説明

ウェブ製造装置

【課題】 エレクトロスピニングウェブ法によるウェブ製造速度の飛躍的向上を可能とするウェブ製造装置に関する。
【解決手段】高分子物質を噴射するノズルを有する紡糸ヘッド部と、ノズルから噴射される高分子物質を捕集するコレクター部と、前記ノズルとコレクター部間に電圧を供給する電源を有するエレクトロスピニング法によるウェブ製造装置において、紡糸ヘッド部に複数のノズルと前記ノズル間に存在する補助電極を有し、前記ノズルと補助電極とを異なる電位とすることが可能なウェブ製造装置。補助電極に印加される電位が、ノズルのコレクター部に対する電位の50.0〜99.9%である前項記載のウェブ製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子溶液又は高分子熔融物等の高分子物質からエレクトロスピニング(Electrospinning;静電紡糸)法を用いて、サブミクロン〜ミクロン径の繊維をウェブとして形成する製造装置、及び該製造装置によるウェブの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、エレクトロスピニングウェブ法によるウェブ製造速度の飛躍的向上を可能とする製造装置である。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂より繊維やウェブを得る方法としては様々なものがあるが、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法で製造可能な繊維は、直径数〜数十μmの範囲であって、サブミクロンから数ミクロンの繊維を製造することは、特定高分子の繊維の一部を溶かして除去する等の特殊な手段を除いて不可能であった。(非特許文献1)
【0003】
一方、エレクトロスピニング法によれば、様々な種類の高分子物質を数nm〜数μm径の繊維のウェブとすることが可能であり、従って、他の方法に比べて体積に対する表面積の比が大きく高い多孔性を有するウェブの製造が可能である。
その原理は以下の通りである。即ち、対向に配置させた電極板との間に電圧を有するノズルから、導電性を有する液状の高分子物質を噴射すると、高分子物質の液滴が帯電すると同時にコレクター部方向に引き伸ばされて筋状に伸びる。液滴の表面張力を、帯電した電荷による反発力が上回ったとき、状態が不安定になってフラッシュ的に広がる現象、即ちジェットのブレークアップが起こり、これによってジェットが微細繊維状となって対向電極上に網目状に付着することでウェブが形成される。
エレクトロスピニング法の特許は、米国特許第1975504号(特許文献1)が最初と言われており、その歴史は古いが、製造速度が遅いという問題があるため、近年までは工業的には応用されていなかった(非特許文献1〜3)。
【0004】
しかし、近年では、エレクトロスピニング法によるウェブの製造は、その特性から人工血管や人工臓器等の医療・バイオテクノロジー等の応用分野で精力的に研究されている(特許文献2〜8)。また、1990年代初頭にアメリカで、生物兵器用のガスフィルターを製造するための軍事研究として取り上げられ、その他にも単一ノズルによるエレクトロスピニング技術に関する様々な報告がなされている。例えば、特許文献9には、EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)やPVA(ポリビニルアルコール)の(水)性溶液からエレクトロスピニングし、EVOHやPVAのナノファイバー体を製造する方法が開示されている。実用化された例としては、Donaldson Companyにおいてガスタービンや自動車用の特殊エアフィルターとして実用化されている(非特許文献4)。
【0005】
しかし、製造速度の遅さによる生産性の悪さは依然として問題であった。紡糸ヘッドにノズルを多数設けることによって製造速度を上げる試みもなされてきたが、ノズルを多数設けるとノズル間の電界干渉による不具合が発生した。
多数のノズルを用いる例として、特許文献14には、紡糸ヘッドとコレクター部の間に平板電極を設けたり、走査電極、静電四極子レンズを設けたりすることにより、ノズルを多数配列した工業的に製造可能な装置の提案がなされ、スリット状の紡糸金口なども提案されているが、十分な加工速度が得られるものではなかった。また、特許文献15には、多数配列したノズルの中間に電荷分配板を用いることにより、加工速度を向上させる方法が提案されているが、ノズル(特許本文中ではニードル)間の電界干渉について考慮されておらず、電界が集中せず弱いために、繊維に粒状の塊が含まれる等の品質上の問題が生じ、また、加工条件にも制約が多いという問題はあった。
【0006】
【特許文献1】米国特許第1975504号
【特許文献2】米国特許第4044404号
【特許文献3】米国特許第4323525号
【特許文献4】米国特許第4552707号
【特許文献5】米国特許第4842505号
【特許文献6】米国特許第4904272号
【特許文献7】米国特許第5866217号
【特許文献8】米国特許US2003/0215624号
【特許文献9】米国特許US2003/0190383号
【特許文献10】米国特許第6713011号
【特許文献11】特許第3525382号
【非特許文献1】繊維学会誌 Vol.59, No.1 p3(2003)
【非特許文献2】高分子論文集,Vol.59,No.11, pp.706-709(Nov.,2002)
【非特許文献3】Journal of Polymer Science: Part b: Polymer Physics,Vol.37,3488-3493(1999)
【非特許文献4】International Nonwovens Technical Conference (Joint INDA TAPPI Conference), Atlanta, Georgia, September 24-26, 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、複数のノズルを有するエレクトロスピニング法によるウェブ製造装置のノズル間の電界の干渉を防止し、多数のノズルから効率よく繊維を取り出しウェブの製造速度を向上させるウェブ製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は以下の手段をとる。
本発明の第1は、高分子物質を噴射するノズルを有する紡糸ヘッド部と、ノズルから噴射される高分子物質を捕集するコレクター部と、前記ノズルとコレクター部間に電圧を供給する電源を有するエレクトロスピニング法によるウェブ製造装置において、紡糸ヘッド部に複数のノズルと前記ノズル間に存在する補助電極を有し、前記ノズルと補助電極とを異なる電位とすることが可能なウェブ製造装置である。
【0009】
本発明の第2は、補助電極に印加される電位が、ノズルのコレクター部に対する電位の50.0〜99.9%である本発明の第2に記載のウェブ製造装置である。
【0010】
本発明の第3は、ノズルの周囲が補助電極で囲われた構造である本発明の第1〜2のいずれかに記載のウェブ製造装置である。
【0011】
本発明の第4は、補助電極が格子状のセルを形成し、該セル内にノズルが配置された本発明の第1〜3のいずれかに記載のウェブ製造装置である。
【0012】
本発明の第5は、補助電極の先端がノズル先端と同じ、もしくはノズル先端より突出している本発明の第1〜4のいずれかに記載のウェブ製造装置である。
【0013】
本発明の第6は、ノズルと補助電極との間隔が、ノズル先端とコレクター部の間隔の10〜50%である本発明の第1〜5のいずれかに記載のウェブ製造装置である。
【0014】
本発明の第7は、ノズルの外径が直径2mm以下、内径が直径1mm以下であって、長さが前記外径の10倍以上である本発明の第1〜6のいずれかに記載のウェブ製造装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、エレクトロスピニングニング法によるウェブの製造速度の飛躍的な向上が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者は、高分子物質を噴射するノズルを有する紡糸ヘッド部と、ノズルから噴射される高分子物質を捕集するコレクター部と、前記ノズルとコレクター部間に電圧を供給する電源を有するエレクトロスピニング法によるウェブ製造装置において、紡糸ヘッド部に複数のノズルと前記ノズル間に存在する補助電極を設け、前記ノズルと補助電極とを異なる電位とすることで、複数のノズル間での電気的な干渉を防止することが可能となり、ウェブの製造速度を大きく向上させることが可能となることを見出した。補助電極によってノズル間の電気的な干渉を防止することによって、各ノズル先端の電界強度が強まるために製造速度を向上させることが可能となる。
【0017】
補助電極とは、ノズルよりも低い電圧を印加された電極である。補助電極の電圧が、ノズルの電圧に等しい、またはより高いと、ノズル間で発生する電気的な干渉を遮断できないため、加工速度を向上させることができない。
また、補助電極の電圧をノズル電圧より低くすると、補助電極による遮蔽効果が生じ、各ノズル先端に電界強度分布が圧縮されるので、加工速度が向上する効果が得られる。
しかし、補助電極の電圧が低すぎると、ノズルから噴射された繊維がコレクター部に引き寄せられる力と、補助電極に引き寄せられる力が均衡し、補助電極に繊維が付着するという問題が発生する。
【0018】
本発明における、ノズルとコレクター部間の電圧は、好ましくは1〜500kV、より好ましくは2kV〜200kV、さらに好ましくは5kV〜100kVとする。電圧が500kVを越えると、電極間(ノズルとコレクター間)で短絡が発生しやすくなる恐れがある。また、装置の漏電や放電現象が発生しやすくなり、絶縁が困難となる。また、電圧が1kV未満になるとエレクトロスピニング現象が発生しにくい。
なお、エレクトロスピニング法においては、一般に印加電圧が高いほど得られる繊維は細くなる。
【0019】
補助電極に印加する電位の、ノズルのコレクター部に対する電位に対する比率は、加工速度を左右する。補助電極の電圧を小さくするほど、電界の集中が強くなり、その結果製造速度が上昇する。しかし、電圧を小さくしすぎると、ノズルとコレクター部の距離よりもノズルと補助電極間の距離の方が小さいため、ノズルと補助電極の間で放電が起こったり、ノズルから噴射された繊維がコレクター部に向かわずに補助電極に付着し易くなるという問題が発生する恐れがある。
上記の問題について、ノズルと補助電極の電圧比の最適範囲を検証した結果、ノズルの電圧(主電源の電圧)に対する補助電極の電圧(補助電源の電圧)の比は、本発明において、好ましくは50〜99.9%、より好ましくは70〜99.9%である。
【0020】
さらに、本発明においては、各ノズルの周囲が補助電極で囲われた構造であることが、効果的にノズル間の電気的な干渉を防止することが可能であるため望ましい。
ノズルが補助電極で囲われた構造とは、ノズルと同じく紡糸ヘッドに取り付けられた補助電極が、ノズルの周囲をある程度の高さで包囲可能なセル構造を有し、該セル内にノズルが配置された構造を意味する。
例えば、厚みのある鋼板等金属板に孔を開けるなどしてセルを形成したものを補助電極とし、前記セル内に各ノズルを配置して紡糸ヘッドを製造することができる。
【0021】
しかし、より軽量で、資材を節約し、製造が簡単でコストが安価な補助電極を得るためには、具体的には、板状の補助電極が格子状に組み合わされたセルを形成し、該セル内にノズルが配置されるような構造を取ることが望ましい。
【0022】
なお、補助電極の高さは、補助電極の先端がノズル先端と同じか、もしくはノズル先端より突出している構造であることがより望ましい。
エレクトロスピニング法においては、ノズルの先端から噴射された高分子物質(ジェット)がコレクター部方向に引き伸ばされて筋状に伸び、ある程度の距離を経たところで、状態が不安定になってフラッシュ的に広がる、即ちジェットのブレークアップが起こる。
このとき、ブレークアップ前のジェットは、電気伝導性を持っているので、ノズル間の電気的な干渉と同様に干渉の原因となる。
このため、補助電極がより高い遮蔽性を発揮するためには、補助電極の先端がノズル先端と同じ、もしくはノズル先端より突出していることが望ましい。
ただし、補助電極の先端が、上記ジェットがブレークアップする位置よりもコレクター部側に突出すると、補助電極への繊維の付着が生じやすくなる。また、ノズルより噴射された液状高分子物質は、ノズルから離れるほどに溶媒の蒸発による移動度の低下(溶液の場合)、もしくは温度低下による固体化(熔融物の場合)によって抵抗が増加し、急激に電圧が降下するので、補助電極の先端をブレークアップする位置よりコレクター部側の方向へ必要以上に突出させる必要はない。
【0023】
ブレークアップによる繊維の広がりを考慮すると、補助電極の先端の位置は、ノズル先端と並ぶ位置を0mmとした場合0〜30mm、より望ましくは0〜20mmだけコレクター部側へ突出させることが好ましい。
なお、ノズルとコレクター部間の電圧を上げて電界を強めていくと、ノズル先端とジェットがブレークアップする地点との距離は短くなり、ノズル先端でブレークアップを発生させることも可能である。したがって、補助電極の突出させる距離は、ノズルとコレクター部間の電圧を上げると小さくなる。
【0024】
エレクトロスピニングウェブ法においては、ノズル先端とコレクター部間の距離を変化させることによって、得られる繊維の繊維径や繊維長、ウェブの上の繊維の交絡する網目構造の形態が変化する。例えば、距離が長いほど繊維径は小さくなり、短いほど、繊維径は大きくなる。
また、距離を大きくし、ジェットの広がりを大きくして、塗布範囲を大きくしたり、繊維の乾燥度を向上することが出来る。逆に、距離を短くすると、塗布面積は減少するが、繊維が弱乾燥状態で積層されるので、密着性を向上することができる。
ノズル先端とコレクター部との距離は目的に応じて調節可能であるが、好ましくは1cm〜1mの範囲である。
【0025】
また、本発明において、ノズル先端とコレクター部の距離に対して、ノズルと補助電極間の距離を大きくすると、ノズル先端における電界強度分布の圧縮が弱くなり、加工速度が低下する。
一方、距離を小さくすると電界強度分布の圧縮が強まるが、距離が小さすぎると、繊維状高分子物質が、コレクター部に引き寄せられる力に対して、補助電極に引き寄せられる力が均衡してくるため、繊維が補助電極に付着するという問題が発生したり、また空気の放電が生じる場合がある。
ノズルとコレクター部の距離に対する、ノズルと補助電極の距離の最適範囲を検証した結果、本発明において、好ましくは10〜50%、より好ましくは10〜30%である。
これらの範囲とすることで、上記の問題を解決し、より速い加工速度の実現が可能となる。
【0026】
本発明においては、ノズルの形状は、外径2mm以下、内径1mm以下の直径を有し、外形の10倍以上の長さを有することが好ましい。このような形状とすることによって、ジェットの形成が容易であり製造速度を向上させることが可能である。
また、ノズル内径は、細い内径は低粘度、太いものは高粘度の高分子物質に好適であって、使用高分子物質の粘度に応じて調整可能であるが、好ましくは10μm〜10mm、さらに好ましくは100μm〜1mmである。
【0027】
ノズル先端の電界を強めるためには、ノズルは金属性が望ましい。但し、上記のような細長い形状の金属管をノズルとして用いた場合、変形しやすいという欠点がある。また、ノズル先端から空気放電などにより短絡が生じる可能性があり、安全性を考慮する必要がある。
また、ノズル材質は、金属に限定されるものではなく、用いられる溶液の電気伝導度が高ければ、絶縁体を使用することも可能である。しかし、電気伝導度が高い溶液は電気伝導的に電界の集中を緩和するため、エレクトロスピニングし難い傾向があり、溶液の電気伝導度の加工可能範囲を広げる意味で、適度な導電性を有するものが好ましい。多くの条件で最適な範囲を検証した結果、ノズルが長さ方向で0〜10MΩの抵抗値の導電性材料であれば、ノズル先端に十分な電界の集中が発生することが判明した。
また、適度な導電性を有する材料としては、ガラス、プラスチックなどの絶縁体に導電性物質を付加して適度な導電性を付与したものが望ましい。
【0028】
エレクトロスピニング法では、帯電したジェットがブレークアップすることにより微細繊維を形成するため、コレクター部に到達する繊維も帯電している。繊維が帯電しているため、隣接したノズルから出た繊維同士が互いに反発する。従って、ノズル間の中間点付近では、微細繊維の付着量が減少したり、全く付着しない場合があり、均一なウェブを得る上で問題であった。
上記問題を解決するには、紡糸ヘッド部の複数のノズルが、直線上に一定間隔で配置されたノズル列が複数配列(ノズルマトリクス)されており、第1列のノズルの同士の中間点の位置に隣接する第2列のノズル中心がくるように配置し、この繰り返しによって半ピッチのシフトを有するマトリクスを構成することが、より均一なウェブを得る上で望ましい。
【0029】
なお、本発明において、補助電極の材質としては、接続端子と最遠の位置までの抵抗が1MΩcm以下の低効率の導電性材料であることが望ましい。
【0030】
なお、本発明において、コレクター部(ロールもしくはベルトコンベア)の材質としては、接続端子と最遠の位置までの抵抗率1MΩcm以下のものを用いることが望ましい。
この範囲であれば、ウェブ製造時の繊維捕集効率が良好であって、異常放電や、故障時の安全を図れる。また、上記抵抗率であれば、素材は金属以外にも、プラスチック等任意の素材のものを用いてもよい。
【0031】
以下、本発明において使用する高分子物質について述べる。
エレクトロスピニング法において繊維が形成される、噴射された高分子物質のジェットがブレークアップする際、該ジェットの導電性が5μScm未満の場合、ジェット先端の電位が下がり、電界強度の集中が弱くなる恐れがある。
一方、導電率が500mS/cmを越えると、エレクトロスピニング現象が不安定になりやすい。導電率が大きいとジェット表面に生じた電荷の集中が、流体力学的に緩衝されるのではなく、電気伝導により電荷が分散してしまい、ジェットのブレークアップ現象が発現がおきにくくなるためである。
本発明でウェブを製造するために使用する高分子物質としては、5μScm〜500mScm、好適には5μScm〜50mScmの導電率を有するものを用いることが望ましい。このような範囲のものを用いることで、ノズルから噴射された後のジェット先端の電界集中を強め、より細く良好な形状の繊維を得ることが可能であり、製造速度も向上する。
また、使用する高分子物質は、その分子量は数千のオリゴマーから百万に及ぶオリゴマーまで特に制限はなく、液状にしてノズルから噴射可能なものであれば任意のものが使用可能であり、例えば、水及び/又は有機溶剤を加えて溶液又は分散液とすることが可能な高分子物質や、常温、もしくは、加熱熔融して液体状態を示す高分子物質等が任意に使用可能である。
なお、これらの高分子物質は、本発明において、主として水溶液や水分散液の形態で使用されるが、アルコールやトルエン、メチルエチルケトン(MEK)、キシレン、酢酸エチルなどの有機溶剤に溶解した有機溶剤溶液や有機溶剤分散液として使用することも可能である。
【0032】
以下、本発明で使用可能な高分子物質を具体的に示す。
本発明で使用可能な加熱熔融して液状となる高分子物質は、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレンやポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン等である。
【0033】
本発明で使用可能な水溶性高分子物質とは、各種親水性基を有する天然高分子又は合成高分子であって、その中でも特に、水素結合性官能基、例えば、水酸基、カルボン酸、アミノ基、スルホン酸、アミド基などを有する高分子が好適である。
具体的には、酸化デンプン、デキストリン等のデンプン類;ポリビニルアルコール及びその誘導体類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、パルプ繊維を溶解したセルロースそのもの等の天然又は合成のセルロース;ゼラチン、カゼイン、でんぷん、コラーゲン、ゼラチン;ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリロイルモルホリン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリ−N−ビニルホルムアミド、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸ポリ(L−乳酸)、ポリ(ラクチド−CD−グリコシド)ポリカプロラクタン、ポリリン酸エステルポリ(グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸)及びこれらの共重合体、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、プロテオグリカン、デキストラン、キチン、キトサン絹、ヒアルロン酸、アルブミン、エラスチン、核酸、ヘパリン及びヘパラン硫酸、又はそれらの誘導体、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド、ポリグルタミン酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−p−ジオキサン、ポリα−リンゴ酸及びポリ−β−ヒドロキシ酪酸、並びにポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体、ポリグルタミン酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ−p−ジオキサン、ポリα−リンゴ酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸など、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリNイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルクロライド、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリアリルスルホン及びポリスルホンなどがある。
【0034】
これらの中でも、ポリビニルアルコール及びその誘導体、並びにデンプン類などが安価であり、様々な目的に応じた性状の微細繊維を得ることが可能なので好ましい。
また、ポリアニリンやポリアセチレン、ポリアズレン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリベンズチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリイミダゾール、ポリベンヅイミダゾールなどの導電性高分子も好適に使用できる。
また、これら導電性高分子に水酸基やアミノ基、カルボン酸、スルホン酸などの置換基を導入した高分子を使用することが可能である。
【0035】
これらの高分子物質はそれぞれ単独で用いてもよく、また、目的に応じて2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の高分子材料を混合して用いることにより、その相溶性や、製造時に用いられる溶剤(水又は有機溶剤)に対する溶解度の差等を調節して、得られる繊維の親水性や疎水性、モルホロジー(長繊維の繊維径、繊維長、断面形状、繊維表面の形状など)を調節することができる。
【0036】
本発明で使用可能な水分散可能な高分子物質とは、いわゆる水分散型のエマルジョン樹脂であり、具体的にはアクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、スチレン、エチレン、ブタジエン、カルボン酸やマレイン酸などをその重合体の構成要素として含む合成高分子重合体やそのラテックス等であり、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリウレタン系ラテックス、ポリエステル系ラテックス等である。
【0037】
また、本発明においては、水溶性高分子、水分散性高分子以外にも、アルコールやトルエンなどの有機溶剤に溶解可能な疎水性樹脂も使用可能である。具体的には、エチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸イソプロピル等のポリメタクリル酸エステル、又はポリメタクリル酸誘導体からなる樹脂、ポリスチレン系樹脂(PS)、アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂等等が使用可能である。
【0038】
なお、本発明においては、常温で液体状態を示す高分子物質、例えばシリコン樹脂や、放射線硬化用のオリゴマーやプレポリマー等の放射線硬化性不飽和有機化合物を有機溶剤の一部として使用可能である。
これらの放射線硬化型不飽和有機化合物は、繊維層形成後の後処理として、放射線照射を行うことにより、繊維同士、または繊維層と基材との密着、繊維の強度向上に効果がある。
また、シリコン樹脂は、摩擦を軽減したり、表面エネルギーを小さくすることで、水の染み込みを防止するなどの面で効果がある。
放射線硬化性不飽和有機化合物としては、高架橋の樹脂層を形成しうるものであれば、単官能モノマー、多官能モノマーあるいはオリゴマーでもよく、これらは単独で使用しても、あるいはそれらを二種類以上混合したものであってもよい。例えば、オリゴマーとしては、(1)ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールF型、エポキシ化油型、フェノールノボラック型、脂環型などのエポキシアクリレート、(2)ウレタンアクリレート(3)不飽和ポリエステル(4)ポリエステルアクリレート(5)ポリエーテルアクリレート(6)ビニル/アクリルオリゴマー(7)ポリエン/チオール(8)シリコンアクリレート(9)ポリブタジエンアクリレート(10)ポリスチリルエチルメタクリレート等が挙げられる。
また、シリコン樹脂としては、ポリジメチルシロキサンが用いられる。
【0039】
本発明に使用可能な液状高分子物質としては、液状であって、ノズルから噴射可能であるものであれば限定なく使用可能である。従って、水溶液、水分散液、有機溶液、有機分散液等の各種形態の高分子物質を各々単独で用いても良いが、任意の比率で混合して用いることも可能である。
また、上記液状高分子物質には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種物質を添加することが可能である。
例えば、高分子材料を溶液又は乳化物とした際の該溶液又は乳化物の粘性や表面張力、導電率を変化させるために、NaCl、ポリリン酸塩等の無機塩、各種カルボン酸のナトリウム塩やアンモニウム塩などの有機塩、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの界面活性剤、ポリカルボン酸やスルホコハク酸、ポリエチレングリコールなどの濡れ剤、消泡剤、さらには導電率を調整するためにスチレンスルフォン酸塩などの塩類や第4級のカチオンやアミン化合物等の添加物、カップリング剤や架橋剤、撥水剤などの耐水化剤、繊維の摩擦を低減する滑剤を添加することが可能である。また、上記高分子物質には、各種の顔料、染料、無機質ゾル、無機質ゲルを含むことができる。
【0040】
本発明で使用される高分子物質の粘度は、得られる繊維の繊維径に影響する。一般に粘度が低ければ繊維径が細くなり、高ければ太くなる。
また、高分子物質の粘度は、タンク内において、1cps〜10000cpsであることが好ましく、10cps〜1000cpsとすることがより好ましい。粘度が高いとノズルからの吐出量が低下し、また細い繊維が得られ難くなる。逆に、粘度が低すぎると、ノズルによる吐出量の制御が行い難くなる。
【0041】
エレクトロスピニング現象は、電荷の反発力が表面張力に打ち勝つために、生じるので、高分子物質の表面張力は、得られる繊維の繊維径に影響する。一般に表面張力が低ければ繊維径が細くなり、高ければ太くなる。
また、高分子物質の表面張力は、大きすぎるとエレクトロスピン現象が生じ難くなり、繊維が太くなるばかりか、液球の飛散を生じるため、70ダイン以下が好ましい。同様により好ましくは60ダイン以下、最も好ましくは50ダイン以下である。
また、液状高分子物質の導電率が大きいと、ノズルから出た原料溶液表面に電荷が集中せずに、原料溶液内部に電荷が分散してしまい、粘度や表面張力が勝つためエレクトロスピニング現象が発現しないと考えられるため、好ましくは1μS/m〜500mS/mである。同様の理由でより好ましくは5μS/cm〜50mS/cmである。一般に、導電率が500mS/cm以上になるとエレクトロスピニング現象が不安定になりやすい。
【0042】
エレクトロスピニング法によるウェブの製造においては、通常の場合、コレクター部に繊維を直接噴射するのではなく、シート状の連続する基材ウェブ上に繊維を捕集する。
その際、使用するウェブについては、表面抵抗が1012Ω/□以下の基材ウェブを用いることが望ましい。
エレクトロスピニング法によるウェブの製造においては、帯電した繊維を連続して捕集して繊維層を形成するため、該基材ウェブには、連続的に電荷が運ばれる。従って基材ウェブの表面抵抗が大きい場合、帯電した繊維の電荷が基材ウェブ上又は基材ウェブの縁で局所放電することがある。しかし、表面抵抗が1012Ω/□以下であることによって、上記の局所放電を防止し、コレクター部や基材ウェブ接地部から安全に電荷を除去することができる。もちろん、導電性の布、紐、ブラシをウェブに接触させたり、イオン化した空気をウェブに吹き付けたりする、一般的な除電設備を併設しても良い。
【0043】
本発明で使用される基材ウェブとしては、紙、合成紙、フィルム、不織布等を任意に用いることが可能である。
【0044】
本発明で基材ウェブとして用いる紙は、各種パルプを抄紙した紙であればどのようなものでも良い。パルプの種類としては針葉樹、広葉樹をクラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法などで蒸解した化学パルプ繊維、レファイナー、グラインダーなどの機械力によってパルプ化した機械パルプ繊維、薬品による前処理の後、機械力によってパルプ化したセミケミカルパルプ繊維、あるいは古紙パルプ繊維、ECFパルプ繊維、TCFパルプ繊維などを例示でき、それぞれ未晒もしくは晒の状態で使用することができる。草本類から製造される非木材繊維としては、例えば綿、マニラ麻、亜麻、藁、竹、パガス、ケナフなどを木材パルプと同様の方法でパルプ化した繊維が挙げられる。
また、上記パルプに加えて、サイズ剤、紙力剤、歩留り向上剤等の薬品や、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ等の填料を内添及び/又は外添することが可能である。
【0045】
また、紙とは、主として各種パルプ由来のセルロース繊維によって構成されるものであるが、セルロース繊維の他に、その特性を損なわない範囲で、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維等の無機繊維や、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリビニリデン繊維など有機繊維等を任意に含んだ物であっても良いが、その場合、セルロース繊維は、紙支持体を構成する総固形分に対し、50質量%以上含まれていると、十分な電気抵抗が得られるので好ましい。
また、紙としては一般に市販されているものが使用可能であり、また、紙表面にポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂を積層したものを使用することも可能である。
【0046】
基材ウェブとして用いるフィルムの素材としては、特に限定されないが、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリブテン、環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレーとのようなポリエステル類、ナイロン6やナイロン66、メタキシレン系ナイロンなどのポリアミド類などが好適に使用される。またこれ以外にも、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレン−ブタジンエン、アクリルスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルファン、ポリイミド、ポリアセタール、液晶高分子、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコールなどが使用可能である。上記合成樹脂を他のモノマーや添加剤などで変性したものも使用可能であり、必要に応じて複数の合成樹脂を混合したものも使用可能である。
これらの中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、環状オレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリスチレンが特に好適に使用可能である。
【0047】
本発明で基材ウェブとして使用する上記の紙、合成紙、フィルム、不織布の表面は、基材上に生成する微細繊維の密着性を良くするための密着性向上処理を施すことが望ましい。
密着性向上処理とは、具体的には、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、紫外線(UV)照射処理、放射線(EB)照射処理などの活性エネルギー線照射による方法、火炎処理、さらにアルカリ金属溶液処理、高周波スパッタエッチング処理、PVD,CVDなどのベーパーデポジット法があげられる。
また、他の方法として、密着性を向上させる樹脂等を主剤とする組成物を基材ウェブ表面に塗布する方法等が挙げられる。塗布層を構成する組成物としては、粘着剤や接着剤に用いられるアクリル酸エステル重合体、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物やポリエチレンイミン、オキサゾリン基含有重合体、ポリアミドポリ尿素樹脂などが好適に使用される。
【0048】
本発明で基材ウェブとして使用する上記の紙、合成紙、フィルム、不織布の表面は、微細繊維の有する電荷による帯電を防止する帯電防止処理を施すことが望ましい。
帯電防止処理をとは、具体的には、基材ウェブの表面固有抵抗率を低下させて帯電を防止する種々の方法(外的方法、内的方法)を採用することができるが、帯電防止剤を用いる内的方法が好ましい。使用する帯電防止剤としては、例えば界面活性剤(例えば、アルキル硫酸塩等のアニオン系、アルキルアンモニウム塩等のカチオン系、ポリオキシエチル、アルキルエーテル等のノニオン系等)、無機塩(塩酸、硫酸、リン酸、炭酸、亜硫酸、亜リン酸、その他の無機酸とアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンとの塩類等:例えば食塩、塩化マグネシウム等)、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等及びそれらの縮合物等)、金属化合物(例えば、チタン、錫、亜鉛、その他の金属酸化物等の導電性微粒子等)、カーボン等が挙げられる。
【0049】
なお、前述の基材ウェブに対する各種密着性向上処理、及び帯電防止処理については、これらの処理が予め施された基材ウェブを使用しても良いが、本発明のエレクトロスピニングによる繊維層を設ける工程の前工程、もしくは後工程として、連続して行うことがより望ましい。
【0050】
以下本発明によるウェブ製造装置、およびウェブの製造製法について、図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、本発明のエレクトロスピニングウェブ製造装置の実施形態の1である。
高分子物質を蓄えるタンク1と、タンク1内の高分子物質を加圧するポンプ2と、ポンプによって供給された高分子物質を先端から噴射して微細繊維化するノズル3と、該ノズル3が複数取り付けられた紡糸ヘッド部4と、高分子物質の供給を制御する供給制御システム5と、紡糸ヘッド部4に付随する絶縁部6と、ノズル3間に存在する補助電極7と、ノズル3から噴射された繊維を捕集するコレクター部8と、紡糸ヘッド部4に高電圧を印加する主電源9と、補助電極7の電位を制御する補助電源10とで構成される。
【0051】
なお、本発明の製造装置としては、図2に示すとおり、紡糸ヘッド部4を接地し、コレクター部8に電圧を印加したものも含まれる。また、図1、図2の実施形態とは逆の電気極性を印加したものも含まれる。
但し、高電圧を加えた場合は空気の放電が生じやすいため、本発明においては紡糸ヘッド部の電位がコレクター部より高い実施形態がより望ましい。
【0052】
また、本発明の図面においては、タンク及びポンプは各1つずつ記載しているが、複数のタンク及びポンプを使用することも可能である。例えば、複数のタンクに各々別の高分子物質を貯蔵して、流路で混合したり、またノズルごとに違う高分子物質を供給してウェブを製造することも可能である。
【0053】
なお、本発明で形成される繊維径は高分子物質の噴射量により変化する。また、ノズルから噴射される高分子物質の量が微量であるため、ポンプの脈動や出力の変動によって、噴射されたジェットの状態が不安定化し、繊維径にバラツキが発生したり、繊維に粒状の塊が含まれるなどの品質に問題を起こすことがある。また、高分子物質の過剰供給は、ノズルからの液垂れの原因となる。
従って、本発明においては、高分子物質の圧力や流量を制御、安定化し、一定圧一定流量で紡糸ヘッド部に供給可能とし、ノズルからの噴射量を調整可能な供給制御システム5を設けることが品質のよいウェブを得るために望ましい。
【0054】
次に、補助電極7の構造を断面図である図3により示す。
補助電極7は、ノズル3を有する紡糸ヘッド部4に電気的に絶縁された状態で取り付けられ、該ノズルを囲むセル11を形成する。補助電極の高さは、ノズルの根元部分から、ノズルから噴射されるジェットのブレークアップする位置までとする。
また、補助電極7の構造を平面図である図4に示す。
補助電極7は、各ノズルを距離をおいて囲むセル11を有する。セルの配置はノズルの配置に合わせて配置される。セルの形状は、図4で示す円形が、ノズルと補助電極との距離が一定となるため理想的だが、実用上は図5で示すひし形や、四角形、六角形等その他任意の形状を採用することが可能である。なお、ひし形や六角形は補助電極の軽量化、剛性の向上に効果がある。
なお、ノズル3と補助電極7の間の距離は5mm〜10cmが好適であり、さらには1〜5cmが望ましい。
【0055】
また、紡糸ヘッド部4には多数のノズルを任意に配置可能であるが、均一なウェブの形成のためには、図4、図5のように、隣接するノズル列が、互いに半ピッチのシフトを有する配置が、より均一なウェブを得る上で望ましい。
ノズルは紡糸ヘッド部で主電源と電気的に接続するが、液体状高分子に電気伝導性がある場合や接続部の多少の電気抵抗であれば、必ずしも完全に接続する必要はない。このことは、保守点検のためにノズルの取り外しが効くことで、大きな利便性をもたらす。
紡糸ヘッド部内の流路は、各ノズルへの高分子物質の供給量及び供給圧を等しくするように流路設計することが望ましい。紡糸ヘッド部内の流路内径をノズル内径より非常に大きく取れば各ノズルにかかる圧を均一することができる。さらに、流路内径を太くすれば、ポンプ出力の脈動を吸収する効果が得られ、安定したジェットを噴射することができる。
なお、図示しないが、ポンプと紡糸ヘッド部間に、圧力安定化装置、圧力溜めを設けることも可能である。
【0056】
コレクター部8は、ベルトコンベアで図示しているが、ロールなど、連続的に繊維を捕集しウェブとするものであればよい。また、コレクター部8からノズル3までの距離は、ノズルや補助電極の電位の関係や、目的とする繊維径等の状況に応じて適宜選択可能である。
【0057】
ノズル3とコレクター部8の間に印加する、主電源9の電圧は、好ましくは1kV〜500kV、より好ましくは2kV〜200kV、さらに好ましくは5kV〜100kVの範囲で適宜選択する。
【0058】
本発明のエレクトロスピニングウェブ製造装置によるウェブ製造方法は、ポンプ2によって、タンク1中の液状の高分子物質を、紡糸ヘッド部4を通じて各ノズル3に供給する。主電源9により、ノズルとコレクター部の間に高電圧を印加した状態で、ノズル先端から高分子物質をジェット状に噴射する。ノズル先端の高分子物質は帯電し、細く変形しながら、溶液の場合には溶媒が蒸発、加熱融解液の場合は温度低下による固体化によって繊維状の固体となりコレクター部で捕集されてウェブとなる。このとき、補助電源10により、補助電極とコレクター部の間に電圧を印加する。補助電源の電圧の調整によって補助電極の電位を調整することで噴射したジェットの形状を最適に調整し、微細繊維の繊維径等を制御するものである。
【0059】
図6は、本発明エレクトロスピニングウェブ製造装置で、ウェブ供給システム及びウェブ回収システムを含めて図示したものである。基材ウェブ上に微細繊維層を形成する場合、基材ウェブをウェブ供給システムから繰り出し、コレクター部8に密着させて移動させながら微細繊維層を基材ウェブ上に形成し、ウェブ回収システムで回収する。なおウェブ供給システム、ウェブ回収システムは、既知のアンワインダー、ワインダー等を任意に採用可能である。
【0060】
なお、微細繊維は帯電した状態で基材ウェブ上に積層されるので、基材ウェブ上に電荷が蓄積される。電荷の多くはコレクター部への電流となるが、絶縁性の高い基材ウェブを使用した場合や絶縁性の高い微細繊維を積層した場合などには、局所的に電荷が溜まり、完全に除電されない場合がある。コレクター部とウェブ供給システム、コレクター部とウェブ回収システムの間に、図示した接地ロール等の除電処理設備を持つことがより望ましい。
【0061】
図7は、本発明エレクトロスピニングウェブ製造装置で、前処理装置、及び後処理装置を有するものである。
ウェブ供給システムから繰り出された基材ウェブを、前処理装置によって前処理を施し、コレクター部8に密着させて移動させながら微細繊維層を形成し、後処理装置において、後処理を施し、ウェブ回収システムにより回収する。
【0062】
前処理装置は、基材ウェブに対し、主として除塵処理や、易接着処理等を施すものである。除塵処理の手段としては、吸引法、静電除塵法など、既知の方法を任意に採用可能である。密着性向上処理としては、コロナ放電処理等の活性エネルギー線照射による方法や、火炎処理、アルカリ金属溶液処理、高周波スパッタエッチング処理、PVD,CVDなどのベーパーデポジット法等がある。他に、密着性を向上させる組成物を表面に塗工する方法がある。
また、他の方法として、密着性を向上させる樹脂等を主剤とする組成物を基材ウェブ表面に塗布する方法等が挙げられる。塗布層を構成する組成物としては、粘着剤や接着剤に用いられるアクリル酸エステル重合体、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物やポリエチレンイミン、オキサゾリン基含有重合体、ポリアミドポリ尿素樹脂などが好適に使用される。
【0063】
後処理装置は、微細繊維が積層された基材ウェブに対して、主に除電処理、後硬化処理、易接着処理、平滑処理などを施すことができる。
除電方法は、ウェブの表面に接地された導電性を有する布、紐等を接触させる方法、水蒸気を吹き付け表面に微細な水滴を付着させる方法など各種ある。その中でも、積層表面の汚染や異物混入の防止といった観点からイオン化した空気をウェブの表面に吹き付ける方法が最も好ましい。特に、コロナ放電で空気をイオン化し、0.05MPa以上の圧力で吹き付ける装置は有効である。さらに具体的には、静電容量170pFの試料を50mmの距離から除電し、3秒以内に試料の帯電圧を3kVから0kVまで除電可能な装置を用いることが好ましい。
【0064】
後硬化処理としては、加熱処理、紫外線(UV)照射処理、放射線(EB)照射処理などの活性エネルギー線照射処理などの方法が用いられる。易接着処理に関しては、前処理装置と同様のものを使用することができる。平滑処理としては、繊維層を基材ウェブ上に形成した後に、ロールのニップ間を通したり、加熱された鏡面に、ウェブの形成された繊維層側をあてて乾燥したり、形成された繊維層の表面近傍を圧縮処理等の手段をとることが可能である。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。また特に断らない限り、文中の部は質量部を示す。また、実施例、比較例の結果を表1に示す。
【0066】
<実施例1>
高分子物質溶液としてポリビニルアルコール(PVA117:クラレ株式会社)の10%水溶液(導電率100μS/cm、表面張力48dyne/cm)を用い、後述するウェブ製造装置(紡糸ヘッドAを使用)により、上質紙を基材ウェブとしてその表面に微細繊維層を形成した。なお基材ウェブ(コレクター部)の速度は0.5m/分とし、ノズル電圧を80kV、補助電極の電圧を75kVとした。
このとき、繊維層が問題なく形成される溶液供給速度の上限は19cc/分であった。また、繊維の平均直径は0.4μmであった。
【0067】
<実施例2>
高分子物質溶液として、実施例1で使用したポリビニルアルコール水溶液50質量部に、ポリエチレングリコール(分子量:50万)50質量部を加えた水溶液(導電率180μS/cm、表面張力40dyne/cm)を用い、実施例1と同様にして上質紙を生地ウェブとしてその表面に微細繊維層を形成した。なお基材ウェブ(コレクター部)の速度は0.5m/分とし、ノズル電圧を80kV、補助電極の電圧を70kVとした。
このとき、繊維層が問題なく形成される溶液供給速度の上限は18cc/分であった。また、繊維の平均直径は0.3μmであった。
【0068】
<実施例3>
ノズル電圧を80kV、補助電極の電圧を40kVとした以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維層の形成を行った。
このとき、繊維層が問題なく形成される溶液供給速度の上限は21cc/分であった。また、繊維の平均直径は0.4μmであった。
【0069】
<実施例4>
ノズル電圧を60kV、補助電極の電圧を15kVとした以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維層の形成を行った。
このとき、繊維層が問題なく形成される溶液供給速度の上限は18cc/分であった。また、繊維の平均直径は0.4μmであった。
ただし、形成された繊維の一部が補助電極に付着する現象が発生するため、長時間の連続運転はできなかった。
【0070】
<実施例5>
紡糸ヘッドBを使用した以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維層の形成を行った。
このとき、繊維と共に液滴状の粒が混じり、繊維層が問題なく形成される溶液供給速度の上限は8cc/分であった。また、繊維の平均直径は0.4μmであった。
【0071】
<比較例1>
ウェブ製造装置の紡糸ヘッド部から補助電極と補助電源を外し、実施例1と同様な条件で繊維層形成を行った。
ノズル電圧は80kV、溶液の供給速度10cc/分とすると、ノズル先端に液だまりが生じ、コレクター部上に落下した。また、供給速度3cc/分では、液の落下はなくなるが、ジェットに振動が生じるなどの不安定が生じた。繊維の平均直径が0.3μmの繊維層は形成されたが、玉状の欠陥が多く発生した。
【0072】
<ウェブ製造装置>
(1)装置全体の構造
ノズル、および取り外し可能な補助電極を有する紡糸ヘッド(詳細は(2)参照)と、前記ノズルと補助電極に電圧を掛けるための電源と、液状の高分子物質のタンクと、タンクとノズルを接続して高分子物質を供給するチューブを有し、該高分子物質は加圧ポンプによって供給されるものとする。なお、ノズルおよび補助電極にかかる電圧、高分子物質の供給速度は可変的にコントロール可能なものとする。また、コレクター部は速度調整可能なベルトロールとする。
(2)紡糸ヘッドの構造
1:紡糸ヘッドA
内径0.2mm、外径0.6mmの長さ30mmのノズルを、50mm間隔で7×8で56本のマトリクスとして紡糸ヘッドに配置した。その際、隣接する列同士は互いに半ピッチずらした状態で配置した。
補助電極は、厚さ1mm、幅40mmの金属板を、ひし形の格子状に組み合せて、各ノズル間の中間点を金属板が通るように配置したものとした(図5参照)。金属板の先端はノズルの先端より10mm突出させてノズルを被う形状とした。なお、ノズルと補助電極の間の距離は21.6mm以上とした。
2:紡糸ヘッドB
補助電極は、厚さ1mm、幅20mmの金属板を、ひし形の格子状に組み合わせたものを使用し、ノズルの先端が補助電極より10mm突出する形状とした以外は、紡糸ヘッドAと同様の構成とした。
(3)
【0073】
【表1】

【0074】
これらの結果から、補助電極を用いた本発明の実施形態が、従来に比べて飛躍的に製造速度を向上していることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のウェブ製造装置の該略図である。
【図2】本発明のウェブ製造装置の他の該略図である。
【図3】本発明のノズル及び補助電極の断面図である。
【図4】本発明のノズル及び補助電極の平面図である。
【図5】本発明のノズル及び補助電極の他の平面図である。
【図6】本発明のウェブ製造装置の他の該略図である。
【図7】本発明のウェブ製造装置の他の該略図である。1:タンク,2:ポンプ,3:ノズル,4:紡糸ヘッド部,5:供給制御システム,6:絶縁部,7:補助電極,8:コレクター部,9:主電源,10:補助電源,11:セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子物質を噴射するノズルを有する紡糸ヘッド部と、ノズルから噴射される高分子物質を捕集するコレクター部と、前記ノズルとコレクター部間に電圧を供給する電源を有するエレクトロスピニング法によるウェブ製造装置において、紡糸ヘッド部に複数のノズルと前記ノズル間に存在する補助電極を有し、前記ノズルと補助電極とを異なる電位とすることが可能なウェブ製造装置。
【請求項2】
補助電極に印加される電位が、ノズルのコレクター部に対する電位の50.0〜99.9%であることを特徴とする請求項1記載のウェブ製造装置。
【請求項3】
ノズルの周囲が補助電極で囲われた構造であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のウェブ製造装置。
【請求項4】
補助電極が格子状のセルを形成し、該セル内にノズルが配置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のウェブ製造装置。
【請求項5】
補助電極の先端がノズル先端と同じ、もしくはノズル先端より突出していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のウェブ製造装置。
【請求項6】
ノズルと補助電極との間隔が、ノズル先端とコレクター部の間隔の10〜50%であることをと特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のウェブ製造装置。
【請求項7】
ノズルの外径が直径2mm以下、内径が直径1mm以下であって、長さが前記外径の10倍以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のウェブ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−283240(P2006−283240A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105593(P2005−105593)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】