説明

ウシ海綿状脳症に対するリスクを評価するための核酸の検出法

本発明は伝染性の海綿状脳症(spongiform encephalopathy)、例えばBSEのリスクを評価するための、異常な血清核酸プロファイルを検出する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年7月9日に提出された米国仮出願第60/586,556号の恩典を主張し、前記仮出願は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
狂牛病、あるいはウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy)(BSE)は、進行性であり必ず致死の、畜牛における神経変性疾患である。BSEは、1996年、若い英国人が、より高齢の家族性疾患であるクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob Disease)(CJD)の新しい型と見受けられると診断されたときに、公衆衛生の懸念として認識された。英国の科学者は、この“変異型(variant)クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)”の発生を、BSE畜牛への曝露、および/または、その消費と関連づけた。2002年11月現在、143症例の「確定的な(definite)または可能性のある(probable)」vCJDが英国において診断されている。
【0003】
欧州連合は、BSEマーカーが検出された畜牛の群れにおいて、コホート(cohort)を間引くという方針を作ってきている。コホートは、およそ100倍もの高いBSEのリスクを有しており、確定されたBSEまたはプリオン陽性症例と同じ群れにおいて、BSE指標症例の出生した日付の前後12ヶ月以内に誕生した、および/または、養育されたすべての動物として定義される。コホートの間引きは、屠殺場で検出されてから、戻って追跡されることを通じて達成されることが最も多い。残念なことに、日本やフランスにおける、24ヶ月より若い畜牛でのBSEの新しい変異型症例は、BSEの臨床パラメーターにおける変化を示していると思われる(Biacabe, et al. in Int. Conf. of Prion Diseases: From basic Research to intervention concepts. 44Munich; 2003(非特許文献1); Casalone, et al. in Int. Conf. of Prion Diseases: From basic Research to intervention concepts. 256Munich; 2003(非特許文献2))。
【0004】
プリオンの蓄積は疾患の後期と関連づけられることが最も多いため、初期の海綿状脳症をプリオン試験によって検出することは難しい。プリオン遺伝子多型の遺伝子検査が、現在、スクレイピー(scrapie)に対するヒツジの罹患率を測定するために用いられている(Hunter, et al. Arch Virol 141:809-824, 1996(非特許文献3))。BSEにおいてはそのようなプリオン遺伝子の多様性は見出されていない。しかしながら、畜牛の血清中の核酸の検出(Brenig, Schutz, & Urnovitz, Berl Munch Tierarztl Wochenschr 115:122-124, 2002(非特許文献4))が以前に報告されている。BSE以外の慢性疾患と関連づけられる遺伝子材料の検出およびモニタリングのための検査は、血清を用いて行われ得る。そのような血清核酸(SNA)関連検査は、多くの場合、独特の核酸標的、通常は外因性起源のもの、例えばHIV-1、CMV、HCV、およびHBVを検出するように設計されている。また、可能性のある外因性起源のSNAが、ヒトの慢性疾患に関連づけられて見出されてきている(Urnovitz, et al. Clin Diagn Lab Immunol 6:330-335,1999(非特許文献5); Durie, Urnovitz, & Murphy Acta Oncol 39:789-796,2000(非特許文献6))。しかしながら、このアプローチは伝染性海綿状脳症の検出には応用されてきていない。
【0005】
現在の検査は、BSE畜牛がヒトの食物連鎖に入ることを完全に防御するほど感度が良くはないことが示唆されてきている(Knight, Nature 426:216, 2003(非特許文献7))。さらに、現在の検査は、BSEの高いリスクを有する、BSEに感染した畜牛のコホートの群れの仲間を同定することはできない。現在の発明はこの必要性を課題としている。
【0006】
【非特許文献1】Biacabe, et al. in Int. Conf. of Prion Diseases: From basic Research to intervention concepts. 44Munich; 2003
【非特許文献2】Casalone, et al. in Int. Conf. of Prion Diseases: From basic Research to intervention concepts. 256Munich; 2003
【非特許文献3】Hunter, et al. Arch Virol 141:809-824, 1996
【非特許文献4】Brenig, Schutz, & Urnovitz, Berl Munch Tierarztl Wochenschr 115:122-124, 2002
【非特許文献5】Urnovitz, et al. Clin Diagn Lab Immunol 6:330-335,1999
【非特許文献6】Durie, Urnovitz, & Murphy Acta Oncol 39:789-796,2000
【非特許文献7】Knight, Nature 426:216, 2003
【発明の開示】
【0007】
発明の簡単な概要
本発明は、異常な核酸プロファイルが、伝染性海綿状脳症、例えばBSEに対するリスクにさらされた動物由来の無細胞体液試料、例えば血清または血漿において検出されるという発見に基づく。従って、本発明は、以下の段階を含む、ウシ海綿状脳症(BSE)に対する高いリスクにさらされた動物を検出する方法を提供する:試験増幅反応において、動物から得られた無細胞試料より抽出された核酸を、増幅プライマーとともにインキュベーションする段階;参照増幅反応に対し標準偏差の3倍(3 standard deviations)を超える増幅反応の反応性を検出する段階であって、3倍を超える反応性がBSEに対する高いリスクを示す、段階。いくつかの態様において、無細胞体液試料は血清または血漿である。核酸試料はDNA試料またはRNA試料であり得る。
【0008】
任意の数のプライマーが、本発明の方法において使用され得る。典型的には、少なくとも一つのプライマーが、ゲノムの非コード領域中の配列にハイブリダイズする;しばしば、プライマーの一つが、動物ゲノム中の反復配列、例えばSINE配列にハイブリダイズする配列を含む。いくつかの態様において、プライマーは連続した配列または同じ染色体上の配列由来でなくてもよい。例示的な態様において、プライマーは、プライマーCHX-1FおよびCHX-1Rと同一の配列にハイブリダイズする。そのようなプライマーは、例えばCHX-1FおよびCHX-1Rの少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含み得る。いくつかの態様において、プライマーのハイブリダイズする領域は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2と、少なくとも80%、典型的には90%の同一性を含む。
【0009】
典型的な態様において、本発明の方法において解析される増幅の特性は、融解曲線である。融解プロファイルは、増幅反応の終了時または特定のサイクル数において決定され得る。他の態様において、解析される増幅の特性は、ゲル、例えばポリアクリルアミドゲル上のパターンである。
【0010】
しばしば、増幅反応は二本鎖DNAに特異的に結合する化合物、例えば蛍光色素を含む。
【0011】
本発明はまた、BSEに対する高いリスクを示す配列にハイブリダイズするプライマー、例えばプライマーCHX-1FおよびCHX-1Rと同一の配列にハイブリダイズするプライマーを含むキットを提供する。いくつかの態様において、キットはプライマーCHX-1FおよびCHX-1Rを含む。そのようなキットはまた、例えば対照試料を含めて、さまざまな対照や試薬を含み得る。
【0012】
もう一つの局面では、本発明は、以下の段階を含む、ウシ海綿状脳症(BSE)に対する高いリスクにさらされた動物を検出する増幅反応において用いるプライマーを同定する方法を提供する:正常な動物と比較して、BSEの動物に豊富である核酸配列を同定する段階;正常な動物と比較してBSEに豊富である配列に基づいて、プライマーを設計する段階;およびコホートまたはBSEの動物由来の核酸を含む増幅反応において、参照増幅反応に対して標準偏差の3倍を超える反応性を検出するプライマーを選択する段階。典型的には、豊富である配列は、血清のような無細胞試料中で同定される。プライマーを同定する増幅反応における核酸は、無細胞試料、例えば血清からしばしば単離される。
【0013】
本発明はまた、以下の段階を含む、ウシ海綿状脳症(BSE)に対する高いリスクにさらされた動物を検出する方法を提供する:試験増幅反応において、動物から得られた無細胞試料より抽出された核酸を、本明細書、例えば前の段落に記述された方法に従って得られた増幅プライマーとともにインキュベーションする段階;および参照増幅反応に対し標準偏差の3倍を超える増幅反応の反応性を検出する段階であって、3倍を超える反応性がBSEに対する高いリスクを示す、段階。
【0014】
発明の詳細な説明
定義
「コホート」とは、BSE指標症例の前後12ヶ月以内に同一の農場で養育されたまたは誕生したとして、公式のEU定義に従って定義される、誕生または養育コホートのことを指す。
【0015】
「BSEに対する高いリスク」とは、BSEを持つ他の動物、例えばコホート動物にさらされてきていない健常な動物と比較して、BSEを発生するより高いリスクのことを指す。例えば、コホート動物でないウシと比較して、コホートウシがPrPres陽性であるリスクは100倍を超える。
【0016】
本明細書において使用される「反応性」という用語は、疾患、例えばBSEに対する高いリスクを示す核酸配列の存在下での、増幅の特性、例えば融解曲線の特性における変化を指す。試料が、参照標準を上回って標準偏差の少なくとも3倍、好ましくは5倍の値を示すとき、反応するとみなされる。
【0017】
「陽性参照」または「陽性対照」は、疾患、例えばBSEのリスクを示す核酸を含むことが既知の試料である。いくつかの態様において、「陽性参照」は本発明の測定法において反応した既知のコホート動物から得られ得る。または、「陽性対照」は、本発明の測定法において反応性を示す合成の構築物であり得る。
【0018】
「参照対照」は、BSEに対する高いリスクと関連づけられる核酸の存在が解析される増幅の特性に対して、最小の変化をもたらす試料である。多くの場合、そのような試料は、既知の陰性、例えば健常な動物由来のものである。例えば、診断的な応用において、そのような対照は、典型的には、PrPres動物と一緒のコホートではない正常な動物から得られる。「参照対照」は好ましくは測定法に含まれるが、省略されてもよい。
【0019】
「増幅する」とは、反応の構成成分のすべてが完全な状態であればポリヌクレオチドの増幅を可能にするのに十分な条件に、溶液を供する段階を指す。増幅反応の構成成分は、例えばプライマー、ポリヌクレオチド鋳型、ポリメラーゼ、ヌクレオチドなどを含む。「増幅する」という用語は、典型的には、標的核酸の「指数関数的な」増加のことをいう。しかしながら、本明細書において使用される「増幅する」とはまた、核酸の選択的標的配列の数の直線的な増加をも指し得る。
【0020】
「増幅の特性」とは、増幅反応の任意のパラメーターを指す。そのような反応は、典型的には反復されるサイクルを含む。増幅の特性は、サイクル数、融解曲線、温度プロファイル、または、ゲル上またはその他の増幅後検出の手段におけるバンドの特性であってもよい。
【0021】
「融解プロファイル」または「融解曲線」とは、温度勾配を超えた核酸断片の融解温度特性を指す。いくつかの態様において、融解曲線は、融解シグナルの最初の派生物に由来する。DNA断片の融解点は、例えばその長さ、そのG/C含量、緩衝液のイオン強度およびミスマッチ(ヘテロ二本鎖)の存在に依存する。したがって、集団中の温度範囲を超えて融解する分子の割合が、特定の断片または分子の集団に特有の融解曲線を生じさせる。
【0022】
「増幅反応」という用語は、核酸の標的配列のコピーを倍増させる任意のインビトロの手段を指す。そのような方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、DNAリガーゼ、(LCR)、QβRNAレプリカーゼ、RNA転写に基づく(TASおよび3SR)増幅反応、および核酸配列に基づく増幅(NASBA)を含むが、それらに限定されない(例えば、Current Protocols in Human Genetics Dracopoli et al. eds., 2000, Johh Wiley & Sons, Inc.参照)。
【0023】
「ポリメラーゼ連鎖反応」または「PCR」とは、それによって標的二本鎖DNAの特異的なセグメントまたは部分配列が加速度的に増幅される方法を指す。PCRは当業者に周知である;例えば、米国特許第4,683,195号および第4,683,202号; PCR Technology: Principles and Applications for DNA Amplification(Erlich, ed., 1992)およびPCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Innis et al., eds, 1990参照。
【0024】
「増幅反応混合物」という用語は、標的核酸を増幅するのに使用されるさまざまな試薬を含む水溶液を指す。これらは、酵素、水性緩衝液、塩、増幅プライマー、標的核酸、およびヌクレオシド三リン酸を含む。情況に応じて、混合物は、完全または不完全いずれかの増幅反応混合物であり得る。
【0025】
「プライマー」とは、標的核酸上の配列にハイブリダイズし、核酸合成の開始点として働くポリヌクレオチド配列のことを指す。プライマーはさまざまな長さであり得、多くの場合長さは50ヌクレオチド未満、例えば12-25ヌクレオチドの長さである。PCRに用いるプライマーの長さと配列は、例えば前記のInnis et al.を参照し、当業者に公知の原理に基づいて設計され得る。プライマーは、好ましくは一本鎖オリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、標的配列に正確にまたは実質上相補的で、好ましくは約15〜約35ヌクレオチドの長さである「ハイブリダイズ領域」を含む。プライマーオリゴヌクレオチドは、完全にハイブリダイズ領域からなり得るか、または、増幅された産物の検出、固定、または操作を可能にするが、DNA合成の開始試薬として働くプライマーの能力を変えない付加的な特徴を含み得るか、いずれかである。例えば、核酸配列末尾は、捕獲オリゴヌクレオチドにハイブリダイズするプライマーの5’末端に含まれ得る。当業者に認識されるように、本発明に使用するプライマーは、増幅する配列と、ハイブリダイゼーション反応において正確に対応する必要はない。例えば、測定法の形式がハイブリダイゼーション条件を調整するのを妨げるとき、プローブへのミスマッチの組み込みが、二本鎖安定性を調整するために用いられ得る。特定の導入されたミスマッチの二本鎖安定性への影響は周知であり、二本鎖安定性は、上述のように、見積もられることも経験的に決定されることも、いずれも日常的にできる。プローブの正確な大きさおよび配列に依存する適当なハイブリダイゼーション条件は、本明細書において提供される、および当技術分野において周知の手引きを用いて、経験的に選択されることができる(例えば本明細書において引用される一般的なPCRおよび分子生物学技術参考書を参照)。
【0026】
核酸に言及するときの「部分配列」という用語は、第2の配列の範囲内で連続しているが、第2の配列のヌクレオチドのすべてを含むわけではないヌクレオチドの配列を指す。
【0027】
「温度プロファイル」とは、PCR反応の変性、アニーリング、および/または伸長段階の温度および時間の長さを指す。PCR反応の温度プロファイルは、典型的には、同様のまたは同一のより短い温度プロファイルの10〜60回の繰り返しからなる;これらのより短いプロファイルのそれぞれは、典型的に2段階または3段階のPCR反応を定義してもよい。「温度プロファイル」の選択は、例えば前記のInnis et al.を参照し、当業者に公知のさまざまな考察に基づく。
【0028】
「鋳型」とは、増幅されるポリヌクレオチドを含む、二本鎖または一本鎖のポリヌクレオチド配列を指す。
【0029】
「無細胞生物体液」は、実質的に細胞を欠く生物体液である。典型的には、そのような体液は、通常細胞を含む生物体液(例えば全血)から細胞の除去によって調製される体液である。例示的な加工された無細胞生物体液は、例えば末梢血または、体腔または器官から得られた血液由来の、加工された血液(血清および血漿);および尿、乳、唾液、汗、涙、粘液、脳脊髄液、精液、便などから調製された試料を含む。しばしば、血清または血漿は、本発明の測定法で解析される無細胞試料である。使用され得るその他の無細胞試料は、細胞表面に結合して循環している核酸を除去するために、任意の細胞調製物を洗浄することによって得られた核酸を含む試料を含む。例えば、そのような無細胞試料は、リンパ球のような循環血液細胞を洗浄することによって得られ得る。そして洗浄した上清が解析され得る。
【0030】
「核酸」とは、一本鎖または二本鎖型いずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマー、または、レポーター分子に化学的に結合したポリヌクレオチドのキメラ構築物のことを指し、別のように限定されない場合は、天然に現存するヌクレオチドと同様の様式で機能することができる天然ヌクレオチドの公知のアナログも含む。
【0031】
本明細書において用いられる「生物試料」という用語は、生物体または生物体の構成成分(例えば細胞)から得られる試料のことを指す。試料は任意の生物組織または体液であってよい。しばしば、試料は、疾患を有するまたは疾患を有することが疑われる患者、動物またはヒトに由来する試料である「臨床試料」であろう。そのような試料は、痰、血液、血清、血漿、体腔血または血液産物、血液細胞(例えば白血球)、組織または細針生検試料、尿、乳、腹膜液、および胸膜液、またはそれら由来の細胞を含むが、それらに限定されない。生物試料はまた、組織学の目的のために採取された凍結切片のような組織切片を含んでもよい。
【0032】
本明細書において用いられる「個体」または「患者」とは、任意の動物、しばしば哺乳動物を指し、ヒト、チンパンジーおよびサルのようなヒト以外の霊長類、ウマ、ウシ、シカ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ミンク、ヘラジカ、ネコ、ウサギ目の動物、および囓歯動物を含むが、それらに限定されない。
【0033】
「慢性疾患」は、何ヶ月も何年も続く疾患、症状、症候群である。動物の慢性疾患の例は、癌および消耗病ならびに自己免疫疾患、および海綿状脳症やその他のような神経変性疾患を含むが、それらに限定されない。
【0034】
「反復配列」とは、動物ゲノム中に存在する高度に反復するDNA要素のことを指す。これらの配列は、通常、配列ファミリーに類別され、おおまかに直列型反復DNA(tandemly repeated DNA)または分散型反復DNA(interspersed repetitive DNA)に分類される(例えばJelinek and Schmid, Ann. Rev. Biochem. 51:831-844, 1982; Hardman, Biochem J. 234:1-11, 1986; およびVogt, Hum. Genet. 84:301-306, 1990参照)。直列型反復DNAは、サテライト、ミニサテライト、およびミニサテライトDNAを含む。分散型反復DNAは、Alu配列、短分散型核内反復配列(short interspersed nuclear elements)(SINES)および長分散型核内反復配列(long interspersed nuclear elements)(LINES)を含む。
【0035】
「再配列された配列」または「再結合された配列」は、通常と比較して再配列された、すなわち、再配列された配列が、健常な動物のゲノムDNA中、または疾患にかかる前または遺伝子毒性薬に曝露される前の動物から得られたゲノムDNA中では連続していない、ゲノムDNAの領域である。
【0036】
「脆弱な部位(fragile site)」は、DNA鎖切断が頻繁である部位である動物ゲノム中の座位である。脆弱な部位は、典型的には、染色性に乏しい結果、間隙または不連続点として細胞遺伝学的に同定される。脆弱な部位は、通常のものまたは稀なものに分類され、さらにそれらを誘導するために使われる薬品に従って分別される。脆弱な部位とそれらの分類の一般的な記述としては、Shiraishi et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 98 :5722-7(2001), Sutherland GATA 8:1961-166(1991)を参照されたい。本明細書において開示される例示された配列は、宿主ゲノムDNAまたは動物ゲノムに明らかに挿入されているウイルスゲノム中の、脆弱な部位での再配列に見出された配列を含む。このように、脆弱な部位は、宿主および/または、細菌、寄生虫、およびウイルスを含む病原体由来の「保管された核酸配列」を含み得る。
【0037】
「実質的に同一」という用語は、2個またはそれ以上のヌクレオチド配列がそれらの配列の大部分を共有することを指す。一般的には、これは、それらの配列の少なくとも約80%、85%、または90%、および好ましくはそれらの配列の約95%であろう。パーセント同一性は、周知の配列アルゴリズムを使用して、または手動の視察によって決定され得る。配列が実質的に同一であることのもう一つの指示は、それらがストリンジェント条件下で同一のヌクレオチド配列にハイブリダイズするかどうかである(例えばSambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001; およびCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel, ed. John Wiley & Sons, Inc. New York, 1997参照)。ストリンジェント条件は配列依存的であり、異なる環境では異なるであろう。一般的には、ストリンジェント条件は、定義されたイオン強度およびpHにおいて特定の配列に対する融解温度点(Tm)より約5℃(またはそれ以下)低いものとして選択される。DNA二本鎖のTmは、ヌクレオチドの50%が対となる温度として定義され、DNA融解の間の分光学的な濃色効果の吸光度変化の中間点に相当する。Tmは、二本鎖らせん状からランダムコイルへの、またはその逆の移行を示す。
【0038】
典型的には、ストリンジェント条件は、塩濃度がpH7において約0.2XSSC、および温度が少なくとも約60℃である条件であろう。例えば、本発明の核酸またはその断片は、本明細の目的のための、少なくとも約60℃、通常約65℃、時には70℃で20分間、0.2XSSC中での少なくとも一回(通常二回)の洗浄を含むストリンジェント条件下、または同等の条件下で、本明細書で開示された核酸を用いた標準的なフィルターハイブリダイゼーションにおいて同定され得る。PCRについては、アニーリング温度はプライマーの長さおよび核酸の構成に依存して、例えば40℃、42℃、45℃、52℃、55℃、57℃、または62℃と、約32℃および72℃の間で変動してもよいが、Tmより約5℃低いアニーリング温度が、低ストリンジェンシー増幅に典型的である。高ストリンジェンシーのアニーリング温度はプライマーおよび緩衝液条件に依存して約50℃〜約72℃の間であり得、しばしば72℃であるが、プライマーのTmの温度、またはそれよりわずかに(5℃まで)高い温度での、高ストリンジェンシーのPCR増幅が典型的である(Ahsen et al., Clin Chem. 47:1956-61, 2001)。高ストリンジェンシーの増幅および低ストリンジェンシーの増幅いずれについても、典型的なサイクル条件は、90℃〜95℃で30秒〜2分の変性相、30秒〜10分続くアニーリング相、および約72℃で1〜15分の伸長相を含む。
【0039】
序論
ウシ海綿状脳症(BSE)は、冒された動物における中枢神経機能の撹乱が増加すること、最終的にはその動物を犠牲にすることを余儀なくされるような重大な症状、例えば立つことができなくなることをもたらすことにより臨床的に特徴付けられる。その他の哺乳動物の伝染性海綿状脳症と比較して、ウシ型はプリオン遺伝子の変異と明らかに関連づけられてはいないが、中枢神経系での凝集を導くプリオン蛋白質の翻訳後のミスホールディングによって引き起こされる。その診断は、ミスホールディングされたプリオン蛋白質がプロテアーゼK消化への増強された抵抗性を有するという事実に基づく。動物の血漿または血液中の疾患特異的なプリオンの蓄積は同定されておらず、診断の標的は脳幹となっている。そのため、生きている動物、特に疾患に対する高いリスクにさらされている可能性のある動物、例えば感染した動物と同一の群れにいるウシのようなコホート動物において疾患が診断され得るような、BSEのための血液由来マーカーが定義される緊急の必要性がある。
【0040】
本発明は、BSEに対するリスクにさらされた動物を検出する増幅反応においてプライマーを用いてBSEに対する高いリスクを診断するための方法を提供する。
【0041】
本発明の方法において検出される核酸
本発明の方法において検出される核酸分子は、遊離の一本鎖または二本鎖分子であっても、または蛋白質と複合体形成してもよい。検出される核酸はDNAまたはRNA分子であり得る。RNA分子は遺伝子から転写される必要はないが、染色体DNAの任意の配列から転写され得る。例示的なRNAは、miRNA、遺伝子間(intergenic)RNA、核内低分子RNA(snRNA)、mRNA、tRNA、rRNA、および干渉RNA(iRNA)を含む。
【0042】
核酸分子は、試料が由来する個体のゲノム中の反復配列または遺伝子間DNAから転写される配列を含んでもよい。検出される核酸分子はまた、生殖系列配列および/またはゲノム中に導入された配列、例えば外来性ウイルス配列の再配列の産物であってもよい。
【0043】
方法は、評価される試験試料中に存在するポリヌクレオチド配列についての知識を必要としない。このように、本方法を用いて検出されるポリヌクレオチドは、特定のポリヌクレオチドであっても、または試料中に存在するポリヌクレオチドの集団であってもよい。さらに、検出されるポリヌクレオチドが公知の配列を有する場合であっても、特定の試料中のポリヌクレオチドはその配列を有する必要がない。すなわち、試料中のポリヌクレオチドの配列は公知の配列と比較して改変されていてもよい。そのような改変は、変異、例えば挿入、欠失、置換、およびその他のさまざまな再配列を含むことができる。さらに、結果として生じた増幅産物は、増幅反応の結果であってよく、ポリヌクレオチドの元来のプールを反映しなくてもよい。
【0044】
試験試料
試験試料は、典型的には標的核酸を含む生物試料である。標的核酸は任意の供給源由来であり得るが、典型的には少量の核酸を含む生物試料、例えば標準的なPCR方法論によって容易に定量化されない無細胞体液から得られた核酸試料由来である。特定の態様において、試験試料は核酸、例えば、血清または血漿から単離されたRNAまたはDNAである。
【0045】
増幅反応
インビトロの増幅方法を通じて当業者に指示するのに十分な技術の例は、Berger、Sambrook、およびAusubelに加えて、Mullis et al.,(1987)米国特許第4,683,202号; PCR Protocols A Guide to Methods and Applications (Innis et al., eds) Academic Press Inc. San Diego, CA (1990)(Innis); Arnheim & Levinson (October 1, 1990) C&EN 36-47; The Journal Of NIH Research (1991) 3: 81-94: Kwoh et al.(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 1173; Guatelli et al.(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87,1874; Lomell et al.(1989) J. Clin. Chem., 35: 1826; Landegren et al.,(1988) Science 241; 1077-1080; Van Brunt (1990) Biotechnology 8: 291-294; Wu and Wallace (1989) Gene 4: 560; およびBarringer et al.(1990) Gene 89: 117に見出される。
【0046】
試料中の核酸を増幅するための増幅反応は、標準的な方法論を用いて行われる。評価される試験試料は、初期に、典型的には増幅反応の開始の際に含まれる。典型的には増幅反応はPCRである。
【0047】
PCRに用いられるプライマーは、典型的には少なくとも一つの、非コード領域由来のプライマーを含む。好ましくは、プライマーは反復配列、例えばAlu様またはSINE配列、または再配列に関連する配列を含む配列を増幅する。いくつかの態様において、プライマー対中の個々のプライマーは、同一の再配列されていない染色体上に存在する配列にハイブリダイズする必要がない。BSEに対するリスクを示す核酸を増幅するそのようなプライマーの能力は、経験的に決定されることができる。
【0048】
プライマーはまた、BSEおよび/またはコホート動物中の無細胞体液、例えば血清に存在するが、正常の動物には存在しない、疾患と関連づけられる単位複製配列(amplicon)を濃縮することによって選択されることができる。これは、ディファレンシャルディスプレイのような公知の技術を用いて行われ得る。好ましくは、BSEの無細胞試料に豊富である配列は、少なくとも一頭のBSEの動物に存在するが、正常の動物には存在しない。例えば、BSEに豊富であるかまたは特有の配列の同定は、BSEおよび健常の血清の増幅において縮重(degenerate)プライマーを用いて達成される得る。結果として生ずる単位複製配列は、例えばゲル解析を用いて解析され得る。BSE試料に特有であるゲル解析のバンド、すなわちすべてのBSEと確定された試料中に観察されるが、健常対照試料中には観察されないバンドが、単離され、配列決定され得る。そしてこれらの配列が、例えば実施例1に記述された標準的な方法論を用いて、特有の候補プライマーを選択するのに用いられる。プライマーは、例えばPCRまたはPAGEゲルを用いて、健常対照由来の試料に対する、BSEと確定された動物由来の試料の十分な分離性を示す能力が評価される。
【0049】
一つの態様において、プライマーは以下である。

当業者に理解されるように、CHX-1FおよびCHX-1Rの配列は、なお目的とする配列を増幅するように、修飾され得る。例えば、配列中の少なくとも3ヌクレオチドが変更され得る。いくつかの態様において、BSEに対する高いリスクを検出するための本発明の方法において用いられるプライマーは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む。他の態様において、そのようなプライマーは、SEQ ID NO:1またはSEQ IN NO:2と少なくとも80%同一、多くの場合90%または95%同一である。
【0050】
増幅反応は、増幅の間、または増幅の終了時のいずれでもモニターされることができる。反応は、さまざまな公知の技術を用いてモニターされる。一つの態様において、増幅反応混合物は、二本鎖特異的な核酸色素を含む。これらの色素は、典型的には蛍光性であり、一本鎖核酸分子と比較して二本鎖核酸に特異的にインターカレート(intercalate)する。したがって、それらは、増幅反応のさまざまな段階の間または増幅反応の終了時に存在する二本鎖核酸の量をモニターするのに用いられ得る。そのような色素は、SYBR (登録商標)Green IおよびPico Greenを含む。
【0051】
試験核酸増幅反応のさまざまな特性は、BSEに対する高いリスクと関連づけられる核酸の存在によって変えられ得る。これらはサイクル数の変化および融解曲線パラメーターを含む。これらの評価項目(endpoint)は、増幅反応の間または増幅反応の終了時に測定され得る。例えば、評価項目パラメーターとしてサイクル数を用いる場合には、生成された産物の量/サイクルが反応の間に評価され得る。BSEに対する高いリスクと関連づけられる核酸の存在は、反応の過程を通して、または、特定のサイクル数において生成された産物の量における変化によって検出される。
【0052】
増幅反応の産物における相違を測定するその他の方法は、例えば一本鎖高次構造多型(single strand conformation polymorphism)(SSCP)、質量分析法、例えばMALDI-TOF、ESI-QTOF、APCI-TQMS、もしくはAPCI-MSn、マイクロサテライト解析のために行われるようなキャピラリー電気泳動、またはUV、蛍光、もしくは任意の質量分析検出を伴うESIもしくはAPCI接続器の使用と併用され、キャピラリー電気泳動分離とも併用され得る変性HPLCのような、公知の技術を含む。
【0053】
いくつかの態様において、融解曲線解析は、試験核酸試料の解析の評価項目として用いられる。
【0054】
試験試料融解曲線パラメーターの決定
試料が反応性であるとみなされるかどうか、すなわち試料がBSEと関連づけられる核酸配列を含むかどうか、に対して、試料が非反応性であるとみなされるかどうか、を定義するための条件は、陰性および陽性対照試料を処理することによって確立される。陰性および陽性対照の間の最大のシグナル分離が決定される、すなわち、陰性および陽性対照間の最大の分離を与える曲線下面積比に使用され得る温度が同定される。典型的には、曲線下面積の解析は、87℃〜90℃の間で行われる。この範囲は、頻繁に存在し得る非特異的な産物、例えばプライマー二量体の影響を受けないように用いられる。それぞれの個々の試料の反応性は、検出限界を上回る、曲線下面積に基づいて計算され、鋳型無しまたは参照対照の基準を越えて平均+3標準偏差、典型的には平均+5標準偏差として定義される。
【0055】
しばしば、さまざまな対照が反応に含まれる。これらは、鋳型無し対照、既知の健常動物由来の試料、および既知の陽性対照を含む。鋳型無し対照は、どのような試料もPCRに付加されない反応である。参照対照は、正常であることが既知である、例えばBSEに対する高いリスクについては陰性であることが既知であるウシ由来の試料である。陽性対照は、人工的な陽性対照であってもよく、またはBSEに対する高いリスクにさらされていることが既知である供給源、たとえばコホート動物由来であり得る。測定法は、対照のすべてを含む必要はない。さらに、いくつかの対照値、例えば参照対照は、以前に行われた測定法から供給され得る。
【0056】
上記で説明されたように、BSEリスクと関連づけられる核酸の存在は、参照標準と比較して試験試料において有意に異なる変化によって決定される。
【0057】
試験試料の融解曲線解析
試験試料は通常、陽性および参照対照と同時に処理される。このモニタリングは増幅された産物の融解プロファイルを提供するであろう。典型的には、蛍光が連続的にモニターされて融解プロファイルが得られる増幅サイクルの終了時に、独立した融解過程においてTmが得られる。しかしながら、Tmはまた、増幅過程の間のある点において得られてもよい。
【0058】
融解曲線を作製するには蛍光モニタリングが一般的に用いられる。例えば、二本鎖特異的DNA特異的色素、例えばSYBR(登録商標)Greenが、増幅反応に組み込まれ得るか、または増幅後に検出の目的のためだけに反応に加えられ得る。SYBR(登録商標)Green色素はdsDNAの副溝(minor groove)内に結合すると考えられている;したがって蛍光シグナルは、dsDNAが一本鎖に融解するにつれて着実に減少する。このように、特異的なプローブは反応をモニターするのに必要とされない。典型的な融解曲線解析は、以下の実施例に記述されている。
【0059】
類似的な方法論が、試験される任意の増幅パラメーターについての評価項目標準を決定するのにも使用され得る。例えば、陽性および陰性参照標準の存在下でサイクル数が決定され、その平均および標準偏差が、ある試料が反応性または非反応性であるかどうかに関するカットオフ値を選択するために計算される。さらに、電気泳動のような解析が、反応産物の存在を評価するために用いられ得る。
【0060】
実施例
実施例1.BSEに対する高いリスクにさらされた動物の検出
本実施例はBSEに対する高いリスクの検出法を記述する。要約すると、ディファレンシャルディスプレイアプローチにおいて、非コード領域プライマーを用いたPCRが、4例のBSEの確定された症例、8例の確定されたBSE症例と関連づけられた135頭のBSEに曝露されたコホート動物、および176頭の健常なPrPres陰性の対照ウシから得られた血清に対して用いられた。BSEと確定された症例由来の4例の血清すべてが、測定法において反応性であった。健常対照ではたった1%未満である(p<0.001)のと比べ、BSEに曝露されたコホートは、コホートによって33%から91%の範囲の反応性の個体を有していた。反応性のPCR産物をクローン化したところ、ウシ生殖細胞系列の再配列された配列であることが判明した。BSEおよびBSEに曝露されたウシ由来の、配列決定されたPCR循環核酸(CNA)の断片のすべては、ウシプリオンコード遺伝子のエクソンの隣接領域に見出されるSINE Bov-tAに相同である80塩基の配列を共有していた。
【0061】
実験は以下のように行われた:
【0062】
実験手順
動物:主としてドイツ北西部に住むホルスタインウシが研究に用いられた。BSE陽性動物は、脳幹中のプロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白質(PrPres)についての欧州連合認可の試験が陽性結果を示し、免疫組織化学によって確定された畜牛として定義される。BSEウシの血清は、疑わしいとして獣医学研究所(Institute of Veterinary Medicine)に照会され、死後にPrPres陽性であると確定されたウシから生前に採取された。養育コホート(コホート)は、BSE指標症例の前後12ヶ月以内に同一の農場で養育されたまたは誕生したとして、公式のEUの定義に従って定義される。公式のドイツのBSE統計(2001/2002/2003)([Zahl der durchgefuhrten BSE-Tests im Berichtszeitraum](2003))によると、そのようなウシは、指標症例のBSE診断の際に脳幹でのPrPresの蓄積によって定義されるようなBSEを患う、107倍高いリスクを有すると計算された(表1)。コホート由来の血清は、間引きの日に得られ、採取されてBSEおよび対照標本と同一の標準的な条件下で保存された。研究期間の間に取得され得たコホートすべてが、統計学上の理由でグループの数がn=7を超えていた限り用いられた。健常対照のウシは、BSEと確定された動物が検出されたことのない、すなわち、その農場由来の屠殺されたどの動物も、認可されたBSE死後試験で陽性結果を示したことがない農場から、任意に選択された乳牛として定義される。正常対照の畜牛血清の大部分は、屠殺時に屠殺場において収集された。コホート畜牛および正常対照として用いられた屠殺場から得られた畜牛のすべては、脳幹中のPrPresについてのEU認可の試験により試験され、陰性であると判明した。これらのグループ由来の血液は、生前に採取された。試験されたすべてのウシはドイツ北部の農場由来であり、グループ間で年齢または管理において異ならなかった。
【0063】
(表1)ドイツBSE撲滅プログラムの2001年から2003年の累積統計

定期的に屠殺されてきたウシおよびコホートウシの集団間のBSE発病率の差は高度に有意である(p<0.001; Chi2)。括弧内は95%信頼区間の下限および上限。
【0064】
血清の収集:血清試料の収集、加工、および保存には特別な注意が払われた。尾静脈または動脈より、血液が、凝固促進剤が装備された18mLプラスチックチューブに収集され、適当な凝固を保証するために室温で30分間放置された。さらなる加工まで、チューブは2〜8℃で24時間以内の間保存された。遠心分離が2〜8℃、1000 x gで15分間行われた。血清上清が1.5mL微量遠心機用カップに0.5mL アリコートとして移され、直ちに−20℃または−80℃で使用時まで凍結された。
【0065】
血清画分の調製:凍結血清は4℃でアイスウォーターバスまたは冷蔵庫中で融解され、250μLが1.5mL微量遠心機用チューブに移された。チューブは、Model 5214卓上型遠心機(Eppendorf, Hamburg, Germany)にて、4,000 x gで25分間、4℃で、細胞破片を除くために遠心分離された。その上清が新しいチューブに移されて、35分、20,000 x gでの遠心分離に供された。上清が注意深く除去されて、沈殿が更なる解析に用いられた。
【0066】
核酸抽出:20,000 x gでの沈殿が、製造業者の使用説明書に従って、標準的なシリカに基づく核酸抽出(NucleoSpin Kit; Cat#: K3064, BD-Clontech, Heidelberg, Germany; 実地研究: NucleoMag Kit, Macherey & Nagel, Duren, Germany)に用いられた。結果として得られた核酸溶液は、すぐに使用されるか、または更なる使用まで−80℃で凍結された。
【0067】
プライマーの選択:死後に結局BSE陽性として確定された生存中の動物から収集された血清より、BSEに豊富な遺伝子配列がクローン化されて配列決定された。2頭のBSE畜牛および4頭の正常対照が用いられた。簡潔にいうと、ウシの血液が、生前に静脈穿刺により、2頭のBSE陽性ウシ(剖検時に確定された)および4頭の健常対照ウシから収集された。核酸(NA)が、250μLの血清から固層(NucleoSpin Kit; Cat#: K3064, BD-Clontech, Heidelberg, Germany)を用いて単離された。部分的縮重配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーのセットが、ディファレンシャルディスプレイに用いられた。部分的縮重プライマーのすべては、4〜6塩基の特有の幹配列に続いて、4Nのストレッチおよび1個の最後の明確な塩基が続く、修飾されたT7シグナル配列(5’)を含んでいた。幹配列は、健常対照を上回るBSEウシへの選択的な関連性に基づいて、以前のサブトラクション実験から選択された(EMBLアクセッション番号AJ620369-AJ620413)。部分的縮重プライマーが、PCRあたり2から6の多数の組み合わせで用いられた。2μLの抽出されたNAが、48〜55℃のアニーリング(60秒)、68℃の伸長(2分)、94℃の変性(1分)の30〜35サイクルでの、20μLのPCR(Advantage-2 PCR Kit, BD-Clontech, Heidelberg, Germany)において、鋳型として用いられた。BSEと確定された症例および健常対照ウシ由来の試料がPAGEゲル上に並行してローディングされ、記述されたように解析された。明らかに特異的に発現されたバンド、すなわち、BSEと確定された試料のレーンすべてに観察されるが、健常対照試料のレーンには観察されないバンドがゲルから切り出され、溶出されてT7プライマーによる再増幅に供された。産物はまずT7 DNAポリメラーゼにより末端平滑化され、PNKおよびATPによってリン酸化された。この反応混合物が、SmaI消化、脱リン酸化されたpGEM-4Zベクターへの平滑末端ライゲーションのために用いられた。ライゲーションは、1UのT7 DNA リガーゼ、1μgの記述されたように調製されたベクター、および上述のように調製されたPCR産物を用いて、一晩4℃で行われた。産物はコンピテント大腸菌(E. coli)に化学的に形質転換され、TAXI LB寒天(テトラサイクリン、アンピシリン、X-Gal、IPTG)上にプレーティングされた。37℃での一晩のインキュベーション後、陽性の(白い)クローンが採取され、アンピシリンを含む1.5mLのLB培地中で培養された。細菌が回収され、プラスミドが標準的な手順に従って単離され、50μLのTBE緩衝液にて再構成された。プラスミドは、IRD700ラベルのM13フォワードおよびM13リバースプライマーを用いたLICOR model 4200 DNA sequencerまたは、big-dye-terminationとともに非標識プライマーを用いたmodel 3100 ABI capillary sequencerのいずれかを用いて配列決定された。これらの配列から、候補プライマー対が標準的な技術によって設計され、BSEの正常からの分離を達成する最適な組み合わせを選択するための更なる解析に用いられた。プライマーの選択は、刊行されているようなPCRプライマー設計の基本(例えばRychlik, et al., Nucleic Acids Res. 18:6409-6412, 1990; Rozen & Skaletsky, Primer3 on the WWW for general users and for biologist programmers. In: Krawetz S, Misener S (eds) Bioinformatics Methods and Protocols: Methods in Molecular Biology Humana Press, Totowa, NJ, pp 365-386, 2000参照)を考慮して、手動の視察またはいくつかのプログラム(例えばPrimer3: http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)によってなされ得る。PCRのためのそれぞれのアニーリング温度は、最適アニーリング温度の最も良い予測が、熱力学的な最近接の計算(例えばvon Ahsen et al. Clin. Chem. 47:1956-61, 2001参照)を用いて達成され得るのに対して、しばしばWallace-Ikaturaの規則またはWuらによる改変によって評価される。
【0068】
最良の分離するプライマーの組み合わせは、すなわち上記の解析より、「CHX-1F」および「CHX-1R」と称された。CHX-1Fはカルモジュリンに類似のウシcDNAエントリー(アクセッション番号XM_592316)に相同であり、一方CHX-1RはBov-tAのモノマーユニット(アクセッション番号X64124)に相同である。
【0069】
配列決定:プライマーCHX-1FおよびCHX-1R(Cat#: 42-4103 and 42-91102, Chronix Biomedical GmbH, Gottingen, Germany)が、48〜55℃のアニーリング(60秒)、68℃の伸長(2分)、94℃の変性(1分)にて30〜35サイクルでの、20μLのPCR(Advantage-2 PCR Kit, BD-Clontech, Heidelberg, Germany)において、抽出された核酸に対して用いられた。BSEと確定された症例および健常対照ウシ由来の試料がPAGEゲル上で並行してローディングされ、記述されたように解析された。バンドがゲルから切り出され、溶出されて再増幅に供された。産物はクローン化されて配列決定された。
【0070】
未処理の配列はSequencher(登録商標)(MAC OSX)を用いて加工された。簡潔にいうと、使用されたクローニングベクターと不明確部分の除去の後、デフォルトのストリンジェンシーパラメーターを用いて自動的なコンティグ(contig)の構築が行われた。結果として得られたコンティグから、少なくとも二つの異なる試料由来のクローンを含むものだけが選択された。そしてホモログは、個々のクローンの50%超によってカバーされるコンティグ配列の部分として定義された。最終的な相同配列は、用いられたプライマーの存在によって確認された。ホモログのすべては一つのプライマー配列を有した;18種のホモログは存在するプライマー配列の両方を有した。
【0071】
BLAST解析: Advance Blast program (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いて、遺伝学的解析が配列に対して適用された。‘Megablast’サブプログラムを用いて以下のパラメーターがセットされた:‘Low complexity’ filter - off、‘Expect’- 1000、‘Word size’- 7。すべてのヒットが順序および長さによって比較され、それぞれの領域の最も長い相同性が比較に用いられた。解析は‘nr’データベースおよび‘est’データベースを用いて行われた。
【0072】
ヌクレオチド配列アクセッション番号:プライマーCHX 1FおよびCHX 1Rに基づく、BSEウシおよびBSEに曝露されたウシ由来のPCR産物の配列は、EMBLデータベース(アクセッション番号AJ780924〜AJ780929)に寄託された。
【0073】
診断PCR.血清画分より抽出されたNAの3μLが、全体の容量が20μLのPCRに用いられた。この解析のためには、NU抽出物はDNase処理に供されなかった。プライマーCHX-1FおよびCHX-CHT-1R(Cat#: 42-4103 and 42-91102, Chronix Biomedical GmbH, Gottingen, Germany)が、プルーフリーディングポリメラーゼシステム(Advantage-2 PCR Kit, BD-Clontech, Heidelberg, Germany)を用いてそれぞれ1μMで使用された。95℃で30秒間、55℃で45秒間、68℃で1分間の30サイクルの後、SybrGreenI(Cat#: S7563, Molecular Probes, Eugene, OR, USA)由来の融解曲線が、MX4000 PCR system (Cat#: 401260, Stratagene, La Jolla, CA, USA)において記録された。87℃および90℃の間の、融解導関数(derived melting function)‐d(F)/dTの曲線下面積(AUC)が解析に用いられた。この範囲は、PCRの間にSybrGreenIを使用するために頻繁に存在する可能性がある非特異的な産物、例えばプライマー二量体の影響を受けにくいため、用いられた。個々の試料それぞれの反応性は、鋳型無しまたは参照対照の基準を越えて平均+5標準偏差として定義される、検出限界を上回るAUCに基づいて計算された。最初に反応した試料のすべては、二連で再試験された。再試験において反応性を示した試料が、反復して反応すると定義された。
【0074】
統計解析.コホートグループおよび健常対照グループの反応性の割合が計算された。コホートおよび健常対照の間の統計学的有意性は、χ二乗検定を用いて評価された。二つのグループの比較のために自由度は1に下げられたのに対し、グループ全体の比較のために自由度9での計算が行われている。
【0075】
PAGE:PCR混合物の8μLがローディング緩衝液と混合され、TBE緩衝液(45 mM Tris, 45 mM ホウ酸, 1 mM EDTA))中の成形済みの12-20%ポリアクリルアミドゲル(Novex 4-20% TBE Gel; Cat#: EC62255, Karlsruhe, Germany)にアプライされた。電気泳動は、180Vで45分間、室温で行われた。ゲルはSybrGold(Cat#: S11494, Molecular Probes, USA)溶液中で20分間染色され、UV光の下で写真撮影された。
【0076】
結果
疾患と関連づけられるアンプリコンの濃縮が、BSEおよび健常の血清の増幅において縮重プライマーを用いることによって達成された。結果として生じたアンプリコンは、PAGEゲル上で分離され、BSE試料に特有のバンド、すなわち、BSEと確定された試料のレーンすべてにおいて観察されるが、健常対照試料のレーンにおいては観察されないバンドが切り出され、クローン化されて配列決定された。これらの配列から、例えばPCRまたはPAGEゲルを用いて、BSEと確定された動物由来の試料の健常対照由来の試料からの有意な分離性を示す能力によって、特有の候補プライマーが選択された。
【0077】
3’SINE領域由来のプライマー(CHX-1R)が、健常および疾患の畜牛の血清由来のシグナルの分離における有用性について、PCRおよびディファレンシャルディスプレイによって評価された。BSEと確定されたウシ、BSEに曝露されたリスクにさらされたコホート、および健常の動物由来の試料が用いられた。一つのプライマー対(CHX-1F/CHX-1R)が、健常動物の対照グループでの反応性は示さなかったが、BSEに曝露された畜牛での首尾一貫した増幅を示した。CHX-1F/CHX-1Rは、2例のBSEと確定された試料、PrPres陰性コホート血清および健常対照ウシからCNAを増幅するのに用いられた。図1Aは、これらのグループにおいてこのプライマー対を用いたPCR産物の代表的なPAGEゲルパターンを示す。通常の対照動物においては反応性が見られないが、同様の多数のバンドのパターンが、双方のBSE血清および4例のコホート血清すべてに観察され得る。図1Bは、これらの試料の融解曲線解析(Wittwer, et al., Clin Chem 49:853-60, 2003)の結果を示す。健常対照試料においては、非反応パターンが観察されたのに対し、双方のBSEおよび4例のコホート血清すべての融解パターンは、同様の広範囲の反応パターンを示す。
【0078】
結果として生じたPCR産物の性質を解明するため、2頭のBSE症例および6頭のBSEコホート動物由来のアンプリコンがクローン化され、配列決定された。断片のサイズの範囲は105〜304bpで、平均サイズは210bpであった。平均して80bpのストレッチが、163種のCAN由来クローンのうち150種において見出された。この80bpのストレッチは、Bov-tAと称される短分散型核内反復配列(SINE)の一部と同定された。3種の典型的なCAN断片が図2に示される。CNA4(AJ780927)はBSE症例およびコホートウシ両方において同定された;CNA6(AJ780928)およびCNA1(AJ780924)は、コホートウシ由来のCNA断片であり、BSEウシ1(CNA6)およびBSEウシ2(CNA1)であった。
【0079】
SINEの下流の記述された相同性は、それぞれのCNA配列と最も高い相同性を有するデータベースのエントリーのものである。SINE断片に隣接する下流配列は、ゲノム中で連続的には見出され得ない;すなわち、それらは切断されたゲノムDNAからなるキメラ配列である。クローンの解析は、163クローンに相当して合計21種のホモログが存在したことを示す。21種のホモログのうち19種は検出可能なBov-tA SINE断片を有していた。19種のホモログすべてが、Bov-tA SINE断片の3’に特有の隣接した領域を含んでいた。19種の特有の領域は、非重複のBLASTデータベース(non-redundant BLAST database)におけるウシゲノムエントリーと相同である11mer〜83merの範囲の短い配列を表した。
【0080】
データは、多数の核酸配列が、正常およびBSEに曝露された畜牛の間の差異を定義するのに関与する可能性があることを示唆する。全体のPCR産物プロファイルが生成され得るため、融解曲線アプローチが選択された。CHX1F/1Rプライマーを用いて、融解曲線プロトコールが、4頭の確定されたBSE症例、BSE症例由来の8種の関連しないPrPres陰性コホート(n=135)および176頭の健常対照ウシの研究に、さらに適用された(表2)。地域的偏りを避けるため、BSE症例が発生したのと同一の領域の畜牛を加工する屠殺場から148試料が任意に選択され、BSEに曝露されていない健常対照群由来の28試料とともに、健常対照グループに含められた。このPCRディファレンシャルディスプレイにおける反応性を計算するのに用いられたパラメーターは、AUCを使用した。AUCは、図1Bで例示されたように、融解曲線上の台形則に従って計算された。図3は、コホートの33%〜91%の範囲、試験されたコホートすべてに対して平均63%、が検出可能なCNAを示し、一方、176種の健常対照試料のたった1例のみ(0.6%)が陽性の反復した反応性を示したことを示す。加えて、確定されたPrPres陽性BSEウシ由来の4例の血清のうち4例とも陽性結果を示した。これらの結果は統計学的に有意である(p<0.001);もし別々に計算されるなら、すべての個別のコホートグループは、健常対照と比較して有意に(p<0.001)増加した反応性を有する。実地研究においては、屠殺場由来の669試料の追加のセットが試験された。これらの追加の試料は257の異なった農場由来であり、コホートグループとは齢(60.7; 30〜90 対 61.3; 37〜91;月齢、平均して10〜90パーセンタイル(percentile))または出身地域(ドイツ北部)において有意には異ならなかった。既知のコホート由来の試料が陽性対照となって、割り当てられた値(50%〜69%)の中間である58%の反復した反応性をもたらした。実地研究由来のたった4試料のみが反復して反応する(0.59%)ことが見出され、これは以前の176例の正常対照畜牛のグループの結果を確認する。
【0081】
(表2)研究集団

a)健常対照ウシの齢の範囲(月)
b)屠殺場から任意に選択されたウシ
【0082】
考察
畜牛の血清におけるCNAの存在は、以前に報告された(例えば、Brenig, et al., Berl Munch Tierarztl Wochenschr 115:122-4, 2002)。本研究は、BSEへの曝露が出現CNA、例えば血清SINE関連CNAと相関関係を示すかどうかを決定するために行われた。BSEはいくつかの理由によって評価された:1)BSEは自然に出現する獣医学上の慢性疾患である、2)十分な容量の血清および関連づけられた記録を伴う臨床試料が入手可能であった(入手可能な、BSEと確定された症例の数は本研究においては限定されていたが)、および3)関連づけられたリスクにさらされた動物集団が存在する。
【0083】
PrPresと確定されたBSE指標症例に曝露されたコホート由来の、BSEと確定されたおよびBSEのリスクにさらされた動物が、BSEに曝露された症例として定義された。リスクにさらされたコホートの研究のための原理は、表1より明らかである。the German Ministry of Consumer Safety, Nutrition and Agricultureより提供されたデータによると、コホートの中でPrPres陽性動物を検出する見込みは、健常な、コホートでない畜牛においてよりも100倍を超えて高い。そのようなBSEコホート畜牛は、実際に、BSE指標症例と同一の汚染された食事で攻撃された。およそ1000頭の畜牛が、本研究においてBSEへの曝露に対する生前の代理のマーカーとしてSINE関連CNAを検出するPCR試験の実行可能性を確認するために用いられた。
【0084】
3点の主要な知見が、BSEにおけるSINE関連CNAの研究から生まれた。最初に、Bov-tA断片の3’領域が、確定されたBSE症例またはBSEに曝露されたコホートの血清に由来するPCR産物において検出された。反芻動物のゲノムは3種の関連したSINE要素:Bov-tA、Bov-A2およびBov-Bを含む。Bov-tA要素は、ウシゲノムのおよそ1.6%を含む約285,000コピーに存在し、tRNAGlyの偽遺伝子である(例えば、Lenstra, et al., Anim Genet 24:33-9, 1993参照)。それは頻繁に遺伝子の3’-UTR内に存在する。他のウシSINEと比較して、Bov-tA要素は比較的不均一であり、tRNAGly遺伝子の73bpのストレッチ(例えばSakamoto & Okada, J Mol Evol 22:134-40, 1985参照)、中心部の単量体領域の115bpおよび2〜6bpの配列要素の短い3’反復領域を含む。Bov-tA要素のDNA配列中の変動性は、これらの要素が進化的により古い断片であることを示唆する。BSE関連CNA由来の3’SINE断片は、不均一なBov-tA反復配列と、期待される相同性の範囲(80%〜94%)を示す平均80bpのコンセンサス配列であった。
【0085】
CNA画分中のSINE断片を検出することの重要性は、SINE要素の発現が細胞のストレスと関連づけられていることである。ヒトのSINE(Alu)の研究において、Liu ら(Nucleic Acids Res 23:1758-65, 1995)は、シクロヘキシミドまたはピューロマイシンへの曝露によりストレスを与えられた細胞が「急速におよび一過的にAlu RNAの量を増加させた」ことを報告した。Kalkkilaら(Eur J Neurosci 19:1199-206, 2004)は、スナネズミ(Mongolian gerbil)モデルにおいて、SINE B1およびB2転写物が虚血誘導の後に海馬のCA1領域において検出され得ることを報告した。筆者らは、SINE要素が「中枢神経系におけるストレス誘導性因子」であると結論づけた。BSEおよびBSEに曝露されたコホート両方に共通のSINE関連CNAについての我々の知見は、BSEと関連づけられた潜在する細胞ストレス条件が存在する可能性があることを示唆する。潜在する条件の概念は、汚染された畜牛の食事と同等の量で感染性の材料に曝露された畜牛は、曝露後6年で10%未満の発病率で疾患を発生するという実験モデルからの観察とよく一致する。少ない量の曝露でより高い感染頻度に達しないことは、BSEの臨床発生の潜在する複雑な動力学を意味し、それゆえにBSEの発現のための細胞ストレスと関連づけられた病因病理学上のメカニズムの寄与を反映する可能性がある。
【0086】
本研究からの二番目の主要な知見は、3’SINE断片関連のPCR CNA産物が、種々の長さの特有の配列と隣接していたことである。NCBI BLAST解析から決定されたように、特有の配列が実際には生殖細胞系列DNA由来のキメラ配列である可能性があることが考えられるであろう。163クローンのうち150(92%)が、Bov-tAと相同性を有する3’SINE断片(サイズの範囲は52〜87bp)を有していた。これらの150クローンは19ホモログに相当した。19種のBov-tAを含むホモログは、19bp〜214bpの長さで変動する特有の下流配列を有していた。NCBI BLAST解析は、これらの下流の配列がウシゲノムに存在する11mer〜83merの配列より構成されることを示した。下流の配列は、提唱されたALUの潜伏部位(harbor position)と同等の、Bov-tAの単量体ユニットの5’末端に結合する(例えば、Babcock et al.,. Genome Res 13:2519-32, 2003)。
【0087】
SINEおよびAlu配列は、組み換えの事象に強く関与することが公知である(例えばSchumid, Nucleic Acids Res 26:4541-50, 1998; Urnovitz, et al., Clin Diagn Lab Immunol 6:330-5, 1999参照)。SINE配列から下流に見出される特有の配列は、ウシの生殖細胞系列配列の再配列と考えられる。
【0088】
本研究からの三番目の主要な知見は、反復して反応するCNAのパターンが、BSEのリスクにさらされている、PrPres陰性のウシに見出されることである。上述したように、生命の最初の数年の間にBSE指標症例とともに感染性の物質に曝露されたコホート動物は、非コホート動物より100倍超PrPres陽性になりやすい(表1)。そのようなBSEに曝露されたコホートは、8種のPrPres陰性コホートのうち8種において、コホートあたり33%〜91%の、反復して反応する個体の範囲を示した。反復して反応するPrPres陰性コホート動物により結果として生成されたPCR産物は、確定されたBSEの4症例由来のPCR産物と同様であった。特異性の研究において、合わせて845頭の健常対照のうち5試料のみ(0.59%)が、反復した反応性を示した。これらのデータは、健常対照集団においてはCHX-1R特異的SINE関連CNAの発生率が低いことを示唆する。
【0089】
3’SINE要素関連CNAの存在は、SINEの検出が細胞ストレス関連臨床疾患の有用な初期疾患マーカーである可能性があるという意見を支持する。プライマーCHX-1FおよびCHX-1Rを用いた本研究の結果は、BSEに曝露されたコホートは63%反復して反応する一方、一般的なウシの集団は、特異的に検出可能なSINE関連CNAの低い発生率を表示することを示す。CNAは、微粒子(エキソソームおよび原形質膜微小胞)が豊富である画分に見出される。FevrierおよびRaposoは、エキソソーム/微小胞が細胞外情報伝達(messaging)に関与していると提唱している。更に彼らは、エキソソーム中のスクレイピープリオンの検出が報告されていることに注目する(Fevrier, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 101:9683-8, 2004)。核酸がミスホールディングされたプリオンと関連すると報告されているが(Manuelidis, Viral Immunol 16:123-39, 2003)、本研究において検出された特有のCNAが、そのような関連に関与する可能性があるかどうかは明らかでない。
【0090】
本研究の結果は、BSEおよびBSEへの曝露と関連づけられる遺伝子配列を同定し、BSEに曝露された動物を検出するための、循環核酸の実験室での診断上の使用を支持する。更なる研究により、SINE CNAと関連づけられる特有の断片が、細胞または供給源の細胞を明らかにし、その結果として、診断基準の見地から関連する臨床疾患を定義し得るかどうか、決定することができるはずである。
【0091】
実施例2.リスクにさらされた動物を同定するための代替プライマーセットの使用法
任意の数のプライマー対が、本発明の検出方法において使用され得る。本実施例は、代替となる例示的なプライマー対を提供する。
【0092】
プライマー#55は、PrP遺伝子(AJ298878、プリオン蛋白質に対するウシ(Bos Taurus)PrP遺伝子)中での12回反復を含み、ウシのゲノム中において直列におよび逆向きにそれ自身多数回反復するコンセンサスSINE配列(M26330、ゲノムDNA中に見出されるウシ短分散型核内反復配列)中の18ヌクレオチドに相当する。プライマー#60〜63は、コンセンサスプライマー配列#55より、150〜1000bp上流(60F、61F、62Fおよび63F)または下流(60R、61R、62Rおよび63R)に位置するPrP配列に相当する。
【0093】
これらのプライマーに加えて、エンテロウイルスの非翻訳領域に対して向けられたプライマーの対照セット(PG01、PG02)が使用された。

プライマー対:PGO1-5およびPGO2-5

【0094】
コホートで実施されたPCR解析について融解曲線解析が行われ、PCR条件のための健常対照動物は実施例1に記述された通りであった。プライマー63Rおよび55Fにより行われた融解曲線解析は、同様の反応パターンの範囲を示したコホート血清の融解パターンを結果として生じたのに対して、健常対照試料においては一貫した非反応性のパターンが観察された(図4)。プライマー60Fおよび55Rにより行われた融解曲線解析もまた、コホート試料は一貫して反応するが、正常対照は反応しないというプロファイルを示した(図5)。PGO1およびPGO2により行われた融解曲線解析は、コホートおよび正常試料の間でいかなる注目すべき差異も示さず(図6)、プライマー対62R/55R、60F/55F、および2F/55Rを用いて行われた融解曲線解析も示さなかった。
【0095】
実施例3.無細胞試料としての血清または血漿の使用
本実施例は、血漿試料も使用され得ることを示す。解析は、プライマーCHX-1FおよびCHX-1R、および実施例1に示されたPCR条件を用いて行われた。血漿試料を用いた結果は、同一の動物由来の血清試料を解析して得られた結果と相関していた。その結果が図7に示される。
【0096】
上記の実施例は、本発明を例証するために提供されるが、その範囲を限定しない。本発明の他の変形は、当業者に容易に明白となるであろうし、添付の特許請求の範囲に包含される。
【0097】
本明細書において引用されるすべての刊行物、特許、アクセッション番号および特許出願は、すべての目的のために参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1A】2頭のBSEの畜牛、4頭のBSEにさらされたコホートの動物、および3頭の正常対照の血清由来の、PCR(CHX-1F/CHX-1R)後PAGE解析を示す例示的なデータを提供する。レーン1〜3:正常対照試料N1〜N3;レーン4〜7:コホート試料C1〜C4;レーン8および9:PrPres陽性BSE症例BSE1およびBSE2;レーン10:右側にサイズを示したBpマーカー。
【図1B】図1Aに示されたのと同一の実験由来の融解曲線を示す例示的なデータを提供する。プライマーCHX-1FおよびCHX-1Rを用いた30サイクルのPCRが行われた。診断範囲(87〜90℃)内において、コホート(C1〜C4、実線)およびBSE試料(BSE1およびBSE2、黒丸)間の差は、NTC(鋳型無し対照、点線)および正常(N1〜N3、白丸)に対して統計学的に有意(p<0.01)である。
【図2】CHX-1F/CHX-1Rプライマーを用いたPCRから得られた3つの独立したCNA断片由来のDNA配列アラインメント(5’から3’、左から右)を示す。灰色無地の四角で図示された、すべてのCNA断片において2例の確定されたBSE症例から同定された共通の要素は、Bov-tA SINE配列(アクセッション番号X64124)のモノマー領域と相同である。5’のBov-tA様配列は、アクセッション番号AC092496由来の断片と相同性を有する3’下流に続く。CNA6はBSEウシ1およびコホート血清から同定された配列である。5’のBov-tA様配列は、アクセッション番号AC091728.2由来の断片と相同性を有する3’下流に続く。CNA1はBSEウシ2およびコホート血清から同定された配列である。5’のBov-tA様配列は、アクセッション番号AC091660.2由来の断片と相同性を有する3’下流に続く。白い四角はプラス/プラス相同性(11〜20bp)である;斜線の四角はプラス/マイナス相同性(11〜20bp)である。
【図3】4例の確定されたBSE症例(黒無地の棒)、8個の関係のないBSEコホートおよび健常な正常動物のパーセント反応性を示す例示的なデータを提供する。8個すべてのコホート(斜線の棒−コホート番号は表3の記載に従って与えられる)が、任意の健常な対照(灰色無地の棒)と比較して、反復的な反応性の試料のより高い割合を示し、それぞれのコホートの33%〜91%であった。176のうちたった一つの健常対照のみが反復的な反応性(0.6%)であることが判明した。コホートと、死後に検出可能なPrPresを有しない任意に選択された畜牛と同様に明らかに健常な対照群との差は、きわめて有意である(p<0.001)。
【図4】血清試料から単離された核酸の、コホート対正常(SH=屠殺場)の例示的な融解曲線解析を提供する。PCRはプライマー63R/55Fを用いて行われた。(コホート試料、白丸;正常試料、実線;鋳型無し対照、点線)
【図5】血清試料から単離された核酸の、コホート対正常(SH=屠殺場)の例示的な融解曲線解析を提供する。PCRはプライマー60F/55Rを用いて行われた。(コホート試料、白丸;正常試料、実線;鋳型無し対照、点線)
【図6】血清試料から単離された核酸の、コホート対正常(SH=屠殺場)の例示的な融解曲線解析を提供する。PCRはプライマーPGO1/PGO2を用いて行われた。(コホート試料、白丸;正常試料、実線)
【図7】血清を用いて行われた解析と、血漿を用いて行われた解析とを比較した例示的なデータを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、ウシ海綿状脳症(pongiform encephalopathy)(BSE)に対する高いリスクにさらされた動物を検出する方法:
試験増幅反応において、動物から得られた無細胞試料より抽出された核酸を、増幅プライマーとともにインキュベーションする段階;
参照増幅反応に対し標準偏差の3倍(3 standard deviations)を超える増幅反応の反応性を検出する段階であって、3倍を超える反応性がBSEに対する高いリスクを示す、段階。
【請求項2】
無細胞体液試料が、血清である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
無細胞体液試料が、血漿である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
プライマーの一つが、動物ゲノム中の反復配列にハイブリダイズする配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
反復配列が、SINE配列である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
核酸試料が、DNAを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
プライマーが、プライマーCHX-1FおよびCHX-1Rと同一の配列にハイブリダイズする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
プライマーが、CHX-1FおよびCHX-1Rの少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
増幅の特性が、融解曲線である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
増幅の特性が、PAGEゲル上のパターンである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
増幅反応が、二本鎖DNAに特異的に結合する化合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
化合物が、蛍光色素である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
プライマーCHX-1FおよびCHX-1Rと同一の配列にハイブリダイズするプライマーを含むキット。
【請求項14】
プライマーが、CHX-1FおよびCHX-1Rの少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む、請求項13記載のキット。
【請求項15】
キットが、プライマーCHX-1FおよびCHX-1Rを含む、請求項13記載のキット。
【請求項16】
参照試料をさらに含む、請求項13記載のキット。
【請求項17】
以下の段階を含む、ウシ海綿状脳症(BSE)に対する高いリスクにさらされた動物を検出する増幅反応において用いるプライマーを同定する方法:
正常な動物と比較して、BSEの動物に豊富である核酸配列を同定する段階;
BSEにおいて豊富である配列に基づいて、プライマーを設計する段階;および
コホート(cohort)またはBSEの動物由来の核酸を含む増幅反応において、参照増幅反応に対して標準偏差の3倍を超える反応性を検出するプライマーを選択する段階。
【請求項18】
同定する段階が、正常な動物由来の血清と比較して、少なくとも1頭のBSEの動物由来の血清において豊富である核酸配列を検出する段階を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
選択する段階が、無細胞試料より抽出された核酸を含む増幅反応において反応性を検出する段階を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
以下の段階を含む、ウシ海綿状脳症(BSE)に対する高いリスクにさらされた動物を検出する方法:
試験増幅反応において、動物から得られた無細胞試料より抽出された核酸を、請求項17の記載に従って得られた増幅プライマーとともにインキュベーションする段階;および
参照増幅反応に対し標準偏差の3倍を超える増幅反応の反応性を検出する段階であって、3倍を超える反応性がBSEに対する高いリスクを示す、段階。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−505646(P2008−505646A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520551(P2007−520551)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/024336
【国際公開番号】WO2006/010033
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(507007382)クロニクス バイオメディカル (1)
【Fターム(参考)】