説明

インジェクタ

【課題】エンジンに燃料を供給するインジェクタについて、コストの高騰を招くことなく閉弁時の燃料漏洩を長期間に亘って軽減できるようにする。
【解決手段】シート部110Aを有するシート部材11Aと、弁体部12aを有する弁部材12と、弁部材12を往復動作させるための弁駆動手段とを備えており、弁駆動手段で弁部材12を往復動作させることにより弁体部12aをシート部110Aに密着・離間させて弁の開閉を行い、内部に導入した燃料を噴射してエンジンに供給するインジェクタにおいて、シート部110Aが、表面側に弁体部12a表面を構成する金属よりも硬度の低い金属からなる被膜112を有しており、閉弁動作に伴う弁体部12aの押圧により被膜112が弁体部12aの表面形状に応じて変形し、閉弁時にシート部110A表面と弁体部12a表面とが密着して所定レベル以上のシール性能を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに燃料を噴射、供給するインジェクタに関し、殊に、閉弁時の燃料漏れを所定レベル以下に抑えるインジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに燃料を供給するインジェクタ(燃料噴射弁)は、その開閉弁が主として円錐状のシート部を有したシート部材と、対向して配置されたボール状または円錐状の弁体部(バルブ)を有した弁部材からなり、弁体部表面をシート部表面(シート面)に密着・離間させて弁の開閉を行う構成となっているのが一般的である。
【0003】
図4は、このような従来のインジェクタにおける開閉弁10Bの構成を示しており、弁部材12先端側の弁体部12aをシート部110B表面から間歇的にリフトさせることで流量を調整しながらエンジンに燃料を供給するようになっている。また、エンジン停止時には、弁体部12a表面がシート部110B表面に密着することによりシール機能を発揮して燃料を遮断する。
【0004】
しかし、斯かるシート部材11Bにおいて、シート面を形成するシート部110Bは、切削等による加工によって地金表面111に成形されることからその表面状態が加工精度のレベルに依存しており、図4の円中に示すように地金表面111の加工精度が粗く凹凸が比較的大きい場合には、弁体部12a表面とシート部110B表面との密着部分に隙間が生じ、この部分を伝って燃料が漏洩することが知られている。
【0005】
そのため、シート部110B表面の加工に際し、仕上げ精度を高くして面粗度を所定レベル以上に向上させたり、特開平7−229578号公報に記載されているようにシート部に弾性素材からなるシール部材を設けたりして、閉弁時のシール性能を所定レベル以上に確保するのが一般的である。
【0006】
しかしながら、シート部110B表面の仕上げ精度を高める場合は、比較的高水準の加工技術・製造設備が必要になることからコスト高を招いてしまう。また、シート部110Bにシール部材を設ける場合には、部品点数が増加してコスト高を招くことに加え、シール部材が劣化しやすいことから経年によりシール性能の低下を招いてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−229578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、エンジンに燃料を供給するインジェクタについて、コストの高騰を招くことなく閉弁時の燃料漏洩を長期間に亘って軽減できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、シート部を有するシート部材と、弁体部を有する弁部材と、前記弁部材を往復動作させるための弁駆動手段とを備えており、前記弁駆動手段により弁部材を往復動作させることにより弁部材の弁体部を対向して配置させたシート部材のシート部に密着・離間させて弁の開閉を行い、内部に導入した燃料をエンジンに噴射させることにより供給するインジェクタにおいて、前記シート部は、表面側に前記弁体部の表面を構成する金属よりも硬度の低い金属からなる被膜を有しており、閉弁動作に伴う前記弁体部の押圧により前記被膜を前記弁体部の表面形状に応じて変形させ、閉弁時に前記シート部表面と前記弁体部表面とが密着して所定レベル以上のシール性能を発揮させることとした。
【0010】
このように、シート部表面に弁体部表面よりも硬度の低い金属で被膜を設け、閉弁動作に伴う弁体部の押圧で被膜が変形することにより閉弁時に弁体部表面とシート部表面とが高精度で密着するものとして、高度且つ精密なシート面の加工を要したり弾性素材からなるシール部材を追加したりすることなく、閉弁時のシール性能を長期間に亘って所望レベル以上に確保しやすいものとなる。
【0011】
また、この場合、その被膜は銅合金からなることを特徴としたものとすれば、加工容易且つ低コストで閉弁時の良好なシール性能を発揮しやすいものとなり、さらに、この銅合金にはゲルマニウムが10〜99重量%含まれることを特徴としたものとすれば、硬度の調整が容易であることに加え腐蝕に強く耐久性に優れたものとなる。
【0012】
さらにまた、上述したインジェクタにおいて、そのシート部表面側の皮膜と地金表面との間にクロム薄膜処理による層が設けられていることを特徴としたものとすれば、閉弁時のシール性能をより高めやすいとともに、より耐久性に優れたものとなる。
【0013】
加えて、上述したインジェクタにおいて、シート部の地金表面は、面粗度が0.8S〜6.3Sに仕上げられていることを特徴としたものとすれば、使用により比較的柔らかい被膜が変形しながらすり減っても、比較的粗く仕上げられた地金表面に被膜を構成した金属が滑り込んでその多くが残存するため、長期間に亘り閉弁時のシール性能が一層確保されやすいものとなる。
【発明の効果】
【0014】
シート部表面に弁体部表面の金属よりも硬度の低い金属による被膜を設けた本発明によると、コストの高騰を招くことなく閉弁時の燃料漏洩を長期間に亘って軽減することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における実施の形態であるインジェクタの開閉弁の構成を示す部分縦断面図であり、円中はそのシート部と弁体部が密着する部分の構成を示す部分拡大図である。
【図2】図1のインジェクタのシート部と弁体部が密着する部分の使用初期の状態を示す部分拡大図である。
【図3】図1のインジェクタのシート部と弁体部が密着する部分の使用過程の状態を示す部分拡大図である。
【図4】従来例におけるインジェクタの開閉弁の構成を示す部分縦断面図であり、円中はそのシート部と弁体部が密着する部分の状態を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明における実施の形態であるインジェクタの開閉弁10Aの構成を示している。本実施の形態のインジェクタは、図示しない電磁コイル、固定鉄心、可動鉄心等からなる弁駆動手段を備えており、この弁駆動手段の可動鉄心とともに中心軸線に沿って往復摺動する弁部材12の先端側が、鋼球等からなる弁体部12aを構成しており、その下流側に配置されたシート部材11Aを円錐状に切り欠いた形状のシート部110A表面(シート面)に密着・離間させることにより、閉弁・開弁を行うようになっている。
【0018】
以上の構成は、図4に示した従来のインジェクタと同様であり既に周知のものであるが、本実施の形態においては、その開閉弁のうちシート部材11Aにおいてシート面を形成するシート部110Aの構成が異なる。即ち、シート部材11Aには、弁部材12に対向する面から円錐状に切り欠かれて弁体部12aが着座するシート面が形成されており、このシート面を形成するシート部110Aが、その表面側に弁体部12a表面を構成している金属及びシート部材11Aを構成している金属よりも硬度の低い金属からなる皮膜112を有しており、開弁動作に伴う弁体部12aの押圧により、この皮膜112が弁体部12a表面形状(球面)に応じて僅かに変形するため、シート部110A表面と弁体部12a表面とが密着しやすいようになっている。
【0019】
この皮膜112を構成する金属としては、例えばシート部材11A及び弁部材12が鋼鉄製(ステンレスを含む)である場合には、これよりも硬度が低く適度な変形が生じることに加え加工容易で製造コストが低廉な銅合金(銅系金属)が好適であり、殊に、その銅合金としてゲルマニウムを10〜99重量%の範囲で含有したものが、硬度を適度なレベルに調整しやすいとともに腐蝕に強く長期間に亘って耐久性を確保しやすい点で推奨される。
【0020】
また、この被膜112は、シート部110Aの基部を構成する地金表面111に薄膜処理として直接設けることの他、図1円中に示すように、地金表面111と皮膜112の間に薄いクロムメッキ層113を設けることにより、閉弁時のシール性能及び耐久性を一層確保しやすいものにすることができる。
【0021】
そして、シート部110Aの地金表面111は、その面粗度が0.8S〜6.3Sの範囲で比較的粗い状態に仕上げることにより、使用に伴い弁体部12aとの摩擦で被膜112が変形しながらすり減るような場合でも、地金表面111に形成された凹凸の凹部に被膜112を構成していた金属が滑り込んでその多くが残存するため、より長期間に亘って閉弁時のシール性能を確保できるものとなる。
【0022】
図2,3を用いながら本実施の形態におけるインジェクタの特徴部分による作用を詳細に説明すると、図2は本実施の形態についてのインジェクタの使用におけるシート部110Aの初期状態でありその弁体部12aとシート部110Aとが密着した閉弁時の状態を示している。前述したように、シート部110A最上層の被膜112は、弁体部12a表面よりも硬度が低く柔らかいため、閉弁時の弁体部12aの押圧力により僅かに潰れて弁体部12a表面との密着度が増す。そのため、図4に示した従来例と比べてシール性能が高いものとなる。
【0023】
そして、図3は図2の状態からある程度の使用期間を経た後のシート部110Aにおける使用過程の状態を示しているが、このインジェクタの使用過程において弁体部12aとシート部110Aとの度重なる衝突作用により、比較的柔らかい被膜112は変形しながら摩耗していく。しかし、地金表面111の仕上げ精度が粗いことから、その凹凸の凹部に被膜112を構成していた金属が滑り込むことでその多くは残存し、その密着性の高さを維持して長期間に亘って高いシール性能が確保される。
【0024】
このように、本実施の形態のインジェクタは、その開閉弁10Aを構成するシート部材11Aのシート面110Aが極めて簡易な構成からなり、これを形成するために高度な技術や設備は必要とせず、且つ、劣化しやすい弾性素材からなるシート部材を使用することもなく、低コストで閉弁時のシール性能を長期間に亘って確保することが可能となる。
【0025】
以上、述べたように、エンジンに燃料を供給するインジェクタについて、本発明により、コストの高騰を招くことなく閉弁時の燃料漏洩を長期間に亘って回避できるようになった。
【符号の説明】
【0026】
10A 開閉弁、11A シート部材、12 弁部材、12a 弁体部、110A シート部、111 地金表面、112 被膜、113 クロムメッキ層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部を有するシート部材と、弁体部を有する弁部材と、前記弁部材を往復動作させるための弁駆動手段とを備えており、前記弁駆動手段により弁部材を往復動作させることにより弁部材の弁体部を対向して配置させたシート部材のシート部に密着・離間させて弁の開閉を行い、内部に導入した燃料をエンジンに噴射させることにより供給するインジェクタにおいて、前記シート部は、表面側に前記弁体部の表面を構成する金属よりも硬度の低い金属からなる被膜を有しており、閉弁動作に伴う前記弁体部の押圧により前記被膜を前記弁体部の表面形状に応じて変形させ、閉弁時に前記シート部表面と前記弁体部表面とが密着して所定レベル以上のシール性能を発揮させることを特徴とするインジェクタ。
【請求項2】
前記被膜が銅合金からなることを特徴とする請求項1に記載したインジェクタ。
【請求項3】
前記銅合金にはゲルマニウムが10〜99重量%含まれていることを特徴とする請求項2に記載したインジェクタ。
【請求項4】
前記シート部表面側の皮膜と地金表面との間にクロム薄膜処理層が設けられていることを特徴とする請求項1,2または3に記載したインジェクタ。
【請求項5】
前記シート部の地金表面は、面粗度が0.8S〜6.3Sに仕上げられていることを特徴とする請求項1,2,3または4に記載したインジェクタ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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