インパネメンバの取付構造
【課題】インパネメンバの振動を効果的に減衰でき、ハンドルの振動を低減することが可能なインパネメンバの取付構造を提供する。
【解決手段】インパネメンバ3の取付構造は、車体のヒンジピラー6の内側壁に対向するフランジ7と、そのフランジ7とヒンジピラー6との間を結合する結合部8とを備えている。結合部8は、フランジ7とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する剛結合部分9と、フランジ7とヒンジピラー6との対向面に介在する粘弾性シート10とを有している。
【解決手段】インパネメンバ3の取付構造は、車体のヒンジピラー6の内側壁に対向するフランジ7と、そのフランジ7とヒンジピラー6との間を結合する結合部8とを備えている。結合部8は、フランジ7とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する剛結合部分9と、フランジ7とヒンジピラー6との対向面に介在する粘弾性シート10とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のインパネメンバの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、ハンドルが固定されたステアリングシャフトを車体内部に回転自在に支持するために、車体内部には、車幅方向に延びるインパネメンバが設けられている。インパネメンバは、その両端部が車体側方のヒンジピラー等に固定されている。したがって、車両の運転中に発生した車体の振動がインパネメンバおよびステアリングシャフトを介してハンドルに伝達される。
【0003】
このようなインパネメンバの振動が伝達されることによって生じるハンドルの操作性の悪化を抑制する手段として、インパネメンバと車体部材との取付け部分の剛性を向上したり、またはインパネメンバ自体の剛性を向上することによって、ハンドルの共振における固有振動数を高くして、振動の低周波域によるハンドルの共振を抑制することが従来より知られている(特許文献1および2参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、インパネメンバに対応するインパネリインホースメントの長手方向両端部が左右のフロントピラーの一部であるリインホースメント取付部に取り付けられ、このフロントピラーのリインホースメント取付部に、車両上下方向に沿って縦方向補強手段として部分的に盛り上がった稜線が形成された構造が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、インパネメンバに対応するステアリングサポートメンバの両端部に、半円筒状のサイドリインフォースを組み付けることにより、ステアリングサポートメンバの両端部の剛性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−168479号公報(段落番号0006など)
【特許文献2】特開2005−29096号公報(段落番号0010など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1または2に記載されているように、インパネメンバの取付部の剛性を向上させて固有振動数を周波数の高い方へシフトさせた場合、ハンドルが振動の高周波成分に共振し、それによって、操作者がハンドルから手に感じる振動が高周波成分によるビリビリした振動となり、運転時のフィーリングや乗り心地が悪化するという問題がある。
【0008】
また、このような固有振動数は、ある程度の周波数の幅(分布)を有しているので、特許文献1および2に記載されているようにインパネメンバの取付部の剛性を向上して固有振動数を高くしても、ある特定の周波数における共振のレベルを低下させることは可能だが、共振の発生をゼロにすることはできない。
【0009】
一方、インパネメンバと車体の内側壁との間に振動低減用のゴムを挟み、インパネメンバを車体に対して非接触の状態で支持することも考えられるが、この場合、インパネメンバの取付部分の剛性が大幅に低下するので、インパネメンバの取付部分の剛性を維持するという観点から好ましくない。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、インパネメンバの振動を効果的に減衰でき、ハンドルの振動を低減することが可能なインパネメンバの取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためのものとして、本発明のインパネメンバの取付構造は、車体と、前記車体の車幅方向に延びるように設置され、ステアリングシャフトを支持するインパネメンバと、前記インパネメンバに固定され、前記車体の内壁に対向する取付部材と、前記取付部材と前記車体の内壁との間を結合する結合部とを備えており、前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内壁とを剛体同士で結合する剛結合部分と、前記取付部材と前記車体の内壁との対向面に介在し、前記結合部に作用する力を減衰させる柔結合部分とを有していることを特徴としている(請求項1)。
【0012】
この構成によれば、インパネメンバ側の取付部材と車体の内壁とを結合する結合部が、剛体同士で結合する剛結合部分と、取付部材と車体の内壁との対向面に介在する前記結合部に作用する力を減衰させる柔結合部分とを有しているので、剛結合部分で結合部の剛性を維持しながら、振動を受けた柔結合部分が歪むことによって、車体からインパネメンバへ伝わる振動が減衰される。その結果、ハンドルの振動が低減する。
【0013】
なお、本発明でいう「車体の内壁」には、車体のフレームを構成するヒンジピラー等の車体内側の壁そのものだけでなく、当該車体の内壁に取り付けられたブラケット等の部品の表面も含まれるものとする。
【0014】
また、前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における端部に固定され、前記車体の内側壁に対向しており、前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内側壁との間を結合するのが好ましい(請求項2)。
【0015】
この構成によれば、結合部が、インパネメンバの車幅方向における端部に固定された取付部材と車体の内側壁との間を結合するので、車体の内側壁からインパネメンバの端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドルの振動を低減することができる。
【0016】
また、前記結合部は、前記ステアリングシャフトに近い側のみに設けられているのが好ましい(請求項3)。
【0017】
この構成によれば、結合部がステアリングシャフトに近い側のみに設けられているので、バネマス振動系のマスに相当するハンドルに近い位置に配置される。すなわち、結合部は、より振動低減効果の高い運転席側のみに設けられている。これにより、車両の生産性が向上し、製造コストが低減する。
【0018】
さらに、前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における所定部位の外周面に固定され、前記車体の車両前方側の内壁に対向しており、前記結合部は、前記取付部材と前記車体の車両前方側の内壁との間を結合するのが好ましい(請求項4)。
【0019】
この構成によれば、結合部が取付部材と車体の車両前方側の内壁との間を結合するので、車体の車両前方側の内壁からインパネメンバの端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドルの振動を低減することができる。
【0020】
さらに、前記柔結合部分は、粘弾性材料からなるのが好ましい(請求項5)。
【0021】
この構成によれば、柔結合部分が粘弾性材料からなるので、振動減衰効果が高くなる。
【0022】
さらに、前記粘弾性部材は、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する材料であるのが好ましい(請求項6)。
【0023】
この構成によれば、柔結合部分に用いられる粘弾性部材が上記の特性を有していることにより、振動減衰効果がより一層高くなる。
【0024】
さらに、前記柔結合部分は、前記対向面のうち前記剛結合部分の近傍以外の範囲に設けられているのが好ましい(請求項7)。
【0025】
この構成によれば、柔結合部分が対向面のうち剛結合部分の近傍以外の範囲に設けられているので、より振動減衰効果の高い部位にのみ柔結合部分を設けている、そのため、製造コストを低減することが可能である。
【0026】
さらに、前記剛結合部分は、前記車体の内壁と前記取付部材とがボルトで締結されることによって構成されているのが好ましい(請求項8)。
【0027】
この構成によれば、車体の内壁と取付部材とがボルトで締結されることによって剛結合部分が構成されているので、簡便な方法でインパネメンバの取付けが可能である。
【0028】
さらに、前記取付部材は、前記インパネメンバに固定されたフランジまたはブラケットであるのが好ましい(請求項9)。
【0029】
この構成によれば、取付部材がインパネメンバに固定されたフランジまたはブラケットであるので、車体に対して広い取付部位を確保でき、安定したインパネメンバの取付けが可能である。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明のインパネメンバの取付構造によれば、インパネメンバの振動を効果的に減衰することができる。その結果、インパネメンバの振動が伝達されることによるハンドルの振動を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のインパネメンバの取付構造の第1実施形態に係るインパネメンバの取付構造の斜視図である。
【図2】図1のインパネメンバの取付構造の正面図である。
【図3】図1のインパネメンバの取付構造におけるフランジおよび結合部付近の拡大正面図である。
【図4】図1のインパネメンバの取付構造におけるフランジおよび結合部付近の部分をヒンジピラーを省略した状態で斜め後方から見た図である。
【図5】本発明のインパネメンバの取付構造の第2実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図6】図5の結合部を車両に適用した場合のハンドルの振動特性を示すグラフである。
【図7】本発明のインパネメンバの取付構造の第3実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図8】本発明のインパネメンバの取付構造の第4実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図9】本発明のインパネメンバの取付構造の第5実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図10】本発明のインパネメンバの取付構造の第5実施形態の変形例に係る結合部の拡大断面図である。
【図11】本発明のインパネメンバの取付構造の第6実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のインパネメンバの取付構造の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1〜2に示されるように、自動車などの車両の車体1の内部のうち、インストルメントパネル(図示せず)よりも前側の空間2において、インパネメンバ3は、車幅方向に延びるように設置されている。
【0033】
インパネメンバ3は、その車幅方向Aにおける所定部位においてステアリングシャフト4を支持し、その両端部3a、3bが車体1の前側の両側壁を構成するヒンジピラー6に固定されている。ステアリングシャフト4は、車体1の内部を斜め後方に延び、その先端にはハンドル5が固定されている。
【0034】
ヒンジピラー6は、車体1のフレームを構成する部材の一つであり、上下方向に延びるスチール製の柱状部材である。ヒンジピラー6には、フロントドアのヒンジ(図示せず)が取り付けられる。
【0035】
本発明の第1実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造は、上記の車体1およびインパネメンバ3に加えて、図3〜4に示されるように、フランジ7と、結合部8とを備えている。
【0036】
フランジ7は、図1〜2に示されるように、インパネメンバ3に固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向する部材である。フランジ7は、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。フランジ7は、本発明の取付部材に相当している。
【0037】
フランジ7は、インパネメンバ3の車幅方向Aにおける両端部3a、3bに固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向している。フランジ7は、インパネメンバ3の両端部3a、3bから上下に平板状に延びており、ヒンジピラー6との対向面7aには、一対の突出部分14が形成されている。突出部分14には、ボルト11が貫通している。
【0038】
図3〜4に示されるように、結合部8は、剛結合部分9と、柔結合部分である粘弾性シート10とを有している。
【0039】
剛結合部分9は、フランジ7と車体1の内側壁を構成するヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、ヒンジピラー6側の突出部分13と、フランジ7側の突出部分14とから構成されている。
【0040】
図3に示されるように、剛結合部分9は、ヒンジピラー6側の突出部分13とフランジ7側の突出部分14とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、それにより、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0041】
図2に示されるように、第1実施形態におけるボルト11の締結方向は、車幅方向Aであり、インパネメンバ3が延びる方向と平行である。
【0042】
図3に示される剛結合部分9は、ヒンジピラー6の内壁とフランジ7とがボルト11およびナット12で締結されることによって構成されている。そのため、ボルト締めによる簡便な方法でインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0043】
しかも、第1実施形態では、ヒンジピラー6に固定されるインパネメンバ3側の取付部材として、インパネメンバ3に固定されたフランジ7を用いている。そのため、車体1に対して広い取付部位を確保でき、安定したインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0044】
柔結合部分である粘弾性シート10は、フランジ7とヒンジピラー6との対向面6a、7aの間の隙間15に介在し、剛結合部分9の剛体(ボルト11、ナット12、および突出部分13、14)よりも柔らかい粘弾性体である。
【0045】
本実施形態の粘弾性シート10は、粘弾性材料からなるシート状の部材であり、シリコーン系やアクリル系の材料などから製造されるものである。粘弾性シート10の厚さは、対向面6a、7aの両方に密着できる幅あればよく、例えば1mm程度である。
【0046】
この粘弾性材料からなる粘弾性シート10は、振動減衰効果が非常に高く、車両走行時のインパネメンバ3の振動エネルギーを熱エネルギーに散逸させることができる。
【0047】
粘弾性シート10は、とくに、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する材料であるのが好ましい。この特性であれば、振動減衰効果の効果がより一層高くなる。
【0048】
なお、本発明の柔結合部分は、結合部に作用する力を減衰させる部分であればよく、種々の材料、形状のものを適用することが可能である。
【0049】
一般の車両においては、通常、車両走行時に路面から車両へ一定の振動入力がある。このような定常振動状態において、インパネメンバとハンドル(およびステアリングシャフト)とが共振すれば、ハンドルの振動が大きくなり、ハンドルを握る運転者の手から感じる乗り心地が悪化する。インパネメンバは、その取付部分を固定端として振動する。そのため、インパネメンバの取付部分には、歪みエネルギーが集中する。
【0050】
そこで、第1実施形態のインパネメンバ3の取付構造では、剛結合部分9と粘弾性シート10とが複合された結合部8を介してインパネメンバ3が車体1に取り付けられている。したがって、剛結合部分9で結合部8の剛性を維持しながら、車体1からインパネメンバ3へ伝わる振動を結合部8の粘弾性シート10によって減衰することができる。その結果、インパネメンバ3の振動がステアリングシャフト4を介してハンドル5に伝達されるのを抑制することができる。
【0051】
本発明では、インパネメンバ3の取付部分の固有振動数を変えないように(つまり、振動の高周波成分によるビリビリした振動を発生させないように)、剛結合部分9とともに、粘弾性材料などからなる粘弾性シート10を設けている点に大きな特徴がある。粘弾性シート10は、インパネメンバ3の取付部分における振動による歪みエネルギーを吸収することにより、振動を減衰させて共振レベルを下げる機能を奏する。その結果、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制される。その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上している。
【0052】
しかも、粘弾性シート10で振動による歪みエネルギーの吸収を可能としつつ、剛結合部分9によってインパネメンバ3の取付部分の剛性を保つことができる。
【0053】
ここで、第1実施形態の結合部8は、図3〜4に示されるように、インパネメンバ3の車幅方向における両端部3a、3bのフランジ7とヒンジピラー6の内壁との間を結合している。これにより、車体1の内側壁からインパネメンバ3の端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドル5の振動が低減する。
【0054】
より好ましくは、結合部8がインパネメンバ3の車幅方向Aにおけるステアリングシャフト4に近い側の端部3aのみに設けられていれば、バネマス振動系のマス(質量)に相当するハンドル5に近い位置に配置される。すなわち、結合部8をハンドル5のより振動低減効果の高い運転席側のみに選択して設けることが可能になる。そのため、車両の生産性が向上し、製造コストが低減する。
【0055】
また、本実施形態では、図3〜4に示されるように、粘弾性シート10は、対向面6a、7aのうち剛結合部分9の近傍以外の範囲に設けられている。例えば、図3〜4に示される粘弾性シート10は、剛結合部分9の周囲に環状の空間部17をあけてその周囲に配置されている。ここでは、剛結合部分9の近傍に粘弾性シート10を配置しても振幅が小さく振動減衰効果が低いため、より振動減衰効果の高い部位にのみ粘弾性シート10を設けるようにしている。その結果、製造コストを低減することが可能である。なお、粘弾性シート10は、対向面6a、7aの外周部分16に設定されていることが最も好ましい。
【0056】
粘弾性シート10の配置についてさらに詳細に説明すれば、以下の通りである。まず、粘弾性シート10などの減衰材に吸収される歪みエネルギーを大きくすると減衰効果が大きくなる。しかし、この歪みエネルギーを大きくするためには、減衰材の変形量(ひずみ)を大きくする必要がある。減衰材の変形量を大きくするには、2つの条件、すなわち、減衰材が変形できる自由度があること、および減衰材を変形させる力が大きい(大きい応力が作用している)ことが必要である。
【0057】
したがって、ボルト11に近すぎる部位では、減衰材にかかる応力は大きいが、ボルト11に近すぎて変形自由度がないので、減衰材の変形量が小さくなる。そのため、減衰材が吸収できる歪みエネルギーも小さい。
【0058】
また、ボルト11から少し離れた部位では、ボルト11に近いので、応力がある程度大きく、変形できる自由度もあり、減衰材の変形量もある程度大きい。そのため、減衰材が吸収できる歪みエネルギーも大きくなる。
【0059】
一方、ボルト11から離れた部位では、変形できる自由度は大きいが、ボルト11から離れすぎて減衰材に振動が伝わりにくくなり、減衰材にかかる応力も小さくなる。その結果、減衰材が吸収できる歪みエネルギーも小さくなる。
【0060】
したがって、ボルト11近傍から少し離れた部位に粘弾性シートを配置すれば、減衰材が吸収できる歪みエネルギーが大きく、振動減衰効果が最も高くなる。
【0061】
これらの点を考慮すれば、粘弾性シート10の設けられる範囲は、対向面6a、7aの外周部分16が最も好ましいと考えられる。ただし、インパネメンバ3の取付部分の構造または形状によっては、振動減衰効果の高い位置は、対向面6a、7aの外周部分16以外の部分になる場合もある。
【0062】
なお、第1実施形態のインパネメンバ3の取り付け構造において、インパネメンバ3の両端部のうちの片方に、インパネメンバ3の組付け時における長さ調整のために、剛体スペーサ21および追加スペーサ25(図5参照)を追加してもよい。
【0063】
(第2実施形態)
また、本発明のインパネメンバ3の取付構造の他の実施形態として、図5に示されるような追加スペーサ25を含む柔結合部分22を用いてもよい。
【0064】
すなわち、図5に示される本発明の第2実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、インパネメンバ3に固定されたフランジ7とヒンジピラー6との間に、結合部20を備えている。図5のヒンジピラー6は、アウタ部分61と、インナ部分62とを有している。
【0065】
結合部20は、剛結合部分21と、柔結合部分22とから構成されている。
【0066】
剛結合部分21は、フランジ7とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、スチールなどの金属からなる剛体スペーサ23とから構成されている。剛結合部分21は、ヒンジピラー6とフランジ7との間に剛体スペーサ23が挟まれた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0067】
なお、図5に示される第2実施形態でも、ボルト11の締結方向は、車幅方向Aであり、インパネメンバ3が延びる方向と平行である。
【0068】
柔結合部分22は、接着剤24と、追加スペーサ25とを有している。
【0069】
接着剤24は、粘弾性材料からなる接着剤などであり、シリコーン系やアクリル系の材料などからなる。接着剤24は、例えば、厚さ1mm程度であり、ADシーラ等が用いられる。粘弾性材料からなる接着剤24を用いれば、第1実施形態の粘弾性シートと同様に、振動減衰効果が非常に高い。
【0070】
また、接着剤24も、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する粘弾性材料であるのが好ましい。この特性であれば、振動減衰効果の効果がより一層高くなる。
【0071】
追加スペーサ25は、剛体スペーサ23と同じ金属または軟質の金属(アルミニウムなど)からなる円筒状の部材である。追加スペーサ25と剛体スペーサ23との間には、空間26が形成されている。追加スペーサ25とフランジ7との間、および追加スペーサ25とヒンジピラー6との間には、それぞれ、接着剤24が配置されている。
【0072】
第2実施形態の場合、インパネメンバ3を取り付ける場合には、まず、追加スペーサ25の両端に接着剤24を塗布し、その後、剛体スペーサ23および追加スペーサ25を、ヒンジピラー6とフランジ7との間に挟む。最後に、剛体スペーサ23および追加スペーサ25がヒンジピラー6とフランジ7との間に挟まれた部位を、ボルト11およびナット12によって締結する。
【0073】
インパネメンバ3をボルト11で車幅方向Aから車体1に締結する場合、インパネメンバ3の組付けの際の長さ調整のために剛体スペーサ23が必要となる。そこで、図5に示されるように、剛体スペーサ23を介してヒンジピラー6とフランジ7との間をボルト11で締結する場合には、柔結合部分22として、接着剤24と追加スペーサ25とを組み合わせたものを用いることにより、ヒンジピラー6とフランジ7との間隔が広くても、接着剤24による振動吸収効果を発揮することが可能になる。
【0074】
しかも、接着剤24によってインパネメンバ3に伝達される振動を吸収しつつ、剛体スペーサ23を含む剛結合部分21によって、インパネメンバ3の取付部分の剛性を保つことができる。
【0075】
第2実施形態のインパネメンバ3の取付構造においても、上記の構成によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制される。その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0076】
ここで、図5に示されるインパネメンバ3の取付構造についての振動低減効果を実験により検証した結果を図6のグラフに示す。
【0077】
図6の線Iは、図5に示される本発明の第2実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造(すなわち、ヒンジピラー6とフランジ7との間に、剛体スペーサ23、接着剤24および追加スペーサ25を有する構造)を有する車両を台上で加振したときのハンドル5の振動データを示す。図6のグラフの横軸は振動数f、縦軸は伝達関数Gを示している。
【0078】
これに対する比較例として図6の線IIは、図5に示されるインパネメンバ3の取付構造から図5の柔結合部分22(接着剤24および追加スペーサ25)を省略した構造(すなわち、ヒンジピラー6とフランジ7との間に、剛体スペーサ23のみを有する構造)を有する車両を台上で加振したときのハンドル5の振動データを示す。
【0079】
図6の2つの振動データI,IIを比較すれば、本発明の第2実施形態に係る線Iは、柔結合部分を有しない比較例の線IIと比較して、ピークとなる共振周波数付近の伝達関数が低くなっている(この場合、振動の振幅も小さくなる)が、共振周波数の周波数自体はほとんど変わっていない(横にシフトしていない)。つまり、本発明の第2実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造では、柔結合部分を有しない構造と比較して、剛性は同程度を維持しながら、共振のレベルのみを下げている。その結果、この特性を利用して、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動の発生を防ぎ、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制することができる。
【0080】
(第3実施形態)
上記の第1〜2実施形態では、インパネメンバ3に固定されてヒンジピラー6の内壁に対向する取付部材としてフランジ7を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明のさらに他の実施形態として、図7に示されるブラケット28を取付部材として用いてインパネメンバ3を取り付けてもよい。
【0081】
すなわち、図7に示される本発明の第3実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、
上記の車体1およびインパネメンバ3(図1〜2参照)に加えて、ブラケット28と、結合部29とを備えている。
【0082】
ブラケット28は、インパネメンバ3に固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向する部材であり、本発明の取付部材に相当している。ブラケット28は、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。
【0083】
ブラケット28は、インパネメンバ3の車幅方向Aにおける両端部3a、3b(図2参照)に固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向している。ブラケット28の固定部分28bは、そのインパネメンバ3の両端部3a、3bの端面に固定されている。
【0084】
結合部29は、剛結合部分30と、柔結合部分である粘弾性体31とを有している。
【0085】
剛結合部分30は、ブラケット28とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、ブラケット28側の突出部分32とから構成されている。
【0086】
図7に示されるように、剛結合部分30は、ヒンジピラー6側の対向面6aとブラケット28側の突出部分32とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0087】
図7に示されるように、第3実施形態におけるボルト11の締結方向は、車幅方向Aであり、インパネメンバ3が延びる方向と平行である。
【0088】
ヒンジピラー6の内壁とブラケット28とがボルト11およびナット12で締結されている。そのため、ボルト締めによる簡便な方法でインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0089】
しかも、第3実施形態では、ヒンジピラー6に固定されるインパネメンバ3側の取付部材としてブラケット28を用いている。そのため、車体1に対して広い取付部位を確保でき、安定したインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0090】
柔結合部分である粘弾性体31は、ブラケット28の対向面28aとヒンジピラー6の対向面6aとの隙間33に介在し、剛結合部分30の剛体(ボルト11、ナット12、および突出部分32)よりも柔らかい粘弾性体である。粘弾性体31としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0091】
図7に示される本発明のインパネメンバ3の取付構造においても、、剛結合部分30および粘弾性体31を有する結合部29によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制され、その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0092】
(第4実施形態)
本発明のさらに他の実施形態として、図8に示される本発明の第4実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、車体1の一部としてのヒンジピラー6の内壁にブラケット35がさらに取り付けられ、インパネメンバ3側のブラケット36と斜め方向にボルト11で締結されたものである。
【0093】
具体的には、第4実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、ブラケット35を含む車体1と、インパネメンバ3と、インパネメンバ3側のブラケット36と、結合部37とを備えている。
【0094】
ブラケット36は、インパネメンバ3に固定され、車体側のブラケット35の対向面35aに対向する部材であり、本発明の取付部材に相当している。ブラケット36は、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。
【0095】
ブラケット36の固定部分36bは、そのインパネメンバ3の両端部3a、3bの端部外周面に固定されている。
【0096】
結合部37は、剛結合部分38と、柔結合部分である粘弾性体39とを有している。
【0097】
剛結合部分38は、ブラケット35とブラケット36とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、スチールなどの金属からなる剛性の高い剛体スペーサ40とから構成されている。
【0098】
図8に示されるように、剛結合部分38は、ヒンジピラー6側のブラケット35とインパネメンバ3側のブラケット36との間に剛体スペーサ40を挟んだ状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0099】
図8に示されるように、第4実施形態におけるボルト11の締結方向は、車幅方向Aに対して所定角度で傾斜した斜め方向Cである。
【0100】
柔結合部分である粘弾性体39は、ヒンジピラー6側のブラケット35とインパネメンバ3側のブラケット36との間に介在している。粘弾性体39としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0101】
図8に示されるように、上記のような斜め方向Cにボルト締めをしてインパネメンバ3を取り付けた構成においても、剛結合部分38および粘弾性体39を有する結合部37によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制され、その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0102】
(第5実施形態)
本発明のさらに他の実施形態として、図9に示される本発明の第5実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、インパネメンバ3側のブラケット42とヒンジピラー6とが車体前後方向Bにボルト11で締結されたものである。
【0103】
具体的には、図9に示される本発明の第5実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、
上記の車体1およびインパネメンバ3(図1〜2参照)に加えて、ブラケット42と、結合部43とを備えている。
【0104】
ブラケット42は、インパネメンバ3に固定され、ヒンジピラー6の内壁のうち車幅方向に延びる部分6bに対向する取付部材であり、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。ブラケット42の固定部分42bは、インパネメンバ3の両端部3a、3bの外周面に固定されている。
【0105】
結合部43は、剛結合部分44と、柔結合部分である粘弾性体45とを有している。
【0106】
剛結合部分44は、ブラケット42とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、ブラケット42側の突出部分46とから構成されている。
【0107】
図9に示されるように、剛結合部分44は、ヒンジピラー6側の対向面6cとブラケット42側の突出部分46とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0108】
図9に示されるように、第5実施形態におけるボルト11の締結方向は、車体前後方向Bであり、インパネメンバ3延びる方向と直交している。
【0109】
柔結合部分である粘弾性体45は、ブラケット42とヒンジピラー6との対向面6cの間の隙間47に介在し、剛結合部分44の剛体(ボルト11、ナット12、および突出部分46)よりも柔らかい粘弾性体である。粘弾性体45としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0110】
図9に示される本発明のインパネメンバ3の取付構造においても、剛結合部分44および粘弾性体45を有する結合部43によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制され、その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0111】
なお、図9に示される例では、インパネメンバ3側のブラケット42がヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bに直接締結されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0112】
第5実施形態の変形例として、図10に示されるように、ヒンジピラー6の内側壁6dから車幅方向Aに突出して設けられたブラケット48に対して、インパネメンバ3側のブラケット42がボルト11で車体前後方向Bに締結されるようにしてもよい。
【0113】
(第6実施形態)
インパネメンバ3は、インパネメンバ3の車幅方向における所定部位の外周面でも車体1にブラケットを介して取り付けることが可能である。
【0114】
すなわち、本発明の第6実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造は、図11に示されるように、車体1のヒンジピラー6の縦壁のうち車幅方向(紙面垂直方向)に延びる部分6bにブラケット51を介してインパネメンバ3が取り付けられた構造である。
【0115】
ブラケット51は、インパネメンバ3の車幅方向Aにおける所定部位の外周面に固定されている。所定部位は、ステアリングシャフト等の配置を考慮して適宜設定される。ブラケット51の円筒状の部分52は、インパネメンバ3の外周面に結合している。ブラケット51の平板部分53は、車体1の車両前方側の内壁である、ヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bに対向している。
【0116】
結合部54は、ブラケット51の平板部分53とヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bとの間を結合する。結合部54は、剛結合部分55と、柔結合部分である粘弾性体56とを有している。剛結合部分55は、ヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bとブラケット51の平板部分53に形成された突出部分57とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0117】
図11に示されるように、第6実施形態におけるボルト11の締結方向は、車体前後方向Bであり、インパネメンバ3の延びる方向(紙面垂直方向)と直交している。
【0118】
柔結合部分である粘弾性体56は、ブラケット51の平板部分53とヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bとの隙間58に介在している。粘弾性体56としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0119】
図11に示される本発明のインパネメンバ3の取付構造では、剛結合部分55および粘弾性体56を有する結合部54によって、車体1の車両前方側の内壁からインパネメンバ3の端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドル5の振動が低減する。また、上記の構成によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制される。その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【符号の説明】
【0120】
1 車体
3 インパネメンバ
4 ステアリングシャフト
5 ハンドル
6 ヒンジピラー
6a 対向面
7 フランジ(取付部材)
7a 対向面
8、20、29、37、43、54 結合部
9、21、30、38、44、55 剛結合部分
10 粘弾性シート(柔結合部分)
11 ボルト
12 ナット
22 柔結合部分
23、40 剛体スペーサ
24 接着剤(柔結合部分)
25 追加スペーサ
28、36、42、51 ブラケット(取付部材)
31、39、45、56 粘弾性体(柔結合部分)
35、48 車体側のブラケット
A 車幅方向
B 車体前後方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のインパネメンバの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、ハンドルが固定されたステアリングシャフトを車体内部に回転自在に支持するために、車体内部には、車幅方向に延びるインパネメンバが設けられている。インパネメンバは、その両端部が車体側方のヒンジピラー等に固定されている。したがって、車両の運転中に発生した車体の振動がインパネメンバおよびステアリングシャフトを介してハンドルに伝達される。
【0003】
このようなインパネメンバの振動が伝達されることによって生じるハンドルの操作性の悪化を抑制する手段として、インパネメンバと車体部材との取付け部分の剛性を向上したり、またはインパネメンバ自体の剛性を向上することによって、ハンドルの共振における固有振動数を高くして、振動の低周波域によるハンドルの共振を抑制することが従来より知られている(特許文献1および2参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、インパネメンバに対応するインパネリインホースメントの長手方向両端部が左右のフロントピラーの一部であるリインホースメント取付部に取り付けられ、このフロントピラーのリインホースメント取付部に、車両上下方向に沿って縦方向補強手段として部分的に盛り上がった稜線が形成された構造が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、インパネメンバに対応するステアリングサポートメンバの両端部に、半円筒状のサイドリインフォースを組み付けることにより、ステアリングサポートメンバの両端部の剛性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−168479号公報(段落番号0006など)
【特許文献2】特開2005−29096号公報(段落番号0010など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1または2に記載されているように、インパネメンバの取付部の剛性を向上させて固有振動数を周波数の高い方へシフトさせた場合、ハンドルが振動の高周波成分に共振し、それによって、操作者がハンドルから手に感じる振動が高周波成分によるビリビリした振動となり、運転時のフィーリングや乗り心地が悪化するという問題がある。
【0008】
また、このような固有振動数は、ある程度の周波数の幅(分布)を有しているので、特許文献1および2に記載されているようにインパネメンバの取付部の剛性を向上して固有振動数を高くしても、ある特定の周波数における共振のレベルを低下させることは可能だが、共振の発生をゼロにすることはできない。
【0009】
一方、インパネメンバと車体の内側壁との間に振動低減用のゴムを挟み、インパネメンバを車体に対して非接触の状態で支持することも考えられるが、この場合、インパネメンバの取付部分の剛性が大幅に低下するので、インパネメンバの取付部分の剛性を維持するという観点から好ましくない。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、インパネメンバの振動を効果的に減衰でき、ハンドルの振動を低減することが可能なインパネメンバの取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためのものとして、本発明のインパネメンバの取付構造は、車体と、前記車体の車幅方向に延びるように設置され、ステアリングシャフトを支持するインパネメンバと、前記インパネメンバに固定され、前記車体の内壁に対向する取付部材と、前記取付部材と前記車体の内壁との間を結合する結合部とを備えており、前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内壁とを剛体同士で結合する剛結合部分と、前記取付部材と前記車体の内壁との対向面に介在し、前記結合部に作用する力を減衰させる柔結合部分とを有していることを特徴としている(請求項1)。
【0012】
この構成によれば、インパネメンバ側の取付部材と車体の内壁とを結合する結合部が、剛体同士で結合する剛結合部分と、取付部材と車体の内壁との対向面に介在する前記結合部に作用する力を減衰させる柔結合部分とを有しているので、剛結合部分で結合部の剛性を維持しながら、振動を受けた柔結合部分が歪むことによって、車体からインパネメンバへ伝わる振動が減衰される。その結果、ハンドルの振動が低減する。
【0013】
なお、本発明でいう「車体の内壁」には、車体のフレームを構成するヒンジピラー等の車体内側の壁そのものだけでなく、当該車体の内壁に取り付けられたブラケット等の部品の表面も含まれるものとする。
【0014】
また、前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における端部に固定され、前記車体の内側壁に対向しており、前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内側壁との間を結合するのが好ましい(請求項2)。
【0015】
この構成によれば、結合部が、インパネメンバの車幅方向における端部に固定された取付部材と車体の内側壁との間を結合するので、車体の内側壁からインパネメンバの端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドルの振動を低減することができる。
【0016】
また、前記結合部は、前記ステアリングシャフトに近い側のみに設けられているのが好ましい(請求項3)。
【0017】
この構成によれば、結合部がステアリングシャフトに近い側のみに設けられているので、バネマス振動系のマスに相当するハンドルに近い位置に配置される。すなわち、結合部は、より振動低減効果の高い運転席側のみに設けられている。これにより、車両の生産性が向上し、製造コストが低減する。
【0018】
さらに、前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における所定部位の外周面に固定され、前記車体の車両前方側の内壁に対向しており、前記結合部は、前記取付部材と前記車体の車両前方側の内壁との間を結合するのが好ましい(請求項4)。
【0019】
この構成によれば、結合部が取付部材と車体の車両前方側の内壁との間を結合するので、車体の車両前方側の内壁からインパネメンバの端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドルの振動を低減することができる。
【0020】
さらに、前記柔結合部分は、粘弾性材料からなるのが好ましい(請求項5)。
【0021】
この構成によれば、柔結合部分が粘弾性材料からなるので、振動減衰効果が高くなる。
【0022】
さらに、前記粘弾性部材は、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する材料であるのが好ましい(請求項6)。
【0023】
この構成によれば、柔結合部分に用いられる粘弾性部材が上記の特性を有していることにより、振動減衰効果がより一層高くなる。
【0024】
さらに、前記柔結合部分は、前記対向面のうち前記剛結合部分の近傍以外の範囲に設けられているのが好ましい(請求項7)。
【0025】
この構成によれば、柔結合部分が対向面のうち剛結合部分の近傍以外の範囲に設けられているので、より振動減衰効果の高い部位にのみ柔結合部分を設けている、そのため、製造コストを低減することが可能である。
【0026】
さらに、前記剛結合部分は、前記車体の内壁と前記取付部材とがボルトで締結されることによって構成されているのが好ましい(請求項8)。
【0027】
この構成によれば、車体の内壁と取付部材とがボルトで締結されることによって剛結合部分が構成されているので、簡便な方法でインパネメンバの取付けが可能である。
【0028】
さらに、前記取付部材は、前記インパネメンバに固定されたフランジまたはブラケットであるのが好ましい(請求項9)。
【0029】
この構成によれば、取付部材がインパネメンバに固定されたフランジまたはブラケットであるので、車体に対して広い取付部位を確保でき、安定したインパネメンバの取付けが可能である。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明のインパネメンバの取付構造によれば、インパネメンバの振動を効果的に減衰することができる。その結果、インパネメンバの振動が伝達されることによるハンドルの振動を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のインパネメンバの取付構造の第1実施形態に係るインパネメンバの取付構造の斜視図である。
【図2】図1のインパネメンバの取付構造の正面図である。
【図3】図1のインパネメンバの取付構造におけるフランジおよび結合部付近の拡大正面図である。
【図4】図1のインパネメンバの取付構造におけるフランジおよび結合部付近の部分をヒンジピラーを省略した状態で斜め後方から見た図である。
【図5】本発明のインパネメンバの取付構造の第2実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図6】図5の結合部を車両に適用した場合のハンドルの振動特性を示すグラフである。
【図7】本発明のインパネメンバの取付構造の第3実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図8】本発明のインパネメンバの取付構造の第4実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図9】本発明のインパネメンバの取付構造の第5実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【図10】本発明のインパネメンバの取付構造の第5実施形態の変形例に係る結合部の拡大断面図である。
【図11】本発明のインパネメンバの取付構造の第6実施形態に係る結合部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のインパネメンバの取付構造の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1〜2に示されるように、自動車などの車両の車体1の内部のうち、インストルメントパネル(図示せず)よりも前側の空間2において、インパネメンバ3は、車幅方向に延びるように設置されている。
【0033】
インパネメンバ3は、その車幅方向Aにおける所定部位においてステアリングシャフト4を支持し、その両端部3a、3bが車体1の前側の両側壁を構成するヒンジピラー6に固定されている。ステアリングシャフト4は、車体1の内部を斜め後方に延び、その先端にはハンドル5が固定されている。
【0034】
ヒンジピラー6は、車体1のフレームを構成する部材の一つであり、上下方向に延びるスチール製の柱状部材である。ヒンジピラー6には、フロントドアのヒンジ(図示せず)が取り付けられる。
【0035】
本発明の第1実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造は、上記の車体1およびインパネメンバ3に加えて、図3〜4に示されるように、フランジ7と、結合部8とを備えている。
【0036】
フランジ7は、図1〜2に示されるように、インパネメンバ3に固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向する部材である。フランジ7は、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。フランジ7は、本発明の取付部材に相当している。
【0037】
フランジ7は、インパネメンバ3の車幅方向Aにおける両端部3a、3bに固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向している。フランジ7は、インパネメンバ3の両端部3a、3bから上下に平板状に延びており、ヒンジピラー6との対向面7aには、一対の突出部分14が形成されている。突出部分14には、ボルト11が貫通している。
【0038】
図3〜4に示されるように、結合部8は、剛結合部分9と、柔結合部分である粘弾性シート10とを有している。
【0039】
剛結合部分9は、フランジ7と車体1の内側壁を構成するヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、ヒンジピラー6側の突出部分13と、フランジ7側の突出部分14とから構成されている。
【0040】
図3に示されるように、剛結合部分9は、ヒンジピラー6側の突出部分13とフランジ7側の突出部分14とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、それにより、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0041】
図2に示されるように、第1実施形態におけるボルト11の締結方向は、車幅方向Aであり、インパネメンバ3が延びる方向と平行である。
【0042】
図3に示される剛結合部分9は、ヒンジピラー6の内壁とフランジ7とがボルト11およびナット12で締結されることによって構成されている。そのため、ボルト締めによる簡便な方法でインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0043】
しかも、第1実施形態では、ヒンジピラー6に固定されるインパネメンバ3側の取付部材として、インパネメンバ3に固定されたフランジ7を用いている。そのため、車体1に対して広い取付部位を確保でき、安定したインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0044】
柔結合部分である粘弾性シート10は、フランジ7とヒンジピラー6との対向面6a、7aの間の隙間15に介在し、剛結合部分9の剛体(ボルト11、ナット12、および突出部分13、14)よりも柔らかい粘弾性体である。
【0045】
本実施形態の粘弾性シート10は、粘弾性材料からなるシート状の部材であり、シリコーン系やアクリル系の材料などから製造されるものである。粘弾性シート10の厚さは、対向面6a、7aの両方に密着できる幅あればよく、例えば1mm程度である。
【0046】
この粘弾性材料からなる粘弾性シート10は、振動減衰効果が非常に高く、車両走行時のインパネメンバ3の振動エネルギーを熱エネルギーに散逸させることができる。
【0047】
粘弾性シート10は、とくに、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する材料であるのが好ましい。この特性であれば、振動減衰効果の効果がより一層高くなる。
【0048】
なお、本発明の柔結合部分は、結合部に作用する力を減衰させる部分であればよく、種々の材料、形状のものを適用することが可能である。
【0049】
一般の車両においては、通常、車両走行時に路面から車両へ一定の振動入力がある。このような定常振動状態において、インパネメンバとハンドル(およびステアリングシャフト)とが共振すれば、ハンドルの振動が大きくなり、ハンドルを握る運転者の手から感じる乗り心地が悪化する。インパネメンバは、その取付部分を固定端として振動する。そのため、インパネメンバの取付部分には、歪みエネルギーが集中する。
【0050】
そこで、第1実施形態のインパネメンバ3の取付構造では、剛結合部分9と粘弾性シート10とが複合された結合部8を介してインパネメンバ3が車体1に取り付けられている。したがって、剛結合部分9で結合部8の剛性を維持しながら、車体1からインパネメンバ3へ伝わる振動を結合部8の粘弾性シート10によって減衰することができる。その結果、インパネメンバ3の振動がステアリングシャフト4を介してハンドル5に伝達されるのを抑制することができる。
【0051】
本発明では、インパネメンバ3の取付部分の固有振動数を変えないように(つまり、振動の高周波成分によるビリビリした振動を発生させないように)、剛結合部分9とともに、粘弾性材料などからなる粘弾性シート10を設けている点に大きな特徴がある。粘弾性シート10は、インパネメンバ3の取付部分における振動による歪みエネルギーを吸収することにより、振動を減衰させて共振レベルを下げる機能を奏する。その結果、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制される。その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上している。
【0052】
しかも、粘弾性シート10で振動による歪みエネルギーの吸収を可能としつつ、剛結合部分9によってインパネメンバ3の取付部分の剛性を保つことができる。
【0053】
ここで、第1実施形態の結合部8は、図3〜4に示されるように、インパネメンバ3の車幅方向における両端部3a、3bのフランジ7とヒンジピラー6の内壁との間を結合している。これにより、車体1の内側壁からインパネメンバ3の端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドル5の振動が低減する。
【0054】
より好ましくは、結合部8がインパネメンバ3の車幅方向Aにおけるステアリングシャフト4に近い側の端部3aのみに設けられていれば、バネマス振動系のマス(質量)に相当するハンドル5に近い位置に配置される。すなわち、結合部8をハンドル5のより振動低減効果の高い運転席側のみに選択して設けることが可能になる。そのため、車両の生産性が向上し、製造コストが低減する。
【0055】
また、本実施形態では、図3〜4に示されるように、粘弾性シート10は、対向面6a、7aのうち剛結合部分9の近傍以外の範囲に設けられている。例えば、図3〜4に示される粘弾性シート10は、剛結合部分9の周囲に環状の空間部17をあけてその周囲に配置されている。ここでは、剛結合部分9の近傍に粘弾性シート10を配置しても振幅が小さく振動減衰効果が低いため、より振動減衰効果の高い部位にのみ粘弾性シート10を設けるようにしている。その結果、製造コストを低減することが可能である。なお、粘弾性シート10は、対向面6a、7aの外周部分16に設定されていることが最も好ましい。
【0056】
粘弾性シート10の配置についてさらに詳細に説明すれば、以下の通りである。まず、粘弾性シート10などの減衰材に吸収される歪みエネルギーを大きくすると減衰効果が大きくなる。しかし、この歪みエネルギーを大きくするためには、減衰材の変形量(ひずみ)を大きくする必要がある。減衰材の変形量を大きくするには、2つの条件、すなわち、減衰材が変形できる自由度があること、および減衰材を変形させる力が大きい(大きい応力が作用している)ことが必要である。
【0057】
したがって、ボルト11に近すぎる部位では、減衰材にかかる応力は大きいが、ボルト11に近すぎて変形自由度がないので、減衰材の変形量が小さくなる。そのため、減衰材が吸収できる歪みエネルギーも小さい。
【0058】
また、ボルト11から少し離れた部位では、ボルト11に近いので、応力がある程度大きく、変形できる自由度もあり、減衰材の変形量もある程度大きい。そのため、減衰材が吸収できる歪みエネルギーも大きくなる。
【0059】
一方、ボルト11から離れた部位では、変形できる自由度は大きいが、ボルト11から離れすぎて減衰材に振動が伝わりにくくなり、減衰材にかかる応力も小さくなる。その結果、減衰材が吸収できる歪みエネルギーも小さくなる。
【0060】
したがって、ボルト11近傍から少し離れた部位に粘弾性シートを配置すれば、減衰材が吸収できる歪みエネルギーが大きく、振動減衰効果が最も高くなる。
【0061】
これらの点を考慮すれば、粘弾性シート10の設けられる範囲は、対向面6a、7aの外周部分16が最も好ましいと考えられる。ただし、インパネメンバ3の取付部分の構造または形状によっては、振動減衰効果の高い位置は、対向面6a、7aの外周部分16以外の部分になる場合もある。
【0062】
なお、第1実施形態のインパネメンバ3の取り付け構造において、インパネメンバ3の両端部のうちの片方に、インパネメンバ3の組付け時における長さ調整のために、剛体スペーサ21および追加スペーサ25(図5参照)を追加してもよい。
【0063】
(第2実施形態)
また、本発明のインパネメンバ3の取付構造の他の実施形態として、図5に示されるような追加スペーサ25を含む柔結合部分22を用いてもよい。
【0064】
すなわち、図5に示される本発明の第2実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、インパネメンバ3に固定されたフランジ7とヒンジピラー6との間に、結合部20を備えている。図5のヒンジピラー6は、アウタ部分61と、インナ部分62とを有している。
【0065】
結合部20は、剛結合部分21と、柔結合部分22とから構成されている。
【0066】
剛結合部分21は、フランジ7とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、スチールなどの金属からなる剛体スペーサ23とから構成されている。剛結合部分21は、ヒンジピラー6とフランジ7との間に剛体スペーサ23が挟まれた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0067】
なお、図5に示される第2実施形態でも、ボルト11の締結方向は、車幅方向Aであり、インパネメンバ3が延びる方向と平行である。
【0068】
柔結合部分22は、接着剤24と、追加スペーサ25とを有している。
【0069】
接着剤24は、粘弾性材料からなる接着剤などであり、シリコーン系やアクリル系の材料などからなる。接着剤24は、例えば、厚さ1mm程度であり、ADシーラ等が用いられる。粘弾性材料からなる接着剤24を用いれば、第1実施形態の粘弾性シートと同様に、振動減衰効果が非常に高い。
【0070】
また、接着剤24も、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する粘弾性材料であるのが好ましい。この特性であれば、振動減衰効果の効果がより一層高くなる。
【0071】
追加スペーサ25は、剛体スペーサ23と同じ金属または軟質の金属(アルミニウムなど)からなる円筒状の部材である。追加スペーサ25と剛体スペーサ23との間には、空間26が形成されている。追加スペーサ25とフランジ7との間、および追加スペーサ25とヒンジピラー6との間には、それぞれ、接着剤24が配置されている。
【0072】
第2実施形態の場合、インパネメンバ3を取り付ける場合には、まず、追加スペーサ25の両端に接着剤24を塗布し、その後、剛体スペーサ23および追加スペーサ25を、ヒンジピラー6とフランジ7との間に挟む。最後に、剛体スペーサ23および追加スペーサ25がヒンジピラー6とフランジ7との間に挟まれた部位を、ボルト11およびナット12によって締結する。
【0073】
インパネメンバ3をボルト11で車幅方向Aから車体1に締結する場合、インパネメンバ3の組付けの際の長さ調整のために剛体スペーサ23が必要となる。そこで、図5に示されるように、剛体スペーサ23を介してヒンジピラー6とフランジ7との間をボルト11で締結する場合には、柔結合部分22として、接着剤24と追加スペーサ25とを組み合わせたものを用いることにより、ヒンジピラー6とフランジ7との間隔が広くても、接着剤24による振動吸収効果を発揮することが可能になる。
【0074】
しかも、接着剤24によってインパネメンバ3に伝達される振動を吸収しつつ、剛体スペーサ23を含む剛結合部分21によって、インパネメンバ3の取付部分の剛性を保つことができる。
【0075】
第2実施形態のインパネメンバ3の取付構造においても、上記の構成によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制される。その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0076】
ここで、図5に示されるインパネメンバ3の取付構造についての振動低減効果を実験により検証した結果を図6のグラフに示す。
【0077】
図6の線Iは、図5に示される本発明の第2実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造(すなわち、ヒンジピラー6とフランジ7との間に、剛体スペーサ23、接着剤24および追加スペーサ25を有する構造)を有する車両を台上で加振したときのハンドル5の振動データを示す。図6のグラフの横軸は振動数f、縦軸は伝達関数Gを示している。
【0078】
これに対する比較例として図6の線IIは、図5に示されるインパネメンバ3の取付構造から図5の柔結合部分22(接着剤24および追加スペーサ25)を省略した構造(すなわち、ヒンジピラー6とフランジ7との間に、剛体スペーサ23のみを有する構造)を有する車両を台上で加振したときのハンドル5の振動データを示す。
【0079】
図6の2つの振動データI,IIを比較すれば、本発明の第2実施形態に係る線Iは、柔結合部分を有しない比較例の線IIと比較して、ピークとなる共振周波数付近の伝達関数が低くなっている(この場合、振動の振幅も小さくなる)が、共振周波数の周波数自体はほとんど変わっていない(横にシフトしていない)。つまり、本発明の第2実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造では、柔結合部分を有しない構造と比較して、剛性は同程度を維持しながら、共振のレベルのみを下げている。その結果、この特性を利用して、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動の発生を防ぎ、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制することができる。
【0080】
(第3実施形態)
上記の第1〜2実施形態では、インパネメンバ3に固定されてヒンジピラー6の内壁に対向する取付部材としてフランジ7を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明のさらに他の実施形態として、図7に示されるブラケット28を取付部材として用いてインパネメンバ3を取り付けてもよい。
【0081】
すなわち、図7に示される本発明の第3実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、
上記の車体1およびインパネメンバ3(図1〜2参照)に加えて、ブラケット28と、結合部29とを備えている。
【0082】
ブラケット28は、インパネメンバ3に固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向する部材であり、本発明の取付部材に相当している。ブラケット28は、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。
【0083】
ブラケット28は、インパネメンバ3の車幅方向Aにおける両端部3a、3b(図2参照)に固定され、ヒンジピラー6の内壁に対向している。ブラケット28の固定部分28bは、そのインパネメンバ3の両端部3a、3bの端面に固定されている。
【0084】
結合部29は、剛結合部分30と、柔結合部分である粘弾性体31とを有している。
【0085】
剛結合部分30は、ブラケット28とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、ブラケット28側の突出部分32とから構成されている。
【0086】
図7に示されるように、剛結合部分30は、ヒンジピラー6側の対向面6aとブラケット28側の突出部分32とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0087】
図7に示されるように、第3実施形態におけるボルト11の締結方向は、車幅方向Aであり、インパネメンバ3が延びる方向と平行である。
【0088】
ヒンジピラー6の内壁とブラケット28とがボルト11およびナット12で締結されている。そのため、ボルト締めによる簡便な方法でインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0089】
しかも、第3実施形態では、ヒンジピラー6に固定されるインパネメンバ3側の取付部材としてブラケット28を用いている。そのため、車体1に対して広い取付部位を確保でき、安定したインパネメンバ3の取付けが可能である。
【0090】
柔結合部分である粘弾性体31は、ブラケット28の対向面28aとヒンジピラー6の対向面6aとの隙間33に介在し、剛結合部分30の剛体(ボルト11、ナット12、および突出部分32)よりも柔らかい粘弾性体である。粘弾性体31としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0091】
図7に示される本発明のインパネメンバ3の取付構造においても、、剛結合部分30および粘弾性体31を有する結合部29によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制され、その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0092】
(第4実施形態)
本発明のさらに他の実施形態として、図8に示される本発明の第4実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、車体1の一部としてのヒンジピラー6の内壁にブラケット35がさらに取り付けられ、インパネメンバ3側のブラケット36と斜め方向にボルト11で締結されたものである。
【0093】
具体的には、第4実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、ブラケット35を含む車体1と、インパネメンバ3と、インパネメンバ3側のブラケット36と、結合部37とを備えている。
【0094】
ブラケット36は、インパネメンバ3に固定され、車体側のブラケット35の対向面35aに対向する部材であり、本発明の取付部材に相当している。ブラケット36は、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。
【0095】
ブラケット36の固定部分36bは、そのインパネメンバ3の両端部3a、3bの端部外周面に固定されている。
【0096】
結合部37は、剛結合部分38と、柔結合部分である粘弾性体39とを有している。
【0097】
剛結合部分38は、ブラケット35とブラケット36とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、スチールなどの金属からなる剛性の高い剛体スペーサ40とから構成されている。
【0098】
図8に示されるように、剛結合部分38は、ヒンジピラー6側のブラケット35とインパネメンバ3側のブラケット36との間に剛体スペーサ40を挟んだ状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0099】
図8に示されるように、第4実施形態におけるボルト11の締結方向は、車幅方向Aに対して所定角度で傾斜した斜め方向Cである。
【0100】
柔結合部分である粘弾性体39は、ヒンジピラー6側のブラケット35とインパネメンバ3側のブラケット36との間に介在している。粘弾性体39としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0101】
図8に示されるように、上記のような斜め方向Cにボルト締めをしてインパネメンバ3を取り付けた構成においても、剛結合部分38および粘弾性体39を有する結合部37によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制され、その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0102】
(第5実施形態)
本発明のさらに他の実施形態として、図9に示される本発明の第5実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、インパネメンバ3側のブラケット42とヒンジピラー6とが車体前後方向Bにボルト11で締結されたものである。
【0103】
具体的には、図9に示される本発明の第5実施形態のインパネメンバ3の取付構造は、
上記の車体1およびインパネメンバ3(図1〜2参照)に加えて、ブラケット42と、結合部43とを備えている。
【0104】
ブラケット42は、インパネメンバ3に固定され、ヒンジピラー6の内壁のうち車幅方向に延びる部分6bに対向する取付部材であり、スチールなどの金属からなる剛性の高い材料で製造されている。ブラケット42の固定部分42bは、インパネメンバ3の両端部3a、3bの外周面に固定されている。
【0105】
結合部43は、剛結合部分44と、柔結合部分である粘弾性体45とを有している。
【0106】
剛結合部分44は、ブラケット42とヒンジピラー6とを剛体同士で結合する部分であり、剛体の部材として、ボルト11、ナット12と、ブラケット42側の突出部分46とから構成されている。
【0107】
図9に示されるように、剛結合部分44は、ヒンジピラー6側の対向面6cとブラケット42側の突出部分46とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0108】
図9に示されるように、第5実施形態におけるボルト11の締結方向は、車体前後方向Bであり、インパネメンバ3延びる方向と直交している。
【0109】
柔結合部分である粘弾性体45は、ブラケット42とヒンジピラー6との対向面6cの間の隙間47に介在し、剛結合部分44の剛体(ボルト11、ナット12、および突出部分46)よりも柔らかい粘弾性体である。粘弾性体45としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0110】
図9に示される本発明のインパネメンバ3の取付構造においても、剛結合部分44および粘弾性体45を有する結合部43によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制され、その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【0111】
なお、図9に示される例では、インパネメンバ3側のブラケット42がヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bに直接締結されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0112】
第5実施形態の変形例として、図10に示されるように、ヒンジピラー6の内側壁6dから車幅方向Aに突出して設けられたブラケット48に対して、インパネメンバ3側のブラケット42がボルト11で車体前後方向Bに締結されるようにしてもよい。
【0113】
(第6実施形態)
インパネメンバ3は、インパネメンバ3の車幅方向における所定部位の外周面でも車体1にブラケットを介して取り付けることが可能である。
【0114】
すなわち、本発明の第6実施形態に係るインパネメンバ3の取付構造は、図11に示されるように、車体1のヒンジピラー6の縦壁のうち車幅方向(紙面垂直方向)に延びる部分6bにブラケット51を介してインパネメンバ3が取り付けられた構造である。
【0115】
ブラケット51は、インパネメンバ3の車幅方向Aにおける所定部位の外周面に固定されている。所定部位は、ステアリングシャフト等の配置を考慮して適宜設定される。ブラケット51の円筒状の部分52は、インパネメンバ3の外周面に結合している。ブラケット51の平板部分53は、車体1の車両前方側の内壁である、ヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bに対向している。
【0116】
結合部54は、ブラケット51の平板部分53とヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bとの間を結合する。結合部54は、剛結合部分55と、柔結合部分である粘弾性体56とを有している。剛結合部分55は、ヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bとブラケット51の平板部分53に形成された突出部分57とが互いに突き合わされた状態で、ボルト11およびナット12によって締結されることにより構成され、高い剛性を保って剛体同士の結合を行っている。
【0117】
図11に示されるように、第6実施形態におけるボルト11の締結方向は、車体前後方向Bであり、インパネメンバ3の延びる方向(紙面垂直方向)と直交している。
【0118】
柔結合部分である粘弾性体56は、ブラケット51の平板部分53とヒンジピラー6の車幅方向に延びる部分6bとの隙間58に介在している。粘弾性体56としては、上述の粘弾性材料からなるシートまたは接着剤などが採用される。
【0119】
図11に示される本発明のインパネメンバ3の取付構造では、剛結合部分55および粘弾性体56を有する結合部54によって、車体1の車両前方側の内壁からインパネメンバ3の端部へ伝わる振動が減衰され、ハンドル5の振動が低減する。また、上記の構成によって、振動の高周波成分に起因するビリビリとした振動が発生せず、かつ、共振によるハンドル5の振動の悪化も抑制される。その結果、ハンドル5を持つときのフィーリングや乗り心地が向上する。
【符号の説明】
【0120】
1 車体
3 インパネメンバ
4 ステアリングシャフト
5 ハンドル
6 ヒンジピラー
6a 対向面
7 フランジ(取付部材)
7a 対向面
8、20、29、37、43、54 結合部
9、21、30、38、44、55 剛結合部分
10 粘弾性シート(柔結合部分)
11 ボルト
12 ナット
22 柔結合部分
23、40 剛体スペーサ
24 接着剤(柔結合部分)
25 追加スペーサ
28、36、42、51 ブラケット(取付部材)
31、39、45、56 粘弾性体(柔結合部分)
35、48 車体側のブラケット
A 車幅方向
B 車体前後方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体の車幅方向に延びるように設置され、ステアリングシャフトを支持するインパネメンバと、
前記インパネメンバに固定され、前記車体の内壁に対向する取付部材と、
前記取付部材と前記車体の内壁との間を結合する結合部と
を備えており、
前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内壁とを剛体同士で結合する剛結合部分と、前記取付部材と前記車体の内壁との対向面に介在し、前記結合部に作用する力を減衰させる柔結合部分とを有している、
インパネメンバの取付構造。
【請求項2】
前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における端部に固定され、前記車体の内側壁に対向しており、
前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内側壁との間を結合する、
請求項1に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項3】
前記結合部は、前記ステアリングシャフトに近い側のみに設けられている、
請求項2に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項4】
前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における所定部位の外周面に固定され、前記車体の車両前方側の内壁に対向しており、
前記結合部は、前記取付部材と前記車体の車両前方側の内壁との間を結合する、
請求項1に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項5】
前記柔結合部分は、粘弾性材料からなる、
請求項1から4のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項6】
前記粘弾性部材は、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する材料である、
請求項5に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項7】
前記柔結合部分は、前記対向面のうち前記剛結合部分の近傍以外の範囲に設けられている、
請求項1から6のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項8】
前記剛結合部分は、前記車体の内壁と前記取付部材とがボルトで締結されることによって構成されている、
請求項1から7のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項9】
前記取付部材は、前記インパネメンバに固定されたフランジまたはブラケットである、
請求項1から8のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項1】
車体と、
前記車体の車幅方向に延びるように設置され、ステアリングシャフトを支持するインパネメンバと、
前記インパネメンバに固定され、前記車体の内壁に対向する取付部材と、
前記取付部材と前記車体の内壁との間を結合する結合部と
を備えており、
前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内壁とを剛体同士で結合する剛結合部分と、前記取付部材と前記車体の内壁との対向面に介在し、前記結合部に作用する力を減衰させる柔結合部分とを有している、
インパネメンバの取付構造。
【請求項2】
前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における端部に固定され、前記車体の内側壁に対向しており、
前記結合部は、前記取付部材と前記車体の内側壁との間を結合する、
請求項1に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項3】
前記結合部は、前記ステアリングシャフトに近い側のみに設けられている、
請求項2に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項4】
前記取付部材は、前記インパネメンバの車幅方向における所定部位の外周面に固定され、前記車体の車両前方側の内壁に対向しており、
前記結合部は、前記取付部材と前記車体の車両前方側の内壁との間を結合する、
請求項1に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項5】
前記柔結合部分は、粘弾性材料からなる、
請求項1から4のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項6】
前記粘弾性部材は、温度が20℃および加振力の周波数が30Hzの条件下において、貯蔵弾性率500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上である特性を有する材料である、
請求項5に記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項7】
前記柔結合部分は、前記対向面のうち前記剛結合部分の近傍以外の範囲に設けられている、
請求項1から6のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項8】
前記剛結合部分は、前記車体の内壁と前記取付部材とがボルトで締結されることによって構成されている、
請求項1から7のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【請求項9】
前記取付部材は、前記インパネメンバに固定されたフランジまたはブラケットである、
請求項1から8のいずれかに記載のインパネメンバの取付構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−201425(P2011−201425A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70625(P2010−70625)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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