説明

インフルエンザウイルス由来疾病の予防又は治療用組成物

本発明は、インフルエンザウイルスによる疾病の予防又は治療に有用な生薬抽出物、及びこれを含む医薬組成物又は健康食品に関する。本発明の生薬抽出物は、天然物質由来であって人体に安全であり、多様な類型のインフルエンザウイルスによる疾病の予防、治療及び症状緩和に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスによる疾病の予防及び/又は治療に有用な生薬抽出物に関し、より詳しくは、多様な類型のインフルエンザウイルス、特に、ヒトに伝染する類型のインフルエンザウイルスによる疾病に優れた予防及び/又は治療効果を表す生薬抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属するRNAウイルスであって、呼吸器に炎症を誘発させ、感染者の咳及び唾液で空気中に直接伝達されるか、インフルエンザ患者の接触物などによって間接的にも他人に伝染し得る伝染力の強いウイルスである。潜伏期は24〜30時間ほどであり、ウイルスの血清型はA型、B型及びC型に区分される。そのうちB型とC型はヒトにおいてのみ感染が確認されており、A型はヒト、ウマ、ブタ、その他の哺乳類、そして多様な種類の家禽と野生鳥類で感染が確認されている(Selmonsら, Avian Dis., 18(1), p.119-124, 1974;Webster RGら, Microbiol Rev., 56(1), p.152-179, 1992)。
【0003】
A型インフルエンザウイルスの血清型は、ウイルス表面の2種類のタンパク質であるヘマグルチニン(Hemagglutinin:HA)とノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA)の種類に従って区分され、血清型に従って144種類(HA型16種及びNA型9種)に分類することができる。HAタンパク質はウイルスが体細胞に取り付く役割を果たし、NAタンパク質はウイルスが細胞内に浸透できるようにする(Alexander DJ, Vet. Microbiol., 74(1-2), p.3-13, 2000)。
【0004】
A型インフルエンザウイルスの正常な天然宿主はカモ、カモメなどのような野生水禽類と知られており、全世界的に野生鳥類に対するインフルエンザ感染疫学調査を行った結果、現存する全ての16種のHA型及び9種のNA型インフルエンザウイルスが野生鳥類で感染していることが確認された(Selmonsら, Avian Dis., 18(1), p.119-124, 1974)。A型に分類されるトリインフルエンザウイルスは人獣共通伝染病ウイルスであって、病原性に従ってニワトリに感染時に軽い呼吸器症状を誘発する非病原性トリインフルエンザ、1〜30%内外の死亡及び産卵低下を誘発する低病原性トリインフルエンザ(Low pathogenic avian influenza:LPAI)、そして95%以上の高い致死性を示し「トリインフルエンザ(バード・フルー:Bird flu)」とも呼ばれる高病原性トリインフルエンザ(Highly pathogenic avian influenza:HPAI)など、大きく3種類の病型に区分している(Alexander DJ, Vet. Microbiol., 74(1-2), p.3-13, 2000)。このうち、高病原性トリインフルエンザは、国際獣疫事務局(OIE)でA等級に、そして国内では第1種家畜伝染病に分類されている。
【0005】
高病原性トリインフルエンザ(HPAI)は、1980年度以降、米国(1983年)、オーストラリア(1985、1992、1994、1997年)、メキシコ(1994年)、パキスタン(1994、2004年)、香港(1997、2001年)、イタリア(1997、1999年)、オランダ(2003年)、ベルギー(2003年)、ドイツ(2003年)、カナダ(2004年)など全世界的に発生が確認されている。特に、2003年12月韓国を始め、2004年ベトナム、日本、タイ、カンボジア、ラオス、インドネシア、中国など東南アジア及び極東アジア全地域でほぼ同時多発的に血清型A/H5N1 HPAIが発生した。特に、ベトナム及びタイなどの地域で発生したHPAIは、その当時韓国及び日本などの地域で発生した人体に感染しない伝統的なHPAIとは異なり、感染鳥類との接触時に人体感染が可能な変異型トリインフルエンザ(変異型A/H5N1 HPAI)ウイルスであって、2004年3月までベトナムでは感染鳥類と接触した22人が感染してそのうち15人が死亡し、隣接国のタイでは感染鳥類と接触した11人が感染してそのうち8人が死亡し、現在全世界が懸念の声を高めているのが実情である。最近、HPAIの発生頻度が過去に比べて10倍ほど増加したわけであり、特に2001年度からは全世界的に毎年発生する様相を呈しているので、HPAIを効果的に防除できるより新しい概念の防除対策が求められている(Song CSら, Korean J. Poult. Sci., 31(2), p.129-136, 2004)。
【0006】
鳥類で主に問題になっているインフルエンザウイルスのうち、一部の血清型はヒトに感染してインフルエンザ症候を見せながら、死亡を誘発することもある。現在まで、「香港トリインフルエンザ」と呼ばれる血清型A/H5N1を含んで血清型A/H7N7、そして血清型A/H9N2など合計3種の鳥類由来トリインフルエンザウイルスのうち、一部の変種ウイルスなどが人体に感染する可能性があるものと推定されている。したがって、現在これら3種の血清型に由来する変種ウイルスに対する研究が全世界的に進められているのが実情である(Suarez DLら, J. Virol., 72(8), p.6678-6688, 1998)。
【0007】
一方、2009年春にメキシコで初めて発見された後、世界的に流行している新型インフルエンザは人体インフルエンザA型であって、サブタイプが、HAタンパク質が1型(H1)であり、NAタンパク質が1型(N1)であるインフルエンザA(H1N1)ウイルスである(以下、前記新型インフルエンザA型ウイルスを「2009 H1N1インフルエンザウイルス」と記す)。2009 H1N1インフルエンザウイルスは、ヒト、ブタ、鳥類由来のインフルエンザウイルスの遺伝物質が混合されている形態のウイルスである。ブタが『混合容器(mixing vessel)』と称され、度々インフルエンザウイルスの遺伝子が混合されて新しい変種ウイルスが作られる場合があるので、当初はブタインフルエンザ(swine influenza)と名付けられたが、感染したブタからヒトへ、又は感染したヒトからブタへ直接伝播されるか、ブタと関わっているとの証拠がないので、世界保健機関(WHO)では新型インフルエンザA(H1N1)と呼ぶことにした。
【0008】
2009 H1N1インフルエンザウイルスの塩基配列を分析した結果、一応、HA遺伝子においてヒトに感染する配列があるのでヒトに感染可能であり、高病原性ウイルスの特徴であるHA遺伝子に2塩基性(dibasic)アミノ酸が存在せず、アマンタジン(amantadine)、リマンタジン(rimantadine)薬剤耐性遺伝因子を有していることが分かった。さらに、NS1及びPB2遺伝子にも病原性に関わる変異が存在しないウイルスであると明かされており、高病原性である可能性は高くないものと分析された。2009 H1N1インフルエンザウイルスは呼吸器を通じて感染し、既存のインフルエンザAウイルスに比べて感染性が高いものと知られており、感染症状は既存のインフルエンザウイルスの感染症状と同様に高熱、咳などの風邪症状と似ている。感染の拡散防止のためには、手洗いなどの個人衛生及びマスク着用による拡散防止が役に立つ。感染の治療は、抗ウイルス製剤であるタミフルやリレンザなどの治療剤の使用を勧奨している。
【0009】
インフルエンザウイルスに感染すると各呼吸器官の抵抗力が低下して、気管支炎、咽喉炎及び肺炎などの合併症を誘発することになる。慢性疾患患者、高齢者、小児及び長期入院患者は免疫力が弱く、特に危険である。これに応じて、インフルエンザ疾患を予防するため、防疫及びインフルエンザワクチンなどの研究が進められている。しかし、ワクチンは接種しなければならないので煩わしいだけでなく、インフルエンザが流行する時期に合わせて流行する特定のインフルエンザウイルスを予想し、ワクチンを製造しなければならないという問題点がある。
【0010】
現在、全世界的に抗ウイルス剤の開発のために莫大な努力を傾けており、ヒト免疫不全ウイルス-1及びB型肝炎の治療にラミブジン(lamibudine)、ヘルペスウイルス感染症の治療にガンシクロビル(gancyclovir)、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)及び感染症に主に使用されるが、危急時に多様なウイルス感染症に使用されるリバビリン(ribavirin)などが許可され市販されている。A型インフルエンザウイルス治療のために許可されたアマンタジンの類似物質であるリマンタジンだけでなく、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ阻害物質として人工合成されたザナミビル(zanamivir、リレンザ)及びオセルタミビル(oseltamivir、タミフル(商標))も許可されて市販されている。
【0011】
アマンタジン及びリマンタジンは、インフルエンザウイルスのM2イオンチャンネルタンパクの機能を抑制する物質で、生体内インフルエンザウイルスの増殖を抑制する代表的な抗ウイルス製剤などである。これら2種の抗ウイルス製剤は、血清型A型インフルエンザウイルスにのみ効果的であり、M2タンパク質のない血清型B型インフルエンザウイルスには効果がないものと確認された。さらに、アマンタジン及びリマンタジンは、使用時にインフルエンザウイルスM2タンパクのイオンチャンネル機能に影響を及ぼすことのできない変異ウイルスの出現が非常に容易に起こるという欠点があるものと確認されている。
【0012】
このような欠点を補うために開発されたザナミビル及びオセルタミビルは、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼタンパク質の機能を抑制する物質で、生体内インフルエンザウイルスの増殖を抑制する代表的な抗ウイルス製剤などである。これら2種の抗ウイルス製剤は、16種の全ての血清型A型インフルエンザウイルス及び血清型B型インフルエンザウイルスにも効果的なものと知られている。しかし、ザナミビルは吸入及び静脈投与しなければならないという欠点があり、オセルタミビルは経口投与が可能であるものの、最近、耐性ウイルスの出現報告、並びに経口投与時に嘔吐及びめまいなどの副作用があるとして欠点が指摘されている(Ward Pら, J. Antimicrob. Chemother., 55(supp1), p.i5-i21, 2005)。したがって、ワクチン及び治療剤に併せて、ヒトの免疫力を増加させるとともに安全な天然物質の開発は、大流行時に致死率を減少させる重要な手段になるはずである。
【0013】
一方、漢方におけるインフルエンザの治療は、一般に漢方薬材を複合処方して水で煎じて、その抽出物を服用する。その種類には、人参敗毒散、九味羌活散、葛根湯、麻黄湯、大青龍湯、升麻葛根湯、清燥救肺湯、二香散、白虎加人参湯などがある。前述の漢方薬材には幾多の種類が用いられているが、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤としての機能よりは、人体の免疫力を強化させて治療することに重点を置いているのが現実であるので、より根本的にインフルエンザウイルスによる疾病を予防又は治療するための薬剤の開発が求められている。
【0014】
ここに、本発明者らは、漢方で用いられる多様な生薬製剤がインフルエンザウイルスの活性に及ぼす影響を調査しており、高血圧や動脈硬化症のような心血管系疾患の治療に用いられる防風通聖散の原料並びに淫羊霍、金銀花、遠志及び木香を含む生薬抽出物が、上記のような多様な類型のインフルエンザウイルスによる疾病症状の予防及び/又は治療に優れた効果があることを明らかにすることにより、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、防風通聖散の原料並びに淫羊霍、金銀花、遠志及び木香を含む生薬抽出物と、前記生薬抽出物を有効成分として含む、インフルエンザウイルスによる疾病の予防又は治療用組成物及び健康食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するため、本発明は防風通聖散の原料であるセンキュウ、防風、当帰、芍薬、連翹、薄荷葉、麻黄、芒硝、大黄、石膏、桔梗、黄岑、白朮、山梔子、荊芥、生姜、滑石、甘草、淫羊霍、金銀花、遠志及び木香を含む生薬を有機溶媒で抽出して製造された生薬抽出物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の淫羊霍を含む生薬抽出物は、天然物質由来であって人体に安全であり、多様な類型のインフルエンザウイルスによる疾病の予防、治療及び症状緩和に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】試験物質投与後、マウスの平均体重の変化を示すグラフである。
【図2】試験物質投与後、マウス肺組織でのウイルス力価測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る生薬抽出物を製造するためには、まず防風通聖散の原料であるセンキュウ、防風、当帰、芍薬、連翹、薄荷葉、麻黄、芒硝、大黄、石膏、桔梗、黄岑、白朮、山梔子、荊芥、生姜、滑石及び甘草と、淫羊霍、金銀花、遠志及び木香とを含む生薬に2〜10倍量の有機溶媒、好ましくは水を加えた後、70〜125℃で1〜10時間、好ましくは3〜4時間の間抽出するのが好ましい。しかし、上記のような熱水抽出以外にも冷浸抽出、還流冷却抽出又は超音波抽出などの抽出方法を用いても差し支えない。
【0020】
本発明の生薬抽出物の製造において、前記生薬は淫羊霍1重量部にセンキュウ、防風、当帰、芍薬、連翹、薄荷葉、麻黄、芒硝、大黄、石膏、桔梗、黄岑、白朮、山梔子、荊芥、生姜、滑石、甘草、金銀花、遠志及び木香をそれぞれ0.5〜5重量部の混合比で混合した後に用いることができるが、所望の抗ウイルス効果が得られる限り、前記混合比はこれらの範囲外でも差し支えない。さらに、前記生薬原料など以外にも、一般に漢方で風邪やインフルエンザの予防又は治療の目的で用いられ得る任意の薬剤などが制限なく含まれてもよい。
【0021】
本発明において、前記有機溶媒には、水、C1-C4のアルコール、C1-C4のケトン、C1-C4のアルデヒド及び前記アルコール、ケトン及びアルデヒドの水性溶液が制限なく用いられてもよく、これらの中でも水を用いるのが好ましい。
【0022】
さらに、本発明は、前記生薬抽出物を有効成分に含むインフルエンザウイルスによる疾病の予防又は治療用の医薬組成物を提供する。本発明において、前記インフルエンザウイルスは、H1N1、H1N2、H2N2、ヒトB(Human B)、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2及びH10N7で構成される群から選択される血清型を有するのが好ましく、H1N1、H3N2、ヒトB、H5N1、H9N2、H7N1及びH7N2で構成される群から選択される血清型を有するのがより好ましく、H1N1血清型を有するのが特に好ましい。
【0023】
本発明に係る生薬抽出物は、臨床投与時に経口又は非経口で投与可能であり、一般的な医薬品製剤の形態で用いられ得る。即ち、本発明の生薬抽出物は実際に臨床投与時に経口及び非経口の幾多の剤形で投与することができ、製剤化する場合には通常用いられる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて製造される。
【0024】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれる。このような固形製剤は、前記生薬抽出物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース又はラクトース、ゼラチンなどを混合して製造される。さらに、単なる賦形剤以外にマグネシウムステアラートタルクのような潤滑剤なども用いられる。経口投与のための液状製剤には、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく用いられる単純希釈剤の水、リキッドパラフィン以外に多様な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤及び懸濁溶剤には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレアートのような注射可能なエステルなどが用いられ得る。坐剤の基剤には、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween) 61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセリン、ゼラチンなどが用いられ得る。
【0025】
本発明の生薬抽出物は、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ラット、マウスなどの哺乳類及びニワトリ、カモなどの鳥類に多様な経路で投与可能である。全ての投与方式が使用可能であり、例えば経口、直腸又は静脈、筋肉、皮下、子宮内硬膜又は脳血管内注射により投与可能である。本発明の生薬抽出物の人体投与量は、体内での活性成分の吸収度合、不活性化率及び排泄速度、患者の年齢、性別、状態、疾病の度合などに応じて適宜選択され、成人に10〜5,000 mg/kg、好ましくは100〜3,000 mg/kgであり、1日1〜6回に分けて投与され得る。投薬単位は、例えば個別投薬量の1、2、3又は4倍に、又は1/2、1/3又は1/4倍に含むことができる。個別投薬量は、有効薬物が1回に投与される量を含み、これは通常1日投与量の全部、1/2、1/3又は1/4倍に該当する。
【0026】
本発明の生薬抽出物は天然物質なので毒性が全くないので、医薬品として持続的に多量使用可能であり、マウスに対する毒性実験を行った結果、経口毒性試験による50%致死量(LD50)が少なくとも5g/kg以上の安全な物質であると判明した。さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の生薬抽出物はおおよそ良好な臨床症状を示しており、特に中濃度で投与する場合は、試験動物の肺からインフルエンザウイルスが除去される効果が見られた(図1及び図2を参照)。このことから、本発明の生薬抽出物がインフルエンザウイルスの治療に非常に効果的に用いられ得ることを確認した。
【0027】
さらに、本発明は、前記生薬抽出物を有効成分に含むインフルエンザウイルスによる疾病の予防又は症状緩和用健康食品を提供する。前記「健康食品」とは、一般食品に本発明の生薬抽出物を添加することにより、一般食品の機能性を向上させた食品を意味する。機能性は物性及び生理機能性に大別することができ、本発明の生薬抽出物を一般食品に添加する場合、一般食品の物性及び生理機能性が向上するはずであり、本発明ではこのような向上した機能の食品を包括的に「健康食品」と定義する。
【0028】
本発明において、前記インフルエンザウイルスは、H1N1、H1N2、H2N2、ヒトB、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2及びH10N7で構成される群から選択される血清型を有するのが好ましく、H1N1、H3N2、ヒトB、H5N1、H9N2、H7N1及びH7N2で構成される群から選択される血清型を有するのがより好ましく、H1N1血清型を有するのが特に好ましい。
【0029】
本発明の生薬抽出物は、インフルエンザウイルスによる疾病の予防又は症状緩和を目的に健康食品に添加可能であり、本発明の生薬抽出物を食品添加物に用いる場合、前記生薬抽出物をそのまま添加するか、他の食品又は食品成分とともに使用可能であり、通常の方法に従って適宜用いられ得る。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康又は治療的処置)に応じて適宜決定され得る。一般に、食品又は飲料の製造時には、本発明の生薬抽出物が原料に対し30重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかし、健康及び衛生を目的とするか、又は健康管理を目的とする長期間の摂取の場合は、前記量は前記範囲以下であり得、安全性の面で何らの問題がないので、有効成分は前記範囲以上の量でも用いられ得る。
【0030】
前記食品の種類には特別な制限はない。前記物質を添加することができる食品の例には、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー、スナック、菓子、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム、アイスクリームを含む酪農製品、各種スープ、飲料、茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがあり、通常の意味での健康食品を全て含む。
【0031】
本発明の健康飲料組成物は、通常の飲料と同様に多様な香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含むことができる。前述した天然炭水化物には、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド、マルトース、スクロースのようなジサッカライド、及びデキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールがある。甘味剤としてはタウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤や、サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを用いることができる。前記天然炭水化物の比率は、本発明の生薬抽出物100 ml当り、一般的に約0.01〜0.04 g、好ましくは約0.02〜0.03 gである。
【0032】
上記以外に本発明の生薬抽出物は、多様な栄養剤、ビタミン、電解質、香味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含むことができる。その他に、本発明の生薬抽出物は天然果実ジュース、果実ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含むことができる。このような成分は、単独又は組み合わせて用いることができる。このような添加剤の比率はたいして重要ではないが、本発明の生薬抽出物100重量部当り0.01〜0.1重量部の範囲で選択されるのが一般的である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づき詳しく説明する。
ただし、下記実施例は本発明を例示するためのものであるだけで、本発明の範囲が下記実施例により限定されるのではない。
【0034】
実施例1 生薬抽出物の製造
全ての生薬は国産であり、購入して試料に用いた。下記の表1の組成を有する精選した生薬約49 gに水1lを加えた後、常温で1時間の間放置した。その後、100℃で3時間の間熱水抽出して約100 ml体積の生薬抽出物を得て、前記生薬抽出物を凍結乾燥して約9.6 gの凍結乾燥物を得た。前記生薬抽出物又はこの凍結乾燥物を本発明で用いた。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例2 マウスを利用した動物実験
実施例1で製造された生薬抽出物の凍結乾燥物を、インフルエンザウイルスに感染したマウスに経口投与してその症状を観察した。具体的には、実施例1で製造された生薬抽出物の凍結乾燥物を低濃度、中濃度及び高濃度投与群、並びに対照群に分類した後、韓国内分離新型インフルエンザウイルス(分離株名:A/Cheongju/04/09)に感染したマウスに経口投与した。このとき、低濃度は1日投与量の1倍量である0.478 g/kg、中濃度は1日投与量の5倍量である2.39 g/kg、高濃度は1日投与量の10倍量である4.78 g/kgの用量を用いた。各群当り10匹のマウスを用い、前記試験物質はインフルエンザウイルスを投与した当日から8日まで合計9回経口投与した。新型インフルエンザウイルス感染後1日、3日、5日及び7日にマウスの体重を測定し、1日、3日、5日、7日及び9日に各群当り2匹ずつマウスを犠牲した後、肺組織でのウイルス力価を有精卵を利用して測定した。このために、抗生剤を含む1×PBS(リン酸緩衝生理食塩水)にマウスの肺組織のサンプルを均質化させた後、前記均質化した組職を12,000 gで遠心分離した。上澄液を新しいチューブに移して水で10倍に希釈した後、11日齢胚芽を含む卵に接種してウイルスを計測し、log10 EID50/ml値で表した。
【0037】
その結果、本発明の生薬抽出物投与群では、時間の経過に伴いマウスの体重が漸次減少したが、対照群に比べて有意な差は見られなかった(図1)。さらに、本発明の生薬抽出物投与群では、対照群に比べておおよそ良好な臨床症状が見られ、9日目まで一匹の死亡も観察されず、特に中濃度投与群では、感染9日目に感染させたマウスの肺からインフルエンザウイルスが除去されたことを確認した(図2)。前記結果から、本発明の生薬抽出物がインフルエンザウイルスの治療に非常に効果的に用いられ得ることを確認した。
【0038】
実施例3 急性毒性実験
オリエントから供給された4週齢の特定病原体未感染の(specific pathogen-free、SPF)ICR系マウスを用いて、次のように急性毒性実験を実施した。雌雄それぞれのグループ当り5匹ずつの動物に前記実施例1の生薬抽出物を、5g/kgを限界用量に設定して公比0.8用量(4,000、3,200、2,560、0 mg/kg)で各5群を構成した。1回経口投与後、動物の死亡の有無、臨床症状及び体重変化(投与前、投与1、3、7及び14日)を観察し、剖検して肉眼で胸腔及び腹部臓器の異常有無を観察した。
【0039】
実験の結果、全ての動物において実験物質の投与による特異な臨床症状や死亡した動物は観察されず、体重の変化及び剖検の所見などでも毒性変化は観察されなかった。以上の結果、本発明の抽出物は雌雄マウスでそれぞれ5g/kgまで毒性変化を示さず、経口投与の最少致死量(LD50)は5g/kg以上の安全な物質であることを確認した。
【0040】
製造例1 薬抽出物を含む薬学的組成物の製造
<1−1>シロップ剤の製造
本発明の生薬抽出物を有効成分2%(重量/体積)で含むシロップは、次のような方法で製造した。まず、実施例1で製造した生薬抽出物粉末、サッカリン、糖を温水80 gに溶解させた。前記溶液を冷凍させた後、これにグリセリン、サッカリン、香味料、エタノール、ソルビン酸及び蒸留水でなる溶液を製造して混合した。この混合物に水を添加して100 mlになるようにした。
【0041】
前記シロップ剤の構成成分は、次のとおりである。
生薬抽出物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 g
サッカリン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.8 g
糖・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25.4 g
グリセリン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8.0 g
香味料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.04 g
エタノール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.0 g
ソルビン酸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.4 g
蒸留水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・定量
【0042】
<1−2>錠剤の製造
有効成分15 mgが含まれる錠剤を次のような方法で製造した。
生薬抽出物250 gをラクトース175.9 g、馬鈴薯澱粉180 g及びコロイド性珪酸32 gと混合した。前記混合物に10%のゼラチン溶液を添加させた後、粉砕して14メッシュのふるいを通過させた。これを乾燥させてこれに馬鈴薯澱粉160 g、滑石50 g及びステアリン酸マグネシウム5gを添加して得た混合物を錠剤に製造した。
【0043】
<1−3>注射液剤の製造
有効成分10 mgを含む注射液剤を次のような方法で製造した。まず、実施例1で製造した生薬抽出物1g、塩化ナトリウム0.6 g及びアスコルビン酸0.1 gを蒸留水に溶解させて100 mlを製造した。前記溶液を瓶に入れて、20℃で30分間加熱して滅菌させた。
【0044】
<1−4>散剤の製造
実施例1で製造した生薬抽出物20 mg、乳糖100 mg及びタルク10 mgを混合し、気密布に充填して散剤を製造した。
【0045】
<1−5>カプセル剤の製造
通常のカプセル剤の製造方法に従い、実施例1で製造した生薬抽出物10 mg、結晶性セルロース3mg、ラクトース14.8 mg及びマグネシウムステアラート0.2 mgを混合し、ゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0046】
製造例2 生薬抽出物を含む健康食品の製造
<2−1>食品の製造
本発明の生薬抽出物を含む食品などを次のように製造した。
1.調理用調味料の製造
本発明の生薬抽出物20〜95重量%で健康増進用の調理用調味料を製造した。
【0047】
2.トマトケチャップ及びソースの製造
本発明の生薬抽出物0.2〜1.0重量%をトマトケチャップ又はソースに添加して健康増進用のトマトケチャップ又はソースを製造した。
【0048】
3.小麦粉食品の製造
本発明の生薬抽出物0.5〜5.0重量%を小麦粉に添加し、この混合物を利用してパン、ケーキ、クッキー、クラッカー及び麺類を製造して健康増進用食品を製造した。
【0049】
4.スープ及び肉汁の製造
本発明の生薬抽出物0.1〜5.0重量%をスープ及び肉汁に添加して健康増進用の肉加工製品、麺類のスープ及び肉汁を製造した。
【0050】
5.挽き肉(ground beef)の製造
本発明の生薬抽出物10重量%を挽き肉に添加して健康増進用の挽き肉を製造した。
【0051】
6.乳製品の製造
本発明の生薬抽出物5〜10重量%を牛乳に添加し、前記牛乳を利用してバター及びアイスクリームのような多様な乳製品を製造した。
【0052】
7.禅食の製造
玄米、麦、もち米、鳩麦を公知の方法でアルファ化させて乾燥させたものを焙煎した後、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。黒豆、黒ゴマ、エゴマも公知の方法で蒸して乾燥させたものを焙煎した後、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。本発明の生薬抽出物を真空圧縮機で減圧・濃縮し、噴霧、熱風乾燥器で乾燥して得た乾燥物を、粉砕機で粒度60メッシュに粉砕して乾燥粉末を得た。上記で製造した穀物類、種実類及び生薬抽出物の乾燥粉末を次の比率で配合して製造した。
【0053】
穀物類(玄米30重量%、鳩麦15重量%、麦20重量%)、
種実類(エゴマ7重量%、黒豆8重量%、黒ゴマ7重量%)、
生薬抽出物の乾燥粉末(3重量%)、
霊芝(0.5重量%)、
地黄(0.5重量%)
【0054】
<2−2>飲料の製造
1.炭酸飲料の製造
砂糖5〜10%、クエン酸0.05〜0.3%、カラメル0.005〜0.02%、ビタミンC 0.1〜1%の添加物を混合し、これに79〜94%の精製水を混ぜてシロップを作り、前記シロップを85〜98℃で20〜180秒間殺菌して冷却水と1:4の比率で混合した後、炭酸ガス0.5〜0.82%を注入して本発明の生薬抽出物を含む炭酸飲料を製造した。
【0055】
2.健康飲料の製造
液状果糖(0.5%)、オリゴ糖(2%)、砂糖(2%)、食塩(0.5%)、水(75%)のような副材料と生薬抽出物とを均質に配合して瞬間殺菌を行った後、これをガラス瓶、ペットボトルなどの小型容器に充填して健康飲料を製造した。
【0056】
3.野菜ジュースの製造
本発明の生薬抽出物5gをトマト又はニンジンジュース1,000 mlに加えて健康増進用の野菜ジュースを製造した。
【0057】
4.果実ジュースの製造
本発明の生薬抽出物1gをリンゴ又はブドウジュース1,000 mlに加えて健康増進用の果実ジュースを製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センキュウ、防風、当帰、芍薬、連翹、薄荷葉、麻黄、芒硝、大黄、石膏、桔梗、黄岑、白朮、山梔子、荊芥、生姜、滑石、甘草、淫羊霍、金銀花、遠志及び木香を含む生薬を有機溶媒で抽出した生薬抽出物。
【請求項2】
前記淫羊霍1重量部に、センキュウ、防風、当帰、芍薬、連翹、薄荷葉、麻黄、芒硝、大黄、石膏、桔梗、黄岑、白朮、山梔子、荊芥、生姜、滑石、甘草、金銀花、遠志及び木香をそれぞれ0.5〜5重量部の混合比で混合して抽出した請求項1に記載の生薬抽出物。
【請求項3】
前記有機溶媒が、水、C1-C4のアルコール、C1-C4のケトン、C1-C4のアルデヒド及び前記アルコール、ケトン及びアルデヒドの水性溶液で構成される群から選択される請求項1に記載の生薬抽出物。
【請求項4】
前記有機溶媒が、水である請求項3に記載の生薬抽出物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生薬抽出物を有効成分に含む、インフルエンザウイルスによる疾病の予防又は治療用の医薬組成物。
【請求項6】
前記インフルエンザウイルスが、H1N1、H1N2、H2N2、ヒトB、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2及びH10N7で構成される群から選択される血清型を有する請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
100〜3,000 mg/kgの用量で対象に投与される請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記対象が、哺乳類又は鳥類動物である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記哺乳類動物が、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ラット及びマウスで構成される群から選択される請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記鳥類動物が、ニワトリ又はカモである請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の生薬抽出物を有効成分に含むインフルエンザウイルスによる疾病の予防又は症状緩和用健康食品。
【請求項12】
前記インフルエンザウイルスが、H1N1、H1N2、H2N2、ヒトB、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2及びH10N7で構成される群から選択される血清型を有する請求項11に記載の健康食品。
【請求項13】
前記食品が、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー、スナック、菓子、ピザ、ラーメン、ガム、アイスクリーム、スープ、飲料、茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤で構成される群から選択される請求項11に記載の健康食品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−502115(P2012−502115A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539456(P2011−539456)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際出願番号】PCT/KR2010/000107
【国際公開番号】WO2011/055881
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(507367677)コリア インスティテュート オブ オリエンタル メディシン (3)
【Fターム(参考)】