説明

インク

【課題】インクを顔料分散安定性に優れるとともに、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することが可能なものとする。
【解決手段】少なくとも顔料と有機溶剤と水とを含むインクであって、水がインク全量に対して2〜40質量%であり、有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式(式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、前記アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい)で表されるリン酸トリエステルを含み、五員複素環式化合物および/またはリン酸トリエステルの総含有量が有機溶剤全量に対して50質量%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適したインクであって、詳細には裏抜け抑制効果に優れ、印刷濃度の高いインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷用紙に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に顔料を微分散させたいわゆる非水系インクが種々提案されている。
【0003】
例えば、出願人は特許文献1において、顔料と、有機溶剤としてエステル溶剤、高級アルコール溶剤、炭化水素溶剤などを含み、さらに溶解型のポリマー分散剤を含む非水系インクを提案している。このインクは機上安定性に優れ、インクジェット適性を有するとともに、PPC複写機やレーザープリンタで印刷された印刷面と重ね合わせた場合でも貼り付かない印字面を得ることができるという利点を有するものであり、トナー適性に優れたものである。また、特許文献2には、顔料と、有機溶剤としてエステル溶剤、炭化水素溶剤を含み、さらに分散型の高分子分散剤(NAD)を含む非水系インクが開示されている。さらに、特許文献3には、顔料、水および有機溶剤からなるW/O型のエマルションインクが開示されている。このインクは油相中に分散剤を用いて顔料を分散させたインクであり、インクジェット印刷用に適した低粘度でかつ保存安定性に優れたインクである。
【0004】
上記のように、従来、顔料分散型の非水系インクや油相中に顔料を分散させたエマルションインクは、樹脂やポリマー型分散剤(溶解型やNAD)を用いることにより、あるいは顔料表面に直接的にポリマーによる修飾(グラフト化やマイクロカプセル化)を行うことにより、顔料の分散安定性を確保してきた。これらの方法は、いずれの手法においても、ポリマーによる立体障害によって物理的に顔料の凝集を抑制させるものであり、換言すればインク中にポリマー成分を含有させることによってインクの顔料分散安定性を向上させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126564号公報
【特許文献2】特開2007−197500号公報
【特許文献3】特開2009−057462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、インク中にポリマー成分を含有させると、顔料とポリマー成分の親和性が高いために、あるいは顔料とポリマー成分が結合しているために、インクが印刷用紙に転移した後、顔料がポリマー成分に引きずられて用紙内部へ浸透しやすい。このため、印刷用紙表面の印刷濃度が低下したり裏抜けが生じたりする。すなわち、ポリマーによる顔料分散においては、顔料分散性を向上しようとすれば、印刷濃度の低下や裏抜けの発生を助長することになり、印刷濃度の向上や裏抜けの抑制を図ろうとすれば、顔料分散性が悪くなるという、一方を達成しようとすると、他方をある程度犠牲にしなければならないという関係がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、顔料分散安定性に優れるとともに、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することが可能なインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のインクは、少なくとも顔料と有機溶剤と水とを含むインクであって、前記水がインク全量に対して2〜40質量%であり、前記有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式(式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、前記アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい。以下、この記載は省略する。)で表されるリン酸トリエステルを含み、前記五員複素環式化合物および/または前記リン酸トリエステルの総含有量が前記有機溶剤全量に対して50質量%以上であることを特徴とするものである。
【化1】

【0009】
前記五員複素環式化合物は、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記カーボネート化合物は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0010】
前記ラクトン化合物はγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記イミダゾリジノン化合物は2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
前記ピロリドン化合物は2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記リン酸トリエステルはリン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
インク中のポリマー成分の含有量は前記顔料の20質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、実質的にポリマー成分を含まないことが好ましい。
ここで、ポリマー成分とは、単量体(モノマー)の繰り返し構造を持つ分子量500以上の重合体を意味する。
前記五員複素環式化合物および/または前記リン酸トリエステルの総含有量は、インク全量に対して60〜97質量%であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクは、少なくとも顔料と有機溶剤と水とを含むインクであって、有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物および/または上記一般式で表されるリン酸トリエステルを有機溶剤全量に対して50質量%以上含むので、インク中のポリマー成分の含有量が顔料の20質量%以下であっても顔料分散安定性を図ることが可能であるとともに、裏抜けを抑制することができ、裏抜け抑制向上によって印刷濃度の高いインクとすることができる。
また、本発明のインクはポリマー成分が少ないため、インク粘度の温度依存性が低く、低温環境でも粘度上昇しにくい。従って、インクジェットインクとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のインクは、少なくとも顔料と有機溶剤と水とを含むインクであって、水がインク全量に対して2〜40質量%であり、有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式で表されるリン酸トリエステルを含み、五員複素環式化合物および/またはリン酸トリエステルの含有量が有機溶剤全量に対して50質量%以上であることを特徴とするものである。
【化1】

【0015】
五員複素環式化合物は液体であっても、固体であってもよく、固体の場合には有機溶剤に溶解するものであればよい。溶解させる有機溶剤としては後述する有機溶剤を使用することができる。五員複素環式化合物としては、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物を好ましく挙げることができる。
【0016】
カーボネート化合物としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ラクトン化合物としてはγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
【0017】
イミダゾリジノン化合物としては2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ピロリドン化合物としては2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
上記誘導体としては、水素原子がフッ素原子または炭素数が1〜4のアルキル基で置換された化合物を例示することができる。
【0018】
上記一般式で表されるリン酸トリエステルは、式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい。具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニルを好ましく挙げることができ、中でも汎用性の観点からすると、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルが好ましい。
【0019】
五員複素環式化合物および/またはリン酸トリエステルはそれぞれ単独であるいは2種以上を適宜組み合わせて、さらには五員複素環式化合物とリン酸トリエステルを適宜組み合わせて用いることができる。なお、2種以上を適宜組み合わせて用いる場合には、組み合わせて用いた五員複素環式化合物およびリン酸トリエステルの総含有量が、有機溶剤全量に対して50質量%以上であることを意味する。より好ましくは五員複素環式化合物およびリン酸トリエステルの総含有量は、インク全量に対して60〜97質量%であることが好ましい。
【0020】
通常のインクは顔料の分散性を図るために、分散剤や樹脂等のポリマー成分をインク全量に対して、0.5〜30質量%程度(顔料に対しては30〜200質量%程度)含有させる必要がある。しかし、本発明のインクは五員複素環式化合物あるいはリン酸トリエステルによって顔料分散性を図ることができるため、ポリマー成分の含有量が顔料の20質量%以下であっても十分に顔料分散安定性を確保することが可能である。一方で、五員複素環式化合物あるいはリン酸トリエステルはポリマーよりも顔料に対する親和性は弱いため、ポリマーのようにインクが印刷用紙に転移した後、顔料を引きずって用紙内部へ浸透するということがないため裏抜けが殆ど生じず、結果として高濃度の印刷を行うことができる。
【0021】
インク中のポリマー成分の含有量は顔料の20質量%以下であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは実質的に含まないことが望ましい。ここで、実質的に含まないとはポリマー成分を全く含まない場合の他、例えばポリマー成分を不可避的不純物として含有する場合を意味する。
【0022】
上記ポリマー成分は、高分子分散剤や樹脂などのように意図的に含有させる場合の他、顔料にもともと含まれているポリマー成分も含まれる。ポリマー成分として高分子分散剤を含む場合には、例えば市販品として、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、27000、41000、41090、43000、44000)、BASFジャパン社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、60、62、63、71、501)、第一工業製薬株式会社製のポリビニルピロリドンK−30、K−90等が挙げられる。
【0023】
ポリマー成分として樹脂を含む場合には、荒川化学工業株式会社製のマルキードNO.31、NO.32、NO.33、マルキードNO.32〜30WS等のマレイン酸樹脂、荒川化学工業株式会社製のタマノリ751、タマノルPA等のフェノール樹脂、BASFジャパン社製のジョンクリル682(商品名)等のスチレンアクリル系樹脂、立化成工業株式会社製のハイラック111、110H等のケトン樹脂、新日鐵化学株式会社製のエスクロンG90、V120等のクマロン樹脂、チッソ株式会社製のビニレックEタイプ、Kタイプ等のポリビニルホルマール樹脂、宇部興産株式会社製のナイロン6等のε−カプロラクタム共重合体、積水化学工業株式会社のエスレックBL−1、BL−2等のポリビニルブチラール樹脂、旭化成工業株式会社のスタイラック−AS767等のポリスチレン、ポリアクリル酸メチル等のポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸プロピル等のポリメタクリル酸エステル、塩素化ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、無水マレイン酸ポリマー等の付加重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン、DFK樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド等の縮重合樹脂等が挙げられる。
【0024】
本発明のインクに含まれる有機溶剤はその全部が五員複素環式化合物またはリン酸トリエステルであってもよいが、その他の有機溶剤を含んでいてもよい。五員複素環式化合物またはリン酸トリエステル以外の有機溶剤としては、水溶性有機溶剤を挙げることができ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、などのグリコール類、グリセリン、アセチン類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコール誘導体、トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオグリコール、スルホランなどを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種類以上組み合わせて使用することができる。
水溶性有機溶剤の含有量は顔料分散安定性と裏抜け抑制の観点から、インク全量中に40質量%以下であることが好ましい。
【0025】
インクに含まれる水の量は、インク全量に対して2〜40質量%の範囲である。2質量%未満であると、印刷濃度の向上、裏抜け抑制に対する充分な効果が期待できない。一方で、40質量%よりも多くなるとインク粘度が高くなり、プリンタとの適性が悪くなったり、印刷用紙がカールする等、印刷用紙の変形が大きくなる。
【0026】
本発明のインクは水と有機溶剤が相溶しているものであっても、水と有機溶剤がエマルションを形成しているものであってもよい。エマルションインクの場合には界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤として公知の界面活性剤などを使用できるが、界面活性剤がポリマー成分を含む場合には、この界面活性剤が含むポリマー成分も含めて、インク中に含まれる全ポリマー成分の含有量(上記の高分子分散剤や樹脂のポリマー成分)が、インク全量に対して10質量%以下であることが好ましい。10質量%よりも多くなると印刷濃度の向上および裏抜け低減効果が少なくなる。
【0027】
界面活性剤としては、例えば、金属石鹸、高級アルコール硫酸エステル化塩、ポリオキシエチレン付加物の硫酸エステル化塩等の陰イオン界面活性剤;1〜3級アミン塩、4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤;高級アルコールのポリオキシエチレンエーテル、アルキルフェノールポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシプロピレンのポリオキシエチレンエーテル等のエーテル型非イオン界面活性剤;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコールと脂肪酸からなるエステル型非イオン性界面活性剤;脂肪酸のポリオキシエチレンエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリオキシエチレンエーテル、ひまし油のポリオキシエチレンエーテル等のエーテルエステル型非イオン界面活性剤;脂肪酸のアルキロールアミド等の含窒素型非イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0028】
本発明のインクには従来公知の無機顔料および有機顔料を適宜使用してもよい。例えば、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、タルク、シリカ等が挙げられる。有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、縮合多環顔料、銅フタロシアニン顔料等が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することも可能である。顔料の添加量は、インク全量に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0029】
顔料は好ましくは酸性のものが好ましい。換言すれば顔料はその表面にカルボン酸基、スルフォン酸基、水酸基のような極性官能基を多く持つものが好ましい。このような顔料はより分散安定性を確保しやすい。例えば、カーボンブラックにおいては酸性カーボンブラックあるいは中性カーボンブラックを酸性処理したものであって、顔料洗浄水のpHが4.0以下であるものが好ましい。顔料洗浄水のpHはJIS規格のK5101−17−1に従って測定されるものである。酸性の顔料として具体的には、カーボンブラックMA100、MA11、MA8、MA7(三菱化学)、ラーベン1040、ラーベン1255(コロンビヤン)、リーガル400(キャボット)、シアニンブルーKRG、シアニンブルー4044(山陽色素)、ブリリアントカーミン6B−321、スーパーレッドBN(DIC)、エローAP22(大日精化)、トナーイエローHG(クラリアント)、ファストイエロー4190、BY2000GT(DIC)等を好ましく挙げることができる。
【0030】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0031】
本発明のインクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。
以下に本発明のインクの実施例を示す。
【実施例】
【0032】
(カーボンブラック試作1の準備)
カーボンブラック(MA600、粒子径20nm、比表面積140m2/g(JISK6217)、pH=7、三菱化学(株)製)10gと、表面処理剤としてKPS(K228で示される過硫酸カリウム、和光純薬(株)製)1gと、顔料分散剤としてデモールNL(β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩、花王(株)製)2gと、溶媒として水100gを、攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を取り付けたフラスコ中に入れた。
【0033】
次いで、上記フラスコにジルコニアビーズ(2.0mmφ、450g/反応混合物100g)を入れた後、攪拌しながら窒素ガスを吹き込み、フラスコ内を置換した。105℃に設定したオイルバスにフラスコをセットし、窒素ガス雰囲気下、100rpmで攪拌しながら6時間反応に付した。得られた反応混合物から、ろ過によりビーズを除去した後、残った反応混合物に等質量のブチセノール(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、協和発酵ケミカル製)を加えて攪拌した後、フラスコの内容物を遠心分離にかけ、固形物と液状物を分離した。
【0034】
分離した固形物を水中に分散し、70℃で12時間攪拌して、未反応表面処理剤を水中に溶かし出した後、フィルターを用いてろ過してカーボンブラックを単離した。得られたカーボンブラックを100℃で12時間乾燥した。得られたカーボンブラックを、FT−IRを用いて分析したところ、COOH基とSO3K基の存在が確認された。また、JIS規格のK5101−17−1に従い顔料洗浄水のPHを測定したところ、PHは2.3であった。
【0035】
(インクの調製)
水を除く原材料を下記表1および2に示す配合(表1および2に示す数値は質量部である)でプレミックスした後、ロッキングミル(セイワ技研製)を使用し120分間分散し、顔料分散液を作製した。この分散液と水を下記表1および2に示す配合でプレミックスした後、スリーワンモーター(新東科学社製)で30分間攪拌して、実施例および比較例のインクを調製した。
【0036】
(溶解性)
表1および2に示す実施例および比較例の原材料(顔料を除く)を全てガラス瓶に入れて充分に撹拌した後、外観を目視により以下の基準で判断した。
○:透明
×:白濁
【0037】
(評価)
(分散安定性)
上記で得られた顔料分散液をガラス瓶に入れ45℃で2週間保存し、保存後の外観を目視により以下の基準で評価した。
○:凝集・沈降が観察されず液状である
×:ペースト状または凝集・沈降が観察される
【0038】
(裏抜け)
実施例および比較例のインクを理想用紙薄口にバーコーターで転写し、用紙の裏側を目視で観察して以下の基準で評価した。
◎:裏抜けが殆ど認められない
○:裏抜けが少ない
△:裏抜けが若干認められるが許容できる範囲である
×:裏抜けが非常に多い
【0039】
(用紙カール)
実施例および比較例のインクを理想用紙薄口にバーコーターで転写し、用紙がカールするか否かを目視で観察して以下の基準で評価した。
◎:カールが殆ど認められない
○:カールがあまり目立たない
△:カールが若干認められるが許容できる範囲である
×:カールが目立つ
各インクの処方と評価の結果を表1および2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表1に示すインクは実施例1,2〜7,9〜13が水と溶剤が相溶しているインク、それ以外の実施例のインクはエマルションを形成しているインクであるが、いずれのインクも裏抜けが抑制されており、水含有インクに見られるような用紙カールの現象も生じなかった。溶剤中の五員複素環式化合物とリン酸トリエステルの含有量が全溶剤中51.1質量%の実施例10は他の実施例に比べると裏抜けについて若干劣るものの、溶剤中の五員複素環式化合物とリン酸トリエステルの含有量が全溶剤中34.1質量%の比較例2や溶剤に五員複素環式化合物あるいはリン酸トリエステルを含まない比較例1に比べれば許容範囲であった。
【0043】
比較例4はエマルション形成のための界面活性剤を含むインク、比較例5は顔料を分散剤によって分散させる従来の顔料分散型の非水系インクであるが、これらのインクの場合には顔料に対するポリマー成分の割合が高いために、裏抜けが顕著であり印刷濃度も低いものであった。これに対し、実施例15〜17のインクは分散剤や界面活性剤を含むインクであるが、五員複素環式化合物、リン酸トリエステルを含有するため、顔料に対するポリマー含有量が20質量%以下であっても、顔料分散安定性が確保されるとともに、裏抜けが抑制された。
【0044】
以上のように、本発明のインクによれば、ポリマーによる顔料分散において両立することができなかった顔料分散安定性と、裏抜け抑制(結果として高い印刷濃度の実現)という2つの相反する効果を同時に享受することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料と有機溶剤と水とを含むインクであって、前記水がインク全量に対して2〜40質量%であり、前記有機溶剤中にC=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式(式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、前記アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい)で表されるリン酸トリエステルを含み、前記五員複素環式化合物および/または前記リン酸トリエステルの総含有量が前記有機溶剤全量に対して50質量%以上であることを特徴とするインク。
【化1】

【請求項2】
前記五員複素環式化合物が、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載のインク。
【請求項3】
前記カーボネート化合物がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載のインク。
【請求項4】
前記ラクトン化合物がγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載のインク。
【請求項5】
前記イミダゾリジノン化合物が2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載のインク。
【請求項6】
前記ピロリドン化合物が2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載のインク。
【請求項7】
前記リン酸トリエステルがリン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載のインク。
【請求項8】
インク中のポリマー成分の含有量が前記顔料の20質量%以下であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のインク。
【請求項9】
インク中のポリマー成分の含有量が前記顔料の5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載のインク。
【請求項10】
実質的にポリマー成分を含まないことを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載のインク。
【請求項11】
前記五員複素環式化合物および/または前記リン酸トリエステルの総含有量が、インク全量に対して60〜97質量%であることを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載のインク。

【公開番号】特開2012−193289(P2012−193289A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58818(P2011−58818)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】