説明

インバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源およびその制御方法

【課題】 ショートアーク溶接およびパルスアーク溶接のいずれもの場合もアークが安定で、品質に優れる溶接を可能にする。
【解決手段】 入力される直流電圧を交流電圧に変換するインバ−タ回路21と、主変圧器22と、出力側整流回路と、直流リアクトル25と、からなる第1の主回路20と、インバ−タ回路31と、主変圧器32と、主変圧器32の出力側に直列に接続され出力電流を制限する限流手段および出力側整流回路と、直流リアクトル35と、からなる第2の主回路30と、インバ−タ回路21、31をオンオフする駆動回路26、36制御手段と、を設け、主変圧器22の出力電圧を主変圧器32の出力電圧よりも低い値とし、直流リアクトル25のリアクタンスを直流リアクトル35のリアクタンスの略1/5〜1/30とし、第1主回路20と第2の主回路30を溶接負荷に対して並列に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートアーク溶接、スプレーアーク溶接あるいはパルスアーク溶接のそれぞれにおいて、安定なアークを維持することができるインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接負荷(アーク)に供給する電流(溶接電流)の変化率は、出力側回路に配置するリアクタのリアクタンスの値(以下、単に「リアクタンス」という。)を選択することにより変えることができ、リアクタンスを大きくするほど電流波形の立ち上がりおよび立ち下がりは緩やかになる。
【0003】
例えば、消耗電極式アーク溶接の一種であるショートアーク溶接(溶接電流を小さくして意識的にワイヤと母材とを短絡させる溶接法であり、直径1.2mmの軟鋼ワイヤを使用する場合の溶接電流値は概略80〜200Aである。)において、リアクタンスを略50〜300μHにすると、不完全短絡の発生が少なく、アークを安定に維持できる。そして、このリアクタンスの場合、短絡がほとんど発生しないスプレー溶接(直径1.2mmの軟鋼ワイヤの場合の溶接電流値は概略200〜350Aである。)においてもアークを安定に維持できる。以下、特に区別する必要がある場合を除き、ショートアーク溶接とスプレーアーク溶接をまとめてショートアーク溶接という。
【0004】
一方、消耗電極式アーク溶接の一種であるパルスアーク溶接(溶接負荷にパルス電流とベース電流を交互に供給する溶接法である。)においては、アークを安定に維持するためには、パルス電流の波形をシャープなものにする必要があり、リアクタンスとしては略10μH(すなわち、ショートアーク溶接の場合のリアクタンスの1/5〜1/30)が好適である。
【0005】
このように、溶接法により好適なリアクタンスが異なるため、従来は、ショートアーク溶接行うための溶接電源とパルスアーク溶接を行うための溶接電源のそれぞれを用意していた。
【0006】
また、1台の電源にリアクタンスの異なる2個のリアクタを準備しておき、溶接中にリアクタを接続替えするようにしたアーク溶接電源もあった(特許文献1)。このようなアーク溶接電源の場合、設置スペースを小さくすることができた。
【特許文献1】特開平11−123551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、溶接中にリアクタを接続替えするように構成しても、2個のリアクタのインダクタンスの差を大きくすると、以下のような問題点が発生する。
【0008】
図8、9は、溶接中にリアクタを接続替えした場合の溶接電流波形を示す図であり、図8はショートアーク溶接の場合を、図9はパルスアーク溶接の場合を示している。
【0009】
リアクタンスの大きい回路は応答が遅い。このため、ショートアーク溶接の場合、図8(a)に示すように、短絡電流が終了した直後(時刻T40)に供給される溶接電流が小さくなり、アーク切れが発生する。
【0010】
また、パルスアーク溶接の場合も、図9(a)に示すように、パルス電流が終了した直後(図中の時刻T41)に供給されるべ−ス電流が小さくなり、アークを維持することができない。このため、アーク切れが発生して溶接が不安定になる。
【0011】
また、パルスアーク溶接の場合、パルス電流に関してはリアクタンスを小さくする必要があるが、ベース電流に関してはリアクタンスの大きい方が好ましいと言われている。
【0012】
本発明の目的は、ショートアーク溶接およびパルスアーク溶接のいずれもの場合もアークが安定で、品質に優れる溶接が可能なインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源およびその制御方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第1の手段は、インバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源として、入力される直流電圧を交流電圧に変換する第1のインバ−タ回路と、前記第1のインバ−タ回路から出力される交流電圧を降圧する第1の主変圧器と、前記第1の主変圧器によって降圧された交流電圧を直流電圧に変換する第1の出力側整流回路と、前記第1の出力側整流回路の出力側に直列に配置される第1の直流リアクトルと、からなる第1の主回路と、入力される直流電圧を交流電圧に変換する第2のインバ−タ回路と、前記第2のインバ−タ回路から出力される交流電圧を降圧する第2の主変圧器と、この主変圧器の出力側に直列に接続され第2の主変圧器の出力電流を制限する限流手段および前記第2の主変圧器によって降圧された交流電圧を直流電圧に変換する第2の出力側整流回路と、前記第2の出力側整流回路の出力側に直列に配置される第2の直流リアクトルと、からなる第2の主回路と、前記第1および第2のインバ−タ回路をオンオフする制御手段と、を設け、前記第1の主変圧器の出力電圧を前記第2の主変圧器の出力電圧よりも低い値とし、前記第1の直流リアクトルのリアクタンスを前記第2の直流リアクトルのリアクタンスの略1/5〜1/30とし、前記第1と第2の主回路を溶接負荷に対して並列に接続する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第2の手段は、上記第1の手段に係るインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源の制御方法として、溶接開始後アークが発生するまでの間、前記第1の回路と第2の回路を同時にオンさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
1台のアーク溶接電源で、ショートアーク溶接およびパルスアーク溶接のいずれの場合もアークを安定に維持することができるので、品質に優れる溶接結果が得られる。また、装置の設置面積を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明に係るインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源の接続図である。
【0018】
始めに、電力回路の回路構成について説明する。
【0019】
インバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源100の入力端子1と出力端子40a、40bとの間には、整流器2と、平滑コンデンサ3と、2点鎖線で囲んで示す第1の主回路20および第2の主回路30と、が配置されている。主回路20と主回路30は平滑コンデンサ3および出力端子40a、40bに対して並列に接続されている。
【0020】
主回路20は、インバータ回路21と、変圧器22と、整流回路23と、直流リアクトル25とから構成されている。インバータ回路21は駆動回路26により制御される。変圧器22の入力側と出力側の巻線の巻数比は16:4であり、後述する変圧器32の出力電圧に比べて約20%低い。また、直流リアクトル25のリアクタンスは略10μHであり、後述する直流リアクトル35のリアクタンスの1/5〜1/30である。
【0021】
主回路30は、インバータ回路31と、変圧器32と、整流回路33と、限流リアクタ34と、直流リアクトル35とから構成されている。インバータ回路31は駆動回路36により制御される。変圧器32の入力側と出力側の巻線の巻数比は16:5である。直流リアクトル35のリアクタンスは略50〜300μHである。
【0022】
なお、主回路20の外部特性は定電圧特性である。また、限流リアクタ34がない場合の主回路30の外部特性は、主回路20の外部特性と同様に、定電圧特性である。
【0023】
出力端子40a、40b間には電圧測定器4が接続されている。電圧測定器4の出力端子は短絡/アーク判定回路60とパターンジェネレータ61の定電圧制御側に接続されている。出力端子40bと変圧器22、32の出力側巻線の中点との間には、電流測定器5が接続されている。電流測定器5の出力端子はパターンジェネレータ61の定電流制御側に接続されている。
【0024】
出力端子40aには消耗電極であるワイヤ53に接触するチップ51が、出力端子40bには母材52が接続されている。コイル状に巻かれたワイヤ53は1対の送給ローラ54により母材52に向けて送り出される。
【0025】
次に、電力回路の動作について説明する。
【0026】
整流器2は、入力端子1に供給される商用交流電圧を直流に整流する。平滑コンデンサ3は整流器2によって整流された直流電圧を平滑する。
【0027】
主回路20のインバータ回路21は入力される直流電圧を高周波交流電圧に変換する。変圧器22は入力される交流電圧を溶接に適した電圧に降圧する。整流回路23は、入力される交流電圧を直流電圧に変換する。
【0028】
主回路30のインバータ回路31は入力される直流電圧を高周波交流電圧に変換する。変圧器32は入力される交流電圧を溶接に適した電圧に降圧する。整流回路33は、入力される交流電圧を直流電圧に変換する。限流リアクタ34は整流回路33に流れる電流を制限する。
【0029】
ここで、限流リアクタが主回路30の外部特性に与える影響について説明する。
【0030】
図2は、主回路20と主回路30の外部特性を示す図であり、実線はインバータ回路の通電比率(インバータ回路がオンされてインバータ回路に電流が流れる時間のオンとオフされる時間との和に対する割合で、デューティともいう。)が高い場合、点線は通電比率が低い場合である。
【0031】
始めに、主回路30の限流手段である限流リアクタ34の動作と、出力電流(出力端子40aに流れる電流)について説明する。
【0032】
いま、限流リアクタ34のリアクタンスがLであるとすると、限流リアクタ34のインピーダンスはωL(ただし、ωは位相角である。)である。したがって、溶接負荷が接続されていなければ、限流リアクタ34による電圧降下はωL×出力電流となり、出力電流に比例して増減する。一方、溶接負荷は抵抗であるため、限流リアクタ34での電圧降下とは位相が90度ずれる。このため、同図に示すように、主回路30の外部特性は曲線状になり、ある値以上の電流は流れない。
【0033】
次に、定常状態における主回路20と主回路30を同時にオンさせた場合の出力電流について、同図に実線で示す場合について説明する。なお、主回路20と主回路30の外部特性が交差する点の電流値は電流値Aである。
【0034】
(1)出力電流値が電流値Aよりも小さい例えば電流値Bの場合(すなわち、溶接負荷が大きい場合)
主回路30の出力電圧が主回路20の出力電圧よりも高いので、主回路30から電流値Bの電流が出力端子40aに供給される。
【0035】
(2)出力電流値が電流値A以上である電流値Cの場合(すなわち、溶接負荷が小さい場合)
主回路20の出力電圧が主回路30の出力電圧よりも高いので、主回路30からは電流値Aの出力電流が、主回路20からは電流値(C−A)の出力電流が、それぞれ出力端子40aに供給される。すなわち、溶接負荷に流れる溶接電流の電流値は電流値Cである。
【0036】
なお、主回路20の外部特性が定電圧特性であるといっても、通常は僅かな傾斜があるため、主回路20からは電流値Aよりも僅かに大きい電流が供給されるが、実用上無視できる程度の大きさである。
【0037】
次に、主回路20と主回路30を同時にオンさせた場合の過渡状態における出力電流について説明する。
【0038】
図3は、過渡状態における出力電流について説明する図であり、(a)は出力電流値が電流値B(ただし、B<A)未満の場合、(b)は出力電流値が電流値C(ただし、C≧A)の場合である。
【0039】
過渡状態においては、直流リアクタ25、35の作用により、主回路20と主回路30の出力電圧が定常状態とは異なる。
【0040】
すなわち、出力電流値が電流値Bの場合、同図(a)に示すように、過渡状態においては主回路20と主回路30の両者から電流が出力され、時間が経過して主回路30の出力電圧が主回路20の出力電圧よりも高くなると、電流値Bの電流が主回路30から溶接負荷に供給される。
【0041】
また、出力電流値が電流値Cの場合、同図(b)に示すように、過渡状態においては主回路20と主回路30の両者から電流が出力され、時間が経過して主回路20の出力電圧が主回路30の出力電圧よりも高くなると、電流値Aの電流が主回路30から、また、電流値(C−A)の電流が主回路20から、それぞれ出力される。
【0042】
短絡/アーク判定回路60は、電圧Vを監視し、電圧Vが予め定める値よりも小さくなった場合は、出力端子40a、40b間が短絡であると判定し、その結果をパターンジェネレータ61に出力する。
【0043】
次に、制御回路について説明する。
【0044】
制御装置70には、選択スイッチ71とパターンジェネレータ61が接続されている。パターンジェネレータ61には、駆動回路26および駆動回路36が接続されている。
【0045】
次に、制御回路の動作について説明する。
【0046】
制御装置70は、選択スイッチ71により指定される溶接法、溶接電流および溶接電圧の値に基づき、図示を省略するデータベースを参照して、パターンジェネレータ61が出力するパターンを決定する。
【0047】
図示を省略する起動ボタンがオンされると、パターンジェネレータ61は、指定されたパターンに従って主回路20,30を定電圧制御をするか定電流制御をするかを決定すると共に、インバータ回路21を駆動する駆動回路26とインバータ回路31を駆動する駆動回路36をオンオフ制御する。そして、パターンジェネレータ61は、定電圧制御を行う場合は電圧Vが指示された値を維持するための制御信号(以下、「PWM信号」という。)を駆動回路26、36に出力し、定電流制御を行う場合は電流Iが指示された値を維持するためのPWM信号を駆動回路26、36に出力する。
【0048】
駆動回路26、36はパターンジェネレータ61から出力されたPWM信号に従ってそれぞれインバータ回路21、31を制御(オンオフ)する。
【0049】
次に、本発明の好適な制御例を、ショートアーク溶接の場合、スプレーアーク溶接の場合、パルスアーク溶接の場合、およびアークスタートの場合について順番に説明する。
【0050】
(A)ショートアーク溶接の場合
図4はショートアーク溶接の場合における主回路20と主回路30のオンオフのタイミングおよび制御方法を示す図であり、(a)は溶接電流を、(b)溶接電圧を、(c)は主回路20のオンオフを、(d)は主回路30のオンオフを、(e)は定電流制御のタイミングを、(f)は定電圧制御のタイミングを、それぞれ示している。なお、ショートアーク溶接の場合、溶接電流としては図2における電流値A以下の電流が使用される。
【0051】
パターンジェネレータ61は、定電圧制御の条件で主回路30をオンにしておき、短絡の発生を待つ。そして、短絡が発生したら(時刻T10)、定電圧制御の条件を定電流制御の条件に切り替え、短絡を検出してから0.5秒後(時刻T11)に主回路20をオンし、アークが発生したら主回路20をオフし、定電流制御の条件を定電圧制御の条件に切り替える(時刻T12)。主回路20がオンされると、主回路30からの電流に加えて主回路20から急峻な電流がワイヤ53に供給され、短絡は速やかに解除されると共に、短絡からアークになった時刻T12においてアーク切れが発生しない。そして、短絡が解消された後のアーク状態では、リアクタンスが大きい直流リアクタを有する主回路30より安定なアークが維持される。
【0052】
なお、この実施形態では、短絡が発生すると同時に定電圧制御の条件を定電流制御の条件に切り替えるので、時刻T10(T13)以降の溶接電流のオーバーシュートを抑制できる。この結果、大粒のスパッタの発生を抑制することができる。
【0053】
なお、短絡を検出してから0.5秒後に主回路20をオンするようにしたが、この時間は、実際の溶接に応じて定めた値であり、変更することができる。
【0054】
また、電流の立ち上がりを余り急峻にすると、却ってスパッタが発生する傾向があるので、短絡時の溶接電流はある程度緩やかになるように制御している(図中のT11〜T12の間)。
【0055】
(B)スプレーアーク溶接の場合
図5はスプレーアーク溶接の場合における主回路20と主回路30のオンオフのタイミングおよび制御方法を示す図であり、(a)は溶接電流を、(b)溶接電圧を、(c)は主回路20のオンオフを、(d)は主回路30のオンオフを、(e)は定電流制御のタイミングを、(f)は定電圧制御のタイミングを、それぞれ示している。なお、スプレーアーク溶接の場合、溶接電流としては図2における電流値A以上の電流が使用される。
【0056】
スプレーアーク溶接の場合の制御は、主回路20が常にオンであることを除き、ショートアーク溶接の場合と実質的に同じであるので、重複する説明を省略する。
【0057】
なお、スプレーアーク溶接の場合、通常、短絡は直ちに解除される。
【0058】
このように、主回路20と主回路30の両者から出力電流を供給するため、各々の回路の負担を軽減でき、装置を小型軽量化することができる。
【0059】
(C)パルスアーク溶接の場合
図6はパルスアーク溶接の場合における主回路20と主回路30のオンオフのタイミングおよび制御方法を示す図であり、(a)は溶接電流を、(b)溶接電圧を、(c)は主回路20のオンオフを、(d)は主回路30のオンオフを、(e)は定電流制御のタイミングを、(f)は定電圧制御のタイミングを、それぞれ示している。なお、パルス期間(図中の時刻T32〜時刻T35の間)とベース期間(図中の時刻T31〜時刻T32の間)は予め定められている。
【0060】
パターンジェネレータ61は、定電流制御の条件で主回路30をオンにしてベース期間の終了時刻T33を監視し、ベース期間が終了する約1ms前の時刻T32に主回路20をオンする。そして、パルス期間の終了時刻T35を監視し、パルス期間が終了する約1ms前の時刻T34に主回路30をオンする。すなわち、パルス期間(ベース期間)の開始後および終了前の約1msは、主回路20、30の両者をオンにする。
【0061】
このように制御すると、パルス期間開始時にパルス電流を急峻に立ち上げることができる。また、パルス期間終了時に溶接電流がベース電流以下になることを予防できると共に、磁気吹きが発生した場合であっても、アーク切れが発生しない。
【0062】
(D)アークスタートの場合
図7は本発明におけるアークスタート時の主回路20と主回路30のオンオフのタイミングおよび制御方法を示す図であり、(a)は溶接電流を、(b)溶接電圧を、(c)は主回路20のオンオフを、(d)は主回路30のオンオフを、(e)は定電流制御のタイミングを、(f)は定電圧制御のタイミングを、それぞれ示している。
【0063】
ここでは、ショートアーク溶接の場合について説明する。
【0064】
アークスタート時、パターンジェネレータ61は、定電流制御の条件で主回路20、30のいずれもオンにしておき(時刻T1)、アークが発生したら(時刻T2)定電流制御の条件を定電圧制御の条件に切り替える。
【0065】
このようにすると、同図(a)に示すように、リアクタンスの小さい主回路20の急峻な電流によりアークが発生し、スムースなアークスタートとすることができる。また、アークが発生した後はリアクタンスの大きい主回路30の電流によりアークを安定に維持することができる。
【0066】
なお、このアークスタート方法は、ショートアーク溶接だけでなく、スプレーアーク溶接およびパルスアーク溶接にも適用される。すなわち、スプレーアーク溶接の場合、パターンジェネレータ61は、時刻T2以降も主回路20をオンさせた状態を維持し、上記図5によって説明した制御を行う。また、パルスアーク溶接の場合、パターンジェネレータ61は、時刻T2以降定電流制御の条件に切り替えると共にその時の時刻を例えば上記図6における時刻T31として、以降同図によって説明した制御を行う。
【0067】
以上説明したように、この実施形態では、制御回路およびフイードッバック回路を1組設ければ良いので、構成を簡略にすることができる。
【0068】
また、本発明によれば、ショートアーク溶接、スプレーアーク溶接およびパルスアーク溶接のいずれに対しても第1と第2の主回路を適切にオンオフ制御することにより、最適な波形の溶接電流を供給することができる。
【0069】
また、ショートアーク溶接、スプレーアーク溶接およびパルスアーク溶接のいずれの場合も、アークスタート時においてアークを確実に発生させることができるので、操作性が向上すると共に、品質に優れる溶接部を得ることができる。
【0070】
なお、この実施例では限流手段として限流リアクタ9を採用したが、第2の整流回路を全波整流の整流回路とする場合には、限流リアクタ9に代えて、コンデンサを用いてもよい。
【0071】
ここで、限流リアクタ9を設けない場合について説明を補足しておく。
【0072】
限流リアクタ9を設けない場合、主回路2の出力電圧は主回路1の出力電圧よりも高いので、両方を同時に駆動した場合、略1mmsの過度的な期間を過ぎた後は、主回路2だけから出力電流が供給される。
【0073】
スプレーアーク溶接の場合は大電流であり、かつほとんど短絡が発生しないので、出力電流のほとんどを主回路2から供給することになる。すなわち、主回路2の容量として実質的に1台分の容量を持たせなければならない。
【0074】
これに対して、限流リアクタ9を設けた本願の場合、図2に示したように、主回路2には電流値Aからほとんど増加しない。したがって、電流値Aをスプレーアーク領域とショートアーク領域の境界付近に設定することにより、出力電流を主回路20と主回路30で分担することになり、主回路30の負担を大幅に低減(例えば、定格容量の1/2〜2/3)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係るインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源の接続図である。
【図2】本発明に係る主回路の外部特性を示す図であである。
【図3】本発明の動作を説明する図であである。
【図4】本発明をショートアーク溶接に適用した場合の説明図である。
【図5】本発明をスプレーアーク溶接に適用した場合の説明図である。
【図6】本発明をパルスアーク溶接に適用した場合の説明図である。
【図7】本発明の動作を説明する図であである。
【図8】従来技術の説明図である。
【図9】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0076】
20 第1の主回路
21 インバ−タ回路
22 主変圧器
25 直流リアクトル
26 駆動回路
30 第2の主回路
31 インバ−タ回路
32 主変圧器
35 直流リアクトル
36 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される直流電圧を交流電圧に変換する第1のインバ−タ回路、前記第1のインバ−タ回路から出力される交流電圧を降圧する第1の主変圧器、前記第1の主変圧器によって降圧された交流電圧を直流電圧に変換する第1の出力側整流回路、及び前記第1の出力側整流回路の出力側に直列に配置される第1の直流リアクトルを含む第1の主回路と、
入力される直流電圧を交流電圧に変換する第2のインバ−タ回路、前記第2のインバ−タ回路から出力される交流電圧を降圧する第2の主変圧器、前記第2の主変圧器の出力側に直列に接続され前記第2の主変圧器の出力電流を制限する限流手段、前記第2の主変圧器によって降圧された交流電圧を直流電圧に変換する第2の出力側整流回路、及び前記第2の出力側整流回路の出力側に直列に配置される第2の直流リアクトルを含む第2の主回路と、
前記第1および第2のインバ−タ回路をオンオフする制御手段と、
を備え、
前記第1の主変圧器の出力電圧を前記第2の主変圧器の出力電圧よりも低い値とし、
前記第1の直流リアクトルのリアクタンスを前記第2の直流リアクトルのリアクタンスの略1/5〜1/30とし、
前記第1と第2の主回路を溶接負荷に対して並列に接続する、
ことを特徴とするインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源。
【請求項2】
同一の駆動信号により前記第1および第2のインバ−タ回路を駆動することを特徴とする請求項1に記載のインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源。
【請求項3】
前記第1の主変圧器の出力電圧を前記第2の主変圧器の出力電圧の50〜80%とすることを特徴とする請求項1に記載のインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源。
【請求項4】
前記第1の直流リアクトルのリアクタンスを略10μHとすることを特徴とする請求項1に記載のインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源。
【請求項5】
前記限流手段は、リアクタまたはコンデンサであることを特徴とする請求項1に記載のインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源の制御方法において、
溶接開始後、アークが発生するまでの間、前記第1の主回路と第2の主回路を同時にオンさせることを特徴とする請求項1に記載のインバータ制御による消耗電極式のアーク溶接電源の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−281257(P2006−281257A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103290(P2005−103290)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(305048635)日立ビアエンジニアリング株式会社 (5)
【Fターム(参考)】