説明

ウシ脂肪交雑形成に関わる一塩基多型およびその利用

【課題】ウシの脂肪交雑形成能力を遺伝子型解析により判定するウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定方法およびそれに使用するキットを提供する。
【解決手段】ウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位、ウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位またはウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位の少なくとも1部位におけるSNPタイプをPCR−RFLPで分析することによりウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシ脂肪交雑形成に関わる一塩基多型およびその利用に関する。さらに詳しくは、ウシ脂肪交雑形成に関わる新規な一塩基多型に基づいてウシの遺伝子型を判定し、ウシの脂肪交雑形成能力を予測する方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
「霜降り」や「サシ」と称されるウシの脂肪交雑は牛肉の肉質を評価、判定する上で重要な因子であり、脂肪交雑形成能力の高い個体とそうでない個体をウシの肥育の早期に判別し、それらの能力に合った肥育計画を立てることができれば、肉用牛の生産において非常に望ましい。さらに、その能力を早期に判定できれば、世代間隔を短縮することができ、育種改良に多大の貢献をする。
このような事情に鑑み、ウシの脂肪交雑形成能力を遺伝子型解析により判定すべく、従来から、ウシの脂肪交雑形成に関与する責任遺伝子の探索、同定が試みられている。例えば、特許文献1ではウシの脂肪細胞分化のマスターキーといわれているウシPPARγ遺伝子の1つであるウシPPARγ2の変異体が開示されている。
また、ウシの脂肪交雑形成に影響する遺伝子を特定することを目的として、系統的に脂肪交雑形成能力の異なることが判明しているウシ群間で、脂肪交雑形成が始まる前後8〜14ヶ月齢の時期に発現するmRNA量を調べ、配列既知の5つの候補遺伝子を選抜した報告(平成17年3月27日〜29日開催の日本畜産学会第104回大会発表)や、これらの遺伝子のゲノム配列を決定し、いくつかの遺伝子において一塩基多型(SNP)が存在するとの報告(平成17年9月11日、12日開催の日本動物遺伝育種学会第6回大会ポスター発表)がある。
さらに、血管伸長に関連すると推測されるウシEDG1遺伝子の+166bp部位と、+3698bp部位にSNPが存在し、それらがウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定に利用できることが判明しており、特許出願されている(特願2006−080720号)。
【特許文献1】特開2001−8688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の主な目的は、新たなSNPを見出し、ウシの脂肪交雑形成能力を遺伝子型解析により判別するウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定方法およびそれに使用するキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、ウシの各種遺伝子について、PCRダイレクトシーケンスによる多型検出を行った結果、新たに、SNPがウシEDG1遺伝子(GenBank NW_001494759)中に2部位、ウシTTN(titin)遺伝子(GenBank NW_001494581)中に5部位および機能未知遺伝子で、本発明者らがMBL1と命名したウシ遺伝子(GenBank NW_001495576)中で2部位存在することを見出した。これらのSNPについて、ホルスタイン種去勢肥育牛2頭および黒毛和種(種雄牛「糸福」の体細胞クローン)去勢肥育牛2頭の試料を用いて詳細に検討したところ、SNPタイプにより特定の制限酵素で切断可能な場合と不可能な場合があること、制限酵素断片長多型(RFLP)分析でタイプ分けできること、さらに、各遺伝子中の1部位のSNPが、当該SNPタイプとウシ個体の脂肪交雑形成能力との間に統計的に有意な相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)ウシのEDG1遺伝子であって、第1エキソン開始点から−1736bp部位の塩基がT/Gホモまたはヘテロ型、ウシのTTN遺伝子であって、第1エキソン開始点から−652bp部位の塩基がC/Tホモまたはヘテロ型またはウシのMBL1遺伝子であって、第1エキソン開始点から+22220bp部位の塩基がA/Gホモまたはヘテロ型であるウシの脂肪交雑形成能力に関与する遺伝子多型、
(2)ウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位、ウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位およびウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位から選ばれる少なくとも1部位における一塩基多型(SNP)タイプを判定することを特徴とするウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定方法、
(3)ウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位、ウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位およびウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位の3部位におけるSNPタイプを判定する上記(2)記載の方法、
(4)SNPタイプの判定を制限酵素断片長多型(RFLP)分析により行う上記(2)記載の方法、
(5)ウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位を含む領域を増幅するプライマー、ウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位を含む領域を増幅するプライマーおよびウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位を含む領域を増幅するプライマーから選ばれる少なくとも1組のプライマーを含む上記(2)記載の方法によるウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定用キット、
(6)制限酵素を含む上記(5)記載のキット、
(7)配列番号4および配列番号5に示す配列からなるウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位を含む領域を増幅するプライマー、
(8)配列番号6および配列番号7に示す配列からなるウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位を含む領域を増幅するプライマー、
(9)配列番号8および配列番号9に示す配列からなるウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位を含む領域を増幅するプライマーなどを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法により、上記の新規SNPの1部位以上、好ましくは、3部位についてSNPタイプを判定することにより、遺伝子型が判定でき、それに基づいて脂肪交雑形成能力が予測できる。
以下の実施例に示すごとく、黒毛和種種雄牛101頭について、遺伝子SNPと脂肪交雑の度合との相関を分散分析により解析したところ、EDG1遺伝子のプロモーター領域である、第1エキソンから−1736bp部位の塩基(以下、ED−1736と称する)がTアリルであるものとGアリルであるものでは、危険率2.99%でTアリルの方が、脂肪交雑に関する遺伝的能力、すなわち育種価が高いことが示された。
また、これらの101頭について、肉の脂肪交雑度が高い(評点が高い)上位17頭のグループと、交雑度の低い(評点の低い)下位17頭のグループとで、遺伝子SNPと脂肪交雑度合との相関を解析したところ、TTN遺伝子のプロモーター領域である、第1エキソンから−652bp部位の塩基(以下、TT−652と称する)がTアリルであるものと、Cアリルであるものとでは、上位群と下位群の独立性検定で危険率11.03%で有意な差があり、101頭全ての分散分析での危険率2.55%でTアリルの方が育種価が高いことが示された。
さらに、上位群と下位群とで、遺伝子SNPと脂肪交雑度合いとの相関を独立性検定により解析したところ、MBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位の塩基(以下、MB1+22220と称する)がAアリルであるものとGアリルであるものとでは、χ検定での危険率0.06%で有意な差があった。また、101頭全ての分散分析では、危険率0.23%でAアリルの方の育種価が高かった。さらにまた、このSNP部位がAGヘテロである福鶴土井の後代半きょうだい肥育牛546頭(AA型、AG型、GG型それぞれの遺伝子型を持つ)について解析したところ、危険率0.97%でAA型およびAG型の方が、GG型より有意に育種価が高かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書における、ED−1736についての「T/Gホモまたはヘテロ型」なる用語は、遺伝子型がTT型、TG型およびGG型のいずれかであることを示す。同様に、TT−652についての「C/Tホモまたはヘテロ型」なる用語は、遺伝子型がCC型、CT型およびTT型のいずれか、MB1+22220についての「A/Gホモまたはヘテロ型」なる用語は、遺伝子型がAA型、AG型およびGG型の何れかであることを示す。
また、「ウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定方法」なる用語は、ウシの遺伝子型の判定方法およびウシの遺伝子型を判定し、それにより脂肪交雑形成能力を予測する方法の両方を意味する。
【0008】
配列表の配列番号1には、EDG1遺伝子のED−1736を含むGenBank NW_001494759の1067761〜1068360の塩基配列を示す。第1エキソンの開始点は1069858に相当し、本発明のSNPの−1736bp部位は1068122(配列番号1中362番目)に相当し、その塩基kはTまたはGである。
配列番号2には、TTN遺伝子のTT−652を含むGenBank NW_001494581の230641〜231660の塩基配列を示す。第1エキソンの開始点は231706に相当し、本発明の別のSNPの−652bp部位は231054(配列番号2中414番目)に相当し、その塩基yはCまたはTである。
配列番号3には、MBL1遺伝子のMB1+22220を含むGenBank NW_001495576の446701〜447420の塩基配列を示す。第1エキソンの開始点は424917に相当し、本発明のさらに別のSNPの+22220bp部位は447136(配列番号3中436番目)に相当し、その塩基rはAまたはGである。
【0009】
本発明の方法は、ウシ個体から採取した検体から抽出した試料DNAをPCRにより増幅し、ED−1736、TT−652およびMB1+22220の少なくとも1つのSNPタイプを、例えば、制限酵素を用いてRFLP分析により判定するものである。
検体としては、血液、精液等の生物体の一部を使用でき、これらから、常法により試料DNAを抽出して判定を行う。
SNPタイプの判定は、ED−1736、TT−652およびMB1+22220のいずれか1つでもよいが、複数組み合わせることにより、脂肪交雑形成能力の予測の精度を上げることができ、3つ全てを判定することが好ましい。
用いる制限酵素としては、例えば、ED−1736については、Tsp509I(NEBJ)、TT−652については、HpyCH4III(NEBJ)、MB1+22220については、FokI(Takara)を用いることができる。
【0010】
PCRは公知の方法に従って行うことができる。
PCRに使用するプライマーは、各遺伝子のED−1736、TT−652およびMB1+22220を含む領域、例えば、EDG1遺伝子およびTTN遺伝子のORFより上流の該当する領域、MBL1遺伝子の第5エキソン内の該当する領域を増幅するための配列を適宜設計すればよい。
例えば、ED−1736を含む領域を増幅するセンスプライマーとして配列番号4、アンチセンスプライマーとして配列番号5で示す配列が挙げられる。TT−652を含む領域を増幅するセンスプライマーとして配列番号6、アンチセンスプライマーとして配列番号7で示す配列が挙げられる。MB1+22220を含む領域を増幅するセンスプライマーとして配列番号8、アンチセンスプライマーとして配列番号9で示す配列が挙げられる。
【0011】
また、RFLP分析も公知の方法に従って行うことができる。
ED−1736におけるSNPのTアリルは制限酵素Tsp509Iで切断されるが、Gアリルは切断されない。TT−652におけるSNPのCアリルは制限酵素HpyCH4IIIで切断されるが、Tアリルは切断されない。MB1+22220におけるSNPのGアリルは制限酵素FokIで切断されるが、Aアリルは切断されない。
これにより、電気泳動で切断の有無を調べることによりSNPタイプが判定できる。
【0012】
本発明のキットは、ED−1736、TT−652およびMB1+22220を含む領域の配列の少なくとも1つを増幅するプライマーを含む。好ましくは、これらのプライマーと所定の制限酵素を含むPCR−RFLPキットとする。当該キットにはこれ以外に検体からのゲノムDNAの抽出試薬や、必要な器具、判定用の説明書等が含まれていてもよい。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
PCR−RFLPによる遺伝子型判定
(1)試料の採取
種雄牛については血液あるいは精液を採取、肥育牛については食肉市場で屠殺された個体から脂肪組織を採取して用いた。これらの検体から常法によりゲノムDNAを抽出した。
血液からの抽出にはReadyAmpTM Genomic DNA Purification System(Promega)を、精液および脂肪組織からの抽出にはWizard SV Genomic DNA Purification System(Promega)を用いた。
(2)DNAの増幅
下記プライマーを使用し、下記反応液を、94.0℃で2分間の加熱1サイクルと、94.0℃で30秒、下記最適アニーリング温度で30秒、ついで72.0℃で1分の加熱を35サイクル繰り返し、最後に72.0℃で5分間加熱してDNAを増幅した。
PCR用プライマー配列および最適アニーリング温度
ED−1736
GTGTTAATATGTATGAAGCTTGATAGTCAGGAAATAAAT(配列番号4)
CCACTGTATCGCTGAGCTAGGT(配列番号5)
最適アニーリング温度60℃
TT−652
TCATCTCCTAACTACTTCCCA(配列番号6)
ACAAAATCTGAACCTGGCTT(配列番号7)
最適アニーリング温度55℃
MB1+22220
TCTTAGGCAGCAACCGGATT(配列番号8)
GAAGGGCATGTTCTTAGAATACCAG(配列番号9)
最適アニーリング温度56℃

PCR反応液
ゲノムDNA溶液 3.0μl
プライマーミックス(最終) 0.5μM
5×Go taq buffer 4.0μl
Go taq(最終) 0.5 U
dNTPs(最終) 0.2 mM
全量 20.0μl
(3)制限酵素処理
下記反応液を表1に示す所定温度で所定時間インキュベーションして制限酵素処理した後、制限酵素処理反応液を3%Nusieve GTGアガロースゲルで電気泳動した。
RFLP反応液
PCR反応液 2.00μl
10x添付buffer 1.00μl
制限酵素 最適酵素量
全量 10.00μl

【表1】


図1〜図3にED−1736、TT−652、MB1+22220各々についての電気泳動パターンの例を示す。各図中の左端レーンは100bpラダーマーカーである。図中二本バンドはヘテロ型、長い方の一本バンドは切断されないホモ型、短い方は切断片のホモ型である。
【実施例2】
【0014】
統計解析
各種のウシ個体について、実施例1と同様にしてSNPタイプを判定し、分散分析により脂肪交雑形成能力との相関関係を統計的に調べた。
分散分析には最小二乗分散分析法を用いて、計算はSASのGLMプロシジャを用いた。独立性検定にはFisherの直接検定またはχ検定を用いて、計算にはFREQプロシジャを用いた。
(1)大分県種雄牛を用いた予備的相関解析
検出されたSNPと脂肪交雑との相関解析を行う予備的な解析として、脂肪交雑に関する育種価が得られている大分県黒毛和種種雄牛101頭について、肉の脂肪交雑に関する育種価の低い下位群17頭と、高い上位群17頭についてSNP遺伝子型を調べた。
その結果を表2に示す。
【表2】

【0015】
つぎに、各SNPについて、遺伝子頻度を用いた独立性検定により相関解析を行った。
その結果を表3に示す。
【表3】


この結果、ED−1736では、統計的に有意ではないが、Tアリルの方が、TT−652では、危険率11.03%でTアリルの方が、MB1+22220では、危険率0.06%でAアリルの方が、いずれも上位群で高いことが示された。
【0016】
(2)大分県種雄牛101頭についての相関解析
上記の種雄牛101頭について、各SNPとの相関を分散分析により解析した。また、これら101頭については、脂肪交雑と同じく脂肪蓄積に関連する形質である皮下脂肪厚の育種価も得られており、皮下脂肪厚の育種価についても同様に解析を行った。
ED−1736について
結果を表4および表5に示す。
【表4】


【表5】


表4に示すごとく、脂肪交雑の育種価については遺伝子型の効果が5%水準で有意であった。また、表5に示すごとく、遺伝子型の最小二乗平均値間で比較したところ、TT型とGG型との間では5%水準で有意な差が認められた。皮下脂肪厚の育種価では、遺伝子型の効果は有意でなかった。
【0017】
TT−652について
結果を表6および表7に示す。
【表6】


【表7】


表6に示すごとく、脂肪交雑の育種価については遺伝子型の効果が5%水準で有意であった。また、表7に示すごとく、遺伝子型の最小二乗平均値間で比較したところ、CT型とCC型との間では5%水準で有意な差が認められた。皮下脂肪厚の育種価では、遺伝子型の効果は有意でなかった。
【0018】
MB1+22220について
結果を表8および表9に示す。
【表8】


【表9】


表8に示すごとく、脂肪交雑の育種価については遺伝子型の効果が1%水準で有意であった。また、表9に示すごとく、遺伝子型の最小二乗平均値間で比較したところ、AA型とGG型との間では1%水準で有意な差が認められた。皮下脂肪厚の育種価では、遺伝子型の効果は有意でなかった。
【0019】
(3)3つのSNPの寄与率についての解析
上記種雄牛101頭の脂肪交雑育種価について、各SNPの脂肪交雑の育種価に対する寄与率を推定した。
結果を表10に示す。
【表10】


表10に示すごとく、ED−1736、TT−652、MB1+22220は、脂肪交雑の育種価に対して、それぞれ5%、2.4%、6.3%の寄与率を持ち、3つのSNPを合わせると、14%に達した。
以上の結果から、ED−1736、TT−652およびMB1+22220は、いずれも脂肪交雑と相関があり、ED−1736ではTアリルが、TT−652ではTアリルが、MB1+22220ではAアリルが脂肪交雑形成にプラスに働いていることが判明し、これらのSNPの少なくとも1つ、好ましくは3つ全てをタイピングすることにより、ウシの脂肪交雑形成能力を予測することができる。
【実施例3】
【0020】
上記と同様に、種雄牛「糸治」の後代去勢肥育牛199頭の脂肪交雑および皮下脂肪厚の育種価について、ED−1736との相関を解析した。
結果を表11および表12に示す。
【表11】


【表12】


表11に示すごとく、脂肪交雑の育種価については遺伝子型の効果が5%水準で有意であった。また、表12に示すごとく、遺伝子型の最小二乗平均値間で比較したところ、TT型とGG型との間では5%水準で有意な差が認められた。皮下脂肪厚の育種価では、遺伝子型の効果は有意でなかった。
【実施例4】
【0021】
上記と同様に、種雄牛「糸福」の後代去勢肥育牛221頭の脂肪交雑および皮下脂肪厚の育種価について、TT−652との相関を解析した。
結果を表13および表14に示す。
【表13】


【表14】


表13に示すごとく、脂肪交雑の育種価については遺伝子型の効果が5%水準で有意であった。また、表14に示すごとく、遺伝子型の最小二乗平均値間で比較したところ、TT型とCC型との間では5%水準で有意な差が認められた。皮下脂肪厚の育種価では、遺伝子型の効果は有意でなかった。
【実施例5】
【0022】
上記と同様に、種雄牛「福鶴土井」の後代去勢肥育牛546頭の脂肪交雑および皮下脂肪厚の育種価について、MB1+22220との相関を解析した。
結果を表15および表16に示す。
【表15】


【表16】


表15に示すごとく、脂肪交雑の育種価については遺伝子型の効果が1%水準で有意であった。また、表16に示すごとく、遺伝子型の最小二乗平均値間で比較したところ、AA型とGG型との間では1%水準で有意な差が認められた。皮下脂肪厚の育種価では、遺伝子型の効果は有意でなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上記載したごとく、本明細書に開示する遺伝子型を判定することにより、肥育牛の早期段階において脂肪交雑能力の高い個体とそうでない個体を判別し、それらの能力に合った肥育計画を立てることができると考えられる。また、雄牛および雌牛の脂肪交雑に関する遺伝的能力を成長の早期に判定することができ、脂肪交雑の改良を著しく促進できる。
脂肪交雑は肥育牛の価格を決める重要な因子であり、肉用牛産業に多大な貢献ができ、さらに、肥育技術への貢献のみならず、種牛雄選抜を含めた育種改良への応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1におけるED−1736のPCR−RFLPの一例を示す電気泳動パターン。
【図2】実施例1におけるTT−652のPCR−RFLPの一例を示す電気泳動パターン。
【図3】実施例1におけるMB1+22220のPCR−RFLPの一例を示す電気泳動パターン。
【配列表フリーテキスト】
【0025】
配列番号4:Designed oligonucleotide primer for amplifying bovine EDG1 gene
region containing ED-1736
配列番号5:Designed oligonucleotide primer for amplifying bovine EDG1 gene
region containing ED-1736
配列番号6:Designed oligonucleotide primer for amplifying bovine TTN gene
region containing TT-652
配列番号7:Designed oligonucleotide primer for amplifying bovine TTN gene
region containing TT-652
配列番号8:Designed oligonucleotide primer for amplifying bovine MBL1 gene
region containing MB1+22220
配列番号9:Designed oligonucleotide primer for amplifying bovine MBL1 gene
region containing MB1+22220

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシのEDG1遺伝子であって、第1エキソン開始点から−1736bp部位の塩基がT/Gホモまたはヘテロ型、ウシのTTN遺伝子であって、第1エキソン開始点から−652bp部位の塩基がC/Tホモまたはヘテロ型またはウシのMBL1遺伝子であって、第1エキソン開始点から+22220bp部位の塩基がA/Gホモまたはヘテロ型であるウシの脂肪交雑形成能力に関与する遺伝子多型。
【請求項2】
ウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位、ウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位およびウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位から選ばれる少なくとも1部位における一塩基多型(SNP)タイプを判定することを特徴とするウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定方法。
【請求項3】
ウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位、ウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位およびウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位の3部位におけるSNPタイプを判定する請求項2記載の方法。
【請求項4】
SNPタイプの判定を制限酵素断片長多型(RFLP)分析により行う請求項2記載の方法。
【請求項5】
ウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位を含む領域を増幅するプライマー、ウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位を含む領域を増幅するプライマーおよびウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位を含む領域を増幅するプライマーから選ばれる少なくとも1組のプライマーを含む請求項2記載の方法によるウシの脂肪交雑形成能力の予測、遺伝子型判定用キット。
【請求項6】
さらに、制限酵素を含む請求項5記載のキット。
【請求項7】
配列番号4および配列番号5に示す配列からなるウシのEDG1遺伝子の第1エキソン開始点から−1736bp部位を含む領域を増幅するプライマー。
【請求項8】
配列番号6および配列番号7に示す配列からなるウシのTTN遺伝子の第1エキソン開始点から−652bp部位を含む領域を増幅するプライマー。
【請求項9】
配列番号8および配列番号9に示す配列からなるウシのMBL1遺伝子の第1エキソン開始点から+22220bp部位を含む領域を増幅するプライマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−65861(P2009−65861A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235628(P2007−235628)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(507305428)ビッグ研究所株式会社 (2)
【出願人】(593028562)社団法人 家畜改良事業団 (7)
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【出願人】(591224788)大分県 (31)
【Fターム(参考)】