説明

インフレータ用のエンハンサ剤の成形体

【課題】 着火性が良く、ミストの発生量の少ないエンハンサ剤成形体の提供。
【解決手段】 (a)ビテトラゾールの塩類を含む燃料20〜50質量%、(b)酸化剤40〜80質量%、及び(c)バインダ1〜20質量%を含有するエンハンサ剤成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエアバッグ用ガス発生器に使用できるエンハンサ剤成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエアバッグ用ガス発生器には、エアバッグを膨張させるためのガス源となるガス発生剤と共に、前記ガス発生剤を着火燃焼させるための補助成分として、エンハンサ剤が併用されることが多い。
【0003】
特許文献1では、ワングレイン型のイグナイター成形体が開示されている。この成形体では、点火時に金属粒子が飛散させることで点火性能を高めている。特許文献2では、ビテトラゾールを特定の金属粒子と組み合わせることにより、点火性能を高めている。
【0004】
しかし、このように特定の金属粒子を利用する技術では、金属粒子が粉塵爆発を発生しやすく、一部の金属(例えばボロン)が高価であるので、好ましくない。
【0005】
特許文献3では、複数のビテトラゾール類の使用が必須となっているため、混練の手間が増え、製造コストを押し上げる。特許文献4では、塩基性硝酸銅が必須成分となっているため、燃焼温度が低く、着火性が悪い。特許文献5では、19孔以上の数多くの貫通孔を有するワングレイン型のガス発生剤が開示されているが、小さな貫通孔を数多く有しているため、製造しにくい。
【特許文献1】USP5,623,115
【特許文献2】特表2001−515009
【特許文献3】特開2002−29879
【特許文献4】特開2000−319085
【特許文献5】特開2004−83304
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コストが低く、インフレータ組立に充填しやすく、着火性が良く、ミスト量も低減されたエンハンサ剤成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
(a)ビテトラゾールの塩類を含む燃料 20〜50質量%
(b)酸化剤 40〜80質量%、及び
(c)バインダ 1〜20質量%
を含有するエンハンサ剤成形体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエンハンサ剤成形体は、コストが低く、インフレータ組立に充填しやすく、着火性が良く、ミストの発生量も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔(a)成分〕
(a)成分はビテトラゾールの塩類を含む燃料であるが、その他の窒素含有有機燃料を含有していてもよい。ビテトラゾールの塩類は、モノアンモニウム塩又はジアンモニウム塩、アルカリ金属塩(カリウム塩、ナトリウム塩等)又はアルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩)、銅塩、亜鉛塩等の金属塩を用いることができるが、燃焼ガス中のミストを低減させるためには、モノアンモニウム塩又はジアンモニウム塩が好ましい。
(a)成分の燃料は、燃焼ガス中のミストを低減させるため、ビテトラゾールのモノアンモニウム塩又はジアンモニウム塩を50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することが更に好ましい。
【0010】
他の窒素含有有機燃料としては、上記以外のテトラゾール類化合物、グアニジン類化合物、トリアジン類化合物、ニトロアミン類化合物から選ばれるものを挙げることができる。
【0011】
上記以外のテトラゾール類化合物としては、テトラゾール、5―アミノテトラゾール、5,5’−ビ−1H−テトラゾール、5−ニトロアミノテトラゾール等を挙げることができる。
【0012】
グアニジン類化合物としては、グアニジン、モノ、ジ又はトリアミノグアニジン硝酸塩、硝酸グアニジン、炭酸グアニジン、ニトログアニジン、ジシアンジアミド及びニトロアミノグアニジン硝酸塩等を挙げることができる。
【0013】
トリアジン化合物としては、メラミン、シアヌル酸、アンメリン、アンメリド、アンメランド等を挙げることができ、ニトロアミン類化合物としては、シクロ−1,3,5-トリメチレン-2,4,6-トリニトラミン等を挙げることができる。
【0014】
エンハンサ剤成形体中における(a)成分の燃料の含有量は、20〜50質量%が好ましく、好ましくは25〜48質量%、より好ましくは28〜45質量%である。
【0015】
〔(b)成分〕
(b)成分の酸化剤としては、過塩素酸塩を挙げることができる。過塩素酸塩としては、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウムから選ばれるものが好ましい。
【0016】
(b)成分の酸化剤としては、過塩素酸塩以外の公知の他の酸化剤を用いることもできるが、(b)成分の酸化剤中、過塩素酸塩の含有量は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0017】
他の酸化剤としては、酸化銅、塩基性硝酸銅、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ストロンチウム等を挙げることができる。
【0018】
エンハンサ剤成形体中における(b)成分の酸化剤の含有量は、40〜80質量%が好ましく、好ましくは45〜75質量%、より好ましくは50〜70質量%である。
【0019】
〔(c)成分〕
(c)成分のバインダとしては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、微結晶性セルロース、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドのアミノ化物、ポリアクリルヒドラジド、アクリルアミド・アクリル酸金属塩共重合体、ポリアクリルアミド・ポリアクリル酸エステル化合物の共重合体、ポリビニルアルコール、アクリルゴム、グアガム、デンプン、シリコーンから選ばれる1種を用いるか、又は2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0020】
(c)成分のバインダは、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩が好ましく、特にカルボキシメチルセルロースナトリウム塩が好ましい。
【0021】
エンハンサ剤成形体中における(c)成分のバインダの含有量は、1〜20質量%が好ましく、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは5〜12質量%である。
【0022】
本発明のエンハンサ剤成形体には、本発明の課題を解決できる範囲内において、各種目的にてガス発生剤に配合される公知の添加剤を配合することができる。
【0023】
添加剤としては、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化ビスマス、シリカ、アルミナを含む金属酸化物、水酸化コバルト、水酸化鉄を含む金属水酸化物;炭酸コバルト、炭酸カルシウム、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸銅を含む金属炭酸塩又は塩基性金属炭酸塩;酸性白土、カオリン、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、ヒドロタルサイトを含む金属酸化物又は水酸化物の複合化合物;ケイ酸ナトリウム、マイカモリブデン酸塩、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸アンモニウム等の金属酸塩;シリコーン、二硫化モリブデン、ステアリン酸カルシウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等を挙げることができる。
【0024】
本発明のエンハンサ剤成形体は、ガス発生剤成形体の製造に適用される公知の成形方法を適用して得ることができる。
【0025】
本発明のエンハンサ剤成形体は、円柱状、単孔円柱状、多孔円柱状、ディスク状(錠剤)、ペレット状等の所望形状にすることができる。単孔円柱状や多孔円柱状にする場合、孔は貫通孔でもよいし、非貫通孔(窪み)でもよい。貫通孔の幅方向の断面形状は特に制限されるものではなく、例えば、特許文献1の図2A〜図2Lに示されたような公知の断面形状にすることができる。
【0026】
本発明のエンハンサ剤成形体としては、円柱状(無孔)、多孔円柱状(長さ方向に貫通孔を有するもの)、例えば2〜10の貫通孔(特に好ましくは7つの貫通孔)を有するワングレイン型(1つのガス発生器に充填使用するエンハンサ剤成形体が、単一の成形体のみからなるもの)のものが好ましい。
【実施例】
【0027】
実施例及び比較例
表1に示す各成分を用い、以下の方法によりエンハンサ剤成形体を得た。得られたエンハンサ剤成形体について、燃焼温度、ガス発生効率、摩擦感度、落槌感度、燃焼速度、燃焼熱を求めた。
【0028】
(ワングレインの製造)
表1に示す実施例組成の各成分の合計5000g及び水1250gを混合機に仕込んで混合した。この混合物を押出機で押し出し、裁断、乾燥を経て、径10〜13mm、高さ9〜11mmの円柱体のワングレインを得た。
【0029】
(1)燃焼速度の測定方法
実施例の組成物(成形用の混合粉)の粉体を所定の金型の臼側に充填し、杵側端面より油圧ポンプで圧力14.7MPaにて5秒間圧縮保持させた後取り出し、外径9.6mm、長さ12.70mmの円柱状ストランドに成型した。この成型体を110℃で16時間乾燥した後に、この円柱状成形体の側面と一つの端面にエポキシ樹脂系化学反応形接着剤コニシ株式会社製「ボンドクイック30」を塗布後、室温で2時間以上硬化させ、サンプルとして用いる。
【0030】
サンプルとなる円柱状ストランドを内容積1LのSUS製密閉ボンブ内に設置して、ボンブ内を完全に窒素置換しながら、6.86 MPaにまで加圧安定させた。その後、ストランド端面に接触させたニクロム線に所定の電流を流し、そのエネルギーにより着火、燃焼させた。ボンブ内の経時圧力挙動は、記録計のチャートにて確認し、燃焼開始から圧力上昇ピークまでの経過時間をチャートの目盛りから確認し、燃焼前のストランド長さをこの経過時間で除して算出した数値を燃焼速度とした。
【0031】
(2)燃焼温度とガス発生効率
理論計算で計算して求めた。
【0032】
(3)摩擦感度と落槌感度
JIS K4810−1979の火薬類性能試験法に基づいて、摩擦感度と落槌感度を試験した。
【0033】
(4)燃焼熱
(株)吉田作成所製のYM燃研式デジタル熱量計1013S-2を用いて、燃焼熱を測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
BHTN:ビテトラゾールジアンモニウム塩
KClO:過塩素酸カリウム
CuO:酸化銅
CMCNa:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩
B:ボロン
KNO:硝酸カリウム
5AT:5-アミノテトラゾール
表1から明らかなとおり、本発明のワングレインのエンハンサ(実施例1〜3)と、公知のB/KNO(比較例1)との対比から、高価なB/KNOと同じ着火効果が得られ、単位当たりの発熱量や燃焼速度も優れていることが確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ビテトラゾールの塩類を含む燃料 20〜50質量%
(b)酸化剤 40〜80質量%、及び
(c)バインダ 1〜20質量%
を含有するエンハンサ剤成形体。
【請求項2】
(a)成分のビテトラゾールの塩類がモノアンモニウム塩又はジアンモニウム塩である、請求項1記載のエンハンサ剤成形体。
【請求項3】
(a)成分のビテトラゾールの塩類が金属塩である、請求項1記載のエンハンサ剤成形体。
【請求項4】
(a)成分のビテトラゾールの塩類がアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である、請求項1記載のエンハンサ剤成形体。
【請求項5】
(a)成分の燃料として、更に他の窒素含有有機燃料を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のエンハンサ剤成形体。
【請求項6】
(b)成分の酸化剤として過塩素酸塩を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のエンハンサ剤成形体。
【請求項7】
(c)成分のバインダとしてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含有する請求項1〜6のいずれかに記載のエンハンサ剤成形体。
【請求項8】
無孔又は1〜10孔の貫通孔を有するワングレイン型のものである請求項1〜7のいずれかに記載のエンハンサ剤成形体。



【公開番号】特開2007−169094(P2007−169094A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366755(P2005−366755)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】