説明

ウォータポンプ

【課題】軸受と対向するプーリの側壁に貫通孔を設けつつも、当該貫通孔を介して外部からポンプ内へと雨水等の異物が侵入してしまう不具合を抑制し得るウォータポンプを提供する。
【解決手段】プーリ4の筒状基部4aにおける軸受6と対向する側壁部4eにポンプハウジング2の内外を連通する複数の貫通孔である排出孔15が設けられたウォータポンプ1において、前記各排出孔15の孔縁を外方へ突出させてなる孔縁突出部16を形成することによって、外部から筒状基部4aの外側面を伝い流れてきた雨水等が前記各孔縁突出部16の外周を伝って流下するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン冷却装置等に適用され、当該冷却装置内における冷却水の循環に供されるウォータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウォータポンプとしては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、このウォータポンプは、その一端部がエンジンブロックの側端部に取付固定されるほぼ円筒状のポンプハウジングと、該ポンプハウジングの他端部外周に軸受を介して回転自在に支持されるプーリと該プーリの中心部からポンプハウジング内周を貫通するように軸線方向に沿って配置される回転軸とからなる動力伝達部材と、該回転軸の先端部に固定され、エンジンブロックの内部に収容されるインペラと、前記駆動軸の中間部外周側にポンプハウジング内周面との間に介装され、インペラ側からポンプハウジング内に流入した冷却水を堰き止めるメカニカルシールと、を備えている。
【0004】
ここで、前記ウォータポンプでは、メカニカルシールによりインペラ側からの冷却水の侵入の抑制が図られているが、該メカニカルシールによっても前記冷却水の侵入を完全には遮断できないことから、前記軸受に対向するプーリの側壁に複数の貫通孔を設けることで、メカニカルシールを超えてポンプハウジング内に侵入してしまった冷却水を、前記各貫通孔を介して外部へ排出可能とし、これによって、前記ポンプハウジング内に侵入した冷却水が軸受に及んでしまう不具合の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許第3873851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のウォータポンプでは、前記各貫通孔を設けたことによって、反対に、当該各貫通孔を介して外部からポンプ内に雨水等の異物が侵入してしまうおそれがあり、とりわけ、かかる異物による軸受への悪影響が懸念されていた。
【0007】
本発明は、前記従来のウォータポンプの実情に鑑みて案出されたものであり、軸受と対向するプーリの側壁に貫通孔を設けつつも、当該貫通孔を介して外部からポンプ内へと雨水等の異物が侵入してしまう不具合を抑制し得るウォータポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プーリの筒状基部の軸受と対向する側壁にポンプハウジング内外を連通する貫通孔が設けられたウォータポンプにおいて、とりわけ、前記貫通孔の孔縁を外方へ突出させたことを特徴としている。
【0009】
換言すれば、前記筒状基部の外側面を伝い流れる水が、前記貫通孔の孔縁の外周域を伝って流下するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記貫通孔の孔縁を外方へ突出させることによって、前記筒状基部の外側面を伝い流れる雨水等を、当該突出させた貫通孔の孔縁の周り(外周域)を伝って流下させることが可能となる。これによって、外部からの貫通孔を通じた雨水等の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るウォータポンプの分解斜視図である。
【図2】図1に示すウォータポンプの正面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図3に示すプーリの正面図である。
【図5】本発明に係る貫通孔を示すプーリの要部拡大断面図であって、(a)は本発明に係る貫通孔の一態様を表した図、(b)〜(f)は当該貫通孔の態様のその他のバリエーションを表した図である。
【図6】図4に示すプーリの製造工程を表した略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係るウォータポンプの実施形態を図面に基づいて説明する。なお、下記実施形態では、本発明に係るウォータポンプを従来と同様の自動車用エンジンの冷却装置に適用したものであって、このウォータポンプは、エンジンブロックの側面に配置され、エンジンのクランクシャフトの回転駆動力を動力源として、冷却水をエンジンブロック内において循環させるものである。
【0013】
図1は、本発明に係るウォータポンプの分解斜視図であり、図2は、図1に示すウォータポンプをエンジンブロックとの対向面側から見た図である。
【0014】
すなわち、このウォータポンプ1は、その軸方向一端側に段差縮径状に形成された円筒部11を有し、その他端部に有するフランジ部2aを介して図外のエンジンブロック側面に固定されることにより当該エンジンブロックとの間にいわゆるボリュート室であるポンプ室Pを画成するほぼ円筒状のポンプハウジング2と、該ポンプハウジング2の内周側に軸線方向へ沿って挿通配置される駆動軸3と、ポンプハウジング2の一端側から外部へと臨む駆動軸3の一端部外周に固定され、図外のベルトを介してクランクシャフトの回転駆動力を駆動軸3へと伝達するプーリ4と、該プーリ4の外側端部に固定配置され、プーリ4の外側面のほぼ全体を覆うカバー部材5と、ポンプハウジング2の一端部とプーリ4との間に介装され、プーリ4を回転自在に支持する軸受6と、外部に露出する軸受6の内側面と対向するように隣設配置され、該軸受6の内部への雨水等の異物の侵入を遮蔽する遮蔽板7と、ポンプハウジング2の他端側からポンプ室Pへと臨む駆動軸3の他端部外周に固定され、ポンプ室P内において回転自在に収容配置されるインペラ8と、を備えている。
【0015】
図3は、図2のA−A線に沿う縦断面図であって、前記ウォータポンプ1の構成の詳細を表した図である。
【0016】
図3に示すように、前記ポンプハウジング2は、アルミダイキャストにより一体に形成されており、前記円筒部11は、前記フランジ部2aに隣設された大径部11aと、該大径部11aに接続され、当該円筒部11の軸方向中間部に形成された中径部11bと、該中径部11bに段部11dを介して接続され、当該円筒部11の先端側に向かって内径が漸次縮小するように構成された小径部11cとを有し、中径部11bの下部には、その下端が栓部材9によって封止されることにより画成されて後記のドレン孔13を介して当該中径部11b内と連通するドレン室12が設けられている。
【0017】
そして、前記中径部11bには、大径部11a側の端部内周面とこれに対向する駆動軸3の外周面との間に、周知のメカニカルシール10(本発明に係るシール部材に相当)が介装され、該メカニカルシール10によって、ポンプ室P内の冷却水の侵入が抑制されている。しかしながら、このメカニカルシール10のみではポンプ室P側からの冷却水の侵入を完全には抑止できないため、中径部11bの周壁の鉛直最下方となる位置には、当該中径部11b内部空間とドレン室12とを連通するドレン孔13が、図3中のY軸方向に沿って貫通形成されていて、該ドレン孔13によって、前記メカニカルシール10では抑止できず中径部11b内へと流入してしまった冷却水をドレン室12へと排出し、当該冷却水を小径部11c側へ流出させないようになっている。さらに、この中径部11bの周壁には、前記ドレン孔13と対向する位置に、当該中径部11b(ポンプハウジング2)の内外を連通する連通孔14が、図3中のY軸方向に沿って貫通形成されていて、該連通孔14によって、ドレン室12内で蒸発した冷却水を外部へと排出するようになっている。
【0018】
前記駆動軸3は、その一端部がポンプハウジング2の一端から外部へ臨むと共に、その他端部がポンプハウジング2の他端から外部へ臨むように構成されている。また、この駆動軸3には、メカニカルシール10の嵌着位置より一端側であって前記ドレン孔13や連通孔14に対応する軸方向位置に、所定の軸方向幅を有する環状の切欠溝3aが周方向に沿って設けられている。このような切欠溝3aを設けることにより、前記メカニカルシール10を超えて中径部11b内に流入した冷却水のうち駆動軸3の外周面を伝い流れるものについては、当該切欠溝3aによってその流れを堰き止めることが可能となっている。すなわち、ポンプ室P側から駆動軸3の外周面を伝い流れてきた冷却水が切欠溝3aに流れ込むと、この冷却水は当該切欠溝3aにおけるプーリ4側の段部によって堰き止められ、当該切欠溝3aよりプーリ4側への流動が抑制される。
【0019】
前記プーリ4は、金属板をプレス加工することによってほぼ円筒状に一体に成型されており、ポンプハウジング2の小径部11cを囲繞するように有底円筒状に構成された筒状基部4aと、該筒状基部4aの外周側に延設され、その外周に前記ベルトが巻回されることによって前記クランクシャフトとの連係に供するベルト巻回部4bと、前記筒状基部4aの中心部にポンプハウジング2側から外方へと軸線方向に沿って窪み形成され、駆動軸3との固定に供する軸固定部4cとを有し、前記軸固定部4cが駆動軸3の一端部外周に圧入されることによって、当該駆動軸3に固定されている。ここで、前記筒状基部4aは、軸受6の外周に嵌挿され当該軸受6による回転支持に供する軸受支持部4dと、該軸受支持部4dの外端縁から径方向内側に向かって延設されることによって軸受6の外側面と対向配置され、この軸受支持部4dと軸固定部4cとを連結する側壁部4e(本発明に係る側壁に相当)とから構成され、軸受支持部4dの内周に軸受6(後記の外輪6b)を圧入した後に、当該軸受6(後記の内輪6a)がポンプハウジング2の小径部11cの外周に圧入されることにより、ポンプハウジング2に組み付けられることとなる。そして、この筒状基部4aを一体に形成することにより、該筒状基部4aを構成する軸固定部4cや軸受支持部4d、側壁部4eを別体に形成する場合に比べポンプ1の構成部品点数を削減可能となるのは勿論のこと、後記の排出孔15やその孔縁突出部16の容易な形成に供される。
【0020】
また、前記プーリ4の側壁部4eには、前述のようなポンプ室P側からメカニカルシール10等を超えて小径部11c内に流入した冷却水の排出に供する複数の排出孔15(本発明に係る貫通孔に相当)が、周方向ほぼ等間隔に図3中のX軸方向に沿って貫通形成されている。これら各排出孔15は、その内周側が後記の第1シール部材6dよりも内周側において開口するように構成されることにより、前記小径部11c内に流入した冷却水が、水蒸気として、第1シール部材6dに及ぶ前に当該各排出孔15を通じて外部へと排出されるようになっている。しかも、これら各排出孔15は、複数設けられていることで、前記ポンプ1内の冷却水の排出を効率よく行うことが可能となっている。また、前記各排出孔15の孔縁には、これらの孔縁全体を内側から立ち上げることにより当該各孔縁を外方へと突出させてなる孔縁突出部16が、それぞれ設けられている。
【0021】
前記カバー部材5は、アルミニウムやステンレス等、耐食性を有する所定の金属材によってほぼ筒状にプレス成型されてなるもので、図3に示すように、プーリ4の筒状基部4aを外側から覆う被覆部5aと、該被覆部5aの中心部に軸線方向へ沿って円筒状に突設され、プーリ4との固定に供する固定部5bとから構成され、前記固定部5bがプーリ4の軸固定部4c外周に圧入されることによって、当該プーリ4に固定されている。そして、このカバー部材5は、前述のようにその内周縁がプーリ4の軸固定部4cに当接する一方、外周縁がプーリ4のベルト巻回部4bの内周面に近接する位置まで延出し、当該プーリ4の外側面ほぼ全体を覆うように構成されることで、外部から雨水等の異物が軸受6に直接及んでしまう不具合が抑制されるようになっている。
【0022】
前記軸受6は、いわゆるシール付きの玉軸受であって、小径部11cの外周面と軸受支持部4dの内周面との間に介装されていて、小径部11cの外周面に圧入固定される内輪6aと、軸受支持部4dの内周面に圧入固定される外輪6bと、内外輪6a,6b間に相互に対向して設けられる一対の保持溝に保持される複数の転動体であるボール6cと、外輪6bの両端部内周縁にそれぞれカシメ固定され、内外輪6a,6bの径方向間に画成される筒状空間部と外部との連通を遮断する円環状の第1、第2軸受シール6d,6eとから構成されている。そして、かかる軸受6では、その一端部に配設された第1軸受シール6dによって、中径部11bから小径部11c内に流入した水分の当該軸受6内部への侵入が抑制されている一方、その他端側では、第2軸受シール6eとこれに直列配置された前記遮蔽板7とによって、外部から当該軸受6内部への雨水等の異物の侵入が抑制されている。
【0023】
前記遮蔽板7は、アルミニウムやステンレス等、耐食性を有する所定の金属材によってほぼ円環状に形成されたものであり、前記小径部11cの先端側からポンプハウジング2に嵌挿され、その後、小径部11cに軸受6(内輪6a)が圧入されることにより、該軸受6の他端側部において、内輪6aと前記段部11dとの間に挟持固定されている。そして、この遮蔽板7は、その内周縁が小径部11cに当接する一方、外周縁がプーリ4の軸受支持部4dの内周面に近接する位置まで延出することにより、外部から雨水等の異物が軸受6に直接及んでしまう不具合が抑制されるようになっている。
【0024】
前記インペラ8は、金属板をプレス加工することによって一体に成形されており、ほぼ円板状に形成された基部8aと、該基部8aの周方向の所定箇所において外周側がそれぞれ切り起こされて軸方向へ折曲形成された複数の羽根部8bと、基部8aの中心部にポンプハウジング2側から前記エンジンブロック側へ軸線方向に沿って窪み形成された筒状の軸部8cとを有し、前記軸部8cが駆動軸3の他端部外周に圧入されることによって、該駆動軸3に固定されている。
【0025】
図4は、前記プーリ4単体を正面(外側面)から見た図であり、また、図5は、前記排出孔15の詳細を示す図4のB−B線に沿う断面図である。なお、図5では、(a)が本実施形態に係る排出孔15の態様を表している。
【0026】
すなわち、図5(a)に示すように、前記各孔縁突出部16は、前記各排出孔15の孔縁全体をそれぞれ外方となる反インペラ8側へほぼ直角に曲折してなり、その延出方向において内外径r1,R1が一定となるように、つまり、その内径r1において先端側と基端側とが同径であって、かつ、その外径R1において先端側と基端側とが同径となるように構成されている。このように、前記各孔縁突出部16を、その内外径を一定とする簡易な構成とすることで、当該各孔縁突出部16を比較的容易に形成することができる。ここで、当該各孔縁突出部16は、後述する手順に従い、プーリ4の形成に伴って前記各排出孔15等と共にプレス成型によって一体に形成される。
【0027】
図6は、前記プーリ4の成型方法(手順)を表した略図である。
【0028】
同図に示すように、まず、金属板を絞り加工等することによってプーリ4の外形を形成した後、前記各排出孔15の内径r0とほぼ同径に設定された複数のパンチ21aを有する上型21とこれを受容する下型22とからなる第1の金型D1をもって、前記側壁部4eに前記各排出孔15をそれぞれ孔あけ加工する(第1工程)。具体的には、前記両型21,22によって側壁部4eを挟持した状態で、上型21の各パンチ21aによって側壁部4eを打ち破ることにより、前記各排出孔15が貫通形成されることとなる。
【0029】
続いて、この前記各排出孔15が形成されたプーリ4について、前記各排出孔15の内径r0よりも大きな外径に設定された複数のパンチ23aを有する上型23とこれを受容する下型(図示外)とからなる第2の金型D2をもって、前記各排出孔15の孔縁を曲げ加工して前記各孔縁突出部16を形成することにより(第2工程)、プーリ4が完成する。具体的には、前記上型23における前記各パンチ23aの先端部外周に有するテーパ部23bを前記各排出孔15の内側孔縁に突き当てて、この状態から前記各パンチ23aを押し込むことによって当該各排出孔15の孔縁をそれぞれ外方へ押し出すように曲折することにより、前記各孔縁突出部16が突出形成されることとなる。
【0030】
以上のように構成された前記ウォータポンプ1によれば、前記各排出孔15が設けられたプーリ4の側壁部4eはカバー部材5によって覆われていることから、基本的には、当該カバー部材5によって外部からの雨水等の異物を遮蔽することが可能となっている。
【0031】
しかしながら、前記各排出孔15によるポンプ1内の水分排出の実効を図るため、前記カバー部材5の外周面とプーリ4のベルト巻回部4bの内周面との間には若干の径方向隙間が設けられていることから、当該径方向隙間を介して雨水等の異物がカバー部材5の内側へと侵入してしまうことがある。すると、この雨水等は、プーリ4の筒状基部4aの外側面を伝い流れて、前記各排出孔15からポンプ1内に流入してしまうおそれがある。
【0032】
そこで、本発明に係る前記ウォータポンプ1では、前記各排出孔15の孔縁に外方へ突出する前記各孔縁突出部16を設けたことにより、たとえ前記隙間から雨水等が侵入して、当該雨水等がプーリ4の筒状基部4aの外側面を伝い流れる場合でも、この雨水等は、前記各孔縁突出部16によって堰き止められ、当該各孔縁突出部16の外周面を伝って流下することとなって、前記各排出孔15を通じてポンプ1内に流入してしまうおそれがなくなる。この結果、前記雨水等の異物がポンプ1内に流入することにより生ずる軸受6の耐久性の低下やメカニカルシール10のシール性の低下といった不具合の抑制を図ることができる。
【0033】
とりわけ、前記各孔縁突出部16は、雨水等を堰き止めるだけでなく、前記各排出孔15を囲繞するその円筒形状に基づいて、堰き止めた雨水等を、当該各孔縁突出部16の周囲を迂回させるように案内して流下させることができるため、前記雨水等が当該各孔縁突出部16の周囲に溜まることで、その内周部から前記各排出孔15を通じてポンプ1内へと流入してしまうおそれもない。これによって、前記雨水等の前記各排出孔15を通じてのポンプ1内への流入がより効果的に抑制されることとなる。
【0034】
また、一方で、前記各孔縁突出部16が外方へ向かって突出していることによって、前記ポンプ室P側からメカニカルシール10等を超えて小径部11c内に流入した冷却水(水蒸気)は、前記各孔縁突出部16によって、外部へと誘導されるように排出されることとなる。この結果、当該ポンプ1内の冷却水の速やかな排出にも寄与することができる。
【0035】
以下、本実施形態に係る前記各孔縁突出部16の他の態様(バリエーション)について、図5(b)(c)に基づいて説明する。
【0036】
図5(b)は、本実施形態に係る前記各孔縁突出部16の第1の変形例を示しており、前記各孔縁突出部16を先端拡径状に構成したものである。
【0037】
すなわち、本変形例に係る孔縁突出部16は、その延出方向において基端側の内外径r3,R3よりも先端側の内外径r2,R2の方が大きくなるようないわゆるラッパ状に構成されていて、当該孔縁突出部16の外周部に環状の溝17が形成されるようになっている。
【0038】
なお、かかる特異な形状を有する孔縁突出部16を形成するには、前記第1実施形態の成型方法に係る第2工程の後、前記第2の金型D2と同様、先端側外周にテーパ部を有し、前記各孔縁突出部16の内径r1より大径のパンチが設けられた第3の金型(図示外)をもって、前記各孔縁突出部16の先端部を内側から押し広げることにより形成することができる。具体的には、前記金型におけるパンチのテーパ部を前記各孔縁突出部16の先端内周縁に突き当てた状態で前記パンチを押し込むことにより、当該先端部が拡径されて前記ラッパ状の孔縁突出部16が完成することとなる。
【0039】
したがって、本変形例の場合、とりわけ、前記各孔縁突出部16の先端側が反り返る形状となっていることから、前記筒状基部4aの外側面を伝い流れる雨水等をより確実に堰き止め可能になると共に、その外周部に形成される前記各溝17により、当該雨水等をより確実に迂回させるように誘導案内して流下させることが可能になる。これによって、雨水等が前記各排出孔15を通じてポンプ1内へと流入してしまう前記不具合をより一層効果的に抑制することができる。
【0040】
図5(c)は、本実施形態に係る前記各孔縁突出部16の第2の変形例を示しており、前記各孔縁突出部16を先端縮径状に構成したものである。
【0041】
すなわち、本変形例に係る孔縁突出部16は、その延出方向において基端側の内外径r3,R3よりも先端側の内外径r2,R2の方が小さくなるように構成されていて、当該孔縁突出部16の外周部に環状のテーパ部が形成されるようになっている。
【0042】
かかる構成としても、前記第1実施形態と同様の作用効果が奏せられるのは勿論のこと、とりわけ、本変形例の場合、前記各孔縁突出部16を設ける際の前記各排出孔15の孔縁の曲折量が比較的小さくてすむことから、特にプーリ4の側壁部4eの板厚が比較的大きい場合に有効であって、当該各孔縁突出部16の形成作業の容易化に供される。
【0043】
図5(d)は、本発明に係るウォータポンプの第2実施形態を示しており、前記第1実施形態に係る孔縁突出部16を別部材によって構成したものである。
【0044】
すなわち、本実施形態では、同図に示すように、前記各孔縁突出部16が、前記プーリ4の側壁部4eの外側面における前記各排出孔15の孔縁に当該各排出孔15の内径r0とほぼ同径の内径を有するほぼ円環状の環状部材19を溶接することによって構成されている。
【0045】
かかる構成とする場合には、前記第1実施形態のプーリ4の製造工程に係る第2工程の曲げ加工を廃止し、前記側壁部4eの外側面に前記各環状部材19を溶接するのみで前記各孔縁突出部16を形成できるため、前記側壁部4eの板厚が比較的厚い場合に特に有効であり、かかる場合の当該各孔縁突出部16の形成作業の容易化に供される。
【0046】
図5(e)は、本発明に係るウォータポンプの第3実施形態を示しており、前記第1実施形態に係るプーリ4を樹脂材によって形成したものである。
【0047】
すなわち、本実施形態では、前記プーリ4全体が樹脂材により一体成形されていて、前記各孔縁突出部16の先端側の外径R2が基端側の外径R3よりも小さく、かつ、先端側の内径r2が基端側の内径r3よりも大きくなるように構成されている。
【0048】
このように、前記プーリ4を樹脂材で成形する場合は、当該プーリ4の設計の自由度の向上や製造作業性の向上に供されることは勿論、とりわけ、前記各孔縁突出部16を、その先端側に向かって漸次薄肉となるように、その内外周をテーパ状に構成することで、当該プーリ4の成形時における良好な型抜き性を確保することができる。
【0049】
図5(f)は、前記第3実施形態に係る前記各孔縁突出部16の変形例を示しており、前記各孔縁突出部16の特異な形状に加えて、前記各排出孔15を先端拡径状に構成したものである。
【0050】
すなわち、この変形例にあっては、同図に示すように、前記各排出孔15の内径r0が外端側へ向かって漸次拡径するように設定され、当該排出孔15と前記各孔縁突出部16の内周部とによって一連のテーパ孔が構成されるようになっている。
【0051】
したがって、本変形例では、とりわけ、前記各排出孔15も含めてテーパ状に形成されていることから、プーリ4を樹脂材によって成形するにあたり、該プーリ4の成形時における型抜き性のさらなる向上が図れる。
【0052】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記各排出孔15の形状、並びに前記各孔縁突出部16の形状及び突出量については、ポンプ1の適用対象や使用環境等に応じて自由に変更することができる。特に、前記各孔縁突出部16については、前述のように、プーリ4と一体又は別体のいずれでもよく、また、その形成に際しても、前記各排出孔15と同時或いは段階的に曲折加工する、別部材を接合(接着)する、プーリ4と一体成形する等、いかなる手段を用いてもよい。
【0053】
以下、前記各実施形態から把握される特許請求の範囲に記載した以外の技術的思想について説明する。
【0054】
(a)請求項1又は2に記載のウォータポンプにおいて、
前記貫通孔は、複数設けられていることを特徴とするウォータポンプ。
【0055】
かかる構成によれば、シール部材を超えてインペラ側からポンプハウジング内に侵入した水分を効率よく排出することができる。
【0056】
(b)請求項1又は2に記載のウォータポンプにおいて、
前記貫通孔の孔縁を、前記プーリとは別体の部材をもって外方へ突出させるように構成したことを特徴とするウォータポンプ。
【0057】
かかる構成によれば、貫通孔の孔縁の突出形状や突出量についての自由度の向上が図れる。また、前記孔縁の突出部を別体の部材とすることで、とりわけ、金属板をプレス成形してプーリを形成する場合において、筒状基部の厚さ幅に関わらず、当該突出部を容易に形成することができる。
【0058】
(c)請求項1又は2に記載のウォータポンプにおいて、
前記貫通孔の孔縁の外径が、その先端側に対して基端側が大きくなるように設定されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0059】
かかる構成によれば、とりわけ、金属板をプレス成形してプーリを形成する場合において、筒状基部の厚さ幅に関わらず、前記貫通孔の孔縁を比較的容易に突出形成することができる。
【0060】
(d)請求項1又は2に記載のウォータポンプにおいて、
前記貫通孔の孔縁の外形が、その先端側に対して基端側が小さくなるように設定されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0061】
かかる構成によれば、貫通孔の孔縁が外方へ拡径するかたちになって、当該貫通孔の外周部を溝状に形成することが可能となるため、かかる溝をもって、筒状基部の外側面を伝い流れる雨水等をより確実に迂回させることに供される。この結果、貫通孔を介しての外部からの雨水等の侵入をより効果的に抑制することができる。
【0062】
(e)請求項1又は2に記載のウォータポンプにおいて、
前記プーリが樹脂材によって一体成形されると共に、前記貫通孔の孔縁の先端側の外径が基端側より小さく、かつ、その先端側の内径が基端側より大きく設定されていることを特徴とするウォータポンプ。
【0063】
かかる構成によれば、前記孔縁の突出部の内外周が先端側に向かってテーパ状に形成されることとなるため、プーリ成形時の型抜き性が良好となり、生産性の向上に供される。
【0064】
(f)請求項1又は2に記載のウォータポンプにおいて、
前記プーリが金属材によって形成されると共に、前記貫通孔の孔縁がプレス成型によって突出形成されることを特徴とするウォータポンプ。
【0065】
かかる構成によれば、プレス成型によって、前記孔縁の突出部を容易に形成することができ、生産性の向上に供される。
【符号の説明】
【0066】
1…ウォータポンプ
2…ポンプハウジング
3…駆動軸
4…プーリ
4a…筒状基部
4e…側壁部(側壁)
6…軸受
8…インペラ
10…メカニカルシール(シール部材)
15…排出孔(貫通孔)
16…孔縁突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端側に円筒部を有するポンプハウジングと、
前記円筒部を囲繞するように構成された筒状基部をもって前記円筒部の外周に回転自在に支持され、外部から動力が伝達されて回転するプーリと、
前記円筒部の外周に固定される内輪と前記筒状基部の内周に固定される外輪と前記内外輪の間に介装された転動体とから構成された軸受と、
その一端部が前記プーリに固定され、前記ポンプハウジングの内周側に軸線方向に沿って挿通配置された駆動軸と、
前記駆動軸の他端部に当該駆動軸と一体回転可能に設けられたインペラと、
前記円筒部の内周面と前記駆動軸の外周面との間に介装されたシール部材と、
前記筒状基部の前記軸受と対向する側壁に設けられ、前記ポンプハウジングの内外を連通する貫通孔と、を備え、
前記貫通孔の孔縁を反インペラ側となる外方へ突出させたことを特徴とするウォータポンプ。
【請求項2】
軸方向一端側に円筒部を有するポンプハウジングと、
前記円筒部を囲繞するように構成された筒状基部をもって前記円筒部の外周に回転自在に支持され、外部から動力が伝達されて回転するプーリと、
前記円筒部の外周に固定される内輪と前記筒状基部の内周に固定される外輪と前記内外輪の間に介装された転動体とから構成された軸受と、
その一端部が前記プーリに固定され、前記ポンプハウジングの内周側に軸線方向に沿って挿通配置された駆動軸と、
前記駆動軸の他端部に当該駆動軸と一体回転可能に設けられたインペラと、
前記円筒部の内周面と前記駆動軸の外周面との間に介装されたシール部材と、
前記筒状基部の前記軸受と対向する側壁に設けられ、前記ポンプハウジングの内外を連通する貫通孔と、を備え、
前記筒状基部の外側面を伝い流れる水が前記貫通孔の孔縁の外周域を伝って流下するように構成されていることを特徴とするウォータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−112342(P2012−112342A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263388(P2010−263388)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】