説明

インピーダンス整合回路の高周波信号合成方法及び装置

【課題】 本発明は高周波信号合成方法及び装置に関し、容易に高電圧高周波信号と他の高周波信号を合成することができるインピーダンス整合回路の高周波信号合成方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 第1の高周波信号をインピーダンス整合する第1のトランスとしての整合トランス2と、該整合トランス2の2次巻線の接地電位側又は基準電位側に接続され、第1の高周波信号をバイパスするコンデンサ及びコイルの直列接続からなる電流バイパス回路3と、前記整合トランス2の2次巻線の接地電位側又は基準電位側に接続され、第1の高周波信号を阻止し、第1の高周波信号に対して高インピーダンスとなり第2の高周波信号に対しては等価直列インピーダンスが低インピーダンスになるフィルタ4,5と、このフィルタの反対側に2次巻線が接続される第2の高周波信号を入力する第2のトランス6とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインピーダンス整合回路の高周波信号合成方法及び装置に関し、更に詳しくは、高周波誘導結合プラズマ質量分析計の4重極イオンガイド用高周波電源でArイオンの選択的排除のために複数(第1の高周波信号f1:数MHz、f1の最大電圧:数kV、第2の高周波信号周波数f2:およそ100kHzから750kHz、f2の電圧:数10V〜数100V)の周波数の異なる高周波信号を合成するインピーダンス整合装置、及びその他合成する周波数が異なり合成したい周波数成分だけを出力できる高周波信号を合成するようにしたインピーダンス整合方法及び装置に関する。ここで、異なる2つの周波数を合成する目的は、イオンガイドに閉じ込められているイオンのうち、f2として所定の質量電荷比を持つイオンに対してのみ、イオンガイド内での振動運動の振幅を共鳴により増大させて、イオンガイドの外に飛び出さないようにするものである。これにより、イオン化部から質量分析部までイオンを輸送するイオン輸送系において、分析に必要なイオンを高効率に透過すると共に、不要なイオンを質量分析部に到達する前に、排除可能な多重極イオンガイドを実現するようにしている。
【背景技術】
【0002】
この種の装置で、合成する周波数が異なり、合成したい周波数成分だけを出力できる高周波信号の合成方法として以下のような方法がある。
(a)抵抗分配器を用いた方法(例えば非特許文献1参照)
(b)高電位側での並列合成方法(例えば特許文献1及び特許文献2参照)
(c)低電位側での直列合成方法
等がある。
【0003】
ここでは、本発明には前記3.が適すると考えられるので、3.について説明する。図8は従来回路の構成例を示す図である。図において、1は第1の電力増幅器、8は第2の電力増幅器である。2は整合トランスであり、1次巻線10と、2次巻線11と12とから構成されている。6は第2のトランスであり、それぞれ3個の巻線13〜15から構成されている。
【0004】
電力増幅器1には整合トランス2の1次巻線10が接続されており、整合トランス2の2次側には2次巻線11と12が巻回されている。これら2次巻線11と12は、負荷コンデンサ7が接続されている。一方、整合トランス2の2次側巻線の接地側には第2のトランス6が接続されている。このトランス6は、高周波信号をインピーダンス整合する整合トランス2の接地電位側又は基準電位側に設けられている。そして、第2の高周波信号を入力する第2のトランス6を設けることにより、第1の高周波信号と第2の高周波信号を合成することができる。
【非特許文献1】トランジスタ技術 2002年11月号 P232
【特許文献1】特開2000−144416号公報(段落0013〜0017、図1)
【特許文献2】特開平2001−332211号公報(段落0026〜0034、図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した(a)に示す従来技術では、抵抗を用いているので、抵抗損失が大きく、数V程度の小信号用であり、高電圧・大電力用には採用できない。前記した(b)に示す従来技術では、高電圧・大電力用として一般的に用いられているが、高周波合成部のコンデンサやフィルタ用のコンデンサ、コイル等には耐電圧が高く、しかも大電流用のものが必要であり、更に合成する高周波信号の各出力には、当該高周波信号を除いた他の高周波信号の全てに対してフィルタを必要とするので、高周波信号合成装置が大型化し、しかも高価格となり、本発明の利用分野には不向きである。
【0006】
(c)に示す従来技術では、第1の高周波信号をインピーダンス整合する整合トランスの接地電位側又は基準電位側に、第1の高周波信号よりも周波数が低い第2の高周波信号を入力する第2のトランスを設けることによって、第1の高周波信号と第2の高周波信号を合成することができる(図8参照)。しかしながら、以下の問題点がある。
【0007】
1.整合トランスの1次側から見た入力インピーダンスZinは、第2の高周波信号を入力する第2のトランスの1次側から電力増幅器8側を見たインピーダンスZf2の影響を受け、Zf2の値によっては第1の高周波信号に対してインピーダンス整合がとれない状態となる。
【0008】
従って、第1の高周波信号に対する電圧反射率が大きくなり、整合トランスへ第1の高周波信号電力を供給できないので、第1の高周波信号を負荷コンデンサに供給できない。
2.若しも、第1の高周波信号を負荷コンデンサに供給できるように第2の電力増幅器8のインピーダンスZf2の値を選択した場合、第2のトランスの1次側にも負荷コンデンサに流れる第1の高周波信号電流が第2のトランスの1次/2次巻線比に応じて流れるので、第2の高周波信号を供給する電力増幅器には第1の高周波信号電力や周波数に対応できる増幅器等が必要となり、第2の高周波信号を供給する電力増幅器が大型化し、高価格となり、しかも無駄な電力消費となる。
【0009】
3.整合トランス2の接地電位側又は基準電位側(又は第2のトランス6の2次側)に第1の高周波信号電流をバイパスするコンデンサの構成が考えられるが、このコンデンサに電流バイパス効果を発揮させることができる容量は、負荷コンデンサ容量の数10倍程度の容量が必要である。このため、第2の高周波信号に対して低インピーダンスとして作用し、第2の高周波信号を供給する電力増幅器には負荷コンデンサに供給する程度の電流よりも極めて大きな電流を供給する電力増幅器が必要となる。
【0010】
即ち、第1の高周波信号電流をバイパスするコンデンサには、第1の高周波信号に対しては負荷コンデンサの容量性リアクタンスの1/数10程度と小さく、第2の高周波信号に対しては第2の高周波信号を供給する電力増幅器の供給電流を抑制するために容量性リアクタンスを大きくしたいという相反する要求がある。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、第2の高周波信号を供給する電力増幅器を大型化することなく、また、高周波を合成しない基本整合回路の第1の高周波信号周波数f10と高周波を合成するようにした整合回路の第1の高周波信号周波数f1との差を小さくすることができ、容易に第1の高周波信号周波数を許容範囲にすることができるインピーダンス整合回路の高周波信号合成方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)請求項1記載の発明は、整合トランスを用いて電力増幅器からの2つの周波数の高周波信号を負荷側に供給するようにした高周波信号合成方法において、第1の高周波f1に第2の高周波f2を重畳させる際に、第1の高周波f1が第2の高周波源に入らないようにするために、両者の間にf1の阻止フィルタを設け、合成後のf1信号を、f2信号を合成したことによる影響がないように、整合トランスT1の低電位側にインダクタンスとコンデンサからなるf1電流バイパス回路を設けるようにしたことを特徴とする。
【0013】
(2)請求項2記載の発明は、第1の高周波信号をインピーダンス整合する第1のトランスとしての整合トランスと、該整合トランスの2次巻線の接地電位側又は基準電位側に接続され、第1の高周波信号をバイパスするコンデンサ及びコイルの直列接続からなる電流バイパス回路と、前記整合トランスの2次巻線の接地電位側又は基準電位側に接続され、第1の高周波信号を阻止し、第1の高周波信号に対して高インピーダンスとなり第2の高周波信号に対しては等価直列インピーダンスが低インピーダンスになるフィルタと、このフィルタの反対側に2次巻線が接続される第2の高周波信号を入力する第2のトランスと、を備え、上記電流バイパス回路は、直列接続されたコンデンサ及びコイルの直列共振周波数が第2の高周波信号を合成する前の整合回路共振周波数である第1の高周波信号周波数の±10%以内となるようにし、第1の高周波信号は整合トランスの1次側から入力し、第2の高周波信号は第2のトランスの1次側から入力し、この第2のトランス2次側が前記フィルタを通して整合トランスの接地電位側又は基準電位側に接続されるようにしたことを特徴とする。
【0014】
(3)請求項3記載の発明は、前記整合トランスの2次側は分離された2巻線からなり、この分離部に電流バイパス回路が接続され、前記電流バイパス回路は、直列接続されたコンデンサ及びコイルからなり、接地電位又は基準電位に対して対称に1対設けると共に、前記電流バイパス回路全体及びそれぞれの電流バイパス回路のコンデンサとコイルとの直列共振周波数が第2の高周波信号を合成する前の整合回路共振周波数である第1の高周波信号周波数の±10%以内とすることを特徴とする。
【0015】
(4)請求項4記載の発明は、前記第2の高周波信号は、複数の高周波信号を信号合成回路で合成された高周波信号とし、信号合成回路は小信号で合成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
(1)請求項1記載の発明によれば、第1の高周波源の周波数f1が、第2の高周波源に入らないように、f1阻止フィルタを設け、更にコンデンサとコイルからなるf1電流バイパス回路を設けたので、第2の電力増幅器に対して大容量のものを用いることなく、第1の高周波信号と第2の高周波信号とを合成することが可能となる。
【0017】
(2)請求項2記載の発明によれば、第1の高周波源の周波数f1が、第2の高周波源に入らないように、f1阻止フィルタを設け、更にf1電流バイパス回路を設けたので、電力増幅器に対して大容量のものを用いることなく、第1の高周波信号と第2の高周波信号とを合成することが可能となる。
【0018】
(3)請求項3記載の発明によれば、より良好な高周波信号の合成を行なうことができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、第2の高周波信号を更に複数の高周波信号として合成を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
(第1の形態例)
図1は本発明の第1の実施の形態例を示す回路図である。図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。図に示す回路は、負荷コンデンサCに対する要求が以下の場合の実施例である。
【0020】
第1の高周波信号周波数f1:数MHz、最大電圧:数kV
第2の高周波信号周波数f2:およそ150〜750kHz、電圧:数10V〜数100V
図において、1は第1の電力増幅器、8は第2の電力増幅器、2は第1の電力増幅器1の出力が接続される整合トランスT1、3は整合トランスT1の2次側の低電位部に設けられた電流バイパス回路、4は整合トランスT1の2次側の低電位部に設けられたf1阻止フィルタ、5は同じく整合トランスT1の2次側に設けられたf1阻止フィルタ、6はこれらf1阻止フィルタ4,5が接続される第2のトランスT2である。f1阻止フィルタ4,5に接続された第2のトランスT2のコイルはその一端が接地されている。7は整合トランスT1の2次側の両端間に接続されたコンデンサCである。該負荷コンデンサCに高周波信号が印加されることになる。
【0021】
整合トランスT1は、インピーダンス整合トランスであり、第1の高周波信号f1に対して整合トランスT1の1次側から負荷側をみた入力インピーダンスZinを伝送線路の特性インピーダンスZωに整合させるトランスである。3は整合トランスT1の2次側に設けられた電流バイパス回路である。該電流バイパス回路3は、コンデンサC31,C32、コイルL31,L32及び抵抗R31,R32の直列接続からなる電流バイパス回路である。これら電流バイパス回路の一端は接地されている。
【0022】
この電流バイパス回路3は、直列接続されたコンデンサ及びコイルからなり、接地電位又は基準電位に対して対称に1対設けると共に、電流バイパス回路3のそれぞれの直列共振周波数(C31とL31との直列共振周波数,C32とL32との直列共振周波数)、及び電流バイパス回路全体の直列共振周波数(C31,C32,L31,L32全体の直列共振周波数)fbが第1の高周波信号周波数f1の±10%以内となるようにコンデンサC31,C32及びコイルL31,L32の値が決定される。なお、抵抗R31,R32はコイルL31,L32の第1の高周波信号f1に対する高周波巻線抵抗を示している。
【0023】
f1阻止フィルタ4,5は第1の高周波信号f1を阻止し、第1の高周波信号f1に対して高インピーダンスになり、第2の高周波信号f2に対しては低インピーダンスになるようなフィルタであり、例えば第2の高周波信号f2は通過し、第1の高周波信号f1を阻止する低域通過フィルタや高周波信号f1付近の帯域を除去する帯域除去フィルタである。なお、高周波信号f1に対して高インピーダンスにするため、電流バイパス回路3と第2のトランスT2の2次側に直列接続される部分は、共振周波数がf1付近で並列共振するようになっている。
【0024】
第2のトランスT2は、第2の高周波信号f2を供給するトランスで、2次側は2巻線である。負荷コンデンサCは、イオンガイド電極等の等価静電容量を示すコンデンサである。第2の電力増幅器8は、第2の高周波信号f2を発生し、伝送線路W2を介して第2のトランスT2に必要な第2の高周波信号電力を供給する増幅器である。このように構成された回路の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0025】
図2は第1の実施の形態例の各部の動作波形を示す図である。(a)は整合トランスT1の1次側電圧波形、(b)は第2のトランスT2の1次側電圧波形、(c)は負荷コンデンサCにかかる電圧、(d)は整合トランスT1の2次側電流である。整合トランスT1の1次側電圧の振幅は±50V程度であり、第2のトランスT2の1次側電圧は±40V程度である。負荷コンデンサCに印加される電圧は、周波数f1に応じた±2kV程度の信号となっている。
【0026】
第1の高周波信号f1の電力は、電力増幅器1から伝送線路W1を介して整合トランスT1に伝送される。該整合トランスT1は、インピーダンス整合トランスであり、整合トランスT1の1次側から負荷側をみた入力インピーダンスZinを伝送線路W1の特性インピーダンスZωに整合させる。
【0027】
図1の回路で、第2の高周波信号f2の合成がない場合の基本入力インピーダンスZinoは、基本等価回路である図3から計算することができる。図3は第1の電力増幅器から負荷側をみた等価回路である。図において、L1は整合トランスT1の1次巻線のインダクタンス、L2は整合トランスT1の2次巻線側のインダクタンス、Mは整合トランスT1の1次側と2次側の相互インダクタンスである。R2は整合トランスT1の2次側巻線の高周波抵抗を含む2次側回路のR21,R22に基づく等価抵抗である。
【0028】
整合トランスT1の1次側インダクタンスをL1、整合トランスT1の2次側インダクタンスをL2とし、Mは整合トランスT1の相互インダクタンス、R2はトランスT1の2次巻線高周波抵抗を含む2次側等価抵抗である。Cは負荷コンデンサである。この時の第1の高周波信号周波数がf10であるものとすると、それぞれの素子の値として識別記号をそのまま用いるものとすると、f10は次式で表わされる。
【0029】
f10=1/{2π√(L2・C)} (1)
ここで、L1<<L2の時(整合トランスT1の1次巻線数は通常1ターンである)、トランスT1の1次側からみた入力インピーダンスZinoは次式で表わされる。
【0030】
Zino=M・M/(R2・L2・C) (2)
第2の高周波信号f2の合成がある場合の入力インピーダンスZinは、電流バイパス回路3を含めた等価回路図4から計算できる。図4は電流バイパス回路も考慮した等価回路である。L3は電流バイパス回路のコイルのインダクタンス、R3はコイルの抵抗R31とR32に基づく高周波巻線抵抗、C3はC31,C32に基づく回路の容量とすると、第1の高周波信号周波数f1は次式で表わされる。
【0031】
f1=1/[2π√{(L2+L3)・C0}] (3)
ここで、C0は次式で表わされる。
C0=(C・C3)/(C+C3) (4)
ここで、L1<<(L2+L3)の時、次式が成立する。
【0032】
Zin=M・M/{(R2+R3)・(L2+L3)・C0} (5)
f1=1/[2π√{(L2+L3)・C0}] (6)
但し、f1素子フィルタ4,5は、第1の高周波信号f1を阻止し、第1の高周波信号f1に対して高インピーダンスになるようにしているので、f1阻止フィルタ4,5の影響がないものとしている。
【0033】
電流バイパス回路3の直列接続された全体の直列接続された直列共振周波数fbは次式で表わされる。
fb=1/{2π√(L3・C3)} (7)
また、電流バイパス回路のそれぞれの直列共振周波数
1/{2π√(L31・C31)}と
1/{2π√(L32・C32)}をf10の±10%以内にする。
【0034】
前記直流バイパス回路3の直列共振周波数fbを、f10の±10%以内程度にして、第1の高周波信号f1とfbとの差を小さくすることができる。また、入力インピーダンスZinは、抵抗R3をできる限り小さくするか、或いは抵抗R2を調整するなどして、必要とする入力インピーダンスZinにする。
【0035】
入力インピーダンスZinが必要とする特性インピーダンスZωに整合していく過程を図5のスミスチャートに示す。図4を参照しながら、図5を説明する。図5中、0がスタート時点で負荷コンデンサCを接続し、順次S1がL2−Mを接続、S2がR2を接続、S3がC3を接続、S4がL3を接続、S5がR3を接続、S6がMを接続、S7がL1−Mを接続した状態である。
【0036】
スミスチャートの中心が正規化インピーダンス1で、この場合50Ωを正規化インピーダンス1としている。図のS2〜S5が電流バイパス回路3によるものであり、コンデンサC3による容量性リアクタンスの増加をコイルL3の誘導性リアクタンスで補償し、Zinを50Ωに近づけている。なお、図5は、fbがf10より5%(L3が約−10%)高い場合の一例である。この時の周波数はf1である。この場合、f1とf10との差は約5%(L3が約−10%)高い場合の一例で、周波数はf1である。この場合、f1とf10との周波数差は約1%であった。
【0037】
第2の高周波信号f2は、第2の高周波信号f2電力を供給する電力増幅器8から、伝送線路W2を介して第2のトランスT2に供給される。第2のトランスT2の2つの2次巻線に逆極性で生じた第2の高周波信号f2は、一方がf1阻止フィルタ5を介して整合トランスT1のL21の接地電位側へ、他方が整合トランスT1のL22の接地電位側へ接続され、第2の高周波信号f2が第1の高周波信号f1に合成される。この様子の信号波形を図2に示す。
【0038】
負荷コンデンサCには第1の高周波信号f1と、第2の高周波信号f2との合成された電圧が印加されている。なお、この場合、負荷コンデンサCの電圧の周波数成分は、第1の高周波信号f1と、第2の高周波信号f2の周波数成分だけである。
【0039】
以上、説明したように、この実施の形態例によれば、第1の高周波源の周波数f1が、第2の高周波源に入らないように、f1阻止フィルタを設け、更にf1電流バイパス回路を設けたので、第2の電力増幅器に対して大容量のものを用いることなく、また、第1の高周波信号に大きな影響を与えることなく第1の高周波信号と第2の高周波信号とを合成することが可能となる。
【0040】
(第2の形態例)
図1の実施の形態例を参照して説明する。前述した実施の形態例では、整合トランスT1の2次巻線は2巻線としたが、1巻線の場合にも、適用することができる。この場合は、1巻線の接地電位値又は基準電位側に電流バイパス回路3の片側のf1阻止フィルタ4が配置され、第2のトランスT2も2次側1巻線となる。但し、この場合、負荷コンデンサCの片側は接地電位又は基準電位である。また、第2の高周波信号f2の入力である第2のトランスT2に対してインピーダンス整合を適用するようにしてもよい。更に、電流バイパス回路3のコンデンサ及びコイルを可変できるようにして、整合トランスT1の整合可能な周波数を可変できるようにしてもよい。
【0041】
(第3の形態例)
図6は本発明の第3の実施の形態例を示す回路図、図7は第3の実施の形態例の各部の動作波形を示す図である。図7において、(a)は負荷Cに印加される負荷電圧で、±2kV程度である。(b)は第2のトランスT2の2次電圧であり、その振幅は200V程度である。(c)は高周波信号f2の電圧であり、その振幅は±4V程度である。(d)は高周波信号f3の電圧であり、その振幅は±10V程度である。(e)は高周波信号f4の電圧であり、その振幅は±20V程度である。(f)は整合トランスT1の1次側電圧であり、その振幅は±50V程度である。
【0042】
図6において、図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図1と比較して異なっている部分は、高周波信号入力を受ける受け口に高周波信号f2,f3,…fnを小信号で合成する信号合成回路9が用いられている点である。なお、信号合成回路9は演算増幅器等からなる加算増幅器である。その他の構成は、図1に示す回路と全く同一である。信号合成回路9の出力は、第2の電力増幅器8に入力されている。このように構成された回路の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0043】
信号合成回路9で高周波信号f2,f3…fnを小信号で合成し、第2の電力増幅器8を介して第2のトランスT2に入力するようにしている。このように構成すれば、信号合成回路9は、第2の高周波信号を更に複数の高周波信号として合成を行なうことができる。
【0044】
(本発明の効果)
以下に、本発明の効果を列挙する。
1)整合トランスを用いたインピーダンス整合回路で、複数の高周波信号を合成する方法と装置において、第1の高周波信号をバイパスする直列接続されたコンデンサとコイルとからなる電流バイパス回路が、整合トランスの接地電位側又は基準電位側に接続され、更に直列接続されたコンデンサとコイルとの共振周波数が第1の高周波信号周波数の±10%以内とすることにより、
1.高周波を合成しない基本整合回路の第1の高周波信号周波数f10と、高周波を合成するようにした整合回路の第1の高周波信号周波数f1との差を小さくすることができ、容易に第1の高周波信号周波数を許容範囲にすることができる。また、電流バイパス回路の第1の高周波信号に対するインピーダンスが負荷コンデンサのインピーダンスに対して大きくならないので、第1の電力増幅器の出力レベルは、第1の高周波信号を第2の高周波信号を合成しない場合と同程度の出力レベルで負荷に供給することができる。
【0045】
なお、電流バイパス回路の直列接続されたコンデンサ及びコイルの共振周波数が高周波を合成しない基本整合回路である第1の高周波信号周波数f10の±10%以内ということは、コンデンサ容量及びコイルインダクタンス値を総合した誤差が約20%程度まで許容されるので、コンデンサ及びコイルの選択が容易になる。
2.電流バイパス回路のコンデンサの容量値を、負荷コンデンサの数倍程度まで減じることができるので、第2の高周波信号f2に対するインピーダンスを比較的に高くすることができるので、第2の高周波信号f2用電力増幅器の出力電流を増加させないので、第2の高周波信号を供給する電力増幅器の大型化、高価格化、無駄な電力消費等が抑制される。
3.電流バイパス回路やf1阻止フィルタを整合トランスの接地電位側又は基準電位側に構成することができるので、従来の高電位側での並列的合成方法に比較して、電流バイパス回路やフィルタ用に耐電圧が低いコンデンサ、コイル等を採用することができる。また、電流バイパス回路には、負荷コンデンサに流れる電流と同程度の電流が流れるが、f1阻止フィルタが第1の高周波信号周波数f1に対して高インピーダンスにしているので、フィルタには負荷コンデンサ電流は殆ど流れない。このため、f1阻止フィルタのコンデンサ、コイルは第2の高周波信号電流に対する許容電流値でよいので、フィルタを小型化することができ、安価にすることができる。
【0046】
更に、第1の高周波信号側に第2の高周波信号を阻止するフィルタは必要としないので、整合装置を小型化(部品点数が従来の約1/2)することができ、安価にすることができる。
【0047】
2)第2の高周波信号が、複数の高周波信号を合成した信号とする場合は、小信号の信号合成回路で合成してから、1台の電力増幅器を介して第2のトランスT2に供給することができ、第1の高周波信号側に複数の高周波信号を合成した第2の高周波信号を阻止するフィルタは必要としないので、多数の高周波信号を合成する装置を小型化することができ、安価にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施の形態例を示す回路図である。
【図2】第1の実施の形態例の各部の動作波形を示す図である。
【図3】第1の電力増幅器から負荷側をみた等価回路である。
【図4】電流バイパス回路も考慮した等価回路である。
【図5】本発明のスミスチャートを示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態例を示す回路図である。
【図7】第3の実施の形態例の各部の動作波形を示す図である。
【図8】従来回路の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 第1の電力増幅器
2 整合トランス
3 電流バイパス回路
4 f1阻止フィルタ
5 f1阻止フィルタ
6 第2のトランス
7 負荷コンデンサ
8 第2の電力増幅器
9 信号合成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整合トランスを用いて電力増幅器からの2つの周波数の高周波信号を負荷側に供給するようにした高周波信号合成方法において、
第1の高周波f1に第2の高周波f2を重畳させる際に、第1の高周波f1が第2の高周波源に入らないようにするために、両者の間にf1の阻止フィルタを設け、合成後のf1信号を、f2信号を合成したことによる影響がないように、整合トランスT1の低電位側にインダクタンスとコンデンサからなるf1電流バイパス回路を設けるようにしたことを特徴とするインピーダンス整合回路の高周波信号合成方法。
【請求項2】
第1の高周波信号をインピーダンス整合する第1のトランスとしての整合トランスと、
該整合トランスの2次巻線の接地電位側又は基準電位側に接続され、第1の高周波信号をバイパスするコンデンサ及びコイルの直列接続からなる電流バイパス回路と、
前記整合トランスの2次巻線の接地電位側又は基準電位側に接続され、第1の高周波信号を阻止し、第1の高周波信号に対して高インピーダンスとなり第2の高周波信号に対しては等価直列インピーダンスが低インピーダンスになるフィルタと、
このフィルタの反対側に2次巻線が接続される第2の高周波信号を入力する第2のトランスと、
を備え、上記電流バイパス回路は、直列接続されたコンデンサ及びコイルの直列共振周波数が第2の高周波信号を合成する前の整合回路共振周波数である第1の高周波信号周波数の±10%以内となるようにし、第1の高周波信号は整合トランスの1次側から入力し、第2の高周波信号は第2のトランスの1次側から入力し、この第2のトランス2次側が前記フィルタを通して整合トランスの接地電位側又は基準電位側に接続される、
ようにしたことを特徴とするインピーダンス整合回路の高周波信号合成装置。
【請求項3】
前記整合トランスの2時側は分離された2巻線からなり、この分離部に電流バイパス回路が接続され、前記電流バイパス回路は、直列接続されたコンデンサ及びコイルからなり、接地電位又は基準電位に対して対称に1対設けると共に、前記電流バイパス回路全体及びそれぞれの電流バイパス回路のコンデンサとコイルとの直列共振周波数が第2の高周波信号を合成する前の整合回路共振周波数である第1の高周波信号周波数の±10%以内とすることを特徴とする請求項2記載のインピーダンス整合回路の高周波信号合成装置。
【請求項4】
前記第2の高周波信号は、複数の高周波信号を信号合成回路で合成された高周波信号とし、信号合成回路は小信号で合成されたことを特徴とする請求項2記載のインピーダンス整合回路の高周波信号合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−209976(P2006−209976A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16324(P2005−16324)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】