説明

インク組成物及びこれを用いた記録方法、記録物

【課題】種々の記録媒体に対して高い印字品質を有し、さらに印字安定性等の信頼性に優れたインク組成物及びこれを用いた記録方法、記録物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、水と着色剤と下記一般式(1)に示す化合物とを含んでなるインク組成物であって、該着色剤が分散剤なしに水に分散及び/または溶解が可能な自己分散型顔料であることを特徴とするインク組成物及びこれを用いた記録方法、記録物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク組成物並びにこれを用いた記録方法及び記録物に関する。さらに詳しくは、印字安定性等の信頼性に優れたインク組成物、インクジェット記録方法及び記録物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。インクとしては、一般に各種の水溶性染料を水または水と水溶性有機溶剤とに溶解させたものが使用されている。このような水溶性染料を含むインクにより形成された画像は耐水性や耐光性に劣ることが一般に指摘されている。
【0003】
これに対して、顔料を水性媒体に分散させて得られたインクは、耐水性及び耐光性に優れる。例えば、顔料を界面活性剤や高分子分散剤で分散した水性顔料インクが提案されている。しかしながらこれらのインクでは、記録物の印字濃度を上げる為に着色剤のインク含有量を増やすと、それに伴いインク粘度も急激に増加してしまう場合があった。また、インク中に安定に顔料を分散させるためには過剰の界面活性剤または高分子分散剤が必要であり、気泡発生や消泡性低下を原因とする印字安定性の悪化を引き起こす場合があった。また、記録物の定着性を上げる為に、記録媒体に対して結着性効果のある樹脂粒子をインク組成物に添加した場合にも、同様に印字安定性の悪化を引き起こす場合があった。
【0004】
これらの課題を解決するために、顔料表面に一定量以上の親水性基あるいはその塩を導入して、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤がなくても、単独で水系溶媒に分散させることができる自己分散型顔料分散液が開示されている(特許文献1参照)。また、消泡剤添加(例えば、特許文献2、3等参照)や、エーテル類の添加(例えば、特許文献4参照)等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−195360号公報
【特許文献2】特開平6−228481号公報
【特許文献3】特開2002−256187号公報
【特許文献4】特開平9−31379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すインク組成物は、印字安定性をある程度改善するが十分なレベルではなく、消泡剤添加の顔料インク組成物は、保存安定性や乾燥後の再分散性が悪く、また表面張力が下がりすぎることによる印字安定性の劣化が確認される場合があり、またエーテル類の添加では十分な消泡効果が得られず印字安定性を十分に満足することができない等の課題があり、依然として、更に優れた印字安定性が求められている。
【0007】
従って、本発明の目的とするところは、種々の記録媒体、特に普通紙に対して高い印字品質を有し、さらに印字安定性等の信頼性に優れたインク組成物及びこれを用いた記録方法、記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、少なくとも、水と自己分散型顔料と特定の化合物とを含んでなることを特徴とするインク組成物が、前記課題を解決し得るとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づくものであり、本発明の構成は以下の通りである。
【0009】
(1)少なくとも、水と着色剤と下記一般式(1)に示す化合物とを含んでなるインク組成物であって、該着色剤が分散剤なしに水に分散及び/または溶解が可能な自己分散型顔料であることを特徴とするインク組成物。
【0010】
【化1】

式中、Rは2価の有機基を、POはプロピレンオキシ基を、EOはエチレンオキシ基を表し、x、y、a、bはそれぞれ繰り返し単位数であって、xは1〜200の数を、yは1〜50の数を、aは1〜30の数を、bは0〜20の数を表す。
【0011】
(2)前記一般式(1)に示す化合物における、EOとSiのモル%比(EO/Si)が0.1〜1.5であることを特徴とする、(1)に記載のインク組成物。
【0012】
(3)前記顔料が、その表面にカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びスルホン基から選ばれる少なくとも1種の官能基またはその塩が結合するような表面処理によって、分散剤なしに水に分散及び/または溶解が可能な自己分散型顔料であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のインク組成物。
【0013】
(4)前記顔料が、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理された自己分散型顔料であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか一項に記載のインク組成物。
【0014】
(5)前記一般式(1)に示す化合物が、インク組成物全量に対して、0.0001重量%〜0.1重量%含まれることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか一項に記載のインク組成物。
【0015】
(6)さらに、樹脂微粒子を含むことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか一項に記載のインク組成物。
【0016】
(7)前記樹脂微粒子が、不飽和単量体の乳化重合によって得られたエマルジョンの形態で配合されることを特徴とする、(6)に記載のインク組成物。
【0017】
(8)インクジェット記録方式に用いられることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれか一項に記載のインク組成物。
【0018】
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載のインク組成物を記録媒体に付着させて印字を行う記録方法。
【0019】
(10)(1)〜(8)のいずれかに記載のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うことを特徴とする記録方法。
【0020】
(11)(9)または(10)に記載の記録方法によって記録が行われた記録物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のインク組成物を、その好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明のインク組成物は、少なくとも、水と着色剤と下記一般式(1)に示す化合物とを含んでなり、該着色剤が分散剤なしに水に分散及び/または溶解が可能な自己分散型顔料であることを特徴とする。
【0023】
【化2】

式中、Rは2価の有機基を、POはプロピレンオキシ基を、EOはエチレンオキシ基を表し、x、y、a、bはそれぞれ繰り返し単位数であって、xは1〜200の数を、yは1〜50の数を、aは1〜30の数を、bは0〜20の数を表す。
【0024】
以下、各構成要素について詳細に説明する。
[特定の変性シロキサン化合物]
本発明におけるインク組成物は、下記一般式(1)に示す化合物を含む。
【0025】
【化3】

式中のRは、2価の有機基であれば特に限定されず、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、ヘテロ原子を含む有機基であってもよい。その中でも炭素数1〜10のアルキレン基が好ましい。また、−Si(CH32−O−成分および側鎖基(PO)b−(EO)a−R−を有するシロキサン成分は、上記式(1)で示す化合物の分子中において、存在の順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい。また、上記側鎖基において、EOおよびPOは、存在の順序は問わず、ランダムであってもブロックであってもよい。また、上記式(1)で示す化合物において、EO付加モル数は、特に限定されないが、3モル以上が好ましく、より好ましくは14モル以上であり、さらに好ましくは20モル以上である。また、上記式(1)で示す化合物において、EOとSiのモル%比(EO/Si)は、特に限定されないが、0.1〜5.0が好ましく、より好ましくは0.1〜3.0であり、さらに好ましくは0.4〜1.5である。上記の範囲にあれば、本発明の水性インクの印字安定性がさらに向上する。また、上記式(1)で示す化合物の分子量としては、特に限定されないが、平均分子量として200〜200,000が好ましく、より好ましくは500〜20,000であり、さらに好ましくは1000〜10,000である。また、上記式(1)で示す化合物のHLB値としては、特に限定されないが、13以下が好ましく、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは3〜8である。
【0026】
上記式(1)で示す化合物の具体的な製品名としては、例えば、SH−3771M、SH−3772M、SH−3773M、SH−3775M、SH−3719(以上いずれも東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、KF−6017、KF−6028、KF−352A(以上いずれも信越化学工業株式会社製)、FormBanMS−500、FormBanMS−525、FormBanMS−550、FormBanMS−575(以上いずれもUltra Addives Inc.製)等を挙げることができる。
【0027】
上記式(1)で示す化合物は、インクジェット用インク組成物として、信頼性(目詰まりや印字安定性等)をより有効に得る観点から0.0001重量%〜0.1重量%の範囲で本発明のインク組成物中に含有されることが好ましく、より好ましくは0.0004重量%〜0.05重量%の範囲である。
【0028】
[着色剤]
本発明の着色剤としては、「染料便覧」(出版元;丸善株式会社)、「カラーインデックス」(出版元;The Society Of Dyes and Colourists)等に記載の既存の顔料を用いることができる。
【0029】
本発明に用いることができる顔料としては、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラック等の顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系等の顔料が例示できる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号等の有機顔料や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料が挙げられ、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,150,153,155,174,180,198、C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127,146,177,184,202,209、C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38、C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16、C.I.ピグメントブラック1,7等がある。
【0030】
さらに、本発明に用いることができる顔料が、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料であることが好ましい。
【0031】
自己分散型顔料とは、顔料表面に多数の親水性官能基および/またはその塩(以下「分散性付与基」ともいう。)を、直接的またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解することが可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な最小粒子径で安定に存在している状態をいい、「分散可能な最小粒子径」とは、分散時間を増してもそれ以上小さくならない顔料の粒子径をいう。
【0032】
前記自己分散型顔料を着色剤として含有するインクは、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く印字安定性に優れるインクが調製しやすい。また分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり印字濃度を十分に高めることが可能になる等取り扱いが容易である。
【0033】
前記自己分散型顔料の表面に結合される分散性付与基としては、−COOH、−CO、−OH、−SO3H、−PO32及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩が例示できる。また前記自己分散型顔料の原料となる顔料としては、例えば前述のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)やカラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラック等の顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系等の顔料が例示できる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号等の有機顔料や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料を用いることも出来る。
【0034】
前記自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、前記分散性付与基または前記分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0035】
本発明においては、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料が、高発色という点で好ましい。
【0036】
また、前記自己分散型顔料としては市販品を利用することも可能であり、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)等が例示できる。
【0037】
前述のような本発明のインク組成物に含まれる着色剤は、0.5重量%〜15重量%の範囲で含有される。含有量が0.5重量%未満では印字濃度(OD値)が不充分である場合があり、また15重量%よりも大きいとノズルの目詰まりや、吐出の不安定を起こす等の信頼性に不具合が生じる場合がある。
【0038】
[樹脂微粒子]
本発明におけるインク組成物は、印刷画像の定着性を向上させる目的で、樹脂微粒子を含むことができる。この樹脂微粒子としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されても良く、またコポリマーして使用されても良く、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できる。
【0039】
さらに、本発明に用いられる樹脂微粒子は、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂微粒子のエマルジョン(例えば、いわゆる「アクリルエマルジョン」)の形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。また、エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルジョンが好ましい。
【0040】
樹脂微粒子のエマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0041】
不飽和単量体としては、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、及び酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N'−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0042】
また、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体も使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0043】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0044】
本発明において、樹脂微粒子は、微粒子粉末としてインク組成物の他の成分と混合されてもよいが、好ましくは樹脂微粒子を水媒体に分散させ、エマルジョン(ポリマーエマルジョン)の形態とした後、インク組成物の他の成分と混合されるのが好ましい。
【0045】
本発明において、樹脂微粒子は、インク組成物のインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや印字安定性等)、記録物の印字品質(OD値)、定着性等をより有効に得る観点から1重量%〜10重量%の範囲で本発明のインク組成物中に含有されることが、好ましい。
【0046】
一方、本発明に使用される樹脂微粒子の平均粒子径は、インク組成物中における分散安定性、記録物の印字品質を更に向上させることができるという観点から、その平均粒子径が50nm〜250nmであることが好ましい。尚、これらの平均粒子径は、Microtrac UPA150(Microtrac社製)や粒度分布測定機LPA3100(大塚電子(株)製)等の粒径測定によって、得ることができる。
【0047】
[水]
さらに、本発明のインク組成物に含有される水は主溶媒であり、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。
【0048】
また、本発明のインク組成物は水溶性有機化合物を含有することが好ましい。水溶性有機化合物としては、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレンフリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等の多価アルコール類、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、尿素類等のいわゆる固体湿潤剤、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができ、これらの水溶性有機溶剤は、インク組成物の適正な物性値(粘度等)の確保、印字品質、信頼性の確保という観点で、インク組成物中に10重量%〜50重量%含まれることが好ましい。
【0049】
さらに、本発明の水性インク組成物には必要に応じて、pH調整剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することが出来る。
【0050】
pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアミン類等を用いることが出来る。また、必要に応じて、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等をpH緩衝剤として用いることが出来る。
【0051】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を含有することができる。発泡・起泡の少ないインク組成物を得るという観点からノニオン性界面活性剤が特に好ましい。ノニオン性界面活性剤のさらなる具体例として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコン系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。上記ノニオン性界面活性剤の中でも特にアセチレングリコール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤が発泡も少なく、また優れた消泡性能を有する点で好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の更なる具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどが挙げられるが、市販品で入手も可能で、例えば、エアープロダクツ社のサーフィノール104、82、465、485、TGや日信化学社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010等が挙げられる。
【0052】
酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024など、あるいはランタニドの酸化物等が用いられる。
【0053】
防腐剤・防かび剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(Avecia社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
【0054】
本発明のインク組成物の諸物性は適宜制御することができるが、好ましい態様によれば、インク組成物の粘度は20℃環境において、10mPa・秒であることが好ましく、より好ましくは5mPa・秒以下である。この粘度範囲のインク組成物であれば、インクを安定に吐出することができるので好ましい。また、インク組成物の表面張力も適宜制御することができるが、20℃環境において、25mN/m〜50mN/mであるのが好ましく、より好ましくは30mN/m〜40mN/mである。
【0055】
本発明のインク組成物は、下記一般式(1)に示す化合物や前述の界面活性剤や水溶性有機溶剤を添加した場合、添加後の各物性値が安定化する迄に時間を要する場合がある。このような場合、必要に応じてインクに加熱等のエージング処理を実施しても良い。
【0056】
【化4】

【0057】
このようなエージング処理を実施する場合の加熱温度は周辺環境(20℃)以上で100℃以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは40℃以上90℃以下である。エージング処理を実施する時間は数分程度から数日程度の範囲であることが好ましく、より好ましくは1時間以上24時間以下の範囲である。但し、このようなエージングの処理条件は使用する顔料や樹脂の種類によっても異なる為、必要な効果が得られれば、エージング処理条件は特に限定しない。
【0058】
本発明のインク組成物はペン等の筆記具類、スタンプ等に好適に使用することができるが、インクジェット記録用インク組成物としてさらに好適に使用できる。本発明においてインクジェット記録方式とは、インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方式を意味する。具体的に以下に説明する。
【0059】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0060】
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0061】
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0062】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0063】
以上のいずれの方式も本発明のインクを用いたインクジェット記録方法に使用することができる。
【0064】
本発明の記録物は、少なくとも上記インク組成物を用いて記録が行われたものである。この記録物は、本発明のインクを用いることにより十分な画像濃度が得られ、優れた印字品質を示す。
【0065】
本発明のインクジェット記録装置は、インクの液滴を吐出し、前記液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録装置であって、インクとして上記構成のインク組成物を少なくとも用いるものである。本発明においては、上述のインクジェット記録方式のいずれを採用した記録装置であっても使用することができる。
【0066】
<実施例>
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
[自己分散型顔料の調製]
(顔料分散液1の調製) 市販のカーボンブラックであるカラーブラックS170(商品名:デグサ・ヒュルス社製)100gを水1kgに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度 12%)1400gを滴下して、ボールミルで粉砕しながら5時間反応させ、さらに攪拌しながら4時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維ろ紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで濃縮して顔料分散液1を調製した。
【0068】
(顔料分散液2の調製)
市販のカーボンブラックであるMA8(商品名:三菱化学社製)100gを水500gに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度 12%)500gを滴下して、攪拌しながら10時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで濃縮して顔料分散液2を調製した。
【0069】
(顔料分散液3の調製)
市販のカーボンブラックである#47(商品名:三菱化学社製)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置のついた3リットルのガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8重量%のオゾン含有ガスを500cc/分で導入した。この際、オゾン発生器はペルメレックス電極社の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、顔料分散液3を調製した。
【0070】
(顔料分散液4)
キャボット社から市販されている商品名「CAB−O−JET300」を用いた。
【0071】
[樹脂微粒子の調製]
樹脂粒子を分散粒子とする樹脂分散液(エマルジョン)を下記の方法によって調製した。
【0072】
(エマルジョン1の調整)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン130g、2−エチルへキシルアクリレート780g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。このエマルジョンの平均粒径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、80nmであった。
【0073】
(エマルジョン2の調整)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分40重量%、pH8に調整した。このエマルジョンの平均粒径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、110nmであった。
【0074】
(エマルジョン3の調整)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン365g、ブチルアクリレート545g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分40重量%、pH8に調整した。このエマルジョンの平均粒径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、200nmであった。
【0075】
(エマルジョン4の調整)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン615g、ブチルアクリレート295g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。このエマルジョンの平均粒径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、110nmであった。
【0076】
(エマルジョン5の製造法)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにメチルメタクリレート675g、ブチルアクリレート235g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
【0077】
このエマルジョンの平均粒径をMicrotrac UPA150(Microtrac社製)の粒度分布測定により測定したところ、180nmであった。
【0078】
[インク組成物の調製]
表1に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径約8μmのステンレス製フィルターにて濾過して、実施例1〜8および比較例1〜2の各水性インク組成物を調製した。ただし表1中に示す添加量は全て重量%濃度として表わされており、また顔料分散液および樹脂分散液の添加量はそれぞれ固形分濃度で表わされている。またイオン交換水の「残量」とは、インク全量が100部となるようにイオン交換水を加えることを意味する。
【0079】
【表1】

【0080】
なお、本実施例及び比較例に用いた前記一般式(1)に示す化合物の詳細を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
<インク組成物の評価>
表1で調整した実施例1〜8及び比較例1〜2のインク組成物について、以下の評価を行った。
【0083】
インクジェットプリンターEM−930C(セイコーエプソン(株)製)で720dpiの解像度で文字及びベタ印字の印刷を行った。記録媒体として、ゼロックスP(商品名:富士ゼロックス社製普通紙)、Xerox 4024(商品名:Xerox Co.(米国)製普通紙)の2種類の紙に印字を行い、得られたサンプル(記録物)を用いて、下記に示す試験1〜6について評価した。
【0084】
(試験1)OD値
グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いて、記録物のベタ部分のOD値を測定した。測定値を表2に示す。
【0085】
(試験2)耐擦性
ゼブラ社製のイエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(登録商標)を用いて、記録物の文字部分を筆圧300g/15mmで擦り、汚れの有無を目視で観察した。その結果を下記基準に基づき判定した。
A;同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない。
B;1回の擦りまでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが発生する。
C;1回の擦りで汚れが発生する。
【0086】
(試験3)吐出安定性
調製した各インク組成物を用いて、40℃環境にて、インクジェットプリンターEM−930Cでベタ及び線のパターンを連続印字した。印刷100ページ内でのインクのドット抜けや飛行曲がりの際に正常印刷への復帰動作として行うプリンターノズルのクリーニングの回数を評価し、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング0回。
B;クリーニング1回〜4回。
C;クリーニング5回以上
【0087】
(試験4)間欠印字安定性
調製した各インク組成物を用いて、インクジェットプリンターEM−930Cで文字を10ページ印刷した後、クリーニングを行い、再び印刷する際の印字安定性について、下記基準に基づき判定した。
○;クリーニング後の印字初めに吐出乱れがない。
×;クリーニング後の印字初めに吐出乱れがある。
【0088】
(試験5)保存安定性
アルミパックにインク組成物50gを入れた状態で70℃の環境下に1週間放置した。放置後、異物(沈降物)の発生の有無について、また、異物の発生がないものについては、更に物性(粘度、表面張力、pH、分光特性等)の変化について、下記基準に基づき判定した。
A;異物の発生がなく、物性の変化もない。
B;異物の発生はないが、物性が若干変化する。
C;異物が発生する。
【0089】
(試験6)目詰まり性
インクジェットプリンターEM−930Cを用いて、各インクをヘッドに充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジがない状態で、かつホームポジション外の位置(ヘッドがプリンタに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。放置後に、再び全ノズルよりインク組成物が吐出するまでに要したクリーニングの回数を調べ、下記基準に基づき判定した。
A;クリーニング1回。
B;クリーニング2回〜5回。
C;クリーニング6回以上。
【0090】
以上の評価判定結果を表3にまとめる。
【0091】
【表3】

表3から明らかなように、本発明のインク組成物によれば、種々の記録媒体、特に普通紙に対して高OD値及び高耐擦性等の優れた印字品質を有し、さらに保存安定性等の信頼性に優れたインク組成物を提供することが可能である。さらに、インクジェットプリンター用インクとして用いた場合、吐出安定性及び保存安定性に優れ、ノズルの目詰まり回復性が良好であることから、インクジェット記録方式に用いるのに好適なインク組成物である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は前述の実施の形態に限定される物でなく、筆記用具インク、オフセット印刷用インク等の用途にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水と着色剤と下記一般式(1)に示す化合物とを含んでなるインク組成物であって、該着色剤が分散剤なしに水に分散及び/または溶解が可能な自己分散型顔料であることを特徴とするインク組成物。
【化1】

式中、Rは2価の有機基を、POはプロピレンオキシ基を、EOはエチレンオキシ基を表し、x、y、a、bはそれぞれ繰り返し単位数であって、xは1〜200の数を、yは1〜50の数を、aは1〜30の数を、bは0〜20の数を表す。
【請求項2】
前記一般式(1)に示す化合物における、EOとSiのモル%比(EO/Si)が0.1〜1.5であることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記顔料が、その表面にカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びスルホン基から選ばれる少なくとも1種の官能基またはその塩が結合するような表面処理によって、分散剤なしに水に分散及び/または溶解が可能な自己分散型顔料であることを特徴とする請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記顔料が、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理された自己分散型顔料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)に示す化合物が、インク組成物全量に対して、0.0001重量%〜0.1重量%含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
さらに、樹脂微粒子を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記樹脂微粒子が、不飽和単量体の乳化重合によって得られたエマルジョンの形態で配合されることを特徴とする請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
インクジェット記録方式に用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物を記録媒体に付着させて印字を行うことを特徴とする記録方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うことを特徴とする記録方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の記録方法によって記録が行われた記録物。

【公開番号】特開2008−239664(P2008−239664A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78449(P2007−78449)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】