396号公報)されている。
【0006】
カーボンナノチューブ塗膜をインクジェット技術で形成する技術として、DMF(ジメチルホルムアミド)に分散させた金属型SWCNT(シングルウォールカーボンナノチューブ)および半導体型SWCNTをインクジェット描画装置(マイクロジェット社:型式PicoJet−1000)で描画する技術が提案(特開2010−10162号公報)されている。ここでは、DMFに分散させた金属型SWCNTおよび半導体型SWCNTは、約1mPa・sの粘度を有していること、かつ、これに合わせて低粘度用インクジェットヘッドが用いられたことが開示されている。更に、インクジェットヘッドはピエゾ素子を有しており、このピエゾ素子に電圧を加えることによってインクが滴下されることも開示されている。又、安定した滴下が行われる為には、滴下されたインクの速度は3〜8m/sが適当とされており、ピエゾ素子に加える電圧パルスの大きさや印加時間は「90V」「70〜75μs」が最適であると開示されている。
【0007】
又、ソース電極とドレイン電極と半導体層とを少なくとも備える薄膜トランジスタの製造方法であって、SWCNTを揮発性溶媒に分散させてSWCNT分散溶液を調整する分散溶液調製工程と、前記SWCNT分散溶液を基板上にインクジェット法により塗布して前記ソース電極と前記ドレイン電極と前記半導体層とを形成する塗布工程と、前記塗布工程で塗布されたSWCNT分散溶液を乾燥させる乾燥工程とを備え、前記塗布工程で前記半導体層を形成するために単位面積あたりに塗布される前記SWCNTの量は、前記塗布工程で前記ソース電極および前記ドレイン電極を形成するために単位面積あたりに塗布される前記SWCNT量よりも少量であることを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法が提案(特開2010−10310号公報)されている。
【0008】
その他にも、Carbon,2007,Vol.45,2712−2716には、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)及び高分子化合物(分散剤)を含む溶液を市販のインクジェットプリンタを用いて印刷したことが開示されている。
【0009】
又、Carbon,2009,Vol.47,752−757には、SWCNT及びポリエチレンイミン(分散剤)を含む溶液を市販のインクジェットプリンタを用いて印刷したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−28431号公報
【特許文献2】特開2006−114396号公報
【特許文献3】特開2010−10162号公報
【特許文献4】特開2010−10310号公報
【特許文献5】特開2000−326511号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Carbon,2007,Vol.45,2712−2716
【非特許文献2】Carbon,2009,Vol.47,752−757
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1,2の技術は、焼成を必要とすると言った限界が有る。すなわち、インクが塗布される基板が樹脂製と言った如く、焼成が不向きな場合には対応が出来ない。そして、上記特許文献1,2で用いられたインクは、粘度が5〜20mPa・sである。ところが、本発明者による検討の結果、インクが低粘度の場合、例えば7mPa・s以下の場合には、長時間に亘って連続して安定的にインクジェット塗布を行うことが出来なかった。尚、上記特許文献1,2には、この点に関する開示が皆無である。
【0013】
特許文献3についても、本発明者による検討の結果、インクが低粘度の場合、例えば1mPa・s程度の場合、長時間に亘って連続して安定的にインクジェット塗布を行うことが出来なかった。尚、上記特許文献3にも、この点に関する開示が皆無である。
【0014】
特許文献4には、SWCNT溶液をインクジェットプリンタで塗布したことが開示されているに過ぎない。そして、ここには、SWCNT溶液の粘度が如何なる程度であるかの開示は無い。そして、上記した通り、インクの粘度が低い場合には、長時間に亘って連続して安定的にインクジェット塗布を行うことが出来なかったのであるが、斯かる点に関する開示が特許文献4には皆無である。
【0015】
特許文献5には、微小なインク滴を安定的に形成してノズルから吐出・記録する技術の開示が有る。しかしながら、この特許文献5にも、インクの粘度が如何なる程度であるかの開示は無い。そして、上記した通り、インクの粘度が低い場合には、長時間に亘って連続して安定的にインクジェット塗布を行うことが出来なかったのであるが、斯かる点に関する開示が特許文献5には皆無である。
【0016】
非特許文献1,2にも、インクの粘度が低い場合に、長時間に亘って連続して安定的にインクジェット塗布を行うことが出来なかったのであるが、斯かる点に関する開示が皆無である。
【0017】
従って、本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解決することである。すなわち、例えば増粘剤は塗布されたインク本来の機能からすると不要なことが多く、そして増粘剤を含有させなかった場合に粘度が低くなるのであるが、このような低粘度のインクが用いられた場合、長時間に亘って、連続して、安定的にインクジェット塗布を行うことが出来る技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決する為の検討が、本発明者によって、鋭意、行われて行った結果、ピエゾ素子が搭載されたインクジェット装置によってインクを塗布する場合、該インクの粘度が低い場合でも、ピエゾ素子の非作動(待機)時間を十分に確保しておけば、長時間に亘って、連続して、安定的にインクジェット塗布を行えることが判って来た。但し、ピエゾ素子の非作動(待機)時間を長く取ることは、塗布に時間が掛かり過ぎることになるから、それには上限が必要であった。
【0019】
上記知見を基にして本発明が達成されたものである。
【0020】
すなわち、前記の課題は、
作動時間(T1)のピエゾ素子作動によるインク室にインクが吸入されるインク吸入工程と、作動時間(T2)のピエゾ素子作動によるインク室からインクが吐出されるインク吐出工程と、インク吸入・吐出が実質上行われない待機時間(T3)の待機工程とを具備し、前記インク吸入工程と前記インク吐出工程と前記待機工程とを1サイクルとする繰り返しによるインクジェット方式でのインク塗布方法であって、
前記インクは、固体分散系インクであって、25℃における粘度が0.5〜7mPa・sであり、
1/1000秒≦(T1+T2+T3)≦1/20秒であって、
T3≧50×(T1+T2)である
ことを特徴とするインク塗布方法によって解決される。
【0021】
又、上記インク塗布方法であって、好ましくは、T3≧100×(T1+T2)であることを特徴とするインク塗布方法によって解決される。又、上記インク塗布方法であって、更に好ましくは、T3≧200×(T1+T2)であることを特徴とするインク塗布方法によって解決される。又、上記インク塗布方法であって、もっと好ましくは、T3≧235×(T1+T2)であることを特徴とするインク塗布方法によって解決される。
【0022】
前記の課題は、
作動時間(T1)のピエゾ素子作動によるインク室にインクが吸入されるインク吸入工程と、作動時間(T2)のピエゾ素子作動によるインク室からインクが吐出されるインク吐出工程と、インク吸入・吐出が実質上行われない待機時間(T3)の待機工程とを具備し、前記インク吸入工程と前記インク吐出工程と前記待機工程とを1サイクルとする繰り返しによるインクジェット方式でのインク塗布方法であって、
前記インクは、固体分散系インクであって、25℃における粘度が0.5〜7mPa・sであり、
1/1000秒≦(T1+T2+T3)≦1/20秒であって、
T3≧50×(T1+T2)であり、
かつ、T3は、10分間に亘る連続的なインク塗布が可能な長さの時間である
ことを特徴とするインク塗布方法によって解決される。
【0023】
又、上記インク塗布方法であって、好ましくは、1/400秒≦(T1+T2+T3)≦1/80秒であることを特徴とするインク塗布方法によって解決される。
【0024】
そして、上記インク塗布方法であって、インクは、例えば導電性塗料であることを特徴とするインク塗布方法によって解決される。導電性塗料の場合、導電性物質として各種のものが挙げられる。インクは、好ましくは、カーボンナノチューブ含有溶液である。更に好ましくは、カーボンナノチューブ及びフラーラン含有溶液である。前記カーボンナノチューブは、少なくとも50%以上がシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)である。
【0025】
又、上記インク塗布方法であって、インク吐出工程で吐出されるインク1滴の液量が、好ましくは、20〜100pLであることを特徴とするインク塗布方法によって解決される。
【0026】
又、上記インク塗布方法であって、インクが塗布される基板は、好ましくは、樹脂製であることを特徴とするインク塗布方法によって解決される。
【0027】
又、上記インク塗布方法であって、好ましくは、150℃以上の高温加熱処理工程を具備しないことを特徴とするインク塗布方法によって解決される。
【0028】
前記の課題は、上記インク塗布方法によって形成されてなることを特徴とする塗膜によって解決される。
【0029】
前記の課題は、上記インク塗布方法によって形成されてなることを特徴とする表面抵抗値が500Ω/□以下の塗膜によって解決される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、インク本来の機能からすれば不要な増粘剤を含有させなかった場合の如くに低粘度のインクを用いた場合、長時間(例えば、10分間以上)に亘って、連続して、安定的に、かつ、スムーズにインクジェット塗布を行うことが出来る。従って、インク本来の機能が奏されるようにとの目的で余分な成分を使用しなくて済む。このことは、インク本来の機能からして余分な成分を除去したい場合、余計な作業が不要となる。そして、コストがそれだけ嵩まないものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
第1の本発明はインク塗布方法である。このインク塗布方法は、作動時間(T1)のピエゾ素子作動によるインク室にインクが吸入されるインク吸入工程と、作動時間(T2)のピエゾ素子作動によるインク室からインクが吐出されるインク吐出工程と、インク吸入・吐出が実質上行われない待機時間(T3)の待機工程とを具備し、前記インク吸入工程と前記インク吐出工程と前記待機工程とを1サイクルとする繰り返しによるインクジェット方式でのインク塗布方法である。
【0032】
<インク>
本インク塗布方法に用いられるインクは、固体分散系インクである。この固体分散系インクは、25℃における粘度が0.5〜7mPa・sである。好ましくは、2mPa・s以上である。更に好ましくは、2.5mPa・s以上である。好ましくは、6.5mPa・s以下である。すなわち、このような低粘度なインクであるから、所謂、増粘剤は、実質上、用いられて無い。用いられるにしても少ない。つまり、インク本来の成分の割合が高いと言うことである。
【0033】
インクが導電性塗料である場合、その成分は、導電性物質と溶剤とが殆どである。導電性物質としては、好ましくは、カーボンナノチューブである。前記カーボンナノチューブは、少なくとも50%以上がシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)である。前記カーボンナノチューブは、導電性の観点から、カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものであることが好ましい。すなわち、カーボンナノチューブ同士が絡み合ったものであると、導電性が向上する。
【0034】
上記SWCNTは、その製法の如何は問われない。例えば、アーク放電法、化学気相法、レーザー蒸発法などの製法を用いて製造できる。但し、結晶性の観点から、アーク放電法によって得られたSWCNTが好ましい。このものは、入手も容易である。
【0035】
上記SWCNTは、好ましくは、酸処理を施したSWCNTである。酸処理とは、酸性液体とSWCNTとを接触させることである。例えば、SWCNTを酸性液体中に浸漬する処理である。或いは、SWCNTに酸性液体を噴霧する処理である。用いられる酸性液体には格別な制限は無い。無機酸や有機酸を適宜用いることが出来る。具体的には、例えば硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、及びこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、硝酸あるいは硝酸と硫酸の混合液である。そして、酸処理の条件は、温度が80℃〜100℃であることが好ましく、時間が1日〜7日間であることが好ましい。そして、斯かる酸処理によって、SWCNTと炭素微粒子とがアモルファスカーボンを介して物理的に結合している場合、アモルファスカーボンの分解によって、両者が分離する。又、SWCNT作製時に使用した金属触媒の微粒子が分解する。その結果、導電性が向上する。すなわち、酸処理した場合と、酸処理しなかった場合とを比べると、前者の方が導電性が向上していた。
【0036】
上記SWCNTは、濾過されたものであることが好ましい。すなわち、濾過によって、不純物が除去され、純度が向上し、導電性の低下や光透過率の低下が防止できたからである。濾過の方法には格別な制限は無い。例えば、吸引濾過、加圧濾過、クロスフロー濾過などを用いることが出来る。但し、好ましくは、スケールアップの観点から、中空糸膜を用いたクロスフロー濾過である。
【0037】
本インク塗布方法で用いられるSWCNT含有溶液はフラーレン(フラーレン類縁体も含まれる。)をも含有することが好ましい。それは、フラーレンを含まない導電膜に比べ、耐久性が向上したからである。用いられるフラーレンは如何なるものでも良い。例えば、C60,C70,C76,C78,C82,C84,C90,C96等が挙げられる。勿論、これ等の複数種のフラーレンの混合物でも良い。尚、分散性能からC60が特に好ましい。更に、C60は入手し易い。又、C60のみでは無く、C60と他の種類のフラーレン(例えば、C70)との混合物でも良い。又、フラーレンの内部に、適宜、金属原子を内包したものでも良い。尚、類縁体としては、水酸基、エポキシ基、エステル基、アミド基、スルホニル基、エーテル基など公知の官能基を含むものや、フェニル−C61−プロピル酸アルキルエステル、フェニル−C61−ブチル酸アルキルエステル、水素化フラーレン等が挙げられる。中でも、OH基(水酸基)を持つものは、特に、好ましい。それは、SWCNTを分散液として塗工する際の分散性が高いからである。尚、水酸基の量が少ないと、SWCNTの分散性向上度が低下する。逆に、多すぎると、合成が困難である。従って、水酸基の量はフラーレン1分子当り5〜30個であることが好ましい。特に、8〜15個であることが好ましい。フラーレンの添加量は、多すぎると、導電性が低下する。逆に、少なすぎると、効果が発生し難い。従って、フラーレン量は、好ましくは、SWCNT100質量部に対して、10〜1000質量部である。特に、好ましくは、SWCNT100質量部に対して、20〜500質量部である。
【0038】
本インク塗布方法で用いられるインクは、前記SWCNTやフラーレンの他に、溶媒を含有する。溶媒には格別な制限は無い。但し、沸点が200℃以下(好ましい下限値は25℃、更には30℃)の溶媒が好ましい。低沸点溶剤が好ましいのは、塗布後の乾燥が容易であるからによる。具体的には、水や、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどのアルコール化合物(特に、炭素数が7以下のアルコール、中でも脂肪族アルコール)、或いはこれ等の混合物が好ましい。それは、水酸基含有フラーレンの溶解性が高く、より高濃度のSWCNT分散液が得られるからである。そして、水の場合には、塗布後における溶媒(揮発成分)処理が不要であるから、特に好ましい。尚、他にも、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジオキサン等のエーテル系化合物、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン系炭化水素、及びこれらの混合物を用いることも出来る。SWCNTの分散性が劣る場合には、超音波照射を行うと、分散性が高まるので好ましい。
【0039】
本発明において、SWCNTで構成された導電塗布膜は、SWCNT同士が絡み合ったものである。これによって、SWCNT同士が接触したものとなり、特に、複数の箇所において接触したものとなり、導電性が良好なものになる。SWCNT同士が絡み合ったものか否かは、走査型電子顕微鏡で導電層表面を観察することで確認できる。
【0040】
<塗布方法>
上記本インク塗布方法における大きな特徴は、ピエゾ素子非作動(不作動)であるインク吸入・吐出が実質上行われない待機時間(T3)が、従来に比べて、非常に長いと言うことである。待機時間は、従来では、塗布が行われない時間であることから、無駄な時間であり、出来るだけ、短いものであった。ところが、本発明者による検討の結果、低粘度インクの場合、この待機時間が無駄な時間と言うことでは無く、この待機時間の長さが長時間に亘る連続・安定的塗布に大きな影響を与える因子であることが判ったのである。すなわち、待機時間に積極的な意味合いの有ることが判ったのである。そして、条件[T3≧50×(T1+T2)]が満たされた場合、長時間に亘る連続・安定的な塗布が行われた。好ましくは、条件[T3≧100×(T1+T2)]が満たされる場合であった。更に好ましくは、条件[T3≧200×(T1+T2)]が満たされる場合であった。もっと好ましくは、条件[T3≧235×(T1+T2)]が満たされる場合であった。すなわち、T3が長い方が長時間に亘る連続的な塗布が安定して行われたのである。
【0041】
さて、インク吸入工程におけるピエゾ素子作動時間(T1)やインク吐出工程におけるピエゾ素子作動時間(T2)は、インクジェット装置の能力によっても左右されるが、インクジェットノズルから吐出されるインク量によって実質上決まる時間である。ところで、上記条件[T3≧50×(T1+T2)][T3≧100×(T1+T2)][T3≧200×(T1+T2)][T3≧235×(T1+T2)]が満たされるのみであれば、時間(T3)を単に長くしたのみで良い。ところが、T3が長いと言うことは、塗布に長時間を要することになる。これでは、塗布が、結果的に、スムーズ(スピーディ)に行われないことになる。このような観点からの検討が更に進められた結果、条件[1/1000秒≦(T1+T2+T3)≦1/20秒]が満足されたならば良いことが判った。更に好ましい条件は[1/400秒≦(T1+T2+T3)≦1/80秒]であった。もっと好ましい条件は[1/300秒≦(T1+T2+T3)≦1/100秒]であった。
【0042】
本インク塗布方法は、インク吐出工程で吐出されるインク1滴の液量が、好ましくは、20〜100pLである。これは、少な過ぎた場合、繰り返しての塗布回数を多くせざるを得ないからである。逆に、多過ぎた場合、インク吐出後にインク室のインクの振動が長時間に亘って続き、安定した吐出が行われ難い。
【0043】
本インク塗布方法で用いられるインクが塗布される基板は各種のものが用いられる。樹脂、ガラス、金属等々である。しかしながら、インク本来の機能からすると不要な増粘剤などが用いられていないことから、これら、本来、不要な成分を除去する必要が無い。例えば、加熱処理によって除去する必要が無い。ということは、高温加熱(例えば、150℃以上の加熱)が不向きな樹脂の場合には本インク塗布方法が好都合と言うことになる。例えば、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂、PMMA等のアクリル(メタクリル)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂、アラミド樹脂、PS樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられた場合、本インク塗布方法は好適である。光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂なども用いることが出来る。これ等の基板は、表面に易塗布化処理、易接着処理、ハードコート処理などが施されていても良い。前記樹脂中には、無機フィラーなどの無機物や、可塑剤などが含有されていても良い。本インク塗布方法は、特に、基板がシート状(厚さが、例えば50μm〜10mm程度)またはフィルム状(厚さが、例えば1μm〜500μm程度)の場合に好適である。基板の幅・長さは任意である。
【0044】
<塗膜>
第2の本発明は上記インク塗布方法によって形成されてなる塗膜である。特に、表面抵抗値が500Ω/□以下の塗膜である。この塗膜の全光線透過率は80%以上であった。所謂、透明導電膜であった。
【0045】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を説明する。但し、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものでは無い。
【0046】
[実施例]
* 作動時間(T1)のピエゾ素子作動によるインク室にインクが吸入されるインク吸入工程と、作動時間(T2)のピエゾ素子作動によるインク室からインクが吐出されるインク吐出工程と、インク吸入・吐出が行われない待機時間(T3)の待機工程とを具備し、前記インク吸入工程と前記インク吐出工程と前記待機工程とを1サイクルとする繰り返しが採用された市販のインクジェット装置が用いられた。本インクジェット装置のノズルより1回に吐出されるインクの量(インク1滴の量)は42pLであった。
* 用いられたインクは、水、イソプロパノール混合溶媒であり、カーボンナノチューブ(SWCNT量90%以上)を200ppm〜2000ppm含有し、かつ、フラーレンを100〜5000ppm含有する。
【0047】
上記条件で導電性インクの塗布が行われたので、その結果が下記の表−1に示される。
表−1
粘度(mPa・s) 2.71 4.46 5.70 6.50
T1(μsec) 9.0 9.4 9.0 9.0
T2(μsec) 18.0 18.8 18.0 18.0
T1+T2(μsec) 27.0 28.2 27.0 27.0
T3/(T1+T2)
=400 ○ ○ ○ ○
=250 ○ ○ ○ ○
=200 ○ ○ ○
=100 × × ○ ○
=80 × × × ○
=60 × × × ○
=40 × × × ×
=20 × × × ×
=10 × × × ×
*表中、○印は、10分間以上に亘る連続塗布が出来た場合を示す。
×印は、10分以前の段階で塗布が出来なくなった場合を示す。
【0048】
表−1によれば、待機時間T3を本発明の如くに設定した場合、長時間に亘る連続塗布が安定して行われたことが判る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動時間(T1)のピエゾ素子作動によるインク室にインクが吸入されるインク吸入工程と、作動時間(T2)のピエゾ素子作動によるインク室からインクが吐出されるインク吐出工程と、インク吸入・吐出が実質上行われない待機時間(T3)の待機工程とを具備し、前記インク吸入工程と前記インク吐出工程と前記待機工程とを1サイクルとする繰り返しによるインクジェット方式でのインク塗布方法であって、
前記インクは、固体分散系インクであって、25℃における粘度が0.5〜7mPa・sであり、
1/1000秒≦(T1+T2+T3)≦1/20秒であって、
T3≧50×(T1+T2)である
ことを特徴とするインク塗布方法。
【請求項2】
T3≧100×(T1+T2)である
ことを特徴とする請求項1のインク塗布方法。
【請求項3】
T3≧200×(T1+T2)である
ことを特徴とする請求項1のインク塗布方法。
【請求項4】
T3≧235×(T1+T2)である
ことを特徴とする請求項1のインク塗布方法。
【請求項5】
作動時間(T1)のピエゾ素子作動によるインク室にインクが吸入されるインク吸入工程と、作動時間(T2)のピエゾ素子作動によるインク室からインクが吐出されるインク吐出工程と、インク吸入・吐出が実質上行われない待機時間(T3)の待機工程とを具備し、前記インク吸入工程と前記インク吐出工程と前記待機工程とを1サイクルとする繰り返しによるインクジェット方式でのインク塗布方法であって、
前記インクは、固体分散系インクであって、25℃における粘度が0.5〜7mPa・sであり、
1/1000秒≦(T1+T2+T3)≦1/20秒であって、
T3≧50×(T1+T2)であり、
かつ、T3は、10分間に亘る連続的なインク塗布が可能な長さの時間である
ことを特徴とするインク塗布方法。
【請求項6】
1/400秒≦(T1+T2+T3)≦1/80秒である
ことを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかのインク塗布方法。
【請求項7】
インクは導電性塗料である
ことを特徴とする請求項1〜請求項6いずれかのインク塗布方法。
【請求項8】
インクはカーボンナノチューブ含有溶液である
ことを特徴とする請求項1〜請求項7いずれかのインク塗布方法。
【請求項9】
インクはカーボンナノチューブ及びフラーラン含有溶液である
ことを特徴とする請求項1〜請求項7いずれかのインク塗布方法。
【請求項10】
カーボンナノチューブは、少なくとも50%以上がシングルウォールカーボンナノチューブである
ことを特徴とする請求項8又は請求項9のインク塗布方法。
【請求項11】
インク吐出工程で吐出されるインク1滴の液量が20〜100pLである
ことを特徴とする請求項1〜請求項10いずれかのインク塗布方法。
【請求項12】
インクが塗布される基板は樹脂製である
ことを特徴とする請求項1〜請求項11いずれかのインク塗布方法。
【請求項13】
150℃以上の高温加熱処理工程を具備しない
ことを特徴とする請求項1〜請求項12いずれかのインク塗布方法。
【請求項14】
請求項1〜請求項13いずれかのインク塗布方法によって形成されてなることを特徴とする塗膜。
【請求項15】
表面抵抗値が500Ω/□以下である
ことを特徴とする請求項14の塗膜。


【公開番号】特開2011−200793(P2011−200793A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70414(P2010−70414)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】