説明

インナーフェンダ及び製造方法

【課題】スタンダードキャブ及びショートキャブで部材の多くを占める部分が共用化でき、且つ、組立精度の高いインナーフェンダ及びその製造方法の提供。
【解決手段】リアフェンダのフロント側端部と接合される縦壁部(41)を有する接合用部材(4)と、接合用部材(4)と接続可能に構成されているフロント側部材(3)とを有し、フロント側部材(3)のリア側の領域(33)にはカットライン(34)が形成され、該カットライン(34)のフロント側の領域及びリア側の領域には接続用取付孔(35,36)が形成されており、該接続用取付孔(35,36)を用いてフロント側部材(3)と接合用部材(4)とが接続される様に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型貨物自動車(大型トラック)におけるインナーフェンダ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型貨物自動車では、通常、キャビンの運転席後方に仮眠用ベッドを備えたタイプ(所謂スタンダードキャブ)が普及している。
しかし、専ら、中・短距離輸送の効率を重視し、荷台長を長くするためにキャブの全長を切り詰めた、ベッドレスタイプ(所謂ショートキャブ)も普及しつつある。
【0003】
大型自動車メーカーでは、スタンダードキャブとショートキャブの共通化を図るべく、キャビンのドア後方までとリアパネルとを共通化する例が多い。
【0004】
図5に示すように、大型トラック1のフェンダ2の内部には、キャブフロアの裏面への雨水、泥水の侵入、及び飛び石等からの攻撃を防ぐために、図6に示すように、インナーフェンダ3が張ってある。図6中、矢印は車両前方を示す。
インナーフェンダ3の後端は、後方フランジ3rが上方に向って立設している。
【0005】
その後方フランジ3rには、リヤフェン5が配置されている。
そのリアフェンダ5の前端51は、図7及び図8に示すように、弾性部材6で覆われ、その弾性部材6の先端が、前記インナーフェンダ3の後方フランジ3rに当接して、車輪(タイヤ8:図6参照)が巻き上げるスプラッシュのキャブ床裏面への侵入を防止するように構成されている。
【0006】
前述のスタンダードキャブとショートキャブの共通化では、インナーフェンダの共通化の方法が問題となる。
【0007】
従来は、先ず、スタンダードキャブ用のインナーフェンダ3をプレス加工によって総形(ドロー)成形し、その後、インナーフェンダの輪郭線から外側を切除する、所謂トリムカット加工を行う。トリムカット加工時には同時に取付用孔の穿孔も行われる。
【0008】
図9は、トリムカット後のインナーフェンダ3の断面を示している。図9において、左側が車両の前方(フロント)であり、インナーフェンダ3の右側端部(後端)には縦壁部(後方フランジ)3rがインナーフェンダ3の水平部31から上方に向って立設されている。また、図9では示されていないが、インナーフェンダ3には補強を兼ねた排水溝であるビードが形成され、インナーフェンダ3の側部には、図示はしていないが側方フランジが形成されている。
【0009】
スタンダードキャブの場合は、そのままの姿でインナーフェンダとして用いる。
ショートキャブに用いる場合は、先ず、図9の点P1と点P2の2箇所でインナーフェンダ3を切断する。
点P1から左側の領域(前方部材33)の点P3の位置及び点P2から右側の領域(後方部材34)の点P4の位置には、前記取付用孔35(点P3位置の孔)、36(点P4位置の孔)が形成されている。
【0010】
インナーフェンダッセンブリに組立てる場合は、図10に示すように、図9における点P1から点P2の間の領域を廃棄し、前方部材33の取付孔35に後方部材34の取付孔36が合うようにセットした後、取り付けボルトBで前方部材33と後方部材34とを接合する。
【0011】
インナーフェンダ3には、複数のビード(図示では省略)が形成されている。上述したように、前方部材33と後方部材34との接合位置は切断前には距離が隔たっており、これらのビードの影響を受けて、接合しても上下方向のズレが生じてしまう。係るズレはキャブ側へのスプラッシュの漏洩を促すこととなり、品質上の問題となる。
【0012】
キャブオーバトラックのフェンダに関する技術として、フェンダの後端部全幅に亘ってビードを形成し、フェンダ後端部の剛性を向上した技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術は、その目的がフェンダの張り出し部後端の変形を防止することであって、上述した様な問題点を解決するものではない。
【特許文献1】特開2001−301662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、スタンダードキャブ及びショートキャブで部材の多くを占める部分が共用化でき、且つ、組立精度の高いインナーフェンダ及びその製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のインナーフェンダは、リアフェンダのフロント側端部と接合される縦壁部(41)を有する接合用部材(T字型部材4)と、接合用部材(4)と接続可能に構成されているフロント側部材(3)とを有し、フロント側部材(3)のリア側の領域(33)にはカットライン(34)が形成され、該カットライン(34)のフロント側の領域及びリア側の領域には接続用取付孔(35,36)が形成されており、該接続用取付孔(35,36)を用いてフロント側部材(3)と接合用部材(4)とが接続される様に構成されていることを特徴としている(請求項1)。
【0015】
前記カットライン(34)に沿って切断されたフロント側部材(3)のカットライン(34)の前側の部分(3F)は、接合用部材(T字型部材4)と接続可能に構成されている(請求項2)。
【0016】
切断されていない前記フロント側部材(3)を接合用部材(T字型部材4)と接続した場合と、前記カットライン(34)に沿って切断したフロント側部材(3)のカットライン(34)の前側の部分(3F)を接合用部材(T字型部材4)と接続した場合とでは、それぞれ異なるタイプのキャブに取り付けることが出来る(請求項3)。
【0017】
本発明のインナーフェンダの製造方法は、リアフェンダ(5)のフロント側端部(51)と接合される縦壁部(41)を有する接合用部材(T字型部材4)と、接合用部材(4)と接続可能に構成されているフロント側部材(3)とを有し、フロント側部材(3)のリア側の領域(33)にはカットライン(34)が形成され、該カットライン(34)のフロント側の領域(31)及びリア側の領域(33)に形成されている接続用取付孔(35,36)を用いてフロント側部材(3)と接合用部材(4)とを接続することを特徴としている(請求項4)。
【0018】
また、本発明のインナーフェンダの取付方法は、リアフェンダ(5)のフロント側端部(51)と接合される縦壁部(41)を有する接合用部材(T字型部材4)と、接合用部材(4)と接続可能に構成されているフロント側部材(3)とを有し、フロント側部材(3)のリア側の領域(33)にはカットライン(34)が形成され、該カットライン(34)のフロント側の領域(31)及びリア側の領域(33)には接続用取付孔(35,36)が形成されており、該接続用取付孔(35)を用いてフロント側部材(3)のカットライン(34)の前側の部分(3F)と接合用部材(4)とが接続される様に構成されているインナーフェンダ(3F)を用いて、車両の前後方向の寸法が短いインナーフェンダ(300S)を製造する方法において、前記カットライン(34)に沿ってフロント側部材(3)を切断する工程(4−3S)と、切断されたフロント側部材(3)のカットライン(34)の前側の部分(3F)のリア側端部近傍の接続用取付孔(35)を用いて接合用部材(T字型部材4)と接続する工程(4−4S)、とを有することを特徴としている(請求項5)。
【発明の効果】
【0019】
係る構成を具備する本発明のインナーフェンダによれば、スタンダードキャブ用からショートキャブ用に加工する際のフロント側部材(3)の切断箇所(カットライン34)が、従来の2箇所から1箇所に減らすことが出来、加工工程が削減出来る。
【0020】
T字型部材(4)を共通とすることが可能で、且つ、フロント側部材(3)とT字型部材(4)との接合面に面の不一致によるズレ等は発生しない。そのため、フロアパネルの裏面側へのスプラッシュの漏洩を防止出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面(図1〜図4)を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1及び図2は、スタンダードキャブ用として用いる際のインナーフェンダ300の構成を示している。
【0022】
図1を参照して、スタンダードキャブのインナーフェンダ300(図1では符号300の状態には組み上がってはいない)は、フロント側部材3とT字型部材4とこの2つの部材3,4を接続する締結部材(例えば、ボルト・ナットで、ナットは図示を省略)Bとから成る。
フロント部材3は水平部31と前方(図示の左側)の傾斜部32とで構成されている。
水平部31には図示ではL字状のカットライン(実際にはラインが設けられていない架空のライン)34が形成され、このカットライン34の内、車両の前後方向(図示の左右方向)に直角な方向の領域34aの前方側に2箇所の取付孔35,35が、後方側に2箇所の取付孔36,36が形成されている。
【0023】
水平部31のカットライン34の前後で、前記取付孔35,36の形成された領域を除く領域には、補強及び剛性確保のためのビード37が形成されている。
またフロント部材3において、車両の外側の側縁部にはフランジ38が形成されている(即ち、図1はキャブの左側のインナーフェンダを示している)。
【0024】
一方、T字型部材4は、垂直部材41と水平部材42を図示の様にT字状に付き合わせ溶接するか、またはスポット溶接して形成する。
或いは1枚の板を複数回折り曲げ加工して、水平部(水平部材42に相当)を2重に重ね合せて形成することも出来る。
【0025】
図2を参照して、スタンダードキャブ用のフロント側部材3からショートキャブ用のインナーフェンダ300Sを製造する場合には、カットライン34の位置をカットライン34と同一の刃型で裁断(プレス)加工し、カットライン34の前方側の部材3Fを使用する。
或いは、図示しないレーザーカット加工によって前記カットライン34を溶断して、カットライン34より前方部分3Fを使用する。
【0026】
そして、図3で示すように、カットライン34の前方側の部材3FとT字型部材4とを締結部材Bで締結してショートキャブ用のインナーフェンダ300Sに組立てる。
【0027】
図4の工程図を参照して、ショートキャブ用及びスタンダードキャブ用のインナーフェンダの製造・組立方法を説明する。尚、図中、工程4-2まではスタンダードキャブ用工程とショートキャブ用工程は共通である。
【0028】
先ず工程4-1では、図示しないプレス機のダイMd上に素材である鋼板100をセットして、プレス機のポンチMpを下降させてプレス加工を行う。
この時の加工成形物は、本来のプレス品の周囲に余分な部分がついているので、図示しないトリムカット工程によって余分な部分を排除する。このトリムカットの工程では前記取付孔35,36の穿孔が同時に行われる(ピアス加工)。
【0029】
工程4-2では、スタンダードキャブのフロント側部材3がプレスによって成形され、トリムカットによって余分な部分が除去された状態を示している。
スタンダードキャブ用のインナーフェンダの組立は、工程4-3Lで予め別のサブラインで成形されたT字型部材4が用意され、このT字型部材4を締結部材Bによってフロント部材3に組立てられてスタンダードキャブ用のインナーフェンダ300が完成する。
【0030】
ショートキャブ用のインナーフェンダの組立は、工程4-3Sでスタンダードキャブ用のフロント側部材3のカットライン34の位置をカットライン34と同一の刃型Mcで裁断(プレス)加工する。
そして工程4-4Sでは、カットライン43で裁断されたフロント部材のフロント側の部材3Fに、予め別のサブラインで成形されたT字型部材4が用意され、このT字型部材4を締結部材Bによってフロント部材3Fに組立てられてショートキャブ用のインナーフェンダ300Sが完成する。
【0031】
係る構成及び製造方法のインナーフェンダによれば、スタンダードキャブ用からショートキャブ用に加工する際のフロント側部材3のカットライン34が、従来の2箇所から1箇所に減らすことが出来、加工工程が削減出来る。
【0032】
また、上述した製造方法のインナーフェンダによれば、T字型部材4をスタンダードキャブ用とショートキャブ用で共通とすることが可能で、且つ、フロント側部材3とT字型部材4との接合面に、面の不一致によるズレ等は発生しない。そのため、フロアパネルの裏面側へのスプラッシュの漏洩を防止出来る。
【0033】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係り、スタンダードキャブ用のインナーフェンダの構成を示した斜視図。
【図2】本発明の実施形態に係るスタンダードキャブ用のインナーフェンダの断面図。
【図3】本発明の実施形態に係るショートキャブ用のインナーフェンダの断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るインナーフェンダの製造方法を説明する工程図。
【図5】大型トラックにおけるインナーフェンダの位置関係を示した配置図。
【図6】従来技術におけるインナーフェンダとタイヤ及びリアフェンダの位置関係を示した斜視図。
【図7】従来技術におけるインナーフェンダとリアフェンダの位置関係を示した断面図。
【図8】従来技術におけるリアフェンダの先端部の詳細を示す斜視図。
【図9】従来技術におけるスタンダードキャブ用インナーフェンダからショートキャブ用インナーフェンダを作る場合の2箇所の切断部を示した断面図。
【図10】従来技術におけるショートキャブ用インナーフェンダの断面図。
【符号の説明】
【0035】
1・・・キャブ/キャビン
2・・・フェンダ
3・・・フロント側部材
4・・・T字状部材
5・・・リアフェンダ
6・・・弾性部材
7・・・スプラッシュガード
8・・・タイヤ
31・・・水平部
34・・・カットライン
35,35・・・取付孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアフェンダのフロント側端部と接合される縦壁部を有する接合用部材と、接合用部材と接続可能に構成されているフロント側部材とを有し、フロント側部材のリア側の領域にはカットラインが形成され、該カットラインのフロント側の領域及びリア側の領域には接続用取付孔が形成されており、該接続用取付孔を用いてフロント側部材と接合用部材とが接続される様に構成されていることを特徴とするインナーフェンダ。
【請求項2】
前記カットラインに沿って切断されたフロント側部材のカットラインの前側の部分は、接合用部材と接続可能に構成されている請求項1のインナーフェンダ。
【請求項3】
切断されていない前記フロント側部材を接合用部材と接続した場合と、前記カットラインに沿って切断したフロント側部材のカットラインの前側の部分を接合用部材と接続した場合とでは、それぞれ異なるタイプのキャブに取り付けることが出来る請求項2のインナーフェンダ。
【請求項4】
リアフェンダのフロント側端部と接合される縦壁部を有する接合用部材と、接合用部材と接続可能に構成されているフロント側部材とを有し、フロント側部材のリア側の領域にはカットラインが形成され、該カットラインのフロント側の領域及びリア側の領域に形成されている接続用取付孔を用いてフロント側部材と接合用部材とを接続することを特徴とするインナーフェンダの組立て方法。
【請求項5】
リアフェンダのフロント側端部と接合される縦壁部を有する接合用部材と、接合用部材と接続可能に構成されているフロント側部材とを有し、フロント側部材のリア側の領域にはカットラインが形成され、該カットラインのフロント側の領域及びリア側の領域には接続用取付孔が形成されており、該接続用取付孔を用いてフロント側部材のカットラインの前側の部分と接合用部材とが接続される様に構成されているインナーフェンダを用いて、車両の前後方向の寸法が短いインナーフェンダを製造する方法において、前記カットラインに沿ってフロント側部材を切断する工程と、切断されたフロント側部材のカットラインの前側の部分のリア側端部近傍の接続用取付孔を用いて接合用部材と接続する工程、とを有することを特徴とするインナーフェンダの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−106230(P2007−106230A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298338(P2005−298338)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】