説明

インホイールモータ駆動ユニット

【課題】車輪が軸受異常で傾斜した時におけるギヤの噛み合い不良を吸収して、ギヤの歯面干渉および騒音を防止し得るようにしたインホイールモータ駆動ユニットを提供する。
【解決手段】ロータ7の回転はモータ軸8から減速歯車組5を介し出力軸9に達し、その後磁石継手25を経てホイールハブ21(車輪15)に至り、車両を走行させる。ハブベアリング22の異常時は、その周りに車輪15(ホイールハブ21およびホイールシャフト10)が変位し、歯車組5がギヤの噛み合い不良を生ずるが、この変位を磁石継手25が吸収するため、歯車組5の噛み合い不良を防止し得る。なお、この効果を得るために磁石継手25を用いても、この磁石継手25が歯車組5を挟んで電動モータ4から遠い側に配置されているため、磁石継手25および電動モータ4間の磁気的な相互干渉が発生せず、これら磁石継手25および電動モータ4が誤作動するなどの弊害を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を個々の電動モータにより駆動して走行可能な電気自動車に用いられる車輪ごとのインホイールモータ駆動ユニットに関し、特に、
車輪の軸受部(ハブベアリング)周りの変位によっても、インホイールモータ駆動ユニット内における歯車変速機構の歯車噛合状態を良好に維持し得るようになす技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかるインホイールモータ駆動ユニットとしては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
この提案技術になるインホイールモータ駆動ユニットは、ハウジングに内蔵した電動モータの回転がモータ軸から減速歯車組を経て、ハウジングに回転自在に支持した車輪取り付けメンバであるホイールハブに伝達されるようにしたものである。
【0003】
具体的には、ハウジングに直接、回転自在に支持してピニオンを設けると共に、同じくハウジングに直接、回転自在に支持してホイールハブを設け、このホイールハブに形成した大径歯車に上記のピニオンを噛合させて、これら大径歯車およびピニオンより成る減速歯車組を介し、電動モータ(モータ軸)およびホイールハブ(車輪)間を駆動結合したものである。
【0004】
かかるインホイールモータ駆動ユニットを駆動車輪ごとに具える電気自動車にあっては、電動モータを駆動するとき、その回転が減速歯車組による減速下で車輪に伝達され、車両を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−044437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、かかる従来のインホイールモータ駆動ユニットにあっては、減速歯車組を構成するピニオンおよび大径歯車がそれぞれ共に、ハウジングに対し直接、回転自在に支持されているため、以下のような問題を生ずる。
【0007】
つまり、旋回走行時などにおいてタイヤ接地面から車輪へタイヤ横力(車幅方向荷重)が入力されると、ホイールハブがそのハウジングへの支承部を支点として倒れる(こじられる)傾向となる。
上記タイヤ横力によるホイールハブの倒れ(こじり)は、大径歯車の軸線を対応方向へ傾斜させる。
この現象は、ホイールハブをハウジングに回転自在に支持する軸受(ハブベアリング)の摩耗や製造誤差などで、ホイールハブがハウジングに対し「ガタ」を発生したり、相対変位する時も同様に生ずる。
【0008】
他方でピニオンに上記のタイヤ横力が入力されることはないため、またホイールハブの「ガタ」や相対変位が及ぶことはないため、ピニオンの軸線は傾斜しない。
そのため、大径歯車の軸線とピニオンの軸線との平行がくずれ、大径歯車およびピニオン間に径方向相対変位を生ずる。
【0009】
この場合、大径歯車およびピニオン間の軸間距離が変化し、これら歯車間の噛み合い率を悪化させて、これら歯車の強度低下や、耐久性の悪化を招いたり、不快な異音が発生するという問題を生じたり、抵抗力の増大で車輪が減速される現象を生ずることがある。
【0010】
これらの問題を解消するためには、上記のような横力や、ホイールハブの変位(ガタ)が、インホイールモータ駆動ユニット内の歯車組に達することのないよう吸収する相対変位吸収式駆動結合機構を追加することが考えられる。
【0011】
上記相対変位吸収式駆動結合機構としては、固定軸継手、撓み軸継手、自在継手、オルダム式軸継手などの固定軸継手や、流体継手、磁石継手などのクラッチ型継手が考えられる。
本発明は、これら継手のうち特に磁石継手を相対変位吸収式駆動結合機構として用いたインホイールモータ駆動ユニットに係わる。
【0012】
ところで磁石継手を相対変位吸収式駆動結合機構として用いる場合、インホイールモータ駆動ユニット内の電動モータが電磁力によって駆動されるため、これら電動モータおよび磁石継手間での磁気的な相互干渉により磁石継手が電動モータに悪影響を及ぼしたり、逆に電動モータが磁石継手に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0013】
また電動モータは、その回転位置を検出するレゾルバからの信号に基づき回転同期下に駆動制御されており、このレゾルバが磁石継手から磁気的な干渉を受けて検出精度を低下され、電動モータの駆動制御に悪影響が及ぶという懸念もある。
【0014】
本発明は、車輪の軸受部周りにおける変位を磁石継手により吸収して歯車変速機構に及ばないようにすることで、歯車変速機構が前記した噛み合い不良の問題を生じないようにすると共に、この磁石継手が電動モータ自身や、その駆動制御に用いるレゾルバに対し磁気的な悪影響を及ぼしたり、電動モータが磁石継手に対し磁気的な悪影響を及ぼしたりすることのないよう工夫したインホイールモータ駆動ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的のため、本発明のインホイールモータ駆動ユニットは、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となるインホイールモータ駆動ユニットを説明するに、これは、
電動モータのモータ軸と、出力軸との間を歯車変速機構により駆動結合し、電動モータの回転を歯車変速機構による変速下に上記出力軸から車輪へ向かわせて該車輪を駆動するようにしたものである。
【0016】
本発明のインホイールモータ駆動ユニットは、上記の前提構成において、
電動モータから車輪までの伝動系に、上記車輪の軸受部周りにおける変位が上記歯車変速機構に及ぶことのないよう吸収する磁石継手を挿置し、この磁石継手を、上記電動モータから遠い上記歯車変速機構の側に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
かかる本発明のインホイールモータ駆動ユニットによれば、磁石継手が車輪の軸受部周りにおける変位を吸収して歯車変速機構に及ぶことのないよう機能するため、
車輪の軸受部周りにおける変位によっても歯車変速機構が噛み合い不良を生ずることがなく、この噛み合い不良による諸問題、つまり歯車変速機構の強度低下や、耐久性の悪化や、不快な異音の発生や、車輪の減速に関した前記の問題を回避することができる。
【0018】
また本発明においては、これらの問題解決のために磁石継手を用いるといえども、この磁石継手を、電動モータから遠い歯車変速機構の側に配置したため、磁石継手が、歯車変速機構を挟んで電動モータから比較的遠い箇所に位置していることとなる。
従って、電動モータおよび磁石継手間に磁気的な相互干渉を生じ難く、磁石継手が電動モータ自身や、モータ回転位置検出用のレゾルバに悪影響を及ぼす懸念や、電動モータが磁石継手に悪影響を及ぼす懸念を払拭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
【図2】図1におけるインホイールモータ駆動ユニット内の端蓋を示す縦断側面図である。
【図3】磁石継手が電動モータの近くに配置されている場合における電動モータから磁石継手への磁力線を示すイメージ図である。
【図4】磁石継手が電動モータの近くに配置されている場合における磁石継手から電動モータへの磁力線を示すイメージ図である。
【図5】磁石継手が電動モータの近くに配置されている場合における磁石継手からレゾルバへの磁力線を示すイメージ図である。
【図6】本発明の第2実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
【図7】図6のインホイールモータ駆動ユニット内における電動モータからの磁力線を示すイメージ図である。
【図8】図6のインホイールモータ駆動ユニット内における磁石継手からの磁力線を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
この図において、1は、インホイールモータ駆動ユニットのケース本体、2は、該ケース本体1のリヤカバーで、これらケース本体1およびリヤカバー2により、インホイールモータ駆動ユニットのユニットケース3を構成する。
【0021】
図1に示すインホイールモータ駆動ユニットは、ユニットケース3内に電動モータ4および遊星歯車式減速歯車組5(本発明における歯車変速機構に相当する)を収納して構成する。
電動モータ4は、ケース本体1の内周に嵌合して固設した円環状のステータ6と、かかる円環状ステータ6の内周にラジアルギャップを持たせて同心に配したロータ7とで構成する。
【0022】
電動モータ4は、ロータ7に結着したモータ軸8を有し、遊星歯車式減速歯車組5は、当該モータ軸8と、これに同軸に突き合わせて対向配置した出力軸9との間を駆動結合するためのものである。
このため遊星歯車式減速歯車組5は、サンギヤ11と、このサンギヤ11に対し出力軸9寄りに軸線方向へずらせて同心配置した固定のリングギヤ12と、これらサンギヤ11およびリングギヤ12に噛合する段付きプラネタリギヤ(段付きピニオン)13と、かかる段付きプラネタリギヤ13を回転自在に支持したキャリア14とにより構成する。
【0023】
サンギヤ11は、減速歯車組5の入力回転メンバとして機能させ、出力軸9に近いモータ軸8の端部に一体成形し、このモータ軸8をサンギヤ11からリヤカバー2に向かう車幅方向内方へ延在させる。
出力軸9は、減速歯車組5から反対方向(車幅方向外方)に延在させて、ケース本体1の前端(図の右側)開口より突出させ、この突出端に同軸に突き合わせてホイールシャフト10を設ける。
このホイールシャフト10には、後述のようにして車輪15を駆動結合する。
【0024】
モータ軸8および出力軸9は、両者の同軸突き合わせ端部を相互に相対回転可能に貫入させ合って、両者間にボールベアリングを可とするベアリング16を介在させる。
このベアリング16から軸線方向に離間したモータ軸8の端部を、ボールベアリングを可とするベアリング17でユニットケース3に軸受する。
【0025】
ケース本体1の前端開口の内周面と出力軸9の外周面との間に延在して、ケース本体1の前端開口を塞ぐ端蓋18を設け、この端蓋18は図2に明示する断面形状とし、その外周透孔18aに挿通したボルト19によりケース本体1の前端面に取着する。
かくして端蓋18は、ベアリング16から軸線方向に離間した出力軸9の端部をユニットケース3に対し回転自在に支承する用をなす。
【0026】
出力軸9に同軸に突き合わせたホイールシャフト10は、ホイールハブ21の中心孔内にセレーション嵌合してホイールハブ21に駆動結合する。
ホイールハブ21は、複列アンギュラベアリングを可とするハブベアリング22およびベアリングポート23を介してユニットケース3に回転自在に支持する。
【0027】
ベアリングサポート23は外周透孔に挿通したボルト24でケース本体1の前端面に取着し、このときボルト24を、図2のごとく端蓋18の外周に穿った透孔18bにも挿通して、端蓋18をベアリングサポート23と共にケース本体1の前端面に共締めする。
【0028】
そして、出力軸9およびホイールシャフト10の同軸突き合わせ端部間には、これら端部の相対変位を許容しつつ両者を駆動結合する磁石継手25を設ける。
かかる磁石継手25の配置によれば、磁石継手25は電動モータ4から遠い減速歯車組5の側に位置することとなる。
【0029】
電動モータ4は、そのロータ7を減速歯車組5とベアリング17との間においてモータ軸8に結合し、この結合位置に接近させてレゾルバ26を設ける。
このレゾルバ26は、電動モータ4の回転位置を検出し、当該検出したモータ回転位置を電動モータ4の同期駆動制御に用いる。
【0030】
段付きプラネタリギヤ13は、モータ軸8上のサンギヤ11に噛合する大径ギヤ部13a、およびリングギヤ12に噛合して段付きプラネタリギヤ13を該リングギヤ12の内周に沿い転動させる小径ギヤ部13bを一体に有した段付きピニオンとする。
この段付きプラネタリギヤ13は、大径ギヤ部13aが出力軸9から遠い側に位置し、小径ギヤ部13bが出力軸9に近い側に位置するような向きに配置する。
【0031】
段付きプラネタリギヤ13は、例えば4個一組として円周方向等間隔に配置し、この円周方向等間隔配置を保って段付きプラネタリギヤ13を共通なキャリア14により回転自在に支持する。
キャリア14は、減速歯車組5の出力回転メンバとして機能させ、モータ軸8に近い出力軸9の端部に一体的に設ける。
【0032】
次に、ホイールシャフト10に対する車輪15の取り付け要領を説明する。
ホイールハブ21に同心に、ブレーキディスク27を一体結合して設け、これらホイールハブ21およびブレーキディスク27を貫通して軸線方向に突出するよう複数個のホイールボルト28を植設する。
車輪15の取り付けに際しては、そのホイールディスクに穿ったボルト孔にホイールボルト28が貫通するよう当該ホイールディスクをブレーキディスク27の側面に密接させ、この状態でホイールボルト28にホイールナット(図示せず)を緊締螺合することで、ホイールシャフト10に対する車輪15の取り付けを行う。
【0033】
<第1実施例の作用>
電動モータ4のステータ6に通電すると、これからの電磁力で電動モータ4のロータ7が回転駆動される。
この際、電動モータ4(ロータ7)の回転位置をレゾルバ26で検出し、これにより検出したロータ回転位置に基づき電動モータ4を回転同期下に駆動制御する。
【0034】
ロータ7の回転駆動力はモータ軸8を介して減速歯車組5のサンギヤ11に伝達される。
これによりサンギヤ11は、大径ギヤ部13aを介して段付きプラネタリギヤ13を回転させるが、このとき固定のリングギヤ12が反力受けとして機能するため、段付きプラネタリギヤ13は、小径ギヤ部13bがリングギヤ12に沿って転動するような遊星運動を行う。
かかる段付きプラネタリギヤ13の遊星運動はキャリア14を介して出力軸9に伝達され、出力軸9をモータ軸8と同方向に回転させる。
【0035】
上記の伝動作用により減速歯車組5は、電動モータ4からモータ軸8への回転を、サンギヤ11の歯数およびリングギヤ12の歯数により決まる比で減速して出力軸9に伝達する。
出力軸9への回転は、これに磁石継手25を介して駆動結合したホイールシャフト10およびホイールハブ21を経て車輪15に伝達され、車両を走行させることができる。
【0036】
<第1実施例の効果>
上記したインホイールモータ駆動ユニットの作用中、車輪15に大きな横力が入力されたり、車輪軸受であるハブベアリング22が摩耗や劣化したことで、車輪15が軸受部(ハブベアリング22)の周りに大きな変位を生ずる場合、磁石継手25がこの変位を吸収して減速歯車組5に及ぶことのないよう機能する。
【0037】
このため、車輪15の軸受部(ハブベアリング22)周りにおける変位によっても減速歯車組5が噛み合い不良を生ずることがなく、この噛み合い不良による前記の諸問題、つまり減速歯車組5の強度低下や、耐久性の悪化や、不快な異音の発生や、車輪15の減速に関した諸問題を回避することができる。
【0038】
なお、本実施例による磁石継手25の配置だと、磁石継手25が車輪15の軸受部(ハブベアリング22)、つまり上記した変位の中心に近くて、大きな径方向変位量を吸収する必要があるが、磁石継手25は磁気結合により非接触で出力軸3およびホイールシャフト10間の駆動結合を行うため、吸収可能な変位量が他の型式の継手よりも大きくて、上記大きな径方向変位量もこれを確実に吸収し得て、上記減速歯車組5の噛み合い不良の問題解決を実現可能である。
【0039】
また本実施例においては、これらの問題解決のために磁石継手25を用いるといえども、この磁石継手25を、電動モータ4から遠い減速歯車組5の側に配置したため、磁石継手25が、減速歯車組5を挟んで電動モータ4から比較的遠い箇所に位置することとなる。
従って、電動モータ4および磁石継手25間に磁気的な相互干渉を生じ難く、磁石継手25が電動モータ4自身や、モータ回転位置検出用のレゾルバ26に悪影響を及ぼす懸念(電動モータ4の誤作動や、駆動制御精度の低下など)や、逆に電動モータ4が磁石継手25に悪影響を及ぼす懸念(磁石継手25の誤作動や、伝達力変化など)を払拭することができる。
【0040】
なお、磁石継手25を電動モータ4およびレゾルバ26の近くに配置した場合における、磁石継手25と電動モータ4およびレゾルバ26との間の磁気的な相互干渉は、イメージ図として示すと図3〜5に示すようなものである。
【0041】
図3は、電動モータ4からの磁力線が磁石継手25に達して、磁石継手25を誤作動させたり、その伝達力を既定値から変化させるなどの悪影響が及ぶ場合の状況をイメージ図として示すものである。
また図4は、磁石継手25からの磁力線が電動モータ4に達して、電動モータ4を誤作動させたり、そのモータ出力を既定値から変化させるなどの悪影響が及ぶ場合の状況をイメージ図として示すものである。
更に図5は、磁石継手25からの磁力線がレゾルバ26に達して、レゾルバ26のモータ回転位置検出精度を低下させ、電動モータ4の駆動制御が不正確になるなどの悪影響が及ぶ場合の状況をイメージ図として示すものである。
【0042】
しかし本実施例においては、磁石継手25を電動モータ4から比較的遠い箇所に配置するため、電動モータ4および磁石継手25間に磁気的な相互干渉を生じ難く、図3〜5に示した磁力線の発生を防止、または抑制して、磁石継手25と、電動モータ4およびレゾルバ26とが相互に磁気的な悪影響を及ぼし合うのを防止することができる。
【0043】
<第2実施例の構成>
図6は、本発明の第2実施例になるインホイールモータ駆動ユニットを示す縦断側面図である。
本実施例は、インホイールモータ駆動ユニットを、図1につき前述した第1実施例と略同じ全体構成として、磁石継手25を第1実施例と同様に電動モータ4からできるだけ離して配置する。
なお図6中、図1におけると同様な部分は同一符号を付して示すにとどめ、その直複説明を避けた。
【0044】
本実施例では、図1に示す第1実施例の構成に加え、端蓋18に対しインホイールモータ駆動ユニットの軸線方向に重ねて配置した磁気シールド31を追設する。
当該追加した磁気シールド31は、図2に明示した端蓋18に対し図6のごとくインロー型式で密嵌するような形状とし、端蓋18用の取り付けボルト19,24を用いて、端蓋18と共にケース本体1の前端面に共締めする。
【0045】
<第2実施例の効果>
上記した第2実施例によれば、磁気シールド31が電動モータ4からの磁力線を磁石継手25に達することのないよう迂回させたり、磁石継手25からの磁力線が電動モータ4およびレゾルバ26に達することのないよう迂回させることができる。
【0046】
図7,8のイメージ図により付言する。
図7に示すごとく磁気シールド31は、電動モータ4からの磁力線を磁石継手25に向かうことのないよう、この磁石継手25を迂回して電動モータ4に戻る磁路を形成する。
よって電動モータ4からの磁力線が、磁石継手25に達してこれを誤作動させたり、その伝達力を既定値から変化させるなどの悪影響を、前記した第1実施例よりも更に確実に防止することができる。
【0047】
また図8に示すごとく磁気シールド31は、磁石継手25からの磁力線が電動モータ4およびレゾルバ26に向かうことのないよう、これら電動モータ4およびレゾルバ26を迂回して電動モータ4およびレゾルバ26に戻る磁路を形成する。
よって磁石継手25からの磁力線が、電動モータ4およびレゾルバ26に達して、電動モータ4を誤作動させたり、そのモータ出力を既定値から変化させるなどの悪影響や、レゾルバ26のモータ回転位置検出精度の低下により、電動モータ4の駆動制御が不正確になるなどの悪影響を、前記した第1実施例よりも更に確実に防止することができる。
【0048】
以上のように本実施例では磁気シールド31が、磁石継手25と、電動モータ4およびレゾルバ26との間の磁気的な相互干渉を、第1実施例の場合よりも更に確実に防止するよう機能するため、設計上要求される磁気的相互干渉防止効果を得るための磁石継手25および電動モータ4間の離間距離を短くすることができる。
【0049】
このように磁石継手25および電動モータ4間の離間距離を短くすることは、インホイールモータ駆動ユニットの軸線方向寸法を短縮し得ることを意味し、
磁気シールド31の追設によるインホイールモータ駆動ユニットの軸線方向長大化を相殺して、インホイールモータ駆動ユニットの長大化を回避可能である。
【0050】
<第3実施例の構成>
図6の第2実施例では、端蓋18に対しインホイールモータ駆動ユニットの軸線方向に重ねて磁気シールド31を追設したが、本実施例(第3実施例)はかかる新設部品の追加に頼ることなく同様な効果が得られるようにしたものである。
【0051】
そのため本実施例(第3実施例)においては、インホイールモータ駆動ユニットを全体的に、前述した第1実施例(図1)と同じ構成とするが、ケース本体1の前端開口を塞ぐよう図2に明示する形状となした端蓋18を磁気遮蔽材で造ることにより、この端蓋18を、図6における磁気シールド31として兼用するよう構成する。
【0052】
なお端蓋18は一方で前記した通り、減速歯車組5および磁石継手25間の軸線方向位置で、出力軸9の外周面と、ケース本体1の前端開口内周面との間に延在し、出力軸9をケース本体1に軸承する用をなすが、
他方で、以下のようにハブベアリング22の保守、交換時における脱着作業を容易にするためのものでもある。
【0053】
つまり図1に示すごとく、端蓋18にハブベアリング22(ベアリングサポート23を含む)を介しホイールハブ21(車輪15)を回転自在に支持することで、ハブベアリング22の保守、交換時におけるハブベアリング22(ベアリングサポート23を含む)の脱着作業を以下のように容易に行うことができる。
【0054】
先ずハブベアリング22(ベアリングサポート23を含む)の外脱に際しては、ボルト24を弛緩して除去し、この状態で、ケース本体1に取着したジグを用いて、ハブベアリング22をベアリングサポート23、ホイールハブ21およびホイールシャフト10と共にケース本体1の前端から離れる軸線方向(図1の右方向)へ移動させることにより、ケース本体1の前端から取り外す。
なお、この状態でも出力軸9は、端蓋18によりケース本体1に対し芯出し状態に保たれている。
【0055】
ハブベアリング22(ベアリングサポート23を含む)をケース本体1の前端に取り付けるに際しては、上記と同じジグを用いて、ハブベアリング22をベアリングサポート23、ホイールハブ21およびホイールシャフト10と共に、出力軸9に芯出しして同軸に対向させる。
次に、この芯出し状態で、ハブベアリング22をベアリングサポート23、ホイールハブ21およびホイールシャフト10と共に、ケース本体1の前端に向かう軸線方向(図1の左方向)へ移動させることにより、ベアリングサポート23を図1のごとく端蓋18にインロー型式に嵌合させる。
【0056】
その後、ボルト24の緊締によりハブベアリング22をベアリングサポート23、ホイールハブ21およびホイールシャフト10と共にケース本体1の前端に対し取り付ける。
【0057】
以上説明した通り、図1のごとく端蓋18で出力軸9をケース本体1に軸承し、この端蓋18にハブベアリング22(ベアリングサポート23を含む)を介しホイールハブ21(車輪15)を回転自在に支持することで、
ハブベアリング22(ベアリングサポート23を含む)の脱着作業中も出力軸9が端蓋18でケース本体1に対し心出し状態に保たれ、この端蓋18に対しベアリングサポート23(ハブベアリング22)をインロー型式に嵌合させるだけで、容易にハブベアリング22(ベアリングサポート23を含む)をケース本体1の前端に対し取り付けることができ、ベアリングサポート23(ハブベアリング22)の脱着を容易に行い得る。
【0058】
<第3実施例の効果>
かようにハブベアリング22の脱着作業を容易にするための既存の端蓋18を磁気遮蔽材で造り、この端蓋18を、図6における磁気シールド31として兼用する本実施例の構成によれば、
新設部品としての磁気シールド31を追加しなくても、図6の第2実施例と同様な効果が奏し得られる。
【0059】
従って、インホイールモータ駆動ユニットの軸線方向寸法を大きくすることなく第2実施例と同様な効果(第1実施例よりも優れた磁気干渉防止効果)が得られることとなり、
その分だけ磁石継手25および電動モータ4間の離間距離を短くし得てインホイールモータ駆動ユニットの軸線方向寸法を短縮することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ケース本体
2 リヤカバー
3 ユニットケース
4 電動モータ
5 遊星歯車式減速歯車組(歯車変速機構)
6 ステータ
7 ロータ
8 モータ軸
9 出力軸
10 ホイールシャフト
11 サンギヤ
12 リングギヤ
13 段付きプラネタリギヤ
14 キャリア
15 車輪
18 端蓋
19,24 ボルト
21 ホイールハブ
22 ハブベアリング
23 ベアリングサポート
25 磁石継手
26 レゾルバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータのモータ軸と、出力軸との間を歯車変速機構により駆動結合し、電動モータの回転を歯車変速機構による変速下に前記出力軸から車輪へ向かわせて該車輪を駆動するようにしたインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
電動モータから車輪までの伝動系に、前記車輪の軸受部周りにおける変位が前記歯車変速機構に及ぶことのないよう吸収する磁石継手を挿置し、
該磁石継手を、前記電動モータから遠い前記歯車変速機構の側に配置したことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記電動モータおよび磁石継手間に、磁気シールドを介在させたことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項3】
前記出力軸がインホイールモータ駆動ユニットケースの車輪に近い前端開口から突出するものである、請求項2に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記磁気シールドは、前記歯車変速機構および磁石継手間にあって、前記出力軸の外周面と、前記インホイールモータ駆動ユニットケースの前端開口内周面との間に延在するプレートであることを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。
【請求項4】
前記歯車変速機構および磁石継手間の軸線方向位置で、前記出力軸の外周面と、前記インホイールモータ駆動ユニットケースの前端開口内周面との間に延在するユニットケース端蓋を具え、該ユニットケース端蓋にハブベアリングを介し車輪を回転自在に支持して該ハブベアリングの脱着作業を容易にした、請求項3に記載のインホイールモータ駆動ユニットにおいて、
前記ユニットケース端蓋を磁気遮蔽材で造ることにより、該ユニットケース端蓋を前記磁気シールドとして流用したことを特徴とするインホイールモータ駆動ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−71686(P2013−71686A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213644(P2011−213644)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】