説明

インモールド成形方法とその装置

【課題】加飾性のフィルムが表面に一体成形された樹脂成形品を、高歩留まりで製造できるインモールド成形方法を提供することを目的とする。
【解決手段】第2空間116の範囲外のフィルム101を、第3,第4の摺動体111a,111bにて押さえ、その後、第2空間116の外周部と第3,第4の摺動体111a,111bとの間に配置されている第1,第2の摺動体と109a,109bにてフィルム101を変形させることで、フィルム101の皺を減少させる。金型を閉じたとき、第1入れ子104と第2入れ子115の合わせ面は、樹脂が流れ込まない隙間を設定しておき、射出成形が完了する直前に、第1〜第4の摺動体109a,109b,111a,111bによる押さえを開放させると、成形時に発生するフィルムの皺を、成形品の外周部に逃がして、皺が無い状態でフィルム101を成形品に転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに印刷された絵柄を、射出成形と同時に、射出成形品の表面に転写させるインモールド成形方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形によって得られた樹脂部品の表面に加飾を施す場合、塗装により色、模様付けを行うのが一般的である。しかしながら、デザイン性の多様化、塗装による環境問題などにより、塗装に変わる加飾工法が求められている。そこで近年、フィルムに加飾された絵柄を樹脂部品に転写させたり、また、絵柄が加飾されたフィルム自体を樹脂部品に貼り合わせたりする工法が注目を集めてきている。これらのフィルムの加飾はおもに印刷にて行われているため、木目調、大理石調など、従来の塗装ではできなかったデザインを表現することが可能である。
【0003】
また、フィルムの表面に凹凸を付ける事により、木目調などの手触り感も表現することができる。これらの絵柄もしくはフィルムを樹脂成形部品に貼り合わせる方法としては、フィルムを、貼り合わせる樹脂成形部品と同じ形状に真空成形工法などを用いて予備成形し、その後、そのフィルムを射出成形金型内に挿入し、フィルムと一緒に射出成形を行い、フィルムと樹脂を熱溶着にて接合させる方法が行われている。しかしながら、フィルムを予備成形する工程が必要で、生産性向上のため、射出成形金型内で、射出成形と同時に、成形品の表面に絵柄を転写したり、フィルムを貼り合わせたりする取り組みが行われている。
【0004】
図15〜図23は、インモールド成形方法の各工程での金型断面図を示す。
金型は、入れ子201を有する第1金型200Aと入れ子205を有する第2金型200Bとで構成されている。
【0005】
図15では、第1金型200Aと第2金型200Bの間に、絵柄211が印刷されたフィルム210が挿入されている。このフィルム210は、射出成形の1工程が終了すると、未転写部の次の絵柄が現れるまで、フィルム送り装置(図示せず)にて金型内に送り込まれ、そのたびに新しい絵柄211が入れ子201に形成されているキャビ側空間202と、入れ子205に形成されているコア側空間206の間に配置される。このフィルム210は、フィルム送り装置の引っ張り応力により、テンションがかかった状態となるが、引っ張り応力の度合いやバランスにより、皺212が残った状態となってしまう。
【0006】
次に図16では、第2金型200Bを可動させて金型を閉じる。
このときフィルム210は、入れ子201と入れ子205にはさまれた状態になるが、キャビ空間202とコア空間206の間の部分においては、皺212が残ったままとなってしまう。
【0007】
図17では、第2金型200Bに設置されたエア吸引孔209を通して、エアを吸引する。エアを吸引することによりコア側空間206の入れ子205とフィルム210に囲まれた部分が真空状態となり、フィルム210が入れ子205の形状に張り付き、フィルム210が成形品の形状に予備成形される。予備成形されることで、フィルム210が樹脂の形状に貼り付きやすくなる。しかしながら、フィルム210に発生している皺212は、エアの吸引力においても残ったままとなり、また形状のコーナ部においては空間が発生してしまう。さらに、金型が昇温(40℃〜60℃)されているため、フィルム210がコア側に張り付くと、フィルム210の熱膨張により図18に示すように、さらに大きな皺212となってしまう。
【0008】
図19では、キャビ金型側200Aからキャビ側空間202とコア側空間206に溶融樹脂214を流し込む。溶融樹脂214が流し込まれるにしたがって、図20に示すように、溶融樹脂214と接する部分のフィルム210に発生している皺212は引き伸ばされ、さらに、図21に示すように、引き伸ばされた部分の皺212は、樹脂流動先端部215に集まってくる。
【0009】
図22では、キャビ側空間202とコア側空間206への溶融樹脂214の充填が完了すると、射出成形が完了するが、このとき、樹脂流動末端に集められたフィルム210の皺212は、逃げ場が無いためにそのまま残ってしまう。
【0010】
射出成形が終了すると樹脂は冷却固化され、図23では、第1金型200Aと第2金型200Bが開き、フィルム210に印刷された絵柄211が転写された成形品216が取り出される。しかしながら、樹脂流動末端の皺を残したまま冷却固化されるため、成形品216にもその皺がそのまま転写されてしまう。
【0011】
図16の型閉め工程でフィルム210に発生していた皺212を解消する技術が特許文献1に記載されている。この特許文献1では図24に示すように、第2金型200Bのコアプレート207に突起220を設け、第1金型200Aには突起220に対応して凹部213が形成されている。
【0012】
第2金型200Bが可動し金型が閉じるにしたがって、突起202はフィルム210を第1金型200Aの凹部213に挿入されていく。図25は第1金型200Aと第2金型200Bが閉じた状態である。
【0013】
このようにコアプレート207に設置された突起220によってフィルム210が変形され、その変形される長さ分のフィルムが、突起220の周囲より第1金型200Aの方向へ引き込まれ、フィルム210の皺212が解消される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−59307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1の方法においてもいくつかの問題が発生し、フィルムの皺を除去するには十分な方法とは言えない。つまり、コアプレート207に設置された突起220によって、突起部の周囲より第1金型200Aの方向へフィルム210が引き込まれるときに、入れ子側空間の方向からのフィルムが引き込まれるとは限らない。
【0016】
具体的には、図26に示すように、突起220よりも外側(キャビ側空間202とコア側空間206とで形成される入れ子空間部と反対側)のフィルム210が突起220によって第1金型200Aの方向へフィルム210が引き込まれた場合には、入れ子空間部のフィルム210には引っ張り応力は作用しないため、フィルム210に発生している皺212は解消されないままとなってしまう。その結果、皺が残ったまま射出成形が行われ、皺が残ったままの成形品になってしまう。
【0017】
また突起220の効果により、入れ子空間部のフィルム210に引っ張り応力が作用し、皺212が解消したとしても、図27に示すように、エアの吸引でフィルム210がキャビ入れ子の空間に密着し、フィルム210の熱膨張により、皺212が発生してしまう。この状態で溶融樹脂を流し込んでも、発生している皺212の逃げ場が無いため、最後まで皺212が残ってしまう。
【0018】
本発明は、フィルム皺の影響が無い状態で、成形品にフィルムの絵柄をきれいに転写させて、加飾性のある樹脂部品を高歩留まりで製造できるインモールド成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のインモールド成形方法は、第1金型と第2金型の間にフィルムを配置するフィルム配置工程と、前記フィルムを前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けるフィルム押さえ工程と、前記第1金型と前記第2金型を閉じ成形空間を形成する型締め工程と、前記成形空間に樹脂を流し込む射出工程と、前記射出工程中に前記フィルムを前記成形空間の外側へ逃がすフィルム逃がし工程と、前記樹脂を冷却固化させ、前記第1金型と前記第2金型を開いて、前記成形空間内の成形品に前記フィルムに加飾された絵柄を転写した製品を取り出す冷却・転写・成形品取り出し工程とからなることを特徴とする。
【0020】
また、前記フィルム逃がし工程では、型締め状態の前記第1金型と前記第2金型の間に形成した隙間から、前記フィルムを前記成形空間の外側へ逃がすことを特徴とする。
また、前記フィルム押さえ工程では、前記第1金型と前記第2金型を閉じて形成された成形空間より外側の前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて拘束し、前記フィルム逃がし工程では、前記フィルムの前記拘束を解除することを特徴とする。
【0021】
また、前記フィルム押さえ工程では、前記第1金型と前記第2金型を閉じて形成された成形空間より外側の前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて拘束し、その後に前記成形空間より外側で前記拘束した位置よりも内側の前記フィルムを変形させて前記フィルムを伸張し、前記フィルムの前記拘束ならびに前記変形を前記フィルム逃がし工程で解除することを特徴とする。
【0022】
また、前記フィルムを変形させて前記フィルムを伸張する工程では、前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて伸張させ、前記フィルム逃がし工程で前記伸張を解除することを特徴とする。
【0023】
また、前記フィルム逃がし工程での前記フィルムの変形の解除の後に、前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に再度押さえ付けて伸張させることを特徴とする。
本発明のインモールド成形装置は、第1金型と第2金型の間にフィルムを挟んだ状態で型締めし、前記第1金型と前記第2金型を閉じて形成された成形空間に樹脂を射出し、前記第1金型と前記第2金型を開いて、前記成形空間内の成形品に前記フィルムに加飾された絵柄を転写した製品を取り出すインモールド成形装置において、前記成形空間より外側の前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて拘束する第3,第4の摺動体と、前記成形空間より外側で第3,第4の摺動体が拘束した位置よりも内側の前記フィルムを前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて変形させて前記フィルムを伸張する第1,第2の摺動体とを設けたことを特徴とする。
【0024】
また、型締めした状態で、第1金型の第1入れ子と第2金型の第2入れ子の間に、前記フィルムの厚さよりも0.05mm〜0.1mm大きく樹脂バリが発生しない隙間を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この構成によると、第1金型と第2金型を閉じ成形空間を形成する型締め工程の前に、フィルムを第1金型あるいは第2金型に押さえ付けるフィルム押さえ工程を実行し、成形空間に樹脂を流し込む射出工程中にフィルムを成形空間の外側へ逃がすフィルム逃がし工程を有しているため、フィルムを変形させる事でフィルムに張力を与え、射出成形前のフィルム皺を減少させ、また、樹脂充填時におけるフィルムの伸びによる皺は、成形品の外側へ逃がすことができるので、成形品範囲でのフィルム皺の発生が少なくなる。その結果、成形品部にフィルムの絵柄をきれいに転写でき、加飾性のある樹脂の成形品を得られ、成形歩留まりも向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1における金型を開いた状態の射出成形前の金型断面図
【図2】同実施の形態の第3,第4の摺動体111a,111bがフィルム101を第2金型に押し付けた状態の金型断面図
【図3】第1,第2の摺動体109a,109bと第3,第4の摺動体111a,111bがフィルム101を第2金型に押し付けた状態の金型断面図
【図4】金型を閉じた状態の金型断面図
【図5】コア金型側よりエアを吸引した状態の金型断面図
【図6】フィルムが熱膨張した状態の金型断面図
【図7】射出成形を開始した状態の金型断面図
【図8】溶融樹脂が広がって行く状態の金型断面図
【図9】樹脂充填完了直前の金型断面図
【図10】樹脂充填完了直前の金型断面図
【図11】別の例における第1,第2の摺動体109a,109bと第3,第4の摺動体111a,111bを解除するときの金型断面図
【図12】射出成形が終了し、成形品を取り出す状態の金型断面図
【図13】エアを吸引しコア入れ子の形状に予備成形したフィルム
【図14】本発明の実施の形態2におけるストレート部のみを変形させたフィルムの斜視図
【図15】従来の金型を開いた状態の射出成形前の金型断面図
【図16】同従来例の金型を閉じた状態の射出成形前の金型断面図
【図17】同従来例のコア金型側よりエアを吸引した状態の金型断面図
【図18】同従来例のフィルムが熱膨張した状態の金型断面図
【図19】同従来例の射出成形を開始した状態の金型断面図
【図20】同従来例の溶融樹脂が広がって行く状態の金型断面図
【図21】同従来例の樹脂充填完了直前の金型断面図
【図22】同従来例の樹脂充填完了直後の金型断面図
【図23】同従来例の射出成形が終了し成形品を取り出す状態の金型断面図
【図24】別の従来例の金型断面図
【図25】同従来例の金型を閉じた状態の断面図
【図26】同従来例のフィルムが突起部方向に引き込まれる場合の金型断面図
【図27】同従来例のフィルムが熱膨張した状態の金型断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のインモールド成形方法を具体的な実施の形態に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1〜図12は金型が閉じた状態から射出成形が終了し、成形品を取り出すまでの各工程を示している。
【0028】
まず図1は金型を開いた射出成形前の状態を示している。
射出成型を行う金型は、第1金型200Aと第2金型200Bで構成されている。第1金型200Aが固定で、第2金型200Bが動くことによって金型が閉じられる。
【0029】
第1金型200Aは、主に成形品の裏側を形成する第1空間105を保有する第1入れ子104、その第1入れ子104を保持するプレート106、そのプレート106を保持するホルダープレート107、成形機との取り付けとなるベースプレート108から構成される。またそれぞれのホルダープレート107,ベースプレート108には、溶融樹脂の通路となるランナーゲート113が形成されている。
【0030】
第2金型200Bは、主に成形品の表側を形成する第2空間116を保有する第2入れ子115、第2入れ子115を保持するコアプレート117、コアプレート117を保持するホルダープレート118、成形機との取り付けとなるベースプレート119から構成される。
【0031】
成形品への加飾を行うフィルム101は第1金型200Aと第2金型200Bの間に配置され、フィルム101の表面には成形品に転写される絵柄102が印刷されている。フィルム101はおもにPETフィルムが用いられており、また印刷に関しては、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などさまざまな方法にて印刷されている。このフィルム101はフィルム送り装置(図示せず)にて供給され、1回の成形が終わると、未転写部の次の絵柄が現れるまで、フィルム送り装置にてフィルムが送られる。フィルムはこの送り装置による引っ張り力が作用している。また、第2金型200Bにはフィルム101を第2空間116に密着させるためのエア吸引孔121が加工されている。
【0032】
第1金型200Aのプレート106には、第1入れ子104を中央にしてフィルム101の搬送方向の上手側と下手側に第1,第2の摺動体109a,109bが設けられている。第1,第2の摺動体109a,109bは、スプリングやエア駆動、油圧駆動などの駆動源により軸110を介して出退が駆動できる可動方式となっている。第1,第2の摺動体109a,109bの先端には、曲面形状の突起109cが形成されている。
【0033】
さらにプレート106には、第1の摺動体109aよりもフィルム101の搬送方向の上手側に第3の摺動体111aが設けられ、第2の摺動体109bよりもフィルム101の搬送方向の下手側に第4の摺動体111bが設けられている。第3,第4の摺動体111a,111bは、スプリングやエア駆動、油圧駆動などの駆動源により軸112を介して出退が駆動できる可動方式となっている。第3,第4の摺動体111a,111bの先端は平面形状となっている。金型を開いたこの射出成形前の状態では、第3,第4の摺動体111a,111bの先端は、第1,第2の摺動体109a,109bの先端よりも第2金型200Bに近づいた状態に保持されている。
【0034】
第2金型200Bのコアプレート117には、第1,第2の摺動体109a,109bに対応する位置に、受けピース120a,120bが設置されている。受けピース120a,120bの先端には、突起109cを収容する大きさの曲面形状の凹部120cが形成されている。
【0035】
次に、図2に示すように型閉じが開始され、第2金型200Bが第1金型200Aの方へ移動して行く。まず第3,第4の摺動体111a,111bがフィルム101を介してコアプレート117に接触する。第3,第4の摺動体111a,111bは駆動源により軸112を介して力を受けているので、フィルム110は第3,第4の摺動体111a,111bによりコアプレート117に押さえ付けられて動かない状態となる。
【0036】
さらに第2金型200Bが移動していくと図3に示すように、第1,第2の摺動体109a,109bがフィルム101に接触し、受けピース120a,120bとともにフィルムを挟んだ状態となる。第1,第2の摺動体109a,109bは駆動源により軸112を介して力を受けているので、突起109cと受けピース120a,120bの凹部120cの形状により、フィルム101を変形させる。
【0037】
フィルム101を変形させる場合、その突起109cの表面積(周長)に必要な分のフィルムが、その突起109cの周囲より引き込まれてくる。そのとき、第1,第2の摺動体109a,109bの外側(入れ子空間と反対側)のフィルム101は、第3,第4の摺動体111a,111bにより拘束されているので、入れ子空間の範囲におけるフィルムが、受けピース120a,120bの凹部120cに引き込まれていくことになって、入れ子空間部のフィルムに引っ張り力が作用し、フィルムに発生していた皺が解消される。突起109cの大きさを変化させる事により、フィルムの引き込まれ量を調整することができ、皺の解消度合いも調整できる。皺を全く無くすことも可能であるが、後工程のことを考慮し、皺が多少残っているほうが良い。この理由は後で述べる。
【0038】
さらに第2金型200Bが移動して図4に示すような型締め状態となる。
このとき従来であれば、第1入れ子104の表面はフィルムを介して第2入れ子115と密着させるが、本発明では、第1入れ子104の表面と第2入れ子115の表面の隙間を、フィルム厚み+0.05mm〜フィルム厚み+0.1mmの樹脂が流れ込まない程度の若干の隙間、つまり、樹脂バリが発生しない程度に設定する。この理由も後で述べる。
【0039】
この金型が閉じた状態で、第2金型200Bのエア吸引孔121よりエアを吸引して、図5に示すようにフィルムを第2入れ子115の形状に密着させる。このように、射出成形前に成形品の形状にフィルムを予備成形することにより、フィルムの破れを防止することができる。フィルムをコア入れ子の形状に密着させる場合、平面状態のフィルムを立体的に予備成形させるため、フィルムの平面状態の表面積よりも、立体状態の表面積のほうが大きいので、フィルムがコア入れ子に密着できなかったり、破れたりすることがある。そのため、図3での第1,第2の摺動体109a,109bにてフィルムを変形させ皺を解消させるとき、完全にフィルムの皺を無くしてしまわずに、若干の皺を残しておく。その理由として、皺を含んだ平面状の表面積と立体状態の表面積を同じにすることで、エア吸引時におけるフィルム予備成形においても、フィルムが破れることなく第2入れ子115の形状に密着させることができるためである。フィルムが第2入れ子115に密着すると、金型が加熱されているので、フィルムが昇温され熱膨張が発生する。フィルムが常温の20℃とすると、金型は60℃程度に加熱されているので、40℃分の熱膨張が発生する。その結果、図6に示したようにフィルムに伸びが発生する。
【0040】
この状態で図7に示すように、第1金型200Aのランナーゲート113より溶融樹脂を流し込んで射出成形を開始する。
樹脂は200℃くらいに加熱されているので、その熱影響でもフィルムは熱膨張を行う。例えば樹脂がABSの場合、樹脂は220℃に加熱されており、金型温度が60℃の場合、フィルムも60℃に加熱されるので、樹脂が接触したフィルムの部分は160℃の温度差分の熱膨張が発生することになる。
【0041】
樹脂がキャビ入れ子空間とコア入れ子空間の間を流れていく様子を図8に示した。樹脂は空間を広がりながら流れていくが、フィルムに発生している皺122は、その流れとともに流動末端に追いやられていく。衣類にアイロン掛けを行っているのと同様に、皺が引き伸ばされていく。
【0042】
さらに樹脂が広がり充填完了に近づくと、図9に示すように、フィルムの皺は流動最末端123(成形品の形状端面部)に集中してくる。
さらに樹脂が流し込まれて樹脂が入れ子空間に充填され図10に示すような充填完了状態となる。このとき前述したように、第1入れ子104の表面と第2入れ子115の表面の隙間を、フィルム厚み+0.05mm〜フィルム厚み+0.1mmに設定しているので、流動末端に集められた皺124は、樹脂の充填完了に伴い、第1入れ子104の表面と第2入れ子115の表面の隙間に追いやられていく。この場合の、第1,第2の摺動体109a,109bと第3,第4の摺動体111a,111bによる押し付けは、熱膨張によるフィルム皺の発生が少ない場合には、型開によって解除される。フィルム皺の発生が多い場合や、第1入れ子104と第2入れ子115との間の隙間だけでは皺124を逃がしきれない場合には、図11に示すように、樹脂充填完了直前(充填完了前0.2秒程度)または、充填時間が短い場合には樹脂充填開始と同時に、駆動源によって軸110,112を可動させ、第1,第2の摺動体109a,109bと第3,第4の摺動体111a,111bをフィルムから遠ざけてフィルムの拘束を開放することにより、フィルムの皺がより逃げ易くなる。
【0043】
更なる別の方法としては、第1,第2の摺動体109a,109bと第3,第4の摺動体111a,111bをフィルムから遠ざけてフィルムの拘束を開放した後、第1,第2の摺動体109a,109bによりフィルムを再度変形させ、フィルムを引っ張る事により、流動末端に滞留しているフィルム皺を強制的に成形品外周部に逃がすこともできる。
【0044】
樹脂が充填し射出成形が終了すると、金型が閉じた状態で金型内に充填された樹脂が冷却される。冷却が終了すると、コア側の金型が移動し型開きが行われ、その後、図12に示すように成形品131が取り出される。
【0045】
フィルム101と絵柄102の境界面には剥離層が設定されているので、その剥離層を境に、印刷絵柄が成形品に転写される。また、成形品に対応するフィルムの部分は皺が発生していないので、成形品に転写される絵柄にも皺が無く、絵柄がきれいに転写された成形品を得ることができる。
【0046】
(実施の形態2)
図13は第2金型200Bよりエアを吸引し、第2入れ子115の形状に予備成形したフィルムの状態を示す。成形品のストレート部は皺が発生しやすいので、実施の形態1では、第1,第2の摺動体109a,109bによりフィルムに引っ張り方向127の引っ張り力を作用させ皺を解消させたが、製品深さが深い場合など、成形品コーナ部128においては、平面のフィルムを立体的に変形させる必要があるため、ストレート部より単位面積当たりの伸び量が大きく、フィルムが薄くなったり破れが発生したりする。
【0047】
そのため、この実施の形態2では、ストレート部のようにフィルムに引っ張り力を作用させるよりも、コーナ部の外周より成形品方向へフィルムを流し込むことを実施する。
具体的には、図14に示すように、成形品のストレート部の近傍のみを第1,第2の摺動体109a,109bにて変形させてフィルム変形部129を形成することで、ストレート部分に引っ張り力をかけフィルムの皺を解消し、また、成形品のコーナ部130においては、第1,第2の摺動体109a,109bと第3,第4の摺動体111a,111bは設置せず、第2入れ子115と第1入れ子104の間に隙間を設定して、常にフィルムを拘束しない状態で、エア吸引時での予備成形および樹脂充填時においても、フィルムがコーナ部の外周より製品コーナ部に流し込まれ、フィルム厚みの減少や破れを無くすことによって、製品深さが深い場合でも、成形品に転写される絵柄にも皺が無く、絵柄がきれいに転写された成形品を得ることができる。
【0048】
上記の各実施の形態では、第1金型200Aに設けた第1,第2の摺動体109a,109bによってフィルム101を第2金型200Bに押さえ付けてフィルムを拘束したり、変形させたが、フィルム101を第1金型200Aに押さえ付けてフィルムを拘束したり、変形させることもできる。
【0049】
なお、上記の各実施の形態では、フィルムに印刷された絵柄を成形品に転写させる工法での説明であったが、フィルム自体を成形品に貼る付ける工法においても適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、各種の電化製品などの生産性の向上、ならびに従来では塗装によって加飾していた成型品であってもインモールド成形によって生産できるようになり、環境問題の改善にも寄与できる。
【符号の説明】
【0051】
200A 第1金型
200B 第2金型
101 フィルム
102 フィルム101の絵柄
104 第1入れ子
105 第1空間
106 プレート
107 ホルダープレート
108 ベースプレート
109a,109b 第1,第2の摺動体
109c 突起
110 軸
111a,111b 第3,第4の摺動体
112 軸
113 ランナーゲート
115 第2入れ子
116 第2空間
117 コアプレート
118 ホルダープレート
119 ベースプレート
120a,120b 受けピース
120c 凹部
121 エア吸引孔
122 皺
123 流動最末端
127 ストレート部のフィルムの引っ張り方向
128 引っ張り力成形品コーナ部
129 フィルム変形部
130 成形品のコーナ部
131 成型品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と第2金型の間にフィルムを配置するフィルム配置工程と、
前記フィルムを前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けるフィルム押さえ工程と、
前記第1金型と前記第2金型を閉じ成形空間を形成する型締め工程と、
前記成形空間に樹脂を流し込む射出工程と、
前記射出工程中に前記フィルムを前記成形空間の外側へ逃がすフィルム逃がし工程と、
前記樹脂を冷却固化させ、前記第1金型と前記第2金型を開いて、前記成形空間内の成形品に前記フィルムに加飾された絵柄を転写した製品を取り出す冷却・転写・成形品取り出し工程とからなる
インモールド成形方法。
【請求項2】
前記フィルム逃がし工程では、
型締め状態の前記第1金型と前記第2金型の間に形成した隙間から、前記フィルムを前記成形空間の外側へ逃がす
請求項1記載のインモールド成形方法。
【請求項3】
前記フィルム押さえ工程では、
前記第1金型と前記第2金型を閉じて形成された成形空間より外側の前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて拘束し、
前記フィルム逃がし工程では、前記フィルムの前記拘束を解除する
請求項1記載のインモールド成形方法。
【請求項4】
前記フィルム押さえ工程では、
前記第1金型と前記第2金型を閉じて形成された成形空間より外側の前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて拘束し、
その後に前記成形空間より外側で前記拘束した位置よりも内側の前記フィルムを変形させて前記フィルムを伸張し、
前記フィルムの前記拘束ならびに前記変形を前記フィルム逃がし工程で解除する
請求項1記載のインモールド成形方法。
【請求項5】
前記フィルムを変形させて前記フィルムを伸張する工程では、前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて伸張させ、
前記フィルム逃がし工程で前記伸張を解除する
請求項4に記載のインモールド成形方法。
【請求項6】
前記フィルム逃がし工程での前記フィルムの変形の解除の後に、前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に再度押さえ付けて伸張させる
請求項4記載のインモールド成形方法。
【請求項7】
第1金型と第2金型の間にフィルムを挟んだ状態で型締めし、前記第1金型と前記第2金型を閉じて形成された成形空間に樹脂を射出し、前記第1金型と前記第2金型を開いて、前記成形空間内の成形品に前記フィルムに加飾された絵柄を転写した製品を取り出すインモールド成形装置において、
前記成形空間より外側の前記フィルムを、前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて拘束する第3,第4の摺動体と、
前記成形空間より外側で第3,第4の摺動体が拘束した位置よりも内側の前記フィルムを前記第1金型あるいは前記第2金型に押さえ付けて変形させて前記フィルムを伸張する第1,第2の摺動体とを設けた
インモールド成形装置。
【請求項8】
型締めした状態で、第1金型の第1入れ子と第2金型の第2入れ子の間に、前記フィルムの厚さよりも0.05mm〜0.1mm大きく樹脂バリが発生しない隙間を形成した
請求項7記載のインモールド成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−189524(P2011−189524A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55193(P2010−55193)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】