説明

インク組成物及びそれを用いたインクジェット記録方法

【課題】被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、密着性、耐傷性、および耐水性などの耐候性に優れた記録ができるインク組成物の提供。
【解決手段】本発明によるインク組成物は、少なくとも非プロトン性極性溶媒、熱可塑性樹脂、顔料、環状アミド化合物、界面活性剤、水を含んでなるインク組成物であって、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に対する印刷に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物に関し、詳しくは、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に好適に用いられるインク組成物に関する。本発明はまた、そのようなインク組成物を用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、記録媒体の被記録面に付着させて印刷を行う記録方法である。この方法は、高解像度、高品質な画像を高速で印刷できるという特徴を有する。インクジェット記録方法を用いた印刷は、オフィスなどで使われる一般消費者向けのプリンタの他に、印刷幅が1mを超える産業用途のプリンタにも採用されている。記録媒体としては、一般的な紙等に加えて、プラスチックフィルムなどの疎水性記録媒体も用いられる。
【0003】
産業用途のプリンタにインクジェット記録方法が採用される理由として、前記インクジェット記録方法の特徴の他に、製作部数が少なくても安価なプリントが得られることがあげられ、近年、屋内外看板、垂れ幕(バナー)、壁装材、室内装飾材等の製作に多用されている。屋内外看板等に用いられる記録媒体および印刷には、その用途から、強度が要求されるため、記録媒体としてプラスチックフィルムや基材にプラスチックフィルムをコーティングした媒体に、顔料などの耐候性のある着色剤を用いたインクにより印刷がなされることが多い。
【0004】
被記録面が塩化ビニルなどのプラスチックより少なくともなるプラスチックフィルムを記録媒体として使用しインクジェット記録をする場合、従来、溶剤系インク、UV硬化インク、または2液式硬化インクなどの硬化性モノマーを含むインクが使用されていた。しかしながら、溶剤系インクは、溶剤臭があり、また溶剤揮発成分中に有害成分を含むことがある。UV硬化インクや2液式硬化インクなどでも、使用する硬化性モノマーが有害成分を含むことがある。また、インクジェット記録専用の表面処理を施していない被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、従来の水系インクでインクジェット記録をすると、記録物は密着性、耐傷性、および耐水性などの耐候性が充分とはいえなかった。
【0005】
例えば、疎水性記録媒体に直接印刷する水性顔料インクジェット用インク組成物として、特定のグラフトコポリマーバインダーを含むことを特徴とするインク組成物も提案されている。(特開2000−44858号公報(特許文献1))この方法では、インクを記録媒体に浸透させずに、記録媒体表面にバインダーを定着させただけなので、UV硬化インクや2液式硬化インクなどのモノマー硬化型に比べ、記録媒体への密着性が小さいという問題がある。
【0006】
一方、例えば特開2002−103785号公報(特許文献2)には、インクジェット記録用インク組成物において、キャリヤー媒体物質として、ラクタム、またラクトンを使用できることが開示されている。(例えば、同文献の請求項12等)。しかしながら、ここでは、ラクタムおよびラクトンはインク組成物の着色剤を溶解するための溶剤の一例としてあげられているに過ぎず、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体への印刷を行うことについては示唆されていない。
【0007】
このため、耐久性、特に記録の密着性、耐傷性、および耐水性などの耐候性に優れたプラスチック記録物を得ることができる、水性顔料インクを用いたインクジェット記録方法が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−44858号公報
【特許文献2】特開2002−103785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、インクジェット記録したときに充分な耐候性を有するインクジェット記録用水系インクに関し研究を重ねた結果、特定の溶剤を含む特定組成のインク組成物を使用することによって、形成される記録物の記録品質と、記録媒体とインク組成物との密着性とを向上させることができ、記録物の耐候性が大幅に改善できることを見出した。使用する溶剤としては、非プロトン性極性溶媒であり、水に可溶あるいは混和可能であり、なおかつ揮発性を有するものが上記改善を図る上でより有効であった。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0010】
よって本発明は、インクジェット記録に適したインク組成物であって、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体への印刷に好適なインク組成物の提供を目的とする。本発明はまた、そのようなインク組成物を用いたインクジェット記録方法の提供もその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるインク組成物は、少なくとも非プロトン性極性溶媒、熱可塑性樹脂、顔料、環状アミド化合物、界面活性剤、水を含んでなるものである。
【0012】
本発明によるインクジェット記録方法は、好適には被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、インク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行うものであって、インク組成物が、本発明によるインク組成物であることを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<インク組成物>
【0014】
本発明によるインク組成物は、前記したように、少なくとも非プロトン性極性溶媒、熱可塑性樹脂、顔料、環状アミド化合物、界面活性剤、水を含んでなるものである。
【0015】
本発明によるインク組成物は、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体への印刷に好適に使用されるものである。
【0016】
被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体としては、記録媒体自体がプラスチックフィルムであるものの他に、紙、布帛等の慣用の記録媒体基材上にプラスチックコーティングされてなるものや、該基材上にプラスチックフィルムが接着されてなるもの等も包含される。また、ここで、プラスチックとしては、非プロトン性極性溶媒によって溶解するかまたは膨潤状態にすることができるものであれば特に限定されないが、例えば塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等をあげることができる。本発明によるインク組成物は、インクジェット印刷用の表面処理を施していないプラスチックフィルム、およびインクジェット印刷用の表面処理を施しているプラスチックフィルムのいずれへの印刷にも使用することができる。
【0017】
本発明によるインク組成物で、被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に印刷すると、非プロトン性極性溶媒が被記録面を溶解すると同時に、インク組成物が硬化して皮膜を形成しうる樹脂成分を含んでいるため、インク中の揮発成分が蒸発するとインク組成物中の樹脂成分が硬化して皮膜が形成される。このとき、溶解した被記録面のプラスチックと皮膜化した樹脂の混合層が形成されるが、この混合層を介して混合層を形成していないプラスチックと樹脂皮膜が強固に結合する。このため、外力によるインク皮膜の擦れやインク皮膜と被記録面の界面への水の浸入が殆どなくなり、密着性、耐傷性、および耐水性などの耐候性に優れた記録物を形成することができる。
【0018】
本発明によるインク組成物においては、非プロトン性極性溶媒が水によって希釈されているため、プリンタを構成する接液部材を破壊もしくは損傷させることがほとんど無い。
【0019】
本発明のインク組成物は、界面活性剤を含むことで低表面張力であるため、水系インクであってもプラスチックフィルム等の水の吸収性を持たない記録媒体表面で凝集することなく、被記録面にむらなく広がり、良好な記録品質が得られる。
【0020】
<非プロトン性極性溶媒>
本発明によるインク組成物は、非プロトン性極性溶媒を含んでなる。インクジェット記録は、液体であるインク組成物の微少な液滴を被記録媒体に付着させ、液滴の水分を蒸発させあるいは被記録媒体に浸透させて乾燥し記録を行う。本発明で用いる非プロトン性極性溶媒は、水より蒸気圧が低いため水より蒸発が遅い。記録を行った際に印刷されたインク組成物の水分が蒸発すると、印刷部分で非プロトン性極性溶媒の成分が高濃度になる。本発明によるインク組成物中の非プロトン性極性溶媒は、プラスチックを溶解する特性を持つものであり、被記録面に付着したインクにおいて、非プロトン性極性溶媒濃度が高くなると、被記録面を構成するプラスチックを溶解する作用が高められる。
【0021】
本発明のインク組成物において、プラスチックを溶解する成分として特定の非プロトン性極性溶媒を用いる理由は以下の通りである。1)水溶性がある。2)100%濃度の非プロトン性極性溶媒がプラスチックは溶解あるいは膨潤させるが、インク組成物に添加する濃度以下の水溶液ではプリンタのインク接触部品を破壊しない。3)インク組成物に添加する濃度以下では、顔料分散液、顔料分散剤、樹脂エマルジョン等の分散成分を凝集させない。4)蒸気圧が水以下である。尚、本発明において、溶剤に漬けたプラスチックが変形した場合は、溶解あるいは膨潤したと判断する。
【0022】
本発明のインク組成物に用いる非プロトン性極性溶媒として好ましくは、1,1,3,3−テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルりん酸トリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンがあげられる。これらの非プロトン性極性溶媒は、2種類以上を混合して使用してもよい。非プロトン性極性溶媒は、インク組成物全量に対して1%以下でも限定的な効果を有するが、好ましくはインク組成物全量に対して1.0重量%〜50.0重量%、更に好ましくは2.0重量%〜25.0重量%である。
【0023】
<熱可塑性樹脂>
本発明によるインク組成物は、熱可塑性樹脂を含んでなる。熱可塑性樹脂は結晶化や架橋化されていない無定形部を含み、この無定形部は加熱による溶融や特定の溶剤への溶解により形状が変化する特性を有する。溶融あるいは溶解した熱可塑性樹脂は再度固化する際に無定形部は互いに溶着し、強固な樹脂層を形成する。
【0024】
本発明のインク組成物中の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上であるものであって、好ましくは40℃以上で100℃以下の範囲内であるものである。ガラス転移温度(Tg)が低いと、分子鎖が活発に動けるため分子鎖同士が絡み合って接着剤のような挙動を示すのに対し、ガラス転移温度(Tg)が高いと、分子鎖が活発に動けないため分子鎖同士の絡み合いが少なくなり樹脂は個々に独立している。インクジェット記録は、微細なノズルから吐出されたインクが記録媒体に付着することで記録が行われるが、印刷工程において、加熱した記録媒体上にインク組成物を付着させる加熱印刷工程を用いて印刷する際には、インクを吐出するノズルより少なくともなるノズル面が加熱された記録媒体へ接近するため、ノズル面も加熱されることになるため、一層ノズルのインクが乾燥する。微細なノズルでインクの揮発成分が揮発し、顔料、樹脂などの固形分が残ると、ガラス転移温度(Tg)が低い樹脂を用いたインクは樹脂同士がくっつき易くなっているためノズルが目詰まりし易いが、ガラス転移温度(Tg)が高い樹脂を用いたインクは樹脂同士がくっつき難いためノズルが目詰まりし難い。
【0025】
本発明のインク組成物中の熱可塑性樹脂は、特定の非プロトン性極性溶媒に溶解するため、本発明のインク組成物が乾燥する過程で、熱可塑性樹脂の溶解と固化が起こり、熱可塑性樹脂同士あるいは熱可塑性樹脂とプラスチックフィルムとが溶着して、プラスチックフィルム表面に熱可塑性樹脂の強固な皮膜を形成する。
【0026】
本発明に用いることができる熱可塑性樹脂として、水に可溶な樹脂の他に、水に不溶の樹脂を使用することもできる。水に可溶の樹脂は、顔料を分散するのに使用する樹脂分散剤を好適に使用することもできる。また、水に不溶の樹脂は、樹脂粒子を樹脂エマルジョンの形態でインク組成物に添加することが好ましい。ここで、樹脂エマルジョンは、連続相である水と分散相である樹脂成分とより少なくともなる。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、この熱可塑性樹脂成分は、親水性部分と、疎水性部分とを合わせもつ重合体であることが好ましい。樹脂エマルジョンを使用する場合は、その粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、好ましくは150nm程度以下、より好ましくは5nm〜100nm程度である。
【0028】
樹脂としては、インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている樹脂エマルジョンと同様の樹脂成分を使用することができる。樹脂成分として、具体的には、アクリル系重合体、例えば、ポリアクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリアクリロニトリル若しくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、またはポリメタクリル酸;ポリオレフィン系重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン若しくはそれらの共重合体、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、またはテルペン樹脂;酢酸ビニル・ビニルアルコール系重合体、例えば、ポリ酢酸ビニル若しくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、またはポリビニルエーテル;含ハロゲン系重合体、例えば、ポリ塩化ビニル若しくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、またはフッ素ゴム;含窒素ビニル系重合体、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン若しくはその共重合体、ポリビニルピリジン、またはポリビニルイミダゾール;ジエン系重合体、例えば、ポリブタジエン若しくはその共重合体、ポリクロロプレン、またはポリイソプレン(ブチルゴム);あるいはその他の開環重合型樹脂、縮合重合型樹脂、または天然高分子樹脂等を用いることができる。
【0029】
樹脂をエマルジョンの状態で得る場合には、樹脂粒子を場合により界面活性剤と共に水に混合することによって調製することができる。例えば、アクリル系樹脂またはスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルの樹脂又はスチレン−(メタ)アクリル酸エステルの樹脂と、場合により(メタ)アクリル酸樹脂と、界面活性剤とを水に混合することによって得ることができる。樹脂成分と界面活性剤との混合の割合は、通常50:1〜5:1程度とするのが好ましい。界面活性剤の使用量が前記範囲に満たない場合には、エマルジョンが形成されにくく、また前記範囲を越える場合には、インクの耐水性が低下したり、密着性が悪化する傾向があるので好ましくない。
【0030】
樹脂エマルジョンの調製において使用する界面活性剤は特に限定されないが、好ましい例としては、アニオン系界面活性剤(例えば、ドデシルベンザンスルホン酸ナトリウム、ラウルリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩など)、ノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなど)をあげることができ、これらは2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
また樹脂エマルジョンは、上記した樹脂成分の単量体を、重合触媒および乳化剤を存在させた水中において乳化重合させることによっても得ることができる。乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、分子量調整剤は常法に準じて使用できる。
【0032】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等があげられる。重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤として用いられているもの、およびこれらの混合物があげられる。これらは2種以上混合して使用することができる。
【0033】
分散相成分としての樹脂と水との割合は、樹脂100重量部に対して水を好ましくは60重量部〜400重量部、より好ましくは100重量部〜200重量部の範囲が適当である。
【0034】
樹脂として樹脂エマルジョンを使用する場合、公知の樹脂エマルジョンを用いることも可能であり、例えば特公昭62−1426号、特開平3−56573号、特開平3−79678号、特開平3−160068号、または特開平4−18462号各公報などに記載の樹脂エマルジョンをそのまま用いることができる。また、市販の樹脂エマルジョンを利用することも可能であり、例えばマイクロジェルE−1002、E−5002(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE1014(スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン;日本ゼオン株式会社製)、またはサイビノールSK−200(アクリル系樹脂エマルジョン;サイデン化学株式会社製)などをあげることができる。
【0035】
本発明において、樹脂は微粒子粉末としてインク組成物中の他の成分と混合されても良いが、樹脂微粒子を水媒体に分散させて、樹脂エマルジョンの形態とした後、インク組成物の他の成分と混合することがより好ましい。
【0036】
インク組成物の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、本発明に好ましい樹脂微粒子の粒径は5nm〜400nmの範囲であり、より好ましくは50nm〜200nmの範囲である。
【0037】
樹脂は、インク組成物全量に対して、固形分換算で0.1重量%〜15.0重量%の範囲で含まれることが好ましく、0.5重量%〜10.0重量%の範囲で含まれることがより好ましい。インク組成物において、樹脂成分が少なすぎると、被記録面に形成されるインク皮膜が薄くなり、被記録面との密着性が不充分になることがある。樹脂成分が多すぎると、インク組成物の保存中に樹脂の分散が不安定になったり、わずかな水分の蒸発で樹脂成分が凝集固化して均一な皮膜が形成できなくなることがある。
【0038】
<顔料>
本発明によるインク組成物は、顔料を含んでなる。顔料としては、水系インクジェット記録用インク組成物において従来から使用されている任意の顔料を用いることができ、例えば、有機顔料または無機顔料があげられる。顔料は、水溶性樹脂や界面活性剤等の分散剤とともに分散した樹脂分散顔料、または顔料表面に親水性基を導入し分散剤の使用なしで水系媒体に分散もしくは溶解可能とした表面処理顔料として、インク組成物に添加することができる。顔料の分散剤樹脂は、前述のように熱可塑性樹脂として用いることができる。また、顔料は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄や、コンタクト法、ファーネスト法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを利用することができる。
【0040】
有機顔料としては、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ベリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、または酸性染料型キレート)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、またはアニリンブラックなどを利用することができる。これらの顔料のうち、水との親和性が良好な顔料を用いるのが好ましい。
【0041】
より具体的には、黒色インク用顔料として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、若しくはチャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、若しくは酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料をあげることができる。
【0042】
好適なカーボンブラックの具体例としては、三菱化学株式会社製のカーボンブラックとして、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等があげられる。デグサ社製のカーボンブラックとして、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等があげられる。コロンビアカーボン社製のカーボンブラックとして、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等があげられる。キャボット社製のカーボンブラックとして、キャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等があげられる。
【0043】
カラーインク用顔料としてはC.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、23、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、153、154;C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、92、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219;またはC.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63;等を使用することができる。
【0044】
顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径として、好ましくは25μm以下、より好ましくは1μm以下である。平均粒径が25μm以下の顔料を用いることにより、目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分な吐出安定性を実現することができる。
【0045】
顔料の含有量は、インク組成物全体に対して、好ましくは0.5重量%〜15.0重量%、より好ましくは1.0重量%〜10.0重量%である。
【0046】
上記の顔料を使用する場合には、インクに分散剤を添加して、顔料を完全に水性媒体中で分散させることが好ましい。ここで用いられる分散剤としては、例えば、高分子分散剤、界面活性剤を使用することができる。
【0047】
高分子分散剤の好ましい例としては合成高分子も挙げられ、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、及び酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に疎水性基を持つモノマーと親水性基を持つモノマーとの共重合体、及び疎水性基と親水性基を分子構造中に併せ持ったモノマーより少なくともなる重合体が好ましく、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。上記の塩としては、ジエチルアミン、アンモニア、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンなどの塩が挙げられる。塩を形成するためのこれら化合物は、塩を形成する前の有機物より少なくともなる分散剤の中和当量以上であればよい。これらの共重合体は、重量平均分子量が1000〜50000であるのが好ましく、より好ましくは3000〜10000である。
【0048】
また、分散剤としての界面活性剤の具体例としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸、アシルメチルタウリン酸、ジアルキルスルホ琥珀酸等のスルホン酸型、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;脂肪酸塩、アルキルザルコシン塩などのカルボン酸型、;アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩などのリン酸型エステル型、;等で代表されるアニオン性界面活性剤、また、アルキルピリジウム塩などのピリジウム型;アルキルアミノ酸塩などのアミノ酸型、アルキルジメチルベタインなどのベタイン型、などで代表される両性イオン性界面活性剤、さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどのエチレンオキシド付加型;グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、シュガーアルキルエステルなどのポリオールエステル型;多価アルコールアルキルエーテルなどのポリエーテル型;アルカノールアミン脂肪酸アミドなどのアルカノールアミド型;などで代表される非イオン性界面活性剤などが挙げられる。これらの分散剤の添加量は、顔料に対して1重量%〜50重量%程度が好ましく、より好ましくは2重量%〜30重量%の範囲である。
【0049】
本発明の好ましい態様において分散剤として、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の塩が用いられる。スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の塩は、基本的にはその構造中に少なくともスチレン骨格と(メタ)アクリル酸の塩の骨格を含んでなるものを示し、構造中に(メタ)アクリル酸エステル骨格等の他の不飽和基を有するモノマー由来の骨格を有していても構わない。スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の塩は、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよく、ラジカル共重合、グループトランスファー重合等の公知の重合法によって製造される。スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体の塩の酸価は50〜300の範囲が好ましく、より好ましくは70〜150の範囲である。また、分子量は重量平均分子量で1000〜50000の範囲が好ましく、より好ましくは1000〜15000の範囲であり、さらに好ましくは3000〜10000の範囲である。
【0050】
前記分散剤としては、市販のものを使用することができ、その具体例としては、ジョンソンポリマー株式会社製、ジョンクリル68(分子量10000、酸価195)、ジョンクリル680(分子量3900、酸価215)、ジョンクリル682(分子量1600、酸価235)、ジョンクリル550(分子量7500、酸価200)、ジョンクリル555(分子量5000、酸価200)、ジョンクリル586(分子量3100、酸価105)、ジョンクリル683(分子量7300、酸価150)、B−36(分子量6800、酸価250)等が挙げられる。
【0051】
顔料の分散剤による分散は、顔料と前述の分散剤と水と水溶性有機溶媒とをボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミル等の適当な分散機で行われる。
【0052】
顔料表面に親水性基を導入し分散剤の使用なしで水系媒体に分散もしくは溶解可能とした表面処理顔料は、親水性の付与基として、官能基あるいはその塩を、顔料表面に直接あるいは多価の基を介して導入(化学結合)されることによって、分散剤なしに水に分散もしくは溶解可能なものとされたものであり、導入される官能基あるいはその塩の種類およびその程度は、水性インク組成物中での分散安定性、色濃度およびインクジェットヘッド全面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0053】
<環状アミド化合物>
本発明によるインク組成物は、環状アミド化合物を含んでなる。インク組成物の保管および塗布時の扱い易さを考慮して、インクジェット記録用のインク組成物は湿潤剤を含むが、湿潤剤の添加目的は保管時の水分蒸発による顔料成分、樹脂成分の凝集固化を防止し、インクジェット塗布時にインクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止し、吐出安定性を確保することにある。本発明のインク組成物の湿潤剤としては、環状アミド化合物を用いる。
【0054】
本発明のインク組成物に含まれる環状アミド化合物の好ましい具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンがあげられる。これらは、2種以上組み合わせて用いてもよい。環状アミド化合物の含有量は、例えば、インク組成物全量に対して0.1重量%〜40.0重量%、好ましくは、1.0重量%〜30.0重量%である。このような範囲とすることによって、目詰まり防止性、または吐出安定性を確保することができる。含有量が多すぎると乾燥不良となることがある。
【0055】
<界面活性剤>
本発明によるインク組成物は、界面活性剤を含んでなる。水溶液は通常疎水性物質表面で弾かれるが、界面活性剤を添加すると、疎水性物質表面に均一に水溶液、即ちインク組成物を塗布することができる。均一に塗布されたインク組成物中の非プロトン性極性溶媒が、所望の領域面だけを溶解する。また、インク組成物が均一に塗布されることにより、含まれる樹脂も被記録面で均一に膜化することができる。
【0056】
本発明のインク組成物に界面活性剤として含まれるポリエーテル変性ポリシロキサン化合物の好ましい具体例としては、下記の一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0057】
【化1】

【0058】
式(1)中、R1〜R7のアルキル基は好ましくはメチル基、jおよびkは、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4、最も好ましくは1または2である。また、mおよびnは好ましくは1〜5であり、好ましくはm+nは2〜4である。本発明の記録方法に用いるインク組成物の好ましい形態によれば、式(1)の化合物として、j=k=1〜3、好ましくは1または2を満足するものが好ましい。また、別の好ましい形態として、式(1)の化合物として、R1〜R7が全てメチル基を表し、jが1を表し、kが1を表し、lが1を表し、mが1以上の整数、好ましくは1〜5を表し、nが0を表すものが好ましい。前記一般式(1)で表される化合物は市販されており、それらを利用することが可能である。例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社より市販されているシリコン系界面活性剤BYK−347、BYK−348が利用可能である。
【0059】
同様に含まれるアセチレングリコール化合物の好ましい具体例としては、下記の一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
【化2】

【0061】
前記一般式(2)で表される化合物の中で、特に好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、又は3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどを挙げることができる。前記一般式(2)で表されるアセチレングリコール化合物およびその誘導体としては市販品を利用することも可能であり、その具体例としてはサーフイノール104、82、465、485、又はTG(いずれもAir Products and Chemicals.Inc.より入手可能)、オルフインSTG、オルフインE1010(いずれも日信化学社製の商品名)を挙げることができる。
【0062】
前記のポリエーテル変性ポリシロキサン化合物とアセチレングリコール化合物は、単独で使ってもまた2種以上を併用しても構わない。本発明のインクジェット記録方法に用いるインク組成物中の界面活性剤として、ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物および/またはアセチレングリコール化合物の界面活性剤を用いるときの添加量は適宜決定されてよいが、インク組成物に対して0.01重量%〜5.0重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1重量%〜2.0重量%の範囲である。
【0063】
<低表面張力有機溶剤>
本発明によるインク組成物は、更に低表面張力有機溶剤を含有することが好ましい。本発明のインク組成物に用いられる低表面張力有機溶剤として好ましくは、アルカンジオール化合物またはグリコールエーテル化合物から選んだ少なくとも1つの化合物である。
【0064】
アルカンジオール化合物としては、好ましくは炭素数1〜6の1,2−アルカンジオールであり、顔料分散安定性の観点から、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール及び1,2−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0065】
グリコールエーテル化合物としては、ジエチレングリコールモノ(炭素数1〜8のアルキル)エーテル、トリエチレングリコールモノ(炭素数1〜8のアルキル)エーテル、プロピレングリコールモノ(炭素数1〜6のアルキル)エーテル、ジプロピレングリコールモノ(炭素数1〜6のアルキル)エーテルを挙げることができ、これらを1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0066】
具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテルなどを挙げることができる。
【0067】
アルカンジオール化合物またはグリコールエーテル化合物は、湿潤剤の作用と印刷面にインク組成物を均一に塗布する界面活性剤の作用の補完的作用をインク組成物にもたらすことができる。アルカンジオール化合物またはグリコールエーテル化合物は適宜添加することができるが、インク組成物に対して1重量%〜20重量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは3重量%〜15重量%である。
【0068】
<他の成分>
非プロトン性極性溶媒を含む水溶性有機溶剤を薄く均一に記録媒体表面に塗布するために、溶媒で希釈して塗布する。このような主溶媒としては、水または水溶性有機溶媒などが使用可能であるが、本発明においては、溶媒は安全性などの観点から水が好ましい。ここで使用される水としては、イオン性の不純物を極力低減することを目的として、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、水性インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0069】
本発明のインク組成物は、上記した各成分を含むことにより、所望の効果を実現できるものであるが、必要に応じて、防腐剤・防かび剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、ノズルの目詰まり防止剤などをさらに含むことができる。
【0070】
pH調整剤としては、例えばリン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二ナトリウム等があげられる。防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などがあげられる。さらに、溶解助剤、または酸化防止剤の例としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、尿素、チオ尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩をあげることができる。更にノズル乾燥防止の目的で、尿素、チオ尿素、またはエチレン尿素等を添加することができる。
【0071】
本発明によるインク組成物の諸物性は適宜制御することができるが、本発明の好ましい態様によれば、その粘度は、好ましくは25mPa・秒以下、より好ましくは10mPa・秒以下(25℃)である。粘度がこの範囲内にあると、インク組成物をインク吐出ヘッドから安定に吐出させることができる。また、本発明によるインク組成物の表面張力は適宜制御することができ、好ましい表面張力は、20mN/m〜40mN/m(25℃)範囲程度であり、より好ましくは23mN/m〜33mN/m範囲程度である。
【0072】
<インク組成物の製造>
本発明のインク組成物は、前記の各配合成分を個別に、あるいは顔料分散液や樹脂エマルジョンの形態を経て、任意の順序で適宜混合し、溶解(または分散)させた後、必要に応じて不純物などを濾過して除去することにより、調製することができる。
【0073】
本発明によるインク組成物においては、非プロトン性極性溶媒が被記録面のプラスチックを溶解できる程度の量であること; インクジェット記録ヘッドによって吐出可能な粘度および表面張力であること; 保存容器中またはインクジェットヘッドのノズルでインク組成物が凝集したり、固化したりしないこと; さらには、インクジェットプリンタの接液部材が溶解もしくは破壊されないこと、等の点を考慮して、前記の各成分の配合量を適宜設定することができる。このようなインク組成物の典型的な組成としては、例えば、下記の通りのものがあげられる。
顔料 0.5重量%〜15.0重量%;
樹脂 0.01重量%(固形分)〜10.0重量%(固形分);
非プロトン性極性溶媒 1.0重量%〜50.0重量%;
環状アミド化合物 0.1重量%〜40.0重量%;
界面活性剤 0.01重量%〜5.0重量%;
低表面張力有機溶剤 1.0重量%〜20.0重量%;および
水 残り。
【0074】
<記録方法>
本発明によるインクジェット記録方法は、前記したように、被記録面にインク組成物の液滴を吐出させ、被記録面に付着させて印刷を行うものである。
【0075】
本発明のインク組成物は記録媒体の種類に応じて、画像の再現性に応じて、被記録面へのインクの塗布量を適宜変更することができる。
【0076】
本発明の好ましい形態によれば、本発明のインクジェット記録方法は、加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程と、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程のいずれか一方または両方の加熱工程を含んでなる。
【0077】
本発明の更に好ましい形態によれば、加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程と、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程のいずれか一方または両方の加熱工程を含んでなるインクジェット記録方法において、記録に用いるインク組成物には熱可塑性樹脂が含まれ、含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は加熱印刷工程の加熱温度以上である。
【0078】
本発明の別の好ましい形態として、加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程と、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程の両方の加熱工程を含んでなるインクジェット記録方法において、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程における加熱温度が、加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程における加熱温度以上であり、かつ記録に用いるインク組成物には熱可塑性樹脂が含まれ、含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は加熱印刷工程の加熱温度以上である。
【0079】
インク組成物を付着させる記録媒体を加熱することで、インク組成物が付着したときに被記録面のプラスチックフィルムの溶解が促進される。インク組成物が付着した後に加熱することで、被記録面のプラスチックフィルムの溶解が促進されるとともにインク組成物に含まれる揮発成分の蒸発も促進される。インク組成物中の樹脂が熱可塑性樹脂であれば、被記録面と形成される樹脂皮膜との密着性をより強固にできる。
【0080】
加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程と、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程の両方の加熱工程を含んでなるインクジェット記録方法において、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程における加熱温度が、加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程における加熱温度以上であることで、ノズル面のインク目詰まりを起こし難くできる。かつインク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程の加熱温度を高くできるため、高いガラス転移温度(Tg)を持つ熱可塑性樹脂を使用することができ、記録物の耐擦性・耐傷性の向上、加熱時間の短縮をすることができる。
【0081】
ここで、加熱手段は、慣用の加熱手段、例えば、赤外線式加熱装置や熱風加熱装置などの公知の加熱装置を用いて、常法に従って行うことができる。本発明においては、加熱は被記録面の溶解とインク組成物に含まれる樹脂が硬化して樹脂皮膜を形成することができるような条件であれば、いずれであってもよく、添加した溶剤種類、溶剤濃度、樹脂粒子の種類などを考慮して、適宜設定することができる。例えば、ヒーター加熱または温風乾燥による場合には、加熱は、25℃〜90℃(好ましくは40℃〜70℃)で印刷時を含め1分〜1日間(好ましくは2分間〜8時間)の条件で行うことができる。
【0082】
<実施例>
以下本発明を以下の実施例に従って詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
<インク組成物の調整>
表1,表2,表3,表4に示す組成で、インク組成物をそれぞれ調整した。組成はすべて重量%である。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
<評価試験>
(印刷サンプルの作製)
前記で実施例および比較例として調整した各インク組成物を用いて印刷サンプルを作製した。具体的には、印刷時に加熱できるよう改造したインクジェットプリンタ「PX−G920(セイコーエプソン(株)社製)」を用いて、下記の記録メディア3種類に、100%dutyパターンおよび人物画像(日本規格協会 JIS X 9201−1995準拠SCIDデーター)を印刷した。
【0089】
加熱:印刷に先立ち記録媒体を50℃に加熱して印刷し、印刷後60℃、相対湿度20%の環境下で1時間加熱させた。
【0090】
記録媒体:<1>インクジェット記録用媒体 LLSP2000(表面塩化ビニル製、(株)桜井社製)、記録媒体:<2>インクジェット記録用の処理を施していない塩化ビニルフィルム スコッチカルフィルム(住友スリーエム(株)社製)。
【0091】
(サンプルの評価)
評価1:密着性
粘着テープ(セロテープ(登録商標)No.252;積水化学工業(株)社製)を印刷サンプルの印刷部に貼り、指で2ないし3回擦った後に粘着テープを引き剥がした。その部分の印刷の状態を目視で観察した。その結果を次の基準で評価した。
○:記録媒体からインク(着色剤)の剥離が全くない。
△:記録媒体からインク(着色剤)の一部が剥離する。
×:記録媒体からインク(着色剤)が大きく剥離する。
【0092】
評価2:耐擦性・耐傷性
各硬度の鉛筆でJIS K−5600−5−4に規定される750g荷重鉛筆引っ掻き試験器を使用して、印刷部を引っ掻き、引っ掻きにより印刷が擦りとれたかどうかを調べた。その結果を次の基準で評価した。
○:H硬度鉛筆で印刷が擦りとれない。
△:H硬度鉛筆で印刷が擦りとれるが、HB硬度鉛筆で印刷は擦りとれない。
×:HB硬度鉛筆で印刷が擦りとれる。
【0093】
評価3:耐水性
印刷サンプルの印刷部に水道水を1滴付着させて1分間放置し、その後綿布で水滴を拭き取った。拭き取った後の印刷部および綿布の状態を目視で観察した。その結果を次の基準で評価した。
○:記録媒体からインク(着色剤)の剥離が全くなく、綿布も着色しない。
×:記録媒体からインク(着色剤)の一部が剥離し、綿布が着色している。
【0094】
評価4:印刷時の耐目詰まり性
記録媒体を50℃で加熱して、A4サイズのPPC紙にベタ及び線のパターンを連続印刷した。印刷100ページ内でのインクのドット抜けや飛行曲がりの際に正常印刷への復帰動作として行うノズルのクリーニングの回数を評価し、次の基準で評価した。
○:クリーニング2回以下。
×:クリーニング3回以上。
【0095】
結果は、下記表5、表6の通りであった。
【0096】
【表5】

【0097】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも非プロトン性極性溶媒、熱可塑性樹脂、顔料、環状アミド化合物、界面活性剤、水を含むことを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
非プロトン性極性溶媒が、1,1,3,3−テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルりん酸トリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンより少なくともなる群より選んだ少なくとも1つ以上の化合物であることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が40℃以上であることを特徴とする請求項1又は2のに記載のインク組成物。
【請求項4】
環状アミド化合物が、2−ピロリドン、N―メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンから選んだ少なくとも1つ以上の化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
界面活性剤が、ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物またはアセチレングリコール化合物から選んだ少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
更に低表面張力有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
低表面張力有機溶剤が、アルカンジオール化合物またはグリコールエーテル化合物から選んだ少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
非プロトン性極性溶媒の含有量が1.0重量%〜50.0重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
被記録面にインク組成物の液滴を吐出し、インク組成物を被記録面に付着させて印刷を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物が請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項10】
被記録面がプラスチックフィルムである記録媒体に、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物を用いて記録を行うことを特徴とする請求項9記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程と、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程のいずれか一方または両方の加熱工程を含んでなることを特徴とする請求項9又は10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程と、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程のいずれか一方または両方の加熱工程を含んでなるインクジェット記録方法であって、記録媒体を加熱する温度が請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以下であることを特徴とする請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程と、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程の両方の加熱工程を含んでなるインクジェット記録方法であって、インク組成物を付着させた記録媒体を加熱する工程における加熱温度が、加熱した記録媒体にインク組成物を付着させる加熱印刷工程における加熱温度以上であり、かつ請求項1〜8のいずれか一項に記載のインク組成物に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2007−297586(P2007−297586A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301228(P2006−301228)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】