説明

ウイルス変異株

単純ヘルペスウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを開示する。開示される単純ヘルペスウイルスは、遺伝子運搬酵素プロドラッグ治療法を行う癌の治療に有効であることが示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純ヘルペスウイルスのゲノムがニトロレダクターゼをコードする核酸を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルス変異株に関する。
【背景技術】
【0002】
単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルス(HSV)ゲノムは、共有結合した長い(L)セグメントと短い(S)セグメントと称する2つのセグメントを含む。それぞれのセグメントは、一対の逆方向末端反復配列と隣接する特有の配列を含有する。長い反復配列(RL又はR)と短い反復配列(RS又はR)は異なるものである。
【0003】
広範囲にわたり研究1,6,7,8されているHSVのICP34.5(γ34.5とも呼ばれる)遺伝子は、HSV−1のF株及びsyn17+株並びにHSV−2のHG52株において配列が決定されている。ICP34.5遺伝子の1コピーがそれぞれのRL反復領域内に位置する。ICP34.5遺伝子の両方のコピーを不活性化する変異株(すなわち、ヌル変異株)、例えばHSV−1 17株の1716変異株(HSV1716)又はF株の変異株R3616若しくはR4009は神経毒性を欠く、すなわち無毒性であるので、遺伝子送達ベクターとして又は腫瘍溶解(腫瘍崩壊;oncolysis)による腫瘍の治療の両方に利用できることは公知である。HSV−1 17株の1716変異株は、それぞれのRL反復配列のBamHI()制限断片内に位置するICP34.5遺伝子のそれぞれのコピー中に759bpの欠失を有する。
【0004】
HSV1716などのICP34.5ヌル変異株は、事実上、第一世代の腫瘍溶解性ウイルスである。ほとんどの腫瘍はそれぞれに特徴があるので、第1世代の腫瘍溶解性ウイルスの能力が全ての腫瘍型において複製する又はそれらに有効な治療を提供する広いスペクトルをもつことは保証されていない。
【0005】
HSV1716は、EP 0571410号及びWO 92/13943号に記載され、1992年1月28日に、欧州動物細胞培養コレクション(the European Collection of Animal Cell Cultures, Vaccine Research and Production Laboratories, Public Health Laboratory Services, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 OJG, United Kingdom)に受託番号V92012803のもとで、ブダペスト条約(The Budapest Treaty on the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purposes of Patent Procedure、本明細書では「ブダペスト条約」と呼ぶ)の条項に従って寄託されている。
【0006】
ニトロレダクターゼプロドラッグ活性化
酵素プロドラッグ療法は、無毒又は低毒性プロドラッグをより顕著な細胞傷害性のある形態へ酵素的に活性化することに基づく。活性化にはプロドラッグの細胞傷害性還元形態への酵素還元が関わりうる。
【0007】
大腸菌ニトロレダクターゼ酵素(NTR)は、遺伝子運搬酵素プロドラッグ治療法(gene-dircted enzyme prodrug therapy;GDEPT)において、ジニトロベンズアミドクラスのニトロ芳香族プロドラッグを活性化する酵素としての使用が提案されている16。大腸菌NTRは2つの活性化部位をもつホモ二量体酵素であって、大腸菌由来の酸素非感受性酵素(nfsB遺伝子産物)である。大腸菌NTRは、ニトロフラゾンなどの広範囲のニトロ含有化合物を(ヒドロキシルアミン類へ)及びメナジオンなどのキノン類を(キノール類へ)還元する能力を有する。この能力は不可逆性阻害剤であるジクマロールにより特異的に抑制される。
【0008】
芳香族ニトロ基を対応するヒドロキシルアミン(及び恐らくはアミン)誘導体へ還元するNTRの能力は、主にジニトロベンズアミドクラスのプロドラッグを用いる癌化学療法において提案されている。5−アジリジン−1−イル−2,4−ジニトロベンズアミドCB1954(CAS登録番号21919−05−1)は、かかるNTRを用いるGDEPT用のプロドラッグとして研究されているプロドラッグの1つである16
【0009】
環状及び非環状ニトロアリールホスホロアミドマスタード類似体も、大腸菌NTRにより活性化されることが示されている17。非環状4−ニトロベンジルホスホルアミドマスタードは、ニトロレダクターゼを発現するV79細胞に対して167,500倍の選択的細胞傷害性を示しIC50が0.4nMと低く、CB1954より活性が約100倍高くかつ選択性が27倍高い。
【0010】
ニトロレダクターゼを発現する組換えアデノウイルス及び組換えレトロウイルス10が、プロドラッグCB1954とともに、癌の治療に提供する意図で使用するために構築されている。該組換えウイルスは腫瘍溶解性でなく、遺伝子運搬酵素プロドラッグ治療法に依って腫瘍細胞死滅を達成する。
【発明の開示】
【0011】
本発明者らは、RL1遺伝子座に不活性化を起こす突然変異、さらに具体的には、機能性ICP34.5遺伝子産物を産生せず、神経毒性がないようにICP34.5遺伝子産物の機能を不活性化する突然変異を有する単純ヘルペスウイルスは、腫瘍標的化療法に有用な遺伝子産物をコードする遺伝子を細胞へ送達するために使用できることを確認した。
【0012】
本発明者らは新規の第二世代の腫瘍溶解性HSV変異株を提供する。このHSV変異株のゲノムは、1つ又はそれぞれのICP34.5遺伝子座に挿入された異種(すなわち、非HSV由来である)大腸菌ニトロレダクターゼタンパク質コード配列を含み、該配列はICP34.5タンパク質コード配列を破壊してICP34.5遺伝子を非機能化して機能性ICP34.5遺伝子産物を発現できないようにする。作製されたHSVは、挿入されたプロモーターの制御下で大腸菌ニトロレダクターゼ遺伝子産物を発現することができる。従って、このウイルスはHSV 17株の1716変異株の腫瘍溶解活性を有し、遺伝子運搬酵素プロドラッグ治療法(GDEPT)に利用することができ、そしてプロドラッグCB1954と共に用いるとin vitro及びin vivoで腫瘍細胞死滅の有意な増大を示す。本ウイルス変異株をHSV1716/CMV−NTR/GFP(HSV1790とも呼ぶ)と名付けた。
【0013】
HSV1716/CMV−NTR/GFPは、遺伝子操作で作製した、ニトロレダクターゼ(NTR)遺伝子を発現する単純ヘルペスウイルスICP34.5ヌル変異株である。このウイルスは強化されたウイルス誘導腫瘍細胞傷害性を提供する。このウイルスはNTRトランスジーン送達及びCB1954プロドラッグ治療を、HSV1716の増殖特異的溶解能と組み合わせるものである。
【0014】
本発明の単純ヘルペスウイルスにより発現される異種ニトロレダクターゼポリペプチドは、NTRプロドラッグのニトロレダクターゼ依存性活性化により誘導される活性な医薬を組織特異的に送達するための遺伝子運搬酵素−プロドラッグターゲティング技法に有用でありうる。
【0015】
本発明者らは、in vivoでニトロレダクターゼ遺伝子をHSV1716/CMV−NTR/GFPによりマウス神経膠腫異種移植片モデル(mouse gliomal xenograft model)中に導入すると、プロドラッグCB1954との併用で腫瘍増殖の遅延及び腫瘍溶解がもたらされることを実証した。HSV1716/CMV−NTR/GFPウイルスとCB1954プロドラッグの両方を併用して投与すると、ウイルス又はプロドラッグを単独で用いるときより大きい効果をもたらす、すなわち、併用は相乗効果を示すことを観察した。
【0016】
この結果は、腫瘍溶解性HSV療法とニトロレダクターゼ/プロドラッグ処置に関する遺伝子療法との組み合わせが、腫瘍細胞死滅及び腫瘍増殖低減そしてそれによる腫瘍治療の有効な手段を提供することを実証する。
【0017】
単純ヘルペスウイルスHSV1716が媒介する腫瘍溶解とニトロレダクターゼ遺伝子導入との組み合わせは、驚くべき相乗作用を示す結果をもたらし、全種類の腫瘍を治療するための新規な治療方法を提供する。
【0018】
HSV1716/CMV−NTR/GFPは、Crusade Laboratories Limited(住所:Department of Neurology Southern General Hospital 1345 Govan Road Govan Glasgow G51 5TF Scotland)の名前で、2003年11月5日、欧州細胞培養コレクション(the European Collection of Cell Cultures (ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 OJG, United Kingdom)に受託番号03110501としてブダペスト条約(The Budapest Treaty on the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purposes of Patent Procedure、本明細書ではブダペスト条約と呼ぶ)の条項に従って寄託されている。
【0019】
従って、本発明は、単純ヘルペスウイルスのゲノムがニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルスに関する。該単純ヘルペスウイルスはまた、非神経毒性でありうる。
【0020】
その最も一般的な形では、本発明は、単純ヘルペスウイルスのゲノムがニトロレダクターゼをコードする核酸を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルスに関する。
【0021】
本発明の一態様によると、本発明は、単純ヘルペスウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0022】
上記核酸は、大腸菌NTRをコードしてもよいし、配列番号2の核酸配列を含むものであっても、それからなるものであってもよいし、又はそれを例示することができる。あるいは、該核酸は配列番号2に対し少なくとも60%の配列同一性を有してもよい。あるいは、上記配列同一性の程度は、かかる核酸によりコードされるポリペプチド又はタンパク質がニトロレダクターゼ機能を有することを条件として、少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の1つであってもよい。配列の同一性は所与のヌクレオチド配列の全長にわたって決定する。配列が異なる長さである場合、短い方の配列の配列同一性を長い方の配列の全長にわたって決定する。
【0023】
NTRをコードする上記核酸は、配列番号2の核酸又はその相補配列に対して高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする能力により選択することができる。
【0024】
上記単純ヘルペスウイルスのゲノムは、上記NTRをコードする核酸と機能的に連結された調節配列をさらに含んでもよく、ここで上記調節配列は上記核酸の転写制御機能を有する。
【0025】
NTRをコードする核酸は、単純ヘルペスウイルスのゲノムの少なくとも1つのRL1遺伝子座内に位置しうる。好適には、該核酸は単純ヘルペスウイルスのゲノムの少なくともの1つのICP34.5タンパク質コード配列の内に位置するか又はそれと重複することができる。該核酸は、RL1遺伝子座又はICP34.5タンパク質コード配列の両方(通常はこれで全てであろう)のコピー内に位置してもよい。
【0026】
単純ヘルペスウイルスは、好ましくは変異株であり、そしてHSV−1又はHSV−2の変異株、さらに好ましくはHSV−1 17株、HSV−1 F株、又はHSV−2 HG52株の1つの変異株である。単純ヘルペスウイルスは、HSV−1 17株の1716変異株のさらなる変異株であってもよい。
【0027】
ある特定の実施形態においては、単純ヘルペスウイルスは遺伝子特異的ヌル変異株、例えばICP34.5ヌル変異株であってもよい。
【0028】
他の実施形態においては、単純ヘルペスウイルスは少なくとも1つの発現可能なICP34.5遺伝子を欠損してもよい。
【0029】
さらに他の実施形態においては、単純ヘルペスウイルスはわずかに1つの発現可能なICP34.5遺伝子を欠損してもよい。
【0030】
さらに他の実施形態においては、単純ヘルペスウイルスは神経毒性がないものでありうる。
【0031】
本発明の単純ヘルペスウイルスにおいて、NTRをコードする核酸は単純ヘルペスウイルスのゲノム中に永久に組み込まれる核酸カセットの一部を形成するものであり、上記カセットは、以下:
(a)NTRをコードする核酸;
(b)リボソーム結合部位;及び
(c)マーカーをコードする核酸
を含み、ここでNTRをコードする核酸はリボソーム結合部位の上流(5’)に配置され、そしてリボソーム結合部位はマーカーをコードする核酸の上流(5’)に配置され、そして上記リボソーム結合部位は上記マーカーの転写制御機能を有する。
【0032】
調節性ヌクレオチド配列はNTRをコードする核酸の上流(5’)に位置し、ここで調節性ヌクレオチド配列はNTRをコードする核酸の転写、従って得られる転写産物及びポリペプチドの発現を制御及び調節する機能を有してもよい。調節配列は、当業者に公知の選択されたプロモーター又はエンハンサーエレメント、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを含みうる。適宜、調節配列は構成的であってもよいし又は誘導的であってもよい。
【0033】
カセットの構成要素は、好ましくは、予め定めた順序で配置される。
【0034】
好ましい一実施形態においては、NTRをコードする核酸をリボソーム結合部位の上流(すなわち、5’)に配置し、そしてリボソーム結合部位をマーカーの上流(すなわち、5’)に配置する。転写時に、NTRをコードする核酸を含む第1シストロン及びマーカーをコードする核酸を含む第2シストロンを含み、これらのシストロンの間にリボソーム結合部位が位置するカセットから、単一転写産物(例えば、mRNA転写産物)を産生させることができる。
【0035】
このカセットの転写産物は、NTRをコードする核酸によりコードされた第1シストロン及びマーカー核酸をコードする第2シストロンを含み、リボソーム結合部位が第1シストロンと第2シストロンの間に位置するバイシストロン又はポリシストロン転写産物であってもよい。
【0036】
他の実施形態においては、NTRをコードする核酸を第1調節性ヌクレオチド配列の上流(すなわち、5’)に配置し、そして第1調節性ヌクレオチド配列をマーカーの上流(すなわち、5’)に配置する。
【0037】
上記カセットは、単純ヘルペスウイルスゲノムのタンパク質コード配列を破壊して各遺伝子産物の不活性化をもたらすことができる。
【0038】
1つの好適なリボソーム結合部位はリボソーム侵入部位を含み、カセットの核酸によりコードされる転写mRNAへのリボソームの侵入を可能にして、リボソームを翻訳開始シグナルと結合させる。好ましくは、リボソーム侵入部位は内部リボソーム侵入部位(IRES)、さらに好ましくは脳心筋炎ウイルスIRESであって、cap依存性の翻訳開始を可能にする。IRESは従って、単一転写産物上の、バイシストロン又はポリシストロンmRNAの内部に位置するコード配列(すなわち、隣接シストロンの下流に位置するシストロン)の翻訳を可能にする。
【0039】
好ましくは、マーカーは、組換えによりカセットが組み込まれた単純ヘルペスウイルス変異株に感染した細胞株(例えば、BHK細胞)において発現することができるポリペプチドをコードする規定のヌクレオチド配列である。マーカーの機能は、カセットを用いて形質転換したウイルス変異株を含有するウイルスプラークの同定を可能にすることである。
【0040】
マーカーは、好ましくは検出可能なマーカー、さらに好ましくは発現可能なマーカーポリペプチド若しくはタンパク質であり、少なくとも選択したポリペプチド又はタンパク質をコードする配列を含む。マーカーをコードする核酸はさらに、コード配列の上流及び/又は下流に、マーカーmRNAの転写制御機能を有する調節配列を含んでもよい。好ましいマーカーとしては、緑色蛍光タンパク質(GFP)のタンパク質コード配列又は遺伝子、好ましくは強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP)のタンパク質コード配列又は遺伝子が挙げられる。
【0041】
他の実施形態においては、マーカーは、例えば蛍光又は放射性標識を用いて標識した対応する核酸プローブを用いた高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションによって検出可能な、規定のヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0042】
カセットはまた、ポリアデニル化(「ポリA」)配列をコードする核酸を含んでもよく、上記配列は好ましくはマーカーをコードする核酸の下流(3’)に配置する。1つの好ましいポリA配列はシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化配列である。カセット内のポリA配列の好ましい位置は、マーカーの直ぐ下流(すなわち、3’)である。
【0043】
本発明の単純ヘルペスウイルス変異株は、核酸カセットのウイルスゲノム中への位置指定挿入により、さらに好ましくは、相同組換えにより作製することができる。しかし、本発明のウイルスはこのように得られる単純ヘルペスウイルスに限定されるものでない。
【0044】
本発明の他の態様においては、本発明に係る単純ヘルペスウイルスを医学的治療の方法に使用するために提供する。適宜、上記単純ヘルペスウイルスを疾患の治療に使用するために提供する。好ましくは、上記単純ヘルペスウイルスを癌の治療に使用するために提供する。適宜、上記単純ヘルペスウイルスを癌/腫瘍の腫瘍溶解治療に使用するために提供することができる。本発明に係る単純ヘルペスウイルスの、癌の治療のための医薬の製造における使用も提供する。
【0045】
本発明の他の態様においては、腫瘍療法に使用するための本発明に係る単純ヘルペスウイルス変異株を含有する医薬、及び治療が必要な患者にHSV変異株又はかかるHSVを含むか若しくはそれにから誘導される医薬の有効量を投与するステップを含む腫瘍の治療方法も提供する。in vitro又はin vivoで腫瘍細胞を溶解又は死滅させる方法であって、治療が必要な患者に本発明に係る単純ヘルペスウイルスのある量を投与するステップを含む方法も提供する。
【0046】
本発明に係る単純ヘルペスウイルスを含有する医薬、医薬組成物又はワクチンも提供する。医薬、医薬組成物又はワクチンはさらに薬学的に許容される担体、アジュバント又は希釈剤を含んでもよい。医薬組成物又はワクチンはさらにNTRプロドラッグを含んでもよい。
【0047】
本発明にはまた、記載した他の態様及び特性のいずれかと組み合わせて提供することができる次の態様が含まれうる。
【0048】
本発明の他の態様によると、ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸配列を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0049】
本発明の他の態様によると、ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸配列を含み、神経毒性がないことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0050】
本発明の単純ヘルペスウイルスを含む組成物は、NTRプロドラッグと組み合わせて提供することができる。NTRプロドラッグはCB1954でありうる。
【0051】
本発明の他の態様によると、腫瘍の治療に使用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0052】
本発明の他の態様によると、腫瘍の治療に使用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、神経毒性がないことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0053】
本発明の他の態様によると、腫瘍の治療においてNTRプロドラッグと併用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0054】
本発明の他の態様によると、腫瘍の治療においてNTRプロドラッグと併用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、神経毒性がないことを特徴とする単純ヘルペスウイルスを提供する。
【0055】
本発明の他の態様によると、ある量の本発明の単純ヘルペスウイルスを含有する第1容器とある量のNTRプロドラッグを含有する第2容器とを含むキットオブパーツを提供する。
【0056】
他の態様においては、腫瘍を治療するための医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用も提供する。
【0057】
他の態様においては、腫瘍を治療するための医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用も提供する。
【0058】
他の態様においては、腫瘍を治療するための医薬の製造における単純ヘルペスウイルス及びNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用も提供する。
【0059】
他の態様においては、腫瘍を治療するための医薬の製造における単純ヘルペスウイルス及びNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用も提供する。
【0060】
他の態様においては、腫瘍の治療においてNTRプロドラッグを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用も提供する。
【0061】
他の態様においては、腫瘍の治療において単純ヘルペスウイルスを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造におけるNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用も提供する。
【0062】
他の態様においては、腫瘍の治療において単純ヘルペスウイルスを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造におけるNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用も提供する。
【0063】
他の態様においては、腫瘍の治療においてNTRプロドラッグを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用も提供する。
【0064】
連続投与の間の時間間隔は、単純ヘルペスウイルスとNTRプロドラッグが体内で相互作用して活性医薬成分をin situで産生できるようにする時間である。好ましい時間間隔は15分間未満、1時間未満、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、12時間、24時間、48時間、1週間、2週間である。該単純ヘルペスウイルス又はNTRプロドラッグのいずれを最初に投与してもよい。
【0065】
他の態様においては、腫瘍の治療方法であって、以下のステップ:
(i)治療が必要な患者に単純ヘルペスウイルスを投与するステップであって、上記ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内にニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記ステップ;及び
(ii)上記患者に治療上有効な量のNTRプロドラッグを投与するステップ
を含む方法を提供する。
【0066】
他の態様においては、腫瘍の治療方法であって、以下のステップ:
(i)治療が必要な患者に単純ヘルペスウイルスを投与するステップであって、上記ウイルスのゲノムがニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記ステップ;及び
(ii)上記患者に治療上有効な量のNTRプロドラッグを投与するステップ
を含む上記方法を提供する。
【0067】
上記治療方法において、上記単純ヘルペスウイルスは腫瘍細胞を、例えば腫瘍溶解によって、死滅可能であることが好ましい。
【0068】
NTRプロドラッグに関する本発明の態様において、好ましいプロドラッグの1つはCB1954である。
【0069】
他の態様においては、ニトロレダクターゼをin vitro又はin vivoで発現させる方法であって、少なくとも1つの対象の細胞又は組織に単純ヘルペスウイルスを感染させるステップを含み、上記ウイルスのゲノムは少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、上記ニトロレダクターゼは転写調節配列に機能的に連結されている、上記方法を提供する。
【0070】
他の態様においては、ニトロレダクターゼをin vitro又はin vivoで発現させる方法であって、少なくとも1つの対象の細胞又は組織に神経毒性がない単純ヘルペスウイルスを感染させるステップを含み、上記ウイルスのゲノムは異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、上記ニトロレダクターゼは転写調節配列に機能的に連結されている、上記方法を提供する。
【0071】
HSVゲノムの少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸を有する本発明の単純ヘルペスウイルスは、好ましくは上記核酸をHSVゲノムの複数の長い反復領域のそれぞれの内に有する。2つの長い反復領域が通常HSVゲノム内に存在する。
【0072】
NTRヌクレオチド配列は全長転写産物又はポリペプチドをコードしうる(すなわち、完全なNTRタンパク質コード配列を含む)。あるいは、NTRヌクレオチド配列は、ポリペプチド産物がニトロレダクターゼ活性を保持するという条件で、全長転写産物の断片又は末端切断されたポリペプチドをそれぞれコードする全長配列の1以上の断片を含んでよい。
【0073】
断片は、対応する全長配列の少なくとも10%をコードするヌクレオチド配列を含むことができ、さらに好ましくは、該断片は対応する全長配列の少なくとも20、30、40、50、60、70、80、85、90、95、96、97、98又は99%を含む。好ましくは該断片は、少なくとも、すなわち最小長さが20ヌクレオチド、さらに好ましくは、少なくとも30、40、50、100、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900 2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900又は4000ヌクレオチドを含む。該断片は、最大長さが、すなわち、20ヌクレオチド以下、さらに好ましくは、30、40、50、100、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900 2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900又は4000ヌクレオチド以下でありうる。断片の長さは上記最小長さと最大長さの間のいずれの長さであってよい。
【0074】
1つの好ましい実施形態においては、HSV変異株はHSV1716/CMV−NTR/GFPであり、該HSV変異株は、Crusade Laboratories Limited(住所:Department of Neurology Southern General Hospital 1345 Govan Road Govan Glasgow G51 5TF Scotland)の名前で、2003年11月5日、欧州細胞培養コレクション(the European Collection of Cell Cultures (ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, OJG, United Kingdom)に受託番号03110501としてブダペスト条約の条項に従って寄託されている。
【0075】
適宜、上記単純ヘルペスウイルス及び/又は上記NTRプロドラッグの投与は非経口投与であってもよい。好ましくは、単純ヘルペスウイルスの投与は、注入、さらに好ましくは治療対象の腫瘍への注入による。NTRプロドラッグも注入により投与することができ、腫瘍部位への直接注入であってもよい。あるいは、注入を静脈内に行ってもよい。
【0076】
単純ヘルペスウイルスとNTRプロドラッグの投与は、例えば、ウイルスとプロドラッグを単一組成物中で混合することにより同時であってもよいし、又は、例えば、片方を投与した直後に他方を投与することにより実質的に同時であってもよい。あるいは、予め定めた時間間隔を単純ヘルペスウイルスとNTRプロドラッグの投与の間に置いてもよい。本発明は投与順序により限定されるものでない。
【0077】
本発明のさらなる態様においては、ニトロレダクターゼをコードする核酸を少なくとも1つの対象の細胞又は組織に送達するためのin vitro又はin vivoの方法であって、上記細胞又は組織を本発明に係る単純ヘルペスウイルスに感染させるステップを含む上記方法を提供する。
【0078】
本発明の他の態様においては、ある量の本発明の単純ヘルペスウイルスを提供する第1容器とある量のNTRプロドラッグを提供する第2容器とを含むキットオブパーツを提供する。場合によっては単純ヘルペスウイルス及び/又はNTRプロドラッグの好適な投与量についての情報を含む、投与のための指示書を該キットとともに提供することもできる。
【0079】
本発明の他の態様においては、本発明の改変した単純ヘルペスウイルスを作製又は産生する方法であって、ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を、選択した単純ヘルペスウイルスのゲノム内の選択した及び/又は所定の挿入部位に導入するステップを含む、上記方法を提供する。
【0080】
記載した通り、ニトロレダクターゼをコードする核酸配列が一部分を構成する核酸カセットを、選択した単純ヘルペスウイルスのゲノム内に相同組換えにより挿入することができる。カセットの一部分であるか否かを問わず、挿入の部位はいずれかの選択したゲノム位置であってよい。好ましい挿入部位の1つは長い反復領域(R)の1つ又は両方であり、1コピーのカセットを好ましくは反復領域(R)のそれぞれのコピー内に挿入する。さらに好ましくは、挿入部位は少なくとも1つの(好ましくは両方の)RL1遺伝子座内であり、そして最も好ましくは少なくとも1つの(好ましくは両方の)HSVゲノムDNAのICP34.5タンパク質コード配列内に挿入する。その挿入は2つの反復領域、RL1遺伝子座又はICP34.5タンパク質コード配列のそれぞれにおける同一又は実質的に類似した位置に起こることが好ましい。
【0081】
挿入により、神経毒性のない変異株であって、哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞中へのin vivo及びin vitroトランスフェクション時に、コードされたニトロレダクターゼポリペプチドをNTRプロドラッグの取込み及び/又は活性化を促進する機能を有する形態で発現する能力のある改変型ウイルスを作ることができる。神経毒性のない変異株は、ICP34.5ヌル変異株でありうる。
【0082】
核酸カセットは、いずれのサイズであってもよく、例えば、長さが5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50kbp以下である。
【0083】
好ましくは、単純ヘルペスウイルスは少なくとも1コピーのニトロレダクターゼをコードする核酸を、それぞれの長い反復領域(R)、すなわち、末端及び内部の長い反復(TR及びIR)領域内に含有する。好ましい実施形態において、それぞれの外因性配列又はカセットは、単純ヘルペスウイルスゲノムのRL1遺伝子座内に、より好ましくはICP34.5遺伝子若しくはタンパク質コード配列をコードする単純ヘルペスウイルスゲノムのDNA内に位置する。従って、単純ヘルペスウイルスは神経毒性を有しない。
【0084】
本発明のウイルスが由来する親単純ヘルペスウイルスは、いずれの種であってもよく、例えば、HSV−1又はHSV−2である。ある好ましい実施形態においては、単純ヘルペスウイルスはHSV−1 17株の変異株であって17株ゲノムDNAの改変により得ることができる。好適な改変としては、外来性ニトロレダクターゼ核酸配列又は該配列を含む外来性/異種カセットの単純ヘルペスウイルスゲノムDNA中への挿入が挙げられる。挿入は、外来性核酸配列の選択した単純ヘルペスウイルスのゲノム中への相同組換えによって実施することができる。
【0085】
本発明の単純ヘルペスウイルスの神経毒性なしの表現型は、外来性核酸配列のRL1遺伝子座における挿入の結果であってもよいが、本発明に係る単純ヘルペスウイルスは神経毒性のない親株、例えば、ブダペスト条約(the Budapest Treaty at the European Collection of Animal Cell Cultures (ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, United Kingdom)に基づいて受託番号V92012803として寄託されているHSV1716を利用して、ゲノムの他の位置に外来性核酸配列を、標準の遺伝子操作技法、例えば、相同組換えによって挿入することにより取得することができる。この態様においては、ニトロレダクターゼ核酸配列又は上記配列を含有するカセットの挿入のために選択される単純ヘルペスウイルスゲノムの位置は中立の位置でありうる。
【0086】
本発明の単純ヘルペスウイルスは、本発明の単純ヘルペスウイルスが由来する公知の「親」株の変異株であってもよい。特に好ましい親株はHSV−1 17株である。他の親株としては、HSV−1 F株又はHSV−1 HG52株が挙げられる。変異株としては、実質的に親のゲノムに類似し、ニトロレダクターゼ核酸配列又は上記配列を含有するカセットを含み、そして導入されると単純ヘルペスウイルスの病原特性を無能化することができる限られた数の他の改変、例えば、1つ、2つ若しくは3つの他の特定の突然変異、例えば、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)遺伝子、65Kトランス誘導因子(TIF)における突然変異、及び/又はin vivo若しくはin vitroでの複製・選択中に自然に組み込まれうる自然の変化からもたらされる少数の突然変異を含有するHSVが含まれる。あるいは、変異株のゲノムは親株のゲノムであってもよい。
【0087】
本発明の単純ヘルペスウイルスは、単独で、又はNTRプロドラッグと併用して医学的治療の方法に使用することができる。これは、細胞増殖に関連する若しくは関わる疾患、又はいずれかの種類の癌若しくは腫瘍の治療を含みうる。治療は分裂細胞の選択的溶解に関わりうる。治療は腫瘍溶解、すなわち腫瘍細胞の溶解であってもよい。治療対象の腫瘍はいずれの種類であってもよく、癌、新生物又は新生物組織が含まれかつ動物又はヒト患者のいずれのものであってもよい。
【0088】
治療することができる癌/腫瘍の種類は原発性又は二次性(転移性)腫瘍であってもよい。治療する腫瘍は、中枢神経系若しくは末梢神経系に由来する神経系腫瘍、例えば、神経膠腫、髄芽腫、髄膜腫、神経繊維腫、上衣細胞腫、シュワン腫、神経繊維腫、星細胞腫及び欠突起膠腫であってもよいし、あるいは非神経系組織に由来する非神経系腫瘍、例えば、黒色腫、中皮腫、リンパ腫、肝細胞腫、類表皮癌、前立腺癌、乳癌細胞、肺癌細胞又は大腸癌細胞であってもよい。本発明のHSV変異株を用いて非神経系組織に由来する中枢神経系又は末梢神経系の転移性腫瘍を治療することができる。
【0089】
本発明の単純ヘルペスウイルスはin vitro若しくはin vivoの「遺伝子送達」方法に用いることができる。本発明の神経毒性のない単純ヘルペスウイルスは発現ベクターであって、単純ヘルペスウイルスゲノムによりコードされるニトロレダクターゼを発現させる目的で、選択した細胞若しくは組織に感染させるために使用することができる。
【0090】
ある実施形態においては、細胞を患者、ドナー、又は他のいずれかの供給源から採取し、本発明の単純ヘルペスウイルスに感染させ、場合によっては、コードされたニトロレダクターゼの発現及び/又は機能についてスクリーニングし、そして場合によっては患者の体内に、例えば注入により、戻す及び/又は導入することができる。
【0091】
本発明の単純ヘルペスウイルスの選択した細胞への送達は、裸のウイルスを用いて又はウイルスを担体、例えば、ナノ粒子、リポソーム若しくは他の小胞内に封入して実施することができる。
【0092】
本発明のウイルスを用いて形質転換されかつ好ましくはニトロレダクターゼタンパク質を発現するin vitro培養細胞、好ましくはヒト又は哺乳動物細胞、並びにかかる細胞をin vitroで上記ウイルスを用いて形質転換する方法は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0093】
本明細書において、単純ヘルペスウイルス変異株は非野生型単純ヘルペスウイルスであり、そして組換え単純ヘルペスウイルスであってもよい。単純ヘルペスウイルス変異株は野生型と比較して改変を含有するゲノムを含んでもよい。改変は少なくとも1つの欠失、挿入、付加又は置換を含みうる。
【0094】
本発明の態様による医薬及び医薬組成物は、いくつかの経路による投与用に製剤化することができ、上記経路としては、限定されるものでないが、非経口、静脈内、筋肉内、腫瘍内、経口及び経鼻が挙げられる。医薬及び組成物は液状又は固形(例えば、錠剤)で製剤化することができる。液状製剤は、ヒト又は動物の身体の選択した領域への注入による投与用に製剤化することができる。
【0095】
本明細書においては、神経毒性が無いというのは、高力価のウイルス(ほぼ10プラーク形成ユニット(pfu))を動物又は患者に導入しても22、23、致死性脳炎を引き起こすことがなく、動物、例えばマウス又はヒト患者におけるLD50がほぼ≧10pfuの範囲にある21ことによって定義する。
【0096】
単純ヘルペスウイルスゲノム内に存在するICP34.5遺伝子の全コピー(2コピーが通常存在する)を破壊して、単純ヘルペスウイルスが機能的なICP34.5遺伝子産物を産生できないようにした場合、該ウイルスはICP34.5ヌル変異株であると考えられる。
【0097】
ヌクレオチド配列と機能的に連結された調節配列(例えば、プロモーター)を該配列に隣接して又は近接して配置して、調節配列が上記ヌクレオチド配列の産物の発現を実施及び/又は制御できるようにすることができる。従って、ヌクレオチド配列にコードされた産物は該調節配列から発現可能である。
【0098】
NTRプロドラッグ
本明細書において、「NTRプロドラッグ」は、選択したヒト若しくは動物の身体に対して又はヒト若しくは動物の身体の選択した細胞若しくは組織に対して毒性がないか又は低毒性である化学化合物又は薬剤であって、かつニトロレダクターゼ酵素によりヒト若しくは動物の身体又はそれらの選択した細胞に対して細胞傷害性である化学化合物又は薬剤に活性化されうる任意の化学化合物又は薬剤を意味する。
【0099】
「活性化」とは毒性のない(又は低毒性の)プロドラッグの細胞傷害性の活性型への変換を意味しうる。この変換はプロドラッグのNTRによる酵素的還元を意味しうる。酵素的還元反応はNTRの基質としてのプロドラッグを必要とし、そして他の補因子を必要としうる。
【0100】
NTRプロドラッグの例としては、次のクラスの分子から誘導される化合物を挙げることができる:
1.ジニトロベンズアミド類;
2.ジニトロアジリジニルベンズアミド類(例えば、CB1954);
3.ジニトロベンズアミドマスタード誘導体(例えば、SN23862);
4.4−ニトロベンジルカルバメート類;
5.ニトロインドリン類;
6.NTRの基質でありかつNTR還元時に活性化されて細胞傷害性ホスホルアミドマスタード又は同様の反応性化学種を遊離するニトロ芳香族(ニトロアリールホスホルアミド類とも呼ばれる)17
7.ジニトロベンズアミドクラスのニトロ芳香族プロドラッグ。
【0101】
NTRプロドラッグの例は参考文献16及び17に開示されていて、これらは本明細書にその全文が参照により組み入れられる。
【0102】
ニトロレダクターゼ(NTR)
ニトロレダクターゼ酵素は共通してニトロ化合物、キノン類、及び色素の還元を触媒する。酵素的還元には補因子NADPHが必要でありうる。
【0103】
本明細書においてニトロレダクターゼ(NTR)は、NTRプロドラッグを活性のある細胞傷害型に活性化することができる酵素を意味する。
【0104】
好ましいNTRは、ニトロフラゾンなどの広範囲のニトロ含有化合物を(ヒドロキシルアミン類へ)及びメナジオンなどのキノン類を(キノール類へ)還元する能力を有しうる。
【0105】
好ましいNTRは、不可逆性阻害剤であるジクマロールによって特異的に抑制されうる。
【0106】
好ましいNTRの1つは大腸菌酸素非感受性ニトロレダクターゼ酵素(nfsB遺伝子産物)である。大腸菌NTRの配列情報は、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)においてアクセッション番号BA000007(GI:47118301)(大腸菌完全ゲノム配列)及びBAB34039(GI:13360074)(ニトロレダクターゼ配列情報)として見出すことができる。
【0107】
大腸菌NTRタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)及び大腸菌NTR遺伝子のポリヌクレオチド配列(配列番号2)を図32(A)及び(B)にそれぞれ複写した。
【0108】
好適なニトロレダクターゼ酵素のヌクレオチド及びアミノ酸配列は、ヒト、非ヒト哺乳動物及び細菌を含む動物、昆虫又は微生物から誘導するか又は得ることができ、かつ公的に利用しうる配列から選択することができる。その他のニトロレダクターゼ遺伝子の多数の配列が公的に利用しうる。本発明に係る単純ヘルペスウイルスの一部分を形成しうるその他のニトロレダクターゼ核酸配列の例としては、NCBIデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov)のアクセッション番号により参照して、次が挙げられる:
−BAB34039(GI:13360074)−大腸菌
−BAA35218.1(GI:1651240)−大腸菌
−AAB72053.1(GI:2415385)−枯草菌。
【0109】
ハイブリダイゼーションストリンジェンシー
本発明において、核酸配列はハイブリダイゼーションと適当なストリンジェンシーの洗浄条件を用いることにより同定することができる。
【0110】
相補的核酸配列はワットソン−クリック結合相互作用を介して互いにハイブリダイズしうる。100%相補的でない配列もハイブリダイズするが、ハイブリダイゼーションの強度は相補性の低下とともに通常低下しうる。従って、ハイブリダイゼーションの強度を利用して互いに結合しうる配列の相補性の程度を識別することができる。
【0111】
当業者はハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」を容易に決定することができる。
【0112】
所与の反応のストリンジェンシーは、プローブ長さ、洗浄温度、及び塩濃度などの因子に依存しうる。一般的に長いプローブの適当なアニーリングにはより高い温度を必要とする一方、より短いプローブはより低い温度でアニーリングすることができる。プローブとハイブリダイズしうる配列の間の所望の相補性の程度が高いほど、利用しうる相対温度は高い。結果として、より高い相対温度は反応条件をよりストリンジェントにする一方、より低い温度はストリンジェンシーをより低くする。
【0113】
例えば、ハイブリダイゼーションは、Sambrookらの方法("Molecular Cloning, A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に従って、5X SSC、5Xデンハルト試薬、0.5〜1.0%SDS、100μg/ml変性断片化サケ精子DNA、0.05%ピロリン酸ナトリウムおよ50%以下のホルムアミドを含むハイブリダイゼーション溶液を用いて実施することができる。ハイブリダイゼーションは37〜42℃にて少なくとも6時間実施する。ハイブリダイゼーションの後、フィルターを次の通り洗浄する:(1)室温にて2X SSC及び1%SDS中で、5分間;(2)室温にて2X SSC及び0.1%SDS中で、15分間;(3)37℃にて1X SSC及び1%SDS中で、30分間〜1時間;(4)42〜65℃にて1X SSC及び1%SDS中で、溶液を30分間毎に変えて、2時間。
【0114】
核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するために必要なストリンジェンシー条件を計算する一般式の1つは、融点Tmを計算するものである(Sambrookら, 1989):
=81.5℃+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/n
(式中、nはオリゴヌクレオチド中の塩基数である)。
【0115】
上記式の一例として、[Na+]=[0.368]及び50%ホルムアミド、GC含量42%及び平均プローブサイズ200塩基を用いると、Tは57℃である。DNA2本鎖のTは配列相補性の1%低下毎に1〜1.5℃だけ低下する。
【0116】
従って、ヌクレオチド配列は、上記式を用いて選択することができる種々のハイブリダイゼーション及び洗浄ストリンジェンシー条件のもとで標的配列とハイブリダイズする能力により分類することができる。Tをハイブリダイゼーション強度の指標を与えるために利用することができる。
【0117】
条件のストリンジェンシーに基づいて配列を識別する概念は、当業者に周知であり、容易に応用することができる。
【0118】
95〜100%配列相補性を示す配列は、非常に高いストリンジェンシー条件のもとでハイブリダイズすると考えることができ、85〜95%相補性を示す配列は、高いストリンジェンシー条件のもとでハイブリダイズすると考えることができ、70〜85%相補性を示す配列は、中程度のストリンジェンシー条件のもとでハイブリダイズすると考えることができ、60〜70%相補性を示す配列は、低いストリンジェンシー条件のもとでハイブリダイズすると考えることができ、50〜60%相補性を示す配列は、非常に低いストリンジェンシー条件のもとでハイブリダイズすると考えることができる。
【0119】
本発明は、その組み合わせが容認されないか又は明らかに無効である場合を除き、記載した態様及び好ましい特徴の組み合わせを含むものである。
【0120】
本発明の態様及び実施形態を、これから例示として添付する図面を参照して説明する。さらなる態様及び実施形態は当業者にとって明白であろう。本明細書に記述した全文書は本明細書に参照により組み入れられる。
【0121】
図面の簡単な説明
図1:プラスミドpNAT−IRES−GFP及びRL1.delからのプラスミドRL1.dIRES−GFPの作製を示す。
【0122】
図2:HpaI消化し、CIP処理したRL1.delのアガロースゲル電気泳動を示す。RL1.delをHpaIを用いて消化した。消化したDNAを次いで、次のライゲーション反応でベクター自体の再アニーリングを防止するために仔ウシ腸ホスファターゼ(CIP)を用いて処理した。消化/CIP処理したDNAのサンプルを、1KbpのDNAラダー(Promega)と共に、1%アガロースゲル上で電気泳動した。HpaIはベクターを8.6Kbpにおいて直鎖化した。
【0123】
図3:NsiI/SspI消化したpNAT−IRES−GFP(A)及び精製/平滑末端pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyA(B)のアガロースゲル電気泳動を示す。pNAT−IRES−GFPの4つのNsiI/SspI消化断片を、1KbpのDNAラダー(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動した。5.4Kbp断片(pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyA)をゲルから精製した。精製したDNAをクレノウポリメラーゼを用いて平滑末端化し、サンプルをアガロース上で電気泳動してその濃度を確認した。
【0124】
図4:pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyAインサートを含有するRL1.delクローンの同定を示す。精製して末端平滑化したpCMV−NAT−IRES−GFP−PolyA断片とHpaI消化してCIP処理したRL1.delとを用いてライゲーション反応を実施した。細菌を、ライゲーション反応物から得たサンプルを用いて形質転換し、LBA(Amp)プレート上にまいた。コロニーを拾い、プラスミドDNAを抽出し、AflIIを用いて消化した。消化したサンプルを、1KbpのDNAラダー(L)(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動した。クローン5と8は、AflII消化により予想サイズ(4.8Kbp及び9.2Kbp)の2つの断片が作製されたので、pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyAインサートを含有する。インサート無しのクローンは、RL1.del内にAflII部位がないので、AflIIによって消化されないであろう。注:両方向のインサートが受け入れられば、インサートは二方向にクローニングされうる。
【0125】
図5:クローン5(RL1.dCMV−NAT−GFPb)中のpCMV−NAT−IRES−GFP−PolyAの方向の決定を示す。pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyA(平滑末端)は、RL1.delのHpaI部位中に二方向でクローニングされうる。クローン5内のインサートの方向を決定するために、プラスミドをXhoIを用いて消化しそして消化したDNAを1KbpのDNAラダー(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動した。もしインサートがAに示した方向にクローニングされていれば、10.2Kbpと3.8Kbpの2つの断片がXhoI消化から作製されうる。もしインサートが逆方向にクローニングされていれば(B)、12.4Kbpと1.6Kbpの2つの断片が作製されうる。10.2Kbp及び3.8Kbpの2つの断片のゲル中の存在により、インサートがAに示した方向にクローニングされていることを確認した。
【0126】
このXhoI部位は、最初のクローニングベクター(RL1.del)中のHpaI部位の上流に存在し、この中にpCMV−NAT−IRES−GFP−PolyAがクローニングされている。
【0127】
図6:クローン5(A)からのpCMV−NATの除去とRL1.dIRES−GFP(B)の大規模プラスミド調製を示す。4つのクローン5のサンプルをXhoIを用いて消化し、1KbpのDNAラダー(L)(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動した(A)。この消化から作製されたDNAの大きい方の断片(10.2Kbp)をゲルから精製し、XhoI部位に戻しライゲーションを行い、新しいプラスミドにおいて単一XhoIを形成させ、RL1.dIRES−GFPと名付けた。大規模プラスミド調製物を増殖させ、該調製物をXhoIを用いて消化することにより確認した。1μl及び4μlの消化したDNAを1KbpのDNAラダー(L)(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動した(B)。該DNAは、XhoIを用いて消化すると10.2Kbpの単一断片を産生するはずである。RL1.dIRES−GFPのClaI、BglII、NruI及びXhoI部位は全て特有のものである。
【0128】
クローン5は、RL1.del プラスミド中に、pNAT−IRES−GFPからの5.4Kbp pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyA断片がクローニングされたものである。
【0129】
図7:目的遺伝子産物を発現するICP34.5ヌルHSV−1の作製、検出及び精製を示す。
【0130】
図8:pPS949からのpCMV−NTRをRL1.dIRES−GFP中にクローニングするために用いた手法を示す。(1)pPS949をBamH1を用いて消化し、1.6KbpのpCMV−NTR断片を精製する;(2)RL1.dIRES−GFPをBglIIを用いて消化し、仔ウシ腸ホスファターゼ(CIP)を用いて処理する;(3)pCMV−NTR断片(BamHI末端)をRL1.dIRES−GFPのBglII部位中にクローニングする。
【0131】
pPS949プラスミドは、Lawrence Young教授(University of Birmingham)から供与を受けたものであり、pLNCX(Clontech)中のCMV−IEプロモーター(pCMV)の下流に大腸菌ニトロレダクターゼ(NTR)遺伝子を含有する。
【0132】
図9:BamHI消化したpPS949(A)及び精製したpCMV−NTR断片(B)のアガロースゲル電気泳動を示す。pPS949の4つのサンプルをBamHIを用いて消化し、1KbpのDNAラダー(L)(New England Biolabs)と共に、1%アガロースゲル上で電気泳動した。CMV IEプロモーター(pCMV)と下流の大腸菌ニトロレダクターゼ(NTR)遺伝子から成る1.6Kbpの断片をゲルから精製し、精製したDNAのサンプルをアガロースゲル上で電気泳動してその濃度を確認した。
【0133】
図10:BglIIで消化し、CIPで処理したRL1.dIRES−GFPのアガロースゲル電気泳動を示す。RL1.dIRES.GFPをBglIIを用いて消化した。消化したプラスミドを次いで、次のライゲーション反応でベクター自体の再アニーリングを防止するために仔ウシ腸ホスファターゼ(CIP)を用いて処理した。消化/CIP処理したDNAのサンプルを、1KbpのDNAラダー(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動してその濃度を確認した。pPS949からのpCMV−NTRを、その後に、消化/CIP処理したベクター中にクローニングした。
【0134】
図11:クローン4中のpCMV−NTRの方向の決定を示す。pCMV−NTR(BamHI末端)はRL1.dIRES−GFPのBglII部位中に二方向にクローニングされうる。その方向を決定するために、クローン4をBglIIとXhoIを用いて消化し、消化したDNAを1KbpのDNAラダー(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動した。もしインサートが所望の方向(A)にあれば、2つの断片(11.5Kbpと300bp)が作製されうる。もし逆方向にあれば、10.5Kbpと1.3Kbpの2つの断片が作製されうる。300bp程度のバンドの存在(及び1.3Kbpのバンドの不在)により、pCMV−NTR断片がベクター中に所望の方向でクローニングされていることを確認した。
【0135】
図12:ScaIで消化したクローン4(A)のアガロースゲル電気泳動及びHSV1716/CMV−NTR/GFPウイルスの力価(B)を示す。クローン4(RL1.dCMV−NTR−GFP)をScaIを用いて消化し、消化したDNAを精製し、そして5μlを1KbpのDNAラダー(Promega)と共に1%アガロースゲル上で電気泳動してその濃度を確認した。80%コンフルエントのBHK細胞を次いで10μlのHSV17DNA及び適当な容積の残りの消化したクローン4を用いて共トランスフェクトした。細胞を37℃にて3日間、cpeが明白になるまでインキュベートした。組換えウイルスのプラークを蛍光顕微鏡下で拾い、精製し、そしてウイルスストックをHSV1716/CMV−NTR/GFPと名づけて増殖させた。ウイルスストックの細胞結合画分及び細胞遊離画分をBHK細胞上で力価測定した。
【0136】
図13:コンフルエントBHK及び3T6細胞中のHSV17、HSV1716及びHSV1716/CMV−NTR/GFPの増殖動力学を示す。コンフルエントBHK及び3T6細胞を0.1pfu/細胞のMOIにて感染させた。感染した細胞を感染後0、4、24、48及び72時間に回収し、音波処理し、そして子孫ウイルスをBHK細胞単層上で力価測定した。BHK細胞において、全てのウイルスが類似した動力学で複製した(A);コンフルエント3T6細胞において、HSV1716及びHSV1716/CMV−NTR/GFPは両方とも、効率的に複製しなかった(B)。
【0137】
図14:HSV17及びHSV1716/CMV−NTR/GFPに感染したBHK細胞内のICP34.5発現についてのウェスタンブロット分析を示す。BHK細胞をHSV17及びHSV1716/CMV−NTR/GFPに10pfu/細胞のMOIにて感染させた。感染後16時間に細胞を回収し、タンパク質抽出物を10%SDS−PAGEを用いてウェスタンブロットでポリクローナル抗ICP34.5抗体を利用して分析した。ICP34.5は、HSV17感染細胞で強く発現したが、HSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞では発現しなかった。
【0138】
図15:HSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞株におけるNTR発現についてのウェスタンブロット分析を示す。BHK、C8161、VM及び3T6細胞を10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFP、HSV17に感染させるか、又は感染させなかった(mock)。感染後16時間に、細胞を回収し、タンパク質抽出物をウェスタンブロットでポリクローナルNTR特異的抗体を利用して分析した。全てのHSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞において有意なNTR発現を検出した。感染なし(mock)又はHSV17感染細胞においてNTR発現は検出されなかった。
【0139】
図16:CB1954(50μM)の存在下又は不在下における、HSV1716/CMV−NTR/GFP及びHSV1716−GFPのコンフルエント3T6細胞に対する影響を示す。96ウエルプレートの3ウエル内のコンフルエント3T6細胞を、非感染(mock)、1若しくは10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFP、又は1pfu/細胞のHSV1716−GFPに感染させた。45分後、感染細胞に50μM CB1954を含有する培地又は単独の培地を積層して37℃にてインキュベートした。24、48、72、96、及び120時間後、細胞生存%を、Cell Titer 96 Aqueous One Solution細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて、プロドラッグの不在下における非感染(mock)細胞の細胞生存%と比較して決定した。示した図は3回の測定値の平均+/−標準誤差を示す。
【0140】
図17:CB1954(50μM)の存在下又は不在下における、HSV1716/CMV−NTR/GFP及びHSV1716−GFPのコンフルエントC8161細胞に対する影響を示す。96ウエルプレートの3ウエル内のコンフルエントC8161細胞を、非感染(mock)、1若しくは10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFP、又は1pfu/細胞のHSV1716−GFPに感染させた。45分後、感染細胞に50μM CB1954を含有する培地又は単独の培地を積層して37℃にてインキュベートした。24、48、72、96、及び120時間後、細胞生存%を、Cell Titer 96 Aqueous One Solution細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて、プロドラッグの不在下における非感染(mock)細胞の細胞生存%と比較して決定した。示した図は3回の測定値の平均+/−標準誤差を示す。
【0141】
図18:10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFPを用いて(A)又は50μM CB1954の存在下の10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFPを用いて(B)処置し、72時間後のコンフルエント3T6細胞を示す。50μM CB1954を含有する培地を積層したHSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞における細胞死の程度は、通常培地を積層したHSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞における細胞死の程度より有意に顕著である。これらの細胞の、CB1954の存在下又は不在下の10pfu/細胞 HSV1716に感染させた後の細胞死の程度は、Aで観察されたものに匹敵し得るものである(データは示してない)。50μM CB1954単独による処理はこれらの細胞に影響を与えない。
【0142】
図19:10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFP(A)、又は50μM CB1954と共に10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFP(B)を用いて処置した後、72時間のコンフルエントC8161細胞を示す。50μM CB1954を含有する培地を積層したHSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞における細胞死の程度は、通常培地を積層したHSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞における細胞死の程度より有意に顕著である。これらの細胞の、CB1954の存在下又は不在下の10pfu/細胞 HSV1716に感染させた後の細胞死の程度は、Aで観察されたものに匹敵し得るものである(データは示してない)。50μM CB1954単独はこれらの細胞に影響を与えない。
【0143】
図20:腫瘍内にHSV1790を注入した皮下A2780(異種移植片)腫瘍をもつ胸腺欠損ヌードマウスの体重変化(健康の目安として)を示す。グループサイズ=1投与当たり3匹のマウス。腫瘍内注入の日(第0日)におけるA2780異種移植片は直径0.5〜1mmである。異種移植片は、雌性胸腺欠損ヌードマウスの側部皮下に10×10 A2780細胞を注入した12日後にこのサイズに達した。
【0144】
図21:A2780異種移植片をもつ胸腺欠損ヌードマウスにおける、HSV1790の腫瘍内注入後の腫瘍体積の経時変化を示す。
【0145】
図22:マウスの開始腫瘍サイズを示す。
【0146】
図23:CMV−ntr、CB1954又は両方の併用による処置後の体重の変化を示す。
【0147】
図24:CMV−ntr、CB1954又は両方の併用による処置後の腫瘍体積の変化を示す。
【0148】
図25:それぞれの処置グループの開始腫瘍体積を示す(表2を参照)。
【0149】
図26:HSV1790、HSV1716、CB1954又はそれらの併用により処置したA2780異種移植片をもつ胸腺欠損ヌードマウスの体重(健康の目安として)を示す。
【0150】
図27:プロドラッグCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【0151】
図28:10PFU HSV1790及びCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【0152】
図29:10PFU HSV1790及びCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【0153】
図30:10PFU HSV1716及びCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【0154】
図31:10PFU、10PFU HSV1790及び10PFU HSV1716の比較を示す。
【0155】
図32:大腸菌NTRの配列情報、(A)NTRポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号1);(B)NTR遺伝子のポリヌクレオチド配列(配列番号2)を示す。
【0156】
図33:2つのNTRプロドラッグ、(A)CB1954;(B)SN23862の構造を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0157】
本発明者らが意図する本発明を実施するための最良の形態の具体的な詳細を、以下に例として説明する。当業者には、本発明がこれらの具体的な詳細に限定されることなく実施できることは明白であろう。
【0158】
単純ヘルペスウイルス変異株を作製するために有用なベクター
本発明の単純ヘルペスウイルス変異株は、核酸ベクターを利用して作製することができる。
【0159】
本発明に係る単純ヘルペスウイルス変異株を作製するために有用なベクターの1つは、
選択した単純ヘルペスウイルスのゲノム内の挿入部位に隣接するヌクレオチド配列に対応する第1及び第2ヌクレオチド配列;並びに
上記第1及び第2ヌクレオチド配列の間に位置して
a)1つ又は複数の挿入部位;及び
b)リボソーム結合部位;及び
c)マーカー
をコードする核酸を含むカセット
を含むか、から成るか、又は本質的にから成る核酸ベクターである。
【0160】
本発明に係る単純ヘルペスウイルス変異株を作製するために有用な他のベクターは、
選択した単純ヘルペスウイルスのゲノム内の挿入部位に隣接するヌクレオチド配列に対応する第1及び第2ヌクレオチド配列;並びに
上記第1及び第2ヌクレオチド配列の間に位置して、
a)1つ又は複数の挿入部位;及び
b)第1の調節性ヌクレオチド配列;及び
c)マーカー
をコードする核酸を含むカセット
を含むか、から成るか又は本質的にから成る核酸ベクターである。
【0161】
第1及び第2ヌクレオチド配列は、選択した単純ヘルペスウイルスのゲノムのICP34.5タンパク質コード配列内に形成される挿入部位に隣接するか、又はそれらの全て若しくは一部を含むヌクレオチド配列に対応してもよい。
【0162】
カセットは複数の挿入部位を含んでもよく、それぞれの挿入部位は好ましくは特定の制限エンドヌクレアーゼ部位(「制限部位」)をコードする核酸により形成される。制限部位は一緒になって、一連のオーバーラップした又は異なる制限部位を含むマルチクローニング部位(MCS)を形成してもよく、好ましくは一連の別個の制限部位は1以上のClaI、BglII、NruI、XhoI制限部位を含む。
【0163】
カセットのコードされる構成要素は、予め定めた順に配置することができる。ある実施形態においては、1つ又は複数の挿入部位をリボソーム結合部位/第1の調節配列の上流(すなわち、5’)に配置し、そしてリボソーム結合部位/第1の調節配列をマーカーの上流(すなわち、5’)に配置する。
【0164】
第1及び第2ヌクレオチド配列は、選択した単純ヘルペスウイルス内の挿入部位(「ウイルスの挿入部位」)周囲のゲノムの領域と同一性を有するヌクレオチド配列を含むものでありうる。これらの配列は、第1及び第2ヌクレオチド配列とウイルスのゲノム内のそれぞれの対応する配列との間の相同組換えによって、カセットをウイルスの挿入部位に組み込むことを可能にする。
【0165】
従って、第1及び第2ヌクレオチド配列は、選択したウイルスゲノムの対応する配列との相同組換えのためのフランキング配列であり、かかる相同組換えはウイルスの挿入部位にカセットの挿入をもたらす。
【0166】
第1及び第2ヌクレオチド配列は、HSVゲノムのRL1遺伝子座内の、さらに好ましくはHSVゲノムのICP34.5タンパク質コード配列内の挿入部位に隣接するヌクレオチド配列に対応してもよい。
【0167】
第1及び第2ヌクレオチド配列はそれぞれ、長さが少なくとも50bp、さらに好ましくは、長さが少なくとも100、150、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900 2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900又は4000bpであってもよい。第1及び第2ヌクレオチド配列はそれぞれ、ウイルスゲノム内の対応する配列と少なくとも50%配列同一性、さらに好ましくは少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一性を有してもよい。配列の同一性は所与のヌクレオチド配列の全長にわたって決定する。配列が異なる長さである場合、短い方の配列の配列同一性を長い方の配列の全長全体にわたって決定する。
【0168】
第1及び第2ヌクレオチド配列は、所与の配列の1本鎖がHSVゲノムの対応する1本鎖相補配列と様々なハイブリダイゼーションストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする能力により特徴付けることができる。適宜、第1及び第2ヌクレオチド配列は、それらの対応する相補配列と非常に低い、低い又は中程度のストリンジェンシー条件下で、より好ましくは高い又は非常に高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズしうる。
【0169】
ウイルスの挿入部位は、ベクターの第1及び第2ヌクレオチド配列に対応するゲノムヌクレオチド配列(それぞれ「ベクターフランキング配列」及び「ゲノムフランキング配列」と呼ぶ)の間の相同組換えが起こりうる位置であり、ベクターフランキング配列の選択により予め決定することができる。ゲノムフランキング配列が直接隣接する場合、挿入部位は2つのゲノムフランキング配列の周囲の直接隣接する塩基の間の位置であって、カセットの挿入によりゲノムフランキング配列が分離される。ゲノムフランキング配列がウイルスゲノム内で1つ又は複数の塩基により分離されている場合、挿入部位は相同組換え事象によりゲノムから切除される上記1つ又は複数の塩基により形成される。
【0170】
ウイルス挿入部位の位置は、ベクターフランキング配列の注意深い選択と構築により正確に選定することができる。従って、ベクターは、カセットの相同的挿入によって、選んだタンパク質コード配列が破壊されかつそれぞれの遺伝子産物が不活性化されるように、又はカセットがウイルスゲノムの非タンパク質コード領域に挿入されるように構築することができる。いくつかの単純ヘルペスウイルス株の完全なゲノム配列は報じられており、公的に利用しうる。HSV−1 17syn+株の完全ゲノム配列はDolanら3(本明細書に参照により組み入れられる)により、そしてHSV−1 HG52株の完全ゲノム配列はDolanら4(本明細書に参照により組み入れられる)により報じられていて、EMBLデータベースからアクセッションコードZ86099として利用することができる。この情報を利用して、HSV−1(例えば、17又はF株)変異株又はHSV-2(例えば、HG52株)変異株を作製するのに使用するための本発明のベクターを設計することが好ましい。
【0171】
第1及び第2ヌクレオチド配列(ベクターフランキング配列)はそれぞれ、選択したHSV(例えば、HSV−1 17株若しくはF株又はHSV−1 HG52株)のゲノムのRL末端反復領域に対応する配列を含んでもよい。ベクターフランキング配列は、ICP34.5タンパク質コード配列に隣接するRL末端反復領域のヌクレオチド配列を含む、から成る又は本質的にから成ってもよい。ICP34.5コード配列に隣接する、選択した配列の片方若しくは両方は、対応するHSVゲノムにおいてICP34.5タンパク質コード配列と重複、すなわち該配列中に伸張するように選択してもよいし、あるいは片方若しくは両方の配列がICP34.5タンパク質コード配列と重複しないように選択してもよい。同様に、選択した配列は、完全に若しくは部分的に、コードされた他の重要なシグナル、例えば、転写開始射部位、ポリアデニル化部位、規定のプロモーター又はエンハンサーと重複するように選んでもよい。この好ましい実施形態において、挿入部位は、従って、ICP34.5タンパク質コード配列の全て又は一部を含んでもよいし及び/又は挿入されたカセットはICP34.5タンパク質コード配列を破壊するものでありうる。
【0172】
ICP34.5タンパク質コード配列に隣接及び/又は重複するRL反復領域の領域に対応する第1及び第2ヌクレオチド配列を含む記載したベクターを、ICP34.5ヌル変異株の作製に使用して、ICP34.5タンパク質コード配列の全て又は一部を相同組換え事象中に切除しかつ置き換えてICP34.5コード配列の両方のコピーが破壊されるようにすることができる。この組換えにより、ICP34.5タンパク質コード配列内に核酸の挿入が行われて、それにより該配列を破壊することができる。従って、この事例において首尾よく形質転換されたウイルスは、ICP34.5遺伝子の少なくとも1つのコピーから、そして好ましくは両方のコピーからICP34.5活性のある遺伝子産物を作製することができない。
【0173】
首尾よく形質転換されたウイルスは、従って、ICP34.5活性のある遺伝子産物を作製することができない。
【0174】
カセットのそれぞれの構成要素は、目的ヌクレオチド配列、リボソーム結合部位及びマーカーをコードするmRNAを含む又はから本質的に成る単一のバイシストロン転写産物が得られるように、隣の構成要素と実質的に隣接して配置することができる。
【0175】
記載したベクターはさらに、抗生物質耐性、例えば、カナマイシン耐性又はアンピシリン耐性を付与するポリペプチド若しくはタンパク質などの選択マーカーをコードする核酸を含んでも、から成っても、又はから本質的に成ってもよい。
【0176】
記載したベクターは好ましくはDNAベクター、特にdsDNAベクターである。ベクターは、直鎖状又は環状(プラスミド)DNAベクターとして提供することができる。ベクターは、好ましくは、ヌクレオチド配列、例えば、制限エンドヌクレアーゼ部位を含み、DNAライゲーション及び制限材料(例えば、酵素)並びに当業者に公知の技法を利用することにより、2つの型の間の移行を可能にする。選択したHSVによる相同組換えを達成するために、ベクターが好ましくは直鎖で提供される。
【0177】
本発明者らが提供するかかるベクターの1つはプラスミドRL1.dIRES−GFPであり、該プラスミドは、Crusade Laboratories Limited(住所:Department of Neurology Southern General Hospital 1345 Govan Road Govan Glasgow G51 5TF Scotland)の名前で、2003年9月3日、欧州細胞培養コレクション(the European Collection of Cell Cultures (ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, OJG, United Kingdom)に受託番号03090303としてブダペスト条約(The Budapest Treaty on the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purposes of Patent Procedure、本明細書ではブダペスト条約と呼ぶ)の条項に従って寄託されている。
【0178】
RL1.dIRES−GFPは、(選択したプロモーターの下流の)目的ヌクレオチド配列をHSV−1の無能化RL1遺伝子座中に導入する相同組換えの方法に利用することができる多数の「シャトルベクター」を作製するための、そして目的ヌクレオチド配列、例えばRNA転写産物の産物、又はポリペプチド、及びGFPを発現し、容易に同定しうる腫瘍溶解性ICP34.5ヌルHSV−1変異株を作製するためのプラットフォームを提供することができる。RL1.dIRES−GFPは、従って、ICP34.5ヌルHSVの容易な作製と精製を提供する。
【0179】
RL1.dIRES−GFPは、選択された遺伝子の産物を発現することができ、そして投与したウイルスの細胞溶解能力及び/又は治療効果を強化することができる第2世代の腫瘍溶解性ウイルスを作製するための有用なベクターである。
【0180】
RL1.dIRES−GFPプラスミドは、マルチクローニング配列(MCS)、その下流の内部リボソーム侵入部位(IRES)、GFP遺伝子、及びSV40ポリアデニル化配列、並びにフランキングHSV−1 RL1配列(複数)を組み込んでいる。脳心筋炎ウイルスIRES(EMCV IRES)の組み込みにより、単一転写mRNAからの2つのオープンリーディングフレームの翻訳が可能になる。
【0181】
目的ヌクレオチド配列(及び選択したプロモーター)のRL1.dIRES−GFP中へのクローニングによる特定のシャトルベクターを作製した後、所望の核酸転写産物又はタンパク質を発現する組換えHSV−1を、2週間以内に作製して精製することができる。これは従来の技術のプロトコルを用いる2〜3ヶ月の作業に匹敵する。
【0182】
本発明者らが提供するRL1.dIRES−GFPプラスミドを用いて作製したICP34.5ヌルHSVにおいて、目的ヌクレオチド配列とGFPの両方の単一転写産物としての転写は、目的ヌクレオチド配列の上流の同じプロモーターより制御され、転写されたIRESがGFPのcap依存性翻訳を指令する。作製されるICP34.5ヌルHSVは神経毒性がない。RL1.dIRES−GFPプラスミドを改変してカセット周囲の適当なフランキング配列を組み込むことにより、GFPを発現する他の遺伝子特異的HSVヌル変異株を作製することができる。
【0183】
RL1.dIRES−GFPはプロモーターがないので、選択したプロモーターを相同組換えシャトルベクターに組み込んで、挿入したカセットからの目的ヌクレオチド配列の発現を制御することができる。
【0184】
目的の核酸転写産物若しくはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含むプラスミドRL1.dIRES−GFP、又はその改変型プラスミドシャトルベクターは、単離した又は精製した形態で提供することができる。
【0185】
ベクターはプラスミドRL1.dIRES−GFPの変異体であってもよい。
【0186】
プラスミドRL1.dIRES−GFPは、目的配列及び緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするマーカー遺伝子を直列発現するように設計されている。目的配列並びにそのプロモーター(例えば、CMV)をRL1.dIRES−GFP中にクローニングして、プロモーターに目的配列に対するmRNA並びにIRES−GFPの転写を駆動させる。翻訳は、内部リボソーム侵入部位からGFPの発現をもたらすので、目的遺伝子及びプロモーターはこれを達成する正しい方向でRL1.dIRES−GFP中にクローニングされる必要がある。この直列発現の配置が不適当でありうる場合及び該カセット設計の変法が好都合である場合などの色々な事例がある。
【0187】
1つの例は、H1又はU6などのRNA polIIIプロモーターを用いるsiRNAのショートヘアピンRNAとしての発現である。これらのプロモーターは、RNA polIII発現カセットが短い転写産物を産生するためだけに設計されるので、IRES−GFPのさらなる直列発現を駆動することができない。さらに、その3'非翻訳領域に強いmRNAシャットオフシグナルをもつゲノムDNAから誘導される目的配列はIRES−GFP発現を支持することができない。
【0188】
従って、いくつかの事例においては、目的の配列とマーカーを独立したプロモーターから別々に発現させるカセットを提供することができる。
【0189】
ある変異体は、プラスミドRL1.dIRES−GFPのカセットのリボソーム結合部位が調節性ヌクレオチド配列、好ましくは、ホスホグリセロキナーゼプロモーターなどの強い構成的プロモーターにより置き換えられたカセットを含有する。マーカーはそれにより、この(「第1」)調節配列の制御下で発現される。目的のヌクレオチド配列(例えば、NTR、アンチセンス又はsiRNA)は、目的のヌクレオチド配列の上流(5')の第2調節配列、例えばCMVプロモーターの制御下で発現される。このベクター変異体は、siRNA分子の発現に弱いプロモーターを用いる場合siRNAを発現するために又はNTRをコードする核酸が強い終結シグナルを有して、NTR及びマーカー配列をコードする単一のバイ又はポリシストロン転写産物を転写若しくは翻訳することが困難である場合に特に好適である。この実施形態において、ウイルスゲノムに組み込まれたカセットを含有する形質転換されたウイルスは、第1及び第2プロモーターの制御下で2つの別々の転写産物を産生する。
【0190】
かかるカセットの1つを次の方法で構築した。PGKプロモーター/GFP遺伝子を含有する1.3kbpの平滑末端EcoRI/AflII断片を、ベクターpSNRGから制限酵素消化と次いでクレノウ処理により得て、RL1−delベクター中にクローニングし、平滑末端を作製する制限酵素NruIを用いて切断した。PGK/GFP DNAの挿入の成功を、BamHI消化により確認し、挿入したDNAの方向をRL1−delの特有のXhoI部位及びPGK/GFPの3'末端のBsrGI部位を用いて同定した。順方向及び逆方向の両方の方向にPGK/GFPをもつプラスミドを得て、そのプラスミドをRL1−dPGK/GFPfor及びRL1−dPGK/GFPrevと名づけた。GFPの発現を、順方向及び逆方向のプラスミドを用いてトランスフェクトしたBHK細胞において確認した。
【0191】
従って、目的配列並びにそれら自身のプロモーター(PGKプロモーターをこの目的にも使わないことが好ましいが)を次いでRL1−dPGK/GFPfor又はRL1−dPGK/GFPrev中に、いずれかの方向で、残りの特有のBglII、XhoI又はHpaI制限部位を用いてクローニングすることができる。得られるプラスミドを用いて、マーカーGFP遺伝子及び目的の遺伝子が独立してそれら自身のプロモーターから発現される、組換えHSVを誘導することができる。
【0192】
記載したベクターを構築してこれを利用し、カセットのフランキングヌクレオチド配列と選択した単純ヘルペスウイルスゲノムの対応する配列との間の相同組換えの機構を介した核酸カセットの挿入により、遺伝子操作したHSV−1又はHSV-2を作製することができる。
【0193】
記載したベクターは、次を含むものでありかつ次に利用するものである:
i)選択したヌクレオチド配列、例えばNTRをHSVゲノムのある特定の遺伝子座に送達するための遺伝子送達(遺伝子療法)ベクター;及び/又は
ii)選択した調節エレメントの制御下で、HSVゲノムから送達されたi)のヌクレオチド配列を発現するための発現ベクター;及び/又は
iii)HSV遺伝子特異的ヌル変異株を作製するためのベクターであって、カセットを選択したゲノム位置に挿入して選択したHSV遺伝子のタンパク質コード配列を破壊し、得られるウイルス変異株の遺伝子産物を不活性化するベクター。
【0194】
記載したベクターは、遺伝子操作した遺伝子特異的HSVヌル変異株、すなわち、選択した遺伝子の活性遺伝子産物を発現することができないHSV変異株の製造に利用することができる。これらのベクターは、唯1つの遺伝子コピーからの選択したタンパク質を発現し、その他の遺伝子コピーは破壊又は改変されていて、その結果、機能的遺伝子産物を発現することができない、遺伝子操作したウイルスの製造に利用することができる。かかるベクターはまた、好ましくは上記遺伝子特異的HSVヌル変異株を含み、好ましくは腫瘍の腫瘍溶解治療により癌及び腫瘍を治療するために用いる医薬の製造に利用することもできる。
【0195】
記載したベクターはまた、遺伝子操作したHSV変異株の製造に利用することもでき、ここで、HSV変異株のゲノムはカセットの相同組換えによりHSVゲノムに挿入しておくことができる外来性又は異種遺伝子を含有するものである。好ましくは、外来性/異種遺伝子は、その発現を挿入したカセットの一部分を形成する調節エレメント(例えば、プロモーター)により調節することができるHSV変異株において発現される。かかるベクターは、好ましくは腫瘍の腫瘍溶解治療を含む疾患の治療に使用するための遺伝子操作したHSV変異株を含む医薬の製造に使用することができる。
【0196】
記載したベクターはまた、遺伝子操作したHSV変異株の製造に使用することもでき、ここで、HSV変異株のゲノムは外来性/異種遺伝子(すなわち、非HSV由来の遺伝子)を含み、上記外来性/異種遺伝子はカセットの相同組換えによりHSVゲノムのタンパク質コード配列内に挿入しておくことができ、その結果、HSV変異株は上記タンパク質コード配列によりコードされる活性遺伝子を発現することができないこと、及び外来性/異種遺伝子産物は調節エレメントの制御下で発現される。好ましくは、調節エレメントはカセットの一部を形成する。かかるベクターは、好ましくは、腫瘍の腫瘍溶解治療を含む疾患の治療において使用するための遺伝子操作したHSV変異株を含む医薬の製造に使用することができる。
【0197】
記載したベクターはまた、遺伝子操作したHSV変異株の製造に使用することもでき、ここで、HSV変異株のゲノムはカセットの相同組換えによりHSVゲノムのタンパク質コード配列内に挿入しておいたヌクレオチド配列を含み、その結果、HSV変異株は上記タンパク質コード配列によりコードされる活性遺伝子を発現することができないこと、及び挿入されたヌクレオチド配列は調節エレメントの制御下で発現されて所望の転写産物を産生する。好ましくは、調節エレメントはカセットの一部を形成する。かかるベクターは、好ましくは、腫瘍の腫瘍溶解治療を含む疾患の治療において使用するための遺伝子操作したHSV変異株を含む医薬の製造に使用することができる。
【0198】
記載したベクターを用いて、カセットを選択したHSVのゲノム中に挿入することによりHSV変異株を作製することができ、その作製の方法は、プラスミドである上記ベクターを提供し、ベクターを直鎖化し、そして細胞培養物に直鎖化したベクター及び上記HSVからのゲノムDNAを共トランスフェクトすることを含みうる。
【0199】
共トランスフェクションは、上記カセットのウイルスゲノムの挿入部位中への相同組換えにとって効果的な条件下で実施することができる。
【0200】
本方法はさらに、次の1以上のステップを含みうる:
1)上記共トランスフェクトした細胞培養物を上記マーカーを発現するHSV変異株を検出するためにスクリーニングするステップ;
及び/又は
2)上記HSV変異株を単離するステップ;及び/又は
3)上記HSV変異株を、目的ヌクレオチド配列若しくはRNA又はそれによりコードされるポリペプチドの発現についてスクリーニングするステップ;及び/又は
4)上記HSV変異株を、活性遺伝子産物の欠損についてスクリーニングするステップ;及び/又は
5)腫瘍細胞をin vitroで死滅させる、上記HSV変異株の腫瘍溶解能力を試験するステップ。
【実施例1】
【0201】
プラスミドRL1.dIRES−GFPの構築
一般的手法
プラスミドRL1.dIRES−GFPを、図1に図解した3段階で作製した。
【0202】
1.CMV IEプロモーター(pCMV)、NAT遺伝子、内部リボソーム侵入部位(IRES)、GFPレポーター遺伝子及びSV40ポリアデニル化配列を含有するDNA配列を、pNAT−IRES−GFPからNsiI及びSspIを用いて切り出し、精製した。
【0203】
2.精製したpCMV−NAT−IRES−GFP−PolyA DNA断片をRL1.del中にクローニングして、RL1.dCMV−NAT−GFPと名づけた新しいプラスミドを形成させた。
【0204】
3.RL1.dCMV−NAT−GFPのpCMV−NAT DNA配列をXhoIを用いて切り出し、プラスミドの残りを再度ライゲーションしてRL1.dIRES−GFPと名づけた新規プラスミドを形成させた。この新規プラスミドは、マルチクローニングサイト(示した全てのサイトは特有のものである)、その下流にIRES、GFP遺伝子及びSV40ポリA配列、(全て、HSV−1 RL1フランキング配列内にある)を含有した。RL1遺伝子座において目的遺伝子を発現する組換えICP34.5ヌルHSV−1は、目的遺伝子(好適なプロモーターの下流)をマルチクローンサイト中にクローニングしかつBHK細胞にプラスミドとHSV−1 DNAを共トランスフェクトすることにより作製することができる。標的遺伝子を発現する組換えウイルスは、GFP蛍光を用いて同定することができる。
【0205】
RL1.dCMV−NAT−GFPからCMVプロモーター及びノルアドレナリントランスポーター遺伝子(pCMV−NAT)を除去し、次いでプラスミドの残りを再度ライゲーションして、マルチクローニングサイト(MCS)、その下流の脳心筋炎ウイルス内部リボソーム侵入部位(EMCV IRES)、GFPレポーター遺伝子及びSV40ポリA配列の全てをRL1フランキング配列内に含有する新規プラスミド(RL1.dIRES-GFP)を得た。この新規のDNA配列の配置、すなわち「スマートカセット」によって、単に所望のトランスジーンをMCS中に(好適なプロモーターの下流に)挿入してBHK細胞を該プラスミドとHSV−1 DNAを用いて共トランスフェクトすることにより、RL1遺伝子座において目的遺伝子を発現するICP34.5ヌルHSV−1を容易に作製することが可能になる。GFP遺伝子とMCSの間に位置するIRESは同じプロモーターから2つの遺伝子の発現ができるようにし、従って目的遺伝子を発現する組換えウイルスもGFPを発現し、それ故に蛍光顕微鏡下で容易に同定しかつ精製することができる。
【0206】
材料と方法
1μgのRL1.del*を、10ユニットHpaI(Promega)を含有する好適な容積の10xバッファー(Promega)とヌクレアーゼを含まない水(Promega)を用いて37℃にて16時間消化した。次いで消化したプラスミドを、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、10ユニットの仔ウシ腸ホスファターゼ(Promega)を含有する好適な容積の10xCIPバッファーとヌクレアーゼを含まない水(Promega)を用いて4時間37℃にて処理し、その後、再びQIAquick PCR精製キットを用いて精製した。5μlの精製したDNAを1%アガロースゲル上で電気泳動した、その濃度を確認した(図2)。
【0207】
4x1μgのpNAT−IRES−GFP**を、10ユニットのNsiI及び10ユニットのSspIを含有する好適な容積の10xバッファー(Promega)及びヌクレアーゼを含まない水(Promega)を用いて37℃にて16時間消化した。反応混合物を1%アガロースゲル中で1時間、110ボルトにて電気泳動した。CMV IEプロモーター(pCMV)、その下流のノルアドレナリントランスポーター遺伝子(NAT)、脳心筋炎ウイルス内部リボソーム侵入部位(IRES)、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子、及びSV40ポリアデニル化配列(SV40PolyA)から構成される5.4KbpのDNA断片を、滅菌メスを用いてゲルから切り出し、そしてDNAをQIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いて精製した。溶離したDNAを3ユニットのクレノウポリメラーゼ(Promega)を製造業者の指示に従って用いて平滑末端化し、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いてDNAを精製した。5μlの精製したDNA断片を1%アガロースゲル上で電気泳動してその濃度を確認した(図3)。
【0208】
ライゲーション反応を、5ユニットのT4 DNAリガーゼ(Promega)、好適な容積の10X DNAリガーゼバッファー(Promega)、ヌクレアーゼを含まない水(Promega)並びに様々な容積のHpaIで消化し/CIPで処理したRL1.del及び平滑末端化したpCMV−NAT−IRES−GFP−SV40 Poly A DNAを含有する小エッペンドルフチューブ中で、16℃にて一夜実施した。次いでコンピテントJM109細菌細胞(Promega)を様々なライゲーション反応のアリコートを用いて形質転換した***。プレート上に形成されたコロニーを拾い、それらのプラスミドDNAをQiagenプラスミド・ミニキットを用いて抽出し、そしてインサートについてAflII(New England Biolabs)制限酵素分析を用いてスクリーニングした。インサートを含有するプラスミドDNAは、AflIIによる消化後に4.8Kbp及び9.2Kbpの2つの断片を生じうる。2つのクローン(クローン5及び8)はインサートを含有した(図4)。クローン5(RL1.dCMV−NAT−GFP)中のインサートの方向を、XhoI制限酵素分析を用いて決定した(図5)。
【0209】
クローン5からRL1.dIRES−GFPを作製するために、4x500ngのクローン5を、10ユニットのXhoIを含有する好適な容積のバッファーと水(Promega)を用いて一夜37℃にて消化することにより、CMV−NAT−IRES−GFP−SV40PolyAインサートのCMV−NAT部分を除去した。消化したDNAを1%アガロースゲル上で110ボルトにて1時間電気泳動した(図6A)。pGEM3Zf(−)(Promega)骨格中のIRES、GFP遺伝子、SV40ポリA配列及びRL1フランキング配列から成る10.2Kbpの断片を、滅菌メスを用いて切り出し、そしてDNAをゲルからQIAquickゲル抽出キットを用いて精製した。
【0210】
ライゲーション反応は、100ng〜500ngの精製DNA、3ユニットのT4 DNAリガーゼ(Promega)、好適な容積の10X DNAリガーゼバッファー(Promega)及びヌクレアーゼを含まない水(Promega)を含有する小エッペンドルフチューブ中で一夜16℃にて実施した。次いでコンピテントJM109細菌細胞(Promega)を様々なライゲーション反応のアリコートを用いて形質転換した***。プレート上に形成されたコロニーを拾い、それらのプラスミドDNAをQiagenプラスミド・ミニキットを用いて抽出し、そしてXhoI(Promega)制限酵素分析を用いてスクリーニングした。CMV−NATが除去されたプラスミドDNAを含有するコロニーはXhoIを用いて消化すると10.2Kbpの1断片を生じうる。いくつかのポジティブクローンを見出し、1つを単離し、そして大規模プラスミド調製をPromegaのWizard Plus Maxiprepsキットを用いて行った。大規模プラスミド調製物をXhoIを用いて消化して確認した(図6B)。このプラスミドをその後「RL1.dIRES−GFP」と名付けた。
【0211】
プラスミドRL1.dIRES−GFPは、Crusade Laboratories Limited(住所:Department of Neurology Southern General Hospital 1345 Govan Road Govan Glasgow G51 5TF Scotland)の名前で、2003年9月3日、欧州細胞培養コレクション(the European Collection of Cell Cultures (ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, OJG, United Kingdom)に受託番号03090303としてブダペスト条約の条項に従って寄託されている。
【0212】
RL1.del
RL1.delはDr.E.McKieより提供を受けたものであって、RL1遺伝子及びそのフランキング配列から成るHSV−1断片(123459−129403)がクローニングされているpGEM−3Zf(−)プラスミド(Promega)である。RL1遺伝子の477bpのPflMI−BstEII断片(125292−125769)が除去されてマルチクローニングサイト(MCS)により置き換えられ、RL1.delを形成する。
【0213】
pNAT−IRES−GFP
**pNAT−IRES−GFPはDr. Marie Boyd(CRUK Beatson Laboratories)より提供を受けたものであって、ウシノルアドレナリントランスポーター(NAT)遺伝子(3.2Kbp)がNheI及びXhoI部位にクローニングされているpIRES2−EGFPプラスミド(BD Biosciences Clontech)である。
【0214】
***細菌細胞の形質転換
10μlのグリセロール大腸菌ストックを、10mlの2YT培地の入った20mlグリーナーチューブ(griener tube)に加えた。これを37℃の振盪培養器において16〜24時間、飽和培養が得られるまでおいた。1mlのこの培養物を次いで100mlの2YTの入った500ml滅菌ガラスボトルに加え、37℃の振盪培養器に3時間おいた。細菌細胞を、2,000rpmにて10分間の遠心分離(Beckman)によりペレット化した。次いで細胞を、1/10容積の形質転換及び貯蔵バッファー(10mM MgCl、10mM Mg(SO)、10%(w/v)PEG 3,500、5%(v/v)DMSO)に再懸濁した。細胞を10分〜2時間、氷上に置いて、その後、これらの細胞は形質転換にコンピテントであるとみなした。
【0215】
DNA 1〜10μlをコンピテントな細菌100μlとエッペンドルフチューブ内で混合し、チューブを氷上に30分間置いた。この後、チューブを42℃水浴中で正確に45秒間インキュベートすることによりサンプルに「熱ショック」を与え、その後、サンプルを氷上にさらに2分間置いた。1mLのL−ブロスを加え、チューブを2〜3回反転し、そして細菌を1時間、37℃にてインキュベートした。形質転換した細菌100μLを、好適な抗生物質(通常はアンピシリン又はカナマイシン)を100μg/ml含有するL−ブロス寒天プレート上にまいた。プレートを室温にて乾燥した後、倒置位置で37℃にて一夜インキュベートした。
【実施例2】
【0216】
プラスミドRL1.dIRES−GFPを用いて、目的遺伝子産物とGFPを発現するICP34.5ヌルHSV−1の作製
一般的手法
目的遺伝子産物を発現するICP34.5ヌルHSV−1の作製には、目的遺伝子産物(ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列、及び多くの場合には所望のプロモーターをRL1.dIRES.GFPのMCSに挿入すること、次いで、目的遺伝子を含有する直鎖化プラスミドとHSV DNAによりBHK細胞を共トランスフェクトすることが必要である。相同組換え後、GFPを発現するウイルスプラークを同定する。図7は、含まれる本方法のステップを例示する。
【0217】
図7Aについては、目的遺伝子と所望のプロモーター(X)を含有するプラスミドDNAを制限エンドヌクレアーゼを用いて消化し、プロモーター/遺伝子断片を遊離させる。
【0218】
プロモーター/遺伝子断片を精製し、RL1.dIRES.GFPのマルチクローニングサイト(MCS)中にクローニングして腫瘍溶解性HSV−1を作製するのに好適なシャトルベクターを形成する(図7B)。このベクターは、本質的なRL1遺伝子にフランキングするHSV−1配列を含有するがRL1遺伝子を含有しない。プラスミドはまた、内部リボソーム侵入部位(IRES)の下流に緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子も含有する。IRESは、目的遺伝子とGFP遺伝子の両方の発現を同じ上流のプロモーターからできるようにする。
【0219】
次いでBHK細胞を、このようにして目的遺伝子を含有させた直鎖化RL1.dIRES.GFPとHSV−1 DNAを用いて共トランスフェクトする(図7C)。相同組換えの後に、目的遺伝子とGFPを発現するデザイナーウイルスが作製されて、野生型ウイルス(同様に作製されるがGFPを発現しない)から蛍光顕微鏡下で識別することができる。
【0220】
GFPを(従って目的遺伝子も)発現するウイルスプラークを蛍光顕微鏡下で拾い、そして全ての野生型HSV−1が除去されるまで精製する。組換えHSV−1は、全てのウイルスプラークがGFPを発現するときに100%純粋であるとみなす(図7D)。
【0221】
組換えウイルスが完全に純粋になると、単離したプラークを拾い、高度に濃縮されたストックを増殖させて力価測定する(図7E)。選択したプロモーターから目的遺伝子産物を発現する腫瘍溶解性HSV−1は、次いで特性決定、及び腫瘍死滅能力のin vitro試験を行う。
【0222】
材料と方法
目的遺伝子とGFPを発現するICP34.5ヌルHSV−1組換え体を作製するためには、目的遺伝子、及び、多くの場合には好適なプロモーターをRL1.dIRES−GFPのMCS中に、このプラスミドのGFP遺伝子に対して順方向にクローニングすることが必要である。これが達成されていると、プラスミドを無関係な領域で直鎖化する(すなわち、1回だけ切断する制限酵素、通常はSspI又はScaIを用いて消化する)。60mmペトリディッシュ中の80%コンフルエントBHK細胞を、次に、HSV−1 DNA及び直鎖化したプラスミドDNAを用いて下記のように共トランスフェクトする。
【0223】
目的遺伝子及びGFPを発現する複製制限のあるHSV−1を作製するためには、目的遺伝子を好適なプロモーター(例えば、CMV IE)の下流でRL1.dIRES−GFP中にクローニングしなければならない。プロモーターは、二シストロン性のmRNA転写産物を産生するために目的遺伝子の上流に必要である。転写産物中の2つのオープンリーディングフレームの間のIRES配列は、効率的なcap依存性翻訳の内部開始のためのリボソーム結合部位として機能する。本設計によって、目的遺伝子及びGFPの両方の共役転写、次いで第1遺伝子(目的遺伝子)のcap依存性の翻訳開始、及びGFPのIRESが指令するcap依存性の翻訳ができるようになる。こうして共役的な遺伝子発現がこの配置において確保される。
【0224】
CaPO及びDMSOブーストによる、ウイルス及びプラスミドDNAの共トランスフェクション
HSV−1(17)DNA及び目的遺伝子とプロモーターを含有する0.1〜1μgの直鎖化スマートカセットを、1μlの仔ウシ胸腺DNA(10μg/ml)及び最終容積165μlを与える適当な容積の蒸留水を含有する1.5mlエッペンドルフチューブ中にピペッティングする。その溶液を200μlピペットチップを用いて非常に穏やかに混合する。次いで、388μlのHEBS、pH 7.5(130mM NaCl、4.9mM KCl、1.6mM NaHPO、5.5mM D−グルコース、21mM HEPES)を加え、溶液を混合した後に、26.5μlの2M CaClを滴下し、そしてエッペンドルフチューブを2〜3回指先ではじく。サンプルを室温で10〜15分間放置し、次いで、60mmペトリディッシュ中の培地を除去しておいた80%コンフルエントBHK細胞へ滴下する。45分間の37℃におけるインキュベーション後に、細胞に5mlのETC10を積層し、そして37℃にてインキュベートした。3〜4時間後、培地を除去してプレートをETC10を用いて洗浄する。正確に4分間後、細胞に室温にて1mlの25%(v/v)DMSOを含むHEBSを積層する。4分間後、細胞を5ml ETC10を用いて3回すぐに洗浄し、その後、5mlのETC10を積層し、そしてインキュベーターに戻す。翌日、新鮮な培地を細胞に加える。2日後、cpeが明白であれば、細胞を培地中にかき集め、小さいビジュー(bijoux)へ移して十分に音波処理を行う。次いでサンプルを−70℃にて必要なときまで保存する(以下のプラーク精製の節を参照)。
【0225】
注意: 加えるウイルスDNAの容積は、上記の操作をプラスミドDNAなしで一連のウイルスDNA容積を用いて実施し、そして2〜3日後、BHK単層上に最大ウイルスプラーク数を与える容積を選ぶことによって決定する。
【0226】
プラーク精製
音波処理した共トランスフェクションプレートからのサンプルを解凍し、ETC10で連続10倍希釈する。無希釈〜10希釈したサンプルからの100μlを、60mmペトリディッシュ中の培地を除去しておいたコンフルエントBHK細胞上にプレーティングする。45分間の37℃におけるインキュベーション後に、細胞に5mlのETC10を積層し、37℃にて48時間インキュベートする。次いでプレートをウイルスプラークの存在について確認し、最小の、最も分離されたプラークをもつディッシュを蛍光立体顕微鏡下に置く。目的遺伝子に加えて緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように設計した組換えウイルスは、GFPフィルターを利用すると野生型ウイルスと明確に識別することができる。蛍光プラークを、20μlピペットを用いて拾い、1mlのETC10を含有するエッペンドルフチューブ中に移す。そのサンプルを十分に音波処理した後、ETC10で連続10倍希釈を行い、そして上記精製手順を繰り返す。この方法を典型的には3〜4回、BHK単層上の全てのプラークが蛍光色になるまで繰返す。これを達成した後、このサンプル50μlを用いて、ローラーボトル中で50mlのETC10中にてBHK細胞に感染させ、そしてウイルスストックを増殖させる。
【0227】
組織培養培地
BHK21/C13細胞を、10%新生仔ウシ血清(Gibco)及び10%(v/v)トリプトースホスフェートブロスを添加したEagle培地(Gibco)中で増殖させる。これをETC10と呼ぶ。ウイルス力価測定及びプラーク精製のために、EMC10(1.5%メチルセルロース及び10%新生仔ウシ血清を含有するEagle培地)を細胞に積層する。
【実施例3】
【0228】
HSV1716/CMV−NTR/GFPの構築
一般的手法
HSV1716/CMV−NTR/GFPは、CMV IEプロモーター(pCMV)とその下流の大腸菌ニトロレダクターゼ(NTR)遺伝子から成るpPS94910から得
.た1.6KbpのBamHI断片を、RL1.dIRES−GFPスマートカセットのMCS中に、RL1.dIRES−GFP中のGFP遺伝子に対して順方向にクローニングすることにより作製した(図8)。得られるプラスミドをRL1.dCMV−NTR−GFPと名付け、次いで、直鎖化して組換えウイルスを作製し、上記の通り精製した。pLNCX(Clontech)骨格中にCMV IEプロモーター(pCMV−NTR)の下流にNTR遺伝子を含有するプラスミドpPS949(参考文献10において「pxLNC−ntr」と称される)は、Professor Lawrence Young(University of Birmingham, UK)より供与を受けたものである。
【0229】
材料と方法
4×1μgのpPS949を、10ユニットのBamHI(Promega)を用いて、好適な容積の10xバッファー(Promega)及びヌクレアーゼを含まない水(Promega)中で、37℃にて16時間かけて消化した。反応混合物を、1%アガロースゲル中で1時間、110ボルトにて電気泳動した。CMVプロモーターとその下流のNTR遺伝子(pCMV−NTR)から成る1.6KbpのDNA断片を、滅菌メスを用いて切り出し、ゲルからQIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてDNAを精製した。5μlの精製したDNA断片を1%アガロースゲル上で電気泳動してその濃度を確認した(図9)。
【0230】
次いで2μgのRL1.dIRES−GFPスマートカセットを、好適な容積の10xバッファー(Promega)及びヌクレアーゼを含まない水(Promega)、37℃にて16時間かけて15ユニットのBglII(Promega)を用いて消化した。消化したプラスミドを次いでQIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、10ユニットの仔ウシ腸ホスファターゼ(Promega)を用いて、好適な容積の10xCIPバッファー及びヌクレアーゼを含まない水中で、37℃にて4時間処理し、その後、再びQIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製した。5μlの精製したDNAを1%アガロースゲル上で電気泳動してその濃度を確認した(図10)。
【0231】
ライゲーション反応を、5ユニットのT4 DNAリガーゼ(Promega)、好適な容積の10X DNAリガーゼバッファー(Promega)、ヌクレアーゼを含まない水(Promega)並びに様々な容積のBglII消化/CIP処理したRL1.dIRES−GFPスマートカセット及びpCMV−NTR(BamHI末端)を含有する小さなエッペンドルフチューブ中で、16℃にて一夜行った。コンピテントJM109細菌細胞(Promega)を次いで、ライゲーション反応物の様々なアリコートを用いて形質転換した。プレート上に形成されたコロニーを拾い、それらのプラスミドDNAをQiagen プラスミドミニキットを用いて抽出し、そしてインサートについてBglII/XhoI(Promega)制限酵素分析を用いてスクリーニングした。pCMV−NTRインサートを正しい方向で含有するRL1.dIRES−GFPプラスミドDNAは、BglII及びXhoIによる消化後に11.5Kbp及び300bpの2つの断片を産生し得た。1つのクローン(クローン4)はインサートを正しい方向に含有することがわかった(図11)。このプラスミドを「RL1.dCMV−NTR−GFP」と名付けた。
【0232】
0.1〜1μgのRL1.dCMV−NTR−GFPを、10ユニットのScaI(Promega)を用いて、好適な容積の10xバッファー(Promega)及びヌクレアーゼを含まない水(Promega)中で、37℃にて16時間かけて消化することにより直鎖化した。消化したDNAのサンプル(5μl)を1%アガロースゲル上で1時間110ボルトにて電気泳動してそれが直鎖化されていることを確認した。80%コンフルエントBHK細胞を次いで、好適な容積の残りの直鎖化DNA及びHSV−1 DNAを用いて共トランスフェクトした。GFP(及び従ってNTR)を発現する組換えHSV−1を同定し、そして蛍光顕微鏡を用いて精製し、HSV1716/CMV−NTR/GFPと名付けたウイルスストックをBHK細胞上で増殖させて力価測定した(図12)。
【0233】
HSV1716/CMV−NTR/GFPは、Crusade Laboratories Limited(住所:Department of Neurology Southern General Hospital 1345 Govan Road Govan Glasgow G51 5TF Scotland)の名前で、2003年11月5日、欧州細胞培養コレクション(the European Collection of Cell Cultures (ECACC), Health Protection Agency, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 OJG, United Kingdom)に受託番号03110501としてブダペスト条約の条項に従って寄託されている。
【0234】
HSV1716/CMV−NTR/GFPによる細胞死滅
HSV1716/CMV−NTR/GFPは、BHK細胞及び3T6細胞中のHSV1716とほとんど同一の動力学で複製する。BHK細胞はICP34.5ヌルHSVの複製を支持するが、コンフルエント3T6細胞はこれを支持しない。図13は、HSV1716/CMV−NTR/GFPが許容しうる細胞株中でHSV1716と同じように複製しうること、及び外来遺伝子、例えば、NTR及びGFPの導入はICP34.5ヌルHSVの腫瘍溶解能力を低減しないことを示す。HSV1716/CMV−NTR/GFPが3T6細胞において複製しない事実も、この組換えHSVがICP34.5ヌル変異株であることを示す。
【0235】
図14は、ICP34.5ポリペプチドがHSV1716/CMV−NTR/GFPから発現されず、従ってこのウイルスが遺伝子療法ベクターとして有用であることを実証するウェスタンブロットである。
【0236】
図15は、HSV1716/CMV−NTR/GFPに感染させた様々な細胞株におけるNTRの発現を実証する別のウェスタンブロットであり、これにはヒト悪性黒色腫細胞株(C8161)及びICP34.5ヌルHSVを複製しないコンフルエント3T6細胞が含まれる。HSV1716/CMV−NTR/GFPによる感染後のコンフルエント3T6細胞におけるNTRの発現は、このICP34.5ヌル変異株の複製がプロドラッグ活性化遺伝子(すなわち、NTR)の発現に必要でないことを実証するので、期待が持てるものである。いくつかの腫瘍細胞はin vivoでICP34.5ヌルHSVの複製を支持しないので、HSV1716では死滅しないであろう。
【0237】
図16は、コンフルエント3T6細胞において実施した細胞傷害性アッセイの結果を示す。コンフルエント3T6細胞の、ICP34.5ヌル変異株(HSV1716/CMV−NTR/GFP)による1プラーク形成単位(pfu)/細胞の感染多重度(MOI)での感染は、有意な細胞死を生じず、また50μM CB1954によって該細胞のインキュベーションを分離することもない。しかし50μM CB1954が増殖培地に含まれると、1pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFPによる感染後72時間に有意な細胞死が明白に起こる。これは、明らかにウイルスの複製がないときでも、ウイルス運搬酵素プロドラッグ治療法(VDEPT)から実質的な細胞死が起こりうることを実証する。
【0238】
コンフルエント3T6細胞のICP34.5ヌル変異株による10pfu/細胞のMOIでの感染は、「ウイルス抗原過負荷」として知られる機構による細胞死を生じうる。しかし、50μM CB1954が増殖培地に含まれる場合、細胞死滅のレベルはさらに顕著である(ほぼ20%さらに大きい)。
【0239】
類似の細胞傷害性アッセイをヒトC8161黒色腫細胞で実施したが、その結果を図17に示す。コンフルエント3T6細胞と異なり、C8161細胞はICP34.5ヌルHSVの複製を支持する。従って、細胞のICP34.5ヌルHSVによる1pfu/細胞での感染後に、細胞死が起こりうる。しかし、CB1954がHSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞の重層に含まれると、細胞はより効率的にかつより迅速に死滅する。CB1954がHSV1716−GFPに感染した細胞の重層に含まれる場合、細胞死滅の増強は明らかでない。これらの結果は、細胞死滅の増強がヒト腫瘍細胞において可能であることを実証する。
【0240】
コンフルエント3T6及びヒトC8161黒色腫細胞において実施した細胞傷害性アッセイの細胞培養写真を図18及び19に示す。
【実施例4】
【0241】
酵素プロドラッグ治療法を併用した、選択的複製コンピテント単純ヘルペスウイルスの抗腫瘍活性のin vivo評価
酵素プロドラッグ治療法を併用した、選択的複製コンピテント単純ヘルペスウイルスの抗腫瘍活性を、適当な動物モデルにおいてin vivoで研究した。
【0242】
親ウイルスであるHSV1716は、タンパク質ICP34.5をコードするRL1遺伝子の両方のコピーを欠損する単純ヘルペスウイルス1(HSV 1)の選択的複製コンピテント変異株である。このタンパク質は病原性の特異的決定因子である。このタンパク質の機能は色々な文献に詳しく記載されている12。本ウイルスは高レベルの機能的PCNAを有する細胞においてのみ増殖することができる。高レベルのPCNAは、腫瘍細胞などの分裂中の細胞においてのみ見出され、正常な分化細胞では見出されない。
【0243】
HSV1716は、いくつかの動物モデルにおいて最小限の毒性で選択的腫瘍細胞死滅及び生存期間の改善を達成できることが既に示されている13。患者におけるHSV1716ウイルスを用いた最初のフェーズ1臨床試験もいくつかが成功を収めている14,15
【0244】
HSV1716は腫瘍において選択的に複製し細胞溶解により腫瘍バルクを低減するが、本発明者らは、細胞型及び増殖状態は不均一であるために、HSV1716が腫瘍の全細胞において細胞を溶解して複製することは予測しなかった。
【0245】
腫瘍細胞死滅の有効性を増強するために、従って、全腫瘍を死滅させるために、本発明者らは、CMV初期プロモーター(上記実施例3を参照)の制御下で大腸菌ニトロレダクターゼ遺伝子(ntr)を発現するHSV1716/CMV−NTR/GFPと称するHSV1716の誘導体を構築した。本実施例及び図面において参照しているHSV1716/CMV−NTR/GFPをHSV1790と呼ぶこととする。
【0246】
酵素ntrは、不活性なプロドラッグCB1954を、分裂及び非分裂細胞をアポトーシスにより死滅させる機能性細胞傷害性アルキル化剤に変換する。この活性薬剤は拡散性及び膜透過性があるので、効率的なバイスタンダー効果をもたらす、すなわち、活性薬剤は周囲の細胞に影響を与えうることを特徴とする。
【0247】
プロドラッグは、ntrを発現するウイルスに感染している腫瘍においてのみその活性型に変換されるので、正常な細胞に対する毒性は避けられ、従ってこの化合物の全身送達後の治療指数が改善される。
【0248】
この組み合わせを用いた最初のin vitro実験は、このウイルスとCB1954との併用による細胞死滅の増強をいくつかの細胞株において、既に示している。
【0249】
本実施例は、さらにこの併用手法を適当な動物モデルにおいてin vivoで評価するものである。
【0250】
結果
1〜3ヶ月
1〜3ヶ月は主にin vitro実験で実施した。この期間中に、異種移植モデルにおいて使用するための高力価の滅菌ウイルスストックを作製した。
【0251】
異種移植モデルはまた、最初に無処置患者から得た腫瘍サンプルから誘導されたヒト卵巣上皮癌細胞株である細胞株A2780(European Collection of Cell Cultures (ECACC) CAMR, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG, United Kingdom, 受託番号93112520)を用いて、胸腺欠損ヌードマウスにおいて作製した。
【0252】
神経膠腫異種移植モデルは、自家利用できる2種の神経膠腫細胞株であるLN−18及びU373MGを用いて作製した。文献では、両方の株が胸腺欠損マウス中の異種移植片として増殖に成功したことが報じられている。しかし、以下の表に示す通り、本発明者らは、500万細胞を皮下注入した後28日までの異種移植片の増殖を観察することができなかった。
【表1】

【0253】
A2780腫瘍取込み
先に報じられた通り、A2780はほぼ50%の取込率を有する、すなわち、側部皮下に500万細胞を注入したマウスの50%が異種移植片を発生する。注入細胞数を1000万以上に増加すると、ほぼ15〜25%の取込率の増加が見られ、65〜75%の全取込率が達成された。
【0254】
従って、注入神経膠腫細胞数の増加はこれらの細胞株の取込率を増加しうる。
【0255】
HSV1790ウイルスに対する用量反応
マウスをウイルスとプロドラッグの併用で処置する前に、最初に、投与するウイルスとプロドラッグの量について、十分な情報に基づいて決定するための実験を行わなければならない。
【0256】
用量反応実験によって、本実験に使用すべきウイルスの最適用量及びウイルスの最高許容用量(MTD)、すなわち、有害な副作用なしに1匹のマウスに投与しうるウイルスの最大用量を見出すことができる。腫瘍をもつマウスの小グループに小用量のウイルスを与える。これらのマウスに有害な影響がなければ、他のグループにさらに高用量のウイルスを与える。マウスに病的な影響が現れ始めるか又は最大用量に到達するまでこれを続ける。
【0257】
腫瘍内に注入することができるウイルスの最大量は100μlであるので、本発明者らの現在のストックからの最大用量は1注入当たり10PFUである。
【0258】
図20は、様々な用量のウイルスを注入した後のマウスの体重変化を示す。体重は動物の全健康の良い指標である。なんらかの体重減少は治療に十分耐えられないことを意味する。初期体重の20%を超える体重減少があれば、その動物を直ちに犠牲にした。
【0259】
10PFUのHSV1790ウイルスの用量にこれらのマウスは耐えられず、急速に体重を減少したので、注入後3日に犠牲にした。マウスは10PFU以下の用量によく耐え、最初は注射後に体重が低下したものの、急速に回復してほぼ最初の体重を回復した。
【0260】
実験の進行とともに、動物が体重が増加すると思われることに留意すべきである。これは、測定するのが全体重であるので形成中の腫瘍の重量を含むという事実のためであることはほとんど間違いない。
【0261】
HSV1790処置に対する腫瘍の応答
腫瘍体積を、毎日、HSV1790ウイルスの腫瘍内注入後に測定して、腫瘍の増殖遅延又は腫瘍の退行を調べた。
【0262】
図21は、100日間にわたって測定した腫瘍体積の変化を示す。腫瘍をPBSだけを対照として注入すると、腫瘍はサイズが急速に増加し、注入後ほぼ第13日に腫瘍はあまりにも大きくなるので動物を犠牲にせざるを得なかった。
【0263】
全ての用量のウイルスによる処置は、腫瘍の増殖をある程度遅延させるようであった。10PFUの用量はマウスの寿命をほぼ12日間延長する一方、10PFUウイルス腫瘍を注射したマウスは対照グループと比較してさらに23日間長く生存し、その後、腫瘍は著しく大きくなった。恐らく意外なことに、10PFUのウイルスを注入したマウスのグループは対照グループよりほんの僅かに長く生存したにすぎなかった。大多数の非感染性粒子又はその非常に多くの粒子が、ウイルスが増殖したであろう細胞を死滅させる原因となった可能性がある。
【0264】
10PFUのウイルスにより処置したマウスグループは、最も永く生存し、実にマウス3匹のうちの2匹は100日後に犠牲にしたときに腫瘍の徴候が観察されなかった。
【0265】
裸のDNA実験
腫瘍増殖の変化が、ウイルス自体に因るものであって、HSV1716ウイルスに導入されているCMV−ntrプラスミドDNAの結果でないことを確認するために、CMV−ntrプラスミドDNA単独及びプロドラッグCB1954との併用の効果を調べる実験を実施した。
【0266】
マウスを、腫瘍直径がほぼ5mmになった時に、ランダムにそれぞれ6匹の動物の治療グループに分けた(これを第0日とする)。図22は、本実験に用いたマウスの開始時の腫瘍直径を示す。マウスの2グループにCMV−ntrプラスミドを直接、腫瘍内注入により1注入当たり0.2mgのDNAの用量にて投与した。これらのグループの1つに次いで、80mg/kgのCB1954の単一用量を第2日に腹膜内注入により投与した。マウスの第3グループは、第0日における生理食塩水対照の腫瘍内注入の後、CB1954(80mg/kg)を第2日に腹膜内注入により単一投与した。動物を毎日体重測定し(図23)かつ毎日カリパス測定を実施して、腫瘍サイズが20mm×(by)20mmの領域になるまで続けた。腫瘍体積をこれらの測定値から見積もった(体積=d3×6)(図24)。さらに、これらの投与した薬剤の毒性を決定した。これらの実験に基づいて、本発明者らは、CMV−ntr単独、CB1954単独又はCMV−ntrとCB1954両方の併用のいずれも、このモデル系において、腫瘍退行により測定した抗腫瘍活性を有しないことを確認した(図24)。
【0267】
スケジュール実験
前の用量反応実験は、1マウス当たり10PFUウイルス未満の用量は動物の健康に有害な影響を及ぼさないと考えられることを示した。
【0268】
1マウス当たり10PFUウイルスの用量は、腫瘍増殖の大きい低減をもたらし、実に100日後にグループのマウス3匹のうちの2匹は観察しうる腫瘍を有しなかった。これは非常に期待できる結果であり、ウイルス単独で増殖を遅延させるか又は腫瘍退行を引き起こすのに十分高い用量である。
【0269】
しかし、ウイルスとプロドラッグCB1954の併用の効果を調べるために、より低い容量のウイルスを研究した(もしウイルス単独の処置がかかる長期間にわたり増殖遅延をもたらせば、プロドラッグの相加又は相乗効果を確認できないであろう)。
【0270】
本発明者らはCB1954との併用で2つの用量のウイルスの研究を実施した。選択した用量は10PFU及び10PFUであった。これら両方の用量は、初期の実験においていくらかの腫瘍増殖遅延を引き起こした。
【0271】
プロドラッグは、粉末形態を10%アセトンに溶解し、ピーナッツオイルを用いて容積を調製した後に、80mg/kgを腹膜内注入として投与した。
【0272】
薬物が巧く作用しうるか(従ってどれだけの腫瘍増殖遅延又は退行が見られるか)を決定する他の要因は、薬物を実際にいつ投与するかにある。プロドラッグは、NTRの存在下においてのみ活性基質に変換されうるので、NTRを含有するウイルスを最初に投与しておく必要があると考えた。また、もしウイルスに複製しかつより多くのNTRを産生する時間が与えられれば、その場合、プロドラッグはより顕著な効果を与えることができることも考えた。
【0273】
ウイルスと薬物両方の最適用量及びこれらの処置の最適時間を見出すために、スケジュール実験を実施した。
【0274】
腫瘍直径がほぼ5mm(腫瘍体積0.5〜1.5mm)となった時に、マウスをランダムに3匹の動物の処置グループに分けた(表2に示した処置計画)。図25はそれぞれのグループの開始腫瘍体積を示す。
【表2】

【0275】
処置グループに、ウイルス及びそのグループに対する所定用量を単一直接腫瘍内注入により投与した。ウイルスはPBS+10%血清で希釈した。「ウイルスなし」対照グループには100μlのPBS+10%血清の腫瘍内注入を投与した。この日を実験第1日と定めた。
【0276】
腫瘍内注入はマウスに有害な効果を与えるないように見えた。いくつかの腫瘍は注入後に僅かに出血するが大したことはなかった。動物の体重は低下しなかった(図26)し、動物の挙動に変化は見られなかった。僅かに出血する全腫瘍において、翌日、治癒プロセスが始まり、3〜5日間にいずれの腫瘍にも穿刺傷の証拠はほとんどなかった。
【0277】
CB1954の注入を第2日、第10日及び第15日に適当なグループに与えた。80mg/kgの1用量(1マウス当たりほぼ2mgの等量)を与えた。粉末型のCB1954薬剤(Sigma製)をアセトンに溶解して最終容積の10%とした(10μl/2mg)。その容積を次いでピーナッツオイルを用いて2mgのCB1954を含有する100μlに調合した。ピーナッツオイルは粘稠であるので、シリンジを用いて薬剤を混合した。薬剤は毎回新しく調合した。
【0278】
適当なグループに次いでこの溶液を腫瘍内注入した。薬剤を投与しなかった対照グループには、10%アセトンを含有するピーナッツオイルの100μlを腹膜内注入した。
【0279】
注入時又はその後の時点において、いずれのマウスにも注入部位に腫脹又は刺激は認められなかった。マウスは、注入後に短時間、わずかに嗜眠性が見られたが、体重の低下はなく(図26)、又は、翌日に嗜眠性の徴候は示さなかった。
【0280】
ウイルスなし+CB1954プロドラッグ
グループ5、6、7、8、13及び14は、プロドラッグ単独の腫瘍増殖に対する効果を調べた。図27は、CB1954を単独で与えると腫瘍増殖に対して僅かしか効果のないことを示す。
【0281】
10PFUウイルス+/−CB1954プロドラッグ
10PFUウイルスを第0日に与え、プロドラッグ又はビヒクルを第2日及び第10日に与えた。
【0282】
図28のグラフから見られる通り、ウイルス単独、又はウイルス及びプロドラッグを用いて処置した腫瘍は、無処置腫瘍ほど大きく増殖しなかった。ウイルスを用いて処置した腫瘍は無処置対照のほぼ半分のサイズまで増殖した。
【0283】
ウイルス及びプロドラッグを用いた処置は、体積でほぼ2〜3mmまでしか増殖しない腫瘍を生じた。これは、ほぼ20mmのサイズまで増殖する無処置腫瘍より有意に低い。
【0284】
10PFUウイルス+/−CB1954プロドラッグ
図29は、表2に記載した通り、高用量のウイルス(1注入当たり10 PFU)とプロドラッグとの併用による処置後の、経時的な腫瘍体積の変化を示す。低用量のウイルスによるのと同じように、ウイルス単独、又はCB1954との併用による処置は、無処置対照と比較して有意に小さい腫瘍を生じる。
【0285】
HSV1716ウイルスとCB1954プロドラッグの併用
CMV−ntr DNAを含有する遺伝子操作を行ってないウイルスの親株を、腫瘍増殖遅延に対する効果について試験した。このウイルスは腫瘍溶解効果を有するが、しかし、不活性なプロドラッグをその活性型代謝産物に変換するのに必要なNTR遺伝子を含有しない。従って、プロドラッグをウイルスと組み合わせて加えても相加的又は相乗的効果を予想しえない。図30はこの実験の結果を示す。
【0286】
ウイルスとプロドラッグの組み合わせは、無処置対照腫瘍と比較して、腫瘍増殖の若干の低下を生じると思われる。
【0287】
これらの結果を得るために用いたグループは、僅かに2〜3匹の動物を含んだ。用いた動物はまた、前の実験に用いた動物より加齢していて、増殖により長い時間を要した。従って、もっと多数のマウスを用いて、より若いマウス又はより速く形成する腫瘍を用いて実験を繰り返すことによって、HSV1716ウイルスによる処置後にさらに顕著な増殖遅延を得る可能性はある。
【0288】
CB1954プロドラッグと併用したHSV1790(10及び10における)及びHSV1716の比較
図31は、プロドラッグと併用した2つの用量のHSV1790ウイルス、及びプロドラッグと併用したHSV1716との比較を示す。親ウイルスHSV1716は無処置対照と比較して若干の増殖遅延を示す。この増殖遅延は、不活性なプロドラッグをその活性型に変えるNTR遺伝子が存在しないので、ウイルスの腫瘍溶解効果に因るものであると考えられる。
【0289】
腫瘍をNTR遺伝子を含有するHSV1790ウイルスを用いて処置すると、腫瘍増殖はさらに低下する。この低下は用量依存性であり、より高用量のウイルスはより低用量のウイルスよりも大きい増殖遅延をもたらすと思われる。
【0290】
結論として、これらの結果から、実際にプロドラッグCB1954と併用したHSV1790ウイルスは、試験したモデル系において増殖遅延をもたらすと考えられる。ウイルスと薬剤の両方を併用すれば、それぞれ単独で得られるより大きい効果が得られる。
【0291】
ウイルス処置後にプロドラッグを与えるタイミングが重要であると思われる。CB1954を、ウイルス注入後まもなく(ウイルス注入後、第2日)与えた時、腫瘍増殖は、該薬剤をさらに後日に(第10日)与えた時ほど大きい遅延を起こさない。第2日に与えると、薬剤はウイルス増殖及び複製を支持する細胞を死滅させ、ウイルスの腫瘍溶解効果を事実上低減するからであろう。
【0292】
第10日になると、ウイルスが複製されていて腫瘍溶解により可能な限り多数の細胞を死滅させ得る。細胞型及び増殖状態が一様ではないので、腫瘍内の全細胞がウイルスによる溶解に感受性でないと予想される。そこで薬剤が侵入して、ウイルス増殖を支持するが腫瘍溶解に感受性ではない細胞(従ってNTR遺伝子を含有する)を死滅させることにより「完全に死滅させる(mop up)」。活性薬剤は拡散性かつ膜透過性であるので、バイスタンダー効果(ウイルスに感染した細胞だけでなくその近傍の細胞を死滅させる効果)を有しうる。
【0293】
参考文献
1.BL Liu, M Robinson, Z-Q Han, RH Branston, C English, Preay, Y McGrath, SK Thomas, M Thornton, P Bullock, CA Love and RS Coffin; Gene Therapy (2003) 10, 292-303.
2.WO 92/13943号
3.A Dolan, E Mckie, AR Maclean, DJ McGeoch; Journal of General Virology (1992) 73 971-973.
4.Aidan Dolan, Fiona E Jamieson, Charles Cunnigham, Barbara C Barnett Duncan J McGeoch; Journal of Virology Mar 1998 2010-2021.
5.Joany Chou, Earl R Kern, Richard J Whitley, Bernard Roizman; Science (1990) 250 1262-1265.
6.Coffin RS, MacLean AR, Latchman DS, Brown SM; gene therapy (1996) Oct 3(10) 886-91.
7.McKie EA, Hope RG, Brown SM, Maclean AR; Journal of General Virology, (1994) Apr 75(Pt4) 733-41.
8.McKay EM, McVey B, Marsden HS, Brown SM, MacLean AR; Journal of general Virology, (1993) Nov 74(Pt11) 2493-7.
9.Joany Chou, Bernard Roizman; Journal of Virology; (1990) Mar 1014-1020.
10.Green, N.K., Youngs, D.J, J.P. Neoptolemos, F. Friedlos, R.J. Knox, C.J. Springer, G.M. Anlezark, N.P. Michael, R.G. Melton, M.J. Ford, L.S.Young, D.J. Kerr, and P.F. Searle; Cancer Gene Therapy (1997) 4:229-238.
11.Cherry L. Estilo, Pornchai O-charoenrat, Ivan Nagai, Snehal G. Patel, Pabbathi G. Reddy, Su Dao, Ashok R. Shaha, Dennis H. Kraus, Jay O. Boyle, Richard J. Wong, David G. Pfister, Joseph M. Huryn, Ian M. Zlotolow, Jatin P. Shah and Bhuvanesh Singh; Clinical Cancer Research (June 2003) Vol. 9 2300-2306.
12.Brown SM, Harland J, MacLean AR et al. Cell type and cell state determine differential in vitro growth of non-neurovirulent ICP 34.5 negative herpes simplex virus. J Gen Virol 1994; 75: 2367-2377.
13.McKie EA, MacLean AR, Lewis AD et al. Selective in vitro replication of herpes simplex virus type 1 (HSV-1) ICP 34.5 null mutants in primary human CNS tumours - evalution of a potentially effective clinical therapy. Br J Cancer 1996; 74: 745-752.
14.Rampling R, Cruickshank G, Papanastassiou V et al. Toxicity evalution of replication-competnet herpes simplex virus (ICP 34.5 null mutant 1716) in patients with recurrent malignant glioma. Gene Ther 2000; 7: 859-866.
15.Papanastasssiou V, Rampling R, Fraser M et al. The potential for efficacy of the modified (ICP 34.5-) herpes simplex virus HSV 1716 following intratumoural injection into human malignant glioma : a proof of principle study. Gene Ther 2002; 9 : 525-526.
16.Johansson E, Parkinson G N, Denny, W A and Neidle S. Studies on the Nitroreductase Prodrug-Activating System. Crystal Structures of Complexes with the Inhibitor Dicoumarol and Dinitrobenzamide prodrugs and of the Enzyme Active Form. J. Med. Chem. 2003, 46, 4009-4020.
17.Hu L, Yu C, Jiang Y et al. Nitroaryl Phosphoramides as Novel Prodrugs for E.coli Nitroreductase Activation in Enzyme Prodrug Therapy. J. Med. Chem. 2003 46, 4818-4821.
【図面の簡単な説明】
【0294】
【図1】プラスミドpNAT−IRES−GFP及びRL1.delからのプラスミドRL1.dIRES−GFPの作製を示す。
【図2】HpaI消化し、CIP処理したRL1.delのアガロースゲル電気泳動を示す。
【図3】NsiI/SspI消化したpNAT−IRES−GFP(A)及び精製/平滑末端pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyA(B)のアガロースゲル電気泳動を示す。
【図4】pCMV−NAT−IRES−GFP−PolyAインサートを含有するRL1.delクローンの同定を示す。
【図5】クローン5(RL1.dCMV−NAT−GFPb)中のpCMV−NAT−IRES−GFP−PolyAの方向の決定を示す。
【図6】クローン5(A)からのpCMV−NATの除去とRL1.dIRES−GFP(B)の大規模プラスミド調製を示す。
【図7】目的遺伝子産物を発現するICP34.5ヌルHSV−1の作製、検出及び精製を示す。
【図8】pPS949からのpCMV−NTRをRL1.dIRES−GFP中にクローニングするために用いた手法を示す。
【図9】BamHI消化したpPS949(A)及び精製したpCMV−NTR断片(B)のアガロースゲル電気泳動を示す。
【図10】BglIIで消化し、CIPで処理したRL1.dIRES−GFPのアガロースゲル電気泳動を示す。
【図11】クローン4中のpCMV−NTRの方向の決定を示す。
【図12】ScaIで消化したクローン4(A)のアガロースゲル電気泳動及びHSV1716/CMV−NTR/GFPウイルスの力価(B)を示す。
【図13】コンフルエントBHK及び3T6細胞中のHSV17、HSV1716及びHSV1716/CMV−NTR/GFPの増殖動力学を示す。
【図14】HSV17及びHSV1716/CMV−NTR/GFPに感染したBHK細胞内のICP34.5発現についてのウェスタンブロット分析を示す。
【図15】HSV1716/CMV−NTR/GFP感染細胞株におけるNTR発現についてのウェスタンブロット分析を示す。
【図16】CB1954(50μM)の存在下又は不在下における、HSV1716/CMV−NTR/GFP及びHSV1716−GFPのコンフルエント3T6細胞に対する影響を示す。
【図17】CB1954(50μM)の存在下又は不在下における、HSV1716/CMV−NTR/GFP及びHSV1716−GFPのコンフルエントC8161細胞に対する影響を示す。
【図18】10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFPを用いて(A)又は50μM CB1954の存在下の10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFPを用いて(B)処置し、72時間後のコンフルエント3T6細胞を示す。
【図19】10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFP(A)、又は50μM CB1954と共に10pfu/細胞のHSV1716/CMV−NTR/GFP(B)を用いて処置した後、72時間のコンフルエントC8161細胞を示す。
【図20】腫瘍内にHSV1790を注入した皮下A2780(異種移植片)腫瘍をもつ胸腺欠損ヌードマウスの体重変化(健康の目安として)を示す。
【図21】A2780異種移植片をもつ胸腺欠損ヌードマウスにおける、HSV1790の腫瘍内注入後の腫瘍体積の経時変化を示す。
【図22】マウスの開始腫瘍サイズを示す。
【図23】CMV−ntr、CB1954又は両方の併用による処置後の体重の変化を示す。
【図24】CMV−ntr、CB1954又は両方の併用による処置後の腫瘍体積の変化を示す。
【図25】それぞれの処置グループの開始腫瘍体積を示す(表2を参照)。
【図26】HSV1790、HSV1716、CB1954又はそれらの併用により処置したA2780異種移植片をもつ胸腺欠損ヌードマウスの体重(健康の目安として)を示す。
【図27】プロドラッグCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【図28】10PFU HSV1790及びCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【図29】10PFU HSV1790及びCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【図30】10PFU HSV1716及びCB1954を用いて処置した異種移植片の腫瘍体積の変化を示す。
【図31】10PFU、10PFU HSV1790及び10PFU HSV1716の比較を示す。
【図32】大腸菌NTRの配列情報、(A)NTRポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号1);(B)NTR遺伝子のポリヌクレオチド配列(配列番号2)を示す。
【図33】2つのNTRプロドラッグ、(A)CB1954;(B)SN23862の構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単純ヘルペスウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルス。
【請求項2】
前記NTRが大腸菌NTRである、請求項1記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項3】
前記核酸が、配列番号2又は配列番号1のポリペプチドをコードする核酸を含む、請求項2記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項4】
前記核酸が、配列番号2又は配列番号1のポリペプチドをコードする核酸に対し少なくとも60%の配列同一性を有する、請求項1記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項5】
前記配列同一性の程度が少なくとも70%である、請求項4記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項6】
前記核酸が、配列番号2の核酸、その相補配列、又は配列番号1のポリペプチドをコードする核酸に対して高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする、請求項1記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項7】
単純ヘルペスウイルスのゲノムが上記NTRをコードする核酸と機能的に連結された調節性ヌクレオチド配列をさらに含み、該調節性ヌクレオチド配列は該NTRの転写制御機能を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項8】
前記核酸が、単純ヘルペスウイルスのゲノムの少なくとも1つのRL1遺伝子座内に位置する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項9】
前記核酸が、単純ヘルペスウイルスのゲノムの少なくとも1つのICP34.5タンパク質コード配列の内に位置する又はそれと重複する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項10】
単純ヘルペスウイルスがHSV−1 17株若しくはF株、又はHSV−2 HG52株のうち1つの変異株である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項11】
単純ヘルペスウイルスがHSV−1 17株の変異株1716の変異株である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項12】
遺伝子特異的ヌル変異株である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項13】
ICP34.5ヌル変異株である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項14】
少なくとも1つの発現可能なICP34.5遺伝子を欠損する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項15】
わずかに1つの発現可能なICP34.5遺伝子を欠損する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項16】
神経毒性がない、請求項1〜15のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項17】
異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸が単純ヘルペスウイルスのゲノムに組み込まれる核酸カセットの一部を形成するものであり、該カセットは、以下:
(a)上記NTRをコードする核酸、及びコードする核酸
(b)リボソーム結合部位、並びに
(c)マーカー
をコードし、該NTRをコードする核酸は該リボソーム結合部位の上流(5’)に配置され、該リボソーム結合部位は該マーカーの上流(5’)に配置される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項18】
調節性ヌクレオチド配列がNTRをコードする核酸の上流(5’)に位置し、該調節性ヌクレオチド配列は該NTRをコードする核酸の転写調節機能を有する、請求項17記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項19】
前記カセットがタンパク質コード配列を破壊し、各遺伝子産物の不活性化をもたらす、請求項17又は18記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項20】
前記カセットの転写産物が、NTRをコードする第1シストロン及びマーカーをコードする第2シストロンを含むバイシストロン又はポリシストロン転写産物であり、リボソーム結合部位が第1シストロンと第2シストロンの間に位置する、請求項17〜19のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項21】
リボソーム結合部位が内部リボソーム侵入部位(IRES)を含む、請求項17〜20のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項22】
マーカーがポリペプチドをコードする規定のヌクレオチド配列である、請求項17〜21のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項23】
マーカーが緑色蛍光タンパク質(GFP)のタンパク質コード配列又は強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP)のタンパク質コード配列を含む、請求項22記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項24】
マーカーが、対応する標識核酸プローブを用いた高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションによって検出可能な規定のヌクレオチド配列を含む、請求項17〜21のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項25】
カセットが、マーカーをコードする核酸の下流(3’)に位置するポリアデニル化配列をコードする核酸をさらに含む、請求項17〜24のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項26】
ポリアデニル化配列がシミアンウイルス40(SV40)ポリアデニル化配列を含む、請求項25記載の単純ヘルペスウイルス
【請求項27】
医学的治療の方法に使用するための、請求項1〜26のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項28】
癌の治療に使用するための、請求項1〜26のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項29】
腫瘍の腫瘍溶解療法に使用するための、請求項1〜26のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルス。
【請求項30】
癌の治療のための医薬の製造における、請求項1〜26のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルスの使用。
【請求項31】
治療が必要な患者に、請求項1〜26のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルスを投与するステップを含む、in vitro又はin vivoで腫瘍細胞を溶解又は死滅させる方法。
【請求項32】
請求項1〜26のいずれか1項に記載の単純ヘルペスウイルスを含むことを特徴とする医薬、医薬組成物又はワクチン。
【請求項33】
薬学的に許容される担体、アジュバント又は希釈剤をさらに含む、請求項32記載の医薬、医薬組成物又はワクチン。
【請求項34】
ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸配列を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルス。
【請求項35】
ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼ(NTR)をコードする核酸配列を含み、神経毒性がないことを特徴とする単純ヘルペスウイルス。
【請求項36】
請求項34又は35記載の単純ヘルペスウイルス及びNTRプロドラッグを含むことを特徴とする組成物。
【請求項37】
NTRプロドラッグがCB1954である、請求項36記載の組成物。
【請求項38】
腫瘍の治療に使用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルス。
【請求項39】
腫瘍の治療に使用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、神経毒性がないことを特徴とする単純ヘルペスウイルス。
【請求項40】
腫瘍の治療においてNTRプロドラッグと併用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含むことを特徴とする単純ヘルペスウイルス。
【請求項41】
腫瘍の治療においてNTRプロドラッグと併用するための単純ヘルペスウイルスであって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、神経毒性がないことを特徴とする単純ヘルペスウイルス。
【請求項42】
ある量の請求項1〜26、34又は35記載の単純ヘルペスウイルスを含有する第1容器と、ある量のNTRプロドラッグを含有する第2容器とを含むキットオブパーツ。
【請求項43】
腫瘍の治療のための医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用。
【請求項44】
腫瘍の治療のための医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用。
【請求項45】
腫瘍の治療のための医薬の製造における単純ヘルペスウイルス及びNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用。
【請求項46】
腫瘍の治療のための医薬の製造における単純ヘルペスウイルス及びNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用。
【請求項47】
腫瘍の治療においてNTRプロドラッグを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用。
【請求項48】
腫瘍の治療において単純ヘルペスウイルスを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造におけるNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記使用。
【請求項49】
腫瘍の治療において単純ヘルペスウイルスを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造におけるNTRプロドラッグの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用。
【請求項50】
腫瘍の治療においてNTRプロドラッグを含む第2医薬と連続的に又は同時に投与するための第1医薬の製造における単純ヘルペスウイルスの使用であって、該ウイルスのゲノムが異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記使用。
【請求項51】
腫瘍の治療方法であって、以下のステップ:
(i)治療が必要な患者に、治療上有効な量の単純ヘルペスウイルスを投与するステップであって、該ウイルスのゲノムが少なくとも1つの長い反復領域(R)内にニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含む、上記ステップ、
(ii)上記患者に治療上有効な量のNTRプロドラッグを投与するステップ
を含む方法。
【請求項52】
腫瘍の治療方法であって、以下のステップ:
(i)治療が必要な患者に、治療上有効な量の単純ヘルペスウイルスを投与するステップであって、該ウイルスのゲノムがニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該単純ヘルペスウイルスは神経毒性がない、上記ステップ、
(ii)上記患者に治療上有効な量のNTRプロドラッグを投与するステップ
を含む方法。
【請求項53】
単純ヘルペスウイルスが腫瘍細胞を死滅可能である、請求項51又は52記載の方法。
【請求項54】
NTRプロドラッグがCB1954である、請求項38〜53のいずれか1項に記載のウイルス、キット、使用又は方法。
【請求項55】
ニトロレダクターゼをin vitro又はin vivoで発現させる方法であって、少なくとも1つの対象の細胞又は組織に単純ヘルペスウイルスを感染させるステップを含み、該ウイルスのゲノムは少なくとも1つの長い反復領域(R)内に異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該ニトロレダクターゼは転写調節配列に機能的に連結されている、上記方法。
【請求項56】
ニトロレダクターゼをin vitro又はin vivoで発現させる方法であって、少なくとも1つの対象の細胞又は組織に神経毒性がない単純ヘルペスウイルスを感染させるステップを含み、該ウイルスのゲノムは異種ニトロレダクターゼをコードする核酸配列を含み、該ニトロレダクターゼは転写調節配列に機能的に連結されている、上記方法。
【請求項57】
HSV1716/CMV−NTR/GFP(ECACC受託番号03110501)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate


【公表番号】特表2007−511215(P2007−511215A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538966(P2006−538966)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004851
【国際公開番号】WO2005/049845
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(506164453)クルセイド ラボラトリーズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】