説明

ウォータジェットノズル装置

【課題】 マスキング等の複雑な手段を用いることなく、微細幅の溝加工を簡便に行えるウォータジェットノズル装置の提供。
【解決手段】 ウォータジェットノズル装置において、ハウジング内部に設置され、該ハウジング内に形成された流路内に超高圧水の噴流を噴射する噴射ノズルと、該噴射ノズルと同軸上の前記流路の端部側に設置され、前記噴射ノズルから噴射された噴流を導入して被加工面に向けて噴射する絞りノズルとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属類や基板、ガラス等に幅100μm未満の微細溝加工を行うためのウォータジェットノズル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属類や半導体装置用基板、ガラスなどに対する幅100μm未満の微細溝加工を行う装置として、例えばレーザー加工機を用いることが考えられる。しかしながら、レーザー加工機は、イニシャルコスト、ランニングコストが共に高く、生産性を悪化させるだけでなく、レーザーの特別な知識がなければ加工品質を維持することが困難で実用に適さないものである。
【0003】
このようなレーザー加工機の他には、従来から、高圧水をノズルから噴射するウォータジェット噴射加工機が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。このウォータジェット噴射加工機では、高圧水の噴流を被加工面に衝突させながら相対的に移動させることで連続した壊食により微細溝加工を施すものであるが、比較的深い溝加工を必要とする場合には、高圧水に研磨材を混合して噴射するアブレシブジェットが用いられる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−320104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のウォータジェット噴射加工機による微細溝加工では、複雑で面倒な工程が必要なマスキングを使用しなければならなかった。これは、図3の模式図に示すように、通常、加工に最適なウォータジェットとして、被加工面までの噴射距離LがL/D(ノズル噴射孔径)≒150の条件を満たす領域で水噴流に空気流が多く含まれる「液滴流領域」が用いられているためである。
【0006】
即ち、液滴流領域の噴流には噴射方向中心軸から外方への拡散がある程度始まっており、この液滴流領域を加工噴流として被加工面に衝突させる溝加工では、衝突位置での噴流断面積によって決定される加工面積がノズル噴射口径の2〜4倍という比較的広いものとなるため、微細幅の溝加工の場合には、実質的に加工面積が狭くなるように被加工面上にマスキング層を形成しておく必要があった。
【0007】
また通常、超高圧噴射流による溝加工においては、図2に示すように、溝加工の深さ方向に対して表面側ほど溝幅が広がるため、表面側の上溝幅L1が加工目標値となるように設定されるが、整流部である連続流領域寄りの噴流断面積が比較的小さい領域を用いたとしても、わずかでも外方に拡散した領域を持つ噴流の衝突によって、溝縁部分が削れる所謂表面ダレが生じ、実質的な溝幅はこの表面ダレを含む広い領域となってしまい、やはりマスキングなしで100μm未満という微細な目標値内に溝幅寸法を収めることはできなかった。
【0008】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、マスキング等の複雑な手段を用いることなく、微細幅の溝加工を簡便に行えるウォータジェットノズル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係るウォータジェットノズル装置は、ハウジング内部に設置され、該ハウジング内に形成された流路内に超高圧水の噴流を噴射する噴射ノズルと、該噴射ノズルと同軸上の前記流路の端部側に設置され、前記噴射ノズルから噴射された噴流を導入して被加工面に向けて噴射する絞りノズルとを備えたものである。
【0010】
請求項2に記載の発明に係るウォータジェットノズル装置は、請求項1に記載のウォータジェットノズル装置において、前記絞りノズルは、前記噴射ノズルに対して噴射ノズル口径の1300倍以下の距離を隔てて設置されているものである。
【0011】
請求項3に記載の発明に係るウォータジェットノズル装置は、請求項1又は請求項2に記載のウォータジェットノズル装置において、前記噴射ノズルから噴射された噴流のうち、前記絞りノズルに導入されないで遮断された遮断水をハウジング外に排出する排出水路を備えたものである。
【0012】
請求項4に記載の発明に係るウォータジェットノズル装置は、請求項3に記載のウォータジェットノズル装置において、前記排出水路内の遮断水を押し出すためのエアーをハウジング内に供給するエアーアシスト機構をさらに備えたものである。
【0013】
請求項5に記載の発明に係るウォータジェットノズル装置は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のウォータジェットノズル装置において、被加工面上に噴射エアーを吹き付けるエアーブローノズルを更に備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のウォータジェットノズル装置においては、高圧水を噴射する噴射ノズルの同軸上の下流側にさらに絞りノズルを設けたものであるため、噴射ノズルによって噴射された高圧噴流のうち、コアの部分のみが絞りノズルを介して被加工面に噴射されることとなり、噴射ノズルのみで得られる噴流による加工面積より小さい加工面積が得られ、複雑で手間のかかるマスキングを必要とすることなく幅100μm未満という微細溝加工に簡便に対応することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ハウジング内に形成された流路内に超高圧水の噴流を噴射する噴射ノズルの同軸上の前記流路の端部に絞りノズルを設置してなるウォータジェット装置であり、この絞りノズルの噴流導入口径を噴射ノズルから噴射された噴流の所望の中心部領域に相当する寸法に設定しておけば、前記噴射ノズルから噴射された噴流のコア部分が導入されて被加工面に向けて加工用の噴流として噴射されるものである。
【0016】
即ち、本発明のウォータジェットノズル装置では、絞りノズルを介することによって、噴射ノズルから噴射された噴流のうち外方へ拡散している領域を遮断して、中心部領域の噴流のみを噴射することになるため、実質的な加工面積を装置側で小さくすることが可能となり、被加工面側に複雑で手間のかかるマスキングを施す必要なく幅100μm未満の微細溝加工に対応することができる。
【0017】
なお、絞りノズルから被加工面へ噴射される噴流も、水噴流に空気流が多く含まれる液滴流領域のものとするため、噴射ノズルから噴射される噴流は、連続流領域で絞りノズルに導入されるものとするのが望ましい。従って、噴射ノズルに対する絞りノズルの相対位置関係は、噴射ノズル口径の200〜1300倍の距離があるという条件を満たすものとすればよい。
【0018】
このノズル間距離の特定範囲は、図4、図5に示す噴射ノズルの口径Dと連続流領域の距離Aとの関係を所定圧力(MPa)条件において検討した結果得られたものである。即ち、まず圧力を200MPaと一定にし、噴射ノズルをそれぞれ異なる口径D=20,30,40,50,60μmとした場合の各噴流の整流部として見られる連続流領域の距離Aを測定し、A/D値を求めた。その結果は図4(X軸:噴射ノズル口径Dμm,Y軸:A/D)に示すとおりであり、同じ圧力条件においては、連続流領域の距離Aは噴射ノズルの口径Dの変化に対応し、噴射ノズルの口径が20μmの最小の場合を除いてほとんどA/D値は700付近と大きな変化は見られなかった。
【0019】
そこで、噴射ノズルの口径を50μmと一定にした場合において、50MPaから350MPaまでの圧力範囲で噴流の連続流領域の距離Aを測定し、A/Dの値を求め、図5(X軸:圧力MPa,Y軸:A/D)に示した。この圧力範囲は、これより低い圧力では噴射加工に必要なウォータジェットが得られず、この範囲を越える高圧力ではほとんど連続流領域(整流部)が確保できなくなり、ウォータージェット噴射加工として実用に適した噴流が得られる圧力範囲の実質的な上限および下限と言える。従って、この圧力範囲上限および下限におけるA/D値200、1300に基づいて噴射ノズルから噴射される噴流が連続流領域で絞りノズルへ導入され得るノズル間距離Aの実質的な範囲、即ち、ノズル口径Dの200倍から1300倍が特定される。
【0020】
また、本発明においては、噴射ノズルから噴射された噴流のうち、外方に拡散した領域で絞りノズルによって遮断された遮断水が噴射の時間経過に伴ってハウジング内に溜まって噴射形状を乱すことのないように、遮断水をハウジング外へ排出する排出水路を設けておくのが好ましい。
【0021】
さらに、この遮断水が効率よく排出されていくように、エアーアシスト機構を設けて排出水路内の遮断水をエアーで押し出す構成とすることがより好ましい。
【0022】
また、被加工面は、表面に水滴が付着したり水膜が形成されたりすると、加工精度が悪くなるため、加工中に被加工面にエアーを吹き付けて水滴や水膜を吹き飛ばしたり付着を防止するためのエアーブローノズルを設けておくことが望ましい。
【実施例】
【0023】
本発明の一実施例としてのウォータジェットノズル装置を図1の概略構成図に示す。本ウォータジェットノズル装置は、被加工物上に配置されるハウジング1を装置本体として、鉛直下方に向けて高圧噴流を噴射するように噴射ノズル5と絞りノズル9とが同軸上に配置されてなるものである。
【0024】
即ち、上部側で位置決め固定されているノズルアダプタ4の下端にノズルキャップ6の装着により噴射ノズル5が取り付けられ、このノズルアダプタ4に該アダプタ下部領域を内部に挿入した状態のハウジング1が、ガイドホルダ2を介して上下方向に相対位置調節可能に六角ボルト3により固定されている。
【0025】
さらに本装置では、このハウジング1には、下端に装着されたノズルホルダ8によって、噴射ノズル5の同軸上の流路7の端部側位置に絞りノズル9が取り付けられている。従って、外部から高圧ポンプ(不図示)によりノズルアダプタ4を介して供給され、噴射ノズル5によってノズルキャップ6に形成されている流路7へ噴射された超高圧水噴流は、所定の導入口径を有する絞りノズル9にコア部分のみが導入され、断面積の小さくなった加工用噴流として被加工面へ向けて噴射される。
【0026】
このとき、噴射ノズル5から噴射された噴流のうち、絞りノズル9に導入されないで遮断された外方領域の噴流水は、ハウジング1の内側に止まるが、本装置では、排出水路10を設けることによってこの遮断水をハウジング外へ排出する構成とし、遮断水がハウジング内に溜まって噴流の噴射形状を乱すのを防いでいる。また、この遮断水が効率よく排出されるように、排出水路内に溜まった水をエアーで押し出すように、ハウジング内へエアーを供給するエアーアシスト機構11を設けた。
【0027】
更に、本装置では、ハウジング1の外周部には、被加工面上にエアーを吹き付けるエアーノズル13と該エアーノズル13にエアーを供給するエアーチャンバ12を設けた。このエアーノズル13によるエアーの吹き付けで、被加工面上に加工精度を悪化させる水滴や水膜の付着を防ぐことができる。
【0028】
本装置では、ハウジング1は、ガイドホルダ2にボルト固定されており、このガイドホルダ2のノズルアダプタ4に対する六角ボルト3による固定部での位置調節により、ハウジング1およびその下端の絞りノズル9の位置調節を行うものであり、この位置調節により、絞りノズル9から噴射される加工用噴流が壊食溝加工に適した液滴流領域となるような噴射ノズル5に対する絞りノズル9の相対位置関係の条件を満たすように位置決めできる。
【0029】
以上の構成を備えた本ウォータジェットノズル装置を用いて、合金工具鋼(SKD61)に微細溝加工を施した結果を、従来の噴射ノズルのみを用いた場合と比較して以下に示す。加工条件は、本装置における絞りノズル9に関するもの以外、両者とも同じ設定とした。
【0030】
即ち、上溝幅および表面ダレ領域100μm以下、溝深さ2.5mm以上を目標値として、噴射ノズルの噴射口径50μmで圧力350MPa、高圧水送り速度100mm/min、加工噴流距離(最終噴流の噴射位置から被加工面までの距離)20mm、噴射回数32パス、エアーアシスト圧0.2MPaという条件で、本実施例の装置では、噴射口径80μmの絞りノズル9を噴射ノズル5端から10mmの間隔で下方に位置決めした。
【0031】
以上の条件で本装置および従来型噴射ノズルで溝加工を行い、形成された溝の上溝幅L1、下溝幅L2、深さD、表面ダレ領域幅の寸法をそれぞれ測定し、結果を以下の表1にまとめた。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、従来型の噴射ノズルによる溝加工では、上溝幅L1は、目標値に近いが、表面ダレ領域が非常に大きく、この表面ダレ領域を含む実質的な溝幅は、ほぼ目標値の3倍にもなっているのに対して、噴流ノズル5の同軸上の下流位置に絞りノズル9を備えた本ウォータジェットノズル装置による溝加工では、殆ど表面ダレを生じることなく、実質的な溝幅が100μm以下という加工がマスキングなしに可能であった。
【0034】
なお、絞りノズルの噴射ノズルに対する距離は、実際に用いる噴射ノズルの噴射口径や噴射圧等の設定に応じて上記の両者の相対位置関係の条件を満たすように適宜設定すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例によるウォータジェットノズル装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】超高圧噴射流による溝加工の溝部構造を示す縦断模式図である
【図3】超高圧噴射流の構成を示す説明図である。
【図4】圧力一定の場合における噴射ノズルの口径Dと連続流領域の距離Aとの関係を示す線図である。
【図5】各圧力における噴射ノズルの口径Dと連続流領域の距離Aとの関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0036】
1:ハウジング
2:ガイドホルダ
3:六角ボルト
4:ノズルアダプタ
5:噴射ノズル
6:ノズルキャップ
7:(噴流用)流路
8:ノズルホルダ
9:絞りノズル
10:排出水路
11:エアーアシスト機構
12:エアーチャンバ
13:エアーノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内部に設置され、該ハウジング内に形成された流路内に超高圧水の噴流を噴射する噴射ノズルと、該噴射ノズルと同軸上の前記流路の端部側に設置され、前記噴射ノズルから噴射された噴流を導入して被加工面に向けて噴射する絞りノズルとを備えたことを特徴とするウォータジェットノズル装置。
【請求項2】
前記絞りノズルは、前記噴射ノズルに対して噴射ノズル口径の1300倍以下の距離を隔てて設置されていることを特徴とする請求項1に記載のウォータジェットノズル装置。
【請求項3】
前記噴射ノズルから噴射された噴流のうち、前記絞りノズルに導入されないで遮断された遮断水をハウジング外に排出する排出水路を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウォータジェットノズル装置。
【請求項4】
前記排出水路内の遮断水を押し出すためのエアーをハウジング内に供給するエアーアシスト機構をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載のウォータジェットノズル装置。
【請求項5】
被加工面上に噴射エアーを吹き付けるエアーブローノズルを更に備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のウォータジェットノズル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−263547(P2006−263547A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83767(P2005−83767)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】