説明

インシュリンを肺に送給するためのエーロゾル化をする方法、および、肺送給用のインシュリン組成物

【課題】 肺投与に適したインシュリンのエーロゾル、及び、そのための組成物を提供すること。
【解決手段】乾燥粉末としてインシュリンを供給する段階と、一定量の乾燥粉末をガス流に分散してエーロゾルを形成する段階と、マウスピースを備えたチャンバにエーロゾルを捕捉する段階とを備え、前記乾燥粉末の水分含有量が5重量%以下であり、前記乾燥粉末の平均粒子サイズ10μm以下であることを特徴とする、エーロゾル化する方法、および、インシュリンを水性緩衝液に溶解して溶液を形成する段階と、前記溶液をスプレイ乾燥して、平均サイズが10μm以下の実質的にアモルファス粒子の形成を、乾燥粉末インシュリンの水分含有量が5重量%以下となるように、行う段階とを備える調整方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般には糖尿病患者にインシュリンを呼吸送給する方法および組成物に関する。さらに詳細には、本発明は肺を通して速やかに全身吸収するための乾燥粉末インシュリン製剤の肺送給に関する。
【背景技術】
【0002】
インシュリンは、健常者(非糖尿病患者)の膵β細胞で産生される分子量約6,000、アミノ酸50個のポリペプチド・ホルモンである。インシュリンは血糖値を降下させることにより炭水化物代謝を調節するのに必要であり、全身性欠乏によって糖尿病が起こる。糖尿病患者の生存率は、許容血糖値を維持するための頻繁かつ長期のインシュリン投与に左右される。
【0003】
インシュリンは皮下注射により、通常は腹部または上大腿に最も一般的に投与される。許容できる血糖値を維持するためには、多くの場合、インシュリンを1日に少なくとも1回または2回注射することが必要であり、必要に応じて即効性インシュリンを補足注射する。患者が在宅診断用キットを使用して血糖値を厳密に監視する場合、さらに頻繁な注射が糖尿病の積極的治療に必要なことさえある。本発明は特に、1時間以内に血清インシュリン・ピークが得られ、90分以内に血糖最低値が得られる即効性インシュリンの投与に関する。
【0004】
注射によるインシュリン投与は、幾つかの点で望ましくない。第1に、多くの患者が許容血糖値を維持するのに必要なほど頻繁に自己注射することは難しく厄介だと感じる。このように気が進まないと服薬基準を守らなくなり、最も深刻な場合は生命を脅かす可能性もある。さらに、皮下注射によるインシュリンの全身吸収は比較的緩慢であり、即効性インシュリン製剤を使用した時でさえ、45〜90分を要する場合が多い。したがって、自己注射の必要性をなくし、インシュリンが速やかに全身で利用できるようにすることのできる代替インシュリン製剤および投与経路を提供することが長年の目標であった。
【0005】
鼻腔内、直腸内、膣内を含め、様々なこのような代替インシュリン投与経路が提案されてきた。
【0006】
これらの技法を使用すれば皮下注射に伴う苦痛および遵守の不徹底を避けられるが、各々独自の欠点がある。直腸内および膣内は不便であり、不快であり、しかも後者は糖尿病患者全員が利用できるわけではない。鼻腔内送給であれば便利であり、たぶん注射ほど不快ではないであろうが、高分子の通過し難い厚い上皮層を特徴とする鼻粘膜を横切ってインシュリンを通過させるために潜在的に有毒な「透過増進物質」の使用が必要である。本発明に特に関係があるのは、患者がインシュリン製剤を吸入すると肺胞領域の薄い上皮細胞層を通して全身吸収が起こる肺インシュリン送給である。このような肺インシュリン送給を使用すれば、皮下注射より速やかな全身利用性が得られ、針の使用が避けられる。しかし、肺インシュリン送給は未だ広く受け入れられていない。これまで、肺送給は液体インシュリン製剤の噴霧化によって遂行されることが最も多く、厄介な液体ネブライザの使用が必要であった。さらに、このようなネブライザで形成されたエーロゾルのインシュリン濃度は非常に低く、十分な投与量を得るためには多数回の吸入が必要である。適切な水溶液中でのインシュリンの溶解度が低いため、インシュリン濃度が制限される。場合によっては、十分な投与量を達成するために80回以上もの呼吸を必要とし、投与時間が10〜20分、あるいはそれ以上になることもある。
【0007】
<<背景技術の説明文献>>
エーロゾル化したインシュリン水溶液の呼吸性送給については、Gansslen,Klin.Wochenschr.4:71(1925年)に始まり、Laube et al.,JAMA 269:2106−21−9(1993年)、Elliott et al.,Aust.Paediatr.J.23:293−297(1987年)、Wigley et al.,Diabetes 20:552−556(1971年)、Corthorpe et al.,Pharm Res :764−768(1992年)、Govinda,Indian J.Physiol.Pharmacol.:161−167(1959年)、Hastings et al.,J.Appl.Physiol.73:1310−1316(1992年)、Liu et al.,JAMA 269:2106−2109(1993年)、Nagano et al.,Jikeikai Med.J.32:503−506(1985年)、Sakr,Int.J.Phar.86:1−7(1992年)、およびYoshida et al.,Clin.Res.35:160−166(1987年)を含め、幾つかの参考文献に記述されている。大きな粒子担体媒体中の、インシュリンなどの乾燥粉末薬の肺送給については、米国特許第5,254,330号に記述されている。噴射剤中に浮遊させた結晶性インシュリンを送給するための携帯用定量噴霧式吸入器(MDI)については、Lee and Sciara,J.Pham.Sci.65:567−572(1976年)に記述されている。吸入流量を調節するためにインシュリンをスペーサに送給するためのMDIについては、米国特許第5,320,094号に記述されている。組換えインシュリンの気管支内投与については、Schluter et al.(Abstract),Diabetes 33:75A(1984年)およびKohler et al.,Atemw.Lungenkrkh.13:230−232(1987年)に簡潔に記述されている。増進物質の存在下における、インシュリンを始めとする様々なポリペプチド類の、鼻腔内送給および呼吸性送給については、米国特許第5,011,678号およびNgai et al.,J.Contr.Rel.:15−22(1984年)に記述されている。増進物質の存在下での、または放出調節製剤に含まれる、あるいはその両者の、インシュリンの鼻腔内送給については、米国特許第5,204,108号、第4,294,829号、および第4,153,689号、PCT出願WO/93/02712号、WO91/02545号、WO90/09780号、およびWO88/04556号、英国特許第1,527,605号、Ryde n and Edman,Int.J.Pharm.83:1−10(1992年)およびBjo rk and Edman,Int.J.Pharm.47:233−238(1988年)に記述されている。アモルファスインシュリンの調製および安定性は、1993年11月14〜18日の、フロリダ州Lake Buena VistaにおけるAmerican Association of Pharmaceutical Sciences(アメリカ製薬科学協会、AAPS)でRigsbeeとPikalが発表している。薬剤を安定化するアモルファス構造を形成する担体中のポリペプチド、ポリヌクレオチドおよび他の不安定な薬剤をスプレイ乾燥する方法は、欧州特許出願第520748号に記述されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
肺インシュリン送給のための改良された方法および組成物を提供することが望まれる。このような方法および組成物が、家庭から離れていても自己投与が可能なほど便利であり、比較的少ない呼吸回数で、好ましくは10回未満で、希望する総投与量を送給することができれば、特に望ましい。このような方法および組成物はまた、インシュリンの速やかな全身吸収をも行えねばならず、45分以内に血清ピークに達し、約1時間以内に糖最低値になることが好ましい。このような即効性製剤は、好ましくは間欠的で持効性のインシュリン注射を減少または排除することができる、積極的治療プロトコルにおける使用に適する。本発明の組成物はまた、適切な安定したものでなければならず、濃縮乾燥粉末製剤から成ることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、哺乳類宿主、特に糖尿病に罹患している患者にインシュリンをエーロゾル化し全身送給するための方法および組成物は、皮下注射なしで、血液循環への速やかな吸収を提供する。特に、本発明の方法は乾燥粉末状のインシュリンの肺送給を利用する。意外なことに、吸入された乾燥インシュリン粉末は肺胞領域に付着し、肺胞領域の上皮細胞を通って血液循環に速やかに吸収されることが判明した。したがって、インシュリン粉末の肺送給は皮下注射の有効な代替投与になり得る。
【0010】
本発明の最初の態様では、インシュリンは必ずではないが、通常は実質的にアモルファス状態の乾燥粉末として提供し、空気または他の生理学的に許容できる気流に分散させて、エーロゾルを形成する。エーロゾルはマウスピースを備えたチャンバで捕捉され、その後にそれを患者が吸入する。以下にさらに詳細に記述する通り、乾燥粉末インシュリンは、製薬上許容できる乾燥粉末担体と任意に組み合わせられる。インシュリン粉末は好ましくは直径10μm未満、さらに好ましくは7.5μm未満、最も好ましくは5μm未満、通常は0.1〜0.5μmの範囲の粒子を含む。意外なことに、本発明の乾燥粉末インシュリン組成物は、鼻粘膜や上気道による吸収に必要とされるような透過増進物質を使用しなくても肺で吸収されることが判明した。
【0011】
第2の態様では、本発明は本質的に、製薬上の担体と組み合わせることが可能な平均粒子サイズ10μm以下の乾燥粉末インシュリンから成るインシュリン組成物を提供する。インシュリン組成物は好ましくは透過増進物質を含まず、直径10μm未満、好ましくは7.5μm未満であり、最も好ましくは5μm未満、通常は0.1〜0.5μmの範囲の粒子を含む。通常、インシュリン乾燥粉末は組成物中に5〜99重量%のインシュリンを含み、後でより詳細に述べる通り、さらに通常は炭水化物、有機塩、アミノ酸、ペプチド、あるいは蛋白など、適切な製薬上の担体中に15〜80%を含む。
【0012】
本発明の第3の態様では、水性緩衝液にインシュリンを溶解して溶液を作成し、溶液をスプレイ乾燥して、粒子サイズ10μm未満、好ましくは7.5μm未満、最も好ましくは5μm未満で、通常は0.1〜0.5μmの範囲の実質的にアモルファスの粒子を作成することにより、インシュリン乾燥粉末を調製する。任意に、製薬上の担体も緩衝液に溶解して均質な溶液を作成し、溶液をスプレイ乾燥すると、インシュリン、担体緩衝液、および溶液中に存在する他の任意の成分を含む個々の粒子が形成される。担体は、スプレイ乾燥の際に実質的にアモルファスの構造を形成する炭水化物、有機塩、アミノ酸、ペプチド、あるいは蛋白とすることが好ましい。アモルファス担体はガラス質でもゴム質でもよく、保存中のインシュリンの安定性を高める。都合のよいことに、このような安定化した製剤はまた、肺胞領域に吸入されたときに、インシュリンを効果的に血流に送給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の性質および長所の更なる理解は、本明細書の以下の部分および図面の参照によって明らかになるであろう。
【0014】
本発明によれば、インシュリンは乾燥粉末として提供される。「乾燥粉末」とは、粉末の水分含有量が約10重量%以下であることを意味し、通常は約5重量%以下、好ましくは約3重量%以下である。「粉末」とは、インシュリンが、肺胞に透過できるように選択されたサイズの自由に流動する粒子を含むことを意味し、好ましくは直径10μm未満、より好ましくは7.5μm未満、最も好ましくは5μm未満、通常は直径0.1〜5μmの範囲である。
【0015】
本発明は少なくとも部分的に宿主の肺を通って容易にかつ速やかに吸収されることに基づいたものである。インシュリン粒子のような水溶性薬物は吸湿性であることがわかっているため、乾燥粉末インシュリンが肺胞領域に到達することができることは意外であった。例えば、Byron編、Respiratory Drug Delivery,CRC Press,Boca Raton(1990年)、p.150を参照されたい。このように、粒子は肺の気道(37℃で相対湿度が99%を超える)を通過するため、個々の粒子が水分を吸収し、本発明の上限である10μmより大きい有効粒子サイズになる傾向があるだろうと予測された。インシュリン粒子の大部分が目標サイズ範囲より大きければ、粒子は肺胞領域よりむしろ肺の中心気道内に付着することになり、したがって送給およびその後の全身吸収を制限することになる。さらに、肺の上皮細胞上の流動層は非常に薄く、通常は送給されるインシュリン粉末の直径の何分の1かである。したがって、乾燥インシュリン粒子が肺胞領域内に付着したときに溶解するかどうかを、本発明以前に予測することはできなかった。意外なことに、乾燥インシュリン粉末は、肺胞領域内に付着すると、その後は肺胞領域に透過することも溶解することも明らかに可能である。溶解したインシュリンは、上皮細胞を横切って循環内に入ることができる。
【0016】
現在、有効なインシュリン吸収は、肺胞内張りの極薄の(0.1μm未満)流動層における速やかな溶解に起因すると考えられている。したがって、本発明の粒子の平均粒子直径は肺流動層より10〜50倍大きいため、速やかに粒子が溶解し、インシュリンが全身的に吸収されることは予想外である。それどころか、下記の実験の部に示す通り、本発明の乾燥インシュリン製剤は、現在、最も一般的な投与形式である皮下注射によって与えられるよりも速やかな血清インシュリン・ピークおよびグルコース最低値を提供することさえできる。しかし、本明細書に記述されている本発明を実施するのに、正確なメカニズムの理解は必要ではない。
【0017】
本発明による好ましい組成物は透過増進物質を実質的に含まない。「透過増進物質」とは、粘膜または面被覆層を通ってインシュリン(または他の薬物)の透過を促進する表面活性化合物であり、鼻腔内薬物製剤、直腸内薬物製剤、および膣内薬物製剤における使用について提案されている。例示的な透過増進物質としては、タウロコール酸塩、グリココール酸塩、デオキシコール酸塩などの胆汁塩、タウロデヒドロフシジン酸塩などのフシジン酸塩、Tweens、Laureth-9などの生体適合洗剤などがある。しかし、肺用製剤に透過増進物質を使用すると、このような表面活性化合物により肺の上皮血液関門が有害作用を受ける可能性があるため、一般に好ましくない。意外なことに、本発明の乾燥粉末インシュリン組成物は透過増進物質を使用する必要なしに肺で容易に吸収されることが判明した。
【0018】
本発明で使用するのに適するインシュリン乾燥粉末としては、アモルファスインシュリン、結晶性インシュリン、およびアモルファスインシュリンと結晶性インシュリンの混合物などがある。乾燥粉末インシュリンは、実質的に粒子サイズが上述の範囲内のアモルファス粉末になる条件で、スプレイ乾燥によって調製することが好ましい。その代わりに、アモルファス構造を形成する条件で、適当なインシュリン溶液を凍結乾燥、真空乾燥、あるいは蒸発乾燥することによりアモルファスインシュリンを調製することも可能であろう。このようにして形成したアモルファスインシュリンを粉砕または摩砕して望ましいサイズ範囲内の粒子を形成することができる。結晶性乾燥粉末インシュリンは、原薬結晶性インシュリンを粉砕またはジェット摩砕することによって形成することができる。望ましいサイズ範囲の粒子を含むインシュリン粉末を形成する方法はスプレイ乾燥であり、純粋な場合、(通常は結晶型の)原薬インシュリンを生理的に許容できる水性緩衝液、一般にはpHが約2〜9の範囲のクエン酸緩衝液に先ず溶解する。インシュリンは、0.01重量%から1重量%、通常は0.1〜0.2%の濃度に溶解する。Buchi,Niroなど、従来式の市販のスプレイ乾燥装置で溶液をスプレイ乾燥すると、実質的にアモルファスの粒状生成が得られる。
【0019】
乾燥インシュリン粉末は、本質的に必要なサイズの範囲のインシュリン粒子から成り、他の生物学的に活性な成分、製薬上の担体などを実質的に含まないことが可能である。このような「純粋な」製剤は、少量、一般には10重量%、通常は5重量%以下、存在する保存料など、重要でない成分を含んでもよい。このような純粋な製剤を使用すると、高用量の場合でさえ、必要な吸入回数を実質的に減少させることができ、多くの場合、ただ1回の呼吸に減少させることができる。
【0020】
本発明のインシュリン粉末は、呼吸性投与および肺投与に適した製薬上の担体または賦形剤と任意に組み合わせることが可能である。患者に送給しようとする粉末中のインシュリン濃度を低下させたいとき、このような担体は単に賦形剤の役割をすることもあるが、インシュリン組成物の安定性を高め、より能率的で再現性のあるインシュリン送給を提供するために粉末分散装置内の粉末の分散性を改善したり、製造や粉末充填を容易にするために流動性や硬度など、インシュリンの取り扱い特性を改善するのに役立つこともある。
【0021】
適する担体材料は、アモルファス粉末、結晶性粉末、あるいはアモルファス粉末と結晶性粉末の配合物の形でもよい。適切な材料としては、(a)炭水化物、例えばフルクトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボースなどの単糖類、ラクトース、トレハロース、セロビノースなどの二糖類、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンのようなシクロデキストリン類、ラフィノース、各マルトデキストリン、デキストランのような多糖類、(b)グリシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、リシンなどの各アミノ酸類、(c)クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸ナトリウム、塩酸トロメタミンなど、有機酸と塩基から調製した有機塩、(d)アスパルテーム、ヒト血清アルブミン、ゼラチンなどの各ペプチドおよび各蛋白、(e)マンニトール、キシリトールなどの各アルディトールなどがある。好ましい担体群としては、ラクトース、トレハロース、ラフィノース、各マルトデキストリン、グリシン、クエン酸ナトリウム、塩酸トロメタミン、ヒト血清アルブミン、およびマンニトールなどがある。
【0022】
このような担体材料は、スプレイ乾燥の前に、すなわち、スプレイ乾燥用に調製される緩衝液に担体材料を加えることによって、インシュリンと混合することが可能である。このようにすると、インシュリン粒子と同時に、またインシュリン粒子の一部として、担体材料が形成される。一般に、スプレイ乾燥によって担体をインシュリンと一緒に形成するとき、インシュリンは5〜95重量%、好ましくは20〜80重量%の範囲で、各々、個々の粒子中に存在することになる。粒子の残りは主として担体材料である(一般に5〜95重量%、通常は20〜80重量%である)が、緩衝液も含み、上述のような他の成分を含むこともある。肺胞領域に送給される粒子中に担体材料が存在しても(すなわち、10μm以下の必要サイズ範囲のもの)、インシュリンの全身吸収を有意に妨害しないことが判明している。
【0023】
代わりに、担体を乾燥粉末の形で別々に調製し、混合することによってインシュリン乾燥粉末と組み合わせることも可能である。別々に調製される粉末担体は、(水分吸収を避けるため)通常は結晶であるが、場合によっては、アモルファスまたは結晶とアモルファスの混合物であってもよい。担体粒子のサイズはまた、インシュリン粉末の流動性を改善するように選択することが可能であり、一般には25〜100μmの範囲である。このサイズ範囲の担体粒子は一般に肺胞領域内に透過しないため、吸入前に送給装置内のインシュリンから分離する場合が多い。したがって、肺胞領域内に透過する粒子は本質的にインシュリンと緩衝液で構成される。好ましい担体材料は、サイズが上述の範囲内の結晶性マンニトールである。
【0024】
本発明の乾燥インシュリン粉末は、他の有効成分と組み合わせることも可能である。例えば、糖尿病の治療を改善するために、インシュリン粉末中で少量のアミリンまたは活性アミリン類縁体と組み合わせることも望ましいと思われる。アミリンは健常者(非糖尿病患者)の膵β細胞からインシュリンと一緒に分泌されるホルモンである。アミリンは生体内でのインシュリン活性を調節すると考えられ、アミリンとインシュリンを同時に投与すると、血糖調節が改善されると提案されている。本発明の組成物中で乾燥粉末アミリンとインシュリンを組み合わせると、このような同時投与を達成するのに特に便利な生成物が得られる。アミリンは、(1回量のインシュリンの総重量に基づいて)0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜2.5重量%を、インシュリンと組み合わせることが可能である。アミリンは、Amylin Corporation,San Diego,Californiaなどから市販のものを入手することが可能であり、本発明の組成物中に容易に調合することができる。例えば、アミリンをインシュリンおよび任意に担体と共に水溶液または他の適する溶液に溶解し、この溶液をスプレイ乾燥して粉末産物を生成することも可能である。
【0025】
本発明の乾燥粉末インシュリン組成物は、従来の方式で流動空気または他の生理学的に許容できる気流に分散することによってエーロゾル化することが好ましい。このような分散に適する1つのシステムは、WO93/00951号として発行されている、同時係属出願第07/910,048号に記述されており、その開示全体を参照により本明細書に組み込む。本明細書の図1を説明すると、自由に流動するインシュリン粉末を高速気流またはガス流に導入し、その結果生じる分散物を保持チャンバ10に導入する。保持チャンバ10は、空気粉末分散物の入り口とは反対側の端部にマウスピース12を備える。チャンバ10の容積は希望する用量を捕捉できるほど大きく、封じ込めを促進するためのバッフルまたは一方向弁を任意に備えることも可能である。インシュリン粉末の1回量をチャンバ10で捕捉した後、患者P(図2)はマウスピース12で吸入して、エーロゾル化した分散物を肺に吸い込む。患者Pが吸入するにつれて、接線方向に位置する空気入り口14を通って調合空気が導入され、それによって一般に渦巻状に空気が流れ、チャンバから患者の肺にエーロゾル化されたインシュリンを押し出す。チャンバの容積およびエーロゾル化される用量は、患者がエーロゾル化されたインシュリン全量を完全に吸入した後、インシュリンが確実に低肺胞領域に到達するのに十分な空気を吸入できるものである。
【0026】
このようなエーロゾル化されたインシュリン粉末は、糖尿病およびそれに関連するインシュリン欠乏症の治療において、即効性インシュリンの皮下注射の代わりに特に有用である。意外なことに、乾燥粉末インシュリンをエーロゾル投与すると、皮下注射によって達成されるよりもインシュリン吸収および糖反応が有意に速やかであることが判明している。したがって、本発明の方法および組成物は、患者が血糖値を頻繁に監視し、目標血清濃度を維持するために必要に応じてインシュリンを投与する治療プロトコルに特に有益であるが、インシュリン全身投与が必要なときはいつも有用である。患者は、まさしく記述した通り、適量のインシュリンを吸入することにより希望の用量を達成することができる。まさしく記述した方法によるインシュリン全身送給の効率は、一般に約15〜30%の範囲になり、個々の投与量(吸入当たりのベースで)は、一般に約0.5〜10mgである。通常、1回の呼吸投与中の望ましいインシュリン総用量は約0.5〜15mgの範囲になる。したがって、患者が1パフ〜4パフを服用することにより、望ましい投与量が有効であると考えられる。
【実施例】
【0027】
次にあげる各例は例示のためのものであり、限定的なものではない。
【0028】
実験
材料と方法
材料
結晶性ヒト亜鉛インシュリン26.3単位/mg(Lillyロット#784KK2)は、Eli Lilly and Company,Indianapolis,INから入手し、rpHPLCで測定したとき、99%を超える純度であった。米国薬局方(USP)マンニトールは、Roquette Corporation(Gurnee,IL)から入手した。ラフィノースは、Pfanstiehl Laboratories(Waukegan,IL)から購入した。米国薬局方、アメリカ化学協会(ACS)クエン酸ナトリウム・2水和物および米国薬局方クエン酸1水和物は、J.T.Baker(Phillipsburg,NJ)から入手した。
【0029】
粉末の生成
インシュリン粉末は、賦形剤(マンニトール、またはラフィノース)を含むか、何も含まないクエン酸ナトリウム緩衝液に原薬結晶性インシュリンを溶解して、最終固形濃度7.5mg/ml、pH6.7±0.3にすることにより作成した。スプレイ乾燥機は、入り口温度110〜120℃、液体給送速度5ml/分で操作し、結果として出口温度は70〜80℃になった。溶液を、0.22μmのフィルタを通過させ、Buchi Spray Dryerでスプレイ乾燥して、細かい白色のアモルファス粉末を生成した。その結果得られた粉末は、乾燥条件下、しっかりフタをした容器内で保存した(相対湿度10%未満)。
【0030】
粉末の分析
粉末の粒子サイズ分布は、Sedisperse A−11(Micromeritic,Norcross,GA)で粉末を分散させた後、Horiba CAPA−700 Particle size Analyzer(粒子サイズ・アナライザ)で液体遠心分離沈降により測定した。粉末の水分含有量は、Mitsubishi CA−06 Moisture Meter(水分計)を使用してカールフィッシャー(Karl Fischer)法で測定した。
【0031】
粉末処理前および粉末処理後のインシュリンの完全性は、重量を測定した粉末の一部を蒸留水に再溶解し、再溶解した溶液をスプレイ乾燥機に入れた最初の溶液と比較することにより、ヒト・インシュリンの参考標準と対照して測定した。rpHPLCによる保持時間およびピーク面積を使用して、処理中にインシュリン分子が化学的に修飾または分解されていたかどうかを決定した。紫外線吸光度を使用してインシュリン濃度(278nm)および不溶性凝集物の有無(400nm)を決定した。さらに、出発溶液および再溶解溶液の各pHを測定した。インシュリン粉末のアモルファス性は、偏光光学顕微鏡で確認した。
【0032】
ラットエーロゾル暴露
エーロゾル暴露室でラット実験を実施した。メス・ラット(280〜300gm)を一晩絶食させた。動物(21〜24匹/実験)をプレキシガラス(Plexiglas)管に入れ、48穴、鼻専用エーロゾル暴露チャンバ(In−Tox Products,Albuquerque,NM)に入れた。呼吸帯域への気流を7.2〜9.8リットル/分に維持し、マグナヘリック・ゲージで測定したとき、チャンバに僅かな負圧(〜1.5cm H2 O)があるように、真空によって除去した。エーロゾル暴露時間は、チャンバに給送される粉末の量に応じて5〜20分であった。粉末は、小さなベンチュリ・ノズルに手で送り込み、そこで粉末粒子を分散させて細かいエーロゾル雲を形成した。ベンチュリ・ノズルは、1.05kg/cm2 (15psig)を超える圧で操作し、気流は7.2〜9.8リットル/分に設定した。ベンチュリ・ノズルは透き通ったプレキシガラス分散チャンバ(750ml)の底部に取り付け、そこからエーロゾルを鼻専用暴露チャンバ内に直接通過させた。
【0033】
ラット・エーロゾル・チャンバの較正
2リットル/分の真空流で、In−Toxフィルタ・ホルダを用いて、呼吸帯域における複数の定期フィルタ・サンプルを採取して呼吸帯域の粉末濃度を測定した。動物がいる場合と動物がいない場合の両者で、チャンバを較正した。粉末質量は、重量測定法で決定した。呼吸帯域における粉末の粒子サイズは、呼吸穴に設置し、2リットル/分の流量で操作したカスケード衝撃装置(In Tox Products)を用いて測定した。各段階の粉末質量は、重量測定法で決定した。
【0034】
各粉末試験で21〜24匹のラットを使用し、エーロゾル暴露は5〜20分間持続した。ゼロタイムおよびエーロゾル暴露停止後〜7分、15分、30分、60分、90分、120分、180分および240分にラット3匹を屠殺した。動物に麻酔をかけ、開腹し、腹側大動脈から多量の血液サンプルを採取した。次に、頚椎脱臼法で屠殺した。
【0035】
血液を室温で30分間凝固させ、血清分離管内で、3500rpmで20分間、遠心分離した。血清は、直ちに分析するか、あるいは分析するまで−80℃で凍結した。エーロゾル化停止後できるかぎり早く(0〜7分)ラット3匹を屠殺し、その血液を採取し、リン酸緩衝食塩水(PBS)のリンス液5mlで6回、肺を洗浄した。生体内利用率の算出において、最終的にプールされた洗浄サンプルのインシュリン量を、ラットのエーロゾル化量として使用した。
【0036】
霊長類暴露システム
若い、野生のオス・カニクイザルMacaca fascicularis種(2〜5kg)(Charles River Primates,Inc.)を、霊長類エーロゾル試験に使用した(3〜4匹/群)。動物にHumulin(Eli Lilly,Indianapolis,Indiana)を皮下注射をするか、インシュリンの粉末エーロゾルを暴露させた。各々の動物を頭専用暴露ユニットに入れ、動物の最小酸素要求を供給するのに十分な流量(7リットル/分)で試験大気の新鮮供給を与えるため、各々の動物を頭専用暴露ユニットに入れた。動物を垂直坐位に据えるイス様装置に拘束した。フードは透き通っており、動物はその環境を見ることができた。いつでも血液を採取できるように、留置カテーテルを脚に入れた。処置中、サルは完全に目覚めており、平静なようであった。霊長類血液は、ラットと同様に処理した(上記参照)。
【0037】
霊長類エーロゾル暴露システムは、各々のサルが吸入した空気の量を測定できる呼吸モニタを備えている。吸気中のインシュリン濃度の測定値と結びつけて、この値から、各動物が吸入した正確なインシュリン量を計算することが可能である。
【0038】
ヒトの治験
皮下注射ならびにエーロゾル化した乾燥インシュリン粉末の吸入により、インシュリンを正常被験者24名に投与した。各皮下注射は10.4単位のHumilin R、100単位/ml(Eli Lilly,Indianapolis,Indiana)からなるものであった。乾燥インシュリン粉末はアモルファスで、上述の通りにスプレイ乾燥によって調製し、20重量%のマンニトール賦形剤を含んでいた。インシュリン乾燥粉末の投与量(5mg)を高速気流に分散して、チャンバに捕捉される細かいエーロゾルを形成した。各被験者は、各エーロゾル・ボーラスのゆっくりした、深呼吸または「パフ」によりエーロゾル粉末を吸入した。粉末は、3パフで投与した(投与量31.9単位の場合)。下記の通りに、血清インシュリン濃度および血清グルコース濃度を経時的に測定した。
【0039】
血清分析
ヒト・インシュリン用のCoat−A−Countラジオ・イムノアッセイ・キット(Diagnostic Products Corporation,Los Angeles,CA)を使用してラット、霊長類、およびヒトの血清インシュリン濃度を測定した。標準曲線は、各バッチのサンプルを使用して実行した。分析の感度は約43pg/mlであった。アッセイ内変動(%CV)は5%未満である。グルコース分析は、カリフォルニア州West SacramentoのCalifornia Veterinary Diagnostics,IncがBoehringer Mannheim/Hitachi 747 Analyzer用のグルコース/HK試薬システム・パック(Glucose/HK Reagent System Pack)を使用して実施した。検定内変動(%CV)は3%未満である。
【0040】
速度実験で、濃度−時間プロフィールの投与量調整免疫反応インシュリン(IRI)曲線下面積(AUC)を、皮下注射で得られたものと比較することによって、エーロゾルの相対生体内利用率を算出した。ラットの場合、洗浄した総インシュリン質量をエーロゾル化量として使用した。肺を洗浄する前に若干のインシュリンが吸収されたため、この方法で推定された投与量はたぶん総付着量より僅かに過小評価されたものである。この推定される損失の補正は行わなかった。
【0041】
サルの実験で、洗浄した肺インシュリンをエーロゾル化量として使用する代わりに、吸入されたインシュリン総量を使用したこと以外は、上記ラットと同様に、相対生体内利用率を算出した。ラットでは、鼻流路および咽頭に付着したインシュリンではなく、肺に付着した材料だけを投与量推定に含めた。サルでは、動物に入ったすべてのインシュリンを投与量推定に含めた。
【0042】
ラットにおけるインシュリン吸収の結果
動物試験に使用したインシュリン粉末はすべて、粒子サイズ(質量中位径)が1〜3μmで水分含有量が3%未満であった。rpHPLCで測定した粉末のインシュリン純度は97%を超えていた。20%インシュリン製剤の代表的クロマトグラフを、図8のCに示す。純粋な水で溶解したとき、粉末は澄明な溶液となり、400nmにおける紫外線吸光度は0.01未満であり、pHは6.7±0.3であった。20%インシュリン製剤の代表的紫外線(UV)スペクトルを図9に示す。
【0043】
次の3種類のインシュリン粉末製剤を、In−Tox48穴暴露チャンバ内のエーロゾルとして、ラットで試験した。
1.87.9%インシュリン、11.5%クエン酸ナトリウム、0.6%クエン酸。
2.20%インシュリン、66%マンニトール、12.4%クエン酸ナトリウム、0.6%クエン酸。
3.20%インシュリン、66%ラフィノース、12.4%クエン酸ナトリウム、0.6%クエン酸。
【0044】
表1は、呼吸帯域におけるエーロゾルの特徴付けやチャンバ操作条件を含め、異なる3種類のラット暴露試験における重要な測定値の一覧表である。粉末給送中に粉末がぎっしり詰め込まれ、粉末の分散が不完全であったため、壁で損失したので、ベンチュリ・ノズルに給送した粉末の一部がラットの呼吸帯域に到達した(34〜67%)。しかし、呼吸帯域におけるエーロゾルの粒子サイズは肺付着にとって理想的であり(1.3〜1.9μm)、より大きな粒子が動物暴露チャンバで選択的に失われたため、最初の製剤粒子サイズ(2.0〜2.8μm)よりいくらか小さかった。
【0045】
【表1】

【0046】
表2は、3種類のエーロゾル試験と1種類の皮下注射試験の、ラット血清インシュリンおよび血清グルコースの結果を示す。図3のAおよびBは、エーロゾル化した3種類の製剤の血清免疫反応インシュリン(IRI)濃度−時間プロフィールおよびグルコース濃度−時間プロフィールを示す図である。表3は、異なる試験のインシュリンtmax、およびグルコースtmin、ならびに皮下注射と比較したエーロゾルの相対生体内利用率を示す表である。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
3種類の製剤はすべて、ラット全身循環に速やかに吸収されるインシュリンを提供した(図3のAおよびB)。多くの反復実験を実施しなければ、差が有意であったかどうかは不明であるが、20%インシュリン/マンニトール粉末の生体内利用率および糖反応が高かった(表3)。
【0050】
霊長類の結果
エーロゾルの結果と比較する皮下データを得るために、ヒトの治験で使用された投与量と同じ投与量(0.2単位/kg、〜27μg/サル)をサル4匹に注射した(図4のAおよびB)。表4は、サルのエーロゾル暴露データを表す。表5は、エーロゾル暴露試験および皮下試験の平均血清インシュリンおよび平均血清グルコースを示す。エーロゾル化で強力なインシュリンおよびグルコース反応が得られた(高用量)。図4は、2種類のエーロゾル試験および1種類の皮下試験の平均血清インシュリン・プロフィールの比較を示す図である。これらのプロフィールのAUCから、エーロゾル・インシュリンの相対生体内利用率は12%であると算出された。
【0051】
【表4】

【0052】
ヒトの結果
呼吸送給と皮下注射の比較成績を以下の表5に示す。呼吸エーロゾル送給は(20分でピーク)注射(60分でピーク)より速やかに吸収され、糖反応(60分で最低値)も注射(90分で最低値)より速やかであった。再現性は、インシュリンと糖反応の両者で注射よりエーロゾルの方が良くはないとしても、同じくらい良好であった。注射用量は、体重に関して注意深く調節し、エーロゾル用量は調節しなかった。グルコース反応に基づく、注射と比較したエーロゾル・インシュリンの生物学的活性は28〜36%であった。3パフ群の、インシュリン曲線下面積に基づく、注射と比較したエーロゾル・インシュリンの生体内利用率は22.8%であった。
【0053】
【表5】

【0054】
ヒト治験の結果を、さらに図5のA〜Bに表す。図5のAは、皮下注射(○)、吸入(3パフ、●)の、経時的平均血清インシュリンを示す図である。平均血清グルコース濃度を、同様に図5のBに表す。インシュリン・ピークおよびグルコース最低値を、それぞれ図6のAおよびBに示し、血清インシュリンおよびグルコースの被験者間変動を、それぞれ図7のAおよびBに示す。
【0055】
さらに、エーロゾル暴露中のサルの浅呼吸(換気性呼吸)は、深肺付着にとって最適呼吸操作を意味しなかった。予想通り、最適呼吸操作を使用したとき、および鼻吸入よりむしろ経口吸入でエーロゾル・ボーラスを服用したときに、ヒトの生体内利用率が高かった(表5)。
【0056】
前述の発明は、理解しやすいように、例示および実施例によって幾らか詳細に記述してきたが、添付の特許請求の範囲内で、ある一定の変更および修正を加えることができることは明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の方法に従って1回量のインシュリンをエーロゾル化するシステムの略図である。
【図2】図2は、図1のシステムからエーロゾル化されたインシュリンを吸入する患者の略図である。
【図3】図3のAおよびBは、ラットにおける組換えヒト・インシュリンの吸収および異なる3種類の乾燥粉末製剤のエーロゾル化後に生じる糖反応を表すグラフである。各ポイントは、異なるラット3匹の平均値を表す。時間0に、乾燥粉末エーロゾル発生装置をオンにした。5分、14分および20分に、それぞれ87%インシュリン/クエン酸塩、20%インシュリン−マンニトール/クエン酸塩および20%インシュリン−ラフィノース/クエン酸塩のエーロゾル化を完了した。動物を一晩絶食させた。
【図4】図4のAおよびBは、カニクイザルでそれぞれエーロゾル投与と皮下投与を比較する平均血清時間−濃度インシュリンおよび平均血清時間−濃度グルコースの概要を表すグラフである。エーロゾル群の場合、サル3匹の平均値を報告し、皮下投与の場合、サル4匹の平均値を報告した。
【図5】図5のAは、ヒトにおける皮下注射(○)と3パフの吸入(●)の、時間に対する平均インシュリン濃度を表すグラフであり、図5のBは、同図Aのインシュリン濃度に対応する平均グルコース濃度を表すグラフである。
【図6】図6のAは、ヒトにおける皮下注射(○)と3パフのエーロゾル投与(●)の結果としての、時間に対する血清インシュリン濃度を表すグラフであり、図6のBは、同図のAのインシュリン濃度に対応する血清グルコース濃度を表すグラウである。
【図7】図7のAおよびBは、皮下注射(○)とエーロゾル投与(●)の、血清インシュリン濃度(A)とグルコース濃度(7)の被験体間の変動性の比較を提供するグラフである。
【図8】図8のAとBおよびCは、ヒト・インシュリンのrpHPLCクロマトグラムを示す図である。図8のAは25℃の10mM HCl中でストレスを加えたインシュリン標準のクロマトグラフであって、23.87分で溶出するヒト・インシュリンおよび30.47分で溶出する脱アミドインシュリンを示す。図8のBは、ヒト・インシュリン標準の類似のクロマトグラムを示す図である。図8のCは、溶解した、本発明に従って調製したスプレイ乾燥インシュリン製剤の類似のクロマトグラムを示す図である。
【図9】図9は、スプレイ乾燥前とスプレイ乾燥後のインシュリン製剤の紫外スペクトルを示す図である。可視スペクトルで光の散乱は何もみられず、スプレイ乾燥過程でインシュリンが凝集しないことを示した。
【符号の説明】
【0058】
10・・・保持チャンバ
12・・・マウスピース
14・・・空気入り口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺送給用のインシュリンの1回量をエーロゾル化する方法であって、
乾燥粉末としてインシュリンを供給する段階と、
一定量の乾燥粉末をガス流に分散してエーロゾルを形成する段階と、
マウスピースを備えたチャンバにエーロゾルを捕捉する段階とを備え、
前記乾燥粉末の水分含有量が5重量%以下であり、前記乾燥粉末の平均粒子サイズ10μm以下であることを特徴とする、エーロゾル化する方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、インシュリンが、透過増進物質を実質的に含まないことを特徴とするエーロゾル化する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、インシュリンが、5〜99%の範囲の重量濃度でもって、炭水化物、有機塩、アミノ酸、ペプチド、または蛋白を含む乾燥粉末担体中に存在している、ことを特徴とするエーロゾル化する方法。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の方法において、乾燥粉末が、インシュリンと担体材料の両者をそれぞれ含む粒子から構成され、各粒子中にインシュリンが5〜99重量%存在している、ことを特徴とするエーロゾル化する方法。
【請求項5】
肺給送用である、安定した、乾燥粉末インシュリン組成物を調製する方法であって、
インシュリンを水性緩衝液に溶解して溶液を形成する段階と、
前記溶液をスプレイ乾燥して、平均サイズが10μm以下の実質的にアモルファス粒子の形成を、乾燥粉末インシュリンの水分含有量が5重量%以下となるように、行う段階と
を備えることを特徴とする調整方法。
【請求項6】
請求項5記載の調整方法において、
前記インシュリンが、製薬担体と一緒に水性緩衝液に溶解され、
スプレイ乾燥によって、各粒子にインシュリンが5〜99重量%存在して成る乾燥粉末が生成され、
前記製薬担体が、スプレイ乾燥された時に粉末を生成する、炭水化物、有機塩、アミノ酸、ペプチド、または蛋白であり、そして、前記炭水化物が、マンニトール、ラフイノース、ラクトース、マルトデキストリンおよびトレハロースから成るグループから選択され、前記有機塩が、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびアスコルビン酸ナトリウムから成るグループから選択されたものである
ことを特徴とする調整方法。
【請求項7】
肺送給用のインシュリン組成物であって、
スプレイ乾燥をされたアモルファスの粉末インシュリンを、製薬担体材料中に5〜99重量%、それぞれ含んでいる粒子であって、サイズが10μm以下である粒子でもって構成され、その乾燥した粉末インシュリンの水分含有量が5重量%以下である
ことを特徴とする、肺送給用のインシュリン組成物。
【請求項8】
請求項7記載の組成物であって、透過増進物質を実質的に含まないことを特徴とする、インシュリン組成物。
【請求項9】
請求項7または8記載のインシュリン組成物において、
前記製薬担体材料が、マンニトール、ラフィノース、ラクトース、マルトデキストリンおよびトレハロースから成るグループから選択された炭水化物; または、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、およびアスコルビン酸ナトリウムから成るグループから選択された有機塩を、含んでいる
ことを特徴とする、インシュリン組成物。
【請求項10】
平均粒子サイズ10μm以下であり、水分含有量が5重量%以下である乾燥粉末インシュリンを含む、肺送給のための薬剤の製造における乾燥粉末インシュリンの使用。
【請求項11】
請求項10記載の薬剤の製造における使用において、前記乾燥粉末インシュリンは、請求項7〜9の何れか1項に記載のインシュリン組成物である、ことを特徴とする使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−77032(P2006−77032A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350682(P2005−350682)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【分割の表示】特願平7−523456の分割
【原出願日】平成7年2月7日(1995.2.7)
【出願人】(597148884)ネクター セラピューティクス (30)
【Fターム(参考)】