説明

インダクタ

【課題】 DC−DCコンバータに使用されるインダクタの電源効率の低下を防止するとともに、供給可能な電流を維持しつつ、さらなる小型化、低背化を実現する。
【解決手段】 巻き回されるコイルの代わりに、インダクタコア11の各脚部の間の領域を巻き回さずに貫通する導体14を2本以上設け、そこに電流を流す構成とする。前記導体14は巻き回されたコイルに比べて全長が短いため、回路内における直流抵抗を小さくすることが可能である。また前記インダクタコア11の中に、磁気バイアスの効果をもたらす永久磁石15を形成する構成とすることで、磁気バイアスによるインダクタコア11の飽和磁束密度の向上を実現し、インダクタの小型化、低背化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電子機器の電源回路を構成するDC−DCコンバータに使用される、小型低背のインダクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のコイル部品を使用して構成されるDC−DCコンバータは、小型でありながら20A、30Aといった大電流を供給することができることから、各種情報機器におけるCPU(中央演算処理装置)の駆動用電源などとして、プリント基板上に実装して使用する需要が高まっている。
【0003】
CPUを初めとするLSI(大規模集積回路)は、近年、消費電力の低減を目的にその駆動電圧を下げる傾向にある。駆動電圧の低下に伴い、駆動に必要な所要電流が増加して数十Aに達するようになり、その結果、DC−DCコンバータの出力端子からCPU、LSIの電源端子までの区間における電圧降下が問題視されるようになった。この問題を解決するために、DC−DCコンバータは、できる限りCPUやLSIの直近に設置されるようになっている。その結果、DC−DCコンバータを構成する各部品は、ユーザ側のレイアウトの関係から小型で低背のものが求められている。
【0004】
一般にプリント基板に実装されるDC−DCコンバータは、FET(電界効果トランジスタ)とインダクタから構成されるが、この中ではインダクタが大きな容積を占めており、DC−DCコンバータの小型化、低背化のためにはインダクタの容積の減少が必要である。このインダクタの容積の減少を回路構成により実現する手段としては、マルチフェーズ方式を採用したDC−DCコンバータが知られている。一般にプリント基板上に実装されるDC−DCコンバータは1つのFETと1つのインダクタとにより構成されるが、この構成にて大きな電流を賄うためにはインダクタを著しく大型化する必要がある。マルチフェーズ方式は回路構成を2系統に分け、インダクタも2つ使用することで各インダクタを小型化する方法である。
【0005】
以下、マルチフェーズ方式について、出力30Aの2フェーズのDC−DCコンバータを用いた場合を例に説明する。2フェーズのDC−DCコンバータは入力された電流をまず2つに分流させ、15Aの出力容量をもつFETとインダクタにて構成される、2系統の回路によって各々電力変換を行い、変換された電流を合成し、1系統の平滑コンデンサ部に入力することで直流の出力を得る構成となっている。ここで各々のFETにおけるONとOFFのタイミングは互いに半周期ずらして行われるため、それらを合成することにより、平滑コンデンサにはスイッチング周波数の2倍の周波数の三角波が入力されることとなる。
【0006】
マルチフェーズ方式ではFET、インダクタ、平滑コンデンサに掛かる負担を各々低減させることができるが、平滑コンデンサ以外の部品点数が倍増することになるために実装面積が増大し、また製造コストも増大するという問題がある。この問題点を解決すべく提案された、カップリングインダクタを用いる新たな回路方式のDC−DCコンバータが、非特許文献1に開示されている。ここで開示されているカップリングインダクタとは、例えば前記2フェーズ方式の回路においては2つ必要となるインダクタの機能を、1つのインダクタコアとそこに巻き回される2つのコイルにより実現したものである。この機能は、インダクタコアの中脚部と外脚部のエアギャップ量を変化させることにより、2つのコイルの相互インダクタンスとリーケージインダクタンスの大きさを各々調整することで実現している。以下、図5をもとにこの方式におけるインダクタの構成を説明する。
【0007】
図5において、カップリングインダクタ51はE型コア52およびI型コア53から構成され、2ヶ所の外脚部にはそれぞれコイル54,55が設けられている。また2ヶ所の外脚部にはギャップ56,57がそれぞれ形成されているほか、中脚部にもギャップ58が形成されている。コイル54によってカップリングインダクタ51には2種類の磁束φa,φcが形成され、同様にコイル55によって磁束φb,φdが形成される。ここでギャップ56,57とギャップ58の各ギャップ長を各々変えることで、コイル54,55間での結合係数を調整する。これにより、コイル54への電流印加時に、コイル54を出発して中脚部を経由して戻る磁束φaと、同じくコイル54を出発してコイル55に達し、そこに励磁電流を誘導するφcとの磁束量の割合を調整することができる。コイル55への電流印加時にも同様に、磁束φbと、コイル54に達してそこに励磁電流を誘導するφdとの磁束量の割合を調整することができるため、コイル54,55における励磁電流をそれぞれ制御することができる。
【0008】
一方、インダクタの容積の減少をインダクタコアの構成によって実現する手段として、特許文献1に開示されている磁気バイアスを用いる方法が知られている。この方法は、インダクタコアにギャップを設けてそこに永久磁石を設置することにより、巻き回されるコイルが形成する磁束とは逆向きの磁束を、インダクタコア内に予め形成しておく方法である。これによってインダクタコアの飽和磁束密度を実質的に増大させることができるため、コイルに流すことのできる電流の上限が増加する。従って電気特性が同一のDC−DCコンバータであれば、構成するインダクタの容積を減少させて小型化、低背化を実現することができる。以下、図6をもとに磁気バイアス方式におけるインダクタの構成を説明する。
【0009】
図6において、インダクタ61は同形状の2つのE型コア62,63およびコイル64により構成されており、コイル64は中脚部を巻き回して設けられている。中脚部にはギャップが設けられ、その中に前記ギャップと同形状の永久磁石65が設置されている。インダクタ61内において、永久磁石65が形成する磁束は、コイル64によって生じる磁束と互いに向きが逆になるよう設定されている。そのため、インダクタ61が磁気飽和しない範囲でコイル64により生じさせることのできる磁束は、永久磁石65が存在しない場合に比べて、同磁石によって相殺される磁束に相当する本数だけ大きくなる。
【0010】
【非特許文献1】Pit-Leong Wong, Peng Xu, Bo Yang, and Fred C. Lee, IEEE TRANSACTIONS ON POWER ELECTRONICS, VOL.16 NO.4, P.499-507, 2001, Performance Improvements of Interleaving VRMs with Coupling Inductors
【特許文献1】特開2002−164221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記非特許文献1に開示されているインダクタには次のような欠点がある。即ち、コイルを外脚部に巻き回した構成としているために、コイルにおける直流抵抗が大きくなり、結果としてDC−DCコンバータの電源効率の低下を招いてしまう。さらに2つのコイルをインダクタコアにそれぞれ巻き回す構造であるので、それに伴ってインダクタの外形寸法が大きくなり、結果としてDC−DCコンバータの実装面積が増大することとなる。
【0012】
また前記特許文献1に開示されている、インダクタの磁気回路中に永久磁石を設けた磁気バイアスの構成についてはとくに問題点は見出されていないが、DC−DCコンバータに関する小型化、低背化のさらなる要求に対応するためには、磁気バイアスの技術を単独に用いるだけではなく、他の小型化に関する技術と組み合わせることにより、より大きな効果を得ることができないか検討する余地が残されている。
【0013】
従って、本発明の目的は、DC−DCコンバータに使用されるインダクタに関し、マルチフェーズ方式を用いる場合における上記課題を解決し、電源効率の低下を招くことがなく、また供給可能な電流を維持したままでさらなる小型化、低背化を達成可能なインダクタの構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明において、E型コアどうし、もしくはE型コアとI型コアとを組み合わせて形成されるインダクタコアに巻き回されるコイルに代えて、前記インダクタコアの各脚部の間の領域を巻き回さずに貫通する導体を2本以上設け、そこに電流を流す構成とする。前記導体は巻き回されたコイルに比べて全長が短いことから、回路内に生じる直流抵抗を小さくすることが可能である。また前記インダクタコアの中に磁気バイアスの効果をもたらす永久磁石を設けることで、磁気バイアスによる飽和磁束密度の向上と、それに伴うインダクタコアの小型化、低背化を図ることができる。
【0015】
また前記非特許文献1に記載された、カップリングインダクタの技術を利用するために、インダクタコアを構成する各脚部のうち少なくとも1ヶ所にエアギャップを設け、インダクタコアを貫通する各導体における、相互インダクタンスとリーケージインダクタンスとを最適化するよう調整することが可能な構成とする。
【0016】
さらに前記特許文献1に記載された、永久磁石による磁気バイアスの効果を用いて、インダクタコアの各所における飽和磁束密度を実質的に増大させる従来技術を適用し、インダクタコアを構成する各脚部のうち少なくとも1ヶ所にギャップを設けて、そこに永久磁石を配置する。これにより前記導体によってインダクタコアに生じる起磁力と対向する向きに、この永久磁石による磁束を生じさせることができ、これによりインダクタコアの飽和磁束密度の実質的な増大を図り、結果的にインダクタの小型化、低背化を図ることができる構成とする。
【0017】
即ち、本発明は、3以上の脚部と、前記各脚部の一端部どうしを連結する胴部とを有する略同形状の2つの磁性体コアを、互いに前記脚部を対向させて一対に突き合わせてなるインダクタコアを有し、前記各脚部の突き合わせ位置のうち1以上にギャップが形成されているインダクタにおいて、前記ギャップのうち1以上の位置に永久磁石が配置されており、前記インダクタコアにおける前記脚部の間の領域を巻き回すことなく貫通する導体を2本以上有してなることを特徴とするインダクタである。
【0018】
また、本発明は、3以上の脚部と、前記各脚部の一端部どうしを連結する胴部とを有する磁性体コアの前記脚部を、板状の磁性体コアに対向させて一対に突き合わせてなるインダクタコアを有し、前記脚部の突き合わせ位置のうち1以上にギャップが形成されているインダクタにおいて、前記ギャップのうち1以上の位置に永久磁石が配置されており、前記インダクタコアにおける前記脚部の間の領域を巻き回すことなく貫通する導体を2本以上有してなることを特徴とするインダクタである。
【0019】
さらに、本発明は、前記ギャップの中に、前記永久磁石が配置されていないエアギャップを少なくとも1以上有することを特徴とするインダクタである。
【0020】
さらに、本発明は、前記永久磁石が配置された前記ギャップの中に、配置された永久磁石の厚さよりも大きな間隔を有するギャップを少なくとも1以上有することを特徴とするインダクタである。
【0021】
さらに、本発明は、固有保磁力が790kA/m以上、キュリー温度が500℃以上、レーザー回折・散乱法により測定された平均粒径が2.5〜25μmであって、かつ最大粒径が50μm以下である希土類磁石粉末が、Zn、Al、Bi、Ga、In、Mg、Pb、Sb、およびSnの中の少なくとも1種を含む金属あるいは合金層、もしくは軟化点が220℃以上550℃以下の無機ガラス層、もしくは前記金属あるいは合金層と、融点が300℃以上の非金属無機化合物層との複合層から選択される被覆層によって被覆され、前記被覆された希土類磁石粉末において、前記被覆層は体積比において0.1%ないし10%を占めており、前記被覆された希土類磁石粉末が、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族系ポリアミド樹脂、液晶ポリマーから選択された、少なくとも1種類の樹脂からなるバインダに分散されることで、前記永久磁石が形成されており、前記永久磁石において、前記バインダは体積比において30%以上を占めており、前記永久磁石の比抵抗が0.1Ωcm以上であることを特徴とするインダクタである。
【0022】
さらに、本発明は、前記永久磁石、もしくは前記永久磁石粉末の着磁磁場が2.5T以上であることを特徴とするインダクタである。
【0023】
さらに、本発明は、前記希土類磁石粉末が磁気異方性を有し、前記バインダへの分散成型の際に、前記希土類磁石粉末を配向してなり、前記配向の向きを前記永久磁石の厚さ方向としたことを特徴とするインダクタである。
【0024】
さらに、本発明は、前記希土類磁石粉末の組成がSm(Cobal.Fe0.15-0.25Cu0.05-0.06Zr0.02-0.037.0-8.5の範囲であることを特徴とするインダクタである。
【0025】
さらに、本発明は、前記インダクタコアの少なくとも底面を含む周囲に樹脂によるモールドが形成されていることを特徴とするインダクタである。
【0026】
さらに、本発明は、前記各導体の端部を直接に実装端子としたことを特徴とするインダクタである。
【0027】
さらに、本発明は、前記各導体の端部を下方に折り曲げて端子となし、前記インダクタコアの底面の直下に実装端子を形成したことを特徴とするインダクタである。
【発明の効果】
【0028】
DC−DCコンバータの回路構成においては、カップリングインダクタを1つ用いて、その各脚部にギャップを設け、そのギャップ長を調整する技術が従来より開示されている。本発明によれば、この場合にインダクタの脚部に設けられているギャップに、さらに永久磁石を設置して磁気バイアスを構成し、インダクタコアに逆向きの磁束を生じさせる。それとともに、インダクタコアに巻き回されるコイルに代えて、前記インダクタコアの脚部の間の領域を巻き回さずに貫通する導体を2本以上設けて、そこに電流を流す構成とする。これによってインダクタの飽和磁束密度を実質的に増大させることができ、小型化、低背化を図ることが可能になる。さらに、回路内の直流抵抗を小さくすることができるため、同時にDC−DCコンバータとしての電源効率の向上を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明によるインダクタは、電流が通電される導体をインダクタコアに巻き回すことなく、構成されたインダクタコアを貫通させる形状のため、インダクタ内を流れる電流の経路の全長が短く、そのため極めて低い直流抵抗を実現することができる。この結果として、DC−DCコンバータにおける従来の電源効率の低下を改善することができ、とくに高負荷の大電流領域において大きな改善の効果を得ることができる。
【0030】
また、インダクタコア内の少なくとも1ヶ所に永久磁石を挿入することにより、導体に流れる電流によって生じる励起磁界と、永久磁石によって生じる磁界の向きが互いに逆特性となるよう構成する。飽和電流Isatと飽和磁束密度Bsat、ターン数n、コア断面積Ae、インダクタンスLの間の関係は、式(1)によって表すことができる。
【0031】
sat=Bsat×n×Ae/L ・・・・・・・・(1)
【0032】
式(1)において、挿入した永久磁石によって飽和磁束密度Bsatが増大すると、処理することのできる電流の最大値である、飽和電流Isatを増加させることができるので、DC−DCコンバータの処理電力量を増やすことが可能となる。また飽和電流Isat、すなわち処理電力量を据え置く場合にはインダクタンスLを高めることができ、それによって電流リップルを低減させることも可能となる。また処理電力量を据え置く場合は、コア断面積Aeを低減させ、インダクタの小型化を図ることも可能である。
【0033】
更に、インダクタコアの周囲を絶縁樹脂によりモールドすることにより、例えばMn−Znフェライトコアのように、絶縁抵抗が低いインダクタコアにおいても、導体を折り曲げてコアの直下に端子を形成することが可能となり、結果として形状の面でもインダクタの小型化に寄与することとなる。
【0034】
本発明の実施の形態に係るインダクタについて、図1、図3に基づいて以下に説明する。
【0035】
図1および図3は、本発明におけるインダクタの実施の形態についてそれぞれ示す図であり、図1(a)は第1の実施の形態におけるインダクタの断面図、図1(b)はその分解斜視図、図1(c)はその外観斜視図である。同様に図3(a)は第2の実施の形態におけるインダクタの断面図、図3(b)はその分解斜視図、図3(c)はその外観斜視図である。
【0036】
図1において、インダクタコア11は板状のコアに3つの脚部を有する2つのE型コア12の、中脚部および外脚部を互いに突き合わせて構成されており、前記インダクタコア11の外脚部と中脚部の間の2ヶ所の領域を貫通して、それぞれ導体14が配設されている。組み合わされた2つのE型コア12の中脚部の突き合わせ面には、永久磁石15が挿入されている。2本の導体14にはそれぞれ逆向きに電流が流れるので、各電流によりインダクタコア11内の中脚部に生じる磁束は互いに向きが同じであり、その磁束の向き18を図1(a)における実線の矢印の方向とすると、永久磁石15によって形成される磁束の向き19は、前記磁束の向き18に対向する、図の点線の向きとなる必要がある。永久磁石15の磁極の向きをこの方向に定め、中脚部の突き合わせ面に配置する。2つのE型コア12の外脚部の突き合わせ面にはギャップ17が形成されている。
【0037】
インダクタコア11の組立後に、この素子全体が絶縁樹脂16によってモールド成型される。なお導体14は導電体であるが、その表面には絶縁層が形成されており、インダクタコア11とは電気的に絶縁されている。また図1(b)では導体14の各端部を折り曲げて表示しているが、端部の折り曲げはインダクタコア11の組立前、組立後、モールド成型の実施後のいずれの段階に行っても構わない。ただし折り曲げられた導体14の端部がインダクタコア11の下方に達する構成の場合は、インダクタコア11の組立より後に実施する必要がある。
【0038】
一方、図3において、インダクタコア31は3つの脚部を有するE型コア32とI型コア33とが互いに突き合わせて構成されており、前記インダクタコア31の外脚部と中脚部の間の2ヶ所の領域を貫通して、それぞれ導体34が配設されている。組み合わされたE型コア32とI型コア33の2ヶ所の外脚部の突き合わせ面には、永久磁石35がそれぞれ挿入されている。2本の導体34にはそれぞれ逆向きに電流が流れるために、各電流によりインダクタコア31内の2ヶ所の外脚部に生じる磁束は互いに向きが同じであり、その磁束の向き38を図3(a)における2ヶ所の実線の矢印の方向とすると、2つの永久磁石35によって形成される磁束の向き39は、前記磁束の向き38に対向する、図の点線の向きとなる必要がある。永久磁石35の各々の磁極の向きをこの方向に定め、外脚部の突き合わせ面にそれぞれ配置する。E型コア32の中脚部の突き合わせ面にはギャップ37が形成されている。
【0039】
インダクタコア31の組立後、この素子全体が絶縁樹脂36によってモールド成型される。なお導体34は導電体であるが、その表面には絶縁層が形成されており、そのためインダクタコア31とは電気的に絶縁されている。また前記図1(b)と同様に、図3(b)でも導体34の各端部を折り曲げて表示しているが、端部の折り曲げはインダクタコア31の組立前、組立後、モールド成型の実施後のいずれの段階に行っても構わない。ただし折り曲げられた導体34の端部がインダクタコア31の下方に達する構成の場合には、やはり図1の場合と同様に、インダクタコア31の組立より後に実施する必要がある。
【0040】
なお、ここで用いられる永久磁石としては、表面に被覆層を設けたSmCo系永久磁石粉末を着磁し、バインダに分散、混練した後に磁界中にて成型硬化したものが好適である。前記永久磁石粉末としては、組成範囲がSm(Cobal.Fe0.15-0.25Cu0.05-0.06Zr0.02-0.037.0-8.5である場合が好ましく、その粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定された平均粒径が2.5〜25μmであって、かつ最大粒径が50μm以下の場合が好ましい。またその特性は、固有保磁力が790kA/m以上、キュリー温度が500℃以上であることが好ましい。
【0041】
前記永久磁石粉末は、その表面が、磁石粉末に対する体積比が0.1%ないし10%であって、Zn、Al、Bi、Ga、In、Mg、Pb、Sb、およびSnの少なくとも1種を含む金属あるいは合金層、もしくは軟化点が220℃以上550℃以下の無機ガラス層、もしくは前記金属あるいは合金層と融点が300℃以上の非金属無機化合物層との複合層のいずれかである被覆層によって被覆されていることが好ましく、前記被覆層は、前記磁石粉末に対して体積比において0.1%ないし10%を占めていることが好ましい。
【0042】
また、前記希土類磁石粉末が磁気異方性を有しており、前記バインダへの分散成型の際に、前記希土類磁石粉末が成型される前記永久磁石の厚さ方向に配向されてなることが好ましい。さらに前記バインダは、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族系ポリアミド樹脂、液晶ポリマーから選択された少なくとも1種類の樹脂からなることが好ましく、前記バインダは前記永久磁石に対して体積比において30%以上を占めていることが好ましい。
【0043】
前記永久磁石粉末、もしくは前記永久磁石粉末が成型されてなる前記永久磁石は、2.5T以上の着磁磁場により着磁されていることが好ましい。さらに、形成された前記永久磁石の比抵抗が、0.1Ωcm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
図1に記載のインダクタコアを、以下の方法にて作製した。まずMn−Zn系フェライト粉末をプレスして成型し、焼結することによりE型コアを作製した。次に作製したE型コア2個の脚部を互いに対向させて配置し、ギャップを介して突き合わせることによりインダクタコアを形成した。形成されたインダクタコアの形状は、幅(D)が10mm、長さ(L)が10mm、組み合わせた高さ(H)が4mmであり、中脚部のギャップ長を135μm、2ヶ所の外脚部のギャップ長をそれぞれ35μmとし、中脚部のギャップにはギャップ長と同一高さの下記の永久磁石を配置した。
【0045】
配置した永久磁石は、SmCo系磁石粉末に金属層を被覆し、着磁した後にバインダと混練して成形したものである。前記磁石粉末は組成がSm(Co0.716Fe0.200Cu0.055Zr0.0297.7であり、レーザー回折・散乱法により測定された平均粒径が5μm、その最大粒径が45μm、保持力が1580kA/m、キュリー温度(Tc)が770℃である。この磁石粉末の表面にZn層を被覆した後、10Tの磁場により着磁を行った。その後、体積比率でこの磁石粉末30%に対してシリコーン樹脂を70%の割合でバインダとして加えて混練し、前記インダクタコアの中脚部のギャップ内に塗布してその空隙を充填し、さらに磁場を印加しつつその硬化を行うことにより、永久磁石として形成した。前記永久磁石による磁束の向きは、後記の2本の導体による磁束の向きと逆向きとしている。
【0046】
その後、中脚部と外脚部との間の領域に、表面に絶縁層が形成されている2本の導体を配して、その両端部を下向きに2回折り曲げ、インダクタコア全体を樹脂によりモールドした。Mn−Zn系フェライトからなるインダクタコアは比較的電流を通すものの、図1(c)に示すように、その表面が外部に全く露出しておらず、そのため基板等に実装されても前記インダクタコアに導通が生じることはない。また導体の両端部が直接このインダクタの端子を兼ねており、この両端部がインダクタコアの下側に折り曲げられているため、小型化、低背化にも対応しうる構造である。
【0047】
図2に、上記実施例1におけるインダクタ、および比較用として永久磁石を配置せずに中脚部を突き合わせ構成とした場合の、各々の場合の直流重畳インダクタンス特性をそれぞれ実線21、破線22にて示す。直流重畳インダクタンス特性とは、インダクタに印加する直流電流値Idc(A)を変化させた場合の、対応する直流インダクタンスLs(μH)の測定結果である。図2において、実線21が永久磁石を形成した場合の重畳特性であり、破線22は永久磁石を設けない場合の重畳特性である。破線22の場合に比較して、実線21の場合は、印加される直流電流Idcの値が増加しても、直流インダクタンスLsの低下する比率が小さく、永久磁石の配置が直流重畳インダクタンス特性において一定の効果を上げていることが分かる。
【0048】
(実施例2)
図2に記載のインダクタコアを、以下の方法にて作製した。まずMn−Zn系フェライト粉末をプレスして成型し、焼結することによりE型コアおよびI型コアを作製した。次に作製したE型コアの脚部をI型コアに向けて配置し、ギャップを介して突き合わせることによりインダクタコアを形成した。形成されたインダクタコアの形状は、幅(D)が11.4mm、長さ(L)が11mm、組み合わせた高さ(H)が3.6mmであり、中脚部のギャップ長を190μm、2ヶ所の外脚部のギャップ長をそれぞれ40μmとし、外脚部のそれぞれのギャップにはギャップ長と同一高さの下記の永久磁石を配置した。
【0049】
配置した永久磁石は実施例1と同一の組成と物理特性を有するもので、同じくSmCo系磁石粉末に金属層を被覆し、着磁した後にバインダと混練して成形したものである。前記磁石粉末は組成がSm(Co0.716Fe0.200Cu0.055Zr0.0297.7、レーザー回折・散乱法により測定された平均粒径が5μm、その最大粒径が45μm、保持力が1580kA/m、キュリー温度(Tc)が770℃である。この磁石粉末の表面にZn層を被覆して、10Tの磁場により着磁を行った後に、体積比率でこの磁石粉末30%に対してシリコーン樹脂を70%の割合でバインダとして加えて混練し、前記インダクタコアの2ヶ所の外脚部のギャップ内にそれぞれ塗布して各空隙に充填し、さらに磁場を印加しつつその硬化を行うことにより、永久磁石として形成した。前記2ヶ所の永久磁石による磁束の向きは、後記の2本の導体による磁束の向きとそれぞれ逆向きとしている。
【0050】
その後、中脚部と外脚部との間の領域に、表面に絶縁層が形成されている2本の導体を配して、その両端部を下向きに2回折り曲げ、インダクタコア全体を樹脂によりモールドした。Mn−Zn系フェライトからなるインダクタコアは比較的電流を通すものの、図3(c)に示すように、その表面が外部に全く露出しておらず、そのため基板等に実装されても前記インダクタコアに導通が生じることはない。また導体の両端部が直接このインダクタの端子を兼ねており、この両端部がインダクタコアの下側に折り曲げられているため、小型化、低背化にも対応しうる構造である。
【0051】
また図4に、上記実施例2におけるインダクタ、および比較用として永久磁石を配置せずに外脚部を突き合わせ構成とした場合の、各々の場合の直流重畳インダクタンス特性をそれぞれ実線41、破線42にて示す。図4において、実線41が永久磁石を形成した場合の重畳特性であり、破線42は永久磁石を設けない場合の重畳特性である。実施例1の場合と同様に、破線42の場合に比較して、実線41の場合は、印加される直流電流Idcの値が増加しても、直流インダクタンスLsの低下する比率が小さく、永久磁石の配置が実施例1の場合と同様に、直流重畳インダクタンス特性において一定の効果を上げていることが分かる。
【0052】
なお、上記実施の形態の説明は、本発明の実施例に係るインダクタに印加される電流の直流抵抗の低下を図り、インダクタの小型化、低背化を実現する手段について説明したものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。上記の説明は、インダクタコアが具備する脚部の本数が4以上とし、2本より多い導体を配する場合にも同様に成り立つものであり、その場合にもインダクタに印加される電流の直流抵抗の低下や、インダクタの小型化、低背化の実現において有用である。また、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明におけるインダクタの実施の形態について示す図。図1(a)は第1の実施の形態におけるインダクタの断面図、図1(b)はその分解斜視図、図1(c)はその外観斜視図。
【図2】本発明におけるインダクタの実施例1、および比較例における、直流重畳インダクタンスの各特性図。
【図3】本発明におけるインダクタの図1とは異なる実施の形態について示す図。図3(a)は第2の実施の形態におけるインダクタの断面図、図3(b)はその分解斜視図、図3(c)はその外観斜視図。
【図4】本発明におけるインダクタの実施例2、および比較例における、直流重畳インダクタンスの各特性図。
【図5】非特許文献1に記載の従来例におけるインダクタの概念図。
【図6】特許文献1に記載の従来例におけるインダクタの断面図。
【符号の説明】
【0054】
11,31 インダクタコア
12,32 E型コア
33 I型コア
14,34 導体
15,35 永久磁石
16,36 絶縁樹脂
17,37 ギャップ
18,38 磁束の向き(導体による)
19,39 磁束の向き(永久磁石による)
21,41 実線(永久磁石を形成した場合)
22,42 破線(永久磁石を配置しない場合)
51 カップリングインダクタ
52 E型コア
53 I型コア
54,55 コイル
56,57,58 ギャップ
φa,φb,φc,φd 磁束
61 インダクタ
62,63 E型コア
64 コイル
65 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の脚部と、前記各脚部の一端部どうしを連結する胴部とを有する略同形状の2つの磁性体コアを、互いに前記脚部を対向させて一対に突き合わせてなるインダクタコアを有し、
前記各脚部の突き合わせ位置のうち1以上にギャップが形成されているインダクタにおいて、
前記ギャップのうち1以上の位置に永久磁石が配置されており、
前記インダクタコアにおける前記脚部の間の領域を巻き回すことなく貫通する導体を2本以上有してなることを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
3以上の脚部と、前記各脚部の一端部どうしを連結する胴部とを有する磁性体コアの前記脚部を、板状の磁性体コアに対向させて一対に突き合わせてなるインダクタコアを有し、
前記脚部の突き合わせ位置のうち1以上にギャップが形成されているインダクタにおいて、
前記ギャップのうち1以上の位置に永久磁石が配置されており、
前記インダクタコアにおける前記脚部の間の領域を巻き回すことなく貫通する導体を2本以上有してなることを特徴とするインダクタ。
【請求項3】
前記ギャップの中に、前記永久磁石が配置されていないエアギャップを少なくとも1以上有することを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記永久磁石が配置された前記ギャップの中に、配置された永久磁石の厚さよりも大きな間隔を有するギャップを少なくとも1以上有することを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項5】
固有保磁力が790kA/m以上、キュリー温度が500℃以上、レーザー回折・散乱法により測定された平均粒径が2.5〜25μmであって、かつ最大粒径が50μm以下である希土類磁石粉末が、
Zn、Al、Bi、Ga、In、Mg、Pb、Sb、およびSnの中の少なくとも1種を含む金属あるいは合金層、もしくは軟化点が220℃以上550℃以下の無機ガラス層、もしくは前記金属あるいは合金層と、融点が300℃以上の非金属無機化合物層との複合層から選択される被覆層によって被覆され、
前記被覆された希土類磁石粉末において、前記被覆層は体積比において0.1%ないし10%を占めており、
前記被覆された希土類磁石粉末が、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族系ポリアミド樹脂、液晶ポリマーから選択された、少なくとも1種類の樹脂からなるバインダに分散されることで、前記永久磁石が形成されており、
前記永久磁石において、前記バインダは体積比において30%以上を占めており、
前記永久磁石の比抵抗が0.1Ωcm以上であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項6】
前記永久磁石、もしくは前記永久磁石粉末の着磁磁場が2.5T以上であることを特徴とする、請求項5に記載のインダクタ。
【請求項7】
前記希土類磁石粉末が磁気異方性を有し、前記バインダへの分散成型の際に、前記希土類磁石粉末を配向してなり、前記配向の向きを前記永久磁石の厚さ方向としたことを特徴とする、請求項6に記載のインダクタ。
【請求項8】
前記希土類磁石粉末の組成がSm(Cobal.Fe0.15-0.25Cu0.05-0.06Zr0.02-0.037.0-8.5の範囲であることを特徴とする、請求項5ないし7のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項9】
前記インダクタコアの少なくとも底面を含む周囲に樹脂によるモールドが形成されていることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項10】
前記各導体の端部を直接に実装端子としたことを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のインダクタ。
【請求項11】
前記各導体の端部を下方に折り曲げて端子となし、前記インダクタコアの底面の直下に実装端子を形成したことを特徴とする、請求項10に記載のインダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−78177(P2008−78177A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252266(P2006−252266)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】