説明

インダクタ及びその製造方法

【課題】製作が簡易で、小型化が実現できるとともに、コモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズを有効に除去するインダクタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係わるインダクタは、閉磁路磁芯と、前記閉磁路に巻回されたコイル対と、前記閉磁路磁芯と前記コイル対の少なくとも一部を覆う磁性体とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ及びその製造方法に関し、特に、電子ノイズを除去するインダクタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路がパワーサプライや電力コンバータなどの電子装置に広く適用されるようになっているが、このような回路が高周波の切換によく操作されるため、電磁干渉(Electro Magnetic Interference, EMI)が発生しやすくなり、電子装置の正常操作に支障を与える。なお、電磁干渉は、伝送方式によって、輻射性(Radiated)と伝導性(Conducted)二種類に分けられる。輻射性電磁干渉は、開放空間から直接伝送されるが、伝導性電磁干渉は、導線を経由して伝送される。
【0003】
伝導性電磁干渉は、一般に、ノイズ電流の伝導経路によって、コモンモードノイズ(Common-mode noise)とディファレンシャルモードノイズ(Differential-mode noise)に分けられる。ディファレンシャルモードノイズは、2本の導線の電流方向が互いに逆向きのときに生じるものであるが、コモンモードノイズは、全ての導線の電流方向が同じであるときに生じるものである。電磁干渉を有効に除去するために、従来、様々なインダクタが開示され、その構造は、一般にコイル対が環状磁芯または棒状磁芯に巻回されてなる。
【0004】
図1は、従来のコモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズを除去する機能を有するインダクタ1を示す図である。図1に示すように、インダクタ1は、第1の円環状磁芯10と、第2の円環状磁芯11と、コイル対12とを備える。なお、第2の円環状磁芯11は、環状フレーム111と、コイル対12の間において環状フレーム111の対向部を連結する導磁部112とを有する。第2の円環状磁芯11は、スペーサ(spacer)13を介して、第1の円環状磁芯10の内側に設けられる。コイル対12は、第1の円環状磁芯10と第2の円環状磁芯11の両方を巻回するように設けられる。
第1の円環状磁芯10は、高透磁率材から構成され、コモンモードノイズを除去するために用いられるが、第2の円環状磁芯11は、低透磁率材から構成され、ディファレンシャルモードノイズを除去するために用いられる。
【0005】
図1に示すように、コモンモードノイズ電流I1、I2が矢印に示すようにコイル対12を流れると、第1の円環状磁芯10で磁束ψ1、ψ2が生じ、閉磁路で循環することにより熱エネルギー(heat energy)に変換して、そして、渦流により消耗されるため、コモンモードノイズ電流が次第に弱くなり、コモンモードノイズを除去することができる。
【0006】
また、図2に示すように、ディファレンシャルモードノイズ電流I3が矢印に示すようにコイル対12を流れると、第2の円環状磁芯11で磁束ψ3とψ4が生じ、第2の円環状磁芯11の環状フレーム111の左半部または右半部と導磁部112とから構成された閉磁路で循環することにより熱エネルギーに変換して、そして、渦流により消耗されるため、ディファレンシャルモードノイズ電流が次第に弱くなり、ディファレンシャルモードノイズを除去することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したインダクタの構造は、組み立てが複雑でコストも高く、さらに電子装置の小型化に不利である。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、製作が簡易で、小型化が実現できるとともに、コモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズを有効に除去するインダクタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係わるインダクタは、閉磁路磁芯と、前記閉磁路に巻回されたコイル対と、前記閉磁路磁芯と前記コイル対の少なくとも一部を覆う磁性体とを備える。
【0010】
また、本発明に係わるインダクタは、閉磁路磁芯と、前記閉磁路磁芯の少なくとも一部を覆う磁性体とを有する磁性本体と、前記磁性本体に巻回されたコイル対とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインダクタによれば、磁性プラスチックまたは磁性テープである磁性体がコイル対を巻回する閉磁路磁芯を覆ったり、磁性体が閉磁路磁芯を覆ってからコイル対を巻回したりすることにより、コモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズを同時に除去することができる。また、本発明のインダクタは、射出成形方法、注型方法や巻回方法などの方法によって磁性体を閉磁路磁芯に形成することができるため、従来の技術と比べて、組立の工数を削減することもできる。さらに、本発明の構造が小型化の製作に有利であるため、コモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズを同時に除去する効果を有するほかに、製作コストを低減し、製品の歩留まりを向上することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施例におけるインダクタ及びその製造方法について説明する。
【実施例1】
【0013】
図3は、本発明の実施例1におけるインダクタ2を示す図である。図3に示すように、インダクタ2は、円環状の閉磁路磁芯20と、コイル対22と、磁性体21とを備える。
コイル対22は、閉磁路磁芯20に巻回される。本実施例において、コイル対22は、一つのコイル221が閉磁路磁芯20の左半部に巻回され、もう一つのコイル222が閉磁路磁芯20の右半部に巻回される。
【0014】
閉磁路磁芯20は、コイル対22を流れるコモンモードノイズ電流に閉磁路を発生させることにより、コモンモードノイズを除去する。本実施例において、閉磁路磁芯20は、円環状であるが、それに限らず、閉磁路を形成することができれば、いずれの形状でもよい。例えば、中空方形状や中空の不規則形状などである。また、閉磁路磁芯20の材料は、磁性フェライト(ferrite)または非晶質材料である。ここで、磁性フェライトは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化コバルト及びその組み合わせのグループから選ばれたものである。
【0015】
磁性体21は、閉磁路磁芯20とコイル対22の少なくとも一部を覆う。なお、磁性体21は、少なくとも一つの磁性材料を樹脂と混合してなる。上記磁性材料は、鉄、シリコン、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、及びその酸化物と上述した材料の組み合わせのグループから選ばれたものである。上記樹脂は、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂である。磁性体21の材料は、磁性テープまたは磁性プラスチックである。本実施例において、磁性材料と樹脂を混合してなる磁性体21は、金型を利用して、射出成形方法または注型方法によって閉磁路磁芯20を覆う。
【0016】
図3に示すように、磁性体21は、フレーム211と導磁部212とを有する。フレーム211は、閉磁路磁芯20とコイル対22の全体を覆うような環状に形成されてもよい。導磁部212は、コイル対22の中間部を連結するようにして、フレーム211の内部に設けられ、フレーム211内に二つの空間231、232を形成することによって、コイル対22を流れるディファレンシャルモードノイズ電流に2つの閉磁路を発生させ、ディファレンシャルモードノイズを除去する効果を果たす。
【0017】
図4に示すように、磁性体21の材料は、例えば、磁性テープであり、閉磁路磁芯20の周辺または全体(図示せず)を囲む。磁性体21は、上述したように、フレームと導磁部とを有する構造を形成してもよい。
【実施例2】
【0018】
図5は、本発明の実施例2におけるインダクタ3を示す図である。図5に示すように、インダクタ3は、磁性本体30と、コイル対33とを備える。
【0019】
磁性本体30は、閉磁路磁芯31と、磁性体32とを有する。磁性体32は、閉磁路磁芯31の少なくとも一部を覆う。上述したように、磁性体32は、少なくとも一つの磁性材料を樹脂と混合してなる。本実施例において、磁性体32は、射出成形方法または注型方法によって、フレーム321と導磁部322とを有する構造を形成する。なお、導磁部322は、コイル対33の中間部を連結するようにして、フレーム321の内側を分割することにより、二つの空間341、342を形成する。また、本実施例において、磁性体32は、巻回方法によって閉磁路磁芯31を覆う磁性テープを有することもできる。
【0020】
閉磁路磁芯31と磁性体32は、その構成、機能、材料及び特徴が上述した閉磁路磁芯20と磁性体21と同様なので、その説明を省略する。
【0021】
コイル対33は、磁性本体30に巻回される。本実施例において、コイル対33は、一つのコイル331が導磁部322によって分割された空間341を貫通して磁性本体30の左半部に巻回され、もう一つのコイル332が導磁部322によって分割されたもう一つの空間342を貫通して磁性本体30の右半部に巻回される。
【0022】
上述したように、閉磁路磁芯31は、コモンモードノイズを除去する効果を提供するが、磁性体32は、ディファレンシャルモードノイズを除去する効果を提供する。
【0023】
図6に示すように、インダクタ3の磁性本体30は、さらに、ケーシング35を含んでいてもよい。閉磁路磁芯31と磁性体32は、ケーシング35の中に設けられる。ここで、コイル対33がケーシング35に巻回される。なお、ケーシング35は、例えばプラスチックのような絶縁材料から構成される。
【0024】
以上、本発明の実施例を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更などがあっても、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来のインダクタにおいて、コモンモードノイズを除去する磁路を説明する図である。
【図2】図1のインダクタにおいて、ディファレンシャルモードノイズを除去する磁路を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1おけるインダクタを示す図である。
【図4】図3のインダクタにおいて、磁性体が磁性テープである態様を示す図である。
【図5】本発明の実施例2におけるインダクタを示す図である。
【図6】図5のインダクタにおいて、磁性本体がさらにケーシングを含む態様を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 インダクタ
10 第1の円環状磁芯
11 第2の円環状磁芯
111 環状フレーム
112 導磁部
12 コイル対
13 スペーサ
2 インダクタ
20 閉磁路磁芯
21 磁性体
211 フレーム
212 導磁部
22 コイル対
221 コイル
222 コイル
231 空間
232 空間
3 インダクタ
30 磁性本体
31 閉磁路磁芯
32 磁性体
321 フレーム
322 導磁部
33 コイル対
331 コイル
332 コイル
341 空間
342 空間
35 ケーシング
I1 コモンモードノイズ電流
I2 コモンモードノイズ電流
I3 ディファレンシャルモードノイズ電流
ψ1 磁束
ψ2 磁束
ψ3 磁束
ψ4 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉磁路磁芯と、
前記閉磁路に巻回されたコイル対と、
前記閉磁路磁芯と前記コイル対の少なくとも一部を覆う磁性体とを備えることを特徴とする、インダクタ。
【請求項2】
前記磁性体は、少なくとも一つの磁性材料を樹脂と混合してなり、前記磁性材料は、鉄、シリコン、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、及びその酸化物と上述した材料の組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記磁性体の材料は、磁性テープまたは磁性プラスチックであることを特徴とする、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項5】
前記磁性体は、フレームと、導磁部とを有し、前記導磁部は、前記フレームを二つの部分に分割して、前記コイル対がそれぞれ前記二つの部分に巻回されることを特徴とする、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項6】
前記閉磁路磁芯の材料は、磁性フェライトまたは非晶質材料であり、前記磁性フェライトは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化コバルト及びその組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項7】
閉磁路磁芯と、前記閉磁路磁芯の少なくとも一部を覆う磁性体とからなる磁性本体と、前記磁性本体に巻回されるコイル対とを備え、
前記磁性体は、少なくとも一つの磁性材料を樹脂と混合してなり、または、磁性テープまたは磁性プラスチックから構成される、インダクタ。
【請求項8】
前記磁性材料は、鉄、シリコン、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、及びその酸化物と上述した材料の組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項7に記載のインダクタ。
【請求項9】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項7に記載のインダクタ。
【請求項10】
前記磁性体は、フレームと、導磁部とを有し、前記導磁部は、前記フレームを二つの部分に分割して、前記コイル対がそれぞれ前記二つの部分に巻回されることを特徴とする、請求項7に記載のインダクタ。
【請求項11】
前記閉磁路磁芯の材料は、磁性フェライトまたは非晶質材料であり、前記磁性フェライトは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化コバルト及びその組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項7に記載のインダクタ。
【請求項12】
前記磁性本体は、さらに、絶縁材料からなるケーシングを有し、前記閉磁路磁芯と前記磁性体が前記ケーシング内に設けられることを特徴とする、請求項7に記載のインダクタ。
【請求項13】
閉磁路磁芯を用意するステップと、
前記閉磁路磁芯にコイル対が巻回されるステップと、
磁性体が前記閉磁路磁芯と前記コイル対の少なくとも一部を覆うステップとを含むことを特徴とする、インダクタの製造方法。
【請求項14】
前記磁性体は、少なくとも一つの磁性材料を樹脂と混合してなり、射出成形方法または注型方法によって前記閉磁路磁芯と前記コイル対の少なくとも一部を覆うことを特徴とする、請求項13に記載のインダクタの製造方法。
【請求項15】
前記磁性材料は、鉄、シリコン、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、及びその酸化物と上述した材料の組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項14に記載のインダクタの製造方法。
【請求項16】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項14に記載のインダクタの製造方法。
【請求項17】
前記磁性体は、磁性テープであり、巻回方法によって前記閉磁路磁芯と前記コイル対の少なくとも一部を覆うことを特徴とする、請求項13に記載のインダクタの製造方法。
【請求項18】
前記磁性体は、フレームと、導磁部とを有し、前記導磁部は、前記フレームを二つの部分に分割することを特徴とする、請求項13に記載のインダクタの製造方法。
【請求項19】
前記閉磁路磁芯の材料は、磁性フェライトまたは非晶質材料であり、前記磁性フェライトは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化コバルト及びその組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項13に記載のインダクタの製造方法。
【請求項20】
閉磁路磁芯を用意するステップと、
磁性体が前記閉磁路磁芯の少なくとも一部を覆うことにより磁性本体を形成するステップと、
前記磁性本体にコイル対が巻回されるステップとを含むことを特徴とする、インダクタの製造方法。
【請求項21】
前記磁性体は、少なくとも一つの磁性材料を樹脂と混合してなり、射出成形方法または注型法によって前記磁性本体の少なくとも一部を覆うことを特徴とする、請求項20に記載のインダクタの製造方法。
【請求項22】
前記磁性材料は、鉄、シリコン、コバルト、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、及びその酸化物と上述した材料の組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項21に記載のインダクタの製造方法。
【請求項23】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項21に記載のインダクタの製造方法。
【請求項24】
前記磁性体は、磁性テープであり、巻回方法によって前記磁性本体の少なくとも一部を覆うことを特徴とする、請求項20に記載のインダクタの製造方法。
【請求項25】
前記磁性体は、フレームと、導磁部とを有し、前記導磁部は、前記フレームを二つの部分に分割して、前記コイル対がそれぞれ前記二つの部分に巻回されることを特徴とする、請求項20に記載のインダクタ製造方法。
【請求項26】
前記閉磁路磁芯の材料は、磁性フェライトまたは非晶質材料であり、前記磁性フェライトは、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化コバルト及びその組み合わせのグループから選ばれたものであることを特徴とする、請求項20に記載のインダクタ製造方法。
【請求項27】
前記コイル対が前記磁性本体に巻回される前に、ケーシングで前記磁性本体を覆うことを特徴とする、請求項20に記載のインダクタ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−150307(P2007−150307A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315369(P2006−315369)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(502330713)台達電子工業股▲ふん▼有限公司 (54)
【Fターム(参考)】