説明

インビボ送達に有効な、脂質−核酸複合体の安定な製剤の調製

【課題】増大した保存性及び静脈注射後にインビボでの高いトランスフェクション活性を有する脂質−核酸複合体、及びそのような複合体を調製する方法を提供する。
【解決手段】この方法は一般に、核酸を有機ポリカチオンに接触させて縮合核酸を産生し、その後、該縮合核酸を両親媒性カチオン性脂質を有する脂質と結合させて脂質−核酸複合体を産生することを含む。この複合体を、親水性ポリマーを疎水性側鎖に結合させて付加することにより、この複合体をより安定化させることができる。この複合体は、疎水性ポリマーに結合したFabフラグメントのようなターゲット部に組み込むことによって、特別な細胞に特異的にすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン性脂質-DNA複合体("CLDC")の分野に関する。より詳しくは、本発明は、(1)親水性ポリマー、(2)有機ポリカチオンと縮合した核酸、および(3)親水性ポリマーと有機ポリカチオンと縮合した核酸、を含む脂質-核酸複合体に関する。本発明の脂質核酸−複合体は静脈注射によりインビボ(in vivo)で高いトランスフェクション活性を示し、インビボ・トランスフェクション活性により決定されるように、予想外に高い保存安定性を示す。
【背景技術】
【0002】
両親媒性カチオン性分子から成るリポソームは、インビボおよびインビトロ(in vitro)において有用な非ウイルス性遺伝子送達ベクターである(総説:Crystal、Science 270:404−410(1995);ブレーズ(Blaese)ら、Cancer Gene Ther.2:291−297(1995);バー(Behr)ら、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);レミー(Remy)ら、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);およびガオ(Gao)ら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。理論的には、正荷電したリポソームが負荷電した核酸に静電気的相互作用を介して結合し、脂質−核酸複合体を形成する。脂質−核酸複合体は遺伝子運搬ベクターとしていくつもの利点を有する。ウイルス・ベクターとは異なり、脂質−核酸複合体を用いて、本質的に質を欠いているので、免疫原性および炎症性応答の発現が僅かである。更に、それらは複製もしくは再結合して感染性作因を形成することができず、組込み頻度は低い。
【0003】
インビトロでの培養細胞においてレポーター遺伝子の検出可能な発現を示すことにより、両親媒性カチオン性脂質がインビボおよびインビトロにおいて遺伝子送達を仲介することができることを多数の公表文献が納得のいく証明をしている(フェルグナー(Felgner)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413−17(1987);レッフラー(Loeffler)ら、Method in Enzymology 217:599−618(1993);フェルグナーら、J.Biol.Chem.269:2550−2561(1994))。脂質−核酸複合体は場合により成功裏に遺伝子運搬を達成するウイルス・ベクター程に有効ではないので、高いトランスフェクション効率をもつカチオン性脂質を見出す多くの努力がなされている(バー(Behr)ら、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);レミー(Remy)ら、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);およびガオ(Gao)ら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。脂質−核酸複合体は遺伝子治療の潜在的に有用な手段として嘱目されている。
【0004】
幾つかのグループは、両親媒性カチオン性脂質−核酸複合体を動物およびヒト双方のインビボ・トランスフェクションのために使用することを報告している(総説:ガオ(Gao)ら、Gene Therapy 2:710−722(1995);ズー(Zhu)ら、Science 261:209−211(1993);およびシエリー(Thierry)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9742−9746(1995))。しかし、安定した保存性を有する複合体製剤について技術上の問題は扱われていない。例えば、ウイルス・ベクター製剤とは違って、脂質−核酸複合体は粒子サイズによっては不安定である(バーら、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);レミーら、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);ガオら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。それ故、全身注射に適したサイズ分布をもつ均一な脂質-核酸複合体を得ることは困難である。殆どの脂質−核酸複合体製剤は準安定性である。従って、これらの複合体は一般に30分から2〜3時間という短い時間内に使用しなければならない。DNA送達用キャリアとしてカチオン性脂質を用いる最近の臨床試験では、2つの成分を臨床で混ぜ合わせて直ちに使用した(ガオら、Gene Therapy 2:710−722(1995))。時間と共に脂質−核酸複合体のトランスフェクション活性を失わせる構造的不安定性は、将来の脳質介在遺伝子治療法開発にとっての挑戦対象となっている。
【非特許文献1】Crystal、Science 270:404−410(1995)
【非特許文献2】Blaese他、Cancer Gene Ther.2:291−297(1995)
【非特許文献3】Behr他、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994)
【非特許文献4】Remy他、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994)
【非特許文献5】Gao他、Gene Therapy 2:710−722(1995)
【非特許文献6】Felgner他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413−17(1987)
【非特許文献7】Loeffler他、Method in Enzymology 217:599−618(1993)
【非特許文献8】Felgner他、J.Biol.Chem.269:2550−2561(1994)
【非特許文献9】Behr他、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994)
【非特許文献10】Zhu他、Science 261:209−211(1993)
【非特許文献11】Thierry他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9742−9746(1995)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は高い保存安定性を有するカチオン性脂質−核酸複合体の新規調製法を提供する。ある態様として、核酸を有機ポリカチオンと接触させ、縮合または一部縮合した核酸とすることにより、これらの複合体を調製する。縮合した核酸を、次いで、両親媒性カチオン性脂質+コレステロールなどの中性ヘルパー脂質と約2:1〜約1:2のモル比で結合させ、脂質核酸複合体を産生させる。任意に、次いで親水性ポリマーを脂質-核酸複合体に加えてもよい。または、縮合していない核酸を有する脂質−核酸複合体に親水性ポリマーを加える。これらの脂質−核酸複合体は、例えば、22℃またはそれ以下で貯蔵したとき、核酸成分が有機ポリカチオンと接触処理されていない同じ脂質−核酸複合体および/または脂質核酸複合体が親水性ポリマーと接触処理されていない同じ脂質-核酸複合体と比較して、高い保存安定性を有する。
【0006】
特に好ましい態様において、ポリカチオンはポリアミンであり、より好ましくはスペルミジンまたはスペルミンなどのポリアミンである。
【0007】
他の好ましい態様において、脂質−核酸複合体は、核酸を両親媒性カチオン性脂質と結合させ、次いで、このように形成した複合体を親水性ポリマーと結合させることにより調製する。この脂質−核酸複合体は、例えば、22℃以下で貯蔵したとき、親水性ポリマーと結合していない同じ複合体と比較して、高い保存安定性を有する。
【0008】
ある態様として、親水性ポリマーはポリエチレングリコール(PEG)、ホスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−PE)、トゥイーンで誘導化したポリエチレングリコール、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−DSPE)、ガングリオシドGM1、および合成ポリマーから成る群より選択される。
【0009】
ある態様として、該脂質−核酸複合体は凍結乾燥する。
【0010】
本発明の方法および組成物のいずれにおいても、核酸とは実質的に如何なる核酸であってもよく、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、およびペプチド化核酸(PNA)であり、最も好ましくはDNAである。特に好ましい態様において、該DNAは該脂質−核酸複合体を移入した細胞中でポリペプチドを発現することのできる発現カセットである。
【0011】
ある態様として、該脂質−核酸複合体は、先ずリポソームを形成し、次いで形成したリポソームを縮合又は一部縮合した核酸と結合させ、脂質−核酸複合体を形成させることにより形成される。任意に、次いで該脂質−核酸複合体を親水性ポリマーと接触させる。または、該リポソームを未縮合核酸と結合させて脂質-核酸複合体を形成させ、それに後で親水性ポリマー(例、PEG−PE)を加えることもできる。核酸と親水性ポリマーに接触させたリポソームを結合させて調製した脂質-核酸複合体は、次いで、さらなる親水性ポリマーと結合させることができる。好ましい態様において、該脂質と核酸とを、脂質約1〜約20nmolの範囲、より好ましくは約4〜約16nmolの範囲、最も好ましくは約8〜約12nmolの範囲:核酸μgの比で結合させる。該脂質と親水性ポリマーとを、約0.1〜約10%、より好ましくは約0.3〜約5%、最も好ましくは約0.5〜約2.0%の範囲のモル比で結合させる(該複合体の親水性ポリマー:カチオン性脂質のモル比)。
【0012】
標的となる部分(例えば、抗体または抗体フラグメント)は、該脂質−核酸複合体を形成させる前または後に脂質および/またはリポソームに結合させることができる。好ましい態様において、標的となる部分を、親水性ポリマー(例えば、PEG)に結合させ、標的となる部分/親水性ポリマーを脂質−核酸複合体に引き続き加える。これにより、他の異なる一般の脂質−核酸複合体の標的特異性を修飾する簡便な手段が提供される。
【0013】
特に好ましい態様において、該脂質−核酸複合体の保存安定性を高める方法は、スペルミジンまたはスペルミンを有する発現カセットを両親媒性カチオン性脂質+コレステロールなどの中性ヘルパー脂質、およびスペーサー(例、ポリエチレングリコール)に結合した抗体のFab'フラグメントと結合させる工程を含み、その結果、約4℃で貯蔵したときの該複合体の保存安定性が高められる。
【0014】
特に好ましい態様において、該脂質−核酸複合体の保存安定性を高める方法は、スペルミジンまたはスペルミンを有する発現カセットを両親媒性カチオン性脂質およびポリエチレングリコール誘導体に結合した抗体のFab'フラグメントと結合させる工程を含む。他の特に好ましい態様においては、発現カセットを両親媒性カチオン性脂質およびポリエチレングリコール誘導体に結合した抗体のFab'フラグメントと結合させる工程を含み、その結果、約4℃で貯蔵したときの該複合体の保存安定性が高められる。
【0015】
本発明はホ乳動物細胞に核酸をトランスフェクションする方法をも提供するが、該方法は上記のように調製した脂質-核酸複合体のいずれか1種と該細胞を接触させることを有する。ある態様として、該方法は脂質−核酸複合体をホ乳動物に全身投与することを利用する。好ましい態様として、トランスフェクションする方法は、該脂質−核酸複合体をホ乳動物に静脈投与する方法を利用する。特に好ましい態様において、該方法はFab'フラグメントを認識するリガンドを発現する特異細胞と接触させることから成る。
【0016】
更に好ましい態様として、本発明は上記脂質−縮合核酸複合体を含む医薬組成物をも提供する。医薬組成物は治療上有効量の脂質−核酸複合体および医薬上許容可能なキャリアまたは賦形剤を有する。
【0017】
更に他の態様として、本発明は脂質−核酸複合体を調製するためのキットをも提供し、該キットはリポソームを容れる容器、核酸を容れる容器、および親水性ポリマーを容れる容器を有し、該リポソームと核酸とを混合して脂質-核酸複合体を形成させ、該脂質−核酸複合体を親水性ポリマーと接触させる。好ましい態様において、親水性ポリマーは標的となる部分、好ましくはFab'フラグメントで誘導化する。さらに好ましい態様として、該核酸を縮合させる。
【0018】
本発明はまた、上に要約したように、有機ポリカチオンと縮合させた核酸を用いて保存安定性を高める方法により調製した脂質−縮合核酸複合体をも提供する。
【0019】
定義
本明細書において以下の略記を用いる。Chol=コレステロール。PA=ホスファチジン酸。PC=ホスファチジルコリン。PI=ホスファチジルイノシトール。SM=スフィンゴミエリン。M−DPE=マレイミド誘導化ジパルミトイルエタノールアミン。PBS=リン酸バッファー塩溶液。LUV=巨大単一膜小胞。MLV=多重膜小胞。PE=ホスファチジルエタノールアミン。PEG=ポリエチレングリコール。PEG−PE=ポリエチレングリコール誘導化ホスファチジルエタノールアミン。DC−chol=3β[N−(N’、N’−ジメチルアミノエタン)カルボニル]−コレステロール。DDAB=臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム。DMEPC=ジミリストイルグリセロ−3−エチルホスホコリン。DODAP=ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン。DOEPC=ジオレオイルグリセロ−3−エチルホスホコリン。DOGS=N、N−ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン。DOPE=ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン。DOTAP=ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン。DOTMA=臭化N−[2、3−(ジオレイルオキシ)プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウム。DSPE=ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン。PEG−PE=N−[ω−メトキシポリ(オキシエチレン)−α−オキシカルボニル]−DSPE。POEPC=パルミトイルオレオイルグリセロ−3−エチルホスホコリン。
【0020】
「両親媒性カチオン性脂質」という用語は、合成脂質および脂質類似体を含むすべての両親媒性脂質を包含し、疎水性および極性先端基部分、正味の正電荷を有し、リン脂質で例示されるように、それ自体で自発的に水中二層小胞またはミセルを形成し得るものである。該用語はまた、その疎水性部分が二層膜の内部疎水性領域と接触していて、かつ、その極性先端基部分が膜外部極性表面に向っているリン脂質と組み合わさって脂質二層に安定に取り込まれている両親媒性脂質をも包含する。
【0021】
「特異的に結合」という用語は、酵素/基質、レセプター/アゴニスト、抗体/抗原、およびレクチン/炭水化物などの、共有結合もしくは非共有結合の相互作用により、または共有結合および非共有結合の相互作用の組み合わせにより仲介され得る対を形成する種間に起こる結合をいう。2つの種の相互作用が非共有結合の複合体を生じる場合、起こる結合は一般に静電気的結合、水素結合、または親油性相互作用である。従って、「特異的結合」は、抗体/抗原または酵素/基質相互作用の特徴をもつ結合複合体を生じる二者間に相互作用がある場合の対となる種間に起こる。特に、特異結合は、対の一方が結合膜の対応する膜が属する化合物群内の特定の種には結合するが、他の種には結合しないことによって特徴づけられる。このように、例えば、抗体は、好ましくは、単一エピトープに結合し、当該タンパク群内の他のエピトープには結合しない。
【0022】
本明細書で用いる「リガンド」または「標的となる部分」という用語は一般に特定の標的分子に特異的に結合する、および上記の結合複合体を形成することのできるすべての分子をいう。このように、リガンドおよびその対応する標的分子は特異結合対を形成する。例示すると、これらに限定されるものではないが、抗体、リンホカイン、サイトカイン、CD4およびCD8などのレセプタータンパク質、可溶性CD4などの可溶化レセプタータンパク質、ホルモン、増殖因子などが例示され、これらは所望の標的細胞、及び塩基対相補性を介して対応する核酸に結合する核酸に特異的に結合する。特に好ましい標的となる部分は抗体および抗体フラグメント(例、Fab'フラグメント)を包含する。
【0023】
「脂質−核酸複合体」という用語は、両親媒性カチオン性脂質またはリポソームを核酸と混合することにより作製される産物をいう。「CLDC」という用語は本明細書において使用される「カチオン性脂質−DNA複合体」を表わすが、DNAに限定されるものではなく、脂質−核酸複合体にとって便利な略記である。脂質−核酸複合体はまた、ヘルパー脂質をも含む。ヘルパー脂質は、多くはDOPEまたはコレステロールなどの中性脂質であり、コレステロールが最も好ましい。脂質−核酸複合体はまた、複合体の核酸と接触して、縮合核酸、及びPEGまたは誘導化PEGなどの親氷性ポリマーを生じるポリカチオンなどの他の化合物をも含む。
【0024】
「免疫リポソーム」および「免疫脂質−核酸複合体」という用語は、抗体または抗体フラグメントを担持するリポソームまたは脂質−核酸複合体をいい、これらは標的となる部分として作用して脂質−核酸複合体が特異的に特定の、溶液状のまたは細胞表面に結合した「標的」分子に結合するのを可能とする。標的分子が比較的過剰に(例えば、≧10倍)典型的に見出されるものであり、特定の細胞型と関連しているか、または特定の生理条件を発現するすべての細胞型の多様な状態にある場合、標的分子はその細胞型のまたはその生理条件の「特徴的マーカー」であるといわれる。このように、例えば、癌は乳癌の場合、HERに(c−erbB−2/neu)プロトオンコジーンのように特定マーカーの過剰発現により特徴づけることができる。
【0025】
本明細書で用いる「親水性ポリマー」とは、脂質分子に結合した長鎖高次水和柔軟性の中性ポリマーをいう。例示としては、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ホスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−PE)、トゥイーンで誘導化したポリエチレングリコール、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−DSPE)、ガングリオシドGM1および合成ポリマーなどである。かかるポリマーは典型的には1000〜10,000の範囲の分子量を有する。PEGに対する分子量は約2000であるのが好ましい。
【0026】
「トランスフェクション」とは生きている細胞を、例えば、脂質−核酸複合体の一部としての核酸と接触させることをいう。
【0027】
「トランスフェクション活性」とは核酸を生きている細胞に導入する効率をいう。トランスフェクション効率は、脂質−核酸複合体の一部として細胞に移入されるレポーター遺伝子の発現量を、例えば蛍光又は機能アッセイで定量することにより測定することができる。
【0028】
「縮合した核酸」および「一部縮合した核酸」という用語は、有機カチオン、例えば、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミン、ポリブレン(Polybrene)(臭化ヘキサジメトリン)などのポリアンモニウム分子、塩基性ポリアミノ酸、および塩基性タンパク質と接触させた核酸をいう。縮合した核酸は一般に、非縮合核酸よりも著しく小さな容積を占める。しかし、縮合の度合いは局部的環境により変わり得るということが認められている(例えば、脂質は水性環境に抵抗する)。
【0029】
「保存安定性」という用語は、これを用いて本明細書に開示した脂質−核酸を言及する場合、脂質−核酸複合体がその生物活性を失うまで(所定の条件下、例えば、4℃で)貯蔵することのできる期間をいう。本発明において保存安定性の定量のためにアッセイした生物活性は、脂質−核酸複合体が静脈投与後インビボでホ乳動物細胞に移入する能力である。脂質−核酸複合体の「保存安定性」は、本明細書記載の脂質−核酸複合体のレポーター核酸からの遺伝子発現によるアッセイにより簡便に定量される。
【0030】
「発現カセット」とはDNA分子に操作可能に結合したプロモーターをいい、これは生存細胞中の当該DNA分子の発現に必要な要素のすべてを含んでいる。該発現カセットは発現ベクターを形成する付加的要素、例えば、エンハンサー、複製原などを含んでもよい。
【0031】
「有機ポリカチオン」または「ポリカチオン」とは有機ポリマー構造をいい、1単位以上のポリマーが負電荷を担持し、ポリマーの実効電荷が正である。かかる有機カチオンの例として、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミン、ポリブレン(臭化ヘキサジメトリン)などのポリアンモニウム分子、塩基性ポリアミノ酸、または塩基性タンパク質を包含する。
【0032】
「医薬上許容可能なキャリア」とは、生物学的にまたは他の意味でも不適当とはならない物質、即ち、該物質は脂質-核酸複合体と共に個体に投与し得るものであって、受け入れられない生物学的効果を伴わず、あるいは製剤組成物が含有する他の組成のいずれとも有害な様式で相互作用しないものである。
【0033】
「核酸」という用語は、リン酸ジエステル結合(または関連する構造変異体またはその合成類似体)を介して連結したヌクレオチド単位(リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたは関連する構造変異体またはその合成類似体)から構成されるポリマーまたはオリゴマーをいう。このように、当該用語はヌクレオチドポリマーをいい、そこでヌクレオチドとそれらの間の連結は天然に存在するもの(DNAまたはRNA)、並びに種々の類似体、例えば、これらに制限はないものとして、ペプチド-核酸(PNA)、ホスファーアミデート類、ホスホロチオエート類、メチルホスホネート類、2−0−メチルリボ核酸などである。
【0034】
「モルパーセント」という用語は、リポソーム中の親水性ポリマーのパーセントについていう場合、他に断わりのない限り、リポソーム中のカチオン性脂質に関して表される。このように、例えば、DDAB対コレステロール(Chol)比が100:100であるリポソームにおいて、親水性ポリマー(例、PEG)4モルパーセントとはDDAB:Chol:PEGの比が約100:100:4であることを表す。
【0035】
「同一」という用語は他の組成物と同じ化合物を用いて形成される組成物をいい、該組成物は統計学的に著しい差を示さない。
【0036】
「全身投与」という用語は化合物または組成物をホ乳動物に投与する方法をいい、その結果、該化合物または組成物は循環系を経て体内の多くの部位に送達される。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、カチオン性脂質-核酸複合体の保存性(shell life)、並びにそれら複合体のインビボ及びインビトロでのトランスフェクション効率を増大させる方法を提供する。そのような複合体は、治療(たとえばアンチセンス)核酸それ自体を送達する手段としての種々の治療ポリペプチドを発現する核酸を送達する手段としてかなり興味をもたれてきた。不幸なことに、インビボ投与に適した均一な脂質−核酸複合体を保持し貯蔵することは困難であった。この複合体はすみやかに凝集するか、または比較的短時間のうちに分解する傾向がある。このような不安定性により、これら複合体の調製後、しばしば30分〜数時間までというような短い期間内に使用することが必要とされてきた。よって、例えばDNA送達用のキャリアとしてカチオン性脂質を用いた最近の臨床試験では、DNAと脂質は臨床で混合してから直ちに使用していた(Gao et al.Gene Therapy、2:710−72(1955))。
【0038】
この脂質−核酸複合体の不安定性は、治療薬としてのカチオン性脂質−核酸複合体がひろく受け入れられるための著しい障害となる。使用直前に複合体を調製せねばならぬという必要性は、医薬設備が使用区域と比較的接近していることを要求させる。あるいは、脂質と核酸を臨床で混合することは、実質的な労働負担をもたらし、適切な複合化を保証するための品質管理の問題を生じさせ、そして潜在的なミスの原因をつくることになる。
【0039】
本発明は、脂質−核酸複合体の貯蔵(保存)寿命を著しく増大させる方法を提供することによりこれらの問題点を解消するものである。その方法は一般的に、(1)脂質−核酸複合体に取込む前に核酸を縮合させること、(2)脂質−核酸複合体を親水性ポリマー(たとえばPEG)と結合させること、及び(3)複合体の形成前に核酸を縮合させ、かつ複合体を親水性ポリマーと結合させること、を含んでいる。
【0040】
核酸の縮合は、単離している核酸(たとえば水性緩衝液中)の安定性をもたらし得るけれども、縮合剤(たとえば有機ポリカチオン)の使用が、長期間の貯蔵(たとえば約22℃以下、さらに好ましくは約0℃から約22℃、そして最も好ましくは約4℃の温度での冷蔵)後であっても、インビボで細胞にトランスフェクション能力を残しているような脂質-核酸複合体を提供するというのが、本発明の驚くべき発見である。
【0041】
さらには、両親媒性の脂質(たとえばPEG−PE)に付着する親水性ポリマーと結合した脂質−核酸複合体もまた、増大した保存性を示すことも驚くべき発見である。特定の理論によって拘束されることなく、カチオン性脂質-核酸複合体(CLDC)が親水性ポリマーと接触したとき、その親水性ポリマーは定着しその疎水性側鎖を経由して複合体の疎水性ポケットの中に取込まれる一方、外部表面で親水性部分を残しそれによって複合体全体が安定化すると考えられる。
【0042】
これらの発見によって本発明は、カチオン性脂質−核酸複合体の保存性を増大させる方法を提供する。この方法は一般に、ポリカチオンを用いて核酸を縮合し及び/又は脂質−核酸複合体を親水性ポリマーと接触(たとえば被覆)することを含んでいる。本発明はまた、このようにして得られた脂質−核酸複合体をも含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
I.カチオン性脂質−核酸複合体
上述したように、本発明は、脂質−核酸複合体の貯蔵寿命(保存安定性)を増大させる方法を提供する。好ましい態様として、この複合体は、核酸をリポソームと結合することによって形成される。しかしながら、この脂質はリポソームとして提供される必要がないことが認められる。さらに、複合体化後、脂質−核酸複合体はもはや真の小胞としては存在せず、したがって一般にはリポソームとは見なされないことが認められる。脂質−核酸複合体の調製法は当業者にはよく知られている(例えば、Crystal、Science、270:404−410(1995)の総説;Blaese et al.、Cancer Gene Ther.2:291−297(1995);Behr et al.、Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remy et al.、Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);及びGao et al.、Gene Therapy 2:710−722(1995)を参照のこと)。本発明の安定化脂質−核酸複合体の種々の成分と構成を、以下に詳細に述べる。
【0044】
A.両親媒性カチオン性脂質
上に示したように本発明の方法は、カチオン性脂質を核酸と複合体化させることを含む。「カチオン性脂質」という用語は、生理学的pHにおいて正味の正電荷をもつ多くの脂質類の如何なるものであってもよい。そのような脂質にはDODAC、DOTMA、DDAB、DOTAP、DC−CholおよびDMRIEが含まれるが、これらに限定されるものではない。これに加えて、本発明で用いることが出来る数多くのカチオン性脂質の市販の製剤が入手可能である。たとえばLIPOFECTIN(登録商標)(DOTMA及びDOPEを有するカチオン性リポソーム、アメリカ合衆国、ニューヨーク州、グランドアイランドのGIBCO/BRLから市販入手可能)、LIPOFECTAMINE(登録商標)(DOPSA及びDOPEを有するカチオン性リポソーム、GIBCO/BRLから市販入手可能)、及びTRANSFECTAM(登録商標)(DOGSのエタノール溶液を有するカチオン性脂質、アメリカ合衆国、ウイスコンシン州、マジソンのPromega Corp.から市販入手可能)。
【0045】
カチオン性脂質は単独で用いることもできるし、または「ヘルパー」脂質と共に用いることもできる。好ましいヘルパー脂質は、生理的pHにおいて荷電していないか又は非イオン性のものである。特に好ましい非イオン性脂質として、コレステロールおよびDOPEが挙げられ、最も好ましくはコレステロールであるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
脂質:ヘルパーのモル比は、2:1から約1:2、さらに好ましくは約1.5:1から約1:1.5の範囲をとることができ、最も好ましくは約1:1である。
【0047】
本発明の脂質−核酸複合体に用いるのに適したこれ以外のカチオン性および非イオン性の脂質は、当業者によく知られており、周知の種々の文献、たとえばMcCutcheon’S Detergents and Emulsifiers及びMcCutcheon’S Functional Materials(Allured Publishing Co.、Ridgewood、N.J.)に引用されている。好ましい脂質は、DDAB:コレステロールまたはDOTAP:コレステロールをモル比1:1で含む。
【0048】
B.核酸
脂質−核酸複合体は、核酸、特に組換え技術を用いて構築された発現カセットを含んでいる。組換え核酸は、問題の核酸をまず単離することによって作製される。ついで単離された核酸は、遺伝子発現に適したカセットまたはベクターの中へ連結される。組換え核酸の調製法は当業者に知られている(Sambrook、et al.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版.,1989)を参照)。
【0049】
問題の遺伝子、たとえば治療ポリペプチドをコードする遺伝子、即ちレポーター遺伝子は、「発現ベクター」、「クローニングベクター」、または「ベクター」の中へ挿入することができる。これらの用語は、選ばれた宿主細胞の中で複製可能でありかつ問題の遺伝子を発現可能なプラスミドまたはその他の核酸分子を通常意味する。発現ベクターは自律的に複製可能であるか、または宿主細胞のゲノムに挿入することにより複製可能である。ベクターにとって、クローニングや構築のためには一つまたはそれより多い宿主細胞、例えば大腸菌の中であって、発現のためにはホ乳類細胞の中で使用可能であることがしばしば望ましい。ベクターの付加的要素として、たとえば選択可能なマーカーやエンハンサーを含むことができる。選択可能なマーカー、例えばテトラサイクリン耐性やヒグロマイシン耐性は、所望のDNA配列で形質転換されたこれらの細胞の検出及び/又は選択を許容する(例えば、米国特許第4,704,362号を参照)。細胞に遺伝情報を輸送するのに用いる特定のベクターもまた、特に重要ではない。原核生物または真核生物細胞において組換えタンパク質の発現に用いる従来のベクターのいずれをも用いることができる。
【0050】
発現ベクターは典型的には、宿主細胞における核酸の発現に要求されるすべての要素を含む発現カセットまたは転写単位をもっている。典型的な発現カセットは、タンパク質をコードするDNA配列と作用可能に結合したプロモーターを含んでいる。このプロモーターは、その天然のセッティングにおける転写出発部位とおおむね同じ距離だけ、非相同な転写出発部位からの距離に位置しているのが好ましい。しかしながら、当業者には公知のように、この距離の若干の変動は、プロモーター機能を損なわずに、行なうことができる。
【0051】
発現カセットにおいて、問題の核酸配列を、分裂可能なシグナルペプチド配列をコード化する配列と結合して、形質転換細胞によるコード化タンパク質の分泌を促進させることができる。発現カセットはまた、効率的な終止を提供するために構造遺伝子の下流に転写終止領域を含むべきである。この終止領域は、プロモーター配列と同じ遺伝子から、または異なる遺伝子から得ることができる。
【0052】
構造遺伝子でコードしたmRNAのホ乳動物細胞におけるもっと効率的な翻訳のためには、ポリアデニル化配列もまた発現カセットに通常加えられる。本発明に適した終末およびポリアデニル化シグナルは、SV40由来のもの、又は発現ベクター上に既に存在する遺伝子の部分的ゲノムコピー由来のものが含まれる。
【0053】
発現カセットに加えて、多くの発現ベクターは、結合された相同な又は非相同なプロモーターから1,000倍までもの転写を刺激できるエンハンサー要素を最適に含んでいる。ウイルス由来の多くのエンハンサー要素は、広範な宿主範囲をもっており、種々の組織において活性である。たとえば、SV40の初期の遺伝子エンハンサーは、多くのタイプの細胞に適している。本発明に適したその他のエンハンサー/プロモーターの組み合わせは、ポリオーマウイルス、ヒトまたはネズミのサイトメガロウイルス由来のもの、例えばネズミ白血病ウイルス、ネズミ又はラウス肉腫ウイルスおよびHIVのような種々のレトロウイルス由来の末端反復配列を含む(Enhancers and Eukaryotic Expression(1983)を参照のこと)。
【0054】
上述の組換え核酸の他に、合成された核酸またはオリゴヌクレオチドもまた、本発明で用いることができる。本発明で用いる核酸についての一般的なポイントとして、当業者は、本発明で用いる核酸がDNAとRNAの双方の分子、さらにはその合成されたものや天然に存在しない類似体、ならびにデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、及び/又はそれら何れかの類似体のヘテロポリマーを含むものと認めている。核酸または核酸類似体の特定の組成は、それらが使用される目的、およびそれらが置かれた環境に依存するであろう。修飾または合成された、天然に存在しないヌクレオチドは、当業者に周知のように、ヌクレアーゼが中に存在しているような種々の環境で安定であり、且つ種々の目的に利用できるようにデザインされてきた。天然に存在するリボ-またはデオキシリボヌクレオチドと比べ、修飾または合成された、天然に存在しないヌクレオチドは、そのヌクレオチドの炭水化物(糖)、リン酸塩結合、又は塩基部分に関して相違しているか、または非ヌクレオチド塩基をも含んでいる(もしくは塩基を全く含まない)こともあり得る(Arnold、et al.、PCT特許公報番号WO 89/02439号を参照のこと)。たとえば、本発明の修飾核酸又は天然に存在しない核酸は、ビオチン化核酸、O−メチル化核酸、メチルホスホネート主鎖(backbone)核酸、ホスホロチオエート主鎖核酸、またはポリアミド核酸を含むことができる。
【0055】
以下に述べるアンチセンスRNAのようなオリゴヌクレオチドは、好ましくは、Applied BioSystemsまたはその他の市販入手可能なオリゴヌクレオチド合成装置を用い製造業者の提供する説明書にしたがって合成される。オリゴヌクレオチドは、ホスホトリエステル法やホスホジエステル法のような如何なる適当な方法を用いても、またはそれらの自動化された態様を用いても調製される。そのような自動化された態様の一つにおいては、ジエチルホスホルアミダイトを出発物質として用い、Beaucage et al.、Tetrahedron Letters 22:1859(1981)及び米国特許第4,458,066号記載のように合成できる。
【0056】
C.縮合核酸
小さなポリカチオン分子は、静電気的な荷電-荷電相互作用を介して核酸と縮合することが知られている(Plum et al.、Biopolymers 30:631−643(1990))。したがってポリアミンによる核酸の前処理は、カチオン性リポソームとの複合体化のための荷電部位の数を減少させることができる。しかしながら、脂質複合体の形成前に核酸を縮合することにより、トランスフェクション効率での測定によれば、脂質−核酸複合体の保存性の増大という驚くべき結果を生じる。そのような前処理で形成された脂質−核酸複合体は、脂質:DNAが低い比率で凝集をともなうことなく安定であった。ポリアミン、ポリアンモニウム分子、および塩基性ポリアミノ酸、ならびにそれらの誘導体のような有機ポリカチオンを用いて、脂質複合体形成前に核酸を縮合する。好ましい態様において、スペルミジンやスペルミンのようなポリアミンを用いて核酸を縮合する(例えば、実施例1を参照のこと)。
【0057】
D.親水性ポリマー
リポソームにPEG-PEを取込むことにより、血中における長い循環回数をもたらす立体安定性を生じることが最近わかった(Allen et al.、Biochim.Biophys.Acta 1066:29−36(1991);Papahadjopoulos et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:11460−11464(1991))。本発明においては、新しく作られた脂質−核酸複合体にPEG−PEを挿入すること(たとえば全液体の1%)により、その複合体の貯蔵中における凝集を予防する。しかしながら、PEG−PEを取込むことは、インビボ・トランスフェクション活性を阻害せず、また阻害されていたインビトロ・トランスフェクション活性がPEG−PEの末端で接合しているFab'の取込みによって再生されるということは驚くべき発見であった。脂質−核酸複合体に親水性ポリマーが存在すると、貯蔵後のトランスフェクション効率で測定したところ、増大した保存性がもたらされる。よって、例えばポリエチレングリコール(PEG)修飾化脂質またはガングリオシドGM1のような親水性ポリマーをリポソームに加えることが望ましい。PEGはまた、たとえば脂肪酸、スフィンゴリン脂質、糖脂質、およびコレステロールのような他の両親媒性分子で誘導体化することができる。そのような成分を添加することにより、標的部をリポソームにカップリングする際に、リポソームの凝集を予防する。これらの成分はまた脂質−核酸複合体の循環寿命を増大させる手段を提供する。
【0058】
いろんな異なった方法が、リポソームに取込むためのPEGの調製にも用いることができる。一つの好ましい態様において、PEGを、PEG誘導化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)またはPEG誘導化ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE)として取込む。PEG−PEの調製方法は周知であり、典型的には活性化したメトキシPEG(わずか1つの反応性末端をもつ)及びPEを用いることを含む。よって、PEG−サクシニミジルサクシネートを塩基性有機溶媒中で反応させる(Klibanov et al.、FEBSLett.268:235−237(1990)).PEG−PE調製の特に好ましい方法は、PEGをカルボニルジイミダゾールと反応させ、次いでPEを添加することに基づく(Woodleら、Proc.Intern.Symp.Control.Rel.Bioact.Mater.17:77−78(1990);Papahadjopoulosら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:11460−11464(1991);Allenら、Biochim.Biophys.Acta 1066:29−36(1991);Woodleら,Biochim.Biophys.Acta 1105:193−200(1992);およびWoodleら、Period.Biol.93:349−352(1991)を参照のこと)。同様にして、塩基性有機溶媒中でのシアヌル酸クロライドで活性化したPEGが、Blumeら,Biochim.Biophys.Acta 1029:91−97(1990)および米国特許第5,213,804号に記載されている。まったく異なるアプローチは、トレシルクロライドで活性化したPEGを使ってあらかじめ作製したリポソームとPEGをカップリングさせ、ついで高pHでPE含有リポソームに加える方法に基づく(Seniorら、Biochim.Bjophys.Acta 1062:77−82(1991))。誘導体化したPEGも市販入手可能である。よって、例えばPEG-PEはAvanti Polar Lipids(Alabama州、Alabaster)から入手できる。たとえば、ツイーン(Tween)のようなPEG結合した洗剤や、形成した脂質−核酸複合体にPEG誘導体化脂質を挿入する、といったような多くの他の結合があることを当業者は認めるであろう。
【0059】
E.Fab'抗体フラグメント
好ましい態様において、本発明の脂質−核酸複合体は、抗体のFab'フラグメントに接合する。それは、Fab'抗体フラグメントが示す標的分子(例えば特徴的マーカー)をもつ標的細胞と特異的に脂質−核酸複合体を結合することができる標的部として作用する。超可変領域からの小さなペプチド、又は特定の細胞表面リガンドと相互作用するその他のペプチドからの小さなペプチドもまた、この複合体と接合することができる。一般的にいって、抗体のFab'フラグメントは、抗体の一つのアームのCH1領域および可変領域を有するモノマーを表す。そのような好ましい態様の一つを実施例2に述べる。
【0060】
「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子フラグメントで実質的にコード化された1つまたはそれより多いポリペプチドから成るタンパク質を表わす。認識された免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミュー定常領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖はカッパまたはラムダに分類される。重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンに分類され、それらはまた各々IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEの免疫グロブリンを表す。
【0061】
基本的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は、テトラマーを有することが知られている。各々のテトラマーは、2つの同一のペアのポリペプチド鎖から成り、各々のペアは、1つの「軽い」鎖(約25kD)と1つの「重い」鎖(約50〜70kD)をもっている。各々の鎖のN末端は、一次的に抗原認識のための約100〜110またはそれより多いアミノ酸の可変領域を決める。可変の軽鎖(VL)および可変の重鎖(VH)という用語は、これらの軽鎖および重鎖をそれぞれ意味する。
【0062】
抗体は、完全な免疫グロブリンとして存在するか、または種々のペプチダーゼで消化されて作られた、多くの良く特徴づけられたフラグメントとして存在し得る。特に、ペプシンはヒンジ領域中のジスルフィド結合の下での抗体を消化して、それ自体がジスルフィド結合でVH−CH1と結合した軽鎖であるところのFab'のダイマーであるF(ab)'2を生成する。このF(ab)'2は、温和な条件下で還元されヒンジ領域のジスルフィド結合を分解し、それによってF(ab)'2ダイマーをFab'モノマーに変換する。このFab'モノマーは、ヒンジ領域の部分と共に本質的にFabである(より多くの抗体フラグメント用語については、Fundamental Immunology、W.E.Paul、ed.、Raven Press、N.Y.(1993)を参照のこと)。Fab'フラグメントは完全な抗体の消化によって定義されるが、そのようなFab'フラグメントを化学的に、または組換えDNA方法を利用して、新たに(de novo)合成することができることを当業者は理解するであろう。
【0063】
本発明で使用するFab'フラグメントは、動物(とくにマウスまたはラット)又はヒトを起源とする抗体由来とすることができるか、またはキメラであるか(Morrison et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855(1984))もしくはヒト化する(Jones et al.、Nature 321:522−525(1986)および英国特許出願公報第8707252号)ことができる。
【0064】
Fab'フラグメントは、カチオン性脂質−核酸複合体の内容物を送達させようとする細胞の表面に特徴的な分子またはマーカーと特異的に結合するように選択される。分子は、その分子がその細胞型と関連して見出されるか、又はすべて特定の生理的条件(たとえば形質転換)を発現する多数の細胞型において典型的に見出されるとき、細胞、組織または生理的状態に特徴がある。特定の特徴的マーカーは、特定の組織もしくは細胞型の細胞表面、または特定の生理的条件を発現する組織もしくは細胞の表面に見出されるのが好ましく、生体内のそれ以外の組織や細胞型には見出されない。しかしながら当業者は、マーカーの特異性のそのようなレベルはしばしば必要ではないことを認めるであろう。たとえば特徴的な細胞表面マーカーは、もしも非標的組織のみが脂質-核酸複合体にアクセス可能でないならば、充分な組織特異性を示すであろう。あるいは効果的な特異性は、その他の組織に比べて標的組織でのマーカーの過剰発現によって得られるであろう。このことは、効果的な組織特異性をもたらす標的組織による好ましい捕捉という結果を招くであろう。よって、例えば多くのガンは、乳癌の場合におけるレセプターでコード化されたHER2(c−erbB−2、neu)のような細胞表面マーカーの過剰発現で特徴づけられる。
【0065】
標的として望まれる特定の組織に依存する、良好な特徴的マーカーを提供する多くの細胞表面マーカーがあることを、当業者は認めるであろう。これらの細胞表面マーカーとして、炭水化物、タンパク質、糖タンパク質、MHC複合体、インターロイキン、ならびにHER、CD4、およびCD8レセプタータンパク質のようなレセプタータンパク質、さらにはその他の増殖因子やホルモンレセプタータンパク質を含むが、それらに限定されるものではない。
【0066】
増殖因子レセプターは、特に好ましい特徴的な細胞表面マーカーである。増殖因子レセプターは、増殖因子と特異的に結合し、それによって特定の増殖因子に特徴的な細胞応答を仲介する細胞表面レセプターである。ここで用いた「増殖因子」という用語は、細胞分裂もしくは分化を活性化もしくは刺激するか、またはタンパク質の運動性もしくは分泌性のような生物学的応答を刺激するタンパク質もしくはポリペプチドリガンドを表わす。増殖因子は当業者によく知られており、次のようなものを含むがそれに限定されるものではない。すなわち、血小板由来増殖因子(PDGF)、表皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、変成増殖因子β(TGF-β)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、インターロイキン2(IL2)、神経増殖因子(NGF)、インターロイキン3(IL3)、インターロイキン4(IL4)、インターロイキン1(IL1)、インターロイキン6(IL6)、インターロイキン7(IL7)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、エリスロポイエチン、インターロイキン13レセプター(IL13R)などである。ここで使用した増殖因子という用語は一般にサイトカインやコロニー刺激因子を含むことを当業者は認めるであろう。
【0067】
特に好ましいマーカーは、増殖因子レセプターのHER系統群の中に見出される。特にHER1、HER2、HER3およびHER4はさらに好ましく、HER2はもっとも好ましい。これらのHERレセプターは、高度に特異的な抗体標的をそれ自体が提供するタンパク質チロシンキナーゼを有する。よって、ある態様において、HER2のP185チロシンキナーゼは、本発明の免疫脂質−核酸複合体で用いるFab'フラグメントのためのもっとも好ましい標的を提供する。
【0068】
特徴的なマーカーは、天然に存在するマーカーである必要はなく、むしろ特定の標的細胞へ導入されてもよいことは認められであろう。これは、細胞や組織を特定のマーカーで直接にラベルする(例えば特定の標的組織にマーカーを直接注入するか、または標的組織で選択的に取り込まれたマーカーを全生体に投与する)ことにより達成することができる。ある態様において、マーカーは、発現カセットの核酸によりコードした遺伝子生産物とすることができる。このマーカー遺伝子は、特定の標的細胞においてのみ活性であるプロモーターの管理下にあリ得る。よって、発現カセットを含むベクターを導入することにより、特定の標的細胞においてのみマーカーの発現をもたらすであろう。標的細胞の中へ特徴的マーカーを導入するための組換えDNA手法を用いる多くのアプローチのあることを、当業者は認めるであろう。
【0069】
好ましい態様において、標的部は、増殖因子レセプターの成分または産物、特にHER2(c−erbB−2、neu)プロトオンコジーンの産物と特異的に結合するであろう。標的部が、HER2、p185HER2タンパク質でコードした増殖因子レセプターチロシンキナーゼと結合することが特に好ましく、このHER2、p185HER2タンパク質は、乳癌で通常過剰発現する(Slamon et al.、Science、235:177−182(1987))。標的部のためのこれ以外の適当な標的として、EGFR(HER1)、HER3、およびHER4、これらレセプターの組合せ、並びにガンに関連するその他のマーカーが挙げられるが、それに限定さるものではない。これ以外の問題の抗体として、BR96(Friedman et al.、Cancer Res.、53:334−339(1993)、e23〜erbB2まで(Batra et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5867−5871(1992))、前立腺ガンにおけるPR1(Brinkmann et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:547−551(1993))並びに卵巣ガンにおけるK1(Chang、etal。、Int.J.Cancer 50:373−381(1992)が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0070】
本発明の免疫脂質−核酸複合体は、当業者に周知の種々の技術により、Fab'フラグメントをリポソームまたは脂質に取込むことによって調製することができる。このFab'を、脂質−核酸複合体の形成前又は形成後に複合体へ加える。例えば、ビオチン接合Fab'を、ストレプトアビジンを含むリポソームに結合してもよい。または、ビオチン化Fab'を、アビジンもしくはストレプトアビジンリンカーにより、ビオチン誘導化リポソームに接合してもよい。よって、例えばビオチン化モノクローナル抗体をビオチン化し、アビジンリンカーを用いてビオチン化ホスファチジルエタノールアミンを含むリポソームに付加した(例えば、Ahmad et al.、Cancer Res.52:4817−4820(1992)を参照のこと)。脂質−核酸複合体あたりFab'フラグメントを、典型的には約30〜125、さらに典型的には約50〜100用いられる。
【0071】
好ましい態様において、標的部を、リポソームと直接接合してもよい。そのような直接接合のための手法は当業者に周知である(例えば、Gregoriadis、Liposome Technology(1984)およびLasic、Liposomes:from Physics and Applications(1993)を参照のこと)。特に好ましいのは、チオエーテル結合による接合である。抗体を、例えばマレイミド誘導化ホスファチジルエタノールアミン(M−PE)またはジパルミトイルエタノールアミン(M−DEP)のようなマレイミド誘導化した脂質と反応させることによって、これを達成することができる。このアプローチはMartin et al.、J.Biol.Chem.257:286−288(1982)に詳細に記載されている。
【0072】
II.リポソームの作製
以下に記載のように、リポソームの調製のためには種々の方法がある。たとえば、Szokaら、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467(1980);米国特許第4,186,183号、第4,217,344号、第4,235,871号、第4,261,975号、第4,485,054号、第4,501,728号、第4,774,085号、第4,837,028号、および第4,946,787号;PCT公報第WO91/17424号;Szoka & Papahadjopoulos、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:4194−4198(1978);Deamer & Bangham、Biochim.Biophys.Acta 443:629−634(1976);Fraleyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:3348−3352(1979);Hopeら、Biochim.Biophys.Acta 812:55−65(1985);Mayerら、Biochim.Biphys.Acta 858:161−168(1986);Williamsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:242−246(1988),Ljposomes、ch.l(Ostro、ed.、1983);およびHopeら、Chem.Phys.Lip.40:89(1986)である。適切な方法として、例えば超音波処理、押出、高圧/均質化、微流動化、洗剤透析、小リポソーム小胞のカルシウム誘発融合、およびエーテル融合方法などが挙げられ、これらのすべては当業界で周知である。1つの方法では不均一なサイズの多重膜小胞を産生する。この方法では、小胞形成脂質を適切な有機溶媒または溶媒系に溶かし、そして減圧下または不活性ガス下で乾燥させて脂質薄膜とする。所望であれば、この膜を例えば三級ブタノールのような適切な溶媒に再溶解し、凍結乾燥し、さらに容易に水和可能な粉末状の形態である、さらに均一な脂質混合物とする。この膜を水性緩衝液で覆い、典型的には15〜60分間攪拌しながら放置して水和させる。得られた多重膜小胞のサイズ分布は、さらに激しい攪拌条件下で脂質を水和させるか、またはデオキシコール酸塩のような溶解性洗剤を添加することによって、より小さいサイズにすることができる。
【0073】
好ましい態様として、ほとんど単一膜リポソームをSzoka & Papahadjopoulos、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 75:4194−4198(1978)の逆相蒸発法によって産生する。
【0074】
単一膜小胞は一般に、超音波処理または押出によって調製する。超音波処理は、脂質の融点で決められるコントロール温度で例えばブランソン(Branson)チップ超音波処理装置のような浴タイプの超音波処理装置を用いて一般的に行われる。押出は、リペックス(Lipex)の生体膜押出装置(Biomembrane Extruder)のような生体膜押出装置によって行うことができる。押出フィルターにおける決められた細孔径により、特定サイズの単一膜リポソーム小胞を生成することができる。このリポソームはまた、Norton Company、Worcester、MAから市販入手可能なCeraflow Microfilterのような非対称的なセラミックフィルターを通して押し出すことにより調製することができる。
【0075】
リポソームの調製に続いて、形成中にサイズ分けしてないリポソームを、押出によりサイズ分けして、所望のサイズ範囲とし且つリポソームのサイズ分布を比較的狭くする。従来のフィルター約0.2〜0.4ミクロンのサイズ範囲、典型的には0.22ミクロンのフィルターを通して濾過することによりリポソーム懸濁液を殺菌することができる。このフィルター殺菌法は、リポソームが約0.2〜0.4ミクロンのサイズまで小さくなっておれば、高い処理量で行なうことができる。
【0076】
所望のサイズにリポソームをサイズ分けするのにいくつかの技術がある。サイズ分け法の1つが、米国特許第4,529,561号または第4,737,323号に記載されている。浴またはプローブ音波処理によりリポソーム懸濁液を超音波処理すると、約0.05ミクロンのサイズ未満の小さな単一膜小胞まで著しくサイズが減少する。均質化は、大きなリポソームを小さなものにフラグメント化するためのせん断エネルギーによる別方法である。典型的な均質化法において、多重膜小胞を、典型的には約0.1〜0.5ミクロンの選択されたリポソームサイズとなるまで、標準的な乳濁液ホモジナイザーで再循環する。リポソーム小胞のサイズは、Bloomfield、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.10:421−450(1981)に記載されているように、疑似電気光散乱(QELS)によって決定することができる。リポソームの平均直径は、形成したリポソームを超音波処理することによって小さくすることができる。間欠的な超音波処理サイクルは、効率的なリポソーム合成へと導くために、QELSアセスメントで変えることができる。
【0077】
小孔ポリカーボネート膜または非対称的セラミック膜でリポソームを押出することもまた、リポソームのサイズを比較的よく決められたサイズ分布まで減少させるのに効果的な方法である。典型的には、懸濁液を、所望のサイズ分布のリポソームが得られるまで、膜を1回以上通過させるサイクルを行なう。リポソームは次々と、より小さい孔の膜を通って押出され、リポソームのサイズは次第に小さくなる。本発明での使用のためには、リポソームは約0.05ミクロン〜約0.5ミクロンのサイズをもっており、約0.05〜0.2ミクロンのサイズのリポソームがさらに好ましい。
【0078】
III.脂質-核酸複合体の生成
安定化脂質−核酸複合体(例えば縮合核酸および/親水性ポリマーを有する)は、目に見える大きな凝集物を生成しない傾向にあり且つ増大したトランスフェクション効率及び保存性を有する、というのが本発明における発見である。目に見えるような大きな凝集物を生成しない脂質−核酸複合体を調製するための核酸/リポソームの比率は、当業者によって決めることができる。典型的にはその比率は、一定量の核酸、例えばプラスミドを種々の量のリポソームと混合して決定する(実施例1を参照のこと)。一般に、脂質-核酸複合体を、核酸(例えばプラスミドDNA)を等容量のリポソーム懸濁液の中へピペットで入れ、迅速に混合することにより形成する。定常的には、DDABまたはDOPE(上述)のような脂質を5〜15nmol含むリポソームは、目に見えるような大きな凝集物を生じることなく、プラスミド1μgと複合体を形成する。目に見えるような大きな凝集物の検査は、典型的には顕微鏡を使わずに行われる。脂質と核酸の量の滴定の終末点はまた、(以下に述べるような)非安定化コントロールと比較して、インビトロおよびインビボでのトランスフェクション効率の増大をアッセイすることにより達成される。
【0079】
脂質−核酸複合体が大きな凝集物を形成せずかつ時間と共にトランスフェクション活性を喪失しないために、2つのアプローチがとられる。すなわち、(1)PEG-PEのような親水性ポリマーを少量(約1%モル比)、脂質-核酸複合体の生成後数分間以内に該複合体に取り込ませること、及び/又は(2)リポソームとの混合前に、ポリアミン(たとえばDNA1μgあたりスペルミジン約0.05〜5.0nmole)のようなポリカチオンで核酸を縮合させること、である。ポリアミンと親水性ポリマーの最適量は、生成した複合体が大きな、例えば目に見えるような凝集物を生じないように、ポリアミンまたは親水性ポリマーを核酸で滴定することにより当業者が決めることができる。これら脂質−核酸複合体のサイズは、動的光散乱により410±150nmの範囲内にあると推定できる。この滴定の終末点はまた、(以下に述べる)非安定化コントロールと比較して、インビトロまたはインビボでのトランスフェクション効率の増大をアッセイすることにより達成される。
【0080】
IV.脂質-核酸複合体でのトランスフェクションおよび遺伝子治療
本発明は、インビトロ、インビボ、およびエクスビボ(ex vivo)でのホ乳動物細胞の形質転換のための、増大した保存性を有する脂質−核酸複合体、ならびにこのような複合体を精製およびトランスフェクションする方法を提供する。特に、本発明は、有機ポリカチオンとの接触によって縮合した核酸を有する脂質−核酸複合体が、増大した保存性を示すという予想外の発見に、一部よるものである。さらに、本発明は、脂質−核酸複合体の形成後、親水性ポリマーとともに混合した脂質−核酸複合体が、貯蔵後のトランスフェクション活性によって測定されるように、高い形質転換活性および増大した保存性を示すという予想外の発見による。増大した保存性を有するこのような脂質-核酸複合体は、例えば、インビトロおよびエクスビボで細胞をトランスフェクションするために、ならびに後のインビボでのホ乳動物の遺伝子治療について、細胞に核酸を送達するのに有用である。
【0081】
異なるホ乳動物細胞型へ核酸を送達するのに脂質−核酸複合体を用いることは、安全な移入方法、および遺伝子移入の高い効率を生じる。インビボでの脂質-核酸複合体での細胞のトランスフェクションは、当業者に公知であり、実施例1に考察されるような標準的な技術(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版1989);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology(1995))を用いて行うことができる。
【0082】
宿主細胞への導入に適切である任意の異種核酸が、当業者によって、本発明において使用することができる。遺伝子治療に有用な遺伝子は、本発明の方法およびベクターを用いてホ乳動物に導入することができる。血液タンパク質、酵素、ホルモン、リボザイム、アンチセンスRNA、ウイルスインヒビター、およびイオンチャンネルタンパク質をコードする遺伝子は、遺伝子治療において有用な異種核酸の例である。機能的な異種核酸を用いて、遺伝子治療を用いるホ乳動物における変異された遺伝子を置換することができる。例えば、β−グロビンをコードする遺伝子を用いてβ−サラセミアを処置することができ、CFTRをコードする遺伝子を用いて嚢胞性線維症を処置することができる。選択マーカーをコードする遺伝子、例えば抗生物質耐性を付与する遺伝子を用いて、脂質-核酸複合体でトランスフェクトされた細胞を検出および単離することができる。ルシフェラーゼ、β−がラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ヒト成長ホルモン(hGH)、および緑色蛍光タンパク質(GFP)のようなレポーター遺伝子は、トランスフェクション効率を測定するためのアッセイに用いることができる遺伝子の好ましい例である。本発明のある態様において、トランスフェクション効率を測定するためのレポーター遺伝子としてルシフェラーゼを用いることができる。
【0083】
レポーター遺伝子のトランスフェクション効率は、使用するレポーター遺伝子について適切であるアッセイを用いて、測定することができる。このようなアッセイは、当業者に公知である。例えば、HGHレポーターアッセイは、免疫学に基づき、および市販の放射性イムノアッセイキットを用いる。本発明の好ましい態様において、ルシフェラーゼアッセイを用いて、ルシフェラーゼレポーター遺伝子のトランスフェクションおよび発現を検出する。ルシフェラーゼアッセイは、非常に感度が高く、そして放射能を使用しないので、好ましい。実施例1に記載されるように、蛍光度計(luminometer)を用いて、ルシフェラーゼ酵素活性を測定することができる。
【0084】
遺伝子治療は、HIV感染のような慢性の感染性疾患、ならびにガンおよび出生時欠損のような非感染性疾患と戦うための方法を提供する(一般にAnderson、Science 256:808−813(1992);Yuら、Gene Ther.1:13−26(1994)を参照のこと)。遺伝子治療を用いて、エクスビボ手順またはインビボ手順のいずれかで細胞を形質導入することができる。遺伝子治療のためのエクスビボ方法は、ホ乳動物の外部で、細胞を本発明の脂質−核酸複合体で形質導入する工程、およびこの細胞を生物に導入して戻す工程を包含する。細胞は、骨髄から単離される造血幹細胞、または脂質−核酸複合体によってトランスフェクトされ得る他の細胞とすることができる。
【0085】
ヒトにおいて、造血幹細胞は、臍帯血、骨髄、および不死化された抹消血を含む多様な供給源から得ることができる。CD34細胞の精製は、抗体アフィニティー手順によって達成することができる(Hoら、Stem Cells 13(増刊3):100−105(1995)を参照のこと;Brenner、J.Hematotherapy 2:7−17(1993)もまた参照のこと)。細胞はまた、忠者から単離、培養することができる。あるいは、エクスビボ手順に用いる細胞は、細胞バンク(例えば、血液バンク)において保存される細胞とすることができる。幹細胞を使用する利点は、この細胞がインビトロで他の細胞型に分化し得ること、または、骨髄においてこの細胞が植え付けられるホ乳動物(例えば、細胞のドナー)に導入され得ること、である。インビトロで、サイトカイン(例えば、GM−CSF、IFN−γ、およびTNF−α)を用いて、臨床的に重要な免疫細胞型に骨髄を分化するための方法は、公知である(例えば、Inabaら、J.Exp.Med.176:1693−1702(1992)を参照のこと)。
【0086】
核酸の送達はまた、インビボ遺伝子治療を用いて達成することができる。本発明の脂質−核酸複合体を、患者、好ましくはヒトに直接投与することができる。インビボおよびエクスビボの投与は、分子または細胞を、血液または組識の細胞に最終的に接触させるように導入するために通常使用される任意の経路による。本発明の脂質−核酸複合体を、任意の適切な様式において、好ましくは医薬上許容可能なキャリアとともに投与する。
【0087】
本発明の情況におけるこのような非ウイルス性粒子を患者へ投与する適切な方法は、当業者に公知である。医薬組成物は、エアゾール投与を用いて(例えば、ネブライザーまたは他のエアゾール化装置を用いて)、および非経口的に(即ち関節内、静脈内、腹腔内、皮下、または筋肉内)で投与されるのが好ましい。より好ましくは、医薬組成物は、エアゾール投与を介して、またはボーラス注入によって静脈内にもしくは腹腔内に投与される。この使用について適切である特定の製剤は、Remington’S Pharmaceutical Sciences(第17版、1985)に見いだされる。典型的には、製剤は、許容可能なキャリア、好ましくは水性キャリア中に懸濁された脂質−核酸複合体の溶液を含有する。
【0088】
V.薬学的組成物
本発明の脂質−核酸複合体を含有する医薬組成物は、標準的な技術に従って調製され、そして医薬上許容可能なキャリアをさらに含有する。一般に、通常の生理食塩氷が、医薬上許容可能なキャリアとして用いられる。他の適切なキャリアとして、例えば水、緩衝化水、等張液(例えば、デキストロース)、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなどが挙げられ、増大した安定性のために糖タンパク質、例えばアルブミン、リポタンパク質及びグロブリンなどが含まれる。これらの組成物は、従来の、周知の滅菌技術によって滅菌することができる。得られた水溶液は、使用のためにパッケージングされるか、または無菌条件下で濾過し且つ凍結乾燥し、この凍結乾燥した調製物は、投与前に滅菌水溶液とともに合わせることができる。生理学的条件に近づけるために必要とされる医薬上許容可能な補助物質、例えば、pH調節剤および緩衝剤、緊張調節剤など(例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなど)を含めることができる。さらに、脂質-核酸複合体懸濁液は、貯蔵の際の遊離ラジカルおよび脂質過酸化損傷に対して、脂質を保護する脂質保護剤を含めることができる。脂肪親和性の遊離ラジカルなクエンチ化剤(例えば、αトコフェノール)および水溶性のイオン特異的キレート化剤(例えば、フェリオキサミン)が適切である。
【0089】
医薬製剤における脂質−核酸複合体の濃度は、広範囲に、即ち約0.05重量%未満から、通常約2〜5重量%で、少なくとも約2〜5重量%で、多くとも10〜30重量%まで変化させることができ、選択される投与の特定の態様に従って、液体容量、粘度などによって主に選択される。例えば、濃度は、処置に関連する液体負荷を低減するために増加することができる。このことは、アテローム性動脈硬化症関連の欝血心不全または重篤な高血圧を有する患者において特に望ましい。あるいは、刺激化脂質で構成される免疫脂質−核酸複合体は、投与の部位での炎症を減じるために、低濃度に希釈することができる。投与される脂質−核酸複合体の量は、使用される特定のFab'、処置すべき疾患状態、および臨床医の判断に依存する。一般に、投与される脂質-核酸複合体の量は、核酸の治療上有効用量を送達するのに十分である。治療上有効用量を送達するために必要な脂質-核酸複合体の量は、当業者によって決定することができる。典型的な脂質−核酸複合体の投薬量は、一般に、体重1kg当たり核酸約0.01mg〜約50mg、好ましくは核酸約0.1mg〜約10mg/kg体重、最も好ましくは核酸約2.0mg〜約5.0mg/kg体重である。マウスへの投与について、用量は典型的に、20gマウス当たり50〜100μgである。
【0090】
VI.血液半減期のアッセイ
標的組識における脂質−核酸複合体の局在化のための1つの補助は、投与後の血流における、延長された脂質−核酸複合体の寿命である。脂質-核酸複合体の寿命の測定の1つとして、複合体投与後の選択された時間での、血液/RES比がある。典型的には、複合体の内部に、または複合体を含む脂質に結合してのいずれかで、標識(例えば、蛍光マーカー、電子密集試薬、または放射能マーカー)を含む脂質-核酸複合体を試験生物に注入する。一定期間後、生物を屠殺し、(例えば、ルミネセンスを測定することによって、またはシンチレーションをカウントすることによって)血中で検出される標識の量を、特定の組識(例えば、肝臓または脾臓)において局在化される量と比較する。
【0091】
血液中の脂質−核酸複合体の保持の時間過程はまた、標識含有脂質−核酸複合体の投与後に一定間隔で血液をサンプリングし、循環に残存する標識の量を測定することによって、簡便に測定することができる。結果は、元の投与量の割合として表すことができる。
【0092】
VII.脂質−核酸複合体による組識トランスフェクションのアッセイ
本発明の脂質−核酸複合体による標的細胞のトランスフェクションは、それ自身検出可能であるかまたは検出可能な産物をコードする核酸を含む脂質−核酸複合体を投与することによって、同様に測定することができる。次いで、生物学的サンプル(例えば、組識バイオプシーまたは液体サンプル)を回収し、トランスフェクトされた核酸自身の存在を検出するか、または核酸の発現された産物の存在を検出することによって、トランスフェクションについてアッセイする。
【0093】
核酸自身は、例えば核酸増幅によって、容易に検出される配列を有するように選択することができる。この例において、問題の核酸の単独の増幅を許容し、トランスフェクションについてアッセイされるべき生物学的組識のサンプルにおける他のいかなる核酸の増幅をも許容しないように選択されるプライマー部位を有する核酸が選択される。
特定のDNA配列を検出するための方法は、当業者に周知である。例えば、領域を有する選択配列に相補的であるように選択されるオリゴヌクレオチドプローブを用いることができる。あるいは、配列又はサブ配列は、多様なDNA増幅技術によって増幅することができる。DNA増幅技術として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Innisら、PCR Protocols:A Gulde to Methods and Application (1990))、ライゲース連鎖反応(LCR)(Wu & Wallace、Genomics 4:560(1989);Landegrenら、Science 241:1077(1988);Barringerら、Gene 89:117(1990)を参照のこと)、転写増幅(Kwohら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173(1989))、および自己確認配列複製(Guatelliら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 87:1874(1990))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
特に好ましい態様において、トランスフェクションは、1つ以上の組識における遺伝子産物の存在もしくは不在を検出するか、またはこれを定量することによって評価される。容易にアッセイ可能な産物を発現する任意の遺伝子は、本アッセイについての適切な指標を提供する。適切なレポーター遺伝子は、当業者に周知である。これらには、細菌クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β−ガラクトシダーゼ、またはルシフェラーゼ(例えば、Alamら、Analytical Biochemistry 188:245−254(1990)を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの特に好ましいレポーター遺伝子は、実施例において説明されるようなFflux遺伝子である。
【0095】
VIII.保存性のアッセイ
上述のように、本明細書中で使用される用語「保存性」は、その生物学的活性が失われるまで、脂質−核酸複合体が(規定された条件下で、例えば緩衝液中4℃で)保存することができる期間をいう。本発明において保存性の測定のためにアッセイした生物学的活性は、静脈内投与後にインビボで、脂質-核酸複合体がホ乳動物細胞をトランスフェクトする能力である。
【0096】
好ましい態様において、保存性は、上記のようにまたは実施例において説明されるように、種々の期間、脂質−核酸複合体を保存し、1つ以上の試験動物にこの複合体を注入し、トランスフェクション(例えば、レポーター遺伝子の発現)について動物において選択された組識をアッセイすることによって、測定する。
【0097】
保存性は、絶対項、即ち組成物がその活性が失われるまでに保存することができる時間の長さで表すことができることを理解されよう。あるいは、保存性は、異なる組成物に関して相対的な語句として表現することができる。従って、例えば、問題の複合体が、貯蔵の一定期間後にトランスフェクション活性を示し、この活性が、同じ量の時間、同様に保存された異なる複合体の活性よりも大きい場合、問題の複合体は、異なる複合体に比べて、増大した保存性を有すると言われる。
【0098】
IX.特定の組識への脂質−核酸複合体の標的化
特異的な標的化部を、特定の細胞または組識を標的するために、本発明の脂質−核酸複合体とともに使用することができる。ある態様として、標的化部(例えば、抗体または抗体フラグメント)を親水性ポリマーに付着し、複合体の形成後に脂質−核酸複合体と組合せる。従って、脂質−核酸複合体における一般的なエフェクターと組合わせて標的化部を使用することは、特定の細胞および組識への送達のために、複合体を簡便にあつらえる能力を提供する。
【0099】
脂質−核酸複合体におけるエフェクターの例としては、サイトトキシン類(例えば、ジフテリアトキシン(DT)、PseudomonasエクソトキシンA(PE))、および百日咳トキシン(PT)、および百日咳アデニレートサイクラーゼ(CYA))をコードする核酸、アンチセンス核酸、リポザイム、標識化核酸、及び腫瘍抑制遺伝子(例えば、p53、p110RB、およびp72)をコードする核酸が挙げられる。これらのエフェクターは、ガン細胞、免疫細胞(例えば、B細胞およびT細胞)、及び標的化部を有する他の所望の細胞標的のような細胞に特異的に標的化することができる。例えば、上記のように、多くのガンが、HER2(これは、乳ガン細胞において発現される)、またはIL17R(これは、神経膠腫において発現される)のような細胞表現マーカーの過剰発現によって特徴づけられる。抗−HER2および抗−IL17R抗体または抗体フラグメントのような標的化部を用いて、選択された細胞に脂質-核酸複合体を送達する。従って、エフェクターB分子は、特定の細胞型に送達され、有用なおよび特定の治療処置を提供する。
【0100】
X.脂質-核酸複合体キット
本発明はまた、上記の脂質-核酸複合体を調製するためのキットを提供する。このようなキットは、上記のように、容易に利用可能な材料および試薬から調製することができる。例えば、このようなキットは、以下の材料のうちの任意の1つ以上を含有することができる。即ち、リポソーム、核酸(縮合または未縮合)、親水性ポリマー、Fab'フラグメントのような標的化部で誘導体化した親水性ポリマー、および説明書である。広範に多様なキットおよび成分は、意図されるキットの使用者、および使用者の特定の要求に依存して、本発明に従って調製することができる。例えば、キットは、上記のように、特定の細胞型に複合体を標的化するための多くの標的化部のうちの任意の1つを含む。
【0101】
キットは、インビボ、エクスビボ、またはインビトロで細胞をトランスフェクトするためのカチオン性脂質−核酸複合体の使用を提供する指示(すなわち、プロトコル)を含む指示的な材料を任意に含んでもよい。典型的には、指示材料は、上記のように、リポソームおよび核酸から脂質−核酸複合体を調製するための手順を記載する。指示材料はまた、親水性ポリマーを脂質−核酸複合体とどのように混合するのかを記載する。さらに、指示材料は、細胞を脂質−核酸複合体でトランスフェクトするための手順を記載する。
【0102】
指示材料は典型的に、書かれたまたは印刷された材料を含むが、このようなものに限定されない。このような指示を保存し、および最終使用者に指示を伝達することができる任意の媒体が、本発明によって意図される。このような媒体として、電子保存媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)などが含まれるが、これらに限定されない。このような媒体として、このような指示的な材料を提供するインターネットサイトに対するアドレスを挙げることもできる。
【0103】
実施例 本発明を、以下の実施例で例示する。これらの実施例は、例示するために提供するものであって、本発明を限定するものではない。
【0104】
実施例1:インビボ遺伝子送達のための安定な脂質-プラスミドDNA複合体の調製
A.材料及び方法
1.脂質及びその他の試薬
DOPEは、アバンティ(Avanti(Alabaster、AL))から購入した。高純度コレステロールをカルバイオケム(Calbiochem(San Diego、CA))から得た。DDAB及びデキストラン(M.W.40,000)をシグマ(Sigma(St.Louis、MO))から購入した。DDABをアセトン−メタノール溶液で一度再結晶した。D−ルシフェリンをベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)から得た。PEG−PEは、セキュース・ファーマシューティカルズ(Sequus Pharmaceuticals(Menlo Park、CA))からの贈呈物であった。DC-Chol、MMCE及びDOGSは、遺伝子治療センターのUCSFジーン・トランファー・ビヒクル・コア(UCSF Gene Transfer Vehicle Core of Gene Therapy Center)から得た。ESPM、DOTAP、POEPC、DOEPC、DMEPC及びDODAPは、アバンティ(Alabaster、AL)からの贈呈物であった。各脂質のクロロホルム溶液を、−40℃で密封したアンプル内で、アルゴン下、貯蔵した。可能な限り高純度のその他の試薬を購入し、さらに精製しないで用いた。
【0105】
2.リポソームの調製
小さなカチオン性リポソームを、以下のように、5%(w/v)でキストロース内で調製した。DDAB又はその他のカチオン性試薬のクロロホルム溶液を、所望のモル比で、DOPE又は/及びコレステロールと混合し、溶媒を、ロータリーエバポレーターで50℃、減圧下でゆっくりと除去した。乾燥脂質膜を50℃に予熱しておいた5%デキストロース溶液で水和させて、容器をアルゴン下で密封した。水和脂質懸濁液を、50℃で5〜10分間、超音波処理器(bath sonicator (Lab Supplies、Hicksville、N.Y.))で超音波処理した。リポソームの最終濃度は、5mMカチオン性脂質であり、リポソームの大きさを動的光散乱で測定し、195±65nmであった。超音波処理したリポソームを、使用するまで、4℃、アルゴン下で貯蔵した。
【0106】
3.ルシフェラーゼ・レポーター系
プラスミド、pCMV/IVS-luc+を以下のように構築した。CMVプロモーター及び合成IgEイントロンを含むフラグメントを、Spe I及びHind IIIを用いてpBGt2.CATから除去し、pBSIIKS+にクローンした。SV40後ポリ(A)シグナルを含む修飾ホタル・ルシフェラーゼ(luc+)をコードするcDNAを、HindIII及びSal Iを有するpGL3−ベーシックベクター(pGL3−Basic Vector)(Promega)から切除し、スプライスのpBS-CMV-IVSクローンの下流に置いた。キアゲン社(Qiagen Corp.(Chatsworth、CA))により採用され且つ案出されたアルカリ性溶解手順を用いてプラスミドを精製した。プラスミド純度を、260nm対280nmでの吸光度の比率により測定し、10mMトリス−Cl及び1mM EDTAを含む緩衝液中で、濃度1〜2mg/ml、pH8.0で貯蔵した。
【0107】
4.トランスフェクション複合体の調製
トランスフェクション実験の前に、固定量のプラスミドを種々の量のリポソームに混合することにより、大きな凝集体ではない複合体を形成するDNA/リポソームの最適比率を決定した。一般に、プラスミドを同体積のリポソーム懸濁液にピペットして迅速に混合することにより、トランスフェクション複合体を形成した。日常的には、DDABを8〜12nmol含むリポソームは、目に見える大きな凝集体を形成させずに、プラスミド1μgと複合体化することができる。そのような複合体は、過剰な正電荷を有するが、4℃での貯蔵の間、時間と共に凝集しがちであり、4日間でトランスフェクション活性を失いがちである。大いに希釈した複合体を要する、インビトロ実験では、DNA1μgにつきDDAB5nmolのカチオン性脂質−プラスミドDNA複合体(『CLDC』)を用いた。脂質−プラスミドDNA複合体が大きな凝集体を形成しないように且つ時間と共にトランスフェクション活性を失わないように、2つのアプローチを採用した。(1)その調製後、数分間で、少量のPEG−PE(約1%モル比)を脂質−プラスミドDNA複合体に組み込むか;及び/又は(2)リポソームと混合する前に、プラスミドをポリアミン(例えば、DNA 1μg当たリスペルミジン0.05〜5.0nmol)で縮合させる。大きな凝集体を形成するまでポリアミン:DNAを定量することにより、ポリアミンの最適量を決定した。これらの複合体の大きさは、動的光散乱で概算して、410±150nmの範囲であった。
【0108】
5.レポーター遺伝子発現のアッセイ
精製ルシフェラーゼを、蛍光度計(luminometer)を較正し且つルシフェラーゼの相対的特異的な活性のためのコントロール標準を構築する標準としてベーリンガー・マンハイムから購入した。組織抽出物内のレポーター遺伝子発現は、蛍光度計で測定した相対的光単位を標準曲線にしたがって重さ単位に変換することによって、ナノグラム単位の量で提供した。細胞又は組織内に発現したルシフェラーゼを、化学的細胞溶解物で抽出した。有効な溶解物緩衝液は、pH7.8での0.1Mリン酸カリウム緩衝液、1%トリトンX−100、1mM DTT及び2mM EDTAを含んでいた。
【0109】
雌CD1マウス(4〜6週齢、体重約25g)を、チャールズ・リバー実験室(Charles River Laboratory)から得た。マウスは、尾血液注射により脂質−プラスミドDNA複合体を受け、24時間後、犠牲にした。麻酔をかけた動物を心臓穿刺を介して冷リン酸−緩衝生理食塩水(PBS)で灌流した。各組織を解剖して、PBSで洗浄し、その後、溶解液緩衝液500μl含む6ml丸底培養管内で均質化した。サンプルを、時折混合して、室温で20分間、放置した。均質化サンプルを、エッペンドルフ(Eppenndorf)遠心分離器で3000rpmで10分間遠心分離した。再構築ルシフェラーゼ基質(Promega、Masison、WI)100μlを蛍光度計の注入系内の組織均質物の上澄み液20μlと混合して、各組織のルシフェラーゼ活性を測定した。ピークの発光を、20℃で10秒間測定した。各サンプルの相対的光単位を、実験の各セットで確立した標準曲線と比較することにより、組織抽出物内のルシフェラーゼ量に換算した。抽出物のタンパク質含量を、タンパク質アッセイキット(バイオラッド(BioRad、Richmond、CA))を用いて測定した。バックグランドは、溶解緩衝液のみの計数であった。
【0110】
SK−BR−3細胞(パク(Park)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1327−1331(1995))を、10%熱不活性化子ウシ血清を補充したマッコイ(McCoy)5A培地及び5%CO2において培養した。単層培地のSK−BR−3細胞を12個のウェルプレートのウェル当たり50,000個の細胞を播種し、一晩インキュベートした。各ウェルは、複合体形成の20分間以内で、pCMV/IVS−luc+を0.5〜1μg受けた。37℃での複合体とのインキュベーションを24時間した後、細胞を収穫した。細胞のルシフェラーゼ活性を、上述のように測定した。
【0111】
B.結果
1."ヘルパー"脂質の最適化
インビトロ遺伝子移送のためにカチオン性リポソームを用いることは、フェルグナー(Felgner)らがその研究(フェルグナー(Felgner)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA84:7413−17(1987))を発表してから広く行われている。DOPEがインビトロ遺伝子トランスフェクションに対してはるかに有効な"ヘルパー"脂質であることが後に確立され(フェルグナー(Felgner)ら、J.Biol.Chem.269:2550−2561(1994))、この結果はいくつかの実験室で確認されている(ファーフッド(Farhood)ら、Gene therapy for Neoplastic Diseases、pp 23−55(Huber & Lazoeds.、1994);ツゥオ(Zhou)ら、Biochim.Biophys.Acta 1189:195−203(1994)).インビトロ研究を基に、正荷電した脂質-プラスミドDNA複合体が細胞膜に一旦結合すると、DOPEが膜融合を介して細胞質送達を促進することが示唆されている(ツゥオら、Biochim.Biophys.Acta 1189:195−203(1994))。フレンド(Friend)らは、DOTMA/DOPE脂質−プラスミドDNA複合体が原形質膜と直接融合するという形態学的な証拠を得ていなかったが、彼らは融合という事態の可能性を排除しなかった(フレンドら、Biochim.Biophys.Acta 1278:41−50(1996))。彼らは、この複合体がエンドサイトーシスされ、カチオン性脂質がエンドソーム/リソゾーム膜を分断し、その後、DNA複合体が細胞質へ、結局は核へ逃避するのを促進することを示唆した。
【0112】
たいていの予想に反して、インビトロ研究から確立されたDOPEの"ヘルパー"としての役割は、その複合体を静脈注射した後インビボ遺伝子送達することに対しては、明白ではない。DOPEをDDABカチオン性脂質に含めたとき、インビボ遺伝子トランスフェクションは阻害された。このDOPE依存性阻害を図1に示す。DOPEではなく、コレステロールが、インビボ遺伝子送達のための"ヘルパー"脂質として有効であることがわかった。コレステロールの半分をDOPEで置換したとき、マウスの肺でのルシフェラーゼ発現が10倍減少した。DDAB及びその他のカチオン性リポソームのインビボ結果は、DOPEが好適なヘルパー"脂質であるという一般的な仮定と一致しなかった。一方、カチオン性脂質-プラスミドDNA複合体内のDOPEは、DOPEがインビボ遺伝子送達に対する配合物中で阻害剤としてみなされるというような非常に大きな程度で、インビボ・トランスフェクションを減衰させる。コレステロールが、最近発表された報告(リウ(Liu)ら、J.Biol.Chem.270:24864−70(1995);ソロジン(Solodin)ら、Biochemistry 34:13537−44(1995))の中で、インビボ研究に対して、選択されている。その中で、著者らは、実験デザインに対して、彼らが異なる"ヘルパー"脂質を、即ちインビトロに対してはDOPE、インビボに対してはコレステロールをどのようにして、またなぜ選んだのかを詳しく述べていない。コレステロールによって、血中のアニオン性及び中性リポソームが安定化することは、長い間知られている(メイヒュ(Mayhew)ら、Cancer Treat.Rep.63:1923−1928(1979))。よって、全身遺伝子送達に対して、血中の脂質−プラスミドDNA複合体、巨大分子である複合体と反応すると思われる種々の成分の安定性を考慮しなければならないのは明白である。実際、凍結割断電子顕微鏡を用いた脂質−プラスミドDNA複合体の種々の配合物の予備研究から、コレステロール含有複合体が血清存在下でDOPE含有複合体より構造的に安定であったということが分かっている。
【0113】
インビボ・トランスフェクション実験について、DDAB/コレステロール脂質-プラスミドDNA複合体(DDAB8nmol/DNAμg)を用いて、マウス25gの肺に検出可能なルシフェラーゼ発現を得るには、DNA投与が30μg〜60μgの範囲で必要であった。マウス当たリプラスミドDNA40〜60μgを日常的に与えると、矛盾のない遺伝子発現を生じた。DNA80μg(又はそれ以上)を通常伴うDDABの量は、動物にとってあまりに毒性が強いことがわかった。種々の組織でのルシフェラーゼ発現を図2に示す。以前に観察された(ツゥオら、Science 261:209−211(1993);リウら、J.Biol.Chem.270:24864−70(1995);ソロジンら、Biochemistry 34:13537−44(1995))ように、最大発現が肺の組織で観察された。ブラスミドを60μg注射すると、組織タンパク質1mg当たりルシフェラーゼ1〜2ngが日常的に得られた。図3は、肺組織でのレポーター遺伝子発現の持続時間を示す。ルシフェラーゼの発現はすぐに減少し、2週で検出不能なレベルになった。ツゥオらは、DOTMA/DOPE(1:1)−プラスミド複合体を成体マウスに静脈注射した後、レポーター遺伝子(CAT)の発現が種々の組織間に広がり、最大の発現はプラスミド11μg:全脂質8nmolの比率を有する複合体からであると報告した(ツゥオら、Science 261:209−211(1993))。しかしながら、この比率(プラスミド1μg:カチオン性脂質4nmolに相当する)で、DDAB/コレステロール 脂質−プラスミドDNA複合体は凝集しがちであり、この調査では測定可能な遺伝子発現はもたらされなかった。
【0114】
違う研究室では異なるレポーター遺伝子が用いられているので、リポソームの配合物に変化を与えたことに対する、インビボ遺伝子送達の効率における変化を特定することは困難であった。文献の結果を直接比較すると、蛍光度計で測定したルシフェラーゼ活性の相対光単位を、精製ルシフェラーゼの標準に変換した。そうすることによって、DDAB/コレステロール配合物のトランスフェクション活性のピークは、比較可能な実験で最近報告された値よりも3のオーダーでより高かった(シエリー(Thierry)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9742−9746(1995))。実験デザインにおいて、同じプロモーターに伴って同じレポーター遺伝子であると、発現の違いは、リポソーム配合の選択に影響を受けるようである。実際、DDAB/コレステロールは、最近スクリーニングされた18種の異なるカチオン性脂質からの多くの配合物中、最も有効な遺伝子送達ビヒクルの一つであった。静脈注射後のマウスの肺での発現の予備結果から、DOTMA/コレステロール、DOTAP/コレステロール、MMCE/コレステロール及びESPM/コレステロールは、DDAB/コレステロールのトランスフェクション活性の10〜100%であり、DOGS/コレステロール、POEPC/コレステロール、LYSPE/DOPE及びDC-コレステロール/DOPEは、DDAB/コレステロールの1〜10%であることがわかった。DOEPC/コレステロール、DMEPC/コレステロール、DODAP/コレステロール及びDDAB/DOPEは、測定可能な活性を示さなかった。
【0115】
トランスフェクション研究と平行して、血清中及び細胞媒体中でのこれらの複合体の形態を、凍結割断電子顕微鏡で調べた。50%マウス血清中で調べる(インキュベーション時間10分)と、非安定化、1日後のCLDCは、イオン強度が低い緩衝液中にいるのと同じほど小さく(100〜250nm)、突起物はほとんど示さない。50%マウス血清中でインキュベートした、6日後の、非安定化CLDCは、結合した粒子がたくさんある、球状粒子の稠密充填凝集体のように見えた。そのような配合物は、4日間以内にインビボ・トランスフェクション活性をすべて失った。残留原繊維状突起物は観察されない。
【0116】
50%マウス血清中でインキュベートした、PEG−PE安定化CLDCは、6日後でも小さかった(100〜200nm)。同様に、縮合したDNAで調製したCLDCも、貯蔵後6日後であってもきわめて小さかった。特に、CLDCは、血清存在下で構造的に安定な"地図ピン(map pins)"のような形状であった。
【0117】
細胞培地(10%FCSを有するRPMI−1640)でインキュベーション後、非安定化、6日齢CLDCは、上述のように、マウス血清中でインキュベートしたものと形態上類似していた。しかしながら、これらの複合体は、もっと緩く充填されており、原繊維状突起物を示さなかった。類似の形態がPEG−PE安定化CLDC及び細胞培地でインキュベートした縮合DNA CLDCで観察された。
【0118】
2.トランスフェクション活性について保存性を増大させる
脂質−プラスミドDNA複合体の構造上の安定性とトランスフェクション活性との関連性は、これまで公表された報告書には詳しく記載されていなかった。スクリーニング手順が確立されて、DNA:脂質の比率を全体的に負荷電から正荷電にする比率に変えることにより、脂質−プラスミドDNA複合体の大きな凝集体を避けている。DNA/脂質を種々の比率とした特別のカチオン性脂質の各々からなる脂質−プラスミドDNAを調製し、得られた安定且つ準安定な配合物をインビボ・トランスフェクションに用いた。DNA1μg当たリカチオン性脂質8〜12nmolを含んだ複合体は、最も高いインビボ・トランスフェクション活性を有することがわかった。しかしながら、これらの複合体のトランスフェクション活性は、時間と共に減少した。脂質−プラスミドDNA複合体を形成する手順を変更しない場合、2〜3日以内に目に見える凝集があり、トランスフェクション活性は、1000倍より多く減少し、1ヶ月間4℃で貯蔵後、ほとんどバックグランドのレベルにまでとなった。よって、安定化脂質−プラスミドDNA複合体の配合物を保証した。これは、貯蔵の間、高いインビボ・トランスフェクション活性を維持できた。
【0119】
i.トランスフェクション安定性の増大:PEG-PE
形成したばかりの脂質−プラスミドDNA複合体にPEG-PE(全脂質の1%)を挿入することは、その複合体が貯蔵の間に凝集するのを予防するばかりでなく、PEG−PEなしの複合体と比較してほんの少し活性ば低いが、PEG−PE含有複合体はインビボで合理的な高いトランスフェクション活性を示すことができる(図4)。PEG−PEが複合体に組込まれていることは、PEG−PEのパーセントを増大させるとトランスフェクション活性の投与関連阻害を参照することにより、明白である(結果は示さず)。予想外にも、PEG−PEを含む複合体を4℃で貯蔵すると、図4に示されるように、元の活性がゆっくりと復帰する。PEG−PEによるトランスフェクションの阻害効果の機構の面、並びに低温での貯蔵後に活性が回復することは、現時点では知られていない。
【0120】
ii.トランスフェクション安定性の増大:ポリアミン
脂質−核酸複合体の保存性を増大させるPEG−PEの役割に加えて、ポリアミンで縮合する核酸も同様に、複合体の保存性に予想外の増大を示した。縮合DNAで形成された脂質-プラスミドDNA複合体は、凝集せずに、脂質:DNAが低比率で安定であった。図4は、そのような調製物のインビボ・トランスフェクション活性のレベル、及び貯蔵中のその運命を示す。また、ポリアミンで前処理しておらず、複合体が形成されたらすぐ用いたサンプルと比較すると、トランスフェクション活性の予想外の増大が、熟成ポリアミン処理した脂質−プラスミドDNA複合体に見られた。プラスミドを脂質-洗剤ミセル内の脂質と複合体化することにより安定なカチオン性脂質/DNAを得る異なるアプローチが、最近公表されている(ホフランド(Hofland)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7305−7309(1996))。しかしながら、インビトロについて15%血清中そのような複合体を用いて、トランスフェクション効率がほんの30%しか維持できなかった。また、インビボの結果は報告されていなかった。
【0121】
iii.トランスフェクション安定性の増大:凍結乾燥
最後に、凍結乾燥による脂質−プラスミドDNA複合体の安定化のための条件を確立した。超音波により水中5%(w/v)でキストランに懸濁させたDDAB/コレステロールからなるリポソームを、方法で上述したようにDNAと1:10の比率(DDAB nmol当たりDNA μg)で混合したとき、活性を失うことなく、凍結乾燥できる。脂質−プラスミドDNA複合体が形成されているデキストランの最終濃度は、8%(w/v)であった。凍結乾燥した調製物を、蒸留水を加えることにより再構築し、静脈注射後のマウスの肺でのトランスフェクション活性を、ルシフェラーゼレポーター遺伝子発現により測定した。再構築した調製物を凍結及び解凍することは、その活性に影響を与えなかった(組織タンパク質1mg当たり通常ルシフェラーゼタンパク質1〜2ng)。
【0122】
本明細書で説明したカチオン性脂質−プラスミドDNA複合体のいくつかは安定であり、4℃又は凍結乾燥で長期貯蔵後であっても、矛盾しないインビボ・トランスフェクション活性(組織タンパク質1mg当たリルシフェラーゼ0.5〜2ng)を示すことができる。"ヘルパー"脂質としてコレステロールを含む配合物は、より高いインビボ・トランスフェクション効率を生じる。PEG−PEによって複合体構造を安定化させることにより、貯蔵中の複合体活性が維持され、特定の組織を標的とする血中での循環時間を長くすることができる。脂質複合体化前にポリアミンでDNAを縮合させると、インビトロ貯蔵及びインビボでの活性のレベルが高められる。インビボで高いトランスフェクション活性を示す脂質−プラスミドDNA複合体の安定な調製物を産生する方法論的アプローチは、医薬上許容可能な調製物を確立する利点をもたらし、ゆえにリポソームをベースとした遺伝子治療が促進される。
【0123】
実施例2:標的リガンドを有する脂質-プラスミドDNA複合体のインビトロ・トランスフェクション
A.Fabフラグメントの調製
重鎖及び軽鎖についてのクローンしたrhuMAbHER2配列を、既述のように(カーター(Carter)ら、Biotechnology 10:163−167(1992))、E.coliで共に発現させた。抗体フラグメント、rhuMAbHER2−Fab'を、E.coli発酵ペーストから親和性クロマトグラフィーにより連鎖球菌Gタンパク質(カーターら、Biotechnology 10:163−167(1992))を用いて回収し、典型的には還元したフリー・チオール(Fab'−SH)を含む60〜90%でFab'を得た。
【0124】
B.リポソームの調製
縮合DNAを、実施例1で上述した方法を用いて(但し、以下を変更して)、異なる3種の脂質組成物と複合体化した。第1の複合体は、DDAB/DOPE(1/1)を用いて作り、上述のように、DNAのみと複合体化したカチオン性リポソームを産生した。第2の複合体は、PEGの末端位置をマレイミドで誘導化した1%PEG−PEを有するDDAB/DOPE(1/1)を用いて作り、DNAと複合体化後、立体安定化成分を加えてCLDCを産生した。第3の複合体は、マレイミド残基にフリーのチオール基をを介してPEGの末端位置に結合したヒト化抗Her−2抗体のFab'フラグメントで誘導化した1%PEG-PEを有するDDAB/DOPE(1/1)を用いて作った。これは、DNAとの複合体化の後に加えた立体安定化成分に結合した標的リガンドを有するCLDCを産生した。
【0125】
C.トランスフェクション及び結果
実施例1で上述したように、細胞をトランスフェクションした。但し、脂質−プラスミドDNA複合体の貯蔵をしなかった。2つの細胞系を本実施例で用いた。第1の細胞系は、HER−2レセプターを過発現しないMCF−7であった。この細胞を10%子ウシ血清を有するDME H-21及び5%CO2内で培養した。第2の細胞系は、HER−2レセプターを過発現するSK−BR3細胞であった。これを10%子ウシ血清を有するマッコイ5A培地及び5%CO2内で培養した。双方のケースにおいて、細胞(ウェル当たり〜5×104個の細胞)をトランスフェクトし、上述のように脂質(PCMV/IVS−luc+、上述のルシフェラーゼレポーター遺伝子)で複合体化したプラスミドDNA12μgと共に37℃で4時間インキュベートした。その後、上澄み液を吸引し、新鮮な培地を加え、細胞を37℃で24時間インキュベートした。その後、細胞をPBS(Ca/Mgフリー)で洗浄して収穫し、その後、上述のように、ルシフェラーゼアッセイのために溶解緩衝液に懸濁した。
【0126】
図5Aは、末端のマレイミド残基を介してPEGの先端に接合した標的リガンドの存在下であっても、HER−2レポーターを過発現しない非標的細胞のトランスフェクションがPEG−PEを添加することによって阻害されたことを示している。図5Bは、HER−2レポーターを過発現する標的細胞のトランスフェクションもPEG−PEを添加することによって阻害されたが、HER−2レポーターを認識する標的リガンドにPEG−PEが接合した場合、トランスフェクション活性が復帰し、増大したことを示している。
【0127】
図5Aと図5Bとを比較すると、標的イムノCLDCは、非標的細胞よりもより効率的に標的細胞をトランスフェクションする際に有効であることがわかる。抗HER−2−Fab'に接合したリガンド保持安定化剤(PEG−PE)を添加することにより、非標的細胞のトランスフェクションが阻害される(図5A)が、標的細胞のトランスフェクションが増大するということから、この結果は生じる。
【0128】
上記実施例は、本発明を例示するために提供したものであり、その範囲を限定するものではない。本発明のその他の変更は、当業者にとって、即座に明白であろうし、添付の請求の範囲に含まれる。本明細書に引用した刊行物、特許、特許出願は、本明細書に参考として含まれる。
【0129】
関連出願の相互参照
本願は1996年11月1二日出願の米国特許出願第60/030,578号の出願日の利益を請求する。
州政府助成研究または開発
非適用
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】1Aおよび図1Bは遺伝子送達における中性脂質の役割を説明する。3種のリポソーム製剤につき、培養細胞(SKBR−3、ヒト乳癌細胞)およびマウス(CDl、メス、20〜25g)両方への遺伝子送達を試験した。サンプルは、(1)DDAB/Chol(1:1)、(2)DDAB/Chol/DOPE(1:0.5:0.5)、(3)DDAB/DOPE(1:1)、および(4)DDABのみ、であった。図1Aは細胞トランスフェクションを説明する。SKBR−3細胞を12ウエル・プレートに1ウエル当たり50,000細胞ずつ入れ、一晩インキュベートした。各ウエルは、P−CMWIVSLuc+プラスミド1μgを入れ、DDAB5nmoleの割合でリポソームと混合した。37℃で複合体と24時間インキュベート後、細胞を収穫した。提示した値は2ウエルからの平均値である。値は平均10〜30%の範囲内にあった。図1Bはマウスにおけるインビボ・トランスフェクションを説明する。マウスにP−CMVIVS−Luc+プラスミド40μg(DNA1μg当たりDDAB 8nmolの比でリポソームと複合体形成)を尾部血管注射した。値はマウス2匹の平均値である。値は平均20〜25%の範囲内にあった。
【図2】図2はマウス組織抽出物におけるレポーター遺伝子の発現を説明する。マウスにP−CMVIVS−Luc+プラスミド(DNA1μg当たりDDAB8nmoleの比でDDAB/Chol(1:1)リポソームと複合体形成(スペルミジンなし))60μgを(尾部血管注射により)投与した。提示した値はマウス3匹の平均値である。
【図3】図3はマウス肺におけるレポーター遺伝子発現の持続時間を説明する。各動物にP−CMVIVS−Luc+プラスミド(DNA1μg当たりDDAB8nmoleの比でDDAB/Chol(1:1)リポソームと複合体形成)40μgを投与した。
【図4】図4は種々の安定化複合体によるマウス肺の遺伝子送達を説明する。各マウスにP−CMVIVS−Luc+(8nmole DDAB/μgDNAの比でDDAB/Chol(1:1)リポソームと複合体形成)60μgを投与した。提示した値はマウス3匹の平均値である。点画棒グラフ:調製直後の複合体。塗りつぶし棒グラフ:1ヶ月経過サンプル。サンプルは以下の通りである。(1)安定化剤不添加。(2)形成した複合体に対し総脂質1%の割合でPEG−PEを添加。(3)複合体形成に先立ちプラスミドにスペルミジン(DNA1μg当たり0.5nmole)添加。
【図5】図5Aおよび図5Bは細胞株の免疫脂質−DNA複合体でのインビトロ・トランスフェクションを説明する。サンプルは以下の通りである。(1)DDAB/DOPE(1:1)であって、DNAのみで複合体化したカチオン性リポソームを産生する。(2)PEGの末端位置においてマレイミドで誘導化した1%PEG−PEを有するDDAB/DOPE(1:1)であって、DNAとの複合体形成後添加した立体安定化成分をもつリポソームを産生する。(3)マレイミド残基の遊離チオール基を介してPEGの末端位置に結合したヒト化抗−Her−2抗体のFab'フラグメントで誘導化した1%PEG−PEを有するDDAB/DOPE(1:1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質−核酸複合体の保存性を増大させる方法であって、該方法が、両親媒性カチオン性脂質を有する脂質と核酸とを結合させて脂質−核酸複合体を産生する工程、及び該脂質−核酸複合体を親水性ポリマーと混合する工程を有し 、前記脂質−核酸複合体が、前記親水性ポリマーを欠いている同一の脂質−核酸複合体と比較して、増大した保存性を有する、上記方法。
【請求項2】
親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、フォスファチジル エタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−PE)、トゥイーンで誘導化したポリエチレングリコール、ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG− DSPE)、及びガングリオシドGM1からなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記核酸がDNA及びRNAからなる群から選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記核酸がDNAである請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記核酸を前記脂質に結合させる工程が、前記両親媒性カチオン性脂質を有するリポソームをまず形成することを有する請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記核酸を前記脂質に結合させる工程が、脂質1〜20nmol:核酸1μgの範囲の比率で前記脂質と前記核酸とを結合させることを有する請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記脂質−核酸混合体を前記親水性ポリマーと混合する工程が、該脂質−核酸複合体内の脂質に対する親水性ポリマーのモル比が0.1〜10%で前記親水性ポリマーと前記脂質−核酸複合体とを混合することを有する請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、前記両親媒性カチオン性脂質を有する脂質と発現カセットとを結合させて脂質-発現カセット複合体を産生する工程、及び該脂質−発現カセット複合体をフォスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−PE)と混合する工程を有し、前記脂質-発現カセット 複合体が、フォスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−PE)を欠いている同一の脂質-発現カセット複合体と比較して、4℃で増大した保存性を有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記脂質が、抗体のFabフラグメントに結合したポリエチレングリコールを有する請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記脂質−核酸複合体を凍結乾燥させる請求項1記載の方法。
【請求項11】
脂質−核酸複合体を調製するキットであって、該キットが、(i)両親媒性カチオン性脂質を有するリポソームを含む容器;(ii)核酸を含む容器;及び(iii)親水性ポリマーを含む容器を有し、該リポソーム及び核酸を混合して脂質−核酸複合体を形成し、かつ脂質−核酸複合体を前記親水性ポリマーと接触させる、上記キット。
【請求項12】
脂質−核酸複合体を前記親水性ポリマーと接触させる工程が、該脂質−核酸複合体内の脂質に対する親水性ポリマーのモル比が0.1〜10%で前記親水性ポリマーと前記脂質−核酸複合体とを混合することを有する請求項記載11のキット。
【請求項13】
前記親水性ポリマーが、標的部で誘導化されている請求項11記載のキット。
【請求項14】
前記標的部が、Fabフラグメントである請求項13記載のキット。
【請求項15】
核酸が縮合核酸である請求項11記載のキット。
【請求項16】
親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、フォスファチジル エタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG−PE)、トゥイーンで誘導化したポリエチレングリコール、ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミンで誘導化したポリエチレングリコール(PEG− DSPE)、及びガングリオシドGM1からなる群から選ばれる請求項11記載のキット。
【請求項17】
前記核酸がDNA及びRNAからなる群から選ばれる請求項11記載のキット。
【請求項18】
前記核酸がDNAである請求項11記載のキット。
【請求項19】
前記脂質が、抗体のFabフラグメントに結合したポリエチレングリコールを有する請求項11記載のキット。
【請求項20】
前記脂質−核酸複合体を凍結乾燥させる請求項11記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−239631(P2008−239631A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132745(P2008−132745)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【分割の表示】特願平10−522807の分割
【原出願日】平成9年11月10日(1997.11.10)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】