説明

ウィスカー発生を抑制したCu−Zn系合金のSnめっき条及びその製造方法

【課題】 本発明の目的は、ウィスカーの発生が抑制されたCu−Zn系合金のリフローSnめっき条を提供することにある。
【解決手段】 平均濃度で20〜40質量%のZnを含有する銅合金を母材とするSnめっき条であり、表面から母材にかけて、Sn相、Sn−Cu合金相、Cu相の各層でめっき皮膜が構成され、該Sn相の最表層のZn濃度が3〜35質量%であることを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたCu−Zn系合金のSnめっき条。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィスカーの発生が抑制されたCu−Zn系合金のSnめっき条及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS−C2600およびC2680等の黄銅に代表されるCu−Zn系合金は、りん青銅、ベリリウム銅、コルソン合金等と比較するとばね性が劣るものの、廉価なため、コネクタ用素材として広く使用されている。この場合、コネクタとして接触抵抗や熱安定性を得るために、Cu−Zn系合金条にSnめっきを施すことが多い。
Cu−Zn系合金のSnめっき条は、Snの優れたはんだ付け性、耐食性、電気接続性を生かし、主として民生用のコネクタ接点、自動車電装用ワイヤーハーネスをはじめとする端子、コネクタ等の様々な電気、電子部品に大量に使われている。
【0003】
Cu−Zn系合金のSnめっきでは、通常、Snめっきに先立ちCu下地めっきを施す。これは、Cu下地めっきを施さない或いは施してもCu下地めっき層が薄い場合、リフロー処理の際に、母材中のZnがSnめっき表面にZn濃化層を形成し、はんだ付け性が低下するためである。即ち、Cu下地層はZnの拡散を抑制する効果を持つからである。
特許文献1の実施例に示されるようにCu−Zn系合金のリフローSnめっきのCu下地めっきは0.5μm以上が施されていた。
【特許文献1】特開平5−9785号公報(「0006」)
【0004】
Cu−Zn系合金のSnめっき条は、一般的に連続めっきラインにおいて、次の工程で製造される。Cu−Zn系合金条を、前処理として脱脂、酸洗した後に、電気めっき法により、Cu下地めっき層を形成した後、Snめっき層を形成する。電気めっき後のSnめっき条には、Snめっき層を溶融させるリフロー処理を施すことが多い。
また、Snめっき材を常温に放置すると、Snめっき表面からSnの単結晶が成長することが知られている。このSnの単結晶は、ウィスカーと呼ばれるものであり、電子部品内の回路の短絡を引き起こすことがある。ウィスカーは、電着時に生ずるSnめっき皮膜の内部応力が原因で発生する。したがって、リフロー処理でSnを溶融させ皮膜の内部応力を除去することは、ウィスカーの発生を抑制する手段として有効である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対して、Snめっき材を電気、電子部品のコネクタ等に使用する場合、接点部ではめっき表面に局部的な応力が加わり、Snめっき皮膜内部には歪が発生するため、従来、耐ウィスカー性が良好とされてきたリフローSnめっき条であっても微小なウィスカーが発生することがある。近年、電子、電気部品の回路数増大により、回路に電気信号を供給するコネクタの多極化が進んでいる。このため端子間の間隔が狭くなり、従来は問題にならなかったような微小なウィスカーでも回路の短絡を引き起こす危険性が生じてきた。このような背景により、従来、耐ウィスカー性が良好とされてきたリフローSnめっき条に対し、さらなるウィスカーの制御が求められるようになった。
本発明の目的は、ウィスカーの発生が抑制されたCu−Zn系合金のリフローSnめっき条を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、Cu−Zn系合金のリフローSnめっき条に対し、ウィスカー発生を抑制する方策を鋭意研究し、Snめっき表面にZnを濃化させるとウィスカーが抑制されることを知見した。しかし、上述したように、Snめっき表面にZnが濃化すると、はんだ付け性が低下する。そこで、本発明者等は、ウィスカー発生の抑制と良好なはんだ付け性が両立するZn濃化状態を探索し、これを見出すことに成功した。同時に、この適度なZn濃化状態を得るための製造条件として、母材表面の性状、Cu下地めっき厚、Snめっき厚、リフロー処理での加熱条件を明らかにすることができた。
【0007】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)平均濃度で20〜40質量%のZnを含有する銅合金を母材として、表面から母材にかけてSn相、Sn−Cu合金相、Cu相の各層でめっき皮膜が構成され、該Sn相の最表層のZn濃度が3〜35質量%であることを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたCu−Zn系合金のSnめっき条。
【0008】
(2)平均濃度で20〜40質量%のZnを含有する銅合金に対して、以下の処理を順次施すことを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたCu−Zn系合金のSnめっき条の製造方法、
a.母材の表面から深さ方向に0.1μmの位置でのZn濃度を、10〜40質量%に調整するための表層の除去
b.厚み0.1〜0.4μmのCu下地めっき
c.厚み0.5〜2.0μmのSnめっき
d.加熱時間t(秒)および加熱温度T(℃)を次式の範囲に調整することを特徴とするリフロー処理
t>5、T>250、T<−14t+670。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ウィスカーの発生が抑制された、Cu−Zn系合金のリフローSnめっき材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、以下詳細に説明する。
本発明のSnめっきが対象とする銅合金母材は20〜40質量%のZnを含有するCu−Zn系合金である。また、Zn以外の合金元素として、強度を改善する目的でSn、Ag、Pb、Fe、Ni、Mn、Si、Al、Tiから選択された1種以上の元素を合計で10質量%以下含有でき、この濃度範囲であれば本発明の効果は得られる。
【0011】
(1)めっきの構造
本発明のSnめっきの基本的な構造は、従来のCu下地リフローSnめっきと同様、表面から母材にかけてSn相、Sn−Cu合金相、Cu相の各層で構成される。本発明の特徴は、Sn相の最表層に適度な濃度のZnを濃化させることにある。
Snめっき層に局部的な応力が負荷されると、めっき表面にウィスカーが発生する。Snめっき最表層のZnには、このウィスカー発生を抑制する作用がある。これは、ZnがSnめっき層の局部的に応力の高い場所に拡散、凝集することで、応力を緩和するためと推測される。
【0012】
ZnのSnめっき層表面への濃化は、リフロー処理での加熱においてZnが拡散することによって生ずる。Snめっき最表層のZn濃度が3質量%未満では、ウィスカーの発生を抑制する効果が認められない。Snめっき最表層のZn濃度が35質量%を超えると、材料のはんだ付け性が著しく劣化するため好ましくない。したがって、Snめっき最表層のZn濃度は、3〜35質量%とする。より好ましいSnめっき最表層のZn濃度は、5〜15質量%である。ここで、Snめっき最表層のZn濃度とは、GDS(グロー放電発光分析)により分析した、表面から深さ方向に0.01μmの位置でのZn濃度である。
なお、本発明の効果は、Sn相最表層のZnを上記範囲に濃化させれば発揮されるので、リフロー後のSn相、Sn−Cu合金相、Cu相の厚みは、特に限定されない。同様に、電着時の厚みおよびリフロー条件によっては、Cu相の全てがSn−Cu合金相に変化する(Cu層が残留しない)こともあるが、本発明はCu相が残留しない状態をも含むものである。
【0013】
(1)製造方法
上記めっきの構造は、めっきを施す母材表層のZn濃度、Cu下地めっきの厚み、Snめっきの厚みおよびリフロー条件の4つを適正範囲に調整することにより得られる。
a.めっきを施す母材表層のZn濃度
Cu−Zn系合金を母材としSnめっきした材料では、加熱により母材中のZnがSnめっき層へ拡散する。後述するリフロー条件で加熱した場合、母材表層のZn濃度が10質量%未満であると、Snめっき最表層のZn濃度が3質量%よりも低くなり、母材表層のZn濃度が40質量%を超えると、Snめっき最表層のZn濃度が35質量%を超える。したがって、母材に用いる銅合金の表層のZn濃度を10〜40質量%に調整する必要がある。ここで、母材表層のZn濃度とは、GDSにより分析した、表面から深さ方向に0.1μmの位置でのZn濃度である。
【0014】
一方、母材であるCu−Zn系合金は、溶解・鋳造で製造したインゴットを必要に応じて熱間圧延した後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して条に加工される。Cu−Zn系合金の焼鈍では、脱Zn現象が生じることが知られている。脱Zn現象とは、焼鈍においてCu−Zn系合金が高温に熱せられた際に、蒸気圧の低いZnが気相中に逃散しCu−Zn系合金表面のZn濃度が低下する現象である。したがって、Cu−Zn系合金表面のZn濃度を上記範囲に調整するためには、焼鈍で生じた脱Zn層を除去することが必要である。この除去方法としては、回転式バフを用いる機械研磨、腐食液を用いる化学研磨等がある。
【0015】
本発明では、Snめっきに供される直前のCu−Zn系合金表面のZn濃度を、上記範囲に調整することが肝要であり、そのための手段や工程順序は特に限定されない。例えば、コネクタ用のCu−Zn系合金は、焼鈍後に冷間圧延を施した調質状態でSnめっきに供されることが多いが、この場合、脱Zn層除去の研磨は、冷間圧延前(焼鈍直後)に行っても良いし、冷間圧延後(めっき直前)に行っても良い。
【0016】
b.Cu下地めっき厚
Cu−Zn系合金にSnめっきする場合、母材からSnめっき層へのZnの拡散を抑制するため、Cuを下地めっきすることが一般的である。後述するリフロー条件で加熱した場合、Cu下地めっきの厚みが0.1μm未満であると、Snめっき層へのZnの拡散を十分に抑制することができず、Snめっき最表層のZn濃度が35質量%を超える。Cu下地めっきの厚みが0.4μmを超えると、Snめっき層へのZnの拡散が進行せず、Snめっき最表層のZn濃度が3質量%に満たない。したがって、Cu下地めっきの厚みは、0.1〜0.4μmとする。
【0017】
c.Snめっき厚
Snめっきの厚みが0.5μm未満では、後述するリフロー条件で加熱した場合、Snめっき最表層のZn濃度が35質量%を超え、はんだ付け性が劣化する。Snめっきの厚みが2.0μmを超えると、後述するリフロー条件で加熱した場合、Snめっき最表層のZn濃度が3質量%に満たない。したがって、Snめっきの厚みは0.5〜2.0μmとする。
【0018】
d.リフロー条件
Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲となるリフロー条件を以下に示す。加熱温度が250℃未満では、母材からSnめっき層へのZnの拡散が十分でなく、Snめっき最表層のZn濃度が3質量%に満たない。加熱温度が600℃を超えると、Znの拡散が著しくなるため、Snめっき最表層のZn濃度が35質量%を超えるばかりでなく、母材が再結晶し、軟化するため、材料に必要な機械的強度が得られない。したがって、リフロー処理での加熱温度は250〜600℃とする。
また、加熱時間が5秒未満では、Snめっき層が溶融されず、リフロー光沢がえられないだけでなく、Snめっき層へのZnの拡散が十分でなく、Snめっき最表面のZn濃度が3質量%に満たない。加熱時間が30秒を超えると、Znの拡散が著しくなるため、Snめっき最表面のZn濃度が35質量%を超える。したがって、リフロー処理での加熱時間は5〜30秒とする。
さらに、Snめっき層へのZnの拡散は、温度と時間の両因子の関係によって決定されるので、リフローの温度を、T<−14t+670の範囲に限定する。すなわち、リフロー処理条件は、図1の斜線の範囲である。ここで、Tは加熱温度(℃)、tは加熱時間(秒)を表す。
【実施例】
【0019】
表1に示されるCu−Zn系合金(厚さ0.2mm)を供試材として用いた。表1にはGDSで分析した、表面から深さ方向に0.1μmの位置でのZn濃度も示してある。母材表層のGDS分析データの一例として、図2に発明例No.1および比較例No.11のチャートを示す。
【0020】
【表1】

【0021】
各供試材を脱脂、酸洗した後、表1に示す条件でめっきおよびリフロー処理した。表2、表3にめっき浴の組成を示す。CuおよびSnめっき厚みの調整は、電着時間を変えることで行った。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
リフロー後の供試材について、Snめっき最表層のZn濃度をGDSにより分析した。表1に、供試材のSnめっき表面から深さ方向に0.01μmの位置におけるZn濃度を示す。Snめっき表層のGDS分析データの一例として、図3に発明例No.1および比較例No.11のチャートを示す。
【0025】
各供試材について、ウィスカーの長さおよびはんだ付け性を、次の方法で評価した。
(1)ウィスカー長さ
供試材表面に、直径が0.7mmの球状の圧子(ステンレス製)を150gの荷重で負荷したまま室温で7日間放置し、めっき表面の圧子接点部にウィスカーを発生させた。発生したウィスカーを電子顕微鏡で観察し、各供試材で最も長く成長したウィスカーの長さが、10μm以下の供試材は評価○とし、10μmを超えた材料は評価×とした。
【0026】
(2)はんだ付け性
供試材を脱脂後、フラックスとして25質量%ロジン−75質量%エタノールを塗布し、はんだ付けを行った(はんだ組成:60質量%Sn−40質量%Pb)。はんだの付着面積が80%以上の場合を「良好」とし、付着面積が80%未満の場合を「不良」と評価した。
本発明例および比較例の評価結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
本発明例No.1〜10は、いずれもSnめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲内であるため、ウィスカーの長さが10μm以下であり、また良好なはんだ付け性を示した。
一方、比較例No.11は母材表層のZn濃度が低すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも低く、10μmを超えるウィスカーが発生した。比較例No.12は母材表層のZn濃度が高すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも高く、はんだ付け性が劣った。
【0029】
比較例No.13、14はCu下地めっきが薄すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも高く、はんだ付け性が劣った。比較例No.15、16はCu下地めっきが厚すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも低く、10μmを超えるウィスカーが発生した。
【0030】
比較例No.17はSnめっきが薄すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも高く、はんだ付け性が劣った。比較例No.18はSnめっきが厚すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも低く、10μmを超えるウィスカーが発生した。
【0031】
比較例No.19はリフロー時間が短いため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも低く、10μmを超えるウィスカーが発生した。比較例No.20はリフロー時間が長すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも高く、はんだ付け性が劣った。比較例No.21はリフロー温度が低すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも低く、10μmを超えるウィスカーが発生した。比較例No.24はリフロー温度が高すぎるため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも高く、はんだ付け性が劣った。
【0032】
また、比較例No.22、23は、T<−14t+670を満足しないため、Snめっき最表層のZn濃度が本発明の範囲よりも高く、はんだ付け性が劣った。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】リフロー処理条件(温度と時間)を表した図である。
【図2】発明例No.1、比較例No.11を母材の表面から深さ方向1μmまでのZn濃度をGDSで分析したチャートである。
【図3】発明例No.1、比較例No.11をSnめっき表面から深さ方向に0.02μmまでのZn濃度をGDSで分析したチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均濃度で20〜40質量%のZnを含有する銅合金を母材として、表面から母材にかけてSn相、Sn−Cu合金相、Cu相の各層でめっき皮膜が構成され、該Sn相の最表層のZn濃度が3〜35質量%であることを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたCu−Zn系合金のSnめっき条。
【請求項2】
平均濃度で20〜40質量%のZnを含有する銅合金に対して、以下の処理を順次施すことを特徴とする、ウィスカー発生が抑制されたCu−Zn系合金のSnめっき条の製造方法。
a.母材の表面から深さ方向に0.1μmの位置での平均Zn濃度を、10〜40質量%に調整するための表層の除去
b.厚み0.1〜0.4μmのCu下地めっき
c.厚み0.5〜2.0μmのSnめっき
d.加熱時間t(秒)および加熱温度T(℃)を次式の範囲に調整することを特徴とするリフロー処理
t>5、T>250、T<−14t+670


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−161146(P2006−161146A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358897(P2004−358897)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(303053758)日鉱金属加工株式会社 (13)
【Fターム(参考)】