説明

インク組成物および印刷物

【課題】吐出安定性に優れるとともに、耐ガス性に優れた画像を容易に形成することができるインク組成物を提供すること、また、耐ガス性に優れた画像が形成された印刷物を提供すること。
【解決手段】本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるインク組成物であって、銀粒子と、糖と、を含み、糖は、単糖を45質量%以下含有し、かつ、4糖以上の糖を10質量%以上含有することを特徴とする。また、本発明のインク組成物は、糖の含有量は、5質量%以上であることが好ましい。また、本発明のインク組成物では、糖が、マルトシルトレハロースを含むことが好ましい。また、本発明のインク組成物は、多価アルコールをさらに含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物および印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の印刷に用いられるインクとしては、一般に、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのインクを用いて、いわゆるフルカラー画像を形成することが一般に行われている。そして、形成画像の高画質化を図る目的で、インクを多色化(例えば、上記4種のインクに加えて、ライトマゼンタ、ライトシアンのインクを含む6色)が行われている。
しかし、上記のような多色のインクを用いても、金属光沢を表現できないという問題がある。
【0003】
そこで、近年、色材として金属を用いたインクジェット用インク(金属インク)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1で提案されているインクでは、比較的良好な金属光沢が得られるものの、インクジェット装置から安定して吐出するのが困難であった。また、形成される画像の耐ガス性が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−297423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、吐出安定性に優れるとともに、耐ガス性に優れた画像を容易に形成することができるインク組成物を提供すること、また、耐ガス性に優れた画像が形成された印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるインク組成物であって、
銀粒子と、
糖と、を含有することを特徴とする、。
これにより、吐出安定性に優れるとともに、耐ガス性に優れた画像を容易に形成することができるインク組成物を提供することができる。
【0007】
本発明のインク組成物では、複数種の糖を含有することが好ましい。
これにより、吐出安定性を優れたものとしつつ、形成する画像の耐ガス性をより優れたものとすることができる。
本発明のインク組成物では、前記糖は、4糖以上の糖であることが好ましい。
これにより、吐出安定性を優れたものとしつつ、形成する画像の耐ガス性を特に優れたものとすることができる。
【0008】
本発明のインク組成物では、単糖と2糖以上の糖とを含有することが好ましい。
これにより、吐出安定性を優れたものとしつつ、形成する画像の耐ガス性を特に優れたものとすることができる。
本発明のインク組成物では、単糖と4糖以上の糖とを含有することが好ましい。
これにより、吐出安定性を優れたものとしつつ、形成する画像の耐ガス性を特に優れたものとすることができる。
【0009】
本発明のインク組成物では、単糖を45質量%以下含有し、かつ、4糖以上の糖を10質量%以上含有することが好ましい。
これにより、吐出安定性を優れたものとしつつ、形成する画像の耐ガス性を特に優れたものとすることができる。
本発明のインク組成物では、前記糖の含有量は、5質量%以上であることが好ましい。
これにより、吐出安定性を優れたものとしつつ、形成する画像の耐ガス性を特に優れたものとすることができる。
【0010】
本発明のインク組成物では、前記糖は、トレハロース誘導体であって4糖類であることが好ましい。
これにより、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができる。
本発明のインク組成物では、前記糖は、マルトシルトレハロースを含むことが好ましい。
これにより、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができる。
【0011】
本発明の印刷物は、印刷媒体上に、本発明のインク組成物をインクジェット法により付与することにより得られたことを特徴とする。
これにより、優れた耐ガス性を有する画像が形成された印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《インク組成物》
本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるものである。
本発明のインク組成物は、少なくとも、銀粒子と、糖とを含むものである。
ところで、従来より、色材として金属を用いたインクジェット用インクは知られている。しかしながら、従来のインクでは、比較的良好な金属光沢が得られるものの、インクジェット装置から安定して吐出するのが困難であった。また、形成される画像の耐ガス性が低いという問題があった。
【0014】
そこで、本発明者らは、このような問題に鑑み、鋭意検討した結果、銀粒子と、糖とを含有するインク組成物を用いることで上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のインク組成物は、銀粒子と、糖とを含む点に特徴を有し、これにより、吐出安定性に優れるとともに、優れた耐ガス性を有する画像を容易に形成することができるものである。特に、上記のような糖を含むことで、インクの吐出部付近でのインクの乾燥を効果的に抑制することができ、インクの目詰まりを防止することができる。また、上記のような成分組成の糖は、吸湿性が低いことから、形成した画像中において、水分により銀がイオン化するのを防止することができ、銀イオンと酸素やオゾン等のガスとの化学反応を防止することができる。その結果、画像の耐ガス性を優れたものとすることができる。
【0015】
以下、各成分について詳細に説明する。
[銀粒子]
上述したように、本発明に係るインク組成物は、銀粒子を含むものである。このように、インク組成物が、銀粒子を含むものであることにより、特に優れた光輝性(金属光沢)を有する画像を形成することができる。また、銀は、各種金属の中でも、白色度の高い金属であるため、他色のインクと重ね合わせることにより、金色、銅色等の様々な金属色を表現することができる。
【0016】
銀粒子の平均粒径は、5nm以上100nm以下であるのが好ましく、20nm以上65nm以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。また、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を特に優れたものとすることができるとともに、耐擦性により優れたものとすることができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
また、銀粒子は、体積基準の粒径が150nm以下の粒子を0.1質量%以上含有しないことが好ましい。これにより、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)及び銀粒子の沈降の防止を特に優れたものとすることができる。
【0017】
また、銀粒子の粒径加積曲線における平均粒径d90は、10nm以上100nm以下であるのが好ましい。これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光輝性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0018】
また、銀粒子の粒径加積曲線における平均粒径d10は、2nm以上20nm以下であるのが好ましい。これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光輝性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0019】
インク組成物中における銀粒子の含有率は、0.5質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上15質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インク組成物のインクジェット方式による吐出安定性、インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができる。また、印刷物とされたときの印刷媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合まで、広い密度の範囲で、良好な画質、耐擦性を実現することができる。このため、例えば、インク組成物を用いて得られる印刷物が、銀粒子の密度が異なる領域を有する場合であっても、印刷物の画質を優れたものとすることができる。
銀粒子は、いかなる方法で調製されたものであってもよく、例えば、銀イオンを含む溶液を用意し、この銀イオンを還元ずることにより、好適に形成することができる。
【0020】
[糖]
本発明のインク組成物は、糖を含有している。糖を含むことにより、後述するような液滴吐出装置のノズル付近でのインク組成物の不本意な乾燥(分散媒の蒸発)を抑制することができ、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、形成する画像の耐ガス性を優れたものとすることができる。
【0021】
糖の種類は特に限定されないが、4糖以上の糖であると一層好ましく、インク組成物の不本意な乾燥(分散媒の蒸発)を抑制することができ、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、形成する画像の耐ガス性を優れたものとすることができる。
また、複数種の糖を含有していると好ましく、さらに好ましくは単糖と2糖以上の糖とを含有していることであり、最も好ましくは単糖と4糖以上の糖とを含有していることである。
単糖と4糖以上の糖とを含有している場合に、単糖を45質量%以下含有し、かつ、4糖以上の糖を10質量%以上含有していると好ましく、より好ましくは単糖が7質量%以下であり、4糖以上の糖が70質量%以上である。
【0022】
糖としては、単糖、多糖が挙げられ、具体的にはグルコース、リボース、マンニトール、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などがあげられる。ここで、多糖とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖の誘導体としては、前記した糖の還元糖[(例えば、糖アルコール(一般式HOCH(CHOH)CHOH(ここで、n=2〜5の整数を表す)で表される]、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖などがあげられる。
また、糖としては複数の糖を含有する混合糖を用いてもよい。市販品の混合糖(シラップ)としては、例えば、HS−20、HS−30、HS−40、HS−60、HS−300、HS−500等の還元澱粉糖化物(以上、林原社の商品名)や、ハローデックス、マビット(以下、両者とも林原社の商品名)等が挙げられる。
【0023】
また、本発明のインク組成物に含まれる糖は、トレハロース誘導体であって4糖類であるものが好ましく、より好ましくはマルトシルトレハロースを含んでいるのが好ましい。マルトシルトレハロースは、トレハロースの4位水酸基にマルトースが結合した非還元性の四糖類であり、このような成分を含むことにより、吸湿性が特に低く、形成する画像の耐ガス性を特に優れたものとすることができる。このようなマルトシルトレハロースを含む糖としては、例えば、上述したハローデックス(林原社の商品名)が挙げられる。
【0024】
また、本発明のインク組成物に含まれる糖の全体の含有量は、45質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上25質量%以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下であり、最も好ましくは5質量%以上15質量%以下である。 これにより、吐出安定性を優れたものとしつつ、耐ガス性を特に優れたものとすることができる。
【0025】
[水]
本発明のインク組成物は、水を50%以上含有する、いわゆる水系インクであってもよい。水系インクは、非水系(溶剤系)インクに比べて、記録ヘッドに用いられているピエゾ素子等や、記録媒体に含まれる有機バインダー等への反応性が弱く、溶かしてしまう、腐食するといった不具合が少ない。また、非水系(溶剤系)インクでは、用いた溶剤が高沸点・低粘度であると、乾燥時間が非常にかかるという問題も生ずる。さらに、溶剤系インクに比べて水系インクは臭いも非常に抑えられており、半分以上が水であるので環境にも良いという利点がある。なお、水としては、イオン交換水、逆浸透水、蒸留水、超純水等が挙げられる。なお、本発明のインク組成物は、必ずしも水を含有する必要はない。
インク組成物中における水の含有率は、特に限定されないが、20質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、25質量%以上70質量%以下であるのがより好ましい。
【0026】
[多価アルコール]
本発明のインク組成物は、上記成分の他、多価アルコールを含有していてもよい。多価アルコールは、本発明のインク組成物をインクジェット式記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を抑制し、インクジェット式記録ヘッド部分におけるインクによる目詰まりを防止することができる。
【0027】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールが好ましく、炭素数が6以上8以下のアルカンジオールがより好ましい。また、上記の多価アルコールの中でも、インク組成物は、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンを含むものであるのが好ましい。これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性を特に優れたものとすることができ、インクの保存安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
インク組成物中における多価アルコールの含有率は、特に限定されないが、0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0028】
[グリコールエーテル]
本発明のインク組成物は、グリコールエーテルを含有していてもよい。
グリコールエーテルを含有することにより、印刷媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いると良好な記録品質を得ることができる。インク中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0029】
[ワックス]
本発明に係るインク組成物は、ワックスを含んでいてもよい。これにより、吐出安定性を優れたものとすることができるとともに、形成される画像の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
インク組成物中におけるワックスの含有率は、0.02質量%以上1.5質量%以下であるのが好ましく、0.04質量%以上1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.08質量%以上0.6質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0030】
ワックスとしては、例えば、パラフィン混合ワックス、酸化高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンワックス、ポリエチレン系混合ワックス、カルナバワックス、アマイドワックス等の樹脂ワックスを用いることができるが、ワックスは、パラフィン混合ワックスで構成されたものであるのが好ましい。これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(金属光沢)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0031】
市販のワックス粒子分散液(エマルションワックス)としては、例えば、AQUACER507(ビックケミー社製)、AQUACER515(ビックケミー社製)、AQUACER531(ビックケミー社製)、AQUACER537(ビックケミー社製)、AQUACER539(ビックケミー社製)、CERAFLOUR990(ビックケミー社製)、CERAFLOUR995(ビックケミー社製)等が挙げられる。
【0032】
[界面活性剤]
本発明に係るインク組成物は、アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、印刷媒体などの被印刷面への濡れ性を高めてインク組成物の浸透性を高めることができる。
【0033】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0034】
ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えば、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社製)などが挙げられる。
さらに、本発明に係るインク組成物は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのその他の界面活性剤を含有することもできる。
インク組成物中における上記界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0035】
[その他の成分]
本発明のインク組成物は、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、水酸化カリウム水溶液などのpH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤、チオ尿素、防腐剤、ヘッド防錆剤、増粘剤等が挙げられる。
【0036】
インク組成物が銀粒子以外の固形分(以下「その他の固形分」ともいう)を含む場合、インク組成物中におけるその他の固形分の含有率は、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましい。
インク組成物中における固形分の含有率は、50質量%以下であるのが好ましく、3.6質量%以上40質量%以下であるのがより好ましく、12質量%以上27質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、インク組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0037】
また、インク組成物の粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、3.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を優れたものとすることができるとともに、印刷媒体に着弾したインク組成物の不本意な濡れ広がりをより確実に防止することができ、微細な画像であっても好適に形成することができる。
【0038】
《印刷物》
本発明の印刷物は、印刷媒体上に、上述したようなインク組成物をインクジェット法により付与することにより得られたものである。これにより、優れた耐ガス性を有する画像が形成された印刷物を提供することができる。また、高い光輝性を有する画像を備えた印刷物を提供することができる。
インク組成物が付与される印刷媒体としては、普通紙、インク受理層等を有する専用紙等の紙のほか、例えば、インク組成物が付与される表面を含む領域が、各種プラスチック、セラミックス、ガラス、金属や、これらの複合材料で構成された基材等を用いることができる。
【0039】
《印刷物の製造方法》
図1は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図である。
本実施形態の印刷物の製造方法は、図1に示すようなインクジェット装置(液滴吐出装置)を用いて、上述したようなインク組成物を印刷媒体に向けて吐出する工程(液滴吐出工程)を有する。
【0040】
(吐出工程)
以下に、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター1を用いた液滴吐出について説明する。
図1に示すように、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター1は、フレーム2を有している。フレーム2には、プラテン3が設けられ、プラテン3上には、紙送りモーター4の駆動により印刷媒体Pが給送されるようになっている。また、フレーム2には、プラテン3の長手方向と平行に、棒状のガイド部材5が設けられている。
【0041】
ガイド部材5には、キャリッジ6がガイド部材5の軸線方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ6は、フレーム2内に設けられたタイミングベルト7を介して、キャリッジモーター8に連結されている。そして、キャリッジ6は、キャリッジモーター8の駆動により、ガイド部材5に沿って往復移動されるようになっている。
キャリッジ6には、液滴吐出ヘッド9が設けられるとともに、液滴吐出ヘッド9に液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ10が着脱可能に配置されている。インクカートリッジ10内のインクは、液滴吐出ヘッド9に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ10から印刷ヘッド9へと供給され、液滴吐出ヘッド9のノズル形成面に形成された複数のノズルから、プラテン3上に給送された印刷媒体(基材)Pに対して吐出されるようになっている。
これにより印刷物を製造することが可能となる。
【0042】
(加熱工程)
印刷物の製造方法においては、上述した吐出工程に加え、インク組成物が付与された印刷媒体を過熱する加熱工程を設けてもよい。
本発明に係るインク組成物は、上述したように、分散媒として水を含むものであり、吐出後速やかに乾燥するため、通常、吐出工程の後に、別途、乾燥工程を設ける必要はないが、加熱工程を設けることにより、印刷媒体が保水性の高いものである場合や、インク組成物が揮発性の低い液体成分を比較的高い含有率で含む場合(例えば、沸点:160℃以上の液体成分を3質量%以上含む場合等)であっても、最終的に得られる印刷物中に、インク組成物を構成する液体成分が残存することを効果的に防止することができ、印刷物の耐ガス性、信頼性を、特に優れたものとすることができる。
【0043】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、インク組成物として、コロイド液を用いる場合について代表的に説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、例えば、前述した実施形態では、液滴吐出方式としてピエゾ方式を用いたが、これに限定されず、本発明では、例えば、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。
また、前述した実施形態では、インク組成物をインクジェット方式による吐出に用いるものとして説明したが、インク組成物は、他の印刷法に適用するものであってもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インク組成物の調製
(実施例1)
ポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量10000)を70℃の条件下で15時間加熱して、その後室温で冷却をした。そのPVP1000gを、エチレングリコール溶液500mlに添加してPVP溶液を調整した。別の容器にエチレングリコールを500ml入れ、硝酸銀128gを加えて電磁攪拌器で十分に攪拌をして硝酸銀溶液を調整した。PVP溶液を120℃の条件下でオーバーヘッドミキサーを用いて攪拌しつつ、硝酸銀溶液を添加して約80分間加熱して反応を進行させた。そして、その後室温で冷却をさせた。得られた溶液を遠心分離機で2200rpmの条件下で10分間遠心分離を行った。その後、分離が出来た銀粒子を取り出して、余分なPVPを除去するためエタノール溶液500mlに添加した。そして、さらに遠心分離を行い、銀粒子を取り出した。さらに、取り出した銀粒子を真空乾燥機で35℃、1.3Paの条件下で乾燥させた。
上記によって製造された銀粒子と、ハローデックス(林原社製)と、1,2−ヘキサンジオールと、トリエタノールアミンと、エマルションワックス(AQUACER539(ビックケミー社製))と、オルフィンE1010(日信化学工業社製)と、イオン交換水とを混合することにより、インク組成物とした。
【0045】
(実施例2〜11)
インク組成物の調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。
(比較例1〜7)
インク組成物の調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。
【0046】
表1には、前記各実施例および比較例のインク組成物の構成を示す。なお、表1中、オルフィンE1010をE1010、ハローデックスをHAL、HS−30(還元澱粉糖化物、林原社製)をHS30、HS−60(還元澱粉糖化物、林原社製)をHS60、HS−20(還元澱粉糖化物、林原社製)をHS20、HS−500(還元澱粉糖化物、林原社製)をHS500、トリメチロールプロパンをTMP、トリエタノールアミンをTEA、1,2−ヘキサンジオールをHD、ポリエチレングリコール200をPEG200、ポリエチレングリコール1000をPEG1000、ポリエチレングリコール2000をPEG2000で示した。また、前記各実施例についてのインク組成物の粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下の範囲内の値であった。
また、銀粒子の平均粒径は「マイクロトラックUPA」(日機装株式会社製)を用いて測定を行い、測定条件は、屈折率を0.2−3.9i、溶媒(水)の屈折率を1.333、測定粒子形状を球形、としたところ平均粒経は45nmであった。
【0047】
【表1】

【0048】
[2]印刷物の製造
前記各実施例および比較例について、インク組成物を用いて、以下のようにして、印刷物を製造した。
まず、印刷媒体としてのインクジェット用専用紙(写真用紙):写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)を用意した。
【0049】
この印刷媒体のインク受理層が設けられた面側に、PX−G930(セイコーエプソン社製)を用いて、duty:40%の所定のパターンでインク組成物を付与した。これにより、印刷物が得られた。なお、本明細書において、「duty」とは、下式で算出される値である。
duty(%)=実印刷ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印刷ドット数」は単位面積当たりの実印刷ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0050】
[3]評価
[3.1]ヘッド目詰まり評価
PX−G930(セイコーエプソン社製)に前記各実施例および各比較例のインク組成物を充填し、以下の基準に従い評価した。
A:常温で1ヶ月以上放置したが、目詰まりノズル無し。
B:常温での2週間の放置で目詰まりが発生したが、クリーニングで回復した。
C:常温での1週間の放置で目詰まりが発生したが、クリーニングで回復した。
D:常温での3日間の放置で目詰まりが発生し、クリーニングでも回復しなかった。
[3.2]光沢度(初期値)
前記各実施例および各比較例に係る印刷物の形成直後の印刷面について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、60度正反射光沢度(初期値)を測定した。
【0051】
[3.3]耐ガス性評価
耐ガス性試験は、「オゾンウェザーメーターOMS−H型」(商品名、スガ試験機株式会社製)を用い、温度が23.0℃、湿度が50%RH、およびオゾン濃度5ppmの条件下で上記各実施例および各比較例の印刷物を16時間オゾンに暴露することにより行った。
オゾン暴露後の印刷物における60度正反射光沢度を光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用いて測定し、上記初期値からの降下率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0052】
A :降下率が8%未満
B :降下率が8%以上16%未満
C :降下率が16%以上26%未満
D :降下率が26%以上
これらの結果を表2に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から明らかなように、本発明に係るインク組成物は、吐出安定性に優れ、目詰まりの発生についても良好であった。また、本発明に係るインクを用いて得られた印刷物では、耐ガス性に優れていた。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0055】
1…インクジェット式プリンター(プリンター) 2…フレーム 3…プラテン 4…紙送りモーター 5…ガイド部材 6…キャリッジ 7…タイミングベルト 8…キャリッジモーター 9…液滴吐出ヘッド(印刷ヘッド) 10…インクカートリッジ P…印刷媒体(基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により吐出されるインク組成物であって、
銀粒子と、
糖と、を含有することを特徴とする、インク組成物。
【請求項2】
複数種の糖を含有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記糖は、4糖以上の糖である請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
単糖と2糖以上の糖とを含有する請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
単糖と4糖以上の糖とを含有する請求項1ないし4のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項6】
単糖を45質量%以下含有し、かつ、4糖以上の糖を10質量%以上含有する請求項5に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記糖の含有量は、5質量%以上である請求項1ないし6のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項8】
前記糖は、トレハロース誘導体であって4糖類である請求項1ないし7のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項9】
前記糖は、マルトシルトレハロースを含む請求項8に記載のインク組成物。
【請求項10】
印刷媒体上に、請求項1ないし9のいずれかに記載のインク組成物をインクジェット法により付与することにより得られたことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162593(P2012−162593A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21714(P2011−21714)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】